説明

ナタリズマブを用いて炎症性疾患及び自己免疫疾患を治療する方法

ナタリズマブは、多発性硬化症、クローン病、及び関節リウマチといった炎症性疾患及び自己免疫疾患のための安全で有効な治療である。ナタリズマブとIgG4分子との間の鎖交換(chain swapping)は、ナタリズマブの投与後に存在する二価ナタリズマブのレベルを減少させ、したがって患者におけるナタリズマブの活性を低下させるように作用する。患者間または一患者における時間をまたいだIgG4レベルの違いは、ナタリズマブの薬物動態特性を変化させる可能性がある。低いレベルのIgG4を有する患者は、投与期間中、ナタリズマブの最低レベルがより高くなる可能性がある。IgG4及び/または二価ナタリズマブレベルをモニタリングし、そしてそのモニタリングに基づいて用量及び投与期間を決めることで、ナタリズマブ治療の安全性及び/または有効性を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
優先権主張
[001] 本出願は、2006年3月3日に出願された米国特許仮出願第60/779,190号に基づく優先権を主張し、その全内容がこれによって本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
[002] 本発明は、組換え型抗体を用いて炎症性疾患及び自己免疫疾患を治療する方法に関する。これらの方法は、患者におけるIgG4抗体に基づいて用量を調節することによって、治療の安全性を改善する。
【0003】
背景技術
[003] 血液脳関門を越える抹消血からのリンパ球の遊走が、いくつかの中枢神経系(CNS)炎症性疾患の発症を引き起こすと報告されている。CNS中へのリンパ球の侵入は、細胞接着分子によって仲介される(O'Neill et al., Immunology 72:520-525 (1991); Raine et al., Lab. Invest. 63:476-489 (1990); Yednock et al., Nature 356:63-66 (1992); Baron et al., J. Exp. Med. 177:57-68 (1993); Steffen et al., Am. J. Path. 145:189-201 (1994); Christensen et al., J. Immunol. 154:5293-5301 (1995))。
【0004】
[004] 細胞表面上に存在する細胞接着分子は、一つの細胞と他の細胞との直接的結合を仲介する(Long et al., Exp. Hematol. 20:288-301 (1992))。接着分子であるインテグリン及び免疫グロブリンスーパー遺伝子ファミリーが、CNS中へのリンパ球の輸送を制御する(Hemler et al., Annu. Rev. Immunol. 8:365-400 (1990); Springer et al., Cell 76:301-314 (1994); Issekutz et al., Curr. Opin. Immunol. 4:287-293 (1992))。接着分子は、例えば、喘息、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、エイズ認知症、糖尿病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、関節リウマチ、組織移植拒絶、及び腫瘍転移といった炎症性疾患及び自己免疫疾患を仲介すると、広く報告されている。
【0005】
[005] インテグリンは、α鎖及びβ鎖が非共有結合的に連結されたヘテロ二量体である(Hemler et al., Annu. Rev. Immunol. 8:365-400 (1990))。α4β1(最晩期活性化抗原-4(very late activation antigen-4)、VLA-4とも呼ばれる)及びα4β7インテグリンは、ほとんどのタイプの白血球の細胞表面上に存在し、それらは、内皮細胞表面上の、同種の受容体、血管細胞接着分子-1(VCAM-1)、及び粘膜アドレシン細胞接着分子(MAdCAM-1)と相互作用することによって、白血球の内皮細胞への結合を仲介する。インテグリンは、血管上の内皮細胞層に対する免疫細胞の接着において重要な役割を果たし、それに続く免疫細胞の炎症組織中への遊走を促進すると考えられている。いくつかの研究は、VLA-4、特にα4インテグリンサブユニットが、CNSの炎症に関連しているとみなしている(Yednock et al., Nature 356:63-66 (1992); Baron et al., J. Exp. Med. 177:57-68 (1993); Steffen et al., Am. J. Path. 145:189-201 (1994); Christensen et al., J. Immunol. 154:5293-5301 (1995))。VCMA-1の発現は、正常な脳組織に対して炎症を起こしている脳組織で上昇していることも、報告されている(Cannella and Raine, Ann. Neurol. 37:424-435 (1995); Washington et al., Ann. Neurol. 35:89-97 (1994); Dore-Duffy et al., Frontiers in Cerebral Vascular Biology: Transport and Its Regulation, 243-248 (Eds. Drewes & Betz, Plenum, N. Y. 1993))。
【0006】
[006] α4β1とその標的との間の相互作用は、多発性硬化症(MS)の患者のCNS内で起こっている炎症の要素である。正常条件下では、VCAM-1は脳実質の中で発現しない。しかし、前炎症性サイトカインの存在下では、VCAM-1は炎症部位近くの内皮細胞及びミクログリア細胞上でアップレギュレートされる(Elices et al., Cell 60:577-584 (1990); Lobb and Hemler, J. Clin. Invest. 94:1722-1728 (1994); Peterson et al., J. Neuropathy Exp. Neurol. 61:539-546 (2002))。さらに、前炎症性サイトカインの多くの特性を示す、オステオポンチンもまた、MS病変においてアップレギュレートされる(Chabas et al., Science 294:1731-1735 (2001))。
【0007】
[007] MSは、重篤であり且つ障害を引き起こす、若年の炎症性疾患及び自己免疫疾患であり、発病のピークは20代である。ほとんどの個体は、該疾患の再発寛解型を示し、そして再発性の発作を経験し、結果として、長期にわたり、永続的な身体的障害及び認識衰退を蓄積する。これら個体の約70%が、度重なる再発を伴ってまたは伴わずに、進行性の神経学的衰退(二次進行型MS)の段階に、最終的に入るだろう。現在の治療は、二次進行型MSに対する有効性が少ない。大部分の患者は、永続的な神経学的機能不全を患い、そして平均して発病後6〜7年の余命を有する。
【0008】
[008] 現在、4つの療法がMSの再発型の治療のために合衆国で認可されている。Betaseron(登録商標)(インターフェロンβ-1b SC (皮下))、AVONEX(登録商標)(インターフェロンβ-1a IM (筋肉内))、及びRebif(登録商標)(インターフェロンβ-1a SC)といったインターフェロンは、抗ウイルス活性、抗増殖活性、及び免疫調節活性を有するサイトカインである。コパキソン(Copaxone、(登録商標))(酢酸グラチラマー)は、作用機序が十分にわかっていない合成ポリペプチドの混合物である。β-インターフェロンは、重篤な有害事象を生ずる可能性があり、そしていくつかの証拠は、コパキソンが有効でないことを示唆している(Munari, et al., The Cochrane Library, Issue 1, Chichester, UK: John Wiley & Sons, Ltd. (2004))。
【0009】
[009] β-インターフェロンの重篤な有害事象には、過敏性反応、鬱病、及び自殺の稀な報告、末梢血球数の減少、肝損傷、心筋症、及びさまざまな自己免疫疾患が含まれる(Betaseronの添付文書, 2003; Rebifの添付文書, 2004; AVONEX(登録商標)の添付文書, 2005)。インターフェロンに対する中和抗体の生成は、有効性の損失と関連する。β-インターフェロンに対して生じる抗体は、他のインターフェロンと交差反応し、そのような患者において全ての種類における有効性を失わせる(IFNB MS Study Group, Neurology 47:889-894 (1996) ; PRISMS Study Group, Neurology 56:1628-1636 (2001); Kappos et al., Neurology 65:40-47 (2005))。結果として、合衆国のみでも、過去に治療されていた50000人以上の患者が、もはや療法を受けていない。よって、認可された療法を現在全く受けていないMS発症患者の大きな集団が存在する。
【0010】
[010] 治療を受けているそれらの患者の中で、臨床的に及び核磁気共鳴映像法(MRI)によって観察されるように、多くが疾患活性を経験し続けている。臨床診療において、現在さまざまな治療上の戦略を使用し、治療中に治療効果を打破する疾患(breakthrough disease)を管理しているが(例えば、切り替え療法、インターフェロンの用量及び頻度の変更、併用療法)、利用可能な薬剤同士で有効性が共通し、そして治療効果を打破された患者(breakthrough patient)に対するこれらの戦略いずれかの有効性を示す臨床データが不足しているため、これらの患者に対して何をすべきかという決断が、主として経験的なものになる。部分的に有効な認可薬剤のそれぞれは、再発率の約30%の減少及び障害の進行に対する限定的影響を導く(IFNB MS Study Group, Neurology 43:655-661 (1993); Jacobs et al., Ann. Neurol. 39:285-289 (1996); PRISMS Study Group, Lancet 352:1498-1504 (1998)); Johnson et aL, Neurology 45:1268-1276 (1995))。MSにおけるβ-インターフェロンのフェーズ3試験からのデータによって、インターフェロン治療をしたにもかかわらず、この2年の試験の間に、62〜75%の被検体が少なくとも一回の再発を経験したことが示される(IFNB MS Study Group, Neurology 43:655-661 (1993); Jacobs et al., Ann. Neurol. 39:285-289 (1996); PRISMS Study Group, Lancet 352:1498-1504 (1998))。同様に、酢酸グラチラマーのフェーズ3のMS試験において、66%の被検体が、2年の期間中に少なくとも一回の再発を経験し、その割合はプラセボと有意な差がなかった(Johnson et al., Neurology 45:1268-1276 (1995))。
【0011】
[011] 進行性多巣性白質脳症(PML)は、神経細胞を保護するミエリン鞘を破壊する、重篤な急性進行性疾患である。PMLはほぼ例外なく重篤な免疫不全患者において起こり、そして多くの場合、例えばエイズ、ホジキン病、慢性リンパ性白血病、サルコイドーシス、結核症、全身性エリテマトーデス、及び臓器移植などといった、リンパ増殖性疾患及び他の慢性疾患と関連する。JCウイルス(JCV)はPMLの病原因子であり、そして最初の感染の結果によるか、または潜伏ウイルスの再活性化の後に続く可能性がある。
【0012】
[012] α4-インテグリンのアンタンゴニストであるナタリズマブを使用して、例えば、MS、クローン病、及び関節リウマチといった炎症性要素及び/または自己免疫要素を伴う疾患を治療することに成功している。ナタリズマブは、α4-インテグリンであるα4β1及びα4β7に対して作られたヒト化IgG4κモノクローナル抗体である。ナタリズマブと他のIgG4分子との間の鎖交換(chain swapping)は、ナタリズマブの薬物動態に影響を与える可能性がある。患者間のIgG4の濃度の差またはある患者内の経時的なIgG4の濃度の差は、投与期間を通じて輸送される二価ナタリズマブの濃度の違いを導くだろう。このことは、患者間または連続的投与期間を通じたある患者内における、安全性及び/または有効性の変化を導くだろう。
【0013】
[013] IgG4レベルの変化はまた、特定の患者において過剰なナタリズマブ活性を導くだろう。このことは、それらの患者において感染のリスク増大を導くだろう。例えば、ナタリズマブの投与中または投与後に起こったPMLが3症例知られており、2件は死に至り、1人の患者は回復した。3症例は全て、免疫不全を助長した可能性のある併用投薬で治療中の患者において起こった。
【0014】
[014] よって、本技術分野において、IgG4レベルとナタリズマブの薬物動態との関係を決定すること、及びこの情報を考慮して特定の患者におけるナタリズマブの用量及び投与間隔を調節し、ナタリズマブ治療の安全性及び/または有効性を改善することが必要とされている。
【0015】
概要
[015] 本発明は、ナタリズマブを使用して、炎症性疾患及び自己免疫疾患の患者を治療する、より安全な方法を提供する。
【0016】
[016] 第一の側面において、本発明は、第一の投与期間に、ある用量のナタリズマブを投与し;第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量をモニタリングし;観測された二価ナタリズマブのレベルに基づいて、ナタリズマブの第二の用量を決定し;そして、第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与すること;によって、ナタリズマブを用いて炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療する方法であって、第二の用量が第二の投与期間中の治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法を提供する。本方法のある態様において、モニタリングにより、第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量が既定のレベルより多いままであることが示され、そして第二の投与期間を通じて投与されるナタリズマブの補正された用量は、第二の投与期間の少なくとも一期間、第二の投与期間中のナタリズマブ濃度を既定のレベル未満まで減少させることを達成するように計画される。ある態様において、第二の用量は第一の用量より少ない。ある態様において、第二の投与期間は第一の投与期間より長い。ある態様において、補正された用量は第一の用量より少なく、そしてその場合において第二の投与期間は第一の投与期間より長い。ある態様において、第一の用量は静脈内注入によって投与される300 mgであり、そして第一の投与期間は4週間である。ある態様において、既定のレベルは約1μg/mlであり、そしてその場合において第二の用量は静脈内注入によって投与される300 mg未満であり、そして第二の投与期間は4週間より長い。ある態様において既定のレベルは約0.5μg/mlであり、そしてその場合において第二の用量が静脈内注入によって投与される300 mg未満であり、そして第二の投与期間は4週間より長い。ある態様において、既定のレベルは約0.1μg/mlであり、そしてその場合において第二の用量は静脈内注入によって投与される300 mg未満であり、そして第二の投与期間は4週間より長い。
【0017】
[017] 本発明はまた、第一の用量の投与後既定の期間内の第一の投与期間中に、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量が既定のレベル未満に落ち、そしてその場合において、第二の投与期間を通じて投与されるナタリズマブの第二の用量が、既定のレベルより高くナタリズマブのレベルを維持するように計画される、ナタリズマブを用いて炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療する方法を提供する。
【0018】
[018] 本方法のある態様において、疾患は多発性硬化症である。ある態様において、多発性硬化症は、再発寛解型、二次進行型、一次進行型、及び慢性進行型の多発性硬化症から選択される。本方法のある態様において、疾患は炎症性腸疾患または関節リウマチである。ある態様において、炎症性腸疾患はクローン病である。
【0019】
[019] ある態様において、本方法には、重篤感染症の指標について患者をモニタリングする工程、及び/または重篤感染症を発症するリスクを軽減するように計画された予防法を用いて患者を処置する工程がさらに含まれる。
【0020】
[020] ある態様において、本方法には、進行性多発性白質脳症の指標について患者をモニタリングする工程がさらに含まれる。ある態様において、モニタリングにより、患者の尿、血液、及び/または脳脊髄液中のJCVが検出される。ある態様において、モニタリングには、患者の血液のサンプルを連続的に採取する工程、サンプル中の、JCVに対するIgG抗体の量を測定する工程、及びサンプル中の抗体の量を比較する工程が含まれる。ある態様において、モニタリングには、サンプル中の、JCVに対するIgM抗体の量を測定する工程、及びサンプル中のIgM抗体量及びIgG抗体量を比較する工程がさらに含まれる。ある態様において、モニタリングにより、セロコンバージョン、及び/または患者の尿及び/または血液中におけるJCVの力価の増加が検出され、そしてモニタリングには、一連の尿及び/または血液サンプルの比較によってセロコンバージョン及び/またはJCVの力価の増加が検出された場合、患者の脳脊髄液のサンプルを採取する工程;及びJCVの存在について脳脊髄液を試験する工程;が含まれる。ある態様において、モニタリングには、進行性多巣性白質脳症の臨床的症状及び/または放射線学的症状について試験する工程が含まれる。ある態様において、臨床的症状について試験する工程には、新しいまたは進行性の神経学的症状についての試験が含まれる。ある態様において、神経学的症状には、1以上の中枢盲、精神錯乱、人格変化、及び運動障害が含まれる。ある態様において、放射線学的症状について試験する工程には、Gd造影核磁気共鳴映像スキャンの実行が含まれる。ある態様において、本方法には、進行性多巣性白質脳症の指標が存在する場合に、免疫グロブリン静注療法、血漿交換、及び抗ウイルス療法から選択される少なくとも一つの治療を行う工程が含まれる。ある態様において、抗ウイルス療法には、シトシンアラビノシド(シタラビン)、シドフォビル、及びセロトニンアンタゴニストから選択される抗ウイルス剤の少なくとも一つの治療有効量の投与が含まれる。ある態様において、セロトニンアンタゴニストは、5HT2aアンタゴニストである。
【0021】
[021] 本方法のある態様において、患者は、ナタリズマブ及び、免疫抑制剤または抗腫瘍剤とにより同時に治療されない。ある態様において、免疫抑制剤または抗腫瘍剤には、クロラムブシル、メルファラン、6-メルカプトプリン、チオテパ、イホドファミド(ifodfamide)、ダカルバジン、プロカルバジン、テモゾロミド、ヘキサメチルメラミン、ドキソルビシン、ダウナルビシン(daunarubicine)、イダルビシン、エピルビシン、イリノテカン、メトトレキサート、エトポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、シタラビン、ブスルファン、アモニフィド(amonifide)、5-フルオロウラシル、トポテカン、マスタージェン(mustargen)、ブレオマイシン、ロムスチン、セムスチン、マイトマイシンC、ムタマイシン(mutamycin)、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、メトトレキサート、トリメトレキサート、ラルチトレキシド(raltitrexid)、フルロロデオキシウリジン、カペシタビン、フトラフール、5-エチニルウラシル、6-チオグアニン、クラドリビン、ペントスタチン、テニポシド、ミトキサントロン、ロソキサントロン(losoxantrone)、アクチノマイシンD、ビンデシン、ドセタキセル、アミフォスチン、インターフェロンアルファ、タモキシフェン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、ラロキシフェン、レトロゾール、アナストロゾール、フルタミド、ビカルタミド、レチノイン酸、アルセニックトリオキシド、リツキシマブ、CAMPATH-1、マイロターグ、ミコフェノール酸、タクロリムス、糖質コルチコイド、スルファサラジン、グラチラマー、フマル酸塩、ラキニモド(laqunimode)、FTY-720、インターフェロンタウ、ダクリズマブ、インフリキシマブ、IL10、抗IL-2受容体抗体、抗IL-12抗体、抗IL-6受容体抗体、CDP-571、アダリムマブ、エンタネラセプト(entaneracept)、レフルノミド、抗インターフェロンガンマ抗体、アバタセプト、フルダラビン、シクロホスファミド、アザチオプリン、シクロスポリン、静注免疫グロブリン、5-ASA(メサラミン)、及びβ-インターフェロンの一つ以上から選択される。
【0022】
[022] 別の側面において、本発明は、患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定し;患者の血漿または血清中のIgG4の量に基づいて、ナタリズマブの用量及び投与期間を決定し;そして、該投与期間を通じて、患者に該用量のナタリズマブを投与すること;によって、ナタリズマブを用いて炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療する方法であって、該用量及び投与期間が、ナタリズマブの標準的用量及び標準的投与期間によって提供される安全性及び/または有効性と比べて、治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法を提供する。本方法のある態様において、標準的用量は静脈内注入による300 mgであり、そして標準的投与期間は4週間ごとである。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は200μg/ml未満であり、そして決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満である。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は200μg/ml未満であり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は200μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は100μg/ml未満であり、そして決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満である。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は100μg/ml 未満であり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は100μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は15μg/ml未満であり、そして決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満である。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は15μg/ml未満であり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は15μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は200μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間は4週間より短い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は100μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間は4週間より短い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は15μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間は4週間より短い。
【0023】
[023] 本方法のある態様において、疾患は多発性硬化症である。ある態様において、多発性硬化症は、再発寛解型、二次進行型、一次進行型、及び慢性進行型の多発性硬化症から選択される。本方法のある態様において、疾患は炎症性腸疾患または関節リウマチである。ある態様において、炎症性腸疾患はクローン病である。
【0024】
[024] ある態様において、本方法には、重篤感染症の指標について患者をモニタリングする工程、及び/または重篤感染症を発症するリスクを軽減するように計画された予防法を用いて患者を処置する工程がさらに含まれる。
【0025】
[025] ある態様において、本方法には、進行性多巣性白質脳症の指標について患者をモニタリングする工程がさらに含まれる。ある態様において、モニタリングにより、患者の尿、血液、及び/または脳脊髄液中のJCVが検出される。ある態様において、モニタリングには、患者の血液のサンプルを連続的に採取する工程、サンプル中の、JCVに対するIgG抗体の量を測定する工程、及びサンプル中の抗体の量を比較する工程が含まれる。ある態様において、モニタリングには、サンプル中の、JCVに対するIgM抗体の量を測定する工程、及びサンプル中のIgM抗体量及びIgG抗体量を比較する工程がさらに含まれる。ある態様において、モニタリングにより、セロコンバージョン、及び/または患者の尿及び/または血液中におけるJCVの力価の増加が検出され、そしてモニタリングには、一連の尿及び/または血液サンプルの比較によってセロコンバージョン及び/またはJCVの力価の増加が検出された場合、患者の脳脊髄液のサンプルを採取する工程;及びJCVの存在について脳脊髄液を試験する工程;が含まれる。ある態様において、モニタリングには、進行性多巣性白質脳症の臨床的症状及び/または放射線学的症状について試験する工程が含まれる。ある態様において、臨床的症状について試験する工程には、新しいまたは進行性の神経学的症状についての試験が含まれる。ある態様において、神経学的症状には、1以上の中枢盲、精神錯乱、人格変化、及び運動障害が含まれる。ある態様において、放射線学的症状について試験する工程には、Gd造影核磁気共鳴映像スキャンの実行が含まれる。ある態様において、本方法には、進行性多巣性白質脳症の指標が存在する場合に、免疫グロブリン静注療法、血漿交換、及び抗ウイルス療法から選択される少なくとも一つの治療を行う工程が含まれる。ある態様において、抗ウイルス療法には、シトシンアラビノシド(シタラビン)、シドフォビル、及びセロトニンアンタゴニストから選択される抗ウイルス剤の少なくとも一つの治療有効量の投与が含まれる。ある態様において、セロトニンアンタゴニストは、5HT2aアンタゴニストである。
【0026】
[026] 本方法のある態様において、患者は、ナタリズマブ及び、免疫抑制剤または抗腫瘍剤とにより同時に治療されない。ある態様において、免疫抑制剤または抗腫瘍剤には、クロラムブシル、メルファラン、6-メルカプトプリン、チオテパ、イホドファミド(ifodfamide)、ダカルバジン、プロカルバジン、テモゾロミド、ヘキサメチルメラミン、ドキソルビシン、ダウナルビシン(daunarubicine)、イダルビシン、エピルビシン、イリノテカン、メトトレキサート、エトポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、シタラビン、ブスルファン、アモニフィド(amonifide)、5-フルオロウラシル、トポテカン、マスタージェン(mustargen)、ブレオマイシン、ロムスチン、セムスチン、マイトマイシンC、ムタマイシン(mutamycin)、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、メトトレキサート、トリメトレキサート、ラルチトレキシド(raltitrexid)、フルロロデオキシウリジン、カペシタビン、フトラフール、5-エチニルウラシル、6-チオグアニン、クラドリビン、ペントスタチン、テニポシド、ミトキサントロン、ロソキサントロン(losoxantrone)、アクチノマイシンD、ビンデシン、ドセタキセル、アミフォスチン、インターフェロンアルファ、タモキシフェン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、ラロキシフェン、レトロゾール、アナストロゾール、フルタミド、ビカルタミド、レチノイン酸、アルセニックトリオキシド、リツキシマブ、CAMPATH-1、マイロターグ、ミコフェノール酸、タクロリムス、糖質コルチコイド、スルファサラジン、グラチラマー、フマル酸塩、ラキニモド(laqunimode)、FTY-720、インターフェロンタウ、ダクリズマブ、インフリキシマブ、IL10、抗IL-2受容体抗体、抗IL-12抗体、抗IL-6受容体抗体、CDP-571、アダリムマブ、エンタネラセプト(entaneracept)、レフルノミド、抗インターフェロンガンマ抗体、アバタセプト、フルダラビン、シクロホスファミド、アザチオプリン、シクロスポリン、静注免疫グロブリン、5-ASA(メサラミン)、及びβ-インターフェロンの一つ以上から選択される。
【0027】
[027] 別の側面において、本発明は、患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定し;第一の投与期間に、ある用量のナタリズマブを投与し;第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブのレベルをモニタリングし;患者の血漿または血清中のIgG4の量及び患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブのレベルに基づいて、ナタリズマブの第二の用量及び第二の投与期間を決定し;第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与すること;によって、炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療するためにナタリズマブを使用する方法であって、第二の用量及び第二の投与期間が治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法を提供する。本方法のある態様において、モニタリングにより、第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブ量が既定のレベルより多いままであることが示され、そして、第二の投与期間を通じて投与されるナタリズマブの第二の用量は、第二の投与期間の少なくとも一期間、第二の投与期間中のナタリズマブ濃度を既定のレベル未満まで減少させることを達成するように計画される。ある態様において、ナタリズマブの第一の用量は、4週間の第一の投与期間に静脈内注入によって投与される300 mgである。ある態様において、既定のレベルは約1μg/mlである。ある態様において、既定のレベルは0.5μg/mlである。ある態様において、既定のレベルは約0.1μg/mlである。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は200μg/ml未満であり、そして決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満である。ある態様において、患者の血液は200μg/mlであり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は200μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は100μg/ml未満であり、そして決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満である。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は100μg/ml未満であり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は100μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は15μg/ml未満であり、そして決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満である。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は15μg/ml未満であり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量は15μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量は静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間は4週間より長い。ある態様において、ナタリズマブの標準的用量は300 mgの静脈内注入であり、そして標準的投与期間は4週間である。
【0028】
[028] 本方法の別の態様において、補正された用量は第一の用量より少ないか、または第二の投与期間は第一の投与期間より長いか、または補正された用量が第一の用量より少なくそして第二の投与期間は第一の投与期間より長い。ある態様において、第一の用量の投与後既定の期間内の第一の投与期間中に、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量は既定のレベル未満に落ち、そして第二の投与期間を通じて投与されるナタリズマブの第二の用量は、第二の投与期間中の第二の用量の投与後、少なくとも既定の期間まで、既定のレベルより高くナタリズマブのレベルを維持するように計画される。
【0029】
[029] 別の態様において、本方法には、重篤感染症の指標について患者をモニタリングする工程がさらに含まれる。ある態様において、重篤感染症は進行性多巣性白質脳症である。ある態様において、本方法には、重篤感染症を発症するリスクを軽減するように計画された予防法を用いて患者を処置する工程がさらに含まれる。ある態様において、重篤感染症は進行性多巣性白質脳症である。
【0030】
[030] 別の側面において、本発明は、治療を開始する前に、患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定し;患者の血漿または血清中のIgG4の量が所定の閾値より多い場合に、ナタリズマブを用いた患者の治療を開始し;そして、患者の血漿または血清中のIgG4の量が所定の閾値であるかまたは所定の閾値未満の場合に、進行性多巣性白質脳症及び/または日和見感染症の指標のモニタリングを増やしてナタリズマブを用いた患者の治療を開始すること;によって、炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療するためにナタリズマブを使用する方法であって、患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定することが治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法を提供する。本方法のある態様において、患者の血漿または血清中のIgG4の量が第二の所定の閾値であるかまたは第二の所定の閾値未満の場合に、治療は開始されない。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量が約200μg/ml以上の場合、治療が開始される。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量が約100μg/ml以上の場合、治療が開始される。ある態様において、患者の血液中のIgG4の量が約15μg/ml以上の場合、治療が開始される。
【0031】
[031] ある態様において、本方法には、治療中に患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定する工程;及び、患者の血漿中のIgG4の量が所定の閾値未満の場合に、治療を終了する工程;がさらに含まれる。ある態様において、患者の血漿または血清中のIgG4の量が約200μg/ml以下の場合、治療が終了される。ある態様において、患者の血漿または血清中のIgG4の量が約100μg/ml以下の場合、治療が終了される。ある態様において、患者の血漿または血清中のIgG4の量が約15μg/ml以下の場合、治療が終了される。
【0032】
[032] ある態様において、本方法には、治療中に患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量をモニタリングする工程;及び、二価ナタリズマブの量が所定の閾値より多い場合に治療を終了する工程;がさらに含まれる。ある態様において、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量が約1μg/ml以上の場合、治療が終了される。ある態様において、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量が約0.5μg/ml以上の場合、治療が終了される。ある態様において、患者の血漿または血液中の二価ナタリズマブの量が0.1μg/ml以上の場合、治療が終了される。
【0033】
[033] ある態様において、本方法には、治療中に患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量をモニタリングする工程;及び、二価ナタリズマブの量が所定の閾値より多い場合に治療を終了する工程;がさらに含まれる。ある態様において、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量が約1μg/ml以上の場合、治療が終了される。ある態様において、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量が約0.5μg/ml以上の場合、治療が終了される。ある態様において、患者の血漿または血液中の二価ナタリズマブの量が0.1μg/ml以上の場合、治療が終了される。ある態様において、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブのレベルを減少させるために、患者に静注免疫グロブリンが投与される。ある態様において、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブのレベルを減少させるために、患者に血漿交換療法が施される。
【0034】
[034] 別の側面において、本発明は、第一の投与期間に、ある用量のナタリズマブを投与し;第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量をモニタリングし;観測された二価ナタリズマブのレベルに基づいて、ナタリズマブの第二の用量を決定し;第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与し;そして、1以上のそれに続く第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与すること;によって、ナタリズマブを用いて炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療する方法であって、第二の用量が第二の投与期間中の治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法を提供する。
【0035】
[035] 別の側面において、本発明は、患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定し;患者の血漿または血清中のIgG4の量に基づいて、ナタリズマブの用量及び投与期間を決定し;該投与期間を通じて、患者に該用量のナタリズマブを投与し;そして、1以上のそれに続く投与期間を通じて、患者に該用量のナタリズマブを投与すること;によって、ナタリズマブを用いて炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療する方法であって、該用量及び投与期間が、ナタリズマブの標準的用量及び標準的投与期間によって提供される安全性及び/または有効性と比べて、治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法を提供する。
【0036】
[036] 別の側面において、本発明は、患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定し;第一の投与期間に、ある用量のナタリズマブを投与し;第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブのレベルをモニタリングし;患者の血漿または血清中のIgG4の量及び患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブのレベルに基づいて、ナタリズマブの第二の用量及び第二の投与期間を決定し;第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与し;そして、1以上のそれに続く第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与すること;によって、炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療するためにナタリズマブを使用する方法であって、第二の用量及び第二の投与期間が治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法を提供する。
【0037】
発明の詳細な説明
定義
[037] 本明細書において使用される用語は、以下に説明するような一般的な意味を有し、そして本明細書の文脈の中でさらに理解することができる。
【0038】
[038] 本明細書において同じ意味で使用される“患者”または“被検体”は、そうでないという明示がない限りヒトである。
[039] “治療”とは、疾患のための医療のあらゆる施しまたは適用を意味し、そして、例えば、回復をもたらすこと、若しくは、失われた機能、損なわれた機能、若しくは障害のある機能を修復若しくは直すことによって、または非効率な工程を刺激することによって、疾患を妨げること、疾患の発症を阻止すること、及び疾患を軽減することが含まれる。
【0039】
[001] “終了する”とは、一時的中止または永続的中止のどちらかを意味する。
[002] “用量”とは、患者に投与されるナタリズマブの量を意味する。
[003] “投与期間”とは、ある用量の投与と次に続くある用量の投与との間の期間を意味する。投与期間は、1以上のさらに続く用量(単数または複数)とともに変えることができ、または一定のままにすることができる。
【0040】
[004] “ナタリズマブ”または“ナタリズマブ(登録商標)”は、米国特許第5,840,299号及び第6,033,665号に記載の、VLA-4に対するヒト化抗体であり、その全内容は本明細書に参照として援用される。同様に本明細書において意図されるのは、VLA-4に対して特異的な他の抗体であって、限定はされないが、米個特許第6,602,503号及び6,551,593号並びにReltonらによる公開米国出願第20020197233号に記載の免疫グロブリンが含まれる。
これらの抗体は、これらの文書中に開示された方法によって、哺乳類細胞の発現系によって、及び、例えばトランスジェニックヤギといった、トランスジェニック動物の発現系によって、調製することができる。
【0041】
[005] “薬学的有効量”または“治療有効量”は、同じ意味で使用され、疾患の症状及び/または疾患の合併症を治すかまたは少なくとも部分的に阻止するために十分な量である。
【0042】
[006] “セロトニンアンタゴニスト”は、セロトニンの1以上の効果を減少させるあらゆる物質である。
[007] “セロコンバージョン”は、陰性から陽性への血清学試験の変化であり、抗体の生成を表す。
【0043】
[008] “力価”は、溶液中の抗体の濃度である。
IgG4抗体
[009] 抗体は免疫系によって用いられるタンパク質であり、そして細菌やウイルスのような外来物を同定または中和する。それぞれの抗体は、その標的に特有な特定の抗原を認識する。
免疫グロブリンは、抗体として機能する、免疫グロブリンスーパーファミリーの中の糖タンパク質である。それらは、免疫系のB細胞に由来する形質細胞によって、合成及び分泌される。B細胞はその特異的抗原に結合する際に活性化され、そして形質細胞に分化する。いくつかの場合、B細胞とヘルパーT細胞の相互作用もまた必要である。
【0044】
[010] 免疫グロブリンは、重い血漿タンパク質であり、しばしば、アミノ酸残基のN末端(全抗体)及び場合によってO末端(IgA1及びIGD)に糖鎖が付加される。それぞれの抗体の基本単位は単量体である。抗体は、単量体、二量体、三量体、四量体、五量体、などになることがある。単量体は、ジスルフィド結合によって連結された2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖からなるY字型の分子である。
【0045】
[011] 重鎖には5つのタイプ:γ、δ、α、μ、及びεがある。それらは免疫グロブリンのクラスを定義する。重鎖α及びγは約450アミノ酸を有し、一方μ及びεは約550アミノ酸を有する。それぞれの重鎖は、同じクラスの全ての免疫グロブリンで同一である、定常領域、及び、異なるB細胞の免疫グロブリンの間では異なるが、同じB細胞によって産生される全ての免疫グロブリンで同一である可変領域を有する。重鎖γ、α及びδは、3つのドメインから構成される定常領域、それと別にヒンジ領域を有し;重鎖μ及びεの定常領域は、4つのドメインから構成される。いずれの重鎖の可変領域も、1つのドメインから構成される。これらのドメインは約110アミノ酸の長さである。定常ドメインの間にもいくつかのアミノ酸がある。軽鎖には2つのタイプのみ:λ及びκがある。ヒトでは、それらは類似しているが、それぞれの抗体には一方のタイプしか存在しない。それぞれの軽鎖は、2つの連続するドメイン:1つの定常領域及び1つの可変領域を有する。軽鎖のおよその長さは、211から217アミノ酸である。
【0046】
[012] 単量体は、2つの重鎖と2つの軽鎖から構成される。合わせて、単量体は6つから8つの定常領域及び4つの可変領域を生ずる。パパインによる酵素的切断は、2つのFab(フラグメント酵素結合)フラグメント及び1つのFc(フラグメント結晶化可能)フラグメントを生成し、一方、ペプシンはヒンジ領域の下を切断し、よってF(ab)2フラグメント及びfcフラグメントが形成される。よって、Y字型単量体の分岐した末端の半分それぞれは、Fabフラグメントと呼ばれる。Fabフラグメントは、重鎖及び軽鎖それぞれの1つの定常領域及び1つの可変領域から構成され、合わせて、単量体のアミノ末端での抗原結合部位を形成する。その2つの可変領域は、特異的であり且つその産生を誘導する抗原に結合する。
【0047】
[013] Fcフラグメントは、(抗体のクラスによって)2つから3つの定常ドメインをそれぞれ提供する、2つの重鎖から構成される。Fcフラグメントは、さまざまな細胞受容体及び補体タンパク質に結合する。これによって、Fcフラグメントは抗体の異なる生理学的効果(オプソニン化、細胞溶解、肥満細胞脱顆粒、好塩基球脱顆粒、及び好酸球脱顆粒、並びに他の工程)を仲介する。重鎖及び軽鎖の可変領域は一緒に融合して、一本鎖可変領域(scFv)を形成することができ、その領域は元となる免疫グロブリンの元来の特異性を保持する。
【0048】
[014] 免疫グロブリンは、重鎖の定常領域の違いに基づいて5つのクラスまたはアイソタイプ:IgG、IgA、IgM、IgD,及びIgEに分類される。(アイソタイプはまた、軽鎖によっても定義される。)他の免疫細胞は、どのIgG、IgA、IgM、IgD及びIgEの定常結合ドメイン受容体をその表面に発現することができるかに依存して抗体と組になり、病原体を排除する。
【0049】
[015] 単一のB細胞が産生する抗体は、それらの重鎖において異なっていてもよく、そしてB細胞は、しばしば同時に異なるクラスの抗体を発現する。しかし、可変領域によって与えられる、抗原に対する特異性に関してそれらは同一である。多くの異なる外来抗原に対して自らを守るために身体が必要とする多くの特異性を実現するためには、何百万ものB細胞を産生しなければならない。
【0050】
[016] IgGは単量体免疫グロブリンであり、2つの重鎖γ及び2つの軽鎖で構築される。それぞれの分子は、2つの抗原結合部位を有する。IgGは、最も豊富な免疫グロブリンであり、そして血液中及び組織液中にほぼ等しく分布している。IgGは、胎盤を通過することができる唯一のアイソタイプであり、これによって、自身の免疫系が発達する前の生後一週間の胎児に保護を与える。IgGは、例えば、ウイルス、細菌、及びカビといった多くの種類の病原体に結合することができ、そして、補体活性化(古典経路)、食作用のためのオプソニン化、及び毒性の中和によって、それら病原体から身体を守る。4つのサブクラス:IgG1(66%)、IgG2(23%)、IgG3(7%)、IgG(4%)がある。IgG1、IgG3、及びIgG4は胎盤を容易に通過できる。IgG3は最も効果的な補体活性化因子であり、次がIgG1そして次にIgG2が続く。IgG4は補体を活性化しない。IgG1及びIgG3は、食細胞上のFc受容体と強い親和性で結合する。IgG4は中程度の親和性を有し、そしてIgG2の親和性は非常に低い。
【0051】
[017] 免疫グロブリンG4(IgG4)抗体は、しばらくの間、機能的に一価であると考えられていた。最近、この一価性の構造的基盤が解明された:すなわち、in vivoでの、IgG4間におけるIgG半分子(half-molecule)(1つH鎖と1つのL鎖を合わせたもの)の交換である。この工程は、ほとんどの条件下で機能的に一価の抗体として振る舞うであろう二重特異性抗体をもたらす。IgG4の普通と異なる振る舞いの構造的基盤は、主に、ヒトIgG1と比較した一アミノ酸の変化:すなわち、IgG1のコアヒンジ中のプロリンの、セリンへの変化の結果のようである。これは、鎖間のジスルフィド架橋及び鎖内のジスルフィド架橋の間にある平衡の著しい変化をもたらし、それがIgG4において、H鎖の間の共有結合性相互作用が25〜75%存在しないことをもたらす。CH3ドメイン間の(及びおそらくはまた、CH1ドメインとtrans-CH2ドメインとの間の)強い非共有結合性相互作用のために、IgG4は安定な4鎖分子であり、in vitroの標準的な生理条件下では半分子の交換が簡単には行われない。この交換は、内皮細胞中のエンドソーム経路におけるIgG4の輸送中に、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)及び/またはFcRn(主要組織適合複合体(MHC)関連Fc受容体)によって、または未知の機構によって、in vivoで触媒されている可能性がある。IgG4は、慢性的抗原曝露の条件下で主に発現されるので、この半分子の交換の生物学的意義は、この交換によって巨大免疫複合体を形成できず、そしてしたがって免疫性炎症を誘導する能力が低い抗体を生成するということである。一価の免疫グロブリンフラグメントとは対照的に、これらの混合された免疫グロブリンは標準的半減期を有する。その後の二重特異性の重要性は、さらなる評価を必要とする。というのも、高いIgG4の応答が体内で同時に同じ場所に偶然存在する2つの無関係な抗原に対して見いだされるような状況においてのみ関連性があるためである。この文脈で、IgG4の自己反応性の重要性は再評価されるべきかもしれない。しかし、IgG4の主たる機能は、補体結合性抗体によって誘導される免疫性炎症、または蠕虫感染若しくはアレルギーの場合のIgE抗体によって誘導される免疫性炎症を干渉すると推定される。
【0052】
[018] ほとんどのモノクローナル抗体は、1つのタイプのL鎖及びH鎖からなり、そして2つの同一の抗原結合部位を有し、これによってそれぞれのモノクローナル抗体は二価性になる。しかし、IgG4の場合は、in vivoでの半分子の交換によって二重特異性で一価の抗体が生じる。in vivoのIgG4の構造のこのような見方を支持する実験的証拠には、ポリクローナルIgG4抗体が2つの抗原と交差結合しないこと、すなわち、機能的に一価であること;ポリクローナルIgG4抗体とは対照的に、モノクローナル(キメラ)IgG4抗体は2つの抗原と交差結合すること;(モノクローナル及びポリクローナル両方の)IgG4の実質的部分は重鎖同士の共有結合的相互作用を欠いているが、非共有結合のみを介して4鎖構造が維持されていること;そして、二重特異性の抗体は血漿中に見いだすことができ、全てというわけではないにしても、そのほとんどがIgG4タイプであること;という観察が含まれる。定量的に、二重特異性の反応レベルは、抗原特異的IgG4抗体のレベルから予測することができる。
【0053】
ナタリズマブ
[019] ナタリズマブは、α4-インテグリンであるα4β1及びα4β7に対して作られた、組換え型ヒト化IgG4κモノクローナル抗体である。ナタリズマブは、ヒト骨格領域及びa4-インテグリンに結合するマウス抗体の相補性決定領域を含む。ナタリズマブの分子量は149キロダルトンである。
【0054】
[020] Yednock及びその他の者による研究により、MSの動物モデルである、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)における、α4-インテグリン遮断の臨床的有効性が示された(Yednock et al., Nature 1992; 356:63-66 (1992); Baron et al., J. Exp. Med. 177:57-68 (1993); Kent et al., J. Neuroimmunol. 58:1-10 (1995); Brocke et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 96:6896-6901 (1999))。これらのデータは、結合抗体によるα4-インテグリン遮断が、白血球の脳内への遊走を防ぐことができることを示し、そしてしたがって、α4-インテグリンがMS治療のための標的であるという仮説を支持する。加えて、これらの観測は、脳内の白血球集積を遮断することで、MS病変の特徴である、神経線維を覆う絶縁鞘であるミエリン、及びニューロンの局所的破壊を防ぐであろうという仮説を支持する。ナタリズマブはこの標的に対して作られた最初の抗体であり、臨床データはこの治療戦略の関連性を示す。
【0055】
[021] ナタリズマブは、選択的接着分子(SAM)阻害剤として知られる新興薬剤の一種である。α4β1(VLA-4とも呼ばれる)及びα4β7インテグリンへ結合するナタリズマブは、内皮細胞上の対応するインテグリン受容体である、VCAM-1及びMAdCAM-1との分子間相互作用をそれぞれ阻害する。これらの分子間相互作用を阻害することによって、ナタリズマブは、炎症部位の中への白血球の動員及び放出を妨げる。ナタリズマブの作用のさらなる機構は、α4発現白血球と細胞外マトリックス中の他のリガンド(オステオポンチン及びフィブロネクチン)及びミクログリア細胞といった柔細胞上の他のリガンド(VCAM-1)との相互作用を阻害することによって、疾患組織内で進行中の炎症反応を抑制することであろう。そのようなものとして、ナタリズマブは、疾患部位での進行中の炎症活動を抑制することができ、そして炎症を起こした組織中への免疫細胞のさらなる動員を阻害することができる。よって、ナタリズマブを用いたMS患者の治療は、CNS中への単核白血球の侵入をブロックし、そして脱髄及び軸索損傷を引き起こす炎症過程を緩和し、そして、究極的には運動機能、視覚機能、認識機能を含む障害の臨床的再発及び障害の進行の数を減らすことによって臨床的有益性をもたらすことができる。
【0056】
ナタリズマブの薬物動態
[022] 多発性硬化症患者へ300 mg用量のナタリズマブを繰り返し静脈内投与した後の、平均の最大観測血清濃度は98±34μg/mLであった。投与期間を通じた平均の定常状態ナタリズマブ濃度は、約30μg/mLであった。16±5 mL/hのクリアランスにおいて、11±4日の平均半減期が観測された。5.7±1.9 Lの分布容積は、血漿容積と一致した。
【0057】
[023] in vitroの受容体飽和アッセイにおいて測定されるように、バイアルから直接取ったナタリズマブは、0.3から1μg/mlで全血中のリンパ球を飽和する。この結果は、緊密な接着には1μg/mlのナタリズマブが必要であるという細胞接着での観測と一致する。しかし、同じアッセイを使用して患者の血清サンプルにおけるナタリズマブを試験することにより、受容体飽和には10μg/mlより高い濃度が必要とされるようであった。この効果は、ナタリズマブがin vivoの血清中で、自身のIgG4の腕の1つを他のIgG4抗体と交換することによって引き起こされる可能性があり、結合力及び有効性の喪失をもたらす。他の単鎖抗体を用いた研究に基づけば、この交換は有効性へ100倍の影響を優に与えるであろう。したがって、血液中における意味のあるナタリズマブ活性はいずれも、内因性IgG4との平衡が築かれた後に循環中に残っている二価分子にほぼ由来するであろう。データは、この過程が比較的短期間(数時間から数日)にわたって化学量論的様式で起こるようであることを示す。よって、数時間または数日内は、存在する二価ナタリズマブのレベルが内因性IgG4の初期レベルに依存する。
【0058】
[024] 内因性IgG4の典型的な範囲は、ヒトにおいて200から1000μg/mlである。化学両論の計算に基づけば、ナタリズマブが10μg/ml存在する場合(4週間の投与期間を通じて300 mg用量を静脈内投与した後の、典型的な最低血中レベル)、二価ナタリズマブのレベルは、最低レベルで0.02から0.24μg/mlの範囲であろう(平均0.12μg/ml)。これらの値は、最低レベルでの患者サンプル中のナタリズマブにより観察された75〜85%の受容体飽和レベルと非常によく一致する。二価ナタリズマブによる機能的飽和は、1μg/mlで起こる。しかし、二価ナタリズマブのレベルは、より低いレベルの内因性IgG4により顕著に増える。例えば、ナタリズマブの最低レベルが10μg/mlと仮定すると、内因性IgG4が50μg/mlの患者においては、二価ナタリズマブのレベルは〜1μg/ml(または飽和)になるだろう。よって、例えば、内因性IgG4のレベルが約50μg/ml未満の患者は、投与期間を通して慢性的に飽和レベルのナタリズマブを有することになるだろう。約15μg/mlのIgG4濃度では、最低レベルでの十分に機能的な二価ナタリズマブが2.5μg/mlとなり、受容体飽和を十分に上まわるだろう。個体がIgG4を完全に欠いている場合、ナタリズマブの機能的レベルは、測定される最低レベルと同一であるか、または4週間の投与期間を通じて静脈内注入によって300 mg用量を投与された患者において約10μg/mlであるだろう。
【0059】
[025] 上記の例示的計算が明らかにするように、内因性IgG4のレベルが、例えば約200μg/ml、約100μg/ml、約50μg/ml、約15μg/ml、または約0といった、特定のレベルと等しいかまたは特定レベル未満の患者は、正常レベルの内因性IgG4を有する患者と比べて、ナタリズマブについて非常に異なる臨床プロフィールをおそらく有するだろう(0.12μg/mlに対して、約1μg/mlより多い機能的抗体)。
【0060】
[026] これらの計算は、4週間の投与期間を通じて静脈内注入による300 mgの標準的用量を投与されている典型的な患者において、毎月1週間または2週間、濃度が完全占有レベル未満に落ちたとしても、ナタリズマブは強い有効性を示すことを表す。この観測は、典型的患者のCNS中への細胞輸送が、それぞれの投与期間の一部の間、部分的にのみ阻害されることを示唆する。しかし、患者のうち少数、特に内因性IgG4のレベルが低い患者では、二価ナタリズマブのより高い最低レベルは、ナタリズマブによる受容体飽和の長期化をもたらし、投与期間中のα4インテグリンα4β1及びα4β7の完全な阻害及び細胞輸送のより根元的な阻害をもたらすだろう。この条件の1つの結果は、これらの患者が、ナタリズマブを用いて治療されている一方で、重篤感染症のより高いリスクにさらされていることである。
【0061】
[027] 投与間隔の間の全ナタリズマブの最低レベルを変化させるいずれの要素もまた、二価で十分に活性なナタリズマブ抗体の最低レベルに影響するだろう。例えば、内因性IgG4が100μg/mlの患者において、最低ナタリズマブレベルが10μg/mlから20μg/mlへ2倍にされた場合、二価ナタリズマブ抗体のレベルは0.5μg/ml(飽和未満)から1.8μg/ml(飽和を上まわる)へ増加して、3倍になるだろう。IgG4に加えて、投与期間中に存在する二価で十分に活性なナタリズマブ抗体のレベルに影響を与える可能性のある要素には、体重、併用薬、及び治療期間が含まれる。固定した用量のナタリズマブを使用した場合、体重における違いはナタリズマブのレベルに3倍まで、例えば3μg/mlに対して9μg/mlまたは6μg/mlに対して16μg/ml、影響する可能性がある。
【0062】
[028] AVONEX(登録商標)の薬物動態への影響が議論されたが、患者の小集団に由来するデータは、ナタリズマブの最低レベルが、ナタリズマブのみで12μg/mlである(これは他の全ての調査と一致する)のに対してナタリズマブがAVONEX(登録商標)と同時投与された場合には25μg/mlであることを示す。これは、二価ナタリズマブ分子のレベルをやはり3倍にする可能性のある差異である。この影響が母集団全体に対して統計的に有意でないとしても−AVONEXが少数の個体に対してでもナタリズマブの範囲の上限または最低濃度に影響するのであれば、患者の母集団全体にわたって、リスク因子の有意な変化を引き起こすであろう。
【0063】
[029] ナタリズマブは、4週間おきといったように、繰り返し投与されてもよい。ナタリズマブの先行する投与の回数は、それぞれの次の投与間隔の間に経験される最低レベルに影響するであろう。例えば、濃度レベルは、繰り返し投与することによって、第2回投与の前で5μg/mlに対して第15回で12μg/mlに増えるようである。よって、タイサブリ(ナタリズマブ)は繰り返される投与によって蓄積する可能性がある。
【0064】
治療の方法
[030] ナタリズマブの医薬組成物は、静脈内に投与されるだろう。投与されるナタリズマブの用量及び投与期間は、全ての患者またはあるクラスの患者にわたって固定されてもよいし、または患者の体重に基づいて決定されてもよい。例えば、ある態様において、ナタリズマブは、静脈内注入によって体重1 kgあたり1から5 mgの用量で投与される。あるいは、固定された用量のナタリズマブが、患者の体重とは無関係に、全ての患者またはあるクラスの患者に対して投与されてもよい。例えば、ある態様において、ナタリズマブ静脈内注入による300 mgの用量で投与される。
【0065】
[031] ある態様において、体重を基礎にした用量または固定された用量のいずれかは、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量及び/または患者の血漿または血清中のIgG4の量に基づいて決定または補正される。
【0066】
[032] ある態様において、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量及び/または患者の血漿または血清中のIgG4の量を、投与期間中に決定する。二価ナタリズマブの量は、直接決定してもよいし、または、患者の血漿または血清中のIgG4及び/または全ナタリズマブの量を測定し、そしてそれらの測定値に基づいて二価ナタリズマブの量を計算または推定することによるなどして、間接的に決定または推定してもよい。
【0067】
[033] ある態様において、患者の血漿または血清中のIgG4の量を使用して、治療の開始前及び/または治療の開始後のいずれかに、ナタリズマブの投与のための適切な容量及び投与期間を決定することができる。患者の血中のIgG4の量が200μg/ml未満、100μg/ml未満、15μg/ml未満、または検出不能などのより低い量の場合、患者の血漿または血清中のIgG4の量に基づいて決定されたナタリズマブの用量は、標準的用量より低くてもよいし、または患者に以前に与えられた用量より低くてもよい。同様に、決定された投与期間は、標準的投与期間より長くてもよいし、または以前に計画された1以上の投与期間より長くてもよい。例えば、決定された用量が静脈内注入による300 mg未満でもよいし、決定された投与期間が4週間より長くてもよいし、または決定された用量が静脈内注入による300 mg未満でありそして決定された投与期間が4週間より長くてもよい。
【0068】
[034] ある態様において、第一の投与期間中の患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量を使用して、第二の投与期間における投与のためのナタリズマブの第二の用量を決定することができる。例えば、モニタリングにより、第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量が既定のレベルより多いままであることが示される場合、第二の投与期間を通じて投与されるナタリズマブの補正された用量が、第二の投与期間の少なくとも一期間、第二の投与期間中のナタリズマブ濃度を既定のレベル未満まで減少させることを達成するように計画することができる。これは、例えば、第二の用量を第一の用量より少なく、第二の投与期間を第一の投与期間より長く、または第二の用量を第一の用量より少なくそして第二の投与期間を第一の投与期間より長く決定することによって、達成することができる。例えば、既定のレベルは、約1μg/ml、約0.5μg/ml、約0.1μg/mlであってよい。ナタリズマブの第二の用量は標準的用量より少なくてもよく、及び/または決定された投与期間は標準的投与期間より長くてもよい。例えば、決定された用量は静脈内注入による300 mg未満であってもよく、決定された投与期間は4週間より長くてもよいか、または決定された用量は静脈内注入による300 mg未満であってもよくそして決定された投与期間は4週間より長くてもよい。
全ナタリズマブ及び二価ナタリズマブのELISAアッセイ
[035] 例えば血漿または血清などの生体液といった、溶液中の全ナタリズマブの量は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて測定することができる。本発明は、一価及び二価ナタリズマブの両方を測定するELISAアッセイを提供する。具体的には、本発明は、全ナタリズマブの濃度及び二価ナタリズマブの濃度を測定するための、固相サンドイッチELISAを提供する。大まかにいうと、本明細書で説明するELISAアッセイは、ナタリズマブに特異的な抗イディオタイプ抗体及びIgG4抗体のFc領域に対する酵素結合抗体を利用する。
【0069】
[036] 全ナタリズマブ及び二価ナタリズマブのELISAの両方において、抗イディオタイプ抗体は固相表面に結合する。ナタリズマブに特異的ないずれの抗イディオタイプ抗体でも、ELISAにおいて使用するために適している。抗体12C4はナタリズマブの可変領域に対して特異的な抗イディオタイプ抗体の例であり、本アッセイにおいて使用するために適している。適切な固相表面は、本技術分野においてよく知られており、そしてそれにはマイクロタイタープレートが含まれる。
【0070】
[037] 全ナタリズマブのELISAアッセイにおいて、抗イディオタイプ抗体は高密度で表面に結合される。ある態様において、12C4は、約2μg/mlの密度で結合される。未知量のナタリズマブを含む溶液が添加され、そして、溶液中のナタリズマブが抗イディオタイプ抗体に結合するために適した条件下で、表面に結合した抗イディオタイプ抗体と相互作用させる。表面を洗うことによって、溶液の結合しなかった分を取り除く。抗イディオタイプ抗体に結合したナタリズマブは、次いでIgG4抗体のFc領域に対して特異的でありそして酵素と直接または間接的に結合した抗体を用いて検出される。表面は再び洗われ、結合していない酵素結合IgG4を取り除く。酵素の基質が添加され、そして反応産物が測定される。反応産物の量を、溶液中のナタリズマブと量に相関させる。適切な酵素、基質、及び測定装置は本技術分野においてよく知られている。ある態様において、アルカリホスファターゼと結合した市販のIgG4に対する抗体を用いて、結合したナタリズマブを検出する。
【0071】
[038] 二価ナタリズマブの量も、本明細書で提供される方法を用いて、固相サンドイッチELISAによって測定することができる。抗イディオタイプ抗体は、低い密度で固相表面に結合される。ある態様において、12C4は、約0.3μg/mlの密度で表面に結合される。未知量のナタリズマブを含む溶液は、全ナタリズマブELISAについて上述したように、相互作用させる。ナタリズマブは次いで、二価ナタリズマブに対して特異的な抗イディオタイプ抗体で検出されるが、この抗体は、溶液中のナタリズマブ単量体も、内因性IgG4とIgG4の重鎖を交換しそして内因性IgG4と結合したままのナタリズマブ単量体も認識しない。検出工程で使用される抗イディオタイプ抗体は、検出可能な酵素と結合される。抗イディオタイプ抗体12C4は、固相結合抗体として及び/または検出用抗体として共に、二価ナタリズマブアッセイにおいて使用するために適している。検出用抗体として使用される場合、12C4は検出可能な酵素と結合される。
【0072】
[039] さまざまな酵素検出系が、本技術分野において知られている。それらには、アルカリホスファターゼ複合体、アビジン及びストレプトアビジン複合体、西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体、ベータ-ガラクトシダーゼ複合体などが含まれる。さまざまな基質も、本技術分野において周知であり、そしてそれらには4-ニトロフェニルリン酸、2-ニトロフェニル-b-D-ガラクトピラノシド、2,2'-アジノ-ジ-[3-エチルベンズチアゾリンスルホン酸]が含まれる。
【0073】
[040] ナタリズマブを用いて治療したサルの血清中の全ナタリズマブ及び二価ナタリズマブの両方の濃度を、本発明のELISAアッセイを用いて決定した。3 mg/kgを投与した4、24、及び72時間後にナタリズマブを測定した。4時間目及び24時間目の測定の結果を表1に示す。"blq"という頭字語を用いて、結果が定量の限界を下回っていたことを示す。10μg/mlのナタリズマブを加えた血清を陽性対照として使用した。
【0074】
【表1】

【0075】
ナタリズマブの安全性
[041] ナタリズマブの安全性は、MS、クローン病、及び関節リウマチについての臨床試験におけるナタリズマブを用いた3919の被検体の治療の結果に基づき、本明細書において示されるものであり、結果として5505患者・年(patient-years)のナタリズマブ曝露を行った。ナタリズマブを用いた治療は、概して十分に耐容性であった。全てのナタリズマブのプログラムの中で、治療により発生した死が18例起こった。試験中に直面した一般的及び重篤な有害事象は、ナタリズマブ治療患者及び対照において同様であった。ナタリズマブの中断に至った有害事象は、5.8%のナタリズマブ治療MS患者及び4.8%のプラセボ治療MS患者において起こり、ナタリズマブ治療患者において最も一般的な中断の原因はじんましんであった(1.2%)。
【0076】
[042] 自己免疫疾患を治療するために使用される他の高活性薬物のように、ナタリズマブはリスクが無いわけではない。残念ながら、ナタリズマブなどの免疫調節薬剤の臨床的有効性には、作用機序に基づく重大な副作用のリスクが伴う。重篤な慢性疾患を治療するために免疫機能を調節する医薬のリスクは、過去数年にわたってよく認識されてきた。TNFαアンタゴニスト(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ及びエタネルセプト)などの医薬は免疫機能の強力な調節剤であり、そして関節リウマチ、クローン病、乾癬、乾癬性関節炎、及び強直性脊椎炎などの、多くの重篤な自己免疫疾患のために承認されている。非常に有効であるが、これらの薬剤は、重篤な有害事象、特に著しい罹患率と死亡率を伴う感染症を伴う。
【0077】
[043] 本発明は、稀ではあるが重大なナタリズマブ治療のリスクとして、詳細な安全性解析を介したPMLの同定を提供する。加えて、免疫抑制剤の同時使用または他の重大な併存症と関連して、多くの場合クローン病患者において、ナタリズマブ治療患者における重篤な非PML日和見感染症が観察された。加えて、利益-リスクのプロファイルを十分に定義できない患者集団を同定した。これらの感染症の発生は、適切な使用条件、並びにPML及び他の重篤な日和見感染症のリスクを評価及び最小化することに照準を絞った、市場流通後における包括的なリスク管理プログラムの必要性を際だたせる。
【0078】

[044] 臨床試験中におきた18例の死のうち、5例がプラセボ対照のMS試験において起こり、それらには患者のうちナタリズマブを投与されていた2例及びプラセボを投与されていた3例が含まれた。ナタリズマブを投与されていた患者は、アルコール依存症及び転移性悪性メラノーマで死亡した。プラセボを投与されていた患者は、心不全、呼吸不全、及び急性の胸膜癌腫症で死亡した。4例の死が盲検MS試験において起こり、それらは呼吸窮迫症、PML、自殺、及びMSによる発作を原因とした。
【0079】
[045] ナタリズマブ治療クローン病患者の6例の死が試験中に観察された。ナタリズマブへの曝露は、これらの試験においてプラセボへの曝露より約3倍強かった。死因は、急性心筋梗塞、急性腎不全、二酸化炭素窒息、PML、ニューモシスチス・カリニ肺炎、及び気管支肺アスペルギルス症であった。
【0080】
[046] 3例の死が関節リウマチ試験において起こり、2例はナタリズマブ治療患者においてそして1例はプラセボを投与されていた患者においてであった。ナタリズマブ治療患者は、呼吸不全による喀血及び末期リウマチの肺炎で死亡した。プラセボ治療患者は、循環不全及び呼吸不全で死亡した。
【0081】
[047] MSの研究においては、PMLを除いて、他の安全性のシグナルは実験中の死から見られなかった。クローン病の研究において、1人の患者がPMLで死亡した。クローン病におけるさらなる2例の死は、日和見感染症、すなわち気管支肺アスペルギルス症及びニューモシスチス・カリニ肺炎に関連した。これらの患者は重大な併存症を有し、これらの感染症の発症の一因となった可能性があった。
【0082】
有害事象
[048] プラセボ対照試験において、1617人のナタリズマブ治療MS患者のうち251人(15.5%)が、そして1135人のプラセボ治療患者のうち214人(18.9%)が、少なくとも1つの重篤な有害事象に直面した。器官系と分類される、最も一般的な重篤な有害事象は、神経系障害であった(5.9%ナタリズマブ、10.2%プラセボ)。MSの再発は、この発生率に顕著に寄与した(4.7%ナタリズマブ、9.0%プラセボ)。二番目に一般的な重篤な有害事象は、感染及び侵入であり(2.4%ナタリズマブ、2.2%プラセボ)、虫垂炎及び尿路感染症(両集団で<1%)が最も一般的であった。
【0083】
[049] 治療用タンパク質を用いた治療によってもたらされると予測される事象である、過敏症反応の発生率は約4%であり、重篤な全身性反応が1%未満の発生率で起こった。反応は、治療過程の初期に起こる傾向があったが、投薬の過程を通してずっと観察された。反応の具体的な機構は決定されていないが、臨床的には、反応は、典型的なIgE仲介性またはIgG仲介性の即時型過敏症反応のように見られた。全ての患者は、後遺症無しに回復した。
【0084】
[050] ナタリズマブ治療中の悪性腫瘍の発生は稀であった。悪性腫瘍の発生率は、ナタリズマブ群及び対照群の間で均衡していた。ナタリズマブ治療中に観察された悪性腫瘍の率は、国立癌研究所の監視、疫学、及び最終結果(Surveillance, Epidemiology and End Results)などの、既存の癌登録と比較して予想される範囲内の率であった。
【0085】
PML症例の評価
[051] PMLの3つの確定症例が同定され、そのうち2例は致死であった。2つの症例はMS患者において起こり、そして1つはクローン病の患者において起こった。両MS患者は、AVONEX(登録商標)に加え、2年間に渡ってナタリズマブを投与されていた。クローン病患者は、18ヶ月間に渡って8用量のナタリズマブを投与され、そして持続性白血球減少によって認められた通り、慢性的アザチオプリンの使用によって免疫抑制された。3人のPML患者は全て、その疾患過程の初期にわずかな臨床上の変化を示しており、それらは患者または患者の家族によって気づかれていた。
【0086】
[052] PMLの致死症例に罹った最初の患者は、46歳のMSの女性であり、右半身の知覚異常及び感覚異常並びに右上肢の不器用さを彼女の神経科医に示した。MRI脳スキャンにより、両方の放線冠中に4つの非造影T2強調病変が示された。6週間後、彼女は右目に新しい視界のぼやけを示した。視力は左目で20/15、そして右目で20/100であった。脳脊髄液解析により、1つの白血球、正常タンパク質、及びグルコースが得られ、そしてオリゴクローナルバンドは得られなかった。追跡的なMRI脳スキャンは、FLAIR画像での強調及びT1での強調によって、右頭頂領域における新しい皮質下の病変を明らかにした。
【0087】
[053] AVONEX(登録商標)治療が開始されたが、彼女はその後に3回の再発を経験し、そのうち一番最近のものは腹部周辺の帯状の痛み、下肢衰弱、及びメチルプレドニゾロンを用いた治療を必要とする痙縮を伴った。プラセボ対照MS研究に入る前の、彼女の総合障害度(EDSS)のスコアは、以下に詳述するように、2.5であった。彼女は、非盲検の延長研究に入る前に30回のナタリズマブの投与を受けており、そしてさらに7回の投与を受けた。彼女は、プラセボ対照研究の期間中に、悪化または疑わしい再発が全く無かった。彼女は、プラセボ対照研究の一年目の間に5つの新しいまたは拡大するT2強調病変を発症し、そして二年目の間に1つを発症した。彼女は抗ナタリズマブ抗体について陰性であり、そして彼女のナタリズマブの血清濃度は彼女の参加中ずっと研究集団の平均と同様であった。
【0088】
[054] 2004年11月、彼女は運動機能障害並びに認知障害及び言語障害を患い始め、翌月までに右不全麻痺まで進行した。2004年12月に行われたMRI脳スキャンにより、Gd造影無しで、半卵円中心及び放線冠の中への伸長を伴う左前頭のT2強調病変及びT1強調病変が明らかにされた。彼女は、次の数ヶ月にわたって2コースの高用量ステロイドを投与されたが、衰え続けた。彼女は2005年1月18日にナタリズマブの最後の用量を投与された。彼女は、臨床状態を悪化させて2005年2月12日に再入院した。2005年2月のMRI脳スキャンの繰り返しにより、以前見られた病変の進展が示された。翌週にわたる広範囲の精密検査は、CSF中のJCウイルスDNAを明らかにし、PMLの診断という結果をもたらした。彼女は2005年2月24日に死亡した。死後の検査により、日和見感染の証拠のない正常な器官が明らかにされた。脳の検査により、主に左半球に広範囲に及ぶ重度の空洞化、及び膨張した過色素性の核を持つ反応性アストロサイトを有する、PMLに典型的な両半球の白質全体にわたる複数の非空洞化卵形領域が明らかにされた(Kleinschmidt-DeMasters and Tyler, N. Engl. J. Med. 353:369-374 (2005))。
【0089】
[055] 二番目の患者は46歳の男性で、1983年に再発寛解型MSの症状を初めて経験した。彼の過去の病歴は、耳性帯状疱疹、ラムゼ・ハント症候群、及びメラノーマについて重要である。彼の家系は、MSの姉妹について注目すべきである。彼は1998年からAVONEX(登録商標)を用いて治療され、プラセボ対照MS研究に加わる前年に3回の再発を経験し、そのプラセボ対照MS研究の間、彼は再発または進行の兆候を全く経験しなかった。彼は抗ナタリズマブ抗体について陰性であり、彼のナタリズマブの血清濃度は彼の参加中ずっと研究集団の平均と同様であった。
【0090】
[056] 2004年10月、彼のMRIスキャンにより、右側に小さな脳室周囲Gd造影病変が、そして右前頭皮質下の小さな非造影T2強調病変が示された。2004年11月、行動変化を示し、その後、片側不全麻痺及び認知機能障害を示した。彼の最後のナタリズマブの投薬は2004年12月であった。2005年2月、高用量の静脈内メチルプレドニゾロンを用いた治療にも関わらず、彼は悪化し続けた。2005年2月の脳MRIスキャンによって、以前に同定された病変の進行が示された。彼は、CSF解析及び脳生検を含む広範囲の精密検査を受け、それによってPMLの診断がもたらされた。シドフォビル治療が始められたが、臨床的効果はなかった。次の数ヶ月にわたって、JCウイルス量は彼の血漿及びCSFにおいて減少した。これは、彼の臨床過程のさらなる悪化及びMRIにおけるGd造影病変の発症に対応し、免疫再構築症候群と一致した。彼は、シドフォビルを用いた治療を受け続け、そしてシタラビンが加えられた。ナタリズマブの中断の約3ヶ月後、彼は回復し始めた。彼は会話ができ、そして彼の病歴及び治療について高度の会話をすることができるが、左の片側不全麻痺及び運動失調を伴う認知機能障害が顕著に残っている(Langer-Gould et al., N. Eng. J. Med. 353:375-381(2005))。
【0091】
[057] 最後の患者は、クローン病の病歴を28年持つ60歳の男性であった。彼の病気の間にわたって、彼はアザチオプリン、経口ブデソニド、副腎皮質ステロイド及び4用量のインフリキシマブを用いて治療されていた。彼は、1996年から既存の造血機能障害の兆候、主にリンパ球減少及び貧血を示し、そして1999年にアザチオプリンの投与を開始した。彼は、2002年3月に活性クローン病の患者におけるナタリズマブのフェーズ3研究に加わり、そしてフェーズ3維持研究においてプラセボに無作為抽出される前にアザチオプリンと併用して3用量を投与された。彼は、難治性汎血球減少症のためにアザチオプリンを中断した2002年11月まで、アザチオプリン及びプラセボを維持した。2003年2月、彼はナタリズマブを用いた非盲検治療を始めた。彼は抗ナタリズマブ抗体について陰性であり、彼のナタリズマブの血清濃度は彼の参加中ずっと研究集団の平均と同様であった。
【0092】
[058] 2003年7月、ナタリズマブの5回目の投与の1ヶ月後、彼は1週間の認識衰退を示した。脳MRIスキャンにより、右前頭葉に大きなT2強調病変が示され、そしてガドリニウムで造影されていないさらなる強調病変が左前頭葉及び左側頭葉に示された。彼は病変を一部切除され、その病状はその時点でWHOグレードIIIの悪性星状細胞腫と見なされた。彼は副腎皮質ステロイド及び抗痙攣剤を用いて治療されたが、放射線療法を行うには病気が重すぎた。手術の6週間後の追加のMRIにより、腫瘍の拡大が示された。彼は臨床的に悪化し、そして2003年12月に死亡した。本症例は、最後の病理学報告に基づき、治療した医師によって悪性星状細胞腫として報告された。2月に、前述の1つの確定PMLの症例及び1つの推定PMLの症例を受けて、彼の症例は再検討され、独立した2人のPML専門の神経病理学者による診察後、PMLであると決定された(Van Assche et al., N. Engl. J. Med. 353:362-368 (2005))。
【0093】
[059] ナタリズマブに曝露された臨床試験患者は、初期PMLまたは他の日和見感染症の証拠について系統的に評価された。患者は、診断でPMLを除外できない何らかの活性な神経学的悪化を有するかどうか、PMLを除外できないMRIの異常を示すかどうか、またはCSFが検出可能なJCVのDNA力価を有するかどうか、評価された。
【0094】
[060] PMLの診断のための神経放射線学的兆候について及び実験用アッセイについて、基準があらかじめ確立された。“確定PML”の診断は、進行性臨床疾患の存在、PMLに典型的なMRIの兆候、CSF中にあるJCVのDNAの検出、または病理学的確認によって定義された。PMLを除外するに十分な兆候は、進行性の神経学的疾患の欠如、PMLに典型的でない若しくは長期にわたって安定なMRI病変、またはMRIが疑わしい場合にそのCSF中に検出可能なJCVのDNAがないこと、として定義された。症例は、PMLの臨床的またはMRIでの疑いがあり、後の臨床データ、MRIデータまたはCSFデータが得られなかった場合に、“確定できない”と見なされた。
【0095】
[061] 全3826人のふさわしい研究参加者(2248人のMS患者及び1578人のクローン病/関節リウマチ患者)は、評価のための治療医師/調査員へ報告するために通知された。調査員は、病歴、神経学的試験、脳MRI、及びCSF採取を含む評価手順を実行することが求められた。診査の補助として、JCVのDNAのPCR解析のために血液サンプルも集められた。MRIスキャンは、神経学的疾患の専門家を擁する中央読み取りセンター(Central Reader Center)によって評価され、これには元のフェーズ3のMS研究のための2つの中央読み取りセンターが含まれる。MSの白質異常をPMLの白質異常と区別することを補助するために、基準を標準化する共通のガイドラインがあらかじめ作成された。
【0096】
[062]全部で3389人(89%)のMS、クローン病、または関節リウマチの研究患者が、それぞれの治療医師によって評価され、そのうち3116人はナタリズマブを投与された。残りの273人の患者は、臨床試験の一環として、プラセボを投与され、そして対照群に含まれた。評価されなかった437人のうち、60人(22人のMS患者、38人のクローン病/関節リウマチ患者)は追跡から漏れてしまった。参加した3389人の患者の中で、2046人がMS研究の患者であり、そのうち97%より多くが最後のナタリズマブ投与の3ヶ月以内に調べられた。6人のMS患者はさらなる評価を照会された。これらの臨床試験患者のうち、5人は神経学的悪化のために、1人はMRI所見に基づく推定PMLのために照会された。MRIスキャン検査により、臨床上の疑いに基づいて照会された5人の患者においてPMLの診断が有効に除外された。MRI及びCSF解析の繰り返しにより、MRI所見に基づいて照会された症例においてPMLが除外された。
【0097】
[063] 安全性評価に参加した1349人のクローン病/関節リウマチ患者のうち、21%が最後の投与の3ヶ月以内に調べられ、91%が6ヶ月以内に調べられた。35人の患者が評価され、そこには、臨床学的症状または神経学的症状による1人、MRIにおける疑わしい変化に基づく32人、高い血漿JCVコピー数による1人、及び普通の神経学的試験では患者においてMRIを実施できないことによる1人が含まれた。MSと比較してクローン病の試験の比率が高いのは、主に、クローン病個体群において比較するためのベースラインMRIスキャンを欠いていることによる。ほとんどの症例は、神経学的試験、MRI、及び可能であればCSF試験の検査に基づいてPMLでないと見なされた。疑いがまだ残った10の症例については、MRIの評価が繰り返し実施され、臨床上の進行がないこと、調査に持ち込まれることになった最初のMRIの後2ヶ月にわたるMRIでの進行がないこと、及びいくつかの症例においてはCSF試験の結果、に基づいて、“PMLでない”と診断された。
【0098】
[064] Gd造影及びFLAIRシーケンスを伴う及び伴わない脳のMRIスキャンは、MSの症例においてPMLの診断を除外するために時々有用な手段であった。治療前MRIスキャン及び治療中MRIスキャンの存在は、特異性を増強し、そしてさまざまな時点で、特に患者の神経学的症状が悪化している場合において得られる追跡のMRIスキャンの解釈を助けた。安全性評価過程の間、PMLを確実に除外できなかった病変の存在によって、約35%のMS症例において以前のスキャンとの比較が必要となった。前のスキャンとの比較後、99%より多くのMS症例において、神経学者はPMLを除外することができた。
【0099】
[065] ナタリズマブを用いてMSまたはクローン病を治療された396人の患者における試験のために、CSFが利用可能であった。臨床的基準またはMRIの基準に基づいて評価された19人の患者を含む、これらの症例のいずれにおいても、JCVは検出されなかった。MS及び他の神経学的疾患の患者411人に由来するサンプルがCSF対照及び血漿対照として供給され、そしてカロリンスカ研究所(Karolinska Institute)及び国立衛生研究所の共同によって評価された(Yousry et al., N. Engl. J. Med. 2006年3月2日に公開予定)。これらのCSFサンプル中に検出可能なJCVは全く見いだされず、PMLの活性症例のみに対するCSFアッセイの特異性が確認された。確定PMLの3患者それぞれは、検出可能なJCVのDNAを有していた。以前の研究によって、試験した121人のMS患者の生物学的試料のうち11%においてJCVが見いだされたことが示されていた(Ferrante et al., Multiple Sclerosis 4:49-54 (1998))。
【0100】
[066] 診査測定として、JCVのDNAの存在について血漿を試験した。全ての同意した研究集団(2370人の患者)は、DNA抽出及びPCR解析の高処理能力自動化系を用いて評価された。加えて、無作為小集団のサンプルが、手動低処理能力法を用いて評価された。手動法は高処理能力系より感度の高い指標で実行されたが、関与する技術を考慮して、この方法を用いた試験は全集団の約10%(209人の患者)にだけ可能であった。JCウイルス血症について試験された安全性評価に由来する2370人の患者のうち、5人(0.2%)の患者のみが検出可能なJCVのDNAを有し、そのうち3人は一度もナタリズマブを投与されてなかった。加えて、治療を受けていないMS患者及び他の神経学的疾患の患者に由来する411サンプルのいずれにおいてもJCVのDNAは検出されなかった。これらの結果は、手動の抽出法を使用しても確認された。加えて、手動法によって試験された無作為小集団の209人の患者のうち、さらに5サンプル(2.4%)が検出可能なJCVのDNAを有していた。いずれかの方法によって血漿中に検出可能なJCVのDNAを有する患者は、PMLを示唆する臨床上の特徴またはMRIの所見を有していなかった。
【0101】
[067] 3人の確定PMLの患者から、診断の前後両方で得られた、血清サンプルが利用可能であった。クローン病の患者であった、ただ1人の患者が、症状が始まる前の血清中に検出可能なJCVのDNAを有していた。他の2人の患者は、疾患の臨床上の症状を示し、そして脳MRIスキャンにおいて変化を示していたにもかかわらず、検出可能なJCVのDNAを有していなかった。これらの患者の集団における観察は、血漿中のJCVのDNAの単なる存在ではPMLの予測にも診断にもならないことを示した文献のデータと一致する。
【0102】
[068] 要約すれば、ナタリズマブ治療患者におけるPMLの同定後に実施された包括的な安全性評価は、試験した3000人を超える患者においてさらなるPMLの確定症例を見いださなかった。最近のMS、クローン病、及び関節リウマチの研究においてナタリズマブを投与された患者のほぼ全ては評価の間に証明がなされ、PMLのあらゆる症例が見逃される、ということは起こりそうもないこととなった。PMLの発生は、最初に記載したように2つのMS症例と1つのクローン病症例に限定された。MS及びクローン病の臨床試験においてナタリズマブを用いて治療された被検体におけるPMLの発生率は、したがって約1/1000であり、0.2から2.8/1000の範囲の95%の信頼区間を有する。血漿試験は、PMLの予測にも診断にもならないことを証明しており、公知文献と一致した(Kitamura et al., J. Infect. Dis. 161:1128-1133 (1990); Tornatore et al., Ann. Neurol. 31:454-462 (1992); Dorries et al., Virology 198:59-70 (1994); Agostini et al., J. Clin. Microbiol. 34:159-164 (1996); Dubois et al., AIDS 10:353-358 (1996); Knowles et al., J. Med. Virol. 59:474-479 (1999); Dorries et al., J. Neurovirol. 9 (Suppl 1):81-87 (2003))。血漿中にJCVのDNAが検出される前に、PMLの患者の3人のうち2人で、臨床上の異常及びMRIの異常が存在した。加えて、ナタリズマブを投与されたことのない3人を含む、PMLの臨床的兆候または放射線学的兆候を有さなかった本研究の数人の被検体の血漿中おいてJCVのDNAが検出された。これらの結果は、1つの静的な血漿JCVレベルを確立しても、症状を示さない患者におけるPMLの可能性の予測には有用でないことを示唆する。医者及び患者は、PMLの兆候及び症状に気を配り続けるべきであり、そして治療を中止するためには低い閾値とすべきであり、そして新しい神経学的衰退を示すナタリズマブ治療患者に対して適切な診断のための精密検査(MRI、CSF解析)を開始すべきである。
【0103】
療法中止の影響
[069] ナタリズマブ療法の中止の影響は、フェーズ2の研究において慎重に評価され、この研究には、プラセボ、3 mg/kgのナタリズマブ、または6 mg/kgのナタリズマブの注入を月ごとに6ヶ月間受けるように無作為化された213人の患者が関与した。患者は、最後の注入の後7ヶ月間追跡された。その間、再発及び他の有害事象が記録され、そしてナタリズマブの最後の投与後4ヶ月目及び7ヶ月目にMRIスキャンを実行した。比較は、プラセボ群及び2つのナタリズマブ投与群の間で行った。予想通り、再発を経験した患者の割合及び再発の頻度は、研究薬の中断後、ナタリズマブ群において、プラセボ群のレベルと同程度まで上昇した。その上、活性MRIスキャンの割合は、療法の中断後、ナタリズマブ群においてプラセボ群のレベルと同程度まで徐々に増えた。よって、ナタリズマブ治療の中断は有効性を失う結果をもたらすが、もしナタリズマブを用いた治療が無かった場合に予想される疾患活性を超えて、疾患活性が上昇する証拠はなく、すなわち、リバウンド効果は観察されなかった。したがって、ナタリズマブ療法を中断するMS患者は、疾患活性が著しく増加するリスクの上昇を有さない。
【0104】
薬物相互作用
[070] プラセボ対照MS研究において、AVONEX(登録商標)の投与は、集中的な薬物動態のサンプリングを実施した小集団におけるナタリズマブの血清濃度の増加に関与しているようであった。しかし、薬物動態解析集団からの平均事後パラメーター推定の比較に基づいて、定常期クリアランス及び半減期の値は、AVONEX(登録商標)を同時に併用した患者及びナタリズマブ単剤治療の患者の間で異なったが、それは約5%のみの違いであり、そして臨床上有意でないと考えられた。加えて、ナタリズマブは、120週までAVONEX(登録商標)と併用して589人の患者に投与された場合、十分に耐容性であった。同時にAVONEX(登録商標)を投与された患者において、MSデータベース中にPMLの報告が2例生じたことに注意すべきである。よって、ナタリズマブ治療に伴うPMLのリスクは、インターフェロンβを用いた併用治療によって増加する可能性があるが、これは単なる偶然によって併用療法における2人の患者において起こったのかもしれない(p = 0.23)。
【0105】
[071] 酢酸グラチラマーとの併用におけるナタリズマブの安全性は、毎日20 mgの酢酸グラチラマーを投与され続けていた患者に、6ヶ月にわたってナタリズマブを投与することによって評価された。酢酸グラチラマー及びナタリズマブの薬物動態の間の相互作用またはそのα4-インテグリン受容体飽和は無かった。しかし、この研究は、この集団において長期間の安全性または有効性を確立するには十分な大きさまたは期間ではなかった。
【0106】
ナタリズマブの有効性
多発性硬化症
[072] MSは脳及び脊髄の慢性疾患である。合衆国のような温帯では、MSの発症率は1年あたり約1/100000から5/100000であり(US National MS Society; NMSS)、合衆国の患者数は350000から400000人と推定されている。MSは若年の、主として女性の疾患であり、疾患の発症が典型的には20から40歳の間に起こる。MSの最初の臨床的兆候は、普通、視神経(視神経炎)、脊髄(横断性脊髄炎)、または脳幹/小脳に影響するような、臨床上単離される症状の形態をとる(Runmarker and Anderson, Brain 116:117-134 (1993))。結果的にMSを発症し始める患者数の推定値は大きくばらつくが、視神経炎の症例では、発病時のMRIでのMS様病変の存在は、10年以内に臨床上確実なMSを発症する確率が80%より大きいことを示す(O'Riordan et al., Brain 121 :495-503 (1998); Sailer et al., Neurology 52:599-606 (1999))。
【0107】
[073] 脱髄及び神経線維切断は、活性化Tリンパ球が血液脳関門を通過し、そして内皮細胞の活性化、さらなるリンパ球及び単球の動員、及び前炎症性サイトカインの放出を導く一連の事象を開始する時に、起こると考えられる。MS病変は、典型的に、免疫細胞、脱髄化軸索、再ミエリン化を試みる希突起膠細胞、増殖する星状膠細胞、及びさまざまな程度の軸索切断からなる。腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)及びインターフェロンガンマ(IFN-γ)といったサイトカインが免疫細胞と相互作用し、この過程を増幅する。炎症カスケードを開始する事象は未知である;しかし、血液脳関門を通過して血流から中枢神経系(CNS)の中に入る炎症細胞の接着及び経内皮遊走が、この過程の初期のそして決定的な工程と考えられる。
【0108】
[074] 新たなデータにより、非可逆的軸索損傷がMSの経過中の初期に起こることが示される。切断された軸索はCNS中で再生されないので、MS病変形成を抑制することを目的とする早期の効果的な治療が決定的に重要である。早ければ疾患の始まりに、軸索は活性な炎症を伴う病変において切断される(Trapp et al., N. Engl. J. Med. 338:278-285 (1998); Bjartmar and Trapp, Curr. Opin. Neurol. 14:271-278 (2001); Ferguson et al., Brain 120 (Pt 3):393-399 (1997))。脱髄の程度は、炎症の程度、並びに炎症環境及び非炎症メディエーターへの脱髄化軸索の曝露に関連する(Trapp et al., N. Engl. J. Med.; 338:278-285 (1998); Kornek et al., Am. J. Pathol. 157:267-276 (2000); Bitsch et al. Brain 123:1174-1183 (2000))。また、脱髄病変中には、再ミエリン化が低下した希突起膠細胞の破壊がある(Peterson et al., J. Neuropathy Exp. Neurol. 61 :539-546 (2002); Chang et al., J. Neurovirol 8:447-451 (2002))。希突起膠細胞の損失は、再ミエリン化能力の低下を導き、そしてニューロン及び軸索を支持する栄養因子の損失をもたらす可能性がある(Bjartmar et al., J. Neurocytol. 28:383-395 (1999))。
【0109】
[075] MSの典型的炎症病変は、CNSのあらゆるところで起こる可能性があるが、視神経、脳幹、脊髄、大脳の脳質周囲といった特定の場所は特に損傷を受けやすいようである。結果としてもたらされるこれらの領域の髄鞘及び神経線維の損失は、ニューロンの伝導の低下、並びに衰弱、感覚喪失、視覚喪失、複視、及び平衡失調などの症状を導く。再発寛解性MSにおいて、これら脱髄の発症は、典型的には数週間の神経学的障害をもたらし、その後部分的または完全に回復する。しかし、より重篤な発病は、永続的な損失をもたらす。長期にわたる再発性の発病は身体的障害及び認識衰退の蓄積を導く。
【0110】
[076] 臨床上の測定値、MRIスキャンに基づく測定値、及び生活の質に基づく測定値を含む、多くの測定値を用いて、MS治療における製品の有効性を評価することができる。総合障害度(EDSS)は、MSにおける障害の経過を追跡するためのツールとして幅広く使用される。EDSSは、最も一般的なMS関連の神経学的機能障害を、0から10の範囲の障害レベルに分類し、連続する段階が疾患の悪化を記述する。EDSSスケールの低い範囲では、疾患の進行は、神経学的試験中に測定される特定の機能的システムにおける障害のレベルの上昇によって主として定義される。1.0から3.5のスコアは、軽度から中程度の機能系における障害を記述する。4.0以上の範囲のより高いスコアは、歩行に影響するようなますます重篤な障害を示し、杖(6.0のEDSS)、歩行器(6.5のEDSS)、または車椅子(7.0のEDSS)といった補助装置の必要性が含まれる。7.0より高いスコアには、寝たきりの患者が分類される。
【0111】
[077] MS機能性複合(MS Functional Composite)(MSFC)(Whitaker et al., Multiple Sclerosis 1 :37-47 (1995))もまた、有効性の評価に使用される。標準的な神経学的試験に由来する従来のMSの臨床転帰測定とは異なり、MSFCは、脚機能/歩行(25歩の時間測定)、腕機能(九穴釘試験(Nine-Hole Peg Test))、及び認知機能(ペース聴覚連続足し算試験(Paced Auditory Serial Addition Test)(PASAT3))の定量試験に基づいており、EDSSの測定値から発展させて、そしてこの基準によっては十分に捕らえられない臨床的特質における効果を評価する。
【0112】
[078] MRIは、MS治療における有効性を評価するための別のツールであり、これを単独で使用するか、またはこれを使用して再発及び障害の評価項目に対する治療効果を評価するための臨床的データを支持することができる。MRIは疾患活性をモニタリングするための感度の高い手段であり、再発寛解型MS及び二次進行型MSの両方における疾患活性を、臨床上明らかなものより約5倍から10倍多く検出する(Isaac et al., Neurology 38:1511-1515 (1988); Willoughby et al., Ann. Neurol. 25:43-44 (1989); Khoury et al., Neurology 44:2120-2124 (1994); Thompson et al., Ann. Neurol. 9:53-62 (1991); Thompson et al., Neurology 42:60-63 (1992))。MS患者におけるT2強調のシーケンスは、急性脱髄の新しい領域、並びに脱髄及び神経膠症のより慢性の領域を検出する。このため、T2強調MRIは、活性な病変のカウントとしてか、あるいはそのような病変の全体積の変化として、長期にわたって病変の蓄積をモニタリングするためのよい手法である。
【0113】
[079] T1強調のシーケンス取得中におけるガドリニウム-ジエチレントリアミン五酢酸(Gd-DPTA)の注入は、急性MS病変の炎症特性に続く血液脳関門の崩壊の可視化を可能にする。今日までの証拠は、ガドリニウム(Gd)造影が臨床上の再発と相関する疾患活性の有用なマーカーであることを示唆する(Molyneux et al., Ann. Neurol. 43:332-339 (1998); Kappos et al., Lancet 353:964-969 (1999); McFarland et al., Multiple Sclerosis 8:40-51 (2002))。
【0114】
[080] MS患者におけるT1強調のシーケンスでの新しい低信号の病変は、炎症性のGd造影病変(浮腫、脱髄、軸索損傷、またはこれらの病変の組合せを含む)(Bruck et al., Ann. Neurol. 42:783-793 (1997))または相当な軸索損傷を伴う慢性病変としてのどちらかに対応する。MRIでの急性T1低信号の約半分は、慢性の“T1ブラックホール”に発展し、これは障害の進行に相関する(Simon et al., Neurology 55:185-192 (2000))。
【0115】
[081] 実施例1に詳述されるように、2つのフェーズ3研究を実施して、ナタリズマブを用いた2年間の治療の効果を研究した。研究のうち1つはナタリズマブを単独で使用し(単剤治療研究)、他方はAVONEX(登録商標)と併用してナタリズマブを使用した(追加剤治療研究)。これらのフェーズ3研究は共に、2セットの一次評価項目及び二次評価項目を考慮して計画された。一次評価項目及び二次評価項目は、それぞれの研究における1年の追跡調査の中頃の後に、疾患の炎症性側面に対するナタリズマブの影響を測定するために選択された(単剤治療研究において観測の900患者・年;追加剤治療研究において1200患者・年)。
【0116】
[082] これらの研究の一次評価項目は、臨床上の再発の年率であった。二次評価項目の2つは、炎症性疾患活性の2つの支持MRI測定値、つまり、新しいまたは新しく拡大したT2強調病変の平均病変数(長期にわたる病変蓄積の測定)及びGd造影病変の平均病変数(急性疾患活性の測定)であって、重要性で順位付けされた。再発しないままの患者の比率は第3の二次評価項目を提供した。
【0117】
[083] 別の一連の評価項目を、2年間のナタリズマブ治療後、それぞれの研究の終わりに評価した。この最後の解析のための評価項目は、MS疾患進行に関する測定値に対するナタリズマブの影響を決定するために選択された。2年の時点の一次評価項目は、障害の持続的進行の開始までの時間であり、EDSSスコアにおける変化によって測定された。1年解析と同様に、二次評価項目は、一次の解析を支持するような追加のMRI及び臨床上の測定値であった。重要性で順位付けされた2年の時点での二次評価項目は、MS再発率(1年再発観察を確認)、T2強調病変の平均体積(全てのMS疾患の負担を測定)、T1低信号病変の平均病変数(軸索損傷の測定)、及びMSFCにおける変化によって決定される障害の進行(EDSSによって測定されるような障害の効果を確認しそしてそれから発展される)であった。
【0118】
[084] 2つの異なる時点での2つの一次評価項目(1年の時点での年再発率、2年の時点での障害進行までの時間)を前提として、複数比較のためのHochbergの手順(Hochberg, Biometrika 75:800-802 (1988))を使用して、一次評価項目を評価した。二次評価項目のそれぞれのセットは、上に掲げたように重要性の順に優先順位を決めた。それぞれのセットのために閉手順(closed testing procedure)が使用され、あるセットの中で統計的有意が評価項目について満たなかった場合、そのセットの中のより低い順位の全ての評価項目(1つまたは複数)は統計的に有意でないと見なされた。第三の評価項目の解析には、複数比較のための補正が含まれなかった。
【0119】
ナタリズマブを用いた単剤治療
[085] これらの単剤治療研究の結果により、ナタリズマブが再発寛解型MSのための単剤治療として効果的な治療であることが示された。ナタリズマブ治療は、再発率、障害の進行、及び全てのMRI測定値、研究の一次評価項目及び二次評価項目に対して顕著な影響をもたらした。カプラン・マイヤー曲線の解析により、再発率及び障害の進行に対する影響が治療開始後の早期に明らかにみられ、そして患者集団は治療期間の間ずっと維持され
、最終時点で発散し続けた。さらに、これらの結果は、小集団を超えて一致していた。さらなる正の作用が、再発の重症度及び生活の質の測定値に対して見られた。
【0120】
[086] ナタリズマブのみを用いて治療されたMS患者は、2年での研究の一次評価項目であるEDSSにおける変化によって測定されたように、プラセボと比較して障害の進行について42%低いリスクを有した(p < 0.001)。進行が推測された患者の百分率は、ナタリズマブ及びプラセボでそれぞれ17%と29%であった。EDSSに加えて、ナタリズマブは、年再発率がプラセボと比較して68%減少することを含め、2年にわたって研究された全ての再発の評価項目に対する顕著な影響を有し、プラセボでの患者の41%が再発無しであったのと比較して67%のナタリズマブ治療患者が再発無しを持続した。MRIスキャンは、これらの臨床上観測された影響を支持した。また、ナタリズマブ治療は、SF-36の身体的及び精神的要素により測定される場合に患者の生活の質を改善した。これらの影響は全て、ベースラインデモグラフィック及び疾患活性によって定義される小集団を超えて一致しそして有意であった。
【0121】
ナタリズマブ及びAVONEX(登録商標)の併用療法
[087] 現在認可されている療法を受けている非常に多くの患者は、臨床的に及びMRIによって測定された場合に、疾患活性を経験し続けた。これは、これらの部分的に有効な認可医薬の予想された結果であり、それらそれぞれは、再発率について30%の減少を導いた(IFNB MS Study Group, Neurology 43:655-661 (1993); Jacobs et al., Ann. Neurol 39:285-289 (1996); PRISMS Study Group, Lancet 352:1498-1504 (1998); Johnson et al., Neurology 45:1268-1276 (1995))。MSの治療のためのβ-インターフェロンのフェーズ3試験からのデータは、インターフェロン治療にも関わらず、62%から75%の患者がこの2年間の試験中に少なくとも1回の再発を経験していたことを示す(IFNB MS Study Group, Neurology 43:655-661 (1993); Jacobs et al., Ann. Neurol. 39:285-289 (1996); PRISMS Study Group, Lancet 352:1498-1504 (1998))。同様に、酢酸グラチラマーのフェーズ3のMS試験において66%の被検体は、2年間に少なくとも1回の再発を経験し、その数はプラセボとの有意な違いがなかった(Johnson et al., Neurology 45:1268-1276 (1995))。さまざまな治療戦略を臨床診療において現在使用して、治療中に治療効果を打破する疾患を管理しているが(例えば、切り替え療法、インターフェロンの用量及び頻度の変化、併用療法)、これらの診療は、これらの取り組みの効果を評価する無作為化比較試験が存在しないので、概して経験的なものになる。
【0122】
[088] 追加剤治療研究は、AVONEX(登録商標)の単剤治療を打破する患者について、実対照薬と比較したナタリズマブの効果を評価するように計画された。β-インターフェロンの選択は、利用可能な薬の提案された作用機序に関する利用可能なデータによって支持された。上述のように、ナタリズマブは、α4-インテグリンを介して細胞接着及び経内皮遊走を特異的に標的化する、明確な作用機序を有する。MSにおいてインターフェロン-βが有効性を発揮するための正確な機構はわかっていないが、インターフェロン-βはサイトカイン分泌及び細胞の表現型変化に関わる多くの細胞過程を誘導する。インターフェロン-βは、インターフェロン-γ誘導性MHCクラスII分子産生を下方制御し、TH1前炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-2、及びインターフェロン-γ)の分泌を減らし、そしてTH2抗炎症性サイトカイン(IL-4及びIL-10)の分泌を減らす(Rep et al., J. Neuroimmunol. 67:111-118 (1996); Kozovska et al., Neurology 53:1692-1697 (1999); Rudick et al., Neurology 50:1266-1272 (1998))。加えて、インターフェロン-βは、ケモカインRANTES及びMIP-1α並びにそれらの受容体CCR5の抑制を通して、白血球輸送に影響を与える可能性がある(Zang et al., J. Neuroimmunol. 112:174-180 (2001))。したがって、ナタリズマブによるα4-インテグリンの遮断は、インターフェロン-βに追加した際に、インターフェロン-βのみを加えた際の相加効果または相乗効果を有する可能性があると推定する、科学的論拠がある。
【0123】
[089] ナタリズマブはまた、AVONEX(登録商標)を用いて同時に治療を受けている患者を治療するために用いた場合もまた有効であることを証明した。ナタリズマブを投与する前、活性のある治療にも関わらず、これらの患者は疾患活性を経験していた。よって、AVONEX(登録商標)を実対照薬として与えた。この研究によって、ナタリズマブは、AVONEX(登録商標)に追加した際、EDSSの変化によって測定されるように、障害の進行のリスクを24%減少させる結果をもたらしたことが示された(p = 0.024)。進行したと推定された患者の百分率は、AVONEX(登録商標)のみでの29%と比較して、ナタリズマブとAVONEX(登録商標)では23%であった。
【0124】
[090] ナタリズマブは、2年にわたるAVONEX(登録商標)と比較して、年再発率の55%の減少を含め、試験された全ての再発の評価項目に対して有意な効果を有し、AVONEX(登録商標)における患者の32%と比較して、54%のナタリズマブ治療患者が再発無しであった。MRIスキャンは、これらの臨床的に観測された効果を支持した。また、ナタリズマブは、AVONEX(登録商標)療法のみと比較した場合、精神的要素の傾向を伴う、SF-36の身体的要素によって測定される場合に、患者の生活の質を改善した。これらの効果は全て、ベースラインデモグラフィック及び疾患活性によって定義される小集団を越えて一致しそして有意であった。
【0125】
進行性多巣性白質脳症
[091] PMLは、希突起膠細胞のJCV感染によって引き起こされる、中枢神経系の感染性疾患である。JCVは、幼い頃に大部分の健康個体に感染すると考えられているヒトポリオーマウイルスである。健康個体における抗JCV抗体の血清陽性率は、試験手法に依存して20%から80%の範囲と推定されている(Knowles et al., J. Med. Virol. 71:115-123 (2003)); Knowles and Sasnauskas, J. Virol. Methods. 109:47-54 (2003))。
【0126】
[092] PMLはほとんどの場合免疫不全個体において発症し、PMLによる年齢調整死亡率は100万人あたり3.3人であり(1994年)、そのうち89%はエイズ患者であった(Holman et al., Neuroepidemiol. 17:303-309 (1998))。しかし、稀なPML症例が、免疫抑制療法を受けていた自己免疫疾患の患者においてもまた報告されており、これらの中で3人の患者が関節リウマチであり(Sponzilli et al., Neurology 25:664-668 (1975); Rankin et al., J. Rheumatol 22:777-79 (1995); Durez et al., Arthritis Rheum. 46 (9S):536 (2002))、そのうちの1人は腫瘍壊死因子(TNF)アンタゴニストを用いて治療されていた(Durez et al., Arthritis Rheum. 46 (9S):536 (2002))。クローン病の患者においてもPMLの報告があったが、それに伴う治療は特定されなかった(Garrels et al., Am. J. Neuroradiol. 17:597-600 (1996))。
【0127】
[093] PMLの病状は独特であり、針先ほどの病変から数センチの領域までさまざまな大きさの複数の脱髄の病巣を含む。病変はどこにでも生じる可能性があるが、普通は大脳半球に生じ、頻度は低いものの小脳及び脳幹に生じ、そして稀に脊髄に生じる。脱髄の領域を囲む周辺区域の希突起膠細胞は極めて異常である。異常な希突起膠細胞の核は、JCビリオンで埋め尽くされている。典型的には、PMLは徐々に発症し、精神機能障害及び言語と視覚の障害を伴う。運動にも影響する可能性がある。疾患は次いで急速に進行し、患者は重篤な身体障害を患い、最終的に認知症、失明、及び麻痺になり、それに昏睡及び死が続く。
【0128】
[094] PML患者及び健康で免疫正常の個体の血液及び尿中のJCVの存在が述べられている(Kitamura et al., J. Infect. Dis. 161:1128-1133 (1990); Tornatore et al.,Ann. Neurol. 31:454-462 (1992); Dorries et al., Virology 198:59-70 (1994); Sundsfjord et al., J. Infect. Dis. 169:485-490 (1994); Agostini et al., J. Clin. Microbiol. 34:159-164 (1996); Dubois et al., AIDS 10:353-358 (1996); Knowles et al., J. Med. Virol. 59:474-479 (1999); Dorries et al., J. Neurovirol. 9(Suppl 1):81-87 (2003))。これらの知見は、これらの患者におけるPMLの予測または診断にならず、よって、血液または尿のウイルス量とPMLとの関係は不明である。
【0129】
[095] PMLの臨床所見は、概して、ウイルス感染、脱髄、及びグリア細胞溶解の結果として発症する白質病変の大きさまたは分布に依存する。しかし、所見の臨床的特徴は、PMLの所見を、MSに関わる脱髄と区別するのを助ける。MSとは対照的に、脊髄または視神経のPML関与は稀である。そのかわり、約三分の一の患者が視界の喪失または皮質盲を示すことになり、別の三分の一は意識障害または挙動変化を示すことになる(Dworkin et al., Curr. Clin. Top. Infect. Dis. 22:181-195 (2002))。同様にMSと異なり、片側不全麻痺が一般的に示される症状である。これらの症状は、典型的には、発症において準急性であり、そしてゆっくりした進行経過が続く。しばしば、患者とその家族は、神経学的試験における変化が現れる前でさえ、日常生活の習慣的活動を行う能力における変化を通して、PMLの発症に最初に気付く。
【0130】
[096] MRIは、特異性には欠けるかもしれないが、臨床上の兆候または症状の設定におけるPML病変の検出のための、感度の高いツールである。典型的なMS病変、他の原因による脱髄(例えば、脳脊髄炎、HIV脳症)、グリオーシス、及び浮腫は、しばしば初期PML病変と同じ外観を有する。しかし、表1に示されるように、他の病因との区別を助けるPML病変の特徴がある(Post et al., Am. J. Neuroradiol. 20:1896-1906 (1999); Yousry et al. N. Engl. J. Med. in press (2006); (Berger et al.,Ann. Neurol. 44:341-349 (1998); Hoffmann et al., J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry 74:1142-1144 (2003); Langer-Gould et al., N. Engl. J. Med. 353:375-381 (2005))。
【0131】
【表2】

【0132】
[097] MRI解析により、ナタリズマブを投与された患者におけるMS及びPMLの鑑別診断を提供することができる。PMLが疑われる患者は、MRIによって脱髄を反映する多巣性、非対称性、白質病変の存在を示す。T2強調及び流体抑制反転回復(fluid-attenuated inversion recovery)(FLAIR)MRIは、テント上皮質下白質全体を通した高信号病変を明らかにする(Post et al., Am. J. Neuroradiol. 20:1896-1906 (1999))。PMLの白質病変は、典型的には、浮腫によって囲まれておらず、圧迫所見を引き起こさず、そしてガドリニウム造影剤の存在下でも造影されない(Post et al., Am. J. Neuroradiol. 20:1896-1906 (1999))。しかしながら、高信号T2強調及びFLAIR画像は、脱髄に特異的でなく、そしてグリオーシスまたは浮腫を示す可能性がある。MS、ウイルス感染後の脳炎、HIV脳炎、及び梗塞症といった、他の脱髄、脳障害または虚血過程は、同様で非特異的な画像化の特徴を示す可能性がある(Olsen et al., Radiology 169:445-448 (1988), Hurley et al., J. Neuropsychiatry Clin. Neurosci. 15:1-6 (2003))。病変の位置及びその形態学的特徴、T1強調画像におけるガドリニウム造影の非存在または非典型的存在、並びに磁化移動MRIの実行もまた、PMLの脱髄を、他の脱髄、浮腫またはグリオーシスから区別することを補助する(Ernst et al., Radiology 210:439-543 (1999); Hurley et al., J. Neuropsychiatry Clin. Neurosci. 15:1-6 (2003))。
【0133】
[098] PMLの臨床的診断は、脳生検によってまたは検視において得られる脳物質の組織学的及びウイルス学的試験によって確かめられる。生検を行う前に、血清及びCSFが共に、抗JCV抗体について試験されるべきである。陽性の結果はPMLを裏付けないが、陰性の結果によって、PMLの診断はほとんどありそうにないとされる。CSF中に抗JC抗体を検出することは稀であり、そしてそのような抗体が検出された場合には、CNS中でのJCVの活性な増殖が示唆される。脳生検または検視の物質は、電子顕微鏡または免疫組織学的電子顕微鏡によって、試験することができる。試料を、免疫蛍光染色または免疫ペルオキシダーゼ染色によって、JCV抗原について直接試験することもできる。JCVのウイルス単離は困難であると報告されているが、初期のヒト胎児グリア細胞から試みられるだろう。培地中のウイルスの存在は、電子顕微鏡、免疫蛍光、または血球凝集によって確かめることができる。
【0134】
[099] JCウイルスDNAについてのCSFのPCR解析は、PMLの診断のための非常に感度が高くそして特異的な試験である。この試験の特異性は100%に達し、感度が60〜90%の範囲である(Henson et al., Neurology 41:1967-1971 (1991); Gibson et al., J. Med. Virol. 39:278-281 (1993); Weber et al., AIDS 8:49-57 (1994a); Weber et al. J. Infect. Dis. 169:1138-1141 (1994b); Vago et al., J. Acquir. Imm. Defic. Syndr. Hum. Retrovirol. 12:139-146 (1996))。PMLの高い臨床的疑い及び陰性CSFの結果を伴う場合、繰り返しの試験によって、しばしばJCウイルスDNAの検出が導かれる。そのようにして、JCウイルスDNAについてのCSFのPCR解析は、PMLの診断を確かめるための好ましい方法として成熟してきた。
【0135】
[100] 未処置のPML患者は、最初の三ヶ月中の死亡率が30から50%である(Koralnik, Curr. Opt. Neurol. 17:365-370 (2004))。HIVのための高活性抗レトロウイルス治療(HAART)導入の前は、PMLの患者の約10%が1年以上生存した。しかし、HAARTの登場以降は、PML患者の約50%が、免疫再構築症候群の結果としてCD4カウントが増加するにつれて免疫機能が回復することによって、1年以上生存する(Geschwind et al., J. Neurovirol. 7:353-357 (2001); Berger et al., Ann. Neurol. 44:341-349 (1998); Clifford et al., Neurology 52:623-625 (1999); Tantisiriwat et al., Clin. Infect. Dis. 28:1152-1154 (1999))。
【0136】
[0101] 現在、PMLための確立された薬物治療はない。アシクロビル、イドクスウリジン、ビダラビン、アマンタジン、アデニンアラビノシド、シトシンアラビノシド(シタラビン)、シドフォビル、インターフェロンα、インターロイキン-2(IL-2)、ジドブジン、カンプトテシン、及びカプトテンを含む、さまざまな薬剤が試験されてきた(Koralnik, Curr. Opt. Neurol. 17:365-370 (2004); Dworkin et al., Curr. Clin. Top. Infect. Dis. 22:181-195 (2002); Seth et al., J. Neurovirol. 9:236-246 (2003); Collazos, CNS Drugs 17:869-887 (2003); Mamidi et al., J. Neurovirol. 8:158-167 (2002); Przepiorka et al., Bone Marrow Transplant; 20:983-987 (1997); Redington et al., Arch. Neurol. 59:712-718 (2002); Padgett et al., Prog. Clin. Biol. Res. 105:107-117 (1983))。しかし、PMLの患者の生存は、免疫再構築と最も相関しているようである。PMLの移植患者において、初期投与の削減及び/または免疫抑制療法の中断は、PML診断後の好ましい臨床転帰に関連した(Crowder et al., Am. J. Transplant 5:1151-1158 (2005); Shitrit et al., Transpl. Int. 17:658-665 (2005))。
【0137】
JCウイルス(JCV)
[0102] JCVは、ヒトポリオーマウイルスの分類の一員であり、小さく、エンベロープを持たず、閉環状二本鎖DNA鎖ゲノムを有する、Papovaviridae科に属す。ポリオーマウイルスは、そのより小さなビリオンサイズ及び異なるゲノムサイズとゲノム構成によって、パピローマウイルスと区別することができる。ポリオーマウイルスは、自然界のどこにでも存在し、そして多くの種から単離することができる。JCVは、進行性多巣性白質脳症(PML)の患者の脳組織から最初に単離された。JCVは、BKヒトポリオーマウイルス(BKV)と75%の核酸配列相同性を共有し、BKVは術後尿管狭窄を有する腎臓移植患者の尿から単離された。BKV及びJCVは、それぞれSV40と70%の相同性を共有する。これら2種は、血清学的に交差反応性ではなく、抗体についての血清学的試験は、BKVとJCVを区別することができる(Demeter, in Mandell et al., eds., Mandell, Douglas and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 4th edition, Vol. 2. New York, NY: Churchill Livingstone; 1995:1400-1406)。
【0138】
[0103] JCV感染は、普通は無症状であり、ほとんど普遍的であり、子供の頃に起こり、そして一生生存し続ける。欧州及び合衆国の成人の60〜80%が、JCVに対する抗体を有し、そして30〜39歳の年齢範囲における若年成人の50%がJCVに感染したことがあると、推定されている。JCV及びBKVは、独立に広まると考えられている。JCVは、一次感染後に、腎臓及び/またはCNS中への潜伏感染を確立すると提唱されている(Demeter, in Mandell et al., eds., Mandell, Douglas and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 4th edition, Vol. 2. New York, NY: Churchill Livingstone; 1995:1400-1406))。免疫抑制中、潜伏JCVが腎臓中で再活性化し、ウイルス尿症へ導く可能性が主張されている。ウイルス尿症は、PMLについていくらかの予測を可能にする価値を有するが、一方、PML症例の大部分ではウイルス尿症が起こらないので、尿中のJCVの測定のみでは、JCVの診断に十分でない。
【0139】
[0104] JCVが血流を通して脳へ移動する場合、JCVはミエリン産生細胞を攻撃する可能性がある。結果として生じる脳感染は、運動失調、認知機能の障害、視覚障害、平衡及び協調の変化、及び感覚の障害が含まれる可能性のある神経学的症状を生む。死は一般に、診断後2年以内に起こる。
【0140】
[0105] JCVに効果的だと証明された特異的抗ウイルス療法は無く、そして免疫不全患者の現在の治療は、主として対症的でありそして免疫抑制を減らすことを意図している。シドフォビルは、移植患者に対する治療法の選択肢として現在研究中であり、そしてシタラビンを用いてPMLの治療をすることも可能だが、現在、後者の有効性について相反するデータが存在する(Demeter, in Mandell et al., eds., Mandell, Douglas and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 4th edition, Vol. 2. New York, NY: Churchill Livingstone; 1995:1400-1406; Salmaggi, Neurol. Sci. 22:17-20 (2001))。
【0141】
[0106] JCVに対する細胞受容体は、セロトニン5HT2(A)受容体であると報告されている(Elphick et al., Science 306:1380-1383 (2004))。in vitroにおいて、抗精神病薬剤クロルプロマジン及びクロザピンが、セロトニン5HT2(A)受容体をブロックし、そしてJCVの細胞侵入をブロックしたことが示された。しかし、残念ながら、クロルプロマジン及びクロザピンは、例えば、錐体外路症状、及び骨髄悪液質の可能性といった臨床上使用するには問題のある、重大な副作用及び毒性を有する。本発明は、ジプラシドン、リスペリドン、及びオランザピンといった、より新しい非定型抗精神病薬剤−より古い抗精神病薬剤に比べてより良好な副作用プロフィール及び毒性プロフィールを有する薬剤−が、クロプロマジン及びクロザピンと比べてin vitroで有意により強力な5HT2(A)受容体アンタゴニストであることを示す。
【0142】
[0107] さまざまな血清学的試験が、JCVを検出するために利用可能であり、例えば、補体結合(CFT)、血球凝集阻害(HAI)、酵素結合免疫アッセイ(RIA)、放射性免疫アッセイ(RIA)、粒子凝集、免疫蛍光(IF)、一元放射溶血、及びウェスタンブロットがある。感受性及び特異性は、異なる手法の間で非常にさまざまである。ほとんどの手法は、全てのクラスの抗体を検出するだろうが、一方で、例えばRIA, EIA, 及びIFといったいくつかのアッセイは、例えばIgM、IgG、またはIgAなどの一つの特異的クラスを検出するように計画することができる。
【0143】
安全性及び有効性に基づいた患者選択
[0108] 適切な患者選択は、ナタリズマブのベネフィット−リスク特性の最大化を助ける。ナタリズマブは、最近臨床上の疾患活性がある(例えば、研究に入る前の年に一回の再発)軽度から中程度の障害(EDSS 0から5.0)の未治療患者に対する有効性を示した。ナタリズマブはまた、β-インターフェロンを用いた治療にも関わらず、疾患活性が続いている(例えば、AVONEX(登録商標)を投与されているが、研究に入る前の年に一回の再発)軽度から中程度の障害の患者に対する有効性も示している。
【0144】
[0109] ベネフィット/リスク比は、特定の他の患者集団において変化する。疾患再発の兆候がない患者、すなわち、比較的“良性”で不活性な疾患、または慢性進行型のMSといった、臨床上またはMRIによって炎症活性の兆候がみられない患者は、フェーズ3試験から除外された。よって、ナタリズマブはこれらの集団については完全に評価されていない。ベネフィット-リスクはまた、MSを示唆する特徴のない単一の臨床兆候を有する患者においても変化する。
【0145】
[0110] 現在の治療において臨床的に安定な患者もまた、異なるベネフィット/リスク比を有する。現在の治療において安全性または忍容性の問題が存在する場合、または画像化研究によって活性の炎症性の無症状疾患が示された場合、ナタリズマブ治療は適切であろう。ベネフィット-リスク比を考慮して、患者が既に過敏性反応を患ったことがあるかどうか、またはナタリズマブに対する持続性抗体を発現しているかどうかが考慮されるべきである。過敏性反応後のナタリズマブの再投与は、フェーズ3試験において評価されなかった。ナタリズマブに対する持続性抗体は、有効性の喪失及び注入に関する副作用の増加を導く。免疫抑制薬剤の使用を含む、何らかの原因によって免疫不全である患者は、PML及び他の日和見感染症に関する独立した危険因子を有し、そしてナタリズマブを投与されるべきでない。
【0146】
[0111] 患者選択のための別の基準は、注入する看護師によって使用される注入前チェックリストであり、PMLの早期検出を促進し、そしてナタリズマブの不適切な使用を最小化する。チェックリストは、数日にわたって続く神経学的症状の持続的悪化、例えば新規または突然の思考、視野、平衡、または力の低下などについて、患者に質問するよう看護師を促す。チェックリストに記載されている何らかの症状を有すると患者が報告した場合、看護師は、ナタリズマブを投与しないように、そして患者をその主治医に委ねるように指示される。
【0147】
[0112] このチェックリストはまた、患者が再発MSの治療のためにナタリズマブの投与を受けていること、PMLと診断されたことがないこと、及び数日にわたって続く持続的症状悪化を現在全く経験していないことも確かめる。チェックリストはさらに、患者がHIVまたは血液悪性腫瘍を患っていると知られていないこと、そしてまた臓器移植をしていないことを確かめる。チェックリストは、患者が現在、抗腫瘍性剤、免疫調節剤、または免疫抑制剤を用いた治療を受けていないこと、及び患者がナタリズマブ患者の資料冊子を読んでいるかを確認する。
【0148】
[0113] 本発明のさらなる対象及び利点は、この後の記載において一部分が説明されることになり、そして一部分がその記載から明らかであろうし、または発明の実施によって知られるであろう。本発明の対象及び利点は、添付の請求の範囲において具体的に指摘されている要素及び組合せによって、理解され、そして達成されるだろう。加えて、明細書の本文中に記載の利点は、請求の範囲に含まれていなかった場合、請求される発明を本質的に制限しない。
【0149】
[0114] 前述の一般的記載及び以下の詳細な記載は共に、単なる例示及び説明であり、そして請求の発明を制限するものではないと理解されるだろう。加えて、本発明は、当然さまざまであり得るので、記載の特定の態様に限定されないと理解されなければならない。さらに、本発明の範囲はその請求の範囲によってのみ限定されるので、特定の態様を記載するために使用される専門用語は、限定することを意図しない。請求の範囲には、公知の態様は含まれない。
【0150】
[0115] 値の範囲に関して、文脈上明らかにそうでないと示されていない限り、本発明には、下限の単位の少なくとも十分の一の範囲を持つ、上限及び下限の間の各中間値が含まれる。さらに、本発明には、その他いずれかの言及された、間の値が含まれる。加えて、特に提示された範囲から除外されていない限り、本発明にはまた、範囲の上限または下限の一方または両方を除外した範囲が含まれる。
【0151】
[0116] そうでないと定義されていない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語の意味は、この発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味である。当業者はまた、本明細書に記載のものと同様または均等ないずれの方法及び物質を使用して、本発明を実施または試験可能であることも理解するだろう。本明細書は、本明細書に引用の参考文献を考慮して、最も十分に理解される。
【0152】
[0117] 本明細書及び添付の請求の範囲において使用されるように、“ある”、“または”及び“その”("a," "or," and "the")という単数形には、文脈上そうでないと明らかに決定されていない限り、複数の指示対象が含まれる。よって、例えば、“ある対象ポリペプチド”("a subject polypeptide")についての言及には複数のそのようなポリペプチドが含まれ、そして“その薬剤”("the agent")についての言及には1以上の薬剤及び当業者に既知の同等物が含まれる、などである。
【0153】
[0118] さらに、本明細書及び請求の範囲において使用されている、成分の量、反応条件、%純度、ポリペプチドの長さ及びポリヌクレオチドの長さなどを表す全ての数字は、そうでないと示されていない限り、“約”という用語によって修飾される。したがって、本明細書及び請求の範囲において説明される数値パラメーターは、本発明の所望の特性に依存して変化可能であるような近似値である。最低限でも、そして請求の範囲への均等論の適用を限定する試みとしてでなく、それぞれの数値パラメーターは、普通の数字を丸める手法を適用して報告される有効桁の数字を考慮して少なくとも解釈されるべきである。それでもなお、特定の実施例において説明される数値は、できるだけ正確に報告される。いずれの数値も、しかし、その実験測定の標準偏差に由来する特定の誤差を本質的に含む。
【0154】
実施例
[0119] 実施例は、発明の単なる例示を意図し、そしてしたがって、どんな形であれ発明を限定すると解されるべきではなく、また上述の本発明の側面及び態様を記載しそして詳述する。実施例は、以下の実験が実施された全ての実験または唯一の実験であることを示すわけではない。使用される数字(例えば、量、温度など)に関して正確性を確かにするための努力が払われたが、いくらかの実験誤差及び偏差が含まれているはずである。そうでないと示されていない限り、部分は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏、そして圧力は大気圧またはそれに近い圧力である。
【0155】
実施例1:ナタリズマブの有効性
[0120] 2年間にわたるナタリズマブの有効性が、二つのフェーズ3試験において示されている(Polman et al., N. Engl. J. Med. in press (2006); Rudick et al. N. Engl. J. Med. in press (2006))。一方の研究において、ナタリズマブは未治療のMS患者に対して単剤治療として投与され、そしてその有効性がプラセボと比較された。他方の研究では、ナタリズマブは、併用のAVONEX(登録商標)療法にもかかわらず再発を経験した患者に投与され、そしてその有効性がAVONEX(インターフェロンβ-1a)にプラセボを加えたものの有効性と比較された。2年にわたるデータは利点を裏付け、1年の迅速認可を導いた。これらのデータは、障害の持続的進行が始まる時期を遅らせること、年再発率を減少させること、MRI病変を緩和すること、及びプラセボ及び活性AVONEX(登録商標)対照群の両方と比較して患者の生活の質を改善することについて、ナタリズマブは高い効果があることを示す。
【0156】
[0121] 両方のフェーズ3研究は、同じように計画された。単剤治療研究において、942人の未治療の再発寛解性MS患者が、120週間(30回注入)のナタリズマブまたはプラセボを投与されるように2:1の配分で無作為化された。追加剤治療研究において、毎週30μgのAVONEX(登録商標)の筋肉内注入を受けているが、この治療にも関わらず再発した1171人の患者が、同じく120週間、その患者の投薬計画にナタリズマブまたはプラセボを加えるように1:1の配分で無作為化された。
【0157】
[0122] 有効性パラメーターには、EDSSスコア、MS再発、脳MRIスキャン、MSFCスコア、視覚機能試験、及び生活の質が含まれた。EDSS及びMSFCは12週ごとに計測され、脳MRIスキャン及び生活の質アンケートは基準時及び一年ごとに調べられ、そしてMS再発は継続的に調べられた。
【0158】
[0123] 未治療患者において単剤治療としてナタリズマブを用いた治療は、表2に示されるように、障害の持続的進行が始まる時期及び年再発率という二つの主要な評価項目に対して強い効果を有した。これらの有意な効果は、AVONEX(登録商標)のみと対比して裏付けられた。
【0159】
【表3】

【0160】
[0124] 二つのフェーズ3研究における患者集団は、多発性硬化症の診断における国際パネル(International Panel on the Diagnosis of Multiple Sclerosis)の基準による再発MS患者であった(McDonald et al., Ann. Neurol. 50: 121-127 (2001))。その患者集団には幅広い年齢及び疾患の重症度が含まれ、そして活性な疾患を有する現時点での再発MS集団に相当し、認可された適応症と一致した。一次進行型MSまたは二次進行型MSの患者は除外された。
【0161】
[0125] 二つの研究の標的とされた患者集団は異なった。単剤治療研究における患者は、MSのための免疫調節薬剤を用いた治療を原則的に受けていなかった。具体的には、6ヶ月より長い期間及び研究の開始の6ヶ月以内に、患者は、いずれかの免疫調節剤(β-インターフェロンまたは酢酸グラチラマー)を用いた治療を受けていなかったであろう。その結果は、基準の疾患活性が中程度である、若年の、ほとんどが女性のMS患者集団(一般的MS集団の典型)であり、そのうちのごく少数が研究開始前に他の免疫調節剤を試された。
【0162】
[0126] 追加剤治療研究における患者は、前年にAVONEX(登録商標)を投与され、そしてAVONEX(登録商標)治療中のその期間に再発したことが求められた。このことは結果として、単剤治療研究よりいくらか高齢で、より長い罹患期間を有する集団をもたらした。しかし、追加剤治療研究における患者は、AVONEX(登録商標)治療にも関わらず、単剤治療研究の患者と同程度の疾患活性を有した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 第一の投与期間に、ある用量のナタリズマブを投与する工程;
(b) 第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量をモニタリングする工程;
(c) 観測された二価ナタリズマブのレベルに基づいて、ナタリズマブの第二の用量を決定する工程;及び
(d) 第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与する工程;
を含む、ナタリズマブを用いて炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療する方法であって、第二の用量が第二の投与期間中の治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法。
【請求項2】
モニタリングにより、第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量が既定のレベルより多いままであることが示される場合、第二の投与期間を通じて投与されるナタリズマブの補正された用量が、第二の投与期間の少なくとも一期間、第二の投与期間中のナタリズマブ濃度を既定のレベル未満まで減少させることを達成するように計画される、請求項1の方法。
【請求項3】
第二の用量が第一の用量より少ない、請求項2の方法。
【請求項4】
第二の投与期間が第一の投与期間より長い、請求項2の方法。
【請求項5】
補正された用量が第一の用量より少なく、そして第二の投与期間が第一の投与期間より長い、請求項2の方法。
【請求項6】
第一の用量が静脈内注入よって投与される300 mgであり、そして第一の投与期間が4週間である、請求項2の方法。
【請求項7】
既定のレベルが約1μg/mlであって、そして第二の用量が静脈内注入によって投与される300 mg未満であり、第二の投与期間が4週間より長い、請求項6の方法。
【請求項8】
既定のレベルが約0.5μg/mlであって、そして第二の用量が静脈内注入によって投与される300 mg未満であり、第二の投与期間が4週間より長い、請求項6の方法。
【請求項9】
既定のレベルが約0.1μg/mlであって、そして第二の用量が静脈内注入によって投与される300 mg未満であり、第二の投与期間が4週間より長い、請求項6の方法。
【請求項10】
第一の用量の投与後既定の期間内の第一の投与期間中に、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量が既定のレベル未満に落ち、そして第二の投与期間を通じて投与されるナタリズマブの第二の用量が、既定のレベルより高くナタリズマブのレベルを維持するように計画される、請求項1の方法。
【請求項11】
疾患が多発性硬化症である、請求項1の方法。
【請求項12】
疾患が炎症性腸疾患または関節リウマチである、請求項1の方法。
【請求項13】
重篤感染症の指標について患者をモニタリングする工程、及び/または重篤感染症を発症するリスクを軽減するように計画された予防法を用いて患者を処置する工程をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項14】
進行性多巣性白質脳症の指標について患者をモニタリングする工程をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項15】
モニタリングにより、患者の尿、血液、及び/または脳脊髄液中のJCVを検出する、請求項14の方法。
【請求項16】
モニタリングにより、進行性多巣性白質脳症の臨床的症状及び/または放射線学的症状について検査する工程を含む、請求項14の方法。
【請求項17】
進行性多巣性白質脳症の指標が存在する場合に、免疫グロブリン静注療法、血漿交換、及び抗ウイルス療法から選択される少なくとも一つの治療を行う工程をさらに含む、請求項14の方法。
【請求項18】
患者が、ナタリズマブ及び、免疫抑制剤または抗腫瘍剤とにより同時に治療されていない、請求項14の方法。
【請求項19】
(a) 患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定する工程;
(b) 患者の血漿または血清中のIgG4の量に基づいて、ナタリズマブの用量及び投与期間を決定する工程;及び
(c) 該投与期間を通じて、患者に該用量のナタリズマブを投与する工程;
を含む、ナタリズマブを用いて炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療する方法であって、該用量及び投与期間が、ナタリズマブの標準的用量及び標準的投与期間によって提供される安全性及び/または有効性と比べて、治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法。
【請求項20】
標準的用量が静脈内注入による300 mgであり、そして標準的投与期間が4週間ごとである、請求項19の方法。
【請求項21】
患者の血液中のIgG4の量が200μg/ml未満であり、そして決定されたナタリズマブの用量が静脈内注入による300 mg未満である、請求項20の方法。
【請求項22】
患者の血液中のIgG4の量が200μg/ml未満であり、そして決定された投与期間が4週間より長い、請求項20の方法。
【請求項23】
患者の血液中のIgG4の量が200μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量が静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間が4週間より長い、請求項20の方法。
【請求項24】
患者の血液中のIgG4の量が100μg/ml未満であり、そして決定されたナタリズマブの用量が静脈内注入による300 mg未満である、請求項20の方法。
【請求項25】
患者の血液中のIgG4の量が100μg/ml未満であり、そして決定された投与期間が4週間より長い、請求項20の方法。
【請求項26】
患者の血液中のIgG4の量が100μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量が静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間が4週間より長い、請求項20の方法。
【請求項27】
疾患が多発性硬化症である、請求項19の方法。
【請求項28】
疾患が炎症性腸疾患または関節リウマチである、請求項19の方法。
【請求項29】
重篤感染症の指標について患者をモニタリングする工程、及び/または重篤感染症を発症するリスクを軽減するように計画された予防法を用いて患者を処置する工程をさらに含む、請求項19の方法。
【請求項30】
進行性多巣性白質脳症の指標について患者をモニタリングする工程をさらに含む、請求項19の方法。
【請求項31】
モニタリングにより、患者の尿、血液、及び/または脳脊髄液中のJCVを検出する、請求項30の方法。
【請求項32】
モニタリングにより、進行性多巣性白質脳症の臨床的症状及び/または放射線学的症状について検査する工程を含む、請求項30の方法。
【請求項33】
進行性多巣性白質脳症の指標が存在する場合に、免疫グロブリン静注療法、血漿交換、及び抗ウイルス療法から選択される少なくとも一つの治療を行う工程をさらに含む、請求項30の方法。
【請求項34】
患者が、ナタリズマブ及び、免疫抑制剤または抗腫瘍剤とにより同時に治療されていない、請求項30の方法。
【請求項35】
(a) 患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定する工程;
(b) 第一の投与期間に、ある用量のナタリズマブを投与する工程;
(c) 第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブのレベルをモニタリングする工程;
(d) 患者の血漿または血清中のIgG4の量及び患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブのレベルに基づいて、ナタリズマブの第二の用量及び第二の投与期間を決定する工程;及び
(e) 第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与する工程;
を含む、炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療するためにナタリズマブを使用する方法であって、第二の用量及び第二の投与期間が治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法。
【請求項36】
モニタリングにより、第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量が既定のレベルより多いままであることが示される場合、第二の投与期間を通じて投与されるナタリズマブの第二の用量が、第二の投与期間の少なくとも一期間、第二の投与期間中のナタリズマブ濃度を既定のレベル未満まで減少させることを達成するように計画される、請求項35の方法。
【請求項37】
ナタリズマブの第一の用量が、4週間の第一の投与期間に静脈内注入によって投与される300 mgである、請求項36の方法。
【請求項38】
既定のレベルが約1μg/mlである、請求項37の方法。
【請求項39】
既定のレベルが約0.5μg/mlである、請求項37の方法。
【請求項40】
既定のレベルが約0.1μg/mlである、請求項37の方法。
【請求項41】
補正された用量が第一の用量より少ないか、または第二の投与期間が第一の投与期間より長いか、または補正された用量が第一の用量より少なくそして第二の投与期間が第一の投与期間より長い、請求項37の方法。
【請求項42】
第一の用量の投与後既定の期間内の第一の投与期間中に、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量が既定のレベル未満に落ち、そして第二の投与期間を通じて投与されるナタリズマブの第二の用量が、第二の投与期間中の第二の用量の投与後、少なくとも既定の期間まで、既定のレベルより高くナタリズマブのレベルを維持するように計画される、請求項35の方法。
【請求項43】
重篤感染症の指標について患者をモニタリングする工程をさらに含む、請求項36の方法。
【請求項44】
重篤感染症が進行性多巣性白質脳症である、請求項43の方法。
【請求項45】
重篤感染症を発症するリスクを軽減するように計画された予防法を用いて患者を処置する工程をさらに含む、請求項36の方法。
【請求項46】
重篤感染症が進行性多巣性白質脳症である、請求項45の方法。
【請求項47】
患者の血液中のIgG4の量が200μg/ml未満であり、そして決定されたナタリズマブの用量が静脈内注入による300 mg未満である、請求項37の方法。
【請求項48】
患者の血液中のIgG4の量が200μg/ml未満であり、そして決定された投与期間が4週間より長い、請求項37の方法。
【請求項49】
患者の血液中のIgG4の量が200μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量が静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間が4週間より長い、請求項37の方法。
【請求項50】
患者の血液中のIgG4の量が100μg/ml未満であり、そして決定されたナタリズマブの用量が静脈内注入による300 mg未満である、請求項37の方法。
【請求項51】
患者の血液中のIgG4の量が100μg/ml未満であり、そして決定された投与期間が4週間より長い、請求項37の方法。
【請求項52】
患者の血液中のIgG4の量が100μg/ml未満であり、決定されたナタリズマブの用量が静脈内注入による300 mg未満であり、そして決定された投与期間が4週間より長い、請求項37の方法。
【請求項53】
ナタリズマブの標準的用量が300 mgの静脈内注入であり、そして標準的投与期間が4週間である、請求項37の方法。
【請求項54】
(a) 治療を開始する前に、患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定する工程;
(b) 患者の血漿または血清中のIgG4の量が所定の閾値より多い場合に、ナタリズマブを用いた患者の治療を開始する工程;及び
(c) 患者の血漿または血清中のIgG4の量が所定の閾値であるかまたは所定の閾値未満の場合に、進行性多巣性白質脳症及び/または日和見感染症の指標のモニタリングを増やしてナタリズマブを用いた患者の治療を開始する工程;
を含む、炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療するためにナタリズマブを使用する方法であって、患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定することが治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法。
【請求項55】
患者の血漿または血清中のIgG4の量が第二の所定の閾値であるかまたは第二の所定の閾値未満の場合に、治療を開始しない、請求項54の方法。
【請求項56】
患者の血液中のIgG4の量が約200μg/ml以上の場合、治療を開始する、請求項54の方法。
【請求項57】
患者の血液中のIgG4の量が約100μg/ml以上の場合、治療を開始する、請求項54の方法。
【請求項58】
(d) 治療中に患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定する工程;及び
(e) 患者の血漿または血清中のIgG4の量が所定の閾値未満の場合に、治療を終了する工程;
をさらに含む、請求項54の方法。
【請求項59】
(d) 治療中に患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量をモニタリングする工程;及び
(e) 二価ナタリズマブの量が所定の閾値より多い場合に、治療を終了する工程;
をさらに含む、請求項54の方法。
【請求項60】
(f) 治療中に患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量をモニタリングする工程;及び
(g) 二価ナタリズマブの量が所定の閾値より多い場合に、治療を終了する工程;
をさらに含む、請求項58の方法。
【請求項61】
(a) 第一の投与期間に、ある用量のナタリズマブを投与する工程;
(b) 第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブの量をモニタリングする工程;
(c) 観測された二価ナタリズマブのレベルに基づいて、ナタリズマブの第二の用量を決定する工程;
(d) 第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与する工程;及び
(e) 1以上のそれに続く第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与する工程;
を含む、ナタリズマブを用いて炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療する方法であって、第二の用量が第二の投与期間中の治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法。
【請求項62】
(a) 患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定する工程;
(b) 患者の血漿または血清中のIgG4の量に基づいて、ナタリズマブの用量及び投与期間を決定する工程;
(c) 該投与期間を通じて、患者に該用量のナタリズマブを投与する工程;及び
(d) 1以上のそれに続く投与期間を通じて、患者に該用量のナタリズマブを投与する工程;
を含む、ナタリズマブを用いて炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療する方法であって、該用量及び投与期間が、ナタリズマブの標準的用量及び標準的投与期間によって提供される安全性及び/または有効性と比べて、治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法。
【請求項63】
(a) 患者の血漿または血清中のIgG4の量を決定する工程;
(b) 第一の投与期間に、ある用量のナタリズマブを投与する工程;
(c) 第一の投与期間中、患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブのレベルをモニタリングする工程;
(d) 患者の血漿または血清中のIgG4の量及び患者の血漿または血清中の二価ナタリズマブのレベルに基づいて、ナタリズマブの第二の用量及び第二の投与期間を決定する工程;
(e) 第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与する工程;及び
(f) 1以上のそれに続く第二の投与期間に、第二の用量のナタリズマブを投与する工程;
を含む、炎症性疾患または自己免疫疾患の患者を治療するためにナタリズマブを使用する方法であって、第二の用量及び第二の投与期間が治療の安全性及び/または有効性を改善する、前記方法。

【公表番号】特表2009−529043(P2009−529043A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558307(P2008−558307)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/005265
【国際公開番号】WO2007/103112
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(399013971)エラン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (75)
【Fターム(参考)】