説明

ナノ多孔性材料の形成

多孔性金属酸化物材料または多孔性半金属酸化物材料を形成する方法であって、- 金属基板または半金属基板を含むアノード基板を提供する工程;- カソード基板を提供する工程;- 該アノード基板および該カソード基板を酸電解質と接触させて、電気化学的セルを形成する工程;- 該電気化学的セルに電気信号を適用する工程;ならびに- (a) 適用された電気信号の電圧を時間的に変動させて、最小電圧が適用される最小電圧期間、最大電圧が適用される最大電圧期間、および最小電圧期間と最大電圧期間の間の移行期間を有する電圧サイクルを提供すること、ここで電圧は、移行期間中に最小電圧から最大電圧まで連続的に増加する、または (b) 電気信号の電流を時間的に変動させて、最小電流が適用される最小電流期間、最大電流が適用される最大電流期間、および最小電流期間と最大電流期間の間の移行期間を有する電流サイクルを提供すること、ここで電圧は、移行期間中に最小電流から最大電流まで連続的に増加するにより、該金属基板または該半金属基板に成形細孔を形成する工程を含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この国際特許出願は、2008年12月8日に出願されたオーストラリア特許仮出願第2008906329号の優先権を主張し、その内容は、参照により本明細書に援用されているとみなす。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的に、ナノ多孔性酸化アルミニウムなどのナノ多孔性材料の形成方法、および該方法によって形成されるナノ多孔性材料に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ナノ多孔性材料は、規則正しい配列でナノサイズの寸法を有する細孔を含む有機または無機材料と記載され得る。典型的に、細孔の直径は、約1〜500nmの範囲であり、細孔密度は通常、109〜1012細孔/cm2の範囲である。ナノ多孔性材料は、分子篩、濾過、精製、鋳型合成、触媒反応、感知、電子機器、光通信、エネルギー貯蔵、および薬物送達などの適用に使用されている。
【0004】
自己整列性電気化学的方法によって作製される多孔性アノード酸化アルミニウム(「AAO」)は、最も一般的で最も研究されているナノ多孔性材料の1つである。AAOの構造は、典型的に、各々が、10〜400nmの範囲の直径を有する中心細孔を含む自己整列した垂直に配列された柱状セルの六方晶系に充填されたアレイである。AAOは、単純で製造が比較的安価であるため、ナノ多孔性材料として注目されている。また、これは、良好な化学的および熱的安定性ならびに硬度を有する。さらに、AAOは、数多くの適用に重要である整列度、均一性、高密度および細孔比が高いナノサイズの細孔構造を有する。
【0005】
AAO形成方法は、材料が、金属、金属酸化物、炭素、ポリマー、およびペプチドから作製された種々の1次元および2次元のナノ構造の合成における鋳型として広く使用されるため重要である。
【0006】
AAOは、一般的にアノード酸化処理と称される方法において、酸性溶液中でのアルミニウムの電気化学的酸化時の自己整列方法によって形成される。AAOの形成に最適な条件と一般的に認められている酸化条件は、25Vで硫酸中、40Vでシュウ酸中、および194Vでリン酸中での、いわゆる穏やかなアノード酸化処理(「MA」)または低電界アノード酸化処理である。これらの酸化条件は、それぞれ、約63nm、100nm、および500nmの細孔間距離を有するAAOを提供する。しかしながら、MAによるアノード酸化処理は非常に低速であり(1〜2μm h-1)、典型的に数日の製造期間を要する。
【0007】
この方法を高速化するため(50〜100μm h-1)、硬質アノード酸化処理(「HA」)または高電界アノード酸化処理と称される代替法が開発された。
【0008】
公知のMAおよびHA手順は、均一な細孔直径および細孔間距離を有する高度に整列されたAAOを提供する。しかしながら、異なる内部細孔幾何学構造を有するAAO材料は、複雑なナノ構造(ワイヤ、チューブ、ロッド)の形成のための鋳型としての使用に重要である。さらに、細孔の溝に沿って分子移動に対する周期的で非対称な障壁を有するナノ多孔性材料は、分子の分離における使用の潜在性、ならびに進化した分離膜およびデバイスの開発の潜在性を有する。いくつかの金属酸化物の周期的な細孔構造もまた、特有の光学的および光通信学的特性をもたらし得る。
【0009】
これまで、AAOまたは同様の材料の内部細孔幾何学構造の設計は充分研究されていなかった。予測され得るように、制御された様式で調整された内部細孔幾何学構造を作製する作業は難しい。
【0010】
従来のMA法とHA法を組み合わせることにより形成される、成形された内部細孔幾何学構造を有するAAOが報告されている(Lee,W.,et al. Angew. Chem.Jnt. Ed. 44、6050-6054(2005))。ごく最近、報告された手順は、MAとHAの両方の方法を同じ電解質に適用した「パルス法(pulsing)アノード酸化処理」と称される新しいアノード酸化処理法を導入することにより改善された(Lee,W. et al. Nature Nanotechnol. 3、234-239(2008))。後者の方法は、HAモードの電圧に対応するMAアノード酸化処理中、0.5秒の短い電位パルスの適用に基づく。これにより、2つの周期的な直径を有する調整された細孔構造の作出が可能になる。しかしながら、この方法は、非常に高速なパルスの結果として電流回復が遅いという問題を有する。さらに、この方法では、単純で単調な調整細孔構造を有するAAOしか作製されず、成形された構造を有する細孔を作製するためには使用することができない。
【0011】
調整された内部細孔幾何学構造を有するAAOの形成方法、および/または既存の方法の問題の1つ以上を解決するAAO作製方法、および/または既存の方法の代替法を提供するAAOの形成方法の必要性が存在する。
【0012】
本明細書での任意の先行技術に対する言及は、この先行技術が任意の国における一般常識の一部を形成することを承認または任意の形態の示唆と理解されるものでなく、そう理解されるべきでない。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、設計された内部細孔幾何学構造を有するAAO材料の作製に関する研究から生まれた。具体的には、複雑な成形された構造を有するAAO内部細孔構造の形成を可能にする、サイクル式アノード酸化処理方法を開発した。この方法は、アノード酸化処理方法における時間変動性電気信号の適用に基づく。具体的には、本発明者らは、アノード酸化処理電流の周期的な変化を誘導または提供する連続振動信号の適用により、細孔形成中に対応する構造的変化がもたらされ、したがって、適用された電気信号(形状、振幅および期間)の特性に基づいた内部細孔幾何学構造の制御された操作が可能になることを見い出した。
【0014】
本発明の方法は、金属(弁もしくは遷移)または半金属基板のアノード酸化処理を伴う。アノード酸化処理は、金属または半金属基板の表面上の天然の酸化物層の厚さを増大するために使用される電解不動態化法である。
【0015】
本発明は、
- 金属または半金属基板を含むアノード基板を提供する工程;
- カソード基板を提供する工程;
- アノード基板およびカソード基板を酸電解質と接触させて電気化学的セルを形成する工程;
- 電気信号を電気化学的セルに適用する工程;ならびに
- 成形された細孔を該金属または半金属基板内に、
(a)最小電圧が印加される最小電圧期間、最大電圧が印加される最大電圧期間、および最小電圧期間と最大電圧期間の間の移行期間を有する電圧サイクルを提供する電気信号の印加電圧の時間的変更、ここで、電圧は、移行期間中、最小電圧から最大電圧まで進行的に増大される、または
(b)最小電流が適用される最小電流期間、最大電流が適用される最大電流期間、および最小電流期間と最大電流期間の間の移行期間を有する電流サイクルを提供する電気信号の電流の時間的変更、ここで、電圧は、移行期間中、最小電流から最大電流まで進行的に増大される、
によって形成する工程
を含む、多孔性金属酸化物または半金属酸化物材料の形成方法を提供する。
【0016】
当業者には、印加電圧を変更することにより、形成される電気化学的セルが定電圧モードで動作し、一方、適用電流を変更することにより、セルは定電流モードで動作することが認識されよう。定電圧モードおよび定電流モードは両方とも、ナノ多孔性金属酸化物または半金属酸化物材料を形成するために使用され得る。
【0017】
該方法により、形成される細孔の内部幾何学構造が印加電圧または電流と直接関連した、ナノ多孔性金属酸化物または半金属酸化物材料の作製がもたらされる。例えば、「鋸歯状」信号である多サイクルの時間変動性の非対称な電圧または電流信号の適用により、始めは短くて滑らかな湾曲部分、中央は長い部分、および末端は急激に直径が小さくなる部分を有し、各部分は、単一のアノード酸化処理サイクルの開始、移行および最後に対応する、非対称な楕円体または「瓶首」内部細孔構造を有する細孔の形成がもたらされる。また、これらの構造の数は、適用されるサイクルの数に対応する。
【0018】
最小電圧または電流が適用される最小電圧または電流期間は、穏やかなアノード酸化処理方法の条件に対応する。同様に、最大電圧または電流が適用される最大電圧または電流期間は、硬質アノード酸化処理方法の条件に対応する。最小電圧または電流期間と最大電圧または電流期間との間の移行期間は、電圧または電流が穏やかなアノード酸化処理条件と硬質アノード酸化処理条件の間にある移行期間に対応する。
【0019】
本発明の方法は、硬質アノード酸化処理条件に対応する電圧の比較的短いパルスを散在させる穏やかなアノード酸化処理条件の使用を伴う先行技術の方法とは区別され得る。かかる方法は、穏やかなアノード酸化処理条件と硬質アノード酸化処理条件との間の移行期間を使用しない。
【0020】
酸電解質は、無機酸または有機酸を含む溶液であり得る。いくつかの態様において、酸電解質の酸は、リン酸、シュウ酸、および硫酸からなる群より選択される。
【0021】
酸電解質がリン酸であるいくつかの態様において、最小電圧は約100Vであり、最大電圧は約200〜約250Vである。酸電解質がリン酸であるいくつかの態様において、最小電流密度は約1mA/cm2であり、最大電流密度は約300mA/cm2である。酸電解質がリン酸であるいくつかの態様において、最小電流密度は約5mA/cm2であり、最大電流密度は約150mA/cm2である。
【0022】
酸電解質がシュウ酸であるいくつかの態様において、最小電圧は約40Vであり、最大電圧は約110Vである。酸電解質がシュウ酸であるいくつかの態様において、最小電流密度は約1mA/cm2であり、最大電流密度は約300mA/cm2である。酸電解質がシュウ酸であるいくつかの態様において、最小電流密度は約1mA/cm2であり、最大電流密度は約150mA/cm2である。
【0023】
酸電解質が硫酸であるいくつかの態様において、最小電圧は約15Vであり、最大電圧は約35Vである。酸電解質が硫酸であるいくつかの態様において、最小電流密度は約1mA/cm2であり、最大電流密度は約300mA/cm2である。酸電解質が硫酸であるいくつかの態様において、最小電流密度は約1mA/cm2であり、最大電流密度は約150mA/cm2である。
【0024】
任意のサイクル数の時間変動性電気信号が使用され得る。いくつかの態様において、サイクル数は1〜200(両端を含む)である。いくつかの態様において、サイクル数は5〜20(両端を含む)である。使用されるサイクル数は、少なくとも一部において、所望の細孔長によって決定される。
【0025】
当業者に認識されるように、アノード基板に印加される電圧は、電気化学的セル中を流れる電流に正比例する。異なる金属、半金属および電解質は異なる値のインピーダンスを提示し、したがって、設定値の電流を提供するには異なる電圧が必要とされる。したがって、金属または半金属基板中を流れる電流を考察することは適切である。
【0026】
いくつかの態様において、低電圧期間の電流は約1.5〜約3mA/cmである。これは、従来の穏やかなアノード酸化処理条件に対応する。
【0027】
いくつかの態様において、低電圧または電流期間は、アノード酸化処理サイクルの大部分を占める。例えば、低電圧または電流期間は該期間の約3/4を占め得る。
【0028】
移行期間では、電流は経時的に増大し始める(J=5 to 60〜70mA cm2)。いくつかの態様において、移行期間の時間は20秒より長い。
【0029】
いくつかの態様において、高い電圧または電流期間の電流は約100mA/cm2より大きい。いくつかの態様において、高い電圧または電流期間の電流は約300mA/cm2未満である。典型的に、高い電圧または電流期間の電流が約300mA/cm2より大きい場合、内部が平坦な(すなわち、楕円体または「瓶首」プロフィールがない)細孔が形成される。いくつかの態様において、高い電圧または電流期間のアノード酸化処理電流は約200〜約270mA/cm2である。
【0030】
いくつかの態様において、アノード酸化処理速度は約1000〜約1200nm分-1である。一般に、電流が高いと(例えば、270mA/cm2)、比較的長い細孔構造(例えば、3000nm)が形成される。対照的に、電流が低いと(例えば、200〜220mA/cm2)、短い細孔構造(例えば、2000〜2400nm)が形成される。
【0031】
時間変動性電気信号は、電圧または電流が最大電圧または電流から最小電圧または電流まで進行的に減少する第2の移行期間を含み得る。
【0032】
いくつかの態様において、時間変動性電気信号はサイクル式の波形である。この形態では、電圧または電流が最大電圧または電流と最小電圧または電流との間でサイクルされる。波形は最小と最大の電圧間または電流間で傾きを有し得る。
【0033】
また、本発明は、本発明の方法に従って形成されるナノ多孔性金属酸化物または半金属酸化物材料を提供する。
【0034】
また、本発明は、周期的で非対称な内部幾何学構造を有する1つ以上の細孔を有するナノ多孔性金属酸化物または半金属酸化物材料を提供する。
【0035】
本発明の方法は、各細孔が少なくとも1つの最小直径部分、少なくとも1つの最大直径部分、および各最小直径部分と最大直径部分の間の段階的部分を有し、各段階的部分の細孔の直径が最小直径から最大直径まで徐々に変化する、ナノ多孔性金属酸化物または半金属酸化物材料を提供する。
【0036】
また、本発明は、
- 金属または半金属基板を含むアノード基板;
- カソード基板;
- アノード基板およびカソード基板と接触している酸電解質;
- アノード基板およびカソード基板全体に電気信号を適用するための電気的手段;ならびに
- (a)最小電圧が印加される最小電圧期間を有する電圧サイクル、最大電圧が印加される最大電圧期間、および最小電圧期間と最大電圧期間の間の移行期間を含む時間変動性電気信号を提供する電気信号の電圧の時間的変更、ここで、電圧は、移行期間中、最小電圧から最大電圧まで進行的に増大される、または
(b)最小電流が適用される最小電流期間を有する電流サイクル、最大電流が適用される最大電流期間、および最小電流期間と最大電流期間の間の移行期間を含む時間変動性電気信号を提供する電気信号の電流の時間的変更、ここで、電圧は、移行期間中、最小電流から最大電流まで進行的に増大される、
のための信号制御手段
を含む、電気化学的セルを提供する。
【0037】
電気信号は対称または非対称な形状の信号であり得る。いくつかの態様において、電気信号の形状は、鋸歯状、四角、三角、および正弦波形からなる群より選択される。
【0038】
酸電解質は、無機酸または有機酸を含む溶液であり得る。いくつかの態様において、酸電解質の酸は、リン酸、シュウ酸、および硫酸からなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1aは、調整された内部構造を有するナノ多孔性アノード金属または半金属酸化物材料の形成のためのサイクル式アノード酸化処理のスキームを示す。 図1 bは、異なるアノード酸化処理モード(MA、TAおよびHA)を示すアノード酸化処理中の電圧-時間(U-t)信号および電流-時間(J-t)信号の電圧サイクルのプロットを示す。 図1cは、1回の電気サイクルおよびアノード酸化処理モードに対応する細孔構造の提案変更モデルを示す。
【図2】図2は、サイクル式アノード酸化処理を行なうために使用される電気信号(電圧または電流)の典型的な形状を示す。非対称電圧信号を2つの列の上側(鋸歯状-平坦および鋸歯状形状)に示す。対称電圧信号を2つの列の下側(正弦波形および三角)に示す。サイクル式アノード酸化処理方法を設定するための、振幅(最大信号)、サイクル期間およびサイクル数を含む、(a)の1回のサイクルのパラメータをボックス内に示す。Labview Software(National Instruments、USA)に基づいて特別に開発したソフトウェアによってシグナルを生成させた。
【図3】図3は、0.1Mリン酸中-1℃で異なる振幅を有する振動電圧信号(U-t)(180v〜240V)を印加することにより、サイクル式アノード酸化処理によって形成されたナノ多孔性アノード酸化アルミニウム材料の代表的なSEM画像を示す。アノード酸化処理中に記録した対応する電流-時間(J-t)グラフを左側に示す。(a):高アノード酸化処理電流(J=300mA/cm2)を生じる電圧を用いて形成された細孔構造(b):電圧を減少させ、アノード酸化処理電流(J=200〜270mA/cm2)を生じさせることにより形成された内部構造細孔。(c〜d):サイクル式アノード酸化処理中の電圧およびアノード酸化処理電流(J=150mA/cm2およびJ=60mA/cm2)のさらなる減少の結果としての楕円体細孔構造の長さの減少。1回のサイクル(期間)中に形成される単一の細孔構造の典型的な形状を挿入部に示す。
【図4】図4aは、単一の電圧サイクルおよび図2の4つの列に示した電圧信号の4つの異なる振幅を用いた定電圧モード中に記録されたアノード酸化処理電流-時間グラフ(グラフ1〜4)を示す。対応するアノード酸化処理電流と関連するアノード酸化処理モード(MA、TAおよびHA)をグラフ上に示す。 図4bは、電圧信号の4つの異なる振幅に対応する1回のサイクルを用いて定電圧モード中に形成された細孔構造のSEM画像を示す。アノード酸化処理モード(MA、TA、HA)と関連する生じた内部細孔幾何学構造の変化を細孔構造上に示す。
【図5】図5aは、電圧-時間および電流-時間のグラフならびに0.3M硫酸中-1℃で40サイクルのサイクル式アノード酸化処理によって形成されたナノ多孔性アノード酸化アルミニウム材料の細孔構造の対応するSEM画像を示す。振幅Umin=15V、Umax=35V、アノード酸化処理電流J=130〜150mA/cm2および期間0.5分の正弦波形形状を有する電圧信号を使用した。 図5b〜cは、形成されたナノ多孔性アノード酸化アルミニウム材料のモデルを示し、周期的に調整された構造を有する単一の細孔のモデルであり、細孔セルの縁に沿って作製した断面部を示す。 図5dは、ナノ多孔性アノード酸化アルミニウム材料から解いたナノ多孔性アノード酸化アルミニウムナノチューブの束のTEM画像を示す。
【図6】図6は、対称電流信号(正弦波形形状、および期間t=0.25〜1分)の異なる振幅を用いた、0.3Mシュウ酸中-1℃での定電流サイクル式アノード酸化処理によって形成されたAAO細孔構造のSEM画像を示す。(a):>60μmの厚みを有する全AAO構造全体に形成された周期的な細孔を示す、長サイクル(>20サイクル)中に得られた典型的なAAO細孔構造。(b):定電流モードでアノード酸化処理中に適用された正弦波形電流信号。(c):(a)に示したAAO細孔構造の高解像度画像(d):短い周期的な円形形状および長さ約100nmを有する細孔セグメントを示す、振幅Jmin=2mA/cm2〜Jmax=100mA/cm2および期間t=0.25分を有する正弦波形電流信号によって形成されたAAO細孔構造。(e):サイクル期間の延長の結果として長細孔セグメント(200〜300nm)を示す、振幅Jmin=2mA/cm2〜Jmax=100mA/cm2および期間t=1分を有する正弦波形電流信号によって形成されたAAO細孔構造。(f):細孔セグメントのさらなる伸長(200〜300nm)および球形状から瓶首形状への変化を示す、振幅Jmin=2mA/cm2〜Jmax=120mA/cm2および期間t=1分を有する正弦波形電流信号によって形成されたAAO細孔構造。(g):瓶首形状の長細孔セグメントを示す、振幅Jmin=2mA/cm2〜Jmax=150mA/cm2期間t=1分を有する正弦波形電流信号によって形成されたAAO細孔構造。
【図7】図7は、(a):0.1M H3PO4中-1℃でのアルミニウムの定電流サイクル式アノード酸化処理中に得られた一連のサイクルの典型的な電流-時間(上)および対応する電圧-時間(下)のグラフ。(b):非対称な電流信号(振幅Jmin=10mA/cm2〜Jmax=130mA/cm2、指数関数的鋸歯状形状、期間t=1分、サイクル数n=15)を用いて形成された非対称な細孔構造を有するAAOのSEM画像。c)光とその調整された細孔構造の相互作用の結果として、特徴的な反射および青色の虹色効果を示す、作製されたAAOの写真。スケールバーは5mmである。(d):1回の定電流アノード酸化処理サイクルの電流-時間(実線)および電圧-時間(点線)のグラフ。(e):このサイクルによって形成された対応する細孔構造のSEM画像。細孔構造の形成に対する異なるアノード酸化処理条件(穏やか、MA、移行、TAおよび硬質、HA)の寄与をグラフおよび画像に示す。点線矢印は細孔形成の方向を示す。スケールバーは500nmである、を示す。
【図8】図8は、0.1M H3PO4中-1℃で電流信号の異なる振幅(鋸歯状形状、および期間t=1.5分)を用いた定電流サイクル式アノード酸化処理によって形成されたAAO細孔構造のSEM画像を示す。(a):長い瓶首状の成形された細孔を示す、振幅Jmin=10mA/cm2〜Jmax=250mA/cm2を有する電流信号によって形成されたAAO細孔構造。スケールバー2μm。(b):短い瓶首状の細孔形状を示す、振幅Jmin=10mA/cm2〜Jmax=200mA/cm2を有する電流信号によって形成されたAAO細孔構造。スケールバー1μm、(c〜d):細孔長のさらなる縮小および花瓶形状形態を示す、振幅Jmin=10mA/cm2〜Jmax=150mA/cm2およびJmax=100mA/cm2を有する電流信号によって形成されたAAO細孔構造。スケールバー1μm。
【図9】図9は、0.1M H3PO4中-1℃で電流信号の異なる特性(振幅、形状および期間)を用いて定電流サイクル式アノード酸化処理によって形成されたAAO細孔構造の電流-時間グラフおよび対応するSEM画像を示す。(a〜b):非対称な細孔、花瓶形状幾何学構造および異なる長さを示す、非対称な電流信号(振幅Jmin=10mA/cm2〜Jmax=100mA/cm2、指数関数的鋸歯状形状、および2つの期間t=2分およびt=0.25分によって形成されたAAO細孔構造。(c〜d):対称細孔、球形形状幾何学構造および異なる長さを示す、正弦波形形状(振幅Jmin=15〜20mA/cm2からJmax=80〜100mA/cm2、期間t=2分およびt=0.25分)を有する対称電流信号によって形成されたAAO細孔構造。(e〜g):異なる長さおよび異なる細孔間距離を有する球形(対称)形状を有する細孔を示す、三角電流(振幅Jmin=15〜20mA/cm2からJmax=50〜100mA/cm2、期間t=0.8〜1分、およびサイクル間の時間t=0.5分、t=15分およびt=0.25分)によって形成されたAAO細孔構造。図の挿入部に単一の細孔構造を示す。点線矢印は細孔形成の方向を示す。
【図10】図10は、(a):細孔勾配層を有するAAO膜を0.1M H3PO4中-1℃で15分間のアノード酸化処理中Jmax最初=110mA/cm2からJmax最後=50mA/cm2まで徐々に減少する振幅を有する電流信号(鋸歯状)を用いて定電流サイクル式アノード酸化処理によって形成した。(b):最小振幅はJmin=20mA/cm2であり、期間t=0.5分であった。上から下にAAO膜全体の細孔長および直径が減少する垂直細孔勾配を形成した(c)、を示す。
【図11】図11(a):2サイクル、鋸歯状および三角(鋸歯状では振幅Jmin=10mA/cm2〜Jmax=120mA/cm2、三角サイクルではJmin=10mA/cm2〜Jmax=80mA/cm2、期間t=0.25〜0.5分)からなる電流サイクルによって形成された二重成形された幾何学構造を有するAAOのSEM画像。長い非対称部分(1で表示)および短い対称部分(2で表示)を有するAAO細孔は、適用した電流サイクルの形状および振幅に対応する(1および2で表示)。(b):10サイクルと、三角、四角、鋸歯状、振幅(Jmin=15mA/cm2からJmax=80〜120mA/cm2)および期間t=0.25〜1.5分などの異なる形状を組み合わせた電流サイクルの複合プロフィールを用いて形成された複雑で多面性細孔幾何学構造を有するAAOのSEM画像。細孔の形状およびその構成は、適用した電流プロフィールと妥当に一致した。点線矢印は細孔形成の方向を示す。
【図12】図12は、(a):振幅の増大(Jmin=10mA/cm2、Jmax最初=50mA cm-、Jmax最後=120mA cm、期間t=0.2分)を伴うサイクル、鋸歯状および三角(鋸歯状では振幅Jmin=10mA/cm2〜Jmax=120mA/cm2、三角形状ではJmin=10mA/cm2〜Jmax=80mA/cm2、期間t=0.25〜0.5分)からなる2回サイクルを伴うアノード酸化処理、ならびに最後の一連の三角サイクル(振幅Jmin=10mA/cm2〜Jmax=70mA/cm2期間t=0.25分)を含む段階的な3連続サイクル工程を有する多サイクル式アノード酸化処理を用いた、複雑な細孔構造を有するAAOの設計および形成。(b):これらのアノード酸化処理工程に対応する異なる細孔構造を有する1、2および3で示した3つの異なる層を示す形成されたAAOのSEM画像。(c):勾配を有する細孔(1)、二重成形された幾何学構造を有する細孔(2)および末端に短い球形構造を有する細孔(3)を示す、より詳細な細孔構造のSEM画像。スケールバーは500nmである、を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の一般説明
本発明およびその態様のより詳細な説明を進める前に、本明細書全体を通して使用する種々の用語が当業者によく理解されている意味を有することに注意することは重要である。しかしながら、言及を簡略化するため、これらの用語のいくつかを定義する。
【0041】
用語「金属または半金属基板」およびその変形は、本明細書全体を通して使用されるように、アノード酸化が行なわれ得る任意の導電性または半導電性の金属または半金属材料を意味する。かかる金属は、場合によっては、弁金属および遷移金属と記載する。半金属は、金属でも非金属でもない、中間の特性を有する元素である。半金属は、しばしば半導体としての機能を示し、例えば、ホウ素、ケイ素およびゲルマニウムが挙げられ得る。
【0042】
用語「アノード酸化処理」およびその変形は、本明細書全体を通して使用されるように、金属または半金属基板の表面上の天然の酸化物層の厚さを増大させる電解不動態化方法を意味する。関連する様式において、用語「穏やかなアノード酸化処理」および「MA」は、最小電圧または電流で行なわれるアノード酸化処理法を意味し、一方、用語「硬質アノード酸化処理」および「HA」は、最大電圧または電流で行なわれるアノード酸化処理法を意味する。
【0043】
本発明者らは、調整された内部細孔幾何学構造を有する多孔性金属酸化物または半金属酸化物材料を形成するための新しい合成アプローチを開発した。アノード酸化処理中に時間変動性電気信号を適用することにより、形状、振幅および期間が多様になり、穏やかなアノード酸化処理および硬質アノード酸化処理ならびに穏やかなアノード酸化処理と硬質アノード酸化処理間の移行期間が組み合わさることによって、細孔構造の内部幾何学構造を制御することが可能になる。周期的な楕円体および円形内部細孔幾何学構造を有する多孔性金属酸化物または半金属酸化物材料の連続的に成形された細孔構造が形成され得る。
【0044】
先の研究では、アノード酸化処理は、充分な定電圧が印加された場合、比較的低い電流(1〜5mA/cm2)を使用するMA条件と、比較的高い電流(100〜400mA/cm2)を使用するHA条件を用いて行なわれ得ることが示された。本発明の研究により、低速で線形の電圧の増大の結果、電流も、MAアノード酸化処理条件に対応する値からHA アノード酸化処理条件に対応する値まで増大する(指数関数的に)ことが示された。電圧を減少させた場合、電流は、HAからMAアノード酸化処理条件を通して初期値に戻り、それにより、2つの異なる直径を有する細孔が作製される。したがって、この研究では、MAモードとHAモード間に移行が存在する。図1は、本発明の方法を用いた細孔構造の形成のモデルを示す。
【0045】
記載のように、本発明は、多孔性金属酸化物または半金属酸化物材料の形成方法を提供する。金属または半金属基板を含むアノード基板およびカソード基板は、酸電解質と接触して配置され、電気化学的セルを形成する。
【0046】
金属または半金属基板は、導体または半導体であり、アノード酸化が行なわれ得る任意の適当な金属または半金属基板であり得る。適当な金属としては、アルミニウム、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、タングステン、ニオブ、ニッケル、コバルト、イリジウム、ゲルマニウム、およびTiAl、TiNb、TiAlNb、TiZrなどのその合金が挙げられる。適当な半金属としては、ケイ素、ホウ素およびゲルマニウムが挙げられる。金属または半金属基板は、バー、ブロック、ワイヤ、フィルムまたはホイルなどの任意の適当な形態であり得る。基板は、好ましくは、アノード酸化処理前に洗浄する。例えば、基板は、溶媒(例えば、アセトン)中で洗浄され得る。あるいはまたさらに、鏡面仕上げの表面を得るために、定電圧を使用し、適当な酸性溶媒(例えば、過塩素酸とエタノールの1:4容量の混合物)中で基板を電気化学的に研磨してもよい。
【0047】
該方法は、電気化学的セルにおいて行なわれる。アノード酸化処理は、室温より低い温度で行なわれ得る。例えば、電気化学的セルは、アノード酸化処理が低温度で行なわれることを可能にするための冷却ステージを備えていてもよい。いくつかの態様において、アノード酸化処理は、約-1℃の温度で行なわれる。
【0048】
酸電解質は、無機酸または有機酸を含む溶液であり得る。いくつかの態様において、酸電解質の酸は、スルファミン酸、クエン酸、ホウ酸、リン酸、シュウ酸、フッ化水素酸および硫酸からなる群より選択される。いくつかの特定の態様において、酸電解質の酸は、リン酸、シュウ酸、および硫酸からなる群より選択される。
【0049】
明確にするため、金属または半金属基板を、以下、アルミニウム基板と称し、本発明の方法を用いて形成された材料をナノ多孔性アノード酸化アルミニウム(「AAO」)材料と称する。しかしながら、本発明の方法が、アルミニウムでの使用のみに限定されないことは認識されよう。
【0050】
電気信号を電気化学的セルに適用する。電圧信号が使用される場合、該方法を定電圧モードのサイクル式アノード酸化処理と記載し、電流信号が使用される場合は、該方法を、定電圧モードのサイクル式アノード酸化処理と称する。電圧の電気信号も電流の電気信号も両方とも、時間変動性信号を提供するために変更される。時間変動性電気信号としては、非対称と記載する鋸歯状などの異なる形状、ならびに対称と記載する正弦波形、三角および四角を有する電圧または電流サイクルが挙げられる。時間変動性電気信号としては、サイクル期間t=0.1〜10分間、およびサイクル数n=1〜1000が挙げられる。種々の形状の時間変動性電気信号が使用され得る。例としては、限定されないが、正弦波形、四角、および三角などが挙げられる。時間変動性電気信号のプロフィールは非対称(例えば、鋸歯状)であってもよく、対称(例えば、四角、三角、正弦波形)であってもよい。また、時間変動性電気信号は、設定した期間の1つのサイクルの振幅を増減することにより変更され得る。これにより、細孔勾配を有するAAOの形成がもたらされる。各々が異なるプロフィール、振幅および期間を有する複数の時間変動性信号を合わせ、アノード酸化処理中において1つの電流または電圧信号にしてもよい。あるいは、複数の時間変動性信号を連続する工程において分けてもよい。時間変動性信号は、市販のソフトウェアを用いて設計され得る。
【0051】
値制御性の電気信号としては、電圧または電流振幅Umin=10V〜Umax=300V、Jmin=0.5mA/cm2〜Jmax=1000mA/cm2が挙げられる。最小電圧または電流が適用される最小電圧または電流期間、最大電圧または電流が適用される最大電圧または電流期間、および最小電圧または電流期間と最大電圧または電流期間の移行期間、最小電圧または電流から最大電圧または電流まで電圧または電流は、移行期間中、進行的に増大される。
【0052】
サイクル式アノード酸化処理の間に適用される電気信号の特性は、好ましくはソフトウェアにより制御される。サイクル式アノード酸化処理の間の振動電気信号に最適なパラメーターを選択して多孔性構造化を行うために、電解質の選択、電解質濃度、温度、金属表面の状態などの他のパラメーターを考えることが必要である。これらのパラメーターは、理想的には、無秩序にする効果、分岐効果、焼失(burning)効果なく、AAOの順番を維持する必要がある。
【0053】
本発明の方法は、時間変動電圧信号を適用することで実施することができる(鋸歯状、時間t=2分、振幅Umin=100V、Umax=200〜250V、およびn=5〜20サイクル)。電圧信号の最大振幅は、一サイクル中に異なるHA時間、移行アノード酸化処理(「TA」)、およびMAモードで、アノード酸化処理電流の設定値に調整され得る。リン酸中のサイクル式アノード酸化処理の際に記録される対応する電圧-時間および電流-時間信号を有する多孔性AAO材料細孔構造の一連の代表的な切断面SEM画像を図3に示す。SEM画像は、平坦な内表面を有する細孔から、長円形状および異なる長さを有する一連の周期的な細孔構造までの細孔構造の進展を示す。
【0054】
これらの構造の形成をよりよく理解するために、一サイクルからのアノード酸化処理電流信号および対応する細孔構造SEM画像を図4で分析した。異なるアノード酸化処理形態に関連するアノード酸化処理電流グラフ中の3つの異なる部分は区別され得る(図4a)。第1の部分では、サイクルの開始時に、J=1.5〜3mA/cm2の値で電流が定常である。これは、従来のMAアノード酸化処理に相当し、アノード酸化処理サイクルの最大の割合をとる(期間の約3/4)。第2の部分では、電流信号は移行形態に相当し、アノード酸化処理電流が緩やかに増加を開始して(J=5から60〜70mA/cm2)、その後第3部分および最終部分、電流が大きく増加するHA形態に達する(J>100mA/cm2)。
【0055】
高いアノード酸化処理電流(J=300mA/cm2)をMA/TA形態とHA形態の両方に流すが、HA形態の期間が大部分である場合、平坦な細孔のみが形成された。構造変化または細孔変形がないことは、このサイクルプロセスを占めるHA形態中の実質的に高いアノード酸化処理速度または細孔成長速度(2000〜3000nm/分)の結果であり得る。平坦な細孔構造は、対照試料中で形成される一定電圧の従来のHA形態により形成される細孔と同様である。しかしながら、HA形態の時間の割合を少なくして電流をより低い値(J=200〜270mA/cm2)まで減少する場合、平坦な細孔構造の形成は、構造化された細孔の形成に切り替わる(図3b、図4aおよび図4b、構造2参照)。
【0056】
細孔を通る長い長さ、長円または「ビンの首」構造は、開始部で短く滑らかな局面区画、中央部で長い平坦な区画、および端部で小さな直径の区画を有するように形成され、これは単一アノード酸化処理サイクルの開始、移行および終了時に相当する。これらの構造の数は、適用されたサイクルの数に対応する。対応する電流グラフ(図4a、グラフ2)は、HA形態でのより短い時間および以前の例と比較してより低い電流値を示す。従って、最大電流(<J=250mA/cm2)およびHA形態の時間を特定の点未満に減少させることは、細孔の構造化を誘導するための開始要因であり得る。
【0057】
一サイクル中のMA、特にTA形態でのアノード酸化処理により、SEMで観察可能な構造変化およびビンの首細孔形状が生じた。先の状態(>2000nm/分)と比較したアノード酸化処理速度の低下(1000〜1200nm/分)によりこのことが確認される。細孔構造の非常に鋭い移行が終了時点に見られ、これはアノード酸化処理電流の劇的な低下が一サイクルの終了時および新しいサイクルの開始時に起こる場合にHAからMA形態への移行に対応する。5サイクル中の電流値の変化(図3b)は、アノード酸化処理電流と細孔構造の長さ間の強い関連の存在を示す。より短い構造(I=2000〜2400nm)が生じた場合のより低い電流(J=200〜220mA/cm2、サイクル2および3)と比較して、より高いアノード酸化処理電流(J=270mA/cm2、図3b、サイクル1および4)では、より長い構造(I=3000nm)が生じた。従って、サイクルプロセス中のアノード酸化処理電流の変化は、内部細孔構造の形成に影響を及ぼす。
【0058】
サイクルプロセス中のアノード酸化処理電流をさらに低下した(J=150mA/cm2)場合、以前と同様の非対称周期的細孔構造が形成されたが、この時間は、長さが有意に減少した(図3c、図4a、グラフ3、および図4b、構造3)。電流グラフは、大部分のMA/TA形態のサイクル期間およびわずかな部分のHA形態を示す。従って、700〜800nmの長さを有する短い長円細孔構造が、MA/TA形態および有意に減少したHA形態の優先的なアノード酸化処理の結果形成され、これはアノード酸化処理速度の減少(350〜400nm/分)により確認される。細孔構造は、サイクルの開始と終了時で直径が異なる非対称形状を有する。
【0059】
アノード酸化処理電流をさらに低下させることで(J=60mA/cm2)、より短いまたは花瓶型の周期的細孔構造(図3d、図4a、グラフ4、図4b構造4)が形成され得る。このアノード酸化処理プロセスは、MAおよびTA形態のみに対応し、これによりHA形態でのサイクル化は、細孔の構造変化を得るために必須ではないことが確認される。この場合、MAとHAのアノード酸化処理の間の細孔成長速度および細孔の直径の差は、細孔構造化を支配する要因となる。従って、MAとHAの間のアノード酸化処理形態の移行(すなわちTA形態)は、サイクル式アノード酸化処理プロセスの細孔構造化の制御に重要である。
【0060】
MAとHAの形態の間のアノード酸化処理条件は、良好な自己整列計画を提供しないと報告されていた。しかしながら、自己整列はMAまたはHA形態によりサイクルの開始時点で管理され、TA条件でのアノード酸化処理は、一サイクルの間の短い期間のみで生じるので、本発明のアノード酸化処理方法には重要でないと思われる。
【0061】
MAアノード酸化処理中に速いパルスHA(t=0.5秒)が使用された以前の報告と比較して、本明細書に記載されるサイクル式アノード酸化処理方法は、成形された非対称なまたはより複雑な細孔構造を形成する能力を有する異なるアノード酸化処理形態を組み合わせた(MA/TAおよびMA/TA/HA形態)高い柔軟性を提供する。従来の報告に記載されるような速いパルスの場合、HAとMAの形態の間の非常に早い変化は、主にHAパルスに基づいた細孔構造の形成だけをもたらし、MAパルスの任意の貢献は最小限になる。これは成形された細孔構造の生成について以前に報告されたアプローチの限界である。
【0062】
本発明の方法において、最小電圧または電流の周期は約20〜30秒であり得、細孔形成に最小電圧または電流の寄与をもたらす。しかしながら、MA条件は必ずしも必要ではなくHAおよびTA形態だけによるサイクルが使用され得る。特に、Imin=5mA/cm2 (MA)およびImax=100mA/cm2(HA)、期間t<10分のサイクル式アノード酸化処理によっては、平坦な細孔のみの形成がもたらされ得、Imin=20〜30mA/cm2 (TA)の増加、短時間によって、成形された項構造を形成することが可能になる。
【0063】
サイクル式アノード酸化処理方法は、シュウ酸(H2C2O4)および硫酸(H2SO4)などの他の酸で実施し得る。電解質として硫酸を使用し、正弦波形型の時間変動信号を使用して、時間t=0.25分、および40サイクルで形成されたナノ多孔性アノード酸化処理アルミニウム材料の例を図5aに示し、さらに対応するアノード酸化処理電流を示す。硫酸はアノード酸化処理電流の安定性およびサイクル条件の最適化について優れた性質を示した。興味深いことに、切断面SEM画像は、内部細孔構造よりも6角形細孔セルの外部構造を示す。硫酸中で形成されたナノ多孔性アノード酸化処理アルミニウム材料の破砕の間にひびが、他の酸で形成されたナノ多孔性アノード酸化処理アルミニウム材料のセルの中心ではなくセルの境界に沿って生じる(図5b、矢印1)ためにこの事が起こる(図5b、矢印2)。
【0064】
幾何学構造改変されたAAOナノチューブを表すこれらの構造のモデルを図5cに示す。過剰な超音波処理により、これらのアノード酸化処理アルミニウムナノチューブはバルク材料から分離され、溶液(水)中に分散され得る。分離されたアノード酸化処理アルミニウムナノチューブの束のTEM画像を図5eに示す。従って、硫酸中のサイクル式アノード酸化処理は長さが調節されたナノチューブの形成方法を提供する。
【0065】
従って、電圧のサイクル化に基づいたサイクル式アノード酸化処理は、アノードの酸化アルミニウムの内部細孔構造の調節された改変および/またはナノチューブの形成のために使用され得る。
【0066】
本発明の方法は、サイクル様式で電流を調節することにより、定電流形態でも実施され得る。最終的に、本発明は細孔形成に関する。定電圧形態では、必要な電流を達成するために電圧を設定する。このように、定電流形態のアノード酸化処理は、電流信号が直接調節されて、細孔の幾何学構造のより再現性の高い結果、より良好な安定性およびより良好な操作の制御がもたらされるので、有利であり得る。
【0067】
サイクル式アノード酸化処理で定電圧形態の代わりに定電流形態を選択する能力は、シュウ酸中でアノード酸化処理を行う場合に有用である。電圧信号(振幅Umin=40V、Umax=110V、時間t=0.5分、鋸歯状)を使用した、0.3M H2C2O4中、定電圧形態でのサイクル式アノード酸化処理の間、陽極電流の自然な増加(ドリフト)(J=70〜110mA/cm2)の結果、細孔構造の幾何学構造の変化が観察されることがあった。このアノード酸化処理電流の自然な変化の挙動は、障壁酸化膜の特性およびその孔性の変化によって説明される。成形された細孔構造を有するAAOが形成されたが、電気信号による細孔の形状の制御(形状、振幅および期間)は、わずかに再現性に乏しく、表面の最初の状態に依存した。細孔構造の生成は、アノード酸化処理の間に生じた電流により誘導されるので、この問題点を回避するために、定電圧形態の代わりに定電流形態によってアノード酸化処理条件が自然に変化することなく制御可能な細孔構造が提供されることが見出された。
【0068】
そのため、いくつかの状況で、定電流サイクル式アノード酸化処理形態は、再現性および電流信号の特性により細孔の形状を制御する能力の向上を示した。異なる振幅の対称電流信号(Jmin=2mA/cm2〜Jmax=150mA/cm2、正弦波形形状、および期間t=0.25/分)を使用した、異なる長さの細孔セグメントおよび異なる形状(環状およびビンの首)を有するAAOを示すいくつかの特徴的な例を図6に示す。
【0069】
AAO細孔構造の典型的な切断面SEM画像およびH3PO4中の定電流サイクル式アノード酸化処理の間に適用された対応する電流-時間信号を図7〜8に示す。サイクル式アノード酸化処理により三次元細孔構造化を達成するために、一サイクル中のHA、TAおよびMAのアノード酸化処理形態の寄与を組み合わせた電流信号形状、振幅および期間などの最適なアノード酸化処理パラメーターを調節することが有用である。一サイクル中に適用され得る電流密度信号およびこの信号により形成された対応する細孔構造を図7a〜b、c〜dに示す。MA、TAおよびHAアノード酸化処理形態に対応する電流グラフ中の3つの特徴的な部分は区別され得る(図7d〜e)。細孔構造の形成におけるそれぞれのアノード酸化処理形態の寄与をSEM画像中に記す。最小の細孔の直径は、適用されたサイクルの最小電流(MA)に対応し、電流の勾配は主要な細孔形状(TA)に対応し、最大の直径は最大電流(HA)に対応する。
【0070】
高電流密度のサイクル(振幅Jmax>300mA/cm2)を使用してサイクル式アノード酸化処理を行った場合、優先的なHAアノード酸化処理方法の結果として平坦な細孔構造のみが形成された(データは示さず)。アノード酸化処理電流を減少させた場合(Jmax=200〜250mA/cm2、Jmax=150mA/cm2および100〜120mA/cm2)、細孔形成プロセスは、最大電流に対応する長さ(細孔長さ1500〜2000nm、および500〜800nm)を有する成形された(「ビンの首」)細孔構造の形成に切り替わった(図8a)。観察された細孔長さの減少は、一サイクル中のHAの優占度を低減することおよびMA/TA条件の寄与を増加することにより説明され、これは、アノード酸化処理速度の有意な減少(>2000〜3000nm/分から1000nm/分未満まで)によりさらに確認される。アノード酸化処理電流を再度下げる(Jmax=60〜80mA/cm2)ことにより、図8b〜dに示すようにより短いまたは「花瓶形状」周期的細孔構造が形成された。
【0071】
適用された電流信号の非対称プロフィールおよび非対称な細孔幾何学構造の間の類似性はすぐに明らかになり、電流信号のプロフィールを構造特徴に移す該方法の能力が確認される。
【0072】
サイクル式アノード酸化処理の間の細孔幾何学構造に対する他のパラメーターの影響を調べるために、異なる形状(非対称、鋸歯状、および対称、正弦波形、および三角形)および異なるサイクル時間(t=0.25〜10分)を有する電流信号を使用して、一連の実験を行った(図9)。SEM画像およびアノード酸化処理の際に適用した電流プロフィールは、異なる形状の電流信号を使用して形成された異なる細孔幾何学構造を有するAAOを示す。非対称な細孔幾何学構造(ビンの首または花瓶形状)は非対称電流信号(鋸歯状)により形成され、対称な細孔幾何学構造(球形)は対称サイクル信号(正弦波形および三角形)により形成された。非常に速いパルスの形状が細孔構造に影響を及ぼさないパルス形態と比較すると、サイクル式アノード酸化処理には、異なる細孔幾何学構造を有するAAO構造化を達成するための電流信号の形状が使用される。
【0073】
2種類の異なる期間(t=2分およびt=0.5分)および同じ振幅(Jmax=100mA/cm2)を有する電流信号をアノード酸化処理の際に適用すると、2つの異なる長さを有する細孔構造が形成された。非対称細孔構造(「花瓶」形状)および異なる細孔長さ(1200nmおよび300nm)を有する形成されたAAOの典型的な例を図9a〜bの挿入図に示す。早いサイクルプロセスでは細孔構造の長さが減少したが、形状のわずかな変形ももたらした。
【0074】
細孔構造の長さに対するサイクル期間の影響を示す同様の結果が、正弦波形(図9c〜d)および三角形信号(図9e〜f〜g)を用いて得られた。図9e〜fは、時間の大きな違い(1分間対10分間)の特徴的な例を示し、短い(<100nm)および長い(>5μm)細孔間隔を有するAAOが形成された。これらの結果により、電流信号の時間の変化により細孔構造の長さが制御され、その結果、特に、速いサイクルを行った場合に細孔の形状に影響を及ぼすことが示される。
【0075】
サイクルプロセス中に電流信号の振幅を段階的に減少または増加させることは、細孔構造の形成に影響を及ぼす。0.1M H3PO4中-1℃で、J最初=110mA/cm2からJ最後=50mA/cm2まで15分のアノード酸化処理の際に最大振幅を段階的に減少させた電流信号(鋸歯状)を使用して、定電流サイクル式アノード酸化処理により形成されたAAO膜のSEM画像を図10aに示す。約10μmの厚さを有するAAO膜は、細孔長さ(700nmから100nm)および頂部から底部までの直径が連続的に減少する厚さ約7μmの垂直勾配で構成される。これらの形成されたAAOの構造の特徴は、振幅の勾配を減少させた適用電流信号と一致する。勾配層の長さ、細孔勾配率、細孔の形状、長さおよび周期性などの方向(減少対増加)は、適用電流信号の特性(振幅、形状、期間、勾配、時間)を変化させることで制御し得る。
【0076】
電気信号の形状を組み合わせたサイクルも使用することもできる。例えば、異なる形状(非対称、鋸歯状および対称、三角形)および振幅(鋸歯状についてJmin=10mA/cm2〜Jmax=120mA/cm2および三角形サイクルについてJmin=10mA/cm2〜Jmax=80mA/cm2、期間t=0.25〜0.5分)を有する2つのサイクルを合わせた電流信号を適用した。短い対称な細孔および長い非対称な細孔で構成される周期的な二重の成形された細孔幾何学構造を有する形成されたAAOのSEM画像を図11a〜bに示す。二重の細孔幾何学構造は、アノード酸化処理の際に適用された個々の電流信号の形状、振幅および期間に一致する。
【0077】
多重プロフィール電流サイクルを、異なる形状、期間および振幅を有するサイクルを組み合わせるソフトウェアにより作製し得る。多重プロフィール電流サイクルプロフィールにより形成されたAAO細孔の結果を図11c〜dに示す。形状、対称性、直径および長さが異なる5〜6個の一列に並んだ細孔で構成される混成細孔構造の形成により、AAOの非常に複雑な構造を設計および形成し得ることが確認される。
【0078】
異なるプロフィールの電流信号を使用したいくつかのサイクル工程の連続適用を組み合わせる多重サイクル式アノード酸化処理も、AAOの三次元ナノ構造化に使用し得る。細孔構造がマルチセグメント化された形成されたAAOの例を図12に示す。振幅を増加したサイクル(Jmin=10mA/cm2、Jmax 最後=120mA cm)、鋸歯状および三角形電流信号で構成される二重サイクルを有するアノード酸化処理(振幅Jmin=10mA/cm2〜Jmax=120mA/cm2、鋸歯状およびJmin=10mA/cm2〜Jmax=80mA/cm2、三角形状)、ならびに少なくとも一連の三角形サイクル(振幅Jmin=10mA/cm2〜Jmax=70mA/cm2)を含む、3種類の異なる連続サイクル式アノード酸化処理工程を適用した。
【0079】
得られたAAO膜(約8μm厚さ)のSEM画像は、形状、直径、長さおよび勾配が異なる細孔を含む3種類の異なる多孔性層を示す。細孔の長さおよび直径が増加した細孔勾配で構成される第1層を、非対称および対称な形状を有する二重形状の細孔を有する第2多孔性層ならびに短い球形の細孔を末端に有する層と連結する。
【0080】
本発明の方法で形成されるナノ多孔性アノード酸化処理アルミニウム材料は、適合された構造を有するナノワイア、ナノロッドおよびナノチューブの製造のための鋳型として使用し得る。これらの構造は、並行で多重積層型のブラウンラチェットとしてナノスケールで機能する能力も有する。
【実施例】
【0081】
好ましい態様の説明
実施例1-基板の作製
Alfa Aesar (USA)から供給された高純度(99.997%)のアルミホイルを基板材料として使用した。ホイルをアセトンで洗浄して、20Vの定電圧で2分間HClO4およびCH3CH2OHの1:4容量混合物中で電気化学的に研磨して表面を鏡面仕上げした。-1℃の冷却ステージを備えた電気化学的セルを使用して2工程アノード酸化処理を行った。J=0.15Acm2の電流密度を使用して、HA形態、20分、0.3Mシュウ酸中で第1アノード酸化処理工程を行った。その後、形成された多孔性酸化膜を6%のリン酸と1.8%のクロム酸の混合物により最低6時間、75℃で化学的に除去し、その後0.1Mリン酸、0.3Mシュウ酸または0.3M硫酸のいずれかでサイクル式アノード酸化処理を行った。この工程の開始時点で、固定電位で5分間、一般的なMA条件を使用して、それぞれの酸中で試料を最初にアノード酸化処理し、MA障壁層を有する最初の多孔性フィルムを得た。
【0082】
実施例2-サイクル式アノード酸化処理
パーソナルコンピューター制御電源(Agilent, USA)を使用してサイクル式アノード酸化処理を行った。Labviewベースソフトウェア(National Instrument, USA)を開発して、電圧信号(正弦波形、三角形、正方形、鋸歯状、およびそれらの組合せ、図2)、20〜500Vの振幅、0.1〜10分のサイクルの期間、および1〜500のサイクル数などの所望の特性を有する制御アノード酸化処理を行った。連続DC信号は定電圧および定電流(電流)形態の両方に適用し得る。また、ソフトウェアにより、サイクルプロセス中の最大アノード酸化処理電流ならびに最小および最大電圧を制御し得る。
【0083】
細孔構造化を実行するサイクル式アノード酸化処理のための最適なパラメーターを選択するために、電解質組成、濃度、温度、アノード酸化処理形態、および生じた電圧サイクルの特性に関連する電圧/電流値を含むパラメーターを考慮する必要がある。これらのパラメーターは、無秩序な効果、分岐効果、焼失効果なく、AAOの順番を維持する必要がある。電圧サイクル、最適振幅(最大/最小)、およびサイクル期間を、サイクルプロセス中の所望のアノード酸化処理電流および形態(MAおよびHA)に対応するように適合させた。これらのパラメーターを選択するために、特にアノード酸化処理電流を最適化するために、発明者は、電圧を3〜5分間徐々に上げて、直線スイープモードで単一電圧スキャンの最初の工程を行った。
【0084】
スキャン電圧範囲は、リン酸について50〜250V、シュウ酸について40〜120V、硫酸について20〜60Vと選択した。これらのスキャンから得られた電流-電圧曲線に基づいて、電圧サイクル信号についてのパラメーターを選択した。この工程は、Al基板の試料前処理、純度、結晶度および表面粗さ、ならびにアノード酸化処理条件(温度、混合、電解質組成、電極の距離等)の変動の結果、アノード酸化処理の際の不一致を予防するのに必要であることがわかった。
【0085】
次いで、一連の連続適用周期的電圧信号(1シリーズ当たり平均10〜50サイクル)を使用して、異なる酸溶液中でサイクル式アノード酸化処理を行った。細孔形成の制御におけるそれらの影響を調べるために、異なる形状、振幅および期間を有する電圧または電流サイクルを適用した。電圧時間および電流時間の信号をアノード酸化処理プロセスの間に連続的に記録した。アノード酸化処理の後、作製したAAOフィルムから、CuCl2/HCl溶液を使用して残ったAl層を除去し、次いで5%リン酸中で60〜70分間、細孔を開けた。
【0086】
リン酸電解質
0.1Mリン酸中、-1℃で、振動電圧および振動電流の信号(U-tまたはI-t)の両方を適用してサイクル式アノード酸化処理を行った。異なるプロフィール(鋸歯状、正弦波形、三角形、正方形、およびそれらの組合せ)、振幅(Umin=20V〜Umax=300V、Jmin=1mA〜Jmax=400mA)、サイクルの期間(t=0.1〜30分)およびサイクルの数n=1〜500を有する所望の振動電圧または振動電流信号特性を有する信号を使用して生成された、製造されたAAO細孔構造の特徴的な例を図3〜4、図7〜11に示す。これらの電気信号を使用したサイクルパラメーターを選択することにより、変更された細孔構造および異なる細孔幾何学構造(対称、非対称)、周期(直線および漸次)を有するAAOを製造した。階層的組織を含む単一、二重または複数の変更された細孔構造を有するAAOの製造を示して、複雑な3次元構造のAAOを設計するアプローチの潜在性を示した。
【0087】
シュウ酸電解質
0.3M H2C2O4中、-1℃で、異なる両方の定電圧(電圧)および定電流(電流)アノード酸化処理条件を使用して、サイクル式アノード酸化処理を行った。定電圧形態のサイクル式アノード酸化処理の際、サイクルプロセス(振幅、Umin=40V、Umax=110V、期間t=0.5分、鋸歯状)中のアノード酸化処理電流の自然の増大(ドリフト)(J=70〜110mA/cm2)の結果の、細孔構造の幾何学構造の変化を観察した。成形された細孔構造を有するAAOが製造されたが、電気信号による細孔形状(形状、振幅、および期間)の制御は再現性がなかった。従って、定電流サイクル式アノード酸化処理形態は、電流信号の特性により、再現性および細孔の形状を制御する能力の向上を示した。対称電流信号の異なる振幅(Jmin=2mA/cm2〜Jmax=150mA/cm2、正弦波形形状、および期間t=0.25〜1分)を使用して、異なる長さの細孔セグメントおよび異なる形状(環状およびビンの首)を有するAAOを示すいくつかの特徴的な例を図6に示す。
【0088】
硫酸電解質
0.3M硫酸中、-1℃で、定電圧および定電流形態の両方を使用して、AAOの成形された細孔構造の再現可能な製造を示すサイクル式アノード酸化処理を行った。正弦波形形状を有する電圧信号を使用したアノード酸化処理の典型的な例を、振幅、Umin=15V、Umax=35V、アノード酸化処理電流J=130〜150mA/cm2および期間0.5分で使用して、図5に示す。構造が周期的に変更された単一の細孔のモデルを有する形成されたAAO構造のモデルは、細孔セルの端に生じた断裂を示した(図5c)。図5dはAAO膜からほどいたAAOナノチューブの束のTEM画像を示す。
【0089】
実施例3-特徴づけ
走査型電子顕微鏡検査(SEM)Philips XI-30および透過型電子顕微鏡検査(TEM)(Philips CM100)を使用して、形成されたナノ多孔性陽極用酸化アルミニウム材料の構造を特徴付けた。
【0090】
最後に、本明細書に記載される本発明の方法および組成の種々の改変および変形は、本発明の範囲および精神を逸脱すること無く当業者に明白であることが理解されよう。本発明は、具体的な好ましい態様に関して記載されるが、特許請求される本発明は、かかる具体的な態様に不当に拘束されるものではないと理解されるはずである。実際に、当業者に明白である、記載された本発明を実施するための形態の種々の改変は、本発明の範囲内にあるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性金属酸化物材料または多孔性半金属酸化物材料を形成する方法であって、
- 金属基板または半金属基板を含むアノード基板を提供する工程;
- カソード基板を提供する工程;
- 該アノード基板および該カソード基板を酸電解質と接触させて、電気化学的セルを形成する工程;
- 該電気化学的セルに電気信号を適用する工程;ならびに
- (a) 適用された電気信号の電圧を時間的に変動させて、最小電圧が適用される最小電圧期間、最大電圧が適用される最大電圧期間、および最小電圧期間と最大電圧期間の間の移行期間を有する電圧サイクルを提供すること、ここで電圧は、移行期間中に最小電圧から最大電圧まで連続的に増加する、または
(b) 電気信号の電流を時間的に変動させて、最小電流が適用される最小電流期間、最大電流が適用される最大電流期間、および最小電流期間と最大電流期間の間の移行期間を有する電流サイクルを提供すること、ここで電圧は、移行期間中に最小電流から最大電流まで連続的に増加する
により、該金属基板または該半金属基板に成形細孔を形成する工程
を含む、方法。
【請求項2】
電気信号が対称形状信号または非対称形状信号である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
電気信号の形状が鋸歯状、正方形、三角形および正弦波形からなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
酸電解質が無機酸または有機酸を含む溶液である、請求項1〜3いずれか記載の方法。
【請求項5】
酸電解質中の酸が、リン酸、シュウ酸および硫酸からなる群より選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
酸電解質がリン酸であり、最小電圧が約100Vであり、最大電圧が約200〜約250Vである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
酸電解質がシュウ酸であり、最小電圧が約40Vであり、最大電圧が約110Vである、請求項5記載の方法。
【請求項8】
酸電解質が硫酸であり、最小電圧が約15Vであり、最大電圧が約35Vである、請求項5記載の方法。
【請求項9】
サイクル数が1〜200(両端を含む)である、前記請求項いずれか記載の方法。
【請求項10】
サイクル数が5〜20(両端含む)である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
低い電圧または電流期間中に適用される電流が約1.5〜約3mA/cm2である、前記請求項いずれか記載の方法。
【請求項12】
適用される電流が、移行期間中に約5mA/cm2から約60〜70mA/cm2まで増加する、前記請求項いずれか記載の方法。
【請求項13】
高い電圧または電流期間中に適用される電流が約200〜約270mA/cm2である、前記請求項いずれか記載の方法。
【請求項14】
時間変動電気信号が、最大電圧から最小電圧まで電圧が連続的に減少する第2移行期間を含む、前記請求項いずれか記載の方法。
【請求項15】
金属基板または半金属基板が、アルミニウム、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル、タングステン、ニオブ、ニッケル、コバルト、イリジウム、ゲルマニウム、ホウ素およびケイ素、ならびにそれらの合金を含む群より選択される、前記請求項いずれか記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15いずれか記載の方法により形成される、ナノ多孔性金属酸化物材料またはナノ多孔性半金属酸化物材料。
【請求項17】
周期的で非対称的な内部幾何学構造を有する1つ以上の細孔を有する、ナノ多孔性アノード金属酸化物材料またはナノ多孔性アノード半金属酸化物材料。
【請求項18】
ナノ多孔性アノード金属酸化物材料またはナノ多孔性アノード半金属酸化物材料のそれぞれの細孔が少なくとも1つの最小直径区画、少なくとも1つの最大直径区画、および各最小直径区画と最大直径区画の間の段階的な区画を有し、それぞれの段階的な区画の細孔の直径が最小直径から最大直径まで段階的に変化する、ナノ多孔性金属酸化物材料またはナノ多孔性半金属酸化物材料。
【請求項19】
- 金属基板または半金属基板を含むアノード基板;
- カソード基板;
- アノード基板およびカソード基板と接触した酸電解質;
- アノード基板およびカソード基板に電気信号を適用するための電気的手段;ならびに
- (a) 電気信号の電圧を時間的に変動させて、最小電圧が適用される最小電圧期間、最大電圧が適用される最大電圧期間、および最小電圧期間と最大電圧期間の間の移行期間を有する電圧サイクルを含む時間変動電気信号を提供すること、ここで電圧は、移行期間中に最小電圧から最大電圧まで連続的に増加する、または
(b) 電気信号の電流を時間的に変動させて、最小電流が適用される最小電流期間、最大電流が適用される最大電流期間、および最小電流期間と最大電流期間の間の移行期間を有する電流サイクルを含む時間変動電気信号を提供すること、ここで電圧は、移行期間中に最小電流から最大電流まで連続的に増加する
のための信号制御手段
を含む、電気化学的セル。
【請求項20】
電気信号が対称形状信号または非対称形状信号である、請求項19記載の電気化学的セル。
【請求項21】
電気信号の形状が、鋸歯状、四角形、三角形および正弦波形からなる群より選択される、請求項20記載の電気化学的セル。
【請求項22】
酸電解質が無機酸または有機酸を含む溶液である、請求項19〜21いずれか記載の電気化学的セル。
【請求項23】
酸電解質中の酸が、リン酸、シュウ酸および硫酸からなる群より選択される、請求項22記載の電気化学的セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−511100(P2012−511100A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538801(P2011−538801)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001588
【国際公開番号】WO2010/065989
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(501345909)ユニバーシティ オブ サウス オーストラリア (5)
【氏名又は名称原語表記】University of South Australia