説明

ナノ材料を曲げる方法およびナノ材料の作動装置

【課題】ナノ材料からなる機能的微小構造体の創製の要請に対応しつつ、ワイヤ状あるいはシート状のナノ材料に対して曲げ加工を実現できるナノ材料を曲げる方法、およびこれを利用したナノ材料の作動装置を提供する。
【解決手段】ナノワイヤ1の表面に、加工後の使用温度とは相異なる加工温度において、ナノワイヤ1とは相異なる線膨張係数を有する異材2を形成する。形成後の断面は、加工温度と使用温度との温度差によって生じる熱応力が、断面に曲げモーメントを発生せしめるように、異材2の断面内配置に非対称性を有する。加工温度から使用温度に温度を変化させると、前記の曲げモーメントにより曲げ変形が発生し、これにより曲げ加工が実現できる。また、加工後の当該ナノ材料について使用温度を変化させることにより、上記と同様の原理により曲げ変形の曲率を変化させることができ、これにより超微小な作動装置を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば真直ナノワイヤなどのナノ材料を用いて、リング状やコイル状の微小構造物を作製する際に利用できるナノ材料の曲げ加工法およびナノ材料からなる超微小な作動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノワイヤに代表されるナノ材料を用いて、微小な3次元構造体を製作し、これにセンサ機能やアクチュエーション(作動)機能を持たせることにより、従来に比べ格段に小さく、また機能的に優れたナノ構造システムの構築の実現に大きな期待が寄せられている。当該システムの構築には、その素材となるナノ材料を必要な形状に曲げ加工することができる手法が必要となる。ナノ材料は、長さに比べ直径や厚さが極端に小さいため、一時的に外部から負荷を与えて曲げ変形を発生させたとしても、曲げ応力が塑性変形を発生させるほどに十分に大きくならず、除荷後には曲げ変形が消えて元の形状に戻ってしまう。また、金属ナノワイヤや半導体ナノワイヤの代用的なナノ材料は、一般に高強度であり脆性的な破壊挙動を示す。以上のように、ナノ材料の塑性曲げ加工は極めて困難である。
【0003】
以上とは異なり、ナノ材料の合成法の工夫により、曲がりを有するナノ材料を直接作製する手法が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。これは、炭素原子を含むガスの雰囲気中で、基板上に集束イオンビームを照射することにより炭素を堆積させるという、集束イオンビーム援用の化学気相堆積法である。これにより、直径約100nmの炭素ワイヤからなる外径380nmのナノスプリングを製作している。集束イオンビームの走査により任意の形状の構造体を形成できるという利点があるが、数億円という高額な集束イオンビーム装置を数時間にわたり使用するため、経済的な問題や製作効率の問題を無視することができない。
【0004】
ナノ材料の合成法の工夫により、曲がりを有するナノ材料を直接作製する手法が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。ここでは、非特許文献1とは異なり、集束イオンビームを用いてはいない。また、原材料として、代表的な圧電体である酸化亜鉛(ZnO)を用いている。ZnO固体をチャンバー内で加熱昇華させ、チャンバー内圧の調整により、ナノリボン(ナノベルト)よりなるリング状、スプリング状のナノ構造体を合成している。このような構造体が合成できる理由は、ZnOの結晶構造に起因した表面の分極性によるものである。したがって、この方法は、利用できる材料が圧電性を有するものに限定される。
【0005】
一方、作動機能に関しては、非特許文献2において、圧電性ナノリボンを利用した方法が検討されている。
【0006】
【非特許文献1】Masao NAGASE, Kenichiro NAKAMATSU, Shinji MATSUI, Hideo NAMATSU and Hiroshi YAMAGUCHI,“Carbon Multiprobe on a Si Cantilever for Pseudo-Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect-Transistor”, Japanese Journal of Applied Physics, 2006, Vol.45, No.3B, pp.2009‐2013
【非特許文献2】Zhong Lin WANG,“Piezoelectric Nanostructures: From Growth Phenomena to Electric Nanogenerators”, MRS Bulletin, 2007, Vol.32, No.2, pp.109‐116
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1や非特許文献2のように、ナノ材料の合成時にスプリングなどの曲がりを有するナノ構造体を直接作製する手法があるが、経済的な問題、製作効率の問題や材料が限定されるという問題がある。一方、ナノ材料に永久的な曲げ変形を与えることのできる経済的な加工方法が利用できれば、上記の問題が解決できる。しかしながら、そのような有効な曲げ加工方法は未だ存在しない。また、作動機能に関しても、圧電性材料に限定されるという問題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ナノ材料からなる機能性微小構造体の構築の要請に対応しつつ、ワイヤ状あるいはシート状のナノ材料に対して曲げ加工を実現できるナノ材料を曲げる方法、およびこれを利用したナノ材料の作動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成させるために、請求項1に記載の発明は、所定の加工温度において、ワイヤ状あるいはシート状のナノ材料の表面に、前記ナノ材料とは異なる線膨張係数を有する一種以上の異材を、断面内配置が前記ナノ材料に対して非対称性を有するよう設け、前記加工温度とは異なる使用温度に環境温度を変化させた際に生じる熱応力により、前記ナノ材料の断面に曲げモーメントを発生させて、前記ナノ材料を曲げるようにしたことを要旨とする。
【0010】
なお、本発明は、直径あるいは厚さが数百ナノメートル程度、あるいはそれ以下のナノ材料を主たる対象とするが、直径あるいは厚さがそれ以上であっても適用できる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のナノ材料を曲げる方法において、製膜技術により前記異材を前記ナノ材料の表面に堆積させて設ける方法を用いることを要旨とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のナノ材料を曲げる方法において、前記異材はワイヤ状あるいはシート状であり、前記異材を前記ナノ材料の表面に貼り合わせ(接合)て設ける方法を用いることを要旨とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1、2または3記載のナノ材料を曲げる方法を用いて曲げ加工されたナノ材料と、前記ナノ材料の曲げ変形の曲率を変化させるよう、前記ナノ材料の温度を変化可能に設けられた温度調節器とを、有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナノ材料からなる機能性微小構造体の構築の要請に対応しつつ、ワイヤ状あるいはシート状のナノ材料に対して曲げ加工を実現することができ、また超微小な構造体において作動機能を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を、図1〜図3に従って説明する。
図1は、製膜技術を用いた実施形態の説明図である。ここでは、ナノ材料の例として、基板から直立したナノワイヤ1を取り上げて説明している。スパッタリングなどの製膜技術を用いて、図1(a)の矢印のような方向で、すなわちナノワイヤ1の長軸方向に対して0度より大きい角度を持って異材2の原子および粒子を飛翔させ、ナノワイヤ1表面に堆積させる。これにより、異材2の膜厚は、図1(b)のように、ナノワイヤ1の周方向で不均一となる。異材2には、線膨張係数がナノワイヤ1と互いに異なる材料を使用する。また、製膜(堆積)時のナノワイヤ基板の温度は、温度制御技術等を用いて、製膜後の屈曲ナノワイヤ1の使用温度とは異なる温度に設定する。すなわち、製膜時および使用時の環境温度に有限の差をもたせる。異材2の線膨張係数がナノワイヤ1に比べ小さく、かつ使用時の温度が製膜時の温度に比べ小さい場合、ナノワイヤ1が異材2に比べ長軸方向に大きく熱収縮しようとするため、当該被覆ナノワイヤには、屈曲形状3のように、異材2の膜厚の大きい側(図1(b)の右側)を凸側として曲げ変形が発生する。なお、ここでは、ナノワイヤ1を例として取り上げたが、ナノリボンなどのナノシートにも適用できる。
【0016】
以下に、銅(Cu)ナノワイヤを用いた曲げ加工例を説明する。図2は、Cuナノワイヤの走査型電子顕微鏡写真である。Cuナノワイヤは、銅薄膜で被覆された基板の銅薄膜表面から生えている。これらのCuナノワイヤは、銅薄膜内のストレスマイグレーションによって発生させたウィスカである。なお、Cuナノワイヤは、基板表面に対してほぼ垂直に立っているものが多い。
【0017】
さて、線膨張係数がCuの約半分である白金パラジウム合金(Pt‐Pd)をターゲットとしたスパッタ装置(イオン蒸着装置)を用いて、前記のCuナノワイヤ基板のCu膜側に、Pt‐Pdを約10nmの厚さで堆積させた。その際の製膜条件は、荷電電流12±2mAおよび時間300秒であった。また、当該Cuナノワイヤ基板を、Pt‐Pd原子流が当該基板表面に対して斜め入射するようにスパッタ装置内に設置したため、当該基板表面に対してほぼ垂直に立っているCuナノワイヤに対しても、形成されるPt‐Pd膜はワイヤの周方向で不均一となる。また、製膜時に、Cuナノワイヤや基板の温度は、自家発熱により自然に上昇する。図3は、上記の製膜終了後、室温に戻した際のPt‐Pd被覆Cuナノワイヤの走査型電子顕微鏡写真である。このように、直径約50nmのナノワイヤからなる外径400nm程度のナノコイル(1巻き分)が確認でき、本発明の有効性が実証できる。
【0018】
(第2の実施形態)
次に、本発明を具体化した第2の実施形態を、図4に従って説明する。
図4は、貼り合わせ(接合)技術を用いた実施形態の説明図である。ここでは、ナノ材料の例として、基板から直立したナノワイヤ4を取り上げて説明している。ナノワイヤ4の曲げたい箇所に、異材ナノワイヤ5を、長軸方向に接合する。図4(b)は、接合部の断面である。異材ナノワイヤ5には、線膨張係数がナノワイヤ4と互いに異なる材料を使用する。また接合時のナノワイヤ基板の温度は、温度制御技術等を用いて、製膜後の屈曲ナノワイヤの使用温度とは異なる温度に設定する。すなわち、接合時および使用時の環境温度に有限の差をもたせる。異材ナノワイヤ5の線膨張係数がナノワイヤ4に比べ小さく、かつ使用時の温度が接合時の温度に比べ小さい場合、ナノワイヤ4が異材ナノワイヤ5に比べ長軸方向に大きく熱収縮しようとするため、当該ナノワイヤ4の接合部には、屈曲形状6のように、異材ナノワイヤ5の側(図4(b)の右側)を凸側として曲げ変形が発生する。なお、ここでは、ナノワイヤ4を例として取り上げたが、ナノリボンなどのナノシートにも適用できる。
【0019】
前記各実施形態において、実用上重要な曲げ加工の曲率制御は、ナノ材料(ナノワイヤ1、4)、および、これに付設する異材(異材2、異材ナノワイヤ5)の両者における、線膨張係数の差、断面積・断面形状配置、弾性係数、付設(異材の形成)時および使用時の環境温度差の4つのパラメータを調整することにより実現できる。
【0020】
(第3の実施形態)
次に、本発明を具体化した第3の実施形態を、図1に従って説明する。
曲げ加工後のナノ材料3の温度を、当該ナノ材料3を支持する基板に付与した加熱用のヒーターあるいは加熱冷却用のペルチエ素子、および温度計測用の温度センサを用いて、所定の温度に変化させ、これに伴いナノ材料3の曲げ変形の曲率を所定の量に変化させることにより、作動装置としての働きを実現できる。なお、当該加熱用ヒーターの代わりに、輻射伝熱を利用したヒーターを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態のナノ材料を曲げる方法およびナノ材料の作動装置を示す(a)ナノ材料の曲げ変形様態の側面図、(b)ナノ材料の断面図である。
【図2】図1に示すナノ材料を曲げる方法による曲げ加工前の銅ナノワイヤの走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図1に示すナノ材料を曲げる方法による曲げ加工後の銅ナノワイヤの走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の第2の実施形態のナノ材料を曲げる方法を示す(a)ナノ材料の曲げ変形様態の側面図、(b)ナノ材料の断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ナノワイヤ
2 異材
3 屈曲形状
4 ナノワイヤ
5 異材ナノワイヤ
6 屈曲形状

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の加工温度において、ワイヤ状あるいはシート状のナノ材料の表面に、前記ナノ材料とは異なる線膨張係数を有する一種以上の異材を、断面内配置が前記ナノ材料に対して非対称性を有するよう設け、前記加工温度とは異なる使用温度に環境温度を変化させた際に生じる熱応力により、前記ナノ材料の断面に曲げモーメントを発生させて、前記ナノ材料を曲げることを、特徴とするナノ材料を曲げる方法。
【請求項2】
製膜技術により前記異材を前記ナノ材料の表面に堆積させて設けることを、特徴とする請求項1記載のナノ材料を曲げる方法。
【請求項3】
前記異材はワイヤ状あるいはシート状であり、前記異材を前記ナノ材料の表面に貼り合わせて設けることを、特徴とする請求項1記載のナノ材料を曲げる方法。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のナノ材料を曲げる方法を用いて曲げ加工されたナノ材料と、
前記ナノ材料の曲げ変形の曲率を変化させるよう、前記ナノ材料の温度を変化可能に設けられた温度調節器とを、
有することを特徴とするナノ材料の作動装置。


【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−246613(P2008−246613A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89548(P2007−89548)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)