ナノ構造
【課題】ナノ構造へ可逆的に自己組織化することができる、水素結合官能基を有する両親媒性有機化合物を提供する。
【解決手段】互いに非共有結合している下記の化合物の分子を含むナノ構造であって、
上式で、R1からR6の少なくとも1個は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表し、R1からR6のその他の少なくとも1個はX−Rcであり、R1からR6の残りは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換有機基を表し、Xは、結合基を表し、Rcは、置換または非置換アルキル基を表す、ナノ構造。
【解決手段】互いに非共有結合している下記の化合物の分子を含むナノ構造であって、
上式で、R1からR6の少なくとも1個は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表し、R1からR6のその他の少なくとも1個はX−Rcであり、R1からR6の残りは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換有機基を表し、Xは、結合基を表し、Rcは、置換または非置換アルキル基を表す、ナノ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の開示は、一般に、明確にされたナノ構造へと可逆的に自己組織化することができる、水素結合(H結合)官能基を有する両親媒性有機化合物と、これら自己組織化ナノ構造を形成する方法とを対象とする。
【背景技術】
【0002】
材料科学における最近の技術傾向は、ナノテクノロジによって可能になる成分および材料の使用により、高い(時にはブレークスルーでもある)性能が示されることに起因したより多くの魅力を得ることを示している。機能性ナノ材料は、それらのバルク対応物の場合とは異なった、多くの独自のかつしばしば調整可能な物理的および化学的性質を示す。「トップダウン(top down)」または「ボトムアップ(bottom up)」の製作戦略を含め、明確な形状および寸法を有するナノ材料の製作に対し、最近開発が行われている。「トップダウン」の手法では、より大きな構造を、所望の寸法を有する所望の形状へと小さく切断する(例えば、ナノリソグラフィ)。「ボトムアップ」戦略では、より小さな構成単位から所望の形状および寸法を有する構造へと成長させる(例えば、自己組織化)。後者は、さらにより効率的でありかつコスト集約的およびエネルギ集約的製作プロセスの必要性が回避されるので、好ましい手法である。
【0003】
分子の自己組織化は、ナノ構造化材料に到達する実用的な「ボトムアップ」手法である。この手法では、自己相補的分子(self−complementary molecule)が、秩序ある手法で凝集するために、特定のサイズ、形状、および少なくとも1個の官能基を有する「構成単位(building block)」として設計される。得られた集合体は、その集合体のより小さな構成サブ単位とは完全に異なる性質をしばしば有する。しかし、この手法の課題は、最終の所望のサイズおよび形状を実現することができるように、制御された手法で有用なナノ構造へと組織化することができる適切な分子サブ単位を設計することである。その結果、水素結合分子構成単位のモジュール式使用は、例えば接着剤や自己治癒コーティングならびに他多数などの高機能材料を開発するのに有用な性質を有する、新規なナノスケール超分子構造、非共有ポリマ、有機ゲル化剤、および液晶を設計するための鍵である。
【0004】
両親媒性アルキル化安息香酸(BA)、フタル酸(PA)、およびイソフタル酸(ISA)誘導体は、表面の生理吸着単層として(エス・デフェイター、エイ・ゲスキエレ、エム・クラッパー、ケイ・ムレン、エフ・シー・デシュライバー、Nano Lett.2003、3,11、1485〜1488参照)溶液中で(ジェイ・ヤン、ジェイ・エル・マレンダツ、エス・ジェイ・ゲイブ、エイ・ディー・ハミルトン、Tet.Lett.1994、22、3665〜3668参照)、または固体状態で(エイ・ザファー、ジェイ・ヤング、エス・ジェイ・ゲイブ、エイ・ディー・ハミルトン、Tet.Lett.1996、37、14、2327〜2330参照)、水素結合を通して超分子凝集体へと自己組織化することが知られている。安息香酸は、主として、自己会合して水素結合ダイマまたはカテマーモチーフ(catemer motifs)を形成する(ジェイ・エヌ・モーシー、アール・ナタラジャン、ピー・マル、ピー・ベヌゴパラン、J.Am.Chem.Soc.2002、124、6530〜6531参照)。イソフタル酸誘導体の場合、線状テープ/リボンおよび環状ロゼットの水素結合モチーフが、種々の誘導体に関して、STMにより表面に堆積した状態でまたは固体状態の結晶構造で観察された(ザファー(上記)、およびブイ・ケイ・ポトルリ、エイ・ディー・ハミルトン、J.Supramol.Chem.2002、2、321〜326参照)。ポトルリ(上記)に記述されるように、環状モチーフは、より嵩高い5置換基(すなわち、デシルオキシ基またはベンズヒドリルオキシウンデシルオキシ)を典型的には有する傾向があり、これらの置換基が、直鎖状配置構成(linear arrangement)を安定化させる結晶性側鎖充填(crystalline side−chain packing)を破壊する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Yan, J.-L. Marendaz, S. J. Geib, A. D. Hamilton, Tet. Lett. 1994, 22, 3665-3668
【非特許文献2】S. De Feyter, A. Gesquiere, M. Klapper, K. Mullen, F. C. De Schryver, Nano Lett. 2003, 3, 11, 1485-1488
【非特許文献3】A. Zafar, J. Yang, S. J. Geib, A. D. Hamilton, Tet. Lett. 1996, 37, 14, 2327-2330
【非特許文献4】J. N. Moorthy, R. Natarajan, P. Mal, P. Venugopalan, J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 6530-6531
【非特許文献5】V. K. Potluri, A. D. Hamilton, J. Supramol. Chem. 2002, 2, 321-326
【非特許文献6】S. R. Nam., H. Y. Lee, J- I. Hong, Tetrahedron 2008, 64, 10531-10537
【非特許文献7】H. Y. Lee, S. R. Nam, J- I. Hong, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 1040-1041
【非特許文献8】O. Lebel, M- E. Perron, T. Maris, S. F. Zalzal, A. Nanci, J. D. Wuest, Chem. Mater. 2006, 18, 3616-3626
【非特許文献9】H- Y. Hu, Y. Yang, J- F. Xiang, C- F. Chen, Chin. J. Chem.2007, 25, 1389-1393
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、新しく改善された、ナノテクノロジにより可能になった成分および材料、特に、「ボトムアップ」製作戦略によって容易に自己組織化して明確なナノ構造および潜在的な高次網状構造(higher−order network structure)を生成することができる自己相補的官能基(self−complementary functional group)を有するものであって、機能性材料の開発で有用でありかつ望ましい性質にすることができるものが、依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、互いに非共有結合している下記の化合物の分子を含むナノ構造であって、
【化1】
上式で、R1からR6の少なくとも1個は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表し、R1からR6のその他の少なくとも1個はX−Rcであり、R1からR6の残りは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換有機基を表し、
Xは、結合基を表し、
Rcは、置換または非置換アルキル基を表す、ナノ構造である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の材料の、STEM画像を示す図である。
【図2A】実施例2の材料の、SEM画像を示す図である。
【図2B】実施例2の材料の、SEM画像を示す図である。
【図3A】実施例3の材料の、SEM画像を示す図である。
【図3B】実施例3の材料の、SEM画像を示す図である。
【図3C】実施例3の材料の、SEM画像を示す図である。
【図4A】実施例3の材料の、SEM画像を示す図である。
【図4B】実施例3の材料の、SEM画像を示す図である。
【図5】実施例4の材料の、SEM画像を示す図である。
【図6A】実施例5の材料の、SEM画像を示す図である。
【図6B】実施例5の材料の、SEM画像を示す図である。
【図7A】実施例6の材料の、SEM画像を示す図である。
【図7B】実施例6の材料の、SEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「ナノ構造」は、最小寸法などの少なくとも1つの寸法において、1nmもしくは10nmもしくは20nmから100nmもしくは200nmもしくは500nmに及ぶサイズ、例えば10nmから300nmなどのサイズを有し、かつ望ましくはサイズが5000nm未満、例えばサイズが2000nm未満、またはサイズが1000ナノメートル未満の最大寸法を有する、物理的構造(例えば、粒子など)を指す。
【0010】
「1D構造」は、高さまたは幅(または直径)よりも著しく大きい長さを有する構造を指す。アスペクト比(長さ/幅)は、少なくとも5、または少なくとも10、例えば100〜500などにすることができる。したがって、これらの1D構造は、ストリング(導電性である場合には、ワイヤと呼ぶことができる)またはテープなどの形をとることができる。
【0011】
「2D構造」は、サイズが同等な長さおよび幅を有するが深さがない(または無視できる深さ)、平らで平坦な構造を指す。アスペクト比は、最大で5であり、例えば2または1である。「2D構造」は、多孔質または非多孔質のシート構造(例えば、フィルムまたはウェーハ)であってもよい。
【0012】
「3D構造」は、相対的なサイズが同等でありかなりのものである、長さ、幅、および高さの寸法を有する構造を指す。「3D構造」は、より小さい(より基本的な)ナノ構造、すなわち1D構造の、高次配置構成を指す。3D構造は、ゲル網状構造のような多孔質網状構造、または液晶などのさらにより高次のそれほど多孔質ではない網状構造を含んでもよい。
【0013】
「ナノフィブリル(nanofibril)」は、望ましくは100nm未満のサイズ、例えば50nm未満のサイズ、または20nm未満のサイズなどの直径を有する、細長いフィラメントまたはファイバに似た1D構造を指す。ナノフィブリルの長さは、20nmから5000nmまでまたはそれ以上に及ぶことができる。
【0014】
「ナノファイバ(nanofiber)」は、望ましくは200nm未満のサイズ、または100nm未満、または50nm未満のサイズの直径を有する太いフィラメントまたはファイバに似た1D構造を指す。「ナノファイバ」は、単一構造要素からなるものであってもよく、またはより小さい「ナノフィブリル」の束など複数の構造要素からなるものであってもよい。
【0015】
芳香族酸のアルキル化誘導体は、単独でまたは他の材料と組み合わせて、より大きな構造へと自己組織化する機能を有する。例えば、その化合物は、2009年3月16日出願の米国特許出願第12/405079号に開示されるように、着色剤分子と自己組織化してナノスケール顔料粒子組成物を形成するのに使用することができる。したがって芳香族酸のアルキル化誘導体は、大部分がナノスケール粒子であるものが生成されるように、一次粒子の凝集および成長の程度を制限することができる。芳香族酸のアルキル化誘導体の多数の分子は、同じでも異なっていてもよく、互いに自己組織化してより大きな一次元、二次元、またはさらに三次元構造を形成してもよい。
【0016】
一般に、芳香族酸のアルキル化誘導体は、化合物の機能によって凝集構造の粒度を調節できるようにするために、十分な立体的な嵩をもたらす炭化水素部分を有する。実施形態における炭化水素部分は、大部分が脂肪族であるが、その他の実施形態では、芳香族基を組み込むこともでき、一般に少なくとも6個、例えば少なくとも12個または少なくとも16個の炭素、および100個以下の炭素を含有する。炭化水素部分は、直鎖状、環状、または分枝状にすることができ、実施形態では分枝状であることが望ましく、シクロアルキル環や芳香環などの環状部分を含有してもしなくてもよい。脂肪族分枝は長く、少なくとも2個の炭素が各分枝にあり、例えば少なくとも6個の炭素が各分枝にあり、かつ100個以下の炭素が各分枝にある。
【0017】
「立体的な嵩(steric bulk)」という用語は、芳香族酸のアルキル化誘導体が非共有的に会合するようになる可能性があるその他の化合物のサイズとの比較に基づいた、相対的用語である。「立体的な嵩」は、水素結合に関与する化合物の炭化水素部分が、他の化学物質の接近または会合を効果的に防止する三次元空間容積を占有するときの状況を指す。例として、芳香族酸のアルキル化誘導体上の以下の炭化水素部分は、化合物が自己組織化および凝集の程度を制限できるようにかつ主にナノスケール構造を生成するように適切な「立体的な嵩」を有する。
【化2】
および
【化3】
【0018】
適切な芳香族酸のアルキル化誘導体は、両親媒性であることが望ましく、標的分子とのH結合に利用可能なヘテロ原子を有する親水性または極性官能基、ならびに少なくとも6個の炭素および100個以下の炭素を有しかつ大部分が脂肪族(直鎖状、分枝状、または環状)基であるがいくつかのエチレン系不飽和基および/またはアリール基を含むことができる無極性または疎水性の立体的に嵩高い基を保持する。
【0019】
適切な芳香族酸のアルキル化誘導体の代表例は、以下の一般式の化合物を含む(しかし、これらに限定されない)。
【化4】
(式中、R1からR6の少なくとも1個は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表し、R1からR6のその他の少なくとも1個はX−Rcであり、R1からR6の残りは独立して、Hまたは置換もしくは非置換有機基を表し、Xは、結合基を表し、Rcは、置換または非置換アルキル基を表す)
【0020】
上式により、R1からR6の2個の隣接する基が、下式のような環状アミド構造を形成している化合物も包含される。
【化5】
(式中、R1からR4は、上記にて定義された通りであり、Aは、−C(=O)−NH−C(=O)−や−NH−C(=O)−O−などの1個以上の官能基を含む部分を表す)
【0021】
上式において、置換または非置換有機基を表す基は、特に限定されず、所望の結果が得られるように適切に提供することができる。適切な基には、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、置換もしくは非置換アリール−アルキル基、または置換もしくは非置換アルキル−アリール基などが含まれ、これらの置換基は、例えば、炭化水素基、置換炭化水素基、ヘテロ原子、またはハロゲンなどにすることができる。
【0022】
基R1からR6の少なくとも1個は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表す。適切な基には、−COOH、−CONH2、−COO、−(C=NH)−NH2、およびこれらの塩、例えばアルカリ塩、および第4級アルキルアミンを有する塩などが含まれる。一実施形態では、R1からR6の1個だけが、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表し、例えばカルボン酸基または第1級アミド基であり、その他の実施形態では、R1からR6の2個または3個が独立して、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表すことができ、例えばカルボン酸基または第1級アミド基である。2個以上のカルボン酸基または第1級アミド基が1分子内に存在する場合、これらの基は、R1からR6のいずれかにあってもよく、したがって隣接する位置にあってもよく、または隣接しない位置にあってもよい。
【0023】
同様の手法で、基R1からR6の少なくとも1個はX−Rcを表す。一実施形態では、R1からR6の1個だけがX−Rcを表し、その他の実施形態では、R1からR6の2個、3個、4個、または5個が独立してX−Rcを表す。2個以上のX−Rc基が1分子内に存在する場合、これらの基は、R1からR6のいずれかにあってもよく、したがって隣接する位置にあってもよく、または隣接しない位置にあってもよい。さらに、X−Rc基、または複数個存在する場合のX−Rc基の1個以上は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩の1種以上に隣接させることができ、またはそのような基に隣接させないことができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、R1からR6の1個以上、例えば1個、2個、3個、または4個は、Hを表すことができる。しかし、化合物のその他の部分同士で水素結合を引き起こすことができるような、その他の実施形態では、R1からR6のすべてが、上述のようなH以外の基を表すことができる。
【0025】
1つの例示的な実施形態では、R1からR6の1個が、カルボン酸基または第1級アミド基を表し、例えばカルボン酸基を表し、R1からR6の2個が独立してX−Rcを表す。例えば、R1は、カルボン酸基または第1級アミド基を表し、例えばカルボン酸基を表し、R3およびR5は独立してX−Rcを表す。
【0026】
別の例示的な実施形態では、R1からR6の2個が独立して、カルボン酸基または第1級アミド基を表し、例えば共にカルボン酸基を表しまたは共に第1級アミド基を表し、R1からR6の1個がX−Rcを表す。例えばR1およびR3は独立して、カルボン酸基または第1級アミド基を表し、例えば共にカルボン酸基を表しまたは共に第1級アミド基を表し、R5はX−Rcを表す。
【0027】
結合基Xは、置換または非置換アルキル基Rcを芳香族酸部分に結合する、任意の適切な官能基にすることができる。適切な結合基の例には、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、アミド基(−NH−(C=Z)−)および(−(C=Z)−NH−)、アミン基(−NH−)、尿素基(−NH−(C=Z)−NH−)、カルバメートまたはウレタン基(−NH−(C=Z)−O−)および(O−(C=Z)−NH−)、カーボネート基、およびエステル基(−(C=Z)−O−)または(−O−(C=Z)−)が含まれ、但しヘテロ原子Zは、OまたはSにすることができる。
【0028】
Rc基は、例えば、少なくとも6個の炭素原子を有する置換または非置換のアルキル基である。Rc基も含めた、H、またはカルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩ではない基R1からR6は、化合物が構造的に凝集したときに立体的に嵩高い層を提供することができる、任意の適切なアルキル基にすることができ、それによって、制御されない凝集および粒子の成長をもたらすその他の粒子または分子の接近が、防止されまたは制限される。立体的に嵩高いアルキル基の特定の例には、1から約100個、例えば1から約50個または6から約30個などの炭素原子の直鎖状または分枝状アルキル基であって、次の一般式で示されるような大きな直鎖状、分枝状、および/または環状脂肪族基を含むもの:
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
および
【化10】
と、1から約50個、例えば1から約40個または6から約30個などの炭素原子の置換直鎖状または分枝状アルキル基であって、式−CO−(CH2)n−CH3を有し、ここで、nは0から約30であるものなども含まれる。その他の有用なRc基には、より高い分枝度を有する脂肪族炭化水素、環状炭化水素、さらに、O、S、Nなどのヘテロ原子を含有するより極性の高い基であって、オリゴ−またはポリ−[エチレングリコール]などの直鎖状または分枝状アルキレンオキシ鎖を含んだものを含めてもよい。
【0029】
したがって、例えば、芳香族酸誘導体を下式のものにすることができるが、これらに限定するものではない。
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
または
【化15】
(式中、Y=OHまたはNH2であり、Z=O、NH、またはSであり、基Rcは、複数のRcが存在する場合には同じでも異なっていてもよい)
【0030】
実施形態において、基Rcは、次の一般式で示されるように、2個以上の芳香族酸部分を架橋する2官能性部分にすることもできる。
【化16】
式中、適切な2官能性基Rcの例には、−(CH2)n−;−X−(CH2)nX−;−[(XCH2CH2)n]X−;−[(C=O)−(CH2)n−(C=O)]−;−X−[(C=O)−(CH2)n−(C=O)]−X−;−X−[(C=O)−X−(CH2)n−X−(C=O)]−X−;−[(C=O)−X−(CH2)n−X−(C=O)]−が含まれ、但しXは、O、S、−SO−、−SO2−、またはNHと定義され、整数nは、1から約50であり、さらに、下式のような大型分岐状アルキル化官能基も含まれる。
【化17】
【化18】
および
【化19】
(上式で、X、X1、およびX2は、O、S、−SO−、−SO2−またはNHと定義され、X1およびX2は同じでも異なっていてもよい)
【0031】
したがって、アルキル化ベンズイミダゾロン化合物の特定の例には、下記の表1、2、および3に示されるものが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
【表6】
【0038】
【表7】
【0039】
【表8】
【0040】
【表9】
【0041】
【表10】
【0042】
【表11】
【0043】
【表12】
【0044】
【表13】
【0045】
【表14】
【0046】
【表15】
【0047】
【表16】
【0048】
【表17】
【0049】
【表18】
【0050】
【表19】
【0051】
【表20】
【0052】
【表21】
【0053】
【表22】
【0054】
【表23】
【0055】
【表24】
【0056】
【表25】
【0057】
【表26】
【0058】
【表27】
【0059】
【表28】
【0060】
【表29】
【0061】
【表30】
【0062】
【表31】
【0063】
【表32】
【0064】
【表33】
【0065】
【表34】
【0066】
【表35】
【0067】
【表36】
【0068】
【表37】
【0069】
【表38】
【0070】
当業者に周知でなじみのあるアミンやアルコールなどの求核試薬と反応させるために芳香族酸およびアルカン酸を活性化する多くの方法がある。ある方法では、当業者にとって任意の所望のまたは有効な方法を使用して、芳香族酸またはアルカン酸を、それぞれ、対応する芳香族酸塩化物またはアルカン酸塩化物に変換する。例えば、芳香族酸塩化物またはアルカン酸塩化物は、典型的には溶媒の存在下、および任意選択で触媒の存在下、塩素化試薬との反応によって、それぞれ、対応する芳香族酸前駆体またはアルカン酸前駆体から調製してもよい。適切な塩素化試薬には、塩化オキサリル、塩化チオニル、三塩化リン、または五塩化リンを含めることができるが、これらに限定するものではない。その他の試薬は、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、およびベンゾトリアゾールを含み、これらに限定されないが、アミノとの反応のため、カルボン酸を活性化するのに使用してもよい。
【0071】
より具体的には、芳香族酸またはアルカン酸は、適切な溶媒中、0から5℃で、任意選択の触媒の存在下、塩化オキサリルと反応させることができる。触媒の例には、N,N−ジメチルホルムアミドが含まれる。触媒を使用する場合、この触媒は、任意の所望のまたは有効な量で存在させることができる。一実施形態では、塩化オキサリルの量に対して少なくとも0.1mol%、別の実施形態では少なくとも0.5mol%、別の実施形態では少なくとも1mol%、別の実施形態では少なくとも10mol%、さらに別の実施形態では少なくとも20mol%であるが、量はこれらの範囲外もあり得る。
【0072】
芳香族酸またはアルカン酸および塩化オキサリルは、芳香族酸またはアルカン酸1mol当たりの塩化オキサリルが0.8molから3.0mol、または1.0molから2.0mol、または1.2molから1.5molなど、任意の所望のまたは有効な相対量で存在する。
【0073】
芳香族酸またはアルカン酸と塩化オキサリルとの間の反応の後、第1の反応生成物を回収する必要はなく、反応混合物は、反応を終了させるため、必要に応じて溶媒および塩基を添加すると共に、適切なアミンと適切に混合することができる。あるいは、第1の反応生成物である酸塩化物は、反応を終了させるために必要に応じて任意選択の溶媒および塩基を添加すると共に、アミンと混合する前に単離してもよい。第1の反応生成物およびアミンは、アミノ基当たりの第1の反応生成物が0.8molから1.1mol、または1.0molなど、任意の所望のまたは有効な相対量で存在することができる。
【0074】
芳香族酸エステル化合物のアルキル化アミドを形成する反応は、ヒンダード塩基、例えばトリエチルアミンまたは第3級アルキルアミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、または2,6−ジメチルピリジンなどの存在下、テトラヒドロフランやジクロロメタンなどの無水溶媒中で実施してもよい。次いでアルカノイルまたはアルキルアミド芳香族酸エステルを、少なくとも等mol量の適切な水酸化物塩基、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、またはセシウムの水酸化物と、適切な温度で、任意選択で水、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールなどの極性溶媒の存在下、または水:メタノール、水:エタノール、および水:イソプロパノールなどの混合物の存在下で反応させることによって、それらエステルに対応する酸に変換してもよい。
【0075】
[(アレーン)−(C=O)−OR]部分にあるような、立体的に嵩高いエステル基で誘導体化された芳香族酸は、例えば、適切な芳香族酸塩化物と、酸塩化物基当たり0.5から3.0当量の適切な立体的に嵩高い脂肪族アルコールとを、テトラヒドロフランやジクロロメタンなどの適切な無水溶媒中で、ヒンダード塩基、例えばトリエチルアミンまたは第3級アルキルアミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、または2,6−ジメチルピリジンなどの存在下で反応させることによって調製する。この反応中の任意の点での、過剰な水による反応のクエンチ処理によって、あらゆる未反応の酸塩化物基を、対応するカルボン酸基に変換させる。
【0076】
N−アルキル化ウレイド芳香族酸エステルは、任意の所望のまたは有効な方法によって、アルキルイソシアネート反応物から、従来の方法によって調製することができる。例えば、所望のアミノ芳香族酸エステル(例えば、1,3−ジメチル−5−アミノイソフタレート)は、任意選択で溶媒の存在下、アミン基当たり適切な等mol量で式OCN−R1の所望のアルキルイソシアネートと反応させることができる。その後、得られる生成物は、水で沈殿させ、その後洗浄し乾燥することによって、非常に高い純度で得られる。
【0077】
アルキルイソシアネートおよびアミノ芳香族酸エステルは、一実施形態では、アミノ芳香族酸エステルのアミン基当たり第1の反応生成物が0.4molから1.4mol、または0.6molから1.2mol、または0.8molから1.0molなど、任意の所望のまたは有効な相対量で存在させることができる。
【0078】
O−アルキル化カルバメートまたはウレタン芳香族酸エステル誘導体は、それぞれ、所望のヒドロキシ芳香族酸エステルとアルキルイソシアネート、例えばオクタデシルイソシアネートまたはC−36ダイマ酸(DDI 1410(商標)としてHenkel Corp.から得られる)のジイソシアネート誘導体とを、例えばジラウリン酸ジブチルスズなどの触媒量のルイス酸触媒の存在下、穏やかに加熱しながら反応させることによって、容易に調製することができる。
【0079】
アルキルイソシアネートおよびヒドロキシ芳香族酸エステルは、ヒドロキシ芳香族酸エステルのヒドロキシ基当たりの第1の反応生成物が0.4molから1.4mol、または0.6molもしくは0.8molから1.0molもしくは1.2molなど、任意の所望のまたは有効な相対量で存在させることができる。
【0080】
アルコキシ芳香族酸誘導体は、ヒドロキシ芳香族酸メチルエステルと、適切な立体的に嵩高いアルキル化試薬との、アルキル置換(または、アルキル化)反応によって調製される。そのような立体的に嵩高いアルキル化試薬の例には、例えば、第2級アルキルハロゲン化物;または、アルキルメタンスルホネート(一般に、アルキルメシレートとして知られている)もしくはアルキルパラ−トルエンスルホネート(一般に、アルキルトシレートとして知られている)もしくはアルキルトリフルオロメタンスルホネート(一般に、アルキルトリフレートとして知られている)などであって、対応する離脱基がメシレート、トシレート、もしくはトリフレート陰イオンであるような、アルカンスルホネートもしくはアレーンスルホネート試薬の適切なアルキルエステル;または、アルキルアセテート、アルキルホルメート、およびアルキルプロピオネートなどであって、置換される離脱基がアセテート、ホルメート、プロピオネートなどであるような、カルボン酸の適切なアルキルエステルが含まれる。そのような置換反応に適切な極性非プロトン性溶媒には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、およびその他のそのような極性非プロトン性溶媒が含まれる。アルキル化反応は、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムなどの緩塩基(mild base)の存在下、所望のアルキル化の程度、アルキル化剤の離脱基、および用いられる反応溶媒に応じて、約0℃から約120℃などの温度、または好ましくは約25℃から約100℃の温度で実施されるが、この反応温度は、上記範囲外にすることもできる。触媒を、置換反応の速度を上げるために任意選択で使用してもよく、適切な触媒には、ヨウ化カリウムやヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化塩が含まれる。アルキル化反応の後、メチルエステル基は、温メタノール中で水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムと反応させることによって、対応する遊離カルボン酸基に変換される。
【0081】
類似するベンズアミドおよびイソフタルアミドは、先に記述された標準的な手順を使用して、対応するカルボン酸から最初にそれらの酸塩化物基へと変換し、その後、濃アンモニア/水酸化アンモニウムでクエンチ処理することによって、引き続き調製される。
【0082】
立体的に嵩高い脂肪族基を含有するフタル酸のエステルおよびアミド誘導体は、市販の無水トリメリット酸塩化物と、適切な立体的に嵩高いアルキルアミンまたはアルカノールとを、テトラヒドロフランやジクロロメタンなどの適切な無水溶媒中で、トリエチルアミンなどのヒンダード塩基の存在下で反応させることによって調製される。無水物は、例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをメタノールに溶かしたものを用いた加水分解によって、得られるフタル酸基に引き続き変換することができる。
【0083】
芳香族酸のアルキル化誘導体の個別の分子の間、または芳香族酸のアルキル化誘導体とその他の化合物との間で生ずることができる、非共有化学結合のタイプは、例えば、ファンデルワールス力、イオンもしくは配位結合、H結合、および/または芳香族πスタッキング結合である。非共有結合は、大部分がH結合およびファンデルワールス力であるが、それぞれの分子の間の追加のまたは代替のタイプの非共有結合として、芳香族πスタッキング結合を含むことができる。
【0084】
本明細書に記述される芳香族酸のアルキル化誘導体からの有機ナノ構造は、例えば、所望のナノ構造を完全に成熟させるよう通常は加熱した後に引き続き冷却し寝かせる(熟成する:aging)ことによって、溶解および自己組織化の範囲をもたらすのに十分な条件下、上式を有する自己組織化した芳香族酸のアルキル化誘導体と極性または無極性液体とを均質混合することによって調製することができる。化合物の混合は、室温から液体の沸点に及ぶ温度で実施してもよい。自己組織化した芳香族酸のアルキル化誘導体は、透明溶液が形成されるように液体に完全に溶解することができ、または分散液が形成されるように一部のみ溶解することができる、粉末粒子の形で添加してもよい。あるいは、自己組織化した芳香族酸のアルキル化誘導体は、極性および無極性の両方の液体を含めた適切な溶媒に溶解した溶液として添加してもよい。芳香族酸のアルキル化誘導体が溶解するこの液体は、この液体が添加される液体と同じであってもよく、または異なる液体であってもよい。さらに、芳香族酸のアルキル化誘導体の溶液が添加される液体は、アルキル化化合物にとって良溶媒でも貧溶媒でもよく、その結果、自己組織化ナノ構造が得られる。本開示のナノ構造組成物は、例えば、自己組織化した芳香族酸のアルキル化誘導体を高温の液体に溶解しまたは分散させることによって、高温で形成してもよく、その後、得られた溶液をより低い温度に冷却し、それによって、適切な期間寝かせる間にナノ構造凝集体のコロイド溶液または分散液が形成される。
【0085】
自己組織化した芳香族酸のアルキル化誘導体は、組成物の液体に対して0.05重量%から20重量%、または0.075重量%から10重量%、または0.1重量%から1.5重量%から2.0重量%など、広い範囲で存在してもよい。ナノ構造を含有する組成物の性質は、添加される芳香族酸のアルキル化誘導体の種類および量に応じて制御することができる。
【0086】
本開示の方法により自己組織化ナノ構造を調製する場合、例えば、温度および圧力の周囲条件下で、芳香族酸のアルキル化誘導体の必要量を液体と混合し、これらの材料をブレンドする。
【0087】
化合物は、撹拌、振盪、または混合物をホモジナイザに通し、または超音波にかけて均質組成物を生成するなど、任意の手段によって混合してもよい。ブレンドする方法とは無関係に、自己組織化ナノ構造は、芳香族酸のアルキル化誘導体を液体に溶かした溶液または分散液を得た結果として得られる。
【0088】
本発明の開示の自己組織化ナノ構造の組成物は、一旦形成されると、液体の形または液体の蒸発後には固体の形に含有され得る。液体の組成は変化する可能性があり、透明なまたは混濁したコロイド溶液、不透明な分散液、沈降沈殿物、透明な粘性(超分子)ポリマ溶液、または濃厚なゲルからなる。ナノ構造の液体組成物の粘度は、薄くて注ぐことが可能なタイプから、材料を保持する形状(すなわち、ゲル)まで変化する。得られるナノ構造は、強固で、個々に分散され、または高度に粘着性がある可能性があり、さまざまな期間にわたる貯蔵で安定であり(芳香族酸のアルキル化誘導体、その濃度、液体、および貯蔵温度に依存する)、熱的に可逆的であり、せん断応力を減少させることができる。
【0089】
本明細書に記述される芳香族酸のアルキル化誘導体から作製された自己組織化ナノ構造は、一般に、アルキル化化合物を、固体形態のナノ構造中に主として、大量に、実質的に、またはその全量として含む。すなわち、実施形態では、ナノ構造の固体部分(含まれる可能性がある任意の溶媒または液体担体を含まない)が、芳香族酸のアルキル化誘導体を含み、この化合物から本質的になり、またはこの化合物からなる。当然ながら、2種以上の異なる芳香族酸のアルキル化誘導体は、望み通りに含めることができる。したがって、ナノ構造は、立体安定剤などのその他の水素結合材料を含有せず、芳香族酸のアルキル化誘導体と顔料粒子との結合によって形成され得るナノ粒子に対応しない。
【0090】
その他の実施形態では、ナノ構造は、1つ以上の添加剤を含んでもよく、ナノ構造の所望の性質を与えてもよい。例えば、添加剤は、硬さ、剛性、多孔度、または色などをナノ構造に与えることができる。そのような添加剤は、ナノ構造中の芳香族酸のアルキル化誘導体に水素結合しない。代わりに、添加剤は、ナノ構造に共有またはイオン結合することができ、または添加剤は、ナノ構造中に混合しまたは分散させることができる。
【0091】
芳香族酸のアルキル化誘導体、およびこの化合物から作製された自己組織化構造は、広くさまざまな適用例で使用することができる。例えば、芳香族酸のアルキル化誘導体は、有機ゲルの形成中に有機ゲル化剤として使用することができ、次いで塗料、インク、コーティング、潤滑剤、接着剤、パーソナルケア製品、医薬品、および皮膚科用ゲルなど数多くの生成物の増粘剤として、またはある食品で使用してもよく、またはこの化合物は、組織工学、バイオミネラル化(テンプレートとして)、触媒、エネルギ伝達のためのゲル系の足場、および集光などで使用することができる。芳香族酸のアルキル化誘導体は、新規な水素結合液晶材料の形成で使用することもでき、この液晶材料は、本明細書に開示された芳香族酸のアルキル化誘導体そのものを、またはこの化合物を別の相補的なH結合分子もしくは相補的H結合側基を有するポリマと組み合わせて含むことができるものである。
【0092】
芳香族酸のアルキル化誘導体、およびこの化合物から作製された自己組織化構造は、従来のペンおよびマーカ等で使用されるインクを含めた液体(水性または非水性)印刷インクビヒクル、液体インクジェットインク組成物、固体または相変化インク組成物、塗料、および自動車用コーティングなどのさまざまなインクおよびコーティング組成物中で、着色剤と組み合わせて使用することもできる。例えば、化合物は、融解温度が60から130℃の固体および相変化インク、溶媒系の液体インク、またはUV硬化性など放射線硬化性の液体インク、および水性インクも含めたさまざまなインクビヒクルに配合することができる。
【0093】
インク組成物に加え、化合物は、その適用例に応じて、例えば塗料、樹脂およびプラスチック、レンズ、光学フィルタなどのさまざまなその他の適用例で着色剤と組み合わせて使用することができる。例として、化合物は、トナー粒子に形成されかつ任意選択で流動助剤や電荷制御剤、電荷増強剤、充填剤粒子、放射線硬化剤または粒子、および表面剥離剤などの内部または外部添加剤で処理されるその他の化合物と共に、ポリマ粒子および顔料粒子を含むトナー組成物に使用することができる。トナー組成物は、トナー樹脂粒子、顔料粒子、およびその他の着色剤、およびその他の任意選択の添加剤の押出し溶融ブレンドと、その後の機械的粉砕および分級を含めたいくつかの公知の方法によって調製することができる。その他の方法には、噴霧乾燥、溶融分散、押出し加工、分散重合、乳化/凝集/合一プロセス、および懸濁重合など、当技術分野で周知の方法が含まれる。トナー粒子は、現像剤組成物を形成するためにキャリア粒子と混合することができる。トナーおよび現像剤組成物は、さまざまな電子写真印刷システムで使用することができる。
【実施例】
【0094】
(実施例1)
<安息香酸誘導体(表1、化合物10(m=11、n=9))>
【化20】
2−デシルテトラデカン酸(Sasol America製ISOCARB 24、1.15g、3.13mmol)および乾燥テトラヒドロフラン(20mL)を、不活性雰囲気中で撹拌しながら100mL容器内で混合する。混合物を、少なくとも30分間0℃に冷却し、触媒量のN,N’−ジメチルホルムアミド(4滴)を添加し、その後、塩化オキサリル(1mL、12.6mmol)をゆっくりと1滴ずつ添加する。次いで反応混合物を、室温までゆっくり温め、30分間撹拌し、その後、回転蒸発によって溶媒を除去する。このように得られた酸塩化物化合物を、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0095】
メチル3,5−ジアミノベンゾエート(260.8mg、1.9mmol)を、不活性雰囲気中で、100mL容器内の乾燥テトラヒドロフラン(5mL)に溶解する。次いでトリエチルアミン(0.7mL、4.99mmol)を添加し、溶液を0℃に冷却する。次いでステップIからの2−デシルテトラデカノイル塩化物を乾燥テトラヒドロフラン(10mL)に溶かした溶液を、ゆっくりと1滴ずつ添加する。次いで反応混合物を、ゆっくりと室温に温める。一晩撹拌した後、反応を水で止め、テトラヒドロフランを回転蒸発によって除去する。次いで粗製生成物の残留物を、ジエチルエーテル(50mL)に溶解し、脱イオン水(20mL)で洗浄する。エーテル層を分離し、濃縮することによって、メチル3,5−ビス(2’−デシルテトラデカンアミド)ベンゾエートが薄いピンク色の固体(1.17g)として得られる。
【0096】
ステップIIからのメチル3,5−ビス(2’−デシルテトラデカンアミド)ベンゾエート、水酸化カリウム(0.38g、5.77mmol)、およびメタノール(20mL)を、50mL容器に添加し、加熱還流する。次いで脱イオン水(10mL)を添加し、反応混合物を一晩、還流状態で保持する。次いで反応混合物を室温に冷却し、その結果、油層が形成される。ジエチルエーテル(20mL)を添加し、水相を除去する。次いで有機層を、1M塩酸(30mL)、0.1M塩酸(30mL)、および脱イオン水で2回(それぞれ30mL)、連続して洗浄し、その後、回転蒸発によってエーテル層を濃縮し、真空乾燥することによって、3,5−ビス(2’−デシルテトラデカンアミド)安息香酸が明るい褐色の蝋様固体(1.33g、99%)として得られる。生成物を、1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとによって同定し、その純度は満足のいくものである。
【0097】
(実施例2)
<5−(2−デシルテトラデカンアミド)イソフタル酸(表1、化合物53)>
【化21】
2−デシルテトラデカン酸(ISOCARB 24、Sasol America TXから入手したもの、7.65g、20.8mmol)および乾燥テトラヒドロフラン(100mL)を、不活性雰囲気中で、500mLの1つ口丸底フラスコに添加する。次いで触媒量のN,N’−ジメチルホルムアミド(0.28mL、mmol)を添加し、その後、塩化オキサリル(7.3mL、83.7mmol)をゆっくりと1滴ずつ添加する。混合物を、塩酸ガスの発生が止むまで10分間撹拌する。次いで混合物をさらに3時間撹拌し、その後、溶媒を回転蒸発により除去することによって、粘性のある薄黄色のシロップが得られる。このように得られた酸塩化物化合物を、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0098】
ジメチル5−アミノイソフタレート(Aldrich、4.40g、21.0mmol)を、不活性雰囲気中で、250mLの丸底フラスコ内の乾燥テトラヒドロフラン(100mL)中に懸濁させる。ジメチル5−アミノイソフタレート懸濁液を、少なくとも30分間0℃に冷却し、塩化2−デシルテトラデカノイルを乾燥テトラヒドロフラン(80mL)に懸濁した氷冷懸濁液を、ゆっくりと1滴ずつ添加する。次いで反応混合物を、室温までゆっくりと温め、一晩撹拌する。脱イオン水(10mL)を添加し、テトラヒドロフランを回転蒸発によって除去する。次いで粗製残留物を、酢酸エチル250mLに溶解し、1回100mLの脱イオン水で連続3回洗浄する。次いで酢酸エチルを、回転蒸発により有機相から除去し、生成物を真空乾燥することによって、粗製のジメチル5−(2’−デシルテトラデカンアミド)イソフタレート(12.56g)が薄黄色の固体として得られる。
【0099】
ステップIIからのジメチル5−(2’−デシルテトラデカンアミド)イソフタレート、水酸化カリウム(4.67g、0.0832mol)、およびメタノール(100mL)を、500mL容器に添加し、混合物を加熱し、一晩還流状態で維持する。次いで反応混合物を室温まで冷却することにより、濁った赤−橙色の混合物が得られる。次いで混合物を塩酸(7mL)で酸性化することにより、白色の沈殿物が得られ、この沈殿物を吸引濾過によって収集し、脱イオン水で洗浄し、次いで真空乾燥することにより、オフホワイトの粉末(11.7g)が得られる。生成物を、1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとによって同定し、その純度は満足のいくものである。
【0100】
(実施例3)
<5−(2−デシルテトラデカンアミド)イソフタルアミド(表1、化合物74(m=11、n=9))>
【化22】
100mLの丸底フラスコに、窒素雰囲気中で撹拌しながら無水テトラヒドロフラン20mLに溶解した5−(2’−デシルテトラデカンアミド)イソフタル酸(実施例2から、0.89mmol)0.50gを投入する。塩化オキサリル(3.55mmol)0.3mLおよびN,N’−ジメチルホルムアミド2滴を添加し、反応混合物を2時間撹拌し、その後、回転蒸発によってテトラヒドロフランを除去する。粗製溶液を、窒素中に置きながら乾燥テトラヒドロフラン5mLに再懸濁し、次いで氷−水浴を使用して0〜5℃に冷却する。次いで濃縮した30%水酸化アンモニウム4mLを添加し、反応混合物をゆっくりと室温に温め、2日間撹拌する。溶媒を、回転蒸発によって除去する。次いで粗製固体を、クロロホルム75mLに再懸濁し、脱イオン水50mLで洗浄する。クロロホルムを回転蒸発によって除去する。酢酸エチル100mLを添加し、混合物を、脱イオン水で3回(それぞれ50mL)洗浄する。次いで酢酸エチルを回転蒸発によって除去することにより、イソフタルアミド化合物74(表1、m=11、n=9)0.44gが白色固体(94%)として得られる。1Hおよび13C NMRスペクトルは、満足のいく純度の化合物74(表1、m=11、n=9)の構造と一致している。
【0101】
(実施例4)
<ビスイソフタル酸化合物1(表3)>
【化23】
Pripol(登録商標)1006(96%、Uniqema、3.23g、5.70mmol)および乾燥テトラヒドロフラン(50mL)を、不活性雰囲気中で250mLの丸底フラスコに添加する。次いで溶液を、少なくとも30分間0℃に冷却し、その後、触媒量のN,N’−ジメチルホルムアミド(0.10mL、1.3mmol)を添加し、その後、塩化オキサリル(2.0mL、23.3mmol)をゆっくりと1滴ずつ添加する。次いで混合物を、ゆっくりと室温に温め、3.5時間撹拌し、その後、溶媒を回転蒸発により除去することによって、白色固体が懸濁された固体を有する無色の液体が得られる。このように得られた四酸塩化物(tetraacid chloride)化合物を、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0102】
ステップIからの四酸塩化物およびテトラヒドロフラン(50mL)を、不活性雰囲気中で混合し、混合物を少なくとも30分間0℃に冷却した。次いでジメチル5−アミノイソフタレート(Aldrich、2.65g、12.7mmol)を、乾燥N,N’−ジメチルホルムアミド(15mL)に溶かした溶液として、四酸塩化物が入っているフラスコにゆっくりと1滴ずつ添加する。テトラヒドロフラン(10mL)で2回連続して洗浄を行って、アミンのすべてを酸塩化物フラスコに定量的に移した。次いでトリエチルアミン(2.6mL、18.7mmol)を添加し、次いで反応混合物をゆっくりと室温に温め、一晩撹拌した。テトラヒドロフランを回転蒸発によって除去した後、次いで粗製残留物をジエチルエーテル140mLに溶解し、脱イオン水(40mL)、飽和重炭酸ナトリウム(40mL)、5%クエン酸(40mL)、およびブライン(40mL)で洗浄する。次いでジエチルエーテル層を硫酸ナトリウム上で乾燥し、ガラスウールを通して濾過し、溶媒を回転蒸発によって除去し、真空乾燥することによって、粗製テトラメチルビスイソフタレート(5.61g)が粘性の黄色いシロップとして得られる。このように得られたジエステルを、さらに精製することなく次のステップで使用する。
【0103】
ステップIIからのテトラエステル、水酸化カリウム(15.38g、233mmol)、メタノール(200mL)、および脱イオン水(100mL)を、500mLの容器に添加し、混合物を1時間加熱還流した。次いで反応混合物を室温に冷却し、5M塩酸(50mL)で酸性化することにより、白色沈殿物が得られ、この沈殿物を、吸引濾過によって収集し、脱イオン水で洗浄し、次いで真空乾燥することにより、薄い橙−黄色の粉末(4.62g、91%)が得られる。生成物を、1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとによって同定し、その純度は満足のいくものである。
【0104】
(実施例5)
<5−(ブチルアミド)イソフタル酸化合物45(m=3、表1)>
【化24】
ジメチル5−アミノイソフタレート(Aldrich、0.7685g、3.67mmol)を、不活性雰囲気中で、250mLの丸底フラスコ内の乾燥テトラヒドロフラン(20mL)中に懸濁する。トリエチルアミン(1.00mL、7.17mmol)を添加し、懸濁液を少なくとも30分間0℃に冷却し、その後、塩化ブチリルの氷冷懸濁液をゆっくりと1滴ずつ添加する。反応混合物を、ゆっくりと室温に温め、一晩撹拌する。次いで脱イオン水(20mL)およびジエチルエーテル(50mL)を添加する。水層を除去し、有機層を、飽和重炭酸ナトリウム(10mL)、脱イオン水(10mL)、5%クエン酸(10mL)、脱イオン水(10mL)、およびブライン(10mL)で洗浄する。分離後、有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥し、ガラスウールに通して濾過し、次いでエーテルを回転蒸発によって除去することにより、粗製のジメチル5−(ブチルアミド)イソフタル酸ジエステル(1.02g)が白色固体として得られる。このように得られたジエステルを、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0105】
ステップIからのジメチル5−(ブチルアミド)イソフタル酸ジエステル、水酸化カリウム(2.06g、35.6mmol)、およびメタノール(30mL)を50mLの容器に添加し、混合物を1時間加熱還流する。次いで反応混合物を室温に冷却し、5M塩酸で酸性化することにより、白色沈殿物が得られ、この沈殿物を吸引濾過によって収集し、脱イオン水で洗浄し、次いで真空乾燥することにより、オフホワイトの粉末(0.770g、75%)が得られる。生成物を、1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとにより同定し、その純度は満足のいくものである。
【0106】
(実施例6)
<オクタデシルウレイド化合物56(表1)>
【化25】
ジメチル5−アミノイソフタレート(Aldrich、0.441g、2.12mmol)を、不活性雰囲気中で50mLの丸底フラスコ内の乾燥N,N−ジメチルホルムアミド(8mL)に溶解する。次いでオクタデシルイソシアネート(2.12mmol)を乾燥N,N−ジメチルホルムアミド(1mL)に溶かした2.12M溶液を滴下する。残留オクタデシルイソシアネート溶液を、N,N’−ジメチルホルムアミドで2回(それぞれ1mL)にわたり定量的に移し、反応混合物を室温で一晩撹拌する。次いで反応混合物を22時間100℃に加熱し、次いで室温に冷却することによって、白色のスラリが得られる。次いで固体を真空濾過し、新鮮なN,N−ジメチルホルムアミドで洗浄し、その後、脱イオン水で洗浄する。次いで濾液を回転蒸発によって濃縮することにより、白色固体が得られる。
【0107】
粗製のジメチル5−(オクタデシルウレイド)イソフタレート(ステップI、330mg、0.654mmol)を、メタノール(15mL)中に懸濁させる。次いで水酸化カリウム(0.1983mg、3.53mmol)を添加し、混合物を2時間加熱還流する。室温に冷却した後、懸濁した白色固体を濾過によって回収し、冷メタノールで洗浄する。次いで粗製固体を1M塩酸で懸濁し、2日間撹拌し、その後、生成物を濾過によって収集し、脱イオン水で洗浄し、真空乾燥することにより、白色粉末(124.8g)が得られる。生成物を1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとによって同定し、その純度は満足のいくものである。
【0108】
(実施例7)
<5−(ヘキサデシルオキシ)イソフタル酸化合物61(表1)>
【化26】
100mLの丸底フラスコに、ジメチル−5−ヒドロキシイソフタル酸(0.2584g、1.23mmol)、炭酸カリウム(0.356g、2.58mmol)、およびヨウ化カリウム(0.2018g、1.22mmol)を、不活性雰囲気中で投入する。無水N,N’−ジメチルホルムアミド(10mL)を添加し、混合物を2時間60℃に加熱する。次いでブロモヘキサデカン(0.376mL、1.23mmol)を添加し、反応混合物を一晩撹拌する。室温に冷却した後、反応混合物を、回転蒸発によって濃縮する。粗製固体をジエチルエーテル(40mL)に懸濁し、脱イオン水(20mL)、クエン酸(5重量%、20mL)、脱イオン水(20mL)、およびブライン(20mL)で続けて洗浄する。エーテル層を分離し、ガラスウールに通して濾過し、回転蒸発によって濃縮し、真空乾燥することによってオフホワイトの固体(0.53g、100%)が得られる。
【0109】
50mLの容器に、ステップIからのジメチル5−(ヘキサデシルオキシ)イソフタレート(0.44g、1.01mmol)、およびメタノール(20mL)を投入し、加熱還流する。次いで水酸化カリウム(0.388g、5.88mmol)を、8.5時間にわたり少量ずつ添加した。次いで反応混合物を室温に冷却し、5M塩酸(7mL)で酸性化する。次いで脱イオン水(20mL)を添加し、沈殿物を吸引濾過によって収集し、脱イオン水で洗浄し、真空乾燥することにより、白色粉末(0.3671g、73%収率)が得られる。生成物を、1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとによって同定し、その純度は満足のいくものである。
【0110】
(実施例8)
<芳香族酸のアルキル化誘導体のゲル形成>
この実施例は、本発明の芳香族酸のアルキル化誘導体が、適切な有機溶媒中での水素結合およびπ−π相互作用を通して超分子アセンブリ(有機ゲル)を形成することを実証する。
【0111】
[ゲル化試験]
スクリュキャップ式の蓋が付いたバイアル(4mL容量)に、固体としての芳香族酸のアルキル化誘導体(1〜100mg)および溶媒(1mL)を添加した。次いで混合物を超音波処理し、透明な溶液が得られるまで加熱した。冷却し、室温で少なくとも30分間静置した後、サンプルを反転させ、目視検査した。サンプルが流動せずまたは落下しない場合は、ゲルであると判断した。表4は、実施例1から7で記述された芳香族酸のアルキル化誘導体の、ゲル化剤能力を示す。
【0112】
【表39】
【0113】
(実施例9)
<電子顕微鏡法による芳香族酸のアルキル化誘導体からの自己組織化ナノ構造>
この実施例は、走査電子顕微鏡法および走査型透過電子顕微鏡法(それぞれSEMおよびSTEM)によって観察された、基材上に堆積された芳香族酸のアルキル化誘導体から形成された自己組織化ナノ構造について記述する。
【0114】
顕微鏡法サンプルは、固体としての芳香族酸のアルキル化誘導体と、溶媒とを混合し、この混合物を浴内超音波処理に供し、次いで透明な溶液が形成されるように加熱することによって調製する。次いで溶液を室温に冷却し、所望の期間にわたり放置し、その後、顕微鏡法サンプルの調製を行う。冷却後、サンプルは、透明な溶液、混濁コロイド溶液、またはより不透明な分散液になり得る。顕微鏡法サンプルは、薄い炭素被膜でコーティングされた銅メッシュグリッド上に1滴を堆積し、その液滴を被膜上に所望の期間にわたってそのままにし、その後、過剰な溶媒を濾紙で吸い取り、乾燥させることによって、分析用として調製する。表5は、本発明に関して選択された芳香族酸のアルキル化誘導体のナノ構造を含有する組成物の例をまとめている。図1から図7は、選択された芳香族酸のアルキル化誘導体から形成されたナノ構造の、走査電子顕微鏡法および走査型透過電子顕微鏡法による画像を示す。
【0115】
【表40】
【技術分野】
【0001】
本発明の開示は、一般に、明確にされたナノ構造へと可逆的に自己組織化することができる、水素結合(H結合)官能基を有する両親媒性有機化合物と、これら自己組織化ナノ構造を形成する方法とを対象とする。
【背景技術】
【0002】
材料科学における最近の技術傾向は、ナノテクノロジによって可能になる成分および材料の使用により、高い(時にはブレークスルーでもある)性能が示されることに起因したより多くの魅力を得ることを示している。機能性ナノ材料は、それらのバルク対応物の場合とは異なった、多くの独自のかつしばしば調整可能な物理的および化学的性質を示す。「トップダウン(top down)」または「ボトムアップ(bottom up)」の製作戦略を含め、明確な形状および寸法を有するナノ材料の製作に対し、最近開発が行われている。「トップダウン」の手法では、より大きな構造を、所望の寸法を有する所望の形状へと小さく切断する(例えば、ナノリソグラフィ)。「ボトムアップ」戦略では、より小さな構成単位から所望の形状および寸法を有する構造へと成長させる(例えば、自己組織化)。後者は、さらにより効率的でありかつコスト集約的およびエネルギ集約的製作プロセスの必要性が回避されるので、好ましい手法である。
【0003】
分子の自己組織化は、ナノ構造化材料に到達する実用的な「ボトムアップ」手法である。この手法では、自己相補的分子(self−complementary molecule)が、秩序ある手法で凝集するために、特定のサイズ、形状、および少なくとも1個の官能基を有する「構成単位(building block)」として設計される。得られた集合体は、その集合体のより小さな構成サブ単位とは完全に異なる性質をしばしば有する。しかし、この手法の課題は、最終の所望のサイズおよび形状を実現することができるように、制御された手法で有用なナノ構造へと組織化することができる適切な分子サブ単位を設計することである。その結果、水素結合分子構成単位のモジュール式使用は、例えば接着剤や自己治癒コーティングならびに他多数などの高機能材料を開発するのに有用な性質を有する、新規なナノスケール超分子構造、非共有ポリマ、有機ゲル化剤、および液晶を設計するための鍵である。
【0004】
両親媒性アルキル化安息香酸(BA)、フタル酸(PA)、およびイソフタル酸(ISA)誘導体は、表面の生理吸着単層として(エス・デフェイター、エイ・ゲスキエレ、エム・クラッパー、ケイ・ムレン、エフ・シー・デシュライバー、Nano Lett.2003、3,11、1485〜1488参照)溶液中で(ジェイ・ヤン、ジェイ・エル・マレンダツ、エス・ジェイ・ゲイブ、エイ・ディー・ハミルトン、Tet.Lett.1994、22、3665〜3668参照)、または固体状態で(エイ・ザファー、ジェイ・ヤング、エス・ジェイ・ゲイブ、エイ・ディー・ハミルトン、Tet.Lett.1996、37、14、2327〜2330参照)、水素結合を通して超分子凝集体へと自己組織化することが知られている。安息香酸は、主として、自己会合して水素結合ダイマまたはカテマーモチーフ(catemer motifs)を形成する(ジェイ・エヌ・モーシー、アール・ナタラジャン、ピー・マル、ピー・ベヌゴパラン、J.Am.Chem.Soc.2002、124、6530〜6531参照)。イソフタル酸誘導体の場合、線状テープ/リボンおよび環状ロゼットの水素結合モチーフが、種々の誘導体に関して、STMにより表面に堆積した状態でまたは固体状態の結晶構造で観察された(ザファー(上記)、およびブイ・ケイ・ポトルリ、エイ・ディー・ハミルトン、J.Supramol.Chem.2002、2、321〜326参照)。ポトルリ(上記)に記述されるように、環状モチーフは、より嵩高い5置換基(すなわち、デシルオキシ基またはベンズヒドリルオキシウンデシルオキシ)を典型的には有する傾向があり、これらの置換基が、直鎖状配置構成(linear arrangement)を安定化させる結晶性側鎖充填(crystalline side−chain packing)を破壊する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Yan, J.-L. Marendaz, S. J. Geib, A. D. Hamilton, Tet. Lett. 1994, 22, 3665-3668
【非特許文献2】S. De Feyter, A. Gesquiere, M. Klapper, K. Mullen, F. C. De Schryver, Nano Lett. 2003, 3, 11, 1485-1488
【非特許文献3】A. Zafar, J. Yang, S. J. Geib, A. D. Hamilton, Tet. Lett. 1996, 37, 14, 2327-2330
【非特許文献4】J. N. Moorthy, R. Natarajan, P. Mal, P. Venugopalan, J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 6530-6531
【非特許文献5】V. K. Potluri, A. D. Hamilton, J. Supramol. Chem. 2002, 2, 321-326
【非特許文献6】S. R. Nam., H. Y. Lee, J- I. Hong, Tetrahedron 2008, 64, 10531-10537
【非特許文献7】H. Y. Lee, S. R. Nam, J- I. Hong, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 1040-1041
【非特許文献8】O. Lebel, M- E. Perron, T. Maris, S. F. Zalzal, A. Nanci, J. D. Wuest, Chem. Mater. 2006, 18, 3616-3626
【非特許文献9】H- Y. Hu, Y. Yang, J- F. Xiang, C- F. Chen, Chin. J. Chem.2007, 25, 1389-1393
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、新しく改善された、ナノテクノロジにより可能になった成分および材料、特に、「ボトムアップ」製作戦略によって容易に自己組織化して明確なナノ構造および潜在的な高次網状構造(higher−order network structure)を生成することができる自己相補的官能基(self−complementary functional group)を有するものであって、機能性材料の開発で有用でありかつ望ましい性質にすることができるものが、依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、互いに非共有結合している下記の化合物の分子を含むナノ構造であって、
【化1】
上式で、R1からR6の少なくとも1個は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表し、R1からR6のその他の少なくとも1個はX−Rcであり、R1からR6の残りは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換有機基を表し、
Xは、結合基を表し、
Rcは、置換または非置換アルキル基を表す、ナノ構造である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の材料の、STEM画像を示す図である。
【図2A】実施例2の材料の、SEM画像を示す図である。
【図2B】実施例2の材料の、SEM画像を示す図である。
【図3A】実施例3の材料の、SEM画像を示す図である。
【図3B】実施例3の材料の、SEM画像を示す図である。
【図3C】実施例3の材料の、SEM画像を示す図である。
【図4A】実施例3の材料の、SEM画像を示す図である。
【図4B】実施例3の材料の、SEM画像を示す図である。
【図5】実施例4の材料の、SEM画像を示す図である。
【図6A】実施例5の材料の、SEM画像を示す図である。
【図6B】実施例5の材料の、SEM画像を示す図である。
【図7A】実施例6の材料の、SEM画像を示す図である。
【図7B】実施例6の材料の、SEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「ナノ構造」は、最小寸法などの少なくとも1つの寸法において、1nmもしくは10nmもしくは20nmから100nmもしくは200nmもしくは500nmに及ぶサイズ、例えば10nmから300nmなどのサイズを有し、かつ望ましくはサイズが5000nm未満、例えばサイズが2000nm未満、またはサイズが1000ナノメートル未満の最大寸法を有する、物理的構造(例えば、粒子など)を指す。
【0010】
「1D構造」は、高さまたは幅(または直径)よりも著しく大きい長さを有する構造を指す。アスペクト比(長さ/幅)は、少なくとも5、または少なくとも10、例えば100〜500などにすることができる。したがって、これらの1D構造は、ストリング(導電性である場合には、ワイヤと呼ぶことができる)またはテープなどの形をとることができる。
【0011】
「2D構造」は、サイズが同等な長さおよび幅を有するが深さがない(または無視できる深さ)、平らで平坦な構造を指す。アスペクト比は、最大で5であり、例えば2または1である。「2D構造」は、多孔質または非多孔質のシート構造(例えば、フィルムまたはウェーハ)であってもよい。
【0012】
「3D構造」は、相対的なサイズが同等でありかなりのものである、長さ、幅、および高さの寸法を有する構造を指す。「3D構造」は、より小さい(より基本的な)ナノ構造、すなわち1D構造の、高次配置構成を指す。3D構造は、ゲル網状構造のような多孔質網状構造、または液晶などのさらにより高次のそれほど多孔質ではない網状構造を含んでもよい。
【0013】
「ナノフィブリル(nanofibril)」は、望ましくは100nm未満のサイズ、例えば50nm未満のサイズ、または20nm未満のサイズなどの直径を有する、細長いフィラメントまたはファイバに似た1D構造を指す。ナノフィブリルの長さは、20nmから5000nmまでまたはそれ以上に及ぶことができる。
【0014】
「ナノファイバ(nanofiber)」は、望ましくは200nm未満のサイズ、または100nm未満、または50nm未満のサイズの直径を有する太いフィラメントまたはファイバに似た1D構造を指す。「ナノファイバ」は、単一構造要素からなるものであってもよく、またはより小さい「ナノフィブリル」の束など複数の構造要素からなるものであってもよい。
【0015】
芳香族酸のアルキル化誘導体は、単独でまたは他の材料と組み合わせて、より大きな構造へと自己組織化する機能を有する。例えば、その化合物は、2009年3月16日出願の米国特許出願第12/405079号に開示されるように、着色剤分子と自己組織化してナノスケール顔料粒子組成物を形成するのに使用することができる。したがって芳香族酸のアルキル化誘導体は、大部分がナノスケール粒子であるものが生成されるように、一次粒子の凝集および成長の程度を制限することができる。芳香族酸のアルキル化誘導体の多数の分子は、同じでも異なっていてもよく、互いに自己組織化してより大きな一次元、二次元、またはさらに三次元構造を形成してもよい。
【0016】
一般に、芳香族酸のアルキル化誘導体は、化合物の機能によって凝集構造の粒度を調節できるようにするために、十分な立体的な嵩をもたらす炭化水素部分を有する。実施形態における炭化水素部分は、大部分が脂肪族であるが、その他の実施形態では、芳香族基を組み込むこともでき、一般に少なくとも6個、例えば少なくとも12個または少なくとも16個の炭素、および100個以下の炭素を含有する。炭化水素部分は、直鎖状、環状、または分枝状にすることができ、実施形態では分枝状であることが望ましく、シクロアルキル環や芳香環などの環状部分を含有してもしなくてもよい。脂肪族分枝は長く、少なくとも2個の炭素が各分枝にあり、例えば少なくとも6個の炭素が各分枝にあり、かつ100個以下の炭素が各分枝にある。
【0017】
「立体的な嵩(steric bulk)」という用語は、芳香族酸のアルキル化誘導体が非共有的に会合するようになる可能性があるその他の化合物のサイズとの比較に基づいた、相対的用語である。「立体的な嵩」は、水素結合に関与する化合物の炭化水素部分が、他の化学物質の接近または会合を効果的に防止する三次元空間容積を占有するときの状況を指す。例として、芳香族酸のアルキル化誘導体上の以下の炭化水素部分は、化合物が自己組織化および凝集の程度を制限できるようにかつ主にナノスケール構造を生成するように適切な「立体的な嵩」を有する。
【化2】
および
【化3】
【0018】
適切な芳香族酸のアルキル化誘導体は、両親媒性であることが望ましく、標的分子とのH結合に利用可能なヘテロ原子を有する親水性または極性官能基、ならびに少なくとも6個の炭素および100個以下の炭素を有しかつ大部分が脂肪族(直鎖状、分枝状、または環状)基であるがいくつかのエチレン系不飽和基および/またはアリール基を含むことができる無極性または疎水性の立体的に嵩高い基を保持する。
【0019】
適切な芳香族酸のアルキル化誘導体の代表例は、以下の一般式の化合物を含む(しかし、これらに限定されない)。
【化4】
(式中、R1からR6の少なくとも1個は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表し、R1からR6のその他の少なくとも1個はX−Rcであり、R1からR6の残りは独立して、Hまたは置換もしくは非置換有機基を表し、Xは、結合基を表し、Rcは、置換または非置換アルキル基を表す)
【0020】
上式により、R1からR6の2個の隣接する基が、下式のような環状アミド構造を形成している化合物も包含される。
【化5】
(式中、R1からR4は、上記にて定義された通りであり、Aは、−C(=O)−NH−C(=O)−や−NH−C(=O)−O−などの1個以上の官能基を含む部分を表す)
【0021】
上式において、置換または非置換有機基を表す基は、特に限定されず、所望の結果が得られるように適切に提供することができる。適切な基には、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、置換もしくは非置換アリール−アルキル基、または置換もしくは非置換アルキル−アリール基などが含まれ、これらの置換基は、例えば、炭化水素基、置換炭化水素基、ヘテロ原子、またはハロゲンなどにすることができる。
【0022】
基R1からR6の少なくとも1個は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表す。適切な基には、−COOH、−CONH2、−COO、−(C=NH)−NH2、およびこれらの塩、例えばアルカリ塩、および第4級アルキルアミンを有する塩などが含まれる。一実施形態では、R1からR6の1個だけが、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表し、例えばカルボン酸基または第1級アミド基であり、その他の実施形態では、R1からR6の2個または3個が独立して、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表すことができ、例えばカルボン酸基または第1級アミド基である。2個以上のカルボン酸基または第1級アミド基が1分子内に存在する場合、これらの基は、R1からR6のいずれかにあってもよく、したがって隣接する位置にあってもよく、または隣接しない位置にあってもよい。
【0023】
同様の手法で、基R1からR6の少なくとも1個はX−Rcを表す。一実施形態では、R1からR6の1個だけがX−Rcを表し、その他の実施形態では、R1からR6の2個、3個、4個、または5個が独立してX−Rcを表す。2個以上のX−Rc基が1分子内に存在する場合、これらの基は、R1からR6のいずれかにあってもよく、したがって隣接する位置にあってもよく、または隣接しない位置にあってもよい。さらに、X−Rc基、または複数個存在する場合のX−Rc基の1個以上は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩の1種以上に隣接させることができ、またはそのような基に隣接させないことができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、R1からR6の1個以上、例えば1個、2個、3個、または4個は、Hを表すことができる。しかし、化合物のその他の部分同士で水素結合を引き起こすことができるような、その他の実施形態では、R1からR6のすべてが、上述のようなH以外の基を表すことができる。
【0025】
1つの例示的な実施形態では、R1からR6の1個が、カルボン酸基または第1級アミド基を表し、例えばカルボン酸基を表し、R1からR6の2個が独立してX−Rcを表す。例えば、R1は、カルボン酸基または第1級アミド基を表し、例えばカルボン酸基を表し、R3およびR5は独立してX−Rcを表す。
【0026】
別の例示的な実施形態では、R1からR6の2個が独立して、カルボン酸基または第1級アミド基を表し、例えば共にカルボン酸基を表しまたは共に第1級アミド基を表し、R1からR6の1個がX−Rcを表す。例えばR1およびR3は独立して、カルボン酸基または第1級アミド基を表し、例えば共にカルボン酸基を表しまたは共に第1級アミド基を表し、R5はX−Rcを表す。
【0027】
結合基Xは、置換または非置換アルキル基Rcを芳香族酸部分に結合する、任意の適切な官能基にすることができる。適切な結合基の例には、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、アミド基(−NH−(C=Z)−)および(−(C=Z)−NH−)、アミン基(−NH−)、尿素基(−NH−(C=Z)−NH−)、カルバメートまたはウレタン基(−NH−(C=Z)−O−)および(O−(C=Z)−NH−)、カーボネート基、およびエステル基(−(C=Z)−O−)または(−O−(C=Z)−)が含まれ、但しヘテロ原子Zは、OまたはSにすることができる。
【0028】
Rc基は、例えば、少なくとも6個の炭素原子を有する置換または非置換のアルキル基である。Rc基も含めた、H、またはカルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩ではない基R1からR6は、化合物が構造的に凝集したときに立体的に嵩高い層を提供することができる、任意の適切なアルキル基にすることができ、それによって、制御されない凝集および粒子の成長をもたらすその他の粒子または分子の接近が、防止されまたは制限される。立体的に嵩高いアルキル基の特定の例には、1から約100個、例えば1から約50個または6から約30個などの炭素原子の直鎖状または分枝状アルキル基であって、次の一般式で示されるような大きな直鎖状、分枝状、および/または環状脂肪族基を含むもの:
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
および
【化10】
と、1から約50個、例えば1から約40個または6から約30個などの炭素原子の置換直鎖状または分枝状アルキル基であって、式−CO−(CH2)n−CH3を有し、ここで、nは0から約30であるものなども含まれる。その他の有用なRc基には、より高い分枝度を有する脂肪族炭化水素、環状炭化水素、さらに、O、S、Nなどのヘテロ原子を含有するより極性の高い基であって、オリゴ−またはポリ−[エチレングリコール]などの直鎖状または分枝状アルキレンオキシ鎖を含んだものを含めてもよい。
【0029】
したがって、例えば、芳香族酸誘導体を下式のものにすることができるが、これらに限定するものではない。
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
または
【化15】
(式中、Y=OHまたはNH2であり、Z=O、NH、またはSであり、基Rcは、複数のRcが存在する場合には同じでも異なっていてもよい)
【0030】
実施形態において、基Rcは、次の一般式で示されるように、2個以上の芳香族酸部分を架橋する2官能性部分にすることもできる。
【化16】
式中、適切な2官能性基Rcの例には、−(CH2)n−;−X−(CH2)nX−;−[(XCH2CH2)n]X−;−[(C=O)−(CH2)n−(C=O)]−;−X−[(C=O)−(CH2)n−(C=O)]−X−;−X−[(C=O)−X−(CH2)n−X−(C=O)]−X−;−[(C=O)−X−(CH2)n−X−(C=O)]−が含まれ、但しXは、O、S、−SO−、−SO2−、またはNHと定義され、整数nは、1から約50であり、さらに、下式のような大型分岐状アルキル化官能基も含まれる。
【化17】
【化18】
および
【化19】
(上式で、X、X1、およびX2は、O、S、−SO−、−SO2−またはNHと定義され、X1およびX2は同じでも異なっていてもよい)
【0031】
したがって、アルキル化ベンズイミダゾロン化合物の特定の例には、下記の表1、2、および3に示されるものが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
【表6】
【0038】
【表7】
【0039】
【表8】
【0040】
【表9】
【0041】
【表10】
【0042】
【表11】
【0043】
【表12】
【0044】
【表13】
【0045】
【表14】
【0046】
【表15】
【0047】
【表16】
【0048】
【表17】
【0049】
【表18】
【0050】
【表19】
【0051】
【表20】
【0052】
【表21】
【0053】
【表22】
【0054】
【表23】
【0055】
【表24】
【0056】
【表25】
【0057】
【表26】
【0058】
【表27】
【0059】
【表28】
【0060】
【表29】
【0061】
【表30】
【0062】
【表31】
【0063】
【表32】
【0064】
【表33】
【0065】
【表34】
【0066】
【表35】
【0067】
【表36】
【0068】
【表37】
【0069】
【表38】
【0070】
当業者に周知でなじみのあるアミンやアルコールなどの求核試薬と反応させるために芳香族酸およびアルカン酸を活性化する多くの方法がある。ある方法では、当業者にとって任意の所望のまたは有効な方法を使用して、芳香族酸またはアルカン酸を、それぞれ、対応する芳香族酸塩化物またはアルカン酸塩化物に変換する。例えば、芳香族酸塩化物またはアルカン酸塩化物は、典型的には溶媒の存在下、および任意選択で触媒の存在下、塩素化試薬との反応によって、それぞれ、対応する芳香族酸前駆体またはアルカン酸前駆体から調製してもよい。適切な塩素化試薬には、塩化オキサリル、塩化チオニル、三塩化リン、または五塩化リンを含めることができるが、これらに限定するものではない。その他の試薬は、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、およびベンゾトリアゾールを含み、これらに限定されないが、アミノとの反応のため、カルボン酸を活性化するのに使用してもよい。
【0071】
より具体的には、芳香族酸またはアルカン酸は、適切な溶媒中、0から5℃で、任意選択の触媒の存在下、塩化オキサリルと反応させることができる。触媒の例には、N,N−ジメチルホルムアミドが含まれる。触媒を使用する場合、この触媒は、任意の所望のまたは有効な量で存在させることができる。一実施形態では、塩化オキサリルの量に対して少なくとも0.1mol%、別の実施形態では少なくとも0.5mol%、別の実施形態では少なくとも1mol%、別の実施形態では少なくとも10mol%、さらに別の実施形態では少なくとも20mol%であるが、量はこれらの範囲外もあり得る。
【0072】
芳香族酸またはアルカン酸および塩化オキサリルは、芳香族酸またはアルカン酸1mol当たりの塩化オキサリルが0.8molから3.0mol、または1.0molから2.0mol、または1.2molから1.5molなど、任意の所望のまたは有効な相対量で存在する。
【0073】
芳香族酸またはアルカン酸と塩化オキサリルとの間の反応の後、第1の反応生成物を回収する必要はなく、反応混合物は、反応を終了させるため、必要に応じて溶媒および塩基を添加すると共に、適切なアミンと適切に混合することができる。あるいは、第1の反応生成物である酸塩化物は、反応を終了させるために必要に応じて任意選択の溶媒および塩基を添加すると共に、アミンと混合する前に単離してもよい。第1の反応生成物およびアミンは、アミノ基当たりの第1の反応生成物が0.8molから1.1mol、または1.0molなど、任意の所望のまたは有効な相対量で存在することができる。
【0074】
芳香族酸エステル化合物のアルキル化アミドを形成する反応は、ヒンダード塩基、例えばトリエチルアミンまたは第3級アルキルアミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、または2,6−ジメチルピリジンなどの存在下、テトラヒドロフランやジクロロメタンなどの無水溶媒中で実施してもよい。次いでアルカノイルまたはアルキルアミド芳香族酸エステルを、少なくとも等mol量の適切な水酸化物塩基、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、またはセシウムの水酸化物と、適切な温度で、任意選択で水、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールなどの極性溶媒の存在下、または水:メタノール、水:エタノール、および水:イソプロパノールなどの混合物の存在下で反応させることによって、それらエステルに対応する酸に変換してもよい。
【0075】
[(アレーン)−(C=O)−OR]部分にあるような、立体的に嵩高いエステル基で誘導体化された芳香族酸は、例えば、適切な芳香族酸塩化物と、酸塩化物基当たり0.5から3.0当量の適切な立体的に嵩高い脂肪族アルコールとを、テトラヒドロフランやジクロロメタンなどの適切な無水溶媒中で、ヒンダード塩基、例えばトリエチルアミンまたは第3級アルキルアミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、または2,6−ジメチルピリジンなどの存在下で反応させることによって調製する。この反応中の任意の点での、過剰な水による反応のクエンチ処理によって、あらゆる未反応の酸塩化物基を、対応するカルボン酸基に変換させる。
【0076】
N−アルキル化ウレイド芳香族酸エステルは、任意の所望のまたは有効な方法によって、アルキルイソシアネート反応物から、従来の方法によって調製することができる。例えば、所望のアミノ芳香族酸エステル(例えば、1,3−ジメチル−5−アミノイソフタレート)は、任意選択で溶媒の存在下、アミン基当たり適切な等mol量で式OCN−R1の所望のアルキルイソシアネートと反応させることができる。その後、得られる生成物は、水で沈殿させ、その後洗浄し乾燥することによって、非常に高い純度で得られる。
【0077】
アルキルイソシアネートおよびアミノ芳香族酸エステルは、一実施形態では、アミノ芳香族酸エステルのアミン基当たり第1の反応生成物が0.4molから1.4mol、または0.6molから1.2mol、または0.8molから1.0molなど、任意の所望のまたは有効な相対量で存在させることができる。
【0078】
O−アルキル化カルバメートまたはウレタン芳香族酸エステル誘導体は、それぞれ、所望のヒドロキシ芳香族酸エステルとアルキルイソシアネート、例えばオクタデシルイソシアネートまたはC−36ダイマ酸(DDI 1410(商標)としてHenkel Corp.から得られる)のジイソシアネート誘導体とを、例えばジラウリン酸ジブチルスズなどの触媒量のルイス酸触媒の存在下、穏やかに加熱しながら反応させることによって、容易に調製することができる。
【0079】
アルキルイソシアネートおよびヒドロキシ芳香族酸エステルは、ヒドロキシ芳香族酸エステルのヒドロキシ基当たりの第1の反応生成物が0.4molから1.4mol、または0.6molもしくは0.8molから1.0molもしくは1.2molなど、任意の所望のまたは有効な相対量で存在させることができる。
【0080】
アルコキシ芳香族酸誘導体は、ヒドロキシ芳香族酸メチルエステルと、適切な立体的に嵩高いアルキル化試薬との、アルキル置換(または、アルキル化)反応によって調製される。そのような立体的に嵩高いアルキル化試薬の例には、例えば、第2級アルキルハロゲン化物;または、アルキルメタンスルホネート(一般に、アルキルメシレートとして知られている)もしくはアルキルパラ−トルエンスルホネート(一般に、アルキルトシレートとして知られている)もしくはアルキルトリフルオロメタンスルホネート(一般に、アルキルトリフレートとして知られている)などであって、対応する離脱基がメシレート、トシレート、もしくはトリフレート陰イオンであるような、アルカンスルホネートもしくはアレーンスルホネート試薬の適切なアルキルエステル;または、アルキルアセテート、アルキルホルメート、およびアルキルプロピオネートなどであって、置換される離脱基がアセテート、ホルメート、プロピオネートなどであるような、カルボン酸の適切なアルキルエステルが含まれる。そのような置換反応に適切な極性非プロトン性溶媒には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、およびその他のそのような極性非プロトン性溶媒が含まれる。アルキル化反応は、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムなどの緩塩基(mild base)の存在下、所望のアルキル化の程度、アルキル化剤の離脱基、および用いられる反応溶媒に応じて、約0℃から約120℃などの温度、または好ましくは約25℃から約100℃の温度で実施されるが、この反応温度は、上記範囲外にすることもできる。触媒を、置換反応の速度を上げるために任意選択で使用してもよく、適切な触媒には、ヨウ化カリウムやヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化塩が含まれる。アルキル化反応の後、メチルエステル基は、温メタノール中で水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムと反応させることによって、対応する遊離カルボン酸基に変換される。
【0081】
類似するベンズアミドおよびイソフタルアミドは、先に記述された標準的な手順を使用して、対応するカルボン酸から最初にそれらの酸塩化物基へと変換し、その後、濃アンモニア/水酸化アンモニウムでクエンチ処理することによって、引き続き調製される。
【0082】
立体的に嵩高い脂肪族基を含有するフタル酸のエステルおよびアミド誘導体は、市販の無水トリメリット酸塩化物と、適切な立体的に嵩高いアルキルアミンまたはアルカノールとを、テトラヒドロフランやジクロロメタンなどの適切な無水溶媒中で、トリエチルアミンなどのヒンダード塩基の存在下で反応させることによって調製される。無水物は、例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをメタノールに溶かしたものを用いた加水分解によって、得られるフタル酸基に引き続き変換することができる。
【0083】
芳香族酸のアルキル化誘導体の個別の分子の間、または芳香族酸のアルキル化誘導体とその他の化合物との間で生ずることができる、非共有化学結合のタイプは、例えば、ファンデルワールス力、イオンもしくは配位結合、H結合、および/または芳香族πスタッキング結合である。非共有結合は、大部分がH結合およびファンデルワールス力であるが、それぞれの分子の間の追加のまたは代替のタイプの非共有結合として、芳香族πスタッキング結合を含むことができる。
【0084】
本明細書に記述される芳香族酸のアルキル化誘導体からの有機ナノ構造は、例えば、所望のナノ構造を完全に成熟させるよう通常は加熱した後に引き続き冷却し寝かせる(熟成する:aging)ことによって、溶解および自己組織化の範囲をもたらすのに十分な条件下、上式を有する自己組織化した芳香族酸のアルキル化誘導体と極性または無極性液体とを均質混合することによって調製することができる。化合物の混合は、室温から液体の沸点に及ぶ温度で実施してもよい。自己組織化した芳香族酸のアルキル化誘導体は、透明溶液が形成されるように液体に完全に溶解することができ、または分散液が形成されるように一部のみ溶解することができる、粉末粒子の形で添加してもよい。あるいは、自己組織化した芳香族酸のアルキル化誘導体は、極性および無極性の両方の液体を含めた適切な溶媒に溶解した溶液として添加してもよい。芳香族酸のアルキル化誘導体が溶解するこの液体は、この液体が添加される液体と同じであってもよく、または異なる液体であってもよい。さらに、芳香族酸のアルキル化誘導体の溶液が添加される液体は、アルキル化化合物にとって良溶媒でも貧溶媒でもよく、その結果、自己組織化ナノ構造が得られる。本開示のナノ構造組成物は、例えば、自己組織化した芳香族酸のアルキル化誘導体を高温の液体に溶解しまたは分散させることによって、高温で形成してもよく、その後、得られた溶液をより低い温度に冷却し、それによって、適切な期間寝かせる間にナノ構造凝集体のコロイド溶液または分散液が形成される。
【0085】
自己組織化した芳香族酸のアルキル化誘導体は、組成物の液体に対して0.05重量%から20重量%、または0.075重量%から10重量%、または0.1重量%から1.5重量%から2.0重量%など、広い範囲で存在してもよい。ナノ構造を含有する組成物の性質は、添加される芳香族酸のアルキル化誘導体の種類および量に応じて制御することができる。
【0086】
本開示の方法により自己組織化ナノ構造を調製する場合、例えば、温度および圧力の周囲条件下で、芳香族酸のアルキル化誘導体の必要量を液体と混合し、これらの材料をブレンドする。
【0087】
化合物は、撹拌、振盪、または混合物をホモジナイザに通し、または超音波にかけて均質組成物を生成するなど、任意の手段によって混合してもよい。ブレンドする方法とは無関係に、自己組織化ナノ構造は、芳香族酸のアルキル化誘導体を液体に溶かした溶液または分散液を得た結果として得られる。
【0088】
本発明の開示の自己組織化ナノ構造の組成物は、一旦形成されると、液体の形または液体の蒸発後には固体の形に含有され得る。液体の組成は変化する可能性があり、透明なまたは混濁したコロイド溶液、不透明な分散液、沈降沈殿物、透明な粘性(超分子)ポリマ溶液、または濃厚なゲルからなる。ナノ構造の液体組成物の粘度は、薄くて注ぐことが可能なタイプから、材料を保持する形状(すなわち、ゲル)まで変化する。得られるナノ構造は、強固で、個々に分散され、または高度に粘着性がある可能性があり、さまざまな期間にわたる貯蔵で安定であり(芳香族酸のアルキル化誘導体、その濃度、液体、および貯蔵温度に依存する)、熱的に可逆的であり、せん断応力を減少させることができる。
【0089】
本明細書に記述される芳香族酸のアルキル化誘導体から作製された自己組織化ナノ構造は、一般に、アルキル化化合物を、固体形態のナノ構造中に主として、大量に、実質的に、またはその全量として含む。すなわち、実施形態では、ナノ構造の固体部分(含まれる可能性がある任意の溶媒または液体担体を含まない)が、芳香族酸のアルキル化誘導体を含み、この化合物から本質的になり、またはこの化合物からなる。当然ながら、2種以上の異なる芳香族酸のアルキル化誘導体は、望み通りに含めることができる。したがって、ナノ構造は、立体安定剤などのその他の水素結合材料を含有せず、芳香族酸のアルキル化誘導体と顔料粒子との結合によって形成され得るナノ粒子に対応しない。
【0090】
その他の実施形態では、ナノ構造は、1つ以上の添加剤を含んでもよく、ナノ構造の所望の性質を与えてもよい。例えば、添加剤は、硬さ、剛性、多孔度、または色などをナノ構造に与えることができる。そのような添加剤は、ナノ構造中の芳香族酸のアルキル化誘導体に水素結合しない。代わりに、添加剤は、ナノ構造に共有またはイオン結合することができ、または添加剤は、ナノ構造中に混合しまたは分散させることができる。
【0091】
芳香族酸のアルキル化誘導体、およびこの化合物から作製された自己組織化構造は、広くさまざまな適用例で使用することができる。例えば、芳香族酸のアルキル化誘導体は、有機ゲルの形成中に有機ゲル化剤として使用することができ、次いで塗料、インク、コーティング、潤滑剤、接着剤、パーソナルケア製品、医薬品、および皮膚科用ゲルなど数多くの生成物の増粘剤として、またはある食品で使用してもよく、またはこの化合物は、組織工学、バイオミネラル化(テンプレートとして)、触媒、エネルギ伝達のためのゲル系の足場、および集光などで使用することができる。芳香族酸のアルキル化誘導体は、新規な水素結合液晶材料の形成で使用することもでき、この液晶材料は、本明細書に開示された芳香族酸のアルキル化誘導体そのものを、またはこの化合物を別の相補的なH結合分子もしくは相補的H結合側基を有するポリマと組み合わせて含むことができるものである。
【0092】
芳香族酸のアルキル化誘導体、およびこの化合物から作製された自己組織化構造は、従来のペンおよびマーカ等で使用されるインクを含めた液体(水性または非水性)印刷インクビヒクル、液体インクジェットインク組成物、固体または相変化インク組成物、塗料、および自動車用コーティングなどのさまざまなインクおよびコーティング組成物中で、着色剤と組み合わせて使用することもできる。例えば、化合物は、融解温度が60から130℃の固体および相変化インク、溶媒系の液体インク、またはUV硬化性など放射線硬化性の液体インク、および水性インクも含めたさまざまなインクビヒクルに配合することができる。
【0093】
インク組成物に加え、化合物は、その適用例に応じて、例えば塗料、樹脂およびプラスチック、レンズ、光学フィルタなどのさまざまなその他の適用例で着色剤と組み合わせて使用することができる。例として、化合物は、トナー粒子に形成されかつ任意選択で流動助剤や電荷制御剤、電荷増強剤、充填剤粒子、放射線硬化剤または粒子、および表面剥離剤などの内部または外部添加剤で処理されるその他の化合物と共に、ポリマ粒子および顔料粒子を含むトナー組成物に使用することができる。トナー組成物は、トナー樹脂粒子、顔料粒子、およびその他の着色剤、およびその他の任意選択の添加剤の押出し溶融ブレンドと、その後の機械的粉砕および分級を含めたいくつかの公知の方法によって調製することができる。その他の方法には、噴霧乾燥、溶融分散、押出し加工、分散重合、乳化/凝集/合一プロセス、および懸濁重合など、当技術分野で周知の方法が含まれる。トナー粒子は、現像剤組成物を形成するためにキャリア粒子と混合することができる。トナーおよび現像剤組成物は、さまざまな電子写真印刷システムで使用することができる。
【実施例】
【0094】
(実施例1)
<安息香酸誘導体(表1、化合物10(m=11、n=9))>
【化20】
2−デシルテトラデカン酸(Sasol America製ISOCARB 24、1.15g、3.13mmol)および乾燥テトラヒドロフラン(20mL)を、不活性雰囲気中で撹拌しながら100mL容器内で混合する。混合物を、少なくとも30分間0℃に冷却し、触媒量のN,N’−ジメチルホルムアミド(4滴)を添加し、その後、塩化オキサリル(1mL、12.6mmol)をゆっくりと1滴ずつ添加する。次いで反応混合物を、室温までゆっくり温め、30分間撹拌し、その後、回転蒸発によって溶媒を除去する。このように得られた酸塩化物化合物を、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0095】
メチル3,5−ジアミノベンゾエート(260.8mg、1.9mmol)を、不活性雰囲気中で、100mL容器内の乾燥テトラヒドロフラン(5mL)に溶解する。次いでトリエチルアミン(0.7mL、4.99mmol)を添加し、溶液を0℃に冷却する。次いでステップIからの2−デシルテトラデカノイル塩化物を乾燥テトラヒドロフラン(10mL)に溶かした溶液を、ゆっくりと1滴ずつ添加する。次いで反応混合物を、ゆっくりと室温に温める。一晩撹拌した後、反応を水で止め、テトラヒドロフランを回転蒸発によって除去する。次いで粗製生成物の残留物を、ジエチルエーテル(50mL)に溶解し、脱イオン水(20mL)で洗浄する。エーテル層を分離し、濃縮することによって、メチル3,5−ビス(2’−デシルテトラデカンアミド)ベンゾエートが薄いピンク色の固体(1.17g)として得られる。
【0096】
ステップIIからのメチル3,5−ビス(2’−デシルテトラデカンアミド)ベンゾエート、水酸化カリウム(0.38g、5.77mmol)、およびメタノール(20mL)を、50mL容器に添加し、加熱還流する。次いで脱イオン水(10mL)を添加し、反応混合物を一晩、還流状態で保持する。次いで反応混合物を室温に冷却し、その結果、油層が形成される。ジエチルエーテル(20mL)を添加し、水相を除去する。次いで有機層を、1M塩酸(30mL)、0.1M塩酸(30mL)、および脱イオン水で2回(それぞれ30mL)、連続して洗浄し、その後、回転蒸発によってエーテル層を濃縮し、真空乾燥することによって、3,5−ビス(2’−デシルテトラデカンアミド)安息香酸が明るい褐色の蝋様固体(1.33g、99%)として得られる。生成物を、1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとによって同定し、その純度は満足のいくものである。
【0097】
(実施例2)
<5−(2−デシルテトラデカンアミド)イソフタル酸(表1、化合物53)>
【化21】
2−デシルテトラデカン酸(ISOCARB 24、Sasol America TXから入手したもの、7.65g、20.8mmol)および乾燥テトラヒドロフラン(100mL)を、不活性雰囲気中で、500mLの1つ口丸底フラスコに添加する。次いで触媒量のN,N’−ジメチルホルムアミド(0.28mL、mmol)を添加し、その後、塩化オキサリル(7.3mL、83.7mmol)をゆっくりと1滴ずつ添加する。混合物を、塩酸ガスの発生が止むまで10分間撹拌する。次いで混合物をさらに3時間撹拌し、その後、溶媒を回転蒸発により除去することによって、粘性のある薄黄色のシロップが得られる。このように得られた酸塩化物化合物を、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0098】
ジメチル5−アミノイソフタレート(Aldrich、4.40g、21.0mmol)を、不活性雰囲気中で、250mLの丸底フラスコ内の乾燥テトラヒドロフラン(100mL)中に懸濁させる。ジメチル5−アミノイソフタレート懸濁液を、少なくとも30分間0℃に冷却し、塩化2−デシルテトラデカノイルを乾燥テトラヒドロフラン(80mL)に懸濁した氷冷懸濁液を、ゆっくりと1滴ずつ添加する。次いで反応混合物を、室温までゆっくりと温め、一晩撹拌する。脱イオン水(10mL)を添加し、テトラヒドロフランを回転蒸発によって除去する。次いで粗製残留物を、酢酸エチル250mLに溶解し、1回100mLの脱イオン水で連続3回洗浄する。次いで酢酸エチルを、回転蒸発により有機相から除去し、生成物を真空乾燥することによって、粗製のジメチル5−(2’−デシルテトラデカンアミド)イソフタレート(12.56g)が薄黄色の固体として得られる。
【0099】
ステップIIからのジメチル5−(2’−デシルテトラデカンアミド)イソフタレート、水酸化カリウム(4.67g、0.0832mol)、およびメタノール(100mL)を、500mL容器に添加し、混合物を加熱し、一晩還流状態で維持する。次いで反応混合物を室温まで冷却することにより、濁った赤−橙色の混合物が得られる。次いで混合物を塩酸(7mL)で酸性化することにより、白色の沈殿物が得られ、この沈殿物を吸引濾過によって収集し、脱イオン水で洗浄し、次いで真空乾燥することにより、オフホワイトの粉末(11.7g)が得られる。生成物を、1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとによって同定し、その純度は満足のいくものである。
【0100】
(実施例3)
<5−(2−デシルテトラデカンアミド)イソフタルアミド(表1、化合物74(m=11、n=9))>
【化22】
100mLの丸底フラスコに、窒素雰囲気中で撹拌しながら無水テトラヒドロフラン20mLに溶解した5−(2’−デシルテトラデカンアミド)イソフタル酸(実施例2から、0.89mmol)0.50gを投入する。塩化オキサリル(3.55mmol)0.3mLおよびN,N’−ジメチルホルムアミド2滴を添加し、反応混合物を2時間撹拌し、その後、回転蒸発によってテトラヒドロフランを除去する。粗製溶液を、窒素中に置きながら乾燥テトラヒドロフラン5mLに再懸濁し、次いで氷−水浴を使用して0〜5℃に冷却する。次いで濃縮した30%水酸化アンモニウム4mLを添加し、反応混合物をゆっくりと室温に温め、2日間撹拌する。溶媒を、回転蒸発によって除去する。次いで粗製固体を、クロロホルム75mLに再懸濁し、脱イオン水50mLで洗浄する。クロロホルムを回転蒸発によって除去する。酢酸エチル100mLを添加し、混合物を、脱イオン水で3回(それぞれ50mL)洗浄する。次いで酢酸エチルを回転蒸発によって除去することにより、イソフタルアミド化合物74(表1、m=11、n=9)0.44gが白色固体(94%)として得られる。1Hおよび13C NMRスペクトルは、満足のいく純度の化合物74(表1、m=11、n=9)の構造と一致している。
【0101】
(実施例4)
<ビスイソフタル酸化合物1(表3)>
【化23】
Pripol(登録商標)1006(96%、Uniqema、3.23g、5.70mmol)および乾燥テトラヒドロフラン(50mL)を、不活性雰囲気中で250mLの丸底フラスコに添加する。次いで溶液を、少なくとも30分間0℃に冷却し、その後、触媒量のN,N’−ジメチルホルムアミド(0.10mL、1.3mmol)を添加し、その後、塩化オキサリル(2.0mL、23.3mmol)をゆっくりと1滴ずつ添加する。次いで混合物を、ゆっくりと室温に温め、3.5時間撹拌し、その後、溶媒を回転蒸発により除去することによって、白色固体が懸濁された固体を有する無色の液体が得られる。このように得られた四酸塩化物(tetraacid chloride)化合物を、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0102】
ステップIからの四酸塩化物およびテトラヒドロフラン(50mL)を、不活性雰囲気中で混合し、混合物を少なくとも30分間0℃に冷却した。次いでジメチル5−アミノイソフタレート(Aldrich、2.65g、12.7mmol)を、乾燥N,N’−ジメチルホルムアミド(15mL)に溶かした溶液として、四酸塩化物が入っているフラスコにゆっくりと1滴ずつ添加する。テトラヒドロフラン(10mL)で2回連続して洗浄を行って、アミンのすべてを酸塩化物フラスコに定量的に移した。次いでトリエチルアミン(2.6mL、18.7mmol)を添加し、次いで反応混合物をゆっくりと室温に温め、一晩撹拌した。テトラヒドロフランを回転蒸発によって除去した後、次いで粗製残留物をジエチルエーテル140mLに溶解し、脱イオン水(40mL)、飽和重炭酸ナトリウム(40mL)、5%クエン酸(40mL)、およびブライン(40mL)で洗浄する。次いでジエチルエーテル層を硫酸ナトリウム上で乾燥し、ガラスウールを通して濾過し、溶媒を回転蒸発によって除去し、真空乾燥することによって、粗製テトラメチルビスイソフタレート(5.61g)が粘性の黄色いシロップとして得られる。このように得られたジエステルを、さらに精製することなく次のステップで使用する。
【0103】
ステップIIからのテトラエステル、水酸化カリウム(15.38g、233mmol)、メタノール(200mL)、および脱イオン水(100mL)を、500mLの容器に添加し、混合物を1時間加熱還流した。次いで反応混合物を室温に冷却し、5M塩酸(50mL)で酸性化することにより、白色沈殿物が得られ、この沈殿物を、吸引濾過によって収集し、脱イオン水で洗浄し、次いで真空乾燥することにより、薄い橙−黄色の粉末(4.62g、91%)が得られる。生成物を、1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとによって同定し、その純度は満足のいくものである。
【0104】
(実施例5)
<5−(ブチルアミド)イソフタル酸化合物45(m=3、表1)>
【化24】
ジメチル5−アミノイソフタレート(Aldrich、0.7685g、3.67mmol)を、不活性雰囲気中で、250mLの丸底フラスコ内の乾燥テトラヒドロフラン(20mL)中に懸濁する。トリエチルアミン(1.00mL、7.17mmol)を添加し、懸濁液を少なくとも30分間0℃に冷却し、その後、塩化ブチリルの氷冷懸濁液をゆっくりと1滴ずつ添加する。反応混合物を、ゆっくりと室温に温め、一晩撹拌する。次いで脱イオン水(20mL)およびジエチルエーテル(50mL)を添加する。水層を除去し、有機層を、飽和重炭酸ナトリウム(10mL)、脱イオン水(10mL)、5%クエン酸(10mL)、脱イオン水(10mL)、およびブライン(10mL)で洗浄する。分離後、有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥し、ガラスウールに通して濾過し、次いでエーテルを回転蒸発によって除去することにより、粗製のジメチル5−(ブチルアミド)イソフタル酸ジエステル(1.02g)が白色固体として得られる。このように得られたジエステルを、さらに精製することなく次のステップで使用した。
【0105】
ステップIからのジメチル5−(ブチルアミド)イソフタル酸ジエステル、水酸化カリウム(2.06g、35.6mmol)、およびメタノール(30mL)を50mLの容器に添加し、混合物を1時間加熱還流する。次いで反応混合物を室温に冷却し、5M塩酸で酸性化することにより、白色沈殿物が得られ、この沈殿物を吸引濾過によって収集し、脱イオン水で洗浄し、次いで真空乾燥することにより、オフホワイトの粉末(0.770g、75%)が得られる。生成物を、1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとにより同定し、その純度は満足のいくものである。
【0106】
(実施例6)
<オクタデシルウレイド化合物56(表1)>
【化25】
ジメチル5−アミノイソフタレート(Aldrich、0.441g、2.12mmol)を、不活性雰囲気中で50mLの丸底フラスコ内の乾燥N,N−ジメチルホルムアミド(8mL)に溶解する。次いでオクタデシルイソシアネート(2.12mmol)を乾燥N,N−ジメチルホルムアミド(1mL)に溶かした2.12M溶液を滴下する。残留オクタデシルイソシアネート溶液を、N,N’−ジメチルホルムアミドで2回(それぞれ1mL)にわたり定量的に移し、反応混合物を室温で一晩撹拌する。次いで反応混合物を22時間100℃に加熱し、次いで室温に冷却することによって、白色のスラリが得られる。次いで固体を真空濾過し、新鮮なN,N−ジメチルホルムアミドで洗浄し、その後、脱イオン水で洗浄する。次いで濾液を回転蒸発によって濃縮することにより、白色固体が得られる。
【0107】
粗製のジメチル5−(オクタデシルウレイド)イソフタレート(ステップI、330mg、0.654mmol)を、メタノール(15mL)中に懸濁させる。次いで水酸化カリウム(0.1983mg、3.53mmol)を添加し、混合物を2時間加熱還流する。室温に冷却した後、懸濁した白色固体を濾過によって回収し、冷メタノールで洗浄する。次いで粗製固体を1M塩酸で懸濁し、2日間撹拌し、その後、生成物を濾過によって収集し、脱イオン水で洗浄し、真空乾燥することにより、白色粉末(124.8g)が得られる。生成物を1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとによって同定し、その純度は満足のいくものである。
【0108】
(実施例7)
<5−(ヘキサデシルオキシ)イソフタル酸化合物61(表1)>
【化26】
100mLの丸底フラスコに、ジメチル−5−ヒドロキシイソフタル酸(0.2584g、1.23mmol)、炭酸カリウム(0.356g、2.58mmol)、およびヨウ化カリウム(0.2018g、1.22mmol)を、不活性雰囲気中で投入する。無水N,N’−ジメチルホルムアミド(10mL)を添加し、混合物を2時間60℃に加熱する。次いでブロモヘキサデカン(0.376mL、1.23mmol)を添加し、反応混合物を一晩撹拌する。室温に冷却した後、反応混合物を、回転蒸発によって濃縮する。粗製固体をジエチルエーテル(40mL)に懸濁し、脱イオン水(20mL)、クエン酸(5重量%、20mL)、脱イオン水(20mL)、およびブライン(20mL)で続けて洗浄する。エーテル層を分離し、ガラスウールに通して濾過し、回転蒸発によって濃縮し、真空乾燥することによってオフホワイトの固体(0.53g、100%)が得られる。
【0109】
50mLの容器に、ステップIからのジメチル5−(ヘキサデシルオキシ)イソフタレート(0.44g、1.01mmol)、およびメタノール(20mL)を投入し、加熱還流する。次いで水酸化カリウム(0.388g、5.88mmol)を、8.5時間にわたり少量ずつ添加した。次いで反応混合物を室温に冷却し、5M塩酸(7mL)で酸性化する。次いで脱イオン水(20mL)を添加し、沈殿物を吸引濾過によって収集し、脱イオン水で洗浄し、真空乾燥することにより、白色粉末(0.3671g、73%収率)が得られる。生成物を、1Hおよび13C NMR分光法とESI−MSとによって同定し、その純度は満足のいくものである。
【0110】
(実施例8)
<芳香族酸のアルキル化誘導体のゲル形成>
この実施例は、本発明の芳香族酸のアルキル化誘導体が、適切な有機溶媒中での水素結合およびπ−π相互作用を通して超分子アセンブリ(有機ゲル)を形成することを実証する。
【0111】
[ゲル化試験]
スクリュキャップ式の蓋が付いたバイアル(4mL容量)に、固体としての芳香族酸のアルキル化誘導体(1〜100mg)および溶媒(1mL)を添加した。次いで混合物を超音波処理し、透明な溶液が得られるまで加熱した。冷却し、室温で少なくとも30分間静置した後、サンプルを反転させ、目視検査した。サンプルが流動せずまたは落下しない場合は、ゲルであると判断した。表4は、実施例1から7で記述された芳香族酸のアルキル化誘導体の、ゲル化剤能力を示す。
【0112】
【表39】
【0113】
(実施例9)
<電子顕微鏡法による芳香族酸のアルキル化誘導体からの自己組織化ナノ構造>
この実施例は、走査電子顕微鏡法および走査型透過電子顕微鏡法(それぞれSEMおよびSTEM)によって観察された、基材上に堆積された芳香族酸のアルキル化誘導体から形成された自己組織化ナノ構造について記述する。
【0114】
顕微鏡法サンプルは、固体としての芳香族酸のアルキル化誘導体と、溶媒とを混合し、この混合物を浴内超音波処理に供し、次いで透明な溶液が形成されるように加熱することによって調製する。次いで溶液を室温に冷却し、所望の期間にわたり放置し、その後、顕微鏡法サンプルの調製を行う。冷却後、サンプルは、透明な溶液、混濁コロイド溶液、またはより不透明な分散液になり得る。顕微鏡法サンプルは、薄い炭素被膜でコーティングされた銅メッシュグリッド上に1滴を堆積し、その液滴を被膜上に所望の期間にわたってそのままにし、その後、過剰な溶媒を濾紙で吸い取り、乾燥させることによって、分析用として調製する。表5は、本発明に関して選択された芳香族酸のアルキル化誘導体のナノ構造を含有する組成物の例をまとめている。図1から図7は、選択された芳香族酸のアルキル化誘導体から形成されたナノ構造の、走査電子顕微鏡法および走査型透過電子顕微鏡法による画像を示す。
【0115】
【表40】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに非共有結合している下記の化合物の分子を含むナノ構造であって、
【化1】
上式で、R1からR6の少なくとも1個は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表し、R1からR6のその他の少なくとも1個はX−Rcであり、R1からR6の残りは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換有機基を表し、
Xは、結合基を表し、
Rcは、置換または非置換アルキル基を表す、
ことを特徴とするナノ構造。
【請求項1】
互いに非共有結合している下記の化合物の分子を含むナノ構造であって、
【化1】
上式で、R1からR6の少なくとも1個は、カルボン酸基、第1級アミド基、エステル基、アミジン基、またはこれらの塩を表し、R1からR6のその他の少なくとも1個はX−Rcであり、R1からR6の残りは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換有機基を表し、
Xは、結合基を表し、
Rcは、置換または非置換アルキル基を表す、
ことを特徴とするナノ構造。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【公開番号】特開2011−84725(P2011−84725A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166642(P2010−166642)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【出願人】(595006223)ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ (25)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【出願人】(595006223)ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ (25)
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