説明

ニグロシン染料及びその製造方法

非自然発火性のニグロシン染料およびその製造方法の提供。 ガラス製試料導入部を備えたガスクロマトグラフ装置により、前記試料導入部温度を200℃として測定したアニリン含有量をA重量%、前記試料導入部温度を260℃として測定したアニリン含有量をB重量%とした場合に、B−A≦0.04重量%であるニグロシン染料。そのニグロシン染料を製造する方法であって、中和処理されたニグロシンベースを加熱処理するニグロシン染料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非自然発火性のニグロシン染料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1867年、Coupierはアニリンに塩酸と鉄(Fe)または塩化鉄(FeCl)の存在下でニトロベンゼンを作用させることによりニグロシンを得た。その後、この方法を基本として様々な改良が施されてきた(特許文献1乃至5)。
【0003】
このような合成方法の改良にも拘わらず、得られたニグロシン染料には、自然発火し易い、すなわち貯蔵中や輸送の途中で自然発火が生じ易いという危険性が存在していた。
【0004】
この自然発火性を抑制する方法として、自然発火性のあるニグロシン塩基を、アニリン中で、酸素を含むガスと接触させるという技術が特許文献6(特許文献7)開示されている。しかし、特許文献6(特許文献7)に開示された方法によって得られたニグロシン染料も非自然発火性への変換は全く不十分であることが分かった。
【特許文献1】米国特許第1896244号公報
【特許文献2】米国特許第1988499号公報
【特許文献3】米国特許第4056530号公報
【特許文献4】ドイツ特許第44406号公報
【特許文献5】ドイツ特許第890104号公報
【特許文献6】米国特許第4359577号公報
【特許文献7】特開昭56−141354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術に存した上記のような課題に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、非自然発火性のニグロシン染料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は非自然発火性ニグロシンを得るべく鋭意検討した結果、ガスクロマトグラフ法によって測定されるニグロシン中のアニリン量と自然発火性との間に明確な関連のあることを見出した。
【0007】
ニグロシンは、通常、アニリンを夾雑物として含有している。本発明者等は、ニグロシン中のアニリン量をガスクロマトグラフ法(以下、「GC法」とも言う。)により定量した場合におけるガスクロマトグラフ装置の試料導入部温度と測定されるアニリン含量との関係に着目した。試料導入部温度が特定温度以下である場合、試料導入部温度とニグロシン中のアニリン含有量定量値に実質的な変化は認められず、夾雑物として存在しているアニリン(以下、「夾雑物アニリン」と言う。)がほぼそのまま定量される。
【0008】
ところが試料導入部温度が前記特定温度を超えると、温度が高くなるに伴いニグロシン中のアニリン含有量定量値が徐々に増加する。これは、ニグロシン構造の一部が分解して遊離するアニリン(以下「遊離アニリン」と言う。)が生じるためであると考えられ、この遊離アニリン量の多/少がニグロシンの自然発火性の高/低に関連しているものと認められる。試料導入部温度を、前記特定温度を上回る温度であって、十分な量の遊離アニリンが生じる適切な温度に設定し、測定アニリン量から夾雑物アニリン量を差し引けば、遊離アニリン量の多/少が算出される。
【0009】
ガラス製試料導入部を備えたガスクロマトグラフ装置により、前記試料導入部温度を200℃として測定したアニリン含有量(夾雑物アニリンの含有量に対応)をA重量%、前記試料導入部温度を260℃として測定したアニリン含有量(夾雑物アニリンと遊離アニリンの合計含有量に対応)をB重量%とした場合に、B−Aの値(遊離アニリンの含有量に対応)が小さくなるにつれて自然発火性が低下し、B−A≦0.04重量%であるニグロシン染料は非自然発火性となる。従来のニグロシン染料に、B−A≦0.04重量%のものは見当たらない。
【0010】
すなわち本発明のニグロシン染料は、ガラス製試料導入部を備えたガスクロマトグラフ装置により、前記試料導入部温度を200℃として測定したアニリン含有量をA重量%、前記試料導入部温度を260℃として測定したアニリン含有量をB重量%とした場合に、B−A≦0.04重量%であることを特徴とする。
【0011】
ニグロシン染料における自然発火性の判定は、所定の国連勧告に従って行うことができる。上記本発明のニグロシン染料は、国連勧告「危険物の輸送についての勧告−試験及び基準マニュアル−改訂第3版(クラス4,自己発熱性物質のための試験方法」[Recommendations on the TRANSPORT OF DANGEROUSGOODS−Manual of Tests and Criteria−Third revised edition(Class4,Test method for self−heating substances)]に従って、1辺10cmの立方体容器に収容し、140℃の温度を維持する試験において、24時間以内に自然発火及び200℃以上の発熱の何れもが生じないものである。
【0012】
本発明者等は、従来のニグロシン染料における上記のような遊離アニリンの発生原因及び自然発火性について鋭意検討した結果、遊離アニリンの発生は、ニグロシン成分の一部分解によるものであり、ニグロシン成分の一部分解により発生する熱の蓄積が発火の一つの原因であると推定した。本発明のニグロシン染料の製造方法は、ニグロシン成分の一部分解による遊離アニリン量を減少させることができるニグロシン染料を製造しようとしたものである。
【0013】
すなわち、本発明のニグロシン染料の製造方法は、上記本発明のニグロシン染料を製造する方法であって、中和処理されたニグロシンベースを加熱処理することを特徴とする。
【0014】
本発明のニグロシン染料は非自然発火性であるため、安全性が高く、貯蔵や輸送等における取り扱いが容易である。また本発明のニグロシン染料の製造方法によれば、従来の自然発火性のニグロシン染料から本発明の非自然発火性のニグロシン染料を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のニグロシン染料を特定するためのアニリン量測定についてのより具体的な方法は、特に限定されず、ニグロシン染料に含まれるアニリンをガラス製試料導入部温度が200℃の場合と260℃の場合の何れにおいても再現性良く定量できればよい。後記実施例及び比較例におけるA重量%及びB重量%(ガラス製試料導入部温度をそれぞれ200℃及び260℃としてガスクロマトグラフ装置により測定したアニリン含有量)の測定を行なった方法を、その一例として挙げる。
【0016】
精秤した試料0.1gに、エタノール:クロロホルム=1:1の混合溶媒9mlと、内部標準液(精秤したp−ニトロトルエン0.1gを、エタノール:クロロホルム=1:1[体積比]の混合溶媒に溶解させ、総量100mlに調製したもの)1mlを加え、超音波処理を20分間行なったものを、孔径:0.45μmのフィルターで濾過した濾液1μl(マイクロリットル)を、次のようなガスクロマトグラフ装置のガラス製試料導入部に注入して試料のアニリン量を定量する。
【0017】
ガスクロマトグラフ装置については、次の通りである。
ガスクロマトグラフィ:HP5890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:DB−1701(30m×0.53mmI.D.×1.0μm Film)J&W社製
オーブン:100℃−260℃(10℃/min)
導入部(Injection port):ガラス製,200℃又は260℃,スプリット比(split ratio)10:1
検出器(Detector):水素炎イオン化検出器(FID),280℃
注入体積:1μl
【0018】
なお、カラムは他のもの、例えばDB−5(J&W社製)等を用いてもよい。
【0019】
ニグロシン染料における自然発火性の判定を行なうための上記試験、すなわち国連勧告「Recommendations on the TRANSPORT OF DANGEROUSGOODS−Manual of Tests and Criteria−Third revised edition(Class4,Test method for self−heating substances)」に従って、1辺10cmの立方体容器に収容し、140℃の温度を維持する試験は、具体的には次のように行ない得る。後記実施例及び比較例においても次に示す自然発火性試験により自然発火性を判定した。
【0020】
目開きが0.053mmのステンレス製の網で作られた一辺が10cmの立方体であって上部が開放されている試料容器にサンプルを充填し、サンプルを充填した試料容器を、その試料容器を内部に収容し得る大きさの立方体であって、目開きが0.595mmのステンレス製の網で作られた上部が開放されている試料容器カバーに収納し、それを、恒温槽の中央部に吊り下げた、目開きが0.595mmのステンレス製の網で作られ、その大きさが縦15cm、横15cm、高さ25cmであるかごの内側中央部に設置する。また、サンプルの中心部及び恒温槽内部の温度が測定できるように温度計(熱電対)を設置する。恒温槽内部の温度を140℃に設定し、以後24時間この温度を保持すると共に、サンプルの温度を24時間連続測定して記録する。24時間以内に、発火が認められるか又はサンプルの温度が200℃を超えた場合は、その時点でテストを中止する。テスト開始から、発火が認められるか又はサンプルの温度が200℃に達するまでの時間を発火までの時間とする。
【0021】
本発明のニグロシン染料は、例えば、自然発火性ニグロシン染料を、溶媒中、加熱処理することにより製造することができる。より具体的な例としては、次のような製法を挙げることができる。
(1)自然発火性ニグロシン染料の有機酸存在下における加熱処理
【0022】
自然発火性のニグロシン染料を、溶媒中、触媒として有機酸を用いて加熱処理することにより、本発明のニグロシン染料を得ることができる。
【0023】
有機酸としては、pKaが0以上であるものが好ましく、より好ましくはpKaが3乃至5である有機酸である。特に好ましいのは、式(1)で表される脂肪族又は芳香族カルボン酸類である。
【0024】
【化1】

[式(1)中、Rは脂肪族基又は芳香族基である。]
【0025】
このようなカルボン酸類の具体例としては、ギ酸、蓚酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の脂肪族カルボン酸類;安息香酸、フタル酸類、ベンゼントリカルボン酸類、ベンゼンテトラカルボン酸類等の芳香族カルボン酸類を挙げることができる。
塩酸、硫酸等の無機酸や有機酸の中でも有機スルホン酸等の比較的強い酸(PKa<0)では、一般に、B−A≦0.04%の非自然発火性のニグロシン染料を得ることは難しい。
【0026】
触媒として有機酸を用いる場合、加熱処理の温度は100℃以上250℃以下が好ましい。より好ましくは160℃以上220℃以下である。
【0027】
加熱処理時間は、原料として用いるニグロシンによって異なるが、一般には5乃至48時間である。処理時間が極端に短いと十分な効果が得られない場合がある。
【0028】
(2)自然発火性ニグロシン染料の、金属酸化物又はヘテロポリ酸存在下における加熱処理
自然発火性のニグロシン染料を、溶媒中、触媒として金属酸化物又はヘテロポリ酸を用いて加熱処理することにより、本発明のニグロシン染料を得ることができる。
【0029】
前記金属酸化物は、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、酸化モリブデン(VI)、酸化タングステン(VI)、及び酸化バナジウム(V)から選ばれた1又は2以上とすることができる。
【0030】
また前記ヘテロポリ酸は、HPMo40、HPW1240、HPMo1240、HPMo1040、HPMo1040、HSiW1240、及びHGeMo1240から選ばれた1又は2以上とすることができる。
【0031】
触媒として金属酸化物又はヘテロポリ酸を用いる場合、加熱処理の温度は50℃以上250℃以下が好ましい。より好ましくは、100℃以上220℃以下である。
【0032】
加熱処理時間は、原料として用いるニグロシンによって異なるが、一般には5乃至48時間である。処理時間が極端に短いと十分な効果が得られない場合がある。
【0033】
(3)自然発火性ニグロシン染料の無触媒での加熱処理
自然発火性のニグロシン染料を、溶媒中、無触媒で加熱処理することによっても、本発明のニグロシン染料を得ることができる。
【0034】
無触媒の場合の加熱温度は、200℃以上300℃以下が好ましい。より好ましくは220℃以上250℃以下である。
【0035】
加熱処理時間は、原料として用いるニグロシンによって異なるが、一般には10乃至60時間である。処理時間が極端に短いと十分な効果が得られない場合がある。
【0036】
上記製法において出発原料として用いる自然発火性のニグロシン染料(ニグロシン)は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、中和処理されたニグロシンベース(具体例としては、C.I.ソルベントブラック5、C.I.ソルベントブラック7及びこれらの誘導体)であることが望ましい。より好ましくは、C.I.ソルベントブラック7である。自然発火性のニグロシン染料(ニグロシン)というのは、上記国連勧告に従って、1辺10cmの立方体容器に収容し、140℃の温度を維持する試験において、24時間以内に自然発火又は200℃以上の発熱の何れかが生じるものを言う。
【0037】
上記何れの製法も、無溶媒下でも可能であるが、後処理工程の利便性等の点から、溶媒を使用することが好ましい。
【0038】
溶媒としてはアルコール系溶媒、芳香族系溶媒、非プロトン性極性溶媒、アミン系溶媒等、様々なものが使用できるが、その中でも芳香族アミン類が適する。
【0039】
このような芳香族アミン類の例としては、アニリン、メチルアニリン、ジメチルアニリン、エチルアニリン、ジエチルアニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、トリベンジルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、α−ナフチルアミン、β−ナフチルアミン等を挙げることができる。これらの中、各種置換基を有する又は非置換のアニリン類が好適であり、アニリンが最も好ましい。
【0040】
また上記製法は、加熱処理を加圧下で行うこともできる。
【0041】
また、上記何れの製法も、用いる溶媒によっては、オートクレーブを用いて処理温度を上げることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明の内容はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の記述における「%」は「重量%」を意味する。
【0043】
実施例1
市販されている中和処理されたニグロシンベースである、自然発火性ニグロシン(B−A=0.11%)1.0kgとアニリン2.0kgの混合液に酢酸(pKa=4.56)10gを加え、撹拌しながら大気下で20時間還流させた(この時の溶液温度は約190℃)。その後、約30℃まで放冷し、次いで2%NaOH水溶液1L(リットル)で2回洗浄し、更に水洗した。
【0044】
得られたニグロシン染料を減圧乾燥後GC分析したところ、試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.21%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.24%、すなわちB−A=0.03%であった。このニグロシン染料は、上記自然発火性試験で24時間後も発火しなかった。
【0045】
実施例2
環流処理時間を30時間としたこと以外は実施例1と同様に処理したところ、得られたニグロシン染料における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.21%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.22%、すなわちB−A=0.01%であった。このニグロシン染料は上記自然発火性試験で24時間後も発火しなかった。
【0046】
実施例3
酢酸に代えてプロピオン酸(pKa=4.67)20gを用いたこと以外は実施例1と同様に処理したところ、得られたニグロシン染料における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.18%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.20%、すなわちB−A=0.02%であった。このニグロシン染料は上記自然発火性試験で24時間後も発火しなかった。
【0047】
実施例4
酢酸に代えて安息香酸(pKa=4.00)20gを用いたこと以外は実施例1と同様に処理したところ、得られたニグロシン染料における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.15%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.18%、すなわちB−A=0.03%であった。このニグロシン染料は上記自然発火性試験で24時間後も発火しなかった。
【0048】
実施例5
酢酸に代えてカラムクロマトグラフ用シリカゲル(和光純薬社製)40gを用い、還流後、濾過によりシリカゲルを除去したこと以外は実施例1と同様に処理したところ、得られたニグロシン染料における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.52%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.54%、すなわちB−A=0.02%であった。このニグロシン染料は上記自然発火性試験で24時間後も発火しなかった。
【0049】
実施例6
環流処理時間を24時間としたこと以外は実施例5と同様に処理したところ、得られたニグロシン染料における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.63%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.64%、すなわちB−A=0.01%であった。このニグロシン染料は上記自然発火性試験で24時間後も発火しなかった。
【0050】
実施例7
シリカゲルに代えてモレキュラシーブス4A(アルドリッチ社製:シリカアルミナ)40gを用いたこと以外は実施例5と同様に処理したところ、得られたニグロシン染料における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.31%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.33%、すなわちB−A=0.02%であった。このニグロシン染料は上記自然発火性試験で24時間後も発火しなかった。
【0051】
実施例8
シリカゲルに代えてHPMo40を30g用いたこと以外は実施例6と同様に処理したところ、得られたニグロシン染料における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.11%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.12%、すなわちB−A=0.01%であった。このニグロシン染料は上記自然発火性試験で24時間後も発火しなかった。
【0052】
実施例9
シリカゲルに代えてHPMo1040を40g用いたこと以外は実施例5同様に処理したところ、得られたニグロシン染料における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.11%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.13%、すなわちB−A=0.02%であった。このニグロシン染料は上記自然発火性試験で24時間後も発火しなかった。
【0053】
実施例10
自然発火性ニグロシン(B−A=0.11%)1.0kgとアニリン1.0kgの混合液を、オートクレーブ中で、撹拌下220℃で48時間加熱処理した。
【0054】
得られたニグロシン染料を減圧乾燥後GC分析したところ、GC試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.21%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.25%、すなわちB−A=0.04%であった。このニグロシン染料は上記自然発火性試験で24時間後も発火しなかった。
【0055】
比較例1(特許文献6及び7に示された実施例1)
実施例1で用いた自然発火性のニグロシン1.0kgとアニリン2.0kgの混合物を良く撹拌しながら、75℃で16時間空気(500ml/min)を吹き込んだ。次いでこの溶液を、アニリン等の揮発分が1%以下になるまで乾燥させた後、冷却した。
【0056】
得られた生成物をGC分析したところ、GC試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.51%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.63%、すなわち、B−A=0.12%であった。特許文献6及び7では、得られたサンプルは非発火性であると記されているが、上記自然発火性試験法によると6.6時間後に発火した。
【0057】
比較例2(特許文献6及び7に示された実施例2)
実施例1で用いた自然発火性のニグロシン1.0kgとアニリン2.0kgの混合物を良く撹拌しながら、50乃至55℃で20時間空気(16l/min[リットル/分])を吹き込んだ。次いでこの溶液を、アニリン等の揮発分が1%以下になるまで乾燥させた後、冷却した。
【0058】
得られた生成物をGC分析したところ、試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.44%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量は0.53%、B−A=0.09%であった。特許文献6及び7では、得られたサンプルは非発火性であると記されているが、上記自然発火性試験法によると7.0時間後に発火した。
【0059】
比較例3
酢酸に代えて塩酸(pKa=−7.0)10gを用いる以外は実施例1と同様に処理したところ、得られた生成物における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.47%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.78%、すなわち、B−A=0.31%であった。このサンプルは3.5時間後に発火した。
【0060】
比較例4
酢酸に代えてトルエンスルホン酸(pKa=−6.5)20gを用いる以外は実施例1と同様に処理したところ、得られた生成物における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.57%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.83%、すなわち、B−A=0.26%であった。このサンプルは3.2時間後に発火した。
【0061】
比較例5
環流処理時間を極端に短く(3時間)した以外は実施例1と同様に処理したところ、得られた生成物における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.20%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.26%、すなわちB−A=0.06%であった。このサンプルは13.5時間後に発火した。
【0062】
比較例6
環流処理時間を極端に短く(3時間)した以外は実施例5と同様に処理したところ、得られた生成物における試料導入部温度200℃の場合のアニリン量Aは0.19%、試料導入部温度260℃の場合のアニリン量Bは0.30%、すなわちB−A=0.11%であった。このサンプルは7.0時間後に発火した。
【0063】
表1に実施例及び比較例の結果をまとめた。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製試料導入部を備えたガスクロマトグラフ装置により、前記試料導入部温度を200℃として測定したアニリン含有量をA重量%、前記試料導入部温度を260℃として測定したアニリン含有量をB重量%とした場合に、B−A≦0.04重量%であることを特徴とするニグロシン染料。
【請求項2】
国連勧告「危険物の輸送についての勧告−試験及び基準マニュアル−改訂第3版(クラス4,自己発熱性物質のための試験方法)」に従って、1辺10cmの立方体容器に収容し、140℃の温度を維持する試験において、24時間以内に自然発火及び200℃以上の発熱の何れもが生じない請求項1記載のニグロシン染料。
【請求項3】
中和処理されたニグロシンベースを加熱処理することによって得られる請求項1又は2記載のニグロシン染料。
【請求項4】
中和処理されたニグロシンベースを、各種溶媒中、触媒として有機酸の存在下で加熱処理することによって得られる請求項1又は2記載のニグロシン染料。
【請求項5】
中和処理されたニグロシンベースを、各種溶媒中、触媒として金属酸化物の存在下で加熱処理することによって得られる請求項1又は2記載のニグロシン染料。
【請求項6】
中和処理されたニグロシンベースを、各種溶媒中、触媒としてヘテロポリ酸の存在下で加熱処理することによって得られる請求項1又は2記載のニグロシン染料。
【請求項7】
中和処理されたニグロシンベースを、各種溶媒中、無触媒で加熱処理することによって得られる請求項1又は2記載のニグロシン染料。
【請求項8】
上記溶媒がアニリン類である請求項4乃至7の何れかに記載のニグロシン染料。
【請求項9】
上記溶媒がアニリンである請求項4乃至7の何れかに記載のニグロシン染料。
【請求項10】
上記有機酸のpKaが0以上である請求項4記載のニグロシン染料。
【請求項11】
上記有機酸のpKaが3乃至5である請求項4記載のニグロシン染料。
【請求項12】
上記有機酸が、下記式(1)で表される脂肪族又は芳香族カルボン酸類である請求項11記載のニグロシン染料。
【化1】


[式(1)中、Rは脂肪族基又は芳香族基である。]
【請求項13】
上記金属酸化物が、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、酸化モリブデン(VI)、酸化タングステン(VI)、及び酸化バナジウム(V)から選ばれた1又は2以上である請求項5記載のニグロシン染料。
【請求項14】
上記ヘテロポリ酸が、HPMo40、HPW1240、HPMo1240、HPMo1040、HPMo1040、HSiW1240、及びHGeMo1240から選ばれた1又は2以上である請求項6記載のニグロシン染料。
【請求項15】
上記加熱処理の温度が100℃以上250℃以下である請求項4記載のニグロシン染料。
【請求項16】
上記加熱処理の温度が50℃以上250℃以下である請求項5又は6記載のニグロシン染料。
【請求項17】
上記加熱処理の温度が200℃以上300℃以下である請求項7記載のニグロシン染料。
【請求項18】
上記加熱処理を加圧下で行う請求項3乃至7の何れかに記載のニグロシン染料。
【請求項19】
請求項1記載のニグロシン染料を製造する方法であって、中和処理されたニグロシンベースを加熱処理することを特徴とするニグロシン染料の製造方法。
【請求項20】
上記加熱処理を溶媒中で行なう請求項19記載のニグロシン染料の製造方法。
【請求項21】
触媒として有機酸、金属酸化物、又はヘテロポリ酸の存在下で加熱処理する請求項19又は20記載のニグロシン染料の製造方法。
【請求項22】
上記加熱処理を加圧下で行う請求項19、20又は21記載のニグロシン染料の製造方法。
【請求項23】
上記溶媒がアニリンである請求項19乃至22の何れかに記載のニグロシン染料の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/021657
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513461(P2005−513461)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012297
【国際出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000103895)オリヱント化学工業株式会社 (59)