説明

ニコチン由来ハプテンの調製方法

式I



(式中、n、RおよびRの意味は明細書中に示した通り)のニコチン由来ハプテンまたはその塩もしくは溶媒和物の調製方法。ニコチン由来ハプテンは禁煙ワクチンの一部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[1] 本発明は、禁煙ワクチンの有用な成分であるニコチン由来ハプテンの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[2] タバコは世界中で最も広く利用されている嗜癖性薬物である。タバコの主な嗜癖性成分はニコチンであり、タバコの葉に由来するアルカロイドである。紙巻きタバコでの喫煙は、米国や他の多くの国において予防が可能な死因の第一位である。肺癌、冠動脈性心疾患、慢性肺疾患や卒中が喫煙によって引き起こされることを多くの喫煙者が承知している一方で、禁煙を試みた紙巻きタバコ喫煙者の大多数が失敗に終わっている。
【0003】
[3] ニコチン置換療法(例えば、ニコチンガムや経皮パッチの利用)や抗うつ薬治療(例えば、ブプロピオンの利用)といった様々な行動療法や薬物療法が、喫煙者の禁煙を助けるのに有効である。しかしながら、結果は明らかに様々である。これらの療法は、望ましくない副作用を引き起こしかねないものであり、また、喫煙者が禁煙の意思を持ち続けることに大きく依存している。
【0004】
[4] 特許文献1には、禁煙のための治療用ワクチンが開示されている。ワクチンを投与すると、血液中のニコチンに結合するニコチン特異的抗体が高レベルで産生される。ニコチンと抗体との結合複合体は、血液脳関門を通過するには大き過ぎるため、ニコチンの脳への取り込みと、それに続く脳でのニコチン感知性ニューロンの刺激が有意に軽減または予防されると考えられる。このように、嗜癖を誘発し満足をもたらすニコチンの刺激を最小限に抑える。
【0005】
[5] 特許文献1のワクチンは、大腸菌で産生されたphagusQβ組換えウイルス様粒子の表面に化学的架橋を介して結合したニコチン由来ハプテンからなる。ニコチン由来ハプテンは既知のニコチン誘導体、即ち、1−(トランス−3’−ヒドロキシメチル−ニコチニル)−6−ヒドロキシ−スクシンイミジル−スクシネート(C1923)である。このハプテンは、Langoneら(非特許文献1)に開示された手順に基づき、トランス−3’−ヒドロキシメチルニコチンと無水コハク酸とを反応させて、スクシニル化ヒドロキシメチル−ニコチンであるO−スクシニル−3’−ヒドロキシメチル−ニコチンを生成することで合成する。次いで、この化合物を1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と混合して、O−スクシニル−3’−ヒドロキシメチル−ニコチンのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル、即ち、前述の1−(トランス−3’−ヒドロキシメチル−ニコチニル)−6−ヒドロキシスクシンイミジル−スクシネートを得る。
【0006】
[6] 特許文献1に開示の方法は、当該方法によって調製されるハプテンに毒性かつ突然変異誘発性のEDCが残存量含まれる可能性があるため、工業生産には望ましくない。また、ハプテンは元来不安定な分子でもある。このため、ハプテンの取り扱いおよび調製を困難にしている。従って、これらの問題を回避するか、または、少なくとも最小限に抑えるハプテンの調製方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US6,932,971
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Radioimunno-assay of nicotine, cotine and γ-(3-pyridyl)-γ-oxo-N-methylbutyramide, Methods Enzymol. 84, pages 628-640, Academic Press 1982
【発明の概要】
【0009】
[7] 第一の態様では、本発明は、下記式Iのニコチン由来ハプテンまたはその塩もしくは溶媒和物の調製方法に関する:
【0010】
【化1】

【0011】
[8] (式中、nは0〜5の整数であり、RおよびRは一緒になって、1〜4個の環窒素原子と必要に応じて酸素および硫黄からなる群より選択される1〜4個の他のヘテロ原子とを含有するN−結合5〜10員ヘテロ環基を形成し、ここで当該ヘテロ環基は、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、アミノカルボニル、ニトロ、C−C−アルキル、C−C−アルコキシまたはC−C−シクロアルキルで1、2、3または4箇所置換されていてもよい)。当該方法は、以下の工程を含むものである:
[9] (a)下記式IIの化合物またはその塩もしくは溶媒和物を
【0012】
【化2】


(式中、nは0〜5の整数である)
[10] 下記式IIIの化合物またはその塩
【0013】
【化3】

【0014】
[11] (式中、RおよびRは上記で定義した通り)
[12] および、ポリマー担持カップリング剤と反応させ、
[13] (b)工程(a)の生成物を濾過して、式I(上記で定義した通り)の化合物を遊離体、塩または溶媒和物の形態で得る。
【0015】
[14] 第二の態様では、本発明は、上述した式Iのニコチン由来ハプテンの調製方法によって得られる、または、得られた式I(上記で定義した通り)のニコチン由来ハプテンに関する。好ましくは、H NMR等で測定した際にハプテンが80%、85%または90%を超える純度である組成物としてハプテンを提供する。
【0016】
[15] 第三の態様では、本発明は、ハプテン−担体コンジュゲートの調製方法を提供する。当該方法は、本発明の第一の態様の方法で得られた、または、得られる式Iのニコチン由来ハプテンを、ウイルス様粒子(VLP)の1以上の外被タンパク質へ共有結合的にカップリングさせることを含む。一実施態様では、VLPがRNAファージの外被タンパク質、好ましくはファージQβの外被タンパク質を含む。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[16] 本明細書中で使用する用語は、以下の意味を有する。
【0018】
[17] 本明細書中「置換されていてもよい」とは、以下に挙げる基のいずれか一つ、または、それらの任意の組み合わせによって1箇所以上置換可能な基を意味する。
【0019】
[18] 本明細書中「ハロ」または「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であってよい。ハロは、適切には(suitably)塩素である。
【0020】
[19] 本明細書中「C−C−アルキル」とは、1〜5個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルキルを意味する。C−C−アルキルは、適切にはメチルまたはエチルである。
【0021】
[20] 本明細書中「C−C−シクロアルキル」とは、3〜8個の環炭素原子を有するシクロアルキルを意味し、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルもしくはシクロオクチル等の単環基、または、ビシクロヘプチルもしくはビシクロオクチル等の二環基を意味する。C−C−シクロアルキルは、適切にはC−C−シクロアルキル、特にシクロヘキシルである。
【0022】
[21] 本明細書中「1〜4個の環窒素原子と必要に応じて酸素および硫黄からなる群より選択される1〜4個の他のヘテロ原子とを含有するN−結合5〜10員ヘテロ環基」とは、5、6、7、8、9または10個の環原子を含むヘテロ環基であり、環原子のうちの一つが窒素であって、式Iの化合物のニコチニル部分に対して遠位のエステル基の酸素原子に結合しており、必要に応じて残りの環原子の1、2または3個が窒素原子であり、また、必要に応じて残りの環原子の1、2、3または4個が酸素および硫黄から選択可能である。N−結合5〜10員ヘテロ環基は、例えば、飽和または不飽和の単環式または二環式ヘテロ環基であってよい。N−結合5〜10員ヘテロ環基は、適切には、1〜4個の環窒素原子を含有するN−結合5または6員ヘテロ環基、特にN−結合ピロリジニルである。
【0023】
[22] 本明細書中「ニコチン由来ハプテン(nicotine-based hapten)」とは、担体に直接または架橋基を介して結合可能なように誘導体化されているニコチンのことであり、エナンチオマー的に純粋なSもしくはR体、または、これらの混合物のいずれであってもよい。
【0024】
[23] 本明細書中「ワクチン」とは、担体に結合した本発明のニコチン由来ハプテンを含有する製剤であって、動物へ投与可能な形態の製剤のことである。典型的には、ワクチンには、従来慣用の生理食塩水または緩衝化水溶液媒体(例えば、アルミニウム塩溶液)にニコチン由来ハプテン−担体コンジュゲートを懸濁または溶解したものが含まれる。この形態であれば、病態の予防、改善あるいは治療にワクチンを簡便に利用できる。宿主に導入されると、ワクチンは免疫応答を誘発することができ、免疫応答としては、抗体および/またはサイトカインの産生、および/または、細胞傷害性T細胞、抗原提示細胞(例えば、免疫グロブリン)、ヘルパーT細胞、樹状細胞の活性化、および/または、その他の細胞応答が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
[24] 本明細書および特許請求の範囲を通して、文脈上他に必要としない限り、用語「含む」とは、記載した整数または工程(単数であっても複数であっても)を包含するが、その以外の整数または工程(単数であっても複数であっても)は排除しないものと理解されたい。
【0026】
[25] 本発明は、禁煙ワクチンの有用な成分であるニコチン由来ハプテンの調製方法に関する。
【0027】
[26] ニコチン由来ハプテンを含有する禁煙ワクチンは、US6,932,971(Cytos)、US6,232,082(Nabi)およびUS6,656,469(IPAB)に開示されており、ハプテンが化学的架橋を介して、大腸菌で産生されるphagusQβ組換えウイルス様粒子、組換え緑膿菌エキソプロテインA(rEPA)および破傷風トキソイドにそれぞれ結合している。
【0028】
[27] ニコチンは以下の化学構造を有する。
【0029】
【化4】

【0030】
[28] ニコチンは、ヒトでは免疫学的応答を誘発しない。しかしながら、ニコチンを誘導体化して適切な担体に結合させたハプテンを形成することで、ヒトにおいてもニコチン特異的抗体を生成することが可能である。
【0031】
[29] 本発明は、遊離体、塩または溶媒和物の形態である、下記式Iのニコチン由来ハプテンの調製方法に関する:
【0032】
【化5】

【0033】
(式中、nは0〜5の整数であり、RおよびRは一緒になって、1〜4個の環窒素原子と必要に応じて酸素および硫黄からなる群より選択される1〜4個の他のヘテロ原子とを含有するN−結合5〜10員ヘテロ環基を形成し、ここで当該ヘテロ環基は、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、アミノカルボニル、ニトロ、C−C−アルキル、C−C−アルコキシまたはC−C−シクロアルキルで1、2、3または4箇所置換されていてもよい)。
【0034】
[30] 以下に記載する本発明の適切な、好適な、より好適な、または、最も好適な態様は、別々に、一括して、または、任意の組み合わせで含まれていてもよい。
【0035】
[31] nは、適切には0〜5の整数、例えば0、1、2、3、4または5であり、特に1である。
【0036】
[32] RおよびRは、適切には、一緒になって1または2個の環窒素原子と必要に応じて酸素および硫黄からなる群より選択される1または2個の他のヘテロ原子とを含有するN−結合5〜6員ヘテロ環基を形成し、ここで当該ヘテロ環基は、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、アミノカルボニル、ニトロ、C−C−アルキル、C−C−アルコキシまたはC−C−シクロアルキルで1または2箇所置換されていてもよく、特にオキソで置換されていてもよい。例えば、RおよびRは一緒になって2位および5位がオキソで置換されたピロリジン基、即ち、スクシンイミジルを形成する。
【0037】
[33] 上述のN−結合5〜6員ヘテロ環基がC−C−アルキルで置換されている場合には、C−C−アルキルは適切にはメチルまたはエチルである。
【0038】
[34] 上述のN−結合5〜6員ヘテロ環基がC−C−アルコキシで置換されている場合には、C−C−アルコキシは適切にはメトキシまたはエトキシである。
【0039】
[35] 上述のN−結合5〜6員ヘテロ環基がC−C−シクロアルキルで置換されている場合には、C−C−シクロアルキルは適切にはペンチルまたはヘキシルである。
【0040】
[36] ハプテンには少なくとも一つの不斉炭素原子が含まれ、そのため、個々の異性体の形態、または、その混合物(例えば、ラセミ混合物やジアステレオマー混合物)として存在している。本発明には、各立体中心の個々の異性体の全て(例えば、SS、SR、RSおよびRR異性体)並びにその混合物(例えば、ラセミ混合物(例えば、2種類の異性体の50:50混合物や4種類全ての異性体の25:25:25:25混合物)またはジアステレオマー混合物)を調製することが包含される。
【0041】
[37] 式Iのニコチン由来ハプテンは、適切には式Ia
【0042】
【化6】

【0043】
のニコチン由来ハプテンであって、遊離体、塩または溶媒和物の形態であり、トランスエナンチオマーのラセミ混合物である。
【0044】
[38] 特に好ましい実施態様では、式Iのニコチン由来ハプテンは式Ib
【0045】
【化7】

【0046】
のニコチン由来ハプテンであって、遊離体、塩または溶媒和物の形態であり、トランス−4−ニコチンメチレンモノ−スクシネートエステルスクシンイミジルエステル(トランスコハク酸2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イルエステル1−メチル−2−ピリジン−3−イル−ピロリジン−3−イルメチルエステル(C1923)としても知られる)のラセミ体である。
【0047】
[39] 式Iのニコチン由来ハプテンの調製方法には2つの工程(a)および(b)が含まれ、標準的な反応器(好ましくは、ポリマー構造を損傷しないよう緩やかに攪拌しながら)と、標準的なユニットでの濾過とで行うことができる。
【0048】
[40] 工程(a)では、式II
【0049】
【化8】

【0050】
[41] (式中、nは0〜5の整数である)の化合物またはその塩もしくは溶媒和物を、式III
【0051】
【化9】

【0052】
[42] (式中、RおよびRは上記で定義した通り)の化合物またはその塩、
[43] および、ポリマー担持カップリング剤と反応させる。
【0053】
[44] 好ましい実施態様では、式IIの化合物は下記式IIaの化合物であり、遊離体、塩または溶媒和物の形態である。
【0054】
【化10】

【0055】
[45] ポリマー担持カップリング剤は、適切には、アミド結合やエステルを形成する際の活性酸種を調製するためのポリマー担持型溶液相合成試薬である。
【0056】
[46] 好ましい実施態様では、ポリマー担持カップリング剤は式IV
【0057】
【化11】

【0058】
(式中、Wは表示のメチレン基に化学的に結合した固相支持体を表し、RはC−C−アルキルまたはC−C−シクロアルキルである)の化合物である。
【0059】
[47] RがC−C−アルキルである場合、適切にはエチルまたはイソプロピルである。
【0060】
[48] RがC−C−シクロアルキルである場合、適切にはシクロヘキシルである。
【0061】
[49] 特に好ましい実施態様では、式IVの化合物は、適切には、Varian IncからStratoSpheresTM PL-DCC resinとして市販されているシクロヘキシルカルボジイミド樹脂である。
【0062】
[50] ポリマー担持カップリング剤を用いることの利点は、毒性の副生物が高分子担体に結合したままであって、その結果、水性抽出や固形副生物(ジシクロヘキシル尿素)の除去の必要性を回避できるため、後処理の手順が大幅に簡略化されることである。未反応の酸またはアミン種はいずれも、適当なスカベンジャー樹脂を添加することで除去可能である。
【0063】
[51] 式IIおよびIIIの化合物は、ポリマー担持カップリング剤と接触させる前に混合しておくのが好ましい。なお、式IIIの化合物と混合する前に式IIの化合物をポリマー担持カップリング剤と混合すると、式Iのニコチン由来ハプテンの収率が低下し、さらには別の生成物が形成されるおそれがある。
【0064】
[52] 当該反応は、カルボン酸をアミノ化合物およびポリマー担持カップリング剤(例えば、支持体に結合させたカルボジイミド誘導体)と反応させる既知の方法を用いて行うことができ、また同様に、例えば、実施例に後述する方法で行うことができる。反応は、簡便には有機溶剤、例えば、2−ブタノン(エチルメチルケトンまたはブタン−2−オンとしても知られる)を用いて行い、即ち、式IIおよびIIIの化合物を第一の容器中で溶剤に溶解し、ポリマー担持カップリング剤を第二の容器中で同じ溶剤で膨潤させる。第一および第二の容器の内容物を合わせることで、式IIおよびIIIの化合物がポリマー担持カップリング剤の中間体と反応する。適切な反応温度は20℃〜70℃、好ましくは40℃〜60℃であるが、特に約50℃である。
【0065】
[53] 反応の温度を上昇させると、ほぼ間違いなく反応速度が上昇するものの、副産物の量と数が増えてしまう傾向がある。温度が高いほど、スクシンイミジル基の求核開環と転位が起こりやすい。
【0066】
[54] 工程(b)では、工程(a)の生成物を濾過して式Iのニコチン由来ハプテンを溶液状態で得る。
【0067】
[55] 濾過は、当該技術分野で公知の任意の手段で行うことができる。
【0068】
[56] 最終生成物は、特にUS6,932,971に記載の実験室規模の方法と比べて純度が高いものである。このことは、ハプテンをワクチンの臨床試験用に調製する場合に特に重要である。ニコチン由来ハプテンの精製は、加水分解による分解が起こりやすいため、困難であることが多い。ニコチンハプテンの純度は、H NMR等で測定した際に80%、85%または90%を超えることが好ましい。
【0069】
[57] 必要であれば、得られた固体を適切な有機溶剤(例えば、2−ブタノン)に溶解し、輸送や保存の際には適切には温度を下げて、即ち−100℃〜20℃、例えば約−80℃とする。
【0070】
[58] 式IIの化合物は市販されており、また、式V
【0071】
【化12】

【0072】
[59] の化合物を、式VI
【0073】
【化13】

【0074】
(式中、nは0〜5の整数である)の化合物と反応させることで調製することも可能である。当該反応は、ジヒドロ−フラン−2,5−ジオンまたは類似体をアルコールと反応させる既知の方法を用いて行うことができ、また同様に、例えば、実施例に後述する方法で行うことができる。
【0075】
[60] 式IIIの化合物は、市販のものでも、または、ヒドロキシル化N−ヘテロ環式化合物を調製する既知の手順で取得してもよい。
【0076】
[61] 式IVの化合物は市販されている。
【0077】
[62] 式Vの化合物は、式VII
【0078】
【化14】

【0079】
の化合物、即ち、1−メチル−5−オキソ−2−ピリジン−3−イル−ピロリジン−3−カルボン酸メチルエステルを還元することで得られる。当該反応は、エステルを還元する既知の方法を用いて行うことができ、好ましくは水素化アルミニウムリチウム等の還元剤を用いて行うことができ、また同様に、例えば、実施例に後述する方法で行うことができる。
【0080】
[63] 式VIの化合物は市販されている。
【0081】
[64] 式VIIの化合物は、式VIII
【0082】
【化15】

【0083】
の化合物、即ち、1−メチル−5−オキソ−2−ピリジン−3−イル−ピロリジン−3−カルボン酸をエステル化することで得られる。当該反応は、カルボン酸をアルコールでエステル化してエステルを形成する既知の方法を用いて行うことができ、好ましくは、塩化チオニル(SOCl)等の脱水剤を用いて行うことができ、また同様に、例えば、実施例に後述する方法で行うことができる。
【0084】
[65] 好ましい実施態様では、本発明は、下記式Ibのニコチン由来ハプテンまたはその塩もしくは溶媒和物の調製方法であって、
【0085】
【化16】

【0086】
当該方法は、以下の工程を含むものである:
[66] (a)下記式IIaの化合物を
【0087】
【化17】

【0088】
[67] N−ヒドロキシスクシンイミド、および、下記式IVのポリマー担持カップリング剤
【0089】
【化18】

【0090】
(式中、Wは表示のメチレン基に化学的に結合した固相支持体を表し、RはC−C−アルキルまたはC−C−シクロアルキルである)と反応させ、
[68] (b)工程(a)の生成物を濾過して、式Ibの化合物を遊離体、塩または溶媒和物の形態で得る。
【0091】
[69] 本発明の方法で調製されるハプテンは、遊離塩基または塩もしくは溶媒和物の形態で調製が可能である。必要であれば、ハプテンを各種塩の形態または溶媒和物(適切には、非アルコール性溶剤を使用)へ従来慣用の方法で変換してもよく、逆もまた同様である。エナンチオマーやジアステレオマーといった異性体は従来慣用の方法で、例えば、対応の不斉置換された(例えば、光学活性な)出発原料や光学活性な不斉触媒または光学活性な補助剤からの不斉合成によって得ることができる。
【0092】
[70] 本発明の方法で調製されるハプテンは、禁煙ワクチンの有用な成分である。このようなワクチンを製造するには、WO04/009116に記載されているように、ウイルス様粒子(VLP)等の適切な担体、例えば、RNAファージ(好ましくはRNAファージQβ)の外被タンパク質に基づくVLPへ、ハプテンを共有結合的にコンジュゲートさせる。適切な方法はWO04/009116に記載されており、例えば、誘導体化したニコチンハプテンをウイルス様粒子外被タンパク質の表面に存在するリシン残基と反応させてアミド結合を形成する方法が挙げられる。ハプテン−担体コンジュゲートを次いで1種以上の薬学的に許容される製剤成分と組み合わせる。適切な製剤は、例えばWO2007/131972に記載されており、当該製剤には少なくとも1種類の非還元糖(例えば、スクロースまたはトレハロース)と少なくとも1種類の非イオン性界面活性剤とが含まれ、好ましくは5.4〜6.6のpHとなっている。一実施態様では、このような製剤を凍結乾燥する。
【0093】
[71] 本発明の一実施態様では、組成物にはさらにアジュバントが含まれ、好ましくはアルミニウム含有アジュバント、好ましくはアルミニウム塩、好ましくは水酸化アルミニウム、好ましくはアルミニウム含有ミネラルゲル、最も好ましくはアルハイドロゲルが含まれる。本発明の好ましい一実施態様では、組成物には1mg〜2mg、好ましくは1.2mg〜1.7mg、より好ましくは1.3mg〜1.5mgのアルミニウム塩、好ましくは水酸化アルミニウムが含まれる。
【0094】
[72] ワクチンは、典型的には、禁煙支援を望むヒト患者へ注射する。適切な投与量および用法はWO2008/129020に記載されている。例えば、用法としては、組成物をヒトへ少なくとも1回、2回および3回投与してもよく、1回目の投与と2回目の投与の時間間隔、および、2回目の投与と3回目の投与の時間間隔が、最大で18日である。好ましくは、1回目の投与と2回目の投与の時間間隔、および、2回目の投与と3回目の投与の時間間隔が、少なくとも3日、好ましくは少なくとも4日、より好ましくは少なくとも5日である。好ましい一実施態様では、1回目の投与と2回目の投与の時間間隔、および、2回目の投与と3回目の投与の時間間隔が、少なくとも5日かつ最大で18日である。
【0095】
[73] 好ましい一実施態様では、各投与時に少なくとも50μg、好ましくは少なくとも100μg、または、好ましくは少なくとも200μg、または、少なくとも300μgの用量のハプテン−担体コンジュゲートを投与する。ハプテン−担体コンジュゲートの用量は、好ましくは500μgを超えず、好ましくは400μgを超えない。本発明の好ましい一実施態様では、各投与時に約100μgのハプテン−担体コンジュゲートを投与する。組成物は当該技術分野で公知の様々な方法で投与してもよいが、通常は注射、輸液、吸入、経口投与、または、他の適切な物理的方法によって投与する。組成物は、また、筋肉内投与、静脈内投与、経粘膜投与、経皮投与または皮下投与してもよい。非常に好ましい一実施態様では、組成物の投与は皮下投与である。投与用組成物の成分としては、滅菌された水性溶液(例えば、生理食塩水)または非水性溶液や懸濁液が挙げられる。非水性溶剤の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、注射可能な有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)が挙げられる。
【0096】
[74] ニコチンに対する抗体は、ハプテン−担体コンジュゲート粒子に対する生体の免疫反応によって誘導される。これらの抗体は、吸入されたニコチンに結合してニコチンが血液脳関門を通過するのを防ぐと考えられる。このように、ニコチンが脳の標的部位に結合せず、その結果、快楽/見返りの感覚をもたらすドーパミンの放出が起こらない。それゆえ、患者は禁煙の続行が容易になる。
【0097】
[75] 以下、実施例を参照して本発明をさらに説明するが、実施例は例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0098】
出発原料の調製
ラセミトランス−4−ニコチンメチレンアルコールの調製:
[76] ラセミトランス−4−コチニンカルボン酸(1.8kg)をメタノール(17L)へ室温で添加し、懸濁液を35℃(内部温度)へ加熱する(Buechiガラスを内張りした50L容器)。次いで塩化チオニル(1.07kg)を35℃にて1時間以内で慎重に添加する。溶液をさらに1時間攪拌し、その際、工程内管理(HPLC転化率)を行って反応を完結させる。トルエン(12L)を反応混合物へ添加し、−5℃(内部温度)へ冷却してから、溶液を水酸化ナトリウム水溶液(2.5kg、10N)で慎重にクエンチする。NaClを除去する濾過を行ってからケーク(cake)をメタノール(6.3L)で洗浄し、続いてトルエンからの蒸留を繰り返すことにより(全量トルエン:48L)メタノールと水を共沸除去する。2回目の濾過(さらにNaClを除去)を行ってラセミトランス−メチルトランス−4−コチニンエステルをトルエン溶液(濃度範囲:9m/m%)として得る。溶液は自発的に結晶化するため、一定期間保存する。結晶は50℃(外部温度)で1時間温めれば再溶解が可能である。
【0099】
[77] ラセミトランス−メチル−4−コチニンエステル溶液(トルエン溶液として1.91kg)を室温で水素化アルミニウムリチウムのTHF溶液(7.79kg、4.5m/m%、Chemetall)へ徐々に添加する(Buechiガラスを内張りした100L容器)。反応混合物を4時間攪拌し、その際、cellflock(1.5kg)を添加して反応を水(0.5kg)で慎重にクエンチする。2時間さらに攪拌した後、不溶性のリチウム塩とアルミニウム塩を濾過により除去し、ケークをTHF(13L)で洗浄する。ラセミトランス−4−ニコチンメチレンアルコールをTHF/トルエン溶液として得る(濃度範囲:4m/m%)。
【0100】
【化19】

【0101】
ラセミトランス−4−ニコチンメチレンモノ−スクシネートエステルの調製:
[78] ラセミトランス−4−ニコチンメチレンアルコールのTHF/トルエン溶液(1.27kg、濃度範囲:4m/m%)を55℃(内部温度)へ加熱し、蒸留とアセトニトリルの添加(全量:21.6L)とを繰り返して当該アルコールのアセトニトリル溶液を得る(Buechiガラスを内張りした50L容器)。次いで、ラセミトランス−4−ニコチンメチレンアルコールの溶液(1.27kg、アセトニトリル溶液としての濃度範囲:12m/m%)を70℃(内部温度)へ加熱し、これに無水コハク酸(VI)のアセトニトリル溶液(668g、23m/m%)を徐々に添加する。工程内管理(HPLC転化率)によって生成物(II)へ十分に転化したことが確認されるまで、反応混合物を70℃で8時間攪拌する。溶剤を2−ブタノンへ切り替え、粗生成物をシリカ(15kg)に対してクロマトグラフィーにかけ(濾過プレート装置、20L)、生成物を2−ブタノン/メタノール混合液(1:1、192kg)で溶出する。純度を分析(HPLC)した後、選択した画分を次いで蒸留し、溶剤を100%2−ブタノンへ戻す。
【0102】
【化20】

【0103】
[79] 実施例1:ラセミトランス−4−ニコチンメチレンモノ−スクシネートエステルスクシンイミジルエステルの調製
[80] 高分子シクロヘキシルカルボジイミド樹脂IV(StratoSpheresTMPL-DCC resin ex Varian Inc)を2−ブタノン(8.3L)中で一晩室温にて緩やかに攪拌しながら膨潤させておく(Buechiガラスを内張りした100L容器)。
【0104】
[81] トランス−4−ニコチンメチレンモノ−スクシネートエステル(500g、2−ブタノン溶液、濃度範囲:25m/m%)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(206g)を、2−ブタノン(3.5L)と混合し、1時間攪拌しておく(Buechiガラスを内張りした50L容器)。50℃(内部温度)へ予め加熱しておいた膨潤PL−DCC懸濁液を含む反応器へ、混合物を徐々に添加する。緩やかな攪拌を2時間続ける。
【0105】
[82] 工程内管理(HPLC転化率)を無事終了した後、懸濁液を濾過して高分子試薬と副生物を除去し、ケークを洗浄する。次いで、ロータリーエバポレーターを用いた蒸留によって2−ブタノンを完全にまたは一部除去する。完全に乾燥させると、ラセミトランス−4−ニコチンメチレンモノ−スクシネートエステルスクシンイミジルエステルが金色の油として形成される(質量:673g)。
【0106】
[83] 最終生成物の純度を判定したところ、HPLCアッセイ(アミノ化類似体との面積比較)では>70%、H NMRでは90%である。
【0107】
[84] 工程の概要を以下のスキームに示す。
【0108】
【化21】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Iのニコチン由来ハプテンまたはその塩もしくは溶媒和物の調製方法であって、
【化22】


(式中、nは0〜5の整数であり、RおよびRは一緒になって、1〜4個の環窒素原子と必要に応じて酸素および硫黄からなる群より選択される1〜4個の他のヘテロ原子とを含有するN−結合5〜10員ヘテロ環基を形成し、ここで当該ヘテロ環基は、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、アミノカルボニル、ニトロ、C−C−アルキル、C−C−アルコキシまたはC−C−シクロアルキルで1、2、3または4箇所置換されていてもよい)、以下の工程を含む、前記方法:
(a)下記式IIの化合物またはその塩もしくは溶媒和物を
【化23】


(式中、nは0〜5の整数である)
下記式IIIの化合物またはその塩
【化24】


(式中、RおよびRは一緒になって、1〜4個の環窒素原子と必要に応じて酸素および硫黄からなる群より選択される1〜4個の他のヘテロ原子とを含有するN−結合5〜10員ヘテロ環基を形成し、ここで当該ヘテロ環基は、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、アミノカルボニル、ニトロ、C−C−アルキル、C−C−アルコキシまたはC−C−シクロアルキルで1、2、3または4箇所置換されていてもよい)
および、ポリマー担持カップリング剤と反応させ、
(b)工程(a)の生成物を濾過して、式Iの化合物を遊離体、塩または溶媒和物の形態で得る(式中、nは0〜5の整数であり、RおよびRは一緒になって、1〜4個の環窒素原子と必要に応じて酸素および硫黄からなる群より選択される1〜4個の他のヘテロ原子とを含有するN−結合5〜10員ヘテロ環基を形成し、ここで当該ヘテロ環基は、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、アミノカルボニル、ニトロ、C−C−アルキル、C−C−アルコキシまたはC−C−シクロアルキルで1、2、3または4箇所置換されていてもよい)。
【請求項2】
上記式IIの化合物のnが1である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記式IIIの化合物のRおよびRが一緒になって、1または2個の環窒素原子と必要に応じて酸素および硫黄からなる群より選択される1または2個の他のヘテロ原子とを含有するN−結合5〜6員ヘテロ環基を形成し、ここで当該ヘテロ環基は、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、アミノカルボニル、ニトロ、C−C−アルキル、C−C−アルコキシまたはC−C−シクロアルキルで1または2箇所置換されていてもよい、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記式IIIの化合物のRおよびRが一緒になって、2位および5位がオキソで置換されたピロリジン基を形成する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記ポリマー担持カップリング剤が下記式IVの化合物である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法:
【化25】


(式中、Wは表示のメチレン基に化学的に結合した固相支持体を表し、RはC−C−アルキルまたはC−C−シクロアルキルである)。
【請求項6】
上記式IVの化合物のRがエチル、イソプロピルまたはシクロヘキシルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記工程(a)を40℃〜60℃の温度で行う、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
上記工程(a)を、2−ブタノンを溶剤としてその中で行う請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
式Iのニコチン由来ハプテンが下記式Ibの化合物またはその塩もしくは溶媒和物である場合の請求項1に記載の調製方法であって、
【化26】


以下の工程を含む、前記方法:
(a)下記式IIaの化合物またはその塩もしくは溶媒和物を
【化27】


N−ヒドロキシスクシンイミドまたはその塩、および、下記式IVのポリマー担持カップリング剤
【化28】


(式中、Wは表示のメチレン基に化学的に結合した固相支持体を表し、RはC−C−アルキルまたはC−C−シクロアルキルである)と反応させ、
(b)工程(b)
の生成物を濾過して、式Ibの化合物を遊離体、塩または溶媒和物の形態で得る。
【請求項10】
ニコチン由来ハプテン−担体コンジュゲートの調製方法であって、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法によって得られる式Iのニコチン由来ハプテンを、ウイルス様粒子(VLP)の1以上の外被タンパク質へ共有結合的にカップリングさせることを含む、前記方法。
【請求項11】
上記VLPがRNAファージの外被タンパク質を含む、請求項10に記載の方法。

【公表番号】特表2011−530497(P2011−530497A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521579(P2011−521579)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060203
【国際公開番号】WO2010/015675
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】