説明

ニューロフィジンを使用する心機能不全の診断および危険性の層化

本発明は、心機能不全の診断および/または危険性の層化のための方法に関し、ここでマーカーであるニューロフィジンまたはそのフラグメントもしくは部分ペプチドの測定が、試験されるべき患者に対して行われる。本発明は、ニューロフィジンを含む、有利なマーカーの組み合わせに関する。さらに、本発明は、診断デバイスおよび上記方法を実施するためのキットに関する。一実施形態において、本発明の方法は、インビトロで実行することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心機能不全(Herzinsuffizienz)の診断および/または危険性の層化のための方法に関し、ここでマーカーであるニューロフィジンまたはそのフラグメントもしくは部分ペプチドの測定が、試験されるべき患者に対して行われる。本発明は、ニューロフィジンを含む、有利なマーカーの組み合わせに関する。さらに、本発明は、診断デバイスおよび上記方法を実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
欧州では、1年間に約100万人の患者が、急性呼吸窮迫症(akute Atemnot)の症状で病院の救急処置室に運ばれている。呼吸窮迫症は、多くの疾患の症状の特徴を示しており、その症例の約35〜47%は、心機能不全に帰する可能性がある(非特許文献1および非特許文献2)。
【0003】
初期段階では、患者は、しばしば、わずかに心機能不全に気づくに過ぎない。処置されなければ、上記疾患は、概して重篤度が増し、後期段階では、休息時にすら完全な肉体的疲憊をもたらす。心臓自体を含む、身体器官のすべての滋養の欠如は、この段階での死亡をもたらし得る。一旦、上記疾患が進行してしまうと、寿命は、最適の治療によってすら、かなり短くなる(1年間あたりの死亡の約30%)。従って、心機能不全をできるだけ早期に認識し、その原因に堅実に対処することは重要である。
【0004】
従って、適切な治療を開始するために、初期診断および根底にある疾患の区別は、初期段階で、ならびに救急救命医療および集中医療のときに必要である。心機能不全を他の疾患から区別することおよび明確に範囲を定めることは、しばしば、非特異的症状(呼吸窮迫症、および咳嗽)によって困難になる。
【0005】
脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNPまたはNTproBNP)の血漿濃度の測定を用いる試験が利用可能である。これはまた、心機能不全の診断のための毎日の機械的作業の過程において使用される(Maiselら(前出))。
【0006】
先行技術において、ニューロフィジンは、ニコチン吸収についてのマーカー(非特許文献3)、SIADHと関連する癌および非癌(ADH不適合分泌症候群)のためのマーカー、ならびに腎性尿崩症のマーカー(非特許文献4;非特許文献5)として記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Januzzi JL Jr.,Camargo CA,Anwaruddin S.,Baggish AL,Chen AA,Krauser DG,Tung R,Cameron R,Nagurney JT,Chae CU,Lloyd−Jones DM,Brown DF,Foran−Melanson S,Sluss PM,Lee−Lewandrowski E,Lewandrowski KB,The N−terminal Pro−BNP investigation of dyspnea in the emergency department (PRIDE) study,Am J Cardiol.(2005)95(8)pp.948−954
【非特許文献2】Maisel AS,Krishnaswamy P,Nowak RM,McCord J,Hollander JE,Duc P,Omland T,Storrow AB,Abraham WT,Wu AH,Clopton P,Steg PG,Westheim A,Knudsen CW,Perez A,Kazanegra R,Herrmann HC,McCullough PA;Breathing Not Properly Multinational Study Investigators,Rapid measurement of B−type natriuretic peptide in the emergency diagnosis of heart failure,N Engl J Med.(2002)347(3)pp.161−167
【非特許文献3】Robinson AG. Isolation, assay and secretion of individual human neurophysins. J Clin Invest(1975)55:360−7
【非特許文献4】Pullan PT,Clappison BH,Johnston CI.Plasma vasopressin and human neurophysins in physiological and pathological states associated with changes in vasopressin secretion.J Clin Endocrinol Metab(1979)49;580−7
【非特許文献5】North WG,LaRochelle FT,Jr.,Melton J,Mills RC.Isolation and partial characterization of two human neurophysins:their use in the development of specific radioimmunoassays.J Clin Endocrinol Metab(1980)51:884−91
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先行技術において、心機能不全の徴候のためのさらなるマーカーを同定および提供し、そして臨床現場にそれらを供給する必要が大いにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、心機能不全の診断および/または危険性の層化のための方法を提供することは、本発明の目的である。
【0010】
しかし、以前に公知の上記マーカーを使用する公知の診断方法の欠点は、危険性のある患者の初期のかつ完全な検出が成功せず、従って、危険性の層化が不満足な程度にしか行われないことである。従って、本発明が基づく1つのさらなる目的は、心機能不全の危険性の層化のための方法を開発することにある。このことは、危険性のある患者の改善された検出を可能にする。
【0011】
上記目的は、心機能不全の診断および/または危険性の層化のための方法を介して達成される。ここで、マーカーであるニューロフィジンまたはそのフラグメントもしくは部分ペプチドの測定は、試験されるべき患者に対して行われる(本明細書中以降、本発明に従う方法といわれる)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1である。
【図2】図2である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の範囲内で、「心機能不全」は、急性的および慢性的に、心臓が、休息時またはストレス下で組織代謝を確実にするために組織に十分な血液を供給できず、その結果として、十分な酸素を供給できないことを意味することが理解される。臨床的には、心機能不全は、本来は心収縮機能障害もしくは心拡張機能障害に関して心機能障害に基づいている代表的な症状(呼吸困難、疲労、液体保持)が存在する場合に、存在する。慢性的な心機能不全(CHF)は、同様に、本発明に従って網羅される(Kardiologie compact, edited by Chrisian Mewis, Reimer Riessen and Ioakim Spyridopouolos, 2nd unamended edition,Thieme 2006)。心機能不全の原因は、以下であり得る:心臓弁欠損(例えば、リウマチ熱の後期症状として)、心筋炎(心筋の炎症)、心不整脈、過度の高血圧(緊張亢進)を伴う心筋梗塞および/または冠状血管の動脈硬化症(石灰化)(冠状動脈性心疾患)。さらには、以下が、本発明に従って網羅される:(欝血性)心機能不全を有する高血圧性心疾患、高血圧性心疾患および(欝血性)心機能不全を有する腎疾患、原発性右胸心性機能不全、二次的右胸心性機能不全、症状がない左心室性機能不全(NYHA段階I)、大きなストレスにより症状を有する左心室機能不全(NYHA段階II)、わずかなストレスにより症状を有する左心室機能不全(NYHA段階III)、休息時に症状を有する左心室機能不全(NYHA段階IV)ならびに心原性ショック。
【0014】
従って、本発明に従う方法は、同様に、上記の適応症を網羅する。さらに、例えば、Pschyrembel,De Gruyter,Berlin 2004において、引用される適応症のすべてが記載されている。
【0015】
本発明によれば、用語「危険性の層化」とは、心機能不全のより集中的な診断および治療/処置の最も有利な考えられる推移を可能にする目的で、より悪い予後を有する患者特に、救急救命患者および危険性のある患者を発見することを包含する。本発明に従う危険性の層化は、心機能不全に関して与えられる有効な処置方法を結果的に可能にする。
【0016】
特に有利なことには、特に、救急救命医療および/または集中医療の場合に、信頼性のある診断は、本発明に従う方法によって行われ得る。本発明に従う方法は、迅速な治療的成功をもたらす、考えられる臨床的決定を与える。このタイプの臨床的決定は、同様に、心機能不全の処置もしくは治療のための医薬品(例えば、ACEインヒビター、AT1アンタゴニスト:アンジオテンシンIIレセプター(サブタイプ1)のブロッカー、β遮断薬であるビソプロロール、カルベジロール、メトプロロールおよびネビボロール、バソプレッシンレセプターアンタゴニスト、NYHA段階IIIからアルドステロンアンタゴニスト、カルシウム感受性増強剤(Levosimendan))によるさらなる処置を含む。
【0017】
従って、さらに好ましい実施形態において、本発明に従う方法は、心機能不全の治療的制御に関する。
【0018】
従って、本発明は、同様に、患者の危険性の層化のため、特に、臨床的決定のための、特に、時間が重要な集中医療もしくは救急救命医療において、ならびに患者の入院についての患者の層化のための方法に関する。
【0019】
本発明に従う方法のさらに好ましい実施形態において、上記診断は、予後のため、鑑別診断的初期検出および検出のため、重篤度の程度の評価のため、ならびに心機能不全に付随する治療の過程の評価のために行われる。
【0020】
本発明に従う方法のさらなる実施形態において、体液、特に血液、必要に応じて、全血もしくは血清は、試験されるべき患者から採取され、上記診断が、インビトロ/エキソビボ(すなわち、ヒトもしくは動物の身体の外で)で行われる。上記診断は、少なくとも1種の患者サンプル中に存在するマーカーであるニューロフィジンの測定およびその量に基づいて行われ得る。
【0021】
本発明の範囲内において、「ニューロフィジン」(またはニューロフィジン II)(フラグメント:プレプロバソプレッシンのアミノ酸配列32〜124;図2を参照のこと)は、遊離の93アミノ酸(93AS:配列番号1:AMSDLELRQC LPCGPGGKGR CFGPSICCAD ELGCFVGTAE ALRCQEENYL PSPCQSGQKA CGSGGRCAAF GVCCNDESCV TEPECREGFH RRA)またはそのフラグメントもしくは部分ペプチドを含むポリペプチド/タンパク質であることが理解される。さらに、本発明に従うこのポリペプチドは、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化、脂質化もしくは誘導体化を有し得る。ニューロフィジンは、驚くべきことに、血漿中で安定である。
【0022】
さらなる実施形態において、上記ニューロフィジンの測定は、さらなるマーカー、すなわち、好ましくは、心機能不全を既に示しかつ、本発明に従う方法においてニューロフィジンを含むマーカー組み合わせの相乗効果を可能にし得るものを用いてさらに行われ得る。
【0023】
従って、本発明は、本発明に従う方法のこのような実施形態に関し、ここで上記測定は、炎症性マーカー、心血管マーカー、神経ホルモンマーカー、もしくは虚血マーカーの群から選択される少なくとも1種のさらなるマーカーを用いて、試験されるべき患者に対してさらに行われる。
【0024】
本発明によれば、上記炎症性マーカーは、C反応性タンパク質(CRP)、サイトカイニン(例えば、TNF−α)、インターロイキン(例えば、IL−6)、プロカルシトニン(1−116、3−116)、およびアドヘシン(例えば、VCAMもしくはICAM)の群からの少なくとも1種のマーカーから選択され得る。そして上記心血管マーカーは、クレアチンキナーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、コペプチン、ミオグロブリン、ナトリウム利尿タンパク質、特に、ANP(またはANF)、プロANP、NT−プロANP、BNP、プロBNP、NT−プロBNPまたはそれぞれの部分配列、心筋トロポニン、CRPの群からの少なくとも1種のマーカーから選択され得る。さらに、これらは、同様に、循環を制御する(プロ)ホルモン、特に、類似のプロガストリン放出ペプチド(プロGRP)、プロエンドセリン(プロEnd)、プロレプチン、プロニューロペプチド−Y、プロソマトスタチン、プロニューロペプチド−YY、プロオピオメラノコルチン、プロアドレノメデュリン(プロADM)、コペプチン、もしくはそれぞれの部分配列を含むことが理解される。
【0025】
上記虚血マーカーは、トロポニンIおよびトロポニンT、CK−MBの群からの少なくとも1種のマーカーから選択され得る。さらに、上記神経ホルモンマーカーは、少なくとも1種のナトリウム利尿タンパク質、特に、ANP(またはANF)、プロANP、NT−プロANP、BNP、プロBNP、NT−プロBNPまたはそれぞれの部分配列であり得る。
【0026】
ニューロフィジンと、プロホルモン、特に、コペプチン、および/またはBNP、プロBNP、NT−プロBNPとのマーカー組み合わせが、特に好ましい。
【0027】
本発明のさらなる実施形態において、本発明に従う方法は、上記マーカーの並行測定もしくは同時測定(例えば、96穴以上を有するマルチタイタープレート)によって行われ得る。ここで、上記測定は、少なくとも1種の患者サンプルに対して行われる。
【0028】
さらに、本発明に従う方法およびその測定は、自動分析機で、特に、Kryptor(http://www.kryptor.net/)によって行われ得る。
【0029】
別の実施形態において、本発明に従う方法およびその測定は、単一パラメーターもしくは複数パラメーター測定に拘わらず、迅速な試験(例えば、側方流試験(lateral−flow test))によって行われうる。
【0030】
さらに、本発明は、心機能不全の診断および/または危険性の層化のための、ニューロフィジンまたはそのフラグメントもしくは部分ペプチド、および必要に応じて、上記に列挙されるようなさらなるマーカーの使用に関する。
【0031】
本発明の別の目的は、対応する診断デバイスまたは本発明に従う方法を行うためのその使用の提供である。
【0032】
本発明の範囲内において、診断デバイス、特に、アレイもしくはアッセイ(例えば、イムノアッセイ、ELISAなど)は、最も広い意味において、本発明に従う方法を行うためのデバイスであると理解される。
【0033】
本発明はさらに、マーカーであるニューロフィジンまたはそのフラグメントもしくは部分ペプチドを測定するための分析試薬、および必要に応じて、上記に列挙されたマーカーを含む、心機能不全の診断または危険性の層化のためのキットに関する。このタイプの分析試薬は、例えば、抗体、抗体蛍光物質などを含む。
【0034】
以下の実施例および図面は、本発明をより詳細に説明するために使用されるが、本発明をこれら実施例および図面に限定しない。
【実施例】
【0035】
(実施例および図面)
血液サンプルを、初期試験の間に呼吸窮迫症の症状を示していると病院の救急処置室に報告された患者から採取した。遠心分離から得られたEDTA血漿をアリコートに分け、ニューロフィジンを測定するときまで、−80℃で保存した。以前の記載(Pullan(前出))に従って、ラジオイムノアッセイをニューロフィジン用に開発した:神経下垂体のニューロフィジンを単離し、定量した。ウサギを上記ニューロフィジンで免疫し、このようにして、高い力価の抗ニューロフィジン抗血清を得た。イムノアッセイのために、最高の力価の抗血清を、1:100,000の濃度で使用した。精製ニューロフィジンを、クロラミンT法で放射性ヨウ素化し、このアッセイにおけるトレーサーとして使用した。正常ウマ血清中での精製ニューロフィジンの希釈液を、標準物質として使用した。上記アッセイを、以下のように行った:50μlのサンプルまたは標準物質を、100μlのトレーサー(12,000dpm/測定)および100μlの希釈抗ニューロフィジン抗血清と混合し、24時間、4℃でインキュベートした。100mM リン酸ナトリウム、pH7.5、0.1% BSAを、緩衝液として使用した。抗体と結合したトレーサーを、遊離トレーサーから分離した。それに、60% エタノールを添加し、次いで、4℃で15分間、5,000gで遠心分離した。上清を捨て、そのペレット中に残っている放射活性を、測定した。その評価を、Multicalcソフトウェアの補助により行った。上記アッセイは、22pg/mlの分析検出限界および最大400pg/mlまでの測定範囲を有した。種々の患者の血漿サンプルを、以下に説明するように、上記アッセイで測定した。測定値が>400pg/mlであったサンプルを、上記測定範囲内で測定値が得られるように、適切な希釈液で測定した。
【0036】
試験した患者での心機能不全の診断は、心機能不全に関するフラミンガムスコア(McKee PA,Castelli WP,McNamara P and Kannel WB,The natural history of congestive heart failure:the Framingham study,N Engl J Med 285(1971),pp.1441−1446)と、収縮期機能不全または拡張期機能不全の超音波検査による証拠とに基づいていた。
【0037】
さらに、既知の疾患を有しない健康な患者から血液を採取し、EDTA血漿を、遠心分離によって得た。
【0038】
臨床的有用性
正常範囲
ニューロフィジン濃度を、健康なコントロール被験体に由来するサンプル(n=200)中で測定した。メジアンは、70.3pg/mlであり、測定された最低値は、8.8であり、最高値は、220pg/mlであった。95%パーセンタイルは、36.5もしくは135pg/mlであった。
【0039】
心機能不全/重篤度の程度
ニューロフィジン濃度を、慢性もしくは急性の代償不全性心機能不全を有する患者において測定した。ニューロフィジン濃度は、心機能不全の重篤度の程度と関連していた:重篤度I〜IVの程度の4つのNYHA分類におけるニューロフィジン濃度の平均値は、それぞれ、171.4pg/ml、243.4pg/ml、346.9pg/mlおよび918.1pg/mlであった(図1を参照のこと)。
【0040】
慢性心機能不全/診断
慢性心機能不全を有する258名の患者の群および200名の健康なコントロールから、ニューロフィジン値を測定した。ROC解析(Receiver-Operator-Characteristics Analyse)によって、0.89のAUCを得た。213pg/mlのカットオフ値を用いると、48%の感度が、98%の特異性とともに生じた。136.1pg/mlのカットオフ値を用いると、68.2%の感度が、95%の特異性とともに生じた。
【0041】
慢性心機能不全/予後
慢性心機能不全を有する258名の患者から、ニューロフィジン値を測定した。上記患者を、360日間の平均期間にわたって観察した。この期間内に、80名の患者が死亡し、178名が生存していた。死亡率の予後についての最も良いカットオフ値(感度と特異性との最大の積として定義される)を、ROC解析から決定した:247pg/ml。このカットオフ値を用いると、予後の感度は59.5%であった。特異性は65.2%であった。247pg/mlのカットオフ値による尤度比は、1.7であった(以下の表を参照のこと)。
【0042】
【表1】

急性心機能不全/診断
急性呼吸窮迫症を有する125名の患者の群から、ニューロフィジン値を決定した。上記125名の患者のうちの69名の患者が、心機能不全を有した。心機能不全の鑑別診断のためのROC解析によって、0.61のAUCを得た。4940pg/mlのカットオフ値を用いると、6.6%の感度が、98%の特異性とともに生じた。3000pg/mlのカットオフ値を用いると、11.7%の感度が、95%の特異性とともに生じた。
【0043】
急性心機能不全/予後
急性代償性心機能不全を有する69名の患者の群から、ニューロフィジン値を測定した。上記患者を、360日間の平均期間にわたって観察した。この期間内に、21名の患者が死亡し、48名が生存していた。最も良いカットオフ値(感度と特異性との最大の積として定義される)を、死亡率の予後について、ROC解析から決定した:885pg/ml。このカットオフ値を用いると、上記予後の感度は57.1%であり、特異性は75%であった。885pg/mlのカットオフ値による尤度比は、2.3であった(以下の表を参照のこと)。
【0044】
【表2】

表:New York Heart Association(NYHA)の分類
NYHA I 肉体的活動の制限無し。通常の肉体的活動は、過労も、動悸も、呼吸困難(息切れ)も、狭心症も引き起こさない。
NYHA II 肉体的活動のわずかな制限。休息時には苦痛がないが、通常の肉体的活動は、疲労、動悸、呼吸困難または狭心症を生じる。
NYHA III 肉体的活動の顕著な制限。休息時には苦痛がないが、通常未満の活動でも、疲労、動悸、呼吸困難または狭心症を生じる。
NYHA IV いかなる活動でも、休息時でも、心機能不全の症状。ベッドに拘束される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心機能不全の診断および/または危険性の層化のための方法であって、該方法は、マーカーであるニューロフィジンまたはそのフラグメントもしくは部分ペプチドの測定が試験されるべき患者に対して実行されることで特徴づけられる、方法。
【請求項2】
前記方法はインビトロ診断であることで特徴づけられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記心機能不全は、慢性心機能不全、(欝血性)心機能不全を有する高血圧性心疾患、高血圧性心疾患、および(欝血性)心機能不全を有する腎疾患、原発性右胸心性機能不全、二次的右胸心性機能不全、症状がない左心室機能不全(NYHA 段階I)、大きなストレスにより症状を有する左心室機能不全(NYHA段階II)、わずかなストレスにより症状を有する左心室機能不全(NYHA段階III)、休息時に症状を有する左心室機能不全(NYHA段階IV)、心原性ショック、心筋炎、心不整脈および/または緊張亢進を包含することで特徴づけられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
医薬品によって、特に、集中医療もしくは救急救命医療において、臨床的決定、特に、さらなる処置および治療を行うための、ならびに前記患者の入院のための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の、心機能不全の診断および/または危険性の層化のための方法。
【請求項5】
予後のため、鑑別診断的初期検出および検出のため、重篤度の程度の評価のため、ならびに心機能不全に付随する治療の過程の評価のための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の心機能不全の診断のための方法。
【請求項6】
炎症性マーカー、心血管マーカー、神経ホルモンマーカーまたは虚血マーカーの群から選択される少なくとも1種のさらなるマーカーでの、さらに、試験されるべき患者に対して測定が行われることで特徴づけられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記炎症性マーカーは、C反応性タンパク質(CRP)、例えば、TNF−αのようなサイトカイニン、例えば、IL−6のようなインターロイキン、プロカルシトニン(1−116、3−116)、およびVCAMもしくはICAMのようなアドヘシンの群からの少なくとも1種のマーカーから選択されることで特徴づけられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記心血管マーカーは、クレアチンキナーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、コペプチン、ミオグロブリン、ナトリウム利尿タンパク質、特に、ANP(またはANF)、プロANP、NT−プロANP、BNP、プロBNP、NT−プロBNPまたはそれぞれの部分配列、心筋トロポニン、CRPおよび循環を制御する(プロ)ホルモン、類似のプロガストリン放出ペプチド(プロGRP)、プロ−エンドセリン−1、プロレプチン、プロニューロペプチド−Y、プロ−ソマトスタチン、プロニューロペプチド−YY、プロオピオメラノコルチン、プロアドレノメデュリン(プロADM)、コペプチンもしくはそれぞれの部分配列の群からの少なくとも1種のマーカーから選択されることで特徴づけられる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記虚血性マーカーは、トロポニンIおよびトロポニンT、CK−MBの群からの少なくとも1種のマーカーから選択されることで特徴づけられる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記神経ホルモンマーカーは、少なくとも1種のナトリウム利尿タンパク質、特に、ANP(またはANF)、プロANP、NT−プロANP、BNP、プロBNP、NT−プロBNPまたはその部分配列であることで特徴づけられる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記マーカーの並行測定または同時測定が行われることで特徴づけられる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記測定は、少なくとも1種の患者サンプルで行われることで特徴づけられる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記測定は、自動化分析器で、特に、Kryptorによって行われることで特徴づけられる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記測定は、迅速試験、特に、単一パラメーターまたは複数パラメーターの測定によって行われることで特徴づけられる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
心機能不全の診断および/または危険性の層化のための、ニューロフィジンまたはそのフラグメントもしくは部分ペプチド、および必要に応じて、請求項6〜10のいずれか1項に記載のさらなるマーカーの使用。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法を行うための診断剤。
【請求項17】
心機能不全の診断および/または危険性の層化のためのキットであって、該キットは、マーカーであるニューロフィジンまたはそのフラグメントもしくは部分ペプチドおよび必要に応じて、請求項6〜10のいずれか1項に記載のさらなるマーカーを測定するための分析試薬、ならびに補助物質(Hilfsmittel)を含む、キット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−511877(P2010−511877A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539604(P2009−539604)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【国際出願番号】PCT/DE2007/002215
【国際公開番号】WO2008/067806
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(509091332)ブラームズ アクチェンゲゼルシャフト (12)
【Fターム(参考)】