説明

ネギさび病の発生予測法

【課題】経験に基づくカレンダ散布では、病気の発生の有無あるいは程度の大小に関わらず毎年同じ時期に同じ量の農薬が散布されているため、労力の無駄が多く、過剰な量の農薬が散布され、自然界に与える悪影響も大きい。感染・発病の有無やその度合いを特定し、それに適した対処をすることが望まれている。
【解決手段】ネギ栽培圃場ごとに設置した気象観測用センサ群1によって計測された微気象データを記憶装置2に格納し、事前に構築された予測モデルと上記の微気象データを用いて演算装置3によって発病率を計算して発病日または被害の急増日を特定することにより、農業従事者に対してモニタなどの出力装置4を介してその結果を表示することで、病害感染による被害を最小限の労力、最少量の農薬散布で抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネギ栽培圃場ごとの気温と葉面の濡れに基づいた、空気伝染性菌類病の一つであるネギさび病の発生予測法とそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
植物の病害感染・発病は気象要因に大きく影響される。つまり、気温、湿度などがある一定の条件を満たしたとき、病原菌の植物への侵入・感染、潜伏、発病そして被害の拡大が起こる。現在確認されている病原菌の種類は非常に多く(約6000種類)、それぞれの病原菌の活動に最適な条件は異なる。そのため、病害ごとに対策を講じなければならず、農業従事者は病害対策に非常に膨大な労力を払わざるをえない。
【0003】
現在は感染・発病の有無に関わらず毎年同時期に農薬散布を行うカレンダ散布による対策が推奨されている。これは従来からの経験に基づく手法であり、農業従事者にとっては効果的な手法であると認識されている。その一方で、病害の感染や発病の度合いを考慮していないため、労働力や資源を無駄遣いしている上、環境への悪影響も大きい。カレンダ散布とは、病害の発生有無に関わらず、毎年同時期に農薬を散布することで対策を行う方法である。
【0004】
農薬散布による対策法としてカレンダ散布が推奨されているが、実際には病気が発生してから農薬散布が実施されることも多い。しかし、ネギさび病では発生後の防除は難しく、地域によっては一栽培期間中に7〜8回の農薬散布が行われることもある(図7)が、それでも防除できないことがある。前述のカレンダ散布では、発生後の防除と比べて防除に失敗する可能性を低減することはできる。その場合には3〜4回の散布、場合によっては2回の散布で防除することも可能である。しかし、病害の発生の有無によらない手法であるため、労働力や資源を無駄にしている上、環境に与える悪影響などの課題は未解決のままである。
【0005】
また、近年は消費者への情報提供として、店頭販売される野菜にも生産者の情報や栽培履歴などが表示されることが増えている。さらに、消費者側が減農薬・無農薬野菜を好む傾向にある中、ポジティブリスト(例えば非特許文献1参照)が2006年5月から施行され、食品に含まれる残留農薬量が一層厳しく規制されることとなり、農業従事者はこれまで以上に農薬散布に配慮が必要となる。このような傾向は今後も継続あるいは拡大することが容易に予想される。
【0006】
このような状況の中、農業従事者の過去の経験や勘のみに頼る生産・管理方法では、今後、今まで以上に対応が難しくなると予想される。以上のような状況を受け、病害対策に関する方法がいくつも提案されている。それらの中で、例えば特許文献1は、地図、圃場、気象などのいくつもの情報をデータベース化し、さらに病害虫予知条件データベースを備え、病害虫感染と判断された場合にメッシュ化した地図上に病害の感染情報を提示することで、農業従事者に要対策圃場の情報を提供するものである。
【0007】
また、特許文献2では、栽培する作物の種類、作型、栽培期間の気象情報、土壌に関する情報および農作物の栽培履歴情報などの作物および栽培圃場に関する詳細な情報を利用して病害虫の発生リスクを計算し、その結果をリスクチャートによってシステムの利用者に提供している。両者とも病害に関する情報や気象データをデータベースによって保持している。また、気象情報は気象予報機関等からインターネットを介して取得する方法を採用している。さらに、非特許文献2、3、4のように、病気が感染した日を微気象データから特定する技術も提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2006−115704号公報
【特許文献2】特開2004−185222号公報
【非特許文献1】「食品に残留する農薬等に関する新しい制度(ポジティブリスト制度)について」、厚生労働省(2006)
【非特許文献2】「アメダス資料による葉いもち発生予察法」越水幸男 東北農業試験場研究報告(1988)78:67-121
【非特許文献3】「幼苗暴露法の利用によるネギさび病の急増期予測機銃の検討」山影・柴田・佐山 北日本病虫研報(2003)54:70-71
【非特許文献4】「ナシ黒星病の感染予測モデルによる発生予察の試み」大谷他5名 農業情報学(2001)3:39-41
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のことより、病害感染および発病時期を特定することは農業従事者ならびに消費者にとって重要な課題である。しかしながら、特許文献1あるいは特許文献2にみられるように、病害発生後の対策を提供するシステムは開発されているものの、病害の発生を定量的に予測する手段はほとんど開発されていない。また、いずれの方法においても、各圃場で微気象データを直接計測していないため、必ずしも予測精度が高いとは言い切れない。
【0010】
さらに、非特許文献2、3の方法は、気温、結露時間、風速、降水量などの微気象データをもとに感染に好適な気象が到来したか否かを判定するものであり、感染の危険度を予測するまでには至っていない。非特許文献4の方法は感染の危険度(感染・発病度)の予測も行うが、本発明ではひとつのパラメータを時間と共に変化させる技術を加えて、精度を向上させるとともに柔軟性をあらたに付加している。
【0011】
本発明は、病害感染予測の現状を鑑みてなされたものであり、ネギに発生する空気伝染性菌類病の一つであるさび病の感染および発病とその被害の急増日を微気象データ基づいて高精度に予測し、必要最小限の労力と病害抑制資材によって対策すること、および、農業従事者がその手段をシステムとして導入できるようにし、さらに、そのシステムを導入することによって農業従事者の負担を増加させない構成を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述のような目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ネギ栽培圃場ごとに微気象観測に必要なセンサを適切な台数だけ適切な位置に配置し、それらのデータを記憶装置2に格納し、予測モデルと格納したデータを利用して演算装置3によって病害感染率を計算することを特徴とする。ここで、微気象観測とは、ある圃場で栽培されている作物に近接したところで行う気象観測のことであり、それによって得られたデータを微気象観測データまたは簡単に微気象データと呼ぶ。
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項2に係る発明は、ネギ栽培圃場に配置される各センサと、それらのセンサによって計測した気温と、ネギ葉面の濡れのデータを格納するための記憶装置2と、請求項1記載の予測演算を実行するための演算装置3と、演算結果にもとづいて感染度を表示するための表示装置4と、表示結果をプリントアウトするためのプリンタ5と、システムの利用者が演算装置に情報を入力するための入力装置6と、を備えていることを特徴とするシステムを構成する。
【0014】
上記記載の各センサとは、温度センサ、濡れセンサ、雨量計、および風速計などのセンサ類を指し、本発明の実施に必要な微気象データを計測する上で十分な種類のセンサ群のことである。
【0015】
上記記憶装置2に格納された気温、濡れ時間、雨量、風速などの微気象データは、無線通信網71を介して演算装置3に転送されるか、有線通信網72を介して演算装置3に転送される。センサ群1の各センサによって計測された全てのデータが、演算装置3に正しく転送される手段であれば、無線、有線、その他の手段を問わずに使用することができるものとする。
【0016】
本手法では、発病予測モデルを用いて、圃場で計測した気象データに基づいて空気伝染性病原菌の感染・発病時期を予測し、病害対策(農薬散布など)のタイミングを農業従事者に提示する。具体的には、システムの故障率などの分布に利用されるワイブル関数を利用し、そのパラメータを推定することにより、ネギさび病の感染・発病時期予測モデルを構築する。構築したモデルにおいて、請求項2のシステムによって計測した微気象データを利用することによって感染・発病の危険度を予測し、農業従事者に提示する。
【0017】
同様の感染危険度の予測はネギに限らず多くの野菜、果樹、畑作物、牧草類、樹木の菌類による空気伝染性の病害に適用できる。
【0018】
上記野菜とは、例えば、ネギ・タマネギなどのネギ類、ハクサイ・ダイコン・キャベツなどのアブラナ科野菜、トマト・ナスなどのナス科野菜、キュウリなどのウリ類、イチゴなどであり、果樹とはナシ、リンゴ、ブドウ、柑橘類などであり、畑作物はコムギ・オオムギなどの麦類、ダイズ・アズキ・インゲンマメ・エンドウマメなどのマメ類、ジャガイモ、ビートなどである。
【0019】
他の病害とは、べと病菌、疫病菌、子のう菌類と不完全菌類、担子菌類に属する菌による病害を指す。すなわち作物あるいは有用植物のべと病、疫病、さび病、うどんこ病、黒斑病、黒星病、つる枯病、灰色かび病、菌核病などと呼ばれる葉、果実、茎および幹などの植物の地上部に感染して斑点を形成する類の病気である。
【0020】
他の病害への適用は、パラメータの設定、危険度の評価、降水量と風速による除外条件などを適切に設定することによってできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、予測に用いる気象データは栽培圃場の気温、ネギの葉面に付着する水分、圃場における降水量、および圃場における風速であり、特許文献1または2のように土壌の状態に関する情報などを必要としないため、システム構成が簡素化される。また、圃場ごとに気象データを観測して予測に利用するため、高精度な予測が可能となる。さらに、野菜、果樹、畑作物、牧草類、樹木の菌類の空気伝染性病害において、本発明のような技術は未開発であり、本発明によって空気伝染性の病害対策がさらに発展することが十分期待できる。その上、本手法は同一の気象条件下で栽培される作物に対して適用可能であるから、日本と類似した気象条件のアジア諸国で栽培される作物の病害予測手段を確立する際の基礎となり得る。
【0022】
病原菌の感染およびそれによる被害の急増日を高精度に予測することで、農薬散布などの適切な時期を農業従事者に提示し、感染・発病の度合いを定量的に推定することもできるため、散布に必要な農薬量を推定することも可能となる。そのため、これまでのカレンダ散布と比較して、適切な時期に適切な量の農薬を散布できるので、自然界におよぼす悪影響、消費者への不安を低減できる。さらに、本発明では、圃場ごとに感染発病を予知することによって、従来のカレンダ散布で必要とした散布回数を、労働力および資源を無駄にすることなく3分の1から4分の1まで減らすことも十分可能である。
【0023】
本発明を適用して防除を行う場合、潜伏期間が長い病気は短い病気に比べてより大きな効果を得ることができる。それは、感染発病の危険度を予測してから実際に発病するまでの期間が長いのでその間に適切な防除処理を行うことができるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1ないし3はそれぞれ、ネギ栽培圃場における微気象計測システムの構成、予測モデルの演算システムの構成、計測システムから演算システムまでのデータ移動手段を示している。図4は演算装置によって予測された危険度の推移を示す一例である。図5および図6は実際のネギさび病の発生推移を示した例である。図7はカレンダ散布による散布農薬の例と散布回数を示した表である。
【0025】
ネギ栽培圃場の気温計測のための温度センサ11、および葉面の濡れ計測のための濡れセンサ12、降雨量計測のための雨量計13、および風速測定のための風速計14を、それぞれ適切な高さで圃場内の適切な位置に設置する。小中規模の圃場では、各センサを1台または2台利用するが、大規模圃場では3台以上の複数個のセンサを利用しても請求項1記載の予測法およびに請求項2記載の予測システム構成影響を与えることはない。
【0026】
前記温度センサ11の役割は、ネギ栽培圃場内に適切な高さで設置され、ネギの表面に近い位置での気温を計測することである。温度センサ11を同一圃場内に複数台設置することも可能である。
【0027】
前記濡れセンサ12は、温度センサ11と同様にネギ栽培圃場内に適切な高さで設置され、ネギの表面に付着している水分量を計測するものである。濡れセンサ12とは、例えば、櫛型に配置された回路上に水滴が付着することによって回路が短絡状態となることで濡れを検出する機構を有するものである。ただし、濡れを検出することができる機能を有しているものであれば、回路の配置形状には制限されない。上記温度センサと同様に、同一圃場内に複数台の濡れセンサを設置することも可能である。
【0028】
前記雨量計13は、圃場内およびその周辺の降雨量を計測するためである。
【0029】
前記風速計14は、圃場周辺およびネギ栽培地域の時々刻々の風速を計測するためである。
【0030】
前記濡れセンサ12によって葉面の濡れを検出することが可能であるが、本発明において記憶装置2に格納され、演算装置3における予測演算に利用されるデータは濡れの持続時間である。すなわち、ネギの葉面に水滴が付着してから乾燥あるいは落下して葉面に水滴がなくなるまでの時間を予測に利用する。たとえば、水滴が付着した状態を100%と仮定し、水滴が完全になくなった状態を0%と仮定すると、最初に付着した水滴は次第に乾燥するため、濡れ状態は100%から次第に低下する。この百分率を濡れセンサ12によって計測することにより、例えば、計測値が20%以上の状態が連続して継続している時間を濡れ時間とする。
【0031】
前記の濡れ時間を定義する濡れの度合い(百分率)は、対象となる野菜によって異なる。ネギは他の野菜類と比較して水分が付着しにくい発育形状である。
【0032】
センサ群1による計測値をパーソナルコンピュータまたはデータロガーなどで構成される記憶装置2に蓄積する。この蓄積量は植物の種類や病気の種類によるが、例えば、ネギさび病の場合にはおよそ5時間ごとの気温および葉面の濡れ状態を30時間にわたって計測することで高精度な予測モデルを構築することができる。また、気温に関しても対象となる病原菌によって異なるが、例えば、ネギさび病の場合には、低温時でも発病する特徴を有するため、最低気温は5℃とし、最高気温は25℃とした。ただし、これは一つの目安であり、さらに短い時間間隔あるいはさらに細かな温度設定を行って多くのデータを計測することにより、予測精度が向上する。
【0033】
記憶装置2に蓄積された気温と葉面濡れのデータを用い、気温と濡れ時間の変化に対する発病度を予測する。具体的には、気温と濡れ時間それぞれの影響による発病度を計算し、それらを統合することによって両者の影響による発病度を予測するものである。
【0034】
まず、以下の数式1によって濡れ時間の変化による発病度を予測する。
【0035】
【数1】

記憶装置2に蓄積されたデータに基づき、演算装置3によってパラメータA、B、C、Dを推定する。このとき、パラメータCは発病開始までの経過時間であり、事前に0と定めても構わない。数式1のパラメータAは感染率の最大値を規定し、パラメータBは応答曲線の増加率を規定し、パラメータCは応答開始までの時間を規定し、パラメータDは応答曲線の変曲点を規定する。また、wは濡れの持続時間である。
【0036】
つぎに、数式2によって気温の変化による発病度を予測する.
【0037】
【数2】

このときも同様に記憶装置2に蓄積されたデータを用いて、演算装置3によってパラメータE、F、G、Hを推定する。数式2のパラメータEは最適気温での最大応答を規定し、パラメータFは最適気温を規定し、パラメータGは最大値からの減衰率を規定し、パラメータHは応答曲線の非対称性を規定する。また、tは気温である。
【0038】
上記数式2の出力値の形状は、H=1としたとき気温に関して左右対称となる。本発明では、出力値の形状(対称性)を規定するパラメータHを濡れ時間とともに変化させることにより、低温時の推定精度を向上させることができる。これは、ネギさび病などの低温時から活性化するような病原菌に対して有効である。
【0039】
また非対称性を規定するパラメータHを時間と共に変化させることによって、病気の進展にとって重要な温度域の精度を特異的に向上させることができることを意味するもので、モデルに柔軟性を付与する。
【0040】
日本の北半分は冷涼温帯地域に属するので、多くの病害は20℃以下の比較的低温でもかなり感染が進む。すなわち気温と葉面濡れ時間が感染に与えるモデルは著しく非対称性となると推定される。パラメータHを時間と共に変化させる技術はこのようなすべての病害に有効である。
【0041】
パラメータHを時間と共に変化させる技術が有効と強く推定される病害として、東北および北海道で発生が多い病気、すなわちムギ類眼紋病、小粒菌核病などが考えられる。しかしこの技術の有効性はこれらの病気に限られるものではない。我が国の北側半分は冷涼温帯域に属することから、比較的低温域に適応した病原菌は多いと推定されるからである。多くの病気に対してこの技術が効果的である。
【0042】
数式1に記載のパラメータAに数式2の右辺をそのまま代入することによって、気温と濡れ時間の両方の変化による発病度を予測する数式3が得られる.
【0043】
【数3】

このときパラメータBないしHの各値は、最適化計算法によって求められたものを利用する。ここでの最適化法とは、例えばLevenberg-Marquardt法などによる反復計算法を指す。
【0044】
数式1および数式2のパラメータは、前記反復計算法によって最適パラメータとして推定される。このとき、パラメータAないしHには反復計算の開始時に適切な初期値を設定しなければならない。この初期値の設定次第では局所的最適解に陥ることとなり、大域的最適解が得られないこともある。
【0045】
温度センサ11および濡れセンサ12によって測定された気温と濡れ時間を、それぞれ数式3右辺の気温tと濡れの持続時間wに代入することにより、測定した気温と濡れ時間に基づく発病度が計算によって定量的に得られ、それを出力装置4に表示することによって農業従事者に提示する。
【0046】
従来までの手法であるカレンダ散布では、農薬散布の時期やタイミング、その際の散布量は農業従事者の過去の経験や勘で行われている。栽培品種によっては、JAや普及所などの農業関係機関からの指示によって行われている。このときの指示も、基本的には過去の経験によるところが大きく、定量的な規準に基づいて指示を出しているわけではないことが多い。
【0047】
演算装置3によって計算された発病度によって感染・発病の度合いがわかり、何らかの対処が必要なレベルの場合には、計算結果と合わせてその対処法を出力装置4に表示する。また、警告音などによって能動的に農業従事者に警告する。計算結果は出力装置4に表示されるとともに、プリンタ5によって農業従事者がプリントアウトすることも可能である。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。例えば、利用するセンサ群1に示すセンサのそれぞれの台数を増やすことは、本発明を実施する圃場の規模に応じて、適宜行われることである。また、使用するセンサの種類も図1のセンサ群に示すものに限られるものではない。さらに、微気象データの計測時間間隔も、システムの利用者が適宜変更を加えても、本発明の実施には影響を与えない。予測モデルのパラメータ推定法においては反復法の一つを示したが、これ以外の手法であっても所定の目的を達成する手法であれば適用可能である。その上、本法をもとにしたシステムによって病気の感染危険度を予測したときの防除法は農薬散布に限らない。適切な予測をすれば、単体使用で農薬散布より効果の劣る方法であっても十分な効果を得ることが可能である。
【0049】
農薬散布以外の防除方法として、温室栽培では換気、加温あるいは温風を送るなどによって葉面の濡れを消失させること、または結露を生じさせないようにすることが考えられる。濡れを中断させることができれば野外における栽培でも同じ方法で防除できる。野外で葉面の濡れや結露を中断させる方法の一つとして扇風機による送風などが挙げられる。
【実施例1】
【0050】
発病を予測する実施例を図5に示す。ネギの葉でさび病を発生させて病原菌(胞子)を大量に形成させる。これを集めて殺菌水に懸濁してネギの葉に噴霧する。人工気象器等を用いて一定の時間、葉面が濡れた状態で一定の温度条件(5、10、15、20、25℃)に保つ。その後このネギの栽培を続けると約10日後に病気が発生する。
【0051】
前記の病害感染株を、気温20℃で20時間保つと10cmのネギ葉の表面に最大180個の病気の斑点が形成される。一方、気温25℃では24時間以上濡れた状態で保ってもほとんど病気が発生しない。しかし低温域では10℃でも激しく発生し、5℃でもかなりの数の斑点が発生する。病気が激しく起きるのは15℃と20℃で、最も激しく起きるのはこの間である。
【実施例2】
【0052】
ネギ圃場における病気の進展の例を図6に示す。この例では収穫期の11月初旬でも発病率が約30〜40%と極めて少なく、農薬散布の必要がない。この圃場において本発明をもとに病気の発生を予知し、農薬散布の判断をできる。この程度の発生であれば農薬散布をしないでもよいことがわかる。
【0053】
このように、本発明は病気の防除をする時期や方法を教えるだけでなく、防除の必要がないことも教える。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】微気象データ計測システムの構成例である。
【図2】微気象データに基づく予測システムの構成例である。
【図3】データ記憶装置と演算装置間のデータ通信手段である。
【図4】予測モデル(数3)の出力例を示す図である。
【図5】ネギさび病の感染危険度を示す図である。
【図6】平成17年度のある圃場におけるネギさび病の進展状況である。
【図7】秋冬ネギさび病防除のための農薬使用の例を示した表である。
【符号の説明】
【0055】
1・・・微気象計測用センサ群
11・・・温度センサ
12・・・濡れセンサ
13・・・雨量計
14・・・風速計
2・・・データ記憶装置
3・・・予測演算装置
4・・・出力装置(モニタ)
5・・・プリンタ
6・・・入力装置(キーボード、マウスなど)
71・・・無線通信
72・・・有線通信

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネギ栽培圃場ごとに計測された気温とネギ葉面の濡れとに基づき予測モデルを用いて、降水量と風速データを参考にネギに感染した日、およびその発病の急増日を予測する方法。
【請求項2】
ネギ栽培圃場の気温を計測するセンサ11と、ネギ葉面の濡れ状態を計測するセンサ12と、圃場内の降雨量を計測する雨量計13と、圃場での風速を計測する風速計14と、それぞれのセンサによって計測したデータを格納する記憶装置2を備え、格納されたデータと予測モデルを用いて感染率を計算して予測するための演算装置3と、前記予測演算結果を表示するための出力装置4と、その予測演算結果を印刷するための装置5と、システムの利用者からの指示を演算装置に入力するための入力装置6と、を備えたシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−125496(P2008−125496A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317964(P2006−317964)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:平成18年度日本植物病理学会大会 主催者名:日本植物病理学会 開催日:平成18年6月3日〜6月5日
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)