説明

ネビボロールの製造方法

本発明は、ネビボロールの製造方法に関し、より詳細には、ネビボロールの製造に有用な中間体である、次式:


で表される立体異性体の混合物の分別蒸留方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネビボロールの製造方法に関し、より詳細には、ネビボロールの製造に有用な中間体である、次式:
【0002】
【化1】

【0003】
で表される立体異性体の混合物の分別蒸留方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ネビボロール(以後、NBVと称する)は、式(IA):
【0005】
【化2】

【0006】
で表される[2S[2R*[R[R*]]]]α,α’−[イミノ−ビス(メチレン)]ビス[6−フルオロ−クロマン−2−メタノール](以後、d−NBVと称する)と、式(IB):
【0007】
【化3】

【0008】
で表されるその[2R[2S*[S[S*]]]]エナンチオマー(以後、/-NBVと称する)の等量混合物である。
【0009】
ネビボロールは、β-アドレナリン遮断特性を特徴とし、本態性高血圧症の治療に有用である。ネビボロールは塩基性であり、適切な酸で処理することによりその付加塩に変換される。ネビボロールの塩酸付加塩は市販されている。
【0010】
4個の不斉炭素原子により16種の立体異性体の混合物(非対称置換の場合)又は10種の立体異性体の混合物(対称置換の場合)が生じるため、α,α’−[イミノ−ビス(メチレン)]ビス[クロマン−2−メタノール]という分子構造体の合成は、当業者にとって困難であることが当該技術分野で知られている。ネビボロール構造は対称性を有することから明らかなように、計10種の立体異性体が生成され得る。
【0011】
ネビボロール及び/又は重要な合成中間体の製造方法について数例が文献に報告されている。
【0012】
特許文献1(ヤンセン・ファーマスーティカNV)は、次の合成スキームに従う、クロマンエポキシド誘導体のジアステレオ異性体の混合物の合成を含むNBVの製造法を開示している。
【0013】
【化4】

【0014】
6−フルオロクロマンカルボン酸エチルエステルは対応する酸のエステル化により誘導され、ジヒドロビス−(2−メトキシエトキシ)アルミン酸ナトリウムにより第一級アルコールに還元される。この生成物は塩化オキサリル、続いてトリエチルアミンと−60℃で反応し、対応するラセミアルデヒドを生じる。ラセミアルデヒドは、次いで、(R,S)立体異性体、(S,R)立体異性体、(R,R)立体異性体及び(S,S)立体異性体の混合物としてのエポキシドに変換される。実施例17は、このエポキシド中間体が、クロマトグラフィーにより2種のラセミ混合物(R,S)−、(S,R)−エポキシド(混合物A)と(S,S)−、(R,R)−エポキシド(混合物B)にそれぞれ分割されることを開示している。当該エポキシド中間体は、NBVの製造方法において重要な中間体である。
【0015】
特許文献2(ヤンセン・ファーマスーティカNV)は、前記特許文献に報告される合成方法と実質的に同じ方法を開示し、特にNBVの単一光学異性体(R,S,S,S)及び(S,R,R,R)の製造に関する。
【0016】
この場合、6−フルオロクロマンカルボン酸は、(+)−デヒドロアビエチルアミンで処理することにより、個々の単一エナンチオマーに分割される。当該単一エナンチオマーは、それぞれ対応するエポキシドに変換され、2種のジアステレオ異性体の混合物を生じる。次の合成スキームは、例えば、S酸誘導体の変換を示す。
【0017】
【化5】

【0018】
実施例1及び2は、クロマトグラフィー処理により前記ジアステレオ異性体を、個々の単一エナンチオマーに分割することを開示している。これらを適切に結合させるとNBVの単一光学異性体が生じる。
【0019】
前記特許文献1から約20年後に公開された国際特許出願の特許文献3(トレント・ファーマスーティカ)は、NBV合成の改良方法を開示している。ここでも、式Iで表されるエポキシド混合物は、カラムクロマトグラフィーにより公知の混合物Aと混合物Bに分割される。
【0020】
更に、特許文献4(ヤンセン・ファーマスーティカNV)は、エタノールからの結晶化により、(±)−[2R*[2S*,5S*(S*)]]+[2R*[1S*,5R*(R*)]]α,α’−[イミノ−ビス(メチレン)]ビス[6−フルオロ−3,4−デヒドロ−2H−1−ベンゾピラン−2−メタノール]の混合物からのネビボロール塩酸塩の分割を開示している。しかし、ネビボロール塩酸塩の収率は非常に低い(6.6%)。
【0021】
従来、技術開発によって、費用のかかるクロマトグラフィー分割処理に対する有効な代替手段は示されていないように思われる。従来技術が、エポキシド誘導体若しくはその開環類似体の製造についての代替方法を検討し、有効成分の製造に有用な混合物の前記クロマトグラフィー分割を止めることを実質的な狙いとしていることは確実である。この傾向は、興味の対象となる単一異性体、若しくは純粋なジアステレオ異性体混合物を選択することが可能な種々の処理レベルで分別結晶化を行うこと、又は非対称合成を開発することに表れているように思われる。
【0022】
国際特許出願の特許文献5(本願出願人)は、6−フルオロクロマンエポキシドの改良合成法を開示している。この方法は、アルキル又はアリール6−フルオロ−3,4−デヒドロ−2H−クロメン−2−カルボキシレートから、スルホキソニウムイリドを経て2−ハロ−1−(6−フルオロ−3,4−デヒドロ−2H−クロメン−2−イル)エタノンへ変換することと、前記α−ハロケトンを還元して対応する2−ハロ−1−(6−フルオロ−3,4−デヒドロ−2H−クロメン−2−イル)−エタノールを得ることと、塩基の存在下に環化して対応するエポキシド誘導体をそれぞれ4種の(R,S)立体異性体、(S,R)立体異性体、(R,R)立体異性体及び(S,S)立体異性体の混合物として得ることとを含む。また、この特許文献は、この方法を光学活性基質に適用することも開示している。
【0023】
国際特許出願の特許文献6(シメックスファーマAG及びチューリッヒ大学)は、ラセミ体及び純粋なエナンチオマーとしてのNBVの代替的な製造方法を開示している。
【0024】
この方法は、とりわけ、少なくとも95%のRS/SR立体配置又はRR/SS立体配置を有するジアステレオ異性体的に純粋な次式:
【0025】
【化6】

【0026】
(式中、PGは水素又はアミン保護基を表す)で表わされる化合物を提供することを狙いとする。前記方法において、式VIIIで表される化合物のケトン前駆中間体を還元して、sin(RR/SS)配置又はanti(RS/SR)配置を有する2種の可能なラセミ混合物を得る方法が数種記載されている。その目的が、前記ケトン中間体のジアステレオ選択的還元を通じて分離の問題に対応することにあるのは明らかである。しかしながら、これまでに行われた試みの結果、RS/SR配置に対するRR/SS配置の比が異なるラセミ混合物が得られた。
【0027】
高ジアステレオ異性体過剰をもたらすジアステレオ選択的還元によりクロマトグラフィー分離を回避できるという仮説が成立しないことにより、前記特許出願は合成の実行に有用な立体異性体混合物が分別結晶により得られるであろう式VIIIで表わされる化合物の混合物を提供する。分別結晶後、望まない立体異性体対が約5重量%存在することは注目に値する。
【0028】
本願出願人による同時係属出願(特許文献7)は、NBVの製造に有用なラセミ混合物の形態の6−フルオロ−クロマンエポキシドを合成する効果的な方法であって、(+)−B−クロロジイソピノカンフェイルボラン又は(−)−B−クロロジイソピノカンフェイルボランを還元剤として使用することにより、公知のα−ハロケトンのジアステレオ選択的還元を用いる方法を記載している。
【0029】
国際特許出願の特許文献8(ヘテロ ドラッグ)は、ジアステレオ異性体対の混合物から所望のジアステレオ異性体対を分別結晶化により分離する方法を開示している。この方法は、最終生成物であるネビボロールと非常に類似した構造を有する合成中間体に用いられる。
【0030】
NBVの製造において、6−フルオロ−クロマンエポキシド中間体の基本的な役割は当該技術分野で知られている。活性成分の特異的な立体化学に注目すると、有用なラセミ混合物の形態又は関連する単一の立体異性体の形態の前記エポキシドの役割は、一層重要である。分離目的のために、当該技術分野における公知方法は、知られるように、工業生産では、全く望まれない費用のかかるクロマトグラフィー処理が必要となる。
【0031】
代替方法の発見を目的とした研究活動にかかわらず、当該技術分野の方法において示された問題を克服することができ、特に、クロマトグラフィー段階の迂回を目的としたエポキシド中間体の製造方法に関する研究は時代に即し、望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】欧州特許第0145067号明細書
【特許文献2】欧州特許第0334429号明細書
【特許文献3】国際公開第2006/025070号
【特許文献4】欧州特許第0744946号明細書
【特許文献5】国際公開第2008/040528号
【特許文献6】国際公開第2008/010022号
【特許文献7】国際出願PCT/EP2009/053051号
【特許文献8】国際公開第2006/016376号
【特許文献9】欧州特許第1803715号明細書
【特許文献10】欧州特許第1803716号明細書
【特許文献11】国際公開第2008/064826号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本発明者らは、驚くべきことに、4種の可能な立体異性体を含む混合物を分別蒸留し、NBVの製造に有用なラセミ混合物の形態の6−フルオロクロマンエポキシドの簡便且つ効果的な合成を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0034】
従って、本発明の第1の目的は、次式:
【0035】
【化7】

【0036】
で表される化合物を分離して、次式:
【0037】
【化8】

【0038】
で表される化合物をRS/SR配置のジアステレオ異性体的に純粋な化合物として得ると共に、次式:
【0039】
【化9】

【0040】
で表される化合物をRR/SS配置のジアステレオ異性体的に純粋な化合物として得るための方法であって、前記分離を分別蒸留によって行うことを特徴とする方法を提供することである。
【0041】
式Iで表される化合物は、公知の技法、特に、特許文献1、特許文献5、特許文献9及び特許文献10に記載の方法に従って製造することができる。
【0042】
式Iで表される化合物を分離して式(I:RS/SR)で表されるジアステレオ異性体的に純粋な化合物と式(I:RR/SS)で表されるジアステレオ異性体的に純粋な化合物を得ることは、分別処理によって行う。
【0043】
分別蒸留法自体は、当業者によく知られており、一般には、加熱によって液相を気化することと、それに続いて気化を行った場所とは異なる場所で冷却による凝縮を行うことから成り、前記気化の場所と凝縮の場所との間で分別蒸留を行う特定の場合には、分離処理の効率を上げるため、分留カラムを挿入する。
【0044】
このような処理は、式(I:RS/SR)及び(I:RR/SS)で表される2種の純粋な成分に適用させることができるが、それは、これらの成分が、実際の工業用途に適した圧力/温度の範囲内で十分に高い相対揮発度(α)を示すためである。
【0045】
式(I:RS/SR)及び(I:RR/SS)で表される2種の成分の混合物が液相及び気相の両方で理想的な挙動を示すとすれば、相対揮発度(α)は、本質的に温度に依存し、当業者に公知の式を用いて算出され得る。
【0046】
所望の品質(純度)で、式(I:RS/SR)及び(I:RR/SS)で表される2種のジアステレオ異性体的に純粋な化合物を分離して得るために必要な、蒸留量及び充填材の種類/操作効率(理論段数)に適した寸法(内径及び高さ)を有する分留カラムを用いて蒸留処理が行なわれる。
【0047】
好ましくは、本発明の目的である方法を、当業者に公知の市販の充填材(例えば、SulzerやKoch、VICO)を使用する分留カラムを用いて行う。
【0048】
本発明の目的である分留処理を、ボイラー温度が130℃〜230℃の範囲となり、カラムヘッドの残圧が2mmHg未満となるように圧力をかけて行う。
【0049】
好ましくは、前記分留処理を、ボイラー温度が160℃〜200℃の範囲となるように行う。
【0050】
好ましくは、前記蒸留を、カラムヘッドの残圧が約1.4〜1.5mmHgとなるように圧力をかけて行う。
【0051】
本発明の好適な一態様においては、このような処理を、分離が完了するまでは、式Iで表される化合物の安定性をできる限り確保するためにボイラーの操作温度を200℃未満に維持するのに適した真空条件下で、バッチ蒸留方法によって行う。
【0052】
好ましくは、分留処理を、純度(力価)が、少なくとも92%w/wの式Iで表される化合物に用いる。
【0053】
この目的を達成するために、本発明の更に好ましい一態様においては、上述の方法に従って得た式Iで表される化合物の混合物を、フラッシュ蒸留操作(分留無し)のような前処理を施し、純度(力価)が少なくとも95%w/wである式Iで表される化合物を得る。
【0054】
本発明において、「式(I:RS/SR)で表される化合物をRS/SR配置のジアステレオ異性体的に純粋な化合物として得る」とは、RS配置及びSR配置の光学異性体(すなわち、次のエナンチオマー、(R)−6−フルオロ−3,4−ジヒドロ−2((S)−オキシラン−2−イル)−2H−クロメン及び(S)−6−フルオロ−3,4−デヒドロ((R)−オキシラン−2−イル)−2H−クロメン)の実質的に純粋な混合物として得られる化合物を意味する。
【0055】
本発明において、「式(I:RR/SS)で表される化合物をRR/SS配置のジアステレオ異性体的に純粋な化合物として得る」とは、RR配置及びSS配置の光学異性体(すなわち、次のエナンチオマー、(R)−6−フルオロ−3,4−デヒドロ((R)−オキシラン−2−イル)−2H−クロメン及び(S)−6−フルオロ−3,4−デヒドロ((S)−オキシラン−2−イル)−2H−クロメン)の実質的に純粋な混合物として得られる化合物を意味する。
【0056】
本発明の目的において、式Iで表される化合物の混合物中における4種の立体異性体の相対量は関連がない。
【0057】
従って、1以上の立体異性体が存在しないか、又は異なる割合で存在する式Iで表される部分分割化合物に本発明の方法を適用できることは当業者には明らかである。
【0058】
本発明の一実施形態においては、次式:
【0059】
【化10】

【0060】
で表される部分分割化合物に対して分別蒸留を行い、それぞれSR配置及びSS配置又はRS配置及びRR配置のジアステレオ異性体的に純粋な化合物を得る。
【0061】
ジアステレオ異性体混合物の形態の前記部分分割化合物は、上述の特許文献2(欧州特許第334429号)に報告されたような公知の方法に従って製造できる。
【0062】
しかしながら、上述の式(I:RS/SR)及び(I:RR/SS)で表される化合物の純粋なラセミ混合物を得、それを適切に処理して最終生成物であるNBVを製造することが好ましいことは容易に明らかである。
【0063】
純度の高い前記部分分割エポキシド誘導体は、NBV製造方法において重要な中間体であることが知られている。
【0064】
本発明の更なる目的は、ネビボロールの製造方法であって、次式:
【0065】
【化11】

【0066】
で表される化合物を分離して、上述の式(I:RS/SR)及び(I:RR/SS)で表されるジアステレオ異性体的に純粋な化合物を得ることを含む方法を提供することである。
【0067】
本発明の目的である分離処理によって得られる立体異性体の公知の混合物(混合物A及び混合物B)を公知の技法に従って最終生成物であるネビボロールに変換する。
【0068】
本発明の好適な一態様においては、本出願人の国際特許出願の特許文献11(WO2008/064826)に記載の方法に従って混合物A及び混合物Bを処理する。
【0069】
本発明者らが現在知る限り、式Iで表される化合物の混合物からNBV製造に有用なジアステレオ異性体対を分別蒸留によって分離することは先行技術では開示も示唆もされていない。
【0070】
注目すべきは、ファインケミカル工程において、複数のキラル中心を有する化合物の分離に取り組む必要がある当業者が、確かに古典的な方法(例えば、カラムクロマトグラフィー及び/又は分別結晶化)を検討している点である。
【0071】
上述のように、先行技術はこのような傾向を完全に反映している。
【0072】
従って、本発明者らは、本発明の目的である特定のジアステレオ異性体誘導体対に対して分別蒸留を工業的に応用することは自明ではないと考える。
【0073】
特に、このような応用は、弱い基質及び/又は反応性基質(例えば、複素環核、特に、歪みのかかったオキシラン環に連結している複素環核)の存在下では、該基質の性質上、予想外である。
【0074】
実際、分別蒸留処理は必然的に高い熱的ストレスを伴い、更にはそれが長時間に及ぶことが知られている。
【0075】
いずれにしても、本発明の方法に伴う最も関連する発明の態様は、間違いなく、NBVのラセミ混合物の製造方法に有用な光学配置を有する中間体のクロマトグラフィー分離を回避する可能性である。
【0076】
実際、工業的レベルでクロマトグラフィー処理を使用する際に伴う問題が知られており、主に、経済的な問題(装置やカラム、固定相にかかるコスト、及びそのメンテナンスにかかるコスト)や環境上の問題(非常に大量の溶媒の使用や、それに伴う廃棄物処理)が知られている。
【0077】
また、本発明の目的である蒸留処理は、高ジアステレオ異性体過剰(式(I:RS/SR)で表される化合物、少なくとも99%de及び式(I:RR/SS)で表される化合物、少なくとも99%de)、更に低エナンチオマー過剰を特徴とする生成物を提供することができる。
【0078】
混合物A及びBは、驚くべきことに、同等の規模でクロマトグラフィー分離処理を利用して実験的に得た純度よりも高い純度で得られる(式(I:RS/SR)及び(I:RR/SS)で表される化合物の力価は少なくとも99%w/w)。
【0079】
従って、本発明者らは、本発明の目的である方法による特定のジアステレオ異性体対の分離を先行技術が示唆していないと考えるだけでなく、全く予測できない高い化学純度と光学純度を有する生成物を得ることもできると考えている。
【0080】
本発明の方法は、市場で容易に入手可能な装置を用いるため、工業的規模での適用に特に好適である。
【0081】
留意すべきは、分別蒸留処理の場合、その操作パラメータを一旦設定すれば、処理のスケールアップの際に、クロマトグラフィー処理と比較して工業的レベルで予想結果(力価、ジアステレオ異性体純度)の高い再現性をいかに確保できるかという点である。
【0082】
更に留意すべきは、分別蒸留処理の場合には、クロマトグラフィー処理と比べて、より簡易な方法によって(ひいてはより低コストで)工業的規模で操作パラメータを確実に制御できる点である。このことは、分別蒸留が石油産業や石油化学産業(前記産業においては、通常、処理は連続的に実行される)において広く普及していることによって確認される。
【0083】
一方、本発明に記載の応用、すなわち、分別蒸留を有効成分の製造に有用な式(I:RS/SR)及び式(I:RR/SS)で表されるジアステレオ異性体的に純粋な中間体を得るための分離技法として使用することは自明ではない。
【0084】
また、分別蒸留処理に付した最初の2成分混合物からジアステレオ異性体対(I:RS/SR)及び(I:RR/SS)を高収率でほぼ全量回収することによって、本発明の目的が達成される。この回収は、単一バッチ蒸留操作によって得たスロップ留分(ジアステレオ異性体対の両方を含む混合留分)を、単純に循環利用することによっても行われる。このようなスロップ留分は、次の蒸留操作のボイラー供給サイクルに再導入する。
【0085】
当然のことながら、製造コストは大幅に削減され、次のネビボロール製造方法段階に直接付すことができるような純度の生成物が得られる。
【0086】
従って、本発明の目的である分離方法が、いかに有効成分NBVの製造に重要な中間体を製造する効果的且つ経済的な合成代替手段を構成しているかは非常に明らかである。
【0087】
本発明の目的である方法の一実施形態は、必要に応じて式Iで表される化合物の混合物のフラッシュ蒸留を行って、92%w/wを超える純度の前記混合物を得ることと、得られた混合物をボイラに導入することと、分留カラムに接続させたボイラーを減圧条件下、130〜230℃の温度で加熱することと、有用な留分を回収することと、必要に応じてスロップ留分を次の蒸留処理に循環利用することとを含む。
【0088】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0089】
[実施例1]
化合物(R*)−6−フルオロ−3,4−ジヒドロ−2−((S*)−オキシラン−2−イル)−2H−クロメン(I:RS/SR)及び(R*)−6−フルオロ−3,4−デヒドロ−2−((R*)−オキシラン−2−イル)−2H−クロメン(I:RR/SS)の合成
a)分留を行わない蒸留(フラッシュ):
式(I)で表される化合物である6−フルオロ−3,4−デヒドロ−2−(オキシラン−2−イル)−2H−クロメン(1250.8g)[ジアステレオ異性体比(I:RS/SR)(I:RR/SS)=1.13]を高真空条件下(115〜138℃、1.7mmHg)で気化/凝縮の予備操作に付した。操作終了時に、投入した生成物の大部分(1241.2g、アッセイ値(GC):96.1%w/w)を回収する。
【0090】
b)分別蒸留によるジアステレオ異性体の分離:
上述の段階で得た式(I)で表される化合物である6−フルオロ−3,4−デヒドロ−2−(オキシラン−2−イル)−2H−クロメン(1232.0g)を、三口パイレックスガラスフラスコから成るボイラーに投入した。そのボイラーは、パワースイッチで制御する電気スカートで加熱し、窒素供給用ガラスキャピラリーチューブが取り付けられている。そのボイラーは、分留カラムに接続されており、そのカラムは、内部直径が2インチ(断熱ジャケットを含む)で全高が約1.2メートルの2個のジャケット付ガラスカラムセクションから成り、10〜25の理論段数に相当する性能を確保する充填材で満たされている。カラムヘッドは、水冷式二重ジャケット凝縮器(約13℃)で液分配するタイプである。実験装置は、温度(℃)検出用の2個の熱電対(1個はボイラーに使用、もう1個はヘッドに使用)、オイル真空ポンプ及び圧力測定システムで完成する。
【0091】
バッチ分別蒸留による一回の精製操作の間に、一連の留分を次の順序で回収した。
【0092】
1.軽質生成物を含むヘッド留分:計13.7g;
2.式(I:RS/SR)で表されるジアステレオ異性体的に純粋な化合物を含む留分:計479.8g、アッセイ値(HPLC)≧99%w/w、ジアステレオ異性体過剰>99.5%、ヘッド温度=117℃、ボイラ温度=161〜162℃、真空度=1.4〜1.5mmHg;
3.式(I:RS/SR)で表される化合物と式(I:RR/SS)で表される化合物が混ざって含まれる混合留分及びスロップ留分:計242.4g;スロップ留分:ヘッド温度=123〜126℃、ボイラー温度=164〜165℃、真空度=1.5mmHg;
4.式(I:RR/SS)で表されるジアステレオ異性体的に純粋な化合物を含む留分:計275.1g;アッセイ値(HPLC)≧99%w/w、ジアステレオ異性体過剰>99%;ヘッド温度=126℃、ボイラー温度=165〜199℃、真空度=1.4〜1.5mmHg。
5.蒸留エンドボイラー+カラム動的ホールドアップから成る留分:計130.0g;ジアステレオ異性体過剰>99%の式(I:RR/SS)で表される化合物を含む;
6.静的カラムホールドアップから成る留分:86.9g;ジアステレオ異性体過剰=約98%の式(I:RR/SS)で表される化合物を含む。このような留分は、蒸留カラムをMTBEで洗浄して得た有機溶液を濃縮して回収した。
【0093】
ジアステレオ異性体(I:RS/SR):δH(400 MHz; CDCl3) 6.84-6.73 (3H, m), 3.87-3.81 (1H, m), 3.15-3.10 (1H, m), 2.91-2.78 (4H, m), 2.18-2.10 (1H, m), 1.96-1.84 (1H, m).
ジアステレオ異性体(I:RR/SS):δH (400 MHz; CDCl3) 6.81-6.72 (3H, m), 3.88-3.82 (1H, m), 3.21-3.17 (1H, m), 2.89-2.76 (4H, m), 2.1-2.00 (1H, m), 1.97-1.87 (1H, m).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式:
【化1】

で表される化合物を分離して、次式:
【化2】

で表される化合物をRS/SR配置のジアステレオ異性体的に純粋な化合物として得ると共に、次式:
【化3】

で表される化合物をRR/SS配置のジアステレオ異性体的に純粋な化合物として得る方法であって、前記分離を分別蒸留によって行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記蒸留が、130℃〜230℃のボイラー温度で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蒸留が、160℃〜200℃のボイラー温度で行われる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記蒸留が、2mmHg未満のカラムヘッドの残圧で行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記蒸留が、約1.4〜1.5mmHgのカラムヘッドの残圧で行われる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸留が、バッチ蒸留方法によって行われる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記式Iで表される化合物の初期純度が少なくとも92%である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
式Iで表される化合物の混合物をフラッシュ蒸留によって前処理することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の分離方法を含むネビボロールの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法によって得られる、アッセイ値及びジアステレオ異性体過剰が99%以上である式(I:RS/SR)又は(I:RR/SS)で表される化合物。
【請求項11】
ジアステレオ異性体混合物の形態の次式:
【化4】

で表される部分分割化合物に対して前記分別蒸留を行う請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2012−533588(P2012−533588A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520961(P2012−520961)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004532
【国際公開番号】WO2011/009628
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(307041023)
【氏名又は名称原語表記】ZaCh System S.p.A.
【Fターム(参考)】