説明

ノルボルネン系重合体の製造方法及びノルボルネン系重合体

【課題】耐熱性に優れると共に皮膜形成能を有する高分子量のノルボルネン系トランスアニュラー重合体を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されるノルボルネン系重合体(A)の製造方法において、特定のルイス酸(b)と特定のアンモニウムボレート塩(c)の存在下で5−アルキリデンノルボルネン(a)を重合させることを特徴とするノルボルネン系重合体(A)の製造方法。


[式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基、mは0以上の整数、nは72以上の整数であって、かつm+nは80以上、n/(m+n)は0.9〜1あり、各構造単位の結合形式はランダム、ブロック又はこれらの併用であってもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来にない高分子量のノルボルネン系重合体の製造方法及び該製造方法により得られるノルボルネン系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明性や耐熱性を必要とするディスプレイ用材料等において、ノルボルネン系環状オレフィンの重合体が提案されている。ノルボルネン系環状オレフィンの重合体としては、これまで、開環重合体の水素化物やノルボルネン系環状オレフィンとエチレンとの付加共重合体、ノルボルネン系環状オレフィンの付加重合体、ノルボルネン系環状オレフィンのトランスアニュラー重合体等が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
これらの内、特許文献1のノルボルネン系開環重合体の水素化物は、分子鎖中に水素化されない二重結合が微量に残留することが多く、高温にて着色する等の欠点を持ち、特許文献2のノルボルネン系環状オレフィンとエチレンとの付加共重合体は、エチレン連鎖の結晶化により透明性に劣るものとなることが多い。また、特許文献3のノルボルネン系環状オレフィンの付加重合体は、分子鎖が剛直なため、脆いという欠点がある。
これらに対し、非特許文献4のノルボルネン系環状オレフィンのトランスアニュラー重合体は、生長炭素カチオンの転移を伴う重合反応であるため、重合後の水素添加を必要としない。しかし、従来の技術では、生長炭素カチオンが不安定なため低分子量の重合体しか得られず、フィルム成形等を行うことは不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−26024
【特許文献2】特開昭61−292601
【特許文献3】特開平4−63807
【特許文献4】特開平5−25220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐熱性に優れると共に皮膜形成能を有する高分子量のノルボルネン系トランスアニュラー重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく検討を行った結果、本発明に到達した。即ち本発明は、一般式(1)で表されるノルボルネン系重合体(A)の製造方法において、一般式(2)で表されるルイス酸(b)と一般式(3)で表されるアンモニウムボレート塩(c)の存在下で5−アルキリデンノルボルネン(a)を重合させることを特徴とするノルボルネン系重合体(A)の製造方法。
【化1】

[式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基、mは0以上の整数、nは72以上の整数であって、かつm+nは80以上、n/(m+n)は0.9〜1あり、各構造単位の結合形式はランダム、ブロック又はこれらの併用であってもよい。]
【化2】

[式中、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、Xはハロゲン原子を表す。]
【化3】

[式中、R4〜R7はそれぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基、Yはペンタフルオロフェニル基を表す。]
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法は、ノルボルネン系環状オレフィンのトランスアニュラー重合において、アンモニウムボレート塩を共触媒として加えることにより、生長炭素カチオンを適度に安定化することにより高分子量の重合体を得ることができる。
また、通常カチオン重合は生長炭素カチオンが不安定なため、極低温条件にて重合を行う必要あるが、本発明の製造方法ではアンモニウムボレート塩の効果により室温での重合が可能である。
更に、本発明の製造方法によりトランスアニュラー収率が高く、耐熱性に優れる重合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一般式(1)で表される高分子量のノルボルネン系重合体(A)の製造方法は、一般式(2)で表されるルイス酸(b)と生長炭素カチオン安定剤である一般式(3)で表されるアンモニウムボレート塩(c)の存在下で、5−アルキリデンノルボルネン(a)を重合させることを特徴とする。
【0009】
本発明おける5−アルキリデンノルボルネン(a)としては、アルキリデンの炭素数が2〜4の5−アルキリデンノルボルネン(5−エチリデン、5−プロピリデン又は5−ブチリデンノルボルネン等が挙げられる。
【0010】
本発明における一般式(2)で表されるルイス酸(b)は、アルミ系のカチオン重合触媒である。
一般式(2)におけるR2及びR3はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基(メチル基、エチル基、n−又はiso−プロピル基及びn−、sec−又はtert−ブチル基等)を表し、反応性の観点から、メチル基、エチル基及びn−又はiso−プロピル基が好ましく、更に好ましいのはエチル基である。
一般式(2)におけるXはハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等)を表し、反応性の観点から、塩素原子が好ましい。
【0011】
ルイス酸(b)の使用量は、5−アルキリデンノルボルネン(a)に対して、0.01重量%〜10重量%が好ましく、更に好ましくは0.05重量%〜5重量%、特に好ましくは0.1重量%〜3重量%である。
【0012】
本発明における一般式(3)で表されるアンモニウムボレート塩(c)は、生長炭素カチオン安定剤として作用する。
一般式(3)におけるR4〜R7はそれぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表す。炭素数1〜10の炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基及び炭素数7〜10の芳香脂肪族基が挙げられる。
【0013】
炭素数1〜10の直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−又はiso−プロピル基、n−、sec−、iso−又はtert−ブチル基、n−又はiso−ペンチル基、シクロペンチル基、n−又はiso−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−又はiso−ヘプチル基、n−又はiso−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−又はiso−ノニル基及びn−又はiso−デシル基基等が挙げられる。
【0014】
炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基及びメシチル基等が挙げられる。
炭素数7〜10の芳香脂肪族基としては、ベンジル基及びフェネチル基等が挙げられる。
【0015】
これらの炭化水素基の内、塩の生産性の観点から好ましいのは炭素数1〜10の直鎖、分岐又は環状の脂肪族炭化水素基、更に好ましいのは炭素数1〜4の直鎖の脂肪族基、特に好ましいのはn−ブチル基である。
【0016】
一般式(3)におけるYはペンタフルオロフェニル基である。
【0017】
アンモニウムボレート塩(c)の内、生長炭素カチオンの安定性の観点から特に好ましいのはテトラキスペンタフルオロフェニルボレートのテトラブチルアンモニウム塩である。
【0018】
アンモニウムボレート塩(c)の使用量は、5−アルキリデンノルボルネン(a)に対して、0.01〜10重量%が好ましく、更に好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.1〜3重量%である。
【0019】
ルイス酸(b)とアンモニウムボレート塩(c)の存在下での5−アルキリデンノルボルネン(a)の重合は溶剤を使用しなくとも可能であるが、塩化メチル、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロエタン及び1,1,2−トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、デカリン及びメチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶剤並びにベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族系溶剤等の溶剤を使用することが好ましい。これらの溶剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
溶剤を使用する場合、その使用量は5−アルキリデンノルボルネン(a)に対して5〜50重量であることが好ましい。
【0021】
重合は、通常、−150℃〜100℃、好ましくは−100℃〜50℃、更に好ましくは−20℃〜30℃の温度範囲で行われる。
【0022】
また、重合時間は通常1〜10時間、好ましくは2〜7時間、更に好ましくは3〜5時間である。
【0023】
本発明の製造方法で得られるノルボルネン系重合体(A)は前記一般式(1)で表される。
一般式(1)において、R1は炭素数1〜3のアルキル基(メチル基、エチル基及びn−プロピル基等)であり、反応性の観点からメチル基が好ましい。mは0以上の整数、nは72以上の整数であって、かつm+nは80以上、n/(m+n)は0.9〜1ある。
n/(m+n)の値は、耐熱性(特に耐熱着色性)の観点から0.95〜1であることが好ましく、更に好ましくは0.98〜1である。n/(m+n)を百分率で表した値はトランスアニュラー収率と呼ばれ、本発明におけるトランスアニュラー収率は、通常90〜100%、耐熱性(特に耐熱着色性)の観点から好ましくは95〜100%、更に好ましくは98〜100%である。
また、一般式(1)における各構造単位の結合形式はランダム、ブロック又はこれらの併用であってもよい。
【0024】
ノルボルネン系重合体(A)の重量平均分子量は、成膜性、強度及び溶融粘度の観点から、10,000〜1,000,000が好ましく、更に好ましくは50,000〜900,000、特に好ましくは100,000〜800,000である。
本発明における重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される。
【0025】
本発明のノルボルネン系重合体(A)は、周知の方法によって成形加工することができる。また、成形加工に当たっては、成形性、物性等を改良する目的で各種添加剤(繊維状又は粒子状の充填剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、顔料、染料、アンチブロッキング剤、異種重合体及びオリゴマー等)を添加してもよい。
【0026】
本発明のノルボルネン系重合体は非結晶質であり、ガラス転移温度が高く、耐熱性、耐光性、耐湿性及び透明性等に優れており、光学材料を始めとして各種成形品として広範な分野において有用である。例えば、光ディスク、光学レンズ、光カード、光ファイバー及び液晶表示素子基板等の光学材料、プリント基板、高周波回路基板及び絶縁材料等の電気用途、医療用途、化学用材料、フィルム、シート、各種機器部品及びハウジング等の構造材料並びに建材等の種々の分野で利用できる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に規定しない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0028】
製造例1
<テトラブチルアンモニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートの合成>
10%ソジュウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート塩水溶液(日宝化学社製)100部とテトラブチルアンモニウムブロマイド塩(Aldrich社製)500部をナスフラスコに加え1時間攪拌した。得られた塩を酢酸エチルと水の容量比1:1の混合溶液により分液抽出した後、硫酸マグネシウムにより乾燥後ろ過し、再結晶することでテトラブチルアンモニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート(c−1)を得た。収率は98%であった。
【0029】
比較製造例1
<テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートの合成>
10%ソジュウムテトラフルオロボレート塩水溶液(アルドリッチ社製)100部とテトラブチルアンモニウムブロマイド塩(アルドリッチ社製)500部をナスフラスコに加え1時間攪拌した。得られた塩を酢酸エチルと水の容量比1:1の混合溶液により分液抽出した後、硫酸マグネシウムにより乾燥後ろ過し、再結晶することでテトラブチルアンモニウムテトラキスペンタフルオロボレート(c’−1)を得た。収率は96であった。
【0030】
実施例1
室温、窒素雰囲気下、5−エチリデンノルボルネンモノマー(a−1)100部と製造例1で得たテトラブチルアンモニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート(c−1)6部をトルエン10部に溶解させ5分間攪拌した後、ルイス酸としてジエチルアルミニウムクロライド(b−1)(アルドリッチ社製)3部を加え、室温で3時間攪拌して重合させた。
メタノールを加え反応を停止させた後、重合物をトルエン20部に溶解させ、メタノール200部を用いて再沈殿を行い、濾過後、循風乾燥機中50℃で48時間、乾燥することにより重合体(A−1)を得た。収率は90%であった。
【0031】
比較例1
テトラブチルアンモニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート(c−1)6部を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして重合体(A’−1)を得た。収率は55%であった。
【0032】
比較例2
テトラブチルアンモニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート(c−1)6部をテトラブチルアンモニウムテトラフルオロフェニルボレート(c’−1)6部に変更したこと以外は実施例1と同様にして重合体(A’−2)を得た。収率は63%であった。
【0033】
得られた重合体について以下に示す方法で、重量平均分子量、トランスアニュラー収率及び耐熱着色性を測定又は評価した結果を表1に示す。
<重量平均分子量の測定方法>
ポリスチレンを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。
<トランスアニュラー収率の測定方法>
1H−NMRにより残存オレフィンピーク量からトランスアニュラー重合体と非トランスアニュラー重合体の比[一般式(1)におけるnとmの比]を求め、n/(m+n)の値を百分率で表してトランスアニュラー収率とした。
<フィルムの耐熱着色性の評価方法>
重合体をトルエンに濃度が10%となるように溶解した後、この溶液を乾燥後のフィルムの厚みが100μmになるようにキャスティングして、80℃にセットされた循風乾燥機中で5時間乾燥することにより、フィルムを得た。フィルムを120℃にセットされた循風乾燥機中で500時間乾燥後室温まで冷却して、着色程度を目視にて以下の評価基準で評価した。
○:着色なし
×:黄色に着色
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造方法で得られるノルボルネン系重合体(A)は、トランスアニュラー収率が高く分子内の分極が少ないため、誘電率が低く電子材料用途としても有用であり、また、ガスバリア性に優れているため、封止材としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるノルボルネン系重合体(A)の製造方法において、一般式(2)で表されるルイス酸(b)と一般式(3)で表されるアンモニウムボレート塩(c)の存在下で5−アルキリデンノルボルネン(a)を重合させることを特徴とするノルボルネン系重合体(A)の製造方法。
【化1】

[式中、R1は炭素数1〜3のアルキル基、mは0以上の整数、nは72以上の整数であって、かつm+nは80以上、n/(m+n)は0.9〜1あり、各構造単位の結合形式はランダム、ブロック又はこれらの併用であってもよい。]
【化2】

[式中、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、Xはハロゲン原子を表す。]
【化3】

[式中、R4〜R7はそれぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基、Yはペンタフルオロフェニル基を表す。]
【請求項2】
ノルボルネン重合体(A)の重量平均分子量が10,000以上である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法により得られるノルボルネン系重合体。
【請求項4】
請求項3記載のノルボルネン系重合体から形成されてなるフィルム。

【公開番号】特開2011−63744(P2011−63744A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216772(P2009−216772)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】