説明

ハロゲン化ヒダントイン成形物

【課題】 成形物の強度が高く、温水に接触させた場合においては、容易に膨潤または崩壊することなく成形物の表面から徐々に溶解して長時間に渡って活性ハロゲンを放出することができ、しかも加圧成形時に使用する臼杵に錆が発生することなく、更には保存安定性にも優れているハロゲン化ヒダントイン成形物を提供することを目的とする。
【解決手段】 ハロゲン化ヒダントイン化合物およびメタリン酸ナトリウムを含有するハロゲン化ヒダントイン成形物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と接触することにより活性ハロゲンを徐々に放出し、長時間に渡って風呂水等を清浄化することができるハロゲン化ヒダントイン成形物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化ヒダントイン化合物は、固体の有機ハロゲン系酸化剤として広く知られており、水と接触させた場合には、強力な酸化力を有する活性ハロゲンを放出するところから、顆粒や錠剤に成形され、水の殺菌消毒剤、殺藻剤(スライムコントロール剤)、脱臭剤や清浄化剤等に、また、紙やパルプの漂白剤等として使用されている。
ハロゲン化ヒダントイン化合物と同様な薬剤として、塩素化イソシアヌル酸化合物が知られているが、ハロゲン化ヒダントイン化合物は、塩素化イソシアヌル酸化合物とは異なって、水に対する溶解度が低いので、水中に活性ハロゲンを長期間に渡って持続的に放出させる用途に適している。
【0003】
ところで、ハロゲン化ヒダントイン化合物を加圧成形して、顆粒状、ペレット状、タブレット状、ブリケット状等の錠剤の成形物とした場合には、該成形物の強度が低く、特に温水に接触した場合には、短時間で成形物の膨潤や崩壊が発生する。例えば、加温された風呂水の殺菌剤や、夏期において水温が上昇したクーリングタワー等で循環使用されている冷却水の殺藻剤として使用した場合には、前記成形物の溶解速度が加速され、急激な活性ハロゲン濃度の上昇を招き、所望の活性ハロゲン濃度の制御が困難であるという問題があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、ハロゲン化ヒダントイン化合物と、塩素化イソシアヌル酸化合物及び又は有機酸を含有するハロゲン化ヒダントイン成形物が開示され、該成形物の熱水に対する安定性が向上する(膨潤・崩壊を抑制する)点が記載されているが、未だ満足すべきものではなかった。
【0005】
また、特許文献2には、ハロゲン化ヒダントイン化合物に水や結晶水を有する無機水和物を添加して加圧成形したハロゲン化ヒダントイン成形物が提案されているが、該成形物中に水分を含むために、加圧成形時に使用する臼杵に錆が発生するという難点があった。
【0006】
なお、特許文献3には、水または水を主体とする溶剤にハロゲン化ヒダントイン化合物を分散させた殺菌組成物が開示されている。そして、必要に応じてキレート剤、防錆剤、スケール防止剤、pH調整剤等を添加することが可能である点が記載され、具体的な添加剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウム(後述のメタリン酸ナトリウムの同義語である)が例示されている。
しかしながら、本願発明において使用されるメタリン酸ナトリウムは、ハロゲン化ヒダントイン化合物を加圧成形する際の結合剤として作用して、成形物の強度を高める効果を奏するものであるが、特許文献3には、この点の示唆はない。
【0007】
【特許文献1】特開平8−27119号公報
【特許文献2】特開2005−41813号公報
【特許文献3】特開2003−26512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、成形物の強度が高く、温水に接触させた場合においては、容易に膨潤または崩壊することなく成形物の表面から徐々に溶解して長時間に渡って活性ハロゲンを放出することができ、しかも加圧成形時に使用する臼杵に錆が発生することなく、更には保存安定性にも優れているハロゲン化ヒダントイン成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、意外にもメタリン酸ナトリウムが優れた結合剤として作用することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
即ち本発明は、ハロゲン化ヒダントイン化合物およびメタリン酸ナトリウムを混合して加圧成形することにより得られる、ハロゲン化ヒダントイン化合物およびメタリン酸ナトリウムを含有するハロゲン化ヒダントイン成形物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のハロゲン化ヒダントイン成形物は、その強度が高いので、温水に接触させた場合には、膨潤あるいは崩壊することなく該成形物の表面から徐々に溶解し、長時間に渡って活性ハロゲンを放出することが可能となり、風呂水の殺菌消毒剤や清浄化剤、クーリングタワー循環水の殺藻剤等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のハロゲン化ヒダントイン成形物は、ハロゲン化ヒダントイン化合物およびメタリン酸ナトリウムを混合して加圧成形することにより得られる。
本発明の実施において使用されるハロゲン化ヒダントイン化合物は、化1の一般式で示されるものであるが、工業用原料として容易に入手できる点において、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、1−ブロモ−3−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、3−ブロモ−1−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジクロロ−5−エチル−5−メチルヒダントインが好ましく使用される。また。これらから選ばれる2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
【化1】

(但し、R1及びR2は同一又は異なって水素原子もしくは炭素数1〜4のアルキル基、X1及びX2は同一又は異なって臭素原子もしくは塩素原子を表す。)
【0013】
本発明の実施において使用されるメタリン酸ナトリウムは結合剤として作用するので、ハロゲン化ヒダントイン化合物と混合して加圧成形することにより、得られた成形物の強度を高めることができる。
本発明のハロゲン化ヒダントイン成形物中におけるメタリン酸ナトリウムの含有割合は、1〜15重量%であることが好ましい。メタリン酸ナトリウムの含有割合が1重量%より少ない場合には、成形物の強度を高めることができないので、温水に接触させると成形物の膨潤や崩壊が発生する。なお、メタリン酸ナトリウムの含有割合を15重量%より多くしても、該成形物の強度に変わりがなく、却ってハロゲン化ヒダントイン化合物の含有割合が低下して、該成形物から放出される活性ハロゲン量が低下してしまう。
【0014】
更に本発明の実施おいては、エチレンビスステアリン酸アミドを併用することにより、更に成形物の結合力を高めることができる。また、成形物表面の滑沢性が向上するので、成形物の連続生産性を高めることができる。この場合の成形物中に含有されるエチレンビスステアリン酸アミドの割合は、0.1〜5重量%であることが好ましい。
【0015】
本発明のハロゲン化ヒダントイン成形物を製造するに当たっては、通常採用されている加圧成形方法を適用することができる。
成形物の形状は用途に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、例えば、直径10〜100mm、高さ5〜50mm程度のタブレット状の錠剤が挙げられる。加圧成形を実施するに当たっては、120〜300kg/cmの打錠圧が好ましく、打錠圧が120kg/cmより低い場合には、成形された錠剤の強度が弱く、取り扱い時または輸送中に錠剤が崩れ易くなり、また300kg/cmより高くした場合には、成形金型である臼杵に成形物が固着し、成形物の取り出し時に成形物が割れるというキャッピング現象が発生する。
【実施例】
【0016】
以下、実施例および比較例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において使用した原料ならびに評価試験方法は、次のとおりである。
【0017】
[原料薬剤]
・ハロゲン化ヒダントイン化合物:ブロモクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン及び1,3−ジクロロ−5−エチル−5−メチルヒダントインの3成分を含有する顆粒品、商品名「ダントブロムRW」、ロンザ社製
・メタリン酸ナトリウム:食品添加物グレード、太平化学産業社製
・エチレンビスステアリン酸アミド:商品名「アルフローH50TF」、日本油脂社製
【0018】
[溶解性試験]
直径150mm、高さ500mmの円筒状の溶解器内にハロゲン化ヒダントイン錠剤3個を入れ、43℃の温水を300L/時間の流量にて溶解器の下端部から注入し、溶解器の上端部より排出された溶解液中の活性ハロゲン濃度を1時間毎に測定して、ハロゲン化ヒダントイン錠剤の溶解量を溶解開始からの積算値(単位:重量%)として算出した。
なお、錠剤が崩壊して溶解液中に懸濁物として流出した場合は、懸濁物が溶解したものと見なして溶解量を算出した。
前記の活性ハロゲン濃度は、活性ハロゲンとヨウ化カリウムを反応させて遊離したヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定するハイポ法によって測定した。
【0019】
[保存安定性試験]
1Lのポリ瓶に、ハロゲン化ヒダントイン錠剤を3個入れ、密封した状態で40℃/75%RHに設定した恒温恒湿器中に保存し、7日、14日および25日経過後に検知管(ガステック社製、型番No.8)を用いて、前記ポリ瓶内空間部のハロゲンガス及びクロラミンガス濃度(単位:ppm)を測定した。ポリ瓶中のハロゲンガス及びクロラミンガス濃度が低い程、錠剤の分解が抑えられ保存安定性に優れているものと判定した。
また、縦350mm×横160mm×厚さ100μmのポリプロピレンフィルム(OPP70/CPP30)を用いて、ハロゲン化ヒダントイン錠剤67個を密封包装し、40℃/75%RHに設定した恒温恒湿器中に60日間保存し、ガス発生による包装物の膨れの有無を観察した。
【0020】
〔実施例1〜2〕
ハロゲン化ヒダントイン化合物およびメタリン酸ナトリウムを表1に示した組成の割合(重量%)に従って混合した。この混合物15gを、直径30mmの臼杵に入れ、160kg/cmの圧力で成形し、タブレット状の錠剤を作成した。
これらの錠剤について、溶解性試験および保存安定性試験を実施した。得られた試験結果は、表1に示したとおりであった。また、表1に示した溶解量を図1のグラフに表した。
【0021】
〔実施例3〕
ハロゲン化ヒダントイン化合物、メタリン酸ナトリウムおよびエチレンビスステアリン酸アミドを表1に示した組成の割合(重量%)に従って混合した。この混合物15gを、実施例1〜2と同様にして錠剤を作成して溶解性試験および保存安定性試験を実施した。得られた試験結果は、表1に示したとおりであった。また、表1に示した溶解量を図1のグラフに表した。
【0022】
〔比較例1〕
ハロゲン化ヒダントイン化合物のみを使用して、実施例1〜2と同様にして錠剤を作成し、溶解性試験および保存安定性試験を実施した。得られた試験結果は、表1に示したとおりであった。また、表1に示した溶解量を図1のグラフに表した。
なお、溶解性試験中における錠剤は、温水に接触して数分後には膨潤崩壊し始めて、約30分間経過後には完全に崩壊した。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例1および実施例2の溶解性試験結果によれば、メタリン酸ナトリウムを含有したハロゲン化ヒダントイン成形物は、該成形物の強度が高められているので、温水に接触させた場合には、膨潤または崩壊することなく錠剤の表面から徐々に溶解し、長時間に渡って安定した溶解性を示した。実施例3の溶解性試験結果によれば、エチレンビスステアリン酸アミドを併用することにより、更に錠剤の強度が高めれ、溶解時間を長くすることができた。
実施例1〜3の保存安定性の試験結果によれば、メタリン酸ナトリウムのみ、またはメタリン酸ナトリウムとエチレンビスステアリン酸を添加したハロゲン化ヒダントイン化合物の錠剤は、ハロゲン化ヒダントイン化合物のみからなる錠剤と同様に優れた保存安定性を有するものであった。即ち、メタリン酸ナトリウムおよびエチレンビスステアリン酸は、ハロゲン化ヒダントイン化合物の有する保存安定性を損なうことが無いので、成形物の結合剤として好適なものと認められる。
なお、実施例1〜3と比較例1の何れの錠剤においても、加圧成形時に使用した臼杵に錆びの発生は無かった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】表1に示した実施例1〜3および比較例1の溶解量を表す線グラフである

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化ヒダントイン化合物およびメタリン酸ナトリウムを含有することを特徴とするハロゲン化ヒダントイン成形物。
【請求項2】
メタリン酸ナトリウムの含有割合が1〜15重量%である請求項1記載のハロゲン化ヒダントイン成形物。


【図1】
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【公開番号】特開2007−39409(P2007−39409A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227726(P2005−227726)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)
【Fターム(参考)】