説明

ハンドレスト固定具

【課題】ファゴットにハンドレストを固定するためのハンドレスト固定具において、既存のハンドレストを用いて演奏者に合った楽な持ち方ができるようにすること。
【解決手段】ファゴット51に固定される基台部21と、ハンドレスト52の軸部52bを保持する保持部31とを有し、ハンドレスト52をファゴット51の側面から突出した状態に固定するハンドレスト固定具11であって、基台部21にはボールジョイント41を構成するボール42が形成され、保持部31には、ボール42を受けるボール受け43が形成されて、保持部31が基台部21に対して水平方向および垂直方向に連続的に向きを変更し適宜位置で保持部31の向きを固定できるようにしたハンドレスト固定具11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木管楽器のファゴットに使用するのに好適なハンドレスト固定具に関する。なお、ファゴットとは、バスーン、バズーンも呼ばれるダブルリード楽器であり、この発明でいう「ファゴット」は、フランス式のフレンチ・バッソン(バッソン)や、コントラファゴット(ダブルバスーン)、ファゴッティーノ(クイントファゴット、テナルーン)等を含む意味である。
【背景技術】
【0002】
ファゴット51は、全長1.5m程もある長大な楽器であり、左右の手で持って演奏されるものである(図10参照)。演奏に際して、左手はファゴット51の長さ方向の中間部を、右手はファゴット51の下部を持ち、この状態で両手の指10本をすべて使って演奏する。右手で持つ部分には、5本の指を使える状態でファゴット51を支えられるようにすべくハンドレスト52が固定されている。ハンドレスト52は、右手の親指と人差し指の間に当たるもので(図10(b)参照)、ファゴット51の側面から真っ直ぐ立つように突出している。
【0003】
上述のようにファゴット51は、長大な楽器であるので重く、両手だけで支えながら演奏することはできない。このため、首にかけたストラップやシートストラップを用いて演奏者にかかる負担がなるべく少なくなるように工夫がなされる。しかしそれでも、負担を無くすことは難しい。
【0004】
このため、演奏者にかかる負担を極力すくなくするように演奏者個人に適した形のオリジナルのハンドレスト52を作ることが行われてきた(図10(a)参照)。手の大きさや、指の長さ、太さ、向きなど、身体的に条件がまったく同一の人間は存在しないからである。
【0005】
しかし、オリジナルのハンドレスト52を製作しても、真に身体に合った持ち方を実現することは難しい。手の形状のほか、ファゴット51を持つ角度や姿勢、体との位置関係など、様々な要因が、演奏しやすさに関わるからである。つまり、独自の形状のハンドレストを製作しても、様々な要因のうちの一部を満たすことができるだけであった。
【0006】
このため、腱鞘炎等になる演奏者は少なくなかった。
【0007】
これまで、向き変更可能にハンドレストを固定する固定具は存在しない。
【0008】
なお、下記特許文献1に開示されているように、木管楽器の重さを、親指ではなく、親指と人差し指の間で支持するようにしたハンドレストが提案されている。親指で支えるべきところを手の他の部分で支えるようにしているので、このハンドレストは、クラリネットやオーボエのためのものであることが分かる。その構成は、親指で荷重を支えなくとも済むようにするための特異な形態のハンドル部分を有したもので、楽器に巻き付ける締結ループとの間に設けられた複数個の調整部材で調整を行うことで楽器の位置を調整する構造である。
【0009】
しかし、このような構成では、オリジナルのハンドレストなど既存のハンドレストを使用できない、ファゴットのような長大な楽器を支えられない、調整が複雑である、調整部材の形態が全体としてL字形をなすのでバランスが良くなく却って肩等の他の部位に負担がかかってしまうなどのマイナス面がある。
【特許文献1】特表2004−501386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明は、演奏者に合った楽な持ち方ができるようにすることを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのための手段は、ファゴットに固定される基台部と、ハンドレストの軸部を保持する保持部とを有し、ハンドレストをファゴットの側面から突出した状態に固定するハンドレスト固定具であって、上記基台部と保持部との間に、保持部の向きを水平方向および垂直方向に変更するボールジョイントが設けられ、該ボールジョイントには、保持部の向きを固定する向き固定手段が備えられたハンドレスト固定具である。
【0012】
すなわち、基台部をファゴットの所定の位置に固定して使用する。使用に際しては所望のハンドレストの軸部を保持部に保持させて、ファゴットを持ちながらハンドレストを持ちやすい状態にする。ボールジョイントは、保持部の向きを水平方向および垂直方向に連続的に変更にでき、いわば360度の自由度があり、微調整も可能である。持ちやすい状態にしてから、向き固定手段を操作して、保持部の向きを固定すれば、ハンドレストを身体に合った状態で固定することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、この発明によれば、ハンドレストの形状によるほか、ハンドレストの固定向き等によっても演奏者に適した持ち方を実現できる。この結果、これまで不可能であった楽な持ち方ができ、演奏が快適に、しかも身体に負担をかけることなく行える。
【0014】
また、長大な楽器であるファゴットでも確実に支えられるとともに、調整は保持部の向きを変えればよいので、調整作業は簡単である。そのうえ、ボールジョイントを用いているので、ユニバーサルジョイントを用いた場合に比してコンパクトに形成できて、楽器の演奏に支障をきたすことのない小さな形態に製造できる。しかも構成も簡素であるので、安価に製造することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、ハンドレスト固定具11(以下、「固定具」という)の斜視図であり、この固定具11は、たとえば図2に示したような既存の、又は新たに製作したハンドレスト52をファゴット51(図10参照)に固定するためのものである。
【0016】
ハンドレスト52は、手の親指と人差し指の間が当たる本体部52aの下に、外周面にねじを有する軸部52bを備えた構成であり、演奏者によって本体部52aの形状も材質も異なるものである。
【0017】
固定具11は、このようなハンドレスト52をファゴット51の側面に固定すべく、ファゴット51の側面に固定される基台部21と、ハンドレスト52の軸部52bを保持する筒状の保持部31とを有する。そして、これら基台部21と保持部31との間に、ボールジョイント41が設けられている。
【0018】
基台部21は、図1、図2、図3に示したように、ファゴット51の側面に固定できるように湾曲した板状の固定面部22を有する。固定面部22には、ファゴット51に対する固定のための透孔22aが形成され、止めねじ(図示せず)の挿入に備える。
【0019】
そして、固定面部22の上面には、ボールジョイント41の一方を構成するボール形状のボール42が一体に形成されている。
【0020】
このボール42に嵌合し、ボール42の表面上を動くボール受け43(ボールジョイント41の他方)は、略半球状の椀形に形成され、保持部31の下端に一体形成されている。ボール受け43の側面には、適宜幅のスリット43aが形成されるとともに、このスリット43aを挟むように外方に突出する2枚の突片44,44が設けられている。これら突片44,44には、ねじ部材45が保持され、ねじ部材45を締め付けるとボール受け43のボール42上での向き、すなわち保持部31の向きを固定できるように構成されている。これらスリット43aと突片44とねじ部材45が、保持部31の向きを固定する向き固定手段を構成する。
【0021】
また、保持部31の側面には、内周面に雌ねじ(図示せず)を有するねじ管32が一体に形成されている。このねじ管32には、保持部31に差し込まれたハンドレスト52の軸部52bを締め付けて適宜高さに固定する締め付け部材33が着脱可能に保持される。
【0022】
このように構成された固定具11は、基台部21をファゴット51の所望位置に固定するとともに、ハンドレスト52を取り付けて使用される。
【0023】
使用に当たっては、ファゴット奏者が楽にファゴット51を持てるように、ハンドレスト52の向き等を調整する。調整は次のように行う。
【0024】
まず、ハンドレスト52の軸部52bを固定具11の保持部31に固定する。つづいて、ファゴット51を演奏するときのように持って、より持ちやすい状態にしてハンドレスト52の向き等を決める。ハンドレスト52は、図4に示したようにあらゆる方向に動くので、必ず適した位置に設定できる。ハンドレスト52を適した向きにしてからボールジョイント41のねじ部材45を締め付けて、その状態を保持する。また、ハンドレスト52の高さは、別途、締め付け部材33を利用して調整する。
【0025】
このような調整は、座って演奏する場合、立って演奏する場合、それぞれに応じて行える。
以上のように、使用するハンドレスト52の形状によるほか、ハンドレスト52の固定向き等によっても演奏者に適したバランスの良い持ち方を実現できる。
【0026】
この結果、これまで不可能であった楽な持ち方ができ、身体に負担をかけることがなくなるので、たとえば腱鞘炎などの不具合が発生することを防止できる。しかも、演奏が快適に行えることになるので、音色や上達の速度にも良い影響を得ることができる。
【0027】
また、基台部21と保持部31との間にボールジョイント41を介装した構成であり、小型に形成できるので、バランスよくファゴット51の重量を支えることができる。このため、長大な楽器であるファゴット51でも確実に支えられる。
【0028】
そのうえ、調整は保持部31の向きを変えてからその状態で固定すればよいので、調整作業は簡単である。
【0029】
また、調整作業に際して保持部31の向きを固定する作業は、保持部31側に設けられたボール受け43のねじ部材45を操作するだけであるので、ねじ部材45の操作は、360度いずれの方向からも行える。このため、操作しやすい方向から固定作業ができて簡単である。
【0030】
また、ユニバーサルジョイントを用いた場合に比してコンパクトに形成できて、ファゴット51の演奏に支障をきたすことのない小さな形態に製造できる。しかも構成も簡素であるので、安価に製造することも可能である。
【0031】
以下、その他の形態について説明する。この説明において、上記の構成と同一または同等の部位についてはそれと同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0032】
図5は、保持部31の位置を、ボールジョイント41の中心を通りハンドレスト52の取り付け方向に延びる軸41aからずれた位置に設定した例に係る固定具11の側面図である。このように保持部31がボールジョイント41の中心(軸41a)からずれた位置に設けられると、ボールジョイント41のボール受け43を水平方向において回転させれば、保持部31の位置が変化する。このため、動かす範囲を広くすることができる。
【0033】
図6は固定具11の斜視図、図7はその一部断面図であって、この固定具11は、一箇所の操作で、ハンドレスト52の軸部52bの固定とボール42上での保持部31の向きの固定とが同時に行えるようにしたものである。すなわち、保持部31とボール受け43とに、上下方向に連続する1本のスリット46が形成され、該スリット46を挟むように形成された2枚の突片44,44に1本のねじ部材45が保持されている。また、保持部31の内周面には、筋状をなす多数本の凹凸31aが形成され、差し込まれたハンドレスト52の軸部52bを滑り止めするように設定されている。
【0034】
このように構成された固定具11では、ハンドレスト52の軸部52bを保持部31に差し込んで、保持部31に対する水平方向での向きも差込深さも積極的に力を加えると変更できる状態(かたさ)になるようねじ部材45を締めてから、ハンドレスト52の向き等を調整した上で、ねじ部材45を締め付けると、ハンドレスト52の軸部52bも、ボール受け43のボール42上での位置も同時に固定できる。しかも、ねじ部材45を保持する突片44は、いずれの方向にも向けることができる。このため、調整作業が簡易迅速に行える。
【0035】
また、ねじ管32と締め付け部材33は不要であり、構造の簡素化やコストの低減を図ることが可能となる。
【0036】
図8は、ボール42が保持部31側に設けられ、ボール受け43が基台部21側に設けられた例を示す断面図である。
【0037】
すなわち、保持部31は筒状に形成されるとともに、その下端側は閉じられてボール42が一体に形成されている。一方、基台部21は、固定面部22の上面に、ボール42を転動可能に受けるボール受け43が一体に形成されている。このボール受け43の側面にはスリット43aが形成されるとともに、スリット43aを挟むように2個の突部47,47が設けられ、これら突部47,47にねじ部材45が保持されている。突部47を、ねじ部材45の頭部を埋没させられる厚さに設定すれば、ねじ部材45の存在を目立たなくすることができてよい。
【0038】
このような構成の固定具11では、基台部21のボール受け43に設けられたねじ部材45を操作することで保持部31の向きの固定ができる。
【0039】
図9は、図8に示した固定具11のボール受け43が水平方向に回転するように固定された例である。すなわち、固定面部22の上面には、水平方向に張り出す部分を有した抜け止め突起23が設けられ、この抜け止め突起23には、抜け止め突起23をつかむように取り付けられて回転可能となる別体のボール受け43が設けられている。このように、ボールジョイント41の構成部分は、基台部21や保持部31と別体であるもよい。
【0040】
このような構成の固定具11では、ボール受け43が回転可能であるので、保持部31の向き固定のためのねじ部材45の操作が、操作しやすい位置で行え、調整作業が容易である。
【0041】
この発明の構成と、上記一形態の構成との対応において、
この発明の向き固定手段は、スリット43a、突片44又は突部46、及びねじ部材45に対応し、
双方固定手段は、スリット46、突片44及びねじ部材45に対応するも、
この発明は、上記構成のみに限定されるものではなく、その他の形態を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ハンドレスト固定具の斜視図。
【図2】ハンドレスト固定具の側面図。
【図3】ハンドレスト固定具の平面図。
【図4】作用状態の側面図。
【図5】他の例に係るハンドレスト固定具の側面図。
【図6】他の例に係るハンドレスト固定具の斜視図。
【図7】図6のハンドレスト固定具の一部断面図
【図8】他の例に係るハンドレスト固定具の一部断面図。
【図9】他の例に係るハンドレスト固定具の一部断面図。
【図10】従来技術の説明図。
【符号の説明】
【0043】
11…ハンドレスト固定具
21…基台部
31…保持部
41…ボールジョイント
41a…軸
42…ボール
43…ボール受け
43a…スリット
44…突片
45…ねじ部材
46…スリット
47…突部
51…ファゴット
52…ハンドレスト
52b…軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファゴットに固定される基台部と、ハンドレストの軸部を保持する保持部とを有し、ハンドレストをファゴットの側面から突出した状態に固定するハンドレスト固定具であって、
上記基台部と保持部との間に、保持部の向きを水平方向および垂直方向に変更するボールジョイントが設けられ、
該ボールジョイントには、保持部の向きを固定する向き固定手段が備えられた
ハンドレスト固定具。
【請求項2】
前記ボールジョイントが、ボール形状のボールと、該ボールの表面上を動くボール受けとで構成され、
ボールが基台部に、ボール受けが保持部にそれぞれ設けられるとともに、
ボール受けには、ボールを締め付けて保持部の向きを固定する前記向き固定手段が備えられた
請求項1に記載のハンドレスト固定具。
【請求項3】
前記向き固定手段が、保持部を有する側に設けられた
請求項1に記載のハンドレスト固定具。
【請求項4】
前記保持部が筒状に形成されるとともに、
該保持部と前記ボール受けとに一連のスリットが形成され、該スリットの幅を狭めて、ハンドレストの軸部の固定とボール上での保持部の向きの固定とを同時に行う双方固定手段が設けられた
請求項2に記載のハンドレスト固定具。
【請求項5】
前記保持部が、ボールジョイントの中心を通る軸からずれた位置に設けられた
請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載のハンドレスト固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−139766(P2008−139766A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328240(P2006−328240)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(599082229)株式会社ドルチェ楽器 (3)