説明

ハンマドリル

【課題】切替機構の構造単純化と部品点数削減によって小型コンパクト化と軽量化、コストダウン、操作性及び耐久性の向上を図ることができるハンマドリルを提供すること。
【解決手段】シリンダ17内に画成された空気室24の圧力変動によって打撃子21を介して先端工具26に打撃力を伝達する打撃機構部と、モータ8の回転を前記シリンダ17に伝達し、該シリンダ17とこれに係合する前記先端工具26を回転駆動する回転伝達機構部と、を備えて成るハンマドリル1において、前記空気室24と外気とを連通させる吸気孔25を前記シリンダ17に形成し、前記先端工具26の前記打撃子21側への移動に応じて前記呼吸孔25を閉塞可能とする第1モードと、前記呼吸孔25を常に開放する第2モードとに切り替え可能とする切替機構を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端工具に打撃力を与える打撃機構部と、同先端工具に回転力を伝達してこれを回転駆動する回転伝達機構部を備えてハンマとドリルの機能を兼備するハンマドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
打撃機構部と回転伝達機構部を備えるハンマドリルの動作モードには、先端工具に打撃力を加えつつ該先端工具を回転駆動する打撃・回転モードと、先端工具を回転駆動するのみの回転モード及び先端工具に打撃力を加えるのみ打撃モードの3種類があるが、これらの動作モードは動作モード切替機構によって作業の種類に応じて切り替えられる。
【0003】
ところで、動作モード切替機構としては、例えば特許文献1に提案されているものが知られている。この動作モード切替機構は、打撃機構部と回転伝達機構部のそれぞれにギヤとクラッチ機構を設け、クラッチ機構によってモータからの回転力の伝達を断接することによって動作モードを切り替える方式を採用している。
【0004】
【特許文献1】特開2002−192481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来の動作モード切替機構においては、構造が複雑で部品点数も多いため、ハンマドリル本体が大きくなって高価となるとともに、重量も大きくなって操作性が悪いという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、切替機構の構造単純化と部品点数削減によって小型コンパクト化と軽量化、コストダウン、操作性及び耐久性の向上を図ることができるハンマドリルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、シリンダ内に打撃子を摺動自在に嵌装し、駆動源であるモータの回転をピストンの前記シリンダ内での往復運動に変換し、前記シリンダ内に前記ピストンと前記打撃子によって画成される空気室の圧力変動によって前記打撃子を介して先端工具に打撃力を伝達する打撃機構部と、
前記モータの回転をギヤを介して前記シリンダに伝達し、該シリンダとこれに係合する前記先端工具を回転駆動する回転伝達機構部と、
を備えて成るハンマドリルにおいて、
前記空気室と外気とを連通させる吸気孔を前記シリンダに形成し、前記先端工具の前記打撃子側への移動に応じて前記呼吸孔を閉塞可能とする第1モードと、前記呼吸孔を常に開放する第2モードとに切り替え可能とする切替機構を設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記切替機構は、前記先端工具の前記打撃子側への移動量を規制することによって前記モードを切り替え可能であることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記切替機構は、前記シリンダに移動可能に外嵌され、且つ、前記先端工具の前記打撃子側への移動に連動して前記呼吸孔を開閉可能なスリーブを有し、該スリーブの移動を規制することによって前記モードを切り替え可能であることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記シリンダを前記先端工具の前記打撃子側への移動に応じて移動可能とするとともに、前記切替機構は、前記シリンダの移動量を規制することによって前記モードを切り替え可能であることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れか1項記載の発明において、前記切替機構は、回動可能なカムを有し、該カムの回動位置によって前記モードを切替可能であることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5の何れか1項に記載の発明において、前記切替機構は、前記シリンダの回転駆動を解除する第3モードにも切り替え可能であることを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6の何れか1項記載の発明において、前記切替機構によって、前記先端工具の動作モードを回転・打撃モードと回転モード及び打撃モードに切り替え可能であることを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記回転伝達機構部に、前記ギヤを前記シリンダの外周に回転可能に設けるとともに、シリンダの外周に摺動可能に嵌合する連結部材を設け、前記切替機構の切替部材の操作によって前記連結部材を前記ギヤに対して係脱させることを特徴とする。
【0015】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明において、前記切替部材には偏心ピンが設けられ、該切替部材の回動操作によって前記連結部材を前記偏心ピンによって移動させてこれを前記ギヤに対して係脱させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1及び2記載の発明によれば、切替機構によって第1モードに切り替えて呼吸孔を閉塞すれば、シリンダ内の空気室が略密閉されてその内部の圧力変動が打撃子を介して先端工具に伝達されるため、動作モードとして打撃モードが選択され、第2モードに切り替えて呼吸孔を開放すれば、シリンダ内の空気室が呼吸孔を介して外気に連通するため、該空気室には圧力変動が発生せず、打撃モード以外の動作モードに切り替えられるが、切替機構は、呼吸孔を開閉する簡素な構成としてシリンダの周囲に集約して配置されるため、その構造の単純化と部品点数の削減が実現して当該ハンマドリルの小型コンパクト化と軽量化、コストダウン、操作性及び耐久性の向上を図ることができる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、切替機構はスリーブの移動を規制し、請求項4記載の発明によれば、切替機構はシリンダの移動量を規制することによってモードを切り替えるよう構成したため、該切替機構をシリンダの周囲に配してその構造の単純化と部品点数の削減を図ることができる。
【0018】
請求項5記載の発明によれば、切替機構に設けられたカムの回動動作によってモードを操作性良く切り替えることができる。
【0019】
請求項6記載の発明によれば、切替モードによって第3モードに切り替えれば、シリンダ及びこれに装着された先端工具が空転可能となるため、先端工具を手動で回動させてその回転方向の位置を容易に変更することができる。
【0020】
請求項7記載の発明によれば、ハンマドリルは、切替機構によって回転・打撃モードが選択されればハンマ及びドリルとして機能し、回転モードが選択されればドリルとしてのみ機能し、打撃モードが選択されればハンマとしてのみ機能する。
【0021】
請求項8記載の発明によれば、切替部材の操作によって連結部材をギヤに対して係脱させることによってモータ回転のシリンダ及び先端工具への伝達を断接して動作モード(回転モード)を切り替える構成を採用したため、切替機構をシリンダ部分に集約して配置してその構造単純化と部品点数削減を図ることができ、これによって当該ハンマドリルの小型コンパクト化と軽量化、コストダウン、操作性及び耐久性の向上を達成することができる。
【0022】
請求項9記載の発明によれば、切替部材を回動操作して偏心ピンによって連結部材を移動させ、該連結部材をギヤに対して係脱させるようにしたため、切替部材によって動作モード(回転モード)を容易に切り替えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0024】
<実施の形態1>
図1は本発明に係るハンマドリルの側面図であり、図示のハンマドリル1は、動作モードとして回転・打撃モードと回転モード及び打撃モードの3つのモードを備えるものであって、そのハウジング2には、打撃機構部と、回転伝達機構部及び切替機構が内蔵されている。
【0025】
そして、ハウジング2の後端部(図1の右端部)にはハンドル3が設けられ、このハンドル3にはON/OFFスイッチ4が設けられるとともに、給電用の電気コード5が接続されている。又、ハウジング2の側部には、動作モード切替用のダイヤル状の切替部材6が回動可能に設けられており、その前方にはサブハンドル7が横方向(図1の手前側に)に突設されている。
【0026】
而して、ハンマドリル1の先端部には後述の先端工具26(図2参照)が装着され、この先端工具26が打撃力又は回転力或はその双方を受けて所要の作業を行う。
【0027】
次に、ハンマドリル1の内部構造の詳細を図2及び図3に基づいて説明する。
【0028】
図2はハンマドリル要部の側断面図、図3(a)は切替部材の側面図、同図(b)は同切替部材の底面図である。尚、図2においては、ハウジング2の側部に設けられた前記切替部材6は、便宜上、位相を90°ずらした状態で図示されている。
【0029】
ハウジング2はモータハウジング2Aとこれの上部に被着されたシリンダケース2Bとで構成されており、モータハウジング2A内には、駆動源としてのモータ8が縦置き状態で収納されている。そして、このモータ8の上方へ延出する出力軸(モータ軸)9の上端にはピニオン10が一体に形成されている。
【0030】
又、上記モータ8の出力軸(モータ軸)9を挟んでこれの両側には、クランク軸11と中間軸12がそれぞれ垂直且つ回転可能に支承されており、これらのクランク軸11と中間軸12の各中間高さ位置にはギヤ13,14がそれぞれ結着され、これらのギヤ13,14は、前記モータ軸9の端部に形成された前記ピニオン10に噛合している。尚、両ギヤ13,14の径はピニオン10のそれよりも大きく設定されている。そして、クランク軸11の上端には、クランクピン15が回転中心に対して偏心した位置に垂直且つ一体に立設されており、中間軸12の上端には小径のベベルギヤ16が一体に形成されている。
【0031】
他方、水平方向に長く延びる前記シリンダケース2B内には、シリンダ17がその軸方向両端部をボールベアリング18とメタル軸受19によって回転可能に支承されて水平に配されており、このシリンダ17内にはピストン20と打撃子21が摺動可能に嵌装されている。そして、ピストン20は、コンロッド22を介して前記クランク軸11のクランクピン15に連結されており、コンロッド22の一端は、ピストンピン23を介してピストン20に連結されている。
【0032】
又、シリンダ17内には、前記打撃子21とピストン20によって空気室24が画成されており、シリンダ17には、空気室24に開口する複数の呼吸孔25が形成されている。尚、これらの呼吸孔25は、空気室24と外気とを選択的に連通させるものである。
【0033】
更に、シリンダ17の細くなった先端部には着脱可能な先端工具26が装着されており、この先端工具26は、シリンダ17に対して軸方向(前後方向)に摺動可能且つ周方向に回転不能に係合している。そして、シリンダ17内の先端工具26と打撃子21との間には、中間子27が水平方向に摺動可能に嵌装されており、この中間子27の軸方向端面は先端工具26と打撃子21の各端面に当接している。
【0034】
上記中間子27の打撃子21側の端部は中間部よりも小径に成形され、この端部は、シリンダ17内に水平方向に摺動可能に嵌装された円環部材28の中心孔部に嵌合保持されており、該端部と中間部との間に形成されたテーパ状の段部27aは、円環部材28の一端面に当接している。従って、円環部材28は、打撃子21側(後方)へは中間子27と共にシリンダ17内を摺動するが、先端工具26側(前方)へは中間子27と共には移動せず、中間子27のみが単独で移動する。又、円環部材28の外周部には、係止部材としての複数のピン29が垂直に挿入保持されており、シリンダ17には、各ピン29が係合する軸方向に長い長孔17aが形成されている。従って、ピン29を保持して成る円環部材28は、ピン29がシリンダ17の長孔17a内で摺動し得る範囲で軸方向(前後方向)に移動することができる。
【0035】
一方、シリンダ17の外周部には前後方向に2つのスライドスリーブ30,31が摺動可能に外嵌されており、一方(前側)のスライドスリーブ30の前端内周部には軸方向に長い複数の係合溝30aが形成され、各係合溝30aには前記ピン29が係合している。
【0036】
又、他方(後方)スライドスリーブ31の外周側には回転係止部材32が配されており、この回転係止部材32は、その外周部がシリンダケース2Bの内周部に軸方向に摺動可能且つ周方向に回転不能にスプライン嵌合されており、これと前記ボールベアリング18との間に縮装されたスプリング33よって常時後方に付勢され、その後端面は図示のように前記切替部材6のカム6aの外周面(カム面)に当接している。
【0037】
ここで、切替部材6の構成の詳細は図3に示されるが、該切替部材6には、図3(b)に示すようなフロフィルのカム面を有する前記カム6aが一体に形成されており、該カム6aの端面の当該切替部材6の回動中心から偏心した位置には偏心ピン6bが一体に突設されている。
【0038】
ところで、図2に示すように、前記シリンダ17の後端部外周には大径のベベルギヤ34が回転可能に支承されており、該ベベルギヤ34は、前記中間軸12の上端に形成された小径の前記ベベルギヤ16に噛合している。尚、ベベルギヤ34は、シリンダ17の後端部と共に前記メタル軸受19によってシリンダケース2Bに回転可能に支承されている。
【0039】
又、シリンダ17の外周の前記回転係止部材32とベベルギヤ34との間には、連結部材35が軸方向に(前後方向)に摺動可能且つ周方向に回転不能にスプライン嵌合されており、該連結部材35は、これと前記スライドスリーブ31との間に縮装されたスプリング36によって常時後方に付勢され、その前端外周部に形成された段部は前記切替部材6の偏心ピン6bに当接している。そして、この連結部材35の前端部には、前記回転係止部材32の後端面に形成された複数の係合爪32aに選択的に係合する複数の係合爪35aが形成され、同連結部材35の後端部には、前記ベベルギヤ34に形成された複数の係合爪34aに選択的に係合する複数の係合爪35bが形成されており(図5参照)、該連結部材35は回転係止部材32及びベベルギヤ34と共にドグクラッチを構成している。
【0040】
而して、以上説明したギヤ13、クランク軸11、コンロッド22、シリンダ17、ピストン20、打撃子21、中間子27等が打撃機構部を構成しており、この打撃機構部によってモータ8の出力軸(モータ軸)9の回転がピストン20の往復運動に変換されて先端工具26に打撃力が与えられる。
【0041】
又、ギヤ14、中間軸12、ベベルギヤ16,34、連結部材35、シリンダ17等が回転伝達機構部を構成しており、この回転伝達機構部によってモータ8の出力軸(モータ軸)9の回転が先端工具26に伝達されて該先端工具26が回転駆動される。
【0042】
更に、呼吸孔25、円環部材28、ピン29、スライドスリーブ30,31、切替部材6、連結部材35、回転係止部材32等が切替機構を構成している。
【0043】
次に、以上の構成を有するハンマドリルの作用を1)回転・打撃モード、2)回転モード及び3)打撃モードの各モード及び4)ニュートラルについて図2及び図4〜図10に基づいて説明する。尚、図2は回転・打撃モード時のハンマドリル要部の側断面図、図4、図5、図6はそれぞれ回転モード時、打撃モード時、ニュートラル時のハンマドリル要部の側断面図、図7、図8、図9、図10はそれぞれ回転・打撃モード時、回転モード時、打撃モード時、ニュートラル時の切替部材のカム及び偏心ピンの位置を示す図である。
【0044】
1)回転・打撃モード:
回転・打撃モードは、先端工具26に打撃力を加えつつ該先端工具26を回転駆動するモードであって、切替部材6が回動操作されて回転・打撃モードが選択された状態では、切替部材6のカム6aと偏心ピン6bは図7に示す位置にある。従って、このとき、図2に示すように、連結部材35はベベルギヤ34に連結され、両者の係合爪35b,34a(図5参照)は係合状態(クラッチON状態)にあり、後端面が切替部材6のカム6aの端面(カム面)に当接する回転係止部材32は、図示のように連結部材35から離間した状態(クラッチOFF状態)にある。
【0045】
而して、モータ8が駆動されると、その出力軸(モータ軸)9の回転は、ピニオン10、ギヤ14、中間軸12、ベベルギヤ16,34を経て減速され、ベベルギヤ34に連結された連結部材35を経てシリンダ17に伝達されるため、該シリンダ17とこれの先端部に装着された先端工具26が回転駆動され、先端工具26はドリルとしての機能を果たす。
【0046】
又、同時にモータ8の出力軸(モータ軸)9の回転は、ピニオン10とギヤ13を経て減速されてクランク軸11に伝達され、該クランク軸11が所定の速度で回転駆動されるが、このクランク軸11の回転は、クランクピン15とコンロッド22によってピストン20のシリンダ17内における前後方向の往復直線運動に変換される。このとき、先端工具26が不図示の被削材に押し付けられると、その反力が中間子27、円環部材28、ピン29及び一方のスライドスリーブ30を経て他方のスライドスリーブ31に伝達されるため、該スライドスリーブ31がスプリング36の付勢力に抗してシリンダ17上を後方へ移動してシリンダ17の呼吸孔25を閉塞する。この結果、シリンダ17内に形成された前記空気室24は略密閉状態となり、前述のピストン20の往復運動によって空気室24の内圧が変動するため、この内圧の変動によって打撃子21がシリンダ17内を前後方向に往復動して中間子27に間欠的に衝突するため、中間子27から先端工具26に打撃力が伝達される。
【0047】
2)回転モード:
回転モードは、先端工具26に回転力のみを伝達してこれを回転駆動するモードであって、切替部材6が図7に示す位置から180°回動操作されて回転モードが選択された状態では、切替部材6のカム6aと偏心ピン6bは図8に示す位置にある。
【0048】
従って、このとき、図4に示すように、その外周段部が切替部材6の偏心ピン6bに当接する連結部材35は、前記回転・打撃モード時と同様にベベルギヤ34に連結され、両者の係合爪35b,34a(図5参照)は係合状態(クラッチON状態)にある。又、後端面が切替部材6のカム6aの端面(カム面)に当接する回転係止部材32は、カム6aによってスプリング33の付勢力に抗して前方へと移動せしめられ、スライドスリーブ31に当接してこれを他方のスライドスリーブ30と共にシリンダ17の外周に沿って前方へ移動させるため、スライドスリーブ31による呼吸孔25の閉塞が解除され、シリンダ内17の空気室24は、開放状態にある呼吸孔25を介して外気と連通状態にある。
【0049】
以上のように、回転モードにおいては、連結部材35とベベルギヤ34とは連結状態(クラッチON状態)にあるため、前記回転・打撃モードと同様に、モータ8の出力軸(モータ軸)9の回転は、前記経路を経てシリンダ17に伝達され、該シリンダ17とこれに装着された先端工具26が回転駆動され、該先端工具26はドリルとしてのみ機能する。
【0050】
他方、この回転モードにおいても、モータ8の出力回(モータ軸)9の回転は前記回転・打撃モードと同様に、ピストン20のシリンダ17内での往復直線運動に変換されるが、前述のようにシリンダ17の呼吸孔25は開放状態にあり、シリンダ20内の空気室24は外気に連通しているため、ピストン20が往復動しても空気室24内には圧力変動が発生せず、従って、先端工具26への打撃力の伝達が遮断され、先端工具26は回転駆動されるのみとなる。尚、このとき、先端工具26の被削材への押付力の反力は、中間子27、円環部材28、ピン29及びスライドスリーブ30,31に伝達されるが、スライドスリーブ31は回転連結部材32に当接してその軸方向位置が規制されているために移動せず、シリンダ17の呼吸孔25は開放状態が維持される。
【0051】
3)打撃モード:
打撃モードは、先端工具26に打撃力のみを伝達するモードであって、切替部材6が図8に示す位置から時計方向に90°回動操作されて打撃モードが選択された状態では、切替部材6のカム6aと偏心ピン6bは図9に示す位置にある。
【0052】
従って、このとき、図5に示すように、その外周段部が切替部材6の偏心ピン6bに当接する連結部材35は、偏心ピン6bによってシリンダ17上を前方へと移動せしめられ、ベベルギヤ34から離間して回転係止部材32に連結されてその回転がロックされている。即ち、連結部材35とベベルギヤ34の係合爪35b,34a同士は離脱状態(クラッチOFF状態)にあり、連結部材35と回転係止部材32の係合爪35a,32a同士は係合状態(クラッチON状態)にある。
【0053】
又、後端面が切替部材6のカム6aの端面(カム面)に当接する回転係止部材32は、回転・打撃モードと同じ位置に移動し、スライドスリーブ31はシリンダ17の呼吸孔25を閉塞する位置に移動する。
【0054】
以上のように、回転モードにおいては、連結部材35とベベルギヤ34とは離脱状態(クラッチOFF状態)にあるため、ベベルギヤ34はシリンダ17上で空回転し、その回転のシリンダ17への伝達が遮断され、該シリンダ17及びこれに装着された先端工具26は非回転状態にあり、これらの回転は、連結部材35と回転係止部材32との連結によってロックされている。
【0055】
他方、この回転モードにおいては、前記回転・打撃モードと同様に、シリンダ17の呼吸孔25がスライドスリーブ31によって閉塞されるため、シリンダ17内の空気室24は略密閉状態に保たれ、ピストン20の往復動に伴って空気室24内に圧力変動が発生し、前述と同様に打撃力が打撃子21及び中間子27を経て先端工具26に伝達され、該先端工具26はハンマとしてのみ機能する。
【0056】
4)ニュートラル:
ニュートラルは、先端工具26に回転力も打撃力も伝達しないモードであって、切替部材6が図9に示す位置から時計方向に略45°回動操作されてニュートラルが選択された状態では、切替部材6のカム6aと偏心ピン6bは図10に示す位置にある。
【0057】
従って、このとき、図6に示すように、その外周段部が切替部材6の偏心ピン6bに当接する連結部材35は、偏心ピン6bによってシリンダ17上を前方へと移動せしめられ、ベベルギヤ34から離間し、ベベルギヤ34にも回転係止部材32にも連結されない状態にある。
【0058】
又、後端面が切替部材6のカム6aの端面(カム面)に当接する回転係止部材32は、前記回転モードと同様に、カム6bによってスプリング33の付勢力に抗して前方へと移動せしめられ、スライドスリーブ31に当接してこれを他方のスライドスリーブ30と共にシリンダ17の外周に沿って前方へ移動させるため、スライドスリーブ31による呼吸孔25の閉塞が解除され、シリンダ17内の空気室24は外気に連通した状態となる。
【0059】
以上のように、ニュートラルにおいては、連結部材35とベベルギヤ34及び回転係止部材32とは離脱状態(クラッチOFF状態)にあり、シリンダ17の呼吸孔25は開放状態にあるため、先端工具26には打撃力も回転力も共に伝達されず、該先端工具26は非作動状態にある。尚、この状態では、先端工具26は空転可能であるため、その回転方向の位置を容易に変更することができる。
【0060】
以上のように、本実施の形態では、切替部材6を操作してスライドスリーブ31によってシリンダ17の呼吸孔25を開閉して打撃モードを切り替え、連結部材35をベベルギヤ34に対して係脱させて回転モードを切り替える構成を採用したため、切替機構を構成するスライドスリーブ31や連結部材35をシリンダ6の周囲に集約的に配置することができ、該切替機構の構造が単純化されて構成部品点数が削減され、これによって当該ハンマドリル1の小型コンパクト化と軽量化、コストダウン、操作性及び耐久性の向上が図られる。
【0061】
ここで、本実施の形態において、動作モードとして回転・打撃モード、回転モード、打撃モード、ニュートラルを選択した場合の連結部材35のベベルギヤ34との係脱(ON/OFF)とスライドスリーブ31によるシリンダ17の呼吸孔25の開閉の組み合わせを表1に示す。
【0062】
【表1】

<実施の形態2>
次に、本発明の実施の形態を図11及び図12に基づいて説明する。
【0063】
図11は本実施の形態に係るハンマドリルの回転モード時の状態を示す側断面図、図12は同ハンマドリルの回転・打撃モード時の状態を示す側断面図であり、これらの図においては図2、図4〜図6において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0064】
本実施の形態の形態に係るハンマドリル1’においては、シリンダ17が前後に移動可能に保持され、該シリンダ17の後端外周部にはベベルギヤ34がスプライン嵌合されており、シリンダ17がベベルギヤ34に対して前後に移動する。従って、シリンダ17とこれに工具スリーブ37を介して装着された先端工具26は、ベベルギヤ34と共に常時回転する。
【0065】
又、シリンダ17の外周にはスライドスリーブ38と固定スリーブ39が外嵌されており、スライドスリーブ38は、シリンダ17上を前後に摺動可能に保持され、固定スリーブ39はスナップリング40によってその軸方向位置が固定されている。そして、スライドスリーブ38は、これと固定スリーブ39との間に縮装されたスプリング41によって常時前方に付勢されている。
【0066】
而して、以上の構成を有するハンマドリル1’では、動作モードとして回転モードと回転・打撃モードを選択することができ、先端工具26は常時回転駆動されている。
【0067】
以下に本実施の形態に係るハンマドリル1’の作用を1)回転モードと2)回転・打撃モードについて説明する。
【0068】
1)回転モード:
切替部材6の回動操作によって回転モードが選択されると、図11に示すように、切替部材6のカム6aはスライドスリーブ38に当接してこれを前方へと移動させる。すると、このスライドスリーブ38に係合するピン29が挿通固着されたシリンダ17もスライドスリーブ38と共に前方へ移動し、これに形成された呼吸孔25が固定スリーブ38の前方へ位置して開放状態となるため、シリンダ17内の空気室24は呼吸孔25を介して外気と連通する。
【0069】
而して、モータ8が駆動されると、その出力軸(モータ軸)9の回転は、ピニオン10、ギヤ14、中間軸12、ベベルギヤ16,34を経て減速されてシリンダ17に伝達されるため、該シリンダ17とこれの先端部に装着された先端工具26が回転駆動され、先端工具26はドリルとしての機能を果たす。
【0070】
又、同時にモータ8の出力軸(モータ軸)9の回転は、ピニオン10とギヤ13を経て減速されてクランク軸11に伝達され、クランク軸11の回転はクランクピン15とコンロッド22によってピストン20のシリンダ17内での往復直線運動に変換されるが、前述のようにシリンダ17の呼吸孔25は開放状態にあり、シリンダ17内の空気室24は外気に連通しているため、ピストン20が往復動しても空気室24内には圧力変動が発生せず、従って、先端工具26への打撃力の伝達が遮断され、先端工具26は回転駆動されてドリルとしてのみ機能する。
【0071】
2)回転・打撃モード:
切替部材6の回動操作によって回転・打撃モードが選択されると、図12に示すように、切替部材6のカム6aに当接するスライドスリーブ38とシリンダ17は後方へと移動するため、シリンダ17に形成された呼吸孔25が固定スリーブ39によって閉塞される。
【0072】
従って、この回転・打撃モードにおいては、前記回転モードと同様に、モータ8の出力軸(モータ軸)9の回転は、前記経路を経てシリンダ17に伝達されるため、該シリンダ17とこれの先端部に装着された先端工具26が回転駆動され、先端工具26はドリルとしての機能を果たす。
【0073】
又、この回転・打撃モードにおいては、前述のようにシリンダ17に形成された呼吸孔25が固定スリーブ39によって閉塞されるため、シリンダ17内の空気室24は略密閉状態に保たれ、ピストン20の往復動に伴って空気室24内に圧力変動が発生する。そして、この圧力変動によって打撃子21がシリンダ17内を前後方向に往復動して中間子27に間欠的に衝突するため、中間子27から先端工具26に打撃力が伝達され、先端工具26はハンマとしても機能する。
【0074】
而して、本実施の形態においては、切替部材6を操作してスライドスリーブ38を介してシリンダ17を移動させて呼吸孔25を開閉することによって動作モード(打撃モード)を切り替えるようにしたため、切替機構を構成するスライドスリーブ38や固定スリーブ39をシリンダ17の周囲に集約的に配置することができ、前記実施の形態1と同様に、該切替機構の構造が単純化されて構成部品点数が削減され、これによって当該ハンマドリル1’の小型コンパクト化と軽量化、コストダウン、操作性及び耐久性の向上が図られる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、動作モードを切り替える切替機構を備えるハンマドリルに対して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係るハンマドリルの側面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るハンマドリルの回転・打撃モード時の状態を示す側断面図である。
【図3】(a)は切替部材の側面図、(b)は同切替部材の底面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るハンマドリルの回転モード時の状態を示す側断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係るハンマドリルの打撃モード時の状態を示す側断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係るハンマドリルのニュートラル時の状態を示す側断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係るハンマドリルの回転・打撃モード時における切替部材のカム及び偏心ピンの位置を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係るハンマドリルの回転モード時における切替部材のカム及び偏心ピンの位置を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態1に係るハンマドリルの打撃モード時における切替部材のカム及び偏心ピンの位置を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態1に係るハンマドリルのニュートラル時における切替部材のカム及び偏心ピンの位置を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態2に係るハンマドリルの回転モード時の状態を示す側断面図である。
【図12】本発明の実施の形態2に係るハンマドリルの回転・打撃モード時の状態を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1,1’ ハンマドリル
6 切替部材
6a カム
6b 偏心ピン
8 モータ
9 出力軸(モータ軸)
10 ピニオン
11 クランク軸
12 中間軸
13,14 ギヤ
15 クランクピン
16 ベベルギヤ
17 シリンダ
20 ピストン
21 打撃子
22 コンロッド
24 空気室
25 呼吸孔
26 先端工具
27 中間子
28 円環部材
29 ピン
30,31 スライドスリーブ
32 回転係止部材
33 スプリング
34 ベベルギヤ
35 連結部材
36 スプリング
38 スライドスリーブ
39 固定スリーブ
41 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内に打撃子を摺動自在に嵌装し、駆動源であるモータの回転をピストンの前記シリンダ内での往復運動に変換し、前記シリンダ内に前記ピストンと前記打撃子によって画成される空気室の圧力変動によって前記打撃子を介して先端工具に打撃力を伝達する打撃機構部と、
前記モータの回転をギヤを介して前記シリンダに伝達し、該シリンダとこれに係合する前記先端工具を回転駆動する回転伝達機構部と、
を備えて成るハンマドリルにおいて、
前記空気室と外気とを連通させる吸気孔を前記シリンダに形成し、前記先端工具の前記打撃子側への移動に応じて前記呼吸孔を閉塞可能とする第1モードと、前記呼吸孔を常に開放する第2モードとに切り替え可能とする切替機構を設けたことを特徴とするハンマドリル。
【請求項2】
前記切替機構は、前記先端工具の前記打撃子側への移動量を規制することによって前記モードを切り替え可能であることを特徴とする請求項1記載のハンマドリル。
【請求項3】
前記切替機構は、前記シリンダに移動可能に外嵌され、且つ、前記先端工具の前記打撃子側への移動に連動して前記呼吸孔を開閉可能なスリーブを有し、該スリーブの移動を規制することによって前記モードを切り替え可能であることを特徴とする請求項1又は2記載のハンマドリル。
【請求項4】
前記シリンダを前記先端工具の前記打撃子側への移動に応じて移動可能とするとともに、前記切替機構は、前記シリンダの移動量を規制することによって前記モードを切り替え可能であることを特徴とする請求項1記載のハンマドリル。
【請求項5】
前記切替機構は、回動可能なカムを有し、該カムの回動位置によって前記モードを切替可能であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載のハンマドリル。
【請求項6】
前記切替機構は、前記シリンダの回転駆動を解除する第3モードにも切り替え可能であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載のハンマドリル。
【請求項7】
前記切替機構によって、前記先端工具の動作モードを回転・打撃モードと回転モード及び打撃モードに切り替え可能であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のハンマドリル。
【請求項8】
前記回転伝達機構部に、前記ギヤを前記シリンダの外周に回転可能に設けるとともに、シリンダの外周に摺動可能に嵌合する連結部材を設け、前記切替機構の切替部材の操作によって前記連結部材を前記ギヤに対して係脱させることを特徴とする請求項1記載のハンマドリル。
【請求項9】
前記切替部材には偏心ピンが設けられ、該切替部材の回動操作によって前記連結部材を前記偏心ピンによって移動させてこれを前記ギヤに対して係脱させることを特徴とする請求項8記載のハンマドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−142459(P2006−142459A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338864(P2004−338864)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】