説明

ハードコート層およびその製造方法

【構成】 プラスチック基板上にハードコート層を形成してプラスチック基板を強度的に保護するに際し、ハードコート層のプラスチック基板と接触する部位での屈折率をプラスチック基板の屈折率と略等しくし、かつハードコート層の屈折率を厚さ方向で連続的ないしは段階的に変化させてハードコート層を形成する。
【効果】 プラスチック基板の反射率を広範囲にわたって均一に低下させることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、プラスチック基板上に形成されたハードコート層ならびにこの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】光学部品、透明な外装、容器、フィルムなどにおいては、プラスチック基板が軽量性、安全性、可撓性、低価格性などを理由として汎く用いられている。また、プラスチック基板は硬度的に軟らかいことから傷が付きやすいため、硬質のハードコート層を設けることがある
【0003】しかしながら、ハードコート層を設けた場合には、光の干渉により波長域によって反射率が大きく異なるため強い干渉色(反射光の色相)が生じ、また、全体的な反射防止効果も得られない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、プラスチック基板の反射率を広波長域にわたってほぼ均一に減少させるハードコート層およびその製造方法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明のハードコート層は、プラスチック基板上に形成され、プラスチック基板と接触する部位の屈折率がプラスチック基板の屈折率と略等しく、厚さ方向に向かって屈折率が連続的ないしは段階的に低下していることを特徴とする。
【0006】本発明のハードコート層の製造方法は、プラスチック基板上にハードコート層を形成してプラスチック基板を強度的に保護するに際し、CVD法によって屈折率が異なる2種以上の物質をプラスチック基板上に堆積せしめ、これら物質の堆積量の割合を厚さ方向で変化させて複合ハードコート層を形成することにより、ハードコート層のプラスチック基板と接触する部位での屈折率をプラスチック基板の屈折率と略等しくし、かつハードコート層の屈折率を厚さ方向で連続的ないしは段階的に低下させてハードコート層を形成することを特徴とする。
【0007】
【実施例】図1は、本発明のハードコート層の層構成を示す説明図であり、プラスチック基板11上に、透明のハードコート層13が設けられている。プラスチック基板としては、ポリビスアリルカーボネート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリチオウレタン等いずれもが可能であり、特に透明ないしは半透明の基体に好適である。
【0008】図2は、本願発明のハードコート層における屈折率の関係を示す説明図である。ハードコート層13の屈折率は、プラスチック基板11と接する部分でプラスチック基板11と略同一とし、表面に向かって徐々に低下させる。この低下は、連続的に行なっても段階的に行なってもよいが、段階的に行なう場合は本発明の効果が損なわれないよう多段階に分割する必要がある。
【0009】いま、プラスチック基板11の屈折率を1.65とし、その上に10段階に分けて徐々に屈折率を低下させてハードコート層13を形成し、10段階目のハードコート層13の屈折率を1.45とした場合の構成を表1に示す。ハードコート層13の合計の幾何学的膜厚は約1μm(1000nm)であり、分光反射特性は図3および図4に示した通りである。
【0010】
【表1】



【0011】図3は、可視域ないし近赤外領域での分光反射特性であり、全域にわたってほぼ均等に反射率を低下させることができる。ハードコート層なしのプラスチック基板(屈折率1.65)の場合は、片面の反射率が約6.0%であるが、本発明のハードコート層によってハードコート層表面の屈折率を1.45にすることにより、約3.3%まで反射率を低下させることができる。
【0012】図4は、波長500〜5000nm(0.5〜5μm)の分光反射特性であり、本発明のハードコート層が著しい広帯域にわたって均一な反射低下効果を有することが判る。また、ハードコート層13の表面の屈折率を1.45より低下させれば、さらに反射率を低下させることができる。
【0013】同様に、プラスチック基板11の屈折率が1.60の場合、図2、表1と同様にして幾何学的膜厚1μmのハードコート層13を形成すると、可視域の波長範囲で3.5%以下まで反射率が低下し、また、図3,4と同様に広い波長領域にわたって均一な反射防止効果が得られる。また、ハードコート層の光学的膜厚は0.5〜15μmの範囲が好適であり、好ましくは0.7〜4.7μmである。
【0014】なお、図2では膜厚方向に一定の割合で連続的にハードコート層の屈折率を低下させた実施例を示し、また、表1では膜厚方向に一定の割合で段階的にハードコート層の屈折率を低下させた実施例を示した。しかしながら本発明はこれら実施例に限定されず、膜厚方向での屈折率の低下の割合が一様でなくてもよい(図2で説明すれば、ハードコート層の膜厚方向での屈折率の低下を示す破線が折線あるいは曲線状になる)。
【0015】プラスチック基板11上に、屈折率に傾斜を有するハードコート層13を形成する方法は、特に問わず、液相法、気相法のいずれもが採用可能であるが、化学気相成長法(CVD)が好ましい。図5は、CVD法を利用した本発明の製造方法の実施例を示す説明図である。
【0016】堆積槽21内の基板ホルダー23には、眼鏡レンズ等のプラスチック基板25が保持され、モータ27で回転され、また、ヒータ(図示せず)により加熱されている。堆積槽21は、真空ポンプ29により真空度を調整されており、プラズマ発生用電源33から放電電極31に電力が供給され、プラズマCVD処理がなされる。
【0017】第1気化器45に低屈折率酸化物形成用の低CVD原料が入れられ、一方、第2気化器47に高屈折率酸化物形成用の高CVD原料が充填され、同伴用ガスボンベ41からの同伴ガスによりバブリングされて一部が気化し、混合器49を経て堆積槽21に供給される。
【0018】一方、反応用ガスボンベ43からは、酸化用のガスが混合器49を経て堆積槽21に供給され、CVD原料蒸気との反応により酸化物がプラスチック基板25上に堆積する。気化器45,47およびその後の配管系は加熱することが望ましい。このとき、第1および第2気化器45,47からそれぞれ供給される低屈折率酸化物形成用の低CVD原料と、高屈折率酸化物形成用の高CVD原料との供給比を変化させることにより、形成される膜の屈折率を制御することができる。例えば、低CVD原料としてSi系化合物を用いてSiO2 を堆積させ、一方、高CVD原料としてTi系化合物を用いTiO2を堆積させると、SiO2とTiO2との複合膜が形成される。SiO2 の屈折率が1.45、TiO2 屈折率が2.30程度であるので、供給比の変更により1.45〜2.30間で屈折率を変更させることができる。なお実際には、基板がプラスチックであるため基板の加熱温度に限界があるため、プラズマCVD反応を完全に進行させて純枠の酸化物とすることが難しく、上記の屈折率とは若干異なるが、再現性は高いので問題はない。また、一方において、有機物が膜中に微量存在すると膜のストレスが緩和されて、クラックの発生防止等の膜品質の向上につながる。
【0019】SiO2 を形成するための低CVD原料としては、比較的低温(室温〜250℃)で気化させやすい化合物が好ましく、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等の珪素のアルコキシド、珪素の有機酸アルコキシド、珪素のアミノアルコキシド、テトラメチルシラン等のアルキルシラン、テトラメチルシクロシロキサン等のアルキルシロキサンなどが挙げられる。
【0020】また、気体状の珪素化合物、例えば、モノシラン等の珪素の水素化物、珪素のハロゲン化物も使用できる。この場合は、図4での同伴用ガスボンベ41および第1気化器45に代えて、気体状珪素化合物の原料ボンベを用いる。
【0021】高CVD原料としては、酸化チタン(TiO2 )、酸化ジルコニウム(ZiO2 )、酸化タンタル(Ta25)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化イットリウム(Y23)、酸化インジウム(In23)等の高屈折率の誘電体を生成するものであればよく、比較的低温(室温〜250℃)で気化させやすい化合物が望ましく、また、気体状の化合物も利用できる。高CVD原料としては、テトラ−n−ブトキシチタン等のチタン、ジルコニウム、タンタル、アルミニウム、イットリウム、インジウム等のアルコキシド、これら金属のアルコラート、これら金属のアセチルアセトネート、これら金属の塩化物などが挙げられる。
【0022】なお、図5においては気化器45,47を用い、同伴ガスによるバブリングによってCVD原料を供給する場合を説明したが、本発明の原料供給系はこれに限定されない。例えば、容器に充填したCVD原料を加熱して気化せしめる表面蒸発法によってもよい。この場合は、同伴ガスは使用しても使用しなくともよい。
【0023】同伴ガスとしては、窒素、アルゴン等の不活性ガスが用いられる。酸化用ガスとしては、酸素、オゾン、亜酸化窒素(N2O )などを用いることができる。また、酸化用ガスボンベ43からの酸素ガスをオゾン発生器に導いてオゾンとしたのち、堆積槽21に供給することもできる。図6は、図5と同様の説明図であり、CVD原料、反応用ガスの供給系を除いて図5と同一である。
【0024】第1気化器45には、前述の如き珪素化合物がCVD原料として充填されており、同伴ガスにより混合器49を経て堆積槽21に供給される。一方、反応用ガスボンベ43aからは酸素等の酸化用ガスが、反応用ガスボンベ43bからはアンモニアガス等の窒化用ガスが互いの比率を流量調整され、混合器49を経て堆積槽21に供給される。
【0025】堆積槽21内では、プラズマCVDにより、珪素化合物と酸素ガスおよびアンモニアガスとが反応し、酸化窒化珪素(SixOyNz:4x=2y+3z)が形成される。屈折率は、SiO2 が1.45、Si34が2.00であり共に透明であるので、酸素ガスとアンモニアガスとの比率を制御することにより、屈折率が1.45〜2.00の範囲で、膜の厚さ方向で徐々に屈折率が低下する透明な複合ハードコート層を形成することができる。
【0026】
【発明の効果】本発明によれば、プラスチック基板上に、屈折率が厚さ方向に向って連続的ないしは段階的に低下するハードコート層を形成することにより、プラスチック基板の反射率を広範囲にわたって均一に低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のハードコート層の層構成を示す説明図である。
【図2】本発明のハードコート層における屈折率の関係を示す説明図である。
【図3】本発明のハードコート層の分光反射特性を示すグラフである。
【図4】本発明のハードコート層の分光反射特性を示すグラフである。
【図5】本発明の製造方法の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の製造方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
11 プラスチック基板
13 ハードコート層
21 堆積槽
23 基板ホルダー
25 プラスチック基板
27 モータ
29 真空ポンプ
31 放電電極
33 プラズマ発生用電源
41 同伴用ガスボンベ
43,43a,43b 反応用ガスボンベ
45 第1気化器
47 第2気化器
49 混合器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 プラスチック基板上に形成され、プラスチック基板と接触する部位の屈折率がプラスチック基板の屈折率と略等しく、厚さ方向に向かって屈折率が連続的ないしは段階的に低下していることを特徴とするハードコート層。
【請求項2】 プラスチック基板上にハードコート層を形成してプラスチック基板を強度的に保護するに際し、CVD法によって屈折率が異なる2種以上の物質あるいは組成比が異なる物質をプラスチック基板上に堆積せしめ、これら物質の堆積量の割合あるいは組成比を厚さ方向で変化させて複合ハードコート層を形成することにより、ハードコート層のプラスチック基板と接触する部位での屈折率をプラスチック基板の屈折率と略等しくし、かつハードコート層の屈折率を厚さ方向で連続的ないしは段階的に変化させてハードコート層を形成することを特徴とするハードコート層の製造方法。
【請求項3】 比較的低屈折率の堆積物を形成する低CVD原料と、比較的高屈折率の堆積物を形成する高CVD原料とをプラスチック基板に供給し、これら低および高CVD原料の供給比率を制御することにより、屈折率が厚さ方向で低下する複合ハードコート層を形成する請求項2に記載のハードコート層の製造方法。
【請求項4】 低CVD原料により主として酸化珪素が堆積され、高CVD原料により酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化イットリウム等のより高屈折率の酸化物が主として堆積して複合ハードコート層が形成される請求項3に記載のハードコート層の製造方法。
【請求項5】 珪素を含むCVD原料と反応用ガスとして酸化用ガスおよび窒化用ガスとをプラスチック基板に供給し、酸化用ガスと窒化用ガスとの供給比率を制御することにより、堆積される酸化窒化珪素の酸素と窒素との組成比を調整して複合ハードコート層を形成する請求項2に記載のハードコート層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平7−56002
【公開日】平成7年(1995)3月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−217983
【出願日】平成5年(1993)8月9日
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)