説明

バイオコンビケムによる化合物ライブラリーの効率的な生産方法

【課題】 多種多様な化合物を含むライブラリーを構築するための、バイオコンビナトリアル手法を用いた効率のよい方法を提供する。
【解決手段】 複数の酵素分子種を用いることを特徴とする化合物ライブラリーの構築方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオコンビケムによる化合物ライブラリーの作成方法、詳細には、複数の酵素分子種を用いることを特徴とする化合物ライブラリーの作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の創薬においては、医薬品の標的となる受容体などの生体分子に、事前に合成しておいた、分子量約500以下の低分子有機化合物を反応させて、その候補を絞り込むのが基本手法となっている。この手法を採る場合、できるだけ膨大な種類の化合物を持っていればいるほど創薬に成功する可能性が高くなる。そこで多くの製薬企業や研究機関では、多種類の化合物を効率的に作り出すコンビナトリアルケミストリー(コンビケム)の手法を用いて、化合物ライブラリーの充実に努めている。
【0003】
しかし、従来の化学合成法では困難あるいは不可能な反応も多くあり、これらの困難な反応をあえて実行しようとすれば、収率が悪い、コストがかかる等の不利を被らなくてはならなかった。例えば、薬物のヒトなどへの投与が最終目的であることを考慮すると、薬物の薬効を失うことなく水溶性を高めることが重要となり、例えば、ベンゼン環の特定の位置に水酸基を導入することにより薬物の水溶性を高めることが必要である。しかしながら、このような反応は従来の有機化学的手法では容易なことではない。このため、コンビケムで得られる化合物は比較的合成しやすい化合物に偏りがちであった。
【0004】
こうした化学合成法の欠点を克服するために、酵素によるバイオ変換法が用いられるようになってきた。しかしながら、酵素は本来的に基質特異性が高く、多種多様な反応生成物を作り出すという目的には不向きである。大腸菌などに目的とする酵素の遺伝子を導入して大量発現させ、これをバイオ変換反応に用いることも行われているが(特許文献1、非特許文献1および2参照)、基質特異性の問題のほかに、酵素反応産物を培地から分離・精製するには時間とコストが多くかかるという問題もある。酵素を改変して多様性を持たせようとする試みもなされており、例えばDNAシャッフリング法を用いた研究なども行われているが(非特許文献3参照)、DNAシャッフリング法による新規酵素の発見にはコストと時間がかかる為、一般化していない。
【0005】
近年、チトクロームP450モノオキシゲナーゼ(以下、「P450」ということがある)が多様な基質特異性を有することが明らかにされ、その代謝産物について研究されている。この酵素を発現する大腸菌をM9培地にて培養することによるバイオ変換の研究例もある(非特許文献4参照)。しかしながら、バイオ変換を創薬に応用すること、すなわち、本発明のように、複数の酵素分子種を組み合わせて使用して、化合物ライブラリーを構築することは、これまで全く行われていなかった。
【特許文献1】米国特許第6566108号明細書
【非特許文献1】Appl. Environ. Microbiol. (2003) 69, 6688-6697
【非特許文献2】Tetrahedron (2002) 58, 9605-9612
【非特許文献3】Reetz M. T., Proc. Natl. Acad. Sci. (2004) 101, 5716-5722
【非特許文献4】Eur. J. Biochem. (1999) 259, 731-738
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、従来の化学合成、バイオ変換およびDNAシャッフリングなどの方法の欠点を克服し、より多種多様な化合物のライブラリーを効率的に構築するための方法を提供することが、本発明の課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を行い、複数の酵素分子種を組み合わせて反応に用いることにより、上記欠点が克服され、多種多様な化合物を含むライブラリーが効率的に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の発明を提供するものである:
(1)複数の酵素分子種を用いることを特徴とする化合物ライブラリーの構築方法;
(2)酵素分子種が細胞により産生されるものである(1)に記載の方法;
(3)細胞が形質転換細胞である(2)に記載の方法;
(4)細胞が大腸菌である(2)または(3)に記載の方法;
(5)IU培地を用いることを特徴とする(2)〜(4)のいずれかに項記載の方法;
(6)固定化された酵素分子種または細胞を用いることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の方法;
(7)酵素分子種がチトクロームP450モノオキシゲナーゼ分子種である(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多種多様な化合物を含むライブラリーを構築するための、バイオコンビケム手法による効率のよい方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の化合物ライブラリーの構築方法の特徴は、複数の酵素分子種を用いるバイオコンビケム手法によるものである。なお、「酵素分子種」とは、ある酵素に着目した場合、個々の生物種により産生される個々の当該酵素、ならびに同じ生物種において産生される当該酵素の個々のアイソザイムをいう。例えば、P450分子種という場合には、植物のごとき他の生物種に存在するそれぞれのP450分子種を指してもよく、あるいはヒトにおける複数の分子種のそれぞれを指してもよい。また、「複数」の酵素分子種とは、2種またはそれ以上の酵素分子種をいう。後で説明するように、複数の酵素分子種は、同一、類似または異なる酵素の分子種であってよい。
【0011】
バイオコンビケムを成功させるための条件は、(i)使用する酵素が多様な反応を触媒するものであること;(ii)使用する酵素の基質特異性が低いこと;(iii)酵素反応産物の精製が容易であること;(iv)酵素反応を連続的に行うことができることであり、酵素自体に要求されるのは(i)と(ii)である。単一の酵素分子種で上記(i)および(ii)の条件をいずれも満たすものを見出すことは困難と思われるので、複数の酵素分子種を組み合わせて反応に使用する。複数の酵素分子種を用いることにより、反応に多くのバリエーションが生じ、得られる生成物も多種多様なものとなる。また、酵素反応を用いることにより、従来の化学合成では不利とされていた反応、例えば水溶性の低い分子に対する水酸基導入反応も比較的容易に行うことができる。
【0012】
本発明の方法に用いられる酵素はいずれのものであってもよいが、多種多様な分子種が存在するものが好ましい。本発明の方法に用いられる好ましい酵素分子種は、P450、メチル基転移酵素、糖転移酵素、リン酸化酵素(リン転移酵素)、脱リン酸化酵素(リン脱離酵素)、ADPリボシル基転移酵素、脱水素酵素、硫酸転移酵素、アミノ基転移酵素などである。なかでも、酸化的解毒酵素であるP450は多様な基質特異性を有し、その分子種も幅広い生物種に存在し、多種多様であるので、本発明の方法には特に好ましいものである。
【0013】
複数の酵素分子種を本発明の方法に使用するにあたり、同一酵素の複数の分子種を使用してもよく、異なる酵素の分子種を複数使用してもよい。例えば、P450の3種の分子種を反応に用いてもよく、P450の2種の分子種およびメチル基転移酵素の1種の分子種を反応に用いてもよい。さらに、例えば、P450の4種の分子種、メチル基転移酵素の3種の分子種、および糖転移酵素の2種の分子種を反応に用いてもよい。酵素分子種の種類およびそれらの組み合わせ方は、目的とするライブラリーを構成する化合物の性質その他の条件に応じて変更することができる。
【0014】
本発明の方法に用いられる酵素分子種は、遊離酵素として反応系に存在してもよいが、連続反応に適していることおよび酵素反応産物の単離・精製のし易さから、担体に固定化された状態で反応系に存在することが好ましい。酵素の固定化法や固定化担体は当業者によく知られている。酵素の固定化法としては、例えば、吸着法、共有結合法、包括法などがあり、固定化担体としては、例えば、種々のゲル、多孔性ビーズ、膜などがある。酵素分子種は均一に精製されていることが好ましいが、粗標品であってもよく、部分精製標品であってもよい。反応生成物の単離・精製の容易さからすると、精製段階の進んだものが好ましい。また、目的酵素を産生する細胞を酵素源として反応に用いてもよい。また、使用すべき酵素分子種の遺伝子をベクターに組み込み、これを細胞に導入して形質転換することにより、目的酵素分子種を発現するようになった細胞を反応に用いることも好ましい。酵素は細胞内、細胞外いずれに産生されるものであってもよいが、酵素反応産物の単離・精製のし易さから、一般的には細胞外酵素が好ましい。細胞を用いた場合、細胞は公知の遠心分離等の手段により反応系から除去することができるので、反応産物の単離・精製が容易になる。かかる細胞を担体に固定化して用いてもよく、そうすることにより、さらに酵素反応産物の単離・精製が容易となり、連続反応も容易となる。
【0015】
細胞の形質転換は、1の酵素分子種をコードする遺伝子を含む1または複数のベクターを用いて行ってもよく、あるいは複数の酵素分子種をコードする遺伝子を含む1または複数のベクターを用いて行ってもよい(通常には、このようにして発現される酵素分子種は融合蛋白の形態である)。例えば、1のP450分子種のみをコードする遺伝子を含むベクターを用いて細胞を形質転換させてもよく、1のP450分子種をコードする遺伝子を含むベクターと別のP450分子種をコードする遺伝子を含むベクターを用いて細胞を同時形質転換させてもよい。また、例えば、P450分子種をコードする遺伝子とメチル基転移酵素分子種をコードする遺伝子とを連結したものを含むベクターを用いて細胞を形質転換させてもよい。これらの遺伝子は、生物からクローニングして得てもよく、あるいは既存の遺伝子ライブラリーから選択してもよい。
【0016】
形質転換に用いられる細胞はいずれの種類のものであってもよく、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、真菌細胞のごとき真核細胞、細菌細胞のごとき原核細胞を、適宜選択して用いることができる。本発明の方法に用いられる好ましい細胞としては、動物細胞であればCHO、COS、HEK 293等、植物細胞であればBY2等、昆虫細胞であれはSF9等、真菌細胞であれば酵母等、細菌細胞であれば大腸菌、枯草菌、放線菌、乳酸菌、好熱菌等が挙げられる。これらの細胞は、発現させるべき酵素分子種、所望の反応の種類、あるいは所望の化合物の性質等に応じて選択することができる。これらの細胞の形質転換に用いるベクターも当業者によく知られており、使用する細胞の種類その他の因子に応じて選択し、使用することができる。例えば、動物細胞用ベクターとしてはpCMV等、植物細胞用ベクターとしてはpBI121等、昆虫細胞用ベクターとしてはpIZT/V5−His等、真菌細胞用ベクターとしてはpAAH5、pAUR123等、細菌細胞用ベクターとしてはpBR322、pUC18、およびM13バクテリオファージを基礎としたもの、λバクテリオファージを基礎としたもの等が挙げられる。さらに、これらの細胞の形質転換法も当業者によく知られており、カルシウムイオンを用いてコンピテントな細胞にベクターを導入する方法、エレクトロポレーション、遺伝子銃など、種々の方法を適宜選択して用いることができる。
【0017】
酵素反応の基質は、目的とする生成物に応じて決定されるが、使用する酵素分子種の種類、反応の種類等の因子も考慮される。基質としては有機化合物が適当であり、その分子量については特に制限はないが、一般的には約1000以下、好ましくは約500以下である。例えば、基質としてエストロゲン、酵素分子種としてP450分子種を用いて反応を行ってもよい。また、例えば基質としてオリゴ糖などの糖類を用い、酵素分子種として糖転移酵素分子種を用いてもよい。また、基質としてアミノ酸、ペプチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドなどを用いて、これらにメチル基転移酵素を作用させて修飾を行ってもよい。本発明の方法に使用する酵素分子種、基質、反応の種類については特に制限はなく、目的とする化合物ライブラリーの特性に応じて選択することができる。
【0018】
反応は、複数の酵素分子種と基質とを接触させることにより行う。複数の酵素分子種を1の反応系にて反応させてもよく、いくつかの反応系に分けて反応を行ってもよい。上述のごとく、酵素分子種は遊離のものであってもよく、固定化されていてもよい。あるいは細胞を酵素源として用いてもよい。細胞は固定化されたものであってもよい。細胞を用いて反応を行う場合には、通常には、基質を添加した培地中で細胞を培養する。培地は使用細胞の種類や性質に適合したものを選択すべきである。細胞の選択と同様、培地の選択も当業者が適宜なし得ることである。動物細胞用培地としてはEagle培地等、植物細胞用培地としてはMS培地等、昆虫細胞用培地としてはGrace培地、TC−100培地等、真菌細胞用培地としてはYPD培地、SD培地等、細菌細胞用培地としてはLB培地、YM培地等が挙げられる。例えば、形質転換された大腸菌を用いる場合には、一般的にはLB培地、M9培地等が用いられるが、本発明者らは、IU培地を開発し、酵素反応産物の検出および単離・精製を飛躍的に容易化させた。IU培地については実施例にて詳述する。
【0019】
温度、pH、通気等の反応条件は、使用する酵素分子種の最適温度、最適pH等、あるいは使用する細胞の最適生育条件等を考慮することにより決定することが望ましい。このような反応条件の決定も、当業者が容易になし得ることである。
【0020】
酵素反応産物の単離・精製方法もまた当業者によく知られている。例えば、有機溶媒による抽出法、種々の沈殿法、HPLCを包含する各種クロマトグラフィー(例えば、吸着クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー)等を、単離・精製すべき化合物に応じて適宜選択して使用することができる。
【0021】
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0022】
P450遺伝子組み込んだベクターの構築および形質転換体の取得
分子種としてP450 CYP2c29(マウス由来)、CYP2c43(サル由来)、CYP2a4(マウス由来)を選択した(いずれも神戸大学遺伝子実験センター遺伝子ライブラリーから選択)。参考として、P450 2c29の塩基配列を配列表の配列番号:1に示す。常法によりこれらのP450遺伝子をPCRにて増幅した。NADPHチトクロームP450レダクターゼ遺伝子(神戸大学遺伝子実験センター遺伝子ライブラリーに保存されている)も別途PCRにて増幅した。ベクター構築の際にNADPHチトクロームP450レダクターゼ遺伝子もベクター中に組み込んで、選択したP450分子種と同時発現させるようにした(そのスキームをP450 2c29の場合を例にとって図1に示す)。NADPHチトクロームP450レダクターゼ遺伝子を同時発現させることによりP450への電子供給を行うためである。
なお、P450 2c29のN末端から2番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したものは、ネイティブな2c29よりもP450発現量が多くなることがわかった(データ示さず)。以下において、2c29という場合には、ネイティブな2c29のN末端から2番目のアスパラギン酸がアラニンに置き換わっている分子種をいう。
このようにして得られたベクターを、塩化カルシウム法により大腸菌DH5α株に導入し、形質転換を行った。得られた形質転換体の培養は表1に示すように行った。培地としてはLB培地およびIU培地を用いた。なおIU培地の調製法は表2に示すとおりである。
表1
形質転換体の培養方法
(1)前培養
アンピシリン(100μM)を添加した50mlのIUまたはLB培地中、37℃で2日間培養する。
(2)本培養
(i)500mlのフラスコ中にアンピシリン(100μM)およびグルコース(0.2% w/w)を添加した100mlのIUまたはLB培地を入れる。
(ii)前培養1mlを上記100mlのIUまたはLB培地に添加する。
(iii)O.D.600=0.2になるまで37℃で培養する。
(iv)25℃で1時間インキュベーションする。
(v)100μlの0.1M IPTG(最終濃度100μM)、100μlの0.1Mデルタアミノレブリン酸(最終濃度500μM)および基質を添加する。
(vi)25℃で2日間、160rpmで回転培養する
(vii)3000gで10分間遠心分離する。
表2
IU培地の調製方法
(1)調合物A:
NaHPO 6g
KHPO 3g
NaCl 0.5g
Oを添加して980mlとする。
(2)調合物B:
NHCl 1g
グルコース 2g
チアミン 10mg
MgSO・7HO 246mg
CaCl 14.7mg
Oを添加して20mlとする。
(3)調合物Aをオートクレーブしたものと、調合物Bを除菌濾過したものを混合する。
【実施例2】
【0023】
LB培地とIU培地の比較
実施例1で得られた、CYP2c43による形質転換体を用いて、LB培地およびIU培地におけるP450濃度を比較した。P450濃度の測定は、Omura T, Sato R., THE CARBON MONOXIDE-BINDING PIGMENT OF LIVER MICROSOMES. I. EVIDENCE FOR ITS HEMOPROTEIN NATURE, J. Biol. Chem. (1964) 239, 2370-2378に記載の方法により行った。図2に示すように、培養3時間目でLB培地においてP450濃度が若干高かったが、IU培地はLB培地と同様に使用できることがわかった。
次に、基質としてエストロゲン(最終濃度10μM)を含有するLB培地およびIU培地にてCYP2c43による形質転換体を培養し、培養上清の酢酸エチル抽出物(有機相)をHPLCにより分析した。検出は210nmにおける吸光度によった。LB培地では代謝産物が1種類(図3パネル(a)、矢印mで示す、保持時間約5分)検出された。IU培地ではバックグラウンドが低く(特に保持時間の短い部分)、LB培地で検出された代謝産物のほかに、さらにもう1つの代謝産物(図3パネル(b)、左の矢印mで示す、保持時間約4.5分)が検出された。これらの結果は、IU培地を用いるとバイオコンビケムによる代謝物の検出および単離・精製がきわめて容易であることを示すものである。そこで、以下の実験ではIU培地を用いることにした。
【実施例3】
【0024】
複数の酵素分子種を用いたテストステロンの代謝実験
酵素分子種としてP450 CYP2a4およびCYP2c29を選択し、実施例1記載の方法により形質転換体を得た。基質としてテストステロン(最終濃度10μM)を用いて形質転換体を培養し、その培養上清を酢酸エチルで抽出してHPLCにて生成物を調べた。検出は210nmにおける吸光度によった。CYP2a4による形質転換体を用いた場合、3種の代謝産物(図4パネル(a)、矢印mで示す、保持時間それぞれ約11分、約12.5分および約16分)が検出された。CYP2c29による形質転換体を用いた場合にも、CYP2a4による形質転換体を用いた場合と同じ保持時間のところに3種の代謝産物(図4パネル(b)、矢印mで示す)が検出された。
CYP2a4による形質転換体およびCYP2c29による形質転換体を同時培養した場合には、図4パネル(c)に示すように、各形質転換体を用いた場合の3種の代謝産物のほかに、さらに3種の代謝産物(矢印dで示す、保持時間約11.5分、約20分および約22分)が検出された。
【実施例4】
【0025】
複数の酵素分子種を用いたエストラジオールの代謝実験
酵素分子種としてP450 CYP2a4およびCYP2c43を選択し、実施例1記載の方法により形質転換体を得た。基質としてエストラジオール(最終濃度10μM)を用いて形質転換体を培養し、その培養上清を酢酸エチルで抽出してHPLCにて生成物を調べた。検出は210nmにおける吸光度によった。CYP2a4による形質転換体を用いた場合、2種の代謝産物(図5パネル(a)、矢印mで示す、保持時間約5分および約17分)が検出された。CYP2c43による形質転換体を用いた場合には、2種の代謝産物が検出された(図5パネル(b)、矢印mで示す、保持時間約5分および約7.5分)。
CYP2a4による形質転換体およびCYP2c43による形質転換体を同時培養した場合には、図5パネル(c)に示すように、3種の代謝産物が検出された(図5パネル(b)、矢印mで示す、保持時間約5分、約7.5分および約17分)。
図5の四角で囲んだ保持時間の短い領域のHPLCパターンを詳細に調べたところ、CYP2a4による形質転換体を用いた場合ならびにCYP2c43による形質転換体を用いた場合には、いずれも保持時間約1.5分のところに代謝産物が1つ検出されたが(図6(a)および(b)、矢印mで示す)、CYP2a4による形質転換体とCYP2c43による形質転換体を同時培養した場合には、保持時間約2.5分のところに、さらなる代謝産物が検出された(図6(c)、矢印(d)で示す)。
【0026】
以上の結果から、複数の酵素分子種を使用することにより、基質が逐次変換されて、多種多様な代謝産物が得られることが証明された。そのモデルを図7に示す。したがって、本発明のバイオコンビケム手法により、多種多様な化合物を含むライブラリーを効率よく構築することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によるバイオコンビナトリアル手法は、化合物のライブラリーの作成に利用可能であり、特に、創薬分野において利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、実施例で使用した形質転換体を得るためのベクターの構築手順を示すスキームである。
【図2】図2は、P450分子種CYP2c43による形質転換体を培養した場合の、LB培地とIU培地におけるP450濃度を比較した図である。
【図3】図3は、LB培地(パネル(a))とIU培地(パネル(b))における、P450分子種CYP2c43による形質転換体によるエストロゲン代謝産物の検出につき比較したHPLCチャートである。対照系(基質のみの系、および基質無添加系)のチャートは省略した。
【図4】図4は、形質転換体によるテストステロン代謝産物の検出を示すHPLCチャートである。パネル(a)はP450分子種CYP2a4による形質転換体を用いた場合、パネル(b)はP450分子種CYP2c29による形質転換体を用いた場合、パネル(c)はP450分子種CYP2a4による形質転換体およびP450分子種CYP2c29による形質転換体を同時培養した場合のチャートである。図中、tはテストステロン、mは代謝産物、dは同時培養により得られたさらなる代謝産物のピークを示す。対照系(基質のみの系、および基質無添加系)のチャートは省略した。
【図5】図5は、形質転換体によるエストラジオール代謝産物の検出を示すHPLCチャートである。パネル(a)はP450分子種CYP2a4による形質転換体を用いた場合、パネル(b)はP450分子種CYP2c43による形質転換体を用いた場合、パネル(c)はP450分子種CYP2a4による形質転換体およびP450分子種CYP2c43による形質転換体を同時培養した場合のチャートである。図中、eはエストラジオール、mは代謝産物のピークを示す。図中、四角で囲んだ部分を拡大したものが図6である。対照系(基質のみの系、および基質無添加系)のチャートは省略した。
【図6】図6は、形質転換体によるエストラジオール代謝産物の検出を示す、保持時間の短い領域のHPLCチャートである。パネル(a)はP450分子種CYP2a4による形質転換体を用いた場合、パネル(b)はP450分子種CYP2c43による形質転換体を用いた場合、パネル(c)はP450分子種CYP2a4による形質転換体およびP450分子種CYP2c43による形質転換体を同時培養した場合のチャートである。図中、mは代謝産物、dは同時培養により得られたさらなる代謝産物のピークを示す。対照系(基質のみの系、および基質無添加系)のチャートは省略した。
【図7】図7は、本発明によるバイオコンビケム手法を用いた化合物ライブラリーの構築機構を示す模式図である。酵素(A)〜(C)はそれぞれ別個の酵素分子種を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の酵素分子種を用いることを特徴とする化合物ライブラリーの構築方法。
【請求項2】
酵素分子種が細胞により産生されるものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞が形質転換細胞である請求項2記載の方法。
【請求項4】
細胞が大腸菌である請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
IU培地を用いることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
固定化された酵素分子種または細胞を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
酵素分子種がチトクロームP450モノオキシゲナーゼ分子種である請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−129836(P2006−129836A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325353(P2004−325353)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】