説明

バイオデバイスおよびその製造方法、並びにバイオセンサー

【課題】 立体構造に及ぼす影響をできるだけ小さくして生理活性物質を固定化できる、高感度でハイスループットな生理活性物質の検出ができるバイオデバイスおよびその製造方法、ならびにこれを用いたバイオセンサーを提供すること。
【解決手段】 固相基体の表面に、ホスホリルコリン基を有するユニット、疎水性基を有するユニット及び一級アミノ基を有するユニットを含む高分子化合物を有し、前記表面に親水性化合物が結合していることを特徴とするバイオデバイスで、好ましくは一級アミノ基がオキシルアミノ基および/又はヒドラジド基であるバイオデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中の多数の蛋白質の検出および分析に用いられるバイオデバイスおよびその製造方法に関する技術であり、さらに詳しくは、プロテオミクス、ならびに遺伝子活性の細胞内蛋白質レベルでの測定に用いられるバイオデバイスおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遺伝子活性の評価や、薬物効果の分子レベルでの生理的プロセスを解読するための試みは、伝統的にゲノミクスに焦点が当てられてきたが、プロテオミクスは、細胞の生物学的機能についてより詳細な情報を提供する。プロテオミクスは、遺伝子レベルというよりもむしろ、蛋白質レベルでの発現を検出しそして定量することによる、遺伝子活性の定性的かつ定量的な測定を含む。また、蛋白質の翻訳後修飾、蛋白質間の相互作用など遺伝子にコードされない事象の研究を含む。
【0003】
「生命の設計図」であるゲノムの構造が明らかにされ、膨大なゲノム情報の入手が可能となった今日、プロテオミクス研究はますます盛んになっており、それに伴って生理活性物質検出の迅速高効率(ハイスループット)化が求められている。この目的の分子アレイとして、DNAチップが開発され、実用化されつつある。一方、生体機能において最も複雑で多様性の高い蛋白質の検出に関してはプロテインチップが提唱され、近年研究が進められている。プロテインチップとは、蛋白質、またはそれを捕捉する分子をチップ(微小な基体)表面に固定化したものを総称する。
【0004】
しかし、現状のプロテインチップは一般にDNAチップの延長線上に位置付けられて開発がなされているため、ガラス基板などの固相表面上に蛋白質、またはそれを捕捉する分子を固定化する検討がなされている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
蛋白質はアミノ酸がペプチド結合で直鎖上に連結したポリマーであり、機能発現のためには一定の高次構造を必要とし、複数のサブユニットからなっている場合も多い。これを固相表面に固定した場合、固相表面との接着により立体構造が変化し、蛋白質の機能を損ない相互作用性を失わせる場合がある。また、相互作用部位と固相表面との相対的な位置関係によっては、相互作用が立体障害を受ける可能性もある。このため、立体構造に及ぼす影響をできるだけ小さくして蛋白質を固定化することのできるバイオデバイスが求められている。
【0006】
また、すべての蛋白質(プロテオーム)の変動をプロファイリングする技術面では、超微量の蛋白質や数ナノリットルというような超微量の溶液の操作を可能とするマイクロフルイディクスの技術や、チップ上での前処理、分離、検出を目標とする「ラボ・オン・チップ」の概念が重要となってくる。この技術においても、サンプルである蛋白質などの生理活性物質が、流路内で立体構造をできるだけ保持した状態で固定化されることが必要となる。
【特許文献1】特開2001−116750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、立体構造に及ぼす影響をできるだけ小さくして生理活性物質を固定化することができる場を持った、高感度でハイスループットな生理活性物質の検出ができるバイオデバイスおよびその製造方法、ならびに本デバイスに生理活性物質を固定化させたバイオセンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、
(1) 固相基体の表面に、ホスホリルコリン基を有するユニット、疎水性基を有するユニット及び一級アミノ基を有するユニットを含む高分子化合物を有し、前記表面に親水性化合物が結合していることを特徴とするバイオデバイス、
(2) 前記一級アミノ基がオキシルアミノ基および/又はヒドラジド基である(1)記載のバイオデバイス、
(3) 前記高分子化合物の主鎖が(メタ)アクリル骨格である(1)又は(2)記載のバイオデバイス、
(4) 高分子化合物が下記一般式[1](式中R、R、Rは水素原子またはメチル基を、Rは疎水性基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、pは1〜20の整数を示す。pが2以上20以下の整数である場合、繰り返されるXは、同一であっても、または異なっていてもよい。Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサーであり、Zは酸素原子またはNHである。l、m、nは自然数である。)で表されるものである(1)〜(3)いずれか記載のバイオデバイス、
【化1】

(5) 前記一般式[1]において、Xがエチレンオキシ基である(4)記載のバイオデバイス、
(6) 前記一般式[1]において、Rがアルキル基である(4)又は(5)記載のバイオデバイス、
(7) 前記アルキル基の炭素数が2〜10である(6)記載のバイオデバイス、
(8) 前記一般式[1]において、Yが下記一般式[2]または[3](式中q、rは1〜20の整数である。)である(4)〜(7)いずれか記載のバイオデバイス、
【化2】

【化3】

(9) 前記親水性化合物が多糖類である(1)〜(8)いずれか記載のバイオデバイス、
(10) 前記多糖類が、キチン及びキトサン、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ジェランガム、ファーセレラン、カルボキシメチルセルロース、ヘパリン、ヒアルロン酸、プルラン、デキストラン又はその誘導体、カラギーナン、セファロース、及びアガロースから成る群より選ばれる少なくとも1種である、(9)記載のバイオデバイス。
(11) 前記固相基体の材質がプラスチックである(1)〜(10)いずれか記載のバイオデバイス、
(12) 前記プラスチックがポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、飽和環状ポリオレフィン、ポリペンテン、ポリアミド、及びそれらの共重合体よりなる群より選択された少なくとも1種である(11)記載のバイオデバイス、
(13)前記固相基体の材質がガラスである(1)〜(10)いずれか記載のバイオデバイス、
(14) デバイスの形状がスライド形状基板、チューブ、ビーズ、96穴ないし384穴プレート、マイクロフルイディクス基板及びそれらの複合体よりなる群より選択された少なくとも1種である(1)〜(13)いずれか記載のバイオデバイス、
(15) (1)〜(14)いずれか記載のバイオデバイスの製造方法であって、
<1> ホスホリルコリン基を有するユニット、疎水性基を有するユニット及び一級アミノ基を有するユニットを含む高分子化合物を基体表面に塗布する工程、
<2> 上記塗布基体の表面にさらに親水性化合物を化学結合させる工程、
を含むことを特徴とするバイオデバイスの製造方法、
(16) 前記<2>の工程において、親水性化合物を基体表面に塗布する工程を有する(15)記載のバイオデバイスの製造方法、
(17) (1)〜(14)いずれか記載のバイオデバイスに生理活性物質を固定化させたバイオセンサー、
(18) 生理活性物質がDNA、ペプチド、蛋白質及びそれらの混合物よりなる群より選択された少なくとも1種であるである(17)記載のバイオセンサー、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のバイオデバイスおよびその製造方法、ならびに本デバイスに生理活性物質を固定化させたバイオセンサーによれば、立体構造に及ぼす影響をできるだけ小さくして生理活性物質を固定化することができる、高感度でハイスループットな生理活性物質の検出ができるバイオセンサーを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のバイオデバイスは、基体表面にホスホリルコリン基を有するユニット、疎水性基を有するユニット及び一級アミノ基を有するユニットを含む高分子化合物を有し、その表面に親水性化合物が結合していることを特徴とする。
この高分子化合物は検出対象物質の基材への物理的吸着(非特異的吸着)を抑制する性質を有する。さらに、親水性化合物を固定化する性質を併せ持つ。ホスホリルコリン基が非特異的吸着を抑制する役割を果たし、一級アミノ基が親水性化合物を固定化する役割を果たす。
【0011】
本発明の高分子化合物に含まれるホスホリルコリン基を有するユニットは、特に構造を限定しないが、下記一般式[1]の構成単位の左部の構成単位で示されるように、(メタ)アクリル残基とホスホリルコリン基が炭素数1〜10のアルキレンオキシ基Xの連鎖を介して結合した構造であることが好ましい。なかでもXはエチレンオキシ基であることが最も好ましい。式中のアルキレンオキシ基Xの繰り返し数は1〜20の整数であり、繰り返し数2以上20以下の場合は、繰り返されるアルキレンオキシ基の炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。lは本来自然数であるが、各構成成分の組成割合として表記される場合がある。
【0012】
【化4】

【0013】
本発明の高分子化合物に含まれるホスホリルコリン基を有するユニットの組成割合(l、m、nの和に対するlの比率)は特に制限されるものではないが、高分子化合物の全ユニットに対して5〜98mol%が好ましく、より好ましくは10〜90mol%、最も好ましくは10〜80mol%である。組成比が下限値を下回ると、非特異的吸着が多くなる。一方、上限値を上回ると水溶性が高まり、アッセイ中高分子化合物が溶出してしまう恐れが出てくる。ただし、高分子化合物のいずれかの部分に、基体と共有結合できる官能基類を導入し、基体と化学的に結合させる場合はこの限りではない。たとえば、高分子化合物中にシランカップリング剤を導入しておく方法などが簡便で好ましい。
【0014】
本発明の高分子化合物に含まれる疎水性基を有するユニットは、特に構造を限定しないが、前記一般式[1]の構成単位の中央部の構成単位で表されるように、(メタ)アクリル基残基に疎水性基が結合した構造であることが好ましい。疎水基は特に限定されないが、アルキル基や芳香族類が挙げられる。より好ましくは、前記アルキル基が炭素数2〜20のアルキル基である。アルキル基は特に構造を限定されるものではなく、直鎖であっても、分岐していても、環状になっていてもよい。高分子化合物に疎水性基を有するユニットが含まれていることにより、プラスチック等、疎水性の基体に対しても濡れ性が向上し、ムラなく塗布できるようになる。また、疎水性が増すことから、アッセイ中に該高分子化合物が溶出してしまうことを防止することができる。式中、mは本来自然数であるが、各構成成分の組成割合として表記される場合がある。
【0015】
本発明の高分子化合物に含まれる疎水性基を有するユニットの組成割合(l、m、nの和に対するmの比率)は特に制限されるものではないが、高分子化合物の全ユニットに対して、1〜90mol%が好ましく、より好ましくは10〜80mol%、最も好ましくは20〜80mol%である。上限値を上回ると非特異的吸着が増加する恐れが出てくる。
【0016】
本発明の高分子化合物に含まれる一級アミノ基を有するユニットは、特に構造を限定されるものではないが、前記一般式[1]の構成単位の右部の構成単位で表されるように、(メタ)アクリル基残基とオキシルアミノ基またはヒドラジド基が、アルキレングリコール残基を含むスペーサーYを介した構造であることが好ましい。オキシルアミノ基の場合、Zは酸素原子を、ヒドラジド基の場合、ZはNHを示す。nは本来自然数であるが、各構成成分の組成割合として表記される場合がある。アルキレングリコール残基を含むスペーサーYの構造は特に制限されるものではないが、下記一般式[2]または[3](式中q、rは1〜20の整数である。)であることが好ましい。
【0017】
【化5】

【0018】
【化6】

【0019】
前記オキシルアミノ基またはヒドラジド基は、糖、糖鎖、糖ペプチド、抗体、及び/又はこれらを有する親水性化合物を固定化することができる。また、スペーサーがあることにより、アミノ基が主鎖部分から離れるため、親水性化合物が固定化されやすい。さらにスペーサーにアルキレングリコール残基が含まれていることから非特異的吸着性を発現させることができる。アルキレングリコール残基の炭素数は制限されるものではないが、炭素数2のエチレングリコール残基が最も好ましい。
【0020】
本発明の高分子化合物に含まれる一級アミノ基を有するユニットの組成割合(l、m、nの和に対するnの比率)は特に制限されるものではないが、高分子化合物の全ユニットに対して、1〜94mol%が好ましく、より好ましくは2〜90mol%、最も好ましくは5〜80mol%である。組成比が下限値を下回ると、糖、糖鎖および/またはこれらを有する親水性化合物を十分に固定化できなくなる。一方、上限値を上回ると非特異的吸着が増加する恐れが出てくる。
【0021】
本発明の高分子化合物の化学構造は、少なくともホスホリルコリン基を有するユニット、疎水性基を有するユニット及び一級アミノ基を有するユニットを含む構造であれば、その結合方式がランダム、ブロック、グラフト等いずれの形態をなしていてもかまわない。
【0022】
本発明の高分子化合物の合成方法は、特に限定されるものではないが、合成の容易さから、少なくともホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、一級アミノ基を予め保護基にて保護したモノマーをラジカル共重合する工程、該工程により得られた高分子化合物から保護基を除去する工程、を含む製造方法が好ましい。あるいは、少なくともホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、および一級アミノ基を導入しうる官能基を有するモノマーをラジカル共重合する工程、該工程により得られた高分子化合物に一級アミノ基を導入する工程、を含む製造方法が好ましい。
【0023】
ホスホリルコリン基を有する単量体としては、特に構造を限定しないが、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10−(メタ)アクリロイルオキシエトキシノニルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン等を挙げられるが、入手性から2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましい。
【0024】
疎水性基を有するモノマーの具体的な例としては、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ネオペンチル(メタ)アクリレート、iso−ネオペンチル(メタ)アクリレート、sec−ネオペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、iso−ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、iso−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、iso−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、iso−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、iso−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、iso−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、iso−テトラデシル(メタ)アクリレート、n−ペンタデシル(メタ)アクリレート、iso−ペンタデシル(メタ)アクリレート、n−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、iso−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、iso−オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中で最も好ましいのが、n―ブチルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレートである。
【0025】
一級アミノ基を予め保護基にて保護したモノマーは、特に構造を限定しないが、下記一般式[4](式中、Rは水素原子またはメチル基、Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサー、Zは酸素原子またはNH、Wは保護基を示す。)で表されるように、(メタ)アクリル基と、オキシルアミノ基またはヒドラジド基が、アルキレングリコール残基を含むスペーサーYを介した構造であることが好ましい。
【0026】
【化7】

【0027】
保護基Wとしてはアミノ基を保護できるものであれば何ら制限を受けるものではなく、任意に用いることができる。なかでもt−ブトキシカルボニル基(Boc基)やベンジロキシカルボニル基(Z基、Cbz基)、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)などが好適に用いられる。
【0028】
具体的なモノマーの例としては、下記式で表されるようなものである。
【化8】

【0029】
脱保護化は、トリフルオロ酢酸や塩酸、無水フッ化水素を用いれば、一般的な条件で行うことができる。
【0030】
一方、高分子化合物を重合した後に一級アミノ基を導入する方法としては、何ら制限を受けるものではないが、少なくともホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、およびアルコキシ基を有するモノマーをラジカル共重合した後に、該高分子化合物に導入されたアルコキシ基とヒドラジンを反応させて、ヒドラジド基を生成する方法が簡便で好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t−ブトキシ基等が好適である。
【0031】
具体的なアルコキシ基を有するモノマーの例としては、下記式で表されるようなものである。
【化9】

【0032】
本発明の高分子化合物の合成溶媒としては、それぞれの単量体が溶解するものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
【0033】
重合開始剤としては通常のラジカル開始剤ならいずれでもよく、例えば、2,2’−アゾビスイソブチルニトリル(以下「AIBN」という)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の有機過酸化物等を挙げることができる。
【0034】
本発明の高分子化合物の分子量は、高分子化合物と未反応の単量体との分離精製が容易になることから、数平均分子量は5000以上が好ましく、10000以上がより好ましい。
【0035】
本発明の高分子化合物で基体表面を被覆することにより、親水性化合物の非特異的吸着を抑制する性質、及び親水性化合物を固定化する性質を容易に付与することが可能である。
【0036】
基体表面への高分子化合物の被覆は、例えば有機溶剤に高分子化合物を0.05〜50重量%濃度になるように溶解した高分子溶液を調製し、浸漬、吹きつけ等の公知の方法で基材表面に塗布した後、室温下ないしは加温下にて乾燥させることにより行われる。
【0037】
有機溶剤としてはエタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、シクロヘキサノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノン等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。中でも、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、シクロヘキサノール等アルコール類がプラスチック基材を変性させず、乾燥させやすいため好ましい。
【0038】
本発明に使用する基体の形状は、特に限定しないが、スライド形状基板、チューブ、ビーズ、96穴ないし384穴プレート、マイクロフルイディクス基板及びそれらの複合体が挙げられる。
【0039】
基体の素材は、通常ガラス、金属その他を用いることができるが、本発明に使用する基体の素材としては、表面処理の容易性、量産性の観点から、プラスチックを使用し、特に熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、蛍光発生量の少ないものが好ましい。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテン等の直鎖状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、飽和環状ポリオレフィン、含フッ素樹脂等を用いることが好ましく、耐熱性、耐薬品性、低蛍光性、成形性に特に優れる飽和環状ポリオレフィンを用いることがより好ましい。ここで飽和環状ポリオレフィンとは、環状オレフィン構造を有する重合体単独または環状オレフィンとα−オレフィンとの共重合体を水素添加した飽和重合体等を指す。
【0040】
前記オキシルアミノ基またはヒドラジド基は、糖、糖鎖、糖ペプチド、抗体、及び/又はこれらを有する親水性化合物を固定化することができる。これらの親水性化合物の基体への固定化方法としては、親水性化合物が溶解した溶液を容器などに分注し、基体を浸漬させて固定化する方法、親水性化合物が溶解した溶液をスプレーで吹き付けてコーティングし固定化する方法などがある。また、この溶液中に、基体との固定化に関わらない他の物質を混合することもできる。
【0041】
固定化に際して、糖、糖鎖、糖ペプチド、抗体の糖部分を酸化剤によりアルデヒドに酸化することにより、より効果的に基材に親水性化合物を固定化できる。使用する酸化剤としては、特に限定されないが、過ヨウ素酸を使用する。これらの濃度は、0.04〜0.16Mである。また、該酸化反応の緩衝液としては、通常、重炭酸ナトリウム溶液(pH8.1)を使用する。このようにして酸化された親水性化合物のアルデヒド基と基体上の一級アミノ基とを反応させ、シッフ塩基を生成することにより、化学的に固定化することができる。
【0042】
本発明に使用する親水性化合物は、前記高分子化合物が被覆された基体に固定化できるものであれば何ら限定されるものではないが、その後に各種生理活性物質を活性を維持して固定化するという意味で多糖類が好ましい。多糖類の種類は特に限定されないが、例えばキチン及びキトサン、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ジェランガム、ファーセレラン、カルボキシメチルセルロース、ヘパリン、ヒアルロン酸、プルラン、デキストラン又はその誘導体、カラギーナン、セファロース、アガロースなどが用いられ、特にアガロースは、ゲル化しやすく、立体構造および活性を保った状態での生理活性物質の支持体として好適である。また、これらの多糖類は単独または2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0043】
親水性化合物を溶解する溶液としては各種緩衝剤が好適に用いられる。緩衝剤の種類は特に限定されないが、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、トリス‐塩酸緩衝剤、トリス酢酸緩衝剤、PBS緩衝剤、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、HEPES(N−2−hydroxyetylpiperazine−N’−ethanesulphonic acid)緩衝剤、MOPS(3−(N−morpholino)propanesulphonic acid)緩衝剤などが用いられる。
【0044】
親水性化合物を溶解する溶液のpHとしては、糖又は糖鎖を溶解する場合はpHが2〜8であることが好ましい。
【0045】
親水性化合物の溶液中の濃度としては特に限定されないが、0.0001mg/mlから10mg/mlであることが好ましい。
【0046】
親水性化合物の溶液を固定化する温度としては0℃から100℃が好ましい。
【0047】
前記親水性化合物を固定化した基体表面に、生理活性物質を固定化し、各種分子生物学的反応を検出するバイオセンサーとして利用することができる。生理活性物質を固定化する際には、生理活性物質を溶媒で溶解又は分散した液体を基体に点着する方法が好ましい。
生理活性物質を溶解または分散する溶媒のpHは8〜10であることが好ましく、pH9.0〜9.9がより好ましい。生理活性物質の固定化の工程における環境については、温度は15〜70℃、湿度は0〜95%が好ましい。
【0048】
基体表面への生理活性物質の固定化様式は、特に限定するものではなく、共有結合やイオン結合などの化学結合の他、共有結合によらず吸着による固定化も用いることができる。
【0049】
生理活性物質が基体表面にスポット状に固定化される場合、複数種の生理活性物質のスポットを基体表面の同一区画中に存在させることが可能である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、この発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例)
飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物、MFR(Melt flow rate):21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃)をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して固相基板を作成した。2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、n−ブチルメタクリレート(BMA)、N−[2−[2−[2−(t−ブトキシカルボニルアミノオキシアセチルアミノ)エトキシ]エトキシ]エチル]−メタクリルアミド(OA、式[5]で示した化合物)の組成モル比26:66:8の高分子化合物の0.3重量%エタノール溶液にこの固相基板を浸漬、乾燥することにより、基板表面に上記高分子化合物を含む層を導入した。
次に、上記基体を2基底の塩酸に浸漬し、温度37℃で4時間撹拌して保護基であるBoc基を除いた。
続いて、pHが4.0に調整されたPBSバッファーにアガロースを0.2重量%の濃度で溶解し、これに上記基体を浸漬し、温度90℃で12時間静置することにより、アガロースを上記基体に固定化させた。反応後、純水に浸漬することで固定化されなかったアガロースを除いた。
【0051】
(比較例)
飽和環状ポリオレフィン樹脂(5−メチル−2ノルボルネンの開環重合体の水素添加物、MFR(Melt flow rate):21g/10分、水素添加率:実質的に100%、熱変形温度123℃)をスライドガラス形状(寸法:76mm×26mm×1mm)に加工して固相基板を作成した。MPC、BMA、p−ニトロフェニルオキシカルボニル−4.5−エチレングリコールメタクリレート(MEO4.5NP)の組成モル比23:68:9の高分子化合物の0.3重量%エタノール溶液にこの固相基板を浸漬、乾燥することにより、基板表面に上記高分子化合物を含む層を導入した。
【0052】
次に、自動スポッターを用いて、実施例および比較例で得られた基板に単量体赤色蛍光蛋白であるDsRed蛋白を10μmol/Lの濃度でpHが9.5に調整された炭酸バッファーに溶解した溶液をスポットした。スポット後すぐに各スポットについて蛍光量測定を行った。続いて、上記基板を室温で表1に示した時間だけ静置し、それから同様に各スポットについて蛍光量測定を行った。結果を表1に示す。
【0053】
実施例および比較例における蛍光量の測定には、PerkinElmer社製バイオチップスキャナー「ScanArray」を用いた。測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度55%、励起波長558nm、測定波長583nm、解像度10μmであった。
実施例は、時間経過後も蛋白が活性を維持していることを示す蛍光の発色が見られたが、比較例では時間経過に従って蛍光の発色が低下し、最終的にはほとんど見えなくなった。すなわち、本発明のバイオデバイスでは、活性を維持した状態での生理活性物質の固定ができたと言える。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相基体の表面に、ホスホリルコリン基を有するユニット、疎水性基を有するユニット及び一級アミノ基を有するユニットを含む高分子化合物を有し、前記表面に親水性化合物が結合していることを特徴とするバイオデバイス。
【請求項2】
前記一級アミノ基がオキシルアミノ基および/又はヒドラジド基である請求項1記載のバイオデバイス。
【請求項3】
前記高分子化合物の主鎖が(メタ)アクリル骨格である請求項1又は2記載のバイオデバイス。
【請求項4】
高分子化合物が下記一般式[1](式中R、R、Rは水素原子またはメチル基を、Rは疎水性基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、pは1〜20の整数を示す。pが2以上20以下の整数である場合、繰り返されるXは、同一であっても、または異なっていてもよい。Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサーであり、Zは酸素原子またはNHである。l、m、nは自然数である。)で表されるものである請求項1〜3いずれか記載のバイオデバイス。
【化1】

【請求項5】
前記一般式[1]において、Xがエチレンオキシ基である請求項4記載のバイオデバイス。
【請求項6】
前記一般式[1]において、Rがアルキル基である請求項4又は5記載のバイオデバイス。
【請求項7】
前記アルキル基の炭素数が2〜10である請求項6記載のバイオデバイス。
【請求項8】
前記一般式[1]において、Yが下記一般式[2]または[3](式中q、rは1〜20の整数である。)である請求項4〜7いずれか記載のバイオデバイス。
【化2】

【化3】

【請求項9】
前記親水性化合物が多糖類である請求項1〜8いずれか記載のバイオデバイス。
【請求項10】
前記多糖類が、キチン及びキトサン、ペクチン、グアーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ジェランガム、ファーセレラン、カルボキシメチルセルロース、ヘパリン、ヒアルロン酸、プルラン、デキストラン又はその誘導体、カラギーナン、セファロース、及びアガロースから成る群より選ばれる少なくとも1種である、請求項9記載のバイオデバイス。
【請求項11】
前記固相基体の材質がプラスチックである請求項1〜10いずれか記載のバイオデバイス。
【請求項12】
前記プラスチックがポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、飽和環状ポリオレフィン、ポリペンテン、ポリアミド、及びそれらの共重合体よりなる群より選択された少なくとも1種である請求項11記載のバイオデバイス。
【請求項13】
前記固相基体の材質がガラスである請求項1〜10いずれか記載のバイオデバイス。
【請求項14】
デバイスの形状がスライド形状基板、チューブ、ビーズ、96穴ないし384穴プレート、マイクロフルイディクス基板及びそれらの複合体よりなる群より選択された少なくとも1種である請求項1〜13いずれか記載のバイオデバイス。
【請求項15】
請求項1〜14いずれか記載のバイオデバイスの製造方法であって、
(1)ホスホリルコリン基を有するユニット、疎水性基を有するユニット及び一級アミノ基を有するユニットを含む高分子化合物を基体表面に塗布する工程、
(2)上記塗布基体の表面にさらに親水性化合物を化学結合させる工程、
を含むことを特徴とするバイオデバイスの製造方法。
【請求項16】
前記(2)の工程において、親水性化合物を基体表面に塗布する工程を有する請求項15記載のバイオデバイスの製造方法。
【請求項17】
請求項1〜14いずれか記載のバイオデバイスに生理活性物質を固定化させたバイオセンサー。
【請求項18】
生理活性物質がDNA、ペプチド、蛋白質及びそれらの混合物よりなる群より選択された少なくとも1種であるである請求項17記載のバイオセンサー。

【公開番号】特開2008−304427(P2008−304427A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154217(P2007−154217)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】