説明

バイオフィルムに対する免疫学的治療

本発明は、被験体におけるポルフィロモナス・ジンジバリスに対する免疫応答を生じさせる際に使用する組成物であって、免疫応答を生じさせるための有効量の、AAQ65462、AAQ65742、AAQ66991、AAQ65561、AAQ66831、AAQ66797、AAQ66469、AAQ66587、AAQ66654、AAQ66977、AAQ65797、AAQ65867、AAQ65868、AAQ65416、AAQ65449、AAQ66051、AAQ66377、AAQ66444、AAQ66538、AAQ67117及びAAQ67118から成る群から選択されるアクセッション番号に対応するポリペプチドの1つの、少なくとも1つの、少なくとも50個のアミノ酸と実質的に同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は抗原性部分若しくは免疫原性部分を含む、組成物を提供する。本発明は、本発明の組成物を被験体に投与することを含む、ポルフィロモナス・ジンジバリス感染症に関して被験体を防止又は治療する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)を含有する細菌性バイオフィルム等の、細菌性バイオフィルムの形成及び/又は発達を防止又は変更する組成物及び方法に関する。特に本発明は、バイオフィルムの形成及び/又は発達を変調させるための、バイオフィルムとしての又はヘム制限(haem-limitation)下での増殖時に調節されるポリペプチドの使用及び阻害に関する。本発明は、抗細菌ワクチン又は免疫治療薬/免疫予防薬のための基礎として使用され得るポリペプチドの同定に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの細菌性治療が、浮遊状態(planktonic state)にある細菌を対象とする。しかし、細菌性の病態は、バイオフィルム状態にある細菌を含む。例えば、ポルフィロモナス・ジンジバリスは、慢性の歯周病(periodontal disease)の主要な原因となる作用因子であると考えられている。該疾患と関連する組織損傷は、歯の表面上で多微生物性の細菌性バイオフィルムの一部分として増殖するポルフィロモナス・ジンジバリスに対する宿主免疫応答の調節不全により引き起こされる。細菌性バイオフィルムは、自然界にどこにでも存在し、互いに対して及び/又は表面若しくは界面に対して接着性の、マトリクスに囲まれた細菌集団と定義される(1)。成熟バイオフィルムとして表面に接着し該表面上で増殖するこれらの固着性の細菌細胞は、抗菌剤の存在、せん断力及び栄養枯渇を含み得る厳しい環境で生存することができる。
【0003】
疾病対策予防センターは、ヒトの細菌性感染の65%がバイオフィルムを含むと見積もっている。バイオフィルムは、免疫系から細菌を保護することにより、抗生物質の有効性を減少させ、再感染を助け得る離れた部位に浮遊細胞を分散させることで、慢性感染症の治療を複雑にすることが多い(2、3)。歯垢は、種の多様性の高さにより歯の表面上で増殖する異質な多微生物性バイオフィルムが形成される、細菌性バイオフィルムの古典的な例である。歯の表面は、人体では唯一の、硬く、永続的な、脱落しない表面であるので、特有の微生物生息環境である。このことは、上皮細胞の脱落がバイオフィルムの発達を制限する粘膜表面とは対照的に、長期間にわたる実質的な細菌性バイオフィルムの付着を可能にする。したがって、浮遊状態とバイオフィルム状態との間に生じるポルフィロモナス・ジンジバリスのプロテオームに対する変化は、慢性の歯周病の進行についての理解にとって重要である。
【0004】
ポルフィロモナス・ジンジバリスは、動物モデルにおいて浸潤性であると説明されているW50及びW83を含む菌株と、一方で、非浸潤性であると説明されている381及びATCC33277を含む菌株とを有する2つの広い菌株群に分類されている(4、5)。Griffen et al.(6)は、W83/W50様菌株が、381様菌株を含む他のポルフィロモナス・ジンジバリス株よりも、ヒトの歯周病との関連性が高いことを見出したが、その一方でCutler et al.(7)は、ポルフィロモナス・ジンジバリスの浸潤性菌株は非浸潤性菌株よりも貪食に対して抵抗性が高いことを実証した。配列決定したポルフィロモナス・ジンジバリスW83株と、基準株ATCC33277との比較は、33277株では遺伝子の7%が存在しないか、又は高度に異なっていることを示し、菌株間にかなりの差異が存在することを示した(8)。興味深いことに、ポルフィロモナス・ジンジバリスW50株は、容易にバイオフィルムを形成する33277株と比較して、ほとんどの環境下でわずかにしかバイオフィルムを形成しない(9)。この結果として、ポルフィロモナス・ジンジバリスW50によるバイオフィルムの形成について行われた研究の数は比較的少ない。
【0005】
定量的なプロテオーム研究が、ゲル染色強度に基づきタンパク質の比を算出する二次元ゲル電気泳動アプローチを使用して、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌及びストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)等の、浮遊状態からバイオフィルム状態への、ヒトの細菌性病原体のプロテオームの変化を決定するために採用されている(10〜12)。代替手段は、MS定量法と共に、ICAT、iTRAQ又は重水(H18O)等の安定な同位体で標識化する技法を使用することである(13)。H18O標識化の基礎は、タンパク質の加水分解時に、トリプシン等のエンドペプチダーゼが、得られたペプチドのC末端に2個の18O原子を組み込むことが実証されていることである(14、15)。タンパク質の相対存在量の決定における使用(16〜19)に加えて、プロテオミクスにおいて18O標識化は、タンパク質のC末端の同定、グリカンの酵素的除去後のN結合型付加糖鎖の同定、MS/MSのデータ解釈の単純化のためにも、より最近ではリン酸化部位の確認のためにも、使用されている(20〜23)。タンパク質の相対存在量を測定するための16O/18Oタンパク質分解標識化法は、一方の試料をH16O中で、他方の試料をH18O中で、消化することを含む。消化物はその後、LC MS/MSによる分析の前に組み合わされる。LCカラムから溶出するペプチドは、MSモードにおいてペプチドイオン対の相対シグナル強度を測定することにより、定量することができる。トリプシンにより消化されたペプチドのC末端への2個の18O原子の組込みは、同位体の対の同定を可能にする+4m/zの質量シフトをもたらす。
【0006】
プロテオームの複雑性のために、予備分画工程が、ペプチド及びタンパク質の同定数を増大させるために有利である。ほとんどの予備分画工程は、溶液内消化後のペプチドレベルでの二次元LCアプローチを含む(24、25)。しかし、タンパク質溶液の初期脱水工程時に試料が減少する可能性があるため、タンパク質レベルでのSDS PAGE予備分画と、その後のゲル内消化時の16O/18O標識化とがうまく実施されている(26〜29)。16O/18Oタンパク質分解標識化は高度に特異的且つ多用途の方法論であるが、大規模な確認研究の実施数は少ない(30)。優れた確認研究がQian et al(18)により実施されたが、彼らは、2つの同様の一定分量の血清タンパク質を1:1の比で標識化し、891種類のペプチドから1.02±0.23の平均比を得た。Lane et al(26)によるより最近の研究は、逆標識化戦略を使用して、ヒト腫瘍を移植した、対照マウスとチトクロムP450誘導因子で処理したマウスとの間における17種類のチトクロムP450タンパク質の相対存在量を決定し、16O/18O法の実行可能性をさらに実証した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポルフィロモナス・ジンジバリスW50が連続培養で増殖し、長期間にわたりケモスタット容器中の垂直の表面上で成熟バイオフィルムが発達するサンプル系の参照により例示される。最終的なバイオフィルムは、疾患進行の条件下で見られるバイオフィルムと類似しており、したがってバイオフィルムと浮遊細胞との間の直接的な比較を可能にする。逆標識化戦略を使用する16O/18Oタンパク質分解標識化を、ポルフィロモナス・ジンジバリス細胞外被画分のSDS−PAGEでの予備分画と、その後の、同定及び定量のためのオフラインLC MALDI TOF−MS/MSとの結合の後に実施した。同定した116種類のタンパク質のうち、81種類は2つの独立の連続培養研究において一貫して見出された。様々な機能を有する47種類のタンパク質のバイオフィルム細胞中の存在量が一貫して増大又は減少することが見出され、バイオフィルム制御戦略のための潜在的な標的をもたらした。これらの47種類のタンパク質のうち、本発明者らは、ポルフィロモナス・ジンジバリス感染症の治療及び/又は防止における標的として特に有用と考える24種類のタンパク質を選択した。
【0008】
したがって本発明は、第1の態様において、バイオフィルム形成を変調させるポリペプチドを対象とする。一形態では、バイオフィルム中の微生物は細菌である。一形態では、細菌はポルフィロモナス属由来である。一実施形態では、細菌はポルフィロモナス・ジンジバリスであり、ポリペプチドは表4に列挙したアクセッション番号に対応する配列から成る群から選択されるアミノ酸配列を有する。本発明は、これらと少なくとも80%の同一性を有する、好ましくはこれらと85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列に及ぶ。
【0009】
本発明は、また、アクセッション番号AAQ65742(0.1版)に対応するポリペプチドと、これらと少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するポリペプチドとを含む。
【0010】
好ましくはポリペプチドは、表4に列挙したアクセッション番号に対応する配列のいずれか1つのアミノ酸配列と、少なくとも96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有する。
【0011】
本発明の一態様は、被験体におけるポルフィロモナス・ジンジバリスを対象とする免疫応答を生じさせる際に使用する組成物であって、有効量の、少なくとも1つの本発明の第1の態様のポリペプチド、又はその抗原性部分若しくはその免疫原性部分を含む、組成物である。組成物は、アジュバント剤と、薬学的に許容される担体とを任意に含み得る。したがって、組成物は、全長ポリペプチドの代わりにこのようなポリペプチドの抗原性部分を含有し得る。典型的には該部分は、表4に列挙した配列に対応するポリペプチドの少なくとも10個、より通常には20個又は50個のアミノ酸と実質的に同一であり、且つ免疫学的応答を生じる。好ましい一形態では、組成物はワクチンである。
【0012】
本発明はまた、被験体におけるポルフィロモナス・ジンジバリスに対する免疫応答を生じさせる組成物であって、免疫応答を生じさせるための有効量の、AAQ65462、AAQ65742、AAQ66991、AAQ65561、AAQ66831、AAQ66797、AAQ66469、AAQ66587、AAQ66654、AAQ66977、AAQ65797、AAQ65867、AAQ65868、AAQ65416、AAQ65449、AAQ66051、AAQ66377、AAQ66444、AAQ66538、AAQ67117及びAAQ67118から成る群から選択されるアクセッション番号に対応するポリペプチドの、少なくとも1つの抗原性部分又は免疫原性部分を含む、組成物を提供する。
【0013】
別の実施形態では、被験体におけるポルフィロモナス・ジンジバリスを対象とする免疫応答を生じさせる際に使用する組成物であって、有効量の、AAQ65462、AAQ66991、AAQ65561及びAAQ66831から成る群から選択されるアクセッション番号に対応する少なくとも1つのポリペプチドを含む、組成物が提供される。
【0014】
別の実施形態では、被験体におけるポルフィロモナス・ジンジバリスを対象とする免疫応答を生じさせる際に使用する組成物であって、有効量の、アクセッション番号AAQ65742に対応するポリペプチドを含む、組成物が提供される。
【0015】
別の実施形態では、被験体におけるポルフィロモナス・ジンジバリスに対する免疫応答を生じさせる際に使用する組成物であって、免疫応答を生じさせるための有効量の、ポルフィロモナス・ジンジバリスにより発現され、且つCELLOプログラムにより細胞外にあることが予測されるポリペプチドの少なくとも50個のアミノ酸と実質的に同一であるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのポリペプチドを含む組成物が提供される。
【0016】
別の実施形態では、被験体におけるポルフィロモナス・ジンジバリスに対する免疫応答を生じさせる際に使用する組成物であって、免疫応答を生じさせるための有効量の、マウス又はウサギにおいて免疫応答を引き起こすポリペプチドの少なくとも50個のアミノ酸と実質的に同一である選択されたアミノ酸配列を有する少なくとも1つのポリペプチドを含む組成物が提供される。
【0017】
一実施形態では、表4に列挙したアクセッション番号に対応する配列の1つの連続アミノ酸配列と実質的に同一な、少なくとも50個、60個、70個、80個、90個又は100個のアミノ酸を含むアミノ酸配列を含む、単離抗原性ポリペプチドが提供される。該ポリペプチドは、精製され得るか、又は組換え体であり得る。
【0018】
別の実施形態では、有効量の少なくとも1つの本発明の第1の態様のポリペプチドを活性成分として含む、歯周病の治療のための組成物が提供される。
【0019】
別の実施形態では、有効量の少なくとも1つの本発明の第1の態様のポリペプチドを活性成分として含む、ポルフィロモナス・ジンジバリス感染症の治療のための組成物が提供される。
【0020】
本発明の別の態様は、上述の本発明による組成物を被験体に投与することを含む、被験体を歯周病に関して防止又は治療する方法である。
【0021】
本発明の別の態様は、上述の本発明による組成物を被験体に投与することを含む、被験体をポルフィロモナス・ジンジバリス感染症に関して防止又は治療する方法である。
【0022】
本発明の別の態様では、ポルフィロモナス・ジンジバリス感染症の治療のための薬物の製造における本発明のポリペプチドの使用が提供される。
【0023】
本発明の別の態様では、歯周病の治療のための薬物の製造における本発明のポリペプチドの使用が提供される。
【0024】
本発明は、本発明の第1の態様のポリペプチドに対して産生される抗体にも及ぶ。好ましくは該抗体は、表4に列挙したアクセッション番号に対応するポリペプチドの1つを特異的に対象とする。該抗体は、上述の免疫応答を生じさせるための組成物を使用して産生され得る。
【0025】
一実施形態では、ポリペプチドに対して産生される抗体であって、該ポリペプチドがAAQ65462、AAQ66991、AAQ65561及びAAQ66831から成る群から選択されるアクセッション番号に対応する、抗体が提供される。
【0026】
一実施形態では、ポリペプチドに対して産生される抗体であって、該ポリペプチドがアクセッション番号AAQ65742に対応する、抗体が提供される。
【0027】
本発明の別の態様は、歯周病の防止又は治療に有用な組成物であって、本発明の第1の態様のポルフィロモナス・ジンジバリスのポリペプチドのアンタゴニスト又はアンタゴニストの組合せと、薬学的に許容される担体とを含み、該アンタゴニスト(複数可)はポルフィロモナス・ジンジバリスの感染を抑制する、組成物である。アンタゴニスト(複数可)は、抗体であり得る。本発明は、歯周病を防止又は治療するために有用な薬物の製造におけるアンタゴニスト又はアンタゴニストの組合せの使用も含む。
【0028】
本発明のさらなる一態様では、各鎖中に少なくとも19塩基対の二本鎖領域を含む干渉RNA分子であって、二本鎖領域の鎖の一方が上述のようにバイオフィルム形成を変調させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの領域と実質的に相補的である、干渉RNA分子が提供される。一実施形態では、鎖の一方が、表4に列挙した配列のポリペプチド転写産物をコードするポリヌクレオチドの領域と相補的である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】特定のBSA比の16O/18O定量を示す図である。既知量のBSAの定量を、バイオフィルム試料及び浮遊試料に関して、実験手順において報告したのと同じ方法で実施し、方法論をバリデーションした。簡潔には、所定量のBSAをNuPAGEゲルの隣接レーンにロードし、その後、等サイズのバンドの切り出しと、通常の又は逆のタンパク質分解標識化と、ナノHPLCと、MALDI TOF−MS/MSとを行った。(A)16O及び18Oで標識化したペプチドに関する特徴的なダブレット同位体エンベロープを示す、既知の16O:18O標識化比(1:1(i)、2:1(ii)、1:5(iii)及び10:1(iv))でのBSAトリプシンペプチドRHPEYAVSVLLRのMSスペクトル(S0、S2及びS4は、同位体ピークの測定強度である)。(B)定量手順のために使用した既知のBSA比のSDS PAGEゲル。
【図2】ポルフィロモナス・ジンジバリス試料から得た、典型的な、順方向及び逆方向のMS及びMS/MSスペクトルを示す図である。(i、ii)通常の及び逆の標識化を行ったPG2082に属するペプチドGNLQALVGRの[M+H]親前駆体イオンを示し、且つ1:1比で典型的な4Daの質量差を示す、マススペクトルの拡大部分。(iii、iv)通常の及び逆の標識化を行ったPG0232に属するペプチドYNANNVDLNRの[M+H]親前駆体イオンを示し、且つ2:1比で典型的な4Daの質量差を示す、マススペクトル。(v、vi)全Yイオンの4Daシフトを特徴とする、重標識化(+2 18O)YNANNVDLNRペプチド及び非標識化YNANNVDLNRペプチドのMS/MSスペクトル。
【図3】通常の/逆の標識化を行った技術的反復測定結果の相関を示す図である。両方の生物学的反復測定結果について、通常の(バイオ18、浮遊16)及び逆の(浮遊18、バイオ16)標識化のペプチド存在量の比の、底を10として対数変換した散布図比較。逆標識化ペプチドの存在量比は、直接の比較に関しては逆数をとった。(A)生物学的反復測定結果1。(B)生物学的反復測定結果2。
【図4】生物学的反復測定結果のタンパク質存在量の分布及び相関を示す図である。(A)両方の生物学的反復測定において同定した81種類の定量化可能なタンパク質に関する正規化した平均フォールド変化は、ガウス様分布を示した。各タンパク質の存在量比を、0に対してさらに正規化し(R−1)、1より小さい比は逆数をとり(1−(1/R))として算出した(18)。各生物学的反復測定から得られた81種類の定量化可能なタンパク質の全てを、比(バイオフィルム/浮遊)の増大により選別し、等数のタンパク質を有する6つの群(A−F)に等しく分割した。C群及びD群は、有意に調節されない(1.0から3SD未満)タンパク質を表す。(B)順位付けに基づくタンパク質の分布。挿入表:両方の生物学的反復測定結果の間の類似性の決定のための順位付け表。タンパク質を、両方の生物学的反復測定結果が同じ群内に入る場合には1が最も高い類似性を有するものとして、また6が最も低い類似性を有するものとして、降順に順位付けした。
【図5】一方又は両方の生物学的反復測定結果での同定に基づき本研究で同定した116種類のタンパク質の分解(breakdown)と、同定した特有のペプチドの数とを示す図である。両方の生物学的反復測定から同定したタンパク質(81種類)を、表2に示す。説明書きは、タンパク質1種類当たりの同定した特有のペプチドの数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施形態の詳細な説明
本発明は、歯周病の予防的治療を含む、被験体を治療する方法を提供する。歯周病は、単一の歯肉の炎症から、歯を支持する軟組織及び骨に大きな損傷を引き起こす重度の疾患までに及ぶ。歯周病は、歯肉炎(gingivitis)及び歯周炎(periodontitis)を含む。歯肉の周縁における口腔細菌の蓄積は、「歯肉炎」と呼ばれる歯肉の炎症を引き起こす。歯肉炎では、歯肉が赤くなり、膨潤し、容易に出血することがある。歯肉炎を治療しないと、「歯周炎」(「歯の周囲の炎症」を意味する)に進行することがある。歯周炎では、歯肉が歯から離れ、感染の対象となる「ポケット」を形成する。歯周炎は、病因となる主要な作用因子とみなされるポルフィロモナス・ジンジバリスによる特定の細菌性病因を有する。歯垢が歯肉線の下に広がり成長するにつれて、身体の免疫系は細菌と戦う。治療しないと、歯を支持する骨、歯肉及び結合組織が破壊される。歯は最終的に緩くなり、抜かなければならない場合がある。
【0031】
プロテオーム戦略を使用して、本発明者らは、116種類のポルフィロモナス・ジンジバリス細胞外被タンパク質の、バイオフィルム状態と浮遊状態との間の存在量の変化を同定及び定量し、大部分のタンパク質が複数のペプチドヒットにより同定された。本発明者らは、RgpA、HagA、CPG70及びPG99を含む、細胞表面に位置するC末端ドメインファミリータンパク質の大群の発現の増強を実証した。存在量の有意な変化を示す他のタンパク質は、輸送関連タンパク質(HmuY及びIhtB)と、代謝酵素(FrdA及びFrdB)と、免疫原性タンパク質と、今のところ機能が未知の多数のタンパク質とを含んでいた。
【0032】
当業者には十分に理解されるように、バイオフィルム状態と浮遊状態との間における存在量の変化を有するものとして同定されたポリペプチドのアミノ酸配列に対して変更が行われ得る。これらの変更は、アミノ酸残基の欠失、挿入又は置換であり得る。変更されたポリペプチドは、天然(すなわち、天然の供給源から精製若しくは単離した)又は合成(例えば、コードするDNAに対する部位特異的な突然変異誘発による)のいずれかであり得る。配列表に記載した配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するこのような変更されたポリペプチドは、本発明の範囲内であることが意図される。これらの変更されたポリペプチドに対して産生される抗体も、表4に列挙したアクセッション番号が関連する配列の1つを有するポリペプチドと結合する。
【0033】
保存的置換の概念は当業者により十分に理解されるが、明確化のために、保存的置換は以下のように記述される:
Gly、Ala、Val、Ile、Leu、Met;
Asp、Glu、Ser;
Asn、Gln;
Ser、Thr;
Lys、Arg、His;
Phe、Tyr、Trp、His;及び
Pro、Nα−アルキル(alkal)アミノ酸。
【0034】
本発明の実施は、他に特に指示がなければ、当業者に既知の化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学の従来の技法を使用する。このような技法は、J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984) 、J. Sambrook et Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989) 、T. A. Brown (editor), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991)、D. M. Glover and B. D. Hames (editors), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996) 及びF. M. Ausubel et al. (Editors), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までの全ての更新情報を含む) のような出典の文献全体に記載及び説明されている。これらのテキストの開示は、参照により本明細書中で援用される。
【0035】
「単離ポリペプチド」とは、本明細書中で使用する場合、それが天然に生じるか、又はそれを使用してポリペプチド若しくはペプチドが合成的に合成され得る他のタンパク質、脂質及び核酸から分離されたポリペプチドを表す。好ましくはポリペプチドは、それを精製するために使用される物質(例えば抗体又はゲルマトリックス(例えばポリアクリルアミド))からも分離される。好ましくはポリペプチドは、精製した調製物の乾燥重量の少なくとも10%、20%、50%、70%及び80%を構成する。好ましくは調製物は、タンパク質シーケンシングを可能にするのに十分な量(即ち、少なくとも1mg、10mg又は100mg)のポリペプチドを含有する。
【0036】
本明細書中に記載される単離ポリペプチドは、標準技法、例えばカラムクロマトグラフィ(タンパク質生成物と相互作用する様々なマトリクス、例えばイオン交換マトリクス、疎水性マトリクス等を使用する)、アフィニティークロマトグラフィ(タンパク質又はタンパク質と結合する他のリガンドに特異的な抗体を利用する)により精製され得る。
【0037】
「ペプチド、タンパク質及びポリペプチド」という用語は、本明細書では交換可能な用語として使用される。本発明のポリペプチドは、融合ポリペプチドを含む組換えポリペプチドを含み得る。融合ポリペプチドを作製する方法は、当業者に既知である。
【0038】
本明細書中で用られる「抗原性ポリペプチド」は、検出可能な抗原−抗体複合体を形成するのに十分に高い親和性を有する特定の抗体と結合することが可能な部分(ポリペプチド、その類似体又はその断片等)である。好ましくは抗原性ポリペプチドは、宿主動物中で液性及び/又は細胞性の免疫応答を誘発することが可能な免疫原性成分を含む。
【0039】
ポリペプチド配列を比較する際、「実質的に同一」は、その長さにわたって95%以上の同一性を有するか、又は任意の10個の連続アミノ酸にわたって同一であることを意味する。
【0040】
「連続アミノ酸配列」は、本明細書中で使用する場合、アミノ酸の連続するストレッチを表す。
【0041】
「組換えポリペプチド」は、組換えDNA技術の使用を含むプロセスにより産生されるポリペプチドである。
【0042】
歯周病「を防止する」への言及は、疾患状態の発達を阻害することを意味するが、必ずしも疾患の永続的及び完全な防止を意味しない。
【0043】
2つのアミノ酸配列が特定の百分率限界内に入るか否かを決定する際には、当業者は、配列を並べて比較すること、又は配列の多重アラインメントを実行することが必要であることに気づくだろう。このような比較又はアラインメントでは、アラインメントを実施するために使用するアルゴリズムによって、非同一残基の位置決めにおいて差異が生じる。本発明との関連では、2つ以上のアミノ酸配列間の同一性又は類似性の百分率への言及は、当業者に既知の任意の標準アルゴリズムを使用して決定されるような上記配列間のそれぞれ同一及び類似の残基の数を表すと解釈される。例えばアミノ酸配列の同一性又は類似性は、GAPプログラムを使用して算出することができ、及び/又はComputer Genetics Group, Inc., University Research Park, Madison, Wisconsin, United States of America (Devereaux et al., 1984)のPILEUPプログラムを使用して整列させることができる。GAPプログラムは、Needleman and Wunsch(1970)のアルゴリズムを利用して同一/類似の残基の数を最大化し、アラインメント中の配列ギャップの数及び長さを最小化する。代替的に又は付加的に、2つより多いアミノ酸配列が比較される場合、Thompson et al, (1994)のClustal Wプログラムが使用される。
【0044】
本発明は、被験体においてポルフィロモナス・ジンジバリスを対象とする免疫応答を生じさせる際に使用するワクチン組成物であって、免疫原として有効量の少なくとも1つの本発明の第1の態様のポリペプチドと、薬学的に許容される担体とを含む、組成物も提供する。
【0045】
本発明のワクチン組成物は、好ましくは、ポルフィロモナス・ジンジバリスに対する防御応答をもたらすために使用することができる少なくとも1つの抗原を含む抗原性ポリペプチドを含む。本発明の方法により治療される被験体は、ヒト、ヒツジ、畜牛(cattle)、ウマ、ウシ(bovine)、ブタ、家禽、イヌ及びネコから成る群から選択され得るが、これらに限定されない。好ましくは、被験体はヒトである。ポルフィロモナス・ジンジバリスを対象とする免疫応答は、この応答が完全に防御的であるか否かに関わらず、特定の抗原性ポリペプチドに対する細胞性及び/又は抗体媒介性応答の宿主において展開する場合、被験体において達成される。
【0046】
ワクチン組成物は、好ましくは、ポルフィロモナス・ジンジバリスに対する免疫を誘導し、それにより歯周病を防止、抑制又はこの重症度を軽減するために被験体に投与される。ワクチン組成物は、歯周病が少なくとも部分的にポルフィロモナス・ジンジバリスにより引き起こされる場合、この歯周病を治療するために被験体に投与することもできる。「有効量」という用語は、本明細書中で使用する場合、ポルフィロモナス・ジンジバリスに対する免疫応答を誘発するのに十分な用量を意味する。これは、被験体とポルフィロモナス・ジンジバリス感染症のレベルとによって変わり、最終的には担当する科学者、医者又は獣医により決定される。
【0047】
本発明の組成物は、適切な薬学的に許容される担体(ヒト又は動物被験体に投与するのに適した希釈剤及び/又はアジュバント剤等)を含む。免疫応答を生じさせる組成物は、好ましくは、ポルフィロモナス・ジンジバリスに対する特定の免疫応答をもたらすために、鼻噴霧により、又は注射により、経口的に送達するための適切なアジュバント剤を含む。本発明の組成物は、本発明の抗原性ポリペプチドをコードする組換え核酸配列にも基づくことがあり、該核酸配列は、適切なベクター中に組み込まれて、ベクターを含有する適切な形質転換宿主(例えば大腸菌、枯草菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、COS細胞、CHO細胞及びHeLa細胞)中で発現する。組成物は、本明細書中に示されるような組換えDNA法を使用して製造することができるか、又は本発明で説明されるアミノ酸配列から化学的に合成することができる。付加的には、本発明によれば、抗原性ポリペプチドは、ポルフィロモナス・ジンジバリスにより引き起こされる歯周病及び感染症に対する受動免疫化のために有用なポルフィロモナス・ジンジバリス抗血清を産生するために使用され得る。
【0048】
当業者に既知の様々なアジュバント剤は一般的に、ワクチン処方物、及び免疫応答を生じさせる処方物と共に使用される。アジュバント剤は、免疫応答を変調させることにより、ワクチン抗原が単独で投与された場合より少量のワクチン抗原又はより少ない用量を使用してより長期間且つより高レベルの免疫を獲得するに際して、助けとなる。アジュバント剤の例としては、不完全フロイントアジュバント(IFA)、アジュバント65(ピーナツ油、モノオレイン酸マンニド及びモノステアリン酸アルミニウムを含有する)、オイルエマルジョン、Ribiアジュバント、プルロニック・ポリオール、ポリアミン、Avridine、Quil A、サポニン、MPL、QS−21及びミネラルゲル、例えばアルミニウム塩が挙げられる。他の例としては、水中油エマルジョン、例えばSAF−1、SAF−0、MF59、SeppicのISA720、並びに他の粒状アジュバント剤、例えばISCOM及びISCOMマトリクスが挙げられる。アジュバント剤の他の例の広範なしかし包括的な一覧は、Cox and Coulter 1992 [Wong WK (ed.) Animals parasite control utilising technology. Bocca Raton; CRC press et al., 1992; 49-112]に列挙されている。アジュバント剤に加えて、ワクチンは、必要に応じて、従来の薬学的に許容される担体、賦形剤、充填剤、緩衝剤又は希釈剤を含み得る。アジュバント剤を含有する1回又は複数回用量の組成物が、歯周病を防止するために予防的に、又は既に存在する歯周病を治療するために治療的に投与され得る。
【0049】
別の好ましい組成物において、調製物は、粘膜アジュバント剤と組み合わされ、経口的に又は経鼻的に投与される。粘膜アジュバント剤の例は、コレラ毒素及び非耐熱性大腸菌毒素、これらの毒素の非毒性Bサブユニット、毒性が低減されたこれらの毒素の遺伝子突然変異体である。抗原性ポリペプチドを経口的又は経鼻的に送達するために利用され得る他の方法としては、消化管又は鼻腔からのマイクロスフェアの取り込みを助けるための、且つタンパク質の分解を防ぐための、マイクロカプセル封入による生分解性ポリマー(例えばアクリレート又はポリエステル)の粒子中へのポリペプチドの組込みが挙げられる。リポソーム、ISCOM、ハイドロゲルは、粘膜免疫系への抗原性ポリペプチドの送達のためのLTB、CTB又はレクチン(マンナン、キチン及びキトサン)等の標的分子の組込みによりさらに増強され得る他の考え得る方法の例である。組成物及び粘膜アジュバント剤又は送達系に加えて、組成物は、従来の薬学的に許容される担体、賦形剤、充填剤、コーティング剤、分散媒、抗細菌剤及び抗真菌剤、緩衝剤又は希釈剤を必要に応じて含み得る。
【0050】
この実施形態の別の方式は、ポルフィロモナス・ジンジバリスにより引き起こされる感染に対して防御するために使用される生組換えウイルスワクチン、組換え細菌ワクチン、組換え弱毒化細菌ワクチン又は不活性化組換えウイルスワクチンのいずれかを提供する。ワクシニアウイルスは、他の生物由来のワクチン抗原を発現するよう工学処理される感染性ウイルスの当該技術分野における最も良く知られた例である。それ自体が疾患を引き起こさないように弱毒化されるか又はそうでなければ処理される組換え生ワクシニアウイルスは、宿主を免疫するために使用される。宿主内の組換えウイルスのその後の複製は、抗原性ポリペプチドのようなワクチン抗原による免疫系の連続的刺激をもたらし、それにより長期継続性免疫をもたらす。この関連で及び以下において、「ワクチン」は、防御応答を生じさせる組成物に限定されず、任意の免疫応答を生じさせる組成物を含む。
【0051】
他の生ワクチンベクターとしては、アデノウイルス、サイトメガロウイルス、及び好ましくはポックスウイルス、例えばワクシニア(Paoletti and Panicali、米国特許第4,603,112号明細書)、並びに弱毒化サルモネラ菌株(Stocker at al.、米国特許第5,210,035号明細書、同第4,837,151号明細書、及び同第4,735,801号明細書、並びにCurtis et al., 1988、Vaccine 6: 155-160)が挙げられる。生ワクチンは、免疫系を連続的に刺激し、実質的に長期継続性の免疫をもたらし得るため、特に有利である。免疫応答がその後のポルフィロモナス・ジンジバリス感染に対して防御的である場合、生ワクチンそれ自体はポルフィロモナス・ジンジバリスに対する防御ワクチンで使用され得る。特に、生ワクチンは、口腔の共生棲息生物である細菌を基礎にし得る。この細菌は、組換え不活性化ポリペプチドを保有するベクターで形質転換され、次に、口腔、特に口腔粘膜にコロニー形成するために使用され得る。一旦口腔粘膜にコロニーが形成されると、組換えタンパク質の発現は、粘膜関連リンパ系組織を刺激して、中和抗体を産生する。例えば分子生物学技法を使用して、ポリペプチドをコードする遺伝子は、エピトープの発現を可能にするがワクシニアウイルスベクターの増殖又は複製に負の影響を及ぼさない部位で、ワクシニアウイルスゲノムDNA中に挿入され得る。その結果生じる組換えウイルスは、ワクチン処方物中の免疫原として使用され得る。同じ方法を使用して不活化組換えウイルスワクチン処方物を構築することができるが、ただし組換えウイルスは、免疫原として使用する前に、及び発現する免疫原の免疫原性に実質的に影響を及ぼすことなく、例えば当該技術分野で既知の化学的手段により、不活性化される。
【0052】
能動免疫化に代わり得るものとして、免疫化は受動的、すなわち本発明のポリペプチドに対する抗体を含有する精製免疫グロブリンの投与を含む免疫化であり得る。
【0053】
本発明の方法及び組成物に使用される抗原性ポリペプチドは、適切な賦形剤、例えば乳化剤、界面活性剤、安定剤、色素、浸透増強剤、酸化防止剤、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム及びケイ酸と組み合され得る。抗原性ポリペプチドは、好ましくは滅菌水溶液として処方される。本発明のワクチン組成物は、歯周病に関する現行の治療を補完するために使用され得る。
【0054】
本発明は、歯周病に関して被験体を防止又は治療する方法であって、本発明によるワクチン組成物を被験体に投与することを含む方法も提供する。本発明の第1の態様のポリペプチドに対して産生される抗体も提供される。好ましくは抗体は、本発明のポリペプチドを特異的に対象とする。
【0055】
本明細書中では、「抗体」という用語は最も広い意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、キメラ抗体、ダイアボディ(diabodies)、トリアボディ(triabodies)及び抗体断片を包含する。本発明の抗体は、好ましくは、他のポリペプチドの抗原と交差反応することなく、本明細書中で上記したような抗原性ポリペプチドと特異的に結合することができる。
【0056】
「〜と特異的に結合する」という用語は、本明細書中で使用する場合、例えばBIAcore(商標)表面プラズモン共鳴システム及びBIAcore(商標)動的評価ソフトウェア(例えば2.1版)を使用して表面プラズモン共鳴分析により測定した場合に1μM以下の解離定数(Kd)を有する抗体の免疫グロブリン可変領域による抗原の結合を表すことが意図される。特異的結合相互作用に関する親和性又は解離定数(Kd)は、好ましくは約500nM〜約50pM、より好ましくは約500nM以下、より好ましくは約300nM以下、また好ましくは少なくとも約300nM〜約50pM、約200nM〜約50pM、より好ましくは少なくとも約100nM〜約50pM、約75nM〜約50pM、約10nM〜約50pMである。
【0057】
抗体の抗原結合機能が全長抗体の断片により行われ得ることが、示されている。抗体の結合断片の例としては、(i)Fab断片:VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン及びCH1ドメインから成る一価断片;(ii)F(ab’)2断片:ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結される2つのFab断片を含む二価断片;(iii)VHドメイン及びCH1ドメインから成るFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインから成るFv断片;(v)VHドメイン又はVLドメインから成るdAb断片;並びに(vi)単離相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVL及びVHは別々の遺伝子によりコードされるが、それらは、VL領域及びVH領域が対合して一価分子(一本鎖Fv(scFv)として既知である)を形成する単一タンパク質鎖としてそれらが作製されることを可能にする合成リンカーにより、組換え法を使用して接合され得る。他の形態の一本鎖抗体、例えばダイアボディ又はトリアボディも包含される。ダイアボディは、VHドメイン及びVLドメインが単一ポリペプチド鎖上で、しかし同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用して発現し、それにより該ドメインを別の鎖の相補的ドメインと対合させて、2つの抗原結合部位を作り出す二価二重特異性抗体である。
【0058】
当該技術分野で既知の様々な手法も、本発明の抗原性ポリペプチドと結合することができるモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体、並びに様々な組換え体及び合成抗体の産生のために使用され得る。加えて、宿主種に応じて免疫学的応答を増大するために使用することができる様々なアジュバント剤は当業者に既知であり、例としては、フロイント(完全及び不完全)、ミネラルゲル、例えば水酸化アルミニウム、表面活性物質、例えばリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、ジニトロフェノール、並びに有用な可能性があるヒトアジュバント剤、例えばカルメット・ゲラン桿菌(BCG)及びコリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvum)が挙げられるが、これらに限定されない。抗体及び抗体断片は、標準技法(例えば発酵器を使用して組織培養物又は無血清中で)により大量に産生され、アフィニティーカラム、例えばプロテインA(例えばマウスMabに関して)、プロテインG(例えばラットMabに関して)又はMEP HYPERCEL(例えばIgM及びIgG Mabに関して)を使用して精製され得る。
【0059】
組換えヒト又はヒト化版のモノクローナル抗体は、ヒトの治療用途のための好ましい一実施形態である。ヒト化抗体は、文献(例えば、Jones et al. 1986, Nature 321: 522-25;Reichman et al. 1988 Nature 332: 323-27;et al.1988, Science 1534-36)中の手順に従って調製され得る。ヒト化モノクローナル抗体の産生のための近年記載された「遺伝子変換突然変異誘発」戦略も、ヒト化抗体の産生に使用され得る(Carter et al. 1992 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89: 4285-89)。代替的に、重鎖領域及び軽鎖領域の無作為の組合せの組換え相ライブラリを生成するための技法を用いて、組換え抗体を調製してもよい(例えば、Huse et al. 1989 Science 246: 1275-81)。
【0060】
本明細書中で使用する場合、「アンタゴニスト」という用語は、対象のポリペプチドの生物学的活性を阻害する核酸、ペプチド、抗体、リガンド又は他の化学的実体を表す。特定のタンパク質の適切なアンタゴニストを試験及び選択する技法は当業者に既知であり、このような技法は結合アッセイを含み得る。
【0061】
本発明の抗体及びアンタゴニストは多数の用途を有し、例えば、それらは、歯垢の抑制と齲歯及び歯周病に関連する病原体の抑制とのための口腔ケア製品(練り歯磨き及び洗口液)における抗菌保存料として使用することができる。本発明の抗体及びアンタゴニストは、薬学的調製物(例えば、局所用及び全身用抗感染薬)にも使用され得る。
【0062】
本発明は、本発明の第1の態様のポリペプチドをコードするmRNA分子に対して標的とされる干渉RNA分子も提供する。したがって本発明の第7の態様では、各鎖中に少なくとも19塩基対の二本鎖領域を含む干渉RNA分子であって、二本鎖領域の鎖の一方が本発明の第1の態様のポリペプチドをコードするmRNA分子の領域と相補的である、干渉RNA分子が提供される。
【0063】
いわゆるRNA干渉又はRNAiは既知であり、RNAiに関するさらなる情報は、Hannon (2002) Nature 418: 244-251及びMcManus & Sharp (2002) Nature Reviews: Genetics 3(10): 737-747(これらの開示は参照により本明細書中で援用される)に提供されている。
【0064】
本発明は、siRNAの安定性を増強し、in vivoでのsiRNAの使用を支持するsiRNAの化学的修飾(複数可)も意図する(例えばShen et al. (2006)Gene Therapy 13: 225-234を参照されたい)。これらの修飾は、センス鎖オリゴヌクレオチドの5’末端及び3’末端での逆方向脱塩基部分と、アンチセンス鎖の3’末端での最後の2つのヌクレオチド間の単一ホスホルチオエート(phosphorthioate)結合を含み得る。
【0065】
干渉RNAの二本鎖領域は、二本鎖領域の各鎖中に少なくとも20塩基対、好ましくは少なくとも25塩基対、最も好ましくは少なくとも30塩基対を含むことが好ましい。本発明は、歯周病に関する被験体を治療する方法であって、本発明の干渉RNA分子のうち少なくとも1つを被験体に投与することを含む方法も提供する。
【0066】
本発明の組成物は、トローチ剤中に、又はチューインガム若しくは他の製品中に、例えば、加温したガム基剤中に撹拌すること、又はガム基剤の外表面にコーティングすることにより、組み込むこともでき、ここでこれらの基剤は例示的に、従来の可塑剤又は軟化剤、砂糖又は他の甘味料、すなわち、例えばグルコース、ソルビトール等を有することが望ましい、ジェルトン、ゴムラテックス、ビニライト樹脂等である。
【0067】
さらなる一態様では、本発明は、(a)ポリペプチド阻害剤の組成物と、(b)薬学的に許容される担体とを含む、部分のキットを提供する。望ましくは該キットは、このような治療を必要としている患者においてバイオフィルム形成を阻害するためのその使用のための取扱説明書をさらに含む。
【0068】
経口使用を意図する組成物は、薬学的組成物の製造のための当該技術分野で既知の任意の方法に従い調製することができ、このような組成物は、薬学的に洗練され且つ風味の良い調製物を提供するために、甘味料、香料、着色料及び保存料から成る群から選択される1つ又は複数の作用物質を含有し得る。錠剤は、錠剤の製造に適した毒性を有しない薬学的に許容される賦形剤を有する混合物中に、活性成分を含有する。これらの賦形剤は、例えば、不活性希釈剤(炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウム等)、造粒剤及び崩壊剤(例えば、コーンスターチ又はアルギン酸)、結合剤(例えば、デンプン、ゼラチン又はアカシア)並びに滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルク)であり得る。錠剤はコーティングされていなくてもよく、又は胃腸管における崩壊及び吸収を遅延させ、それにより長期間にわたり持続的な作用をもたらすために既知の技法によりコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリル等の時間遅延材料が、用いられ得る。
【0069】
経口使用のための処方物は、不活性な固体希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム若しくはカオリン)と共に活性成分が混合されるハードゼラチンカプセルとして、又は水若しくは油媒体(例えばピーナッツ油、液体パラフィン若しくはオリーブ油)と共に活性成分が混合されるソフトゼラチンカプセルとして、提供することもできる。
【0070】
本明細書を通じて、「含む(comprise)」という単語、又は「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」等の変化形は、上述の要素、整数若しくは工程、又は要素、整数若しくは工程の群を含むが、任意の他の要素、整数若しくは工程、又は要素、整数若しくは工程の群を排除しないことを示唆すると理解される。
【0071】
本明細書で言及される全ての刊行物が、参照により本明細書に援用される。本明細書に含まれている文書、法令、材料、装置、論文等のいかなる議論も、単に本発明との関連を提示することのみを目的とする。これらの事項のいずれか又は全てが、従来技術の基礎の一部を形成する、又は本出願の各請求項の優先日前にオーストラリア若しくは他の場所に存在する本発明と関連する技術分野における共通の一般的な知識であったと認めるものと解釈すべきではない。
【0072】
特定の実施形態に示した発明に対して、広く説明される本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、多数の変形形態及び/又は修正形態が作られ得ることが当業者により理解される。本発明の実施形態は、したがって、全ての観点において、例示的なものであって限定的なものではないと考えられるべきである。本発明は、具体的には、本明細書に記載した特徴の全ての組合せを含む。
【0073】
本発明の性質をより明らかに理解することができるように、ここで、その好ましい形態を以下の実施例を参照しながら説明する。
【実施例】
【0074】
バイオフィルム対(v)浮遊の研究のためのポルフィロモナス・ジンジバリスの増殖及び回収
ポルフィロモナス・ジンジバリスW50(ATCC53978)を、400mLの作業容積を有するmodel C−30 BioFlo chemostat(New Brunswick Scientific)を使用する連続培養で増殖させた。培養容器及び培地貯蔵槽の両方を、10%CO及び90%Nで連続的に通気した。増殖温度は37℃であり、脳心臓点滴増殖培地(Oxoid)をpH7.5に維持した。全増殖を通じて、酸化還元電位は−300mVに維持した。希釈率は0.1h−1であり、6.9hの平均世代時間(MGT)をもたらした。滅菌システイン−HCl(0.5g/L)及びヘミン(5mg/L)を添加した。培養は接種後約10日で定常状態に到達し、バイオフィルムの厚層が容器の垂直面上に発達するまでさらに30日間維持した。
【0075】
全ての細菌細胞の操作は、氷上で又は4℃で実施した。回収時に、浮遊細胞を清潔な容器中に静かに移し、バイオフィルムをPGA緩衝液(5M NaOHにより37℃でpHを7.5に調整した、10.0mM NaHPO、10.0mM KCl、2.0mM クエン酸、1.25mM MgCl、20.0mM CaCl、25.0mM ZnCl、50.0mM MnCl、5.0mM CuCl、10.0mM CoCl、5.0mM HBO、0.1mM NaMoO、10mM システイン−HCl)で穏やかに2回洗浄し、その後50mL遠心分離チューブ中にバイオフィルムを回収した。
【0076】
浮遊細胞及びバイオフィルム細胞を、その後PGA緩衝液で3回(7000g)洗浄し、両試料を最終体積30mLまで洗浄緩衝液(50mM トリス−HCl、150mM NaCl、5mM MgCl、pH8.0、プロテイナーゼ阻害剤(Sigma))で再懸濁し、French Press Pressure Cell(SLM、AMINCO)を138MPaで3回通過させることにより溶解した。溶解した細胞を2000gで30分間遠心分離し、いずれかの破壊されていない細胞を除去した。上清をさらに100000gで1時間遠心分離し、溶解した細胞を可溶性画分と不溶性(細胞外被)画分とに分離した。細胞外被画分を、洗浄緩衝液でさらに3回、100000gで20分間洗浄し、各々、いずれかの可溶性汚染を除去した。全試料を、その後−80℃で凍結及び貯蔵した。
ヘム制限及びヘム過剰の研究のためのポルフィロモナス・ジンジバリスの増殖及び回収
400mLの作業容積を有するBioflo 110 fermenter/bioreactor(New Brunswick Scientific)を使用して、ポルフィロモナス・ジンジバリスW50を連続培養で増殖させた。増殖培地は、5mg/mLの濾過滅菌した塩酸システイン、5.0μg/mLのヘミン(ヘム過剰)又は0.1μg/mLのヘミン(ヘム制限)を添加した37g/Lの脳心臓点滴培地(Oxoid)であった。同一培地(ヘム過剰)中で増殖させたポルフィロモナス・ジンジバリスの24時間バッチ培養液(100mL)を培養容器に接種することにより増殖を開始した。24時間のバッチ培養増殖後、培地貯蔵槽ポンプを作動させて、培地流を調整して、0.1h−1の希釈率(6.9時間の平均世代時間(MGT))をもたらした。容器の温度を37℃に維持し、pHを7.4±0.1に維持した。95%N中の5%COで、培養液を連続的に通気した。定常状態増殖時に細胞を回収し、5000gで30分間、洗浄緩衝液(50mM トリス−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、5mM MgCl)で3回洗浄し、138MPaでFrench Pressure Cell(SLM、AMINCO)を3回通過させることにより破砕した。次に溶解した細胞を2000gで30分間遠心分離して、破壊されていない細胞を除去し、その後100000gで超遠心分離して、可溶性(上清)画分及び膜画分を生成した。全ての分画を氷上で実施した。
18Oタンパク質分解標識化バイオフィルム細胞及び浮遊細胞の外被画分の調製及び分析
細胞外被画分を、最初に、2%SDSを含有する氷冷した洗浄緩衝液1mL中に再懸濁し、その後ペレットの再懸濁を促すために超音波処理及びボルテックス処理を実施した。再懸濁における最終工程は、粒子の破砕を助けるための29ゲージのインスリンニードルの使用を含んでいた。混合物をその後40000gで遠心分離して不溶性粒子を除去し、上清のタンパク質濃度を製造業者の取扱説明書に従ってBCA reagent(Pierce)を使用して決定した。
【0077】
再懸濁した試料を、いずれかのタンパク質分解活性を不活性化することをさらに促す−20℃で、5倍量の氷冷したアセトンを終夜使用して沈殿させた。アセトン沈殿の後、両方の試料を、断続的超音波処理と、ボルテックス処理と、29ゲージのインスリンニードルの使用とにより支援した25mMのトリス(pH8.0)及び1%のSDSで最終濃度3mg/mLまで再懸濁した。2回目のBCAタンパク質アッセイをその後実施し、最終タンパク質量を標準化した。
【0078】
NuPAGEゲル上でのゲル電気泳動を、MOPs running buffer(NuPAGE、Invitrogen)を使用して、MOPsをランニング緩衝液として用いる10ウェルの10%NuPAGEゲル上にロードする前に試料を99℃で5分間煮沸した以外は製造業者のプロトコルに従って、実施した。バイオフィルム試料及び浮遊試料(各々30μg)を、ゲル上の隣接レーンにロードした。SDS−PAGEを、その後、色素の前面がゲルの底部から約1cmになるまで、4℃、126V(定圧)で実施した。生物学的反復測定のために、使用したゲルは、ランニング緩衝液としてMOPsを使用する4%〜12%のNUPAGE勾配ゲルであり、2つの画分に分離されているタンパク質のバンドの変化の可能性を克服するために、類似するが正確ではない分離パターンをもたらした。染色を、クーマシーブリリアントブルーG−250(31)中で終夜実施し、その後、超純水中で終夜脱染した。
【0079】
2つのゲルレーンを、特注のステンシルを使用して10個の等サイズのゲルバンドに分割し、各切片を約1mmの立方体にカットした。脱染を、50mM NHHCO/ACN(1:1)溶液中で3回実施した。脱染後、ゲル立方体を100%ACNで脱水し、その後ABC緩衝液(50mM NHHCO)中の10mMのジチオスレイトール溶液で56℃で30分間、再水和/還元した。過剰の溶液を除去した後、暗所中、室温で60分間、ABC緩衝液中の55mMのヨードアセトアミドを添加した。アルキル化反応後、ゲル立方体をABC緩衝液中で3回洗浄し、その後100%のACN中で10分間、2回脱水した。speedvacを使用する90分間の遠心分離下で、ゲル立方体をさらに乾燥した。ゲル切片1個当たり60μLの、sequence grade modified trypsin(Promega)2μgと、H16O又はH18O(H18O、純度>97%、Marshall Isotopes)のいずれかにおいて調製された1/2の強度のABC緩衝液とを含有する溶液中で、37℃で20時間、消化を実施した。消化後、各5分間の超音波処理により、それぞれの水(H16O/H18O)における50% ACN/0.1% TFAの溶液と、0.1% TFAとを使用して、ゲルからペプチドを2回抽出した。プールした抽出物を、トリプシンを不活性化させるために99℃で5分間煮沸し、その後48時間凍結乾燥を行った。
【0080】
凍結乾燥したペプチドを、ナノHPLC及びMALDI TOF−MS/MS分析を使用する分析の直前に、それぞれの水(H16O/H18O)中の5% ACN/0.1% TFAの溶液中に再懸濁した。ペプチド溶液(20μL)をその後、FAMOS autosampler(LC Packings)をアドバンストμLピックアップモードで使用してUltimate Nano LC system(LC Packings)上にロードした。試料を最初に、200μL/分で5分間、捕捉カラム(内径300μm×5mm)上にロードした。分離は、逆相カラム(LC Packings、C18 PepMap100、内径75μm×15cm、3μm、100Å)を使用して300nL/分の流量で達成し、0分〜5分(0%)、5分〜10分(0%〜16%)、10分〜90分(16%〜80%)、90分〜100分(80%〜0%)のACNグラジエントを用いて0.1%ギ酸中で溶出した。
【0081】
溶出液を、30秒の間隔で、Proteineer Fc robot(Bruker Daltonics)を使用して、プレスポット済みanchorchip plates(Bruker Daltonics)上に垂直にスポットした。スポットする前に、各スポット位置に0.2μLの超純水をプレスポットし、マトリクスでの結晶化プロセス時のアセトニトリル濃度を低減した。MALDI−TOF/TOF(Ultraflex with LIFT II upgrade、Bruker Daltonics)を使用する自動化分析の前に、プレートを10mM リン酸アンモニウム及び0.1% TFAで洗浄し、風乾した。消化物のMS分析を最初にリフレクトロンモードで実施し、25kVの加速電圧を使用して800Daから3500Daまで測定した。全てのMSスペクトルを8組の30のレーザーショットから生成した(各組はシグナル対ノイズ比S/Nが6より大きく、分解能(Resolution)が3000より大きいことが含まれることを必要とした)。機器の較正を、4つの試料の各群に関して、プレスポットした内部標準(アンジオテンシンII、アンジオテンシンI、ニューロテンシン、レニン基質及びACTHクリップ)の[M+H]イオンで外部から行った。MALDI−TOF/TOFに関するLIFTモードを、Flexcontrol及びWarpLCソフトウェア(Bruker Daltonics)を使用して、完全に自動化したモードで実施した。TOF1段階では、全イオンを8kVまで加速し、その後LIFT細胞中で19kVまで上昇させ、全てのMS/MSスペクトルを、蓄積している550の連続レーザーショットから生成した。
【0082】
親前駆体の選択を、LC MALDI SILE(安定同位体標識化実験)のワークフローと共に、WarpLCソフトウェア(第1.0版)を使用して実施した。4Daで分離された各々の重い対又は軽い対の最も豊富なピークのみが選択され、そのS/Nは50より大きかった。6個未満のLC MALDI画分により分離された化合物は同じものとみなされたので、1度しか選択されなかった。
【0083】
ピークのリストは、S/N>6でApexピークファインダーアルゴリズムを用いるFlexanalysis 2.4 Build 11(Bruker Daltonics)を使用して生成した。MSスキャンは、0.2m/zの幅を使用するSavitzky Golayアルゴリズムを用いて1回スムージングし、基準線の差し引きは、0.8のフラットネスでMedianアルゴリズムを使用して行った。
【0084】
タンパク質の同定を、ゲノム研究所(TIGR)ウェブサイト(www.tigr.org)から得るポルフィロモナス・ジンジバリスデータベースに対して問い合わせが行われるMS/MSデータに関してMASCOT検索エンジン(MASCOT 2.1.02版、Matrix Science)を使用して行った。MASCOT検索パラメータは以下の通りであった:荷電状態1+、プロテアーゼとしてトリプシン、1の切断ミス(missed cleavage)が許容される、並びにMSに対しては250ppmのトレランス、及びMS/MSピークに対しては0.8m/z。固定修飾をシステインのカルバミドメチルに対して設定し、変動修飾はC末端の18O標識化リシン残基及びアルギニン残基であった。
【0085】
以前に説明した(32)逆データベース戦略を、単一ペプチド同定に関する偽陽性を除去するために必要な最小ペプチドMASCOTスコアを決定するために、採用した。簡潔には、そのデータベースは、予測される全てのその通常の方向のポルフィロモナス・ジンジバリスタンパク質と、その逆の配列(3880配列)を有する同じタンパク質との両方の配列から成る。その後全体のMS/MSのデータ組を、組み合わせたデータベースに対して検索し、0%の偽陽性をもたらす最も低いMascotスコアを決定した。偽陽性は、逆配列(太字・赤字、及び上記ペプチド閾値スコア)との正の適合と定義された。単一のヒットペプチドに対する偽陽性率は0.5%であると決定され、Mascotペプチドイオンスコアは閾値より大きく25より小さかった。Mascotペプチドイオンスコアが30より大きい場合には、逆データベースとの適合はなかった。単一のヒットペプチドに関する同定の信頼性を増大させるために、本発明者らは、Mascotスコアリングアルゴリズムに従い、スコア30を使用した場合よりも2桁低い誤同定の確率を与える50より大きい最小のMascotペプチドイオンスコアを使用した。
【0086】
適合したペプチドを、以下の基準を使用して評価した。i)0.05より小さいp値に対応する確率基準のスコアを有する少なくとも2つの特有のペプチドは、正に同定された(所要の太字・赤字の適合)とみなされた(ここで、スコアは−logX10log(P)であり、Pは観察された適合が無作為な事象である確率である(33))、ii)特定のタンパク質の同定の際に特有のペプチドを1つだけ使用した場合(重標識化又は軽標識化ペプチドのいずれかの同定が1つとみなされる)には、MASCOTペプチドイオンスコアは50を超えていなければならず、又はそのペプチドは4つの独立の実験(2つの生物学的反復測定、及び2つの技術的反復測定)の1つより多くにおいて同定される。
【0087】
ペプチド中への1つ又は2つの18O原子の混合的な組込みのために、18O同位体の天然存在量とH18Oの純度(a=0.97)との寄与、ペプチドの比Rを、以下の式:
【0088】
【数1】

【0089】
を使用して数学的に補正した。
【0090】
、I及びIは、以下の式に従って算出した(27):
【0091】
【数2】

【0092】
【数3】

【0093】
【数4】

【0094】
ここでS、S及びSは、それぞれ、18O標識を有しないペプチドについてのモノアイソトピックピーク、モノアイソトピックピークより2Da高いピーク、及びモノアイソトピックピークより4Da高いピークの測定強度である(図1A)。J、J及びJは、MS−Isotope(http://prospector.ucsf.edu)から算出したペプチドの同位体エンベロープの対応する理論相対強度である。しかし第2の同位体ピーク(S及びS)の強度が第1の同位体ピーク(S及びS)より強い場合には、比は単純にSをSで除したものとして算出した。16O標識化ペプチドの第5の同位体ピークのSピークに対する寄与が顕著になる場合には、特に2000m/zを超える大きなペプチドについては、これは真であった。混合的な1618Oの組込みの算出は、実験的なSの百分率としての実験的なSと理論的なS(J)との差異により決定した。
【0095】
タンパク質存在量の比を、同じタンパク質が2つ以上のゲル切片で同定された場合であっても、同じタンパク質の全ての同定したペプチドを平均することにより決定した。各「通常の」反復測定からのデータを、それぞれの「逆の」反復測定からの逆数をとった比と組み合わせ、各生物学的反復測定における各タンパク質についての平均比と、標準誤差とを提供した。過去に報告した(34、35)ものと同様に、両方の生物学的反復測定結果の正規化を、その後実施した。簡潔には、各生物学的反復測定について平均した比に因子を乗じ、該比の幾何学平均が1に等しくなるようにした。
ICAT標識化ヘム制限細胞及び過剰細胞の調整及び分析
タンパク質の標識化及び分離は、cleavable ICAT reagent(Applied Biosystems)を使用するgeLC−MS/MSアプローチ(Li et al., 2003)を基礎にした。別のプロテオームアプローチは、国際出願PCT/AU2007/000890号明細書(参照により本明細書中で援用される)において行われている。TCA(16%)を使用してタンパク質を先ず沈殿させて、6M 尿素、5mM EDTA、0.05% SDS、及び50mM トリス−HCl(pH8.3)を使用して可溶化した。BCAタンパク質試薬を使用してタンパク質濃度を決定し、1mg/mlに調整した。各増殖条件由来のタンパク質100μgを、個々に、50mMのトリス(2−カルボキシ−エチル)ホスフィン塩酸塩2μLを使用して、37℃で1時間、還元した。次にヘム制限増殖条件由来の還元タンパク質をICATheavy試薬で、ヘム過剰増殖条件由来のタンパク質をICATlight試薬でアルキル化した。次に2つの試料を組み合わせ、プレキャストNovex 10%NUPAGEゲル(Invitrogen)上におけるSDS−PAGEに供した。ゲルを、SimplyBlue(商標)SafeStain(Invitrogen)を使用して5分間染色し、その後、水で脱染した。次に、ゲルレーンを、ゲルの上部から色素の前面まで、切除して20個の切片とした。
【0096】
切除した切片をさらにさいの目に切って1mmの立方体とし、終夜ゲル内消化し、上記手順に従い2回抽出した。プールした上清を減圧下で乾燥して約50μLとし、その後、500μLのアフィニティーローディング緩衝液と混合した後、製造業者の取扱説明書(Applied Biosystems)に従ってアフィニティーカラム上にロードした。溶出したペプチドを乾燥し、ビオチンタグを、37℃で2時間、無希釈の(neat)TFAで切断し、その後減圧下で乾燥した。乾燥した試料を、0.1%のTFA中の5%のアセトニトリル35μL中に懸濁した。
【0097】
UltiMate Nano LC system(LC Packings - Dionex)と連結したEsquire HCT ion trap mass spectrometer(Bruker Daltonics)を使用して、MSを実施した。LC Packings逆相カラム(C18 PepMap100、内径75μm×15cm、3μm、100Å)を使用して分離を達成し、以下のアセトニトリルグラジエントを用いて0.1%ギ酸で溶出した:0分〜5分(0%)、5分〜10分(0%〜10%)、10分〜100分(10%〜50%)、100分〜120分(50%〜80%)、120分〜130分(80%〜100%)。
【0098】
LC出力を、ナノスプレーイオン源と直接接続した。100ミリ秒の最大蓄積時間で、300〜1500のm/z範囲で、100000のイオン荷電制御下で、MSの取得を行った。GPFを使用する場合、3つの付加的なm/z範囲(300〜800、700〜1200及び1100〜1500)を使用して前駆体イオンに関して選択し、各m/z範囲を二連で実施して、同定されるペプチドの数を増大させた。MS/MSの取得を、100m/z〜3000m/zの質量範囲にわたり得て、初期完全プロテオーム分析に関しては最大10個の前駆体で、2分の能動排除時間を有する最も強度の大きい多重荷電イオンについてのICAT分析に関しては3個の前駆体で実施した。
【0099】
化合物検出閾値10000及びシグナル対ノイズ閾値5で、Apexピークファインダーアルゴリズムを使用するDataAnalysis 3.2(Bruker Daltonics)を使用して、ピークリストを生成した。エクスポートしたデータに関して、+2及び+3という全体的負荷制限を設定した。ゲノム研究所(TIGR)ウェブサイト(www.tigr.org)から得られるポルフィロモナス・ジンジバリスデータベースに対して問い合わせが行われるMS/MSデータに関してMASCOT検索エンジン(MASCOT2.1.02、Matrix Science)を使用して、タンパク質同定を達成した。以下の基準を使用して、適合したペプチドをさらに評価した:i)最大でも0.05のp値に対応する確率基準のMowseスコアを有するペプチドは、正に同定されたとみなされた(ここで、該スコアは−logX10(log(P))でありPは観察された適合が無作為な事象である確率である)、ii)特定のタンパク質の同定に1つのペプチドだけを使用し、MASCOTスコアが30より低い場合、スペクトルの手作業での確認を行った。特に単一ペプチドヒットを有するものに関するICAT標識化タンパク質の同定における信頼性を増大させるために、付加的なフィルターを以下のように適用した:i)ICAT対の重ペプチド及び軽ペプチドは、それらの抽出したイオンクロマトグラムから決定されるような溶出ピークを密接に示していなければならない、ii)単一の特有のペプチドを有するタンパク質に関しては、このペプチドは(例えば、異なるSDS−PAGE画分で、又は軽ICAT形態及び重ICAT形態の両方で)2回以上同定されていなければならない、iii)単一ペプチドが(ii)の基準を満たさない場合、MASCOTスコアは25以上でなければならず、期待値≦0.01、及びMS/MSスペクトルは、強いイオンが説明されている「b」型イオン又は「y」型イオンの連続シリーズを示していなければならない。偽陽性の判定は上述の通りである。
【0100】
同位体的に重い13C ICAT標識化ペプチド対軽い12C ICAT標識化ペプチドの比率を、DataAnalysis(Bruker Daltonics)からのスクリプトを使用して決定し、単一MSスペクトルでのモノアイソトピックピーク強度の測定値(シグナル強度及びピーク面積)に基づいて、手作業で確認した。定量のために使用される親イオンの最小イオンカウントは2000であったが、重及び軽前駆体イオンの両方の96%超が、10000を超えた。低分解度のスペクトルの場合、親イオンの再構成抽出イオンクロマトグラム(EIC)の面積から、比率を決定した。単一親タンパク質由来の複数のペプチドに関して平均を算定し、外れ値を、α=0.05でGrubb検定を使用して除外した。
【0101】
CELLO(http://cello.life.nctu.edu.tw(36))を使用してポルフィロモナス・ジンジバリスタンパク質の細胞局在性を予測した。細胞外、外膜、内膜及び周辺質に予測されたものは、外被画分由来であると考えられた。
【0102】
無細胞培養上清(無接種、ヘム過剰及びヘム制限)中の短鎖脂肪酸(SCFA)の濃度を、Richardson et al.(37)の誘導体化法に基づくキャピラリガスクロマトグラフィにより決定した。
【0103】
両方の生物学的反復測定結果の間の相関係数(r)を、Microsoft ExcelのPearsonの相関係数機能を使用して、評価した。変動係数(CV)を、ペプチド存在量比の標準偏差を平均値で除することにより算出し、百分率として表した。
トランスクリプトーム解析のための核酸の抽出
RNAを、ケモスタットから直接回収したポルフィロモナス・ジンジバリス細胞の5mLの試料から抽出した。各試料に0.2倍量のRNA安定化試薬(無水エタノール中の5%v/vフェノール)を添加した。細胞を、遠心分離(9000g、5分間、25℃)によりペレットにし、直ぐに液体窒素中で凍結し、後の処理のために−70℃で保存した。凍結した細胞を、細胞数1×1010個当たり1mLのTRIzol reagent(Invitrogen)中に懸濁し、その後Lysing Matrix B glass beads(MP Biomedicals)及びPrecellys 24 homogeniser(Bertin Technologies、France)を使用して破砕した。ガラスビーズを遠心分離により除去し、RNA沈殿段階でイソプロパノールではなくエタノールを(最終濃度35%で)添加した以外はTRIzolの製造業者(Invitrogen)のプロトコルに従ってRNA画分を精製し、その後Illustra RNAspin Mini RNA Isolation kit(GE Healthcare)から入手したスピンカラムに試料を移した。任意の残りのDNAを除去するためのオンカラムDNAse処理を含む前方への結合工程から、製造業者の取扱説明書に従ってRNAを精製した。RNAの完全性を、Experion自動化電気泳動ステーション(Bio-Rad)を使用して決定した。
【0104】
ゲノムDNAを、製造業者の取扱説明書に従ってDNeasy Blood & Tissue Kit(Qiagen)を使用して、連続培養で増殖するポルフィロモナス・ジンジバリス細胞から抽出した。
マイクロアレイの設計、ハイブリダイゼーション及び解析
マイクロアレイスライドは、オーストラリアゲノム研究所(Australian Genome Research Facility)によりプリントされ、ロスアラモス国立研究所Oralgenプロジェクト(Los Alamos National Laboratory Oralgen project)により予測された付加的なタンパク質コード領域を含むポルフィロモナス・ジンジバリスW83ゲノムの予測タンパク質コード領域に関する1977個の特注設計の60−merオリゴヌクレオチドプローブから成るものであった。強度依存性の正規化の助けとするために、マイクロアレイ試料プール(MSP)対照プローブを含むものとした。Corning UltraGAPSコーティングスライド上へ、マイクロアレイスライド1枚当たり3回、総数のプローブをプリントした。
【0105】
スライドを、Cy5で標識化したユニバーサルゲノムDNA基準(GE Lifesciences)と組み合わせて、Cy3で標識化したヘム過剰又はヘム制限試料を使用してハイブリダイズさせた。cDNA合成反応の開始のための5μgのランダムヘキサマー(Invitrogen)と共にSuperScript plus indirect cDNA labelling system(Invitrogen)を使用して、10μgの全RNAからcDNAを合成した。Amersham CyDye post−labelling reactive dye pack(GE Lifesciences)を使用してcDNAをCy3で標識化し、Invitrogen標識化システムの精製モジュールを使用して精製した。BioPrime Plus Array CGH Indirect Genomic Labelling System(Invitrogen)を使用して、Cy5−dUTP標識化ゲノムcDNAを400ngのDNAから同様に合成した。
【0106】
ハイブリダイゼーションの前に、ブロッキング溶液(35% ホルムアミド、1% BSA、0.1% SDS、5×SSPE[1×SSPEは、150mM NaCl、10mM NaHPO、1mM EDTA])中でマイクロアレイスライドを42℃で1時間浸漬した。ブロッキング後、HOでその後99%エタノールでスライドを簡単に洗浄し、その後遠心分離により乾燥した。標識化したcDNAを、55μLのハイブリダイゼーション緩衝液(35% ホルムアミド、5×SSPE、0.1% SDS、0.1mg/mL サケ精子DNA)中に再懸濁し、95℃で5分間変性させ、その後スライドに適用し、LifterSlips(Erie Scientific)でカバーした。ハイブリダイゼーションを42℃で16時間行った。ハイブリダイゼーション後、スライドを、2×SSCを加えた0.1%のSDS[1×SSCは、150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウム](42℃で5分、さらなる洗浄の全てを室温で行った)、0.1×SSCを加えた0.1% SDS(10分)、0.1×SSC(洗浄4回、各1分)中で続けて洗浄し、その後迅速に0.01×SSC、その後99%エタノール中に浸漬し、遠心分離を利用してスライドを乾燥した。
【0107】
スライドを、GenePix 4000B microarray scannerを使用して走査し、GenePix Pro 6.0ソフトウェア(Molecular Devices)を使用して画像を解析した。3回の生物学的反復測定を表す各処理(ヘム制限又はヘム過剰)のために、3枚のスライドを使用した。
【0108】
画像解析を、GenePix Pro 6.0ソフトウェア(Molecular Devices)を使用して行い、さらなる解析におけるバックグラウンド評価値として、「モーフ(morph)」バックグラウンド値を使用した。差示的に発現した遺伝子を同定するために、LIMMAソフトウェアパッケージを、P<0.005のカットオフ値で使用した。MSP対照スポットを介して全体的なloess曲線をフィッティングすること、及び他の全スポットに該曲線を適用することにより、アレイ内で正規化を行った。Benjamini Hochberg法を使用して、複数の試験について補正するための偽の発見率を制御した。
【0109】
遺伝子予測は、ゲノム研究所(TIGR、www.tigr.org)から得られるポルフィロモナス・ジンジバリスW83のゲノム注釈を基礎とした。オペロン予測は、Microbesonlineのウェブサイト(http://microbesonline.org)から実施した。
DNAマイクロアレイ解析を使用して決定した、ヘム制限に対するポルフィロモナス・ジンジバリスの応答
ポルフィロモナス・ジンジバリスの全体的な遺伝子発現に及ぼすヘム制限増殖の影響のDNAマイクロアレイ解析を、プロテオーム解析のために採用した同一の増殖条件下で実施した。3つの生物学的反復測定からのデータ解析により、ヘム過剰とヘム制限との間において統計的に有意な差示的な調節を示す総数160種類の遺伝子が同定され、これらの遺伝子の大部分はヘム制限の条件下で発現レベルの増大を示し、下向き調節されたのは8種類の遺伝子のみであった。上向き調節された遺伝子の多くはオペロン中に存在すると予測され、これらの大部分は転写レベルで同様の変化を示した(表3及び表5)。ヘム制限に対する差示的な調節が観察された場合には、トランスクリプトームデータとプロテオームデータとの間に広範な一致が存在し、2つのデータ組の間に有意な相関が存在した[Spearmanの相関 0.6364、p<0.05]。しかしプロテオーム解析からの存在量の差異を示す幾つかのタンパク質に関しては、対応する遺伝子のトランスクリプトーム解析は、mRNAの存在量においては統計的に有意な差異を全く検出しなかった。マイクロアレイ解析は、プロテオーム解析により決定されたような存在量の大きな変化を有するタンパク質をコードするこれらの遺伝子のみを同定する傾向があった(表3及び表5)。タンパク質と同じ遺伝子からの転写産物とがヘム制限により有意に調節されることが見出された場合には、その大部分は同じ調節方向を示した。例外は、PG0026(CTDファミリー推定細胞表面プロテイナーゼ)及びPG2132(フィンブリリン(FimA))という2種類の遺伝子産物であった。これらのタンパク質は、ヘム制限下でプロテオーム解析では存在量が減少したが、トランスクリプトーム解析により上向き調節されることが予測された。これらのタンパク質の両方が細胞表面に位置し、細胞表面から放出されるか、又は翻訳後に修飾され、それがプロテオーム解析において上向き調節されたと同定されることを妨げた可能性が非常に高い。
【0110】
以下でより詳細に論じる遺伝子産物に加えて、2種類の遺伝子(PG1874及びPG1875)の推定オペロンの遺伝子(そのうちの1つはヘモリシンAをコードする)と、8種類の連鎖状遺伝子PG1634〜PG1641(そのうちのPG1638は推定チオレドキシンをコードする)と、FeoB2(マンガン輸送体)をコードするPG1043とを含む、複数の目的の遺伝子の転写が顕著に上向き調節された。フラボドキシンをコードするPG1858は、15.29倍と最も高く上向き調節された遺伝子であった。顕著に上向き調節された152種類の遺伝子のうち、〜55種類が予測される機能を有しない。
連続培養及びバイオフィルム形成
ポルフィロモナス・ジンジバリスW50を40日の期間にわたる連続培養で培養し、その間該培養液の細胞密度は、最初の10日目の後は一定のままであり、生物学的反復測定1及び2について、OD650はそれぞれ2.69±0.21及び2.80±0.52であった。これは1mL当たり〜3mgの細胞乾燥重量の細胞密度に等しい。この期間中、ポルフィロモナス・ジンジバリス細胞のバイオフィルムが、発酵槽容器の垂直ガラス壁上に発達した。このバイオフィルムは、回収の時点で〜2mmの厚さであった。
BSAを使用する16O/18O定量法のバリデーション
16O/18Oの定量法の正確度及び再現性を決定するために、既知量のBSAを隣接ゲルレーンにロードし、その比を1:1、1:2、1:5及び10:1とした。(図1B)。H16O又はH18Oの存在下でバンドをゲル内トリプシン消化に供し、混合し、その後LC MALDI−MS/MSにより分析した。単一のBSAトリプシンペプチドに関するスペクトルの典型的な組は、4つの比を通じて2つの18O原子の選択的組込みを示し、そのことは10:1のBSA比において+4Daピークが優勢であることにより最も明らかに見られ、1:1スペクトルにおけるほぼ対象的な二重ピーク(doublet)により、定量及び同定の両方を単純化する(図1A)。単一の18O原子の平均的組込みは、1:1標識化を基準として7%未満であると評価された(補足表)。全ての同定されたBSAペプチドに関して算出された平均比は、1:1(三連)、2:1(及び1:2)、1:5及び10:1の比に関してそれぞれ0.98±0.12、2.22±0.26、4.90±0.75及び10.74±2.04であり、良好なダイナミックレンジと、±2%〜11%の高い正確度と、11.75%〜18.95%の範囲の低いCVを示した(表1)。1:1混合物(三連で行った)の再現的正確度(reproducible accuracy)は、標識化の偏りが非常に低かったことを示唆する。このことを、両方の実験で同定したペプチドのみを使用して、2:1の比での通常の及び逆の標識化BSAを比較することによりさらに確認した。通常の比は2.11±0.33と決定されたのに対して、逆の比は2.30±0.20と決定された(表1)。
バイオフィルム試料及び浮遊試料の定量的分析のための実験デザイン
本研究のデザインは、2つの独立した連続培養であり、各々の培養液を容器の壁から得たバイオフィルム試料と容器の流体内容物から得た浮遊試料とに分割する、2つの生物学的反復測定結果の使用を含むものとした。各生物学的反復測定に関して2つの技術的反復測定を行い、本発明者らはBSAでは顕著な標識化の偏りが存在しないことを示したが、複雑な生物学的試料に対しては16O/18O標識化の確認研究は行われていないので、本発明者らは逆標識化戦略を利用することを選択した(30)。したがって全部で4つの実験があり、各々が、2×10個のゲル切片から生じる10回のLC−MALDI MS/MSの運転から成っていた。
【0111】
図2は、典型的な逆標識化パターンを例示する、バイオフィルム試料/浮遊試料由来の2つの通常の及び逆の標識化ペプチドの典型的なMS及びMS/MSスペクトルを示す。BSAデータと同様に、高レベルの二重の18O組込みが存在することを見ることができ平均の混合的な組込みが全ペプチドに関して15%未満であると算出され、16O/18Oタンパク質分解標識化法が複雑な試料でも効果的であることが確認された(データは示していない)。二重標識化ペプチドが優勢であることは、+2Da種に対するMascotヒットが相対的に少数であることにより、さらに確認された。重標識化ペプチドのMS/MSスペクトルは、Yイオンにおいて期待される+4Daシフトをさらに明らかにした(図2)。
浮遊及び成熟バイオフィルムポルフィロモナス・ジンジバリス細胞の細胞外被プロテオーム
本発明者らは、実験手順の節で説明した選択基準に基づき、1582種類のペプチドから116種類のタンパク質の相対存在量を同定及び決定した。同定したタンパク質のうち、73.3%は3種類以上の特有のペプチドにより同定され、12.9%は1種類の特有のペプチドからではあるが両方の生物学的反復測定において同定され、13.8%は50超のMascotペプチドイオンスコアを有する1種類の特有のペプチドによってのみ同定された(図5)。CELLO(36)は、これらのタンパク質の77.6%が細胞外被由来であることを予測し、それによりこの細胞外被集積方法の有効性を示した。TIGR(www.tigr.org)及びORALGEN口腔病原体配列データベース(www.oralgen.lanl.gov)によるバイオインフォマティクス分類は、同定したタンパク質の大部分が輸送に関与すること、タンパク質分解活性を有すること、又は細胞代謝機能を有することを予測した。興味深いことに、同定した全タンパク質の55%は、機能が未知のものであった。
【0112】
生物学的データの技術的反復測定結果を比較するために、通常の及び逆の標識化実験の各々の対のタンパク質存在量比の、底を10として対数変換したものを、互いに対してプロットした(図3)。これらのプロットの線形回帰は、生物学的反復測定1及び2に関してそれぞれ0.92及び0.82のR値で、各々の対が高い相関を有することを示した。各線形近似曲線(linear fit)の傾きは、また、生物学的反復測定1及び2に関してそれぞれ0.97及び0.93であって期待値1.0と類似しており、技術的反復測定結果の間に標識化の偏りがないことを示した(図3)。技術的反復測定結果からのタンパク質存在量比を平均し、各生物学的反復測定結果に対する単一の比をもたらした。
【0113】
2つの生物学的反復測定に関する平均データを比較する前に、各生物学的反復測定結果のタンパク質存在量比を正規化し、1.0の平均比(average mean ratio)をもたらした。両方の生物学的反復測定結果からの正規化したタンパク質存在量比のプロットは、他者が説明した(40、41)のと同様に、ゼロで中央近くとなるガウス様分布を示す(図4A)。2つの生物学的反復測定結果の間には有意な正の相関が存在し(Pearsonの相関係数r=0.701、p<0.0001)、バイオフィルム培養物/浮遊培養物の増殖と、試料の下流の処理の全てとが、満足なレベルまで再現され得ることを示した。どのタンパク質が2つの生物学的反復測定において一貫して調節されたかを決定するために、簡単な順位付けチャートを構築し、該チャートではタンパク質をその存在量比に従って6つの群(A〜F)に分割し、次に群を基準とした相関に従って1〜6の順位付けを行い、或るタンパク質が両方の生物学的反復測定から同じ群内に入った場合には最も高い類似性を有するものとして1に順位付けした(図4B)。順位付けチャートを使用して、本発明者らは、両方の反復測定から同定したタンパク質81種類のうち、無作為の相関に関する期待値(17%(すなわち1/6)である)よりもかなり高い、34種類(42%)が1番に順位付けされることを決定することができた。残りのタンパク質の大部分は2番に順位付けされ、したがって全部で70種類(86.4%)のタンパク質が、2つの実験の間で同様に調節される(1又は2に順位付けされる;表2)と考えられた。
【0114】
2:1のBSA標識化実験(表1)で測定された標準偏差(±0.26)に基づき、標準偏差の3倍を超えるだけ1.0から異なる場合(1.78より大きいか、又は0.56より小さいかのいずれか)には、タンパク質存在量の変化は生物学的に有意であると考えられた(18、42)。この基準を使用すると、両方の反復測定で同定された81種類のタンパク質のうち47種類の存在量は有意に変化しており(平均比に基づき)、またこれらのうち、42種類は1又は2に順位付けされた(表2)。1及び2に順位付けされた42種類のタンパク質のうち、24種類は存在量が有意に増大し、18種類は存在量が減少した。
協調した調節を示す代謝経路の酵素
グルタミン酸/アスパラギン酸の異化に関与する20種類のタンパク質を、ICAT標識化戦略を使用するヘム制限対ヘム過剰の研究において同定した(表3)。これらのうち、グルタミン酸の酪酸への異化に直接関与する8つの工程のうちの6つを触媒する酵素が同定され、ヘム制限下で1.8倍〜4倍増大したことが見出された(表3)。他の2種類の触媒酵素(PG0690(4−ヒドロキシ酪酸CoA−トランスフェラーゼ)及びPG1066(酪酸−アセト酢酸CoA−トランスフェラーゼ))はICATを使用して検出されなかったが、それらは別々の定量的研究において、表3で報告したこれらのタンパク質に匹敵する高いイオン強度で存在し(示していない)、上向き調節されることが示されたオペロンに属することが見出された。一方、アスパラギン酸異化経路の酵素の存在量に及ぼすヘム制限の影響は混合的であり、酸化的分解経路においてアスパラギン酸のオキサロ酢酸への分解を触媒する酵素は変化せず、ピルビン酸の酢酸への変換に関与する酵素は2倍〜4.4倍の増大を示した。
【0115】
アスパラギン酸からの還元経路を介するフマル酸のコハク酸への変換を共に触媒する、2種類の鉄含有フマル酸レダクターゼ酵素FrdA(PG1615)及びFrdB(PG1614)の存在量は、ヘム制限下で培養した細胞中において有意に低減した(表3)。オペロン中にコードされている(Baughn et al., 2003)これらの2つのタンパク質は、ヘム制限に対する応答下で存在量の同様の変化を示す(FrdA L/E=0.35;FrdB L/E=0.25)。
有機酸最終生成物の分析
ヘム制限下で増殖したポルフィロモナス・ジンジバリスの使用済みの培養培地中の酢酸、酪酸及びプロピオン酸の量は、それぞれ、細胞乾燥重量1g当たり13.09ミリモル±1.82ミリモル、7.77ミリモル±0.40ミリモル及び0.71ミリモル±0.05ミリモルであった。ヘム過剰下で増殖したポルフィロモナス・ジンジバリスの使用済みの培養培地中の酢酸、酪酸及びプロピオン酸のレベルは、それぞれ、細胞乾燥重量1g当たり6.00ミリモル±0.36ミリモル、6.51ミリモル±0.04ミリモル及び0.66ミリモル±0.07ミリモルであった。
【0116】
上記結果は、浮遊ポルフィロモナス・ジンジバリス細胞が固体表面に接着し成熟単一種バイオフィルムの一部分として増殖する場合に起こる、タンパク質存在量の変化を例示する。現在までに公表された他のこのような研究の全てが二次元ゲル電気泳動に基づく方法を利用していた(10〜12)ので、タンパク質存在量の変化を決定するためにGygiのグループのgeLC MSアプローチ(46)、又は16O/18Oタンパク質分解標識化法を利用することは、細菌性バイオフィルム増殖対浮遊増殖の最初の比較研究である。2つの技術的反復測定と2つの生物学的反復測定16O/18O逆標識化アプローチとをうまく採用し、タンパク質存在量の変化を定量及び確認した。
ポルフィロモナス・ジンジバリスの連続培養
本研究ではポルフィロモナス・ジンジバリスW50を、より伝統的な方法論であるバッチ培養とは対照的に、連続培養で培養した。バッチ培養は、バッチ間の変数(例えば、接種菌液の大きさ及び生存度、細菌の回収時の厳密な増殖段階、培地中における利用可能な栄養素のレベル、並びに培地の酸化還元電位等の因子)のために、細菌分析に広い範囲及び程度の変化を導入する。連続培養では細菌は、増殖速度、細胞密度、栄養素濃度、温度、pH及び酸化還元電位を含む厳密に制御された条件下で、多世代にわたり増殖する(44、47、48)。過去の研究は、様々な研究室においてケモスタット中で連続培養したサッカロミセス・セレビシエのトランスクリプトーム解析の高レベルの再現性を実証した(49)。さらに本発明者らの研究では、バイオフィルム細胞及び浮遊細胞の両方の増殖が単一の発酵容器中で実施され、分離培養と比較して変動(variability)が低減した。本研究で見られた同定したタンパク質(1及び2に順位付けされた)の86.4%の生物学的反復測定の間におけるポルフィロモナス・ジンジバリス細胞外被タンパク質存在量の一貫した変化は、ポルフィロモナス・ジンジバリスのプロテオームに及ぼすバイオフィルム増殖の影響の解析に対する、連続培養システムと、16O/18Oタンパク質分解標識化戦略との利用可能性を例示する。
18O標識化の効率
本研究で採用した基礎的なプロテオミクスの方法は、SDS−PAGE法がもたらす膜タンパク質の高い分解能及び溶解性のために、geLC MS法であった(46、50)。この方法は、他者が説明した(26〜29)手順と同様のゲル内消化手順時に、単一の18O標識化反応と組み合わされた。効率的な標識化は、各ペプチドのC末端への2個の18O原子の組込みをもたらすものであり、16Oとの再交換(back-exchange)に抵抗性を有するものと考える。これは、単一の18O原子の組込みのレベルが7%未満であると評価され、様々なBSA実験に関して得られた平均比が16Oを有意に選好しないことが見出された(表1)、本発明者らのBSAでの研究におけるケースであることが見出され、通常の水との再交換は問題ではないことが示唆された。同様の結果が、生物学的試料に関しても得られた。効率的な18O標識化のための重要なステップには、「一回消化(single-digestion)」法を採用するトリプシン消化の前の、天然のH16Oの完全な除去と、その後のH18O中でのタンパク質の再可溶化とが必要であった。多数の研究が「二回消化(double digestion)」法を使用している(51、52)が、二回消化法ではトリプシンペプチドの中には初回の消化後に18O原子の代わりにそのC末端の16O原子のいずれかを交換することができないものがあったので、一回消化法は、より高い18O標識化の効率をもたらすという利点を有する(53)。本発明者らは、任意の標準的なゲル内消化プロトコルのように、有機溶媒を使用する初期脱水工程時にゲルマトリクス中にタンパク質を保持するゲル内消化法をさらに利用した。任意の微量天然H16Oの完全な除去は、初期凍結乾燥工程時のさらなる吸着ロスを防止するためにタンパク質がまだゲルマトリクス内に存在する状態で、真空下での遠心分離による凍結乾燥を介して達成した。またH18O中で再構成した大過剰のトリプシンを含有するH18O中で再水和及びゲル内消化を実施した。消化手順時に、第1の18O原子の組込み後にゲルから遊離したトリプシンペプチドは、過剰のトリプシンにより媒介される第2のカルボニル酸素交換プロセスの対象となり得る。遊離したペプチドは、タンパク質よりも高い溶解性を有することにより、より高いレベルの二重に18O標識化したトリプシンペプチドをもたらすので、これは第2のカルボニル酸素の置換を促進するはずである(図1及び図2;(54))。通常の水との再交換を防止するために、効果的であることが以前に示されている(51、54)煮沸を行うことにより、トリプシンを非活性化した。加えて、乾燥した、非活性化した混合物はnanoLC上への注入の直前に、再懸濁及び混合のみを行い、自発的な交換を最小化したが、この自発的交換は低いことが分かっている(15、40)。
逆標識化
安定な同位体の標識化とMSを使用する定量との場合には、誤差が、標識化及びイオン化のプロセス時に導入される可能性がある。これらの誤差は、標識の親和性の潜在的な差異と、MALDIプロセス時の重又は軽標識化ペプチドの考え得る抑制効果とを含む(13、55)。同じ標識化を繰り返すことを含む伝統的な技術的反復測定は、特定の標識に対する未補正の偏り、又はピークを汚染することによる特定のペプチドの無作為誤差の増大をもたらし得る。本発明者らの通常の及び逆の標識化技術的反復測定は、生物学的反復測定1及び2に関してそれぞれ0.97(R=0.92)及び0.93(R=0.82)の散布図の勾配(標識化しない場合の偏りに関する期待される比は1.0に近い)を有する、高度の相関を実証した(図3)。これらの勾配は、その方法が、タンパク質の評価と、ゲルのロードと、ゲルの切り出しと、ゲル内消化とに関して再現性を有していたことも示す。偏りが無いことは、マイクロアレイ実験で日常的に使用されるダイスワップ法又はLOWESSデータ正規化等の正規化ルーティン(35)が不必要であり得ることを示唆する。しかし、本研究で使用した細菌細胞外被よりも大幅に複雑な試料は、微量汚染ペプチドが18O/16O比の算出に及ぼす影響と、極端な変化を有するペプチドを確認する必要性とを考えると、逆標識化の確認をさらに必要とし得る。MS/MS取得法は断片に対する各重/軽対における最も強力なペプチドのみを選択したので、系統誤差を補正する評価及び手段を提供することに加えて、逆標識の設計は、重及び軽標識化ペプチドの両方を容易に同定することを可能にするというさらなる利点を有するものであった。このように、誤った割り当ての可能性は低減する。本発明者らの知識に対しては、これは、17種類のチトクロムP450タンパク質の最近の定量以外では複雑な生物学的試料における逆16O/18O標識化の最初の報告である(26、30)。
バイオフィルム対浮遊培養
本発明者らは、生物学的反復測定の間の強力な正の相関(r=0.701、p<0.0001)を実証し、バイオフィルムの形成及び発達に再現性があることを示した。このことは、81種類の定量化可能なタンパク質のうち70種類が、両方の生物学的反復測定において同様の比を示すことが観察されるという知見によっても見られた(表2、1又は2に順位付けされる)。本研究で同定されたポルフィロモナス・ジンジバリスタンパク質の4分の3超が、3種類以上の特有のペプチドにより同定され、この標識化手順の同定及び定量の信頼性がさらに増大した。両方の生物学的反復測定から一貫して同定された81種類のタンパク質のうち、47種類は浮遊状態からバイオフィルム状態まで存在量が有意に変化した。特に細胞外被において、検出されたプロテオームの存在量の百分率の変化は、検出されたプロテオームの50%超が浮遊と成熟バイオフィルムとの増殖期の間に存在量の顕著な変化を示すことが示された、シュードモナス・エルギノーサ等のバイオフィルム形成細菌についての他の研究(12)と一致する。本発明者らは、バイオフィルムとしての増殖に対するポルフィロモナス・ジンジバリスの細胞外被プロテオームにおける広範な応答をさらに観察した。バイオフィルム培養に対する応答下で存在量が変化することが以前に実証された多数のタンパク質は、本発明者らの研究において、存在量が変化することも見出された。注目すべきことに、幾つかのタンパク質では最大5倍存在量が変化することが観察され(表2)、バイオフィルム培養に応答したプロテオームの幾つかの主要なシフトが示唆された。
C末端ドメインファミリー
ポルフィロモナス・ジンジバリスは、約80残基の保存C末端ドメイン(CTD)とは別に、顕著な配列類似性を有しない最大34種類の細胞表面に位置する外膜タンパク質の、新規ファミリーを有することが最近示された(31、56)。タンパク質のポルフィロモナス・ジンジバリスCTDファミリーは、ジンジパイン(RgpA[PG2024]、RgpB[PG0506]、Kgp[PG1844]);分泌及び処理され細胞表面上で非共有複合体を形成し、この細菌の主要な病原性因子であると考えられる、Lys及びArg特異的プロテイナーゼ並びにアドヘシンを含む(57〜61)。宿主の構造タンパク質及び防御タンパク質を分解するその能力と、マウス歯周モデルにおいて歯槽骨の喪失を引き起こす機能的Kgp又はRgpBを欠く突然変異体の無能力とのために、ジンジパインは疾患の発病と直接関連づけられている(62)。これらのCTDファミリータンパク質は様々な機能を有するが、CTDファミリータンパク質の既知及び推定の機能は、接着活性及びタンパク質分解活性に対して強く集中しており、CPG70カルボキシペプチダーゼ(63)、PrtTチオールプロテイナーゼ、HagAヘマグルチニン、ストレプトコッカス・ゴルドニ(S. gordonii)結合タンパク質(PG0350、(64))、推定ヘマグルチニン、推定チオールレダクターゼ、推定フィブロネクチン結合タンパク質、推定Lys特異的プロテイナーゼ(PG0553)及び推定フォンビルブランド因子ドメインタンパク質等も含む。これらのタンパク質の大部分は、細胞外タンパク質分解活性、凝集、ヘム/鉄の捕捉及び貯蔵、バイオフィルムの形成及び維持、病原性並びに酸化的ストレスへの抵抗性に関与するので、細菌の病原性において重要な役割を果たす可能性がある。CTDは、おそらく糖鎖付加を介した、外膜を通じたタンパク質の分泌と、細胞表面への付着とにおいて役割を果たすことが提唱されている(56、65、66)。この研究において本発明者らは、両方の反復測定(表2)において一貫して調節された9種類のCTDファミリータンパク質を定量することができ、PG2216及びPG1844(Kgp)を除き全てが、バイオフィルム状態時に存在量が増大した。したがってこの群のタンパク質の多くの存在量の顕著な増大は、これらがバイオフィルム状態時に重要な機能的役割を果たすことを示唆する。
【0117】
主要な細胞表面プロテアーゼであるポルフィロモナス・ジンジバリスRgpA、Kgpは、ペプチド及びヘム獲得(特にヘモグロビンからの)と、細胞表面でのヘム放出とに活発に関与することが既知である(67、68)。バイオフィルム状態時に、RgpAの存在量が平均2.7倍増大した。ポルフィロモナス・ジンジバリスの血球凝集及びヘモグロビン結合に関与するRgpA及びKgpにも見出されるアドヘシンドメインを含有するHagA(69)も、バイオフィルム状態において存在量がより高い。
【0118】
対照的にKgpは、ポルフィロモナス・ジンジバリスのバイオフィルム細胞において存在量が顕著に低いことが観察された。これは、Kgpの存在量の減少のためであり得るか、又はバイオフィルム培養時のポルフィロモナス・ジンジバリス細胞表面からのKgpの放出のためであり得る。Kgpは、ペプチド及びヘムの放出及び取込みをもたらす表面に曝されたLys残基でヘモグロビンを加水分解するために、ポルフィロモナス・ジンジバリスにとって必須である(67、70)。Kgpの接着ドメインはヘモグロビン結合に関与し、Genco et al(70)は、Kgpが、シデロフォアのように細胞表面から放出されて環境からヘムを捕捉する、ヘモフォア(haemophore)として作用することを提唱した。ヘムと結合したKgpは、その後HmuR(外膜TonB連結受容体)と結合することが提唱されており、ヘモグロビン及びヘムの両方の利用のために要求され、ヘムを細胞に送達することが報告されている(71)。興味深いことに、HmuY(HmuRと共にオペロン中にコードされるタンパク質)も、バイオフィルム培養細胞中でより豊富であった。
【0119】
hmu遺伝子座は6種類の遺伝子(hmuYRSTUV)を含有し、Iht系及びHtr系と同様のヘム獲得経路に関与するタンパク質をコードする多重遺伝子クラスターに属することが示唆されている(72)。HmuYはヘモグロビン及びヘムの両方の利用に要求されることが示されており、鉄の利用能により調節される(72、73)。HmuRは本発明者らの研究では同定されなかったが、hmuR及びhmuYのオペロンの性質と他の証拠とは、その発現が同様に調節され、ヘムの利用に関して協調して作用することを示唆する(71、74)。したがって、Kgpの存在量の減少と、HmuYの存在量の増大とは、バイオフィルム増殖におけるヘモフォア及びヘム制限としてのその提唱される役割と一致している(以下を参照されたい)。
【0120】
CPG70(PG0232)(ジンジパイン処理に関与することが実証されているCTDファミリープロテアーゼ)も、バイオフィルム培養では存在量が一貫してより高く、バイオフィルム増殖時に細胞表面タンパク質の再構築における役割を示す可能性がある(63、75)。CTDファミリー推定チオレドキシン(PG0616)も、バイオフィルム状態における存在量が有意に高かった。PG0616は、HBP35(共凝集特性を有するヘム結合タンパク質)を特徴とする(76)。特に免疫反応性46kDa抗原、PG99の存在量の増大は有意であり、バイオフィルム細胞では平均5.0倍であった(表2)。これは本研究におけるタンパク質存在量の増大の最高の観測値であった。またPG99は免疫原性タンパク質及びCTDファミリーメンバーの両方でありしたがって細胞表面に位置する可能性が最も高いので、このタンパク質は、バイオフィルム破壊剤のための良好な潜在的標的を表す。
輸送タンパク質
2つの推定TonB依存性受容体ファミリータンパク質(PG1414及びPG2008)と推定ヘム受容体タンパク質(PG1626)とは、また、存在量が有意な増大を示す。これらのタンパク質の厳密な機能は未知であるが、NCBI COGデータベースに対するCOG検索は、主にFe輸送に関与する外膜受容体タンパク質のP機能クラスに対するヒットをもたらした(77)。興味深いことに、本発明者らは、細胞内鉄貯蔵タンパク質フェリチン(PG1286)の存在量の増大も観察した。これらの鉄/ヘムの輸送及び貯蔵タンパク質の存在量の一貫した増大は、フェリチンはポルフィロモナス・ジンジバリスが鉄枯渇条件下で生存するために重要であるので、特にバイオフィルムの深層内における、ヘム/鉄の制限の兆候であり得た(78)。
【0121】
ポルフィロモナス・ジンジバリスの高いタンパク質分解活性、高いヘモグロビン及びヘムの結合能及び貯蔵能のために、ヘモグロビン及びヘムの両方がバイオフィルム中まで拡散しないと考えられる。FeoB1を介する第一鉄輸送がバイオフィルムの深層におけるこの種の鉄代謝においてより重要な役割を果たし、ヘムとしての鉄の細胞表面貯蔵の機会がほとんどなかったので、そのことがフェリチンの増大も説明し得る可能性もある(45、79)。ヘム制限の条件下で増殖したポルフィロモナス・ジンジバリスは細胞内の鉄の増大を示し、PRIXが増殖制限因子であること、及び第一鉄がFeoB1輸送体を介して蓄積されることを示している(45)。
【0122】
IhtB(PG0669)及び推定TonB依存性受容体(PG0707)の両方が、バイオフィルム状態における存在量の減少を示した(表2)。IhtBは、ポルフィロモナス・ジンジバリスによる取込みの前にヘムから鉄を除去する抹消外膜キラターゼとして機能することが提唱されてもいるヘム結合性リポタンパク質である(80)。他の多くの存在量の増大と同時に起こるバイオフィルム状態時におけるヘム/Fe取込みに関与する可能性がある2つのタンパク質の存在量の同様の減少は、取込みに使用される受容体の種類のいずれかのシフトを示すか、又は使用される基質の変化を示す可能性がより高いことを示す。上記観察から総合すると、バイオフィルム中で増殖しているポルフィロモナス・ジンジバリスは、ヘムが欠乏している可能性があると考えられる。したがって、幾つかの輸送及び結合タンパク質のより高い存在量は、それらがバイオフィルム状態時においてより重要であり、したがって考え得る抗菌薬剤標的であることを示唆する。
【0123】
浮遊状態と比較してバイオフィルム状態時では、解糖酵素グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)はより高い存在量で存在し、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)及びシュードモナス・エルギノーサに関して得られた以前の結果と一致する(12、106)。GAPDHは解糖及び糖新生に関与する四量体NAD結合酵素として分類されるがこのタンパク質が多機能性であるという多数の報告が存在しており、グラム陽性細菌の細胞表面で発現する場合には、プラスミン、プラスミノーゲン及びトランスフェリンの結合に関与するようである(107、108)。興味深いことに、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)とポルフィロモナス・ジンジバリス33277との間における共凝集が、ポルフィロモナス・ジンジバリスの線毛とストレプトコッカス・オラリスのGAPDHとの相互作用により媒介されることが示されている(109)。しかし、ポルフィロモナス・ジンジバリスでの基質結合におけるGAPDHの厳密な役割が存在するとしても、それについてはまだ答えが得られていない。
バイオフィルム形成
ユニバーサルストレスタンパク質(UspA)は、バイオフィルム細胞と比較して浮遊細胞において顕著に高い存在量で存在していた。様々な細菌中でのUspの産生は、定常期に入ること、或る特定の栄養素の欠乏、酸化剤、及び他の刺激等の多様な条件により刺激されることが見出された(110、111)。浮遊期の細胞における存在量の増大は、ポルフィロモナス・ジンジバリスがバイオフィルムの一部分として進展して増殖するという事実、及び浮遊期がよりストレスが多いと思われるという事実と一致する。UspAの不活性化は浮遊細胞による初期バイオフィルム形成の減少をもたらしたので、ポルフィロモナス・ジンジバリスにおけるUspAの発現は、バイオフィルム形成と関連すると考えられる(112)。本研究ではバイオフィルムは確立され成熟に到達しているので、自由に浮いている浮遊細胞と比較してUspAに対する必要性はより低いようである。
【0124】
インターナリンファミリータンパク質InIJ(PG0350)のホモログで、バイオフィルム状態時の存在量がより高いことが観察された。PG0350は、遺伝子の不活性化がバイオフィルム形成の低減をもたらしたので、ポルフィロモナス・ジンジバリス33277のバイオフィルム形成にとって重要であることが示されている(39)。バイオフィルムにおけるより高いレベルのPG0350は、このタンパク質が初期バイオフィルム形成のためのみに要求され得るのではなく、ポルフィロモナス・ジンジバリスを互いと、又はバイオフィルム内の細胞外基質と結合させるアドヘシンに作用することを示唆し得た。
機能が未知のタンパク質
本研究で同定した最大のタンパク質群は、本研究で最初に同定した4種類のタンパク質を含む機能が未知の41種類のタンパク質であった(表2)。同定した41種類のタンパク質のうち37種類は細胞外被由来であると予測され、この群内で17種類のタンパク質はバイオフィルム細胞と浮遊細胞との間において有意な変化を示す。これらのタンパク質の大部分は、名称は定義されているが機能は十分に定義されていないGenBankのタンパク質と相同性を有する。バイオフィルム状態において存在量が実質的に増大することが一貫して見出された複数のタンパク質、すなわちPG0181、PG0613、PG1304、PG2167及びPG2168に特に関心がもたれる。
【0125】
上記結果は、複雑な混合物に適用される16O/18Oタンパク質分解標識化法の大規模の確認を表すものであり、細菌のバイオフィルム増殖状態と浮遊増殖状態との比較のためにこのアプローチを使用した最初のものである。様々な機能を有する相当数のタンパク質が、バイオフィルム細胞中の存在量において一貫して増大又は減少することが見出され、細胞がどのようにしてバイオフィルム条件に適応するのかを示し、また、バイオフィルム制御戦略のための潜在的な標的をもたらした。
【0126】
【表1】

【0127】

【0128】
【表2】

【0129】

【0130】

【0131】

【0132】

【0133】

【0134】

【0135】
【表3】

【0136】

【0137】

【0138】
【表4】

【0139】

【0140】
【表5】

【0141】
【表6】

【0142】

【0143】

【0144】

【0145】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体におけるポルフィロモナス・ジンジバリスに対する免疫応答を生じさせる際に使用する組成物であって、免疫応答を生じさせるための有効量の、AAQ65462、AAQ65742、AAQ66991、AAQ65561、AAQ66831、AAQ66797、AAQ66469、AAQ66587、AAQ66654、AAQ66977、AAQ65797、AAQ65867、AAQ65868、AAQ65416、AAQ65449、AAQ66051、AAQ66377、AAQ66444、AAQ66538、AAQ67117及びAAQ67118から成る群から選択されるアクセッション番号に対応するポリペプチドの、少なくとも1つの抗原性部分又は免疫原性部分を含む、組成物。
【請求項2】
前記部分が、前記ポリペプチドの1つの少なくとも50個のアミノ酸と実質的に同一であるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、AAQ65462、AAQ66991、AAQ65561及びAAQ66831から成る群から選択されるアクセッション番号に対応する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリペプチドがアクセッション番号AAQ65742に対応する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
被験体におけるポルフィロモナス・ジンジバリスに対する免疫応答を生じさせる際に使用する組成物であって、免疫応答を生じさせるための有効量の、ポルフィロモナス・ジンジバリスにより発現され、且つCELLOプログラムにより細胞外にあることが予測されるポリペプチドの少なくとも50個のアミノ酸と実質的に同一であるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのポリペプチドを含む、組成物。
【請求項6】
被験体におけるポルフィロモナス・ジンジバリスに対する免疫応答を生じさせる際に使用する組成物であって、免疫応答を生じさせるための有効量の、マウス又はウサギにおいて免疫応答を引き起こすポリペプチドの少なくとも50個のアミノ酸と実質的に同一である選択されたアミノ酸配列を有する少なくとも1つのポリペプチドを含む、組成物。
【請求項7】
被験体を歯周病に関して防止、抑制又は治療する方法であって、有効量の、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
【請求項8】
被験体をポルフィロモナス・ジンジバリス感染症に関して防止又は治療する方法であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
【請求項9】
アクセッション番号AAQ65462、AAQ65742、AAQ66991、AAQ65561、AAQ66831、AAQ66797、AAQ66469、AAQ66587、AAQ66654、AAQ66977、AAQ65797、AAQ65867、AAQ65868、AAQ65416、AAQ65449、AAQ66051、AAQ66377、AAQ66444、AAQ66538、AAQ67117及びAAQ67118に対応するポリペプチドの1つの少なくとも50個のアミノ酸と実質的に同一であるアミノ酸配列を有する、該ポリペプチドの抗原性領域に対して産生される抗体。
【請求項10】
前記ポリペプチドが、AAQ65462、AAQ66991、AAQ65561及びAAQ66831から成る群から選択されるアクセッション番号に対応する、請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
前記ポリペプチドがAAQ65742から成る群から選択されるアクセッション番号に対応する、請求項9に記載の抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−532766(P2010−532766A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515320(P2010−515320)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【国際出願番号】PCT/AU2008/001018
【国際公開番号】WO2009/006700
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(510007610)オーラル ヘルス オーストラリア ピーティーワイ リミテッド (6)
【Fターム(参考)】