説明

バイオプラスチックを用いた電子写真用トナーおよびその製造方法

【課題】結着樹脂としてバイオプラスチックを含み、加水分解抑制剤のコスト削減と、良好な保存性および耐久性とを両立させた電子写真用トナーを提供すること。
【解決手段】5,000〜50,000の重量平均分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂、着色剤、および脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドからなる加水分解抑制剤を含む原料混合物を混練し、粉砕してなる電子写真用トナーであって、前記加水分解抑制剤が、トナー質量の5〜9質量%の量で含有され、脂肪族カルボジイミドの含有量が、芳香族カルボジイミドの含有量より多いことを特徴とする電子写真用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオプラスチックを用いた電子写真用トナーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成は、静電荷像をトナーにより現像して可視化し、現像により得られたトナー像を用紙に転写した後、熱と圧力により定着させることにより行われる。
【0003】
上記トナーは、結着樹脂に着色剤や帯電制御剤などを配合した混合物を溶融混練し、粉砕及び分級して所定の粒度分布に調整することにより製造される。このようなトナーの結着樹脂として、従来、スチレン・アクリル樹脂や、ポリエステル樹脂などの石油由来の樹脂が使用されている。
【0004】
近年、環境への配慮から、廃棄時に環境への負荷の少ない生分解性樹脂、さらには、再生可能資源からつくられるバイオマスプラスチックを、トナー用樹脂として用いる方法が提案されている。なお、有限な資源への配慮と、環境負荷の低減に貢献する、バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックのことをバイオプラスチックと呼ぶ。
【0005】
本発明者らは、バイオプラスチックの分子量を調整し、バイオプラスチックをトナー用のメイン樹脂として使用することを可能にした。具体的には、市販のポリ乳酸をそのまま使用するのではなく、加水分解等により分子量を低減させることで、軟化温度を下げるとともに、粉砕性を改良した樹脂を得ることができた。
【0006】
しかし、分子量を低減した改質ポリ乳酸樹脂は、そのままトナーのメイン樹脂として使用した場合、更なる加水分解が起こって分子量が下がり、トナーが変質してしまう。そこで、特許文献1では、トナーに脂肪族のポリカルボジイミドを添加しポリ乳酸樹脂のカルボキシル基と反応させることで加水分解を抑制し、トナーの変質を防いでいる。
【0007】
しかしながら、ポリカルボジイミドは他のトナー材料に比べ非常に高価であり、トナー全体のコストアップに繋がるという問題があった。一方、コスト面からポリカルボジイミドの添加量を下げると加水分解抑制効果が低くなり、結果としてトナーが変質してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−2592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、結着樹脂としてバイオプラスチックを含み、加水分解抑制剤のコスト削減と、良好な保存性および耐久性とを両立させた電子写真用トナーおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、5,000〜50,000の重量平均分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂と、着色剤と、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドとからなる加水分解抑制剤とを含む電子写真用トナーであって、前記加水分解抑制剤が、トナー質量の5〜9質量%の量で含有されたことを特徴とする電子写真用トナーを提供する。
【0011】
また本発明の別の態様は、5,000〜50,000の重量平均分子量を有するバイオプラスチック、着色剤、および脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドからなる加水分解抑制剤を含む原料混合物を溶融混練する工程と、得られた混練物を粉砕、分級する工程を含み、前記加水分解抑制剤が、トナー質量の5〜9質量%の量で含有されたことを特徴とする電子写真用トナーの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加水分解抑制剤のコスト削減と、良好な保存性および耐久性とを両立させた電子写真用トナーおよびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を行った結果、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドをバイオプラスチックトナーの加水分解抑制剤として併用すると、加水分解抑制剤の総添加量を低減した場合であっても、加水分解抑制効果を発揮できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明の一実施形態に係る電子写真用トナーは、
5,000〜50,000の重量平均分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂と、着色剤と、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドとからなる加水分解抑制剤とを含む電子写真用トナーであって、
前記加水分解抑制剤が、トナー質量の5〜9質量%の量で含有されたことを特徴とする。
【0016】
本実施形態に係る電子写真用トナーにおいて、結着樹脂として使用するバイオプラスチックの重量平均分子量は、5,000〜50,000、好ましくは30,000〜40,000である。本実施形態では、バイオプラスチックの重量平均分子量が50,000を超える場合、5,000未満の場合のいずれの場合にも、粉砕性が劣り、トナー化が困難となる。
【0017】
上述の所定の重量平均分子量を有するバイオプラスチックおよび着色剤を含むトナー原料混合物に、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドからなる加水分解抑制剤を、トナー全体に対して5〜9質量%の総量で、好ましくは脂肪族カルボジイミドの含有量が芳香族カルボジイミドの含有量より多くなるように添加することにより、少ない加水分解抑制剤の添加量で、良好な保存性および耐久性を有する電子写真用トナーを得ることが可能となった。
【0018】
本実施形態において、加水分解抑制剤は、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドの組み合わせからなる。脂肪族カルボジイミドは、脂肪族炭化水素基を有するカルボジイミドを指し、モノカルボジイミド、ポリカルボジイミドの両方を包含する。また、芳香族カルボジイミドは、芳香環を有するカルボジイミドを指し、モノカルボジイミド、ポリカルボジイミドの両方を包含する。脂肪族カルボジイミドとして、たとえばカルボジライトLA−1(ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、日清紡ケミカル株式会社)などを使用することができ、芳香族カルボジイミドとして、スタバクゾールI(ワン)(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ラインケミー社製)、スタバクゾールI−LF(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ラインケミー社製)、スタバクゾールP(ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ラインケミー社製)、スタバクゾールP−400(ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド)、ラインケミー社製)などを使用することができる。これらカルボジイミドは、ポリ乳酸と反応してポリ乳酸の加水分解を抑制することができるものであれば特に限定されない。
【0019】
本実施形態において、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドからなる加水分解抑制剤は、トナー全体に対して、5〜9質量%、好ましくは6〜7質量%の量で含有させることができる。加水分解抑制剤の量が、トナー全体に対して、5質量%を下回ると、トナーの保存性や耐久性が低下し、9質量%を上回ると、添加量が多いためコスト高になる。
【0020】
なお、本明細書において、「トナー質量の○○質量%」や「トナー全体に対して○○質量%」といった場合の「トナー」は、外添剤を添加する前のトナー粒子を指し、外添剤は含まない。
【0021】
本実施形態において、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドの割合は、質量比で、脂肪族カルボジイミドが芳香族カルボジイミドより多くなるように配合され得る。すなわち、脂肪族カルボジイミドは、加水分解抑制剤の総質量の1/2以上を占めることができ、好ましくは、脂肪族カルボジイミドは、加水分解抑制剤の総質量の2/3以上を占め、より好ましくは、脂肪族カルボジイミドは、加水分解抑制剤の総質量の70〜90%を占める。
【0022】
本実施形態において、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドからなる加水分解抑制剤は、トナー原料の混合の際に添加されてもよいし、トナー原料の溶融混練の際に添加されてもよい。
【0023】
本実施形態に係る電子写真用トナーにおいて、結着樹脂として使用されるバイオプラスチックは、ポリ乳酸を用いることが出来る。ポリ乳酸は、乳酸がエステル結合により結合したポリマーであり、近年、環境に優しい生分解性プラスチックとして注目を集めている。即ち、自然界には、エステル結合を切断する酵素(エステラーゼ)が広く分布していることから、ポリ乳酸は環境中でこのような酵素により徐々に分解されて、単量体である乳酸に変換され、最終的には二酸化炭素と水になる。
【0024】
本実施形態で使用されるポリ乳酸の製造方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。原料となるとうもろこし等の澱粉を発酵し、乳酸を得た後、乳酸モノマーから直接脱水縮合する方法や乳酸から環状二量体を経て、触媒の存在下で開環重合によって合成する方法がある。乳酸には、光学異性体が存在し、L−乳酸とD−乳酸があるが、これら単独または混合物のいずれの乳酸を使用しても良い。ポリ乳酸の重量平均分子量は、重合時の反応条件を可変することで任意に調整することが可能である。
【0025】
商業的に販売されているポリ乳酸は耐熱性向上等のため、より高分子のポリ乳酸が得られる開環重合法で合成されたものであり、その数平均分子量は100,000以上のものが主流である。本実施形態で結着樹脂として使用されるバイオプラスチックは、5,000〜50,000の重量平均分子量を有する。したがって、所望の重量平均分子量のポリ乳酸は、市販のポリ乳酸を加水分解することにより得ることができる。
【0026】
ポリ乳酸を加水分解させる方法としては、恒温恒湿槽にポリ乳酸を置く方法が挙げられる。例えば、恒温恒湿槽を温度80℃、湿度80%RHに設定し、ポリ乳酸を処理すると、加水分解により分子量が低下し、数十時間でトナー用樹脂として適当な軟化温度、良好な粉砕性を得ることができる。
【0027】
また、ポリ乳酸を加水分解させる別の方法として、過熱水蒸気を使用する方法や、ポリ乳酸と水とを溶融混練する方法が挙げられる。
【0028】
本実施形態でトナー原料として使用される着色剤は、従来公知のものを使用できる。例えば、黒の着色剤としては、カーボンブラック、青系の着色剤としては、C.I.Pigment15:3、赤系の着色剤としては、C.I.Pigment57:1、122、269、黄色系の着色剤としては、C.I.Pigment74、180、185等が挙げられる。環境への影響を考慮すると、着色剤単体で安全性が高いものが好ましい。
【0029】
これら着色剤の含有量は、トナー全体に対して、1〜10質量%であることが好ましい。また、着色剤は、予め樹脂と着色剤を高濃度に分散したマスターバッチを使用しても良い。
【0030】
本実施形態のトナーには、必要に応じて、従来公知の離型剤を添加することができる。そのような離型剤としては、例えば、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス等のオレフィン系ワックスや、カルナウバワックス、ライスワックス、カイガラムシワックス等の天然ワックス、合成エステルワックス等が挙げられる。
【0031】
低温定着性や高速印字性能を向上させるには、60〜100℃程度と比較的低い融点を有する離型剤が好ましく、具体的には、カルナウバワックスや、合成エステルワックスが好ましい。環境への影響を考慮すると、天然物系のカルナウバワックスがより好ましい。離型剤の配合量は、トナー全体に対して、1〜15質量%であることが好ましい。
【0032】
本実施形態のトナーには、その原料として、必要に応じて、従来公知の帯電制御剤を添加することができる。例えば、正帯電制御剤として、4級アンモニウム塩、アミノ基を含有する樹脂等が、負帯電制御剤として、サルチル酸の金属錯塩、ベンジル酸の金属錯塩、カリックスアレン型のフェノール系縮合物、カルボキシル基を含有する樹脂などが挙げられる。帯電制御剤の添加量は、トナー全体に対して、0.1〜5質量%であることが好ましい。
【0033】
本実施形態のトナーには、バイオプラスチック以外に、必要に応じて、従来公知のトナー用樹脂を添加することができる。そのような樹脂としては、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂があるが、顔料分散性、低温定着性の観点から、トナー用に開発されたポリエステル樹脂が好ましい。これらの樹脂は単独であっても、2種類以上を混合しても構わない。これらの樹脂の配合量は、環境への影響を考慮すると、トナー全体に対して、0〜50質量%であることが好ましい。
【0034】
その他の材料として、粉砕性、定着性等の改善のため、低分子量の樹脂を添加することができる。ここで、低分子量の樹脂としては、分子量数百〜数千のオリゴマー領域の樹脂であり、粘着付与剤として市販されている。ロジン及びロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂等がある。
【0035】
本実施形態のトナーには、必要に応じて従来公知の結晶核剤を添加することができる。結晶核剤として、タルクなどの無機核剤、安息香酸ナトリウムなどの有機カルボン酸金属塩、リン酸エステル金属塩、ベンジリデンソルビトール、カルボン酸アミドなどの有機核剤、等が挙げられる。
【0036】
以上説明した電子写真用トナーは、従来公知の方法により製造することができる。
【0037】
例えば、5,000〜50,000の重量平均分子量に調整されたバイオプラスチック、着色剤、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドからなる加水分解抑制剤、および必要に応じてその他添加剤を含む原料を混合した後、2軸混練機や加圧ニーダー、オープンロールなどの混練機で混練し、混練物を得る。本実施形態では、加水分解抑制剤は、トナー質量の5〜9質量%の量で含有され、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドの割合は、質量比で、脂肪族カルボジイミドが芳香族カルボジイミドより多くなるように配合される。得られた混練物を冷却した後、ジェットミル等の粉砕機で粉砕し、風力分級機等で分級することで、トナーを得ることができる。
【0038】
ここで、トナーの粒径は特に限定されないが、通常5〜10μmとなるように調整される。このようにして得られたトナーに対し、流動性向上、帯電性調整、耐久性向上のため、外添剤を添加することができる。
【0039】
外添剤としては、無機微粒子が一般的であり、シリカ、チタニア、アルミナ等が挙げられ、そのうち疎水化処理されたシリカ(日本アエロジル(株)、CABOT(株)より市販)が好ましい。無機微粒子の粒径は、1次粒子径として、7〜40nmのものが良く、機能向上のため、2種類以上を混ぜ合わせても良い。
【実施例】
【0040】
以下に本発明の実施例と比較例を示し、本発明についてより具体的に説明する。
【0041】
<分子量を低減したポリ乳酸の調製>
海正生物ポリ乳酸「REVODE110」を温度80℃、湿度80%RHに設定した恒温恒湿槽に入れ加水分解させた。処理時間を可変し、重量平均分子量の異なるポリ乳酸を得た。すなわち、20時間の処理により分子量40,000のポリ乳酸を得、22時間の処理により分子量35,000のポリ乳酸を得、24時間の処理により分子量30,000のポリ乳酸を得た。
【0042】
加水分解処理して得られた低分子量ポリ乳酸を結着樹脂として用いて、以下に記載のとおりトナーを製造した。
【0043】
<トナーの製造>
実施例1
結着樹脂として、重量平均分子量を低減したポリ乳酸(分子量35,000、軟化点145℃)62.5質量部、着色剤として、マゼンタ顔料マスターバッチ(山陽色素(株)製/40%濃度)12質量部、離型剤として、カルナウバワックス1号粉末(日本ワックス(株)製)6質量部、帯電制御剤として、LR−147(日本カーリット(株)製)1.5質量部、加水分解制御剤として、脂肪族カルボジイミドLA−1(日清紡ケミカル(株)製)7質量部、および芳香族カルボジイミド スタバクゾールI(ラインケミー社製)1質量部、その他樹脂として、ペンセルD135(荒川化学工業(株)製)10質量部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製、標準羽装着)に投入し混合した。得られた混合粉体を2軸押出機(スクリュウ径43mm、L/D=34)で溶融混練したあと、延伸、冷却し、ロートプレックス(ホソカワミクロン(株)製、2mmスクリーン)で粗砕した後、粉砕機(ホソカワミクロン(株)製、AFG−200)・分級機(ホソカワミクロン(株)製、TTSP−100)にて、トナー平均粒径が6.0μmになるように粉砕分級を行い、着色微粒子を得た。得られた着色微粒子100質量部に外添剤として、「RY50」(日本アエロジル(株)製:疎水性シリカ、1次粒子径40nm)を2.5質量部、「TG−810G」(キャボット製:疎水性シリカ、1次粒子径7nm)を0.3質量部添加し、「TG−C190」(キャボット製:疎水性シリカ、1次粒子径115nm)を1.3質量部添加し、ヘンシェルミキサーで混合を行い、篩を行いトナーを得た。
【0044】
実施例2〜12、比較例1〜9
実施例2〜12、比較例1〜9では、下記表1に記載されるとおり、ポリ乳酸や加水分解抑制剤の組成を変化させ、実施例1と同様にトナーを作成した。実施例9、10、比較例8では、重量平均分子量30,000のポリ乳酸を使用し、実施例11、12、比較例9では、重量平均分子量40,000のポリ乳酸を使用した。また、実施例3、4、7、8、11、12、比較例5、7では、芳香族カルボジイミド スタバクゾールIの代わりに、芳香族カルボジイミド スタバクゾールP(ラインケミー社製)を使用した。
【0045】
それぞれのトナーについて、酸価、ガラス転移温度(Tg)、保存性、コスト優位性、耐久性を測定または評価した。それぞれの測定と評価の仕方について以下に示す。
【0046】
試験1.酸価の測定
得られたトナー3.0gを約40℃に加熱したテトラヒドロフラン(THF)50mlに溶解させ、自動滴定装置COM−1700(平沼産業(株)製)にセットし、0.1mol/Lの水酸化カリウム溶液で滴定を行い、酸価を算出した。
【0047】
試験2.ガラス転移点(Tg)の測定
装置:示差走査熱量計((株)島津製作所製:DSC−60)
試料:8mg
昇温条件:10℃/分で160℃まで昇温し、降温速度10℃/分で35℃まで冷却した後、再度10℃/分で160℃まで昇温する。
2回目の昇温時において、転移により得られる曲線部分の2つの接線の交点をガラス転移点とした。
【0048】
試験3.保存性
得られたトナー10gをガラスビーカーに入れ、50℃、90%RHの恒温恒湿槽に5h放置したあと、トナーの凝集状態を目視で確認した。
(評価基準)
○:トナーの凝集がまったく認められない。
△:トナーの凝集がわずかに認められる。
×:トナーの凝集がはっきりと認められる。
【0049】
試験4.コスト優位性
加水分解抑制剤の添加量がコストに大きく影響しているので、添加量が多い場合(10質量%以上の場合)はコスト優位性を×と評価し、添加量が8質量%以上10質量%未満の場合はコスト優位性を△と評価し、添加量が低い場合(8質量%未満の場合)はコスト優位性を○と評価した。
【0050】
試験5.耐久性
N3600(カシオ計算機(株)製)プリンタを改造し、2成分現像装置とし、デベ濃度8%に調整した。キャリア(C−1:パウダーテック(株)製)。1.7%2枚間欠印字を2万枚まで行い、定期的にサンプリングし、スジなどを確認した。
スジが発生している場合などは×と評価し、良好な場合は○と評価した。
【0051】
試験1〜5の結果を下記表1に示す。
【表1】

【0052】
実施例1では、脂肪族カルボジイミド「LA−1」を7質量部、芳香族カルボジイミド「スタバクゾールI」を1質量部配合しトナー化を行った。その結果、トナーの酸価が非常に低くなり、保存性、耐久性ともに問題なく良好なトナーが得られた。実施例1は、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドを併用することにより、脂肪族カルボジイミドを単独で使用して良好な保存性、耐久性を得た場合(比較例1)と比較して、加水分解抑制剤の総添加量を低減することができた。
【0053】
実施例2では、脂肪族カルボジイミド「LA−1」を5質量部、芳香族カルボジイミド「スタバクゾールI」を1質量部配合しトナー化を行った。保存性、耐久性ともに問題なく良好なトナーが得られた。実施例2は、実施例1以上に、加水分解抑制剤の総添加量を低減することができた。
【0054】
実施例5および6では、実施例1および2と比較して、芳香族カルボジイミド「スタバクゾールI」の配合割合を増やしてトナー化を行った。保存性、耐久性ともに問題なく良好なトナーが得られた。実施例5および6も、比較例1と比較して、加水分解抑制剤の総添加量を低減することができた。
【0055】
実施例3、4、7、8では、芳香族カルボジイミドを「スタバクゾールP」に変更し同様の試験を行い、保存性、耐久性ともに良好な結果を得た。また、実施例9〜12では、ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量を30,000、40,000に変えてトナー化を行い、保存性、耐久性ともに良好な結果を得た。これら結果も、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドを併用することにより、加水分解抑制剤の総添加量を低減できることを示す。
【0056】
これに対し、比較例1では、脂肪族カルボジイミドを単独で10質量部添加しトナー化を行った。トナー性能としては問題なかったが、添加量が10質量部と多いためにコスト高になった。
【0057】
比較例2、3は、「LA−1」の単独での添加量をそれぞれ8質量部と6質量部に下げ、コスト優位性を上げたが、トナーの酸価があまり低くならず、保存性、耐久性ともに良好な結果が得られなかった。
【0058】
比較例4、5では、芳香族カルボジイミドを単独で10質量部添加したが、ポリ乳酸との反応性が乏しく、トナー保存性、耐久性ともに良好な結果が得られなかった。
【0059】
比較例6〜9では、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドを併用して用いたが、その総添加量を4質量部とした。そのため、比較例6〜9は、加水分解抑制剤のポリ乳酸との反応量が足らず、保存性、耐久性ともに良好な結果が得られなかった。
【0060】
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 5,000〜50,000の重量平均分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂と、着色剤と、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドとからなる加水分解抑制剤とを含む電子写真用トナーであって、前記加水分解抑制剤が、トナー質量の5〜9質量%の量で含有されたことを特徴とする電子写真用トナー。
[2] 前記脂肪族カルボジイミドの含有量が、前記芳香族カルボジイミドの含有量より多いことを特徴とする[1]に記載の電子写真用トナー。
[3] 前記バイオプラスチックがポリ乳酸であることを特徴とする[1]または[2]に記載の電子写真用トナー。
[4] 5,000〜50,000の重量平均分子量を有するバイオプラスチック、着色剤、および脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドからなる加水分解抑制剤を含む原料混合物を溶融混練する工程と、
得られた混練物を粉砕、分級する工程
を含み、
前記加水分解抑制剤が、トナー質量の5〜9質量%の量で含有されたことを特徴とする
電子写真用トナーの製造方法。
[5] 前記脂肪族カルボジイミドの含有量が、前記芳香族カルボジイミドの含有量より多いことを特徴とする[4]に記載の電子写真用トナーの製造方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5,000〜50,000の重量平均分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂と、着色剤と、脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドとからなる加水分解抑制剤とを含む電子写真用トナーであって、前記加水分解抑制剤が、トナー質量の5〜9質量%の量で含有されたことを特徴とする電子写真用トナー。
【請求項2】
前記脂肪族カルボジイミドの含有量が、前記芳香族カルボジイミドの含有量より多いことを特徴とする請求項1記載の電子写真用トナー。
【請求項3】
前記バイオプラスチックがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真用トナー。
【請求項4】
5,000〜50,000の重量平均分子量を有するバイオプラスチック、着色剤、および脂肪族カルボジイミドと芳香族カルボジイミドからなる加水分解抑制剤を含む原料混合物を溶融混練する工程と、
得られた混練物を粉砕、分級する工程
を含み、
前記加水分解抑制剤が、トナー質量の5〜9質量%の量で含有されたことを特徴とする
電子写真用トナーの製造方法。
【請求項5】
前記脂肪族カルボジイミドの含有量が、前記芳香族カルボジイミドの含有量より多いことを特徴とする請求項4記載の電子写真用トナーの製造方法。

【公開番号】特開2013−61405(P2013−61405A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198402(P2011−198402)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000104124)カシオ電子工業株式会社 (601)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】