説明

バイオ炭化水素、バイオ炭化水素の製造方法、およびバイオ炭化水素製造装置

【課題】植物油を水素化処理することにより、低温流動性、融点、炭素数等、その用途に応じて制御された特性をもつバイオ炭化水素の製造方法を提供することにある。
【解決手段】植物油を水素化処理することにより、バイオ炭化水素を製造する方法であって、触媒担体に触媒成分を担持させた水素化処理触媒の存在下において、所定の水素ガス流量、植物油流量、水素ガス流量と植物油流量の比率(水素ガス流量/植物油流量)を設定し、植物油と水素ガスを反応させる工程、前記工程により得られた水素化植物油を精製する工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物油を水素化処理することにより、低温流動性等、その用途に応じて制御された特性をもつバイオ炭化水素、このバイオ炭化水素の製造方法、およびバイオ炭化水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能であり、かつ二酸化炭素を固定する観点から、植物由来のバイオ炭化水素の導入が検討されている。ここで、バイオ炭化水素とは、低温粘度特性に優れたバイオ炭化水素をいい、具体的には、一定の炭素数からなる炭化水素から構成され、透明性に優れ、低い融点をもち、かつその粘度が低い炭化水素である。現在、バイオ炭化水素としては、いわゆる脂肪酸メチルエステル(Fatty Acid Methyl Ester、以下「FAME」という。)が主流となっている。しかしながら、脂肪酸メチルエステル(FAME)は、油脂をメチルエステル化する工程において、副産物として原料である油脂の10%程度のグリセリンが生成してしまい、さらに、このグリセリンには、触媒や未変換の脂肪酸が混入していることから、バイオ炭化水素としての品質に問題がある。
【0003】
いわゆる第2世代、第3世代バイオ炭化水素として、水素化植物油やBLT(Bio to Liquid)が提案されている。水素化植物油は、触媒存在下で植物油と水素を高温高圧下で反応させることによって、植物油アルキル鎖の部分を飽和炭化水素としたものである。またBLTは、植物をガス化し、そのガスからいわゆるFT合成を経由して炭化水素を製造して、BLTを得るものである。水素化植物油及びBLTは、共に、従来の軽油等の炭化水素と同様の取り扱いが可能である。また、原油をその原料として採用していないため、サルファーゼロという品質上のメリットもあり、その製造工程においても脱硫等の工程が不要となるメリットを有する。
【0004】
上記植物油の水素化処理方法は、水素化により植物油の不飽和結合を飽和化し、酸素を除去すると同時に、植物油(トリグリセライド)が分解されるものである。水素化脱酸素反応においては、高温高圧雰囲気中、触媒存在下、植物油(トリグリセリド)と水素から、水素化反応(脱水)と、脱カルボニル反応、と脱二酸化炭素反応により、パラフィン系炭化水素、水、プロパンが生成する。例えば、触媒として水素化脱硫触媒、植物油として精製パーム油を使用し、反応圧力6MPa、反応温度260℃以上に設定することによって、パーム油は完全に分解され、85%程度の軽油留分(水素化処理パーム油)、10%の水、5%のガス(二酸化炭素、メタン、プロパン)が生成することが開示されている。得られた水素化処理パーム油は、炭素数15(C15)〜炭素数18(C18)の直鎖炭化水素で構成され、軽油に近い物性を有しており、低温流動性に劣るものであることが記載されている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
すなわち、上記植物油の水素化処理方法により製造された植物由来のバイオ炭化水素は、その成分として、n−パラフィンが主体となっているので、バイオ炭化水素単独では、5〜10℃程度の温度において低温流動性に欠けるという問題点を有する。このため、低温流動性が必要とされる用途の場合には、石油由来の炭化水素等の溶剤と混合し、低温流動性等の所定の物性を確保しなければならないという問題点がある。例えば、植物油由来のバイオ炭化水素を単独でインク等の溶剤として使用する場合には、インク等の溶剤として好適に使用とされる粘度等の所定の物性を満たす必要がある。
【0006】
なお、本発明者は、本件発明に関連する文献公知発明が記載された刊行物として、以下の技術文献を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】小山等「自動車燃料のための植物油の水素化処理工程」(SAE paper, No.2007−01−2030(2007)1−6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、植物油を水素化処理することにより、低温流動性等、その用途に応じて制御された特性をもつバイオ炭化水素、このバイオ炭化水素の製造方法、およびバイオ炭化水素製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、植物油を特定の触媒存在下、一定条件下において、水素化処理することにより、その分子量や粘度、沸点、融点等の諸物性を制御しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明のバイオ炭化水素の製造方法は、植物油を水素化処理することにより、バイオ炭化水素を製造する方法であって、(a)触媒担体に触媒成分を担持させた水素化処理触媒の存在下において、(b)水素ガスを1.0〜100気圧、(c)前記植物油の流量を液空間速度0.1〜10.0h−1、(d)前記水素ガスの流量と前記植物油の流量の比率(前記水素ガスの流量/前記植物油の流量)を50〜4000NL/Lに設定し前記植物油と、前記水素ガスを反応させる工程を有することを特徴とする。
【0011】
ここで、限定されるわけではないが、植物油は、ココナッツ油、ヒマワリ油、米油、大豆油、オリーブ油、綿実油、菜種油、パーム油、大豆油、ホウレンボク、アブラヤシ、ココヤシ、ジャトロファ油から選ばれる1種以上であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、触媒成分は、モリブデン、タングステン、クロム、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウム、白金、ルテニウムから選ばれる1種以上の金属であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、触媒担体は、アルミナ、チタニア、シリカ−アルミナ、シリカ、活性炭、ゼオライトからなる群の中から選択される1種以上であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、触媒担体は、60〜99.9質量%のアルミナと0.01〜40質量%のゼオライトとの混合物であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、触媒担体は、触媒担体の質量に対して0.1〜5.0質量%のリン及び/又はホウ素を含有することが好ましい。また、限定されるわけではないが、水素化処理触媒は異種触媒の組合せからなることが好ましい。
【0012】
本発明のバイオ炭化水素は、上記のバイオ炭化水素の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0013】
本発明のバイオ炭化水素製造装置は、植物油を水素化処理することにより、バイオ炭化水素を製造するバイオ炭化水素製造装置であって、植物油供給手段と、水素ガス供給手段と、植物油流量と、水素ガス流量を調整する手段を備え、前記植物油供給手段により供給された植物油と前記水素ガス供給手段により供給された水素ガスとを水素化触媒存在下で反応させる反応部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、植物油を所定の条件にて水素化処理することにより、炭素数が制御され、かつ低温(−40℃〜20℃)粘度特性に優れたバイオ炭化水素を製造することができる。
また、本発明によれば、植物油を極めて高い効率にて水素化することにより、バイオ炭化水素を製造することができ、しかもバイオ炭化水素と触媒成分との分離が容易であり、かつバイオ炭化水素の回収が容易なバイオ炭化水素の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】バイオ炭化水素の製造方法のプロセスを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明のバイオ炭化水素の製造方法は、植物油を水素化処理することにより、バイオ炭化水素を製造する方法であって、(a)触媒の存在下において、(b)水素ガスを1.0〜100気圧、(c)前記植物油の流量を液空間速度0.1〜10.0h−1、(d)前記水素ガスの流量と前記植物油の流量の比率(前記水素ガスの流量/前記植物油の流量)を50〜4000NL/Lに設定し、前記植物油と前記水素ガスを所定温度に保持し、反応させる工程を有することを特徴とする。
【0018】
まず、本発明のバイオ炭化水素の製造方法において、原料である植物油と水素ガスを所定の条件下において反応させる工程について説明する。
本工程において、植物油とは、特に制限されるものではないが、例えば、ココナッツ油、ヒマワリ油、米油、大豆油、オリーブ油、綿実油、菜種油、パーム油、大豆油、ホウレンボク、アブラヤシ、ココヤシ、ジャトロファ油を例示することができる。
【0019】
ジャトロファ油は、ジャトロファの果実を精製して得られる。ジャトロファは、東南アジア原産の落葉広葉樹であり、種子に高い密度で油分が含まれている。ジャトロファは、荒地でも栽培することができるため、森林伐採の必要性がなく、しかも挿木が可能なため栽培の観点から好ましい植物である。また、ジャトロファは、背丈が程度で人よりも低く、そのため収穫がし易い。さらに、ジャトロファ自身毒性を有するため、雑草、害虫のケアを要しない。その寿命は、50年と長く、結実時期は3年である。1ヘクタール当たりのジャトロファ木の本数は、1300本〜2500本ときわめて収穫性に優れているものである。ジャトロファの用途としては、前述したように毒性を有することから、食品として使用することはできない。ジャトロファ種子・花房あたりの油収率は、30%〜40%と、たとえばパームの油収率である20%と対比すると、きわめて高いものである。1ヘクタール当たりのジャトロファから得られる年間油収は、5〜6トン/ha以上であり、しかも安定性に優れているものである。なお、ジャトロファを精製して、ジャトロファ油を得た後のいわゆる搾りかすは、肥料や燃料として使用することができる。
【0020】
本発明のバイオ炭化水素の製造方法は、水素化処理触媒の存在下において、植物油を水素化することを特徴とする。上記触媒は、植物油中のトリグリセリドを水素化することによって分解することができる触媒であれば特に制限されるものではない。例えば、固体触媒担体にブレンステッド酸性又はルイス酸性の酸性官能基が担持されたいわゆる固体酸触媒や、塩基性の官能基が担持されたいわゆる固体塩基触媒、及び遷移金属酸化物が固体担体に担持された遷移金属酸化物触媒等を例示することができる。
【0021】
上記触媒の一形態としては、所定の触媒担体に、遷移金属等の触媒成分を所定量担持させたものを例示することができる。上記触媒担体は、アルミナや、アルミナを主成分としたシリカ等の複合酸化物を含有するもの及びゼオライト等を使用することができる。上記触媒担体の中でも、その触媒の比表面積を大きくする観点から、アルミナ又はアルミナを主成分とするものが好ましい。上記アルミナとしては、多孔質であるγ−アルミナ(γ−Al)であると好ましいが、α−アルミナ、β−アルミナ、非晶質アルミナなどであってもよい。担体の主成分であるアルミナは、アルミニウム塩とアルミン酸塩を中和または加水分解する方法、あるいはアルミニウムアマルガムまたはアルミニウムアルコレートを加水分解する方法のいずれの方法からのアルミナ中間体を経由してもよく、これらの方法以外に市販のアルミナ中間体やベーマイトパウダーを前駆体として使用してもよい。
【0022】
触媒担体は、アルミナの他にもシリカ(SiO)、シリカ−アルミナ(SiO/Al)、ボリア(B)、チタニア(TiO)、マグネシア(MgO)、活性炭またはこれらの複合酸化物等を含んでもよい。またリン及び/又はホウ素を含有してもよい。リン及び/又はホウ素の含有量は、担体質量に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましい。リン及び/又はホウ素の含有量が触媒担体の質量に対して、0.1質量%未満であると、触媒の水素化脱酸素活性が十分でないため好ましくない。リン及び/又はホウ素の含有量が担体質量に対して5.0質量%を超えると、触媒上に酸性質を発現し、コーク生成を促進することにより、触媒の水素化脱酸素活性に影響が生じ好ましくない。
【0023】
さらに、上記所定の担体は、ゼオライト(Zeolite)であってもよい。ゼオライトは、結晶中に微細孔を有するアルミノケイ酸塩であり、例えば、アミサイト(単斜晶系)、アンモニウム白榴石、方沸石、バレル沸石、ベルベルゲイト、ビキタイト、ボッグサイト、菱沸石、灰菱沸石、ソーダ菱沸石、カリ菱沸石、斜プロチル沸石、カリ斜プロチル沸石、ソーダ斜プロチル沸石、灰斜プロチル沸石、コウルス沸石、ダキアルディ沸石、灰ダキアルディ沸石、ソーダダキアルディ沸石、エディトン沸石、剥沸石、エリオン沸石、ソーダエリオン沸石、カリエリオン沸石、灰エリオン沸石、フェリエ沸石、苦土フェリエ沸石、カリフェリエ沸石、ソーダフェリエ沸石、ガロン沸石、ギスモンド沸石、グメリン沸石、ソーダグメリン沸石、灰グメリン沸石、カリグメリン沸石、ゴビンス沸石、ゴナルド沸石、重土十字沸石、輝沸石、灰輝沸石、ストロンリチウム輝沸石、ソーダ輝沸石、カリ輝沸石、濁沸石、白榴石、灰レビ沸石、ソーダレビ沸石、中沸石、ソーダ沸石、十字沸石、ソーダ十字沸石、カリ十字沸石、灰十字沸石、ポルクス石、スコレス沸石、ステラ沸石、束沸石、灰束沸石、ソーダ束沸石、トムソン沸石、ワイラケ沸石、湯河原沸石などのゼオライト化合物を例示することができる。
【0024】
また、触媒担体は、Y型ゼオライト、X型ゼオライト、ZSMゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種類のゼオライトとの混合物であってもよい。これらのゼオライトの中でも、ZSMゼオライトであることが好ましい。本実施形態の触媒の担体中におけるゼオライトの質量は、担体の質量に対し0.01〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜20質量%、またより好ましくは、0.9〜10質量%である。0.01質量%未満であると、バイオ炭化水素の低温特性に優れないため好ましくない。ゼオライトの質量の割合が40質量%を超えると、触媒活性が低下するため好ましくない。
【0025】
なお、本発明のバイオ炭化水素の製造方法において植物油の水素化脱酸素反応がどのような反応機構により進行しているか明らかではない。現在のところ、上述したような触媒担体により、植物油の水素化脱酸素生成物の異性化反応や、植物油の水素化クラッキング反応により進行しているものと考えられる。
【0026】
本実施形態の水素化処理触媒を構成する触媒成分は、周期律表第6A族及び第8族の遷移金属である。好ましい周期律表第6A族及び第8族の元素としては、例えば、モリブデン、タングステン、クロム、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウム、白金、ルテニウム及びこれらの酸化物を例示することができる。また、上記触媒成分は、これらの触媒成分を組み合わせた触媒成分であってもよい。そのような触媒成分の組み合わせとしては、具体的には、例えばコバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、コバルト−タングステン、ニッケル−タングステン等の2元触媒成分の組み合わせを例示することができる。3元触媒成分の組み合わせとしては、たとえば、コバルト−ニッケル−モリブデンなどの組み合わせを例示することができる。これらの2元触媒成分の組み合わせのうち、特にニッケル−モリブデンの組み合わせは、水素化脱酸素活性が特に高い傾向にあるので、より好ましい。
【0027】
このような触媒成分の担持量は、水素化処理触媒質量に対し金属酸化物換算で、6A族金属が5〜40質量%、8族金属が0.5〜6質量%であると好ましく、6A族金属が10〜30質量%、8族金属が0.5〜2質量%であるとさらに好ましい。
【0028】
上記所定の担体と、触媒成分から構成される水素化処理触媒は、従来の方法により調製でき、例えば以下のようにして調製される。まず、所定の担体を得るために、従来の方法により得られるアルミナゲル含有液、ベーマイトパウダー、アルミナ懸濁液あるいは捏和物などの「アルミナ前駆体」を準備する。次いで、担体を修飾する金属酸化物を導入するために、その金属の酢酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、ナフテン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩あるいは各種配位化合物などを水あるいは有機溶剤に溶解した溶液を、上記アルミナ前駆体に添加あるいは共沈等の方法により配合する。これらのなかでも、溶液のイオンの安定性の観点から、酢酸塩もしくは硝酸塩を用いると好ましく、酢酸塩を用いるとさらに好ましい。なお、硫酸塩若しくは塩化物の対アニオンが微量に残存すると、アルミナ表面の酸性質を変性させ、水素化脱硫選択性に影響を及ぼすことがある。この配合物を必要に応じて混練、乾燥、成形、焼成等することにより担体を得る。なお、担体を修飾する金属酸化物は、担体を焼成した後に、その金属の酢酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、ナフテン酸塩あるいは各種配位化合物などを水あるいは有機溶剤に溶解したものを担体に含浸等することにより導入してもよい。
【0029】
なお、これらの触媒成分である金属酸化物による担体の修飾は、触媒活性点を触媒成分が被覆し、水素化脱酸素活性を低下させることを防ぐ観点から、触媒担体に触媒成分を担体に含浸担持させるよりも前に行うことが好ましい。
【0030】
次いで、触媒成分は、その触媒成分の炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩若しくは酸化物の水溶液または水溶性有機溶媒を用いたもの若しくは非水溶性有機溶媒を用いたものを、含浸法もしくはイオン交換法等の担持法を用いて担体に担持される。なお、2元触媒成分又は3元触媒成分又はそれ以上の複数の触媒成分を担持する場合には、触媒成分の混合溶液を用いて同時に担持してもよく、または単独溶液を用いて逐次担持してもよい。担体への活性金属の担持は担体の全調製工程の終了後に行ってもよく、あるいは、担体の調製の中間工程において適当な酸化物、複合酸化物、ゼオライト等に活性金属を担持した後、ゲル調合工程、加熱圧縮、混練等の工程を行ってもよいが、担体の全調製工程の終了後に行うことが好ましい。そして、活性金属を含浸担持したものを所望の条件で焼成することにより、本実施形態の水素化処理触媒を得ることができる。
【0031】
水素化処理触媒は、従来方法と同様に、上述した水素化処理触媒調製の際の種々の条件を変化させることにより、その平均細孔径、細孔容積若しくは比表面積を適宜調整することができる。
【0032】
水素化処理触媒の平均細孔径は、3〜10nmであることが好ましく、5〜9nmであるとより好ましい。平均細孔径が3nm未満であると、反応分子が細孔内で十分拡散しない傾向にあり、10nmを超える場合には、水素化処理触媒の表面積が減少するため活性の低下に繋がる傾向にあるため好ましくない。
【0033】
本実施形態の水素化処理触媒の細孔容積は、0.3mL/g以上であると好ましい。細孔容積が0.3mL/g未満であると、水素化処理触媒への金属含浸操作が困難となる傾向にあるため好ましくない。
【0034】
さらに、該水素化処理触媒の比表面積は100m/g〜400m/gであることが好ましい。水素化処理触媒の活性の観点から、この比表面が、100m/g未満であると、活性金属を担持できる面積が小さくなり、触媒活性が低下するため好ましくない。なお、水素化処理触媒の比表面積および細孔容積測定は、BET法に基づく窒素ガス吸着法により求められ、平均細孔径は、比表面積および細孔容積より算出される。
【0035】
本実施形態においては、水素化処理触媒を焼成後製造した触媒を、硫化処理又は水素化処理することにより、触媒を活性するための前処理を行うことができる。上記いずれの前処理の条件は、特に限定されないが、通常は、硫化処理の場合、200〜450℃、硫化水素や燃料油に硫黄化合物を添加したものを使用し、1〜10時間で処理すればよい。また、水素化処理の場合、200〜450℃、水素を使用し、1〜10時間で処理すればよい。
【0036】
次に、本発明のバイオ炭化水素の製造方法の一実施形態について説明する。本実施形態のバイオ炭化水素の製造方法は、所定の反応条件の下、水素ガスと共に本発明の水素化処理触媒を充填した触媒層に通過させることにより水素化処理を行い、生成油であるバイオ炭化水素を得るものである。
【0037】
本発明のバイオ炭化水素の製造方法は、所定の条件下において上記植物油を水素化処理することに特徴を有する。植物油を処理する際の水素圧力は、1.0〜100気圧であることが好ましい。更に好ましくは、5〜100気圧であり、最も好ましくは、10〜50気圧である。水素圧力が、1.0気圧未満であると、植物油の水素化が十分にされないため好ましくなく、100気圧を超えると設備投資やコストが高くなるため好ましくない。
【0038】
本発明においては、水素ガス流量との関係において、植物油流量を所定の値に設定することが必要となる。具体的には、前記植物油流量を液空間速度0.1〜10.0h−1に設定し、前記水素ガス流量と前記植物油流量の比率(前記水素ガス流量/前記植物油流量)を50〜4000NL/Lとすることによって、本発明のバイオ炭化水素を製造することができる。植物油流量を液空間速度は、好ましくは、0.1〜10.0h−1であり、更に好ましくは、0.2〜5.0h−1であり、最も好ましくは、0.5〜4.0h−1である。前記植物油流量の液空間速度が、0.1h−1未満であると、植物油の処理量が低くなることであるため好ましくなく、前記植物油流量の液空間速度が、10.0h−1を超えると脱酸素反応が十分でないことであるため好ましくない。
【0039】
前記水素ガス流量と前記植物油流量の比率(前記水素ガス流量/前記植物油流量)は、50〜4000NL/Lに設定する。上記比率は、好ましくは、100〜3000NL/L、最も好ましくは、500〜2500NL/Lである。上記比率が50未満であると、脱酸素反応が十分でないことであるため好ましくなく、比率が4000を超えると、水素消費量が高くなり、循環する水素量が多くなり、操作コストが高くとなるため好ましくない。
【0040】
上記条件設定を行い、前記植物油と水素ガスを所定温度に保持する。植物油と水素ガスを反応させる温度は、水素化処理により、対象とする植物油の水素化反応による脱水素と脱酸素が十分に超える範囲であれば、特に制限されるものではないが、好ましくは、100℃〜450℃であることが必要となる。上記温度範囲は、好ましくは、250℃〜450℃で、最も好ましくは、250℃〜400℃で、100℃未満であると、水素化脱酸素反応による植物油からバイオ炭化水素への転換率が低いとなり好ましくなく、450℃を超えると、植物油の分解による触媒寿命が短くなり、生成したバイオ炭化水素の品質が低下となり好ましくない。
【0041】
<実験装置>
本実施例では、図1に示すような構成の高圧固定床流通式反応装置を用い、反応管内部に触媒を充填し、1段階反応で植物油の水素化処理反応を行った。反応器は、内径8mm、触媒有効充填長30mmの管状反応器を用い、触媒層には熱電対を中心に設置し、触媒層の温度を実測した。反応器は、電気炉により温度調整を行い、反応生成物は、冷却器で冷却した後、凝縮成分と非凝縮成分の分離を行い、それぞれについて分析を行った。水素流量は、流量制御弁にてコントロールした。原料液である植物油の供給には高圧液体ポンプを用いた。
【0042】
<バイオ炭化水素の分析>
反応後の生成物であるバイオ炭化水素の非凝縮成分について、TCDおよびFID検出器付きガスクログラフィー(GC-TCDおよびGC-FID)を用いて分析した。それらの定性分析にはGC-MASSを用いた。生成物であるバイオ炭化水素の凝縮成分について、直接、あるいは脂肪酸エステルを水酸化カリウムの存在下メタノールとの脂肪酸メチルエステルに転換して、GC-FIDを用いて分析を行った。
【0043】
<バイオ炭化水素の用途>
本発明のバイオ炭化水素の製造方法により得られた炭化水素は、たとえば、液体燃料および燃料添加剤、印刷用インク等の工業用溶剤、化粧品およびその他の化成品原料等に使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明は、何らこれらに限定されるものではない。なお、本発明は、上述の実施の形態に限らす、本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることは勿論である。
【0045】
(製造例1)
アルミナ担体モリブデン触媒(触媒A)の調製
触媒Aの触媒担体として、アルミナ担体を採択し、その8.4グラムに対して、触媒組成として酸化モリブデン(MoO)が20質量%となるように、モリブデン酸アンモニウム4水和物((NHMo24・4HO)をビーカーに入れ、所要量の純水で完全に溶解させてモリブデン酸アンモニウム水溶液を調製する。そこにγ−アルミナ担体(25−80メッシュ、日本ケッチェン社製)を入れ、振蕩しながらサンドバスで加熱し水分を蒸発させてモリブデン酸アンモニウムを含浸させる。さらに120℃で2時間乾燥させた後、450℃で12時間焼成して20質量%モリブデン酸γ−アルミナ触媒(MoO/γ−Al)10gを得た。これを触媒Aとする。
【0046】
(製造例2)
アルミナ担体モリブデン/ニッケル触媒(触媒B)の調製
触媒組成として、酸化ニッケルが、3.5質量%となるように、硝酸ニッケル6水和物をビーカーに入れ、所要量の純水で完全に溶解させて硝酸ニッケル水溶液を調製した。そこに、製造例1で得られた触媒Aを入れ、振蕩しながらサンドバスで加熱し水分を蒸発させて硝酸ニッケルを含浸させる。さらに、120℃で2時間乾燥させた後、450℃で12時間焼成して、20質量%モリブデン酸化物−3.5質量%ニッケル酸化物−γ−アルミナ触媒(酸化モリブデン−酸化ニッケル/γ−Al)10gを得た。これを触媒Bとする。
【0047】
(製造例3)
アルミナ担体白金触媒(触媒D)の調製
触媒成分として、モリブデン酸アンモニウム4水和物の代わりに、塩化白金を用いて、実施例1と同様にアルミナ担体に白金を担持した触媒Dを調製した。
【0048】
(製造例4)
アルミナ担体白金/パラジウム触媒(触媒C)の調製
硝酸ニッケルの変わりに、塩化パラジウムを用いて、製造例2と同様に、製造例3で得られた触媒Dを入れ、アルミナ担体に白金とパラジウムを担持した触媒(触媒C)を調製した。
【0049】
(製造例5)
アルミナ/ゼオライト混合担体モリブデン/ニッケル触媒(触媒E)の調製
ポリテトラフルオロエチレンビーカーに、市販のベーマイトパウダー(触媒化成工業社製)とシリカアルミナパウダー(触媒化成工業社製)を、ケイ素/アルミニウムの原子数の比が15となるように混合し、蒸留水を加えて、加熱しながら濃縮、混練して粘土状の混練物を得た。この混練物に、ゼオライトとしての合成したプロトン型ZSM−5(ケイ素/アルミニウムの原子数の比:40)を酸化物換算で触媒全量の65質量%となるように加え、さらに混練した。得られた混練物を押出し成形機によって直径1.5mmのシリンダーの形状に押し出し、110℃で1時間乾燥した後、500℃で焼成し、成形担体を得た。このアルミナ担体とゼオライトの混合担体を用いて、製造例1と同様にして、触媒Eを調製した。
【0050】
(製造例6)
リン添加アルミナ担体/モリブデン/ニッケル触媒(触媒F)の調製
所定量のP2O5になるように、リン酸二水素一アンモニウム((NH4)H2PO4)をビーカーに入れ、所要量の純水で完全に溶解させてリン酸二水素一アンモニウム水溶液を調製した。アルミナ担体を入れ、振蕩しながらサンドバスで加熱し水分を蒸発させてリン酸二水素一アンモニウムを含浸させる。さらに120℃で2時間乾燥させた後、450℃で12時間焼成してリンを添加したアルミナ担体を得た。リンを添加したアルミナ担体を用いて製造例2と同様に、触媒Fを調製した。
【0051】
(製造例7)
リン/ホウ素添加アルミナ担体モリブデン/ニッケル触媒(触媒G)の調製
所定量のB2O3になるように、ホウ酸(H3BO3)をビーカーに入れ、所要量の純水で完全に溶解させてホウ酸水溶液を調製する。製造例6で得たリン添加アルミナ担体を入れ、振蕩しながらサンドバスで加熱し水分を蒸発させてホウ酸を含浸させる。さらに120℃で2時間乾燥させた後、450℃で12時間焼成してリンおよびホウ素を添加したアルミナ担体を得た。この担体を用いて、製造例2と同様に、触媒Gを調製した。
【0052】
(製造例8)
混合触媒(触媒H及び触媒I)の調製
製造例1で調製した触媒Aと製造例3で調製した触媒Eを一定の質量比で混合し、それぞれ触媒H及び触媒Iを調製した。触媒Hは、触媒A:触媒E=1:1で、触媒Iは、触媒A:触媒E=10:1である。
【0053】
(実施例1)
植物油として、表1に示した性状を有するジャトロファ油を採択し、水素化処理によるバイオ炭化水素の製造を行った。なお、本発明によるバイオ炭化水素の製造プロセスを図1に示す。実施例1においては、処理温度350℃、処理圧力2.0MPa、液空間速度2.0hr−1、水素ガス流量と植物油流量の比率を1890として、ジャトロファ油の水素化を行った。水素処理条件を表2に示す。さらに、ジャトロファ油を水素化した後のバイオ炭化水素(液体生成物)を回収後、水分と油分を分離し、バイオ炭化水素を得た。バイオ炭化水素中の炭素数の分布(モル%)、性状、融点、粘度の測定を行った。結果を表3に示す。
【0054】
実施例1においては、原料植物油であるジャトロファ油中の酸素原子が、水素化処理により水に転換され、その後除去され、ジャトロファ油が、すべて本発明のバイオ炭化水素になったことが判明した。通常、原料植物油であるジャトロファ油の粘度(40.5mPa.s/30℃)と比べると、著しく減少し、2.64mPa.s程度となった。さらに、バイオ炭化水素を構成する炭化水素の炭素数15〜18の飽和炭化水素であることが判明した。即ち、本発明のバイオ炭化水素の製造方法によれば、水素化処理触媒を注意深く選択し、その水素化処理条件を適宜調整することによってバイオ炭化水素を構成する炭化水素の炭素数を制御することができ、しかもバイオ炭化水素の諸物性を調整することができることが判明した。
【0055】
【表1】

【0056】
(実施例2〜実施例13)
水素化処理触媒、処理温度、液空間速度、水素ガス流量と植物油流量の比率等の諸条件をそれぞれ変化させた以外は、実施例1と同様にしてバイオ炭化水素を製造した。水素化処理条件を表2に、製造したバイオ炭化水素の諸物性(炭素数の分布)、バイオ炭化水素の色相、粘度及び融点の測定結果を表3に示す。いずれの実施例においても、実施例1と同様に一定の炭素数からなる炭化水素から構成され、粘度、融点共に、低温特性にきわめて優れたバイオ炭化水素を得ることができた。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
(実施例14〜実施例28)
実施例1と同様に、表4に示したような水素化処理条件下で植物油の水素化処理を行った。製造したバイオ炭化水素の諸物性(炭素数の分布)、バイオ炭化水素の色相、粘度及び融点の測定結果を表5に示す。いずれの実施例においても、実施例1と同様に、すべての反応条件下で、原料植物油中の酸素が主に水に転換された後、除去され、植物油が、すべて本発明のバイオ炭化水素に変換できることが判った。特に実施例14においては、バイオ炭化水素を構成する炭化水素の主成分が炭素数3〜9の飽和炭化水素であることが判明した。また、その融点は、−40℃以下、その粘度は1.8mPa.sであった。即ち、本発明のバイオ炭化水素の製造方法によれば、きわめて低温特性に優れたバイオ炭化水素が得られることが判った。
【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のバイオ炭化水素の製造方法は、植物油から、低温粘度特性に優れた炭化水素を製造することができるものであり、その用途に応じて、バイオ炭化水素の性状(沸点分布、融点、炭素数分布)を制御でき、高品質なバイオマテリアルの製造分野に大きく貢献することができるものである。さらには、バイオマス資源の有効な活用及び二酸化炭素の固定化を図ることができるので、環境技術分野の技術革新に大きく寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油を水素化処理することにより、バイオ炭化水素を製造する方法であって、
(a)触媒担体に触媒成分を担持させた水素化処理触媒の存在下において、
(b)水素ガスを1.0〜100気圧、
(c)前記植物油の流量を液空間速度0.1〜10.0h−1
(d)前記水素ガスの流量と前記植物油の流量の比率(前記水素ガスの流量/前記植物油の流量)を50〜4000NL/Lに設定し、前記植物油と前記水素ガスを反応させる工程を有する
ことを特徴とするバイオ炭化水素の製造方法。
【請求項2】
植物油は、ココナッツ油、ヒマワリ油、米油、大豆油、オリーブ油、綿実油、菜種油、パーム油、大豆油、ホウレンボク、アブラヤシ、ココヤシ、ジャトロファ油から選ばれる1種以上であることを特徴とする
請求項1に記載のバイオ炭化水素の製造方法。
【請求項3】
触媒成分は、モリブデン、タングステン、クロム、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウム、白金、ルテニウムから選ばれる1種以上の金属であることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載のバイオ炭化水素の製造方法。
【請求項4】
触媒担体は、アルミナ、チタニア、シリカ−アルミナ、シリカ、活性炭、ゼオライトからなる群の中から選択される1種以上であることを特徴とする
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のバイオ炭化水素の製造方法。
【請求項5】
触媒担体は、アルミナ及び/又はゼオライトであることを特徴とする
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のバイオ炭化水素の製造方法。
【請求項6】
触媒担体は、60〜99.9質量%のアルミナと、0.01〜40質量%のゼオライトとの混合物であることを特徴とする
請求項5に記載のバイオ炭化水素の製造方法。
【請求項7】
触媒担体は、触媒担体の質量に対して、0.1〜5.0質量%のリン及び/又はホウ素を含有することを特徴とする
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のバイオ炭化水素の製造方法。
【請求項8】
水素化処理触媒は、異種触媒の組合せからなることを特徴とする
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のバイオ炭化水素の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のバイオ炭化水素の製造方法によって製造されたバイオ炭化水素。
【請求項10】
植物油を水素化処理することにより、バイオ炭化水素を製造するバイオ炭化水素製造装置であって、
植物油供給手段と、水素ガス供給手段と、植物油流量と、水素ガス流量を調整する手段を備え、
前記植物油供給手段により供給された植物油と前記水素ガス供給手段により供給された水素ガスとを水素化触媒存在下で反応させる反応部を備えたこと
を特徴とするバイオ炭化水素製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−148909(P2011−148909A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11441(P2010−11441)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(510020664)株式会社ジェイウォード (1)
【Fターム(参考)】