説明

バテライト型炭酸カルシウムの製造方法

【課題】バテライト型炭酸カルシウムの製造方法において、製造されるバテライト型炭酸カルシウムの粒径を所望の大きさに制御する方法の提供。
【解決手段】塩化カルシウム水溶液、炭酸アンモニウム及びアンモニア水を混合・撹拌して反応させ、炭酸カルシウムを合成するに際し、下記条件1〜4を全て満たす範囲内において、いずれか1以上の条件を調節して反応を行うことにより、得られるバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を制御することを特徴とするバテライト型炭酸カルシウムの製造方法。
条件1:反応液の温度が、0℃超50℃以下
条件2:反応液中の塩化カルシウムの濃度が、0.250〜0.625mol/L
条件3:添加するアンモニア水(NH4OH)の量が、反応液中のCaに対するモル比(NH4OH/Ca)として、0.67以上
条件4:反応液の撹拌回転数が、200rpm以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バテライト型炭酸カルシウムの製造方法において、製造されるバテライト型炭酸カルシウムの粒径を所望の大きさに制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、蛍光体、電子材料、セラミックス等の原料や、インキ、ゴム、合成樹脂、紙、医薬品、食品、化粧品等の充填剤などの配合材料に利用されている。炭酸カルシウムの結晶系には、カルサイト、アラゴナイト、バテライトの3種がある。カルサイトは紡錘形や立方形、アラゴナイトは柱状形、バテライトは球状の粒子形態を持つとされている。このうち、上記の原料や配合材料として用いる場合、光沢性や平滑性、反応性に優れているものはバテライトであるが、目的に応じ、所望の粒子径を有するものが要求される。
【0003】
しかしながら、バテライト型炭酸カルシウムの製造方法において、製造されるバテライト型炭酸カルシウムの粒径を制御する技術は、従来知られていなかった。一方、反応時の条件を管理することに関する技術としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0004】
例えば、カルシウムイオンを含む溶液と炭酸イオンを含む溶液の混合物に、攪拌機により急激に撹拌して反応初期段階から物理的衝撃を与えることにより、立方体の結晶であるカルサイトの成長過程で角部分の形成が互いの衝突により阻止され、球状のバテライトを得るという方法がある(特許文献1)。しかしながら、特許文献1の方法は、カルサイトの立方体の角が物理的衝撃によって取れることでバテライトという別の結晶系となるという誤った認識に基づくものであり、そのような方法によってはバテライト型炭酸カルシウムを得ることはできない。
【0005】
また、水溶性カルシウム塩と炭酸アンモニウムとをアンモニヤアルカリ性溶液中で30℃以下の温度で撹拌しつつ反応させる方法がある(特許文献2)。しかし、特許文献2に記載された条件では、得られるバテライトは大粒径となり、小粒径のものを製造することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1-108117号公報
【特許文献2】特公昭45-32532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、バテライト型炭酸カルシウムの製造方法において、製造されるバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を所望の大きさに制御する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、塩化カルシウム溶液に炭酸アンモニウムとアンモニア水を加えて反応させるに際し、反応時の諸条件を適宜変化させることにより、所望の平均粒径のバテライト型炭酸カルシウムを製造できることを見出した。
【0009】
本発明は、塩化カルシウム水溶液、炭酸アンモニウム及びアンモニア水を混合・撹拌して反応させ、炭酸カルシウムを合成するに際し、下記条件1〜4を全て満たす範囲内において、いずれか1以上の条件を調節して反応を行うことにより、得られるバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を制御することを特徴とするバテライト型炭酸カルシウムの製造方法を提供するものである。
条件1:反応液の温度が、0℃超50℃以下
条件2:反応液中の塩化カルシウムの濃度が、0.250〜0.625mol/L
条件3:添加するアンモニア水(NH4OH)の量が、反応液中のCaに対するモル比(NH4OH/Ca)として、0.67以上
条件4:反応液の撹拌回転数が、200rpm以上
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法を用いれば、所望の平均粒径を有するバテライト型炭酸カルシウムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】反応液の温度とバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径との関係を示す図である。
【図2】反応液の塩化カルシウム濃度とバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径との関係を示す図である。
【図3】添加するアンモニア水とCaとのモル比と、バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径との関係を示す図である。
【図4】反応液の撹拌速度と、バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、原料として使用する塩化カルシウム(CaCl2)は、純度の高いものが好ましく、例えば、特開昭62-36021号公報、特開昭63-156012号公報等に記載の方法に従って製造することができる。前者は、生石灰を消化し、その溶液を比較的高い温度でろ過することによりSrを除き、得られた石灰乳を塩化アンモニウムに溶解して不溶物を除去し、純度の高いCaCl2を調製する方法であり、後者は、石灰石をHClに溶解し、CaCl2のpHを調整することで、不純物を析出させて分離し、純度の高いCaCl2を調製する方法である。
【0013】
本発明において、CaCl2の炭酸化反応は、塩化カルシウム水溶液に炭酸アンモニウムとアンモニア水を添加することにより行われる。本発明では、この炭酸化反応における、
:反応液の温度(条件1)、反応液中の塩化カルシウムの濃度(条件2)、添加するアンモニア水の量(条件3)、:撹拌回転数(条件4)のいずれか1以上を調節することにより、製造されるバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を制御する。
【0014】
〔条件1〕:反応液の温度が、0℃超50℃以下
バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径は、反応温度が低いほど小さくなり、反応温度が高いほど大きくなる。このため、反応液の温度を上記範囲内で適宜調節することにより、バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を制御することができる。
【0015】
低温の方がバテライトが安定するため、高いバテライト生成率が得られる観点からは、反応液の温度は3〜30℃、特に5〜10℃が好ましい。
【0016】
〔条件2〕:反応液中の塩化カルシウムの濃度が、0.250〜0.625mol/L
バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径は、塩化カルシウム濃度が低いほど大きくなり、塩化カルシウム濃度が高いほど小さくなる。このため、反応液中の塩化カルシウム濃度を上記範囲内で適宜調節することにより、バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を制御することができる。
【0017】
コスト面からは塩化カルシウム濃度が高い方が好ましいが、濃度が高くなるとバテライトの結晶粒子がきれいな球形ではなくなるため、きれいな球形のバテライトを得る観点からは、塩化カルシウム濃度は、0.300〜0.550mol/L、特に0.375〜0.500mol/Lが好ましい。
【0018】
〔条件3〕:添加するアンモニア水(NH4OH)の量が、反応液中のCaに対するモル比(NH4OH/Ca)として、0.67以上
バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径は、アンモニア水量が少ないほど小さくなり、アンモニア水量が多いほど大きくなる。このため、添加するアンモニア水の量を上記範囲内で適宜調節することにより、バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を制御することができる。
【0019】
コスト面からはアンモニアは少ない方が有利だが、少なすぎるとバテライト生成率が低くなるため、アンモニア水量(NH4OH/Caモル比)は、1.00〜2.50、特に1.34〜2.01が好ましい。
【0020】
〔条件4〕:撹拌回転数が、200rpm以上
バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径は、反応液の撹拌速度が低いほど大きくなり、撹拌速度が高いほど小さくなる。このため、撹拌速度を上記範囲内で適宜調節することにより、バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を制御することができる。なお、撹拌装置は特に限定されない。
【0021】
エネルギーコスト面では回転数が低い方が良いが、回転数が低いと粒径分布がブロードになってしまい粒径がそろったものが得られないため、攪拌回転数は、500〜1500rpm、特に850〜1200rpmが好ましい。
【0022】
以上の炭酸化反応により生成したバテライト型球状炭酸カルシウムスラリーは、ろ過後、水、アセトン等で洗浄する。洗浄後の固体は、熱風乾燥器、真空乾燥機、振動乾燥機などにより乾燥する。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例を挙げて、さらに具体的に説明する。
なお、以下の実施例において、結晶系の分析及び粒径の測定は、以下の方法を用いた。
【0024】
〔X線回折による結晶系の分析〕
乾燥した炭酸カルシウムをX線回折用サンプルとした。X線回折の測定は、D8 Advance(Bruker AXS社製)で行い、測定条件は、ターゲットCuKα、管電圧50kV、管電流350mA、走査範囲5〜65°(2θ)、ステップ幅0.0234°、スキャンスピード0.13°s/stepとした。得られたX線回折パターンについて定性分析を行い、バテライトとカルサイトの有無を確認した。
【0025】
〔レーザー回折・散乱法による粒径の分析〕
測定は、マイクロトラック9320-X100(日機装社製)を用いて行った。測定用の試料は、分散媒としてエタノールを用い、エタノール30cm3に対してサンプル0.016gを添加して180秒間超音波分散したものを用いた。
【0026】
実施例1 条件1:反応温度の影響
1mol/LのCaCl2水溶液を510.7g調製し「溶液A」とした。一方、(NH4)2CO3 38.4g及び28%アンモニア水14.7gを水817.0gに溶解させて「溶液B」を調製した。反応溶液全量(溶液A+溶液B)におけるCa濃度は0.375mol/L、CO3濃度は0.300mol/Lである。
溶液Aと溶液Bの混合・攪拌は、メカニカル制御攪拌器RW20 digital(IKA社製)を用いて、攪拌回転数850rpmにて5分間5〜30℃(5℃、10℃、20℃、30℃)で行った。
スラリーをろ過し、水200mLで洗浄し、ろ過を行った後、40℃で15時間真空乾燥を行い、試料を得た。
この結果を図1に示すように、バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径は、反応温度が低いほど小さくなり、反応温度が高いほど大きくなった。
【0027】
実施例2 条件2:塩化カルシウム濃度の影響
1mol/LのCaCl2水溶液を510.7g調製し「溶液A」とした。一方、(NH4)2CO3 38.4g及び28%アンモニア水14.7gを水260.6〜3599.3gに溶解させて「溶液B」を調製した。反応溶液全量(溶液A+溶液B)におけるCa濃度及びCO3濃度は、以下に示すとおりとした。
【0028】
・Ca濃度=0.125mol/L、CO3濃度=0.100mol/L
(溶液Bの調製に使用した水量=3599.3g)
・Ca濃度=0.250mol/L、CO3濃度=0.200mol/L
(溶液Bの調製に使用した水量=1512.6g)
・Ca濃度=0.375mol/L、CO3濃度=0.300mol/L
(溶液Bの調製に使用した水量=817.0g)
・Ca濃度=0.500mol/L、CO3濃度=0.400mol/L
(溶液Bの調製に使用した水量=469.2g)
・Ca濃度=0.625mol/L、CO3濃度=0.500mol/L
(溶液Bの調製に使用した水量=260.6g)
【0029】
溶液Aと溶液Bの混合・攪拌は、メカニカル制御攪拌器RW20 digital(IKA社製)を用いて、攪拌回転数850rpmにて5分間20℃で行った。
【0030】
スラリーをろ過し、水200mLで洗浄し、ろ過を行った後、40℃で15時間真空乾燥を行い、試料を得た。
この結果を図2に示すように、バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径は、塩化カルシウム濃度が低いほど大きくなり、塩化カルシウム濃度が高いほど小さくなった。塩化カルシウム濃度が低すぎる場合には、カルサイトが生成した。
【0031】
実施例3 条件3:アンモニア水量の影響
1mol/LのCaCl2水溶液を510.7g調製し「溶液A」とした。一方、(NH4)2CO3 38.4g及び28%アンモニア水7.4〜44.1gを水790.7〜823.6gに溶解させ「溶液B」を調製した。反応溶液全量(溶液A+溶液B)におけるCa濃度は0.375mol/L、CO3濃度は0.300mol/Lになるようにした。
【0032】
・アンモニア水量7.4g(NH4OH/Ca(mol比)=0.34)
(溶液Bの調製に使用した水量=823.6g)
・アンモニア水量11.0g(NH4OH/Ca(mol比)=0.50)
(溶液Bの調製に使用した水量=820.3g)
・アンモニア水量14.7g(NH4OH/Ca(mol比)=0.67)
(溶液Bの調製に使用した水量=817.0g)
・アンモニア水量29.4g(NH4OH/Ca(mol比)=1.34)
(溶液Bの調製に使用した水量=803.8g)
・アンモニア水量44.1g(NH4OH/Ca(mol比)=2.01)
(溶液Bの調製に使用した水量=790.7g)
【0033】
溶液Aと溶液Bの混合・攪拌は、メカニカル制御攪拌器RW20 digital(IKA社製)を用いて、攪拌回転数850rpmにて5分間20℃で行った。
スラリーをろ過し、水200mLで洗浄し、ろ過を行った後、40℃で15時間真空乾燥を行い、試料を得た。
この結果を図3に示すように、バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径は、アンモニア水量が少ないほど小さくなり、アンモニア水量が多いほど大きくなった。アンモニア水量が少なすぎる場合には、カルサイトが生成した。
【0034】
実施例4 条件4:撹拌速度の影響
1mol/LのCaCl2水溶液を510.7g調製し「溶液A」とした。一方、(NH4)2CO3 38.4g及び28%アンモニア水14.7gを水817.0gに溶解させて「溶液B」を調製した。反応溶液全量(溶液A+溶液B)におけるCa濃度は0.375mol/L、CO3濃度は0.300mol/Lになるようにした。
溶液Aと溶液Bの混合・攪拌は、メカニカル制御攪拌器RW20 digital(IKA社製)を用いて、攪拌回転数200〜1200rpm(200rpm、400rpm、850rpm、1200rpm)にて5分間20℃で行った。
スラリーをろ過し、水200mLで洗浄し、ろ過を行った後、40℃で15時間真空乾燥を行い、試料を得た。
この結果を図4に示すように、バテライト型炭酸カルシウムの平均粒径は、撹拌速度が低いほど大きくなり、撹拌速度が高いほど小さくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化カルシウム水溶液、炭酸アンモニウム及びアンモニア水を混合・撹拌して反応させ、炭酸カルシウムを合成するに際し、下記条件1〜4を全て満たす範囲内において、いずれか1以上の条件を調節して反応を行うことにより、得られるバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を制御することを特徴とするバテライト型炭酸カルシウムの製造方法。
条件1:反応液の温度が、0℃超50℃以下
条件2:反応液中の塩化カルシウムの濃度が、0.250〜0.625mol/L
条件3:添加するアンモニア水(NH4OH)の量が、反応液中のCaに対するモル比(NH4OH/Ca)として、0.67以上
条件4:撹拌回転数が、200rpm以上
【請求項2】
条件1の範囲内において、製造しようとするバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を小さくするときは、反応液の温度を下げ、製造しようとするバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を大きくするときは、反応液の温度を上げる請求項1記載のバテライト型炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
条件2の範囲内において、製造しようとするバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を小さくするときは、反応液中の塩化カルシウムの濃度を高くし、製造しようとするバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を大きくするときは、反応液中の塩化カルシウムの濃度を低くする請求項1又は2記載のバテライト型炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
条件3の範囲内において、製造しようとするバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を小さくするときは、NH4OH/Caのモル比を低くし、製造しようとするバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を大きくするときは、NH4OH/Caのモル比を高くする請求項1〜3のいずれかに記載のバテライト型炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
条件4の範囲内において、製造しようとするバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を小さくするときは、撹拌回転数を高くし、製造しようとするバテライト型炭酸カルシウムの平均粒径を大きくするときは、撹拌回転数を低くする請求項1〜4のいずれかに記載のバテライト型炭酸カルシウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−126740(P2011−126740A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286537(P2009−286537)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】