説明

バナジン酸ビスマス微粒子及びバナジン酸ビスマス微粒子の製造方法

【課題】 発色性、透明性に優れたバナジン酸ビスマス微粒子を、簡便にかつ生産性良く製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 硝酸ビスマス水溶液と塩化バナジウム水溶液を混合した溶液を、PH1〜6に保持した状態で攪拌して沈殿物を生成し、その後、70〜90°Cで熟成せしめることにより脱水縮合せしめ、更に300〜600°Cにて熱処理することによりバナジン酸ビスマス微粒子の製造する。得られたバナジン酸ビスマス微粒子は平均短軸が1〜100nm,平均長軸が30nm〜1μm、平均アスペクト比が5〜50である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジン酸ビスマス微粒子及びバナジン酸ビスマス微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黄色系顔料として、バナジン酸ビスマスを用いることが注目されている。その製造方法についても多くの研究がなされており、例えば以下のような製造方法が知られている。
【0003】
(イ)酸性ビスマス塩溶液を、溶解されたホスフェートの存在下で、105°C以下まで加熱し、アルカリ金属水酸化物200〜400モル%、次いでバナダート溶液を添加し、沈殿の終了後に混合物のPH2〜6に調整し、混合物を0.5〜5時間攪拌し、その後に、沈殿した生成物を単離し、塩不含に洗浄し、粉砕し、500〜800°Cで0.5〜3時間か焼し、約200°Cまでの冷却に少なくとも6時間掛けて室温まで徐々に冷却し、再び粉砕を行うことによりバナジン酸ビスマス顔料を製造する。(特許文献1参照)
【0004】
(ロ)ジルコニウム、バナジウム及びビスマスの混合に際し、各塩の水溶液を3点同時又は2点同時に添加し、全ての塩の沈殿を生じさせ、沈殿生成後に90〜100°Cで加熱攪拌しながら3〜6時間の熟成を行い、沈殿を300〜600°Cの温度で熱処理をすることにより顔料用バナジン酸ビスマス組成物を製造する。(特許文献2参照)
【0005】
【特許文献1】特開平10−139440号公報
【特許文献2】特開平05−124820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、(イ)製造方法では、作製過程でアルカリ金属水酸化物を使用することから、生成物にアルカリ金属分が不純物として残り、該不純物を除去するには沈殿物を高温で焼成する必要があるため、生産性が悪くなる問題点があった。また(ロ)製造方法は、熟成工程の温度が高いため製造装置が複雑になり、コストがかかるといった不具合があった。
【0007】
また汎用のバナジン酸ビスマスは、円形状で粒子径も大きく、顔料として使用した際に、透明性が不十分であった。また塗膜を形成する際、膜中へのおさまりが悪く、薄膜化することが困難であった。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、発色性、透明性に優れたバナジン酸ビスマス微粒子、及び、発色性、透明性に優れたバナジン酸ビスマス微粒子を簡便にかつ生産性良く製造する方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち本発明は、平均短軸が1〜100nm、平均長軸が30nm〜1μm、平均アスペクト比が5〜50であることを特徴とするバナジン酸ビスマス微粒子である。
【0010】
また本発明は、ビスマスイオンとバナジウムイオンを含む水溶液を、PH1〜6に保持した状態で攪拌して沈殿物を生成し、その後、70〜90°Cで脱水縮合せしめ、更に300〜600°Cにて熱処理することを特徴としたバナジン酸ビスマス微粒子の製造方法である。更に本発明は、前記製造方法において、アンモニア及び/又はアンモニウム塩を用いてPHを制御することを特徴とした発明である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のバナジン酸ビスマス微粒子は、光の散乱が小さく、発色性、透明性に優れた黄色系顔料として有用である。
【0012】
また本発明のバナジン酸ビスマス微粒子の製造方法は、各製造工程を比較的低温で行うことが可能であり、発色性、透明性に優れたバナジン酸ビスマス微粒子を簡便にかつ生産性良く製造することができる。またアンモニア及び/又はアンモニウム塩を用いてPHの制御を行うことで生成物に不純物が残存せず、更に簡便にかつ生産性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のバナジン酸ビスマス微粒子の製造方法は、ビスマスイオンとバナジウムイオンを含む水溶液を、PH1〜6に保持した状態で攪拌して沈殿物を生成し、その後、70〜90°Cにて脱水縮合せしめ、300〜600°Cにて熱処理することを特徴とする。
【0014】
ビスマスイオンとバナジウムイオンを含む水溶液は、例えばバナジウムイオン含有水溶液とビスマスイオン含有水溶液を混合することにより得られる。
【0015】
バナジウムイオン含有水溶液は、バナジウム化合物を水に溶解して調製することができる。バナジウム化合物としては、塩化バナジウム、バナジン酸アンモニウム等が挙げられる。尚、アルカリ金属バナジン酸塩は、アルカリ金属分が不純物となる恐れがあるため好ましくない。
【0016】
このとき、バナジウムイオン含有水溶液の濃度は1×10−5〜1.0mol/lの範囲が好ましく、1×10−5mol/l未満であればバナジウムイオン濃度が少なく、その後の反応を行う際の水量が多くなり生産性が悪くなる恐れがある。一方、1.0mol/lを超えると水に溶解させるバナジウム化合物の量が多すぎて溶け残りが発生する恐れがあり、ビスマスイオンとバナジウムイオンの量を等モルにすることが難しくなる。
【0017】
ビスマスイオン含有水溶液は、ビスマス化合物を水に溶解して調製することができる。ビスマス化合物としては、硝酸ビスマス、塩化ビスマス等が挙げられる。
【0018】
ビスマスイオン含有水溶液の濃度は1×10−5〜1.0mol/lの範囲が好ましく、1×10−5mol/l未満であればビスマスイオン濃度が少なく、反応を行う際の水量が多くなり生産性が悪くなる恐れがある。一方、1.0mol/lを超えると水に溶解させるビスマス化合物の量が多すぎて溶け残りが発生する恐れがあり、ビスマスイオンとバナジウムイオンの量を等モルにすることが難しくなる。
【0019】
ビスマスイオンとバナジウムイオンを含む水溶液は、ビスマスイオン含有水溶液のビスマスイオンのモル数(α)及びバナジウムイオン含有水溶液のバナジウムイオンのモル数(β)の比=(α)/(β)が0.9〜1.1の範囲となるよう混合させることが好ましい。0.9未満であるとバナジウムイオン量が多すぎて、副生成物として酸化バナジウムが生成してしまう恐れがある。一方、1.1を超えるとビスマスイオン量が多すぎて、副生成物として酸化ビスマスが生成してしまう恐れがある。
【0020】
ビスマスイオンとバナジウムイオンを含む水溶液は、PH1〜6に保持した状態で攪拌して沈殿物を生成させる。これは、水酸化ビスマス、水酸化バナジウムが沈殿物として生成されるものである。PHの制御は、塩基を添加することにより行うことができる。塩基としては、アンモニア、塩化アンモニウム等を好ましく用いることができるが、アルカリ金属水酸化物は、アルカリ金属分が不純物となる恐れがあるため好ましくない。尚、PHが6を超えると沈殿物の生成が遅くなる問題点があり、PH1未満は制御できない。また沈殿の生成に際し、反応温度は60〜90°Cが好ましく、60°C未満の場合は、反応時間が著しく必要となり、生産性が悪くなる問題点があり、一方で90°Cを超えると水溶液が突沸をおこし、液中が均一でなくなるため、所望の微粒子を得る事が出来なくなるといった不具合がある。攪拌時間としては、0.3〜3時間である。
【0021】
その後、70〜90°Cにて脱水縮合させる。熟成時間は好ましくは6時間以上である。熟成温度が70°C未満であると熟成時間が非常に長くなり、生産性が悪くなる問題点があり、90°Cをこえると水の沸騰が激しくなり、突沸等を防ぐような工夫をする必要がある。
【0022】
更に300〜600°Cの範囲で熱処理を行う。300°C未満では結晶性が充分でないため、得られたビスマス酸バナジウム微粒子の黄色発色性が悪くなる。一方、600°Cをこえると得られるビスマス酸バナジウム微粒子の粒子径が大きくなる、具体的には粒子径が1μmを超える微粒子ができてしまい、本発明の狙いである透明な黄色発色性が得られなくなってしまう問題点がある。
【0023】
上記の如き製造方法により得られたバナジン酸ビスマス微粒子は、平均短軸が1〜100nm、平均長軸が30nm〜1μm、平均アスペクト比が5〜50の棒形状を呈する微粒子であって、光の散乱が小さく、透明な黄色発色性を有し、黄色系顔料として有機、無機の分野で利用可能である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げて詳細に説明する。
【0025】
<実施例1>
(1)250mlビーカー中に、0.5mol/lの硝酸ビスマス水溶液50mlと0.5mol/lの塩化バナジウム水溶液50mlを入れ、マグネチックスターラーを用いて70°Cにて攪拌・混合した。(2)前記250mlビーカー中に、28%アンモニア水溶液を10ml添加してpHを3に調整し、70°Cにて1時間攪拌を行って、沈殿物を生成させた。(3)前記250mlビーカーを80°Cの恒温オーブン中で12時間熟成を行った。(4)熟成後の試料を坩堝にいれ、400°Cで1時間焼成することにより黄色試料を得た。
【0026】
得られた黄色試料を、X線回折にて測定することにより、バナジン酸ビスマスができていることを確認した。TEMを用いて微粒子の形態を観察したところ棒形状を示しており、平均短軸が45nm、平均長軸500nm、平均アスペクト比が11.1であることが確認できた。
【0027】
<実施例2>
(1)250mlビーカー中に、0.5mol/lの硝酸ビスマス水溶液50mlと0.5mol/lの塩化バナジウム水溶液50mlを入れ、マグネチックスターラーを用いて70°Cにて攪拌・混合した。(2)前記250mlビーカー中に、28%アンモニア水溶液を10ml添加してpHを3に調整し、70°Cにて1時間攪拌を行って、沈殿物を生成させた。(3)前記250mlビーカーを80°Cの恒温オーブン中で12時間熟成を行った。(4)熟成後の試料を坩堝にいれ、500°Cで1時間焼成することにより黄色試料を得た。
【0028】
得られた黄色試料を、X線回折にて測定することにより、バナジン酸ビスマスができていることを確認した。TEMを用いて微粒子の形態を観察したところ棒形状を示しており、平均短軸が35nm、平均長軸550nm、平均アスペクト比が15.7であることが確認できた。
【0029】
<実施例3>
(1)250mlビーカー中に、0.5mol/lの硝酸ビスマス水溶液50mlと0.5mol/lの塩化バナジウム水溶液50mlを入れ、マグネチックスターラーを用いて60°Cにて攪拌・混合した。(2)前記250mlビーカー中に、28%アンモニア水溶液を10ml添加してpHを3に調整し、70°Cにて1時間攪拌を行って、沈殿物を生成させた。(3)前記250mlビーカーを80°Cの恒温オーブン中で12時間熟成を行った。(4)熟成後の試料を坩堝にいれ、400°Cで1時間焼成することにより黄色試料を得た。
【0030】
得られた黄色試料を、X線回折にて測定することにより、バナジン酸ビスマスができていることを確認した。TEMを用いて微粒子の形態を観察したところ棒形状を示しており、平均短軸が30nm、平均長軸650nm、平均アスペクト比が21.7であることが確認できた。
【0031】
<実施例4>
(1)250mlビーカー中に、0.5mol/lの硝酸ビスマス水溶液50mlと0.5mol/lの塩化バナジウム水溶液50mlを入れ、マグネチックスターラーを用いて60°Cにて攪拌・混合した。(2)前記250mlビーカー中に、28%アンモニア水溶液を30ml添加してPHを5に調整し、70°Cにて1時間攪拌を行って、沈殿物を生成させた。(3)前記250mlビーカーを80°Cの恒温オーブン中で12時間熟成を行った。(4)熟成後の試料を坩堝にいれ、400°Cで1時間焼成することにより黄色試料を得た。
【0032】
得られた黄色試料を、X線回折にて測定することにより、バナジン酸ビスマスができていることを確認した。TEMを用いて微粒子の形態を観察したところ棒形状を示しており、平均短軸が38nm、平均長軸700nm、平均アスペクト比が18.4であることが確認できた。
【0033】
<比較例1>
(1)250mlビーカー中に、0.5mol/lの硝酸ビスマス水溶液50mlと0.5mol/lの塩化バナジウム水溶液50mlを入れ、マグネチックスターラーを用いて70°Cにて攪拌・混合した。(2)前記250mlビーカー中に、28%アンモニア水溶液を10ml添加してpHを3に調整し、70°Cにて1時間攪拌を行って、沈殿物を生成させた。(3)前記250mlビーカーを80°Cの恒温オーブン中で12時間熟成を行った。(4)熟成後の試料を坩堝にいれ、750°Cで1時間焼成することにより黄色試料を得た。
【0034】
得られた黄色試料を、X線回折にて測定することにより、バナジン酸ビスマスができていることを確認した。TEMを用いて微粒子の形態を観察したところ円形状を示しており、平均粒子径が1.7μmであることが確認できた。
【0035】
<比較例2>
(1)250mlビーカー中に、0.5mol/lの硝酸ビスマス水溶液50mlと0.5mol/lの塩化バナジウム水溶液50mlを入れ、マグネチックスターラーを用いて30°Cにて攪拌・混合した。(2)前記250mlビーカー中に、28%アンモニア水溶液を10ml添加してpHを3に調整し、30°Cにて1時間攪拌を行って、沈殿物を生成させた。(3)前記250mlビーカーを80°Cの恒温オーブン中で12時間熟成を行った。(4)熟成後の試料を坩堝にいれ、400°Cで1時間焼成することにより橙色試料を得た。
【0036】
得られた橙色試料を、X線回折にて測定することにより、バナジン酸ビスマス以外に酸化バナジウムができていることを確認した。TEMを用いて微粒子の形態を観察したところ円形状を示しており、平均粒子径が3.1μmであることが確認できた。
【0037】
<比較例3>
(1)250mlビーカー中に、0.5mol/lの硝酸ビスマス水溶液50mlと0.5mol/lの塩化バナジウム水溶液50mlを入れ、マグネチックスターラーを用いて70°Cにて攪拌・混合した。(2)前記250mlビーカー中に、5mol/l水酸化ナトリウム水溶液を40ml添加してpHを9に調整し、70°Cにて1時間攪拌を行って、沈殿物を生成させた。(3)前記250mlビーカーを80°Cの恒温オーブン中で12時間熟成を行った。(4)熟成後の試料を坩堝にいれ、750°Cで1時間焼成することにより黄色試料を得た。
【0038】
得られた黄色試料を、X線回折にて測定することにより、バナジン酸ビスマスができていることを確認した。TEMを用いて微粒子の形態を観察したところ円形状を示しており、平均粒子径が4.2μmであることが確認できた。
【0039】
実施例1〜5,比較例1〜3の試料の色調を色差計ZE2000(日本電色製)を用いて測定した。結果を表1に示す。また実施例1、比較例1で得られた微粒子のTEM像をそれぞれ図1,2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
以上より、実施例1〜5で得られた微粒子は色調が黄色を呈しており、棒形状で、長軸の長さも比較的短く、着色性、透明性に優れたバナジン酸ビスマス微粒子が生産性良く作製できていることが確認された。
【0042】
一方、比較例1では、色調は黄色をしめすものの、粒子形状は円形状で粒子径も大きく、着色性は良好であるが、透明性に劣った。比較例2では色調は橙色を示していて、着色性、透明性に劣り、X線回折の結果からもバナジン酸ビスマス以外に酸化バナジウムが検出され、反応が十分進んでいないことが判った。比較例3では粒子径が大きく着色性は実施例1〜5と同等であるが、透明性で劣り、蛍光X線スペクトルを測定するとビスマス、バナジウム以外にナトリウムの存在が確認され、不純物が微粒子中に残存していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上の本発明のバナジン酸ビスマス微粒子は、透明黄色顔料等の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1で得られたバナジン酸ビスマス微粒子のTEM像である。
【図2】比較例1で得られたバナジン酸ビスマス微粒子のTEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均短軸が1〜100nm、平均長軸が30nm〜1μm、平均アスペクト比が5〜50であることを特徴とするバナジン酸ビスマス微粒子。
【請求項2】
ビスマスイオンとバナジウムイオンを含む水溶液を、PH1〜6に保持した状態で攪拌して沈殿物を生成し、その後、70〜90°Cで脱水縮合せしめ、更に300〜600°Cにて熱処理することを特徴としたバナジン酸ビスマス微粒子の製造方法。
【請求項3】
アンモニア及び/又はアンモニウム塩を用いてPHを制御する請求項2記載のバナジン酸ビスマスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−282423(P2006−282423A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102131(P2005−102131)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】