説明

バリウムヘキサフェライトの超臨界微粒子合成法および生成微粒子

【課題】科学的かつ技術的に非常に重要な材料であるバリウムヘキサフェライト粒子は、超微細で単分散の結晶ナノ粒子をその形状およびサイズを正確に制御して得ることが求められている。
【解決手段】有機分子支援SCWフローリアクターを用いて有機配位子でキャッピングして
サイズおよび形状を制御したバリウムヘキサフェライト単磁区ナノ結晶、およびその簡便で経済的に優れた生産法。バリウムヘキサフェライトのコロイド状ナノ粒子の形成は、超臨界水(SCW)条件下に、(1)最初に、混合点で超臨界水と前駆体液が混ぜられ、単一のナノ結晶が形成され、(2)次に、有機分子が高温の水と混和せしめられ、(3)最後に、有機分子と特定の無機結晶の表面とが選択的に反応することによって、ナノ粒子の制御された成長が起こる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリウムヘキサフェライトの超臨界微粒子合成法及び当該方法で得られた生成微粒子、特にはバリウムヘキサフェライトナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
バリウムヘキサフェライト(barium hexaferrite)粒子は、科学的かつ技術的に非常に重要な材料である。同粒子は、飽和磁化の高さ、化学的安定性の良さ、および磁気結晶異方性の広さのためだけでなく、機械的硬さのゆえに、垂直および水平記録用の高密度媒体として集中的に研究されてきた〔a) T. Fujiwara, IEEE trans. Magn., l985, 21, l480(非特許文献1); b) V. V. Penkov, M. Pernet, P. Germi, and P. Mollard, J. Magn. Magn. Mater., 1993, 120,69(非特許文献2)〕。ナノコンポジット形態では、同粒子はマイクロ波放射の吸収に使用でき、かかる吸収では、多磁区粉末に比べて、マイクロ波領域内でフェリ磁性ナノ粉末は、低磁界強度でより高い吸収性と、より幅広い吸収域とを示す〔V.
B. Bregar, IEEE trans. Magn., 2004, 40, 1679(非特許文献3)〕。高密度磁気記録に
おいての理想的性能のためには、保磁性が高く且つサブナノメートル(1ナノメートル未満)の粒子のBaFe12O19が望まれており、それによって、今度は、特殊なプロセス技術が
必要となっている〔a) Y. Tateno, J. Appl. Phys. 2002, 91, 4418(非特許文献4); b) E. Rezlescu, L Rezlescu, P. d. Popa and N. Rezlescu, Mater. Sci. Eng. A, 2004, 375-377, l269(非特許文献5)〕。
【0003】
バリウムヘキサフェライトのナノ粒子を生産するために、様々な合成法が提案されてきている。すなわち、マイクロエマルジョン法、化学的共沈法、ガラス結晶化法、燃焼法、ゾル-ゲル合成法および水熱合成法が提案されている〔a) X. Lui, J. Wang, L.-M. Gan, S.-C.Ng, and J. Ding, J. Magn. Magn. Mater., 1998, 184, 344(非特許文献6); b) S.
E. Jacobo, C. Domingo-Pascal, R. Rodriguez-Clemente, and M. A. Blesa, J. Mater.
Sci., 1997, 32, 1025(非特許文献7); c) R. Muller, R. Heirgeist, H. Steinmetz, N. Ayoub, M. Fujisaki and W. Schuppel, J. Magn. Magn. Mater., 1999, 201, 34(非特
許文献8); d) J. Huang, H. Zhuang, and Wl. Li, Mater. Res. Bull., 2003, 38, l49(非特許文献9); e) C. Sudakar, G. N. Subbanna, and T. R. N. Kutty, J. Magn. Magn.
Mater., 2003, 263, 253(非特許文献10)〕。
ハクタらは、バリウムヘキサフェライトの迅速な生産のための超臨界水法を開発した〔Y. Hakuta, T. Adschiri, T. Suzuki, T. Chida, K. Seino, and K. Arai, J. Am. Ceram. Soc. 1998, 81, 2461(非特許文献11)〕。しかしながら、超微細で単分散のバリウムヘ
キサフェライトナノ結晶を正確な形状およびサイズを制御して得ることは、これらの材料の粒子サイズやサイズの分布を制御することが難しいために、困難である。
【0004】
超臨界水(SCW)反応媒体は、結晶性ナノ粒子を生産するための環境調和型の化学的アプ
ローチであり、かかるアプローチは、水の臨界温度を超えた水熱合成の高い反応速度と形成された金属酸化物の低い溶解度とを当てにしたもので、それによって、金属酸化物を極端に高い過飽和度とし、よって、ナノ粒子が形成できるようになる〔a) T. Adschiri, Y.
Hakuta, K. Arai, Ind. Eng. Chem. Res. 2000, 39, 4901(非特許文献12); b) T. Adschiri, K. Kanazawa, K. Arai, J. Am. Ceram. Soc. 1992, 75, 1019(非特許文献13)〕。そして、明らかに、コロイド科学によって、ナノ粒子のバルク組成、サイズ、形状および表面特性を制御するための、汎用性のある経路が提供される〔J. Park, K. An, Y. Hwang, J. G. Park, H. J. Noh, J. Y. Kim, J. H. Park, N. M. Hwang, T. Hyeon, Nat. Mater.
2004, 3, 891(非特許文献14); T. Hyeon, S. S. Lee, J. Park, Y. Chung, H. B. Na, J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, l2798(非特許文献15)〕。また、有機分子、無機前駆体、
重合体、共重合体および界面活性剤が、コロイド状ナノ粒子を苦心して合成することや複雑な配列の構造物へのかかる粒子の組み込みに関与すると考えられる。
このような考え方と超臨界水(SCW)の特性とを組み合わせて、本発明者らのグループは
、バッチ式リアクター内で様々な金属酸化物および水酸化物のナノ結晶を合成することに成功している〔a) J. Zhang, S. Ohara, M. Umetsu, T. Naka, Y. Hatakeyama, T. Adschiri, Adv. Mate. 2007, 19, 203(非特許文献16); b) T. Mousavand, S. Takami, S. Ohara, M. Umetsu, T. Adschiri, J. Nanosci. Nanotechnol., 2005, 1, 85(非特許文献17); c) T. Mousavand, S. Takami, S. Ohara, M. Umetsu, T. Adschiri, J. Supercritical Fluids, 2007, 40, 397(非特許文献18)〕。さらには、特許第3925932号(特許文献1)及
び特許第3925936号(特許文献2)を参照できる。
ワタナベらおよびサベッジは、超臨界状態での様々な有機材料の分解反応を報告した〔M. Watanabe, M. Tsukagoshi, H. Hirakoso, T. Adschiri, K. Arai, AlChEJ. 2000, 46,
843(非特許文献19); P. E. Savage, Chem. Rev. l999, 99, 603(非特許文献20)〕。
【0005】
SCWと混和できる有機配位子分子を用いて、よく分散した小粒子に、有利に結晶の成長
を制限することができ、凝集を抑制することができる〔a) K. J. Ziegler, R. C. Doty, K. P. Johnston, B. A. Korgel, J. Am. Ceram. Soc. 200l, 123, 7797(非特許文献21); b) T. Mousavand, S. Takami, S. Ohara, M. Umetsu, T. Adschiri, J. Mater. Sci. 2006, 41, l445(非特許文献22)〕。
最近、本発明者らのグループは、有機配位子支援超臨界水によって、1回のポット合成においてセリアおよびコバルトブルーのナノ結晶の成長および組み立てを制御するためのエレガントで且つ環境に優しい反応媒体が提供できることを報告した〔a)非特許文献16; b) D. Rangappa, S. Ohara, T. Naka, A. Kondo, Masahiko Ishii and T. Adschiri, J. Mater. Chem. 2007 DOI: 10.1039/b705760a(非特許文献23); c) D. Rangappa, T. Naka, A. Kondo, M. Ishii, T. Kobayashi and T. Adschiri, J. Am. Chem. Soc. 2007 DOI: 10.1021/ja0711009(非特許文献24)〕。
チャンら〔a) 非特許文献16; b) 非特許文献17〕は、切頂八面体から立方体へのセリアナノ結晶の形状変化が主に、類似の有機配位子支援SCW条件下で有機配位子の濃度を増大
させて[001]表面上で結晶成長を抑制することにより引き起こされることを報告している

【0006】
ラドワーンらは、共沈-焼成経路を通じて、マイクロメートル以下のサイズのバリウム
ヘキサフェライトナノ粒子微細構造に対する陰イオン性、陽イオン性、および非イオン性の界面活性剤の効果を報告した〔M. Radwan, M. M. Rashad, and M. M. Hessien, J. Mater. Pro. Tech., 2007, 181, 106(非特許文献25)〕。パークら(非特許文献14)は、核生成と成長プロセスとの分離による単分散金属酸化物ナノ結晶の合成を報告した。また、ドロフェニックら〔M. Drofenik and M. Kristl, J. Am. Ceram. Soc. 2007, 90, 2057(非特
許文献26)〕は、制御された水熱合成を通じて単分散バリウムヘキサフェライトナノ粒子
を合成するために、ラメール-ディンガーの原理(LaMer-dinger principle)を用いた。
この原理に従って、サイズ分布がほとんど単分散で組成的特性および形状特性が均質な粒子を作成するために、核生成段階と成長段階とを分離しなければならない。
単分散粒子を均質に核生成するには、核生成速度が臨界過飽和域まで単調な形態で増大せしめられ、かかる域で核生成生成物が安定であり、ついで、直ちに過飽和度が低下せしめられて、過飽和が臨界域に達し得ないようにこれらの核が永続的に成長してそれを保証するするようになる必要があるとされた。これらの報告は、核形成と結晶成長とを分離すると単分散ナノ結晶の形成が促進されることを示している。
しかしながら、有機配位子支援コロイド状バリウムヘキサフェライトナノ結晶作成に研究者たちが焦点を当ててこなかったために、今までのところ、バリウムヘキサフェライトナノ結晶の形状変化は報告されていない。
【0007】
【特許文献1】特許第3925932号
【特許文献2】特許第3925936号
【非特許文献1】T. Fujiwara, IEEE trans. Magn., l985, 21, l480
【非特許文献2】V. V. Penkov, M. Pernet, P. Germi, and P. Mollard, J. Magn. Magn. Mater., 1993, 120,69
【非特許文献3】V. B. Bregar, IEEE trans. Magn., 2004, 40, 1679
【非特許文献4】Y. Tateno, J. Appl. Phys. 2002, 91, 4418
【非特許文献5】E. Rezlescu, L Rezlescu, P. d. Popa and N. Rezlescu, Mater. Sci. Eng. A, 2004, 375-377, l269
【非特許文献6】X. Lui, J. Wang, L.-M. Gan, S.-C.Ng, and J. Ding, J. Magn. Magn. Mater., 1998, 184, 344
【非特許文献7】S. E. Jacobo, C. Domingo-Pascal, R. Rodriguez-Clemente, and M. A. Blesa, J. Mater. Sci., 1997, 32, 1025
【非特許文献8】R. Muller, R. Heirgeist, H. Steinmetz, N. Ayoub, M. Fujisaki and W. Schuppel, J. Magn. Magn. Mater., 1999, 201, 34
【非特許文献9】J. Huang, H. Zhuang, and Wl. Li, Mater. Res. Bull., 2003, 38, l49
【非特許文献10】C. Sudakar, G. N. Subbanna, and T. R. N. Kutty, J. Magn. Magn. Mater., 2003, 263, 253
【非特許文献11】Y. Hakuta, T. Adschiri, T. Suzuki, T. Chida, K. Seino, and K. Arai, J. Am. Ceram. Soc. 1998, 81, 2461
【非特許文献12】T. Adschiri, Y. Hakuta, K. Arai, Ind. Eng. Chem. Res. 2000, 39, 4901
【非特許文献13】T. Adschiri, K. Kanazawa, K. Arai, J. Am. Ceram. Soc. 1992, 75, 1019
【非特許文献14】J. Park, K. An, Y. Hwang, J. G. Park, H. J. Noh, J. Y. Kim, J. H. Park, N. M. Hwang, T. Hyeon, Nat. Mater. 2004, 3, 891
【非特許文献15】T. Hyeon, S. S. Lee, J. Park, Y. Chung, H. B. Na, J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, l2798
【非特許文献16】J. Zhang, S. Ohara, M. Umetsu, T. Naka, Y. Hatakeyama, T. Adschiri, Adv. Mate. 2007, 19, 203
【非特許文献17】T. Mousavand, S. Takami, S. Ohara, M. Umetsu, T. Adschiri, J. Nanosci. Nanotechnol., 2005, 1, 85
【非特許文献18】T. Mousavand, S. Takami, S. Ohara, M. Umetsu, T. Adschiri, J. Supercritical Fluids, 2007, 40, 397
【非特許文献19】M. Watanabe, M. Tsukagoshi, H. Hirakoso, T. Adschiri, K. Arai, AlChEJ. 2000, 46, 843
【非特許文献20】P. E. Savage, Chem. Rev. l999, 99, 603
【非特許文献21】K. J. Ziegler, R. C. Doty, K. P. Johnston, B. A. Korgel, J. Am. Ceram. Soc. 200l, 123, 7797
【非特許文献22】T. Mousavand, S. Takami, S. Ohara, M. Umetsu, T. Adschiri, J. Mater. Sci. 2006, 41, l445
【非特許文献23】D. Rangappa, S. Ohara, T. Naka, A. Kondo, Masahiko Ishii and T. Adschiri, J. Mater. Chem. 2007 DOI: 10.1039/b705760a
【非特許文献24】D. Rangappa, T. Naka, A. Kondo, M. Ishii, T. Kobayashi and T. Adschiri, J. Am. Chem. Soc. 2007 DOI: 10.1021/ja0711009
【非特許文献25】M. Radwan, M. M. Rashad, and M. M. Hessien, J. Mater. Pro. Tech., 2007, 181, 106
【非特許文献26】M. Drofenik and M. Kristl, J. Am. Ceram. Soc. 2007, 90, 2057
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バリウムヘキサフェライトを迅速に生産するため超臨界水法が開発されているが、依然として、超微細で単分散のバリウムヘキサフェライトナノ結晶を正確に形状やサイズを制御しながら得ることは、困難である。
磁性材料として非常に有用なバリウムヘキサフェライトは、高密度磁気記録媒体などの利用の観点から、超微細で単分散のナノ結晶、例えば、サブ10nm (10nm未満)の単磁区ナ
ノ結晶として、正確に形状やサイズを制御しながら得ることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記したように、本発明者らのグループは、有機配位子を共存させた超臨界水(SCW)場
のバッチ式リアクター内で様々な金属酸化物のナノ結晶を合成するという技術を提供しているが、このエレガントで且つ環境に優しい反応媒体を利用した技術を発展利用することを念頭に鋭意研究の結果、超微細で単分散のバリウムヘキサフェライトナノ結晶を正確に形状やサイズを制御しながら得ることに成功し、本発明を提供することに成功した。本発明では、超微細で単分散のナノ結晶、例えば、サブ10nm (10nm未満)の単磁区ナノ結晶と
して、正確に形状やサイズを制御しながら非常に優れた物性を示すバリウムヘキサフェライトナノ結晶を得ることができる。
本発明は、超臨界水又は亜臨界水条件下といった高温高圧の水が存在する条件下、特には、超臨界水(SCW)条件下に、(1)ナノ粒子前駆体からナノ粒子を形成する反応工程、(2)
少なくともナノ粒子前駆体からのナノ粒子形成反応開始後に、当該ナノ粒子形成場に有機分子(又は有機配位子)を導入する工程、そして(3)生成ナノ粒子の表面に有機分子(又
は有機配位子)を化学結合せしめる工程を含有している方法で、バリウムヘキサフェライトナノ粒子を得るものである。当該方法は、例えば、有機分子支援SCWフローリアクター
(SCWフロー式リアクター、又は、SCW流通式リアクター)を用いて好適に行うことが可能であり、それにより有機配位子でキャッピングしてサイズおよび形状を制御したバリウムヘキサフェライト単磁区ナノ結晶が得られ、そしてそれは簡便で経済的に優れた生産法を提供する。
【0010】
本発明は、次のものを提供している。
〔1〕高温高圧水存在条件下バリウムフェライトナノ粒子を合成する方法であり、
(1)ナノ粒子前駆体からナノ粒子を形成する反応工程、
(2)少なくともナノ粒子前駆体からのナノ粒子形成反応開始後に、当該ナノ粒子形成場に
有機分子を導入する工程
(3)生成ナノ粒子の表面に有機配位子を化学結合せしめる工程
を有することを特徴とするバリウムフェライトナノ粒子合成法。
〔2〕高温高圧水存在条件下バリウムフェライトナノ粒子を合成する方法が、超臨界水存在条件下バリウムフェライトナノ結晶粒子を合成する方法であることを特徴とする上記〔1〕に記載のバリウムフェライトナノ粒子合成法。
〔3〕超臨界水フロー式リアクターを使用することを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載のバリウムフェライトナノ粒子合成法。
〔4〕400〜600℃、好ましくは450〜500℃の温度の該リアクター部にナノ粒子前駆体と高温高圧水を供給して上記(1)の工程を開始し、300〜395℃、好ましくは350〜380℃の温度
の該リアクター部に有機分子を供給し、生成ナノ粒子の表面に有機配位子を化学結合せしめことを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載のバリウムフェライトナノ粒子合成法。
〔5〕リアクターに供給されるナノ粒子前駆体が、水酸化鉄と水酸化バリウムとの混合物の水溶液又は水性ゾルであることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一に記載のバリウムフェライトナノ粒子合成法。
〔6〕有機分子が、カルボン酸類から選択されたものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載のバリウムフェライトナノ粒子合成法。
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一記載の合成法で得られたバリウムフェライトナノ粒子。
〔8〕XRDデータに基づいたバリウムフェライトナノ粒子の平均粒子径が、約5〜10nmであることを特徴とする上記〔7〕に記載のバリウムフェライトナノ粒子。
〔9〕上記〔7〕又は〔8〕に記載のバリウムフェライトナノ粒子を磁性体として含有することを特徴とする磁性材料組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、例えば、有機分子支援SCWフローリアクターを用いて有機配位子でキャッ
ピングしてサイズおよび形状を制御したバリウムヘキサフェライト単磁区ナノ結晶を、簡単且つ経済的に優れた手法で得ることができる。本発明のSCWフローリアクター法は、い
くつかの明白な利点がある。すなわち、プロセスが迅速かつ簡単であること、大規模生産向けの水性超臨界化学に基づく連続フロープロセスであり、バリウムヘキサフェライトのナノ結晶表面を有機配位子でキャッピングするために、異なる混合点で、有機試薬を導入することによってナノ結晶のサイズおよび形状を容易に制御できることである。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、磁性材料として有用なフェライト微粒子、特にはバリウムヘキサフェライトの単分散で組成的特性及び形状特性が均質なナノ粒子、特にはナノ結晶、並びにその製造技術、さらにはそのナノ粒子の応用技術を提供する。本発明では、当該フェライトナノ粒子を製造するにあたり、微粒子の核生成段階と微粒子の成長段階とを実質的に分離して実施することを可能にする技術を提供している。
本発明に従えば、バリウムヘキサフェライトのコロイド状ナノ粒子の形成は3段階で行われるものである。すなわち、高温高圧の水が存在する条件下、例えば、超臨界水又は亜臨界水条件下、特には、超臨界水(SCW)条件下に、(1)最初に、混合点で超臨界水と前駆体液が混ぜられると、サブ10nm (10nm未満)の単一のナノ結晶が形成され、(2)次に、有機分子が高温の水と混和せしめられ、(3)最後に、有機分子と特定の無機結晶の表面とが選択
的に反応することによって、ナノ粒子の制御された成長が起こるのである。
本発明の代表的な態様では、有機分子支援SCWフローリアクターを用いて有機配位子で
キャッピングしてサイズおよび形状を制御したバリウムヘキサフェライト単磁区ナノ結晶、およびその簡便で経済的に優れた生産法が提供される。本発明のSCWフローリアクター
法には、いくつかの明白な利点がある。すなわち、プロセスが迅速かつ簡単であること、大規模生産向けの水性超臨界化学に基づく連続フロープロセス、バリウムヘキサフェライトのナノ結晶表面を有機配位子でキャッピングするために、異なる混合点で、有機試薬を導入することによってナノ結晶のサイズおよび形状を容易に制御できることである。
【0013】
本発明では、ナノ粒子前駆体を含有する水性液状混合系からナノメーターサイズの粒子を形成させる反応場、そして、ナノ粒子前駆体と有機分子とを含有する水性液状混合系からナノメーターサイズの粒子を形成させる反応場は、通常、高温高圧下でなされ、典型的な状態としては、超臨界状態又は亜臨界状態である水を溶媒とする系である。超臨界状態
とは、ある物質の臨界点以上の温度や圧力にある領域にある状態を指していて、気体と液体の境界線がなくなって区別がつかないような状態になっていることを言っている。超臨界状態では、一般的には、粘度が低くなっており、液体よりも容易に拡散するが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を言う。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、ナノ粒子形成部は亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用したナノ粒子形成・成長も可能である。
【0014】
超臨界状態でナノ粒子製造を行うためには、一般に溶媒である水の臨界点よりも高い温度に保持する。超臨界水の場合、臨界点は臨界温度647K(374℃)、臨界圧力22.064MPa(218気圧)である。臨界温度以下の温度でも圧力が臨界圧力をはるかに越えるような状態
が含まれていてよく、ここでいう超臨界状態とはこのような臨界圧力を越えた状態を含んでいてよい。反応混合物はある程度高圧にされた後、一定容積(容器容積)内に封入され、次いで、温度上昇せしめられて、流体の圧力が増大するようにされていてよい。一般に、温度TはT>Tc(Tc:溶媒の臨界温度)および圧力P>Pc(Pc:溶媒の臨界圧力)であれば、
超臨界状態にある。実際に、溶媒中に導入された原料の溶解度は、亜臨界条件と超臨界条件との間で極めて異なるので、超臨界条件では、ナノ粒子の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に、原料の反応性、有機修飾剤の反応性および熱力学的パラメーター、即ち、温度および圧力の数値に依存する。
【0015】
ナノ粒子形成場は、高温高圧の条件を達成できる装置中で得ることができ、そうした装置であれば特に限定されず、当該分野で当業者に広く知られている装置から選択して使用できるが、例えば、回分式装置、フロー式装置のいずれをも使用でき、通常、オートクレーブであるものを使用できる。本発明では、好適に、フロー式リアクターを使用することができる。典型的な場合、リアクターのナノ粒子前駆体の投入口と生成したナノ粒子の取り出し口との間の距離がある一定以上存在する形態のリアクター、すなわち、反応を行う領域がある一定以上の距離を有するようにしたリアクターを使用できるし、それが好ましい。そうしたリアクターでは、ナノ粒子前駆体の投入口近傍と生成ナノ粒子の取り出し口近傍とで、反応帯の温度が異なっていてよいし、また、反応帯の温度をそれぞれ変えることにより微粒子の核生成段階と微粒子の成長段階とを実質的に分離して実施することを可能にするので好ましい。さらに、リアクター内の反応帯の温度変化は、連続的に変化するものであっても、不連続的に高温域とそれよりは温度の低い低温域とが設けられているものであってもいずれであってもよい。好適な例では、有機分子導入部を境として反応帯の温度が異なっていている形式のものが挙げられる。
【0016】
本発明のSCW合成法では、(1)水の臨界温度を超えたところ(すなわち、臨界温度647K(374℃)を大きく越えた高温条件)で高い反応速度の水熱合成を生起せしめ、形成された
金属酸化物の溶解度は低いことから、それによって、金属酸化物が極端に高い過飽和度になり、ついで、ナノ粒子が形成できるようにし、一方、(2)有機分子を反応系内に加える
ところでは、水の臨界温度の近傍のところ(すなわち、臨界温度647K(374℃)あるいは
その前後の高温条件)とすると、超臨界条件では水の誘電率はより小さいことから、有機分子は、超臨界条件下で水と混和できることから、これによって、均質な反応媒体が生じ、有機配位子分子とナノ結晶表面とが選択的に相互作用するのに適した環境が提供される。成長プロセスの際、反応性のナノ結晶の面の表面上に有機配位子が選択的に吸着せしめられ、キャッピング効果によりナノ結晶の結晶成長が抑制される。かくして、この方法で成長プロセスを制御することによって、約1分未満の短い反応時間で有機配位子キャッピング付きのナノ結晶を作成することができ、よって、コロイド状バリウムヘキサフェライトナノ結晶を、その形状およびサイズを制御しながら形成することができる。
【0017】
本発明は、超臨界水又は亜臨界水条件下といった高温高圧の水が存在する条件下、特に
は、超臨界水(SCW)条件下に、(1)ナノ粒子前駆体からナノ粒子を形成する反応工程、(2)
少なくともナノ粒子前駆体からのナノ粒子形成反応が開始した後に、当該ナノ粒子形成場に有機分子(又は有機配位子)を添加する工程、そして(3)生成ナノ粒子の表面に有機分
子(又は有機配位子)を化学結合せしめる工程を含有している方法で、バリウムヘキサフェライトナノ粒子を得るものである。当該方法は、例えば、有機分子支援SCWフローリア
クターを用いて好適に行うことが可能であり、それにより有機配位子でキャッピングしてサイズおよび形状を制御したバリウムヘキサフェライト単磁区ナノ結晶が得られ、そしてそれは簡便で経済的に優れた生産法を提供する。
代表的な態様では、本SCW合成では、水の臨界温度を超えたところで、高い反応速度の
水熱合成が起こり、形成金属酸化物の溶解度が低いことによって、金属酸化物が極端に高い過飽和度になり、ついで、ナノ粒子が形成できるようになる(400〜800℃、好ましくは450〜500℃の混合点MP1において)。そして、有機分子を反応系内(混合点MP2で且つ300
〜395℃、好ましくは350〜380℃の温度のところ)に加えると、超臨界条件では水の誘電
率はより小さいことから、有機分子は、超臨界条件下で水と混和できる。これによって、均質な反応媒体が生じ、有機配位子分子とナノ結晶表面とが選択的に相互作用するのに適した環境が提供される。この方法で、成長プロセスの際、反応性のナノ結晶の面の表面上に有機配位子が選択的に吸着せしめられ、キャッピングされ、ナノ結晶の結晶成長が抑制され、結果、成長プロセスが制御できる。400℃では、有機分子分解の時間定数が、酸化
剤なしでおよそ10〜30分程度であるために、有機分子は超臨界水条件では安定である。
【0018】
原料であるナノ粒子前駆体は、使用する溶媒、すなわち、水性溶媒、例えば、水又は水と有機溶媒の混合物に溶解するものを好ましく使用できが、製造操作上の簡便性の理由で液状物にできるものが好適に使用できる。原料物質は、水溶液、あるいは必要に応じて適当な有機溶媒と水の混合物の溶液としても構わない。本発明では、ナノ粒子前駆体は、反応場で均一系を形成可能であるものを、好適に使用できる。また、本発明では、反応場で均一系を形成可能であり、水溶性の原料前駆体を好適に使用できる。
ナノ粒子前駆体としては、所望のナノ粒子を与えるものを好適に使用でき、それらは所望のナノ粒子が得られる限り任意の物質を使用することができる。したがって、製造しようとするナノ粒子に含有される元素、特には鉄及びバリウムを含有する化合物から適切なものを任意に選択して使用することができる。好ましくは、市販されており容易に入手できるもの、あるいは、それから容易に導くことができるものを使用する。
【0019】
ナノ粒子前駆体としては、水可溶性塩を好適に使用でき、例えば、鉄ハロゲン化物(塩化鉄、臭化鉄など)、鉄硝酸塩、鉄炭酸塩、鉄カルボン酸塩(鉄酢酸塩、鉄クエン酸塩など)、鉄アセチルアセトナート、鉄水酸化物など、そしてバリウムハロゲン化物(塩化バリウム、臭化バリウムなど)、バリウム硝酸塩、バリウム炭酸塩、バリウムカルボン酸塩(バリウム酢酸塩、バリウムクエン酸塩など)、バリウムアセチルアセトナート、水酸化バリウムなどが挙げられる。好適には、硝酸鉄水溶液、硝酸バリウム水溶液、水酸化鉄水溶液、水酸化バリウム水溶液、あるいはそれらのゾル液を使用でき、酸性塩を使用した場合、アルカリ水溶液、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液により処理して、pHを約7〜10とすることで、水酸化バリウムや水酸化鉄を溶液中で形成させるこ
とが可能であり、その得られた液状物をナノ粒子前駆体として使用できる。より好適には、水酸化鉄と水酸化バリウムとを含有する水溶液(ゾル状態で含むものも包含される)が使用される。なお、原料に由来するその他の不可避的な不純物元素を含有することは許容される。
該ナノ粒子前駆体原料中の、鉄やバリウムの水可溶性塩の濃度は、適宜適切な値を選択できるが、例えば、2×10-3〜0.2 M、好ましくは4×10-3〜4×10-2 Mとすることができる。
Ba:Feのモル比は、化学的量論量とすることができるが、例えば、Ba:Feモル比=1:1〜1:15、好ましくはBa:Feモル比=1:1.5〜1:12.5とすることができる。
【0020】
本発明のナノ粒子形成の反応場に添加する有機分子としては、生成されるナノ粒子に化学結合し、有機配位子として金属酸化物ナノ粒子の表面の少なくとも一部を覆うものであれば、特に限定されることはなく、例えば、当該分野で知られたものを使用できる。好適には、該有機分子としては、形成するナノ粒子を安定化する作用のあるものを好適に使用できるし、高温高圧の液相で有機修飾剤として機能するものも好適に使用できる。該有機分子としては、例えば、有機カルボン酸類、有機窒素化合物類、有機硫黄化合物類、有機リン化合物類などが挙げられる。有機カルボン酸類としては、本発明の目的効果を著しく損なわない限り特に限定されないが、例えば、脂肪族カルボン酸類、脂環式カルボン酸類、芳香族カルボン酸類などが挙げられ、好適には脂肪族カルボン酸類から選択されて使用できる。カルボン酸類の炭素数は、本発明の目的効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5以上、ある場合には8以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、また、通常24以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下であってよい。カルボン酸類としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ベヘン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸などが挙げられる。
【0021】
有機窒素化合物類としては、例えば、有機アミン類、有機アミド化合物類、窒素含有複素環式化合物類などが挙げられる。有機アミン類としては、1級アミン類、2級アミン類及び3級アミン類のいずれであってもよいが、好ましくは1級アミン類、2級アミン類が挙げられる。有機アミン類としては、例えば、脂肪族アミン類などが挙げられ、1級脂肪族アミン類、2級脂肪族アミン類を挙げることができる。アミン類の炭素数は、本発明の目的効果を著しく損なわない限り特に限定されないが、例えば、通常は8以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上で、また、通常24以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。代表的な脂肪族アミン類としては、例えば、オレイルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ジオクチルアミン等のアルキルアミン類、アニリン等の芳香族アミン、メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等の水酸基含有アミン類、さらにそれらの誘導体などが挙げられる。窒素含有複素環式化合物類としては、例えば、窒素原子を1〜4個含有している飽和又は不飽和の3〜7員環を有する複素環式化合物類が挙げられるが、当該化合物はさらに複素原子として硫黄原子、酸素原子などを含有していてもよい。代表的な窒素含有複素環式化合物類としては、例えば、ピリジン、ルチジン、コリジン、キノリン類などが挙げられる。
【0022】
有機硫黄化合物類としては、例えば、有機スルフィド類、有機スルホキシド類、硫黄含有複素環式化合物類などが挙げられる。代表的な有機硫黄化合物類としては、例えば、ジブチルスルフィド等のジアルキルスルフィド類、ジメチルスルホキシドやジブチルスルホキシド等のジアルキルスルホキシド類、チオフェン、チオラン、チオモルホリン等の硫黄含有複素環式化合物類などが挙げられる。
有機リン化合物類としては、例えば、リン酸エステル類、フォスフィン類、フォスフィンオキシド類、トリアルキルフォスフィン類、亜リン酸エステル類、フォスフォン酸エステル類、亜フォスフォン酸エステル類、フォスフィン酸エステル類、亜フォスフィン酸エステルなどが挙げられる。代表的な有機リン化合物類としては、例えば、トリブチルフォスフィン、トリヘキシルフォスフィン、トリオクチルフォスフィン等のトリアルキルフォスフィン類、トリブチルフォスフィンオキシド、トリヘキシルフォスフィンオキシド、トリオクチルフォスフィンオキシド(TOPO)、トリデシルフォスフィンオキシド等のトリアルキルフォスフィンオキシド類などが挙げられる。有機リン化合物類としては、分子中に炭素−リン単結合を有する化合物は好適であり、TOPO等のトリアルキルフォスフィンオキシド類は最適である。また、上記有機修飾剤としては、好適には、下記する有機分子残基を
提供できるように、当該有機分子残基を置換基として含有しているものを使用できる。
【0023】
該有機修飾剤としては、微粒子の表面に有機分子残基を化学結合せしめることのできるものであれば特には限定されず、有機化学の分野、無機材料分野、高分子化学の分野を含めてナノ粒子の応用が期待されている分野で広く知られている有機物質(有機化合物)から選択することができる。該有機修飾剤としては、例えば、エーテル結合、エステル結合、アミノ結合又はアミド結合を含むN原子を介した結合、S原子を介した結合、P原子を介
した結合、金属-C-の結合、金属-C=の結合及び金属-(C=O)-の結合、リン酸エステル結合
、亜リン酸結合、フォスフォン酸結合、亜フォスフォン酸結合、フォスフィン酸結合、亜フォスフィン酸結合などの化学結合を形成することを許容するものが挙げられる。有機分子残基としては、特には限定されず、当該分野で知られたもの、及び/又は、有機合成の分野で知られたものが挙げられ、例えば、炭化水素基などが挙げられる。有機分子残基としては、置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルケニル基、置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキニル基、置換されていてもよく且つ飽和又は不飽和の環式アルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよい飽和又は不飽和の複素環式基などが挙げられる。該炭化水素としては、その炭素数は特に限定されず、炭素数1や2のものも使用できるが、本発明の特徴を生かす観点からは、炭素数3あるいはそれ以上の鎖を有する長鎖炭化水素であるものは好ましく、例えば、炭素数3〜30の直鎖又は分岐鎖、あるいは環状の炭化水素などが挙げられる。該炭化水素は、置換されていてもよいし、非置換のものであってもよい。該置換基としては、有機化学の分野、無機材料分野、高分子化学の分野などで広く知られた官能基の中から選択されたものであってよく、該置換基は1又はそれ以上が存在していてもよいし、複数の場合互いは同じでも異なっていてもよい。
【0024】
有機修飾剤としては、例えば、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、エステル類、アミン類、チオール類、アミド類、オキシム類、ホスゲン、エナミン類、アミノ酸類、ペプチド類、糖類、リン酸エステル、亜リン酸エステル、フォスフォン酸エステル、亜フォスフォン酸エステル、フォスフィン酸エステル、亜フォスフィン酸エステル、フォスフィン、フォスフィンオキシドなどが挙げられる。
上記炭化水素基としては,置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、置換されていてもよい環式アルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよい飽和又は不飽和の複素環式基などが挙げられる。置換基としては、例えば、カルボキシ基、シアノ基,ニトロ基、ハロゲン、エステル基、アミド基、ケトン基、ホルミル基、エーテル基、水酸基、アミノ基、スルホニル基、-O-
、-NH-、-S-などが挙げられる。
【0025】
原料として使用する有機分子(有機修飾剤)は、水可溶性のものが好適に使用できる。該有機分子は、水溶液又は必要に応じて有機溶媒と水との混合溶媒の溶液などとして使用される。有機溶媒としては、水と混和性のもの、あるいは、親水性のものを好適に使用でき、例えば、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類、ニトリル類、ラクタム類、オキシム類、アミド類、尿素類、アミン類、スルフィド類、スルホキシド類、リン酸エステル類、カルボン酸類又はカルボン酸誘導体であるエステル類、炭酸又は炭酸エステル類、エーテル類などが挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、シクロヘプタノール、オクタノール、シクロオクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ヘプタデカノール、シクロヘプタノール、メトキシエタノール、クロロエタノール、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロプロパノール、フェノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。ケトン類又はアルデヒ
ド類として、例えば、アセトン、2-ブタノン、3-ペンタノン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ブチルメチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等が挙げられる。ニトリル類として、例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。ラクタム類として、例えば、ε-カプロラクタム等が挙げられる。オキシ
ム類として、例えば、シクロヘキサノンオキシム等が挙げられる。アミド類ないしは尿素類として、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N'-ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、N,N'-ジメチルエ
チレン尿素、N,N'-ジメチルプロピレン尿素、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロ
フラン等が挙げられる。アミン類として、例えば、キノリン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等が挙げられる。スルホキシド類として、例えば、スルホラン等が挙げられる。リン酸エステル類として、ヘキサメチレンフォスホリックアシッド等が挙げられる。カルボン酸類又はエステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸、酢酸、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、プロピレンカーボネート等が挙げられる。エーテル類としては、例えば、ジグライム、ジエチルエーテル、アニソール等が挙げられる。
【0026】
次に、図5に示した、本発明の有機分子支援SCWフローリアクターの一つの具体例の模
式図を参照し、簡単にその構成を説明する。図5中、フロー式リアクター1には、加熱装
置13が備わっており反応帯毎に温度を変えることが可能とされている。蒸留水5は加熱及
び加圧されて超臨界水としてリアクター1に供給される。ナノ粒子前駆体槽6には、例えば、Fe(NO3)3及びBa(NO3)2の水溶液があり、そこに水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液槽7よりアルカリ液を供給して、Fe及びBaの水酸化物を形成するか、あるいは、Fe(NO3)3
水溶液に7よりアルカリ液を供給して、Feの水酸化物を形成し、そこにBa(OH)2水溶液を添加して、Fe及びBaの水酸化物混合物(BaFe(OH)5前駆体ゾル)を得る。本ナノ粒子前駆体
は、フロー式リアクター1のMP1のところでリアクターに導入される。有機分子水溶液槽8
からは、原料はフロー式リアクター1のMP2のところでリアクターに導入される。冷却器2
、イン・ライン・フィルター3を通して、生成物槽4にナノ粒子生成物を得る。図5には、ポンプ、ヒーター、弁なども図示されている。
本発明の製造方法では、急速に混合・昇温させるために、原料をあらかじめ余熱したり、あるいは、原料とあらかじめ余熱した高温水とを異なる配管から供給して混合させることができる。所定の温度での反応時間については、目的とするナノ粒子の種類、用いる原料、有機修飾剤の種類、製造するナノ粒子の大きさや量によっても異なるが、通常、数秒間から数分間程度でよいが、それより長くても勿論かまわない。本発明では、反応帯域毎に反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできるし、さらに反応帯毎に圧力が変えられていることも可能である。所望のナノ粒子を生成させるための反応を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、通常は、リアクターから水冷式の冷却器に導くことでなされるが、リアクターを通過したものを容器にとり、放冷してもかまわない。本発明の方法では、反応時間、前駆体:有機分子の比率、バリウム:鉄の比率、長鎖脂肪酸の炭素鎖の長さ、有機分子の種別、反応温度及びその分布、リアクタントのリアクター内移動速度などのパラメーターを変えることで、2〜20 nmの粒子サイズのナノ粒子を、それぞれ得ることができる。反応用パラメーターの詳細は、所望のナノ粒子生成物が得られるよう、適宜、実験を行うなどして決定でき、特には限定されない。
【0027】
本発明で得られるフェライトナノ粒子生成物は、安定に分散された状態に維持できるもので、例えば、適当な有機溶剤(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、ドデカン、オクタデカン等の長鎖アルカン類を含めたアルカン類、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の環式炭化水素等)を媒体とした分散液として、安定に維持できる。したがって、本発明のフェライトナノ粒子分散物は、バインダーと配合するなどして塗布型磁気記録媒体用材料とした場合にも、均一な磁性層を形成することが可能であり、さらには、極薄の層の形成も可能であり、優れている。
【0028】
本明細書中、用語「ナノ粒子」とは、上記したように、ナノメーターサイズの粒子を指しており、例えば、動的光散乱(Dynamic Light Scattering, DLS)で測定したその平均粒
子径が9〜17nmのサイズ又はそれ以下のもの、好ましくはその平均粒子径が10〜12nmのサ
イズ又はそれ以下のもの、あるいは、X線回折(X-Ray Diffraction, XRD)で測定したその平均粒子径が9nmのサイズ又はそれ以下のもの、又は、8nmのサイズ又はそれ以下のものを指しているものでよい。さらに、該ナノ粒子は、XRDデータに基づいたバリウムフェライ
トナノ粒子の平均粒子径が、約5〜10nmであるもの、好ましくは約7〜10nmであるもの、さらに好ましくは約8〜10nmであるもの、もっと好ましくは約8〜9.5nmであるものであって
よい。ある場合には、該ナノ粒子は、その平均粒子径が11 nm以下のサイズのもの、また
別の場合にはその平均粒子径が10 nm 以下のサイズのものであってよい。該ナノ粒子の粒子サイズは均一なものであり、一定の割合でその粒子サイズの異なるものが混合していてよいが、代表的な場合、本発明の技術では、5〜17nmのサイズのもの、5〜13 nmの粒子サ
イズのもの、5〜10 nmの粒子サイズのもの、さらにはナノ粒子集団の55%又はそれ以上、60%又はそれ以上、65%又はそれ以上、70%又はそれ以上が、20 nm以下の粒子サイズの
もの、5〜17nmのサイズのもの、あるいは、5〜13 nmの粒子サイズのものであるものが得
られる。ナノ粒子は、立方体、六面体、八面体などであってよく、ナノ結晶であることができる。
粒子径の測定は当該分野で知られた方法によりそれを行うことができ、例えば、TEM、
吸着法、光散乱法(DLSを含む)、SAXSなどにより測定できる。TEMでは電子顕微鏡で観察するが、粒子径分布が広い場合には、視野内に入った粒子が全粒子を代表しているか否かに注意を払う必要がある。吸着法は、N2吸着などによりBET 表面積を評価するものである。
本発明の技術を利用すれば、高い結晶性のナノ粒子を得ることができ、また、有機修飾されたものを得ることが可能である。
【0029】
高い結晶性は, 電子回折法、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM)、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)、走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope: STEM)などの電子顕微鏡写真の解析、エックス線回折(XRD)、熱重量分析などにより確認できる。例えば、電子回折では、単結晶であれば回折干渉像としてドットが得られ、多結晶ではリング、そしてアモルファスではハローが得られる。電子顕微鏡写真では、単結晶であれば結晶面がしっかり出ており、粒子の上からさらに結晶が現れるような形状であれば、多結晶である。多結晶の一次粒子が小さく多くの粒子が凝集して二次粒子をつくっている場合球状になる。アモルファスであれば必ず球状である。エックス線回折では単結晶であればシャープなピークが得られる。Sherreの式を利用してX 線のピークの1/2 高さの幅から結晶子サイズを評価できる。該評価により得られた結晶子サイズが電子顕微鏡像から評価される粒子径と同一であれば、単結晶と評価される。熱重量分析では、熱天秤により、乾燥不活性ガス中で加熱すると、100℃付近で吸着していた水分の蒸発による重量減少が、
また、さらに250℃程度までで粒子内からの脱水による重量減少がみられる。有機物質を
含む場合には、250〜400℃においてさらに大きな重量減少が観察される。本発明の技術で得られた粒子の場合、400℃まで昇温しても、結晶内部からの脱水による重量減少は最大10% 以下であり、低温で合成されたナノ粒子の場合と大きく異なる。かくして、本発明に
したがって得られる有機修飾フェライトナノ粒子の特徴としては、高い結晶性、例えば、X 線回折でシャープなピークを有している、電子線回折でドットあるいはリングが観察される、熱重量分析で結晶水の脱水が乾粒子あたり10% 以下、及び/又は電子顕微鏡写真で一次粒子が結晶面を持っているなどが挙げられる。本発明のナノ粒子は、結合の強さが、熱重量分析において有機分子の沸点よりも高く、熱分解温度と同程度以上である。
【0030】
本発明で得られたフェライトナノ粒子は、プラスチックやゴムなどのバインダーと混合
したボンディッド磁石とすることも可能である。本発明はさらに当該フェライトナノ粒子がバインダー中に分散された磁性層を有する塗布型磁気記録媒体も包含する。該バインダーとしては、通常、NBRゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ポリエチレン、ナイ
ロン6、ナイロン12などのポリアミド樹脂などが挙げられる。本発明のフェライトナノ粒
子は、樹脂、金属、ゴムなどの各種バインダーと混練され、磁場中又は無磁場中で成形されることもできる。成形物は、必要に応じて、硬化せしめられてボンディッド磁石とされてもよい。また、当該フェライトナノ粒子をバインダーと混練せしめ塗料化し、これをプラスチック樹脂などからなる基体に塗布し、必要に応じて、硬化せしめて磁性層を形成し、塗布型磁気記録媒体としてもよい。さらに、当該フェライトナノ粒子は、焼結磁石、セラミックの製造に使用することも可能である。
本発明には、薄膜磁性層を有する磁気記録媒体も包含される。この薄膜磁性層は、上記した本発明のフェライトナノ粒子に加え、従来知られた酸化物磁性材料を含有しているものであってよい。
本発明のフェライトナノ粒子磁性材料を応用することにより、一般に次に述べるような効果が得られ、優れた応用製品を得ることができる。すなわち、従来のフェライト製品と同一形状であれば、磁石から発生する磁束密度を増やすことができるため、モータであれば高トルク化等を実現でき、スピーカーやヘッドホーンであれば磁気回路の強化により、リニアリティーのよい音質が得られるなど応用製品の高性能化に寄与できる。また、従来と同じ機能でよいとすれば、磁石の大きさ(厚み)を小さく(薄く)でき、小型軽量化(薄型化)に寄与できる。また、従来は界磁用の磁石を巻線式の電磁石としていたようなモータにおいても、これをフェライト磁石で置き換えることが可能となり、軽量化、生産工程の短縮、低価格化に寄与できる。さらに、保磁力(HcJ)の温度特性に優れているため、
従来はフェライト磁石の低温減磁(永久減磁)の危険のあった低温環境でも使用可能となり、特に寒冷地、上空域などで使用される製品の信頼性を著しく高めることができる。
【0031】
本発明のフェライトナノ粒子磁性材料を用いたボンディッド磁石、焼結磁石などは、適宜、必要に応じて所定の形状に加工され、下記に示すような幅広い用途に使用される。例えば、フュエールポンプ用、パワーウインド用、ABS用、ファン用、ワイパ用、パワース
テアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータ;FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD、LD、MDスピンド
ル用、CD、LD、MDローディング用、CD、LD光ピックアップ用等のOA、AV機器用モータ;エアコンコンプレッサー用、冷蔵庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、扇風機用、電子レンジファン用、電子レンジプレート回転用、ミキサ駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータ;ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータ;その他、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用
磁場発生装置、CD-ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・
オイルレベルセンサ、マグネットラッチ等に好適に使用される。
本発明のフェライトナノ粒子磁性材料は、磁気ディスク、磁気カード、磁気テープ、メモリーカード用に使用できて有用であり、クレジットカード、身分証明書カード、情報記録媒体の用途に使用されても有用である。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0032】
流体の動きを研究する実験で用いられた供給液は、水酸化バリウム(Ba(OH)28H2O)、硝
酸鉄(III) (Fe(NO3)39H2O)およびKOH((株)ワコーケミカル、日本国大阪)を用いて作
成された。初めにFe(OH)3ゾルを作成し、その後、BaFe(OH)5前駆体を得るためにBa(OH)2
をこのゾルに加えた。作成された供給前駆体の最終濃度は0.005Mで、Ba/Feモル比は0.5であった。他方で、オレイン酸をエタノール(アルドリッヒ・ケミカルズ)に溶かすことによって、0.25〜0.5Mの修飾試薬液を作成した。いずれの作成にも、EYELAスチルエースSA-2100Eにより蒸留した再蒸留水を用いた。
【0033】
用いられたチューブ式リアクターは、耐圧SUS316ステンレス鋼製で、長さ60cm、内径0.84cmで、容量は33.4cm3であった。外部加熱器を用いてリアクターを一定温度に保った。
リアクター入口、リアクターの中央部およびリアクター出口で温度を測定し、その後、温度分布が±1℃の範囲内で均一であることを確認した。計算された滞留時間τは20秒であった。
バリウムヘキサフェライトナノ結晶の合成のために、第一のラインを通じて高温水を30cm3/分の流速で供給した。第二のラインから0.005モル/Lの前駆体ゾルを6ml/分の流速で
供給し、混合点MP1で高温水と混合した。第三のラインを通じて有機修飾液を供給し、混
合点MP2で高温水および前駆体液と混合した。冷水冷却システムを用いて生成物を室温ま
で急冷し、出口で収集した。
【0034】
フローリアクターの詳細は、参考文献〔a) K. J. Ziegler, R. C. Doty, K. P. Johnston, B. A. Korgel, J. Am. Ceram. Soc. 200l, 123, 7797; b) T. Mousavand, S. Takami, S. Ohara, M. Umetsu, T. Adschiri, J. Mater. Sci. 2006, 41, l445〕を参照するこ
とによりわかる。反応温度は、MP1において圧力30MPaで450〜500℃であり、MP2において
約350〜380℃であった。集められた生成物をエタノールで洗浄し、次いで、遠心分離に付してナノ結晶を収集した。表面修飾された粒子を、トルエンを用いて抽出した。本有機配位子を助剤としている超臨界水(SCW)条件でのナノ粒子合成法(有機配位子支援型SCW法)により、フローリアクター(flow reactor)内に、サイズおよび形状を制御され且つコロイド状に安定したバリウムヘキサフェライトナノ結晶が生じた。得られたこれらのナノ結晶は、トルエン内によく分散することができるもので、数か月経っても凝集しないままである。
オレイン酸配位子で表面修飾がされているバリウムヘキサフェライト粒子の分散物の粒子サイズの分布を、動的光散乱(Dynamic Light Scattering, DLS)で測定した。また、分
析して特性を調べた:CuKα放射を36kVおよび20mAにし、走査速度を10°2θから60°2
θまで2°/分に設定し、RINT-2000分光計(リガク、日本国東京)上にXRDパターンを記
録した。試料は、XRDに付す前に、すりつぶして微細粉末にした。
【0035】
図1に、トルエン内に分散したオレイン酸配位子のキャップ状物が付けられているバリウムヘキサフェライトナノ結晶のコロイド状物の、DLSにより測定された粒子サイズ分布
を示す。オレイン酸配位子のキャップ状物が付けられているバリウムヘキサフェライト分散化粒子の、DLSにより測定された平均粒子サイズは、図1に示された通り、約11nmであ
る。本DLSサイズは、オレイン酸配位子のサイズを含んでいるものである。この有機配位
子部を除いたDLSサイズは、多少とも、TEMデータおよびXRDデータから得られた粒子サイ
ズに匹敵するようなものであった。DLS測定では、大部分の本ナノ粒子は凝集するなどは
しておらず、その結果、無極性溶媒内で安定したバリウムヘキサフェライトナノ結晶となっていることが示されている。
【0036】
合成されたバリウムヘキサフェライトナノ結晶の結晶構造および形態は、粉末X線回折(X-Ray Diffraction, XRD)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope, TEM
)法により、その特性及び特徴を調べた。ナノ結晶の磁気特性についても、市販の超伝導
量子干渉素子磁力計(Superconducting Quantum Interference Device, SQUID)により調べられた。450〜500℃、30MPaのSCWフローリアクター(流通型反応器)法で作成されたバリウムヘキサフェライトナノ結晶の透過型電子顕微鏡法(TEM)画像を、図2に示す。TEM画像には、表面を修飾されていないバリウムヘキサフェライトナノ結晶は、板状の不規則形の形状であって平均直径が28nmのものであり、そして、そのナノ結晶が凝集していることが示されている(図2e)。一方、オレイン酸を反応系に供給せしめると〔オレイン酸:バリウムヘキサフェライト前駆体(モル比)=10:1〕、ナノ立方体形の粒子が形成され、それは
平均サイズ9nmを有しているものであった(図2a)。オレイン酸の濃度を増加せしめる〔オレイン酸:バリウムヘキサフェライト前駆体(モル比)=50:1〕につれて、バリウムヘキサフェライトナノ結晶の形状は、平均サイズ8nmの八面体形に変化した(図2b)。これらのナノ結晶は、オレイン酸キャッピング基により、約4の最近接間隔を備えた炭素被覆銅格子の表面上での自己組織化された2D配列を示した。TEM写真を用いて分析された粒子サ
イズ分布の棒グラフは、図2cおよびdに示された通りにプロットされた。このデータは
、DLSデータおよびXRDデータと一致しているものである。合成された試料の単結晶化度および構造は、さらに、HRTEMにより確認された。また、図2fの高分解能透過型電子顕微鏡(High-Resolution Transmission Electron Microscope, HRTEM)画像では、明瞭な格子面
があり、それは、得られた粒子が単結晶であることを示唆するものであり、粒子の格子面は良好な分解能で示されており、それは空間群P63/mmc(194)の六面体構造の[107]面に対
応する格子面間隔0.278nmを有しており、これは標準的バリウムヘキサフェライト・デー
タベースJCPDSファイル番号39-1433からのデータを基に同定された。
【0037】
有機配位子の存在下で合成されたナノ結晶は、ナノ結晶のサイズや形態に及ぼされる顕著な効果があることを示しており、ナノ結晶に対してキャッピング効果があることを示していた。本酸化物粒子の八面体の晶癖は、主として、有機配位子でもって成長領域が被覆されることに起因するものと考えられる。これによって、核が不均質に成長することが抑制されるのである。しかしながら、立方体形のナノ結晶が形成することからは、有機配位子が選択的に吸着されると、望まれる好適な結晶面以外のすべての箇所でナノ結晶の成長が効果的に抑制されることとなり、一方、かかる望まれる好適な結晶面では、成長が著しく促進され、よって立方体形になるということが示唆される。
本発明により、高密度磁気記憶素子用途向けのバリウムヘキサフェライトナノ結晶をそのサイズや形状を制御せしめて調製することが可能になる。本バリウムヘキサフェライトナノ結晶の形成および成長メカニズムは、運動論的効果に帰すことができ、かかる効果によって、当該ナノ結晶の最終的なサイズや形態を決定することが可能となる。有機配位子を助剤として用いるSCW条件下で、過飽和度の程度及び成長プロセスを効果的に制御する
ことによって、単分散ナノ結晶をうまく合成することができるのである。
【0038】
本SCW合成では、水の臨界温度を超えたところでは高い反応速度の水熱合成が起こり、
形成された金属酸化物の溶解度は低いことから、それによって、金属酸化物が極端に高い過飽和度になり、ついで、450〜500℃の混合点MP1においてナノ粒子が形成できるように
なる。有機分子を反応系内(混合点MP2で且つ350〜380℃の温度)に加えると、超臨界条
件では水の誘電率はより小さいことから、有機分子は、超臨界条件下で水と混和できる。これによって、均質な反応媒体が生じ、有機配位子分子とナノ結晶表面とが選択的に相互作用するのに適した環境が提供されることになった。成長プロセスの際、反応性のナノ結晶の面の表面上に有機配位子が選択的に吸着せしめられると、キャッピング効果によりナノ結晶の結晶成長が抑制されるのである。この方法で成長プロセスを制御することによって、本発明者らは、約1分未満の短い反応時間で有機配位子キャッピング付きナノ結晶を作成することができた。これによって、コロイド状バリウムヘキサフェライトナノ結晶を、その形状およびサイズを制御しながら形成することができたのである。400℃では、有
機分子分解の時間定数が、酸化剤なしでおよそ10〜30分程度であるために、有機分子は超
臨界水条件では安定であるのである。
【0039】
個々のバリウムヘキサフェライトナノ結晶の結晶構造に関する情報を得るために、バリウムヘキサフェライト試料の粉末X線回折(XRD)を、10〜70°から取られた2θの領域で
分析した。有機配位子分子の不存在下と有機配位子分子の存在下とで合成されたバリウムヘキサフェライトナノ結晶のXRDパターンを、図3に示す。
450〜500℃の温度、30MPaで、Ba:Fe(モル比)=1:2(Ba:Feモル比0.5)で作成されたバリウムヘキサフェライト試料のXRDパターンは、SCW条件下で形成されたナノ結晶がJCPDSカー
ド(PDF番号39-1433)とよく一致する空間群P63/mmc(194)である基本六面体構造を有している(図3)ことを示していた。
本発明で、Ba/Feモル比0.5でバリウムヘキサフェライト単相が形成されることを観察した。Ba/Feの化学量論的モル比により、バリウムヘキサフェライトと共に不純物相として
α-Fe2O3が生じた。
有機配位子分子が反応系に導入されると、有機配位子は、ナノ結晶の表面をキャッピングすることになり、それによって粒子の成長を抑制することになった。
オレイン酸分子でキャッピングされたナノ結晶のXRDパターンはピークが広がると共に
ピークの強さが低下することを示している。これは、有機修飾によりナノ結晶のサイズが減少したことを示唆するものである。シェーラーの式を用いてXRDデータから計算された
、有機修飾なしで合成されたバリウムヘキサフェライトナノ結晶の平均結晶子サイズは、30nmである。一方、本発明のオレイン酸配位子でキャッピングされたナノ結晶の平均結晶子サイズは8.5nmである。
【0040】
本発明の方法で得られた有機配位子でキャッピングされたバリウムヘキサフェライトナノ結晶の、25℃での着磁(磁化)対磁界のグラフを図4に示す。
最大印加磁界10kOeで測定されたナノ結晶の飽和磁化は、約20emu/gである。これは、他の研究で異なる作成手法を用いて報告された数値30〜40Am2/kg(M. Drofenik and M. Kristl, J. Am. Ceram. Soc. 2007, 90, 2057)よりも低い。磁性粒子の粒子サイズが減少するとそれに並行して飽和磁化が減少することは、一般的に知られた現象であり、多くの要因の結果である。第一の理由はもちろん、粒子の表面積の広さであり、粒子表面での原子の不完全な配位がノンリニアースピン構造につながり、かかる構造によって小粒子の着磁を低下せしめることになる。第二の理由は、磁性粒子のエネルギーと関係するものであり、かかるエネルギーは、外部磁界では、単一磁区内の磁性分子の数を介して粒子のサイズに左右されることになる。小粒子の保磁力HCは、粒子サイズが減少するにつれて増大する。本発明では、有機配位子キャッピング付きナノ結晶の保磁力は5500 Oeであり、これは、
他の方法で合成されたバリウムヘキサフェライトナノ粒子の保磁力よりも、非常に良い数値である。セラミック法、噴霧熱分解およびゾル-ゲル手法により作成された100nmサイズのバリウムヘキサフェライト粒子に関して、6000 Oeまでの数値が報告されているが、そ
れらの試料は、約900℃で熱処理されたものである〔a) T. Gonzalez-Carreno, M. P. Morales, c. J. Serna, Mater. Lett. 2000, 43, 97; b) W. Zhong, W. P. Ding, N. Zhang,
J. M. Hong, A. J. Yan, Y. W. du, J. Magn. Magn. Mater, 1997, 168, l96〕。
【0041】
本発明では、超臨界水水熱条件下でオレイン酸配位子でキャッピングして形状およびサイズを制御したコロイド状バリウムヘキサフェライトナノ結晶を合成することに成功した。出発前駆体の中に配合するオレイン酸試薬の濃度が、バリウムヘキサフェライトナノ結晶を立方体形状とか、八面体形状に制御するための鍵であることを明らかにした。これは、ナノ結晶のサイズ並びに形態が有機配位子キャッピングの影響を大いに受けるもので、その結果として、粒子サイズを約27nmから約9nmに大きく減少せしめることが可能である
ことを示している。本発明の有機修飾バリウムヘキサフェライトナノ結晶は、約5500 Oe
の高い保磁力HCと、約20emu/gの低い飽和磁化とを示すもので、磁性材料として大変優れ
ている。
本発明の技術で得られる有機修飾バリウムヘキサフェライトナノ結晶は、垂直および水平記録用の高密度媒体、マイクロ波放射の吸収剤、さらには、マイクロ波制御材料、セラミック材配合物などとして優れている。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明で、超微細で単分散のバリウムヘキサフェライトナノ結晶を正確に形状およびサイズを制御して得ることが可能で、経済的にメリットのある手法で優れた物性の磁性体を使用した製品を提供できるようになる。本発明の有機修飾バリウムヘキサフェライトナノ結晶は、高い保磁力HCと、低い飽和磁化とを示すもので、磁性材料として大変優れており、エレクトリニクスを含めた電気及び電子工業など様々な産業で利用するのに有用であり、特には、垂直および水平記録用の高密度媒体、マイクロ波放射の吸収剤、さらには、マイクロ波制御材料、セラミック材配合物、各種磁性材料利用製品に応用できる。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】トルエン内に分散したオレイン酸配位子のキャップ状物が付けられているバリウムヘキサフェライトナノ結晶のコロイド状物の、DLSにより測定された粒子サイズ分布。
【図2】450〜500℃、30MPaのSCWフローリアクター法で作成されたバリウムヘキサフェライトナノ結晶の透過型電子顕微鏡法(TEM)画像を示す。図2a: 反応系にオレイン酸が、オレイン酸:バリウムヘキサフェライト前駆体のモル比=10:1で供給された場合の、平均のサイズが9nmを有している形成されたナノキューブ形状のバリウムヘキサフェライト粒子、図2b: オレイン酸の濃度を増加せしめた(オレイン酸:バリウムヘキサフェライト前駆体のモル比=50:1)場合の、平均サイズが8nmを有している八面体形に変化せしめられたバリウムヘキサフェライトナノ結晶、図2c: 図2aのバリウムヘキサフェライト粒子につきTEM写真を用いて分析された粒子サイズ分布の棒グラフ、図2d: 図2bのバリウムヘキサフェライト粒子につきTEM写真を用いて分析された粒子サイズ分布の棒グラフ、図2e: 表面修飾されていないバリウムヘキサフェライトナノ結晶(オレイン酸:バリウムヘキサフェライト前駆体のモル比=0:1)であり、それは板状の不規則形の形状であって平均直径は28nmで、そのナノ結晶は凝集していることが示されている、図2f: SCWフローリアクターにより有機配位子の存在下で合成された本発明のバリウムヘキサフェライトナノ粒子(図2b)のHRTEM画像。
【図3】バリウムヘキサフェライトナノ結晶の粉末X線回折パターンで、(a)表面をキャッピングされていないもので、(b)温度400℃、圧力30MPaの超臨界水条件下でオレイン酸配位子でキャッピングされたものである。
【図4】本発明のオレイン酸キャッピング付きで合成されたバリウムヘキサフェライトナノ結晶の、室温でのヒステリシス・ループ
【図5】本発明の有機分子支援SCWフローリアクターの一つの具体例の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温高圧水存在条件下バリウムフェライトナノ粒子を合成する方法であり、
(1)ナノ粒子前駆体からナノ粒子を形成する反応工程、
(2)少なくともナノ粒子前駆体からのナノ粒子形成反応開始後に、当該ナノ粒子形成場に
有機分子を導入する工程
(3)生成ナノ粒子の表面に有機配位子を化学結合せしめる工程
を有することを特徴とするバリウムフェライトナノ粒子合成法。
【請求項2】
高温高圧水存在条件下バリウムフェライトナノ粒子を合成する方法が、超臨界水存在条件下バリウムフェライトナノ結晶粒子を合成する方法であることを特徴とする請求項1に記載のバリウムフェライトナノ粒子合成法。
【請求項3】
超臨界水フロー式リアクターを使用することを特徴とする請求項1又は2に記載のバリウムフェライトナノ粒子合成法。
【請求項4】
400〜600℃、好ましくは450〜500℃の温度の該リアクター部にナノ粒子前駆体と高温高圧水を供給して上記(1)の工程を開始し、300〜395℃、好ましくは350〜380℃の温度の該リ
アクター部に有機分子を供給し、生成ナノ粒子の表面に有機配位子を化学結合せしめことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載のバリウムフェライトナノ粒子合成法。
【請求項5】
リアクターに供給されるナノ粒子前駆体が、水酸化鉄と水酸化バリウムとの混合物の水溶液又は水性ゾルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載のバリウムフェライトナノ粒子合成法。
【請求項6】
有機分子が、カルボン酸類から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載のバリウムフェライトナノ粒子合成法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一記載の合成法で得られたバリウムフェライトナノ粒子。
【請求項8】
XRDデータに基づいたバリウムフェライトナノ粒子の平均粒子径が、約5〜10nmであることを特徴とする請求項7に記載のバリウムフェライトナノ粒子。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のバリウムフェライトナノ粒子を磁性体として含有することを特徴とする磁性材料組成物。


【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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