説明

バルブ金属酸化物粉末及びその製造方法

【課題】特に固体反応、例えば触媒としての用途又はその製造及びエレクトロセラミックスとしての用途又はその製造に好適であるバルブ金属酸化物粉末、特にNb粉末及びTa粉末を提供すること、及びかかるバルブ金属酸化物粉末の簡易な製造方法を提供することである。
【解決手段】球状の形態、10〜80μmのD50値及び大きいBET表面積を有するバルブ金属酸化物粉末及び、フッ化物を含有するバルブ金属化合物を温度を高めて塩基で沈殿させることによって前記バルブ金属酸化物粉末を製造する方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ金属酸化物粉末、特にNb粉末又はTa粉末の製造方法、及び該方法により得られる、球状の形態、10〜80μmの平均粒度及び大きいBET表面積を有するバルブ金属酸化物粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
バルブ金属、特に周期系第4〜6副族のバルブ金属、その中でも特にタンタル及びニオブ並びにそれらの合金の用途は、多岐にわたっている。このバルブ金属は一般的に、好適なバルブ金属化合物の還元、特にバルブ金属酸化物の還元によって製造される。
【0003】
しかしながら、バルブ金属酸化物粉末は、相応の金属粉末を製造するための出発物質としてだけではなく、更なる多くの用途にとっても興味深いものである。例えば、大きい比表面積を有する酸化ニオブ及び酸化タンタルは、例えば触媒及び/又は機能性セラミックとして使用される混合金属酸化物材料の製造において使用される。
【0004】
かかる金属酸化物材料の製造の際には、酸化タンタル及び/又は酸化ニオブと更なる反応物質、例えば炭酸カリウム又は三酸化モリブデンとの十分な混合を達成するためだけでなく、可能な限り低い温度での反応操作を達成するために、大きい比表面積と関連する球状の形態のバルブ金属酸化物が有利である。M.ツィオレック(M.Ziolek)は、「今日の触媒78号(2003年)47〜64頁(Catalysis Today 78 (2003) 47-64)」中に、ニオブ含有触媒についての概要を挙げている。重要な化合物類として、可能な限り大きい比表面積を有することが望ましい酸化ニオブが挙げられている。
【0005】
この文献中には、大きい比表面積を有する酸化ニオブ及び酸化タンタルの製造方法が既に記載されている。しかし、この方法によって製造される酸化物は、一般的に球状の形態を有さないか、若しくはそれらはナノスケールのバルブ金属酸化物粉末である。
【0006】
DE4214724号C2は、狭い粒度分布の微細なセラミック粉末が気相反応において製造されることを記載している。五塩化ニオブ又は五塩化タンタルと酸素との反応によって、実施例によれば42m/gの比表面積を有する五酸化ニオブ及び五酸化タンタルを製造することができる。もっともこの方法は、気相中での反応操作及び塩素ガスの放出に制約を受けて、極めて費用がかさむ。更に、実施例によって製造されたNbは、合計700ppmの金属不純物を含有する。
【0007】
T.ツヅキ(T.Tsuzuki)、P.G.マクコーミック(P.G.McCormick)は、「物質相互作用42巻b号(2001年)1623〜1628頁(Materials Transactions, Vol. 42, No. 8 (2001), 1623-1628)」中に、五酸化ニオブナノ粒子のメカノケミカル合成を記載している。この場合、固体の五塩化ニオブと固体の酸化マグネシウム若しくは炭酸ナトリウムとから、43.3〜196m/gという大きい比表面積を有するNbが製造される。しかしながら、この固相反応は極めてゆっくりと進行するにすぎない。反応時間は数時間と記載されている。この方法の更なる欠点は、得られる生成物がこの方法によってナトリウムで激しく汚染されていることである。このように汚染された五酸化ニオブは、温度処理(T>550℃)の際にNaNb11相を形成する傾向にある。
【0008】
J.K.コンドウ(J.N.Kondo)、Y.タカハラ(Y.Takahara)、B.リー(B.Lee)、D.ルー(D.Lu)、K.ドメン(K.Domen)は、「触媒トピックス19巻2号2002年171〜177頁(Topics in Catalysis Vol. 19, No. 2, 2002, 171-177)」中に、メソ多孔性酸化タンタルの製造方法を記載している。いわゆるNST(中性界面活性剤テンプレート(neutral surfactant template))法に従って、塩化タンタル(V)がキレート化用リガンドのポリ(アルキレンオキシド)ブロック共重合体PluronicP−123(BASF社製)の添加によって、周囲の空気中に存在する湿分を用いて加水分解される。こうして得られたTaは、極めて大きい比表面積を有する。この方法は、一方で少なくとも6日という長い反応時間が欠点であるが、HClガスの発生も欠点である。いわゆるLAT(リガンド支援テンプレーティング(ligand−assited templating))法によっても、330〜410m/gという大きい比表面積を有するTaが得られる。この方法によれば、タンタル(V)エトキシドがオクタデシルアミンの添加下で加水分解される。しかし、こうして得られた生成物は、熱的にも機械的にも安定でなく、これにより大規模工業用途又は更なる処理に使用することができない。更に、使用されるタンタル(V)エトキシドは、極めて高価である。
【0009】
大きい比表面積を有するナノスケールのNb粉末は、C.フェルドマン(C.Feldmann)、H.O.ジュンク(H.O.Jungk)(応用化学2001年、113号、2号、372〜374頁(Angew. Chem. 2001, 113, Nr.2, 372-374))によれば、ニオブエトキシドをジエチレングリコール中で加水分解することによっても製造することができる。こうして製造された五酸化ニオブは、約100m/gのブルナウアー−エメット−テラー(Brunaurer−Emmett−Teller)(BET)比表面積を有する。この方法の欠点は同様に、使用されるタンタル(V)エトキシドが極めて高価であり、かつナノスケールの酸化物粒子が得られるにすぎないということである。
【0010】
H.コミナミ(H.Kominami)、K.オキ(K.Oki)、M.コーノ(M.Kohno)、S.オノウエ(S.Onoue)、Y.ケラ(Y.Kera)、B.オータニ(B.Ohtani)(物質化学紀要2002年、11(2)号、604〜609頁(Journal of Materials Chemistry 2002, 11(2), 604-609))によれば、ニオブブトキシドをトルエン中で加水分解することによっても232m/gという大きい比表面積を有する五酸化ニオブを製造することができる。この方法の欠点は、溶剤としてのトルエンの使用によって環境汚染が考えられることでもあり、使用されるニオブブトキシドの物質価格が高いということでもある。
【0011】
DE10307716号A1からは、ヘプタフルオロタンタル酸(HTaF)若しくはヘプタフルオロニオブ酸(HNbF)又はそれらの混合物を、フッ化水素酸溶液から、塩基、特にアンモニア(NH)を用いて沈殿させることによって球状の酸化ニオブ及び/又は酸化タンタルを製造できることが公知である。この場合、タンタル酸Ta(OH)又はニオブ酸Nb(OH)若しくはそれらの混合物が生じ、次いでそれを温度処理、いわゆるか焼を行い、相応の酸化物に変換する。しかしこの酸化物は、0.41〜0.58cm/gという小さい比表面積を有する。
【0012】
また、WO97/13724号A1は、HTaF若しくはHNbOFをアンモニアで沈殿させることによってバルブ金属酸化物を製造する方法を開示している。この沈殿は、カスケード接続された少なくとも2個の反応容器内で実施され、その際、それぞれの反応容器内では、温度、pH及び滞留時間が別個に調節される。これにより、生ずるバルブ金属酸化物の比表面積及び密度を目的に合わせて調節できる。大きい比表面積及び小さい密度を有するバルブ金属酸化物並びに小さい比表面積及び大きい密度を有するバルブ金属酸化物が記載されている。しかしながら、WO97/13724号A1によれば、大きい比表面積のバルブ金属酸化物は、2m/g(Nb)若しくは3m/g(Ta)より大きいBET表面積を有するバルブ金属酸化物と既に解されている。最大値としては、五酸化タンタル粒子については11m/gのBET表面積が挙げられている。実施例においては、最大BET表面積6.7m/gが達成されている(実施例6)。大きい表面積を有するバルブ金属酸化物の走査型電子顕微鏡像は、この生成物が不規則な形態を有することを示している(図3A〜3D及び図5A〜5D)。従って、大きいBET表面積を有する球状のバルブ金属酸化物粉末は、WO97/13724号A1によっては得ることができない。更に、WO97/13724号A1による方法の欠点は、少なくとも2個の反応容器中での反応操作を用いると、基本的な反応パラメータをそれぞれ別個に調節しなければならず、それが調整費用の増大に結びつくことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】DE4214724号C2
【特許文献2】DE10307716号A1
【特許文献3】WO97/13724号A1
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Catalysis Today 78 (2003) 47-64
【非特許文献2】Materials Transactions, Vol. 42, No. 8 (2001), 1623-1628
【非特許文献3】Topics in Catalysis Vol. 19, No. 2, 2002, 171-177
【非特許文献4】Angew. Chem. 2001, 113, Nr.2, 372-374
【非特許文献5】Journal of Materials Chemistry 2002, 11(2), 604-609
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、特に固体反応、例えば触媒としての用途又はその製造及びエレクトロセラミックスとしての用途又はその製造に好適であるバルブ金属酸化物粉末、特にNb粉末及びTa粉末を提供すること、及びかかるバルブ金属酸化物粉末の簡易な製造方法を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題は、球状の形態、10〜80μmのD50値及び大きいBET表面積を有するバルブ金属酸化物粉末及び、フッ化物を含有するバルブ金属化合物を温度を高めて塩基で沈殿させることによって前記バルブ金属酸化物粉末を製造する方法によって解決される。
【0017】
従って本発明の対象は、フッ化物を含有するバルブ金属化合物と塩基とを水の存在下で連続的に反応させ、そしてそれにより生じた生成物をか焼することによってバルブ金属酸化物粉末を製造する方法において、その反応をただ1つの反応容器内で、かつ45℃の温度からこの反応混合物の沸点の約105℃までで実施する方法である。
【0018】
フッ化物を含有するバルブ金属化合物と塩基とを水の存在下で反応させる際に、一般的に、バルブ金属水酸化物、例えばニオブ酸(Nb(OH))又はタンタル酸(Ta(OH))が形成される。かかるバルブ金属水酸化物は水系において不溶性であるので、それは反応混合物から沈殿する。従ってこの反応は、しばしば沈殿又は沈殿反応とされる。
【0019】
本発明によれば、この沈殿反応は温度を高めて実施し、この温度は、好ましくは50〜75℃、特に好ましくは55〜70℃である。
【0020】
フッ化物を含有するバルブ金属化合物と塩基との反応は、原則的に回分的又は半連続的にも実施できるにもかかわらず、沈殿反応は本発明によれば連続的に実施する。従ってこの場合、本発明によれば、フッ化物を含有するバルブ金属化合物及び塩基の何れも連続的に反応空間に供給し、この反応の際に得られた生成物を連続的に排出させることを行う。
【0021】
この反応は、ただ1つの単一の反応容器内で実施する。このことは、装置及び大規模工業の費用を最小限に保つことができるという利点を有する。この反応容器は、例えば撹拌反応器、管型反応器又はループ管型反応器である。撹拌反応器を使用することが好ましい。
【0022】
この反応に必要な水は、反応空間内に装入して、そして必要に応じて後から計量供給してよい。しかしながら、フッ化物を含有するバルブ金属化合物及び使用される塩基をそれぞれ水溶液又は懸濁液の形で使用することが非常に有利である。従って、水は反応物質と一緒に添加し、これにより一定の反応相手濃度を保証しつつ、連続的な反応操作が可能になる。
【0023】
バルブ金属は、ニオブ及び/又はタンタルであることが好ましい。これに対応して、フッ化物を含有するバルブ金属化合物としては、ヘプタフルオロニオブ酸(HNbF)又はヘプタフルオロタンタル酸(HTaF)を使用することが好ましい。
【0024】
バルブ金属酸化物粉末の所望の純度に応じて、フッ化物を含有するバルブ金属化合物若しくは塩基を、その反応前に、場合により繰り返し、精製することが必要となる可能性が出る。従って不純物は、必要に応じて、10億分率(ppb)範囲にまで減らすことができる。
【0025】
フッ化物を含有するバルブ金属化合物は、水溶液として使用することが好ましく、その際、フッ化物を含有するバルブ金属化合物の濃度は、バルブ金属に対して好ましくは0.3〜1.2モル/l、特に好ましくは0.6〜0.9モル/lである。
【0026】
塩基としては、好ましくはアンモニア、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、特に好ましくはアンモニアを使用する。塩基として、3〜15質量%、好ましくは5〜10質量%、殊に好ましくは6〜10質量%のアンモニア濃度を有するアンモニア水溶液を使用することが殊に好ましい。
【0027】
フッ化物を含有するバルブ金属化合物と塩基との反応は、好ましくは、反応温度で測定された7〜14のpH値、特に好ましくは、反応温度で測定された7.0〜8.0のpH値で実施する。
【0028】
本発明による反応操作の場合には、流量は、フッ化物を含有するバルブ金属化合物の水溶液の流量と、塩基の水溶液の流量との比が1:0.9〜1:2、好ましくは1:1.0〜1:1.5になるように調節する。使用される溶液の流量及び濃度を好適に選択することによって、バルブ金属として計算した場合のフッ化物含有バルブ金属化合物と塩基とのモル濃度比を1:5.6〜1:8.5の値まで調節することが好ましい。
【0029】
フッ化物を含有するバルブ金属化合物の水溶液の絶対流量は、好ましくは1〜1000l/h、特に好ましくは200〜600l/hである。
【0030】
反応空間内における沈殿生成物の滞留時間は、例えば0.25〜24時間であるが、好ましくは30分〜3時間である。
【0031】
こうして得られた球状の沈殿生成物、つまりバルブ金属水酸化物は、一般的に、濾過によって取り出し、洗浄し、そして乾燥させて、次いでそれをか焼してバルブ金属酸化物とする。必要であれば、機械的処理、例えばふるい分け、破砕、粉砕又は凝集化を引き続いて行ってよい。かかる機械的処理の際に、それに応じて高いエネルギー供給を用いて処理するのであれば、球状の形態を破壊し、そしてそのバルブ金属酸化物を他の形態に変えることができる。
【0032】
この沈殿生成物の洗浄は、脱イオン水を用いて実施することが好ましい。この洗浄工程は、複数の段階で実施することが特に好ましく、その際、最初は塩基、好ましくは沈殿にも使用された塩基の水溶液で1回以上洗浄し、次いで脱イオン水で1回以上洗浄する。
【0033】
この洗浄に続くのは、一般的に乾燥段階である。乾燥は、好ましくは50〜150℃、特に好ましくは70〜110℃の温度で行う。乾燥時間は、好ましくは1〜100時間、特に好ましくは10〜30時間である。
【0034】
この沈殿生成物を所望のバルブ金属酸化物に変換するために、温度を高めて行う温度処理、いわゆるか焼が不可欠である。か焼は、好ましくは250〜1400℃、特に好ましくは300〜600℃の温度で行う。か焼時間は、好ましくは0.1〜100時間、特に好ましくは1〜50時間、殊に好ましくは1〜5時間である。このか焼sは、非還元性条件、例えば希ガス又は大気の存在下で、好ましくは空気酸素の存在下で実施することが好ましい。
【0035】
バルブ金属酸化物粒子の構造は、好ましくは>1000℃の温度範囲内、特に好ましくはその酸化物の融点付近での高温処理によって安定化させることができる。これにより、一次粒子間の焼結ネック(Sinterbruecke)を強化し、かつ孔構造を目的に合わせて変えることができる。
【0036】
場合により実施する高温処理の後に、更に機械的処理、例えばふるい分け、破砕又は粉砕を引き続き行ってよい。場合によりもたらされる不純物、例えば炭素は、後で空気中でか焼することによって、好ましくは800〜1200℃の温度で除去することができる。
【0037】
本発明にかかる方法によれば、ASTM B822によりMasterSizerを用いて測定された10〜80μm、好ましくは15〜40μmの平均粒子径D50及びASTM D3663によりN−3点法を用いて測定された少なくとも10m/gの大きいBET表面積を有する球状のバルブ金属酸化物粉末を製造することが可能になる。
【0038】
得られたバルブ金属酸化物粉末は、更に、球状の凝集体の粒度分布が極めて狭いことを特徴とする。本発明により製造されたバルブ金属酸化物は、それを還元することにより、大きい容積を有するこれまでに公知の粉末に対して比肩しうる表面積及び容積を有するバルブ金属粉末又はバルブ金属亜酸化物に変換できる。その公知の粉末とは異なって、流動性が保たれて得られる。従って、かかる粉末は、コンデンサーアノード及びコンデンサーの製造にとって極めて好適である。粒度分布が均一であること及び凝集体の大きさが比較的小さいことによって、アノード中の充填密度が一定になり、これにより使用者側で質及び収率の改善が達成される。更にまた、二次構造を、一次構造が極めて微細な場合においても凝集体の良好な含浸性を保って得られるように調節してもよい。
【0039】
従って本発明の対象はまた、ASTM B822によりMasterSizerを用いて測定された10〜80μmの平均粒子径D50及びASTM D3663によりN−3点法を用いて測定された少なくとも10m/gのBET表面積を有する球状のバルブ金属酸化物粉末である。
【0040】
かかるバルブ金属酸化物粉末は、本発明にかかる方法により得られる。
【0041】
バルブ金属酸化物粉末の形態を測定するために、イメージング法を使用する。走査型電子顕微鏡を200倍の倍率で使用して、粉末試料の2次元の画像を得る。このために、この粉末を粘着性表面を有する正方形の支持台上に載せる。少なくとも200個の粒子が見える視野範囲を試験する。この画像内に見える粉末粒子を評価する。このために、結像された粉末粒子の周囲に、相互に最大距離を有する粒子の円周上の2つの点に接する円を定める。相互に最小距離を有する粒子の円周上の2つの点に目下接する、同じ中心を有する更なる円を描く。この両方の円の直径の比を、バルブ金属酸化物粉末の形態についての説明の基準として利用する。理想的な球形の粉末粒子のこの比は、1である。それというのも、その粉末粒子の表面上の全ての点は、その粒子の中心から同じ距離であるからである。
【0042】
球状のバルブ金属酸化物粉末、すなわちその粉末粒子がほぼ球状であるバルブ金属酸化物粉末は、少なくとも95%の粉末粒子の大きい方の円の直径と小さい方の円の直径との比が1.0〜1.4である粉末であると解される。
【0043】
ASTM B822によってMasterSizerを用いて測定された平均粒子径D50は、15〜40μmであることが好ましい。
【0044】
ASTM D3663によってN−3点法を用いて測定されたBET表面積は、好ましくは少なくとも15m/g、特に好ましくは少なくとも20m/g、殊に好ましくは少なくとも40m/g、とりわけ好ましくは少なくとも60m/gである。最大BET表面積は、225m/gであることが好ましい。
【0045】
本発明にかかるバルブ金属酸化物粉末は、酸化ニオブ粉末又は酸化タンタル粉末、例えばNbO、NbO、Nb、TaO、TaO、Ta粉末又は亜酸化ニオブ又は亜酸化タンタルであることが好ましく、Nb又はTa粉末が特に好ましい。
【0046】
本発明を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本実施例により本発明の原理の理解が容易になることが望ましく、本発明を限定するものと解されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】比較のためのNbの100倍の倍率での走査型電子顕微鏡画像図
【図2】本発明によるNb粉末の走査型電子顕微鏡(REM)画像図(100倍の倍率)
【図3】本発明によるNb粉末の走査型電子顕微鏡(REM)画像図(200倍の倍率)
【実施例】
【0048】
以下の実施例において製造された金属酸化物粉末若しくは金属粉末を、実施例において挙げたように種々の化学的及び物理的特性について試験した。この試験は、特に定めがない限り、以下のように行った:
粒度分布(D10、D50及びD90値)を、MALVERN社製のMasterSizer Sμを使用してレーザ回折を用いて測定し(ASTM B822)、かつ比表面積を、ASTM D3663によってN−3点法を用いて、ブルナウアー、エメット、テラーの公知の方法(BET法)に従って測定した。%の表示は、特に定めがない限り、質量%である。
【0049】
比較例1
大きい比表面積を有するNb
ニオブ(V)エトキシド200mlに、脱イオン水80mlを撹拌しつつ添加した。こうして得られた水酸化ニオブ(V)(ニオブ酸)を、ヌッチェを用いて濾別し、そして脱イオン水で洗浄した。次いで、この水酸化ニオブ(V)を17時間にわたって100℃で乾燥させ、次いで4時間にわたって500℃で空気中でか焼した。80m/gの比表面積を有するNbが280g得られた。
【0050】
図1は、こうして製造されたNbの100倍の倍率での走査型電子顕微鏡画像を示している。個々の粉末粒子は不均一に形成されており、それは部分的に薄片形を有していることを明瞭に認識することができる。
【0051】
比較例2
小さい比表面積の球状のNb
脱イオン水200lを装入した状態で、HNbF水溶液(Nb濃度:80g/l)7490lを、NHの9%水溶液7500lを用いて連続的に沈殿させた。この溶液の温度は、約32℃であり、その際、pH値を7.6±0.4に調節した。こうして得られた懸濁液を、圧力濾過用ヌッチェを用いて加圧分離し、次いでNHの3%水溶液で洗浄し、次いで脱イオン水で洗浄した。得られた湿潤な水酸化ニオブ(V)を、24時間にわたって100℃で乾燥戸棚中で乾燥させた。乾燥した水酸化ニオブ(V)を空気中で400℃の温度で2時間にわたってか焼することによって、1.6m/gの比表面積を有するNb粉末が得られた。
【0052】
比較例3
大きい比表面積を有するTa
タンタル(V)エトキシド1000mlに、過剰の脱イオン水を撹拌しつつ添加した。こうして得られた水酸化タンタル(V)を、ヌッチェを用いて濾別し、そして脱イオン水で洗浄した。次いで、この水酸化タンタル(V)を17時間にわたって75℃で乾燥させた。9.78%の残留水の含水率を有する水酸化タンタル(V)872.1gが得られた。この物質の55gを、2時間にわたって500℃で空気中でか焼した。こうして得られたTaは、76m/gの比表面積を有していた。
【0053】
比較例4
小さい比表面積の球状のTa
脱イオン水300lを装入した状態で、約82g/lのTa濃度を有するHTaF水溶液6360lを、NHの6%水溶液5655lを用いて、pH値が7.6±0.4になるように連続的に沈殿させた。この溶液の温度は約35℃であった。こうして得られた懸濁液を、圧力濾過用ヌッチェを用いて加圧分離し、最初にNHの3%水溶液で洗浄し、次いで脱イオン水で洗浄した。得られた湿潤な水酸化タンタル(V)を、24時間にわたって100℃で乾燥戸棚内で乾燥させ、次いで2時間にわたって400℃で空気中でか焼した。このように製造されたTaは、1m/gの比表面積を有していた。
【0054】
実施例1
撹拌反応器内において、脱イオン水300lを装入した状態で、84g/lのNb濃度を有するHNbF水溶液3700lを、NHの6%水溶液5500lを用いて、連続的に沈殿させた。HNbF水溶液は300l/hの流量で添加し、かつNHの6%水溶液は450l/hの流量で添加した。このpH値を、7.6±0.4に調節した。この溶液の温度は、56℃であった。こうして得られた懸濁液を、圧力濾過用ヌッチェを用いて濾別して、NHの3%水溶液で洗浄し、次いで脱イオン水で洗浄した。この湿潤な水酸化ニオブ(V)を、24時間にわたって100℃で乾燥戸棚内で乾燥させた。乾燥した水酸化ニオブ(V)を500℃の温度で2時間にわたってか焼することによって、94m/gの比表面積並びに球状の形態を有するNb粉末が得られた。
【0055】
MasterSizer分析値[μm]:D10 1.77
D50 17.26
D90 33.27
実施例2
脱イオン水400lを装入した状態で、81g/lのNb濃度を有するHNbF水溶液4662lを、NHの9%水溶液4600lを用いて、連続的に沈殿させた。このHNbF水溶液は300l/hの流量で添加し、かつNHの9%水溶液も300l/hの流量で添加した。このpH値を、7.6±0.に調節した。この溶液の温度は63℃であった。こうして得られた懸濁液を、圧力濾過用ヌッチェを用いて濾別して、NHの3%水溶液で洗浄し、次いで脱イオン水で洗浄した。得られた湿潤な水酸化ニオブ(V)を24時間にわたって100℃で乾燥戸棚内で乾燥させた。この水酸化ニオブ(V)は、201m/gの比表面積を有しており、かつその大部分が球状の形態を示していた。それを2時間にわたって500℃の温度でか焼すると、116m/gの比表面積及び球状の形態を有するNb粉末が得られた。
【0056】
MasterSizer分析値[μm]:D10 2.10
D50 20.21
D90 37.28
図2は、得られたNb粉末の走査型電子顕微鏡(REM)画像(100倍の倍率)を示している。球状の形態を明瞭に認識できる。
【0057】
実施例3
脱イオン水400lを装入した状態で、80g/lのNb濃度を有するHNbF水溶液9020lを、NHの9%水溶液10000lを用いて、連続的に沈殿させた。このHNbF水溶液は300l/hの流量で添加し、かつNHの9%水溶液も300l/hの流量で添加した。このpH値を、7.6±0.4に調節した。この溶液の温度は69℃であった。こうして得られた懸濁液を、圧力濾過用ヌッチェを用いて濾別して、NHの3%水溶液で洗浄し、次いで脱イオン水で洗浄した。得られた湿潤な水酸化ニオブ(V)を、24時間にわたって100℃で乾燥戸棚内で乾燥させた。それを2時間にわたって400℃の温度でか焼すると、140m/gの比表面積及び球状の形態を有するNb粉末が得られた。
【0058】
MasterSizer分析値[μm]:D10 2.60
D50 20.97
D90 38.12
図3は、得られたNb粉末の走査型電子顕微鏡(REM)画像(200倍の倍率)を示している。球状の形態を明瞭に認識できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物を含有するバルブ金属化合物と塩基とを水の存在下で連続的に反応させ、そしてそれにより生じた生成物をか焼することによってバルブ金属酸化物粉末を製造する方法において、その反応をただ1つの反応容器内で、かつ少なくとも45℃の温度で実施することを特徴とする方法。
【請求項2】
反応容器内での滞留時間が、30分〜3時間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フッ化物を含有するバルブ金属化合物及び使用される塩基を、それぞれ水溶液又は懸濁液の形で使用することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
フッ化物を含有するバルブ金属化合物が、HNbF又はHTaFであることを特徴とする、請求項1から3までの何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
塩基として、アンモニア、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を使用することを特徴とする、請求項1から4までの何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
塩基として、3〜15質量%のアンモニア濃度を有するアンモニア水溶液を使用することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
フッ化物を含有するバルブ金属化合物と塩基との反応を、反応温度で測定された7〜14のpH値で実施することを特徴とする、請求項1から6までの何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
ASTM B822によってMasterSizerを用いて測定された10〜80μmの平均粒子径D50を有する球状のバルブ金属酸化物粉末であって、ASTM D3663によってN−3点法を用いて測定されたBET表面積が、少なくとも10m/gであることを特徴とするバルブ金属酸化物粉末。
【請求項9】
バルブ金属酸化物が、酸化ニオブ又は酸化タンタルであることを特徴とする、請求項8に記載のバルブ金属酸化物粉末。
【請求項10】
バルブ金属酸化物が、Nb又はTaであることを特徴とする、請求項9に記載のバルブ金属酸化物粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−126645(P2012−126645A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−82220(P2012−82220)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2006−525697(P2006−525697)の分割
【原出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(507239651)ハー.ツェー.スタルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (59)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】