説明

パッド及びその製造方法

【課題】 キャッチャー剤の使用量が少なくてもVOCの揮発を十分に防止することができ、しかも製造効率も高いパッドを提供する。
【解決手段】 パッド1を発泡成形し、金型から脱型した後、クラッシュローラ2a,2b〜5a,5b間に通す。途中でノズル6からキャッチャー剤Cをパッド1に付着させる。パッド1がクラッシュローラ5a,5bを通り抜けて膨張する際にパッド1内に吸い込まれる空気に随伴してキャッチャー剤Cがパッド1内に浸透する。シートパッドから発生しようとするVOCは、浸透したキャッチャー剤によって捕捉される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリウレタンフォームなどの軟質フォームからなる車両用シートパッド等のパッドに関し、特にホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物の放散が抑制されたパッドに関するものである。また、本発明はこのパッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物(VOC)は、シックハウス症候群や化学物質過敏症を引き起こす原因になることから、室内に使用される各種資材にはこれらの化合物を極力放散しないことが求められている。かかる状況は自動車などの車両室内においても同様であり、今後そのような要請が益々高まることが予想される。
【0003】
ところで、一般に、自動車用シートにはクッション性の高い軟質ポリウレタンフォームからなるシート用パッドが用いられているが、これらの中にはポリウレタンフォーム原料中に含まれたり、ウレタンの反応過程で発生するホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの揮発性有機化合物が原因で、発泡成形後にパッドから揮発性有機化合物が放散してしまうものもあり、その対策が求められる。
【0004】
特許第3625141号には、このウレタン組成物中にキャッチャー剤を配合することによりVOCの揮発を防止することが記載されている。
【0005】
また、特許3069845号には、建材や繊維製品等の表面に消臭成分含有液をコーティングすることが記載されており、この消臭成分としてアルデヒド類分解作用を有するヒドラジド化合物が記載されている。
【特許文献1】特許3625141号
【特許文献2】特許3069845号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウレタン組成物中にキャッチャー剤を配合する場合、キャッチャー剤の多くがパッド製品のウレタンマトリックス中に取り込まれたり、原料と反応したりしてしまい、十分なVOC放散防止効果を得るためには配合するキャッチャー剤の量が多くなり、コスト高となる。
【0007】
また、パッド表面に単に消臭性コーティング剤を塗布する場合、コーティング剤が乾くまで次の工程を開始することができず、パッドの製造効率が低いものとなる。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、キャッチャー剤の使用量が少なくてもVOCの揮発を十分に防止ないし抑制(以下、防止という)することができ、しかも製造効率も高いパッドと、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1のパッドは、軟質フォームからなり、揮発性有機化合物を捕捉するキャッチャー剤を含有するパッドにおいて、前記キャッチャー剤は、該パッド内に吸い込まれる空気に随伴してパッド内に浸透したものであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2のパッドは、請求項1において、前記軟質フォームはウレタンフォームであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3のパッドは、請求項2において、該パッドは車両用シートパッドであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4のパッドの製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のパッドを製造する方法であって、前記パッドを圧縮する圧縮工程と、該圧縮工程の前、後又は途中においてパッドの外面にキャッチャー剤を付着させる付着工程と、該付着工程の後又は途中においてパッドの圧縮を解除してパッドを復元させ、この復元時にパッド内に吸い込まれる空気に随伴させてキャッチャー剤をパッド内に浸透させる浸透工程と、を有することを特徴とするものである。
【0013】
請求項5のパッドの製造方法は、請求項4において、ローラで挟圧することにより前記パッドを圧縮することを特徴とするものである。
【0014】
請求項6のパッドの製造方法は、請求項5において、前記ローラを複数対配置しておき、パッドをローラ間に通して移動させ、この移動途中でパッドにキャッチャー剤を付着させることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7のパッドの製造方法は、請求項6において、前記ローラはパッドを破泡処理するためのクラッシュローラであることを特徴とするものである。
【0016】
請求項8のパッドの製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のパッドを製造する方法において、前記パッドを耐圧容器内に収容し、該耐圧容器内を減圧し、その後、耐圧容器内に空気を急激に導入することにより、パッドを圧縮し、次いでパッド内に空気を吸い込ませ、この空気に随伴させてキャッチャー剤をパッド内に浸透させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のパッドにあっては、ウレタン反応終了後にVOCを捕捉するためのキャッチャー剤をパッド内部に吸い込まれる空気に随伴させて該パッド内に浸透させるため、ウレタン組成物中にキャッチャー剤を配合する場合に比べてキャッチャー剤の使用量が少なくても十分にVOC放散防止効果を得ることができる。
【0018】
本発明のパッドの製造方法にあっては、キャッチャー剤はパッド内部に吸い込まれる空気に随伴してパッド内に浸透するため、キャッチャー剤を単にスプレーする方法と異なり、パッド表面にキャッチャー剤が未乾燥状態で付着残留することがない。従って、キャッチャー剤の注入後は、長時間の乾燥工程を経ることなくパッドを次工程に送ることができ、パッドの製造効率が向上する。
【0019】
このキャッチャー剤を浸透させるには、パッドを圧縮した後、復元させ、この復元時にパッド内に空気を吸い込ませ、この空気にキャッチャー剤を随伴させて浸透させることができる。この圧縮を行うには、ローラによってパッドを挟圧するのが好ましい。
【0020】
このローラによる挟圧を行ってパッドを圧縮する方法は、特に車両用シートパッドに適用するのに好適である。車両用シートパッドは、通常の場合、ウレタンフォームよりなり、金型を用いて発泡成形される。金型から脱型したパッドは、通常、クラッシュローラに通してウレタンフォームに破泡処理を施す。本発明では、このクラッシュローラによるクラッシュ工程中においてキャッチャー剤をパッドに付着させ、クラッシュローラ通り抜け後の復元時にパッド内部に吸い込まれる空気にキャッチャー剤を随伴させてパッド内部に浸透させることにより、パッドの製造効率を高めることができる。
【0021】
本発明では、パッドを耐圧容器内に収容し、該耐圧容器内を減圧することによりパッドを膨張させ、その後、耐圧容器内に空気を急激に(例えば4秒以内で大気圧となるように)導入することによりパッドを圧縮し、次いでパッド内に空気を吸い込ませ、この空気に随伴させてキャッチャー剤をパッド内に浸透させることによってもパッドを効率よく製造することができる。
【0022】
この耐圧容器内に収容して減圧、開放によって空気を導入する方法も車両用シートパッドに適用するために好適である。車両用シートパッドのうち、ローラクラッシュによる破泡処理ができないものは、一旦耐圧容器内にパッドを入れて減圧し、パッドを膨張させ、破泡させる真空クラッシュという方法がとられる。本発明ではこの真空クラッシュの工程において、減圧を開放し、容器中に空気を急激に導入し、パッドが復元するときにパット内部に流入する空気に随伴させてキャッチャー剤をパッド内部に浸透させることにより、パッドの製造効率を高める事ができる。
【0023】
もちろん、減圧してから開放するという方法ではなく、単に急激な加圧をすることでパッド内部に空気を導入する事もできるが、専用でパッドを加圧する工程を設けると高コストになるので、上記の工程を利用するのが最も効率的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0025】
第1図は実施の形態に係る車両用シートパッドを破泡処理すると共にキャッチャー剤を浸透させる方法を示す断面図である。
【0026】
この車両用シートパッド1は、成形用の金型内にウレタン原液を供給し、加熱発泡させて成形し、金型から脱型した後のものである。
【0027】
このパッド1をクラッシュローラ2a,2b間、クラッシュローラ3a,3b間、クラッシュローラ4a,4b間及びクラッシュローラ5a,5b間に順次に通す。ローラ間隔は、ローラ2a,2bからローラ5a,5bにかけて次第に小さくなっている。
【0028】
ローラ3a,3bとローラ4a,4bとの間の上方に、キャッチャー剤のスプレーないし吐出用のノズル6が配置されている。このノズル6にはキャッチャー剤供給ライン(図示略)が接続されており、このキャッチャー剤注入ラインには電磁弁等よりなる開閉弁が設けられている。パッド1がノズル6の真下位置に来たときに該開閉弁が開となり、ノズル6からキャッチャー剤がパッド1に向かってスプレーないし吐出される。
【0029】
パッド1は、ローラ2a,2b〜5a,5b間を通過する間に次第に圧縮され、この間に破泡処理される。この移動の途中でノズル6からのキャッチャー剤Cがパッド1に付着する。
【0030】
最後段のローラ5a,5bを通り抜けたパッド1は、それ自身の弾力性により復元膨張する。この復元膨張に際しては、パッド1の外表面から内部に空気が吸い込まれ、この空気に随伴してキャッチャー剤Cがパッド1に浸透する。このキャッチャー剤Cは、随伴する空気によってパッド1の全体に万遍なく浸透する。
【0031】
このようにキャッチャー剤がパッド1に十分に浸透するところから、車両用シートパッド1からのVOCの揮発が効率的に防止される。
【0032】
なお、第1図ではノズル6をクラッシュ工程途中のローラ3a,3bとローラ4a,4bとの間に配置しているが、それよりも後段側に配置してもよく、最後段のローラ5a,5bの通過直後位置にノズル6を設けてもよい。
【0033】
また、ノズル6を複数位置に設けてもよい。ノズル6はパッドの側方や下方にも配置されてもよい。
【0034】
第2図は別の実施の形態に係る破泡及びキャッチャー剤浸透処理方法を示す断面図である。
【0035】
この実施の形態では、上部にキャッチャー剤スプレー用のノズル11を備えた耐圧容器としてのチャンバ10を用いている。このノズル11にはキャッチャー剤の供給ライン(図示略)が接続されている。
【0036】
なお、チャンバ10は図示しないヒンジによって上半側が蓋状に開き出し可能となっている。
【0037】
チャンバ10には、給排気用の開口12が設けられている。この開口12は、三方弁13を介して大気開放管14に接続されると共に、該三方弁13と配管15とを介して真空ポンプ等の真空源16に接続されている。
【0038】
このチャンバ10を用いてキャッチャー剤の浸透処理を行うパッド1は、ウレタン原液を金型内で発泡させ、次いで脱型して得た破泡処理前の独立気泡状態のものであり、このチャンバ10内で破泡処理とキャッチャー剤の浸透処理とを併せて行うようにしている。
【0039】
まず、第2図(a)のようにこのパッド1をチャンバ10内に入れ、チャンバ10を密閉する。次いで、第2図(b)の通り、三方弁13を、開口12と配管15とが連通し、開口12と大気開放管14とは非連通状態となるように切り替えてチャンバ10内を真空源16に連通し、チャンバ10内を減圧する。このとき、チャンバ10内を0.05〜0.2atm程度にまで減圧するのが好ましい。
【0040】
パッド1の気泡は独立気泡であるため、チャンバ10内が減圧されるのに伴ってパッド1は膨張し、パッド1の気泡が破泡する。
【0041】
その後、第2図(c)の通り、三方弁13を大気開放管14に連通させ、配管15に非連通状態とし、チャンバ10内に空気を流入させる。この空気は、パッド1内にも吸い込まれるが、パッド1は微細な多孔状となっているため空気の流入抵抗が大きく、三方弁13の大気開放後しばらくは、チャンバ10内の気圧がパッド1内部の気圧よりも高い状態となり、この間、パッド1は空気圧によって圧縮された状態となる。
【0042】
そこで、第2図(d)のようにノズル11からパッド1に向かってキャッチャー剤をスプレーし、パッド1の上面にキャッチャー剤を付着させる。その後、第2図(e)のように、ノズル11からのキャッチャー剤のスプレーを停止する。この間も、パッド1の外表面を通してパッド1内に空気が吸い込まれつづけ、やがてパッド1は第2図(a)に示した元の大きさにまで復元する。
【0043】
このように空気がパッド1の外表面を通してパッド1内に徐々に吸い込まれる間、パッド1の上面に付着していたキャッチャー剤Cが、吸い込まれる空気に随伴してパッド1内に浸透する。
【0044】
このようにキャッチャー剤Cがパッド1に浸透することにより、パッド1からのVOCの揮発が防止されるようになる。
【0045】
なお、第2図ではパッド1に対しチャンバ1内においてキャッチャー剤を付着させているが、予めキャッチャー剤をパッド1に付着させた後、チャンバ10内にセットするようにしてもよい。
【0046】
また、第2図ではパッド1の上面にのみキャッチャー剤を付着させているが、パッド1の側面や下面にもキャッチャー剤を付着させてもよい。
【0047】
第2図では、ノズル11からキャッチャー剤をスプレーしてパッド1に付着させているが、減圧後、三方弁13でチャンバ10内に空気(大気)を導入する際にこの空気にキャッチャー剤を添加し、これによってキャッチャー剤をパッド1に付着させ且つ浸透させるようにしてもよい。
【0048】
本発明では、キャッチャー剤としてはVOCを捕捉するものであれば特に制限はなく、例えば、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドを捕捉する、アミン類、イミン類、アミジン類、アミド類、カルバミド類、ヒドラジド類、アゾール類、アジン類、アミノ酸類等のようにアルデヒドガスと化学的に反応して捕捉作用を発揮する含窒素有機化合物を用いることができる。
【0049】
また、ポリウレタンフォーム成形体中のアセトアルデヒドやホルムアルデヒドなどのアルデヒド類がチオ硫酸塩により還元されるのでチオ硫酸ナトリウムやチオ硫酸カリウムなども用いることができる。
【0050】
キャッチャー剤は水に溶解ないし分散させてスプレーないし吐出するのが好ましい。
【0051】
キャッチャー剤には、必要に応じ活性炭などの吸着材を含有させてもよい。
【0052】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態をもとりうる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施の形態に係るパッドの分解断面図である。
【図2】別の実施の形態に係るパッドの断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 パッド本体
2a,2b〜5a,5b クラッシュローラ
10 チャンバ
13 三方弁
16 真空源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質フォームからなり、揮発性有機化合物を捕捉するキャッチャー剤を含有するパッドにおいて、
前記キャッチャー剤は、該パッド内に吸い込まれる空気に随伴してパッド内に浸透したものであることを特徴とするパッド。
【請求項2】
請求項1において、前記軟質フォームはウレタンフォームであることを特徴とするパッド。
【請求項3】
請求項2において、該パッドは車両用シートパッドであることを特徴とするパッド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のパッドを製造する方法であって、
前記パッドを圧縮する圧縮工程と、
該圧縮工程の前、後又は途中においてパッドの外面にキャッチャー剤を付着させる付着工程と、
該付着工程の後又は途中においてパッドの圧縮を解除してパッドを復元させ、この復元時にパッド内に吸い込まれる空気に随伴させてキャッチャー剤をパッド内に浸透させる浸透工程と、
を有することを特徴とするパッドの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、ローラで挟圧することにより前記パッドを圧縮することを特徴とするパッドの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記ローラを複数対配置しておき、パッドをローラ間に通して移動させ、この移動途中でパッドにキャッチャー剤を付着させることを特徴とするパッドの製造方法。
【請求項7】
請求項6において、前記ローラはパッドを破泡処理するためのクラッシュローラであることを特徴とするパッドの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のパッドを製造する方法において、前記パッドを耐圧容器内に収容し、該耐圧容器内を減圧し、
その後、耐圧容器内に空気を急激に導入することにより、パッドを圧縮し、次いでパッド内に空気を吸い込ませ、
この空気に随伴させてキャッチャー剤をパッド内に浸透させることを特徴とするパッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−319601(P2007−319601A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156214(P2006−156214)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)