説明

パワーステアリング装置

【課題】サブポンプに相当する第2ポンプを十分に有効利用し得るパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】第1ポンプP1及び第2ポンプP2からなる2つのポンプを備え、コントロールバルブ20を介して第1パワーシリンダC1の一対の圧力室X1,X2に液圧が供給されることによって操舵補助が行われるパワーステアリング装置において、とりわけ、第1ポンプP1及び第2ポンプP2とコントロールバルブ20の間に、スプール34の軸方向位置に関係なく前記両ポンプP1,P2をコントロールバルブ20に連通させる一方、スプール34の軸方向位置に応じて前記各ポンプP1,P2に対応する一対のリザーバタンクT1,T2のうち一方のリザーバタンクのみをコントロールバルブ20に連通させることとして、作動液の還流通路R1,R2のみを切り換える還流通路切換弁30を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の操舵力を液圧によってアシストするパワーステアリング装置のうち、主として大型の車両に用いられるインテグラル型のパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ここで、従来のインテグラル型のパワーステアリング装置としては、例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
すなわち、このパワーステアリング装置では、エンジンによって駆動されるメインポンプと、該メインポンプの補完に供するサブポンプとを備え、通常時はメインポンプにより液圧を供給し、該メインポンプが失陥した場合にはサブポンプを駆動させる構成とすることで、エンジン停止時においても操舵補助を行うことが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特開2005−255001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のパワーステアリング装置の場合、メインポンプがサブポンプを補完する、すなわちメインポンプに係る液路系統に異常を来した場合にのみサブポンプを駆動するような構成となっているため、当該両ポンプを併用することができず、サブポンプの十分な有効利用が図れなかった。
【0006】
本発明は、前記従来のパワーステアリング装置の実情に鑑みて案出されたものであり、サブポンプを十分に有効利用し得るパワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1ポンプ及び第2ポンプからなる2つのポンプを備え、コントロールバルブを介してパワーシリンダの一対の圧力室に液圧が供給されることにより操舵補助が行われるパワーステアリング装置において、とりわけ、第1ポンプ及び第2ポンプとコントロールバルブの間に、弁体の軸方向位置に関係なく前記両ポンプをコントロールバルブに連通させる一方、弁体の軸方向位置に応じて前記各ポンプに対応する一対のリザーバタンクのうち一方のリザーバタンクのみをコントロールバルブに連通させることとして、作動液の戻り通路のみを切り換える戻り通路切換バルブを設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一方のポンプが作動液を供給しない状態で他方のポンプが作動液を供給することにより一方のポンプの失陥時にも継続して操舵アシストを行うことができるのは勿論、戻り通路切換バルブをもって前記両ポンプから同時に作動液の供給を行うことが可能となる。これにより、各ポンプの容量の小型化が図れ、その結果、一方のポンプのみでの作動液供給時におけるポンプの駆動ロスを低減することにも供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るパワーステアリング装置及びこれに適用する液圧回路を現したシステム図である。
【図2】図1に示すパワーステアリング装置の縦断面図である。
【図3】図1のA−A線断面図であって、(a)はパワーステアリング装置の正常作動時における還流通路切換弁の状態を示し、(b)はエンジン停止時等における還流通路切換弁の状態を示している。
【図4】図1のB−B線断面図であって、(a)はパワーステアリング装置の正常作動時におけるシリンダ切換弁の状態を示し、(b)はエンジン停止時等におけるシリンダ切換弁の状態を示している。
【図5】本発明に係るパワーステアリング装置の正常作動時に係る液圧回路図である。
【図6】同装置におけるエンジン停止時又は第1ポンプの液圧系統の異常時に係る液圧回路図である。
【図7】同装置における第1ポンプに係る供給配管が破損した状態を現した液圧回路図である。
【図8】同装置における第1ポンプに係る還流配管が破損した状態を現した液圧回路図である。
【図9】同装置における第2ポンプに係る供給配管が破損した状態を現した液圧回路図である。
【図10】同装置における第1ポンプに係る還流配管が破損した状態を現した液圧回路図である。
【図11】同装置におけるシリンダ切換弁と第2パワーシリンダの接続配管が破損した状態を現した液圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るパワーステアリング装置の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明に係るパワーステアリング装置とこれに適用する液圧回路の具体的構成を現したシステム図である。
【0012】
すなわち、本実施形態に係るパワーステアリング装置は、図示外のステアリングホイールより入力軸11に入力された操舵力を、これに内蔵された主たるパワーシリンダである(本発明に係るパワーシリンダに相当する)第1パワーシリンダC1をもって増幅させて、出力軸12(図2参照)を介して後述するセクタシャフト16に連結される図示外のピットマンアームを左右に引くことにより、主たる転舵輪である第1転舵輪(図示外)の転舵に供するパワーステアリング装置本体10と、該パワーステアリング装置本体10とは別体に設けられ、前記第1転舵輪とは別異の第2転舵輪の転舵等に供する補助パワーシリンダである第2パワーシリンダC2と、パワーステアリング装置本体10に内蔵され、前記入力軸11へと入力された操舵力や操舵方向に応じて第1パワーシリンダC1の各圧力室X1,X2(図2参照)ないし第2パワーシリンダC2の各圧力室Y1,Y2に液圧を供給するコントロールバルブ20と、装置の第1駆動源であるエンジンEにより駆動され、コントロールバルブ20に液圧を供給する主たるポンプである第1ポンプP1と、前記第1駆動源とは異なる第2駆動源である電動モータMによって駆動され、第1ポンプP1の代わりに或いは当該第1ポンプP1と共にコントロールバルブ20に対して作動液を供給する第2ポンプP2と、主として第1ポンプP1に給排する作動液の貯留に供する第1リザーバタンクT1と、該第1リザーバタンクT1と一体的に構成され、主として第2ポンプP2に給排する作動液の貯留に供する第2リザーバタンクT2と、車両の運転状態や当該パワーステアリング装置の作動状態等に応じて電動モータMを制御する電子コントロールユニット(以下「ECU」と略称する。)50と、から主として構成されている。
【0013】
また、前記コントロールバルブ20と前記各ポンプP1,P2との間には、戻り通路切換バルブである還流通路切換弁30が配設されている。この還流通路切換弁30は、パワーステアリング装置本体10(コントロールバルブ20)に付設されていて、前記各ポンプP1,P2より供給された作動液の戻り通路である前記各リザーバタンクT1,T2への還流通路R1,R2が切り換えられるようになっている。換言すれば、本実施形態では、切換弁によって、コントロールバルブに接続されるポンプを切り換えるのではなく、前記各リザーバタンクT1,T2への還流通路R1,R2のみを切り換える構成とすることで、前記両ポンプP1,P2を同時にコントロールバルブ20と接続させることを可能とし、これによって、当該両ポンプP1,P2の併用を可能としている。
【0014】
さらに、前記コントロールバルブ20と第2パワーシリンダC2との間には、補助シリンダ切換バルブであるシリンダ切換弁40が配設されている。このシリンダ切換弁40は、還流通路切換弁30と同様に、パワーステアリング装置本体10(コントロールバルブ20)に付設されていて、コントロールバルブ20と第2パワーシリンダC2との連通・遮断が切り換えられるようになっている。
【0015】
前記第1リザーバタンクT1と第2リザーバタンクT2は、1つのリザーバタンクTとして一体的に構成されていて、当該リザーバタンクTの下端側のみが隔壁TWによって仕切られることで第1リザーバタンクT1と第2リザーバタンクT2とが隔成されるようになっている。すなわち、当該リザーバタンクTにおいて、作動液の液面が隔壁TWの高さよりも高い位置にある場合には、両タンクT1,T2は相互に作動液を共有し、作動液の液面が隔壁TWの高さよりも低い位置にある場合には、各タンクT1,T2は独立して作動液を給排することとなる。なお、かかる作動液の液面の高さは、前記隔壁TWとほぼ同じ高さ位置に配設された液量センサ51によって判別されるようになっている。そして、この液面の判別によって液圧系統の異常の検出が可能となっており、作動液の液面が液量センサ51によって検知されない高さにあるときは、液圧系統のどこかに異常があって、作動液の液漏れが生じていると判断することができる。
【0016】
図2は、パワーステアリング装置本体の具体的構成を現した当該パワーステアリング装置本体の軸方向縦断面図である。
【0017】
すなわち、このパワーステアリング装置本体10は、その内部に第1パワーシリンダC1を構成するシリンダハウジング13と、その内部にコントロールバルブ20を構成するバルブハウジング14とを突き合わせてなるハウジングをもって構成されている。
【0018】
前記シリンダハウジング13は、軸方向一端側が閉塞されるほぼ有底円筒状に構成されてなり、その内部に形成されるシリンダ室13aにはピストン15が進退移動可能に収容され、このピストン15によって当該シリンダ室13aが一対となる右操舵用の第1圧力室X1と左操舵用の第2圧力室X2とに隔成されている。また、シリンダハウジング13内におけるシリンダ室13aの側方には、前記図示外のピットマンアームと連結されるセクタシャフト16を収容するセクタシャフト収容室13bが形成されていて、このセクタシャフト収容室13b内には、セクタシャフト16の一部が収容されている。すなわち、セクタシャフト16は、シリンダ室13aに対して軸直角に配設されていて、前記ピットマンアームを介して前記図示外の第1転舵輪と接続される。
【0019】
前記ピストン15は、ほぼ円筒状に形成されてなるもので、その外周のうちセクタシャフト16と対向する部分には、3つの歯からなるラック部15aが形成されている。すなわち、このラック部15aがセクタシャフト16に形成された歯部16aと噛合することによって、ピストン15の進退移動がセクタシャフト16の回転運動へと変換され、これによって前記図示外の第1転舵輪に舵角が与えられることとなる。また、このピストン15は、ボール螺子機構17を介してほぼ円筒状の出力軸12の軸方向一端部に連結されている。すなわち、シリンダ室13a内部にはその軸方向に沿って出力軸12が配設されていて、当該出力軸12が回転することによりピストン15が進退移動するようになっている。
【0020】
前記バルブハウジング14は、シリンダハウジング13の他端側の開口部に取り付けられており、当該バルブハウジング14内には、出力軸12と軸線を一致させるかたちで入力軸11が挿通配置されている。そして、出力軸12と対向する入力軸11の軸方向一端部は、出力軸12の他端部に嵌挿されていて、当該入力軸11と出力軸12とがトーションバー18を介して接続されている。すなわち、このトーションバー18は、その軸方向一端部が入力軸11の一端部に穿設されたトーションバー収容穴11a内に収容されて、締結ピン19aを介して入力軸11と結合されている一方、その他端側は出力軸12の内周に収容されて、その他端部が出力軸12の一端部に締結ピン19bをもって結合されている。
【0021】
なお、前記入力軸11は、バルブハウジング14内に収容される軸受B1をもって当該バルブハウジング14に回転自在に軸支されている一方で、出力軸12は、その他端部に一体的に構成される軸受B2を介してバルブハウジング14に回転自在に軸支されている。また、入力軸11の他端部は、バルブハウジング14から外部へと突出するように構成され、前記図示外のステアリングホイールに連結される。
【0022】
かかる構成から、前記図示外のステアリングホイールが回転操作されて入力軸11が回転すると、その回転がトーションバー18を介して出力軸12へと伝達されると共に、その出力軸12の回転運動がピストン15の進退運動へと変換され、さらにピストン15の進退運動がセクタシャフト16の回転運動に変換されることとなって、前記図示外の第1転舵輪が転舵されることとなる。また、この際に、前記各ポンプP1,P2からの油圧を、特に第1パワーシリンダC1の各圧力室X1,X2へとコントロールバルブ20を介して選択的に供給することで、該両圧力室X1,X2間に差圧が発生し、これによって操舵力がアシストされることとなる。
【0023】
前記コントロールバルブ20は、いわゆるロータリバルブであって、入力軸11と出力軸12との相対回転に基づくトーションバー18の捩れ量に応じて開弁し、前記第1パワーシリンダC1の各圧力室X1,X2等へ作動液の供給又は排出を行うバルブ機構として機能する。なお、かかるコントロールバルブ20自体は周知(例えば特開2006−298284号公報等を参照)であるため、具体的な説明については省略する。そして、第1パワーシリンダC1については、出力軸12内に貫通形成された第1連通路21を介して前記右操舵用の第1圧力室X1とコントロールバルブ20とが接続される一方で、バルブハウジング14及びシリンダハウジング13の内部に連続的に設けられた第2連通路22を介して前記左操舵用の第2圧力室X2とコントロールバルブ20とが接続されることとなる。
【0024】
図3は、還流通路切換弁の具体的構成を現した図1中のA−A線に沿う要部拡大断面図であって、図3(a)は、パワーステアリング装置の正常作動時における当該切換弁の状態を示し、図3(b)は、エンジンが停止している場合等における当該切換弁の状態を示している。
【0025】
この還流通路切換弁30は、長手方向の一端側が開口形成されると共に他端側が閉塞されるように設けられた弁体収容穴32を有するバルブボディ31と、弁体収容穴32の一端開口部を閉塞するプラグ33と、弁体収容穴32内部にその軸方向に沿って摺動自在に収容配置され、その軸方向位置に応じて、その外周部に設けられた第1、第2ランド部L1,L2をもって後述する各ポートPC1…の連通状態を切り換えるスプール状の弁体(以下、単に「スプール」と呼称する。)34と、前記弁体収容穴32の他端側にてバルブボディ31端壁とスプール34との間に弾装され、スプール34をプラグ33側へと常時付勢する付勢部材であるバルブスプリング35と、から主として構成されていて、第1、第2ポンプP1,P2により供給される作動液圧をパイロット圧として切換作動する。
【0026】
前記バルブボディ31は、コントロールバルブ20の側方にてバルブハウジング14に結合されてなり、その側部には、第1ポンプP1からの作動液圧を弁体収容穴32内に導入する第1ポンプ接続ポートPC1と、第2ポンプP2からの作動液圧を弁体収容穴32内に導入する第2ポンプ接続ポートPC2と、第1、第2ポンプP1,P2の一方ないし両方から供給された作動液をコントロールバルブ20へ導く導入ポートIPと、コントロールバルブ20から排出された作動液を弁体収容穴32内に導く排出ポートXPと、弁体収容穴32内の作動液を第1リザーバタンクT1へ還流する第1タンク接続ポートTC1と、弁体収容穴32内の作動液を第2リザーバタンクT2へ還流する第2タンク接続ポートTC2と、がそれぞれ貫通形成されている。なお、第1、第2ポンプ接続ポートPC1,PC2には、それぞれ第1、第2逆止弁V1,V2が配設されていて、前記各ポンプP1,P2から弁体収容穴32内に導入された作動液の逆流が抑止されている。
【0027】
より具体的に説明すれば、図3(a)に示す正常状態では、第1ポンプP1から供給される液圧によってバルブスプリング35の付勢力に抗してスプール34が同図中の左側へ移動する(以下「第1位置」と呼称する。)。これにより、前記各ポンプP1,P2側からの作動液の導入については、スプール34の外周部に設けられた第1縮径部D1と弁体収容穴32との間に画成される第1環状通路C1を通じ第1縮径部D1に隣設された第1ランド部L1と弁体収容穴32の内周面に設けられた第1シール部S1との間に形成される微小隙間A1を介して、或いは、スプール34の軸方向一端部(プラグ33側の端部)内に貫通形成された第1内部通路H1を通じて、第1シール部S1に隣設された第1環状溝G1を経て第1ポンプ接続ポートPC1と導入ポートIPとが連通する。なお、スプール34には、その他端側内部にもバルブスプリング35が収容される背圧室36と第1環状溝G1とを常時連通するように第2内部通路H2が貫通形成されているが、この第2内部通路H2は専ら当該スプール34の進退移動における背圧室36の容積変化を吸収することに供される。さらに、前記微小隙間A1についてはオリフィスとして機能することとなり、該オリフィスの前後となる第1環状通路C1内の液圧と第1環状溝G1内の液圧との間には差圧が発生する。また、第2ポンプ接続ポートPC2については、第1ランド部L1と第1環状溝G1との間に画成される第2環状通路C2を介して、導入ポートIPに常時接続される。このように、第1ポンプ接続ポートPC1から弁体収容穴32内へと流入した作動液は、前記各逆止弁V1,V2によってそれぞれ前記各ポンプ接続ポートPC1,PC2から逆流してしまうことがなく、その全てが導入ポートIPを介してコントロールバルブ20へと供給されることとなる。
【0028】
また、前記コントロールバルブ20側からの作動液の排出(還流)については、前記両ランド部L1,L2間に設けられた第2縮径部D2と弁体収容穴32の内周面に設けられた第2シール部S2との間に画成される第3環状通路C3を通じ、第2ランド部L2と第2シール部S2との間に形成される隙間A2を介し、第2ランド部L2の外周側に形成される第2環状溝G2(本発明に係る第1切換溝に相当)を経て、排出ポートXPと第1タンク接続ポートTC1とが連通する。一方、第1ランド部L1は第2シール部S2の反第2環状溝G2側に隣接する第3環状溝G3(本発明に係る第2切換溝に相当)側の端部と重合することになるため、排出ポートXP(環状通路C3)と第2タンク接続ポートTC2との連通は遮断される。よって、コントロールバルブ20から排出された作動液は、第1タンク接続ポートTC1を介して第1リザーバタンクT1のみに還流されることとなる。
【0029】
一方で、エンジンが停止した状態では、図3(b)に示すように、エンジンにより駆動される第1ポンプP1からの作動液の供給がなくなるため、バルブスプリング35の付勢力によりスプール34が同図中の右側へ移動することとなる(以下「第2位置」と呼称する。)。これにより、前記各ポンプP1,P2側からの作動液の導入については、第1ポンプP1から作動液が供給されることはないため、第1ランド部L1が第1シール部S1の第1環状溝G1側の端部と重合することによって第1ポンプ接続ポートPC1と導入ポートIPとの連通は遮断される一方、環状通路C2を介して第2ポンプ接続ポートPC2と導入ポートIPとの連通状態は維持される。すなわち、かかるエンジン停止状態においては、第2ポンプ接続ポートPC2のみが導入ポートIPと連通することとなる。
【0030】
また、前記コントロールバルブ20側からの作動液の還流については、第2ランド部L2が第2シール部S2の第2環状溝G2側の端部と重合することにより第1タンク接続ポートTC1と排出ポートXPとの連通は遮断される一方、前記環状通路C3を通じて、第2ランド部L2と第2シール部S2の間に形成される隙間A2を介し、第3環状溝G3を経て、排出ポートXPと第2タンク接続ポートTC2とが連通する。よって、コントロールバルブ20から排出された作動液は、第2タンク接続ポートTC2を介して第2リザーバタンクT2のみに還流されることとなる。
【0031】
また、前記プラグ33の内周側には、スプール34との近接(接触)状態を検知する弁体位置検出センサである近接スイッチ52が設けられていて、当該スプール34の軸方向位置の検知に供されている。すなわち、図3に示すように、スプール34の一端が近接スイッチ52から十分に離間している場合には、当該スプール34が前記第1位置にあるとして、また、スプール34の一端が近接スイッチ52に対して十分に近接している場合には、当該スプール34が前記第2位置にあるとして、それぞれECU50(図2参照)にて認識される。
【0032】
図4は、シリンダ切換弁の具体的構成を現した図1中のB−B線に沿う要部拡大断面図であって、図4(a)は、パワーステアリング装置の正常作動時における当該切換弁の状態を示し、図4(b)は、エンジンが停止している場合等における当該切換弁の状態を示している。
【0033】
このシリンダ切換弁40も、還流通路切換弁30と同様、長手方向の一端側が開口形成され他端側が閉塞されるように設けられた弁体収容穴42を有するバルブボディ41と、弁体収容穴42の一端開口部を閉塞するプラグ43と、弁体収容穴42内にその軸方向に沿って摺動自在に収容配置され、その軸方向位置に応じ、その外周部に設けられた第1、第2ランド部L1,L2をもって後述する各ポートBC1…の連通状態を切り換えるスプール44と、を備えている。そして、前記弁体収容穴42は、スプール44によりその両端側が隔成され、プラグ43側に形成される圧力室46には液圧導入ポートPPを介して第1ポンプP1からの作動液圧が導入される一方、反対側に形成される背圧室47にはバルブスプリング45が弾装されていて、第1ポンプP1から圧力室46へと供給される作動液圧をパイロット圧として切換作動する構造となっている。
【0034】
より具体的には、エンジン作動状態であって第1ポンプP1に係る液圧系統が正常である場合は、図4(a)に示すように、第1ポンプP1から還流通路切換弁30を介し液圧導入通路PF(図5参照)を通じて圧力室46へと液圧が供給されることで、当該液圧がスプール44の受圧面としてのプラグ43側端面へと作用することとなり、これをもってスプール44がバルブスプリング45の付勢力に抗して反プラグ43側の位置(第1位置)へと移動することとなる。これにより、スプール44の第1ランド部L1が弁体収容穴42の第1シール部S1のみに重合すると共に、スプール44の第2ランド部L2が弁体収容穴42の第2シール部S2のみに重合することとなって、第1バルブ接続ポートBC1は第1シリンダ接続ポートCC1と、第2バルブ接続ポートBC2は第2シリンダ接続ポートCC2と、それぞれ連通することとなる。この結果、第2パワーシリンダC2の操舵方向に対応する一方の圧力室Y1,Y2にコントロールバルブ20から作動液が供給されると共に、他方の圧力室Y1,Y2からコントロールバルブ20に作動液が排出されることとなる。
【0035】
一方で、エンジンが停止している場合又は第1ポンプP1の液圧系統に異常が生じている場合には、図4(b)に示すように、圧力室46には第1ポンプP1からの液圧が導入されず、スプール44がバルブスプリング45の付勢力に基づいてプラグ43側の位置(第2位置)へと移動することとなる。これにより、スプール44の第1ランド部L1が弁体収容穴42の第1シール部L1と第2シール部S2に跨るかたちで、また、スプール44の第2ランド部L2が弁体収容穴42の第2シール部S2と第3シール部S3に跨るかたちでそれぞれ重合することとなって、前記各バルブ接続ポートBC1,BC2と前記各シリンダ接続ポートCC1,CC2との連通は遮断され、第2パワーシリンダC2の各圧力室Y1,Y2においては作動液の給排が行われないこととなる。
【0036】
以下、本実施形態に係るパワーステアリング装置の下記状態別における作動液の給排につき、図5〜図11に基づいて説明する。なお、図5は装置が正常に作動している状態、図6はエンジンが停止している状態、図7は第1ポンプP1による供給配管が破損した状態、図8は第1リザーバタンクT1への還流配管が破損した状態、図9は第2ポンプP2による供給配管が破損した状態、図10は第2リザーバタンクT2への還流配管が破損した状態、図11は第2パワーシリンダC2への給排配管が破損した状態、における各液圧回路の状態をそれぞれ示している。
【0037】
まず、前記パワーステアリング装置が正常に作動している状態では、図5に示すように、前記リザーバタンクTには液量センサ51にて検知可能な程度の十分な量の作動液が貯留されていて、当該作動液を前記両ポンプP1,P2の液圧系統において共有するようになっている。そして、運転者により操舵操作が行われた場合には、車両の運転状態に応じて、第1ポンプP1のみ又は当該第1ポンプP1と第2ポンプP2の両方をもって還流通路切換弁30に作動液が供給されることとなる。すると、還流通路切換弁30では、前述のように、第1ポンプP1からのパイロット圧によりスプール34が第1位置に位置することになるため、前記両ポンプP1,P2からの作動液がコントロールバルブ20に供給されることとなる。そして、前記操舵操作に基づいたコントロールバルブ20の開弁状態に応じ、該コントロールバルブ20からは、第1パワーシリンダC1の一方の圧力室X1,X2へと作動液が供給される一方、他方の圧力室X1,X2からはコントロールバルブ20を介して還流通路切換弁30へと作動液が排出されることとなる。ここで、還流通路切換弁30においては、スプール34が第1位置にあることで、排出ポートXPが第1リザーバタンクT1のみと連通して第2リザーバタンクT2との連通は遮断された状態となっているため、前記第1パワーシリンダC1から排出された作動液は、その全てが第1タンク接続ポートTC1を介し第1還流通路R1を通じて第1リザーバタンクT1へと還流されることとなる。
【0038】
また、エンジンEが作動状態にあり、かつ、第1ポンプP1に係る液圧系統が正常であることから、第1ポンプP1によって加圧された作動液はシリンダ切換弁40の圧力室46にも導入されることとなる。すると、シリンダ切換弁40では、前述のように、第1ポンプP1からのパイロット圧によりスプール44が第1位置に位置することになることから、前記コントロールバルブ20の開弁状態に基づき、該コントロールバルブ20から第2パワーシリンダC2における操舵方向に応じた一方の圧力室Y1,Y2に作動液が供給される一方、この供給量に基づき、他方の圧力室Y1,Y2からはコントロールバルブ20へと作動液が排出され、この排出された作動液は、還流通路切換弁30を介し第1リザーバタンクT1へと還流されることとなる。
【0039】
次に、アイドリングストップ時やエンジンストール時などエンジンEが停止している状態では、図6に示すように、第1ポンプP1から作動液が供給されなくなることから、還流通路切換弁30においてスプール34がバルブスプリング35の付勢力によって押し戻されることで第2位置へと移動する。すると、このスプール34の移動によって当該スプール34の一端がプラグ33(近接スイッチ52)に当接することとなり、これによって、ECU50により電動モータMが駆動され、第2ポンプP2をもって還流通路切換弁30に作動液が供給されることとなる。このとき、還流通路切換弁30では、スプール34が第2位置に位置することで第2ポンプ接続ポートPC2のみが導入ポートIPと連通することとなり、第2ポンプ接続ポートPC2を介して供給された作動液の全てが導入ポートIPを介してコントロールバルブ20へと導入され、該コントロールバルブ20の開弁状態に基づき、第1パワーシリンダC1の一方の圧力室X1,X2へ作動液が供給されると共に、この供給量に基づき、他方の圧力室X1,X2からはコントロールバルブ20を介して当該還流通路切換弁30へ作動液が排出されることとなる。そして、この排出された作動液は、還流通路切換弁30において排出ポートXPと連通状態にある第2タンク接続ポートT2を介し第2還流通路R2を通じて第2リザーバタンクT2へと還流されることとなる。
【0040】
なお、当該エンジンEの停止状態では第1ポンプP1が駆動されないため、シリンダ切換弁40の圧力室46にパイロット圧は導入されず、スプール44はバルブスプリング45の付勢力によって押し戻されて第2位置へと移動することになり、この結果、コントロールバルブ20と第2パワーシリンダC2の各圧力室Y1,Y2との連通は遮断されることとなる。すなわち、このようなエンジンEの停止状態では、第2パワーシリンダC2は作動することなく、該第2パワーシリンダC2による操舵アシストは行われないこととなる。
【0041】
次に、第1ポンプP1に係る液圧系統に異常が生じている状態について説明する。まず、当該液圧系統のうち第1ポンプP1によって加圧された作動液を供給する第1供給通路F1が破損した場合について説明すれば、図7に示すように、当該第1供給通路F1の破損部分(同図中の×印)から作動液が漏出(流出)することにより、リザーバタンクTにおける特に第1リザーバタンクT1の液量が減少することとなる。すなわち、最初に、リザーバタンクTの共有分(液面が隔壁TWより高い部分)が第1リザーバタンクT1を介して流出し、その後、第1リザーバタンクT1の固有分(液面が隔壁TWよりも低い部分)のみが流出することとなる。すると、かかる液面の低下を液量センサ51が検知し、これがECU50において認識されて、このとき第2ポンプP2が駆動状態にある場合には、第1ポンプP1の駆動状態を維持しながら電動モータMを停止させることにより、第2リザーバタンクT2の液量を確保する。やがて、前記第1供給通路F1の破損部分からの流出によって第1リザーバタンクT1が空になると、第1ポンプP1による作動液の供給が行われないこととなり、還流通路切換弁30においてバルブスプリング35の付勢力によって押し戻されるようにしてスプール34が第1位置から第2位置へと移動する。そして、この結果、スプール34の一端が近接スイッチ52に当接することとなって、これをECU50が認識すると、電動モータMに駆動信号が出力されて、第2ポンプP2の駆動が開始されることとなる。
【0042】
その後は、前述した図6に係るエンジンEが停止状態にある場合と同様に、この第2ポンプP2のみによって供給される作動液が還流通路切換弁30を介してコントロールバルブ20へと導入されることによって、このコントロールバルブ20の開弁状態に基づき、第1パワーシリンダC1の一方の圧力室X1,X2へ作動液が供給されると共に、この供給量に基づき、他方の圧力室X1,X2からはコントロールバルブ20を介して還流通路切換弁30へ作動液が排出されることとなる。そして、この排出された作動液は、還流通路切換弁30において排出ポートXPと連通状態にある第2タンク接続ポートTC2を介し第2還流通路R2を通じて第2リザーバタンクT2へと還流されることとなる。つまり、第2ポンプP2から供給された作動液は、第1逆止弁V1からの微少な漏れを除いては全て第2リザーバタンクT2に戻されることとなって、第1リザーバタンクT1には戻されることがないため、上述したような第2ポンプP2の駆動に基づく操舵アシストを継続することが可能となっている。
【0043】
なお、前記第1リザーバタンクT1に作動液が貯留されていないことから、エンジンEの作動に伴い第1ポンプP1が駆動されても、シリンダ切換弁40の圧力室46にパイロット圧は導入されず、図6に係るエンジンEが停止状態にある場合と同様、スプール44はバルブスプリング45の付勢力に基づいて第1位置から第2位置へ移動することとなる。この結果、コントロールバルブ20と第2パワーシリンダC2の各圧力室Y1,Y2との連通は遮断され、該第2パワーシリンダC2による操舵アシストは行われないこととなる。
【0044】
また、前記第1ポンプP1に係る液圧系統のうち第1還流通路R1が破損した場合も同様、図8に示すように、当該第1還流通路R1の破損部分(同図中の×印)から作動液が漏出(流出)することにより、第1リザーバタンクT1の液量が減少することとなって、かかる液量の減少を液量センサ51が検知し、これがECU50において認識されることとなる。このとき第2ポンプP2が駆動状態にある場合には、第1ポンプP1の駆動状態を維持しつつ電動モータMを停止させることによって第2リザーバタンクT2の液量を確保して、前記第1還流通路R1の破損部分からの流出によって第1リザーバタンクT1が空になった時点で還流通路切換弁30が第1位置から第2位置へ切り換えられると共に、スプール34の一端が近接スイッチ52に当接することによって電動モータMに駆動信号が出力されて第2ポンプP2の駆動が開始される。これにより、第2ポンプP2のみにより供給される作動液がコントロールバルブ20通じ第1パワーシリンダC1の一方の圧力室X1,X2へ作動液が供給されると共に、他方の圧力室X1,X2からはコントロールバルブ20を介して還流通路切換弁30へと作動液が排出されることとなる。そして、この排出された作動液は、還流通路切換弁30において排出ポートXPと連通状態にある第2タンク接続ポートTC2から第2還流通路R2を通じて第2リザーバタンクT2のみに還流されることとなって、第1逆止弁V1からの微少な漏れを除いては第1リザーバタンクT1に還流されることはないため、当該第2ポンプP2の駆動に基づく操舵アシストの継続が可能となる。なお、第1リザーバタンクT1には作動液が貯留されていないことから、シリンダ切換弁40も切り換えられることとなって、コントロールバルブ20と第2パワーシリンダC2の各圧力室Y1,Y2との連通は遮断され、該第2パワーシリンダC2による操舵アシストは行われないこととなる。
【0045】
一方で、第2ポンプP2に係る液圧系統に異常が生じている状態では、当該液圧系統のうち第2ポンプP2による作動液供給に係る第2供給通路F2が破損したとすると、図9に示すように、図7に係る第1供給通路F1の破損時と同様、第2供給通路F2の破損部分(同図中の×印)から作動液が漏出(流出)することで、リザーバタンクTにおける特に第2リザーバタンクT2の液量が減少することとなる。すると、かかる液面の低下を液量センサ51が検知し、これがECU50において認識されて、このとき第2ポンプP2が駆動状態にある場合には、第1ポンプP1の駆動状態を維持しながら電動モータMの駆動を停止させる。すなわち、第2ポンプP2に係る液圧系統に破損が生じている以上、第2ポンプP2を駆動させる意味がないことから、当該第2ポンプP2については駆動を停止させることで、無駄な電力消費の削減に供される。
【0046】
そして、この第2ポンプP2の駆動を停止させた後は、図5に係る正常時にて第1ポンプP1のみを駆動する場合と同様に、第1ポンプP1のみをもって還流通路切換弁30へと作動液が供給されることとなる。すなわち、この第1ポンプP1からのパイロット圧によって、還流通路切換弁30では、スプール34が第1位置のまま保持され、当該第1ポンプP1から供給された作動液はコントロールバルブ20へと導入される。その結果、操舵操作に基づくコントロールバルブ20の開弁状態に応じて第1パワーシリンダC1の一方の圧力室X1,X2へ作動液が供給される一方、この供給量に基づき他方の圧力室X1,X2からはコントロールバルブ20を介して還流通路切換弁30へと作動液が排出され、この排出された作動液は、還流通路切換弁30にて排出ポートXPと連通状態にある第1タンク接続ポートT1を介し第1還流通路R1を通じて第1リザーバタンクT1へと還流されることとなる。このように、第1ポンプP1から供給された作動液は、第2逆止弁V2からの微少な漏れを除き、全て第1リザーバタンクT1へと戻されることとなって、第2リザーバタンクT2には戻されることがないため、上述したような第1ポンプP1の駆動に基づく操舵アシストを継続することが可能となっている。
【0047】
また、エンジンEが作動状態にあり、かつ、第1ポンプP1に係る液圧系統が正常であることから、第1ポンプP1によって加圧された作動液はシリンダ切換弁40の圧力室46にも導入され、シリンダ切換弁40においても、当該第1ポンプP1からのパイロット圧によりスプール44が第1位置に保持されることとなる。その結果、前記コントロールバルブ20の開弁状態に基づいて第2パワーシリンダC2の操舵方向に応じた一方の圧力室Y1,Y2へ作動液が供給される一方、他方の圧力室Y1,Y2からはコントロールバルブ20へ作動液が排出され、この排出された作動液は、前記第1パワーシリンダC1からの還流作動液と同様、還流通路切換弁30を介して全て第1リザーバタンクT1に還流されることとなる。
【0048】
また、前記第2ポンプP2に係る液圧系統のうち第2還流通路R2が破損した場合も同様、図10に示すように、当該第2還流通路R2の破損部分(同図中の×印)から作動液が漏出(流出)することにより、第2リザーバタンクT2の液量が減少することとなって、かかる液量の減少が液量センサ51により検知され、これがECU50において認識されることとなる。この結果、第2ポンプP2が駆動状態にある場合は、前記第2供給通路F2が破損した場合と同様に、第1ポンプP1の駆動状態を維持しながら電動モータMの駆動が停止されると共に、還流通路切換弁30においては当該第1ポンプP1からのパイロット圧によりスプール34が第1位置のまま保持され、当該第1ポンプP1から供給された作動液はコントロールバルブ20へと導入されることとなる。すなわち、操舵操作に基づくコントロールバルブ20の開弁状態に応じて第1パワーシリンダC1の一方の圧力室X1,X2へと作動液が供給される一方、この供給量に基づき他方の圧力室X1,X2からはコントロールバルブ20を介して還流通路切換弁30へと作動液が排出され、この排出された作動液は、還流通路切換弁30にて排出ポートXPと連通状態にある第1タンク接続ポートT1を介し第1還流通路R1を通じて第1リザーバタンクT1へと還流されることとなる。このように、第1ポンプP1から供給された作動液は、第2逆止弁V2からの微少な漏れを除いては全て第1リザーバタンクT1に戻されることとなって、第2リザーバタンクT2には戻されることがないため、上述したような第1ポンプP1の駆動に基づく操舵アシストを継続することが可能となっている。
【0049】
なお、エンジンEが作動状態にあり、かつ、第1ポンプP1に係る液圧系統が正常であることから、第1ポンプP1から還流通路切換弁30に供給される作動液はシリンダ切換弁40の圧力室46にも導入され、当該シリンダ切換弁40においても、第1ポンプP1からのパイロット圧によってスプール44が第1位置に保持されることとなる。その結果、前記コントロールバルブ20の開弁状態に基づいて第2パワーシリンダC2の操舵方向に応じた一方の圧力室Y1,Y2に作動液が供給される一方、他方の圧力室Y1,Y2からはコントロールバルブ20へと作動液が排出され、この排出された作動液は、前記第1パワーシリンダC1からの還流作動液と同様、還流通路切換弁30を介して全て第1リザーバタンクT1に還流されることとなる。
【0050】
続いて、前記各供給通路F1,F2や前記各還流通路R1,R2ではなく、シリンダ切換弁40と第2パワーシリンダC2とを接続する各接続通路CN1,CN2(本実施形態では第2接続通路CN2)が破損した場合について説明すると、図11に示すように、当該状態ではエンジンEが正常作動していることから、図5に係るエンジンEの正常作動時の場合と同様、第1ポンプP1のみ又は当該第1ポンプP1と第2ポンプP2の両方により還流通路切換弁30、コントロールバルブ20及びシリンダ切換弁40を介して第2パワーシリンダC2の操舵方向に応じた一方の圧力室Y1,Y2に作動液が供給されることとなる。このとき、同時に、他方の圧力室Y1,Y2からはコントロールバルブ20及び還流通路切換弁30を通じ当該還流通路切換弁30と連通状態にある第1リザーバタンクT1へ作動液が還流されるところ、この作動液は第2接続通路CN2の破損部分(同図中の×印)において漏出(流出)してしまって、第1リザーバタンクT1には還流されないこととなる。
【0051】
これにより、前記リザーバタンクTにおける特に第1リザーバタンクT1の液量が減少することとなり、図7、図8に係る第1ポンプP1に係る液圧系統に異常が生じた場合と同様、当該液面の低下を液量センサ51が検知し、これがECU50にて認識され、このとき第2ポンプP2が駆動状態にある場合は、第1ポンプP1が駆動された状態で電動モータMを停止させることによって、第2リザーバタンクT2の液量の確保がなされる。やがて、前記破損部分からの作動液の流出により第1リザーバタンクT1が空になると、第1ポンプP1によるパイロット圧の供給が行われないこととなって、還流通路切換弁30においてバルブスプリング35の付勢力によって押し戻されるかたちでスプール34が第1位置から第2位置へと移動することとなる。これにより、近接スイッチ52がONされて、これをECU50が認識すると、電動モータMに対し駆動信号が出力されて、第2ポンプP2の駆動が開始されることとなる。
【0052】
こうして、前記第2ポンプP2のみにより供給される作動液が還流通路切換弁30を通じコントロールバルブ20を介して第1パワーシリンダC1の一方の圧力室X1,X2へ作動液が供給されると共に、他方の圧力室X1,X2からコントロールバルブ20を介して還流通路切換弁30へ作動液が排出されることとなる。そして、この排出された作動液は、還流通路切換弁30にて排出ポートXPと連通状態にある第2タンク接続ポートTC2を介し第2還流通路R2を通じて第2リザーバタンクT2へと還流されることとなる。
【0053】
なお、前述のように、第1リザーバタンクT1は空になっていることから、エンジンEの作動に伴い第1ポンプP1が駆動されても、シリンダ切換弁40の圧力室46にはパイロット圧は導入されず、当該シリンダ切換弁40は第1位置から第2位置へと切り換わることとなる。この結果、シリンダ切換弁40において、コントロールバルブ20から当該シリンダ切換弁40に作動液を給排する各給排通路PL1,PL2と前記各接続通路CN1,CN2との連通が遮断されることとなり、これ以上の第2接続通路CN2の破損部分からの作動液の流出が阻止される。よって、以降は、第2パワーシリンダC2を非作動としたまま、上述したような第2ポンプP2の駆動に基づく第1パワーシリンダC1のみによる操舵アシストが行われることとなる。
【0054】
以上のように、本発明に係るパワーステアリング装置によれば、第1、第2ポンプP1,P2とコントロールバルブ20の間に、前記両ポンプP1,P2との連通を可能としながら前記各還流通路R1,R2との連通のみを選択的に切り換える還流通路切換弁30を配置したことで、前記各ポンプP1,P2に係る液圧系統のうち一方が失陥したときにも他方の液圧系統を利用できるのは勿論、当該還流通路切換弁30をもって前記両ポンプP1,P2から作動液の供給を同時に行うことが可能となる。これによって、前記各ポンプP1,P2の一方のみで作動液の供給を行う必要がなくなることから、当該各ポンプP1,P2の小型化が図れると共に、前記各ポンプP1,P2のうち一方のみで作動液を供給することによる当該各ポンプP1,P2の駆動ロスの低減化にも供される。
【0055】
また、かかる構成につき、前記還流通路切換弁30のスプール34の位置に関係なく前記両ポンプP1,P2とコントロールバルブ20とが連通するように構成したことから、当該還流通路切換弁30の簡素化が図れ、コストの低廉化にも供される。なお、この際に、前記各ポンプP1,P2より前記各ポンプ接続ポートPC1,PC2を介して弁体収容穴32内へと供給された作動液は、前記各ポンプ接続ポートPC1,PC2に配設された前記各逆止弁V1,V2によってその逆流が抑止されることになることから、前記両ポンプP1,P2を同時に連通させる構成を採用しても不都合が生じてしまうおそれもない。
【0056】
しかも、本実施形態の場合には、第1ポンプP1の駆動源をエンジンEとし、第2ポンプP2の駆動源を電動モータMとしたことから、エンジンEの作動・停止状態に基づいて作動液の供給源を切換制御することができ、例えばアイドリングストップ時やエンジンストール時においても電動モータMによって第2ポンプP2を駆動することで操舵アシストが可能となる、といったメリットが得られる。
【0057】
また、前記還流通路切換弁30によって前記各ポンプP1,P2とこれらの液圧系統に係る前記各リザーバタンクT1,T2とが1対1に対応するように構成されていることから、基本的には、第1ポンプP1に係る液圧系統の作動液は第1リザーバタンクT1へと、第2ポンプP2に係る液圧系統の作動液は第2リザーバタンクT2へと、それぞれ還流されることになるものの、本実施形態では、前記両リザーバタンクT1,T2を1つのリザーバタンクTとして一体的に構成すると共に、底部側のみを隔壁TWにて隔成する構成としたことから、正常作動時には隔壁TWよりも高い位置で前記両タンクT1,T2間において作動液を共通利用できる一方、前記各ポンプP1,P2に係る液圧系統の一方が破損するなどして作動液が漏出した場合であっても、他方の液圧系統に必要十分な作動液量を確保することにも供される。
【0058】
さらに、本実施形態の場合、液量センサ51によるリザーバタンクTの液量検知と、近接スイッチ52による還流通路切換弁30におけるスプール34の位置検知と、によって前記各ポンプP1,P2を切換制御する構成としたことで、前記各ポンプP1,P2に係る液圧系統のうちの一方に破損等による液漏が発生した場合でも、当該破損等による不要な作動液の液漏を抑止すると共に、使用可能な液圧系統により操舵アシストを継続することができる。具体的には、リザーバタンクTの液量が所定量を下回った場合にまず電動モータMの駆動を停止させることにより、一方の液圧系統に破損等が生じても他方の液圧系統に係る作動液を確保することが可能となって、他方の液圧系統の維持に供される。また、その後、近接スイッチ52がONしたときに電動モータMを駆動させるようにしたことから、前記液圧系統のいずれが破損等しているかを確認できると共に、この結果に基づいて破損等している方の液圧系統を停止させ使用可能な他方の液圧系統により操舵アシストを行う、といった適切な処置を実行することができる。
【0059】
また、本実施形態では、前記第1ポンプP1からの作動液供給が可能なときは第2パワーシリンダC2を利用可能とすることによって、前記両パワーシリンダC1,C2により十分な操舵アシストを行うことができる。一方で、第1ポンプP1からの作動液供給が不可能なときは第2パワーシリンダC2に液圧を供給しない構成としたことから、第2ポンプP2のみによる第1パワーシリンダC1の十分な作動を確保できるといったメリットも得られる。
【0060】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば還流通路切換弁30については、前述したような前記両ポンプP1,P2の連通を可能としつつ還流通路R1,R2のみを選択的に切り換える制御を行い得るものであれば、弁体収容穴32内の前記各環状溝G1〜G3やスプール34の前記各ランド部L1,L2等の具体的な内部構造(形状)については、装置の仕様やコスト等に応じて自由に変更することができる。
【符号の説明】
【0061】
20…コントロールバルブ
30…還流通路切換弁(戻り通路切換バルブ)
34…スプール(弁体)
C1…第1パワーシリンダ(パワーシリンダ)
X1…第1圧力室(一対の圧力室)
X2…第2圧力室(一対の圧力室)
P1…第1ポンプ
P2…第2ポンプ
E…エンジン(第1駆動源)
M…電動モータ(第2駆動源)
T1…第1リザーバタンク
T2…第2リザーバタンク
V1…第1逆止弁
V2…第2逆止弁
R1…第1還流通路(戻り通路)
R2…第2還流通路(戻り通路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の圧力室を有し、該1対の圧力室の差圧に基づき転舵輪に操舵力を付与するパワーシリンダと、
ステアリングホイールによる回転操舵操作に応じて前記転舵輪を転舵させる操舵機構と、
第1駆動軸を有し、該第1駆動軸の回転に伴い作動液の吸入及び吐出を行うことにより前記パワーシリンダに作動液を供給すると共に、第1駆動源により回転駆動される第1ポンプと、
第2駆動軸を有し、該第2駆動軸の回転に伴い作動液の吸入及び吐出を行うことにより前記パワーシリンダに作動液を供給する第2ポンプと、
前記第1駆動源とは異なる駆動源によって構成され、前記第2ポンプを回転駆動する第2駆動源と、
前記操舵機構に設けられ、前記第1ポンプ又は第2ポンプにより供給される作動液を、前記ステアリングホイールの回転操舵操作に応じて前記パワーシリンダの1対の圧力室に選択的に供給するコントロールバルブと、
作動液を貯留する第1リザーバタンク及び第2リザーバタンクと、
前記第1ポンプ及び前記第2ポンプと前記コントロールバルブとの間に設けられ、弁体の軸方向位置に関係なく前記両ポンプを前記コントロールバルブに連通させる一方、前記弁体の軸方向位置に応じて前記各リザーバタンクのうち一方のリザーバタンクのみを前記コントロールバルブに連通させることとして、作動液の戻り通路のみを切り換える戻り通路切換バルブと、
前記第1ポンプと前記戻り通路切換バルブの間に設けられ、前記第1ポンプ側から前記戻り通路切換バルブ側への作動液の流れのみを許容する第1逆止弁と、
前記第2ポンプと前記戻り通路切換バルブの間に設けられ、前記第2ポンプ側から前記戻り通路切換バルブ側への作動液の流れのみを許容する第2逆止弁と、を備え、
前記戻り通路切換バルブは、前記第1ポンプから作動液が供給されるときは、前記弁体が第1軸方向位置へと移動して、前記コントロールバルブと前記第1リザーバタンクとを連通させると共に前記コントロールバルブと前記第2リザーバタンクとの連通を遮断する一方、
前記第2ポンプから作動液が供給されるときは、前記弁体が第2軸方向位置へと移動して、前記コントロールバルブと前記第1リザーバタンクとを連通させると共に前記コントロールバルブと前記第2リザーバタンクとの連通を遮断するように構成されていることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
前記戻り通路切換バルブは、前記弁体が前記第2軸方向位置にあるときに、前記第2ポンプと前記コントロールバルブとを連通させることを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。
【請求項3】
前記弁体はその外周側に第1ランド部及び第2ランド部を有するスプールであって、
前記戻り通路切換バルブは、前記弁体を軸方向移動可能に収容する弁体収容孔と、該弁体収容孔に設けられ、前記第1ランド部によって前記コントロールバルブと前記第1タンクの連通又は遮断を切り換える第1切換溝及び前記第2ランド部によって前記コントロールバルブと前記第2タンクの連通又は遮断を切り換える第2切換溝と、を有するバルブボディをさらに備え、
前記弁体が前記第1位置にあるときは、前記第2ランド部が前記第2切換溝を遮断することで前記コントロールバルブと前記第2タンクの連通を遮断する一方、前記弁体が前記第2位置にあるときは、前記第1ランド部が前記第1切換溝を遮断することで前記コントロールバルブと前記第1タンクの連通を遮断することを特徴とする請求項2に記載のパワーステアリング装置。
【請求項4】
前記戻り通路切換バルブは、前記弁体を前記第2軸方向位置側へと付勢する付勢部材をさらに備え、
前記弁体は、前記前記第1ポンプからの作動液圧を受けることにより、前記弁体を前記第1位置側へと移動させる受圧面を有することを特徴とする請求項3に記載のパワーステアリング装置。
【請求項5】
前記第1駆動源は車両のエンジンによって、前記第2駆動源は電動モータによって、それぞれ構成されることを特徴とする請求項4に記載のパワーステアリング装置。
【請求項6】
前記第1リザーバタンクと前記第2リザーバタンクとは、鉛直方向上側にて相互に連通可能であって、かつ、鉛直方向下側にて隔壁により隔成されることを特徴とする請求項5に記載のパワーステアリング装置。
【請求項7】
前記両リザーバタンクの液量が所定量以上残っているか否かを検出する液量センサと、前記戻り通路切換バルブにおいて前記弁体が前記第2位置にあるか否かを検出する弁体位置検出センサと、をさらに備え、
前記液量センサによって前記両リザーバタンクの液量が所定量よりも少ない状態が検出され、かつ、前記弁体位置検出センサによって前記弁体が前記第1位置にあると検出されたときは、前記第2駆動源を停止させる一方、
前記液量センサによって前記両リザーバタンクの液量が所定量よりも少ない状態が検出され、かつ、前記弁体位置検出センサによって前記弁体が前記第2位置にあると検出されたときは、前記第2駆動源を駆動させることを特徴とする請求項6に記載のパワーステアリング装置。
【請求項8】
一対の圧力室を有する補助パワーシリンダと、
前記補助パワーシリンダと前記コントロールバルブとの間に設けられ、前記第1ポンプから作動液が供給されるときは前記コントロールバルブと前記補助パワーシリンダとを連通し、前記第1ポンプから作動液が供給されないときは前記コントロールバルブと前記補助パワーシリンダとの連通を遮断すると共に前記補助パワーシリンダの1対の圧力室同士を相互に連通させる補助シリンダ切換バルブと、をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−18379(P2013−18379A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153512(P2011−153512)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(301041449)日立オートモティブシステムズステアリング株式会社 (44)
【Fターム(参考)】