説明

パーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン及びその製造方法

【課題】塗料、化粧料、コーティング材料への親和性に優れる化合物及びその製造方法。
【解決手段】式(1)のパーフルオロポリエーテル変性ポリシロキサン。


(式中、Rfはパーフルオロアルキル基、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基、Qは2価有機基、Rは水素原子、アルキル基又はアシル基、R1、R2はアルキル基、アリール基又はアラルキル基、a、b、c、dは0〜200、a+b+c+dは1以上、eは0又は1、p、qは0〜50、p+qは2以上、kは1〜3。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロポリエーテルとポリエーテル変性シリコーンの双方の特性を有し、有機溶剤や、塗料、化粧料、各種コーティング材料などへの親和性に優れるため、高いレベリング性を有する新規のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、その表面エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性など特有の性質を有する。その性質を利用し、紙、繊維などの撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜などに利用されている。しかし、パーフルオロポリエーテル基含有化合物の表面エネルギーの低さは、有機溶剤や、塗料、化粧料、各種コーティング材料などの物質との相溶性、親和性が非常に低いことを示しており、パーフルオロポリエーテル基含有化合物を各種工業材料等に添加して上記特性を付与しようとすると、分散安定性などに問題が生じ、配合が困難であることが指摘されてきた。
【0003】
一方、ポリシロキサン化合物(シリコーン)も、その表面エネルギーが小さいため、撥水性、潤滑性、離型性などの性質を有する。しかし、ポリシロキサン化合物は、パーフルオロポリエーテル化合物に比べ、有機溶剤や、塗料、化粧料、各種コーティング材料などの物質に対する親和性が良く、各種変性をすることで更に分散安定性を向上させることも可能である。特にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールといったポリエーテル鎖で変性されたシリコーンは、ポリシロキサン鎖が疎水基、ポリエーテル基が親水基として働くため、非イオン性界面活性剤として化粧品原料、ウレタンフォーム用整泡剤、プラスチック添加剤、防曇剤、消泡剤、繊維油剤あるいは水溶性潤滑剤などの用途に好適に用いられる。
【0004】
また、パーフルオロポリエーテル基とポリシロキサン鎖を有する化合物として、パーフルオロポリエーテル変性のポリシロキサン化合物が合成されている(特開2006−321764号公報、特開2008−308628号公報、特開2008−88412号公報、特開昭59−22611号公報、特開昭60−22907号公報:特許文献1〜5)。
しかし、パーフルオロポリエーテル基の特性を高めようとしてフッ素変性率を上げると、他の材料に対する親和性が著しく低下し、分散安定性などに問題を生じることがある。このため、パーフルオロポリエーテルとポリエーテル変性シリコーン双方の特性を有し、有機溶剤や、塗料、化粧料、各種コーティング材料などへの親和性に優れている化合物の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−321764号公報
【特許文献2】特開2008−308628号公報
【特許文献3】特開2008−88412号公報
【特許文献4】特開昭59−22611号公報
【特許文献5】特開昭60−22907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、パーフルオロポリエーテルとポリエーテル変性シリコーン双方の特性を有し、有機溶剤や、塗料、化粧料、各種コーティング材料などへの親和性に優れる化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、下記一般式(1)で示される新規なパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンが、パーフルオロポリエーテルとポリエーテル変性シリコーン双方の特性を有し、有機溶剤や、塗料、化粧料、各種コーティング材料などへの親和性に優れることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記に示すパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン及びその製造方法を提供する。
〔請求項1〕
下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン。
【化1】


(式中、Rfは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状パーフルオロアルキル基、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基、Qは炭素数1〜12の2価の有機基、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基もしくはアシル基であり、R1、R2は互いに独立に炭素数1〜10のアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、a、b、c、dは互いに独立に0〜200の整数であり、但し、a+b+c+dは1以上であり、eは0又は1であり、p、qは互いに独立に0〜50の整数であり、但し、p+qは2以上であり、kは1〜3の整数である。)
〔請求項2〕
下記一般式(2):
【化2】


(式中、Q、R、p、q、p+q及びkは前記と同じである。fは2〜200の整数である。)
の構造で示される、請求項1に記載のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン。
〔請求項3〕
分子中のフッ素原子の質量割合が20〜70質量%である請求項1又は2に記載のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン。
〔請求項4〕
下記一般式(3):
【化3】


(式中、Rf、X、Q、a、b、c、d、a+b+c+d及びeは前記と同じである。)
で示されるビニル基含有パーフルオロポリエーテルと、テトラオルガノシクロテトラシロキサンとを、ヒドロシリル化反応させることによってパーフルオロポリエーテル変性シクロテトラシロキサンとした後、該シクロテトラシロキサンと、下記一般式(4):
【化4】


(式中、R、p、q及びp+qは前記と同じである。)
で示されるアリル基含有ポリエーテル化合物を、ヒドロシリル化反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パーフルオロポリエーテルとポリエーテル変性シリコーンの双方の特性を有し、有機溶剤や、塗料、化粧料、各種コーティング材料などへの親和性に優れ、高いレベリング性を有する新規なパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で調製した化合物のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
パーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン
本発明のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンは、上記したように下記一般式(1)で示される。
【化5】

【0012】
一般式(1)において、Rfは、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状パーフルオロアルキル基である。Rf中における炭素数が上記上限値を超える場合には、パーフルオロポリエーテル鎖の柔軟性が損なわれたり、熱分解時に有害なパーフルオロオクタン酸(PFOA)などを発生したりする。
【0013】
このようなパーフルオロアルキル基Rfとしては、下記式に示される基が挙げられる。
CF3−,
CF3CF2−,
CF3CF2CF2−,
(CF32CF−,
(CF32CFCF2
【0014】
式(1)において、Qは炭素数1〜12、好ましくは炭素数3〜8の2価の有機基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基、又はこれらの基の2種以上の組み合わせ(アルキレン・アリーレン基等)であってよく、或いはこれらの基にエーテル結合、アミド結合、エステル結合、ジオルガノシリレン基等から選ばれる1種又は2種以上の構造を介在させたものであってもよく、更に酸素原子、窒素原子、ケイ素原子から選ばれる1種又は2種以上を含有してもよい2価の炭化水素基が挙げられる。
【0015】
このようなQとしては、下記式に示される基が挙げられる。
−CH2−,
−CH2CH2−,
−(CH2n−O−CH2−,
−OCH2−,
−CO−NH−CH2−,
−CO−N(Ph)−CH2−,
−CO−NH−CH2CH2−,
−CO−N(Ph)−CH2CH2−,
−CO−N(CH3)−CH2CH2CH2−,
−CO−O−CH2−,
−CO−N(CH3)−Ph’−,
−CO−NR3−Y’−
(式中、Phはフェニル基、Ph’はフェニレン基であり、nは1〜10の整数である。Y’は−CH2−又は下記式
【化6】


で表される二価の基であり、R3は水素原子又は非置換もしくは置換の、好ましくは炭素数1〜10の一価炭化水素基である。)
【0016】
式(1)において、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基もしくはアシル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−ブチル基、アセチル基などが挙げられる。なかでもメチル基、n−ブチル基、アセチル基であることが好ましい。
【0017】
式(1)において、R1、R2は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基などが挙げられる。中でも、メチル基、n−ブチル基、フェニル基であることが好ましく、特に好ましいのはメチル基である。なお、R1、R2は、R1、R2のそれぞれが同一の基であっても異種の基であってもよく、またR1とR2が同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0018】
式(1)において、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。
また、式(1)において、a、b、c及びdは互いに独立に0〜200、好ましくは20〜100の整数である。但し、a+b+c+dは1以上、好ましくは2〜200、より好ましくは3〜100、更に好ましくは5〜50である。eは0又は1であり、p、qは互いに独立に0〜50、好ましくは0〜30の整数である。但し、p+qは2以上であり、好ましくは3〜50、より好ましくは6〜40、更に好ましくは9〜30である。kは1〜3の整数である。好ましくは1又は2であり、特に好ましくは1である。
【0019】
式(1)の化合物中のパーフルオロポリエーテル鎖とポリエーテル鎖は、分子中のフッ素原子の質量割合が20〜70質量%となる割合で存在することが好ましく、より好ましくは25〜55質量%となる割合である。上記下限値未満では望ましい特性を得ることが困難であり、加えてパーフルオロポリエーテル鎖の特質である撥水撥油性、潤滑性、離型性が損なわれるおそれがある。また、上記上限値超では他材料への親和性が損なわれるおそれがある。
【0020】
上記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンとしては、原料入手のし易さ及び製造の容易さ等の点から、下記一般式(2)で示される構造のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンが好ましい。
【化7】


(式中、Q、R、p、q、p+q及びkは前記と同じである。fは2〜200、好ましくは3〜50、より好ましくは4〜40の整数である。)
【0021】
本発明のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンとして、具体的には、以下のものを例示することができる。
【化8】

【0022】
【化9】

【0023】
【化10】

【0024】
パーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンの製造方法
本発明のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンは、下記一般式(3)で示されるビニル基含有パーフルオロポリエーテルとテトラオルガノシクロテトラシロキサンとを、好ましくは白金系触媒の存在下でヒドロシリル化反応させることによって、パーフルオロポリエーテル変性シクロテトラシロキサンとした後、該シクロテトラシロキサンと下記一般式(4)で示されるアリル基含有ポリエーテル化合物を、好ましくは白金系触媒の存在下でヒドロシリル化反応させることにより製造することができる。
【0025】
即ち、本発明のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンを製造する方法としては、下記2段階の製造工程を有する方法が採られる。
〈第1段目の反応〉
下記一般式(3):
【化11】


(式中、Rf、X、Q、a、b、c、d、a+b+c+d及びeは前記と同じである。)
で示されるビニル基含有パーフルオロポリエーテル(i)中のビニル基を、下記式:
【化12】


(式中、R4は互いに独立に炭素数1〜10のアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、上記R1、R2で例示したものと同様のものが例示できる。)
で示されるテトラオルガノシクロテトラシロキサン(ii)中の4個のSiH基に対して、好ましくは白金系触媒の存在下で、部分的にヒドロシリル化付加反応させることによって、1分子中にパーフルオロポリエーテル変性シロキサン単位を1〜3個、好ましくは1個又は2個有すると共に、分子中にSiH基が残存した下記一般式:
【化13】


(式中、Rf、X、Q、R1、R2、a、b、c、d、a+b+c+d、e及びkは前記と同じである。)
で示されるSiH基含有パーフルオロポリエーテル変性シクロテトラシロキサン(iii)を得る。
【0026】
〈第2段目の反応〉
次いで、得られた該シクロテトラシロキサン(iii)中の残余のSiH基と、下記一般式(4):
【化14】


(式中、R、p、q及びp+qは前記と同じである。)
で示されるアリル基含有ポリエーテル化合物(iv)中のアリル基とを、好ましくは白金系触媒の存在下でヒドロシリル化付加反応させることにより、一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン(v)を得る。
【0027】
上記2段階の製造工程において、第1段目の反応であるビニル基含有パーフルオロポリエーテル(i)とテトラオルガノシクロテトラシロキサン(ii)との反応では、[シロキサン(ii)]/[パーフルオロポリエーテル(i)]の分子同士のモル比が2.0以上、より好ましくは3.0以上であることが望ましい。テトラオルガノシクロテトラシロキサンを過剰に(即ち、上記モル比≧2.0の比率で)用いることによって、一般式(1)で示されるk=1のパーフルオロポリエーテル変性シクロテトラシロキサンを優先的に得ることができる。このモル比の上限については特に制限はないが、製造効率(目的生成物の収率)等の点から、通常、10.0以下、特には5.0以下程度とすることが好ましい。前述したとおり、k=1というのは、本発明において特に好ましい値となり、本発明のポリシロキサンが、最も高い界面活性を示す構造となるものである。なお、過剰のテトラオルガノシクロテトラシロキサンは反応終了後、減圧溜去することによって容易に取り除くことができる。
【0028】
上記2段階の製造工程において、第2段目の反応であるSiH基含有パーフルオロポリエーテル変性シクロテトラシロキサン(iii)とアリル基含有ポリエーテル化合物(iv)との反応では、アリル基含有ポリエーテル化合物(iv)中のアリル基に対するSiH基含有パーフルオロポリエーテル変性シクロテトラシロキサン(iii)中のSiH基のモル比(SiH/アリル比)が0.8〜1.2、特に0.9〜1.1、とりわけ0.9〜1.0で反応に付すことが好ましい。シクロテトラシロキサン中のSiH基が上記より過剰であると、他材料との親和性などを損なったり、SiH基が脱水素反応を起こして水素ガスを発生したりするおそれがある。一方、ポリエーテル化合物中のアリル基が上記より過剰であると、パーフルオロポリエーテルとしての特長を損なうおそれがある。
【0029】
また、この製造工程を2段階反応ではなく、式(3)のビニル基含有パーフルオロポリエーテル(i)、テトラオルガノシクロテトラシロキサン(ii)及び式(4)のアリル基含有ポリエーテル化合物(iv)を一括して反応に供した場合は、ビニル基含有パーフルオロポリエーテル(i)とアリル基含有ポリエーテル化合物(iv)のSiH基に対する反応性の違いなどによって、ビニル基含有パーフルオロポリエーテル(i)又はアリル基含有ポリエーテル化合物(iv)のみで変性されたシクロテトラシロキサンを生成したり、ビニル基含有パーフルオロポリエーテル(i)とアリル基含有ポリエーテル化合物(iv)の変性比の異なる化合物が何種類も生成したりするため、生成物が濁りを生ずるおそれがある。
【0030】
上記製造工程において使用する白金系触媒としては、ヒドロシリル化に用いられる従来公知のものを使用できる。一般に貴金属の化合物であり高価格であることから、比較的入手しやすい白金又は白金化合物がよく用いられる。このような白金化合物としては、塩化白金酸又は塩化白金酸とエチレン等のオレフィンとの錯体、アルコール、ビニルシロキサンとの錯体、及びシリカ、アルミナ、カーボン等に担持された金属白金を用いることができる。白金化合物以外の白金族金属触媒としては、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びパラジウム系化合物が使用でき、例えば、RhCl(PPh33、RhCl(CO)(PPh32、Ru3(CO)12、IrCl(CO)(PPh32、Pd(PPh34等(式中、Phはフェニル基である。)を用いることができる。
【0031】
白金系触媒の使用量は触媒量でよく、具体的には、ビニル基含有パーフルオロポリエーテル(i)とテトラオルガノシクロテトラシロキサン(ii)、又はSiH基含有パーフルオロポリエーテル変性シクロテトラシロキサン(iii)とアリル基含有ポリエーテル化合物(iv)の合計質量に対し、0.1〜500ppm(白金質量換算)となる量が好ましい。
【0032】
上記ヒドロシリル化反応を行う際に、必要に応じて溶媒を用いてもよい。溶媒は、第1段目、第2段目の反応とも、各段階の反応において各反応基質の双方を溶解するものであることが望ましいが、どちらか一方のみを溶解するものであってもヒドロシリル化反応を阻害するものでなければ特に制限されない。
【0033】
このような溶媒としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン、イソドデカンなどの脂肪族炭化水素系化合物、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系化合物、トリフルオロトルエン、ヘキサフルオロメタキシレンなどの含フッ素芳香族炭化水素系化合物、パーフルオロブチルメチルエーテル、パーフルオロブチルエチルエーテル、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ−3−メトキシ−4−(トリフルオロメチル)ペンタンなどのハイドロフルオロエーテル系化合物、ダイフロイル(ダイキン製)などのクロロフルオロカーボン系化合物、フォンブリン、ガルデン(ソルベイソレクシス製)、デムナム(ダイキン工業製)、クライトックス(デュポン製)などのパーフルオロポリエーテル系化合物などが挙げられる。中でも、ヘキサフルオロメタキシレンが、式(3)のビニル基含有パーフルオロポリエーテル(i)やSiH基含有パーフルオロポリエーテル変性シクロテトラシロキサン(iii)、式(4)のアリル基含有ポリエーテル化合物(iv)及び最終生成物(式(1)のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン(v))の溶解性に優れており好適である。
【0034】
溶媒の使用量は、各反応基質の粘度や仕込み量によって適宜選定されるが、各反応基質の合計量100質量部に対して、10〜200質量部が好ましく、20〜100質量部であることが特に好ましい。
【0035】
上記製造工程における反応温度は、溶媒の量や種類により適宜決められ、第1段目、第2段目の反応とも、通常、室温(25℃)〜140℃でよく、好ましくは70〜120℃である。規定範囲以上の温度では、ポリエーテル鎖や環状シロキサン鎖が熱分解してしまうおそれがあるため好ましくない。時間は特に制約なく、個別の反応条件に応じて反応が十分に進行するようにすればよい。
【0036】
本発明のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンは、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性などに優れ、かつ、従来のパーフルオロポリエーテル基含有化合物と比較して、有機溶剤や、塗料、化粧料、各種コーティング材料などの物質に対して優れた親和性を有する。そのため、化粧品添加剤、ウレタンフォーム用整泡剤、成型時の金型離型性を向上させる離型剤、グリースに撥水撥油性を付与するための添加剤、潤滑油の耐摩耗性向上のための添加剤、染料及び顔料工業分野における顔料の着色性及び分散性向上用助剤、塗料欠陥是正のための流展性及びへこみ防止性付与剤等として有用である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例、比較例、使用例、比較使用例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
還流冷却管と温度計を取り付けたフラスコに、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン96.2g、ヘキサフルオロメタキシレン105.7gを入れ、滴下漏斗に、下記式(5):
【化15】


で示されるビニル基含有パーフルオロポリエーテル432.2g([シロキサン]/[パーフルオロポリエーテル]=4.0(モル比))、白金/ビニルシロキサン錯体トルエン溶液0.32g(白金として1.6mg含有)、及びヘキサフルオロメタキシレン52.8gを混合した溶液を仕込んだ。内温を80℃まで加熱したのち、前述の溶液を内温110℃以下で滴下した。90〜100℃で1時間加熱し、IRスペクトルでパーフルオロポリエーテル(5)のビニル基由来の吸収が消失していることを確認した後、減圧下でヘキサフルオロメタキシレンと過剰のシクロテトラシロキサンを溜去して、下記式(6):
【化16】


で示されるパーフルオロポリエーテル変性SiH基含有シクロテトラシロキサン455.2gを得た。
【0039】
次に、還流冷却管と温度計を取り付けたフラスコに、上記で得られたシクロテトラシロキサン(6)150.0gとヘキサフルオロメタキシレン146.9gを投入した。内温を80℃まで加熱した後、白金/ビニルシロキサン錯体トルエン溶液0.18g(白金として0.9mg含有)を加えて、下記式(7):
【化17】


で示されるアリル基含有ポリエーテル化合物143.8g(シロキサン(6)中のSiH基/ポリエーテル化合物(7)中のアリル基=0.95(モル比))を80〜90℃で滴下した。滴下終了後、80℃で1時間加熱した後、減圧下でヘキサフルオロメタキシレンを溜去し、白色ペースト状の生成物を290.8g得た。
【0040】
上記で得られた生成物を、1H−NMR及びIRスペクトルの測定により分析した結果、下記式(8):
【化18】


で示される分子中のフッ素原子の質量割合が31.7%の化合物であった。この化合物を使用例1で用いる。
【0041】
以下に、1H−NMR(日本電子(株)製、JNM−NS50)で分析した結果を示す。
1H−NMR(TMS基準、ppm):0.0−0.1(≡Si−C3、18H)、0.1−0.2(≡Si−C2−、10H)、1.0−1.3(−C3、126H)1.5−1.7(−C2−、6H)、3.3−3.8(C3−O−、−C2−O−、−C−O−、−NC3、300H)、7.2−7.7(−C64−、4H)
化合物のIRスペクトル(KBr法、(株)堀場製作所製、FT−730)を図1に示す。
【0042】
[実施例2]
還流冷却管と温度計を取り付けたフラスコに、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン96.2g、ヘキサフルオロメタキシレン106.1gを入れ、滴下漏斗に下記式(9):
【化19】


で示されるビニル基含有パーフルオロポリエーテル434.1g([シロキサン]/[パーフルオロポリエーテル]=4.0(モル比))、白金/ビニルシロキサン錯体トルエン溶液0.32g(白金として1.6mg含有)、及びヘキサフルオロメタキシレン53.0gを混合した溶液を仕込んだ。内温を80℃まで加熱したのち、前述の溶液を内温110℃以下で滴下した。90〜100℃で1時間加熱し、IRスペクトルでパーフルオロポリエーテル(9)のアリル基由来の吸収が消失していることを確認した後、減圧下でヘキサフルオロメタキシレンと過剰のシクロテトラシロキサンを溜去して、下記式(10):
【化20】


で示されるパーフルオロポリエーテル変性SiH基含有シクロテトラシロキサン456.3gを得た。
【0043】
次に、還流冷却管と温度計を取り付けたフラスコに、上記で得られたシクロテトラシロキサン(10)150.0gとヘキサフルオロメタキシレン112.5gを投入した。内温を80℃まで加熱した後、白金/ビニルシロキサン錯体トルエン溶液0.18g(白金として0.9mg含有)を加えて、下記式(11):
【化21】


で示されるアリル基含有ポリエーテル化合物75.0g(シロキサン(10)中のSiH基/ポリエーテル化合物(11)中のアリル基=0.95(モル比))を80〜90℃で滴下した。滴下終了後、80℃で1時間加熱した後、減圧下でヘキサフルオロメタキシレンを溜去し、白色ペースト状の生成物を224.0g得た。
【0044】
上記で得られた生成物を、1H−NMR及びIRスペクトルの測定により分析した結果、下記式(12):
【化22】


で示される分子中のフッ素原子の質量割合が42.9%の化合物であった。この化合物を使用例2で用いる。
【0045】
[実施例3]
還流冷却管と温度計を取り付けたフラスコに、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン96.2g、ヘキサフルオロメタキシレン39.9gを入れ、滴下漏斗に下記式(13):
【化23】


で示されるアリル基含有パーフルオロポリエーテル103.3g([シロキサン]/[パーフルオロポリエーテル]=4.0(モル比))、白金/ビニルシロキサン錯体トルエン溶液0.32g(白金として1.6mg含有)、及びヘキサフルオロメタキシレン20.0gを混合した溶液を仕込んだ。内温を80℃まで加熱したのち、前述の溶液を内温110℃以下で滴下した。90〜100℃で1時間加熱し、IRスペクトルでパーフルオロポリエーテル(13)のアリル基由来の吸収が消失していることを確認した後、減圧下でヘキサフルオロメタキシレンと過剰のシクロテトラシロキサンを溜去して、下記式(14):
【化24】


で示されるパーフルオロポリエーテル変性SiH基含有シクロテトラシロキサン127.3gを得た。
【0046】
次に、還流冷却管と温度計を取り付けたフラスコに上記で得られたシクロテトラシロキサン(14)100.0gとヘキサフルオロメタキシレン109.0gを投入した。内温を80℃まで加熱した後、白金/ビニルシロキサン錯体トルエン溶液0.18g(白金として0.9mg含有)を加えて、下記式(15):
【化25】


で示されるアリル基含有ポリエーテル化合物118.0g(シロキサン(14)中のSiH基/ポリエーテル化合物(15)中のアリル基=0.95(モル比))を80〜90℃で滴下した。滴下終了後、80℃で1時間加熱した後、減圧下でヘキサフルオロメタキシレンを溜去し、淡褐色油状の生成物を216.9g得た。
【0047】
上記で得られた生成物を、1H−NMR及びIRスペクトルで分析した結果、下記式(16):
【化26】


で示される分子中のフッ素原子の質量割合が26.7%の化合物であった。この化合物を使用例3で用いる。
【0048】
[比較例1]
還流冷却管と温度計を取り付けたフラスコに、上記式(13)で示されるアリル基含有パーフルオロポリエーテル206.7g、下記式(17):
【化27】


で示されるSiH基含有ポリシロキサン67.2g([シロキサン]/[パーフルオロポリエーテル]=0.5(モル比))、及びヘキサフルオロメタキシレン54.8gを投入した。白金/ビニルシロキサン錯体トルエン溶液0.45g(Pt2.3mg相当)を加えて80℃で1時間加熱した後、減圧下でヘキサフルオロメタキシレンを溜去し、下記式(18):
【化28】


で示されるパーフルオロポリエーテル変性SiH基含有ポリシロキサン271.3gを得た。
【0049】
次に、還流冷却管と温度計を取り付けたフラスコに、上記で得られたポリシロキサン(18)100.0gとヘキサフルオロメタキシレン99.1gを投入した。内温を80℃まで加熱した後、白金/ビニルシロキサン錯体トルエン溶液0.18g(白金として0.9mg含有)を加えて、上記式(15)で示されるアリル基含有ポリエーテル化合物59.4g(シロキサン(18)中のSiH基/ポリエーテル化合物(15)中のアリル基=0.95(モル比))を80〜90℃で滴下した。滴下終了後、80℃で1時間加熱した後、減圧下でヘキサフルオロメタキシレンを溜去し、淡黄色油状の生成物を157.5g得た。
【0050】
上記で得られた生成物を、1H−NMR及びIRスペクトルで分析した結果、下記式(19):
【化29】


で示される分子中のフッ素原子の質量割合が30.5%の化合物であった。この化合物を比較使用例2で用いる。
【0051】
[使用例1〜3]
透明ガラス製サンプル瓶に、実施例1〜3のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン4.0gと表1に示す溶剤16.0gを入れてよく振盪し、室温で1時間静置した。1時間静置後の外観を目視で確認し、以下の指標で各溶剤に対する溶解性の評価を行った。結果を表1に示す。
○…溶解し、透明になった。
△…白色半透明でポリシロキサンが均一分散している。
×…白濁、もしくはシロキサンと溶剤が二層に分離している。
【0052】
[比較使用例1〜3]
実施例1〜3の化合物に代えて下記に示す化合物を用い、使用例と同様の方法で表1に示す各溶剤に対する溶解性の評価を行った。結果を表1に示す。
比較使用例1:
25℃における粘度200mm2/sのポリジメチルシロキサン(信越化学工業製KF−96)
比較使用例2:
比較例1で得た式(19)のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン
比較使用例3:
パーフルオロポリエーテルオリゴマー(PFPE)(Galden HT−200、ソルベイソレクシス社製)
【0053】
【表1】

【0054】
THF:テトラヒドロフラン
IPA:イソプロパノール
MIBK:メチルイソブチルケトン
MXHF:メタキシレンヘキサフロライド
【0055】
表1に示す結果より、本発明のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンは、比較使用例1〜3の化合物に比べ、多くの有機溶剤に対する溶解性、親和性に優れていることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンは、化粧品添加剤、ウレタンフォーム用整泡剤、成型時の金型離型性を向上させる離型剤、グリースに撥水撥油性を付与するための添加剤、潤滑油の耐摩耗性向上のための添加剤、染料及び顔料工業分野における顔料の着色性及び分散性向上用助剤、塗料欠陥是正のための流展性及びへこみ防止性付与剤等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン。
【化1】


(式中、Rfは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状パーフルオロアルキル基、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基、Qは炭素数1〜12の2価の有機基、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基もしくはアシル基であり、R1、R2は互いに独立に炭素数1〜10のアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、a、b、c、dは互いに独立に0〜200の整数であり、但し、a+b+c+dは1以上であり、eは0又は1であり、p、qは互いに独立に0〜50の整数であり、但し、p+qは2以上であり、kは1〜3の整数である。)
【請求項2】
下記一般式(2):
【化2】


(式中、Q、R、p、q、p+q及びkは前記と同じである。fは2〜200の整数である。)
の構造で示される、請求項1に記載のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン。
【請求項3】
分子中のフッ素原子の質量割合が20〜70質量%である請求項1又は2に記載のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサン。
【請求項4】
下記一般式(3):
【化3】


(式中、Rf、X、Q、a、b、c、d、a+b+c+d及びeは前記と同じである。)
で示されるビニル基含有パーフルオロポリエーテルと、テトラオルガノシクロテトラシロキサンとを、ヒドロシリル化反応させることによってパーフルオロポリエーテル変性シクロテトラシロキサンとした後、該シクロテトラシロキサンと、下記一般式(4):
【化4】


(式中、R、p、q及びp+qは前記と同じである。)
で示されるアリル基含有ポリエーテル化合物を、ヒドロシリル化反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテル基含有ポリエーテル変性ポリシロキサンの製造方法。

【図1】
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