説明

ヒアルロン酸合成酵素及びその遺伝子

【課題】宿主における発現効率が高く、環境汚染の発生の低減したヒアルロン酸合成酵素及び該酵素をコードする遺伝子を提供する。
【解決手段】以下の(a)、(b)、(c)または(d)のDNAからなるヒアルロン酸合成酵素遺伝子:(a)特定の塩基配列又はその相補鎖からなるDNA;(b)上記(a)のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;(c)上記(a)のDNAと96.8%超のホモロジーを有し、且つ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;(d)特定のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入され且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチドをコードするDNA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸合成酵素及びヒアルロン酸合成酵素遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸 (以下、「HA」ともいう)は、高分子量のグルコサミノグリカンであり、グルクロン酸がβ1,3結合でN−アセチルグルコサミンに結合した二糖単位(GlcAβ1−3GlcNAc:GlcAはグルクロン酸を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミンを表す)のβ1,4結合による繰り返しからなる直鎖状の多糖である。HAは、脊椎動物において、硝子体、皮膚、靭帯など様々な組織の細胞外マトリックス成分として幅広く存在することが知られている。HAは、他の細胞外マトリックス成分とともに3次元構造の形成に働き、組織の水分保持や柔軟性の維持のような構造物として機能ばかりでなく、HA結合蛋白質とともに細胞表面受容体との相互作用により、細胞の接着、遊走、分化などの細胞の挙動を調節するとともに、形態形成、創傷治癒、癌の浸潤、転移などの現象にも関与している。
【0003】
ヒアルロン酸 の生合成の研究は、1950〜1960年代に、連鎖球菌を用いた無細胞系実験により行われ、ヒアルロン酸鎖の伸長にUDP-グルクロン酸及びUDP-N-アセチルグルコサミンの2種類の糖ヌクレオチドを用いることにより、連鎖球菌細胞膜に局在するヒアルロン酸合成酵素(以下、「HAS」ともいう)の活性が示された(非特許文献1参照)。本酵素を安定な活性型として、可溶化して高純度に精製することは長年の間、困難であったが、1993年に、Streptococcus pyogenesのヒアルロン酸合成酵素遺伝子(hasA)が単離されて(非特許文献2参照)以来、活性型の組換えHASが得られるようになり、HASの諸性質に関する研究が進展した。
【0004】
その後、真核生物である哺乳動物からもヒアルロン酸 合成酵素(以下、「HAS」ともいう)遺伝子が単離された。最初、HAS1(非特許文献3〜4、特許文献1〜3)が単離され、その後HAS2(非特許文献5〜6、特許文献4)、HAS3(非特許文献7、特許文献4)が次々に単離された。これらは相同性が高く、ファミリーを形成していると考えられている。また、これら以外にもStreptococcus equisimilis(非特許文献8、特許文献5)やPasteurella multocida(非特許文献9、特許文献6)などからもHAS遺伝子がクローニングされた。さらに、既知の遺伝子の中にも上記HASと相同性の高いものが存在し、アフリカツメガエルのDG42(非特許文献10)あるいはクロレラ様の緑藻に感染するPBCV−1ウィルスのA98R(非特許文献11)にHAS活性があることが報告されている。
【0005】
A98Rに関しては、他の原核生物及び真核生物のHASとは異なる金属要求性を有し、HAS活性にマンガンイオンを必要とすることが報告されている。
【特許文献1】特開平9−224674号
【特許文献2】WO97/38113号
【特許文献3】WO97/40174号
【特許文献4】WO98/00551号
【特許文献5】WO99/23227号
【特許文献6】WO99/51265号
【非特許文献1】Markovitz, M. et al., J. Biol. Chem. 234, 2343, (1959)
【非特許文献2】DeAngelis, P. L. et al., J. Biol. Chem., 268, 19181 (1993)
【非特許文献3】Itano, N. et al., J. Biol. Chem., 271, 9875 (1996)
【非特許文献4】Itano, N. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 222, 816 (1996)
【非特許文献5】Watanabe, K.et al., J. Biol. Chem., 271, 22945 (1996)
【非特許文献6】Spicer, A. P. et al., J. Biol. Chem., 271, 23400 (1996)
【非特許文献7】Spicer, A. P. et al., J. Biol. Chem., 272, 8957 (1997)
【非特許文献8】Kumari, K. et al., J. Biol. Chem., 272, 32539 (1997)
【非特許文献9】DeAngelis, P. L. et al., J. Biol. Chem., 273, 8454 (1998)
【非特許文献10】DeAngelis, P. L. et al., J. Biol. Chem., 271, 23657 (1996)
【非特許文献11】DeAngelis, P. L. et al., Science, 278, 1800 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、宿主における発現効率が高く、環境汚染の発生の低減した条件下でヒアルロン酸の生産が可能なヒアルロン酸合成酵素及び該酵素をコードする遺伝子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のヒアルロン酸合成酵素及び該酵素をコードする遺伝子を提供するものである。
1. 以下の(a)、(b)、(c)または(d)のDNAからなるヒアルロン酸合成酵素遺伝子:
(a)配列番号1で示される塩基配列又はその相補鎖からなるDNA;
(b)上記(a)のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)上記(a)のDNAと96.8%超のホモロジーを有し、且つ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(d)配列番号5のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入され且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
2. 以下の(a)、(b)、(c)または(d)のDNAからなるヒアルロン酸合成酵素遺伝子:
(a)配列番号2で示される塩基配列又はその相補鎖からなるDNA;
(b)上記(a)のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)上記(a)のDNAと96.5%超のホモロジーを有し、且つ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(d)配列番号5のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入され且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
3. 以下の(A)〜(C)のポリペプチドからなるヒアルロン酸合成酵素:
(A)配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)上記(A)のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、付加、欠失又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチド;
(C)上記(A)のアミノ酸配列と97.8%超のホモロジーを有し、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチド
4. 以下の(A)〜(C)のポリペプチドからなるヒアルロン酸合成酵素:
(A)配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)上記(A)のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、付加、欠失又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチド;
(C)上記(A)のアミノ酸配列と97.8%超のホモロジーを有し、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチド
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酵母などの宿主で高発現可能であり、Mn2+イオンなどの環境汚染の原因となる金属を必要としないヒアルロン酸合成酵素及び該酵素をコードする遺伝子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ヒアルロン酸合成酵素は、UDP−グルクロン酸とUDP−N−アセチルグルコサミンを基質として、グルクロン酸とグルコサミンの繰り返し構造からなるポリマー構造のヒアルロン酸を合成する酵素である。
【0010】
配列番号5又は6に記載される本発明のヒアルロン酸合成酵素は、クロレラウイルスCVHI1株およびCVKA1株由来のヒアルロン酸合成酵素である。なお、クロレラウイルスCVHI1株およびCVKA1株は、ゾウリムシから単離されたクロレラウイルスPBCV-1とは異なる系統のクロレラウイルスである。
【0011】
本発明のヒアルロン酸合成酵素は、マグネシウムイオン要求性であり、マグネシウムイオンの存在下で高い活性を有する。一方、クロレラウイルスPBCV-1由来の公知のヒアルロン酸合成酵素(A98R)は、マンガンイオン要求性であることがDeAngelis et al, 1997, Science, 278, 1800-1803に記載されている。マンガンイオンは、マグネシウムイオンと異なり、環境に悪影響があり、廃液処理が必要とされている。
【0012】
本発明のヒアルロン酸合成酵素は、環境に対する悪影響のないマグネシウムイオン要求性である点で、公知のヒアルロン酸合成酵素であるA98Rよりも優れている。なお、本発明のヒアルロン酸合成酵素は、マグネシウムイオンにより高活性を発現するが、マンガンイオンの存在下で、マグネシウム存在下よりも低い活性を有していてもよい。
【0013】
ヒアルロン酸合成酵素の1若しくは数個(通常9個以下、好ましくは7個以下、より好ましくは5個以下、さらに好ましくは3個以下)のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入され且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチド、並びに、97.8%超(好ましくは98%超、より好ましくは99%超)のホモロジーを有し且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチドは、好ましくはマグネシウムイオン要求性を維持したポリペプチドであり、ヒアルロン酸合成酵素の一部且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチドと、ヒアルロン酸合成酵素の欠失、付加、挿入又は置換体であって且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチド、97.8%超のホモロジーを有し且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチドを包含する。ヒアルロン酸合成酵素の一部であって、且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチドとは、上記のようなヒアルロン酸合成酵素においてヒアルロン酸合成活性を奏するために必須となるアミノ酸部位を含み、必須でない部分の一部は欠失し、かつヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチドである。
【0014】
本発明におけるヒアルロン酸合成酵素をコードするDNA又はヒアルロン酸合成酵素のアミノ酸配列において、1若しくは数個(通常9個以下、好ましくは7個以下、より好ましくは5個以下、さらに好ましくは3個以下)のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入され且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチドをコードするDNAとしては、上記ヒアルロン酸合成酵素又はポリペプチドをコードするものであれば特に限定されず、コドンの縮重により配列が異なるものも含まれる。
【0015】
本発明の1つの実施形態において、本発明のヒアルロン酸合成酵素遺伝子は、配列番号1の塩基配列と96.8%超、好ましくは97%超、より好ましくは98%超、さらに好ましくは99%超のホモロジーを有し、且つ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAである。
【0016】
本発明の他の1つの実施形態において、本発明のヒアルロン酸合成酵素遺伝子は、配列番号2の塩基配列と96.5%超、好ましくは97%超、より好ましくは98%超、さらに好ましくは99%超のホモロジーを有し、且つ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAである。
【0017】
本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、特定のヒアルロン酸合成酵素と同等のヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列のみが該特定配列とハイブリット(いわゆる特異的ハイブリット)を形成し、同等の活性を有しないポリペプチドをコードする塩基配列は該特定配列とハイブリット(いわゆる非特異的ハイブリット)を形成しない条件を意味する。当業者は、ハイブリダイゼーション反応および洗浄時の温度や、ハイブリダイゼーション反応液および洗浄液の塩濃度等を変化させることによって、このような条件を容易に選択することができる。具体的には、6×SSC(0.9M NaCl,0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl,0,2M NaH2PO4,20mM EDTA・2Na,pH7.4)中42℃でハイブリダイズさせ、さらに42℃で0.5×SSCにより洗浄する条件が、本発明のストリンジェントな条件の1例として挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0018】
該ストリンジェントな条件は、好ましくはハイストリンジェントな条件である。ハイストリンジェントな条件とは、A98Rをコードする遺伝子がハイブリダイズしない条件であれば特に限定されないが、例えば0.1×SSC及び0.1%SDSに相当する塩濃度で60℃で洗浄が行われる条件である。
本発明のヒアルロン酸合成酵素は、上記ヒアルロン酸合成酵素をコードするDNAが、上記性質を有する形で転写・翻訳されるように挿入された発現ベクターで、宿主を形質転換し、得られた形質転換体を適当な培地中で培養し、得られた培養物より採取することにより、得ることができる。
宿主細胞としては、大腸菌、酵母、細菌などの微生物細胞、昆虫細胞、COS−1細胞、CHO細胞などの動物細胞やアラビドプシス細胞などの植物細胞などが挙げられる。
【0019】
ベクターとしては、形質転換する宿主に応じて、種々のものが利用できる。例えば、大腸菌では、pMAL−p2、pUC19など、酵母では、pYES、pYC、pYI、pYL、pYEUra3TMなど、昆虫細胞では、pBLUE Bac4など、COS−1細胞ではpSVK3、pFLAG−CMV−2、pcDNA3.1、pRc/CMV2など、アラビドプシス細胞ではpBIなどが挙げられる。
【0020】
プロモーターは、各宿主について公知のプロモーターが広く使用でき、例えば酵母においては、構成的発現プロモーターであるPMA1 promoter、ADH1 promoter、GAL1 promoter、PGK promoter、PHO5 promoter、GAPDH promoter等を用いることができる。
【0021】
本発明のヒアルロン酸合成酵素をコードする遺伝子を、例えばpYEUra3TM等の適切なベクターに挿入することにより、目的とするヒアルロン酸合成酵素の発現ベクターを得ることができる。
【0022】
発現ベクターの宿主細胞への導入による形質転換体の調製は、遺伝子工学分野で通常用いられる方法で行うことができる。例えば、リポフェクション法、DEAE−デキストラン法、塩化カルシウム法、プロトプラスト法、コンピテント法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
【0023】
本発明のヒアルロン酸合成酵素は、上述の方法で得られた形質転換体を、適当な培地中で培養し、得られる培養物より採取することにより得ることができる。
【0024】
本発明の1つの実施形態において、本発明のヒアルロン酸合成酵素は、得られた形質転換体の菌体(例えば酵母)を酵素処理、超音波破砕などの方法により破砕し、遠心分離することにより無細胞抽出液を得、さらに無細胞抽出液を超遠心分離することにより、膜画分として得ることができる。
【0025】
また、得られた膜画分より、ジキトキニンやCHAPS(3−[(3−cholamidopropyl)dimethylammonio]−1−propanesulfonic acid)などの界面活性剤を用いて、可溶化し、通常の精製方法により精製することもできる。精製方法としては、例えば硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムなどによる塩析、遠心分離、透析、限外ろ過、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法などが挙げられ、これらを適当に組み合わせることにより精製することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて、本発明をより一層具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されることはない。
【0027】
実施例1 クロレラウイルス由来ヒアルロン酸合成酵素遺伝子の単離方法
クロレラウイルスヒアルロン酸合成酵素遺伝子(cvHAS)をPCRにより単離するためにPCRプライマーを作製した。プライマーは、既に明らかになっているクロレラウイルスゲノム配列情報(Kutish et al, 1996, Virology, 223, 303-317)(Li et al, 1995, Virology, 212, 134-150)(Li et al, 1997, Virology, 237, 360-377)(Lu et al, 1995, Virology, 206, 339-352)(Lu et al, 1996, Virology, 216, 102-123)およびクロレラウイルス由来ヒアルロン酸合成遺伝子の同定情報(Graves et al,1999, virology, 257, 15-23)(DeAngelis et al, 1997, Science, 278, 1800-1803)を基に設計し、かつ発現ベクターへの導入に必要な制限酵素部位を付加したものを作製した。制限酵素サイトは3’側プライマーにSacI部位を付加した。
5’側プライマー(配列番号3)
5’- ATG GGT AAA AAT ATA ATC ATA ATG GTT TCG - 3’
3’側プライマー(配列番号4)
5’ - AAT TGA GCT CTC ACA CAG ACT GAG CAT TGG TAG −3’
PCRの鋳型には、クロレラウイルスCVHI1株およびCVKA1株のゲノムDNAを用いた。PCR は、DNAポリメラーゼにKOD −plus- (東洋紡)を用い、94℃ 2分、(94℃ 15秒、55℃ 30秒、68℃ 2分)25サイクルの反応プログラムで行った。得られたPCR断片を、発現ベクターpLTex321sのマルチクローニングサイトのSmaI部位とSacI部位に挿入した。DNAシークエンサーにより、CVHI1株由来ヒアルロン酸合成酵素遺伝子cvHAS-HI(配列番号1)およびCVKA1株由来ヒアルロン酸合成酵素遺伝子cvHAS-KA(配列番号2)のDNA配列を確認した。
【0028】
実施例2 cvHASの酵母での発現および抽出方法
cvHAS-HIまたはcvHAS-KAを含む酵母(BY4743)を30℃で一晩培養した。この前培養液1mlを100mLのSD培地(0.67% Yeast nitrogen base w/o AA、2% グルコース、0.02% アデニン硫酸塩、0.02% L-トリプトファン、0.02% L-ヒスチジン、0.03% リジン一塩酸塩、0.03% L-メチオニン、-0.03% L-ロイシンを含む)に接種し、30℃で18時間培養した。その後、組換えcvHASを発現誘導するため、低温(10℃)にて48時間培養した。培養終了後、培養液の遠心分離を行うことにより菌体を回収し、30mlのバッファー(50mM リン酸緩衝液(pH7.0)、5% グリセロール、1mM EDTA、1mM ベンズアミジン、1mM ふっ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)および1mM ジチオスレイトールを含む)で懸濁した後、フレンチプレスにより菌体を破砕した。破砕液を遠心分離(12,000rpm、20分)し、さらにその上清を超遠心分離(x100,000g、1時間)することにより粗膜画分を抽出し、200μlのバッファー(上記と同様)で再懸濁し、cvHAS粗抽出液とした。
【0029】
実施例3 ヒアルロン酸合成酵素活性の測定
酵母で生産されたcvHAS粗抽出液を用いてヒアルロン酸をin vitroで合成し、その反応液中のヒアルロン酸濃度を測定することによりヒアルロン酸合成酵素活性を表した。In vitroヒアルロン酸合成は、50mM トリス緩衝液(pH7.0) 、20mM MgCl2、0.1mM EGTA、10mM 2-ME、0.05% BSA、1mM UDP-GlcA、1mM UDP-GlcNAc、および10μlの cvHAS粗抽出液を含み、全量100μlに調整した反応液を37℃で20時間反応させた。反応後、90℃にて3分間加熱し、反応を終了させた。反応液を遠心後、上清をヒアルロン酸の測定に用いた。
【0030】
ヒアルロン酸の測定は、ヒアルロン酸結合タンパク質によるヒアルロン酸の測定試薬のヒアルロン酸プレート「中外」(富士レビオ)を用いた。ヒアルロン酸プレート「中外」は、ヒアルロン酸結合タンパク質を用いたサンドイッチ結合型ヒアルロン酸定量方法である。マイクロタイタープレート上に固定化したヒアルロン酸結合タンパク質に検体中のヒアルロン酸を結合させた後、酵素標識ヒアルロン酸結合タンパク質を結合させ、サンドイッチを形成させる。引き続き、テトラメチルベンチジン(TMB)および過酸化水素を加えると、標識酵素のペルオキシダーゼの作用でTMBが酸化されて呈色する。反応停止液を添加後、プレートリーダーで波長450nm、対照波長620nmで吸光度を測定(A450)することにより、サンプルのヒアルロン酸濃度が評価できる。本キットに付属している標準ヒアルロン酸溶液を用いて標準曲線を作製し、上記の反応前後の反応液の吸光度から、反応液中に合成されたヒアルロン酸濃度を算出した。
【0031】
また、粗抽出液のタンパク質濃度はBSAを標準タンパク質として用い、Bio-Rad protein assay reagent(バイオラッド)により測定した。
【0032】
また、ヒアルロン酸合成酵素活性は、ヒアルロン酸粗抽出液に含まれている1mgあたりのタンパク質が1時間あたりに合成したヒアルロン酸量(ng-HA/h/mg-protein)を計算することにより表1でHAS活性として表示した。
【0033】
表1において、ヒアルロン酸合成酵素を含まないベクターにより形質転換した酵母由来の粗抽出液をmockと表した。クロレラウイルスCVHI1株およびCVKA1株由来のヒアルロン酸合成酵素を含むベクターにより形質転換した酵母由来の粗抽出液をcvHAS-HIおよび cvHAS-KAとそれぞれ表した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果に表されるように、単離した遺伝子がヒアルロン酸合成酵素活性を有することが確認された。
実施例4 cvHASの至適温度
実施例3でヒアルロン酸合成酵素活性の確認されたcvHAS粗抽出液を用い、cvHASの至適温度を調べた。In vitroヒアルロン酸合成は、50mM トリス緩衝液(pH7.0) 、20mM MgCl2、0.1mM EGTA、10mM 2-ME、0.05% BSA、1mM UDP-GlcA、1mM UDP-GlcNAcおよび10μlの cvHAS粗抽出液を含み、全量100μlに調整した反応液を10〜42℃の温度範囲で1時間反応させた。実施例3に示した方法でcvHAS粗抽出液のヒアルロン酸合成酵素活性を測定し、各温度における相対活性を表した。その結果を図1に示す。図1の結果に表されるように、cvHAS-HIの至適温度は37℃付近であることが確認された。
実施例5 cvHASの至適pH
実施例3でヒアルロン酸合成酵素活性の確認されたcvHAS粗抽出液を用い、cvHASの至適pHを調べた。In vitroヒアルロン酸合成は、20mM MgCl2、0.1mM EGTA、10mM 2-ME、0.05% BSA、1mM UDP-GlcA、1mM UDP-GlcNAc、10μlのcv HAS粗抽出液及び50mM リン酸緩衝液(pH5.5〜7.5)を含み、全量100μlに調整した反応液を37℃で1時間反応させた。実施例3に示した方法でcvHAS粗抽出液のヒアルロン酸合成酵素活性を測定し、各pHにおける相対活性を表した。その結果を図2に示す。図2の結果に表されるように、cvHAS-HIの至適pHは7.0付近であることが確認された。
実施例6 cvHASの金属イオン要求性
実施例3でヒアルロン酸合成酵素活性の確認されたcvHAS粗抽出液を用い、cvHASの金属イオン要求性を調べた。In vitroヒアルロン酸合成は、50mM トリス緩衝液(pH7.0) 、20mM MgCl2あるいはMnCl2、0.1mM EGTA、20mM 2-ME、0.05% BSA、1mM UDP-GlcA、1mM UDP-GlcNAc、および10μlのcv HAS粗抽出液を含み、全量100μlに調整した反応液を37℃で1時間および2時間反応させた。反応後、90℃にて3分間加熱し、反応を終了させた。実施例3に示した方法でcvHAS粗抽出液のヒアルロン酸合成酵素活性を測定し、各金属イオン存在下における活性を表した。その結果を図3に示した。図3の結果に表されるように、cvHASはMg2+イオンに対する金属要求性が高く、Mn2+イオン存在下ではMg2+イオン存在下と比較して、酵素活性が10%以下であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ヒアルロン酸合成酵素の各温度における相対活性を示す。
【図2】ヒアルロン酸合成酵素の各pHにおける相対活性を示す。
【図3】各金属イオン存在下におけるヒアルロン酸合成酵素活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)、(c)または(d)のDNAからなるヒアルロン酸合成酵素遺伝子:
(a)配列番号1で示される塩基配列又はその相補鎖からなるDNA;
(b)上記(a)のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)上記(a)のDNAと96.8%超のホモロジーを有し、且つ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(d)配列番号5のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入され且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【請求項2】
以下の(a)、(b)、(c)または(d)のDNAからなるヒアルロン酸合成酵素遺伝子:
(a)配列番号2で示される塩基配列又はその相補鎖からなるDNA;
(b)上記(a)のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つヒアルロン酸合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)上記(a)のDNAと96.5%超のホモロジーを有し、且つ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(d)配列番号5のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入され且つヒアルロン酸合成活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【請求項3】
以下の(A)〜(C)のポリペプチドからなるヒアルロン酸合成酵素:
(A)配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)上記(A)のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、付加、欠失又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチド;
(C)上記(A)のアミノ酸配列と97.8%超のホモロジーを有し、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチド。
【請求項4】
以下の(A)〜(C)のポリペプチドからなるヒアルロン酸合成酵素:
(A)配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)上記(A)のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、付加、欠失又は挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチド;
(C)上記(A)のアミノ酸配列と97.8%超のホモロジーを有し、かつ、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−204260(P2006−204260A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23992(P2005−23992)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】