ヒト化抗CD20モノクローナル抗体
【課題】ヒト化抗ヒトCD20モノクローナル抗体、それらの選別基準、ならびにそれにより選別された、医薬として好適な生物学的活性を示すヒト化抗体の提供。
【解決手段】FERM BP−10543、FERM BP−10544、FERM BP−10545およびFERM BP−10546を有する細胞からなる群より選択される細胞を培養することにより得ることのできる、ヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有するヒト化抗CD20モノクローナル抗体。
【解決手段】FERM BP−10543、FERM BP−10544、FERM BP−10545およびFERM BP−10546を有する細胞からなる群より選択される細胞を培養することにより得ることのできる、ヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有するヒト化抗CD20モノクローナル抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CD20モノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
CD20はヒトBリンパ細胞表面に発現している糖鎖不含タンパク質で、末梢血、脾臓、扁桃、骨髄中の正常B細胞に加えて、多くの悪性腫瘍B細胞に発現している。CD20のモノクローナル抗体が結合するエピトープは多様性が非常に高く、多様な生物学的応答が報告され、また、CD20を認識するモノクローナル抗体が多数報告されている。とりわけ、リツキシマブ(rituximab)は、ヒトB細胞であるSB細胞株を免疫して得られるマウス抗体2B8から由来するキメラマウス/ヒトモノクローナル抗体(C2B8)であり(特許文献1および2参照)、登録商標リツキサン(Rituxan)の名称で低悪性度非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療薬として実用化されている。さらにその後、リツキサンはB細胞が関与する多くの免疫疾患に対して有効であること、例えば、慢性リンパ性白血病(CLL)などの悪性腫瘍、自己免疫溶血性貧血症、特発性血小板減少症紫斑病(ITP)などの病原性自己抗体が関与している自己免疫疾患、関節リウマチ(RA)や多発性硬化症(MS)のような炎症性疾患に対して有効であることが報告されている(非特許文献1〜4参照)。
リンパ系B細胞に結合したリツキシマブにヒト補体が結合し、補体依存性細胞障害(CDC)によりリンパ系B細胞系を溶解することが報告されており(非特許文献5参照)、またリツキシマブは抗体依存性細胞障害(ADCC)のアッセイでは活性を示し、トリチウム化チミジン導入アッセイでは抗増殖効果と、アポトーシス誘発が報告されている(非特許文献6参照)。
一方、異種動物とのキメラ分子は抗原性を有するため治療薬として一般には好まれないが、リツキシマブを含め、抗CD20抗体は正常細胞を含む全てのB細胞を標的し除去する性質を有するため抗原性はないと考えられた。しかし、数パーセントではあるが治療期間中に中和抗体を誘起する事例が報告されていること、投与する量や期間によってはさらにその可能性が高まることや、治療対象疾患がB細胞リンパ腫から、RA、IT、MSに拡大していくなかで抗原性の問題がクローズアップされ、最近、よりヒトに近い配列を有するヒト化抗体またはヒト抗体が要望されるようになっている。
さらに、キメラ抗体は、血中半減期が比較的短い問題を有し、リツキシマブを含めマウス/ヒトのキメラ抗体のベータ半減期(β1/2)は3〜4日に過ぎず、リツキシマブの低悪性度NHLに対する臨床試験の奏効率は50%弱であったことが報告されている(非特許文献7参照)。また、リツキシマブのCD20抗原に対する解離定数(Kd値)は5.2nMであり、結合親和性があまり高くなく、NHL治療において投与量が多くなる問題もある(非特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第94/11026号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5736137号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Coiffier B et al., Blood 1998; 92:1297-32
【非特許文献2】Edward JC et al., Rheumatology (Oxford) 2001; 40:205-11
【非特許文献3】Zaja F et al., Heamatologica 2002; 87:189-95
【非特許文献4】Perrotta S et al., Br J Haematol 2002; 116:465-7
【非特許文献5】Reff et al., Blood 1994; 83: 435-445
【非特許文献6】Maloney et al., Blood 1996; 88: 637a
【非特許文献7】IDEC Pharmaceuticals Corporation News Release, December 8, 1998
【非特許文献8】Mitchell ER et al., Blood 1994; 82:435-445
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような事情に鑑み、本発明は、医薬としてさらに適した生物学的活性を示す抗CD20モノクローナル抗体を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため、自然の状態のヒトCD20分子に対する結合親和性の高いモノクローナル抗体を作製し、優れた機能を有する抗CD20モノクローナル抗体を得るべく鋭意研究を重ねた。その結果、免疫原としてCD20抗原が高密度とされるB細胞株であるSB細胞やRaji細胞と、遺伝子組換により細胞膜上にCD20を多量に発現させた非ヒト動物細胞を組み合わせて用いることにより、高親和性のモノクローナル抗体であって、優れた生物学活性を示すものが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
さらに本発明者らは、有効な抗ヒトCD20ヒト化抗体の新たな選抜方法を見出すことに成功した。この選抜方法を用いることにより、本発明のヒト化抗CD20モノクローナル抗体のなかから医薬品として有効に使用できるものを選抜することができた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する:
(1)ヒトCD20抗原を発現しているヒトB細胞株と、ヒトCD20のDNAで形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細胞株とを免疫原とするヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有する、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、下記選抜基準:
(i)ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が約9.5nM未満であって、B細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体
を満たすヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(2)ヒトCD20抗原を発現しているヒトB細胞株と、ヒトCD20のDNAで形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細胞株とを免疫原とするヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有する、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、下記選抜基準:
(a)ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が約9.5nM未満であって、Raji細胞(浮遊細胞)またはSU−DHL4細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体
を満たすヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(3)ヒトCD20抗原を発現しているヒトB細胞株と、ヒトCD20のDNAで形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細胞株とを免疫原とするヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有する、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、下記選抜基準:
(ii)ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、B細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体
を満たすヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(4)ヒトCD20抗原を発現しているヒトB細胞株と、ヒトCD20のDNAで形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細胞株とを免疫原とするヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有する、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、下記選抜基準:
(b)ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、WiL2細胞またはRCK8細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体
を満たすヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(5)配列番号18のL鎖と配列番号22のH鎖を組み合わせた(1)または(2)記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(6)配列番号18のL鎖と配列番号24のH鎖を組み合わせた(1)または(2)記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(7)配列番号19のL鎖と配列番号22のH鎖を組み合わせた(3)または(4)記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体、ならびに
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体を有効成分として含むB細胞関連疾患治療剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、CD20抗原の細胞外エピトープに対して強い結合親和性を示し、かつCDCなどの細胞傷害活性が高いヒト化抗CD20モノクローナル抗体が得られ、これらの抗体は、B細胞が関与する疾患の治療剤として極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】組換抗体発現用ベクターpNOW-Abの構造を示す制限地図である。
【図2】タンパク発現用ベクターpNOWの構造を示す制限地図である。
【図3a】アポトーシス試験の結果を示すグラフである。
【図3b】アポトーシス試験の結果を示すグラフである。
【図3c】アポトーシス試験の結果を示すグラフである。
【図3d】アポトーシス試験の結果を示すグラフである。
【図4a】抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。
【図4b】抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。
【図4c】抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。
【図4d】抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。
【図5a】E:T比とADCCの関係を示すグラフである。
【図5b】E:T比とADCCの関係を示すグラフである。
【図5c】E:T比とADCCの関係を示すグラフである。
【図5d】E:T比とADCCの関係を示すグラフである。
【図6a】CDC試験の結果を示すグラフである。
【図6b】CDC試験の結果を示すグラフである。
【図6c】CDC試験の結果を示すグラフである。
【図6d】CDC試験の結果を示すグラフである。
【図7a】マウス抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図7b】マウス抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図7c】マウス抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図7d】マウス抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図8a】ヒト化抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図8b】ヒト化抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図8c】ヒト化抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図8d】ヒト化抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図9a】ヒト化抗体での早期アポトーシスに対する割合を示すグラフである。
【図9b】ヒト化抗体での早期アポトーシスに対する割合を示すグラフである。
【図9c】ヒト化抗体での早期アポトーシスに対する割合を示すグラフである。
【図9d】ヒト化抗体での早期アポトーシスに対する割合を示すグラフである。
【図10a】ヒト化抗体の解離定数および細胞障害活性(アポトーシス誘導活性およびCDC活性)の関係を示すグラフである。使用細胞はRaji細胞である。白四角はCDC活性(%)、黒丸はアポトーシス活性(%)を示す。
【図10b】ヒト化抗体の解離定数および細胞障害活性(アポトーシス誘導活性およびCDC活性)の関係を示すグラフである。使用細胞はSU−DHL4細胞である。白四角はCDC活性(%)、黒丸はアポトーシス活性(%)を示す。
【図10c】ヒト化抗体の解離定数および細胞障害活性(アポトーシス誘導活性およびCDC活性)の関係を示すグラフである。使用細胞はWiL2細胞である。白四角はCDC活性(%)、黒丸はアポトーシス活性(%)を示す。
【図10d】ヒト化抗体の解離定数および細胞障害活性(アポトーシス誘導活性およびCDC活性)の関係を示すグラフである。使用細胞はRC−K8である。白四角はCDC活性(%)、黒丸はアポトーシス活性(%)を示す。
【図11a】ヒト化抗体およびキメラ抗体のCDC活性を示すグラフである。使用細胞はRaji細胞である。
【図11b】ヒト化抗体およびキメラ抗体のCDC活性を示すグラフである。使用細胞はSU−DHL4細胞である。
【図11c】ヒト化抗体およびキメラ抗体のCDC活性を示すグラフである。使用細胞はWiL2細胞である。
【図11d】ヒト化抗体およびキメラ抗体のCDC活性を示すグラフである。使用細胞はRC−K8である。
【図12a】ヒト化抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はRaji細胞である。
【図12b】ヒト化抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はSU−DHL4細胞である。
【図12c】ヒト化抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はWiL2細胞である。
【図12d】ヒト化抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はRC−K8細胞である。
【図13a】ヒト化抗体のE:T比とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はRaji細胞である。
【図13b】ヒト化抗体のE:T比とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はSU−DHL4細胞である。
【図13c】ヒト化抗体のE:T比とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はWiL2細胞である。
【図13d】ヒト化抗体のE:T比とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はRC−K8細胞である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書および図面において用いる略号を以下に示す。
Pcmv: サイトメガロウイルスプロモーター
PAbgh: ウシ成長ホルモン遺伝子ポリA付加シグナル
Psvd: エンハンサーを欠失させたシミアンウイルス40プロモーター
DHFR: マウスジヒドロ葉酸還元酵素cDNA
PAsv: シミアンウイルス40ポリA付加シグナル
PBR322ori: 大腸菌中での複製起点
Ampr: 大腸菌中での選択マーカー(アンピシリン耐性)
Neor: 哺乳動物細胞中での選択マーカー(G418耐性)
INrbg: ウサギβグロビンイントロン
SPl: 抗体軽鎖シグナルペプチド
VL: 抗体軽鎖可変領域cDNA
Cκ: 抗体κ軽鎖定常領域cDNA
SPh: 抗体軽鎖シグナルペプチド
Vh: 抗体軽鎖可変領域cDNA
Cγ1: 抗体γ1重鎖定常領域cDNA
【0012】
本明細書において、「抗体」には、抗体全体のみならず、抗体全体と同等の、抗原に対する結合親和性を示すフラグメント、例えば、元の抗体全体の可変領域を含むフラグメント(例、Fab、F(ab’)2など)も包含する。
本発明のモノクローナル抗体は、ヒトCD20抗原に対し高い親和性を有し、かつ、優れた生物学的活性を示すモノクローナル抗体であり、マウス由来のモノクローナル抗体、そのキメラ化、ヒト化抗体を包含する。
その好ましい第1の態様は、ヒトCD20抗原を有する細胞に対して増殖阻害活性を有し、ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が、リツキシマブの由来するマウス抗体である2B8の1/2以下の、好ましくは1.70〜3.39nMの、ヒトCD20抗原に対して高い親和性を有するモノクローナル抗体である。
解離定数(Kd値)の測定方法は、細胞上に発現する抗原に対するKd値を測定できる方法であれば特に限定するものではないが、本明細書においては、後の実施例に記載する方法による解離定数とする。
【0013】
ヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性は2B8よりも大きいことが好ましい。増殖阻害活性は、好ましくは、末梢血単核細胞非存在下でのヒトCD20抗原を有する細胞のin vitro培養に対する増殖阻害活性であり、さらに好ましくは、増殖阻害活性はアポトーシス誘導によるものである。抗CD20抗体のうちいくつかの抗体では、CD20への結合に伴いB細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)濃度を上昇させSrcキナーゼが関与するアポトーシスを誘導することが報告されている。
上記の増殖阻害活性の測定は、例えば、Miyamoto T, Min W, Lillehoj HS.Avian Dis. 2002 Jan-Mar;46(1):10-6に記載の方法により測定できる。
【0014】
本発明の第1の態様のモノクローナル抗体の具体的な例としては、L鎖可変領域アミノ酸配列とH鎖可変領域アミノ酸配列がそれぞれ配列番号1及び9、配列番号2及び10、又は、配列番号3及び11であるマウスを由来とするモノクローナル抗体と、それらの抗体をキメラ化又はヒト化したものが挙げられる。
キメラ化は、例えば、Ishida T, Imai K, Nippon Rinsho Vol 60, No 3, 2002-3:439-444に記載されるような公知の方法に従って、マウス由来モノクローナル抗体の可変領域アミノ酸配列とヒトイムノグロブリン定常領域アミノ酸配列を融合させることにより行うことができる。
ヒト化は、例えば、上記Ishida T, Imai K, Nippon Rinsho Vol 60, No 3, 2002-3:439-444や、Eduardo A.Padlan, Molecular Immunology, Vol. 28-4/5, pp489-498, 1991; Eduardo A.Padlan et.al., The FASEB Journal,vol.9, pp133-139;およびTai te Wu, Elvin A. Kabat, Molecular Immunology, Vol.29-9, pp1141-1146, 1992に記載されるような公知の方法に従って、マウス由来モノクローナル抗体の可変領域CDRアミノ酸配列とヒトイムノグロブリンのアミノ酸配列を用いて行うことができる。
キメラ化又はヒト化を行う場合には、複数のマウスモノクローナル抗体のL鎖可変領域のアミノ酸配列と、H鎖可変領域のアミノ酸配列を任意に組み合わせてもよい。例えば、配列番号1〜3のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化したL鎖と配列番号9〜11のマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化したH鎖を組み合わせたキメラ抗CD20モノクローナル抗体、配列番号1〜3のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域CDRのアミノ酸配列をヒト化したL鎖と配列番号9〜11のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域CDR配列をヒト化したH鎖を組み合わせたヒト化抗CD20モノクローナル抗体が挙げられる。
【0015】
本発明の好ましい第2の態様の抗体は、ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が2B8の1/8以下であるマウス由来モノクローナル抗体をキメラ化またはヒト化したモノクローナル抗体である。
ヒトCD20抗原に対し高い親和性を有する抗体で、特にヒトIgG1又はIgG3、又はそれらを改変したヒトFc配列を有する抗体(マウス由来モノクローナル抗体をキメラ化又はヒト化したものを含む)は、細胞表面上のCD20に結合した場合、NK細胞上のFcγRIII(CD16)を介したエフェクター細胞の活性化を誘発し、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)を起こすことがよく知られている。また、ヒトCD20抗原に対し高い親和性を有する抗体で、特にヒトIgG又はIgM、又はそれらを改変したヒトFc配列を有する抗体(マウス由来モノクローナル抗体をキメラ化又はヒト化したものを含む)は、細胞表面上のCD20に結合した場合、補体の活性化を誘発し、補体依存性細胞傷害(CDC)を起こすこともよく知られている。
かくして、本発明の第2の態様の抗体は、ADCC又はCDCを示すことが期待できる。
第2の態様の抗体の具体的な例としては、L鎖可変領域アミノ酸配列とH鎖可変領域アミノ酸配列がそれぞれ配列番号4及び12、配列番号5及び13、配列番号6及び14、配列番号7及び15、又は、配列番号8及び16であるものが挙げられる。
キメラ化又はヒト化は、第1の態様の抗体と同様に行うことができ、その場合、複数のマウスモノクローナル抗体のL鎖可変領域のアミノ酸配列と、H鎖可変領域のアミノ酸配列を任意に組み合わせてもよい。例えば、配列番号4〜8のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化したL鎖と配列番号12〜16のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化したH鎖を組み合わせたキメラ抗CD20モノクローナル抗体、配列番号4〜8のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域CDRのアミノ酸配列をヒト化したL鎖と配列番号12〜16のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域CDR配列をヒト化したH鎖を組み合わせたヒト化抗CD20モノクローナル抗体が挙げられる。
【0016】
本発明の好ましい第3の態様の抗体は、リツキシマブが効果を示さない細胞に対しても有効なヒト化したモノクローナル抗体を包含する、2B8に対する特定の解離定数に限定されない一群のヒト化抗体である。
これらの抗体の例としては、配列番号18のL鎖と配列番号24のH鎖、配列番号18のL鎖と配列番号22のH鎖、配列番号19のL鎖と配列番号22のH鎖または配列番号19のL鎖と配列番号23のH鎖を組み合わせたヒト化CD20モノクローナル抗体が挙げられる。
【0017】
さらに本発明者らは、本発明により得られたヒト化抗CD20モノクローナル抗体について、抗体のヒトCD20抗原に対する親和性とCDC活性、アポトーシス誘導活性との相関に基づいて抗体のタイプを分類し、その分類に基づいて抗体医薬品として有用なモノクローナル抗体を選抜することができた(実施例4参照)。
【0018】
すなわち、親和性が高い抗体は、それ自身でアポトーシスを誘導することができず、アポトーシスの誘導に二次抗体によるクロスリンクが必要であること、一方、親和性が低い抗体は、それ自身でアポトーシス誘導活性を発揮することがわかった。さらに、親和性が高い抗体ほどCDC活性も高いケースが多いこともわかった。それゆえ、親和性の低い抗体は、二次抗体が存在しなくてもアポトーシスを誘導できるが、CDC活性が低い傾向を有する。したがって、これらの知見から、医薬品として有効な候補抗体を見出すことができる、2つの選抜基準を設定することができた:
−単独ではアポトーシスを誘導しないが、ヒトCD20抗原に対する親和性が極めて高く、CDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体;あるいは
−単独でアポトーシス誘導活性を持ち、アポトーシスとCDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体のうち、ヒトCD20抗原に対する親和性が高いもの。
【0019】
前者の選抜基準では、ヒトCD20抗原に対する親和性が高く、かつCDC活性も高いものを選抜することが好ましい(Kd値が低いほどCDC活性が高い傾向が見られる)。前者の選抜基準を満たすクローンの場合には、単独でアポトーシス誘導は引き起こさないが、親和性が高いという利点を有し、高いCDC活性により細胞枯渇を促すことができる。本発明者らは、前者の選抜基準を満たす抗体は、約9.5nM未満のヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)を有するものが多いことを見出した。
【0020】
後者の選抜基準では、抗体によるアポトーシスとCDCの総和が大きく、かつ、ヒトCD20抗原に対する親和性が高いものを選抜することが好ましい。したがって、後者の選抜基準を満たすクローンの場合には、親和性は高くないが、アポトーシス活性が高いという利点を有し、アポトーシス誘導とCDCの相乗効果により細胞枯渇を促すことができる。本発明者らは、後者の選抜基準を満たす抗体は、約9.5nMから約13nMの範囲のヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)を有するものが多いことを見出した。
【0021】
上記選抜基準を数値的に表現することが好ましい。したがって、上記選抜基準は各々次のように表現することができる:
(i)ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が約9.5nM未満であって、B細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体;あるいは
(ii)ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、B細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体。
ここに、同等とは、比較すべき値の±約10%の範囲の値を意味する。
【0022】
本発明者らはさらに実験を行って、B細胞の種類に応じて上記選抜基準を適用することが好ましいことを見出した。具体的には後記実施例4で得られた結果をふまえて、上記選抜基準(i)を(a)のように、(ii)を(b)のように、各々、さらに詳細に表現することができる:
(a)ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が約9.5nM未満であって、Raji細胞(浮遊細胞)またはSU−DHL4細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体;あるいは
(b)ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、WiL2細胞またはRCK8細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体。
ここに、同等とは、比較すべき値の±約10%の範囲の値を意味する。
【0023】
上記(i)または(a)の選抜基準に従う場合には、ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nM未満であって、できるだけKd値が低く、かつ、CDC活性の高い抗体を選抜することが好ましい。好ましくは、Raji細胞(浮遊細胞)またはDHL4細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体を選択する。通常は、Kd値の小さい抗体ほどCDC活性が高い傾向があるので、単にKd値の小さい(CD20抗原に対する親和性が高い)抗体を選抜すればよい。(i)または(a)の選抜基準を満たす抗体は、CD20抗原に対する親和性が極めて高く、CDC活性も極めて高いので、優れた抗ガン効果を発揮することができる。ただし、(i)または(a)の選抜基準を満たす抗体は、単独ではアポトーシスを誘導せず、アポトーシスの誘導には二次抗体を必要とする。
【0024】
上記(ii)または(b)の選抜基準に従う場合には、ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、できるだけアポトーシス活性とCDC活性の総和が大きく、かつ、Kd値が小さい抗体を選抜することが好ましい。好ましくは、WiL2細胞またはRCK8細胞に対するCDC活性とアポトーシス活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上のものを選抜する。(ii)または(b)の選抜基準を満たす抗体は、CD20抗原に対する親和性がある程度高く、単独でアポトーシスを誘導でき、アポトーシスとCDCの相乗効果により優れた抗ガン効果を発揮することができる。好ましくは、アポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上のものを選抜する。
【0025】
換言すれば、(i)または(a)の選抜基準は、抗体が極めて高いCDC活性を有することを期待する場合に適用することができ、(ii)または(b)の選抜基準は、抗体がCDC活性とアポトーシス活性の両方を有することを期待する場合に適用することができる。
【0026】
本発明により得られたヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、上記選抜基準(i)または(a)を満たす抗体としては、配列番号18のL鎖と配列番号22のH鎖を組み合わせたヒト化抗CD20モノクローナル抗体、ならびに配列番号18のL鎖と配列番号24のH鎖を組み合わせたヒト化抗CD20モノクローナル抗体が例示される。
本発明により得られたヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、上記選抜基準(ii)または(b)を満たす抗体としては、配列番号19のL鎖と配列番号22のH鎖を組み合わせたヒト化抗CD20モノクローナル抗体が例示される。
【0027】
また、本発明の抗体とは異なるエピトープを認識する抗体、例えば、本発明以外の方法により得られた抗体についても、本発明の選抜に関する考え方を適用し、選抜することが可能である。したがって、本発明は、さらなる態様において、下記選抜基準:
−単独ではアポトーシスを誘導しないが、抗原に対する親和性が極めて高く、CDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体;あるいは
−単独でアポトーシス誘導活性を持ち、アポトーシスとCDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体のうち、抗原に対する親和性が高いもの
を用いることを特徴とする抗ガン抗体の選抜方法、ならびに該方法により選抜された抗体にも関する。
【0028】
選抜基準(i)または(a)、あるいは(ii)または(b)を適用する際の、抗原に対する親和性、アポトーシス活性およびCDC活性の測定は、当該分野で知られているいずれの手法を用いて行ってもよい。抗原に対する親和性に関しては、抗原との解離定数を測定し、これを指標とするのが一般的である。ヒトCD20抗原に対するヒト化抗体の解離定数の測定は、ヒトCD20抗原を発現している細胞を標的として使用して行うのが一般的である。その際、ヒトCD20抗原を発現していない細胞をコントロールとして用いることが好ましい。細胞に結合したヒト化抗体の検出には、ヒト化抗体に検出可能な標識を付す、あるいはヒト化抗体に対する標識化特異的抗体を用いる等の手法を用いることができる。例えば、本明細書の実施例2に記載のごとくヒトCD20抗原に対する親和性(あるいは解離定数、Kd値)を測定してもよい。
【0029】
以下に、本発明のヒト化抗CD20モノクローナル抗体の取得および選抜について説明する。
本発明のヒト化抗CD20モノクローナル抗体の作製に使用できるマウス由来モノクローナル抗体は、例えば、つぎのような方法によるスクリーニングで得られたハイブリドーマのクローンから目的の性質を有するモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することにより得ることができる。
感作抗原(免疫原)として、例えば、CD20を発現している細胞であるSB細胞又はRaji細胞と、例えば、遺伝子組換えにより商業的に入手可能なCD20のDNA(又は、同等の効果を有するそのフラグメント等)で形質転換して細胞表面上にCD20を発現させたCHO細胞(CHO/CD20)を用いる。そして、初回免疫、追加免疫、及び、最終免疫を行う際に、初回免疫及び追加免疫が、免疫の少なくとも1回は、感作抗原として、該抗原を発現する、被免疫動物とは他の目に属する動物に由来する細胞株を用いる免疫、及び、免疫の少なくとも1回は、感作抗原として、遺伝子組換により細胞膜表面上に該抗原を発現させた、被免疫動物と同目に属する動物に由来する細胞株を用いる免疫のいずれか一方であり、最終免疫が他方であるようにする。
この他の条件は、通常のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの作製法と同様でよい。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、公知の方法に従って、(1)被免疫動物の免疫、(2)免疫された動物からのリンパ球の調製、(3)親細胞の調製、(4)リンパ球と親細胞の細胞融合、(5)スクリーニング及びクローニングによって作製される(例えば、Ailsa M. Campbell (著)、大沢 利昭 (訳) 生化学実験法 モノクローナル抗体、東京化学同人、1989年参照)。
得られたクローンを用いてハイブリドーマを用いてモノクローナル抗体を作製する方法は、本発明のハイブリドーマ作製法で作製されたハイブリドーマを用いることの他は、通常の、モノクローナル抗体の作製の方法と同様でよい。大量作製の場合には、細胞培養による方法、マウスの腹水として作製する方法などが挙げられる。また、キメラ化又はヒト化抗体を作製する場合には、キメラ化又はヒト化抗体をコードする遺伝子を作製し、それを発現ベクターに組み込み、発現ベクターを適当な細胞で発現させることにより作製することができる。
【0030】
例えば、L鎖およびH鎖の可変領域遺伝子を、ヒトイムノグロブリンL鎖およびH鎖(κ)定常域遺伝子とでキメラ化し、CHO細胞用高発現ベクターに組み込む。組換抗体生産用のベクターシステムは市販されているものでよいが、哺乳動物細胞高発現ベクターpNOW(特許第3582965号公報)を基に、L鎖、H鎖両方のマルチクローニングサイト(MCS)を有するダイマー用高発現ベクターpNOW-abに構築したものを使用できる。各ベクターの構成を示す制限地図を図1および図2に示す。キメラ抗体遺伝子が組み込まれた発現ベクターをCHO細胞にトランスフェクトし、それぞれ生産性の高いクローンを選別する。そのクローンから通常の方法で抗体を作製する。
【0031】
本発明の第1の態様の抗体は、結合親和性がリツキシマブに比べて相対的に高くかつ増殖阻害活性、好ましくはアポトーシス誘導による活性が高いので、キメラ化又はヒト化した抗体はB細胞悪性腫瘍及びB細胞が関与する免疫疾患に対する治療剤の有効成分として使用できる。また、本発明の第2、第3の態様の抗体は、ヒトCD20抗原を有する細胞に対して抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)又は補体依存性細胞傷害(CDC)を示すと考えられるので、B細胞悪性腫瘍及びB細胞が関与する免疫疾患に対する治療剤の有効成分として使用できる。したがって、本発明は、これらキメラ化又はヒト化した抗体を有効成分とするB細胞関連疾患に対する治療剤も提供する。
また、本発明のヒト化抗CD20モノクローナル抗体は、上記(i)または(a)、あるいは(ii)または(b)の選抜基準を用いて選抜することができ、これらの選抜基準を満たすものはB細胞悪性腫瘍及びB細胞が関与する免疫疾患に対して有効性が高く、特に医薬用として好都合である。したがって、上記(i)または(a)、あるいは(ii)または(b)の選抜基準を満たすヒト化抗CD20モノクローナル抗体を有効成分として含有するB細胞関連疾患治療剤を提供する。
【0032】
さらに、本発明においては、本発明の抗体を2種以上併用してもよい。
B細胞関連疾患としては、以下に限定するものではないが、例えば、非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病、関節リウマチ、自己免疫溶血性貧血症、特発性血小板減少症紫斑病、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、シェーグレン症候群、クローン病、強皮症、多発性硬化症などが挙げられる。
該治療剤は、公知の製剤技術に従って製造でき、他の配合成分は特に限定するものではなく、公知のリツキサンを参考にして、投与量等も決定することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
(1)マウス感作用免疫原の準備
CD20を発現しているB細胞株であるSB細胞とRaji細胞をin vitroで培養した。
また、別途、Multiple Choice cDNA human spleen, Origene Technologies, Inc. 6 Taft Court, Suite 100, Rockville, MD 20850から入手したCD20の全分子をコードするDNAを、特異的なプライマーhCD20-S-GK-Not aatgcggccgccaccatgacaacacccagaaattc(配列番号25)、及びhCD20-E-Xba gctctagattaaggagagctgtcattttc(配列番号26)を用いてクローニングし、それを哺乳動物細胞用高発現ベクターであるpNOW(図1)に組み込み、構築されたベクターをCHO細胞にトランスフェクトした。FACS分析により、細胞表面にCD20分子を高発現している組換CHO細胞(CD20/CHO細胞)を樹立した。ここにおいて、FITC標識抗CD20モノクローナル抗体で染色した際に、SB細胞に比べて蛍光強度が5倍以上のものを高発現しているものとした。
【0034】
(2)免疫原の調製
SB細胞またはRaji細胞は10%FCS添加RPMI1640培地を用いて培養を行った。CD20/CHO細胞は、G418を800μg/ml添加したCHO−S−SFM II培地(GIBCO、Cat. No. 12052-098)を用いて培養を行った。これらの培養液を1100rpmで、5分遠心分離した後、細胞にDulbecco’s PBS(-)を加えて懸濁させ再度遠心分離した。この洗浄操作をもう一度繰り返し、細胞に生理食塩水を加えて調製した懸濁液(細胞数:1〜3×107/ml)を免疫に用いた。
【0035】
(3)免疫
7〜11週令のBalb/c系雌性マウスへ、免疫原の調製液をいずれも腹腔内投与した。SB細胞又はCD20/CHO細胞のうち、いずれか同じ細胞をさまざまな日数間隔で2〜3回繰り返して投与した後、最終免疫には異なった細胞(CD20/CHO細胞又はRaji細胞)を投与した。投与した細胞数はいずれもマウス1匹当たり1〜3×107個であった。
使用した免疫原の組み合わせを表1に示す。
【0036】
(4)細胞融合
最終免疫の3日後、2匹のマウスから脾臓細胞を調製し、Oi,V.T. and L.A. Herzenberg, 1980, in:Selected Methods in Cellular Immunology, eds. B. Mishell and S.M. Shiigi(Freeman and Co.San Francisco, CA) p.351に従って、マウスミエロ−マ(NS−1)との融合反応をPEG−1500の存在下で行なった。
【0037】
(5)1次、2次スクリーニング
CD20/CHO細胞またはCHO細胞(親株)を付着させた96ウエルプレートを用いてCell ELISAを行い、CD20に特異的に反応する抗体を産生しているウエルを選択した。さらに、同じCD20/CHO細胞を付着させた96ウエルプレートを用い、リツキシマブ(C2B8)との競合反応を行って、C2B8のエピトープと類似したところに反応する抗体(ウエル)を選択した。
表1にスクリーニング結果を示す。
【0038】
(6)Cell ELISA
Poly-L-Lysineコート96ウエルプレート(旭テクノグラス、Cat.No.11-023-018)に付着させたCD20/CHO細胞またはCHO細胞(親株)をCell ELISAに用いた。その各ウエルにブロッキング液(0.2%−ゼラチン、0.5%BSAのPBS溶液)を150μl入れて37℃で1時間静置した。150mM−NaCl、0.05%−Tween20水溶液を用いてプレートを5回洗浄した後、サンプル(培養上清の希釈液)を各ウエルに100μl入れて1次反応を37℃で1時間行なった。洗浄後、標識抗体の希釈液〔HRP標識抗マウスIgG(H+L)ウサギ抗体(Jackson Lab. Code No. 315-035-003)、またはHRP標識抗マウスIgG(Fcγ)ウサギ抗体(Jackson Lab. Code No. 315-035-008)〕を各ウエルに100μl入れて2次反応を37℃で1時間行なった。1次、2次の反応液の調製には、ブロッキング液と同じものを用いた。洗浄後、発色液(OPD)を各ウエルに100μl入れ30分後に4N−H2SO4を50μl加えて反応を停止し、492nmの吸光度を測定した。
【0039】
(7)Cell ELISAでの競合反応
サンプル(培養上清の希釈液)とキメラ抗体(10〜40ng/ml)の混合溶液を調製した。
上記のCell ELISAと同様にブロッキング反応をしたあと、この混合溶液を各ウエルに100μl入れて1次反応を37℃で1時間行なった。洗浄後、標識抗体の希釈液〔HRP標識抗ヒトIgG(H+L)ウサギ抗体(Jackson Lab. Code No. 309-035-082)〕を各ウエルに100ul入れて2次反応を37℃で1時間行なった。洗浄後、発色液(OPD)を各ウエルに100μl入れ30分後に4N−H2SO4を50μl加えて反応を停止し、492nmの吸光度を測定した。
標識抗体はキメラ抗体のみに反応するので、1次反応で添加したサンプル中の抗体がキメラ抗体と競合すれば、測定値の低下が認められた。
【0040】
(8)クローニング
限界希釈法で行った。細胞を96ウエルプレートに撒いて培養後、1コロニーのウエルの培養上清についてCell ELISAを行い、特異抗体の産生クローンを選択した。
【0041】
(9)精製抗体の調製
特異抗体の産生クローンを10%FCS添加RPMI1640培地で培養し、細胞密度が5×105/ml前後になった時点で無血清培地ASF−104N(味の素)に培地を交換して培養を行った。その2〜4日後に培養液を遠心分離して培養上清を回収したあと、プロテインGカラムを用いて精製を行い、溶出されたモノクローナル抗体溶液を150mM−NaClに対して透析した。0.2μmのフィルターでろ過滅菌を行ない、試験抗体(抗ヒトCD20マウスモノクローナル抗体)とした。
【0042】
【表1】
代表的な8クローンの産生するモノクローナル抗体について、L鎖V領域のアミノ酸配列(配列番号1〜8)及びH鎖V領域のアミノ酸配列(配列番号9〜16)は以下のとおりである。
【0043】
1K0924のH鎖V領域配列(配列番号11)
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGYTFTSYNIHWVKQTPGQGLEWIGAIYPGNGDTSYNQKFKGKATLTSDKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARMSTMITGFDYWGQGTTLTVSS
1K1228のH鎖V領域配列(配列番号16)
QVQLQQPGAELVKPGASVKVSCKASGFTFTSYNLHWVKQTPGQGLVWIGAIYPGNGDTSYNQKFRGKATLTADISSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARYYYGYDAMDYWGQGTSVTVSS
1k1422のH鎖V領域配列 (配列番号9)
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCRASGYTFTNYNMHWIKQTPGQGLEWIGAIYPGSGDTSYNRKFKGKATLTADTSSSTAYMQFSSLTSADSAVYYCARFTYYYGGTYGAMDYWGQGTSVTVSL
1k1791のH鎖V領域配列 (配列番号10)
QIQLVQSGPELKKPGETVKISCKASGYTFTNFGVNWVKQAPGKGLKWMGWINTYTGEPSYADDFKGRFAFSLEASANTAYLQINNLKNDDMSTYFCTRRTNYYGTSYYYAMDYWGQGTSVTVSS
1k1712のH鎖V領域配列 (配列番号12)
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGFTFTSYNLHWVKQTPGQGLEWIGAIYPGSGDTSYNQQFKGKATLTADKSSNTAYMQLNSLTSEDSAVYCCARSAMISTGNWYFDYWGQGTTLTVSS
1k1402のH鎖V領域配列 (配列番号13)
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGFTFTSYNMHWVKQTPGQGLEWIGGIYPGNGDTSYNQKFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARFYYYGSMGAMDYWGQGTSVTVSS
1k1736のH鎖V領域配列 (配列番号14)
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGYTFTTYNLHWVKQTPGQGLEWIGGIYPGNGDTSYNQKFKVKATLTADKSSNTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARWIYYGNYEGTLDYWGQGTSVTVSS
1k1782のH鎖V領域配列 (配列番号15)
QVQLQQSGAELAKPGASVKMSCKASGYTFTSYWMHWVKQRPGQGLEWIGYITPSTGYTDYNKKFKDKATLTADRSSSTAYMHLSSLTSEDSAVYYCARSGPYFDVWGAGTTVTVSS
1K0924の L鎖V領域配列(配列番号3)
QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYMHWYQQRPGSSPKPWIYATSNLASGVPARFSGSGSGTSYYFTISRVEAEDAATYYCQQWNSNPPTHGGGTKLEIK
1K1228の L鎖V領域配列(配列番号8)
EIILTQSPTTMAASPGEKITITCSASSSISSYYLRWYQQKPGFSPKVLIYRTSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTIGTMEAEDVATYYCQQGNTVPLTFGSGTKLEIK
1k1422の L鎖V領域配列 (配列番号1)
QIVLTQSPPIMSASLGEEITLTCSASSRVSYMLWYQQKSGTSPKLLIYSTSNLASGVPSRFSGSGSGTFYSLTISSVEAEDAADYYCHQWTSNPCTFGGGTKLEIK
1k1791の L鎖V領域配列 (配列番号2)
STVMTQTPKFLLVSAGDRVTITCKASQSVSNDVAWYQQKPGQSPKVLIYFASNRYTGVPDRFTGSGYGTDFTFTINTVQAEDLAVYFCQQDYSSPLTFGAGTKLELK
1k1712の L鎖V領域配列 (配列番号4)
QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYMDWYQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDTATYYCQQWTFNPPTFGSGTKLEIK
1k1402の L鎖V領域配列 (配列番号5)
QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYMHWYQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTITRVEAEDAATYYCQQWTFNPPTFGAGTKLELK
1k1736の L鎖V領域配列 (配列番号6)
QIVLSQSPAILSSSPGEKVTMTCRASSSVSYMLWYQQKPGSSPEPWIYATSNLASGVPARFSGGGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQWTFNPPTFGGGTKLEIK
1k1782の L鎖V領域配列 (配列番号7)
DILLTQSPAILFVSPGERVSLSCRASQNIGTSIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESFSGIPSRFSGSGSGTDFTLSINSVESEDIADYYCQQSNSWPFTFGSGTKLEIK
【実施例2】
【0044】
得られたクローンの一部に関し、モノクローナル抗体遺伝子の可変領域について塩基配列の決定を行うとともに、それらが産生するモノクローナルについて抗体結合親和性の測定及び生物学的特性試験を以下のとおり行った。
(1)結合親和性測定
目的とする抗原を細胞表面で発現しているヒトB細胞株由来の浮遊細胞Raji及び、CD20抗原を発現していない細胞としてヒトT細胞株由来の浮遊細胞Jurkatを用いた。共にRPMI1640(ナカライ、Cat.No.30264-85、Lot L4K2844)に10%ウシ胎仔血清FCS(BIOLOGICAL IND. Cat.No.04-001-1A、Lot 815242、補体成分を非働化するためあらかじめ56℃30分加温したもの)を添加した培地で37℃CO2濃度5%のCO2インキュベーター (SANYO MCO-175M)で培養、週2回の継代により維持した。
細胞数の測定は、Burker-Turk血球計算盤(ヱルマ販売(株)Cat.No.03-303-1)を用いて行った。
継代後3〜4日目のコンフルエントな細胞の培養液を多本架冷却遠心機LX−120 (TOMY)で室温、3000rpmで3分間遠心し、上清を除き、細胞を回収した。ここで用いた回転数と時間は遠心分離と上清除去を繰り返し行っても細胞数が変化しない条件である。細胞の表面に残った培地及びFCSを除くため(洗浄)、回収した細胞をDulbecco’s Phosphate Buffered Saline(-) 〔Ca、Mgフリー、PBS(-) 、(NaCl:Wako、Cat.No.191-01665、Na2HPO4:Wako、Cat.No.197-02865、Lot ASF2635、KCl:Wako、Cat.No.163-0334T、Lot CEQ7122 、KH2PO4:Wako、Cat.No.169-0425、Lot ELG7616)〕で懸濁後、3000rpmで3分間遠心して上清を除く操作を2回行った。洗浄を終えた細胞を1%BSA (Wako Cat No.013-07492 Lot PKH3483)−PBS溶液で懸濁し、細胞密度を5x106個/mlに調整した。
1次抗体として、試験抗体又は陽性コントロール抗体(2B8)15、30、50、75、100、125、150、200ng(1.5〜5μl)を各々、1.5mlチューブ(ビーエム機器、BMリングロックチューブ Cat.No.BM-15)に分注し、同時に抗体を入れないチューブも4本用意した。また、各々の試験抗体あたり3点のサンプルを準備した。そこに、1%BSA(Wako Cat No.013-07492 Lot PKH3483)−PBS溶液で懸濁液を100μl(細胞数5x105個)ずつ加えて混和し、室温で1時間振とう反応させた。
反応後、微量高速冷却遠心機MX−100(TOMY)で室温、3000rpm3分間遠心分離し、細胞を回収後、細胞の表面に残った未反応の一次抗体を除くため200μlのPBSで懸濁し、3000rpmで3分間遠心し上清を除く操作を2回行った。
【0045】
次に、細胞と結合した1次抗体に対して過剰量(500ng)のFITC標識抗マウスIgG(H&L)2次抗体〔GOAT Anti-mouse IgG(H&L) Fluorescein conjugated, affinity purified Secondary antibody、Chemicon、Cat.No.AP124F、 Lot 24021014〕および1%BSA−PBS溶液100μl(500ng/100μl)を添加・懸濁し、遮光、室温のもと1時間振とう反応させて細胞に結合した1次抗体を検出した。反応後、3000rpmで3分間遠心し、細胞を回収後、細胞の表面に残った未反応のFITC標識抗マウスIgG(H&L)抗体を除くため、200μlのPBSで懸濁し、3000rpmで3分間遠心し上清を除く操作を2回行った。
こうして得た細胞を100μlPBSで懸濁し、96ウエル平底プレート(住友ベークライトELISA PLATE Cat.No.8496F)へ移した。2次抗体の蛍光量をTyphoon9210イメージアナライザー(Amersham Bioscience)を用いて、Fluorescense mode, 600V、526SP/green(532nm)、Focus:底面+3mmの検出条件で測定した。この際、FITC標識2次抗体を0、12.5、25、50、75、100、125、150ng添加したPBS溶液100μlを検量線作成用のコントロールとして用いた。
【0046】
検出後、画像を画像解析ソフトImage Quant (Amersham Bioscience)を使用し、数値化を行った後、Excel (Microsoft)で解析を行った。この際、プレート、PBS溶液、および細胞に非特異的に結合したFITC標識2次抗体に由来するバックグラウンド値として、細胞とFITC標識2次抗体のみを反応させたものの測定値を求め、その4点の平均値を各サンプルの蛍光強度の値から差し引いた。こうして、細胞に結合したFITC標識2次抗体の蛍光量を得た。更に、コントロールとして用いた各濃度のFITC標識二次抗体での蛍光量を測定することで検量線を作成し、細胞に結合している2次抗体の量(モル数または重量)を求めた。各1次抗体とFITC標識2次抗体が1:2の割合で反応していると仮定し、結合している1次抗体量を算出した。また遊離の1次抗体量は添加量から結合量を差し引いて求めた。抗体濃度をモル濃度に換算する際、モノクローナル抗体の分子量を150000とした。
【0047】
添加する1次抗体の増加に伴い結合反応が飽和して蛍光強度が一定量に達することを確認するとともに、細胞表面の抗原数及び解離定数(Kd値)を算出するため、スキャッチャード解析(Scatchard,G.; Ann.N.Y.Acad.Sci.,51: 660-672,1949、分子生物学研究のための新培養細胞実験法;羊土社、実験医学別冊バイオマニュアルUPシリーズ改訂第2版、212-217参照)を行った。このとき、数値は各サンプルについて3点の値の平均値を用いた。
代表的な8クローンが産生するモノクローナル抗体と陽性コントロール抗体(2B8)の測定結果を後の表3に示す。
【0048】
(2)生物学的特性試験
(a)アポトーシス誘導試験
フローサイトメトリー(Annexin V/ PI staining)を用いて試験抗体のアポトーシス誘導能を測定した。陽性コントロール(2B8)、陰性コントロール[Anti-CD3モノクローナル抗体(BD PharMingen社)]を用いた。試験はMEBCYTOApoptosis Kit (MBL, Cat.No.4700, Lot.20)を用いて行った。
Raji細胞を遠心後、10%FBS(非動化済)(ICN, Cat.No.2916754, Lot.8005C)を含む新鮮な培地RPMI1640(Sigma, Cat.No.R8758, Lot.44K2416)で懸濁し、12ウエルプレートの各ウエルに5x105細胞/mlの密度で1mlを入れた。各抗体あたり12ウエルを用い、各抗体を終濃度2μg/ml又は4μg/mlになるよう添加した(3ウエル×2種濃度×2時点、計12ウエル)。培養開始1日後及び2日後に、2x105個程度分の細胞を含む培養液を回収し、遠心後PBSで1回洗浄した。次に85μl Binding bufferを加え懸濁した。さらに、Annexin V-FITC10μlとPI5μlを加えてよく混和した後、遮光、室温で15分間反応させた。フローサイトメトリー(FACS Calibur、Becton Dickinson)を用いて測定し、CellQuest(Becton Dickinson)で解析を行った。
代表的な6クローンが産生するモノクローナル抗体と陽性コントロール(2B8)、陰性コントロール(Anti-CD3)の測定結果を図3a〜図3dに示した。一般に2B8のアポトーシスの誘導能は高いとされるが、1K17シリーズ(CD20/CHOとRaji細胞で免疫)の細胞融合から得られたクローン1k1791、および1K14シリーズ(SB細胞とCD20/CHOで免疫)の細胞融合から得られたクローン1k1422の産生するモノクローナル抗体は2B8との比較において高いアポトーシス誘導がみられた。
【0049】
(b)細胞増殖阻害試験
5×104個/mlのRaji細胞懸濁液を10%FCS添加RPMI1640培地で調製して96ウエルプレートに100μl/ウエルずつ入れて培養した。24時間後、抗体濃度が1μg/mlになるように各抗体溶液を50μl/ウエル添加して培養を継続した。抗体添加72時間後に発色色素Cell Counting Kit-8(同仁化学 Cat.No.343-07623,Lot. SG076)を10μl/ウエル加え、さらに4時間培養した後で波長492nmにおける吸光度を測定した。
上記6クローンのモノクローナル抗体と陽性コントロール(2B8)、および陰性コントロールの吸光度の測定結果を表2に、また、それらの特性を表3に示す。
【0050】
細胞増殖阻害試験
【表2】
【0051】
モノクローナル抗体の特性
【表3】
【0052】
(c)抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)
この実験では抗CD20キメラ抗体のFc部位を介してエフェクター細胞が活性化し、それに伴ってリンパ腫細胞系を溶解する能力について測定を行った。
ヒトB細胞由来のRaji、WiL2−NS、SU−DHL4、RC−K8の4種類の細胞を非働化処理した10%FCS添加RPMI1640に培地(培養培地)で37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で培養、維持した。
実験に際しては、各々の細胞を10%FCS含RPMI1640で洗浄し、37℃中で15分間の反応によりカルセインを生細胞に取り込ませた後、細胞数を4×105個/mlに調整した。カルセインは細胞膜が正常に保たれている細胞にのみ維持されるので生細胞のみを染色することができる。また抗CD20キメラ抗体であるリツキシマブ(C2B8)と6種類のキメラ抗体(1k0924、1k1402、1k1422、1k1712、1k1736、1k1791)を10%FCS含RPMI1640で20μg/ml、4μg/ml、0.8μg/mlに調整した。エフェクター細胞は健常者より採血し、直ちにFicollに重層して遠心しリンパ球画分を採取した後、5×106個/ml、1×106個/ml、0.2×106個/mlに調整した。
濃度調整をした細胞25μl、各抗CD20キメラ抗体溶液25μl(それぞれ終濃度が5μg/ml、1μg/ml、0.2μg/ml)、各抗体濃度においてエフェクター細胞50μl(それぞれE:T比が25:1、5:1、1:1)、計100μlを96穴プレート内で混合し、37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で4時間反応させた。また、自然な細胞の溶解を算出するために抗体溶液およびエフェクター細胞を10%FCS含RPMI1640で置き換えたサンプル、抗体に依存しないエフェクター細胞のみの活性を算出するサンプルとして抗体溶液を10%FCS含RPMI1640で置き換えたサンプル、最大溶解を算出するサンプルとして抗体溶液を20%TritonX−100で置き換えたサンプルを用意した。
反応後、溶解した細胞は細胞膜が壊れてカルセインが細胞外に出るため、Quencherを用いて反応溶液中に遊離したカルセインの蛍光を消失させた後、蛍光アナライザーにより蛍光量を測定した。
検出後、画像解析ソフト(Amersham Bioscience)を使用し、数値化を行った後、以下の式を用いて各サンプルの溶解率を算出した。
【数1】
【0053】
NK細胞などのエフェクター細胞数とターゲットとなる細胞数の割合(E:T比)が25:1のときの各細胞における抗体濃度と細胞傷害活性の関係を図4a〜図4dに示す。また、抗体濃度が5μg/mlのときの各細胞におけるE:T比と細胞傷害活性の関係図5a〜図5dに示す。
図4a〜図4dに示すごとく、E:T比が25:1の条件ではどの細胞でも抗体を加えることにより細胞傷害活性を示している。つまり抗体が細胞傷害に関与している。また、WiL2−NS以外の細胞株では0.2μg/mlの抗体濃度で既に1μg/ml、5μg/mlと同程度の活性を示し(0.2μg/mlで飽和している)、活性は最大値まで達してフラットとなっており、補体依存性細胞傷害活性に必要とされる抗体量よりも少ない抗体量で作用することを示唆している。
図5a〜図5dに示すごとく、抗体濃度が5μg/mlのときの細胞傷害活性のE:T比による影響を見ると、細胞傷害活性がE:T比濃度に依存して上昇しているのがわかる。このことからエフェクター細胞が作用して細胞傷害が起こっていると判断される。
【0054】
(d)補体依存性細胞傷害(CDC)
この実験では抗CD20キメラ抗体が補体を含む血清の存在下でリンパ腫細胞系を溶解する能力について測定を行った。
ヒトB細胞由来のRaji、WiL2−NS、SU−DHL4、RC−K8の4種類の細胞を非働化処理した10%FCS添加RPMI1640に培地(培養培地)で37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で培養、維持した。
実験に際しては各々の細胞を10%FCS含RPMI1640で洗浄し細胞数を2〜3×106個/mlに調整した。また、抗CD20キメラ抗体であるC2B8(リツキシマブ)と6種類のキメラ抗体(1k0924、1k1402、1k1422、1k1712、1k1736、1k1791)を10%FCS含RPMI1640で20μg/ml、4μg/ml、0.8μg/mlに調整した。
濃度調整をした細胞55μl、各抗CD20キメラ抗体溶液25μl(それぞれ終濃度が5μg/ml、1μg/ml、0.2μg/ml)、5人の健常者より採取したプール血清又はそれを非働化したもの20μl、計100μlをボルテックスミキサーにより混合し、37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で2時間反応させた。バックグラウンドの算出サンプルとしては抗体溶液25μlを10%FCS含RPMI1640培地25μlに置き換えたものを用意した。
反応後、PI(ヨウ化プロピジウム)溶液で死細胞を染色し、FACS(Becton Dickinson)により解析を行った。数値は死細胞のポピュレーションをそのまま採用し、バックグラウンド及び非働化血清を加えたサンプルの値を差し引いてある。
各細胞においての抗体濃度と細胞傷害活性の関係を図6a〜図6dに示す。
図6a〜図6dに示すごとく、Raji、WiL2−NS、SU−DHL4では6種類全ての抗体が活性を示している。また、濃度依存性も確認できるが、5μg/mlの濃度で比較すると1k1791は他の抗体に比べて特に高い活性を示し、ついで、1k1736、1k1422、1k1712が高い活性を示している。この濃度ではRaji、WiL2−NSにおいて1k1791は他の抗体のおよそ2倍近い細胞傷害を誘導していることが確認できる。しかしながら、他の抗体もリツキシマブと同程度、もしくはそれ以上の活性を示している。
一方、リツキシマブが効かないとされるRC−K8では、抗体ごとの差異が顕著に現れた。リツキシマブ、1k1402および1k1712ではほとんどもしくは全く活性がない。それに対し、1k1791は非常に高い活性を示し、5μg/mlの濃度では約50%の傷害活性を示している。これに続き、1k0924が25%程度、1k1422、1k1736が10%程度の傷害活性を示している。
以上から、今回試験対象とした6種類のキメラ抗体はリツキシマブと同程度あるいはより強いCDC活性を有していることが確認された。
【実施例3】
【0055】
(1)結合親和性測定
ヒトB細胞株由来のRaji細胞を、RPMI1640に非働化処理した10%FCS添加培地で37℃、CO2濃度5%のCO2インキュベーター内で培養、週2回の継代により維持した。
継代後3〜4日目(約1x106個/ml)の細胞培養液を室温、1000rpmで5分間遠心分離し、細胞を回収後、PBS(−)で懸濁、1000rpmで5分間遠心分離を行い、上清を除く操作を2回行うことで洗浄した。
抗CD20抗体(陽性コントロール抗体:マウス抗体2B8、キメラ抗体及びヒト化抗体C2B8)とRaji細胞を混和し、室温で1時間反応することで1次抗体反応を行った。ここで、抗CD20抗体の各々の終濃度は1.33、2.67、4.00、5.33、6.67、8.00、9.33、10.67、12.00、13.33、14.67、16.00nMの12点とし、細胞数5x106個、1%BSA−PBS溶液を反応溶液とし液量100μlになるよう1.5mlチューブに分注した。同一試験抗体あたり3点のサンプルを準備し、バックグラウンド算出サンプルとして抗体を加えないチューブも4本用意した。
反応後、室温、3000rpmにて3分間遠心分離し、未反応の1次抗体を除き、細胞を回収した。
【0056】
細胞と結合した1次抗体に対して過剰量となるよう1%BSA−PBS溶液で5ug/mlに調製したFITC標識二次抗体を100μlづつ添加し、懸濁後、遮光、室温のもと1時間反応させた。
ここでFITC標識2次抗体はマウス抗体ではGOAT Anti Mouse IgG (H&L)-FITCをキメラ抗体及びヒト化抗体ではGOAT F(ab’) 2F ragment Anti Human IgG (Fcγ)-FITCを用いた。
反応後、室温、3000rpmにて3分間遠心分離し、未反応のFITC標識2次抗体を除き、細胞を回収し、200μlのPBSで懸濁し再度遠心し洗浄を行った。
この細胞を100μlPBSで懸濁し、96ウエル平底プレートへ移した。2次抗体の蛍光量をTyphoon9210イメージアナライザー(Amersham Bioscience)を用いて測定した。
検出後、画像解析ソフトImage Quant (Amersham Bioscience)を使用し、数値化を行った後、Excel (Microsoft)で解析を行った。同一試験抗体の平均値を求め、バックグラウンド算出サンプル(細胞とFITC標識2次抗体のみを反応させたもの)の値を各試験抗体の値から差し引くことで、プレート、PBS溶液および細胞に非特異的に結合したFITC標識2次抗体に由来するバックグラウンド値を除いた。同時に100μl当り、0、12.5、25、50、75、100、125、150ngのFITC標識2次抗体単独の蛍光量を測定することで検量線を作成し、細胞に結合している2次抗体のモル数を求めた。各1次抗体とFITC標識2次抗体が1:5の割合で反応していると仮定し、結合している1次抗体量を算出した。遊離の1次抗体量は添加量から結合量を差し引いて求めた。これらの値を用いて、スキャッチャード解析を行い、解離定数Kd値を得た。
結果を以下の表4に示す。
【0057】
(2)アポトーシス誘導試験
ヒトB細胞株由来細胞に対する抗CD20抗体によるアポトーシス誘導を単独で見る条件(クロスリンク無)及びさらに抗CD20抗体のFc領域を認識する2次抗体を添加することによるアポトーシス誘導を見る条件(クロスリンク有)の2条件で反応し、Annexin V-FITC apoptosis kitを用いて初期アポトーシスの検出を行った。
ヒトB細胞株由来のRaji、WIL2−NS、SU−DHL4、RCK8の4種類の細胞を、RPMI1640に非働化処理した10%FCS添加培地(培養培地)で37℃、CO2濃度5%のCO2インキュベーター内で培養、週2回の継代により維持した。
継代後3〜4日目(約1x106個/ml)の細胞培養液を室温、1000rpmで5分間遠心分離し、細胞を回収した。
抗CD20抗体(陽性コントロール抗体:マウス抗体2B8、キメラ抗体及びヒト化抗体C2B8;陰性コントロール:Anti−CD3モノクローナル抗体)と新鮮な培養培地で懸濁した細胞を混和し、1.5時間37℃、5%CO2インキュベータ内で反応した。ここで、抗CD20抗体各々の終濃度は0.2、1、5μg/mlの3点、細胞密度1x106細胞/ml、培養培地を反応溶液として液量250μlになるよう1.5mlチューブ内で反応を行った。同一試験抗体あたり3点のサンプルを準備した。
反応後、室温、1200rpmにて3分間遠心分離し、未反応の抗体を除き、細胞を回収した。
クロスリンク無の条件では新鮮な培養培地、クロスリンク有条件では抗CD20抗体の5倍量のFc領域を認識する2次抗体を250μlづつ添加し、混和後、さらに3時間、37℃、5%CO2インキュベータ内で反応した。ここで2次抗体はマウス抗体ではGoat Anti mouse IgG, FcγFragmentを、キメラ抗体及びヒト化抗体ではGoat Anti human IgG, FcγFragment specificを用いた。
反応後、室温、1200rpmにて3分間遠心分離し、未反応の2次抗体を除き、細胞を回収した。250μlのPBSで懸濁し再度遠心し洗浄を行った
検出試薬としてMEBCYTO apoptosis kit-AnnexinV-FITC ,PI- (MBL, Cat.No.4700, Lot. 21)を使用した。85μlのBinding bufferを加え懸濁した後、Annexin V-FITC 5μlとpropidium iodide (PI)5μl(終濃度0.5mg/ml)を加えてよく混和し、遮光、室温で15分間反応させた。
フローサイトメトリー(EPICS ALTRA :BECKMAN COULTER)を用いてtotal count20,000の細胞を測定し、解析(Expo32: BECKMAN COULTER)を行った。
結果を図7a〜図9dに示す。
【0058】
(3)ヒト化抗体産生株の調製
(a)DNA合成
配列番号17〜24のアミノ酸配列を元にしてコドンをCHO細胞に最適化したDNAを、定法によりデザインし、合成した。
(b)コンストラクトの作成
pNOWを発現ベクターとして16種類のヒト化1K1791発現コンストラクトを構築した。
ヒト化1K1791発現コンストラクトを作製した。
pNOW-aa1791kg1、pNOW-af1791kg1、pNOW-as1791kg1、pNOW-av1791kg1、pNOW-fa1791kg1、pNOW-ff1791kg1、pNOW-fs1791kg1、pNOW-fv1791kg1、pNOW-sa1791kg1、pNOW-sf1791kg1、pNOW-ss1791kg1、pNOW-sv1791kg1、pNOW-va1791kg1、pNOW-vf1791kg1、pNOW-vs1791kg1、pNOW-vv1791kg1
(c)トランスフェクションと薬剤による選択
トランスフェクション試薬を用いてヒト化1K1791発現コンストラクトをCHO DG44cdB細胞に導入した。それぞれの遺伝子を導入したCHO DG44cdB細胞1×106個を100mlの選択培地に懸濁し、96ウエルプレート5枚に撒いた(200μl/ウエル)。5%炭酸ガス存在下に37℃、3〜4週間培養した。
トランスフェクション試薬:Qiagen, Effectene Transfection Reagent, Cat. No 301427
選択培地:IS CHO-CD w/Hydrolysate/4mM GlutaMAX/0.8 mg/ml G418
(d)高発現細胞株の選択
1)コロニーが出現しているウエルの上清をとり、ドット・プロット・アッセイ(Dot Blot assay)で抗体産生量を測定した。
2)抗体産生量の多いクローンを24ウエルプレートに移し、約5日間培養後、上清をとり、サンドイッチELISAで抗体産生量を測定した。
3)発現量が多いクローンを2つ選択し、T75フラスコに移した。
(e)小規模培養
16種類のコンストラクトそれぞれに対して選択した2種のクローンを30mlの選択培地を含むT75フラスコ中で培養を行った。
【0059】
(4)ヒト化抗体産生株の培養及び精製
抗体産生細胞株(遺伝子組み換えCHO−DG44細胞)を、Hydrolysateを含むIS CHO-CD/with Hydrolysate (Irvine Scientific, Cat. No.91119)に、4mM GlutaMax(Invitrogen, Cat 35050-061)、200μg/mlG418 (Sigma,Cat.No.A1720-5G)を添加した培地で37℃、CO2濃度5%のCO2インキュベーター内で培養、週2回の継代により維持した。
継代後約2週間経過した細胞培養液を室温、3500rpmで5分間遠心分離し、培養上清を回収し、0.45μm syringe filterで濾過した。50mM Tris−HCl、pH7.0で平衡化した
Hi Trap Protein A HP(GE Healthcare, Cat No. 17-0402-01)カラムに、培養上清を添加後、50mM Tris−HCl、pH7.0で洗浄した。0.1Mクエン酸、pH4.0で溶出し、400μlづつ採取し、その10/1量にあたる40μl 1M Tris−HCl、pH9.0で中和した。100倍量のPBSに対して、M.W.3500透析カップ(Bio-Tech Cat. No.212932)を用いて2.5時間を2回後、15〜18時間1回の透析を行った。
【0060】
使用した抗体生産株は、CHO細胞hz1791-fv10、hz1791-ff34、hz1791-sf43およびhz1791-ss32であり、これらは、ブタペスト条約の下、平成18年(2006年)3月1日より、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに、各々、FERM BP−10543、FERM BP−10544、FERM BP−10545およびFERM BP−10546の受託番号で寄託してある。
これらの細胞株から得られたヒト化抗CD20モノクローナル抗体のH鎖V領域およびL鎖V領域のアミノ酸配列(配列番号17〜24)は以下のとおりである(アンダーライン部分が対応するマウス抗体と異なる)。
ヒト化1k1791の配列
L鎖V領域配列(配列番号20)
Ven 1791 :STVMTQSPDSLAVSLGERVTINC KASQSVSNDVA WYQQKPGQSPKVLIY FASNRYT GVPDRFSGSGYGTDFTFTISSVQAEDVAVYFC QQDYSSPLT FGAGTKLELK
H鎖V領域配列(配列番号24)
Ven 1791:QIQLVQSGPELKKPGASVKISCKASGYTFT NFGVN WVKQAPGKGLKWMG WINTYTGEPSYADDFKG RFAFSLDASVSTAY LQISSLKAEDTSTYFCTR RTNYYGTSYYYAMDY WGQGTTVTVSS
L鎖V領域配列(配列番号17)
abb 1791 :STVMTQSPDSLAVSLGERATINC KSSQSVSNDVA WYQQKPGQSPKVLIY FASNRYS GVPDRFSGSGYGTDFTLTISSLQAEDVAVYFC QQDYSSPLT FGAGTKLEIK
H鎖V領域配列(配列番号21)
abb 1791:QIQLVQSGSELKKPGASVKVSCKASGYTFT NFGVN WVRQAPGKGLEWMG WINTYTGEPSYAQGFTG RFVFSLDASVSTAY LQISSLKAEDTATYFCTR RTNYYGTSYYYAMDY WGQGTTVTVSS
L鎖V領域配列(配列番号19)
sdr 1791 : STVMTQSPDSLAVSLGERATINC KSSQSNSNDVA WYQQKPGQSPKVLIY FASNRYS GVPDRFSGSGYGTDFTLTISSLQAEDVAVYFC QQDYSSPLT FGAGTKLEIK
H鎖V領域配列(配列番号23)
sdr 1791:QIQLVQSGSELKKPGASVKVSCKASGYTFT NFGVN WVRQAPGKGLKWMG WINTYTGEPSYAQGFTG RFAFSLDASVSTAY LQISSLKAEDTATYFCTR RTNYYGTSYYYAMDY WGQGTTVTVSS
L鎖V領域配列(配列番号18)
fra 1791 : STVMTQSPSFLSASVGDRVTITC KASQSVSNDVA WYQQKPGQSPKVLIY FASNRYT GVPDRFSGSGYGTDFTLTISSLQAEDVAVYFC QQDYSSPLT FGAGTKLEIK
H鎖V領域配列(配列番号22)
fra 1791:QIQLVQSGSELKKPGASVKVSCKASGYTFT NFGVN WVKQAPGKGLKWMG WINTYTGEPSYADDFKG RFAFSLDASASTAY LQISSLKAEDMATYFCTR RTNYYGTSYYYAMDY WGQGTTVTVSS
【0061】
この実験では、AbbL、FraL、SdrL、VenLの4種類 × AbbH、FraH、SdrH、VenHの4種類を組み合わせた合計16種類の配列組合せから各2クローンずつについて実験を行ない平均値を求めた。以上の結果より、Kd値を基に表4に示すように4グループに分類できる。それぞれのグループより1種類を選抜し以降の実験で使用した。
コントロール:c2B8
グループI: Kd = 20 nM<
グループII: Kd = 10−20 nM
グループIII: Kd = 8-10 nM
グループIV: Kd = <8 nM
【0062】
表4 ヒト化抗体結合解離定数
【表4】
【0063】
表5 ヒト化抗体結合解離定数
【表5】
【0064】
さらに、マウス抗体8種類でのアポトーシス実験結果を図7a〜図7dに示す。4種類全ての細胞においてマウス抗体8種類および既知のCD20抗体2B8、2H7について2つのタイプに分けることができた(但し一部例外を除く)。
グループA:m0924 , m1422 , m1791 , m2B8
グループB:m1228 , m1402 , m1712 , m1736 , m1782 , m2H7
(但し、m0924はSU−DHL4細胞ではグループBに含まれる)
すなわち、抗CD20抗体単独で十分なアポトーシス誘導能が示され、2次抗体によるクロスリンク条件下でもほぼ同程度であるグループAと抗CD20抗体単独でのアポトーシス誘導能は十分に示されないがクロスリンク条件下で大きく増加するグループBである。またグループAに含まれる抗体は親和性が2B8と同程度であり、グループBに含まれる抗体は2B8より高い親和性であるものが含まれる。アポトーシス誘導に2次抗体の存在を必要とせず、単体でアポトーシス誘導が可能なグループAの方が医薬としては都合よいといえる。
細胞別にみるとアポトーシスの割合がRAJI、WIL2−NS、RCK8では高いものでも30〜40%であるのに対し、SU−DHL4では高いもので80%以上を示す結果となった。
【0065】
ヒト化抗体4種類での結果を図8a〜図9dに示す。
マウス抗体同様、4種類全ての細胞においてヒト化1791抗体4種類について2つのタイプに分けることができた。
グループA:fv, ff
グループB:sf, ss, C2B8
C2B8と同等の親和性を示すグループAのfv、ff抗体はクロスリンク無しではアポトーシス活性をほとんど発揮せず、クロスリンク条件下で明らかに活性を持つ。グループBのsf、ss抗体はグループAの抗体より、解離定数が大きく親和性は弱いが、これらの抗体単独でC2B8より高いアポトーシス活性を示した。
抗CD20抗体によるB細胞に対するアポトーシス誘導能について、単独で十分なアポトーシス誘導能を示す場合、クロスリンク条件下でもその割合はほぼ同等であるが、抗体の種類、未飽和条件などで抗CD20抗体単独では十分なアポトーシス誘導能が示されない場合、クロスリンク条件下でアポトーシス活性は増加すると考えられる。
なお、図9a〜図9dは、実験日の抗体を加えない条件での早期アポトーシス(%)を1とするグラフである。
【実施例4】
【0066】
ヒト化抗体の結合解離定数(Kd値)と細胞増殖阻害活性との関連性
実施例3でヒト化抗体をグループAとグループBに分けた結果をふまえて、表5に示す各hz1791クローンについて、ヒトCD20抗原に対するKd値(nM)とアポトーシス誘導活性(%)およびCDC活性(%)との関係を調べた。Kd値の測定は実施例2に記載のごとく行った。CDC活性の測定は実施例2に記載のごとく行った(ただし、抗体量とCDC活性の関係を調べる実験においては後述のごとく抗体を生成したものを用いた)。ADCC活性の測定は実施例2に記載のごとく行った。アポトーシス活性の測定は実施例3に記載のごとく行った。使用したB細胞はRaji、SU−DHL4、WiL−2、およびRCK8であった。それぞれの細胞につき、4種のクローンfv、ff、sf、およびssに関するデータを図10a〜図10dに示す。
【0067】
アポトーシス活性に関しては、いずれの細胞を用いて試験した場合においても同様の傾向が見られた。すなわち、親和性が高い(Kd値が小さい)抗体ほどアポトーシス誘導活性が低く、親和性が低い(Kd値が大きい)抗体ほどアポトーシス誘導活性が高いことがわかった。また、Kd値が約13nMを超えると、アポトーシス活性は一定となる傾向を示した。親和性が高い抗体は、それ自体ではアポトーシス活性を発揮できず、アポトーシスの誘導には二次抗体によるクロスリンクが必要であった。そして、親和性が低い抗体は、それ自身でアポトーシス誘導活性を発揮することがわかった。
【0068】
CDC活性に関しては、Raji細胞およびSU−DHL4細胞を用いた場合には、親和性が高い(Kd値が小さい)抗体ほどCDC活性が高い傾向がみられた。一方、WiL−2細胞およびRCK8細胞を用いた場合には、Kd値が13nM付近に極大値を有する傾向が見られた。
【0069】
これらの知見から、医薬品として有効な候補抗体を見出すことができる、2つの選抜基準を設定した:
−単独ではアポトーシスを誘導しないが、CD20抗原に対する親和性が極めて高く、CDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体;
−単独でアポトーシス誘導活性を持ち、アポトーシスとCDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体のうち、CD20抗原に対する親和性が高いもの。
【0070】
前者の選抜基準では、CD20抗原に対する親和性が高く、かつCDC活性も高いものを選抜することが好ましい(Kd値が低いほどCDC活性が高い傾向が見られる)。この場合、単独ではアポトーシスを誘導しない抗体の選抜なので、CDC活性の値のみに注目してよい。前者の選抜基準を満たすクローンの場合には、単独でアポトーシス誘導は引き起こさないが、親和性およびCDC活性か極めて高いことから、細胞枯渇を促すことができる。
【0071】
後者の選抜基準では、抗体のアポトーシスとCDCの総和が大きく、かつ、CD20抗原に対する親和性が高いものを選抜することが好ましい。したがって、後者の選抜基準を満たすクローンの場合には、親和性は高くないが、アポトーシス活性が高いという利点を有し、アポトーシス誘導とCDCの相乗効果により細胞枯渇を促すことができる。
【0072】
さらに、上の2つの選抜基準の境界点を決定するために、4種の細胞のアポトーシス活性の中点を与えるKd値を作図により求めた(図10a〜図10dのグラフ中に点線で示す)。これら4つのグラフから、アポトーシス活性の中点を与えるKd値に大きな相違はなく、Raji細胞の場合には約9.5nM、SU−DHL4細胞の場合には約8.5nM、WiL2細胞の場合には約9.5nM、RCK8細胞の場合には約10nMであった。これらの結果から、約9.5nMのKd値を上の2つの選抜基準の境界点とした。
また、後者の選別基準のKd値の上限は、WiL2細胞およびRCK8細胞の場合にCDC活性の極大値が見られることを考慮して(図10cおよび図10d)、アポトーシス活性とCDC活性の総和ができるだけ大きく、しかも親和性が高い(Kd値が小さい)範囲ということから、Kd値の上限を約13nMとした。
【0073】
したがって、前者の選抜基準に従って、ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nM未満であって、できるだけKd値が低く、かつ、CDC活性の高い抗体を選抜すると、クローンffとfvが該当する(図10a、図10b)。また、後者の選抜基準に従って、ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMないし約13nMであって、できるだけアポトーシス活性とCDC活性の総和が大きく、かつ、Kd値が小さい抗体を選抜すると、クローンsfが該当する(図10c、図10d)。
【0074】
次に、上記4種のヒト化クローンからfv、ff、sf、およびssを選択し、Raji、SU−DHL4、WiL−2、およびRCK8細胞を用いてCDC活性およびアポトーシス活性を測定した。結果を、それぞれ表6および表7に示す。リツキシマブ(c2B8)およびクローン1791(c1791)は、それぞれ対照である。
【0075】
表6 本発明のヒト化抗体のCDC活性
【表6】
【0076】
表6の結果から、クローンffおよびfvは、リツキシマブと同程度あるいはそれよりも強いCDC活性を発揮することがわかった。また、sfはWiL2細胞およびRCK8細胞において極めて高いCDC活性を示した。
【0077】
抗体濃度とCDC活性の関係を調べるための実験も行った。抗体は実施例2に記載のごとく調製したものよりも精製が進んだものを使用した。精製は下記の手順にて行った。
抗体産生細胞株(遺伝子組み換えCHO−DG44細胞)はHydrolysateを含むIS CHO-CD/w(Irvine Scientific, Cat. No.91119)に、4mM GlutaMax(Invitrogen, Cat 35050-061)、200μg/ml G418(Sigma,Cat.No.A1720-5G)を添加した培地で37℃でCO2濃度5%のCO2インキュベーター内で培養、週2回の継代により維持した。継代後約2週間経過した細胞培養液を室温、3500r.p.m.で5分間遠心分離し、培養上清を回収し、0.45μmシリンジフィルターで濾過した。50mM Tris-HCl,pH7.0で平衡化した。Hi Trap Protein A HP(GE Healthcare, Cat No. 17-0402-01)カラムに、培養上清を添加後、50mM Tris-HCl,pH7.0で洗浄した。0.1Mクエン酸,pH4.0で溶出し、400μlづつ採取し、その10/1量にあたる40μl 1M Tris-HCl,pH9.0で中和した。100倍量のPBSに対して、Slyde-A-Lyzer 10K Dialysis Cassetes(PIERCE CatNo.66453)を用いて2.5時間を2回後、15〜18時間1回の透析を行った。
透析後のサンプルをVIVA SPIN 50,000MWCO PES(VIVASCIENCE CatNo.VS0231)を用いて濃縮した。このサンプルをPBSで平衡化したHiLoad 16/60 superdex 200prep grade(GE Healthcare CatNo.17-1069-01)カラムに添加した。精製サンプルを0.22μmシリンジフィルターで濾過した後、VIVA SPIN 50,000MWCO PES(VIVASCIENCE CatNo. VS0231)を用いて濃縮を行った。抗体濃度はBECKMAN COULTER DU530を用いてA280の値より算出した。
【0078】
Raji、SU−DHL4、WiL−2、およびRCK8細胞に対するヒト化抗体fv、ff、sf、ss、およびキメラ抗体c1k179の、濃度とCDC活性の関係を図11a〜図11dに示す。いずれの実験系においても、濃度5μg/ml以上においてヒト化抗体fv、ff、sf、およびssのCDC活性はリツキサン(C2B8)の活性と同程度であるかあるいはそれを上回っていた。
【0079】
Raji細胞(浮遊細胞)に対するKd値が約9.5nM未満であって、しかもCDC活性の高い抗体として選別されたクローンfvおよびff(CDC活性が期待されるクローン)は、濃度5μg/ml以上においていずれの細胞に対してもリツキシマブよりも高いCDC活性を示し、特にSU−LDHL4細胞に対するCDC活性が高く、Raji細胞およびRCK8細胞に対してもCDC活性が高いことがわかった。
【0080】
Raji細胞(浮遊細胞)に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、できるだけアポトーシス活性とCDC活性の総和が大きく、かつ、Kd値が小さい抗体として選別されたクローンsf(CDC活性とアポトーシスの両方が期待される)は、濃度5μg/ml以上においていずれの細胞に対してもリツキシマブと同程度または高い細胞溶解活性を示し、特にSU−LDHL4細胞に対する溶解活性が高く、Wil2細胞およびRCK8細胞に対する溶解活性が他の抗体よりも高いことがわかった。
【0081】
Raji、SU−DHL4、WiL−2、およびRCK8細胞に対するfv、ff、sf、およびssのアポトーシス活性についても調べた。表7に結果を示す。
【0082】
表7 本発明のヒト化抗体のアポトーシス活性
【表7】
【0083】
表7の結果から、クローンsfは、リツキシマブと同程度あるいはそれよりも強いアポトーシス誘導活性を有すること、アポトーシス誘導に二次抗体を必要とせず、単独で十分なアポトーシス活性を発揮することがわかった。さらに、クローンsfのアポトーシス活性とCDC活性の総和も、試験したすべての細胞においてリツキシマブを上回っており、特にWiL2細胞およびSU−DHL4細胞において大きな値であった(表6、図11a〜図11d、および表7参照)。
【0084】
Raji、SU−DHL4、WiL−2、およびRCK8細胞に対するfv、ff、sf、およびssのADCC活性についても調べた。抗体濃度とADCCとの関係を調べた結果を図12a〜図12dに示す(E:T比は25)。E:T比とADCCとの関係を調べた結果を図13a〜図13dに示す(抗体濃度は1μg/ml)。いずれの実験系においても、fv、ff、sf、およびssのADCC活性はリツキサン(C2B8)の活性と同程度であるかあるいはそれを上回っていた。ADCC活性の結果からも、この実験で選抜されたfv、ff、sf、およびssの有効性が示された。
【0085】
これらの結果から、上記のようにして選別された本発明のヒト化モノクローナル抗体はいずれもリツキサンの細胞溶解活性を上回る高い細胞溶解活性を示すことがわかった。したがって、本発明の選抜基準により選抜されたヒト化抗体は、医薬として十分に使用可能なB細胞関連疾患治療効果を有するものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、自然の状態のヒトCD20分子に対する結合親和性の高い、医薬として好適な生物学的活性を示すヒト化抗ヒトCD20モノクローナル抗体、ならびにその選抜方法が提供され、医薬として十分に使用可能なB細胞関連疾患治療効果を有するものを得ることができる。
【受託番号】
【0087】
CHO細胞hz1791-fv10、hz1791-ff34、hz1791-sf43およびhz1791-ss32は、ブタペスト条約の下、平成18年(2006年)3月1日より、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに、各々、FERM BP−10543、FERM BP−10544、FERM BP−10545およびFERM BP−10546の受託番号で寄託してある。
【配列表フリーテキスト】
【0088】
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SEQ ID NO: 25: primer
SEQ ID NO: 26: primer
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CD20モノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
CD20はヒトBリンパ細胞表面に発現している糖鎖不含タンパク質で、末梢血、脾臓、扁桃、骨髄中の正常B細胞に加えて、多くの悪性腫瘍B細胞に発現している。CD20のモノクローナル抗体が結合するエピトープは多様性が非常に高く、多様な生物学的応答が報告され、また、CD20を認識するモノクローナル抗体が多数報告されている。とりわけ、リツキシマブ(rituximab)は、ヒトB細胞であるSB細胞株を免疫して得られるマウス抗体2B8から由来するキメラマウス/ヒトモノクローナル抗体(C2B8)であり(特許文献1および2参照)、登録商標リツキサン(Rituxan)の名称で低悪性度非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療薬として実用化されている。さらにその後、リツキサンはB細胞が関与する多くの免疫疾患に対して有効であること、例えば、慢性リンパ性白血病(CLL)などの悪性腫瘍、自己免疫溶血性貧血症、特発性血小板減少症紫斑病(ITP)などの病原性自己抗体が関与している自己免疫疾患、関節リウマチ(RA)や多発性硬化症(MS)のような炎症性疾患に対して有効であることが報告されている(非特許文献1〜4参照)。
リンパ系B細胞に結合したリツキシマブにヒト補体が結合し、補体依存性細胞障害(CDC)によりリンパ系B細胞系を溶解することが報告されており(非特許文献5参照)、またリツキシマブは抗体依存性細胞障害(ADCC)のアッセイでは活性を示し、トリチウム化チミジン導入アッセイでは抗増殖効果と、アポトーシス誘発が報告されている(非特許文献6参照)。
一方、異種動物とのキメラ分子は抗原性を有するため治療薬として一般には好まれないが、リツキシマブを含め、抗CD20抗体は正常細胞を含む全てのB細胞を標的し除去する性質を有するため抗原性はないと考えられた。しかし、数パーセントではあるが治療期間中に中和抗体を誘起する事例が報告されていること、投与する量や期間によってはさらにその可能性が高まることや、治療対象疾患がB細胞リンパ腫から、RA、IT、MSに拡大していくなかで抗原性の問題がクローズアップされ、最近、よりヒトに近い配列を有するヒト化抗体またはヒト抗体が要望されるようになっている。
さらに、キメラ抗体は、血中半減期が比較的短い問題を有し、リツキシマブを含めマウス/ヒトのキメラ抗体のベータ半減期(β1/2)は3〜4日に過ぎず、リツキシマブの低悪性度NHLに対する臨床試験の奏効率は50%弱であったことが報告されている(非特許文献7参照)。また、リツキシマブのCD20抗原に対する解離定数(Kd値)は5.2nMであり、結合親和性があまり高くなく、NHL治療において投与量が多くなる問題もある(非特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第94/11026号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5736137号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Coiffier B et al., Blood 1998; 92:1297-32
【非特許文献2】Edward JC et al., Rheumatology (Oxford) 2001; 40:205-11
【非特許文献3】Zaja F et al., Heamatologica 2002; 87:189-95
【非特許文献4】Perrotta S et al., Br J Haematol 2002; 116:465-7
【非特許文献5】Reff et al., Blood 1994; 83: 435-445
【非特許文献6】Maloney et al., Blood 1996; 88: 637a
【非特許文献7】IDEC Pharmaceuticals Corporation News Release, December 8, 1998
【非特許文献8】Mitchell ER et al., Blood 1994; 82:435-445
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような事情に鑑み、本発明は、医薬としてさらに適した生物学的活性を示す抗CD20モノクローナル抗体を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため、自然の状態のヒトCD20分子に対する結合親和性の高いモノクローナル抗体を作製し、優れた機能を有する抗CD20モノクローナル抗体を得るべく鋭意研究を重ねた。その結果、免疫原としてCD20抗原が高密度とされるB細胞株であるSB細胞やRaji細胞と、遺伝子組換により細胞膜上にCD20を多量に発現させた非ヒト動物細胞を組み合わせて用いることにより、高親和性のモノクローナル抗体であって、優れた生物学活性を示すものが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
さらに本発明者らは、有効な抗ヒトCD20ヒト化抗体の新たな選抜方法を見出すことに成功した。この選抜方法を用いることにより、本発明のヒト化抗CD20モノクローナル抗体のなかから医薬品として有効に使用できるものを選抜することができた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する:
(1)ヒトCD20抗原を発現しているヒトB細胞株と、ヒトCD20のDNAで形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細胞株とを免疫原とするヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有する、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、下記選抜基準:
(i)ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が約9.5nM未満であって、B細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体
を満たすヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(2)ヒトCD20抗原を発現しているヒトB細胞株と、ヒトCD20のDNAで形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細胞株とを免疫原とするヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有する、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、下記選抜基準:
(a)ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が約9.5nM未満であって、Raji細胞(浮遊細胞)またはSU−DHL4細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体
を満たすヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(3)ヒトCD20抗原を発現しているヒトB細胞株と、ヒトCD20のDNAで形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細胞株とを免疫原とするヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有する、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、下記選抜基準:
(ii)ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、B細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体
を満たすヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(4)ヒトCD20抗原を発現しているヒトB細胞株と、ヒトCD20のDNAで形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細胞株とを免疫原とするヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有する、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、下記選抜基準:
(b)ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、WiL2細胞またはRCK8細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体
を満たすヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(5)配列番号18のL鎖と配列番号22のH鎖を組み合わせた(1)または(2)記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(6)配列番号18のL鎖と配列番号24のH鎖を組み合わせた(1)または(2)記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体、
(7)配列番号19のL鎖と配列番号22のH鎖を組み合わせた(3)または(4)記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体、ならびに
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体を有効成分として含むB細胞関連疾患治療剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、CD20抗原の細胞外エピトープに対して強い結合親和性を示し、かつCDCなどの細胞傷害活性が高いヒト化抗CD20モノクローナル抗体が得られ、これらの抗体は、B細胞が関与する疾患の治療剤として極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】組換抗体発現用ベクターpNOW-Abの構造を示す制限地図である。
【図2】タンパク発現用ベクターpNOWの構造を示す制限地図である。
【図3a】アポトーシス試験の結果を示すグラフである。
【図3b】アポトーシス試験の結果を示すグラフである。
【図3c】アポトーシス試験の結果を示すグラフである。
【図3d】アポトーシス試験の結果を示すグラフである。
【図4a】抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。
【図4b】抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。
【図4c】抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。
【図4d】抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。
【図5a】E:T比とADCCの関係を示すグラフである。
【図5b】E:T比とADCCの関係を示すグラフである。
【図5c】E:T比とADCCの関係を示すグラフである。
【図5d】E:T比とADCCの関係を示すグラフである。
【図6a】CDC試験の結果を示すグラフである。
【図6b】CDC試験の結果を示すグラフである。
【図6c】CDC試験の結果を示すグラフである。
【図6d】CDC試験の結果を示すグラフである。
【図7a】マウス抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図7b】マウス抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図7c】マウス抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図7d】マウス抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図8a】ヒト化抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図8b】ヒト化抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図8c】ヒト化抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図8d】ヒト化抗体でのアポトーシス実験結果を示すグラフである。
【図9a】ヒト化抗体での早期アポトーシスに対する割合を示すグラフである。
【図9b】ヒト化抗体での早期アポトーシスに対する割合を示すグラフである。
【図9c】ヒト化抗体での早期アポトーシスに対する割合を示すグラフである。
【図9d】ヒト化抗体での早期アポトーシスに対する割合を示すグラフである。
【図10a】ヒト化抗体の解離定数および細胞障害活性(アポトーシス誘導活性およびCDC活性)の関係を示すグラフである。使用細胞はRaji細胞である。白四角はCDC活性(%)、黒丸はアポトーシス活性(%)を示す。
【図10b】ヒト化抗体の解離定数および細胞障害活性(アポトーシス誘導活性およびCDC活性)の関係を示すグラフである。使用細胞はSU−DHL4細胞である。白四角はCDC活性(%)、黒丸はアポトーシス活性(%)を示す。
【図10c】ヒト化抗体の解離定数および細胞障害活性(アポトーシス誘導活性およびCDC活性)の関係を示すグラフである。使用細胞はWiL2細胞である。白四角はCDC活性(%)、黒丸はアポトーシス活性(%)を示す。
【図10d】ヒト化抗体の解離定数および細胞障害活性(アポトーシス誘導活性およびCDC活性)の関係を示すグラフである。使用細胞はRC−K8である。白四角はCDC活性(%)、黒丸はアポトーシス活性(%)を示す。
【図11a】ヒト化抗体およびキメラ抗体のCDC活性を示すグラフである。使用細胞はRaji細胞である。
【図11b】ヒト化抗体およびキメラ抗体のCDC活性を示すグラフである。使用細胞はSU−DHL4細胞である。
【図11c】ヒト化抗体およびキメラ抗体のCDC活性を示すグラフである。使用細胞はWiL2細胞である。
【図11d】ヒト化抗体およびキメラ抗体のCDC活性を示すグラフである。使用細胞はRC−K8である。
【図12a】ヒト化抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はRaji細胞である。
【図12b】ヒト化抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はSU−DHL4細胞である。
【図12c】ヒト化抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はWiL2細胞である。
【図12d】ヒト化抗体濃度とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はRC−K8細胞である。
【図13a】ヒト化抗体のE:T比とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はRaji細胞である。
【図13b】ヒト化抗体のE:T比とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はSU−DHL4細胞である。
【図13c】ヒト化抗体のE:T比とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はWiL2細胞である。
【図13d】ヒト化抗体のE:T比とADCCの関係を示すグラフである。使用細胞はRC−K8細胞である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書および図面において用いる略号を以下に示す。
Pcmv: サイトメガロウイルスプロモーター
PAbgh: ウシ成長ホルモン遺伝子ポリA付加シグナル
Psvd: エンハンサーを欠失させたシミアンウイルス40プロモーター
DHFR: マウスジヒドロ葉酸還元酵素cDNA
PAsv: シミアンウイルス40ポリA付加シグナル
PBR322ori: 大腸菌中での複製起点
Ampr: 大腸菌中での選択マーカー(アンピシリン耐性)
Neor: 哺乳動物細胞中での選択マーカー(G418耐性)
INrbg: ウサギβグロビンイントロン
SPl: 抗体軽鎖シグナルペプチド
VL: 抗体軽鎖可変領域cDNA
Cκ: 抗体κ軽鎖定常領域cDNA
SPh: 抗体軽鎖シグナルペプチド
Vh: 抗体軽鎖可変領域cDNA
Cγ1: 抗体γ1重鎖定常領域cDNA
【0012】
本明細書において、「抗体」には、抗体全体のみならず、抗体全体と同等の、抗原に対する結合親和性を示すフラグメント、例えば、元の抗体全体の可変領域を含むフラグメント(例、Fab、F(ab’)2など)も包含する。
本発明のモノクローナル抗体は、ヒトCD20抗原に対し高い親和性を有し、かつ、優れた生物学的活性を示すモノクローナル抗体であり、マウス由来のモノクローナル抗体、そのキメラ化、ヒト化抗体を包含する。
その好ましい第1の態様は、ヒトCD20抗原を有する細胞に対して増殖阻害活性を有し、ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が、リツキシマブの由来するマウス抗体である2B8の1/2以下の、好ましくは1.70〜3.39nMの、ヒトCD20抗原に対して高い親和性を有するモノクローナル抗体である。
解離定数(Kd値)の測定方法は、細胞上に発現する抗原に対するKd値を測定できる方法であれば特に限定するものではないが、本明細書においては、後の実施例に記載する方法による解離定数とする。
【0013】
ヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性は2B8よりも大きいことが好ましい。増殖阻害活性は、好ましくは、末梢血単核細胞非存在下でのヒトCD20抗原を有する細胞のin vitro培養に対する増殖阻害活性であり、さらに好ましくは、増殖阻害活性はアポトーシス誘導によるものである。抗CD20抗体のうちいくつかの抗体では、CD20への結合に伴いB細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)濃度を上昇させSrcキナーゼが関与するアポトーシスを誘導することが報告されている。
上記の増殖阻害活性の測定は、例えば、Miyamoto T, Min W, Lillehoj HS.Avian Dis. 2002 Jan-Mar;46(1):10-6に記載の方法により測定できる。
【0014】
本発明の第1の態様のモノクローナル抗体の具体的な例としては、L鎖可変領域アミノ酸配列とH鎖可変領域アミノ酸配列がそれぞれ配列番号1及び9、配列番号2及び10、又は、配列番号3及び11であるマウスを由来とするモノクローナル抗体と、それらの抗体をキメラ化又はヒト化したものが挙げられる。
キメラ化は、例えば、Ishida T, Imai K, Nippon Rinsho Vol 60, No 3, 2002-3:439-444に記載されるような公知の方法に従って、マウス由来モノクローナル抗体の可変領域アミノ酸配列とヒトイムノグロブリン定常領域アミノ酸配列を融合させることにより行うことができる。
ヒト化は、例えば、上記Ishida T, Imai K, Nippon Rinsho Vol 60, No 3, 2002-3:439-444や、Eduardo A.Padlan, Molecular Immunology, Vol. 28-4/5, pp489-498, 1991; Eduardo A.Padlan et.al., The FASEB Journal,vol.9, pp133-139;およびTai te Wu, Elvin A. Kabat, Molecular Immunology, Vol.29-9, pp1141-1146, 1992に記載されるような公知の方法に従って、マウス由来モノクローナル抗体の可変領域CDRアミノ酸配列とヒトイムノグロブリンのアミノ酸配列を用いて行うことができる。
キメラ化又はヒト化を行う場合には、複数のマウスモノクローナル抗体のL鎖可変領域のアミノ酸配列と、H鎖可変領域のアミノ酸配列を任意に組み合わせてもよい。例えば、配列番号1〜3のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化したL鎖と配列番号9〜11のマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化したH鎖を組み合わせたキメラ抗CD20モノクローナル抗体、配列番号1〜3のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域CDRのアミノ酸配列をヒト化したL鎖と配列番号9〜11のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域CDR配列をヒト化したH鎖を組み合わせたヒト化抗CD20モノクローナル抗体が挙げられる。
【0015】
本発明の好ましい第2の態様の抗体は、ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が2B8の1/8以下であるマウス由来モノクローナル抗体をキメラ化またはヒト化したモノクローナル抗体である。
ヒトCD20抗原に対し高い親和性を有する抗体で、特にヒトIgG1又はIgG3、又はそれらを改変したヒトFc配列を有する抗体(マウス由来モノクローナル抗体をキメラ化又はヒト化したものを含む)は、細胞表面上のCD20に結合した場合、NK細胞上のFcγRIII(CD16)を介したエフェクター細胞の活性化を誘発し、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)を起こすことがよく知られている。また、ヒトCD20抗原に対し高い親和性を有する抗体で、特にヒトIgG又はIgM、又はそれらを改変したヒトFc配列を有する抗体(マウス由来モノクローナル抗体をキメラ化又はヒト化したものを含む)は、細胞表面上のCD20に結合した場合、補体の活性化を誘発し、補体依存性細胞傷害(CDC)を起こすこともよく知られている。
かくして、本発明の第2の態様の抗体は、ADCC又はCDCを示すことが期待できる。
第2の態様の抗体の具体的な例としては、L鎖可変領域アミノ酸配列とH鎖可変領域アミノ酸配列がそれぞれ配列番号4及び12、配列番号5及び13、配列番号6及び14、配列番号7及び15、又は、配列番号8及び16であるものが挙げられる。
キメラ化又はヒト化は、第1の態様の抗体と同様に行うことができ、その場合、複数のマウスモノクローナル抗体のL鎖可変領域のアミノ酸配列と、H鎖可変領域のアミノ酸配列を任意に組み合わせてもよい。例えば、配列番号4〜8のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化したL鎖と配列番号12〜16のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化したH鎖を組み合わせたキメラ抗CD20モノクローナル抗体、配列番号4〜8のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域CDRのアミノ酸配列をヒト化したL鎖と配列番号12〜16のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域CDR配列をヒト化したH鎖を組み合わせたヒト化抗CD20モノクローナル抗体が挙げられる。
【0016】
本発明の好ましい第3の態様の抗体は、リツキシマブが効果を示さない細胞に対しても有効なヒト化したモノクローナル抗体を包含する、2B8に対する特定の解離定数に限定されない一群のヒト化抗体である。
これらの抗体の例としては、配列番号18のL鎖と配列番号24のH鎖、配列番号18のL鎖と配列番号22のH鎖、配列番号19のL鎖と配列番号22のH鎖または配列番号19のL鎖と配列番号23のH鎖を組み合わせたヒト化CD20モノクローナル抗体が挙げられる。
【0017】
さらに本発明者らは、本発明により得られたヒト化抗CD20モノクローナル抗体について、抗体のヒトCD20抗原に対する親和性とCDC活性、アポトーシス誘導活性との相関に基づいて抗体のタイプを分類し、その分類に基づいて抗体医薬品として有用なモノクローナル抗体を選抜することができた(実施例4参照)。
【0018】
すなわち、親和性が高い抗体は、それ自身でアポトーシスを誘導することができず、アポトーシスの誘導に二次抗体によるクロスリンクが必要であること、一方、親和性が低い抗体は、それ自身でアポトーシス誘導活性を発揮することがわかった。さらに、親和性が高い抗体ほどCDC活性も高いケースが多いこともわかった。それゆえ、親和性の低い抗体は、二次抗体が存在しなくてもアポトーシスを誘導できるが、CDC活性が低い傾向を有する。したがって、これらの知見から、医薬品として有効な候補抗体を見出すことができる、2つの選抜基準を設定することができた:
−単独ではアポトーシスを誘導しないが、ヒトCD20抗原に対する親和性が極めて高く、CDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体;あるいは
−単独でアポトーシス誘導活性を持ち、アポトーシスとCDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体のうち、ヒトCD20抗原に対する親和性が高いもの。
【0019】
前者の選抜基準では、ヒトCD20抗原に対する親和性が高く、かつCDC活性も高いものを選抜することが好ましい(Kd値が低いほどCDC活性が高い傾向が見られる)。前者の選抜基準を満たすクローンの場合には、単独でアポトーシス誘導は引き起こさないが、親和性が高いという利点を有し、高いCDC活性により細胞枯渇を促すことができる。本発明者らは、前者の選抜基準を満たす抗体は、約9.5nM未満のヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)を有するものが多いことを見出した。
【0020】
後者の選抜基準では、抗体によるアポトーシスとCDCの総和が大きく、かつ、ヒトCD20抗原に対する親和性が高いものを選抜することが好ましい。したがって、後者の選抜基準を満たすクローンの場合には、親和性は高くないが、アポトーシス活性が高いという利点を有し、アポトーシス誘導とCDCの相乗効果により細胞枯渇を促すことができる。本発明者らは、後者の選抜基準を満たす抗体は、約9.5nMから約13nMの範囲のヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)を有するものが多いことを見出した。
【0021】
上記選抜基準を数値的に表現することが好ましい。したがって、上記選抜基準は各々次のように表現することができる:
(i)ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が約9.5nM未満であって、B細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体;あるいは
(ii)ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、B細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体。
ここに、同等とは、比較すべき値の±約10%の範囲の値を意味する。
【0022】
本発明者らはさらに実験を行って、B細胞の種類に応じて上記選抜基準を適用することが好ましいことを見出した。具体的には後記実施例4で得られた結果をふまえて、上記選抜基準(i)を(a)のように、(ii)を(b)のように、各々、さらに詳細に表現することができる:
(a)ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が約9.5nM未満であって、Raji細胞(浮遊細胞)またはSU−DHL4細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体;あるいは
(b)ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、WiL2細胞またはRCK8細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体。
ここに、同等とは、比較すべき値の±約10%の範囲の値を意味する。
【0023】
上記(i)または(a)の選抜基準に従う場合には、ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nM未満であって、できるだけKd値が低く、かつ、CDC活性の高い抗体を選抜することが好ましい。好ましくは、Raji細胞(浮遊細胞)またはDHL4細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体を選択する。通常は、Kd値の小さい抗体ほどCDC活性が高い傾向があるので、単にKd値の小さい(CD20抗原に対する親和性が高い)抗体を選抜すればよい。(i)または(a)の選抜基準を満たす抗体は、CD20抗原に対する親和性が極めて高く、CDC活性も極めて高いので、優れた抗ガン効果を発揮することができる。ただし、(i)または(a)の選抜基準を満たす抗体は、単独ではアポトーシスを誘導せず、アポトーシスの誘導には二次抗体を必要とする。
【0024】
上記(ii)または(b)の選抜基準に従う場合には、ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、できるだけアポトーシス活性とCDC活性の総和が大きく、かつ、Kd値が小さい抗体を選抜することが好ましい。好ましくは、WiL2細胞またはRCK8細胞に対するCDC活性とアポトーシス活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上のものを選抜する。(ii)または(b)の選抜基準を満たす抗体は、CD20抗原に対する親和性がある程度高く、単独でアポトーシスを誘導でき、アポトーシスとCDCの相乗効果により優れた抗ガン効果を発揮することができる。好ましくは、アポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上のものを選抜する。
【0025】
換言すれば、(i)または(a)の選抜基準は、抗体が極めて高いCDC活性を有することを期待する場合に適用することができ、(ii)または(b)の選抜基準は、抗体がCDC活性とアポトーシス活性の両方を有することを期待する場合に適用することができる。
【0026】
本発明により得られたヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、上記選抜基準(i)または(a)を満たす抗体としては、配列番号18のL鎖と配列番号22のH鎖を組み合わせたヒト化抗CD20モノクローナル抗体、ならびに配列番号18のL鎖と配列番号24のH鎖を組み合わせたヒト化抗CD20モノクローナル抗体が例示される。
本発明により得られたヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、上記選抜基準(ii)または(b)を満たす抗体としては、配列番号19のL鎖と配列番号22のH鎖を組み合わせたヒト化抗CD20モノクローナル抗体が例示される。
【0027】
また、本発明の抗体とは異なるエピトープを認識する抗体、例えば、本発明以外の方法により得られた抗体についても、本発明の選抜に関する考え方を適用し、選抜することが可能である。したがって、本発明は、さらなる態様において、下記選抜基準:
−単独ではアポトーシスを誘導しないが、抗原に対する親和性が極めて高く、CDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体;あるいは
−単独でアポトーシス誘導活性を持ち、アポトーシスとCDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体のうち、抗原に対する親和性が高いもの
を用いることを特徴とする抗ガン抗体の選抜方法、ならびに該方法により選抜された抗体にも関する。
【0028】
選抜基準(i)または(a)、あるいは(ii)または(b)を適用する際の、抗原に対する親和性、アポトーシス活性およびCDC活性の測定は、当該分野で知られているいずれの手法を用いて行ってもよい。抗原に対する親和性に関しては、抗原との解離定数を測定し、これを指標とするのが一般的である。ヒトCD20抗原に対するヒト化抗体の解離定数の測定は、ヒトCD20抗原を発現している細胞を標的として使用して行うのが一般的である。その際、ヒトCD20抗原を発現していない細胞をコントロールとして用いることが好ましい。細胞に結合したヒト化抗体の検出には、ヒト化抗体に検出可能な標識を付す、あるいはヒト化抗体に対する標識化特異的抗体を用いる等の手法を用いることができる。例えば、本明細書の実施例2に記載のごとくヒトCD20抗原に対する親和性(あるいは解離定数、Kd値)を測定してもよい。
【0029】
以下に、本発明のヒト化抗CD20モノクローナル抗体の取得および選抜について説明する。
本発明のヒト化抗CD20モノクローナル抗体の作製に使用できるマウス由来モノクローナル抗体は、例えば、つぎのような方法によるスクリーニングで得られたハイブリドーマのクローンから目的の性質を有するモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することにより得ることができる。
感作抗原(免疫原)として、例えば、CD20を発現している細胞であるSB細胞又はRaji細胞と、例えば、遺伝子組換えにより商業的に入手可能なCD20のDNA(又は、同等の効果を有するそのフラグメント等)で形質転換して細胞表面上にCD20を発現させたCHO細胞(CHO/CD20)を用いる。そして、初回免疫、追加免疫、及び、最終免疫を行う際に、初回免疫及び追加免疫が、免疫の少なくとも1回は、感作抗原として、該抗原を発現する、被免疫動物とは他の目に属する動物に由来する細胞株を用いる免疫、及び、免疫の少なくとも1回は、感作抗原として、遺伝子組換により細胞膜表面上に該抗原を発現させた、被免疫動物と同目に属する動物に由来する細胞株を用いる免疫のいずれか一方であり、最終免疫が他方であるようにする。
この他の条件は、通常のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの作製法と同様でよい。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、公知の方法に従って、(1)被免疫動物の免疫、(2)免疫された動物からのリンパ球の調製、(3)親細胞の調製、(4)リンパ球と親細胞の細胞融合、(5)スクリーニング及びクローニングによって作製される(例えば、Ailsa M. Campbell (著)、大沢 利昭 (訳) 生化学実験法 モノクローナル抗体、東京化学同人、1989年参照)。
得られたクローンを用いてハイブリドーマを用いてモノクローナル抗体を作製する方法は、本発明のハイブリドーマ作製法で作製されたハイブリドーマを用いることの他は、通常の、モノクローナル抗体の作製の方法と同様でよい。大量作製の場合には、細胞培養による方法、マウスの腹水として作製する方法などが挙げられる。また、キメラ化又はヒト化抗体を作製する場合には、キメラ化又はヒト化抗体をコードする遺伝子を作製し、それを発現ベクターに組み込み、発現ベクターを適当な細胞で発現させることにより作製することができる。
【0030】
例えば、L鎖およびH鎖の可変領域遺伝子を、ヒトイムノグロブリンL鎖およびH鎖(κ)定常域遺伝子とでキメラ化し、CHO細胞用高発現ベクターに組み込む。組換抗体生産用のベクターシステムは市販されているものでよいが、哺乳動物細胞高発現ベクターpNOW(特許第3582965号公報)を基に、L鎖、H鎖両方のマルチクローニングサイト(MCS)を有するダイマー用高発現ベクターpNOW-abに構築したものを使用できる。各ベクターの構成を示す制限地図を図1および図2に示す。キメラ抗体遺伝子が組み込まれた発現ベクターをCHO細胞にトランスフェクトし、それぞれ生産性の高いクローンを選別する。そのクローンから通常の方法で抗体を作製する。
【0031】
本発明の第1の態様の抗体は、結合親和性がリツキシマブに比べて相対的に高くかつ増殖阻害活性、好ましくはアポトーシス誘導による活性が高いので、キメラ化又はヒト化した抗体はB細胞悪性腫瘍及びB細胞が関与する免疫疾患に対する治療剤の有効成分として使用できる。また、本発明の第2、第3の態様の抗体は、ヒトCD20抗原を有する細胞に対して抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)又は補体依存性細胞傷害(CDC)を示すと考えられるので、B細胞悪性腫瘍及びB細胞が関与する免疫疾患に対する治療剤の有効成分として使用できる。したがって、本発明は、これらキメラ化又はヒト化した抗体を有効成分とするB細胞関連疾患に対する治療剤も提供する。
また、本発明のヒト化抗CD20モノクローナル抗体は、上記(i)または(a)、あるいは(ii)または(b)の選抜基準を用いて選抜することができ、これらの選抜基準を満たすものはB細胞悪性腫瘍及びB細胞が関与する免疫疾患に対して有効性が高く、特に医薬用として好都合である。したがって、上記(i)または(a)、あるいは(ii)または(b)の選抜基準を満たすヒト化抗CD20モノクローナル抗体を有効成分として含有するB細胞関連疾患治療剤を提供する。
【0032】
さらに、本発明においては、本発明の抗体を2種以上併用してもよい。
B細胞関連疾患としては、以下に限定するものではないが、例えば、非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病、関節リウマチ、自己免疫溶血性貧血症、特発性血小板減少症紫斑病、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、シェーグレン症候群、クローン病、強皮症、多発性硬化症などが挙げられる。
該治療剤は、公知の製剤技術に従って製造でき、他の配合成分は特に限定するものではなく、公知のリツキサンを参考にして、投与量等も決定することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
(1)マウス感作用免疫原の準備
CD20を発現しているB細胞株であるSB細胞とRaji細胞をin vitroで培養した。
また、別途、Multiple Choice cDNA human spleen, Origene Technologies, Inc. 6 Taft Court, Suite 100, Rockville, MD 20850から入手したCD20の全分子をコードするDNAを、特異的なプライマーhCD20-S-GK-Not aatgcggccgccaccatgacaacacccagaaattc(配列番号25)、及びhCD20-E-Xba gctctagattaaggagagctgtcattttc(配列番号26)を用いてクローニングし、それを哺乳動物細胞用高発現ベクターであるpNOW(図1)に組み込み、構築されたベクターをCHO細胞にトランスフェクトした。FACS分析により、細胞表面にCD20分子を高発現している組換CHO細胞(CD20/CHO細胞)を樹立した。ここにおいて、FITC標識抗CD20モノクローナル抗体で染色した際に、SB細胞に比べて蛍光強度が5倍以上のものを高発現しているものとした。
【0034】
(2)免疫原の調製
SB細胞またはRaji細胞は10%FCS添加RPMI1640培地を用いて培養を行った。CD20/CHO細胞は、G418を800μg/ml添加したCHO−S−SFM II培地(GIBCO、Cat. No. 12052-098)を用いて培養を行った。これらの培養液を1100rpmで、5分遠心分離した後、細胞にDulbecco’s PBS(-)を加えて懸濁させ再度遠心分離した。この洗浄操作をもう一度繰り返し、細胞に生理食塩水を加えて調製した懸濁液(細胞数:1〜3×107/ml)を免疫に用いた。
【0035】
(3)免疫
7〜11週令のBalb/c系雌性マウスへ、免疫原の調製液をいずれも腹腔内投与した。SB細胞又はCD20/CHO細胞のうち、いずれか同じ細胞をさまざまな日数間隔で2〜3回繰り返して投与した後、最終免疫には異なった細胞(CD20/CHO細胞又はRaji細胞)を投与した。投与した細胞数はいずれもマウス1匹当たり1〜3×107個であった。
使用した免疫原の組み合わせを表1に示す。
【0036】
(4)細胞融合
最終免疫の3日後、2匹のマウスから脾臓細胞を調製し、Oi,V.T. and L.A. Herzenberg, 1980, in:Selected Methods in Cellular Immunology, eds. B. Mishell and S.M. Shiigi(Freeman and Co.San Francisco, CA) p.351に従って、マウスミエロ−マ(NS−1)との融合反応をPEG−1500の存在下で行なった。
【0037】
(5)1次、2次スクリーニング
CD20/CHO細胞またはCHO細胞(親株)を付着させた96ウエルプレートを用いてCell ELISAを行い、CD20に特異的に反応する抗体を産生しているウエルを選択した。さらに、同じCD20/CHO細胞を付着させた96ウエルプレートを用い、リツキシマブ(C2B8)との競合反応を行って、C2B8のエピトープと類似したところに反応する抗体(ウエル)を選択した。
表1にスクリーニング結果を示す。
【0038】
(6)Cell ELISA
Poly-L-Lysineコート96ウエルプレート(旭テクノグラス、Cat.No.11-023-018)に付着させたCD20/CHO細胞またはCHO細胞(親株)をCell ELISAに用いた。その各ウエルにブロッキング液(0.2%−ゼラチン、0.5%BSAのPBS溶液)を150μl入れて37℃で1時間静置した。150mM−NaCl、0.05%−Tween20水溶液を用いてプレートを5回洗浄した後、サンプル(培養上清の希釈液)を各ウエルに100μl入れて1次反応を37℃で1時間行なった。洗浄後、標識抗体の希釈液〔HRP標識抗マウスIgG(H+L)ウサギ抗体(Jackson Lab. Code No. 315-035-003)、またはHRP標識抗マウスIgG(Fcγ)ウサギ抗体(Jackson Lab. Code No. 315-035-008)〕を各ウエルに100μl入れて2次反応を37℃で1時間行なった。1次、2次の反応液の調製には、ブロッキング液と同じものを用いた。洗浄後、発色液(OPD)を各ウエルに100μl入れ30分後に4N−H2SO4を50μl加えて反応を停止し、492nmの吸光度を測定した。
【0039】
(7)Cell ELISAでの競合反応
サンプル(培養上清の希釈液)とキメラ抗体(10〜40ng/ml)の混合溶液を調製した。
上記のCell ELISAと同様にブロッキング反応をしたあと、この混合溶液を各ウエルに100μl入れて1次反応を37℃で1時間行なった。洗浄後、標識抗体の希釈液〔HRP標識抗ヒトIgG(H+L)ウサギ抗体(Jackson Lab. Code No. 309-035-082)〕を各ウエルに100ul入れて2次反応を37℃で1時間行なった。洗浄後、発色液(OPD)を各ウエルに100μl入れ30分後に4N−H2SO4を50μl加えて反応を停止し、492nmの吸光度を測定した。
標識抗体はキメラ抗体のみに反応するので、1次反応で添加したサンプル中の抗体がキメラ抗体と競合すれば、測定値の低下が認められた。
【0040】
(8)クローニング
限界希釈法で行った。細胞を96ウエルプレートに撒いて培養後、1コロニーのウエルの培養上清についてCell ELISAを行い、特異抗体の産生クローンを選択した。
【0041】
(9)精製抗体の調製
特異抗体の産生クローンを10%FCS添加RPMI1640培地で培養し、細胞密度が5×105/ml前後になった時点で無血清培地ASF−104N(味の素)に培地を交換して培養を行った。その2〜4日後に培養液を遠心分離して培養上清を回収したあと、プロテインGカラムを用いて精製を行い、溶出されたモノクローナル抗体溶液を150mM−NaClに対して透析した。0.2μmのフィルターでろ過滅菌を行ない、試験抗体(抗ヒトCD20マウスモノクローナル抗体)とした。
【0042】
【表1】
代表的な8クローンの産生するモノクローナル抗体について、L鎖V領域のアミノ酸配列(配列番号1〜8)及びH鎖V領域のアミノ酸配列(配列番号9〜16)は以下のとおりである。
【0043】
1K0924のH鎖V領域配列(配列番号11)
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGYTFTSYNIHWVKQTPGQGLEWIGAIYPGNGDTSYNQKFKGKATLTSDKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARMSTMITGFDYWGQGTTLTVSS
1K1228のH鎖V領域配列(配列番号16)
QVQLQQPGAELVKPGASVKVSCKASGFTFTSYNLHWVKQTPGQGLVWIGAIYPGNGDTSYNQKFRGKATLTADISSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARYYYGYDAMDYWGQGTSVTVSS
1k1422のH鎖V領域配列 (配列番号9)
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCRASGYTFTNYNMHWIKQTPGQGLEWIGAIYPGSGDTSYNRKFKGKATLTADTSSSTAYMQFSSLTSADSAVYYCARFTYYYGGTYGAMDYWGQGTSVTVSL
1k1791のH鎖V領域配列 (配列番号10)
QIQLVQSGPELKKPGETVKISCKASGYTFTNFGVNWVKQAPGKGLKWMGWINTYTGEPSYADDFKGRFAFSLEASANTAYLQINNLKNDDMSTYFCTRRTNYYGTSYYYAMDYWGQGTSVTVSS
1k1712のH鎖V領域配列 (配列番号12)
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGFTFTSYNLHWVKQTPGQGLEWIGAIYPGSGDTSYNQQFKGKATLTADKSSNTAYMQLNSLTSEDSAVYCCARSAMISTGNWYFDYWGQGTTLTVSS
1k1402のH鎖V領域配列 (配列番号13)
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGFTFTSYNMHWVKQTPGQGLEWIGGIYPGNGDTSYNQKFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARFYYYGSMGAMDYWGQGTSVTVSS
1k1736のH鎖V領域配列 (配列番号14)
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGYTFTTYNLHWVKQTPGQGLEWIGGIYPGNGDTSYNQKFKVKATLTADKSSNTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARWIYYGNYEGTLDYWGQGTSVTVSS
1k1782のH鎖V領域配列 (配列番号15)
QVQLQQSGAELAKPGASVKMSCKASGYTFTSYWMHWVKQRPGQGLEWIGYITPSTGYTDYNKKFKDKATLTADRSSSTAYMHLSSLTSEDSAVYYCARSGPYFDVWGAGTTVTVSS
1K0924の L鎖V領域配列(配列番号3)
QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYMHWYQQRPGSSPKPWIYATSNLASGVPARFSGSGSGTSYYFTISRVEAEDAATYYCQQWNSNPPTHGGGTKLEIK
1K1228の L鎖V領域配列(配列番号8)
EIILTQSPTTMAASPGEKITITCSASSSISSYYLRWYQQKPGFSPKVLIYRTSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTIGTMEAEDVATYYCQQGNTVPLTFGSGTKLEIK
1k1422の L鎖V領域配列 (配列番号1)
QIVLTQSPPIMSASLGEEITLTCSASSRVSYMLWYQQKSGTSPKLLIYSTSNLASGVPSRFSGSGSGTFYSLTISSVEAEDAADYYCHQWTSNPCTFGGGTKLEIK
1k1791の L鎖V領域配列 (配列番号2)
STVMTQTPKFLLVSAGDRVTITCKASQSVSNDVAWYQQKPGQSPKVLIYFASNRYTGVPDRFTGSGYGTDFTFTINTVQAEDLAVYFCQQDYSSPLTFGAGTKLELK
1k1712の L鎖V領域配列 (配列番号4)
QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYMDWYQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDTATYYCQQWTFNPPTFGSGTKLEIK
1k1402の L鎖V領域配列 (配列番号5)
QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYMHWYQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTITRVEAEDAATYYCQQWTFNPPTFGAGTKLELK
1k1736の L鎖V領域配列 (配列番号6)
QIVLSQSPAILSSSPGEKVTMTCRASSSVSYMLWYQQKPGSSPEPWIYATSNLASGVPARFSGGGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQWTFNPPTFGGGTKLEIK
1k1782の L鎖V領域配列 (配列番号7)
DILLTQSPAILFVSPGERVSLSCRASQNIGTSIHWYQQRTNGSPRLLIKYASESFSGIPSRFSGSGSGTDFTLSINSVESEDIADYYCQQSNSWPFTFGSGTKLEIK
【実施例2】
【0044】
得られたクローンの一部に関し、モノクローナル抗体遺伝子の可変領域について塩基配列の決定を行うとともに、それらが産生するモノクローナルについて抗体結合親和性の測定及び生物学的特性試験を以下のとおり行った。
(1)結合親和性測定
目的とする抗原を細胞表面で発現しているヒトB細胞株由来の浮遊細胞Raji及び、CD20抗原を発現していない細胞としてヒトT細胞株由来の浮遊細胞Jurkatを用いた。共にRPMI1640(ナカライ、Cat.No.30264-85、Lot L4K2844)に10%ウシ胎仔血清FCS(BIOLOGICAL IND. Cat.No.04-001-1A、Lot 815242、補体成分を非働化するためあらかじめ56℃30分加温したもの)を添加した培地で37℃CO2濃度5%のCO2インキュベーター (SANYO MCO-175M)で培養、週2回の継代により維持した。
細胞数の測定は、Burker-Turk血球計算盤(ヱルマ販売(株)Cat.No.03-303-1)を用いて行った。
継代後3〜4日目のコンフルエントな細胞の培養液を多本架冷却遠心機LX−120 (TOMY)で室温、3000rpmで3分間遠心し、上清を除き、細胞を回収した。ここで用いた回転数と時間は遠心分離と上清除去を繰り返し行っても細胞数が変化しない条件である。細胞の表面に残った培地及びFCSを除くため(洗浄)、回収した細胞をDulbecco’s Phosphate Buffered Saline(-) 〔Ca、Mgフリー、PBS(-) 、(NaCl:Wako、Cat.No.191-01665、Na2HPO4:Wako、Cat.No.197-02865、Lot ASF2635、KCl:Wako、Cat.No.163-0334T、Lot CEQ7122 、KH2PO4:Wako、Cat.No.169-0425、Lot ELG7616)〕で懸濁後、3000rpmで3分間遠心して上清を除く操作を2回行った。洗浄を終えた細胞を1%BSA (Wako Cat No.013-07492 Lot PKH3483)−PBS溶液で懸濁し、細胞密度を5x106個/mlに調整した。
1次抗体として、試験抗体又は陽性コントロール抗体(2B8)15、30、50、75、100、125、150、200ng(1.5〜5μl)を各々、1.5mlチューブ(ビーエム機器、BMリングロックチューブ Cat.No.BM-15)に分注し、同時に抗体を入れないチューブも4本用意した。また、各々の試験抗体あたり3点のサンプルを準備した。そこに、1%BSA(Wako Cat No.013-07492 Lot PKH3483)−PBS溶液で懸濁液を100μl(細胞数5x105個)ずつ加えて混和し、室温で1時間振とう反応させた。
反応後、微量高速冷却遠心機MX−100(TOMY)で室温、3000rpm3分間遠心分離し、細胞を回収後、細胞の表面に残った未反応の一次抗体を除くため200μlのPBSで懸濁し、3000rpmで3分間遠心し上清を除く操作を2回行った。
【0045】
次に、細胞と結合した1次抗体に対して過剰量(500ng)のFITC標識抗マウスIgG(H&L)2次抗体〔GOAT Anti-mouse IgG(H&L) Fluorescein conjugated, affinity purified Secondary antibody、Chemicon、Cat.No.AP124F、 Lot 24021014〕および1%BSA−PBS溶液100μl(500ng/100μl)を添加・懸濁し、遮光、室温のもと1時間振とう反応させて細胞に結合した1次抗体を検出した。反応後、3000rpmで3分間遠心し、細胞を回収後、細胞の表面に残った未反応のFITC標識抗マウスIgG(H&L)抗体を除くため、200μlのPBSで懸濁し、3000rpmで3分間遠心し上清を除く操作を2回行った。
こうして得た細胞を100μlPBSで懸濁し、96ウエル平底プレート(住友ベークライトELISA PLATE Cat.No.8496F)へ移した。2次抗体の蛍光量をTyphoon9210イメージアナライザー(Amersham Bioscience)を用いて、Fluorescense mode, 600V、526SP/green(532nm)、Focus:底面+3mmの検出条件で測定した。この際、FITC標識2次抗体を0、12.5、25、50、75、100、125、150ng添加したPBS溶液100μlを検量線作成用のコントロールとして用いた。
【0046】
検出後、画像を画像解析ソフトImage Quant (Amersham Bioscience)を使用し、数値化を行った後、Excel (Microsoft)で解析を行った。この際、プレート、PBS溶液、および細胞に非特異的に結合したFITC標識2次抗体に由来するバックグラウンド値として、細胞とFITC標識2次抗体のみを反応させたものの測定値を求め、その4点の平均値を各サンプルの蛍光強度の値から差し引いた。こうして、細胞に結合したFITC標識2次抗体の蛍光量を得た。更に、コントロールとして用いた各濃度のFITC標識二次抗体での蛍光量を測定することで検量線を作成し、細胞に結合している2次抗体の量(モル数または重量)を求めた。各1次抗体とFITC標識2次抗体が1:2の割合で反応していると仮定し、結合している1次抗体量を算出した。また遊離の1次抗体量は添加量から結合量を差し引いて求めた。抗体濃度をモル濃度に換算する際、モノクローナル抗体の分子量を150000とした。
【0047】
添加する1次抗体の増加に伴い結合反応が飽和して蛍光強度が一定量に達することを確認するとともに、細胞表面の抗原数及び解離定数(Kd値)を算出するため、スキャッチャード解析(Scatchard,G.; Ann.N.Y.Acad.Sci.,51: 660-672,1949、分子生物学研究のための新培養細胞実験法;羊土社、実験医学別冊バイオマニュアルUPシリーズ改訂第2版、212-217参照)を行った。このとき、数値は各サンプルについて3点の値の平均値を用いた。
代表的な8クローンが産生するモノクローナル抗体と陽性コントロール抗体(2B8)の測定結果を後の表3に示す。
【0048】
(2)生物学的特性試験
(a)アポトーシス誘導試験
フローサイトメトリー(Annexin V/ PI staining)を用いて試験抗体のアポトーシス誘導能を測定した。陽性コントロール(2B8)、陰性コントロール[Anti-CD3モノクローナル抗体(BD PharMingen社)]を用いた。試験はMEBCYTOApoptosis Kit (MBL, Cat.No.4700, Lot.20)を用いて行った。
Raji細胞を遠心後、10%FBS(非動化済)(ICN, Cat.No.2916754, Lot.8005C)を含む新鮮な培地RPMI1640(Sigma, Cat.No.R8758, Lot.44K2416)で懸濁し、12ウエルプレートの各ウエルに5x105細胞/mlの密度で1mlを入れた。各抗体あたり12ウエルを用い、各抗体を終濃度2μg/ml又は4μg/mlになるよう添加した(3ウエル×2種濃度×2時点、計12ウエル)。培養開始1日後及び2日後に、2x105個程度分の細胞を含む培養液を回収し、遠心後PBSで1回洗浄した。次に85μl Binding bufferを加え懸濁した。さらに、Annexin V-FITC10μlとPI5μlを加えてよく混和した後、遮光、室温で15分間反応させた。フローサイトメトリー(FACS Calibur、Becton Dickinson)を用いて測定し、CellQuest(Becton Dickinson)で解析を行った。
代表的な6クローンが産生するモノクローナル抗体と陽性コントロール(2B8)、陰性コントロール(Anti-CD3)の測定結果を図3a〜図3dに示した。一般に2B8のアポトーシスの誘導能は高いとされるが、1K17シリーズ(CD20/CHOとRaji細胞で免疫)の細胞融合から得られたクローン1k1791、および1K14シリーズ(SB細胞とCD20/CHOで免疫)の細胞融合から得られたクローン1k1422の産生するモノクローナル抗体は2B8との比較において高いアポトーシス誘導がみられた。
【0049】
(b)細胞増殖阻害試験
5×104個/mlのRaji細胞懸濁液を10%FCS添加RPMI1640培地で調製して96ウエルプレートに100μl/ウエルずつ入れて培養した。24時間後、抗体濃度が1μg/mlになるように各抗体溶液を50μl/ウエル添加して培養を継続した。抗体添加72時間後に発色色素Cell Counting Kit-8(同仁化学 Cat.No.343-07623,Lot. SG076)を10μl/ウエル加え、さらに4時間培養した後で波長492nmにおける吸光度を測定した。
上記6クローンのモノクローナル抗体と陽性コントロール(2B8)、および陰性コントロールの吸光度の測定結果を表2に、また、それらの特性を表3に示す。
【0050】
細胞増殖阻害試験
【表2】
【0051】
モノクローナル抗体の特性
【表3】
【0052】
(c)抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)
この実験では抗CD20キメラ抗体のFc部位を介してエフェクター細胞が活性化し、それに伴ってリンパ腫細胞系を溶解する能力について測定を行った。
ヒトB細胞由来のRaji、WiL2−NS、SU−DHL4、RC−K8の4種類の細胞を非働化処理した10%FCS添加RPMI1640に培地(培養培地)で37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で培養、維持した。
実験に際しては、各々の細胞を10%FCS含RPMI1640で洗浄し、37℃中で15分間の反応によりカルセインを生細胞に取り込ませた後、細胞数を4×105個/mlに調整した。カルセインは細胞膜が正常に保たれている細胞にのみ維持されるので生細胞のみを染色することができる。また抗CD20キメラ抗体であるリツキシマブ(C2B8)と6種類のキメラ抗体(1k0924、1k1402、1k1422、1k1712、1k1736、1k1791)を10%FCS含RPMI1640で20μg/ml、4μg/ml、0.8μg/mlに調整した。エフェクター細胞は健常者より採血し、直ちにFicollに重層して遠心しリンパ球画分を採取した後、5×106個/ml、1×106個/ml、0.2×106個/mlに調整した。
濃度調整をした細胞25μl、各抗CD20キメラ抗体溶液25μl(それぞれ終濃度が5μg/ml、1μg/ml、0.2μg/ml)、各抗体濃度においてエフェクター細胞50μl(それぞれE:T比が25:1、5:1、1:1)、計100μlを96穴プレート内で混合し、37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で4時間反応させた。また、自然な細胞の溶解を算出するために抗体溶液およびエフェクター細胞を10%FCS含RPMI1640で置き換えたサンプル、抗体に依存しないエフェクター細胞のみの活性を算出するサンプルとして抗体溶液を10%FCS含RPMI1640で置き換えたサンプル、最大溶解を算出するサンプルとして抗体溶液を20%TritonX−100で置き換えたサンプルを用意した。
反応後、溶解した細胞は細胞膜が壊れてカルセインが細胞外に出るため、Quencherを用いて反応溶液中に遊離したカルセインの蛍光を消失させた後、蛍光アナライザーにより蛍光量を測定した。
検出後、画像解析ソフト(Amersham Bioscience)を使用し、数値化を行った後、以下の式を用いて各サンプルの溶解率を算出した。
【数1】
【0053】
NK細胞などのエフェクター細胞数とターゲットとなる細胞数の割合(E:T比)が25:1のときの各細胞における抗体濃度と細胞傷害活性の関係を図4a〜図4dに示す。また、抗体濃度が5μg/mlのときの各細胞におけるE:T比と細胞傷害活性の関係図5a〜図5dに示す。
図4a〜図4dに示すごとく、E:T比が25:1の条件ではどの細胞でも抗体を加えることにより細胞傷害活性を示している。つまり抗体が細胞傷害に関与している。また、WiL2−NS以外の細胞株では0.2μg/mlの抗体濃度で既に1μg/ml、5μg/mlと同程度の活性を示し(0.2μg/mlで飽和している)、活性は最大値まで達してフラットとなっており、補体依存性細胞傷害活性に必要とされる抗体量よりも少ない抗体量で作用することを示唆している。
図5a〜図5dに示すごとく、抗体濃度が5μg/mlのときの細胞傷害活性のE:T比による影響を見ると、細胞傷害活性がE:T比濃度に依存して上昇しているのがわかる。このことからエフェクター細胞が作用して細胞傷害が起こっていると判断される。
【0054】
(d)補体依存性細胞傷害(CDC)
この実験では抗CD20キメラ抗体が補体を含む血清の存在下でリンパ腫細胞系を溶解する能力について測定を行った。
ヒトB細胞由来のRaji、WiL2−NS、SU−DHL4、RC−K8の4種類の細胞を非働化処理した10%FCS添加RPMI1640に培地(培養培地)で37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で培養、維持した。
実験に際しては各々の細胞を10%FCS含RPMI1640で洗浄し細胞数を2〜3×106個/mlに調整した。また、抗CD20キメラ抗体であるC2B8(リツキシマブ)と6種類のキメラ抗体(1k0924、1k1402、1k1422、1k1712、1k1736、1k1791)を10%FCS含RPMI1640で20μg/ml、4μg/ml、0.8μg/mlに調整した。
濃度調整をした細胞55μl、各抗CD20キメラ抗体溶液25μl(それぞれ終濃度が5μg/ml、1μg/ml、0.2μg/ml)、5人の健常者より採取したプール血清又はそれを非働化したもの20μl、計100μlをボルテックスミキサーにより混合し、37℃、CO2濃度5%のインキュベーター内で2時間反応させた。バックグラウンドの算出サンプルとしては抗体溶液25μlを10%FCS含RPMI1640培地25μlに置き換えたものを用意した。
反応後、PI(ヨウ化プロピジウム)溶液で死細胞を染色し、FACS(Becton Dickinson)により解析を行った。数値は死細胞のポピュレーションをそのまま採用し、バックグラウンド及び非働化血清を加えたサンプルの値を差し引いてある。
各細胞においての抗体濃度と細胞傷害活性の関係を図6a〜図6dに示す。
図6a〜図6dに示すごとく、Raji、WiL2−NS、SU−DHL4では6種類全ての抗体が活性を示している。また、濃度依存性も確認できるが、5μg/mlの濃度で比較すると1k1791は他の抗体に比べて特に高い活性を示し、ついで、1k1736、1k1422、1k1712が高い活性を示している。この濃度ではRaji、WiL2−NSにおいて1k1791は他の抗体のおよそ2倍近い細胞傷害を誘導していることが確認できる。しかしながら、他の抗体もリツキシマブと同程度、もしくはそれ以上の活性を示している。
一方、リツキシマブが効かないとされるRC−K8では、抗体ごとの差異が顕著に現れた。リツキシマブ、1k1402および1k1712ではほとんどもしくは全く活性がない。それに対し、1k1791は非常に高い活性を示し、5μg/mlの濃度では約50%の傷害活性を示している。これに続き、1k0924が25%程度、1k1422、1k1736が10%程度の傷害活性を示している。
以上から、今回試験対象とした6種類のキメラ抗体はリツキシマブと同程度あるいはより強いCDC活性を有していることが確認された。
【実施例3】
【0055】
(1)結合親和性測定
ヒトB細胞株由来のRaji細胞を、RPMI1640に非働化処理した10%FCS添加培地で37℃、CO2濃度5%のCO2インキュベーター内で培養、週2回の継代により維持した。
継代後3〜4日目(約1x106個/ml)の細胞培養液を室温、1000rpmで5分間遠心分離し、細胞を回収後、PBS(−)で懸濁、1000rpmで5分間遠心分離を行い、上清を除く操作を2回行うことで洗浄した。
抗CD20抗体(陽性コントロール抗体:マウス抗体2B8、キメラ抗体及びヒト化抗体C2B8)とRaji細胞を混和し、室温で1時間反応することで1次抗体反応を行った。ここで、抗CD20抗体の各々の終濃度は1.33、2.67、4.00、5.33、6.67、8.00、9.33、10.67、12.00、13.33、14.67、16.00nMの12点とし、細胞数5x106個、1%BSA−PBS溶液を反応溶液とし液量100μlになるよう1.5mlチューブに分注した。同一試験抗体あたり3点のサンプルを準備し、バックグラウンド算出サンプルとして抗体を加えないチューブも4本用意した。
反応後、室温、3000rpmにて3分間遠心分離し、未反応の1次抗体を除き、細胞を回収した。
【0056】
細胞と結合した1次抗体に対して過剰量となるよう1%BSA−PBS溶液で5ug/mlに調製したFITC標識二次抗体を100μlづつ添加し、懸濁後、遮光、室温のもと1時間反応させた。
ここでFITC標識2次抗体はマウス抗体ではGOAT Anti Mouse IgG (H&L)-FITCをキメラ抗体及びヒト化抗体ではGOAT F(ab’) 2F ragment Anti Human IgG (Fcγ)-FITCを用いた。
反応後、室温、3000rpmにて3分間遠心分離し、未反応のFITC標識2次抗体を除き、細胞を回収し、200μlのPBSで懸濁し再度遠心し洗浄を行った。
この細胞を100μlPBSで懸濁し、96ウエル平底プレートへ移した。2次抗体の蛍光量をTyphoon9210イメージアナライザー(Amersham Bioscience)を用いて測定した。
検出後、画像解析ソフトImage Quant (Amersham Bioscience)を使用し、数値化を行った後、Excel (Microsoft)で解析を行った。同一試験抗体の平均値を求め、バックグラウンド算出サンプル(細胞とFITC標識2次抗体のみを反応させたもの)の値を各試験抗体の値から差し引くことで、プレート、PBS溶液および細胞に非特異的に結合したFITC標識2次抗体に由来するバックグラウンド値を除いた。同時に100μl当り、0、12.5、25、50、75、100、125、150ngのFITC標識2次抗体単独の蛍光量を測定することで検量線を作成し、細胞に結合している2次抗体のモル数を求めた。各1次抗体とFITC標識2次抗体が1:5の割合で反応していると仮定し、結合している1次抗体量を算出した。遊離の1次抗体量は添加量から結合量を差し引いて求めた。これらの値を用いて、スキャッチャード解析を行い、解離定数Kd値を得た。
結果を以下の表4に示す。
【0057】
(2)アポトーシス誘導試験
ヒトB細胞株由来細胞に対する抗CD20抗体によるアポトーシス誘導を単独で見る条件(クロスリンク無)及びさらに抗CD20抗体のFc領域を認識する2次抗体を添加することによるアポトーシス誘導を見る条件(クロスリンク有)の2条件で反応し、Annexin V-FITC apoptosis kitを用いて初期アポトーシスの検出を行った。
ヒトB細胞株由来のRaji、WIL2−NS、SU−DHL4、RCK8の4種類の細胞を、RPMI1640に非働化処理した10%FCS添加培地(培養培地)で37℃、CO2濃度5%のCO2インキュベーター内で培養、週2回の継代により維持した。
継代後3〜4日目(約1x106個/ml)の細胞培養液を室温、1000rpmで5分間遠心分離し、細胞を回収した。
抗CD20抗体(陽性コントロール抗体:マウス抗体2B8、キメラ抗体及びヒト化抗体C2B8;陰性コントロール:Anti−CD3モノクローナル抗体)と新鮮な培養培地で懸濁した細胞を混和し、1.5時間37℃、5%CO2インキュベータ内で反応した。ここで、抗CD20抗体各々の終濃度は0.2、1、5μg/mlの3点、細胞密度1x106細胞/ml、培養培地を反応溶液として液量250μlになるよう1.5mlチューブ内で反応を行った。同一試験抗体あたり3点のサンプルを準備した。
反応後、室温、1200rpmにて3分間遠心分離し、未反応の抗体を除き、細胞を回収した。
クロスリンク無の条件では新鮮な培養培地、クロスリンク有条件では抗CD20抗体の5倍量のFc領域を認識する2次抗体を250μlづつ添加し、混和後、さらに3時間、37℃、5%CO2インキュベータ内で反応した。ここで2次抗体はマウス抗体ではGoat Anti mouse IgG, FcγFragmentを、キメラ抗体及びヒト化抗体ではGoat Anti human IgG, FcγFragment specificを用いた。
反応後、室温、1200rpmにて3分間遠心分離し、未反応の2次抗体を除き、細胞を回収した。250μlのPBSで懸濁し再度遠心し洗浄を行った
検出試薬としてMEBCYTO apoptosis kit-AnnexinV-FITC ,PI- (MBL, Cat.No.4700, Lot. 21)を使用した。85μlのBinding bufferを加え懸濁した後、Annexin V-FITC 5μlとpropidium iodide (PI)5μl(終濃度0.5mg/ml)を加えてよく混和し、遮光、室温で15分間反応させた。
フローサイトメトリー(EPICS ALTRA :BECKMAN COULTER)を用いてtotal count20,000の細胞を測定し、解析(Expo32: BECKMAN COULTER)を行った。
結果を図7a〜図9dに示す。
【0058】
(3)ヒト化抗体産生株の調製
(a)DNA合成
配列番号17〜24のアミノ酸配列を元にしてコドンをCHO細胞に最適化したDNAを、定法によりデザインし、合成した。
(b)コンストラクトの作成
pNOWを発現ベクターとして16種類のヒト化1K1791発現コンストラクトを構築した。
ヒト化1K1791発現コンストラクトを作製した。
pNOW-aa1791kg1、pNOW-af1791kg1、pNOW-as1791kg1、pNOW-av1791kg1、pNOW-fa1791kg1、pNOW-ff1791kg1、pNOW-fs1791kg1、pNOW-fv1791kg1、pNOW-sa1791kg1、pNOW-sf1791kg1、pNOW-ss1791kg1、pNOW-sv1791kg1、pNOW-va1791kg1、pNOW-vf1791kg1、pNOW-vs1791kg1、pNOW-vv1791kg1
(c)トランスフェクションと薬剤による選択
トランスフェクション試薬を用いてヒト化1K1791発現コンストラクトをCHO DG44cdB細胞に導入した。それぞれの遺伝子を導入したCHO DG44cdB細胞1×106個を100mlの選択培地に懸濁し、96ウエルプレート5枚に撒いた(200μl/ウエル)。5%炭酸ガス存在下に37℃、3〜4週間培養した。
トランスフェクション試薬:Qiagen, Effectene Transfection Reagent, Cat. No 301427
選択培地:IS CHO-CD w/Hydrolysate/4mM GlutaMAX/0.8 mg/ml G418
(d)高発現細胞株の選択
1)コロニーが出現しているウエルの上清をとり、ドット・プロット・アッセイ(Dot Blot assay)で抗体産生量を測定した。
2)抗体産生量の多いクローンを24ウエルプレートに移し、約5日間培養後、上清をとり、サンドイッチELISAで抗体産生量を測定した。
3)発現量が多いクローンを2つ選択し、T75フラスコに移した。
(e)小規模培養
16種類のコンストラクトそれぞれに対して選択した2種のクローンを30mlの選択培地を含むT75フラスコ中で培養を行った。
【0059】
(4)ヒト化抗体産生株の培養及び精製
抗体産生細胞株(遺伝子組み換えCHO−DG44細胞)を、Hydrolysateを含むIS CHO-CD/with Hydrolysate (Irvine Scientific, Cat. No.91119)に、4mM GlutaMax(Invitrogen, Cat 35050-061)、200μg/mlG418 (Sigma,Cat.No.A1720-5G)を添加した培地で37℃、CO2濃度5%のCO2インキュベーター内で培養、週2回の継代により維持した。
継代後約2週間経過した細胞培養液を室温、3500rpmで5分間遠心分離し、培養上清を回収し、0.45μm syringe filterで濾過した。50mM Tris−HCl、pH7.0で平衡化した
Hi Trap Protein A HP(GE Healthcare, Cat No. 17-0402-01)カラムに、培養上清を添加後、50mM Tris−HCl、pH7.0で洗浄した。0.1Mクエン酸、pH4.0で溶出し、400μlづつ採取し、その10/1量にあたる40μl 1M Tris−HCl、pH9.0で中和した。100倍量のPBSに対して、M.W.3500透析カップ(Bio-Tech Cat. No.212932)を用いて2.5時間を2回後、15〜18時間1回の透析を行った。
【0060】
使用した抗体生産株は、CHO細胞hz1791-fv10、hz1791-ff34、hz1791-sf43およびhz1791-ss32であり、これらは、ブタペスト条約の下、平成18年(2006年)3月1日より、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに、各々、FERM BP−10543、FERM BP−10544、FERM BP−10545およびFERM BP−10546の受託番号で寄託してある。
これらの細胞株から得られたヒト化抗CD20モノクローナル抗体のH鎖V領域およびL鎖V領域のアミノ酸配列(配列番号17〜24)は以下のとおりである(アンダーライン部分が対応するマウス抗体と異なる)。
ヒト化1k1791の配列
L鎖V領域配列(配列番号20)
Ven 1791 :STVMTQSPDSLAVSLGERVTINC KASQSVSNDVA WYQQKPGQSPKVLIY FASNRYT GVPDRFSGSGYGTDFTFTISSVQAEDVAVYFC QQDYSSPLT FGAGTKLELK
H鎖V領域配列(配列番号24)
Ven 1791:QIQLVQSGPELKKPGASVKISCKASGYTFT NFGVN WVKQAPGKGLKWMG WINTYTGEPSYADDFKG RFAFSLDASVSTAY LQISSLKAEDTSTYFCTR RTNYYGTSYYYAMDY WGQGTTVTVSS
L鎖V領域配列(配列番号17)
abb 1791 :STVMTQSPDSLAVSLGERATINC KSSQSVSNDVA WYQQKPGQSPKVLIY FASNRYS GVPDRFSGSGYGTDFTLTISSLQAEDVAVYFC QQDYSSPLT FGAGTKLEIK
H鎖V領域配列(配列番号21)
abb 1791:QIQLVQSGSELKKPGASVKVSCKASGYTFT NFGVN WVRQAPGKGLEWMG WINTYTGEPSYAQGFTG RFVFSLDASVSTAY LQISSLKAEDTATYFCTR RTNYYGTSYYYAMDY WGQGTTVTVSS
L鎖V領域配列(配列番号19)
sdr 1791 : STVMTQSPDSLAVSLGERATINC KSSQSNSNDVA WYQQKPGQSPKVLIY FASNRYS GVPDRFSGSGYGTDFTLTISSLQAEDVAVYFC QQDYSSPLT FGAGTKLEIK
H鎖V領域配列(配列番号23)
sdr 1791:QIQLVQSGSELKKPGASVKVSCKASGYTFT NFGVN WVRQAPGKGLKWMG WINTYTGEPSYAQGFTG RFAFSLDASVSTAY LQISSLKAEDTATYFCTR RTNYYGTSYYYAMDY WGQGTTVTVSS
L鎖V領域配列(配列番号18)
fra 1791 : STVMTQSPSFLSASVGDRVTITC KASQSVSNDVA WYQQKPGQSPKVLIY FASNRYT GVPDRFSGSGYGTDFTLTISSLQAEDVAVYFC QQDYSSPLT FGAGTKLEIK
H鎖V領域配列(配列番号22)
fra 1791:QIQLVQSGSELKKPGASVKVSCKASGYTFT NFGVN WVKQAPGKGLKWMG WINTYTGEPSYADDFKG RFAFSLDASASTAY LQISSLKAEDMATYFCTR RTNYYGTSYYYAMDY WGQGTTVTVSS
【0061】
この実験では、AbbL、FraL、SdrL、VenLの4種類 × AbbH、FraH、SdrH、VenHの4種類を組み合わせた合計16種類の配列組合せから各2クローンずつについて実験を行ない平均値を求めた。以上の結果より、Kd値を基に表4に示すように4グループに分類できる。それぞれのグループより1種類を選抜し以降の実験で使用した。
コントロール:c2B8
グループI: Kd = 20 nM<
グループII: Kd = 10−20 nM
グループIII: Kd = 8-10 nM
グループIV: Kd = <8 nM
【0062】
表4 ヒト化抗体結合解離定数
【表4】
【0063】
表5 ヒト化抗体結合解離定数
【表5】
【0064】
さらに、マウス抗体8種類でのアポトーシス実験結果を図7a〜図7dに示す。4種類全ての細胞においてマウス抗体8種類および既知のCD20抗体2B8、2H7について2つのタイプに分けることができた(但し一部例外を除く)。
グループA:m0924 , m1422 , m1791 , m2B8
グループB:m1228 , m1402 , m1712 , m1736 , m1782 , m2H7
(但し、m0924はSU−DHL4細胞ではグループBに含まれる)
すなわち、抗CD20抗体単独で十分なアポトーシス誘導能が示され、2次抗体によるクロスリンク条件下でもほぼ同程度であるグループAと抗CD20抗体単独でのアポトーシス誘導能は十分に示されないがクロスリンク条件下で大きく増加するグループBである。またグループAに含まれる抗体は親和性が2B8と同程度であり、グループBに含まれる抗体は2B8より高い親和性であるものが含まれる。アポトーシス誘導に2次抗体の存在を必要とせず、単体でアポトーシス誘導が可能なグループAの方が医薬としては都合よいといえる。
細胞別にみるとアポトーシスの割合がRAJI、WIL2−NS、RCK8では高いものでも30〜40%であるのに対し、SU−DHL4では高いもので80%以上を示す結果となった。
【0065】
ヒト化抗体4種類での結果を図8a〜図9dに示す。
マウス抗体同様、4種類全ての細胞においてヒト化1791抗体4種類について2つのタイプに分けることができた。
グループA:fv, ff
グループB:sf, ss, C2B8
C2B8と同等の親和性を示すグループAのfv、ff抗体はクロスリンク無しではアポトーシス活性をほとんど発揮せず、クロスリンク条件下で明らかに活性を持つ。グループBのsf、ss抗体はグループAの抗体より、解離定数が大きく親和性は弱いが、これらの抗体単独でC2B8より高いアポトーシス活性を示した。
抗CD20抗体によるB細胞に対するアポトーシス誘導能について、単独で十分なアポトーシス誘導能を示す場合、クロスリンク条件下でもその割合はほぼ同等であるが、抗体の種類、未飽和条件などで抗CD20抗体単独では十分なアポトーシス誘導能が示されない場合、クロスリンク条件下でアポトーシス活性は増加すると考えられる。
なお、図9a〜図9dは、実験日の抗体を加えない条件での早期アポトーシス(%)を1とするグラフである。
【実施例4】
【0066】
ヒト化抗体の結合解離定数(Kd値)と細胞増殖阻害活性との関連性
実施例3でヒト化抗体をグループAとグループBに分けた結果をふまえて、表5に示す各hz1791クローンについて、ヒトCD20抗原に対するKd値(nM)とアポトーシス誘導活性(%)およびCDC活性(%)との関係を調べた。Kd値の測定は実施例2に記載のごとく行った。CDC活性の測定は実施例2に記載のごとく行った(ただし、抗体量とCDC活性の関係を調べる実験においては後述のごとく抗体を生成したものを用いた)。ADCC活性の測定は実施例2に記載のごとく行った。アポトーシス活性の測定は実施例3に記載のごとく行った。使用したB細胞はRaji、SU−DHL4、WiL−2、およびRCK8であった。それぞれの細胞につき、4種のクローンfv、ff、sf、およびssに関するデータを図10a〜図10dに示す。
【0067】
アポトーシス活性に関しては、いずれの細胞を用いて試験した場合においても同様の傾向が見られた。すなわち、親和性が高い(Kd値が小さい)抗体ほどアポトーシス誘導活性が低く、親和性が低い(Kd値が大きい)抗体ほどアポトーシス誘導活性が高いことがわかった。また、Kd値が約13nMを超えると、アポトーシス活性は一定となる傾向を示した。親和性が高い抗体は、それ自体ではアポトーシス活性を発揮できず、アポトーシスの誘導には二次抗体によるクロスリンクが必要であった。そして、親和性が低い抗体は、それ自身でアポトーシス誘導活性を発揮することがわかった。
【0068】
CDC活性に関しては、Raji細胞およびSU−DHL4細胞を用いた場合には、親和性が高い(Kd値が小さい)抗体ほどCDC活性が高い傾向がみられた。一方、WiL−2細胞およびRCK8細胞を用いた場合には、Kd値が13nM付近に極大値を有する傾向が見られた。
【0069】
これらの知見から、医薬品として有効な候補抗体を見出すことができる、2つの選抜基準を設定した:
−単独ではアポトーシスを誘導しないが、CD20抗原に対する親和性が極めて高く、CDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体;
−単独でアポトーシス誘導活性を持ち、アポトーシスとCDCにより抗ガン効果を発揮しうる抗体のうち、CD20抗原に対する親和性が高いもの。
【0070】
前者の選抜基準では、CD20抗原に対する親和性が高く、かつCDC活性も高いものを選抜することが好ましい(Kd値が低いほどCDC活性が高い傾向が見られる)。この場合、単独ではアポトーシスを誘導しない抗体の選抜なので、CDC活性の値のみに注目してよい。前者の選抜基準を満たすクローンの場合には、単独でアポトーシス誘導は引き起こさないが、親和性およびCDC活性か極めて高いことから、細胞枯渇を促すことができる。
【0071】
後者の選抜基準では、抗体のアポトーシスとCDCの総和が大きく、かつ、CD20抗原に対する親和性が高いものを選抜することが好ましい。したがって、後者の選抜基準を満たすクローンの場合には、親和性は高くないが、アポトーシス活性が高いという利点を有し、アポトーシス誘導とCDCの相乗効果により細胞枯渇を促すことができる。
【0072】
さらに、上の2つの選抜基準の境界点を決定するために、4種の細胞のアポトーシス活性の中点を与えるKd値を作図により求めた(図10a〜図10dのグラフ中に点線で示す)。これら4つのグラフから、アポトーシス活性の中点を与えるKd値に大きな相違はなく、Raji細胞の場合には約9.5nM、SU−DHL4細胞の場合には約8.5nM、WiL2細胞の場合には約9.5nM、RCK8細胞の場合には約10nMであった。これらの結果から、約9.5nMのKd値を上の2つの選抜基準の境界点とした。
また、後者の選別基準のKd値の上限は、WiL2細胞およびRCK8細胞の場合にCDC活性の極大値が見られることを考慮して(図10cおよび図10d)、アポトーシス活性とCDC活性の総和ができるだけ大きく、しかも親和性が高い(Kd値が小さい)範囲ということから、Kd値の上限を約13nMとした。
【0073】
したがって、前者の選抜基準に従って、ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nM未満であって、できるだけKd値が低く、かつ、CDC活性の高い抗体を選抜すると、クローンffとfvが該当する(図10a、図10b)。また、後者の選抜基準に従って、ヒトCD20抗原に対するKd値が約9.5nMないし約13nMであって、できるだけアポトーシス活性とCDC活性の総和が大きく、かつ、Kd値が小さい抗体を選抜すると、クローンsfが該当する(図10c、図10d)。
【0074】
次に、上記4種のヒト化クローンからfv、ff、sf、およびssを選択し、Raji、SU−DHL4、WiL−2、およびRCK8細胞を用いてCDC活性およびアポトーシス活性を測定した。結果を、それぞれ表6および表7に示す。リツキシマブ(c2B8)およびクローン1791(c1791)は、それぞれ対照である。
【0075】
表6 本発明のヒト化抗体のCDC活性
【表6】
【0076】
表6の結果から、クローンffおよびfvは、リツキシマブと同程度あるいはそれよりも強いCDC活性を発揮することがわかった。また、sfはWiL2細胞およびRCK8細胞において極めて高いCDC活性を示した。
【0077】
抗体濃度とCDC活性の関係を調べるための実験も行った。抗体は実施例2に記載のごとく調製したものよりも精製が進んだものを使用した。精製は下記の手順にて行った。
抗体産生細胞株(遺伝子組み換えCHO−DG44細胞)はHydrolysateを含むIS CHO-CD/w(Irvine Scientific, Cat. No.91119)に、4mM GlutaMax(Invitrogen, Cat 35050-061)、200μg/ml G418(Sigma,Cat.No.A1720-5G)を添加した培地で37℃でCO2濃度5%のCO2インキュベーター内で培養、週2回の継代により維持した。継代後約2週間経過した細胞培養液を室温、3500r.p.m.で5分間遠心分離し、培養上清を回収し、0.45μmシリンジフィルターで濾過した。50mM Tris-HCl,pH7.0で平衡化した。Hi Trap Protein A HP(GE Healthcare, Cat No. 17-0402-01)カラムに、培養上清を添加後、50mM Tris-HCl,pH7.0で洗浄した。0.1Mクエン酸,pH4.0で溶出し、400μlづつ採取し、その10/1量にあたる40μl 1M Tris-HCl,pH9.0で中和した。100倍量のPBSに対して、Slyde-A-Lyzer 10K Dialysis Cassetes(PIERCE CatNo.66453)を用いて2.5時間を2回後、15〜18時間1回の透析を行った。
透析後のサンプルをVIVA SPIN 50,000MWCO PES(VIVASCIENCE CatNo.VS0231)を用いて濃縮した。このサンプルをPBSで平衡化したHiLoad 16/60 superdex 200prep grade(GE Healthcare CatNo.17-1069-01)カラムに添加した。精製サンプルを0.22μmシリンジフィルターで濾過した後、VIVA SPIN 50,000MWCO PES(VIVASCIENCE CatNo. VS0231)を用いて濃縮を行った。抗体濃度はBECKMAN COULTER DU530を用いてA280の値より算出した。
【0078】
Raji、SU−DHL4、WiL−2、およびRCK8細胞に対するヒト化抗体fv、ff、sf、ss、およびキメラ抗体c1k179の、濃度とCDC活性の関係を図11a〜図11dに示す。いずれの実験系においても、濃度5μg/ml以上においてヒト化抗体fv、ff、sf、およびssのCDC活性はリツキサン(C2B8)の活性と同程度であるかあるいはそれを上回っていた。
【0079】
Raji細胞(浮遊細胞)に対するKd値が約9.5nM未満であって、しかもCDC活性の高い抗体として選別されたクローンfvおよびff(CDC活性が期待されるクローン)は、濃度5μg/ml以上においていずれの細胞に対してもリツキシマブよりも高いCDC活性を示し、特にSU−LDHL4細胞に対するCDC活性が高く、Raji細胞およびRCK8細胞に対してもCDC活性が高いことがわかった。
【0080】
Raji細胞(浮遊細胞)に対するKd値が約9.5nMから約13nMの範囲であって、できるだけアポトーシス活性とCDC活性の総和が大きく、かつ、Kd値が小さい抗体として選別されたクローンsf(CDC活性とアポトーシスの両方が期待される)は、濃度5μg/ml以上においていずれの細胞に対してもリツキシマブと同程度または高い細胞溶解活性を示し、特にSU−LDHL4細胞に対する溶解活性が高く、Wil2細胞およびRCK8細胞に対する溶解活性が他の抗体よりも高いことがわかった。
【0081】
Raji、SU−DHL4、WiL−2、およびRCK8細胞に対するfv、ff、sf、およびssのアポトーシス活性についても調べた。表7に結果を示す。
【0082】
表7 本発明のヒト化抗体のアポトーシス活性
【表7】
【0083】
表7の結果から、クローンsfは、リツキシマブと同程度あるいはそれよりも強いアポトーシス誘導活性を有すること、アポトーシス誘導に二次抗体を必要とせず、単独で十分なアポトーシス活性を発揮することがわかった。さらに、クローンsfのアポトーシス活性とCDC活性の総和も、試験したすべての細胞においてリツキシマブを上回っており、特にWiL2細胞およびSU−DHL4細胞において大きな値であった(表6、図11a〜図11d、および表7参照)。
【0084】
Raji、SU−DHL4、WiL−2、およびRCK8細胞に対するfv、ff、sf、およびssのADCC活性についても調べた。抗体濃度とADCCとの関係を調べた結果を図12a〜図12dに示す(E:T比は25)。E:T比とADCCとの関係を調べた結果を図13a〜図13dに示す(抗体濃度は1μg/ml)。いずれの実験系においても、fv、ff、sf、およびssのADCC活性はリツキサン(C2B8)の活性と同程度であるかあるいはそれを上回っていた。ADCC活性の結果からも、この実験で選抜されたfv、ff、sf、およびssの有効性が示された。
【0085】
これらの結果から、上記のようにして選別された本発明のヒト化モノクローナル抗体はいずれもリツキサンの細胞溶解活性を上回る高い細胞溶解活性を示すことがわかった。したがって、本発明の選抜基準により選抜されたヒト化抗体は、医薬として十分に使用可能なB細胞関連疾患治療効果を有するものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、自然の状態のヒトCD20分子に対する結合親和性の高い、医薬として好適な生物学的活性を示すヒト化抗ヒトCD20モノクローナル抗体、ならびにその選抜方法が提供され、医薬として十分に使用可能なB細胞関連疾患治療効果を有するものを得ることができる。
【受託番号】
【0087】
CHO細胞hz1791-fv10、hz1791-ff34、hz1791-sf43およびhz1791-ss32は、ブタペスト条約の下、平成18年(2006年)3月1日より、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに、各々、FERM BP−10543、FERM BP−10544、FERM BP−10545およびFERM BP−10546の受託番号で寄託してある。
【配列表フリーテキスト】
【0088】
SEQ ID NO: 17: L chain V region sequence of humanized antibody abb 1791
SEQ ID NO: 18: L chain V region sequence of humanized antibody fra 1791
SEQ ID NO: 19: L chain V region sequence of humanized antibody sdr 1791
SEQ ID NO: 20: L chain V region sequence of humanized antibody Ven 1791
SEQ ID NO: 21: H chain V region sequence of humanized antibody abb 1791
SEQ ID NO: 22: H chain V region sequence of humanized antibody fra 1791
SEQ ID NO: 23: H chain V region sequence of humanized antibody sdr 1791
SEQ ID NO: 24: H chain V region sequence of humanized antibody Ven 1791
SEQ ID NO: 25: primer
SEQ ID NO: 26: primer
【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM BP−10543、FERM BP−10544、FERM BP−10545およびFERM BP−10546を有する細胞からなる群より選択される細胞を培養することにより得ることのできる、ヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有するヒト化抗CD20モノクローナル抗体。
【請求項2】
配列番号:17〜20のいずれかのL鎖と配列番号:21〜24のいずれかのH鎖を組み合わせたモノクローナル抗体であって、ヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有するヒト化抗CD20モノクローナル抗体。
【請求項3】
請求項1または2記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が9.5nM未満であって、B細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上である抗体。
【請求項4】
請求項1または2記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が9.5nM未満であって、Raji細胞(浮遊細胞)またはSU−DHL4細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体。
【請求項5】
請求項1または2記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、ヒトCD20抗原に対するKd値が9.5nMから13nMの範囲であって、B細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体。
【請求項6】
請求項1または2記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、ヒトCD20抗原に対するKd値が9.5nMから13nMの範囲であって、WiL2細胞またはRCK8細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体。
【請求項7】
RCK8細胞に対するCDC活性がリツキサン(登録商標)(C2B8)の活性よりも高い、請求項1または2記載の抗体。
【請求項8】
独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM BP−10543、FERM BP−10544、FERM BP−10545およびFERM BP−10546を有する細胞からなる群より選択される細胞を培養することを特徴とする、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体の製造方法。
【請求項1】
独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM BP−10543、FERM BP−10544、FERM BP−10545およびFERM BP−10546を有する細胞からなる群より選択される細胞を培養することにより得ることのできる、ヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有するヒト化抗CD20モノクローナル抗体。
【請求項2】
配列番号:17〜20のいずれかのL鎖と配列番号:21〜24のいずれかのH鎖を組み合わせたモノクローナル抗体であって、ヒトCD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有するヒト化抗CD20モノクローナル抗体。
【請求項3】
請求項1または2記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が9.5nM未満であって、B細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上である抗体。
【請求項4】
請求項1または2記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、ヒトCD20抗原に対する解離定数(Kd値)が9.5nM未満であって、Raji細胞(浮遊細胞)またはSU−DHL4細胞に対するCDC活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体。
【請求項5】
請求項1または2記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、ヒトCD20抗原に対するKd値が9.5nMから13nMの範囲であって、B細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体。
【請求項6】
請求項1または2記載のヒト化抗CD20モノクローナル抗体であって、ヒトCD20抗原に対するKd値が9.5nMから13nMの範囲であって、WiL2細胞またはRCK8細胞に対するアポトーシス活性とCDC活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体。
【請求項7】
RCK8細胞に対するCDC活性がリツキサン(登録商標)(C2B8)の活性よりも高い、請求項1または2記載の抗体。
【請求項8】
独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM BP−10543、FERM BP−10544、FERM BP−10545およびFERM BP−10546を有する細胞からなる群より選択される細胞を培養することを特徴とする、ヒト化抗CD20モノクローナル抗体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図11d】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図13d】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図11d】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図12d】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図13d】
【公開番号】特開2010−189402(P2010−189402A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75668(P2010−75668)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【分割の表示】特願2007−525109(P2007−525109)の分割
【原出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【分割の表示】特願2007−525109(P2007−525109)の分割
【原出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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