ヒト多能性幹(hPS)細胞の成長および分化のための3D培養システム
本発明は、ヒト多能性幹細胞(hPS)からの肝細胞様細胞の誘導のための、3D培養システムの使用に関する。特に、本発明は、3D中空繊維キャピラリーバイオリアクターにおける、ヒト多能性幹細胞の、肝細胞様細胞への、方向性のある分化および成熟に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト多能性幹細胞(hPS)からの肝細胞様細胞の誘導のための、3D培養システムの使用に関する。特に、本発明は、3D中空繊維キャピラリーバイオリアクターにおける、ヒト多能性幹細胞の、肝細胞様細胞への、方向性のある分化および成熟に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療および応用研究、例えば薬物スクリーニングまたは毒性学試験など、における、幹細胞ベースの用途の、開発および実施のためには、十分に定義された特徴を有する大量の細胞が必要である。したがって、高収率かつ高純度で、hPSの、成熟した肝細胞様細胞への、方向性のある再現性ある分化を可能にする培養システムが求められている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、肝細胞様細胞を得るための方法であって、
i) バイオリアクター(Bioractors)におけるhPS細胞または肝前駆細胞の播種
ii) 当該バイオリアクターを1種類以上の培養培地で10日〜50日の期間にわたり灌流して、肝細胞様細胞を得ること、
を含む方法に関する。
【0004】
本発明の一局面、本発明は、肝細胞様細胞を得るための方法であって、
i) バイオリアクターにおけるhPS細胞または肝前駆細胞の播種
ii) 当該バイオリアクターを1種類以上の培養培地で10日〜50日の期間にわたり灌流して、肝細胞様細胞を得ること、
を含む方法、により得られる肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造に関する。
【0005】
本発明のさらなる一局面では、本発明は、肝細胞様細胞を得るための方法であって、
i) バイオリアクターにおけるhPS細胞または肝前駆細胞の播種
ii) 当該バイオリアクターを1種類以上の培養培地で10日〜50日の期間にわたり灌流して、肝細胞様細胞を得ること、
を含む方法、により得られる細胞の、治療目的での、または、創薬、医薬製剤、毒性試験における、または、再生医療における、使用に関する。
【0006】
さらなる一実施形態では、本発明は、hPS細胞または肝前駆体を、肝細胞運命に向かって分化させるための、バイオリアクターの使用に関する。
【0007】
序論
凝集体またはマイクロキャリアを用いる、分化に対する現在の3D浮遊培養モデルアプローチは、中央物質交換(central mass exchange)が限られる。より大きな細胞量での、連続的な培地交換と、制御可能なガス圧での分散した酸素添加とを伴う、灌流を基本とした動的培養条件を提供することにより、3D灌流4区画キャピラリー膜バイオリアクター技術は、両方の培養の概念の利点を用いることを可能にする。加えて、医薬品の製造および品質管理に関する基準(good manufacturing practice;GMP)の条件に適した、分化レジームの、閉鎖系への適用が可能である。この技術は、例えば酸素圧、ガス因子適用(gas factor application)、培地因子勾配(medium factor gradients)、または、細胞に対する例えば流速および圧力などの物理的刺激の生成などの、変化するが制御可能な培地およびシステムのパラメータを可能にする。
【0008】
バイオリアクターにおけるhPS細胞の培養
再生医療および応用研究、例えば薬物スクリーニングまたは毒性学試験など、における、幹細胞ベースの用途の、開発および実施のためには、十分に定義された特徴を有する大量の細胞が必要である。したがって、高収率かつ高純度で、未分化のヒト胚性幹細胞の、成熟した肝細胞への、方向性のある再現性ある分化を可能にする培養システムが求められている。
【0009】
最も一般的に用いられる培養および分化の方法は、典型的には、非連続的な培地交換を伴う静的開放系を代表する、プラスチック・ディッシュの形の2D培養システムを利用するものであり、これは、培地交換と培地交換との間の、培養培地中の、代謝産物の蓄積や栄養素の減少といった形で、培養環境の周期的な変化を引き起こす。そのうえ、これらの2D培養は、広範な手作業による介入を要することから大きな労働力を要するものであるため、それ故、より大きな細胞数の取り扱いを実行不可能にする。
【0010】
バイオリアクターにおけるhPS細胞の分化
Soto−GutierrezらによるhESC研究の肝分化が指し示しているのは、複雑なマトリックス構造を用いるかまたは非実質細胞との共培養を用いる、より複雑な環境が、hESCの肝分化を支援するとのことである(Soto−Gutierrez et al. 2006)。Levenbergらは、ES細胞またはEBを播いた、PLGA―ポリ(乳酸‐コ‐グリコール酸)およびPLLA―ポリ(L‐乳酸)の、生分解性の足場において、肝組織様構造の誘導は、アクチビンAおよびIGFでの処理により可能であったとのことを示した(Levenberg et al. 2003)。Baharvandらは、3Dのコラーゲン製の足場における、hESCの、亢進された肝分化について報告した(Baharvand et al. 2006)。したがって、3D培養環境を提供する灌流型バイオリアクターの使用により、胚性幹細胞分化のための、より効率的で、かつ、スケーラブルな方法がもたらされ得る。
【0011】
新たなアプローチは、胚性幹細胞を広げるおよび分化させるための、中空繊維バイオリアクターの使用である。中空繊維キャピラリー膜バイオリアクター技術は、動的灌流培養条件を可能にし、また、自然のままの組織中に見られるような幹細胞の細胞密度を増加させることを可能にする。加えて、より大きな細胞量のためのスケールアップが可能である。しかしながら、周囲キャピラリーの束の周辺の細胞区画と、主に拡散による、栄養摂取と、外部酸素添加とを伴う、典型的な2区画バイオリアクター装置(例えばFiberCell systems社のFiberCell Duet、www.fibercellsystems.com)は、数デシメートルのキャピラリー長に沿った基質勾配の隔たり(distance)を伴う、不均一な物質交換(mass exchange)により制限される。
【0012】
Gerlachらにより開発された3D多区画技術(Gerlach et al. 1994)においては、この典型的な2区画装置に、もう1つの培地の、および、さらなる酸素添加膜区画が加えられた。4つの区画を織り合わせて、繰り返し単位を形成することにより、バイオリアクターのスケーラビリティ(scalability)が可能となり、分散型の培地の灌流および置換が提供され、それと同時に、物質交換(mass exchange)が亢進され、勾配の隔たりが減少する。当該概念は、閉じた、それ故、医薬品の製造および品質管理に関する基準(good manufacturing practice;GMP)に適した、培養環境における、細胞の培養に基づいたものであり、これにより、結果の、可能な臨床転換(clinical translation)のみならず、生物工学的応用もまた容易となる。バイオリアクターにおいて培養された初代ブタまたはヒト肝臓細胞を用いた初期の臨床研究では、当該システムを備えた、臨床的な対外肝臓補助(extracorporeal liver support)の実現可能性が実証された(Sauer et al. 2003)。加えて、初代細胞は、胆管構造およびネオ・シヌソイド(neo−sinusoids)を有する肝臓様組織の形成を含む、それら自身の典型的な微小環境を、そうしたin vitro培養モデル中に作り出すことができる、とのことが示された。成体幹細胞は、非器官型(anorganotypical)微小環境の創出のための、そうしたシステムにおける実質細胞/非実質細胞の共培養からの恩恵を受けられる可能性がある(Gerlach et al. 2003)。
【0013】
hPS細胞は、その独特の特徴ゆえ、基礎科学、薬理学的な薬物スクリーニング、毒性試験、および、再生医療における細胞ベースの治療、への適用のための細胞源としての大きな可能性を保持している。特定の生育条件の下では、hPS細胞は、in vitroで、多種多様な体細胞組織および胚体外組織に分化することが可能である、とのことが実証されてきた(Pera et al. 2004)。したがって、hPS、および、特にhES/hBS細胞は、以前は研究用ヒト胚の利用困難性(inaccessibility)ゆえに不可能であった、初期胚発生の際に細胞の運命を制御するような分子経路および制御機構の研究を可能にするものである。hPS細胞の、可能な臨床適用は、肝機能不全、脊髄損傷または心筋欠損のような器官の欠陥を有する患者における細胞ベースの治療のための、幹細胞由来細胞調製物の提供に見られる。hPS細胞由来の分化した細胞の、創薬における、可能な利用の分野は、標的の同定およびバリデーション、化合物の有効性のスクリーニングならびに安全性評価研究、のような前臨床活動に見られる(Sartipy et al. 2007)。胚毒性試験に関しては、未分化のhPS細胞は、より良い試験システムの開発のための、新たなツールも提供する。
【0014】
哺乳類の肝臓の発生
肝臓は、胚中で発生する最初の器官の1つであり、また、それは、たちまち胎児(胎仔)の体内で最も大きい器官の1つになる。肝臓は、胚前腸の胚体内胚葉上皮(definitive endodermal epithelium)から発生する。肝臓発生の誘導には、最初に、前腸におけるWntおよび繊維芽細胞成長因子シグナル伝達(FGF4)の抑制が必要である。次いで、心臓中胚葉からのFGFと、横中隔間充織からの骨形成タンパク質(BMP)とが、空間的に限定された細胞増殖を誘導し、それにより内胚葉層の肥厚化が引き起こされる。次いで、細胞が上皮から現れて、横中隔中へと移動しはじめる。この内胚葉から現れて横中隔中に集まる細胞の塊は肝芽(liver bud)と称される。器官形成のこのステージにおける内皮細胞との相互作用は、この初期出芽段階に極めて重要である。肝内胚葉(hepatic endoderm)細胞は、この間、機能および形態に関してかなり未成熟であり、今度は肝芽細胞(hepatoblast)と称される。肝芽由来の肝芽細胞の索は、中胚葉に貫入し、卵黄静脈および臍静脈と混ざり合い、これらが肝芽付近で吻合して、毛細血管床を形成する。これらの変遷により肝臓の類洞構造が確立されるが、これは、器官機能に極めて重要なことであり、また、肝臓への土台作りをして胎児(胎仔)の造血を支援する。肝芽中へと移動する造血幹細胞は、グルココルチコイドと共に、さらなる肝成熟を誘導するオンコスタチンM(OsM)を分泌する。この胚の肝臓塊に寄与する他の細胞型は、肝類洞、クッパー細胞および肝星細胞を取り巻く内皮細胞である。これらの細胞により産生される肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor;HGF)は、完全な機能的肝成熟に重要である。肝臓分化の、これら、より後期のステージにおいては、Wntシグナル伝達は、もはや成長および分化を阻害せず、促進する。原因肝臓療法がないこと、および、肝移植用のドナー臓器の入手可能性(availability)が不十分であることが、新しい細胞ベースの肝臓治療の開発に対する要求を生んでいる。損傷した組織と入れ換わるための、増殖および分化の能力を有する幹細胞の移植は、いくつかの臨床的徴候においては、全臓器移植(whole−organ transplantation)に取って代わることができ得るものである。
【0015】
in vitroでのhPS細胞の肝分化
in vitroにおける、HPS細胞、および、特にhES/hBS細胞の、肝分化の方向についての戦略に関する研究の結果、肝分化に対する効果を有する、いくつかのサイトカイン、成長因子および非タンパク質化合物の同定に至った(Heng et al. 2005;Snykers et al. 2008において概説されている)。当該成長因子としては、アクチビンA、BMP2および4、上皮増殖因子(EGF)、FGF1、2および4、HGF、インスリンならびにOsMが挙げられる。当該非タンパク質因子としては、デキサメサゾン(DEX)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ニコチンアミドおよび酪酸ナトリウムが挙げられる。各分化因子の効果の鍵となるのは、タイミング、濃度および他の因子との組み合わせである。hPS由来肝細胞様細胞の特徴決定をするために、種々のマーカーおよび機能試験が利用されてきた(Snykers et al. 2008により概説されている)。免疫細胞化学、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または酵素結合免疫吸着測定法(enzyme−linked immunosorbent assay;ELISA)により調べられたマーカーには、アルファフェトプロテイン(AFP)、アルブミン(ALB)および尿素のような血漿タンパク質、サイトケラチン(CK8、CK18、CK7、CK19)、ならびに、アルファ‐1‐アンチトリプシン(α1AT)、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)およびシトクロムP450アイソエンザイムのような種々の肝細胞特異的酵素、の分泌物が含まれていた。肝細胞特異的機能の発現については、例えば、グリコーゲンの貯蔵の検出や、シトクロムP450アイソザイムに特異的な種々の試験基質の代謝などにより、調べられてきた。
【0016】
hPS細胞の肝分化が記述されている最初に公開されたプロトコルは、第一工程として、EBの誘導を利用し、その後に、肝細胞を豊富にするための種々の成長因子を用いた接着培養が続くものであった(Lavon et al. 2004)。これらの研究では、非常に低い収率および純度の最終細胞集団しか報告されてこなかった。これまでに記述された、最も成功した分化プロトコルは、hESCの胚体内胚葉(definitive endoderm;DE)分化の誘導から開始して、肝臓の器官発生をまねることを試みるものである(Cai et al. 2007)。基本的には、最大80%DE細胞という収率のDE分化にのためには、低下したインスリン/インスリン様成長因子(IGF)シグナル伝達をもたらす低血清/インスリン条件での高濃度のアクチビンAが適用される(Kubo et al. 2004)。この後に、FGF、BMP、HGF、OsM/DEXによる連続処理が続く。このアプローチでは、記述された肝細胞様細胞の収率は、約50%であった。他のプロトコルとしては、ヒストン脱アセチル化酵素活性を阻害する酪酸ナトリウム(NaB)によるhESCの処理が挙げられる(Davie 2003)。分化プロトコルの第一工程における、このエピジェネティックな分化剤の適用により、hESCから10%肝細胞が得られ、また、最大70%の純度の最終細胞集団が得られた(Rambhatla et al. 2003)。アクチビンAによるDE誘導とNaB処理の組み合わせにより、最大70%という肝細胞の収率が達成され、有望な結果が示された(Hay et al. 2008)。
【0017】
まとめると、こうした現在のアプローチにより導き出されるhESC由来肝細胞の収率、純度および成熟度は、未だに最適以下(suboptimal)のものであり、したがって、新たな方法が必要である。本発明は、例えばhBS細胞などのhPSから、これら、または、分化が行われるバイオリアクターにおいてこれらから派生したDE細胞、を播種することによって肝細胞を得るための方法を提供することにより、これらの課題に対処する。
【0018】
hPS由来肝細胞の用途
hPS由来肝細胞の、将来の臨床上の用途は、例えば特定の遺伝的欠陥または急性もしくは慢性肝不全の場合などの肝機能不全を有する患者における、それらの、細胞移植への適用に見られる(Ito et al. 2009)。幹細胞由来肝細胞の移植は、いくつかの臨床的徴候においては、全臓器移植(whole−organ transplantation)に取って代わることができ得るものであり、また、―免疫適合性(immunocompatible)細胞を用いる場合には―免疫抑制療法の必要性を不要にし得るものである。さらなる治療上の1つの選択肢は、移植まで、または、患者の器官の再生までの肝機能の橋渡しをするための、対外肝臓補助のための信頼性の高いヒト細胞源の提供に見られ、これは、対外肝臓装置のための細胞の入手可能性(availability)という既存の課題をも解決するであろう。さらに、対外システムは、また、細胞移植後、その適用した細胞が、十分な肝臓特異的な代謝パフォーマンスを示すまでの、肝機能の橋渡しをするための、興味深い治療上の1つの選択肢をも提供し得る。薬学研究における、可能性のある用途としては、創薬のために必要な新規肝臓アッセイの開発のための、hPS細胞由来肝細胞の使用である。これにより、現存のin vitroツールによる乏しい予測力が克服される可能性があり、また、前臨床段階での、より信頼性が高く関連性のある試験を可能にし、かつ、弱いリード候補が臨床段階に入ってしまうのを妨げることとなるような、新たなヒト細胞ベースの試験システムがもたらされ得る(Jensen et al. 2009)。
【0019】
本発明は、調整培地の製造のための、バイオリアクターの使用にも関する。調整培地(conditioned medium;CM)の製造のための標準的な方法は、不活性MEFフィーダー細胞を高密度で播いた、標準的な培養容器内での、培養培地の、24時間のインキュベーションである。単に、活性が緩まるまで、限られた時間の間、培地調整に用いることができるのみである、大量のフィーダー細胞を製造しなければならないため、この方法は、大きな労働力を要するものであり、かつ、スペースをとるものである。したがって、より大量のCMの製造は、この方法の、乏しいスケーラビリティ(scalability)によって制限される。培養hBS細胞のためのCMの使用に対する代替的アプローチは、明確になっている培養培地の使用である。hESCの、フィーダー非依存性培養に関し、いくつかの明確になっている培地調合物が記述されてきた(Li et al. 2005;Ludwig et al. 2006)。明確になっている培地の使用には、hBS細胞を、完全に動物由来物質がない条件下で培養することができる可能性、といったような、いくつかの利点がある一方で、これの主な欠点は、これらの培地調合物には、組換えサイトカインや成長因子といった、費用のかかるかなりの量の補助物質(supplement)が含まれる、ということである。
【0020】
上記で概説されているように、本発明は、肝細胞様細胞を得るための方法であって、
i) バイオリアクターにおけるhPS細胞または肝前駆細胞の播種
ii) 当該バイオリアクターを1種類以上の培養培地で10日〜50日の期間にわたり灌流して、肝細胞様細胞を得ること、
を含む方法に関する。
【0021】
当該肝細胞様細胞は、肝細胞様細胞を含み、それ故、3D凝集体中に共にクラスター化したような、肝組織様3D構造の形をしていてもよい。当該hPS細胞は、これらに限定されるものではないが、当該定義において記載されているような、ヒト胚性幹細胞または人工多能性幹(iPS)細胞であってもよい。当該肝細胞肝細胞前駆細胞は、胚体内胚葉(definitive endoderm;DE)に似ているのではなくDEであってもよく、または、当該肝細胞前駆細胞は、胎児(胎仔)内胚葉または肝内胚葉(hepatic endoderm)の特徴を有していてもよい。上記で言及したバイオリアクターは、中空繊維キャピラリーバイオリアクターであってもよく、所望により、膜区画を備えたものであってもよい。当該バイオリアクターは、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含んでいてもよい。さらに、当該バイオリアクターは、キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、当該キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含んでいてもよく、所望により、増殖培地の灌流は、当該キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換は、中空繊維膜システム経由で行なわれる。当該キャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とは、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されていてもよい。
【0022】
当該hPS細胞は工程i)で播いてもよく、また、当該灌流は以下のスキームに従ったものであってもよいが、但し、工程2〜6のうちの少なくとも3つが含まれる:
【0023】
【表1】
【0024】
あるいは、これら工程1〜6のうちのすべてが含まれていてもよい。
【0025】
本明細書において詳述されているように、当該培養培地DM‐Aは、増殖培地を含んでいてもよく、かつ、次の成分うちの1つ以上を含んでいてもよい:アクチビンA、bFGF、グルタマックス‐I。
【0026】
本明細書において詳述されているように、培養培地DM‐Bは、例えばRPMIアドバンスト培地(RPMI Advanced medium)等の増殖培地を含んでいてもよく、かつ、次の成分うちの1つ以上を含んでいてもよい:アクチビンA、bFGF、グルタマックス‐I、FCS。
【0027】
本明細書において詳述されているように、培養培地DM‐Cは、例えばRPMIアドバンスト培地等の増殖培地を含んでいてもよく、かつ、次の成分うちの1つ以上を含んでいてもよい:bFGF、aFGF、BMP2、BMP4、グルタマックス‐I、FCS。
【0028】
本明細書において詳述されているように、培養培地DM‐Dは、例えばウィリアムズ培地E等などの肝培養培地を含み、かつ、次の成分うちの1つ以上を含む:BSA、アスコルビン酸、グルタマックス‐I、D‐ガラクトース/D‐ソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGF。
【0029】
本明細書において詳述されているように、培養培地DM‐Eは、例えばウィリアムズ培地E等などの肝培養培地を含み、かつ、次の成分うちの1つ以上を含む:BSA、アスコルビン酸、グルタマックス‐I、デキサメタゾン、D‐ガラクトース/D‐ソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGF、オンコスタチンM。
【0030】
列記したこれらの培養培地はすべて、所望により、rhoキナーゼ阻害剤、例えばBIOまたはBIOのなんらかの変種など、を含んでいてもよい。
【0031】
工程i)の前に、バイオリアクターには、不活性化したフィーダー細胞を播種してもよい。かかるフィーダー細胞は、これらに限定されるものではないが、hFFまたはMEF細胞であってもよい。
【0032】
さらに、バイオリアクターには、hBS細胞およびフィーダー細胞またはDE細胞およびフィーダー細胞、のいずれか関係する方を、工程i)で共播種してもよい。
【0033】
さらに、例えばDE細胞などの肝前駆細胞は工程i)で播いてもよく、また、以下表の工程1および2(太字で示した)は省略されてもよい。
【0034】
【表2】
【0035】
上記で概説されているように、本発明は、hPS細胞、例えばhESC/hBSCなど、の3D培養、および、特に、方向性のある肝分化に重点を置いた、hPS細胞の成長および分化を支援する新規in vitroシステムとしての多区画バイオリアクターシステムにおける前記細胞の培養に関する。結果が指し示しているのは、当該バイオリアクターの3D環境が、標準的な2D培養システムよりも、よりin vivo様である環境を構成しており、それ故、これらのシステムに比べ、hPS細胞の、改善された成長および分化を可能にする、ということである。
【0036】
さらに、本発明は、細胞をバイオリアクターに播く前に、従来型の2D環境において細胞の最初の分化を行う方法に関する。興味深いことに、本発明の発明者らは、2D環境において、胚体内胚葉の方向に向かってhPSの分化を開始させ、その後、それら最初に分化させた細胞をバイオリアクター中へと播くことにより、より純粋な培養がもたらされる、とのことを見出した。2D培養での胚体内胚葉への最初の分化後、それら細胞をバイオリアクターに播く。最初の2D分化ならびにその後のバイオリアクターにおける播種およびさらなる分化の例を、表2および表3〜5に提示する。
【0037】
したがって、これら最初に分化させた細胞は、第3日目〜第20日目、例えば第8日目〜第12日目、例えば第11日目または第12日目、に当該バイオリアクターに播いてもよい。
【0038】
上記の各局面に加え、肝細胞運命に向かうhPS細胞の分化は、アクチビンA、所望によりRHOキナーゼ阻害剤および高成長因子レベルによりさらに刺激してもよい。細胞は、所定の時点で(表3に示されている実験については第12日目、表4に示されている実験については第7日目または第11日目に)バイオリアクター中へと播いて、さらなる分化および成熟が起こるようにしておいてもよい。
【0039】
本明細書において述べられているように、本発明者らは、3Dバイオリアクターを適用することにより、hPSの肝分化が効率的に肝細胞運命の方向に向かう、とのことを見出した。hPSの、肝細胞運命に向かう、効率的な分化を促進するために適用可能な詳細なプロトコルを、以下に、および、特に、本明細書中の実施例において、詳細に記載する。本明細書において説明されているように、hPS細胞の分化は、フィーダー細胞、例えばマウス胚性フィーダー細胞(mouse embryonic feeder cell;MEF)またはヒト包皮繊維芽細胞(human foreskin fibroblast;HFF)など、を使用して、または、使用しないで、促進してもよい。さらに、増殖培地には、hESC培養培地、ならびに、DM‐A、DM‐B、DM‐C、DM‐DおよびDM‐Eとして本明細書に記載の増殖培地のいずれかを含む、なんらかの適切な増殖培地が含まれていてもよい。したがって、本発明には、本明細書中に提示されている増殖培地および分化培地を変更または置き換えるために適用することが当業者によれば明確であるような、増殖培地組成に対するあらゆる変更(例えば増殖培地の成分の除去または追加)も包含される。同様に、例えば遅れた細胞成熟またはステージに特異的な成長因子の添加などに起因する、インキュベーション時間、流速または培養条件のあらゆる変更は、そうした微調整は本発明の自明な応用であると考えるべきものであるため、本発明の範囲内に含まれる。
【0040】
最初の細胞播種の前に、所定の期間、例えば24〜72時間、にわたる、適切な増殖培地の再循環により、バイオリアクターを調整してもよい。分化の任意のステージにおいて、細胞を分化させるために使用されるあらゆる培地を含む、任意の適切な培地および流速を適用してもよい。あるいは、当該調整を最小限にすることにより、バイオリアクターに細胞をほぼ即時に播くことを可能にしてもよい。
【0041】
バイオリアクターにおいて適用される流速は、例えば分化のステージ、播種規模、細胞の成熟、増殖培地の粘度等の、いくつかの要因に依存してもよい。ガス区画中の空気/CO2混合物の流速は、0.2ml/分〜120ml/分、例えば10〜80ml/分など、例えば30ml/分など、であってもよい。
【0042】
本発明によれば、細胞は、任意の適切な濃度または数でバイオリアクターに播いてもよい。非限定的な例として、1×106〜10×108個の細胞、例えば2.5×107〜10×107個の細胞など、をバイオリアクターに播いてもよい。
【0043】
pH、酸素の分圧(pO2)および二酸化炭素の分圧(pCO2)ならびに酸/塩基状態を定期的に測定してもよい。空気/CO2混合物は、特定のpH値ならびにO2およびCO2の分圧を維持するために変えてもよい。したがって、空気/CO2混合比は、5〜9の間の、例えば7.2または7.3などの安定したpHを維持するために調整してもよい。
【0044】
当該バイオリアクターには、hPSをバイオリアクターに播く前に、フィーダー、例えばMEF細胞など、を播いてもよい。例えば、このフィーダー細胞は、例えばhPS細胞をバイオリアクターに播く5〜0日前、例えば1〜4日前など、例えばhPS細胞をバイオリアクターに播く2日前など、に播いてもよい。
【0045】
hPS細胞をバイオリアクターに播いた後、増殖培地は、決まった間隔を置いて変更してもよい。分化培地組成は、細胞分化スピードおよび細胞成熟に応じて、1〜15日毎に変更してもよい。増殖培地組成、供給速度および増殖培地組成の変更間の間隔に関するインスピレーションについては、本明細書の表2を参照のこと。
【0046】
バイオリアクターにおける分化(differentiaion)の前、最中および後に、代謝パラメータをモニタリングしてもよい。これは、培地アウトフロー中および再循環培地中の可溶性因子を測定することにより行なわれてもよい。パラメータには、関連性がありかつ測定可能なあらゆるパラメータ、例えば以下を含む因子など、が包含されていてもよい:α‐フェトプロテイン(AFP)、アルカリホスファターゼ(AP)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、ベータ‐ヒト絨毛性ゴナドトロピン(β‐hCG)、c‐ペプチド、胎児性癌抗原(CEA)、サイトケラチンフラグメント19(Cyfra21‐1)、エリスロポエチン、エストラジオール、卵胞刺激ホルモン(FSH)、第II‐V‐X‐XIII因子、フィブリノーゲン、ガンマ‐グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、グルコース、乳酸塩、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、黄体形成ホルモン、神経特異的エノラーゼ(NSE)、重量オスモル濃度(osmolality)、オステオカルシン、偽コリンエステラーゼ(PCHE)、プレアルブミンプロゲステロン、プロラクチン、S‐100、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)、トランスフェリン、グルタミン、グルタミン酸塩、グルコース、乳酸塩、アンモニウム、pH、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、アクチビンA、インスリンおよびアルブミン、尿素、ガラクトースおよびソルビトール。これらの化合物を測定するための、任意の適用可能な方法を適用してもよい。各物質の産生または消費率は、その日の実際の廃棄体積に、供給培地中の物質濃度と廃棄培地中の物質濃度との間の差を掛けることにより、例えば1日毎に算出してもよい。
【0047】
上記のパラメータまたは物質に加え、培養物の代謝活性を試験してもよい。例として、バイオリアクターの、フェナセチン、ジクロフェナクおよびミダゾラムを、第I相シトクロム(CYP)P450酵素CYP1A2、CYP2C9およびCYP3A4経由で代謝する能力を試験してもよい。この試験は、例えば培養条件および増殖培地組成を分化の最中に調整するなどのために、分化の任意のステージで行なってもよい。しかしながら、細胞を、完全にまたは部分的に肝細胞運命の方向に向かわせるか、または、肝細胞または肝細胞様細胞に分化させる場合には、この、代謝活性の試験は、比較的後期の分化ステージで、最も関連性があってもよい。例として、当該試験は、分化の第30日目〜第60日目の間、例えば細胞の播種後の第40日目および第47日目など、に行なってもよい。
【0048】
例として、以下のスキームに従って、CYP P450活性試験を行ってもよい:
CYP1A2: フェナセチン −> アセトアミノフェン
CYP2C9: ジクロフェナク −> 4’OH ジクロフェナク
CYP3A4: ミダゾラム −> 1’OH ミダゾラム
【0049】
試験物質を再循環培地中へと注入して、試験開始時に以下の濃度を得てもよい:0.5〜10μM、例えば3μMなど、のミダゾラム、1〜25μM、例えば9μMなど、のジクロフェナク、および、2〜60μM、例えば26μMなど、のフェナセチン。次いで、バイオリアクターを再循環モードで24時間作動させることができ得る。次いで、再循環からの試料を、実験開始前と、1、4、8および24時間後とに採取し、試験物質の代謝産物について、例えば液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)などにより、分析することができ得る。
【0050】
RNAの単離、cDNA合成、アレイハイブリダイゼーションおよびデータ解析は、当該分野において知られている任意の方法により行なうことができる。加えて、細胞および増殖培地の、組織化学的分析および免疫組織学的(immunihistological)分析ならびに電子顕微鏡分析は、当業者の、入手可能なツールボックスの一部を形成する任意の機器および試薬を用いて行なってもよい。
【0051】
上記で概説した詳細に従って、得られた細胞を、分化特異的マーカーに関して分析してもよい。一例を挙げれば、第0日目、播種日、およびバイオリアクターのシャットダウン日からなる測定時点で、4つの群のマーカーを測定してもよい(肝遺伝子、胎児(胎仔)/未成熟肝細胞に対するマーカー、未分化細胞に対するトランスポーターおよびマーカー)。比較目的のために、2D培養のみの後に得られた細胞を含む対照群が含まれて、適宜分析されてもよい。
【0052】
本発明のさらなる一局面は、未分化hPS細胞の培養のための調整培地の製造のための、バイオリアクターの使用に関する。
【0053】
本発明の発明者らは、不活性HFFの存在は、それらHFFがその活性を緩めるまで、hESC分化の開始を遅らせる、とのことを観察した。この、HFFの、多能性を支援する活性は、そのアクチビンAの産生と相互に関係している可能性がある。HFFフィーダー細胞の挙動をさらに調べるために、HFFのみを用いたいくつかの実験を、2D培養において、および、2つのバイオリアクターにおいて、行なった。
【0054】
1つの実験においては、バイオリアクターには、活性HFFを播種するが、これは、HFF増殖を刺激するべく血清およびbFGFを添加した培地で培養されることとなる。グルコース消費および乳酸塩産生のレベルにより、細胞数の増加をモニタリングする。十分な細胞数に達したときに、培養培地を、調整のためにhBS培地に変える。最適培地交換速度は、品質管理パラメータとして、例えば調整培地中のアクチビンAおよびグルコースの濃度を測定して、決定されなければならない。低グルコースレベルは、培地供給速度を増加させることに対する要求を指し示している可能性があり、また、低アクチビンAレベルは、hESC多能性を促進するのに不適切な、不十分な調整に対するサインである可能性がある。
【0055】
2Dおよび3D実験からの観察が示すのは、アクチビンA産生は、血清代替物(serum replacer)を含有する培地と組み合わせたbFGFにより刺激される、ということである。血清を添加した培地では、bFGFは、アクチビンA産生を刺激しなかったが、活性HFFに対する強い分裂促進作用を呈した。この作用は、培地へのbFGFの添加に際してグルコースおよび乳酸塩の代謝のレベルを上昇させることを特徴とする、バイオリアクター実験HFF‐1においても観察された。この分裂促進作用は、血清代替物(serum replacement)を添加した培地を使用した、バイオリアクター実験HFF‐2においては観察されなかった。この実験では、グルコースおよび乳酸塩の代謝は、細胞が増殖していないことを示す、ある一定のレベルに留まった。
【0056】
したがって、これらの所見は、当該バイオリアクター技術は、未分化hPS細胞をフィーダーフリーで広げるために必要な、調整培地の製造に適用できる可能性がある、とのことを説明するものである。
【0057】
CMを製造するための、バイオリアクターにおけるHFFの培養は、従来法に対する代替法となり得る。それにより、定められた速度の培地インおよびアウトフローならびに培養パラメータの自動制御を可能にするような、スケーラブルなシステムにおける、高い細胞密度のヒトフィーダー細胞が可能となるであろう。したがって、調整プロセスの標準化が可能となり、結果として、手動による方法に比べ、製造されたCMの、向上した品質がもたらされることとなる。活性フィーダー細胞が、多能性の維持も支援している、とのことが示されている(Xie et al. 2005)ことから、当該バイオリアクターを用いる場合の、1つのさらなる利点は、活性フィーダー細胞を用いることができる可能性であろう。これは、従来の2D培養では最初のバイオリアクター播種用に製造しなければならない、活性フィーダー細胞の数を減少させるであろう。
【0058】
さらに、hESC由来の分化した細胞を含有する当該バイオリアクターは、医学療法における対外装置として用いてもよく、また、例えば薬物代謝研究および奇形腫形成による多能性試験のような用途における動物試験に対する代替として用いてもよい。
【0059】
あるいは、本発明は、基礎研究、薬理学的な薬物スクリーニングおよび細胞ベースの臨床適用に必要な、大量の、未分化の、または、分化したhBS細胞の製造のための、スケーラブルなシステムとして用いてもよい。しかしながら、これらの用途のためには、本明細書において開示されておりかつ特定の細胞型が非常に豊富な細胞調製物をもたらす方法のような方法が、重要な前提条件である。
【0060】
したがって、本発明は、本明細書において開示されている方法により得られる肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造にも関する。
【0061】
本発明の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造は、上昇したレベルの1つ以上の肝マーカー遺伝子または肝トランスポーター遺伝子を発現していてもよい。
【0062】
そのような(suche)肝マーカー遺伝子の例は、アルブミン、CYP1A2、CYP2C9、CYP3A4、CYP7A1、TATおよびUGT2B7を含むリストから選択されてもよく、また、1つ以上の肝マーカーの発現は、本明細書の図7中に、試料:バイオリアクター第26日目、として列記されているような肝マーカー遺伝子の発現に典型的に似て(resempble)いてもよい。図7は、本発明の、一般的発明概念の一部を形成する、とのことが本明細書により意図されている。
【0063】
さらに、本発明の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造は、上昇したレベルの肝トランスポーター遺伝子を発現していてもよい。これらの遺伝子は、ABCC2/MRP2、FABP1、OATP2、OCT‐1を含むリストから選択されてもよい。1つ以上の肝トランスポーター遺伝子の発現は、本明細書の図9中に、試料:バイオリアクター第26日目、として列記されているような発現パターンに似ていてもよい。図9は、本発明の、一般的発明概念の一部を形成する、とのことが本明細書により意図されている。
【0064】
本発明の一局面は、膜区画を備えたバイオリアクターにおける、in vitroで導かれた(in vitro derived)肝細胞様細胞に関する。一局面では、これら細胞は、hPS細胞または肝細胞前駆体から、肝細胞様細胞へ、当該バイオリアクター中で分化したものであってもよい。
【0065】
上記で言及したバイオリアクターは、中空繊維キャピラリーバイオリアクターであってもよく、所望により、膜区画を備えたものであってもよい。当該バイオリアクターは、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含んでいてもよい。さらに、当該バイオリアクターは、キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、当該キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含んでいてもよく、所望により、増殖培地の灌流は、当該キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換は、中空繊維膜システム経由で行なわれる。当該キャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とは、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されていてもよい。
【0066】
さらに、当該バイオリアクター肝細胞様細胞または当該バイオリアクターにおける肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造は、例えばROCK Rhoキナーゼの阻害剤などの細胞生存因子の存在下で成長していてもよい。
【0067】
本発明は、調整培地を製造するための方法であって、
a) バイオリアクターにおけるフィーダー細胞の播種の工程
b) 当該フィーダー細胞を成長させる工程
を含む方法にも関する。
【0068】
上記で詳述されているように、上記で言及したバイオリアクターは、中空繊維キャピラリーバイオリアクターであってもよく、所望により、膜区画を備えたものであってもよい。当該バイオリアクターは、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含んでいてもよい。さらに、当該バイオリアクターは、キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、当該キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含んでいてもよく、所望により、増殖培地の灌流は、当該キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換は、中空繊維膜システム経由で行なわれる。当該キャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とは、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されていてもよい。
【0069】
しかし、本発明のさらなる一局面は、本明細書における方法のいずれかにより得られる細胞の、治療目的での、または、創薬、医薬製剤、毒性試験における、または、再生医療における、使用に関する。
【0070】
本明細書において開示されているように、本発明の発明者らは、当該3D灌流培養技術が、高度に制御された環境において高密度で幹細胞を広げるおよび分化させるための有望なツールに相当し、また、例えば特定の遺伝的欠陥または急性〜慢性肝不全の場合などの肝機能不全を有する患者における移植のための胚性または多能性幹細胞由来細胞調製物の製造におそらく使用することができるであろう、とのことを見出した。さらなる治療上の1つの選択肢は、hESC由来肝臓細胞をヒト細胞源として用いることにより、移植まで、または、器官再生までの肝機能の橋渡しをすることを意図した、対外肝臓補助のための、当該バイオリアクター技術の適用に見られる。対外システムは、また、幹細胞移植後、その適用した細胞が、十分な機能的パフォーマンスを示すまでの、肝機能の橋渡しをするための、有用な治療上の1つの選択肢をも提供し得る。最終的には、当該バイオリアクターシステム中で広げ、維持した、幹細胞および幹細胞由来の分化した細胞は、内在性の再生プロセスをin vivoで刺激するような再生物質を製造するためにも使用することができる可能性がある。
【0071】
したがって、本明細書に記載の方法により得られる当該細胞または3D細胞構造は、創薬、毒性試験、肝毒性試験に、または、薬物トランスポーター、薬物代謝酵素、肝形成、初期肝形成、肝細胞成熟もしくはヒト肝再生障害(hepatoregenerative disorder)の研究に、用いることができる。
【0072】
さらに、当該バイオリアクターにおける成長の後に得られる、かつ、本明細書に記載の方法のいずれかに従った、細胞または細胞の3D構造は、医薬として適用してもよく、または、例えば肝臓組織の変性などの組織変性および/または原発性胆汁性肝硬変を含む自己免疫障害;脂質異常症を含む代謝障害;例えばアルコール乱用により引き起こされる肝臓障害;例えばB型肝炎、C型肝炎、およびA型肝炎などの、ウィルスにより引き起こされる疾患;例えば医薬品に対する急性中毒反応により引き起こされる肝壊死;ならびに例えば肝細胞癌を患う患者における腫瘍除去、により引き起こされる病態および/または疾患の予防および/または治療のための組成物の製造のために適用してもよい。加えて、本明細書のこれら細胞または3D構造は、代謝病態および/もしくは疾患の治療および/もしくは予防のための組成物の製造のために、または、本明細書において開示されている方法のうちのいずれかに従ったバイオリアクターにおいて成長させた細胞を、化合物に暴露して、その化合物との接触により生じる、それらの細胞におけるなんらかの表現型の変化または代謝の変化を測定することを含む、肝細胞の機能を調節する能力に関して化合物をスクリーニングするための方法として、用いてもよい。
【0073】
hPS由来細胞の不十分な組織適合性の可能性、および、移植された細胞調製物中の未分化hESCの混入による内在する腫瘍形成の危険性に関する安全面、についても検討されている。したがって、これらの課題を解決し得る組織適合性多能性細胞を導き出すことを目的として、代替となる細胞源が調べられている。当該バイオリアクター技術は、現時点でゴールドスタンダードであるhESCとの各候補細胞型の比較および特徴決定に適用できる可能性がある。
【0074】
本発明の一部として、当該バイオリアクターにおける、hPS細胞(hPSC)の、方向性のある肝分化、に関する2つのパイロット実験を最初に行ない、実現可能性を評価した。この2つのバイオリアクター実験(HepDiff‐1およびHepDiff‐2)は、不活性化MEFの、当該バイオリアクターのうちの1つの中へのさらなる播種についてのみ異なるものであった。用いた分化プロトコルは、MEF上で培養されるhPSC用に開発されたものであった(表1および2、また、図3も参照のこと)。播種後、hPSCを、これら実験の最初の4日間の間、血清代替物(serum replacement)を含有する標準培養培地(DM‐A、表2参照)中で培養した。この最初の工程は、当該未分化細胞が、あらたな培養環境に適合し、HFFがその分化阻害活性を失うときであるものの自発的な分化の開始前に、分化を開始できるよう、選択した。この工程は、次の3つの所見に基づいて選択した:第一に、予備バイオリアクター実験において、LDHのピークにより示される細胞死の割合の増加が、細胞播種後に観察された。この増加した細胞死は、2D培養からの細胞採取のプロセス、播種プロセス自体、に起因するものであるか、および/または、それらの細胞が適合しなければならないバイオリアクターの変化した環境により誘導されたものである可能性がある。第二に、次の工程において適用された分化条件には、細胞に対する高い選択圧が含まれる。したがって、これらの条件を、細胞播種後すぐに適用することは、細胞にとってはもう1つのストレス要因であり、増加した細胞死をもたらし得るものである。第三に、方向性のある分化の開始前の4日という培養の長さは、先の実験のうちのいずれにおいても分化マーカーがこの期間内に検出されず、また、アクチビンA産生により測定されたHFF活性が一定に減少した、という所見に基づいて選択した。
【0075】
追加の不活性MEFを播種したバイオリアクターHepDiff‐2は、フィーダーを含有しないHepDiff‐1に比べ、グルコースおよび乳酸塩の、よりずっと高い代謝を示した(図4)。これは、不活性化MEFの存在が、hESCにとって細胞保護的であり、播種後のよりよい細胞生存をもたらす、とのことを指し示している。これらバイオリアクターにおけるAFP産生およびCYP450活性を比較した場合に、フィーダーの非存在下における、より低い細胞生存も明らかになっている。これらのパラメータのレベルは、フィーダー細胞を含有するバイオリアクターHepDiff‐2に比べて、フィーダーを含有しないバイオリアクターHepDiff‐1では約8倍低かった(図5)。AFPの産生は、両バイオリアクターにおいて観察され、およそ実験第17日目に開始された。これは、初期肝分化のサインであると解釈することができ、先行する細胞のDE分化がうまくいったとのことが推定される。AFPは、胎児(胎仔)肝臓の主要な細胞型である肝芽細胞への、DE細胞の分化に対するマーカーであるが、原始内胚葉細胞への、未分化細胞の分化を指し示すこともある。CYP1A1/1A2によるフェナセチンのかなりの代謝がこれらバイオリアクターにおいて検出された(図6b)。CYP1A1は、胎児(胎仔)肝臓で妊娠第一期および第二期に発現し、肺および副腎組織のような他の胎児(胎仔)組織でも発現し、成体肝臓ではもう検出することはできなくなるが、一方、CYP1A2、CYP2C9およびCYP3A4の発現は、胎児(胎仔)肝臓にはなく、成体肝臓では発現する(Hines et al. 2002)。
【0076】
上記で概説されているように、当該分化プロトコルの第一工程は、胚体内胚葉(definitive endoderm;DE)の方向に向かうhPSC分化の誘導である。このプロトコルでは、低血清条件における高アクチビンA濃度での処理により、hPSCの、DE細胞への、高率の分化が達成される。適切な培養培地の例は、RPMIアドバンスト培地に基づいたものであってもよい。当該培養培地には、0.5〜2%のグルタマックス‐I、1〜10ng/mlのbFGF、10〜200ng/mlのアクチビンA、または、10〜200μg/mlのゲンタマイシン、といった成分のうちの1つ以上が添加されていてもよい。あるいは、または、その後の使用のためには、もう1つの適切な培養培地は、RPMIアドバンスト培地に基づいたものであって、かつ、0.5〜2%のグルタマックス‐I、0.1〜1%のFCS(熱非働化)、1〜10ng/mlのbFGF、10〜200ng/mlのアクチビンA、または、10〜200μg/mlのゲンタマイシン、といった成分のうちの1つ以上を含んでいてもよい。
【0077】
肝臓細胞の方向に向かうさらなる細胞分化がうまくいくためには、この工程は極めて重要である。DE誘導後、次の2つの分化工程は、細胞の分化を、肝芽細胞表現型の方向に向かわせる。最終工程は、完全に分化した肝細胞への細胞成熟を支援するべきである。
【0078】
適用した分化条件を評価するために、インスリンおよびアクチビンAのレベルを分析した。この分析により、高レベルのインスリンの、高レベルのアクチビンAとの、部分的重なりが明らかとなった(図6a)。この、観察された高レベルのインスリンは、培養培地(例えばDM‐A)に含まれる血清代替物(serum replacer)によってもたらされるものであり、ERBB2受容体シグナル伝達に加えインスリン様成長因子‐1受容体シグナル伝達の刺激によるhPSC増殖および自己複製を支援し得る。DEへの細胞運命決定(cell fate commitment)には、低下したインスリン/インスリン様成長因子シグナル伝達と組み合わせたアクチビン/nodalファミリーメンバーによるシグナル伝達が極めて重要である、とのことも示されてきた。これは、これらバイオリアクターにおける、同時発生の、高いインスリンレベルおよび高いアクチビンAレベルという分化条件が、DEの誘導には最適ではなかった、とのこと、ならびに、おそらく、これが、肝分化がないことに対する理由である可能性が高い、とのことを示している。したがって、同時に作動させた2つのバイオリアクター、BR2およびBR3、を用いて、hPSC細胞の、DEへの、および、ひいては、より成熟した肝表現型への、方向性のある分化を洗練されたものにするために、さらなる実験を行なった。このプロセスは、hPSCを、DE運命の方向に向かって、まず、従来の2Dフラスコ中で、高レベルのアクチビンAおよび他の成長因子を用いて、ある特定の時点でそれらをバイオリアクターの中に播種する前に、部分的に分化させることを含むものであった(実施例19において詳述され、かつ、表4および5において概略的に示されているプロセス)。この、改良されたプロセスは、2D対照に比べ、第12日目に当該バイオリアクター中へと播種し第24日目に採取した細胞において、より高い発現レベルのいくつかの重要な肝マーカーを示し、;特に、5つのマーカー(アルブミン、CYP1A2、CYP2C9、CYP7A1およびUGT2B7)は、すべて、それらバイオリアクター培養試料において、有意に、より高い発現を示した(図7)。いくつかのトランスポーター遺伝子も、それらバイオリアクター培養細胞においてアップレギュレートされ(図9)、最も顕著であったのはABCC2/MRP2およびFABP1であったが、これらの発現は肝細胞型に完全に限られたものではない、とのことには注目すべきである。重要なことに、未分化細胞に対する2つのマーカー、NanogおよびOct4、の発現は、当該最初の未分化の出発物質に比べ、バイオリアクター培養細胞において(および、2D対照において)検出不可能であった、とのことも分かった(図10)。
【0079】
これに続いて、1つよりも多いバイオリアクターにわたり結果に再現性があったとのことを確実にするべく、上述の実験を繰り返した。細胞は、上述のように培養し、2つのバイオリアクターのうちの1つ、BR121またはBR168のいずれか、の中に、異なる2つの時点で(BR121については第7日目、または、BR168については第12日目に)、播種した。細胞は、記載されている(実施例5)ように成熟させ、また、第26日目に、実施例8〜11に記載されているように処理する前に採取した。BR168からの結果が示しているのは、いくつかの肝マーカーは、CYP3A7、CYP7A1、CYP3A4、CYP1A2およびTATを含め、2D対照に比べ、バイオリアクター成熟細胞において、有意にアップレギュレートされた、とのことである(図11BおよびD)。重要なことに、BR121成長細胞も、ほぼ100倍の増加が観察されたアルブミンおよびCYP3A7を含め、2D対照に比べた場合に、肝マーカーのアップレギュレーションを示した(図11AおよびC)。両バイオリアクターにおける細胞は、未分化細胞の2つのマーカー(Oct4およびNANOG)の発現の、著しいダウンレギュレーションも示し(図12)、細胞が分化していたこと、および、もはや多能性ではないこと、が確認された。
【0080】
以下に含まれるのは、hBS細胞の肝分化のための提案プロトコルである。出発物質および細胞アウトプットに応じて、工程を省略または反復してもよい。当業者は、当該個々の成分を、同じ機能を有する1つ以上と置き換えてもよいが、分化実験の基礎として部分的にまたは全体的に用いることもできる例えばBR121およびBR168においてなどの、後のバイオリアクターの作動において用いられる培地の詳細については表6も参照のこと。
【0081】
当該分化プロトコルの際に使用される培養培地は、以下に列記されているような成分を含んでいてもよいが、当該増殖培地を種々のプロトコルに対して最適化するべく、成分を置き換えても、濃度を調整してもよい。
【0082】
hPS培養培地
ベース ノックアウトDMEM
0.5〜2% グルタマックス‐I
0.5〜2% NEAA
10〜50% ノックアウト血清代替物(Knockout Serum Replacer)
20〜75μg/ml ゲンタマイシン
0.05〜1mM β‐メルカプトエタノール
1〜25ng/ml bFGF
【0083】
DM‐A
ベース RPMIアドバンスト培地
0.5〜2% グルタマックス‐I
1〜10ng/ml bFGF
10〜200ng/ml アクチビンA
10〜200μg/ml ゲンタマイシン
【0084】
DM‐B
ベース RPMIアドバンスト培地
0.5〜2% グルタマックス‐I
0.1〜1% FCS(熱非働化)
1〜10ng/ml bFGF
10〜200ng/ml アクチビンA
10〜200μg/ml ゲンタマイシン
【0085】
DM‐C
ベース RPMIアドバンスト培地
0.5〜2% グルタマックス‐I
10〜250ng/ml aFGF
1〜50ng/ml bFGF
10〜200ng/ml BMP2
50〜500ng/ml BMP4
0.05〜1% FCS(熱非働化)
10〜200μg/ml ゲンタマイシン
【0086】
DM‐D
ベース ウィリアムズE(フェノールレッド不含)
1〜2×/500ml SingleQuots(登録商標)
0.5〜2% グルタマックス
0.5〜5g/l D‐ガラクトース
0.5〜5g/l D‐ソルビトール
5〜50ng/ml HGF
0.5〜5ng/ml bFGF
10〜200μg/ml ゲンタマイシン
【0087】
DM‐E
ベース ウィリアムズE(フェノールレッド不含)
1〜2×/500ml SingleQuots(登録商標)
0.5〜2% グルタマックス
0.5〜5g/l D‐ガラクトース
0.5〜5g/l D‐ソルビトール
1〜25ng/ml オンコスタチンM
0.5〜10ng/ml HGF
0.5〜10ng/ml bFGF
0.05〜2μM デキサメタゾン
10〜200μg/ml ゲンタマイシン
0.15〜5μM rhoキナーゼ阻害剤、例えばBIO
【0088】
0.5〜10日間、例えば2日間、にわたり細胞を培養してもよい、IDM‐A
RPMI 1640(+0.01%〜5%PEST、+0.1〜10%グルタマックス)
0.5〜2× B27
10〜200ng/ml アクチビンA
0.1〜10mM NaB
【0089】
1〜10日間、例えば5日間、にわたり細胞を培養してもよい、IDM‐B
RPMI 1640(+0.01%〜5%PEST、+0.1〜10%グルタマックス)
0.5〜2× B27
10〜200ng/ml アクチビンA
0.1〜8mM NaB
【0090】
1〜10日間、例えば3日間、にわたり細胞を培養してもよい、PM‐A
RPMI A(+0.01%〜5%PEST、+0.1〜10%グルタマックス)
10〜200ng/ml aFGF
0.5〜50ng/ml bFGF
5〜250ng/ml BMP2
20〜500ng/ml BMP4
0.02〜5% FBS
【0091】
1〜10日間、例えば2日間、にわたり細胞を培養してもよい、VHM‐A
VitroHES
0.1〜10% DMSO
【0092】
1〜20日間、例えば7日間、にわたり細胞を培養してもよい、VHM‐B
VitroHES
0.2〜20% DMSO
【0093】
1〜30日間、例えば20日日間、にわたり細胞を培養してもよい、MM‐A
WME+SQ(−GA1000)(+1%グルタマックス+0.1%PEST)
1〜100ng/ml OsM
0.01〜15μM DexM
2〜50ng/ml HGF
0.1〜3% DMSO
0.15〜5μM rhoキナーゼ阻害剤、例えばBIO
【0094】
(SingleQuots(登録商標)は、独自(proprietary)濃度の、hEGF、トランスフェリン、ヒドロコルチゾン、BSA、アスコルビン酸、インスリンからなる)
【0095】
略語
AA;アクチビンA
アルブミン(ALB)
アルファ‐フェトプロテイン(AFP)
胚体内胚葉(Definitive endoderm;DE)
FBS;ウシ胎仔血清
FGF2;繊維芽細胞成長因子2
繊維芽細胞成長因子(FGF)
フォークヘッドボックスA2(Forkhead box A2;FOXA2)
肝細胞核因子4、アルファ(HNF4A)
hPS;ヒト多能性幹細胞
ヒト胚性幹細胞(hESC)
KO‐SR;ノックアウト血清代替物(knockout serum replacement)。
【0096】
定義
本明細書で用いられているように、「ヒト多能性幹細胞」(hPS)は、任意の源に由来していてもよい細胞であって、かつ、適切な条件下で、3胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)すべての派生物である種々の細胞型のヒト子孫を産生することができる細胞を指す。hPS細胞は、8〜12週齡のSCIDマウスにおいて奇形腫を形成する能力および/または組織培養において三胚葉すべての識別可能な細胞を形成する能力を有していてもよい。ヒト多能性幹細胞の定義には、ヒト胚性幹(hES)細胞を含む様々な種類の胚細胞(例えば、Thomson, J.A. et al. (1998)、Heins, N. et.al. (2004)を参照のこと)、ヒト胚盤胞由来幹(human blastocyst derived stem;hBS)細胞、ならびに、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)[例えば、Yu, J. et al., (2007);Takahashi,K. et al. (2007)を参照のこと]が包含される。本明細書に記載の種々の方法および他の実施形態は、種々の源に由来するhPS細胞を必要とするものであってもよく、または様々な源に由来するhPS細胞を利用するものであってもよい。例えば、使用に適したhPS細胞は、発生中の胚から得てもよい。加えて、または、あるいは、適したhPS細胞は、樹立細胞株および/またはヒト人工多能性幹(human induced pluripotent stem;hiPS)細胞から得てもよい。
【0097】
本明細書で用いられているように、「胚盤胞由来幹細胞」という語は、BS細胞と表され、ヒトでは「hBS細胞」または「hBSC」と称される。文献中では、この細胞は、しばしば、胚性幹細胞、また、より具体的には、ヒト胚性幹細胞(hES細胞またはhESC)と称される。よって、本発明において用いられる「多能性幹細胞」は、例えばWO03/055992およびWO2007/042225において記載されているような、胚盤胞から調製された胚性幹細胞であってもよく、または、市販のhBS細胞または細胞株であってもよい。
【0098】
本明細書で用いられているように、「hiPS細胞」または「hiPSC」は、ヒト人工多能性幹細胞を指す。
【0099】
さらに、hPS細胞の例は、例として、精巣から単離される、ヒト成人生殖系細胞が挙げられる(Conrad et al. 2008;Kossack et al. 2008;Gallicano et al. 2009)。これらの細胞は、次のような、hESCに類似した特徴を呈する:それらは、多能性マーカーOCT3/4、NANOG、SSEA‐4、TRA1‐81、およびTRA1‐60を発現するものであり、また、高いテロメラーゼ活性を示したものであり、また、正常な核型を維持したまま40回以上(more then 40)にわたり継代培養することが可能であり得る。in vitroでは、それらを、三胚葉すべての、様々な種類の体細胞へと分化させることが可能であり、また、それらは、免疫不全マウス中に移植された場合に奇形腫を形成し得る。最近では、肝細胞性(stemness)因子の導入により、体細胞を、多能性細胞、いわゆる人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPSC)、へとリプログラミングすることができる、とのことも実証されている。まず、OCT4、SOX2、KLF4およびC‐MYCのレトロウィルス媒介性導入を用いたマウス尾端からの繊維芽細胞における多分化能の誘導が示された(Takahashi et al. 2006)。さらなる報告により、4つの転写因子、OCT4、SOX2、NANOGおよびLIN28、または、OCT4、SOX2、KLF4およびC‐MYC、の組み合わせ発現が、ヒト胎児包皮または成人ヒト皮膚繊維芽細胞を多能性細胞へとリプログラミングするのに十分であることが実証された(Takahashi et al. 2007)。これらのヒトiPSCは、その形態学的性質および遺伝子発現の性質により、ヒト胚性幹細胞に似ている。iPSCは、正常な核型を有し、テロメラーゼ活性を発現し、ヒトES細胞を特徴づける細胞表面メーカー(maker)および遺伝子を発現し、ならびに、免疫不全マウス中へと移植された場合の奇形腫形成を含む3種類の一次胚葉すべての進行した派生物へと分化する発生上の潜在能力を維持する。
【0100】
本明細書で用いられているように、「胚体内胚葉(definitive endoderm;DE)」および胚体内胚葉細胞(DE細胞)は、これらに限定されるものではないが、例えば、胚体内胚葉の細胞に典型的な、タンパク質もしくは遺伝子の発現、およびもしくは/もしくは、形態など、を呈する細胞、または、胚体内胚葉の細胞に似たかなりの数の細胞を含む組成物、を指す。
【0101】
本明細書で用いられているように、「肝前駆体」または「肝前駆細胞」は、これらに限定されるものではないが、マーカー、例えば、胚体内胚葉の細胞に典型的な、タンパク質もしくは遺伝子の発現、および/もしくは、形態など、を呈する細胞、または、肝前駆体の細胞に似たかなりの数の細胞を含む組成物を指す。
【0102】
本明細書で用いられているように、「肝細胞様細胞(hepatocyte−like cell;HCLC)」は、少なくともいくつかの成熟肝マーカー、例えばアルブミン、CYP3A4、UGT2B7、OATP‐2、ADH1A、UGT1A6、CYP2C9、CYP2C19およびCYP2D6など、を発現している細胞型を意味するよう意図されたものである。
【0103】
本明細書で用いられているように、「組織様3D構造」という語は、多能性出発物質由来の、in vitroで導かれた3D(3次元)構造を意味するよう意図されたものである。
【0104】
本明細書で用いられているように、「肝組織様3D構造」という語は、肝臓器様組織に似た、in vitroで導かれた組織を意味するよう意図されたものである。
【0105】
本明細書で用いられているように、フィーダー細胞は、単独でまたは組み合わせて用いられる支持細胞型を意味するよう意図されたものである。さらに、この細胞型は、ヒト由来のものであってもよく、または、他の種由来のものであってもよい。当該フィーダー細胞が由来し得る組織としては、胚組織、胎児(胎仔)組織、新生児(新生仔)組織、幼若組織または成人(成体)組織が挙げられ、また、さらには、包皮を含む皮膚、臍帯、筋肉、肺、上皮、胎盤、卵管、腺、間質(stroma)または胸に由来する組織が挙げられる。当該フィーダー細胞は、ヒト繊維芽細胞、線維細胞、筋細胞、ケラチノサイト、内皮細胞および上皮細胞からなる群に属する細胞型由来であってもよい。フィーダー細胞を導き出すために用いることができる具体的な細胞型の例としては、胚繊維芽細胞、胚体外内胚葉細胞、胚体外中胚葉細胞、胎児(胎仔)繊維芽細胞および/または線維細胞、胎児(胎仔)筋肉細胞、胎児(胎仔)皮膚細胞、胎児(胎仔)肺細胞、胎児(胎仔)内皮細胞、胎児(胎仔)上皮細胞、臍帯間葉系細胞、胎盤繊維芽細胞および/または線維細胞、胎盤内皮細胞が挙げられる。
【0106】
本明細書で用いられているように、「mEF細胞」または「MEF細胞」という語は、マウス胚繊維芽細胞を意味するよう意図されたものである。
【0107】
本明細書で用いられているように、「CYP」は、シトクロムP、および、より具体的には、例えばCYP1A1、CYP1A2、CYP1B1、CYP2A6/2A7/2A13、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7およびCYP7A1などの、多種多様なアイソエンザイムを構成する肝臓の主要な第I相代謝酵素であるシトクロムP450、を意味するよう意図されたものである。
【0108】
本明細書で用いられているように、「ROCK阻害剤」という語は、例えばY‐27632またはファスジルなどの、Rho‐キナーゼの小分子阻害剤を意味するよう意図されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】表1には、行なった実験Hepdiff1およびHepdiff2ならびにそれらの実験条件を記載する。
【図2】表2は、バイオリアクターにおいてhESCの肝分化を誘導するために用いる培地の順序および組成の概要を示す。
【図3】表3は、バイオリアクターBR1における、hESCの、肝細胞への成熟を示す;Jellyfish 2mlバイオリアクター、流速 2ml/時間=50ml/日/BR=1日当たり100ml。細胞:SA121 DEF、前駆体ステージ12における播種。ピンク色の段階:DE(胚体内胚葉)の誘導、緑色の段階:前駆体ステージ(小さい肝細胞様細胞)、青色の段階:成熟
【図4】表4は、バイオリアクターBR2およびBR3における、hESCの、肝細胞への成熟を示す;Jellyfish 2mlバイオリアクター、流速 2ml/時間=50ml/日/BR=1日当たり100ml。細胞:SA121 DEF、第7日目(DEステージ)および前駆体ステージ(第12日目)における播種。ピンク色の段階:DE(胚体内胚葉)の誘導、緑色の段階:前駆体ステージ(小さい肝細胞様細胞)、青色の段階:成熟
【図5】表5は、バイオリアクターBR121およびBR168における、hESCの、肝細胞への成熟を示す;Jellyfish 2mlバイオリアクター、流速 2ml/時間=50ml/日/BR=1日当たり100ml。細胞:SA121 DEF、前駆体ステージ12における播種。ピンク色の段階:DE(胚体内胚葉)の誘導、緑色の段階:前駆体ステージ(小さい肝細胞様細胞)、青色の段階:成熟
【図6】表6は、実施例19で用いた培養培地およびインキュベーション時間の概略図を示す。
【図7】図1はバイオリアクター設計を示す。A)培地灌流(青色、II;赤色、IV)、酸素添加(黄色、III)および細胞収容(I)のための、独立した区画を有する、最小キャピラリー膜ユニット;B)これらの区画を構成するキャピラリー膜の束;C)細胞区画内の、それらキャピラリー/区画の3D配列;これら区画は、Bに示されているように、別々に灌流することができ、これにより、キャピラリーユニット間の物質勾配の隔たりの減少に対処し、かつ、物質交換(mass exchange)を亢進する。すべての膜区画は細胞区画内で互いに織り合わされ、それにより、平均して500μmのキャピラリー間距離を有する緊密なキャピラリーネットワークが形成される(C)。各区画のキャピラリーは、インおよびアウトフローヘッドへと束ねられ、それぞれ、灌流のためのチューブシステムへと接続される(B)。細胞は、開口端(open ending)チューブを介して細胞区画中へ播種され、これにより、その注入された細胞の細胞区画内での分布が可能となる(B、d;灰色で示されている)。
【図8】図2は灌流システムを示す。A)培地の再循環および置換のための交換可能なマルチチャンネルフローヘッドおよびギアを備えたモジュラーポンプに対する圧力および流速の制御を備えたプロセッサ制御式灌流装置ならびに外部自動CO2制御式pH制御システム(左)。B)圧力、温度、ポンプスピード、pHおよびガスフローを継続的に記録し、グラフでモニタリングする、カスタムモニタリングソフトウェア。C)バイオリアクターを培地およびガスで灌流するために用いたチューブシステムの模式図
【図9】図3は、3つの別々の培養ディッシュにおいて示される、分化したhESCの2D培養物中のβ‐HGC濃度を示す。培養ディッシュ1は、培養第30日目時点で最も低い曲線により表され、培養ディッシュ2は、培養第30日目時点で真ん中にある曲線で表され、培養ディッシュ3は、培養第30日目時点で最も高い曲線で表されている。
【図10】図4は、バイオリアクターhESC‐1、‐2および‐3の培地アウトフローにおいて測定した代謝パラメータの経時変化を示す。バイオリアクターHepDiff‐2(a)およびHepDiff‐1(b)中の細胞による、グルコース消費(緑色、測定開始時点での最も低い曲線)、乳酸塩産生(赤色、測定開始時点で真ん中の曲線)およびLHD放出(青色、測定開始時点での最も高い曲線)。
【図11】図5は、バイオリアクターHepDiff‐1および‐2の培地アウトフローにおいて測定した分化マーカーの経時変化を示す。バイオリアクターHepDiff‐1(a)およびHepDiff‐2(b)中の細胞による、AFP産生(濃青色、第50日目時点で真ん中)、アルブミン産生(濃緑色、第50日目時点での最も高い曲線)および尿素産生(ピンク色、第50日目時点での最も低い曲線)。
【図12】図6は、培地において測定したアクチビンAおよびインスリンの濃度の経時変化ならびにバイオリアクターHepDiff‐1および‐2におけるシトクロム活性測定を示す。(a)アクチビンA濃度(ピンク色、点線および実線、第20日目時点での最も高い曲線)、インスリン濃度(青緑色、第20日目時点での最も低いもの)
【図13】図7は、分化の最中に発現し、いくつかの時点(第0日目、第12日目、バイオリアクター第26日目、2D対照第26日目)においてモニタリングされた肝マーカー遺伝子(アルブミン、CYP1A2、CYP2C9、CYP3A4、CYP7A1、TATおよびUGT2B7)のヒストグラムを示す。
【図14】図8は、分化の最中に発現し、いくつかの時点(第0日目、第12日目、バイオリアクター第26日目、2D対照第26日目)においてモニタリングされた胎児/未成熟肝細胞に対するマーカー(AFP、CYP3A7)のヒストグラムを示す。
【図15】図9は、分化の最中に発現し、いくつかの時点(第0日目、第12日目、バイオリアクター第26日目、2D対照第26日目)においてモニタリングされた肝トランスポーター遺伝子(ABCC2/MRP2、FABP1、OATP2、OCT‐1)のヒストグラムを示す。
【図16】図10は、分化の最中に発現し、いくつかの時点(第0日目、第12日目、バイオリアクター第26日目、2D対照第26日目)においてモニタリングされた、未分化細胞に対するマーカー遺伝子(Nanog、Oct4)のヒストグラムを示す。
【図17−1】図11は、異なる時点において2つの異なるバイオリアクター(121または168)へと播種された細胞の肝遺伝子発現プロファイルを示す4つのヒストグラム(A〜D)を示す。1に等しい値を有する参照試料は、2D培養により得た細胞の遺伝子発現を表す。
【図17−2】図11は、異なる時点において2つの異なるバイオリアクター(121または168)へと播種された細胞の肝遺伝子発現プロファイルを示す4つのヒストグラム(A〜D)を示す。1に等しい値を有する参照試料は、2D培養により得た細胞の遺伝子発現を表す。
【図18】図12は、バイオリアクターBR121およびBR168における細胞の分化および成熟の最中の、未分化細胞のマーカー(Oct4およびNANOG)のダウンレギュレーションを示すヒストグラムを示す。1に等しい値を有する参照試料は、2D培養により得た細胞の遺伝子発現を表す。
【発明を実施するための形態】
【0110】
実施例1
ヒト包皮繊維芽細胞(HFF)の培養
HFFは、Type Culture Collectionから購入し(CRL‐2429;米国バージニア州マナッサス)、44回以下の集団倍加の間、グルタマックス‐1(インビトロジェン社)、10% 子ウシ胎仔血清および10,000U/10,000μg/ml ペニシリン/ストレプトマイシン(すべてBiochrom社、ドイツ ベルリン)を含有するイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)中に広げた。その細胞を、3000ラドのガンマ線照射により不活性化し、10ng/ml ヒト組換え塩基性繊維芽細胞成長因子(hrbFGF)(PeproTec社)を添加したVitroHES培地(Vitrolife AB社、スウェーデン イェーテボリ)中、または、20% ノックアウト血清代替物(Knockout Serum Replacer)、2mM グルタマックス‐I(すべてインビトロジェン社)、0,1mM 非必須アミノ酸(NEAA)、50μg/ml ゲンタマイシン(すべてBiochrom社)、0.1mM β‐メルカプトエタノール(シグマ社)、10ng/ml hrbFGF(PeproTec社、英国ロンドン)を含有するノックアウトDMEM中、1cm2当たり30,000〜70,000個HFFの密度で、0.1% ゼラチン(シグマアルドリッチ社)でコートした培養ディッシュ上に蒔いた。すぐに使用しない照射細胞は、分注して、10% ジメチルスルホキシド(DMSO)(シグマアルドリッチ社)を含有する子ウシ胎仔血清(Biochrom社)中に凍結し、後で使用するために−152℃に保存した。
【0111】
実施例2
マウス胚繊維芽細胞(MEF)の培養
MEFを、2回〜最大4回までの継代の間、10% 子ウシ胎仔血清、2mM L‐グルタミン、0.1mM NEAAおよび10,000U/10,000μg/ml ペニシリン/ストレプトマイシン(すべてBiochrom社)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中に広げた。3000ラドのガンマ線照射により不活性化し、VitroHES培地(Vitrolife社)中、65,000細胞/cm2の密度で、0.1% ゼラチン(シグマアルドリッチ社)でコートした「体外受精(In Vitro Fertilization)」(IVF)ディッシュ(ファルコン、ベクトン・ディッキンソン社)に播くか、または、分注して、10% DMSO(シグマアルドリッチ社)を含有する子ウシ胎仔血清(Biochrom社)中に凍結し、後で使用するために−152℃に保存した。
【0112】
実施例3
バイオリアクター
本研究に用いた多区画バイオリアクターは、1つの二液型ポリウレタンハウジング(PUR、Morton社、ドイツ ブレーメン)中へと組み込まれる、3つの、独立しているが織り合わされている中空繊維キャピラリー膜システムで構成されている。培地灌流用の2つの親水性キャピラリーシステムは、およそMW500,000の分子量カットオフを有する微多孔性ポリエーテルスルホンキャピラリー膜(mPES、Membrana社、ドイツ ヴッパータール)でできている。3つ目のものは、ガス交換を可能にするために、疎水性マルチラミネート中空繊維膜キャピラリー(MHF、三菱、日本国東京)でできている。よって、キャピラリー外スペース内に位置する細胞は高物質交換率の分散培地供給と拡散による直接膜酸素添加とに暴露される。細胞の注入には、フローヘッドおよび開口端(open ending)シリコーンゴムキャピラリー(Silastic、ダウコーニング社、米国ニューヨーク州)を用いる(図1A、BおよびC)。バイオリアクターは、培地の再循環および置換のための交換可能なマルチチャンネルフローヘッドおよびギアを備えたモジュラーポンプに対する圧力および流速の制御を備えた、1つのプロセッサ制御式灌流装置中へと組み込まれる(図2AおよびC)。加熱ユニットにより、灌流回路内の一定温度がもたらされる。空気およびCO2の流速は、いずれも、組み込まれたロータメーターを用いて手動で制御するか、または、外部自動CO2制御式pH制御システムを用いることにより制御した(図2)。当該制御装置は、バイオリアクター灌流回路中に組み込まれた光学pHセンサー経由で、培養培地のpH値を連続的に測定し、また、空気/CO2混合物を調整して、予め設定したpHを維持する。バブルトラップを備えた灌流チューブ(図2Cに示されている)は、標準的な医療グレードの透析PVC(ビー・ブラウン社、ドイツ メルズンゲン)から作製された。滅菌は、エチレンオキシドまたはホルムアルデヒドガスを用いて行ない、その後、少なくとも7日間の脱気期間を設けた。この実験の間、灌流装置は、組み込まれたUSBポートを介してPCに接続し、また、LabVIEW(National Instruments社、ドイツ ミュンヘン)で作成されたスタンドアロンの測定プログラムを用いて、灌流パラメータ(圧力、温度、ポンプスピード)を、継続的に記録し、グラフでモニタリングした。このプログラムは、インターネット経由での遠隔モニタリングを可能にするウェブサーバーも提供する(図2C)。
【0113】
実施例4
バイオリアクター調整
最初の細胞播種の前に、バイオリアクターは、培地の再循環による24〜72時間の調整段階を経た。細胞播種後、培養物を、22〜30ml/分の流速で灌流した。このバイオリアクターを37℃で保った。ガス区画中の空気/CO2混合物の流速を40ml/分で維持した。pH、酸素の分圧(pO2)および二酸化炭素の分圧(pCO2)ならびに酸/塩基状態を定期的に測定した(ABL5、Radio Meter Copenhagen、デンマーク コペンハーゲン)。手動ガス制御の場合には、空気/CO2混合比を、7.2〜7.3の間の安定したpHを維持するために調整した。これら実験の全体を通じて生じた代謝および灌流のデータの、オンラインでの保存、アクセスおよび分析を可能にするために、データベースを開発した。
【0114】
実施例5
バイオリアクターHepDiff‐1およびHepDiff‐2におけるhESCの肝分化
方向性のある肝分化について調べるために、2つの最初のバイオリアクター作動を行なった。一方の実験においては、hESC播種の2日前に、バイオリアクターに不活性化MEFを播いたが、もう一方は、フィーダー細胞の添加をせずに行なった(表1および表2参照)。hESCの肝分化を誘導するために、バイオリアクターを、5種類の異なる培地(DiffMed1〜5、表2)で、出願人が開発した分化プロトコルに基づいて、連続的に灌流した。培地の順序、組成および灌流回路への新鮮培地添加速度についての概要を表2に示す。
【0115】
実施例6
灌流培地における代謝パラメータ
これらバイオリアクターの内側の細胞の代謝活性および分化は、培地アウトフロー中および再循環培地中の可溶性因子を測定することにより、毎日、特徴決定を行なった。自動臨床化学分析装置(ロシュ・ダイアグノスティックス社、ドイツ ハイデルベルク)を用いて、以下のパラメータを測定した:α‐フェトプロテイン(AFP)、アルカリホスファターゼ(AP)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、ベータ‐ヒト絨毛性ゴナドトロピン(β‐hCG)、c‐ペプチド、胎児性癌抗原(CEA)、サイトケラチンフラグメント19(Cyfra21‐1)、エリスロポエチン、エストラジオール、卵胞刺激ホルモン(FSH)、第II‐V‐X‐XIII因子、フィブリノーゲン、ガンマ‐グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、グルコース、乳酸塩、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、黄体形成ホルモン、神経特異的エノラーゼ(NSE)、重量オスモル濃度(osmolality)、オステオカルシン、偽コリンエステラーゼ(PCHE)、プレアルブミンプロゲステロン、プロラクチン、S‐100、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)、トランスフェリン(測定方法の詳細な説明については、添付文書中の表8を参照のこと)。加えて、グルタミン、グルタミン酸塩、グルコース、乳酸塩、アンモニウム、pH、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)を、BioProfile 100 Plus装置(ノバ・バイオメディカル社、米国マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて測定した。アクチビンA、インスリンおよびアルブミンは、酵素結合免疫吸着測定法(enzyme−linked immunosorbent assay;ELISA)を用いて、メーカーの推奨に従って(アクチビンAは、ドイツ ヴィースバーデン‐ノルデンシュタットの、R&Dシステムズ社からの製品DY338、DY999、DY994、DY995を用いて、;インスリンは、インビトロジェン社からのELISAを用いて、;アルブミンは、米国ペンシルベニア州フィラデルフィアのエクソセル社、AlbuwellからのELISAを用いて)、測定した。尿素は、比色定量キット(QuantiChrom、バイオアッセイシステムス社、米国カリフォルニア州ヘイワード)を用いて測定した。ガラクトースおよびソルビトールの濃度は、酵素アッセイ(ロシュ・ダイアグノスティックス社)により測定した。
【0116】
各物質の産生または消費率は、その日の実際の廃棄体積に、供給培地中の物質濃度と廃棄培地中の物質濃度との間の差を掛けることにより、バイオリアクター毎に1日毎に算出した。
【0117】
実施例7
代謝活性
当該肝分化プロトコルで処理したバイオリアクター培養物を試験するか、または、その、フェナセチン、ジクロフェナクおよびミダゾラムを、それぞれ、第I相シトクロム(CYP)P450酵素CYP1A2、CYP2C9およびCYP3A4経由で代謝する能力を試験した。細胞の播種後の第40日目および第47日目に、以下のスキームに従って、CYP P450活性試験を行なった:
CYP1A2: フェナセチン −> アセトアミノフェン
CYP2C9: ジクロフェナク −> 4’OH ジクロフェナク
CYP3A4: ミダゾラム −> 1’OH ミダゾラム
【0118】
この目的のために、新鮮培地インフローおよび培地アウトフローを閉じ、また、試験物質のカクテルを再循環培地中へと注入して、試験開始時に以下の濃度を得た:3μMのミダゾラム、9μMのジクロフェナクおよび26μMのフェナセチン。次の24時間の間、バイオリアクターを再循環モード(新鮮培地は添加されず、培地再循環ポンプのみが培地を再循環させる)で作動させた。再循環からの試料を、実験開始前と、1、4、8および24時間後とに採取し、試験物質の代謝産物について、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)により分析した。分析は、スウェーデン イェーテボリのアストラゼネカ社にて行なわれた。最後の試料を採取した後に、当該バイオリアクターは、新鮮培地を用いてシングル・パス・モードで、バイオリアクターおよびチューブシステムの体積の2倍を用いて洗い流し、その後、新鮮培地インフローを伴うノーマル灌流モード再循環へと切り替えた)。
【0119】
実施例8
バイオリアクターからの試料取得
予定された培養期間の終わりに、バイオリアクターをシャットダウンし、チューブを外した。低い方のバイオリアクターのフタを開け、キャピラリー層を含む細胞塊の試料を、滅菌したメスおよびピンセットを用いてさらなる分析用に切り出した。組織学的分析のために、試料は、すぐに、後述のように固定し、包埋した。奇形腫試験、FACSおよびRNA分析のために、細胞を、キャピラリーから分離し、CaMgを含有しないPBSでの洗浄、および、0.05%〜0.02%のトリプシン‐EDTA溶液(Biochrom社)中での3分間のインキュベーションによりバラバラにした。トリプシン処理(trypsination)は、10%子ウシ胎仔血清(Biochrom社)を含有するDMEMの添加により停止させた。細胞溶液からのキャピラリーの分離は、100μmセルストレーナー(ファルコン、ベクトン・ディッキンソン社、ハイデルベルク)を用いてふるい分けることにより達成した。
【0120】
実施例9
RNAの単離
バイオリアクター中で培養した細胞/組織からRNAを単離するために、切り出したキャピラリーは、CaMgを含有しないPBSで洗浄し、0.05%〜0.02のトリプシン‐EDTA溶液(Biochrom社)中で3分間インキュベートした。RNeasyキット(キアゲン社、ドイツ ヒルデン)を用いてメーカーのプロトコルに従い、全RNAを単離した。奇形腫は、TissueLyser IIを用い、その後、QIAshredderでホモジナイゼーションを行なうことにより、粉砕した(いずれもキアゲン社)。個々の細胞は、細胞ペレットへの溶解バッファー(lysis buffer)の直接の添加により溶解させた。この単離したRNAの濃度および品質は、ナノドロップ分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて、かつ、バイオアナライザ(アジレント2100バイオアナライザ)で、または、未変性(native)アガロースゲル電気泳動により、決定した。
【0121】
実施例10
アレイハイブリダイゼーション
ビオチン標識cRNAは、投入(input)として300ngの品質チェック済み全RNAを用い、イルミナ(登録商標)TotalPrep RNA Amplification Kit(Ambion社、米国テキサス州オースティン)を用いて作成した。チップハイブリダイゼーション、洗浄、Cy3‐ストレプトアビジン(アマシャム バイオサイエンス社)染色、およびスキャニングは、Bead Station 500(イルミナ社、サンディエゴ、米国)プラットホーム上で、メーカーにより供給されたプロトコルに従い、試薬を用いて行なった。cRNA試料は、およそ24,000種類のRefSeq転写産物を搭載したイルミナ ヒト‐8v2 BeadChip上にハイブリダイズさせた(Kuhn et al. 2004)。
【0122】
実施例11
データ解析
すべての試料に対する、分位(quantil)正規化および非正規化RAWデータファイルは、BeadStudio V3ソフトウェア(イルミナ社)を用いて作成した。BeadStudioソフトウェアで作成したデータを、マイクロアレイデータ解析ツールMultiExperiment Viewer(MeV)、マイクロアレイ分析ツールのTM4スイート(http://www.tm4.org)の一コンポーネント(Saeed et al. 2003)、または、Bioconductor(Gentleman et al. 2004)をその分析バックエンド(analysis backend)として用いるグラフィカル・インターフェースであるChipster(http://chipster.sourceforge.net/)、へとインポートすることにより、さらなるデータ解析を行なった。機能エンリッチメント解析(functional enrichment analysis)は、DAVID(http://david.abcc.ncifcrf.gov)を用いて行なった(Dennis et al. 2003)。
【0123】
実施例12
組織化学
パラフィン包埋試料を、4%緩衝ホルムアルデヒド溶液中で固定し、パラフィン中に包埋し、切って、5μmの切片にした。切片を、キシレンで脱パラフィンし、段階的に減少するアルコール(decreasing alcohol series)を用いて再水和させ、その後、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を行なった。
【0124】
実施例13
免疫組織学
パラフィン包埋試料を、4%緩衝ホルムアルデヒド溶液中で固定し、パラフィン中に包埋し、切って、5μmの切片にした。切片を、キシレンで脱パラフィンし、段階的に減少するアルコール(decreasing alcohol series)を用いて再水和させた。抗原は、切片を圧力釜にてクエン酸緩衝液(0.01 クエン酸一水和物、pHは6.0まで;メルク社、ドイツ ダルムシュタット)中で25分間ボイルすることにより、賦活化(retrieve)し、その後、5%トリトン/PBS中で20分間のインキュベーションを行なった。切片を5%スキムミルクでブロッキングし、;それらを一次抗体と共に30分間インキュベートし、PBSで洗浄し、二次蛍光結合抗体と共にインキュベートした。以下の一次抗体を用いた:モノクローナルマウス抗ヒト平滑筋アクチンIgG2a(ASMA)、モノクローナルマウス抗ヒトデスミンIgG1(Dako社、デンマーク グロストルプ)、モノクローナルマウス抗ニューロン特異的β‐III‐チューブリンIgG2a(R&Dシステムズ社)、モノクローナルマウス抗ネスチンIgG1(ベクトン・ディッキンソン社)、ポリクローナルヤギ抗HNF‐3βIgG、モノクローナルマウス抗OCT‐4 IgG2bおよびポリクローナルウサギ抗ビメンチンIgG(Santa Cruz Biotechnology社)。二次抗体としては、以下のポリクローナル抗体を用いた:ヤギ抗マウスIgG‐Cy2、ヤギ抗ウサギIgG‐Cy3(Dianova社)、ヤギ抗マウスIgG2a‐TRICT、ヤギ抗マウスIgG‐FITC、ヤギ抗マウスIgG‐FITC、ヤギ抗マウスIgG‐Cy3、ヤギ抗マウスIgG‐FITC(ジャクソン・イムノリサーチ・ラボラトリーズ社、ペンシルベニア州ウェストグローブ)およびロバ抗ヤギIgG‐Cy3(Santa Cruz Biotechnology社)。核の非特異的染色のために、切片を、4’,6‐ジアミジノ‐2‐フェニルインドール(DAPI、モレキュラープローブ社、ドイツ ライデン)と共にインキュベートした。
【0125】
続いて、それら切片を、Aqua Polymount溶液(ポリサイエンス社、米国ペンシルベニア州ウォリントン)を用いてマウントした。切片は、CCDカメラ(Retiga 2000R、QImaging社、カナダ バーナビー)を備えた倒立顕微鏡(Axiovert 200M、カールツァイス社、ドイツ ゲッティンゲン)を用いて分析した。写真を取得し、デジタルイメージングソフトウェア「Image Pro Plus」(メディアサイバネティクス社、米国シルバースプリング)を用いて処理した。
【0126】
実施例14
透過型電子顕微鏡法(TEM)
バイオリアクター細胞区画由来の物質を5%グルタルアルデヒド(Serva社、ドイツ ハイデルベルク)で固定した。60mmol/lのリン酸緩衝液、pH7.3中での30分間の浸漬後、細胞の凝集体を、2時間にわたり、2% OsO4(Paesel+Lorei社、ドイツ フランクフルト)中で後固定し、エタノール中で段階的に脱水し、次いで、アラルダイト(Serva社、ドイツ ハイデルベルク)中に包埋した。超薄切片は、電子顕微鏡検査前に、酢酸ウラニルおよびレイノルズ(Reynold’s)クエン酸鉛(Chroma社、ドイツ ミュンスター)を用いてコントラストをつけた。
【0127】
実施例15
バイオリアクターにおけるhESCの、改善された肝分化
実施例5に記載した最初の肝分化作動からの結果に基づき、さらなる作動を行なって、方向性のある肝分化についてさらに調べた。
【0128】
1つの実験においては、フィーダーフリーで培養したhESCは、本明細書に記載の分化プロトコルに従って、バイオリアクターの外側で、2D培養で、DEへと分化させた。この、肝細胞の方向に向かうDEへの第一分化工程により、大量の細胞死が誘導される。この工程をバイオリアクターの外側で行なうことにより、当該リアクター中の過半の細胞残屑は回避される。加えて、当該第一分化工程を2Dで行なうことにより、胚体内胚葉細胞の、より純粋な選択が可能となり、これは、当該培養物中にかなりの量の胚体内胚葉細胞を伴う、全体的な、より純粋な培養につながる。
【0129】
DEへの分化後、細胞を、バイオリアクターに移すか、または、対照として2D中にとどめた。胚体内胚葉細胞のさらなる肝分化を誘導するために、バイオリアクターを、種々の培地で、Cellartis社が開発した分化プロトコルに基づいて、連続的に灌流した。培地の順序、組成および灌流回路への新鮮培地添加速度の一例についての概要を表2に示す。
【0130】
実施例16
未分化hESCの培養のための、当該バイオリアクターシステムを用いた、調整培地の製造
本明細書において検討したようなバイオリアクター実験は、不活性HFFの存在は、それらHFFがその活性を緩めるまで、hESC分化の開始を遅らせる、とのことも示す。この、HFFの、多能性を支援する活性は、そのアクチビンAの産生と相互に関係している可能性がある。HFFフィーダー細胞の挙動をさらに調べるために、HFFのみを用いたいくつかの実験を、2D培養において、および、2つのバイオリアクターにおいて、行なった。
【0131】
1つの実験においては、バイオリアクターには、活性HFFを播種するが、これは、HFF増殖を刺激するべく血清およびbFGFを添加した培地で培養されることとなる。グルコース消費および乳酸塩産生のレベルにより、細胞数の増加をモニタリングする。十分な細胞数に達したときに、培養培地を、調整のためにhBS培地に変える。最適培地交換速度は、品質管理パラメータとして、例えば調整培地中のアクチビンAおよびグルコースの濃度を測定して、決定されなければならない。低グルコースレベルは、培地供給速度を増加させることに対する要求を指し示している可能性があり、また、低アクチビンAレベルは、hESC多能性を促進するのに不適切な、不十分な調整に対するサインである可能性がある。
【0132】
2Dおよび3D実験からの結果が示すのは、アクチビンA産生は、血清代替物(serum replacer)を含有する培地と組み合わせたbFGFにより刺激される、ということである。血清を添加した培地では、bFGFは、アクチビンA産生を刺激しなかったが、活性HFFに対する強い分裂促進作用を呈した。この作用は、培地へのbFGFの添加に際してグルコースおよび乳酸塩の代謝のレベルを上昇させることを特徴とする、バイオリアクター実験HFF‐1においても観察された。この分裂促進作用は、血清代替物(serum replacement)を添加した培地を使用した、バイオリアクター実験HFF‐2においては観察されなかった。この実験では、グルコースおよび乳酸塩の代謝は、細胞が増殖していないことを示す、ある一定のレベルに留まった。これらの結果は、当該バイオリアクター技術の、可能性のある用途は、未分化hESCをフィーダーフリーで広げるために必要な、調整培地の製造である可能性がある、とのことを示している。
【0133】
調整培地(conditioned medium;CM)の製造のための標準的な方法は、不活性MEFフィーダー細胞を高密度で播いた、標準的な培養容器内での、培養培地の、24時間のインキュベーションである。単に、活性が緩まるまで、限られた時間の間、培地調整に用いることができるのみである、大量のフィーダー細胞を製造しなければならないため、この方法は、大きな労働力を要するものであり、かつ、スペースをとるものである。したがって、より大量のCMの製造は、この方法の、乏しいスケーラビリティ(scalability)によって制限される。培養hBS細胞のためのCMの使用に対する代替的アプローチは、明確になっている培養培地の使用である。hESCの、フィーダー非依存性培養に関し、いくつかの明確になっている培地調合物が記述されてきた(Li et al. 2005;Ludwig et al. 2006)。明確になっている培地の使用には、hBS細胞を、完全に動物由来物質がない条件下で培養することができる可能性、といったような、いくつかの利点がある一方で、これの主な欠点は、これらの培地調合物には、組換えサイトカインや成長因子といった、費用のかかるかなりの量の補助物質(supplement)が含まれる、ということである。
【0134】
CMを製造するための、バイオリアクターにおけるHFFの培養は、背景の章において上記で概説した、現在利用可能な方法(metod)に対する代替法となり得る。それにより、定められた速度の培地インおよびアウトフロー並びに培養パラメータの自動制御を可能にするような、スケーラブルなシステムにおける、高い細胞密度のヒトフィーダー細胞が可能となるであろう。したがって、調整プロセスの標準化が可能となり、結果として、手動による方法に比べ、製造されたCMの、向上した品質がもたらされることとなる。活性フィーダー細胞が、多能性の維持も支援している、とのことが示されている(Xie et al. 2005)ことから、当該バイオリアクターを用いる場合の、1つのさらなる利点は、活性フィーダー細胞を用いることができる可能性であり得る。これは、従来の2D培養では最初のバイオリアクター播種用に製造しなければならない、活性フィーダー細胞の数を減少させるであろう。
【0135】
実施例17 肝成熟の評価
誘導された肝細胞の成熟度は、遺伝子発現、タンパク質発現、の測定、および、同様に、シトクロムP450(CYP)活性の活性測定、により、分析した。
【0136】
Q‐PCRおよびLDAカードによる肝細胞様細胞の遺伝子発現解析
これらバイオリアクターにおいて分化した肝細胞様細胞、および、適切な対照(2D分化肝細胞様細胞、または、成人ヒト肝臓由来の初代肝細胞のいずれか)、の試料を、肝臓関連遺伝子の発現について、QPCRにより分析した。
【0137】
DE‐Hep細胞の遺伝子発現は、LDAマイクロ流体(microfluidity)カード上で以下表に列記されているように特徴決定した。試料の全RNAに由来するcDNAはLDAカードとハイブリダイズさせ、当該実験はPCRセットアップにおいて行ない、適切なソフトウェアを用いてさらに分析した。すべての試料は、インストラクターのマニュアル(アプライドバイオシステムズ 7900HT Micro Fluidic Card Getting Started Guide)と、以下の短くしたプロトコルとに従い、LDAカード上で、繰り返し実験において、適切な対照と同時に作動させた:
【0138】
cDNAは、全RNAから調製し、RNase/DNaseフリー水中に希釈して、適切な濃度(以下参照)を得た。以下の成分を混合した:cDNA(1〜100ng)、5μl、RNase/DNaseフリー水、TaqMan Universal PCR、45μl、マスターミックス(2×)、50μl、合計:100μl。その後、試料は、LDAカード上にロード(各試料混合物は100ulであり、1試料当たり170ngのcDNA)し、遠心し、その後、そのLDAカードを密封した。最終的には、カードを、ABI 7900HTリアルタイムPCRシステム上でマニュアル中の指示に従って作動させ、結果は、SDS2.2.1ソフトウェアおよび相対的定量方法を用いることにより分析した。
【0139】
実施例18
肝分化
2D標準培養ディッシュ中で培養されるhESC用にCellartis社が確立した肝分化プロトコルに基づき、当該3Dバイオリアクターシステムにおける、hESCの、方向性のある肝分化に関する2つのパイロット実験を設計し、実施した。この2つのバイオリアクター実験は、不活性化MEFの、バイオリアクターのうちの1つの中へのさらなる播種についてのみ異なるものであった。
【0140】
灌流培地における代謝パラメータ
当該培地において測定された代謝パラメータに関する2つのバイオリアクターの比較が示すのは、追加のフィーダー細胞が播種されるバイオリアクター(HepDiff‐2)は、グルコースおよび乳酸塩の代謝の観点から、および、分化マーカーの産生に関して、よりずっと高い細胞活性を最初に有していた、ということである。しかしながら、バイオリアクターHepDiff‐2では、当該実験中のグルコース消費および乳酸塩産生の、安定した減少が観察された(図4)。第20日目にあるLDHのピークは、おそらく、灌流システムの加熱ユニットの技術的な機能不良に起因するものであった。第40日目以降のLDH放出ピークは、おそらく、当該バイオリアクター中の圧力上昇に関係するものであった。キャピラリー膜の凝固を引き起こし得る未同定培地成分の沈殿が観察されたため、これは、結果として、栄養素と共に、最適以下の(suboptimal)細胞供給をもたらしていたかもしれなかった。このバイオリアクター中のAFP産生は、第17日目と第24日目との間で指数関数的に増加し、その後、実験の終了まで減少した。AFP産生のダウンレギュレーションの始まりは、別の分化培地へと変えることと相関する。肝分化マーカーである尿素は、その産生において、第1日目と第20日目との間で小さなピークを示し、また、アルブミン産生は、実験の間中ずっと、約0.4μg/時間という比較的低いレベルにとどまった(図5)。
【0141】
追加のMEFの播種がされないバイオリアクターHepDiff‐1では、非常に低いが、安定したグルコース消費および乳酸塩産生レベルが測定された。分化因子AFPのみが、第17日目と第35日目との間に、第26日目に最大値を有する小さなピークを示したが、これは、バイオリアクターHepDiff‐2におけるAFPの大きさには似ていないが、経時変化には似ている(図5)。
【0142】
上述の因子に加え、アクチビンAおよびインスリンの濃度を、当該培養培地において測定して、その用いた灌流条件を、その結果として生じた分化培地の交換動態に関して評価した(図6)。両因子とも、未分化hESCにおける、胚体内胚葉の方向に向かう分化の誘導において重要な役割を果たすが、インスリンは、高アクチビンA濃度を通じての内胚葉誘導に拮抗する。両バイオリアクターにおいて、当該培地中のアクチビンA濃度は、第7日目と第8日目との間に、26ng/mlという最大値を有する。第0日目〜第22日目にバイオリアクターHepDiff‐2においてのみ測定したインスリン濃度は、第3日目に150ng/mlという最大値を示し、第9日目までに2ng/mlへと急速に減少し、約35ng/mlという中間濃度は第7日目と第8日目との間であった。
【0143】
CYP450活性
これらバイオリアクターにおける肝細胞特異的な細胞活性について試験するべく、フェナセチン、ジクロフェナクおよびミダゾラムを、それぞれ、第I相シトクロムP450酵素CYP1A2/1A2、CYP2C9およびCYP3A4経由で代謝する能力を試験した。
【0144】
これらの試験は、hESC播種後の第40日目および第47日目に行なった。両バイオリアクターにおいて、ジクロフェナクおよびミダゾラムの代謝を検出することはできなかった。フェナセチンの、パラセタモールへの代謝は、バイオリアクターHepDiff‐2では、リアクターHepDiff‐1に比べて、より高く、また、第47日目にほんのわずかだけ低下した。
【0145】
組織学
上記で述べられているように、両バイオリアクターとも、実験の終了時に、非常に低い代謝活性を呈した。この所見は、組織学的分析の際、バイオリアクターHepDiff‐2では、組織構造を含有する領域は非常にわずかしか見い出せず、また、バイオリアクターHepDiff‐1の試料においては構造は全く見いだせなかった、という事実と相関していた。バイオリアクターHepDiff‐2において観察された組織クラスターでは、はっきりした内胚葉分化を指し示す、様々な上皮形態を有するたくさんの構造を観察することができた。加えて、疎性結合組織を有する領域、および、核に対する細胞質の割合が低い細胞で構成される少数の細胞凝集体、が見い出された。
【0146】
実施例19
hESCの肝細胞への分化およびバイオリアクターにおける成熟
同時に作動させたバイオリアクターの第一巡目:BR2およびBR3
実施例18において詳述したプロトコルに加え、いくつかのさらなる実験を作動させて、バイオリアクター環境における、hESCの、肝細胞への、方向性のある分化のための手順を、これらの細胞型の成熟の改善にも焦点を当てながら、洗練されたものにした。これらの実験は表3および4(バイオリアクターBR2およびBR3)において詳述されており、そこでは、アクチビンAおよび高成長因子レベルを用いてhESCの、DE細胞への分化を開始させ、所定の時点で(表3に示されている実験については第12日目、表4に示されている実験については第7日目または第11日目に)細胞をバイオリアクター中へと播種し、さらなる分化および成熟が起こるようにしておくための全体的な手順が記載されている。この手順は2D非バイオリアクター制御と同時に作動させ、また、両方の実験について、CYP450のレベルを、第25日目または第26日目のバイオリアクターシャットダウンの前の複数の特定の時点において測定した。
【0147】
最初の実験の作動中に、バイオリアクター環境中で成長している細胞については、第0日目、播種日、およびバイオリアクターのシャットダウン日からなる測定時点で、また、2D対照群については、同時のシャットダウン日測定で、4つの群のマーカー(肝遺伝子、胎児/未成熟肝細胞に対するマーカー、未分化細胞に対するトランスポーターおよびマーカー)の発現を測定した(第12日目に播種され、第24日目に採取された細胞について図7〜10に示す)。遺伝子発現レベルは、実施例9〜11および17に記載の通りに測定した。
【0148】
同時に作動させたバイオリアクターの第二巡目:BR121およびBR168
続いて、一貫性および再現性を確実にするべく、2つの別々のバイオリアクターについて、結果を比較した。細胞を、バイオリアクター(Bioreactot)BR121またはBR168のいずれかの中に、異なる2つの時点で(第7日目および第12日目に)、播種し、以下の通りに、第26日目まで、成熟させておいた(図11、A〜D):
【0149】
第0日目に、実験の開始時に、200×106個の未分化ヒト胚性幹細胞DEF SA121は、継代のためにトリプルセレクト(tryple select)し、マトリゲルコート培養フラスコ上に、1cm2当たり200000細胞で、10uM Rock阻害剤を添加したID1中に播いた。上記スケジュールに従って第7日目まで毎日または1日おきの培地交換。内胚葉の誘導後、第7日目に、すべての細胞をトリプルセレクト(tryple selelct)し、数えたところ、全体で6千万個の細胞となった。BR121に3千万個の細胞を使用し、BR168に3千万個使用した。
【0150】
BR121:
第7日目に、2千5百万個の細胞を、BR121の中へ、10uM Rock阻害剤を添加したP1中に播種し、上記スケジュールに従って実験第26日目の終了まで培養した。5百万個の細胞は、2D対照用にマトリゲルコート48ウェルに、1cm2当たり150000細胞で、10uM Rock阻害剤を添加したP1中に播き、上記スケジュールに従って、実験の終了である第26日目まで培養した。
【0151】
BR168:
第7日目に、3千万個の細胞を、2D培養フラスコ中に、10uM Rock阻害剤を添加したP1中に播き、上記スケジュールに従って培養した。5日後、第12日目に、細胞をトリプルセレクト(tryple select)し、数えたところ、全体で7千2百万個の細胞となった。
【0152】
6千2百万個の細胞を、BR168中に、10uM Rock阻害剤を添加したVH2中に播種し、上記スケジュールに従って実験の終了である第26日目まで培養した。
【0153】
7百万個の細胞を、2D対照用にマトリゲルコート48ウェル中に、1cm2当たり200000細胞で、10uM Rock阻害剤を添加したVH2中に播き、上記スケジュールに従って実験の終了である第26日目まで培養した。
【0154】
分析したマーカーはすべて肝マーカーであり、レベルは2D対照と比較した。培養培地組成を表6に記載する。
【0155】
実施例20
当該動的灌流技術のさらなる一局面は、細胞が区画化された状態のままでありながら、第一バイオリアクターの因子または可溶性メディエーターにより第二バイオリアクターが刺激され得る、1つの灌流回路における「ツインバイオリアクター」の組み合わせを、容易に行なうことが可能であるということである。これは、共培養物の未知の可溶性因子が用いられることとなる場合には興味深いものとなるであろうが、培養物間の細胞の移入は避けなければならない。
【0156】
参考文献:
【0157】
【表3】
【0158】
【表4】
【0159】
【表5】
【0160】
【表6】
【0161】
【表7】
【0162】
【表8】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト多能性幹細胞(hPS)からの肝細胞様細胞の誘導のための、3D培養システムの使用に関する。特に、本発明は、3D中空繊維キャピラリーバイオリアクターにおける、ヒト多能性幹細胞の、肝細胞様細胞への、方向性のある分化および成熟に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療および応用研究、例えば薬物スクリーニングまたは毒性学試験など、における、幹細胞ベースの用途の、開発および実施のためには、十分に定義された特徴を有する大量の細胞が必要である。したがって、高収率かつ高純度で、hPSの、成熟した肝細胞様細胞への、方向性のある再現性ある分化を可能にする培養システムが求められている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、肝細胞様細胞を得るための方法であって、
i) バイオリアクター(Bioractors)におけるhPS細胞または肝前駆細胞の播種
ii) 当該バイオリアクターを1種類以上の培養培地で10日〜50日の期間にわたり灌流して、肝細胞様細胞を得ること、
を含む方法に関する。
【0004】
本発明の一局面、本発明は、肝細胞様細胞を得るための方法であって、
i) バイオリアクターにおけるhPS細胞または肝前駆細胞の播種
ii) 当該バイオリアクターを1種類以上の培養培地で10日〜50日の期間にわたり灌流して、肝細胞様細胞を得ること、
を含む方法、により得られる肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造に関する。
【0005】
本発明のさらなる一局面では、本発明は、肝細胞様細胞を得るための方法であって、
i) バイオリアクターにおけるhPS細胞または肝前駆細胞の播種
ii) 当該バイオリアクターを1種類以上の培養培地で10日〜50日の期間にわたり灌流して、肝細胞様細胞を得ること、
を含む方法、により得られる細胞の、治療目的での、または、創薬、医薬製剤、毒性試験における、または、再生医療における、使用に関する。
【0006】
さらなる一実施形態では、本発明は、hPS細胞または肝前駆体を、肝細胞運命に向かって分化させるための、バイオリアクターの使用に関する。
【0007】
序論
凝集体またはマイクロキャリアを用いる、分化に対する現在の3D浮遊培養モデルアプローチは、中央物質交換(central mass exchange)が限られる。より大きな細胞量での、連続的な培地交換と、制御可能なガス圧での分散した酸素添加とを伴う、灌流を基本とした動的培養条件を提供することにより、3D灌流4区画キャピラリー膜バイオリアクター技術は、両方の培養の概念の利点を用いることを可能にする。加えて、医薬品の製造および品質管理に関する基準(good manufacturing practice;GMP)の条件に適した、分化レジームの、閉鎖系への適用が可能である。この技術は、例えば酸素圧、ガス因子適用(gas factor application)、培地因子勾配(medium factor gradients)、または、細胞に対する例えば流速および圧力などの物理的刺激の生成などの、変化するが制御可能な培地およびシステムのパラメータを可能にする。
【0008】
バイオリアクターにおけるhPS細胞の培養
再生医療および応用研究、例えば薬物スクリーニングまたは毒性学試験など、における、幹細胞ベースの用途の、開発および実施のためには、十分に定義された特徴を有する大量の細胞が必要である。したがって、高収率かつ高純度で、未分化のヒト胚性幹細胞の、成熟した肝細胞への、方向性のある再現性ある分化を可能にする培養システムが求められている。
【0009】
最も一般的に用いられる培養および分化の方法は、典型的には、非連続的な培地交換を伴う静的開放系を代表する、プラスチック・ディッシュの形の2D培養システムを利用するものであり、これは、培地交換と培地交換との間の、培養培地中の、代謝産物の蓄積や栄養素の減少といった形で、培養環境の周期的な変化を引き起こす。そのうえ、これらの2D培養は、広範な手作業による介入を要することから大きな労働力を要するものであるため、それ故、より大きな細胞数の取り扱いを実行不可能にする。
【0010】
バイオリアクターにおけるhPS細胞の分化
Soto−GutierrezらによるhESC研究の肝分化が指し示しているのは、複雑なマトリックス構造を用いるかまたは非実質細胞との共培養を用いる、より複雑な環境が、hESCの肝分化を支援するとのことである(Soto−Gutierrez et al. 2006)。Levenbergらは、ES細胞またはEBを播いた、PLGA―ポリ(乳酸‐コ‐グリコール酸)およびPLLA―ポリ(L‐乳酸)の、生分解性の足場において、肝組織様構造の誘導は、アクチビンAおよびIGFでの処理により可能であったとのことを示した(Levenberg et al. 2003)。Baharvandらは、3Dのコラーゲン製の足場における、hESCの、亢進された肝分化について報告した(Baharvand et al. 2006)。したがって、3D培養環境を提供する灌流型バイオリアクターの使用により、胚性幹細胞分化のための、より効率的で、かつ、スケーラブルな方法がもたらされ得る。
【0011】
新たなアプローチは、胚性幹細胞を広げるおよび分化させるための、中空繊維バイオリアクターの使用である。中空繊維キャピラリー膜バイオリアクター技術は、動的灌流培養条件を可能にし、また、自然のままの組織中に見られるような幹細胞の細胞密度を増加させることを可能にする。加えて、より大きな細胞量のためのスケールアップが可能である。しかしながら、周囲キャピラリーの束の周辺の細胞区画と、主に拡散による、栄養摂取と、外部酸素添加とを伴う、典型的な2区画バイオリアクター装置(例えばFiberCell systems社のFiberCell Duet、www.fibercellsystems.com)は、数デシメートルのキャピラリー長に沿った基質勾配の隔たり(distance)を伴う、不均一な物質交換(mass exchange)により制限される。
【0012】
Gerlachらにより開発された3D多区画技術(Gerlach et al. 1994)においては、この典型的な2区画装置に、もう1つの培地の、および、さらなる酸素添加膜区画が加えられた。4つの区画を織り合わせて、繰り返し単位を形成することにより、バイオリアクターのスケーラビリティ(scalability)が可能となり、分散型の培地の灌流および置換が提供され、それと同時に、物質交換(mass exchange)が亢進され、勾配の隔たりが減少する。当該概念は、閉じた、それ故、医薬品の製造および品質管理に関する基準(good manufacturing practice;GMP)に適した、培養環境における、細胞の培養に基づいたものであり、これにより、結果の、可能な臨床転換(clinical translation)のみならず、生物工学的応用もまた容易となる。バイオリアクターにおいて培養された初代ブタまたはヒト肝臓細胞を用いた初期の臨床研究では、当該システムを備えた、臨床的な対外肝臓補助(extracorporeal liver support)の実現可能性が実証された(Sauer et al. 2003)。加えて、初代細胞は、胆管構造およびネオ・シヌソイド(neo−sinusoids)を有する肝臓様組織の形成を含む、それら自身の典型的な微小環境を、そうしたin vitro培養モデル中に作り出すことができる、とのことが示された。成体幹細胞は、非器官型(anorganotypical)微小環境の創出のための、そうしたシステムにおける実質細胞/非実質細胞の共培養からの恩恵を受けられる可能性がある(Gerlach et al. 2003)。
【0013】
hPS細胞は、その独特の特徴ゆえ、基礎科学、薬理学的な薬物スクリーニング、毒性試験、および、再生医療における細胞ベースの治療、への適用のための細胞源としての大きな可能性を保持している。特定の生育条件の下では、hPS細胞は、in vitroで、多種多様な体細胞組織および胚体外組織に分化することが可能である、とのことが実証されてきた(Pera et al. 2004)。したがって、hPS、および、特にhES/hBS細胞は、以前は研究用ヒト胚の利用困難性(inaccessibility)ゆえに不可能であった、初期胚発生の際に細胞の運命を制御するような分子経路および制御機構の研究を可能にするものである。hPS細胞の、可能な臨床適用は、肝機能不全、脊髄損傷または心筋欠損のような器官の欠陥を有する患者における細胞ベースの治療のための、幹細胞由来細胞調製物の提供に見られる。hPS細胞由来の分化した細胞の、創薬における、可能な利用の分野は、標的の同定およびバリデーション、化合物の有効性のスクリーニングならびに安全性評価研究、のような前臨床活動に見られる(Sartipy et al. 2007)。胚毒性試験に関しては、未分化のhPS細胞は、より良い試験システムの開発のための、新たなツールも提供する。
【0014】
哺乳類の肝臓の発生
肝臓は、胚中で発生する最初の器官の1つであり、また、それは、たちまち胎児(胎仔)の体内で最も大きい器官の1つになる。肝臓は、胚前腸の胚体内胚葉上皮(definitive endodermal epithelium)から発生する。肝臓発生の誘導には、最初に、前腸におけるWntおよび繊維芽細胞成長因子シグナル伝達(FGF4)の抑制が必要である。次いで、心臓中胚葉からのFGFと、横中隔間充織からの骨形成タンパク質(BMP)とが、空間的に限定された細胞増殖を誘導し、それにより内胚葉層の肥厚化が引き起こされる。次いで、細胞が上皮から現れて、横中隔中へと移動しはじめる。この内胚葉から現れて横中隔中に集まる細胞の塊は肝芽(liver bud)と称される。器官形成のこのステージにおける内皮細胞との相互作用は、この初期出芽段階に極めて重要である。肝内胚葉(hepatic endoderm)細胞は、この間、機能および形態に関してかなり未成熟であり、今度は肝芽細胞(hepatoblast)と称される。肝芽由来の肝芽細胞の索は、中胚葉に貫入し、卵黄静脈および臍静脈と混ざり合い、これらが肝芽付近で吻合して、毛細血管床を形成する。これらの変遷により肝臓の類洞構造が確立されるが、これは、器官機能に極めて重要なことであり、また、肝臓への土台作りをして胎児(胎仔)の造血を支援する。肝芽中へと移動する造血幹細胞は、グルココルチコイドと共に、さらなる肝成熟を誘導するオンコスタチンM(OsM)を分泌する。この胚の肝臓塊に寄与する他の細胞型は、肝類洞、クッパー細胞および肝星細胞を取り巻く内皮細胞である。これらの細胞により産生される肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor;HGF)は、完全な機能的肝成熟に重要である。肝臓分化の、これら、より後期のステージにおいては、Wntシグナル伝達は、もはや成長および分化を阻害せず、促進する。原因肝臓療法がないこと、および、肝移植用のドナー臓器の入手可能性(availability)が不十分であることが、新しい細胞ベースの肝臓治療の開発に対する要求を生んでいる。損傷した組織と入れ換わるための、増殖および分化の能力を有する幹細胞の移植は、いくつかの臨床的徴候においては、全臓器移植(whole−organ transplantation)に取って代わることができ得るものである。
【0015】
in vitroでのhPS細胞の肝分化
in vitroにおける、HPS細胞、および、特にhES/hBS細胞の、肝分化の方向についての戦略に関する研究の結果、肝分化に対する効果を有する、いくつかのサイトカイン、成長因子および非タンパク質化合物の同定に至った(Heng et al. 2005;Snykers et al. 2008において概説されている)。当該成長因子としては、アクチビンA、BMP2および4、上皮増殖因子(EGF)、FGF1、2および4、HGF、インスリンならびにOsMが挙げられる。当該非タンパク質因子としては、デキサメサゾン(DEX)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ニコチンアミドおよび酪酸ナトリウムが挙げられる。各分化因子の効果の鍵となるのは、タイミング、濃度および他の因子との組み合わせである。hPS由来肝細胞様細胞の特徴決定をするために、種々のマーカーおよび機能試験が利用されてきた(Snykers et al. 2008により概説されている)。免疫細胞化学、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または酵素結合免疫吸着測定法(enzyme−linked immunosorbent assay;ELISA)により調べられたマーカーには、アルファフェトプロテイン(AFP)、アルブミン(ALB)および尿素のような血漿タンパク質、サイトケラチン(CK8、CK18、CK7、CK19)、ならびに、アルファ‐1‐アンチトリプシン(α1AT)、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)およびシトクロムP450アイソエンザイムのような種々の肝細胞特異的酵素、の分泌物が含まれていた。肝細胞特異的機能の発現については、例えば、グリコーゲンの貯蔵の検出や、シトクロムP450アイソザイムに特異的な種々の試験基質の代謝などにより、調べられてきた。
【0016】
hPS細胞の肝分化が記述されている最初に公開されたプロトコルは、第一工程として、EBの誘導を利用し、その後に、肝細胞を豊富にするための種々の成長因子を用いた接着培養が続くものであった(Lavon et al. 2004)。これらの研究では、非常に低い収率および純度の最終細胞集団しか報告されてこなかった。これまでに記述された、最も成功した分化プロトコルは、hESCの胚体内胚葉(definitive endoderm;DE)分化の誘導から開始して、肝臓の器官発生をまねることを試みるものである(Cai et al. 2007)。基本的には、最大80%DE細胞という収率のDE分化にのためには、低下したインスリン/インスリン様成長因子(IGF)シグナル伝達をもたらす低血清/インスリン条件での高濃度のアクチビンAが適用される(Kubo et al. 2004)。この後に、FGF、BMP、HGF、OsM/DEXによる連続処理が続く。このアプローチでは、記述された肝細胞様細胞の収率は、約50%であった。他のプロトコルとしては、ヒストン脱アセチル化酵素活性を阻害する酪酸ナトリウム(NaB)によるhESCの処理が挙げられる(Davie 2003)。分化プロトコルの第一工程における、このエピジェネティックな分化剤の適用により、hESCから10%肝細胞が得られ、また、最大70%の純度の最終細胞集団が得られた(Rambhatla et al. 2003)。アクチビンAによるDE誘導とNaB処理の組み合わせにより、最大70%という肝細胞の収率が達成され、有望な結果が示された(Hay et al. 2008)。
【0017】
まとめると、こうした現在のアプローチにより導き出されるhESC由来肝細胞の収率、純度および成熟度は、未だに最適以下(suboptimal)のものであり、したがって、新たな方法が必要である。本発明は、例えばhBS細胞などのhPSから、これら、または、分化が行われるバイオリアクターにおいてこれらから派生したDE細胞、を播種することによって肝細胞を得るための方法を提供することにより、これらの課題に対処する。
【0018】
hPS由来肝細胞の用途
hPS由来肝細胞の、将来の臨床上の用途は、例えば特定の遺伝的欠陥または急性もしくは慢性肝不全の場合などの肝機能不全を有する患者における、それらの、細胞移植への適用に見られる(Ito et al. 2009)。幹細胞由来肝細胞の移植は、いくつかの臨床的徴候においては、全臓器移植(whole−organ transplantation)に取って代わることができ得るものであり、また、―免疫適合性(immunocompatible)細胞を用いる場合には―免疫抑制療法の必要性を不要にし得るものである。さらなる治療上の1つの選択肢は、移植まで、または、患者の器官の再生までの肝機能の橋渡しをするための、対外肝臓補助のための信頼性の高いヒト細胞源の提供に見られ、これは、対外肝臓装置のための細胞の入手可能性(availability)という既存の課題をも解決するであろう。さらに、対外システムは、また、細胞移植後、その適用した細胞が、十分な肝臓特異的な代謝パフォーマンスを示すまでの、肝機能の橋渡しをするための、興味深い治療上の1つの選択肢をも提供し得る。薬学研究における、可能性のある用途としては、創薬のために必要な新規肝臓アッセイの開発のための、hPS細胞由来肝細胞の使用である。これにより、現存のin vitroツールによる乏しい予測力が克服される可能性があり、また、前臨床段階での、より信頼性が高く関連性のある試験を可能にし、かつ、弱いリード候補が臨床段階に入ってしまうのを妨げることとなるような、新たなヒト細胞ベースの試験システムがもたらされ得る(Jensen et al. 2009)。
【0019】
本発明は、調整培地の製造のための、バイオリアクターの使用にも関する。調整培地(conditioned medium;CM)の製造のための標準的な方法は、不活性MEFフィーダー細胞を高密度で播いた、標準的な培養容器内での、培養培地の、24時間のインキュベーションである。単に、活性が緩まるまで、限られた時間の間、培地調整に用いることができるのみである、大量のフィーダー細胞を製造しなければならないため、この方法は、大きな労働力を要するものであり、かつ、スペースをとるものである。したがって、より大量のCMの製造は、この方法の、乏しいスケーラビリティ(scalability)によって制限される。培養hBS細胞のためのCMの使用に対する代替的アプローチは、明確になっている培養培地の使用である。hESCの、フィーダー非依存性培養に関し、いくつかの明確になっている培地調合物が記述されてきた(Li et al. 2005;Ludwig et al. 2006)。明確になっている培地の使用には、hBS細胞を、完全に動物由来物質がない条件下で培養することができる可能性、といったような、いくつかの利点がある一方で、これの主な欠点は、これらの培地調合物には、組換えサイトカインや成長因子といった、費用のかかるかなりの量の補助物質(supplement)が含まれる、ということである。
【0020】
上記で概説されているように、本発明は、肝細胞様細胞を得るための方法であって、
i) バイオリアクターにおけるhPS細胞または肝前駆細胞の播種
ii) 当該バイオリアクターを1種類以上の培養培地で10日〜50日の期間にわたり灌流して、肝細胞様細胞を得ること、
を含む方法に関する。
【0021】
当該肝細胞様細胞は、肝細胞様細胞を含み、それ故、3D凝集体中に共にクラスター化したような、肝組織様3D構造の形をしていてもよい。当該hPS細胞は、これらに限定されるものではないが、当該定義において記載されているような、ヒト胚性幹細胞または人工多能性幹(iPS)細胞であってもよい。当該肝細胞肝細胞前駆細胞は、胚体内胚葉(definitive endoderm;DE)に似ているのではなくDEであってもよく、または、当該肝細胞前駆細胞は、胎児(胎仔)内胚葉または肝内胚葉(hepatic endoderm)の特徴を有していてもよい。上記で言及したバイオリアクターは、中空繊維キャピラリーバイオリアクターであってもよく、所望により、膜区画を備えたものであってもよい。当該バイオリアクターは、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含んでいてもよい。さらに、当該バイオリアクターは、キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、当該キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含んでいてもよく、所望により、増殖培地の灌流は、当該キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換は、中空繊維膜システム経由で行なわれる。当該キャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とは、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されていてもよい。
【0022】
当該hPS細胞は工程i)で播いてもよく、また、当該灌流は以下のスキームに従ったものであってもよいが、但し、工程2〜6のうちの少なくとも3つが含まれる:
【0023】
【表1】
【0024】
あるいは、これら工程1〜6のうちのすべてが含まれていてもよい。
【0025】
本明細書において詳述されているように、当該培養培地DM‐Aは、増殖培地を含んでいてもよく、かつ、次の成分うちの1つ以上を含んでいてもよい:アクチビンA、bFGF、グルタマックス‐I。
【0026】
本明細書において詳述されているように、培養培地DM‐Bは、例えばRPMIアドバンスト培地(RPMI Advanced medium)等の増殖培地を含んでいてもよく、かつ、次の成分うちの1つ以上を含んでいてもよい:アクチビンA、bFGF、グルタマックス‐I、FCS。
【0027】
本明細書において詳述されているように、培養培地DM‐Cは、例えばRPMIアドバンスト培地等の増殖培地を含んでいてもよく、かつ、次の成分うちの1つ以上を含んでいてもよい:bFGF、aFGF、BMP2、BMP4、グルタマックス‐I、FCS。
【0028】
本明細書において詳述されているように、培養培地DM‐Dは、例えばウィリアムズ培地E等などの肝培養培地を含み、かつ、次の成分うちの1つ以上を含む:BSA、アスコルビン酸、グルタマックス‐I、D‐ガラクトース/D‐ソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGF。
【0029】
本明細書において詳述されているように、培養培地DM‐Eは、例えばウィリアムズ培地E等などの肝培養培地を含み、かつ、次の成分うちの1つ以上を含む:BSA、アスコルビン酸、グルタマックス‐I、デキサメタゾン、D‐ガラクトース/D‐ソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGF、オンコスタチンM。
【0030】
列記したこれらの培養培地はすべて、所望により、rhoキナーゼ阻害剤、例えばBIOまたはBIOのなんらかの変種など、を含んでいてもよい。
【0031】
工程i)の前に、バイオリアクターには、不活性化したフィーダー細胞を播種してもよい。かかるフィーダー細胞は、これらに限定されるものではないが、hFFまたはMEF細胞であってもよい。
【0032】
さらに、バイオリアクターには、hBS細胞およびフィーダー細胞またはDE細胞およびフィーダー細胞、のいずれか関係する方を、工程i)で共播種してもよい。
【0033】
さらに、例えばDE細胞などの肝前駆細胞は工程i)で播いてもよく、また、以下表の工程1および2(太字で示した)は省略されてもよい。
【0034】
【表2】
【0035】
上記で概説されているように、本発明は、hPS細胞、例えばhESC/hBSCなど、の3D培養、および、特に、方向性のある肝分化に重点を置いた、hPS細胞の成長および分化を支援する新規in vitroシステムとしての多区画バイオリアクターシステムにおける前記細胞の培養に関する。結果が指し示しているのは、当該バイオリアクターの3D環境が、標準的な2D培養システムよりも、よりin vivo様である環境を構成しており、それ故、これらのシステムに比べ、hPS細胞の、改善された成長および分化を可能にする、ということである。
【0036】
さらに、本発明は、細胞をバイオリアクターに播く前に、従来型の2D環境において細胞の最初の分化を行う方法に関する。興味深いことに、本発明の発明者らは、2D環境において、胚体内胚葉の方向に向かってhPSの分化を開始させ、その後、それら最初に分化させた細胞をバイオリアクター中へと播くことにより、より純粋な培養がもたらされる、とのことを見出した。2D培養での胚体内胚葉への最初の分化後、それら細胞をバイオリアクターに播く。最初の2D分化ならびにその後のバイオリアクターにおける播種およびさらなる分化の例を、表2および表3〜5に提示する。
【0037】
したがって、これら最初に分化させた細胞は、第3日目〜第20日目、例えば第8日目〜第12日目、例えば第11日目または第12日目、に当該バイオリアクターに播いてもよい。
【0038】
上記の各局面に加え、肝細胞運命に向かうhPS細胞の分化は、アクチビンA、所望によりRHOキナーゼ阻害剤および高成長因子レベルによりさらに刺激してもよい。細胞は、所定の時点で(表3に示されている実験については第12日目、表4に示されている実験については第7日目または第11日目に)バイオリアクター中へと播いて、さらなる分化および成熟が起こるようにしておいてもよい。
【0039】
本明細書において述べられているように、本発明者らは、3Dバイオリアクターを適用することにより、hPSの肝分化が効率的に肝細胞運命の方向に向かう、とのことを見出した。hPSの、肝細胞運命に向かう、効率的な分化を促進するために適用可能な詳細なプロトコルを、以下に、および、特に、本明細書中の実施例において、詳細に記載する。本明細書において説明されているように、hPS細胞の分化は、フィーダー細胞、例えばマウス胚性フィーダー細胞(mouse embryonic feeder cell;MEF)またはヒト包皮繊維芽細胞(human foreskin fibroblast;HFF)など、を使用して、または、使用しないで、促進してもよい。さらに、増殖培地には、hESC培養培地、ならびに、DM‐A、DM‐B、DM‐C、DM‐DおよびDM‐Eとして本明細書に記載の増殖培地のいずれかを含む、なんらかの適切な増殖培地が含まれていてもよい。したがって、本発明には、本明細書中に提示されている増殖培地および分化培地を変更または置き換えるために適用することが当業者によれば明確であるような、増殖培地組成に対するあらゆる変更(例えば増殖培地の成分の除去または追加)も包含される。同様に、例えば遅れた細胞成熟またはステージに特異的な成長因子の添加などに起因する、インキュベーション時間、流速または培養条件のあらゆる変更は、そうした微調整は本発明の自明な応用であると考えるべきものであるため、本発明の範囲内に含まれる。
【0040】
最初の細胞播種の前に、所定の期間、例えば24〜72時間、にわたる、適切な増殖培地の再循環により、バイオリアクターを調整してもよい。分化の任意のステージにおいて、細胞を分化させるために使用されるあらゆる培地を含む、任意の適切な培地および流速を適用してもよい。あるいは、当該調整を最小限にすることにより、バイオリアクターに細胞をほぼ即時に播くことを可能にしてもよい。
【0041】
バイオリアクターにおいて適用される流速は、例えば分化のステージ、播種規模、細胞の成熟、増殖培地の粘度等の、いくつかの要因に依存してもよい。ガス区画中の空気/CO2混合物の流速は、0.2ml/分〜120ml/分、例えば10〜80ml/分など、例えば30ml/分など、であってもよい。
【0042】
本発明によれば、細胞は、任意の適切な濃度または数でバイオリアクターに播いてもよい。非限定的な例として、1×106〜10×108個の細胞、例えば2.5×107〜10×107個の細胞など、をバイオリアクターに播いてもよい。
【0043】
pH、酸素の分圧(pO2)および二酸化炭素の分圧(pCO2)ならびに酸/塩基状態を定期的に測定してもよい。空気/CO2混合物は、特定のpH値ならびにO2およびCO2の分圧を維持するために変えてもよい。したがって、空気/CO2混合比は、5〜9の間の、例えば7.2または7.3などの安定したpHを維持するために調整してもよい。
【0044】
当該バイオリアクターには、hPSをバイオリアクターに播く前に、フィーダー、例えばMEF細胞など、を播いてもよい。例えば、このフィーダー細胞は、例えばhPS細胞をバイオリアクターに播く5〜0日前、例えば1〜4日前など、例えばhPS細胞をバイオリアクターに播く2日前など、に播いてもよい。
【0045】
hPS細胞をバイオリアクターに播いた後、増殖培地は、決まった間隔を置いて変更してもよい。分化培地組成は、細胞分化スピードおよび細胞成熟に応じて、1〜15日毎に変更してもよい。増殖培地組成、供給速度および増殖培地組成の変更間の間隔に関するインスピレーションについては、本明細書の表2を参照のこと。
【0046】
バイオリアクターにおける分化(differentiaion)の前、最中および後に、代謝パラメータをモニタリングしてもよい。これは、培地アウトフロー中および再循環培地中の可溶性因子を測定することにより行なわれてもよい。パラメータには、関連性がありかつ測定可能なあらゆるパラメータ、例えば以下を含む因子など、が包含されていてもよい:α‐フェトプロテイン(AFP)、アルカリホスファターゼ(AP)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、ベータ‐ヒト絨毛性ゴナドトロピン(β‐hCG)、c‐ペプチド、胎児性癌抗原(CEA)、サイトケラチンフラグメント19(Cyfra21‐1)、エリスロポエチン、エストラジオール、卵胞刺激ホルモン(FSH)、第II‐V‐X‐XIII因子、フィブリノーゲン、ガンマ‐グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、グルコース、乳酸塩、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、黄体形成ホルモン、神経特異的エノラーゼ(NSE)、重量オスモル濃度(osmolality)、オステオカルシン、偽コリンエステラーゼ(PCHE)、プレアルブミンプロゲステロン、プロラクチン、S‐100、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)、トランスフェリン、グルタミン、グルタミン酸塩、グルコース、乳酸塩、アンモニウム、pH、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、アクチビンA、インスリンおよびアルブミン、尿素、ガラクトースおよびソルビトール。これらの化合物を測定するための、任意の適用可能な方法を適用してもよい。各物質の産生または消費率は、その日の実際の廃棄体積に、供給培地中の物質濃度と廃棄培地中の物質濃度との間の差を掛けることにより、例えば1日毎に算出してもよい。
【0047】
上記のパラメータまたは物質に加え、培養物の代謝活性を試験してもよい。例として、バイオリアクターの、フェナセチン、ジクロフェナクおよびミダゾラムを、第I相シトクロム(CYP)P450酵素CYP1A2、CYP2C9およびCYP3A4経由で代謝する能力を試験してもよい。この試験は、例えば培養条件および増殖培地組成を分化の最中に調整するなどのために、分化の任意のステージで行なってもよい。しかしながら、細胞を、完全にまたは部分的に肝細胞運命の方向に向かわせるか、または、肝細胞または肝細胞様細胞に分化させる場合には、この、代謝活性の試験は、比較的後期の分化ステージで、最も関連性があってもよい。例として、当該試験は、分化の第30日目〜第60日目の間、例えば細胞の播種後の第40日目および第47日目など、に行なってもよい。
【0048】
例として、以下のスキームに従って、CYP P450活性試験を行ってもよい:
CYP1A2: フェナセチン −> アセトアミノフェン
CYP2C9: ジクロフェナク −> 4’OH ジクロフェナク
CYP3A4: ミダゾラム −> 1’OH ミダゾラム
【0049】
試験物質を再循環培地中へと注入して、試験開始時に以下の濃度を得てもよい:0.5〜10μM、例えば3μMなど、のミダゾラム、1〜25μM、例えば9μMなど、のジクロフェナク、および、2〜60μM、例えば26μMなど、のフェナセチン。次いで、バイオリアクターを再循環モードで24時間作動させることができ得る。次いで、再循環からの試料を、実験開始前と、1、4、8および24時間後とに採取し、試験物質の代謝産物について、例えば液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)などにより、分析することができ得る。
【0050】
RNAの単離、cDNA合成、アレイハイブリダイゼーションおよびデータ解析は、当該分野において知られている任意の方法により行なうことができる。加えて、細胞および増殖培地の、組織化学的分析および免疫組織学的(immunihistological)分析ならびに電子顕微鏡分析は、当業者の、入手可能なツールボックスの一部を形成する任意の機器および試薬を用いて行なってもよい。
【0051】
上記で概説した詳細に従って、得られた細胞を、分化特異的マーカーに関して分析してもよい。一例を挙げれば、第0日目、播種日、およびバイオリアクターのシャットダウン日からなる測定時点で、4つの群のマーカーを測定してもよい(肝遺伝子、胎児(胎仔)/未成熟肝細胞に対するマーカー、未分化細胞に対するトランスポーターおよびマーカー)。比較目的のために、2D培養のみの後に得られた細胞を含む対照群が含まれて、適宜分析されてもよい。
【0052】
本発明のさらなる一局面は、未分化hPS細胞の培養のための調整培地の製造のための、バイオリアクターの使用に関する。
【0053】
本発明の発明者らは、不活性HFFの存在は、それらHFFがその活性を緩めるまで、hESC分化の開始を遅らせる、とのことを観察した。この、HFFの、多能性を支援する活性は、そのアクチビンAの産生と相互に関係している可能性がある。HFFフィーダー細胞の挙動をさらに調べるために、HFFのみを用いたいくつかの実験を、2D培養において、および、2つのバイオリアクターにおいて、行なった。
【0054】
1つの実験においては、バイオリアクターには、活性HFFを播種するが、これは、HFF増殖を刺激するべく血清およびbFGFを添加した培地で培養されることとなる。グルコース消費および乳酸塩産生のレベルにより、細胞数の増加をモニタリングする。十分な細胞数に達したときに、培養培地を、調整のためにhBS培地に変える。最適培地交換速度は、品質管理パラメータとして、例えば調整培地中のアクチビンAおよびグルコースの濃度を測定して、決定されなければならない。低グルコースレベルは、培地供給速度を増加させることに対する要求を指し示している可能性があり、また、低アクチビンAレベルは、hESC多能性を促進するのに不適切な、不十分な調整に対するサインである可能性がある。
【0055】
2Dおよび3D実験からの観察が示すのは、アクチビンA産生は、血清代替物(serum replacer)を含有する培地と組み合わせたbFGFにより刺激される、ということである。血清を添加した培地では、bFGFは、アクチビンA産生を刺激しなかったが、活性HFFに対する強い分裂促進作用を呈した。この作用は、培地へのbFGFの添加に際してグルコースおよび乳酸塩の代謝のレベルを上昇させることを特徴とする、バイオリアクター実験HFF‐1においても観察された。この分裂促進作用は、血清代替物(serum replacement)を添加した培地を使用した、バイオリアクター実験HFF‐2においては観察されなかった。この実験では、グルコースおよび乳酸塩の代謝は、細胞が増殖していないことを示す、ある一定のレベルに留まった。
【0056】
したがって、これらの所見は、当該バイオリアクター技術は、未分化hPS細胞をフィーダーフリーで広げるために必要な、調整培地の製造に適用できる可能性がある、とのことを説明するものである。
【0057】
CMを製造するための、バイオリアクターにおけるHFFの培養は、従来法に対する代替法となり得る。それにより、定められた速度の培地インおよびアウトフローならびに培養パラメータの自動制御を可能にするような、スケーラブルなシステムにおける、高い細胞密度のヒトフィーダー細胞が可能となるであろう。したがって、調整プロセスの標準化が可能となり、結果として、手動による方法に比べ、製造されたCMの、向上した品質がもたらされることとなる。活性フィーダー細胞が、多能性の維持も支援している、とのことが示されている(Xie et al. 2005)ことから、当該バイオリアクターを用いる場合の、1つのさらなる利点は、活性フィーダー細胞を用いることができる可能性であろう。これは、従来の2D培養では最初のバイオリアクター播種用に製造しなければならない、活性フィーダー細胞の数を減少させるであろう。
【0058】
さらに、hESC由来の分化した細胞を含有する当該バイオリアクターは、医学療法における対外装置として用いてもよく、また、例えば薬物代謝研究および奇形腫形成による多能性試験のような用途における動物試験に対する代替として用いてもよい。
【0059】
あるいは、本発明は、基礎研究、薬理学的な薬物スクリーニングおよび細胞ベースの臨床適用に必要な、大量の、未分化の、または、分化したhBS細胞の製造のための、スケーラブルなシステムとして用いてもよい。しかしながら、これらの用途のためには、本明細書において開示されておりかつ特定の細胞型が非常に豊富な細胞調製物をもたらす方法のような方法が、重要な前提条件である。
【0060】
したがって、本発明は、本明細書において開示されている方法により得られる肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造にも関する。
【0061】
本発明の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造は、上昇したレベルの1つ以上の肝マーカー遺伝子または肝トランスポーター遺伝子を発現していてもよい。
【0062】
そのような(suche)肝マーカー遺伝子の例は、アルブミン、CYP1A2、CYP2C9、CYP3A4、CYP7A1、TATおよびUGT2B7を含むリストから選択されてもよく、また、1つ以上の肝マーカーの発現は、本明細書の図7中に、試料:バイオリアクター第26日目、として列記されているような肝マーカー遺伝子の発現に典型的に似て(resempble)いてもよい。図7は、本発明の、一般的発明概念の一部を形成する、とのことが本明細書により意図されている。
【0063】
さらに、本発明の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造は、上昇したレベルの肝トランスポーター遺伝子を発現していてもよい。これらの遺伝子は、ABCC2/MRP2、FABP1、OATP2、OCT‐1を含むリストから選択されてもよい。1つ以上の肝トランスポーター遺伝子の発現は、本明細書の図9中に、試料:バイオリアクター第26日目、として列記されているような発現パターンに似ていてもよい。図9は、本発明の、一般的発明概念の一部を形成する、とのことが本明細書により意図されている。
【0064】
本発明の一局面は、膜区画を備えたバイオリアクターにおける、in vitroで導かれた(in vitro derived)肝細胞様細胞に関する。一局面では、これら細胞は、hPS細胞または肝細胞前駆体から、肝細胞様細胞へ、当該バイオリアクター中で分化したものであってもよい。
【0065】
上記で言及したバイオリアクターは、中空繊維キャピラリーバイオリアクターであってもよく、所望により、膜区画を備えたものであってもよい。当該バイオリアクターは、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含んでいてもよい。さらに、当該バイオリアクターは、キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、当該キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含んでいてもよく、所望により、増殖培地の灌流は、当該キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換は、中空繊維膜システム経由で行なわれる。当該キャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とは、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されていてもよい。
【0066】
さらに、当該バイオリアクター肝細胞様細胞または当該バイオリアクターにおける肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造は、例えばROCK Rhoキナーゼの阻害剤などの細胞生存因子の存在下で成長していてもよい。
【0067】
本発明は、調整培地を製造するための方法であって、
a) バイオリアクターにおけるフィーダー細胞の播種の工程
b) 当該フィーダー細胞を成長させる工程
を含む方法にも関する。
【0068】
上記で詳述されているように、上記で言及したバイオリアクターは、中空繊維キャピラリーバイオリアクターであってもよく、所望により、膜区画を備えたものであってもよい。当該バイオリアクターは、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含んでいてもよい。さらに、当該バイオリアクターは、キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、当該キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含んでいてもよく、所望により、増殖培地の灌流は、当該キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換は、中空繊維膜システム経由で行なわれる。当該キャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とは、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されていてもよい。
【0069】
しかし、本発明のさらなる一局面は、本明細書における方法のいずれかにより得られる細胞の、治療目的での、または、創薬、医薬製剤、毒性試験における、または、再生医療における、使用に関する。
【0070】
本明細書において開示されているように、本発明の発明者らは、当該3D灌流培養技術が、高度に制御された環境において高密度で幹細胞を広げるおよび分化させるための有望なツールに相当し、また、例えば特定の遺伝的欠陥または急性〜慢性肝不全の場合などの肝機能不全を有する患者における移植のための胚性または多能性幹細胞由来細胞調製物の製造におそらく使用することができるであろう、とのことを見出した。さらなる治療上の1つの選択肢は、hESC由来肝臓細胞をヒト細胞源として用いることにより、移植まで、または、器官再生までの肝機能の橋渡しをすることを意図した、対外肝臓補助のための、当該バイオリアクター技術の適用に見られる。対外システムは、また、幹細胞移植後、その適用した細胞が、十分な機能的パフォーマンスを示すまでの、肝機能の橋渡しをするための、有用な治療上の1つの選択肢をも提供し得る。最終的には、当該バイオリアクターシステム中で広げ、維持した、幹細胞および幹細胞由来の分化した細胞は、内在性の再生プロセスをin vivoで刺激するような再生物質を製造するためにも使用することができる可能性がある。
【0071】
したがって、本明細書に記載の方法により得られる当該細胞または3D細胞構造は、創薬、毒性試験、肝毒性試験に、または、薬物トランスポーター、薬物代謝酵素、肝形成、初期肝形成、肝細胞成熟もしくはヒト肝再生障害(hepatoregenerative disorder)の研究に、用いることができる。
【0072】
さらに、当該バイオリアクターにおける成長の後に得られる、かつ、本明細書に記載の方法のいずれかに従った、細胞または細胞の3D構造は、医薬として適用してもよく、または、例えば肝臓組織の変性などの組織変性および/または原発性胆汁性肝硬変を含む自己免疫障害;脂質異常症を含む代謝障害;例えばアルコール乱用により引き起こされる肝臓障害;例えばB型肝炎、C型肝炎、およびA型肝炎などの、ウィルスにより引き起こされる疾患;例えば医薬品に対する急性中毒反応により引き起こされる肝壊死;ならびに例えば肝細胞癌を患う患者における腫瘍除去、により引き起こされる病態および/または疾患の予防および/または治療のための組成物の製造のために適用してもよい。加えて、本明細書のこれら細胞または3D構造は、代謝病態および/もしくは疾患の治療および/もしくは予防のための組成物の製造のために、または、本明細書において開示されている方法のうちのいずれかに従ったバイオリアクターにおいて成長させた細胞を、化合物に暴露して、その化合物との接触により生じる、それらの細胞におけるなんらかの表現型の変化または代謝の変化を測定することを含む、肝細胞の機能を調節する能力に関して化合物をスクリーニングするための方法として、用いてもよい。
【0073】
hPS由来細胞の不十分な組織適合性の可能性、および、移植された細胞調製物中の未分化hESCの混入による内在する腫瘍形成の危険性に関する安全面、についても検討されている。したがって、これらの課題を解決し得る組織適合性多能性細胞を導き出すことを目的として、代替となる細胞源が調べられている。当該バイオリアクター技術は、現時点でゴールドスタンダードであるhESCとの各候補細胞型の比較および特徴決定に適用できる可能性がある。
【0074】
本発明の一部として、当該バイオリアクターにおける、hPS細胞(hPSC)の、方向性のある肝分化、に関する2つのパイロット実験を最初に行ない、実現可能性を評価した。この2つのバイオリアクター実験(HepDiff‐1およびHepDiff‐2)は、不活性化MEFの、当該バイオリアクターのうちの1つの中へのさらなる播種についてのみ異なるものであった。用いた分化プロトコルは、MEF上で培養されるhPSC用に開発されたものであった(表1および2、また、図3も参照のこと)。播種後、hPSCを、これら実験の最初の4日間の間、血清代替物(serum replacement)を含有する標準培養培地(DM‐A、表2参照)中で培養した。この最初の工程は、当該未分化細胞が、あらたな培養環境に適合し、HFFがその分化阻害活性を失うときであるものの自発的な分化の開始前に、分化を開始できるよう、選択した。この工程は、次の3つの所見に基づいて選択した:第一に、予備バイオリアクター実験において、LDHのピークにより示される細胞死の割合の増加が、細胞播種後に観察された。この増加した細胞死は、2D培養からの細胞採取のプロセス、播種プロセス自体、に起因するものであるか、および/または、それらの細胞が適合しなければならないバイオリアクターの変化した環境により誘導されたものである可能性がある。第二に、次の工程において適用された分化条件には、細胞に対する高い選択圧が含まれる。したがって、これらの条件を、細胞播種後すぐに適用することは、細胞にとってはもう1つのストレス要因であり、増加した細胞死をもたらし得るものである。第三に、方向性のある分化の開始前の4日という培養の長さは、先の実験のうちのいずれにおいても分化マーカーがこの期間内に検出されず、また、アクチビンA産生により測定されたHFF活性が一定に減少した、という所見に基づいて選択した。
【0075】
追加の不活性MEFを播種したバイオリアクターHepDiff‐2は、フィーダーを含有しないHepDiff‐1に比べ、グルコースおよび乳酸塩の、よりずっと高い代謝を示した(図4)。これは、不活性化MEFの存在が、hESCにとって細胞保護的であり、播種後のよりよい細胞生存をもたらす、とのことを指し示している。これらバイオリアクターにおけるAFP産生およびCYP450活性を比較した場合に、フィーダーの非存在下における、より低い細胞生存も明らかになっている。これらのパラメータのレベルは、フィーダー細胞を含有するバイオリアクターHepDiff‐2に比べて、フィーダーを含有しないバイオリアクターHepDiff‐1では約8倍低かった(図5)。AFPの産生は、両バイオリアクターにおいて観察され、およそ実験第17日目に開始された。これは、初期肝分化のサインであると解釈することができ、先行する細胞のDE分化がうまくいったとのことが推定される。AFPは、胎児(胎仔)肝臓の主要な細胞型である肝芽細胞への、DE細胞の分化に対するマーカーであるが、原始内胚葉細胞への、未分化細胞の分化を指し示すこともある。CYP1A1/1A2によるフェナセチンのかなりの代謝がこれらバイオリアクターにおいて検出された(図6b)。CYP1A1は、胎児(胎仔)肝臓で妊娠第一期および第二期に発現し、肺および副腎組織のような他の胎児(胎仔)組織でも発現し、成体肝臓ではもう検出することはできなくなるが、一方、CYP1A2、CYP2C9およびCYP3A4の発現は、胎児(胎仔)肝臓にはなく、成体肝臓では発現する(Hines et al. 2002)。
【0076】
上記で概説されているように、当該分化プロトコルの第一工程は、胚体内胚葉(definitive endoderm;DE)の方向に向かうhPSC分化の誘導である。このプロトコルでは、低血清条件における高アクチビンA濃度での処理により、hPSCの、DE細胞への、高率の分化が達成される。適切な培養培地の例は、RPMIアドバンスト培地に基づいたものであってもよい。当該培養培地には、0.5〜2%のグルタマックス‐I、1〜10ng/mlのbFGF、10〜200ng/mlのアクチビンA、または、10〜200μg/mlのゲンタマイシン、といった成分のうちの1つ以上が添加されていてもよい。あるいは、または、その後の使用のためには、もう1つの適切な培養培地は、RPMIアドバンスト培地に基づいたものであって、かつ、0.5〜2%のグルタマックス‐I、0.1〜1%のFCS(熱非働化)、1〜10ng/mlのbFGF、10〜200ng/mlのアクチビンA、または、10〜200μg/mlのゲンタマイシン、といった成分のうちの1つ以上を含んでいてもよい。
【0077】
肝臓細胞の方向に向かうさらなる細胞分化がうまくいくためには、この工程は極めて重要である。DE誘導後、次の2つの分化工程は、細胞の分化を、肝芽細胞表現型の方向に向かわせる。最終工程は、完全に分化した肝細胞への細胞成熟を支援するべきである。
【0078】
適用した分化条件を評価するために、インスリンおよびアクチビンAのレベルを分析した。この分析により、高レベルのインスリンの、高レベルのアクチビンAとの、部分的重なりが明らかとなった(図6a)。この、観察された高レベルのインスリンは、培養培地(例えばDM‐A)に含まれる血清代替物(serum replacer)によってもたらされるものであり、ERBB2受容体シグナル伝達に加えインスリン様成長因子‐1受容体シグナル伝達の刺激によるhPSC増殖および自己複製を支援し得る。DEへの細胞運命決定(cell fate commitment)には、低下したインスリン/インスリン様成長因子シグナル伝達と組み合わせたアクチビン/nodalファミリーメンバーによるシグナル伝達が極めて重要である、とのことも示されてきた。これは、これらバイオリアクターにおける、同時発生の、高いインスリンレベルおよび高いアクチビンAレベルという分化条件が、DEの誘導には最適ではなかった、とのこと、ならびに、おそらく、これが、肝分化がないことに対する理由である可能性が高い、とのことを示している。したがって、同時に作動させた2つのバイオリアクター、BR2およびBR3、を用いて、hPSC細胞の、DEへの、および、ひいては、より成熟した肝表現型への、方向性のある分化を洗練されたものにするために、さらなる実験を行なった。このプロセスは、hPSCを、DE運命の方向に向かって、まず、従来の2Dフラスコ中で、高レベルのアクチビンAおよび他の成長因子を用いて、ある特定の時点でそれらをバイオリアクターの中に播種する前に、部分的に分化させることを含むものであった(実施例19において詳述され、かつ、表4および5において概略的に示されているプロセス)。この、改良されたプロセスは、2D対照に比べ、第12日目に当該バイオリアクター中へと播種し第24日目に採取した細胞において、より高い発現レベルのいくつかの重要な肝マーカーを示し、;特に、5つのマーカー(アルブミン、CYP1A2、CYP2C9、CYP7A1およびUGT2B7)は、すべて、それらバイオリアクター培養試料において、有意に、より高い発現を示した(図7)。いくつかのトランスポーター遺伝子も、それらバイオリアクター培養細胞においてアップレギュレートされ(図9)、最も顕著であったのはABCC2/MRP2およびFABP1であったが、これらの発現は肝細胞型に完全に限られたものではない、とのことには注目すべきである。重要なことに、未分化細胞に対する2つのマーカー、NanogおよびOct4、の発現は、当該最初の未分化の出発物質に比べ、バイオリアクター培養細胞において(および、2D対照において)検出不可能であった、とのことも分かった(図10)。
【0079】
これに続いて、1つよりも多いバイオリアクターにわたり結果に再現性があったとのことを確実にするべく、上述の実験を繰り返した。細胞は、上述のように培養し、2つのバイオリアクターのうちの1つ、BR121またはBR168のいずれか、の中に、異なる2つの時点で(BR121については第7日目、または、BR168については第12日目に)、播種した。細胞は、記載されている(実施例5)ように成熟させ、また、第26日目に、実施例8〜11に記載されているように処理する前に採取した。BR168からの結果が示しているのは、いくつかの肝マーカーは、CYP3A7、CYP7A1、CYP3A4、CYP1A2およびTATを含め、2D対照に比べ、バイオリアクター成熟細胞において、有意にアップレギュレートされた、とのことである(図11BおよびD)。重要なことに、BR121成長細胞も、ほぼ100倍の増加が観察されたアルブミンおよびCYP3A7を含め、2D対照に比べた場合に、肝マーカーのアップレギュレーションを示した(図11AおよびC)。両バイオリアクターにおける細胞は、未分化細胞の2つのマーカー(Oct4およびNANOG)の発現の、著しいダウンレギュレーションも示し(図12)、細胞が分化していたこと、および、もはや多能性ではないこと、が確認された。
【0080】
以下に含まれるのは、hBS細胞の肝分化のための提案プロトコルである。出発物質および細胞アウトプットに応じて、工程を省略または反復してもよい。当業者は、当該個々の成分を、同じ機能を有する1つ以上と置き換えてもよいが、分化実験の基礎として部分的にまたは全体的に用いることもできる例えばBR121およびBR168においてなどの、後のバイオリアクターの作動において用いられる培地の詳細については表6も参照のこと。
【0081】
当該分化プロトコルの際に使用される培養培地は、以下に列記されているような成分を含んでいてもよいが、当該増殖培地を種々のプロトコルに対して最適化するべく、成分を置き換えても、濃度を調整してもよい。
【0082】
hPS培養培地
ベース ノックアウトDMEM
0.5〜2% グルタマックス‐I
0.5〜2% NEAA
10〜50% ノックアウト血清代替物(Knockout Serum Replacer)
20〜75μg/ml ゲンタマイシン
0.05〜1mM β‐メルカプトエタノール
1〜25ng/ml bFGF
【0083】
DM‐A
ベース RPMIアドバンスト培地
0.5〜2% グルタマックス‐I
1〜10ng/ml bFGF
10〜200ng/ml アクチビンA
10〜200μg/ml ゲンタマイシン
【0084】
DM‐B
ベース RPMIアドバンスト培地
0.5〜2% グルタマックス‐I
0.1〜1% FCS(熱非働化)
1〜10ng/ml bFGF
10〜200ng/ml アクチビンA
10〜200μg/ml ゲンタマイシン
【0085】
DM‐C
ベース RPMIアドバンスト培地
0.5〜2% グルタマックス‐I
10〜250ng/ml aFGF
1〜50ng/ml bFGF
10〜200ng/ml BMP2
50〜500ng/ml BMP4
0.05〜1% FCS(熱非働化)
10〜200μg/ml ゲンタマイシン
【0086】
DM‐D
ベース ウィリアムズE(フェノールレッド不含)
1〜2×/500ml SingleQuots(登録商標)
0.5〜2% グルタマックス
0.5〜5g/l D‐ガラクトース
0.5〜5g/l D‐ソルビトール
5〜50ng/ml HGF
0.5〜5ng/ml bFGF
10〜200μg/ml ゲンタマイシン
【0087】
DM‐E
ベース ウィリアムズE(フェノールレッド不含)
1〜2×/500ml SingleQuots(登録商標)
0.5〜2% グルタマックス
0.5〜5g/l D‐ガラクトース
0.5〜5g/l D‐ソルビトール
1〜25ng/ml オンコスタチンM
0.5〜10ng/ml HGF
0.5〜10ng/ml bFGF
0.05〜2μM デキサメタゾン
10〜200μg/ml ゲンタマイシン
0.15〜5μM rhoキナーゼ阻害剤、例えばBIO
【0088】
0.5〜10日間、例えば2日間、にわたり細胞を培養してもよい、IDM‐A
RPMI 1640(+0.01%〜5%PEST、+0.1〜10%グルタマックス)
0.5〜2× B27
10〜200ng/ml アクチビンA
0.1〜10mM NaB
【0089】
1〜10日間、例えば5日間、にわたり細胞を培養してもよい、IDM‐B
RPMI 1640(+0.01%〜5%PEST、+0.1〜10%グルタマックス)
0.5〜2× B27
10〜200ng/ml アクチビンA
0.1〜8mM NaB
【0090】
1〜10日間、例えば3日間、にわたり細胞を培養してもよい、PM‐A
RPMI A(+0.01%〜5%PEST、+0.1〜10%グルタマックス)
10〜200ng/ml aFGF
0.5〜50ng/ml bFGF
5〜250ng/ml BMP2
20〜500ng/ml BMP4
0.02〜5% FBS
【0091】
1〜10日間、例えば2日間、にわたり細胞を培養してもよい、VHM‐A
VitroHES
0.1〜10% DMSO
【0092】
1〜20日間、例えば7日間、にわたり細胞を培養してもよい、VHM‐B
VitroHES
0.2〜20% DMSO
【0093】
1〜30日間、例えば20日日間、にわたり細胞を培養してもよい、MM‐A
WME+SQ(−GA1000)(+1%グルタマックス+0.1%PEST)
1〜100ng/ml OsM
0.01〜15μM DexM
2〜50ng/ml HGF
0.1〜3% DMSO
0.15〜5μM rhoキナーゼ阻害剤、例えばBIO
【0094】
(SingleQuots(登録商標)は、独自(proprietary)濃度の、hEGF、トランスフェリン、ヒドロコルチゾン、BSA、アスコルビン酸、インスリンからなる)
【0095】
略語
AA;アクチビンA
アルブミン(ALB)
アルファ‐フェトプロテイン(AFP)
胚体内胚葉(Definitive endoderm;DE)
FBS;ウシ胎仔血清
FGF2;繊維芽細胞成長因子2
繊維芽細胞成長因子(FGF)
フォークヘッドボックスA2(Forkhead box A2;FOXA2)
肝細胞核因子4、アルファ(HNF4A)
hPS;ヒト多能性幹細胞
ヒト胚性幹細胞(hESC)
KO‐SR;ノックアウト血清代替物(knockout serum replacement)。
【0096】
定義
本明細書で用いられているように、「ヒト多能性幹細胞」(hPS)は、任意の源に由来していてもよい細胞であって、かつ、適切な条件下で、3胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)すべての派生物である種々の細胞型のヒト子孫を産生することができる細胞を指す。hPS細胞は、8〜12週齡のSCIDマウスにおいて奇形腫を形成する能力および/または組織培養において三胚葉すべての識別可能な細胞を形成する能力を有していてもよい。ヒト多能性幹細胞の定義には、ヒト胚性幹(hES)細胞を含む様々な種類の胚細胞(例えば、Thomson, J.A. et al. (1998)、Heins, N. et.al. (2004)を参照のこと)、ヒト胚盤胞由来幹(human blastocyst derived stem;hBS)細胞、ならびに、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)[例えば、Yu, J. et al., (2007);Takahashi,K. et al. (2007)を参照のこと]が包含される。本明細書に記載の種々の方法および他の実施形態は、種々の源に由来するhPS細胞を必要とするものであってもよく、または様々な源に由来するhPS細胞を利用するものであってもよい。例えば、使用に適したhPS細胞は、発生中の胚から得てもよい。加えて、または、あるいは、適したhPS細胞は、樹立細胞株および/またはヒト人工多能性幹(human induced pluripotent stem;hiPS)細胞から得てもよい。
【0097】
本明細書で用いられているように、「胚盤胞由来幹細胞」という語は、BS細胞と表され、ヒトでは「hBS細胞」または「hBSC」と称される。文献中では、この細胞は、しばしば、胚性幹細胞、また、より具体的には、ヒト胚性幹細胞(hES細胞またはhESC)と称される。よって、本発明において用いられる「多能性幹細胞」は、例えばWO03/055992およびWO2007/042225において記載されているような、胚盤胞から調製された胚性幹細胞であってもよく、または、市販のhBS細胞または細胞株であってもよい。
【0098】
本明細書で用いられているように、「hiPS細胞」または「hiPSC」は、ヒト人工多能性幹細胞を指す。
【0099】
さらに、hPS細胞の例は、例として、精巣から単離される、ヒト成人生殖系細胞が挙げられる(Conrad et al. 2008;Kossack et al. 2008;Gallicano et al. 2009)。これらの細胞は、次のような、hESCに類似した特徴を呈する:それらは、多能性マーカーOCT3/4、NANOG、SSEA‐4、TRA1‐81、およびTRA1‐60を発現するものであり、また、高いテロメラーゼ活性を示したものであり、また、正常な核型を維持したまま40回以上(more then 40)にわたり継代培養することが可能であり得る。in vitroでは、それらを、三胚葉すべての、様々な種類の体細胞へと分化させることが可能であり、また、それらは、免疫不全マウス中に移植された場合に奇形腫を形成し得る。最近では、肝細胞性(stemness)因子の導入により、体細胞を、多能性細胞、いわゆる人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPSC)、へとリプログラミングすることができる、とのことも実証されている。まず、OCT4、SOX2、KLF4およびC‐MYCのレトロウィルス媒介性導入を用いたマウス尾端からの繊維芽細胞における多分化能の誘導が示された(Takahashi et al. 2006)。さらなる報告により、4つの転写因子、OCT4、SOX2、NANOGおよびLIN28、または、OCT4、SOX2、KLF4およびC‐MYC、の組み合わせ発現が、ヒト胎児包皮または成人ヒト皮膚繊維芽細胞を多能性細胞へとリプログラミングするのに十分であることが実証された(Takahashi et al. 2007)。これらのヒトiPSCは、その形態学的性質および遺伝子発現の性質により、ヒト胚性幹細胞に似ている。iPSCは、正常な核型を有し、テロメラーゼ活性を発現し、ヒトES細胞を特徴づける細胞表面メーカー(maker)および遺伝子を発現し、ならびに、免疫不全マウス中へと移植された場合の奇形腫形成を含む3種類の一次胚葉すべての進行した派生物へと分化する発生上の潜在能力を維持する。
【0100】
本明細書で用いられているように、「胚体内胚葉(definitive endoderm;DE)」および胚体内胚葉細胞(DE細胞)は、これらに限定されるものではないが、例えば、胚体内胚葉の細胞に典型的な、タンパク質もしくは遺伝子の発現、およびもしくは/もしくは、形態など、を呈する細胞、または、胚体内胚葉の細胞に似たかなりの数の細胞を含む組成物、を指す。
【0101】
本明細書で用いられているように、「肝前駆体」または「肝前駆細胞」は、これらに限定されるものではないが、マーカー、例えば、胚体内胚葉の細胞に典型的な、タンパク質もしくは遺伝子の発現、および/もしくは、形態など、を呈する細胞、または、肝前駆体の細胞に似たかなりの数の細胞を含む組成物を指す。
【0102】
本明細書で用いられているように、「肝細胞様細胞(hepatocyte−like cell;HCLC)」は、少なくともいくつかの成熟肝マーカー、例えばアルブミン、CYP3A4、UGT2B7、OATP‐2、ADH1A、UGT1A6、CYP2C9、CYP2C19およびCYP2D6など、を発現している細胞型を意味するよう意図されたものである。
【0103】
本明細書で用いられているように、「組織様3D構造」という語は、多能性出発物質由来の、in vitroで導かれた3D(3次元)構造を意味するよう意図されたものである。
【0104】
本明細書で用いられているように、「肝組織様3D構造」という語は、肝臓器様組織に似た、in vitroで導かれた組織を意味するよう意図されたものである。
【0105】
本明細書で用いられているように、フィーダー細胞は、単独でまたは組み合わせて用いられる支持細胞型を意味するよう意図されたものである。さらに、この細胞型は、ヒト由来のものであってもよく、または、他の種由来のものであってもよい。当該フィーダー細胞が由来し得る組織としては、胚組織、胎児(胎仔)組織、新生児(新生仔)組織、幼若組織または成人(成体)組織が挙げられ、また、さらには、包皮を含む皮膚、臍帯、筋肉、肺、上皮、胎盤、卵管、腺、間質(stroma)または胸に由来する組織が挙げられる。当該フィーダー細胞は、ヒト繊維芽細胞、線維細胞、筋細胞、ケラチノサイト、内皮細胞および上皮細胞からなる群に属する細胞型由来であってもよい。フィーダー細胞を導き出すために用いることができる具体的な細胞型の例としては、胚繊維芽細胞、胚体外内胚葉細胞、胚体外中胚葉細胞、胎児(胎仔)繊維芽細胞および/または線維細胞、胎児(胎仔)筋肉細胞、胎児(胎仔)皮膚細胞、胎児(胎仔)肺細胞、胎児(胎仔)内皮細胞、胎児(胎仔)上皮細胞、臍帯間葉系細胞、胎盤繊維芽細胞および/または線維細胞、胎盤内皮細胞が挙げられる。
【0106】
本明細書で用いられているように、「mEF細胞」または「MEF細胞」という語は、マウス胚繊維芽細胞を意味するよう意図されたものである。
【0107】
本明細書で用いられているように、「CYP」は、シトクロムP、および、より具体的には、例えばCYP1A1、CYP1A2、CYP1B1、CYP2A6/2A7/2A13、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7およびCYP7A1などの、多種多様なアイソエンザイムを構成する肝臓の主要な第I相代謝酵素であるシトクロムP450、を意味するよう意図されたものである。
【0108】
本明細書で用いられているように、「ROCK阻害剤」という語は、例えばY‐27632またはファスジルなどの、Rho‐キナーゼの小分子阻害剤を意味するよう意図されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】表1には、行なった実験Hepdiff1およびHepdiff2ならびにそれらの実験条件を記載する。
【図2】表2は、バイオリアクターにおいてhESCの肝分化を誘導するために用いる培地の順序および組成の概要を示す。
【図3】表3は、バイオリアクターBR1における、hESCの、肝細胞への成熟を示す;Jellyfish 2mlバイオリアクター、流速 2ml/時間=50ml/日/BR=1日当たり100ml。細胞:SA121 DEF、前駆体ステージ12における播種。ピンク色の段階:DE(胚体内胚葉)の誘導、緑色の段階:前駆体ステージ(小さい肝細胞様細胞)、青色の段階:成熟
【図4】表4は、バイオリアクターBR2およびBR3における、hESCの、肝細胞への成熟を示す;Jellyfish 2mlバイオリアクター、流速 2ml/時間=50ml/日/BR=1日当たり100ml。細胞:SA121 DEF、第7日目(DEステージ)および前駆体ステージ(第12日目)における播種。ピンク色の段階:DE(胚体内胚葉)の誘導、緑色の段階:前駆体ステージ(小さい肝細胞様細胞)、青色の段階:成熟
【図5】表5は、バイオリアクターBR121およびBR168における、hESCの、肝細胞への成熟を示す;Jellyfish 2mlバイオリアクター、流速 2ml/時間=50ml/日/BR=1日当たり100ml。細胞:SA121 DEF、前駆体ステージ12における播種。ピンク色の段階:DE(胚体内胚葉)の誘導、緑色の段階:前駆体ステージ(小さい肝細胞様細胞)、青色の段階:成熟
【図6】表6は、実施例19で用いた培養培地およびインキュベーション時間の概略図を示す。
【図7】図1はバイオリアクター設計を示す。A)培地灌流(青色、II;赤色、IV)、酸素添加(黄色、III)および細胞収容(I)のための、独立した区画を有する、最小キャピラリー膜ユニット;B)これらの区画を構成するキャピラリー膜の束;C)細胞区画内の、それらキャピラリー/区画の3D配列;これら区画は、Bに示されているように、別々に灌流することができ、これにより、キャピラリーユニット間の物質勾配の隔たりの減少に対処し、かつ、物質交換(mass exchange)を亢進する。すべての膜区画は細胞区画内で互いに織り合わされ、それにより、平均して500μmのキャピラリー間距離を有する緊密なキャピラリーネットワークが形成される(C)。各区画のキャピラリーは、インおよびアウトフローヘッドへと束ねられ、それぞれ、灌流のためのチューブシステムへと接続される(B)。細胞は、開口端(open ending)チューブを介して細胞区画中へ播種され、これにより、その注入された細胞の細胞区画内での分布が可能となる(B、d;灰色で示されている)。
【図8】図2は灌流システムを示す。A)培地の再循環および置換のための交換可能なマルチチャンネルフローヘッドおよびギアを備えたモジュラーポンプに対する圧力および流速の制御を備えたプロセッサ制御式灌流装置ならびに外部自動CO2制御式pH制御システム(左)。B)圧力、温度、ポンプスピード、pHおよびガスフローを継続的に記録し、グラフでモニタリングする、カスタムモニタリングソフトウェア。C)バイオリアクターを培地およびガスで灌流するために用いたチューブシステムの模式図
【図9】図3は、3つの別々の培養ディッシュにおいて示される、分化したhESCの2D培養物中のβ‐HGC濃度を示す。培養ディッシュ1は、培養第30日目時点で最も低い曲線により表され、培養ディッシュ2は、培養第30日目時点で真ん中にある曲線で表され、培養ディッシュ3は、培養第30日目時点で最も高い曲線で表されている。
【図10】図4は、バイオリアクターhESC‐1、‐2および‐3の培地アウトフローにおいて測定した代謝パラメータの経時変化を示す。バイオリアクターHepDiff‐2(a)およびHepDiff‐1(b)中の細胞による、グルコース消費(緑色、測定開始時点での最も低い曲線)、乳酸塩産生(赤色、測定開始時点で真ん中の曲線)およびLHD放出(青色、測定開始時点での最も高い曲線)。
【図11】図5は、バイオリアクターHepDiff‐1および‐2の培地アウトフローにおいて測定した分化マーカーの経時変化を示す。バイオリアクターHepDiff‐1(a)およびHepDiff‐2(b)中の細胞による、AFP産生(濃青色、第50日目時点で真ん中)、アルブミン産生(濃緑色、第50日目時点での最も高い曲線)および尿素産生(ピンク色、第50日目時点での最も低い曲線)。
【図12】図6は、培地において測定したアクチビンAおよびインスリンの濃度の経時変化ならびにバイオリアクターHepDiff‐1および‐2におけるシトクロム活性測定を示す。(a)アクチビンA濃度(ピンク色、点線および実線、第20日目時点での最も高い曲線)、インスリン濃度(青緑色、第20日目時点での最も低いもの)
【図13】図7は、分化の最中に発現し、いくつかの時点(第0日目、第12日目、バイオリアクター第26日目、2D対照第26日目)においてモニタリングされた肝マーカー遺伝子(アルブミン、CYP1A2、CYP2C9、CYP3A4、CYP7A1、TATおよびUGT2B7)のヒストグラムを示す。
【図14】図8は、分化の最中に発現し、いくつかの時点(第0日目、第12日目、バイオリアクター第26日目、2D対照第26日目)においてモニタリングされた胎児/未成熟肝細胞に対するマーカー(AFP、CYP3A7)のヒストグラムを示す。
【図15】図9は、分化の最中に発現し、いくつかの時点(第0日目、第12日目、バイオリアクター第26日目、2D対照第26日目)においてモニタリングされた肝トランスポーター遺伝子(ABCC2/MRP2、FABP1、OATP2、OCT‐1)のヒストグラムを示す。
【図16】図10は、分化の最中に発現し、いくつかの時点(第0日目、第12日目、バイオリアクター第26日目、2D対照第26日目)においてモニタリングされた、未分化細胞に対するマーカー遺伝子(Nanog、Oct4)のヒストグラムを示す。
【図17−1】図11は、異なる時点において2つの異なるバイオリアクター(121または168)へと播種された細胞の肝遺伝子発現プロファイルを示す4つのヒストグラム(A〜D)を示す。1に等しい値を有する参照試料は、2D培養により得た細胞の遺伝子発現を表す。
【図17−2】図11は、異なる時点において2つの異なるバイオリアクター(121または168)へと播種された細胞の肝遺伝子発現プロファイルを示す4つのヒストグラム(A〜D)を示す。1に等しい値を有する参照試料は、2D培養により得た細胞の遺伝子発現を表す。
【図18】図12は、バイオリアクターBR121およびBR168における細胞の分化および成熟の最中の、未分化細胞のマーカー(Oct4およびNANOG)のダウンレギュレーションを示すヒストグラムを示す。1に等しい値を有する参照試料は、2D培養により得た細胞の遺伝子発現を表す。
【発明を実施するための形態】
【0110】
実施例1
ヒト包皮繊維芽細胞(HFF)の培養
HFFは、Type Culture Collectionから購入し(CRL‐2429;米国バージニア州マナッサス)、44回以下の集団倍加の間、グルタマックス‐1(インビトロジェン社)、10% 子ウシ胎仔血清および10,000U/10,000μg/ml ペニシリン/ストレプトマイシン(すべてBiochrom社、ドイツ ベルリン)を含有するイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)中に広げた。その細胞を、3000ラドのガンマ線照射により不活性化し、10ng/ml ヒト組換え塩基性繊維芽細胞成長因子(hrbFGF)(PeproTec社)を添加したVitroHES培地(Vitrolife AB社、スウェーデン イェーテボリ)中、または、20% ノックアウト血清代替物(Knockout Serum Replacer)、2mM グルタマックス‐I(すべてインビトロジェン社)、0,1mM 非必須アミノ酸(NEAA)、50μg/ml ゲンタマイシン(すべてBiochrom社)、0.1mM β‐メルカプトエタノール(シグマ社)、10ng/ml hrbFGF(PeproTec社、英国ロンドン)を含有するノックアウトDMEM中、1cm2当たり30,000〜70,000個HFFの密度で、0.1% ゼラチン(シグマアルドリッチ社)でコートした培養ディッシュ上に蒔いた。すぐに使用しない照射細胞は、分注して、10% ジメチルスルホキシド(DMSO)(シグマアルドリッチ社)を含有する子ウシ胎仔血清(Biochrom社)中に凍結し、後で使用するために−152℃に保存した。
【0111】
実施例2
マウス胚繊維芽細胞(MEF)の培養
MEFを、2回〜最大4回までの継代の間、10% 子ウシ胎仔血清、2mM L‐グルタミン、0.1mM NEAAおよび10,000U/10,000μg/ml ペニシリン/ストレプトマイシン(すべてBiochrom社)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中に広げた。3000ラドのガンマ線照射により不活性化し、VitroHES培地(Vitrolife社)中、65,000細胞/cm2の密度で、0.1% ゼラチン(シグマアルドリッチ社)でコートした「体外受精(In Vitro Fertilization)」(IVF)ディッシュ(ファルコン、ベクトン・ディッキンソン社)に播くか、または、分注して、10% DMSO(シグマアルドリッチ社)を含有する子ウシ胎仔血清(Biochrom社)中に凍結し、後で使用するために−152℃に保存した。
【0112】
実施例3
バイオリアクター
本研究に用いた多区画バイオリアクターは、1つの二液型ポリウレタンハウジング(PUR、Morton社、ドイツ ブレーメン)中へと組み込まれる、3つの、独立しているが織り合わされている中空繊維キャピラリー膜システムで構成されている。培地灌流用の2つの親水性キャピラリーシステムは、およそMW500,000の分子量カットオフを有する微多孔性ポリエーテルスルホンキャピラリー膜(mPES、Membrana社、ドイツ ヴッパータール)でできている。3つ目のものは、ガス交換を可能にするために、疎水性マルチラミネート中空繊維膜キャピラリー(MHF、三菱、日本国東京)でできている。よって、キャピラリー外スペース内に位置する細胞は高物質交換率の分散培地供給と拡散による直接膜酸素添加とに暴露される。細胞の注入には、フローヘッドおよび開口端(open ending)シリコーンゴムキャピラリー(Silastic、ダウコーニング社、米国ニューヨーク州)を用いる(図1A、BおよびC)。バイオリアクターは、培地の再循環および置換のための交換可能なマルチチャンネルフローヘッドおよびギアを備えたモジュラーポンプに対する圧力および流速の制御を備えた、1つのプロセッサ制御式灌流装置中へと組み込まれる(図2AおよびC)。加熱ユニットにより、灌流回路内の一定温度がもたらされる。空気およびCO2の流速は、いずれも、組み込まれたロータメーターを用いて手動で制御するか、または、外部自動CO2制御式pH制御システムを用いることにより制御した(図2)。当該制御装置は、バイオリアクター灌流回路中に組み込まれた光学pHセンサー経由で、培養培地のpH値を連続的に測定し、また、空気/CO2混合物を調整して、予め設定したpHを維持する。バブルトラップを備えた灌流チューブ(図2Cに示されている)は、標準的な医療グレードの透析PVC(ビー・ブラウン社、ドイツ メルズンゲン)から作製された。滅菌は、エチレンオキシドまたはホルムアルデヒドガスを用いて行ない、その後、少なくとも7日間の脱気期間を設けた。この実験の間、灌流装置は、組み込まれたUSBポートを介してPCに接続し、また、LabVIEW(National Instruments社、ドイツ ミュンヘン)で作成されたスタンドアロンの測定プログラムを用いて、灌流パラメータ(圧力、温度、ポンプスピード)を、継続的に記録し、グラフでモニタリングした。このプログラムは、インターネット経由での遠隔モニタリングを可能にするウェブサーバーも提供する(図2C)。
【0113】
実施例4
バイオリアクター調整
最初の細胞播種の前に、バイオリアクターは、培地の再循環による24〜72時間の調整段階を経た。細胞播種後、培養物を、22〜30ml/分の流速で灌流した。このバイオリアクターを37℃で保った。ガス区画中の空気/CO2混合物の流速を40ml/分で維持した。pH、酸素の分圧(pO2)および二酸化炭素の分圧(pCO2)ならびに酸/塩基状態を定期的に測定した(ABL5、Radio Meter Copenhagen、デンマーク コペンハーゲン)。手動ガス制御の場合には、空気/CO2混合比を、7.2〜7.3の間の安定したpHを維持するために調整した。これら実験の全体を通じて生じた代謝および灌流のデータの、オンラインでの保存、アクセスおよび分析を可能にするために、データベースを開発した。
【0114】
実施例5
バイオリアクターHepDiff‐1およびHepDiff‐2におけるhESCの肝分化
方向性のある肝分化について調べるために、2つの最初のバイオリアクター作動を行なった。一方の実験においては、hESC播種の2日前に、バイオリアクターに不活性化MEFを播いたが、もう一方は、フィーダー細胞の添加をせずに行なった(表1および表2参照)。hESCの肝分化を誘導するために、バイオリアクターを、5種類の異なる培地(DiffMed1〜5、表2)で、出願人が開発した分化プロトコルに基づいて、連続的に灌流した。培地の順序、組成および灌流回路への新鮮培地添加速度についての概要を表2に示す。
【0115】
実施例6
灌流培地における代謝パラメータ
これらバイオリアクターの内側の細胞の代謝活性および分化は、培地アウトフロー中および再循環培地中の可溶性因子を測定することにより、毎日、特徴決定を行なった。自動臨床化学分析装置(ロシュ・ダイアグノスティックス社、ドイツ ハイデルベルク)を用いて、以下のパラメータを測定した:α‐フェトプロテイン(AFP)、アルカリホスファターゼ(AP)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、ベータ‐ヒト絨毛性ゴナドトロピン(β‐hCG)、c‐ペプチド、胎児性癌抗原(CEA)、サイトケラチンフラグメント19(Cyfra21‐1)、エリスロポエチン、エストラジオール、卵胞刺激ホルモン(FSH)、第II‐V‐X‐XIII因子、フィブリノーゲン、ガンマ‐グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、グルコース、乳酸塩、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、黄体形成ホルモン、神経特異的エノラーゼ(NSE)、重量オスモル濃度(osmolality)、オステオカルシン、偽コリンエステラーゼ(PCHE)、プレアルブミンプロゲステロン、プロラクチン、S‐100、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)、トランスフェリン(測定方法の詳細な説明については、添付文書中の表8を参照のこと)。加えて、グルタミン、グルタミン酸塩、グルコース、乳酸塩、アンモニウム、pH、ナトリウム(Na+)、カリウム(K+)を、BioProfile 100 Plus装置(ノバ・バイオメディカル社、米国マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて測定した。アクチビンA、インスリンおよびアルブミンは、酵素結合免疫吸着測定法(enzyme−linked immunosorbent assay;ELISA)を用いて、メーカーの推奨に従って(アクチビンAは、ドイツ ヴィースバーデン‐ノルデンシュタットの、R&Dシステムズ社からの製品DY338、DY999、DY994、DY995を用いて、;インスリンは、インビトロジェン社からのELISAを用いて、;アルブミンは、米国ペンシルベニア州フィラデルフィアのエクソセル社、AlbuwellからのELISAを用いて)、測定した。尿素は、比色定量キット(QuantiChrom、バイオアッセイシステムス社、米国カリフォルニア州ヘイワード)を用いて測定した。ガラクトースおよびソルビトールの濃度は、酵素アッセイ(ロシュ・ダイアグノスティックス社)により測定した。
【0116】
各物質の産生または消費率は、その日の実際の廃棄体積に、供給培地中の物質濃度と廃棄培地中の物質濃度との間の差を掛けることにより、バイオリアクター毎に1日毎に算出した。
【0117】
実施例7
代謝活性
当該肝分化プロトコルで処理したバイオリアクター培養物を試験するか、または、その、フェナセチン、ジクロフェナクおよびミダゾラムを、それぞれ、第I相シトクロム(CYP)P450酵素CYP1A2、CYP2C9およびCYP3A4経由で代謝する能力を試験した。細胞の播種後の第40日目および第47日目に、以下のスキームに従って、CYP P450活性試験を行なった:
CYP1A2: フェナセチン −> アセトアミノフェン
CYP2C9: ジクロフェナク −> 4’OH ジクロフェナク
CYP3A4: ミダゾラム −> 1’OH ミダゾラム
【0118】
この目的のために、新鮮培地インフローおよび培地アウトフローを閉じ、また、試験物質のカクテルを再循環培地中へと注入して、試験開始時に以下の濃度を得た:3μMのミダゾラム、9μMのジクロフェナクおよび26μMのフェナセチン。次の24時間の間、バイオリアクターを再循環モード(新鮮培地は添加されず、培地再循環ポンプのみが培地を再循環させる)で作動させた。再循環からの試料を、実験開始前と、1、4、8および24時間後とに採取し、試験物質の代謝産物について、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)により分析した。分析は、スウェーデン イェーテボリのアストラゼネカ社にて行なわれた。最後の試料を採取した後に、当該バイオリアクターは、新鮮培地を用いてシングル・パス・モードで、バイオリアクターおよびチューブシステムの体積の2倍を用いて洗い流し、その後、新鮮培地インフローを伴うノーマル灌流モード再循環へと切り替えた)。
【0119】
実施例8
バイオリアクターからの試料取得
予定された培養期間の終わりに、バイオリアクターをシャットダウンし、チューブを外した。低い方のバイオリアクターのフタを開け、キャピラリー層を含む細胞塊の試料を、滅菌したメスおよびピンセットを用いてさらなる分析用に切り出した。組織学的分析のために、試料は、すぐに、後述のように固定し、包埋した。奇形腫試験、FACSおよびRNA分析のために、細胞を、キャピラリーから分離し、CaMgを含有しないPBSでの洗浄、および、0.05%〜0.02%のトリプシン‐EDTA溶液(Biochrom社)中での3分間のインキュベーションによりバラバラにした。トリプシン処理(trypsination)は、10%子ウシ胎仔血清(Biochrom社)を含有するDMEMの添加により停止させた。細胞溶液からのキャピラリーの分離は、100μmセルストレーナー(ファルコン、ベクトン・ディッキンソン社、ハイデルベルク)を用いてふるい分けることにより達成した。
【0120】
実施例9
RNAの単離
バイオリアクター中で培養した細胞/組織からRNAを単離するために、切り出したキャピラリーは、CaMgを含有しないPBSで洗浄し、0.05%〜0.02のトリプシン‐EDTA溶液(Biochrom社)中で3分間インキュベートした。RNeasyキット(キアゲン社、ドイツ ヒルデン)を用いてメーカーのプロトコルに従い、全RNAを単離した。奇形腫は、TissueLyser IIを用い、その後、QIAshredderでホモジナイゼーションを行なうことにより、粉砕した(いずれもキアゲン社)。個々の細胞は、細胞ペレットへの溶解バッファー(lysis buffer)の直接の添加により溶解させた。この単離したRNAの濃度および品質は、ナノドロップ分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて、かつ、バイオアナライザ(アジレント2100バイオアナライザ)で、または、未変性(native)アガロースゲル電気泳動により、決定した。
【0121】
実施例10
アレイハイブリダイゼーション
ビオチン標識cRNAは、投入(input)として300ngの品質チェック済み全RNAを用い、イルミナ(登録商標)TotalPrep RNA Amplification Kit(Ambion社、米国テキサス州オースティン)を用いて作成した。チップハイブリダイゼーション、洗浄、Cy3‐ストレプトアビジン(アマシャム バイオサイエンス社)染色、およびスキャニングは、Bead Station 500(イルミナ社、サンディエゴ、米国)プラットホーム上で、メーカーにより供給されたプロトコルに従い、試薬を用いて行なった。cRNA試料は、およそ24,000種類のRefSeq転写産物を搭載したイルミナ ヒト‐8v2 BeadChip上にハイブリダイズさせた(Kuhn et al. 2004)。
【0122】
実施例11
データ解析
すべての試料に対する、分位(quantil)正規化および非正規化RAWデータファイルは、BeadStudio V3ソフトウェア(イルミナ社)を用いて作成した。BeadStudioソフトウェアで作成したデータを、マイクロアレイデータ解析ツールMultiExperiment Viewer(MeV)、マイクロアレイ分析ツールのTM4スイート(http://www.tm4.org)の一コンポーネント(Saeed et al. 2003)、または、Bioconductor(Gentleman et al. 2004)をその分析バックエンド(analysis backend)として用いるグラフィカル・インターフェースであるChipster(http://chipster.sourceforge.net/)、へとインポートすることにより、さらなるデータ解析を行なった。機能エンリッチメント解析(functional enrichment analysis)は、DAVID(http://david.abcc.ncifcrf.gov)を用いて行なった(Dennis et al. 2003)。
【0123】
実施例12
組織化学
パラフィン包埋試料を、4%緩衝ホルムアルデヒド溶液中で固定し、パラフィン中に包埋し、切って、5μmの切片にした。切片を、キシレンで脱パラフィンし、段階的に減少するアルコール(decreasing alcohol series)を用いて再水和させ、その後、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を行なった。
【0124】
実施例13
免疫組織学
パラフィン包埋試料を、4%緩衝ホルムアルデヒド溶液中で固定し、パラフィン中に包埋し、切って、5μmの切片にした。切片を、キシレンで脱パラフィンし、段階的に減少するアルコール(decreasing alcohol series)を用いて再水和させた。抗原は、切片を圧力釜にてクエン酸緩衝液(0.01 クエン酸一水和物、pHは6.0まで;メルク社、ドイツ ダルムシュタット)中で25分間ボイルすることにより、賦活化(retrieve)し、その後、5%トリトン/PBS中で20分間のインキュベーションを行なった。切片を5%スキムミルクでブロッキングし、;それらを一次抗体と共に30分間インキュベートし、PBSで洗浄し、二次蛍光結合抗体と共にインキュベートした。以下の一次抗体を用いた:モノクローナルマウス抗ヒト平滑筋アクチンIgG2a(ASMA)、モノクローナルマウス抗ヒトデスミンIgG1(Dako社、デンマーク グロストルプ)、モノクローナルマウス抗ニューロン特異的β‐III‐チューブリンIgG2a(R&Dシステムズ社)、モノクローナルマウス抗ネスチンIgG1(ベクトン・ディッキンソン社)、ポリクローナルヤギ抗HNF‐3βIgG、モノクローナルマウス抗OCT‐4 IgG2bおよびポリクローナルウサギ抗ビメンチンIgG(Santa Cruz Biotechnology社)。二次抗体としては、以下のポリクローナル抗体を用いた:ヤギ抗マウスIgG‐Cy2、ヤギ抗ウサギIgG‐Cy3(Dianova社)、ヤギ抗マウスIgG2a‐TRICT、ヤギ抗マウスIgG‐FITC、ヤギ抗マウスIgG‐FITC、ヤギ抗マウスIgG‐Cy3、ヤギ抗マウスIgG‐FITC(ジャクソン・イムノリサーチ・ラボラトリーズ社、ペンシルベニア州ウェストグローブ)およびロバ抗ヤギIgG‐Cy3(Santa Cruz Biotechnology社)。核の非特異的染色のために、切片を、4’,6‐ジアミジノ‐2‐フェニルインドール(DAPI、モレキュラープローブ社、ドイツ ライデン)と共にインキュベートした。
【0125】
続いて、それら切片を、Aqua Polymount溶液(ポリサイエンス社、米国ペンシルベニア州ウォリントン)を用いてマウントした。切片は、CCDカメラ(Retiga 2000R、QImaging社、カナダ バーナビー)を備えた倒立顕微鏡(Axiovert 200M、カールツァイス社、ドイツ ゲッティンゲン)を用いて分析した。写真を取得し、デジタルイメージングソフトウェア「Image Pro Plus」(メディアサイバネティクス社、米国シルバースプリング)を用いて処理した。
【0126】
実施例14
透過型電子顕微鏡法(TEM)
バイオリアクター細胞区画由来の物質を5%グルタルアルデヒド(Serva社、ドイツ ハイデルベルク)で固定した。60mmol/lのリン酸緩衝液、pH7.3中での30分間の浸漬後、細胞の凝集体を、2時間にわたり、2% OsO4(Paesel+Lorei社、ドイツ フランクフルト)中で後固定し、エタノール中で段階的に脱水し、次いで、アラルダイト(Serva社、ドイツ ハイデルベルク)中に包埋した。超薄切片は、電子顕微鏡検査前に、酢酸ウラニルおよびレイノルズ(Reynold’s)クエン酸鉛(Chroma社、ドイツ ミュンスター)を用いてコントラストをつけた。
【0127】
実施例15
バイオリアクターにおけるhESCの、改善された肝分化
実施例5に記載した最初の肝分化作動からの結果に基づき、さらなる作動を行なって、方向性のある肝分化についてさらに調べた。
【0128】
1つの実験においては、フィーダーフリーで培養したhESCは、本明細書に記載の分化プロトコルに従って、バイオリアクターの外側で、2D培養で、DEへと分化させた。この、肝細胞の方向に向かうDEへの第一分化工程により、大量の細胞死が誘導される。この工程をバイオリアクターの外側で行なうことにより、当該リアクター中の過半の細胞残屑は回避される。加えて、当該第一分化工程を2Dで行なうことにより、胚体内胚葉細胞の、より純粋な選択が可能となり、これは、当該培養物中にかなりの量の胚体内胚葉細胞を伴う、全体的な、より純粋な培養につながる。
【0129】
DEへの分化後、細胞を、バイオリアクターに移すか、または、対照として2D中にとどめた。胚体内胚葉細胞のさらなる肝分化を誘導するために、バイオリアクターを、種々の培地で、Cellartis社が開発した分化プロトコルに基づいて、連続的に灌流した。培地の順序、組成および灌流回路への新鮮培地添加速度の一例についての概要を表2に示す。
【0130】
実施例16
未分化hESCの培養のための、当該バイオリアクターシステムを用いた、調整培地の製造
本明細書において検討したようなバイオリアクター実験は、不活性HFFの存在は、それらHFFがその活性を緩めるまで、hESC分化の開始を遅らせる、とのことも示す。この、HFFの、多能性を支援する活性は、そのアクチビンAの産生と相互に関係している可能性がある。HFFフィーダー細胞の挙動をさらに調べるために、HFFのみを用いたいくつかの実験を、2D培養において、および、2つのバイオリアクターにおいて、行なった。
【0131】
1つの実験においては、バイオリアクターには、活性HFFを播種するが、これは、HFF増殖を刺激するべく血清およびbFGFを添加した培地で培養されることとなる。グルコース消費および乳酸塩産生のレベルにより、細胞数の増加をモニタリングする。十分な細胞数に達したときに、培養培地を、調整のためにhBS培地に変える。最適培地交換速度は、品質管理パラメータとして、例えば調整培地中のアクチビンAおよびグルコースの濃度を測定して、決定されなければならない。低グルコースレベルは、培地供給速度を増加させることに対する要求を指し示している可能性があり、また、低アクチビンAレベルは、hESC多能性を促進するのに不適切な、不十分な調整に対するサインである可能性がある。
【0132】
2Dおよび3D実験からの結果が示すのは、アクチビンA産生は、血清代替物(serum replacer)を含有する培地と組み合わせたbFGFにより刺激される、ということである。血清を添加した培地では、bFGFは、アクチビンA産生を刺激しなかったが、活性HFFに対する強い分裂促進作用を呈した。この作用は、培地へのbFGFの添加に際してグルコースおよび乳酸塩の代謝のレベルを上昇させることを特徴とする、バイオリアクター実験HFF‐1においても観察された。この分裂促進作用は、血清代替物(serum replacement)を添加した培地を使用した、バイオリアクター実験HFF‐2においては観察されなかった。この実験では、グルコースおよび乳酸塩の代謝は、細胞が増殖していないことを示す、ある一定のレベルに留まった。これらの結果は、当該バイオリアクター技術の、可能性のある用途は、未分化hESCをフィーダーフリーで広げるために必要な、調整培地の製造である可能性がある、とのことを示している。
【0133】
調整培地(conditioned medium;CM)の製造のための標準的な方法は、不活性MEFフィーダー細胞を高密度で播いた、標準的な培養容器内での、培養培地の、24時間のインキュベーションである。単に、活性が緩まるまで、限られた時間の間、培地調整に用いることができるのみである、大量のフィーダー細胞を製造しなければならないため、この方法は、大きな労働力を要するものであり、かつ、スペースをとるものである。したがって、より大量のCMの製造は、この方法の、乏しいスケーラビリティ(scalability)によって制限される。培養hBS細胞のためのCMの使用に対する代替的アプローチは、明確になっている培養培地の使用である。hESCの、フィーダー非依存性培養に関し、いくつかの明確になっている培地調合物が記述されてきた(Li et al. 2005;Ludwig et al. 2006)。明確になっている培地の使用には、hBS細胞を、完全に動物由来物質がない条件下で培養することができる可能性、といったような、いくつかの利点がある一方で、これの主な欠点は、これらの培地調合物には、組換えサイトカインや成長因子といった、費用のかかるかなりの量の補助物質(supplement)が含まれる、ということである。
【0134】
CMを製造するための、バイオリアクターにおけるHFFの培養は、背景の章において上記で概説した、現在利用可能な方法(metod)に対する代替法となり得る。それにより、定められた速度の培地インおよびアウトフロー並びに培養パラメータの自動制御を可能にするような、スケーラブルなシステムにおける、高い細胞密度のヒトフィーダー細胞が可能となるであろう。したがって、調整プロセスの標準化が可能となり、結果として、手動による方法に比べ、製造されたCMの、向上した品質がもたらされることとなる。活性フィーダー細胞が、多能性の維持も支援している、とのことが示されている(Xie et al. 2005)ことから、当該バイオリアクターを用いる場合の、1つのさらなる利点は、活性フィーダー細胞を用いることができる可能性であり得る。これは、従来の2D培養では最初のバイオリアクター播種用に製造しなければならない、活性フィーダー細胞の数を減少させるであろう。
【0135】
実施例17 肝成熟の評価
誘導された肝細胞の成熟度は、遺伝子発現、タンパク質発現、の測定、および、同様に、シトクロムP450(CYP)活性の活性測定、により、分析した。
【0136】
Q‐PCRおよびLDAカードによる肝細胞様細胞の遺伝子発現解析
これらバイオリアクターにおいて分化した肝細胞様細胞、および、適切な対照(2D分化肝細胞様細胞、または、成人ヒト肝臓由来の初代肝細胞のいずれか)、の試料を、肝臓関連遺伝子の発現について、QPCRにより分析した。
【0137】
DE‐Hep細胞の遺伝子発現は、LDAマイクロ流体(microfluidity)カード上で以下表に列記されているように特徴決定した。試料の全RNAに由来するcDNAはLDAカードとハイブリダイズさせ、当該実験はPCRセットアップにおいて行ない、適切なソフトウェアを用いてさらに分析した。すべての試料は、インストラクターのマニュアル(アプライドバイオシステムズ 7900HT Micro Fluidic Card Getting Started Guide)と、以下の短くしたプロトコルとに従い、LDAカード上で、繰り返し実験において、適切な対照と同時に作動させた:
【0138】
cDNAは、全RNAから調製し、RNase/DNaseフリー水中に希釈して、適切な濃度(以下参照)を得た。以下の成分を混合した:cDNA(1〜100ng)、5μl、RNase/DNaseフリー水、TaqMan Universal PCR、45μl、マスターミックス(2×)、50μl、合計:100μl。その後、試料は、LDAカード上にロード(各試料混合物は100ulであり、1試料当たり170ngのcDNA)し、遠心し、その後、そのLDAカードを密封した。最終的には、カードを、ABI 7900HTリアルタイムPCRシステム上でマニュアル中の指示に従って作動させ、結果は、SDS2.2.1ソフトウェアおよび相対的定量方法を用いることにより分析した。
【0139】
実施例18
肝分化
2D標準培養ディッシュ中で培養されるhESC用にCellartis社が確立した肝分化プロトコルに基づき、当該3Dバイオリアクターシステムにおける、hESCの、方向性のある肝分化に関する2つのパイロット実験を設計し、実施した。この2つのバイオリアクター実験は、不活性化MEFの、バイオリアクターのうちの1つの中へのさらなる播種についてのみ異なるものであった。
【0140】
灌流培地における代謝パラメータ
当該培地において測定された代謝パラメータに関する2つのバイオリアクターの比較が示すのは、追加のフィーダー細胞が播種されるバイオリアクター(HepDiff‐2)は、グルコースおよび乳酸塩の代謝の観点から、および、分化マーカーの産生に関して、よりずっと高い細胞活性を最初に有していた、ということである。しかしながら、バイオリアクターHepDiff‐2では、当該実験中のグルコース消費および乳酸塩産生の、安定した減少が観察された(図4)。第20日目にあるLDHのピークは、おそらく、灌流システムの加熱ユニットの技術的な機能不良に起因するものであった。第40日目以降のLDH放出ピークは、おそらく、当該バイオリアクター中の圧力上昇に関係するものであった。キャピラリー膜の凝固を引き起こし得る未同定培地成分の沈殿が観察されたため、これは、結果として、栄養素と共に、最適以下の(suboptimal)細胞供給をもたらしていたかもしれなかった。このバイオリアクター中のAFP産生は、第17日目と第24日目との間で指数関数的に増加し、その後、実験の終了まで減少した。AFP産生のダウンレギュレーションの始まりは、別の分化培地へと変えることと相関する。肝分化マーカーである尿素は、その産生において、第1日目と第20日目との間で小さなピークを示し、また、アルブミン産生は、実験の間中ずっと、約0.4μg/時間という比較的低いレベルにとどまった(図5)。
【0141】
追加のMEFの播種がされないバイオリアクターHepDiff‐1では、非常に低いが、安定したグルコース消費および乳酸塩産生レベルが測定された。分化因子AFPのみが、第17日目と第35日目との間に、第26日目に最大値を有する小さなピークを示したが、これは、バイオリアクターHepDiff‐2におけるAFPの大きさには似ていないが、経時変化には似ている(図5)。
【0142】
上述の因子に加え、アクチビンAおよびインスリンの濃度を、当該培養培地において測定して、その用いた灌流条件を、その結果として生じた分化培地の交換動態に関して評価した(図6)。両因子とも、未分化hESCにおける、胚体内胚葉の方向に向かう分化の誘導において重要な役割を果たすが、インスリンは、高アクチビンA濃度を通じての内胚葉誘導に拮抗する。両バイオリアクターにおいて、当該培地中のアクチビンA濃度は、第7日目と第8日目との間に、26ng/mlという最大値を有する。第0日目〜第22日目にバイオリアクターHepDiff‐2においてのみ測定したインスリン濃度は、第3日目に150ng/mlという最大値を示し、第9日目までに2ng/mlへと急速に減少し、約35ng/mlという中間濃度は第7日目と第8日目との間であった。
【0143】
CYP450活性
これらバイオリアクターにおける肝細胞特異的な細胞活性について試験するべく、フェナセチン、ジクロフェナクおよびミダゾラムを、それぞれ、第I相シトクロムP450酵素CYP1A2/1A2、CYP2C9およびCYP3A4経由で代謝する能力を試験した。
【0144】
これらの試験は、hESC播種後の第40日目および第47日目に行なった。両バイオリアクターにおいて、ジクロフェナクおよびミダゾラムの代謝を検出することはできなかった。フェナセチンの、パラセタモールへの代謝は、バイオリアクターHepDiff‐2では、リアクターHepDiff‐1に比べて、より高く、また、第47日目にほんのわずかだけ低下した。
【0145】
組織学
上記で述べられているように、両バイオリアクターとも、実験の終了時に、非常に低い代謝活性を呈した。この所見は、組織学的分析の際、バイオリアクターHepDiff‐2では、組織構造を含有する領域は非常にわずかしか見い出せず、また、バイオリアクターHepDiff‐1の試料においては構造は全く見いだせなかった、という事実と相関していた。バイオリアクターHepDiff‐2において観察された組織クラスターでは、はっきりした内胚葉分化を指し示す、様々な上皮形態を有するたくさんの構造を観察することができた。加えて、疎性結合組織を有する領域、および、核に対する細胞質の割合が低い細胞で構成される少数の細胞凝集体、が見い出された。
【0146】
実施例19
hESCの肝細胞への分化およびバイオリアクターにおける成熟
同時に作動させたバイオリアクターの第一巡目:BR2およびBR3
実施例18において詳述したプロトコルに加え、いくつかのさらなる実験を作動させて、バイオリアクター環境における、hESCの、肝細胞への、方向性のある分化のための手順を、これらの細胞型の成熟の改善にも焦点を当てながら、洗練されたものにした。これらの実験は表3および4(バイオリアクターBR2およびBR3)において詳述されており、そこでは、アクチビンAおよび高成長因子レベルを用いてhESCの、DE細胞への分化を開始させ、所定の時点で(表3に示されている実験については第12日目、表4に示されている実験については第7日目または第11日目に)細胞をバイオリアクター中へと播種し、さらなる分化および成熟が起こるようにしておくための全体的な手順が記載されている。この手順は2D非バイオリアクター制御と同時に作動させ、また、両方の実験について、CYP450のレベルを、第25日目または第26日目のバイオリアクターシャットダウンの前の複数の特定の時点において測定した。
【0147】
最初の実験の作動中に、バイオリアクター環境中で成長している細胞については、第0日目、播種日、およびバイオリアクターのシャットダウン日からなる測定時点で、また、2D対照群については、同時のシャットダウン日測定で、4つの群のマーカー(肝遺伝子、胎児/未成熟肝細胞に対するマーカー、未分化細胞に対するトランスポーターおよびマーカー)の発現を測定した(第12日目に播種され、第24日目に採取された細胞について図7〜10に示す)。遺伝子発現レベルは、実施例9〜11および17に記載の通りに測定した。
【0148】
同時に作動させたバイオリアクターの第二巡目:BR121およびBR168
続いて、一貫性および再現性を確実にするべく、2つの別々のバイオリアクターについて、結果を比較した。細胞を、バイオリアクター(Bioreactot)BR121またはBR168のいずれかの中に、異なる2つの時点で(第7日目および第12日目に)、播種し、以下の通りに、第26日目まで、成熟させておいた(図11、A〜D):
【0149】
第0日目に、実験の開始時に、200×106個の未分化ヒト胚性幹細胞DEF SA121は、継代のためにトリプルセレクト(tryple select)し、マトリゲルコート培養フラスコ上に、1cm2当たり200000細胞で、10uM Rock阻害剤を添加したID1中に播いた。上記スケジュールに従って第7日目まで毎日または1日おきの培地交換。内胚葉の誘導後、第7日目に、すべての細胞をトリプルセレクト(tryple selelct)し、数えたところ、全体で6千万個の細胞となった。BR121に3千万個の細胞を使用し、BR168に3千万個使用した。
【0150】
BR121:
第7日目に、2千5百万個の細胞を、BR121の中へ、10uM Rock阻害剤を添加したP1中に播種し、上記スケジュールに従って実験第26日目の終了まで培養した。5百万個の細胞は、2D対照用にマトリゲルコート48ウェルに、1cm2当たり150000細胞で、10uM Rock阻害剤を添加したP1中に播き、上記スケジュールに従って、実験の終了である第26日目まで培養した。
【0151】
BR168:
第7日目に、3千万個の細胞を、2D培養フラスコ中に、10uM Rock阻害剤を添加したP1中に播き、上記スケジュールに従って培養した。5日後、第12日目に、細胞をトリプルセレクト(tryple select)し、数えたところ、全体で7千2百万個の細胞となった。
【0152】
6千2百万個の細胞を、BR168中に、10uM Rock阻害剤を添加したVH2中に播種し、上記スケジュールに従って実験の終了である第26日目まで培養した。
【0153】
7百万個の細胞を、2D対照用にマトリゲルコート48ウェル中に、1cm2当たり200000細胞で、10uM Rock阻害剤を添加したVH2中に播き、上記スケジュールに従って実験の終了である第26日目まで培養した。
【0154】
分析したマーカーはすべて肝マーカーであり、レベルは2D対照と比較した。培養培地組成を表6に記載する。
【0155】
実施例20
当該動的灌流技術のさらなる一局面は、細胞が区画化された状態のままでありながら、第一バイオリアクターの因子または可溶性メディエーターにより第二バイオリアクターが刺激され得る、1つの灌流回路における「ツインバイオリアクター」の組み合わせを、容易に行なうことが可能であるということである。これは、共培養物の未知の可溶性因子が用いられることとなる場合には興味深いものとなるであろうが、培養物間の細胞の移入は避けなければならない。
【0156】
参考文献:
【0157】
【表3】
【0158】
【表4】
【0159】
【表5】
【0160】
【表6】
【0161】
【表7】
【0162】
【表8】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞様細胞を得るための方法であって、
i) バイオリアクターにおけるhPS細胞または肝前駆細胞の播種
ii) 前記バイオリアクターを1種類以上の培養培地で10日〜50日の期間にわたり灌流して、肝細胞様細胞を得ること、
を含む方法。
【請求項2】
前記肝細胞様細胞が、肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造の形をしている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記hPS細胞がヒト胚性幹細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記hPS細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記肝細胞前駆細胞が胚体内胚葉(definitive endoderm;DE)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記肝細胞前駆細胞が胚体内胚葉(DE)ではない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記肝細胞前駆細胞が、胎児(胎仔)内胚葉の特徴を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記肝細胞前駆細胞が、肝内胚葉(hepatic endoderm)の特徴を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記バイオリアクターが中空繊維キャピラリーバイオリアクターである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記バイオリアクターが、膜区画を備えている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記膜区画が、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記バイオリアクターが、キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、前記キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含む、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
増殖培地の灌流が、前記キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換が、中空繊維膜システム経由で行なわれる、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記キャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とが、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されている、請求項9〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
hPS細胞は工程i)で播き、また、前記灌流は以下のスキーム:
【表1】
に従ったものであるが、但し、工程2〜6のうちの少なくとも3つが含まれる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
すべての工程が含まれる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
培地DM‐Aが、増殖培地を含み、かつ、アクチビンA、bFGF、グルタマックス‐Iといった成分のうちの1つ以上を含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記培地DM‐Aが、アクチビン‐AおよびbFGFを含む、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
培地DM‐Bが、例えばRPMIアドバンスト培地等の増殖培地を含み、かつ、アクチビンA、bFGF、グルタマックス‐I、FCSといった成分のうちの1つ以上を含む、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記培地DM‐Bが、アクチビン‐AおよびbFGFを含む、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
培地DM‐Cが、例えばRPMIアドバンスト培地等の増殖培地を含み、かつ、bFGF、aFGF、BMP2、BMP4、グルタマックス‐I、FCSといった成分のうちの1つ以上を含む、請求項15〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記培地DM‐Cが、bFGF、aFGF、BMP2、BMP4を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
培地DM‐Dが、例えばウィリアムズ培地E等などの肝培養培地を含み、かつ、BSA、アスコルビン酸、グルタマックス‐I、D‐ガラクトース/D‐ソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGFといった成分のうちの1つ以上を含む、請求項15〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記培地DM‐Dが、BSA、アスコルビン酸、D‐ガラクトース(Galctose)/Dソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGFを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
培地DM‐Eが、例えばウィリアムズ培地E等などの肝培養培地を含み、かつ、BSA、アスコルビン酸、グルタマックス‐I、デキサメタゾン、D‐ガラクトース/D‐ソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGF、オンコスタチンMといった成分のうちの1つ以上を含む、請求項15〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記培地DM‐Eが、BSA、アスコルビン酸、デキサメタゾン、D‐ガラクトース/D‐ソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGF、オンコスタチンMを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
工程i)の前に、前記バイオリアクターに、不活性化したフィーダー細胞を播種する、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記フィーダー細胞が、hFF細胞またはMEF細胞である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記バイオリアクターに、hBS細胞およびフィーダー細胞またはDE細胞およびフィーダー細胞、のいずれか関係する方を、共播種する、請求項1〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
例えばDE細胞などの肝前駆細胞は工程i)で播き、また、請求項15の工程1および2は省略される、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記培養培地のうちの1つ以上が、例えばROCK Rhoキナーゼの阻害剤などの細胞生存因子を含む、請求項1〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか一項において定義されている方法により得られる肝細胞様細胞。
【請求項33】
請求項1〜31のいずれか一項に記載の方法により得られる肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項34】
前記細胞が、上昇したレベルの1つ以上の肝マーカー遺伝子または肝トランスポーター遺伝子を発現する、請求項32または33に記載の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項35】
前記1つ以上の肝マーカー遺伝子が、アルブミン、CYP1A2、CYP2C9、CYP3A4、CYP7A1、TATおよびUGT2B7を含むリストから選択される、請求項32〜34のいずれか一項に記載の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項36】
前記1つ以上の肝マーカー遺伝子の発現が、本明細書の図7中に、試料:バイオリアクター第26日目、として列記されているような肝マーカー遺伝子の発現に似ている、請求項32〜34に記載の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項37】
前記1つ以上の肝トランスポーター遺伝子が、ABCC2/MRP2、FABP1、OATP2、OCT‐1を含むリストから選択される、請求項32〜34のいずれか一項に記載の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項38】
前記1つ以上の肝トランスポーター遺伝子の発現が、本明細書の図9中に、試料:バイオリアクター第26日目、として列記されているような発現に似ている、請求項32〜34のいずれか一項に記載の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項39】
膜区画を備えたバイオリアクターにおける、in vitroで導かれた(in vitro derived)肝細胞様細胞。
【請求項40】
前記細胞が、hPS細胞または肝細胞前駆体から、肝細胞様細胞へ、前記バイオリアクター中で分化したものである、請求項32〜39のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項41】
前記バイオリアクターが中空繊維キャピラリーバイオリアクターである、請求項32〜40のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項42】
前記バイオリアクターが、前記キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、前記キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含む、請求項32〜41のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項43】
前記膜区画が、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含む、請求項32〜42のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項44】
増殖培地の灌流が、前記キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換が、前記中空繊維膜システム経由で行なわれる、請求項32〜43のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項45】
前記キャピラリーシステムと前記中空繊維膜とが、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されている、請求項32〜44のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項46】
前記肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造が、例えばROCK Rhoキナーゼの阻害剤などの細胞生存因子の存在下で成長している、請求項32〜45のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項47】
hPS細胞または肝前駆体を、肝細胞運命に向かって分化させるための、バイオリアクターの使用。
【請求項48】
調整培地(conditioned medium)を製造するための方法であって、
a) バイオリアクターにおけるフィーダー細胞の播種の工程
b) 前記フィーダー細胞を成長させる工程
を含む方法。
【請求項49】
前記バイオリアクターが中空繊維キャピラリーバイオリアクターである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記バイオリアクターが、膜区画を備えている、請求項48または49に記載の方法。
【請求項51】
前記膜区画が、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記バイオリアクターが、キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、前記キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含む、請求項48〜51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記バイオリアクターにおける増殖培地の灌流が、前記キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換が、中空繊維膜システム経由で行なわれる、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
1つのキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とが、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されている、請求項48〜53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
請求項1〜46のいずれか一項において得られる細胞の、治療目的での、または、創薬、医薬製剤、毒性試験における、または、再生医療における、使用。
【請求項1】
肝細胞様細胞を得るための方法であって、
i) バイオリアクターにおけるhPS細胞または肝前駆細胞の播種
ii) 前記バイオリアクターを1種類以上の培養培地で10日〜50日の期間にわたり灌流して、肝細胞様細胞を得ること、
を含む方法。
【請求項2】
前記肝細胞様細胞が、肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造の形をしている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記hPS細胞がヒト胚性幹細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記hPS細胞が人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記肝細胞前駆細胞が胚体内胚葉(definitive endoderm;DE)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記肝細胞前駆細胞が胚体内胚葉(DE)ではない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記肝細胞前駆細胞が、胎児(胎仔)内胚葉の特徴を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記肝細胞前駆細胞が、肝内胚葉(hepatic endoderm)の特徴を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記バイオリアクターが中空繊維キャピラリーバイオリアクターである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記バイオリアクターが、膜区画を備えている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記膜区画が、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記バイオリアクターが、キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、前記キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含む、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
増殖培地の灌流が、前記キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換が、中空繊維膜システム経由で行なわれる、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記キャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とが、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されている、請求項9〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
hPS細胞は工程i)で播き、また、前記灌流は以下のスキーム:
【表1】
に従ったものであるが、但し、工程2〜6のうちの少なくとも3つが含まれる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
すべての工程が含まれる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
培地DM‐Aが、増殖培地を含み、かつ、アクチビンA、bFGF、グルタマックス‐Iといった成分のうちの1つ以上を含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記培地DM‐Aが、アクチビン‐AおよびbFGFを含む、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
培地DM‐Bが、例えばRPMIアドバンスト培地等の増殖培地を含み、かつ、アクチビンA、bFGF、グルタマックス‐I、FCSといった成分のうちの1つ以上を含む、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記培地DM‐Bが、アクチビン‐AおよびbFGFを含む、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
培地DM‐Cが、例えばRPMIアドバンスト培地等の増殖培地を含み、かつ、bFGF、aFGF、BMP2、BMP4、グルタマックス‐I、FCSといった成分のうちの1つ以上を含む、請求項15〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記培地DM‐Cが、bFGF、aFGF、BMP2、BMP4を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
培地DM‐Dが、例えばウィリアムズ培地E等などの肝培養培地を含み、かつ、BSA、アスコルビン酸、グルタマックス‐I、D‐ガラクトース/D‐ソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGFといった成分のうちの1つ以上を含む、請求項15〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記培地DM‐Dが、BSA、アスコルビン酸、D‐ガラクトース(Galctose)/Dソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGFを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
培地DM‐Eが、例えばウィリアムズ培地E等などの肝培養培地を含み、かつ、BSA、アスコルビン酸、グルタマックス‐I、デキサメタゾン、D‐ガラクトース/D‐ソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGF、オンコスタチンMといった成分のうちの1つ以上を含む、請求項15〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記培地DM‐Eが、BSA、アスコルビン酸、デキサメタゾン、D‐ガラクトース/D‐ソルビトール、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、bFGF、EGF、HGF、オンコスタチンMを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
工程i)の前に、前記バイオリアクターに、不活性化したフィーダー細胞を播種する、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記フィーダー細胞が、hFF細胞またはMEF細胞である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記バイオリアクターに、hBS細胞およびフィーダー細胞またはDE細胞およびフィーダー細胞、のいずれか関係する方を、共播種する、請求項1〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
例えばDE細胞などの肝前駆細胞は工程i)で播き、また、請求項15の工程1および2は省略される、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記培養培地のうちの1つ以上が、例えばROCK Rhoキナーゼの阻害剤などの細胞生存因子を含む、請求項1〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか一項において定義されている方法により得られる肝細胞様細胞。
【請求項33】
請求項1〜31のいずれか一項に記載の方法により得られる肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項34】
前記細胞が、上昇したレベルの1つ以上の肝マーカー遺伝子または肝トランスポーター遺伝子を発現する、請求項32または33に記載の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項35】
前記1つ以上の肝マーカー遺伝子が、アルブミン、CYP1A2、CYP2C9、CYP3A4、CYP7A1、TATおよびUGT2B7を含むリストから選択される、請求項32〜34のいずれか一項に記載の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項36】
前記1つ以上の肝マーカー遺伝子の発現が、本明細書の図7中に、試料:バイオリアクター第26日目、として列記されているような肝マーカー遺伝子の発現に似ている、請求項32〜34に記載の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項37】
前記1つ以上の肝トランスポーター遺伝子が、ABCC2/MRP2、FABP1、OATP2、OCT‐1を含むリストから選択される、請求項32〜34のいずれか一項に記載の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項38】
前記1つ以上の肝トランスポーター遺伝子の発現が、本明細書の図9中に、試料:バイオリアクター第26日目、として列記されているような発現に似ている、請求項32〜34のいずれか一項に記載の肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項39】
膜区画を備えたバイオリアクターにおける、in vitroで導かれた(in vitro derived)肝細胞様細胞。
【請求項40】
前記細胞が、hPS細胞または肝細胞前駆体から、肝細胞様細胞へ、前記バイオリアクター中で分化したものである、請求項32〜39のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項41】
前記バイオリアクターが中空繊維キャピラリーバイオリアクターである、請求項32〜40のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項42】
前記バイオリアクターが、前記キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、前記キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含む、請求項32〜41のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項43】
前記膜区画が、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含む、請求項32〜42のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項44】
増殖培地の灌流が、前記キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換が、前記中空繊維膜システム経由で行なわれる、請求項32〜43のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項45】
前記キャピラリーシステムと前記中空繊維膜とが、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されている、請求項32〜44のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項46】
前記肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造が、例えばROCK Rhoキナーゼの阻害剤などの細胞生存因子の存在下で成長している、請求項32〜45のいずれか一項に記載の、in vitroで導かれた肝細胞様細胞または肝細胞様細胞を含む肝組織様3D構造。
【請求項47】
hPS細胞または肝前駆体を、肝細胞運命に向かって分化させるための、バイオリアクターの使用。
【請求項48】
調整培地(conditioned medium)を製造するための方法であって、
a) バイオリアクターにおけるフィーダー細胞の播種の工程
b) 前記フィーダー細胞を成長させる工程
を含む方法。
【請求項49】
前記バイオリアクターが中空繊維キャピラリーバイオリアクターである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記バイオリアクターが、膜区画を備えている、請求項48または49に記載の方法。
【請求項51】
前記膜区画が、2つ以上のキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記バイオリアクターが、キャピラリーシステムを通っての培養培地の灌流のための手段と、前記キャピラリーシステム中のガス交換のための手段とを含む、請求項48〜51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記バイオリアクターにおける増殖培地の灌流が、前記キャピラリーシステムを通って行なわれ、また、ガス交換が、中空繊維膜システム経由で行なわれる、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
1つのキャピラリーシステムと1つ以上の中空繊維膜とが、1つのハウジング中へと組み込まれる独立した織り合わされた(interwowen)繊維キャピラリー膜システムを形成するよう構成されている、請求項48〜53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
請求項1〜46のいずれか一項において得られる細胞の、治療目的での、または、創薬、医薬製剤、毒性試験における、または、再生医療における、使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17−1】
【図17−2】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17−1】
【図17−2】
【図18】
【公表番号】特表2012−529901(P2012−529901A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515518(P2012−515518)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058679
【国際公開番号】WO2010/149597
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(510075103)セルアーティス アーベー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058679
【国際公開番号】WO2010/149597
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(510075103)セルアーティス アーベー (2)
【Fターム(参考)】
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