説明

ヒト胚性幹細胞の分化

本発明は、多能性幹細胞からのインスリン産生細胞への分化を促進させるための方法を提供する。具体的には本発明は、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団において、NGN3及びNKXβの発現を増加させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許仮出願第61/289,692号(2009年12月23日出願)の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、多能性幹細胞からのインスリン産生細胞への分化を促進させるための方法を提供する。具体的には本発明は、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団において、NGN3及びNKX6.1の発現を増加させる方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
I型糖尿病の細胞置換療法の進歩及び移植可能なランゲルハンス島の不足により、生着に適したインスリン産生細胞すなわちβ細胞の供給源の開発に注目が集まっている。1つの手法は、例えば、胚性幹細胞のような多能性幹細胞から機能性のβ細胞を生成することである。
【0004】
脊椎動物の胚発生中、多能性細胞は、原腸形成として公知のプロセスにより3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、及び内胚葉)を含む細胞のグループを生じる。例えば、甲状腺、胸腺、膵臓、腸、及び肝臓などの組織は、内胚葉から中間ステージを経て発達する。このプロセスにおける中間ステージは、胚体内胚葉(definitive endoderm)の形成である。胚体内胚葉細胞はHNF3 β、GATA4、MIXL1、CXCR4及びSOX17などの多数のマーカーを発現する。
【0005】
膵臓の形成は、胚体内胚葉が膵臓内胚葉へと分化させることにより生じる。膵臓内胚葉の細胞は膵臓−十二指腸ホメオボックス遺伝子、PDX1を発現する。PDX1が存在しない場合、膵臓は、腹側芽及び背側芽の形成より先に発達が進行しない。したがって、PDX1の発現は、膵臓器官形成において重要な工程として特徴付けられる。成熟した膵臓は、他の細胞型間で外分泌組織及び内分泌組織を含有する。外分泌組織及び内分泌組織は、膵臓内胚葉の分化によって生じる。
【0006】
島細胞の特徴を保持する細胞がマウスの胚細胞からin vitroで誘導されたことが報告されている。例えば、Lumelskyら(Science 292:1389,2001)は、膵島と同様のインスリン分泌構造へのマウスの胚性幹細胞の分化を報告している。Soriaら(Diabetes 49:157,2000)は、ストレプトゾトシン誘発糖尿病のマウスに移植したとき、マウスの胚性幹細胞から誘導されたインスリン分泌細胞が血糖を正常化することを報告している。
【0007】
一例において、Horiら(PNAS 99:16105,2002)は、ホスホイノシチド3−キナーゼ(LY294002)の阻害剤でマウス胚性幹細胞を処理することにより、β細胞に類似した細胞が生じたことを開示している。
【0008】
他の例では、Blyszczukら(PNAS 100:998,2003)が、Pax4を構成的に発現するマウス胚性幹細胞からのインスリン産生細胞の生成を報告している。
【0009】
Micallefらは、レチノイン酸が、胚性幹細胞のPDX1陽性膵臓内胚葉の形成に対する関与を制御できることを報告している。レチノイン酸は、胚における原腸形成の終了時に該当する期間中、胚性幹細胞分化の4日目に培養液に添加すると、PDX1発現の誘導に最も効果的である(Diabetes 54:301,2005)。
【0010】
Miyazakiらは、Pdx1を過剰発現するマウス胚性幹細胞株を報告している。この結果は、外因性のPdx1発現が、得られた分化細胞内でインスリン、ソマトスタチン、グルコキナーゼ、ニューロゲニン3、p48、Pax6、及びHNF6の発現を明らかに増加させたことを示している(Diabetes 53:1030,2004)。
【0011】
Skoudyらは、マウス胚性幹細胞内で、アクチビンA(TGFβスーパーファミリーのメンバー)が、膵臓外分泌遺伝子(p48及びアミラーゼ)、並びに内分泌遺伝子(Pdx1、インスリン及びグルカゴン)の発現を上方制御することを報告している。最大の効果は、1nMアクチビンAを使用した場合に認められた。Skoudyらはまた、インスリン及びPdx1 mRNAの発現レベルはレチノイン酸により影響されなかったが、3nMのFGF7による処理によりPdx1の転写レベルが増加したことも観察している(Biochem.J.379:749,2004)。
【0012】
Shirakiらは、PDX1陽性細胞への胚性幹細胞の分化を特異的に増加させる増殖因子の効果を研究した。Shirakiらは、TGFβ2によってPDX1陽性細胞がより高い比率で再現性よく得られたことを観察している(Genes Cells.2005 Jun;10(6):503〜16.)。
【0013】
Gordonらは、血清の非存在下、かつアクチビンとWntシグナル伝達阻害剤の存在下での、マウス胚性幹細胞からの短尾奇形[陽性]/HNF−3 β[陽性]内胚葉細胞への誘導を示した(米国特許第2006/0003446(A1)号)。
【0014】
Gordonら(PNAS,Vol 103,16806ページ,2006)は、「Wnt及びTGF−β/nodal/アクチビンの同時シグナル伝達が前原始線条の形成には必要であった」と述べている。
【0015】
しかしながら、胚性幹細胞発達のマウスモデルは、例えば、ヒトなどのより高等な哺乳動物における発達プログラムを正確には模倣しない恐れがある。
【0016】
Thomsonらは、ヒト胚盤胞から胚性幹細胞を単離した(Science 282:114,1998)。同時に、Gearhart及び共同研究者は、胎児生殖腺組織から、ヒト胚生殖(hEG)細胞株を誘導した(Shamblottら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726、1998年)。白血病抑制因子(LIF)と共に培養することだけで分化を簡単に阻止し得るマウス胚性幹細胞とは異なり、ヒト胚性幹細胞は、非常に特殊な条件下で維持する必要がある(米国特許第6,200,806号、国際公開第99/20741号;同第01/51616号)。
【0017】
D’Amourらは、高濃度のアクチビン及び低濃度の血清の存在下で、ヒト胚性幹細胞由来の胚体内胚葉の濃縮化された培養物が調製されたことを述べている(Nature Biotechnology 2005)。これらの細胞を、マウスの腎臓被膜下に移植することにより、内胚葉性器官の特徴の一部を有するより成熟した細胞への分化が得られた。ヒト胚性幹細胞由来の胚体内胚葉細胞は、FGF−10の添加後、PDX1陽性細胞に更に分化させることができる(米国特許出願公開第2005/0266554(A1)号)。
【0018】
D’Amourら(Nature Biotechnology−24,1392〜1401(2006))は、「我々は、ヒト胚性幹細胞(hES)を、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチド及びグレリンといった膵臓ホルモンを合成可能な内分泌細胞へと転換させる分化プロセスを開発した。このプロセスは、胚体内胚葉、腸管内胚葉、膵臓内胚葉及び内分泌前駆体が、内分泌ホルモンを発現する細胞へと向かう段階に類似した段階を介して細胞を指向させることにより、in vivoでの膵臓器官形成を模倣する。」と述べている。
【0019】
別の例において、Fiskらは、ヒト胚性幹細胞から膵島細胞を産生するシステムを報告している(米国特許出願公開第2006/0040387(A1)号)。この場合、分化経路は3つのステージに分割された。先ず、ヒト胚性幹細胞を、酪酸ナトリウムとアクチビンAの組み合わせを用いて内胚葉に分化させた。次に細胞をノギンなどのTGFβアンタゴニストとEGF又はベータセルリンの組み合わせと培養してPDX1陽性細胞を生成する。最終分化は、ニコチンアミドにより誘導した。
【0020】
一例において、Benvenistryらは、「我々は、PDX1の過剰発現が、膵臓に多く見られる遺伝子の発現を上昇させたことを結論付ける。インスリン発現の誘導には、in vivoでのみ存在する更なるシグナルを必要とする可能性がある。」と述べている(Benvenistryら、Stem Cells 2006;24:1923〜1930)。
【0021】
他の例では、Grapin−Bottonらは次のように記載している:「Ngn3を初期活性化させると、ほぼ例外なくグルカゴン[陽性]細胞を誘導し、膵臓前駆細胞プールを消費した。E11.5からPDX−1前駆細胞はコンピテントになり、インスリン[陽性]でPP[陽性]の細胞へと分化させた」(Johansson KAら、Developmental Cell 12,457〜465,March 2007)。
【0022】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞でNGN3が発現すると、インスリンを発現する細胞へと更に分化させるための細胞能力が低下する恐れがある。これまでの研究により、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞のうち、NGN3を発現する細胞は、更なる分化を受けた際に、インスリンを発現する細胞よりも、グルカゴンを発現する細胞を産生しやすいということが示されている。しかしながら、NGN3発現は、膵内分泌細胞又は膵内分泌前駆細胞(例えばグルカゴン又はインスリンを発現する細胞を形成することのできる細胞)の形成に必要とされる。したがって、膵内分泌前駆細胞の最終的な運命をインスリンを発現する細胞へと誘導するにあたり、NGN3の一時的な制御が重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
したがって、インスリンを発現する細胞へと分化させる可能性を維持する一方で、現在の臨床上のニーズに対処するよう拡張できる、多能性幹細胞株を確立するための条件を開発する有意な必要性が今尚存在する。本発明は、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞においてNGN3及びNKX6.1の発現を増加させる方法を提供することにより、ヒト胚性幹細胞からインスリン発現細胞への分化効率を改善させるという代替アプローチを用いる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
一実施形態では、本発明は、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団においてNGN3及びNKX6.1の発現を増加させる方法を提供し、この方法は、
a)多能性幹細胞を培養する工程と、
b)多能性幹細胞を、胚体内胚葉系(definitive endoderm lineage)に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、
c)胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程であって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を分化させるために用いる培地に、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW 5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物を追加する工程と、
d)膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、を含む。
【0025】
一実施形態では、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を分化させるために用いる培地には、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW 5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物を追加される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
開示を明確にするため、及び限定ではなく、本発明の「発明を実施するための形態」を、本発明の特定の特徴、実施形態又は応用を説明若しくは図示した以下の小項目に分ける。
【0027】
定義
幹細胞は、単一の細胞レベルにおいて自己再生及び分化させて、自己再生前駆細胞、非再生前駆細胞、及び最終分化細胞を含む、後代細胞を生成する、能力で定義される未分化細胞である。幹細胞は、複数の胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から様々な細胞系の機能的細胞へとin vitroで分化させる能力、並びに移植後に複数の胚葉の組織を生じ、及び胚盤胞への注入後、全部ではないとしても大部分の組織に実質的に寄与する能力によっても特徴付けられる。
【0028】
幹細胞は、発生能によって、(1)全胚及び胚体外細胞型を生じる能力を意味する全能性、(2)全胚細胞型を生じる能力を意味する多能性、(3)細胞系統の小集合を生じるが、全て特定の組織、器官又は生理的システム内で生じる能力を意味する多能性(例えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己複製)、血液細胞に限定された寡能性前駆細胞、並びに血液の通常の構成要素である全細胞型及び要素(例えば、血小板)を含む子孫を産生できる)、(4)多能性幹細胞と比較して、より限定された細胞系統の小集合を生じる能力を意味する寡能性、並びに(5)1つの細胞系統(例えば、精子形成幹細胞)を生じる能力を意味する単能性に分類される。
【0029】
分化は、非特殊化(「未確定」)又は低特殊化細胞が、例えば、神経細胞又は筋細胞などの特殊化細胞の特徴を獲得するプロセスである。分化細胞又は分化を誘導された細胞は、細胞系内でより特殊化した(「確定した」)状況を呈している細胞である。分化プロセスに適用された際の用語「確定した」は、通常の環境下で特定の細胞型又は細胞型の小集合への分化を続け、かつ通常の環境下で異なる細胞型に分化させたり、又は低分化細胞型に戻ることができない地点まで、分化経路において進行した細胞を指す。脱分化は、細胞が細胞系内で低特殊化(又は確定)した状況に戻るプロセスを指す。本明細書で使用するとき、細胞系は、細胞の遺伝、すなわちその細胞がどの細胞から来たか、またどの細胞を生じ得るかを規定する。細胞系は、細胞を発生及び分化の遺伝的スキーム内に配置する。系特異的なマーカーは、対象とする系の細胞の表現型に特異的に関連した特徴を指し、未確定の細胞の対象とする系への分化を評価する際に使用可能である。
【0030】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞」又は「ステージ1細胞」又は「ステージ1」とは、以下のマーカーの少なくとも1つを意味する:SOX17、GATA4、HNF3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix−様ホメオボックスタンパク質(Mix-like homeobox protein)、FGF4 CD48、eomesodermin(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、C−Kit、CD99、又はOTX2。胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞には、原始線条前駆体細胞、原始線条細胞、中内胚葉細胞及び胚体内胚葉細胞が挙げられる。
【0031】
本明細書で使用するとき、「膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞」とは、以下のマーカー、すなわち、PDX1、HNF1 β、PTF1 α、HNF6、NKX6.1、又はHB9のうちの少なくとも1つを発現する細胞を指す。膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞には、膵臓内胚葉細胞、原腸管細胞、後部前腸細胞が挙げられる。
【0032】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉」は、原腸形成中、胚盤葉上層から生じ、胃腸管及びその誘導体を形成する細胞の特徴を保持する細胞を指す。胚体内胚葉細胞は、HNF3 β、GATA4、SOX17、ケルベロス、OTX2、グースコイド、C−Kit、CD99、及びMIXL1のマーカーを発現する。
【0033】
本明細書で使用するとき、「マーカー」は、対象とする細胞で差異的に発現される核酸又はポリペプチド分子である。この文脈において、差次的な発現は、陽性マーカーの発現レベルの上昇、及び陰性マーカーのレベルの減少を意味する。マーカー核酸又はポリペプチドの検出可能なレベルは、他の細胞と比較して対象とする細胞内で充分高いか又は低く、そのため当該技術分野において既知の多様な方法のいずれかを使用して、対象とする細胞を他の細胞から識別及び区別することができる。
【0034】
本明細書で言うところの「膵臓内分泌細胞」又は「膵臓ホルモン発現細胞」とは、以下のホルモン、すなわちインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドの内の少なくとも1つを発現することが可能な細胞を指して言う。
【0035】
多能性幹細胞の単離、増殖及び培養
多能性幹細胞の特徴付け
多能性幹細胞は、ステージ特異的胚抗原(SSEA)3及び4、並びにTra−1−60及びTra−1−81と呼ばれる抗体によって検出可能なマーカーのうちの1つ以上を発現する(Thomsonら,Science 282:1145,1998)。多能性幹細胞をin vitroで分化させると、SSEA−4、Tra−1−60、及びTra−1−81(存在する場合)の発現が減少し、SSEA−1の発現が上昇する。未分化の多能性幹細胞は通常アルカリホスファターゼ活性を有し、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、製造業者(Vector Laboratories,Burlingame Calif.)の説明書に従ってVector Redを基質として発生させることによって検出可能である。未分化の多能性幹細胞は、OCT4及びTERTも通常発現し、RT−PCRにより検出される。
【0036】
増殖した多能性幹細胞の他の望ましい表現型は、3つの全胚葉:内胚葉、中胚葉、及び外胚葉組織の細胞に分化させる可能性があることである。多能性幹細胞の多能性は、例えば、細胞を重症複合免疫不全症(SCID)マウスに注入し、形成される奇形腫を4%パラホルムアルデヒドで固定し、次いでこれを3つの胚細胞層由来の細胞種の根拠について組織学的に調べることによって確認することができる。あるいは、胚様体を形成させ、この胚様体を3つの胚葉に関連したマーカーの存在に関して評価することにより、多能性を決定してもよい。
【0037】
増殖した多能性幹細胞株を、標準的なGバンド法を使用して核型決定し、確立された対応する霊長類種の核型と比較してもよい。細胞が正倍数体であり、全ヒト染色体が存在し、かつ著しく変更されてはいないことを意味する、「正常な核型」を有する細胞を獲得することが望ましい。
【0038】
多能性幹細胞源
使用が可能な多能性幹細胞の種類としては、妊娠期間中の任意の時期(必ずしもではないが、通常は妊娠約10〜12週よりも前)に採取した前胚性組織(例えば胚盤胞など)、胚性組織、胎児組織などの、妊娠後に形成される組織に由来する多能性細胞の株化細胞系が挙げられる。非限定的な例は、例えばヒト胚幹細胞株H1、H7、及びH9(WiCell)などのヒト胚幹細胞又はヒト胚生殖細胞の確立株である。それらの細胞の最初の樹立又は安定化中に本開示の組成物を使用することも想定され、その場合、供給源となる細胞は、供給源となる組織から直接採取した一次多能性細胞であろう。フィーダー細胞の不在下で既に培養された多能性幹細胞集団から採取した細胞も好適である。例えば、BG01v(BresaGen(Athens,GA))などの変異ヒト胚性幹細胞株も好適である。
【0039】
一実施形態では、ヒト胚性幹細胞はThomsonらにより説明されているように調製される(米国特許第5,843,780号;Science 282:1145,1998;Curr.Top.Dev.Biol.38:133 ff.,1998;Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92:7844,1995)。
【0040】
多能性幹細胞の培養
一実施形態では、多能性幹細胞は、典型的にはフィーダー細胞の層上で培養され、このフィーダー細胞は、多能性幹細胞を様々な方法で支持する。あるいは、多能性幹細胞を、フィーダー細胞を本質的に含まないにも関わらず、細胞を実質的に分化させることなく多能性幹細胞の増殖を支持するような培養システム中で培養する。フィーダー細胞不含培養における多能性幹細胞の、分化を伴わない増殖は、あらかじめ他の細胞種を培養することにより馴化培地を使用して支持される。あるいはフィーダー細胞不含培養における多能性幹細胞の分化を伴わない増殖は、合成培地を使用して支持される。
【0041】
例えば、Reubinoffら(Nature Biotechnology 18:399〜404(2000))及びThompsonら(Science 6 November 1998:Vol.282.no.5391,pp.1145〜1147)は、マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞層を用いるヒト胚盤胞からの多能性幹細胞株の培養を開示している。
【0042】
Richardsら(Stem Cells 21:546〜556,2003)は、11種類の異なるヒトの成人、胎児、及び新生児フィーダー細胞層についてヒト多能性幹細胞の培養を支持する能力の評価を行っている。Richardsらは、「成人の皮膚線維芽フィーダー細胞上で培養したヒト胚性幹細胞系は、ヒト胚性幹細胞の形態を有し、多能性を維持する」と述べている。
【0043】
米国特許出願公開第20020072117号は、フィーダーを含まない培養において霊長類の多能性幹細胞の増殖を支持する培地を生成する細胞系を開示している。使用される細胞系は、胚性組織から得られるか又は胚性幹細胞から分化させた間葉系かつ線維芽細胞様の細胞系である。米国特許出願公開第20020072117号は、また、この細胞系の1次フィーダー細胞層としての使用も開示している。
【0044】
別の例において、Wangら(Stem Cells 23:1221〜1227、2005年)は、ヒト胚幹細胞由来のフィーダー細胞層上でのヒト多能性幹細胞の長期間増殖のための方法を開示している。
【0045】
別の例として、ストイコビッチら(Stojkovic et al.Stem Cells 2005 23:306〜314,2005)は、ヒト胚性幹細胞の自然分化により誘導されたフィーダー細胞システムを開示している。
【0046】
更なる別の例で、Miyamotoら(Stem Cells 22:433〜440,2004)は、ヒトの胎盤から得られたフィーダー細胞の供給源を開示している。
【0047】
Amitら(Biol.Reprod 68:2150〜2156,2003)は、ヒト包皮に由来するフィーダー細胞層を開示している。
【0048】
別の例で、Inzunzaら(Stem Cells 23:544〜549,2005)は、ヒトの出生直後産児の包皮線維芽細胞からのフィーダー細胞層を開示している。
【0049】
米国特許第6642048号は、フィーダーを含まない培養における霊長類の多能性幹(pPS)細胞の増殖を支持する培地、及びこうした培地の製造に有用な細胞系を開示している。米国特許第6642048号は、「本発明は、胚性組織から得られるかあるいは胚性幹細胞から分化させた間葉系かつ線維芽細胞様の細胞系を含む。本開示では、こうした細胞系を誘導し、培地を調整し、この馴化培地を用いて幹細胞を増殖させるための方法を説明及び図示する」と述べている。
【0050】
別の例で、国際公開第2005014799号は、哺乳動物細胞の維持、増殖及び分化のための馴化培地を開示している。国際公開特許第2005014799号は、「本発明に従って製造される培地は、マウス細胞、特にMMH(Metマウス肝細胞)と称される分化及び不死化したトランスジェニック肝細胞の細胞分泌活性によって馴化される」と述べている。
【0051】
別の例として、Xuら(Stem Cells 22:972〜980,2004)は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素を過剰発現するように遺伝子改変されたヒト胚性幹細胞由来細胞から得られた馴化培地を開示している。
【0052】
別の例で、米国特許出願公開第20070010011号は、多能性幹細胞を維持するための合成培地を開示している。
【0053】
代替的な培養システムは、胚性幹細胞の増殖を促進することが可能な増殖因子を追加された無血清培地を使用する。例えば、Cheonら(Bio Reprod DOI:10.1095/biolreprod.105.046870,October 19,2005)は、胚性幹細胞の自己再生の誘発が可能な異なる増殖因子を追加された非馴化血清補充(SR)培地中に胚性幹細胞が維持されている、フィーダー細胞を含まずかつ血清を含まない培養システムを開示している。
【0054】
別の例において、Levensteinら(Stem Cells 24:568〜574,2006)は、線維芽細胞又は馴化培地の非存在下で、bFGFを追加された培地を使用して、胚幹細胞を長期間培養する方法を開示している。
【0055】
別の例において、米国特許出願公開第20050148070号は、血清及び繊維芽細胞フィーダー細胞方法を含まない合成培地中でのヒト胚幹細胞の培養方法を開示し、同方法は、アルブミン、アミノ酸、ビタミン、無機物、少なくとも1つのトランスフェリン又はトランスフェリン代替物、少なくとも1つのインスリン又はインスリン代替物を含有する培地中で細胞を培養し、この培地は、本質的に哺乳動物胎児血清を含有せず、線維芽細胞増殖因子シグナル伝達受容体を活性化できる少なくとも約100ng/mLの線維芽細胞増殖因子を含有し、増殖因子は、線維芽細胞フィーダー層のみでなく他の源からも供給され、培地はフィーダー細胞又は馴化培地なしで、未分化状態の幹細胞の増殖を支持した。
【0056】
別の例で、米国特許出願公開第20050233446号は、未分化の霊長類始原幹細胞などの幹細胞の培養に有用な合成培地を開示している。溶液では、培地は培養されている幹細胞と比較して実質的に等張である。所定の培養において、特定の培地は、基本培地及び実質的に未分化の始原幹細胞の増殖の支持に必要な量のbFGF、インスリン、及びアスコルビン酸を含有する。
【0057】
別の例として、米国特許第6800480号は、「一実施形態では、実質的に未分化状態の霊長類由来の始原幹細胞を増殖させるための細胞培地であって、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持する上で効果的な低浸透圧、低エンドトキシンの基本培地を含む細胞培地を提供する。この基本培地は、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持する上で効果的な栄養素血清、並びにフィーダー細胞及びフィーダー細胞から誘導される細胞外支持体成分からなる群から選択される支持体と組み合わされる。培地は更に、非必須アミノ酸、抗酸化剤、並びにヌクレオシド及びピルビン酸塩からなる群から選択される第1の増殖因子を含む。」と述べている。
【0058】
別の例として、米国特許出願公開第20050244962号は、「一態様において、本発明は霊長類胚性幹細胞の培養方法を提供する。1つの方法は、哺乳動物の胎児血清を本質的に含まない(好ましくはあらゆる動物の血清をも本質的に含まない)培地中で、線維芽フィーダー細胞層以外の供給源から供給される線維芽細胞増殖因子の存在下で、幹細胞を培養する。好ましい形態では、十分な量の線維芽増殖因子を添加することによって、幹細胞の培養を維持するために従来必要とされていた線維芽フィーダー細胞層の必要性がなくなる。
【0059】
更なる例において、国際公開第2005065354号は、フィーダー及び血清を本質的に含まない合成等張培地を開示しており、この培地は、a.基本培地と、b.実質的に未分化の哺乳類幹細胞の増殖を支持するのに十分な量のbFGFと、c.実質的に未分化の哺乳類幹細胞の増殖を支持するのに十分な量のインスリンと、d.実質的に未分化の哺乳類幹細胞の増殖を支持するのに十分な量のアスコルビン酸と、を含む。
【0060】
別の例で、国際公開第2005086845号は、細胞を未分化な状態に維持するのに充分な量の、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)ファミリータンパク質の構成員、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリータンパク質の構成員、又はニコチンアミド(NIC)に、所望の結果を得るのに充分な時間幹細胞を曝露することを含む、未分化の幹細胞を維持するための方法を開示している。
【0061】
多能性幹細胞は、好適な培養基材上に播くことができる。一実施形態では、好適な培養基材は、例えば基底膜から作製されたもの、又は接着分子受容体−リガンド結合の一部を形成し得るものなどの細胞外マトリックス成分である。一実施形態では、好適な培養基質は、MATRIGEL(登録商標)(Becton Dickenson)である。MATRIGEL(登録商標)は、Engelbreth−Holm Swarm腫瘍細胞由来の可溶性製剤であって、室温でゲル化して再構成基底膜を形成する。
【0062】
他の細胞外マトリックス成分及び成分混合物は代替物として好適である。これには、増殖させる細胞型に応じて、ラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカン、エンタクチン、ヘパラン硫塩、及び同様物を単独で又は様々な組み合わせで挙げてもよい。
【0063】
多能性幹細胞は、細胞の生存、増殖、及び所望の特徴の維持を促進する培地の存在下で、基材上に好適に分布させることで播いてもよい。これら全ての特徴は、播種分布に細心の注意を払うことから利益が得られ、かつ当業者により容易に決定可能である。
【0064】
好適な培地は、以下の成分、すなわち例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Gibco # 11965−092;ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(KO DMEM)、Gibco # 10829−018;ハムF12/50% DMEM基本培地;200mM L−グルタミン、Gibco # 15039−027;非必須アミノ酸溶液、Gibco # 11140−050;β−メルカプトエタノール、Sigma # M7522;ヒト組み換え塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco # 13256−029等から調製することもできる。
【0065】
NGN3及びNKX6.1発現が増加した膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団の形成
一実施形態では、本発明は、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団においてNGN3及びNKX6.1の発現を増加させる方法を提供し、この方法は、
a)多能性幹細胞を培養する工程と、
b)多能性幹細胞を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、
c)胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程であって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞の分化させるために用いる培地に、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW 5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物を追加する工程と、
d)膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、を含む。
【0066】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞への多能性幹細胞の分化
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞の形成は、以下の特定のプロトコルの前後に、マーカーの存在に関して試験することにより決定され得る。多能性幹細胞は、一般にこのようなマーカーを発現しない。したがって、多能性細胞の分化は、細胞がそれらの発現を開始した際に検出される。
【0067】
多能性幹細胞は、当該技術分野のいかなる方法、又は本発明で提案されるいかなる方法によって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させてもよい。
【0068】
例えば、多能性幹細胞は、D’Amourら、Nature Biotechnology 23,1534〜1541(2005)に開示される方法に従って胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0069】
例えば、多能性幹細胞は、Shinozakiら、Development 131,1651〜1662(2004)により開示される方法に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0070】
例えば、多能性幹細胞は、McLeanら、Stem Cells 25,29〜38(2007)により開示される方法に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0071】
例えば、多能性幹細胞は、D’Amourら、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示される方法に従って胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0072】
例えば、多能性幹細胞は、アクチビンAを含む培地中、血清の非存在下で多能性幹細胞を培養し、次いで細胞をアクチビンA及び血清と培養し、次いで細胞をアクチビンA及び異なる濃度の血清と培養することによって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。この方法の一例は、Nature Biotechnology 23,1534〜1541(2005)に開示されている。
【0073】
例えば、多能性幹細胞は、アクチビンAを含む培地中、血清の非存在下で多能性幹細胞を培養し、次いで細胞をアクチビンAと、別の濃度の血清の存在下で培養することによって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology(2005)に開示されている。
【0074】
例えば、多能性幹細胞は、アクチビンA及びWntリガンドを含む培地中、血清の非存在下で多能性幹細胞を培養し、次いでWntリガンドを除去し、細胞をアクチビンAと、血清の存在下で培養することによって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。この方法の例は、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている。
【0075】
例えば、多能性幹細胞は、LifeScan,Inc.に譲渡された米国特許出願第11/736,908号に開示される方法に従って、多能性幹細胞を処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0076】
例えば、多能性幹細胞は、LifeScan,Inc.に譲渡された米国特許出願第11/779,311号に開示される方法に従って、多能性幹細胞を処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0077】
例えば、多能性幹細胞は、米国特許出願第60/990,529号に開示される方法に従って多能性幹細胞を処理することによって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0078】
例えば、多能性幹細胞は、米国特許出願第61/076,889号に開示される方法に従って、多能性幹細胞を処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0079】
例えば、多能性幹細胞は、米国特許出願第61/076,900号に開示される方法に従って多能性幹細胞を処理することによって胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0080】
例えば、多能性幹細胞は、米国特許出願第61/076,908号に開示される方法に従って多能性幹細胞を処理することによって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0081】
例えば、多能性幹細胞は、米国特許出願第61/076,915号に開示される方法に従って多能性幹細胞を処理することによって胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させることができる。
【0082】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞への、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞の分化
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、当該技術分野の任意の方法、又は本発明で提案する任意の方法により、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させ得る。
【0083】
例えば、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、D’Amourら、Nature Biotechnol.24:1392〜1401,2006に開示されている方法に従って、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させ得る。
【0084】
例えば、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、線維芽細胞増殖因子及びヘッジホッグシグナル伝達経路阻害剤KAAD−シクロパミンで処理した後、線維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンを含有する培地を除去し、続いて細胞をレチノイン酸、線維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンを含有する培地中で培養することにより、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。この方法の例は、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている。
【0085】
本発明の一態様では、LifeScan,Inc.に譲渡された米国特許出願第11/736,908号に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞をレチノイン酸及び少なくとも1種類の線維芽細胞増殖因子で所定の時間処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に更に分化させる。
【0086】
本発明の一態様では、LifeScan,Inc.に譲渡された米国特許出願第11/779,311号に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞をレチノイン酸及び少なくとも1種類の線維芽細胞増殖因子で所定の時間処理することによって、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に更に分化させる。
【0087】
本発明の1つの態様では、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を米国特許出願第60/990,529号に記載の方法に従って処理することにより、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を更に分化させる。
【0088】
分化効率は、処理した細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞により発現されたタンパク質マーカーを特異的に認識する薬剤(抗体など)に曝露することにより測定することができる。
【0089】
培養又は単離された細胞中のタンパク質及び核酸マーカーの発現を評価する方法は、当該技術分野において標準技術である。これらには、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、ノーザンブロット、in situハイブリダイゼーション(例えば、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編、2001 supplement)参照)、並びにイムノアッセイ、例えば切片材料の免疫組織化学的分析、ウェスタンブロッティング、及び完全細胞で利用できるマーカーについての例えばフローサイトメトリー分析(FACS)(例えば、Harlow及びLane、Using Antibodies:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1998)参照)が挙げられる。
【0090】
多能性幹細胞の特徴は当業者に周知であり、多能性幹細胞の更なる特徴は、継続して同定されている。例えば多能性幹細胞マーカーとしては、以下のもののうちの一つ以上の発現が含まれる:ABCG2、cripto、FOXD3、CONNEXIN43、CONNEXIN45、OCT4、SOX2、Nanog、hTERT、UTF1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra 1−60、又はTra 1−81。
【0091】
多能性幹細胞を本発明の方法で処理した後、処理した細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞により発現される、例えばCXCR4などのタンパク質マーカーを特異的に認識する薬剤(抗体など)に曝露することにより、分化させた細胞を精製することができる。
【0092】
本発明での使用に好適な多能性幹細胞としては、例えばヒト胚性幹細胞株H9(NIH code:WA09)、ヒト胚性幹細胞株H1(NIH code:WA01)、ヒト胚性幹細胞株H7(NIH code:WA07)、及びヒト胚性幹細胞株SA002(Cellartis,Sweden)が挙げられる。多能性細胞に特徴的な以下のマ−カー、すなわち、ABCG2、cripto、CD9、FOXD3、CONNEXIN43、CONNEXIN45、OCT4、SOX2、Nanog、hTERT、UTF−1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra 1−60及びTra 1−81のうちの少なくとも1つを発現する細胞も本発明での使用に適している。
【0093】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーは、SOX17、GATA4、HNF3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix様ホメオボックスタンパク質、FGF4 CD48、エオメソダーミン(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、C−Kit、CD99、及びOTX2からなる群から選択される。本発明での使用に好適なのは、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーのうちの少なくとも1つを発現する細胞である。本発明の一態様で、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、原始線条前駆体細胞である。別の態様で、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、中内胚葉細胞である。別の態様で、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、胚体内胚葉細胞である。
【0094】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーは、PDX1、HNF1 β、PTF1 α、HNF6、HB9及びPROX1からなる群から選択される。本発明での使用に好適なのは、膵臓内胚葉系の特徴を示す少なくとも1つのマーカーを発現する細胞である。本発明の一態様において、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内胚葉細胞である。
【0095】
一実施形態では、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞に更に分化させる。本発明は、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団において、NGN3及びNKX6.1の発現を増加させる方法を提供する。
【0096】
膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団におけるNGN3及びNKX6.1の発現の増加は、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物で処理することによって達成できる。あるいは、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団におけるNGN3及びNKX6.1の発現の増加は、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW 5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物で処理することによって達成できる。
【0097】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞がX、Y、及びZからなる群から選択される化合物で処理される場合、細胞は、これらの細胞を、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させるのに用いられる培地に、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW 5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物を追加することにより処理される。
【0098】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞がX、Y、及びZからなる群から選択される化合物で処理される場合、細胞は、これらの細胞を膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させるのに用いられる培地に、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW 5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物を追加することにより処理される。
【0099】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞の、NGN3及びNKX6.1発現が増加した膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、当該技術分野の任意の方法、又は本発明で提案する任意の方法により、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させ得る。
【0100】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、エキセンディン4を含有している培地で培養し、次にエキセンディン4を含有している培地を除去し、続いて細胞をエキセンディン1、IGF−1及びHGFを含有している培地で培養することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0101】
例えば、本発明の方法に従って得られる、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、DAPT(Sigma−Aldrich,MO)及びエキセンディン4を含有している培地で培養することにより、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0102】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、エキセンディン4を含有している培地で培養することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0103】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願第11/736,908号に開示された方法に従って、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞をノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。
【0104】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願第11/779,311号に開示された方法に従って、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞をノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。
【0105】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願第60/953,178号に開示された方法に従って、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞をノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。
【0106】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願第60/990,529号に開示された方法に従って、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞をノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。
【0107】
膵臓内分泌系に特徴的なマーカーは、NGN3、NEUROD、ISL1、PDX1、NKX6.1、PAX4、NGN3、及びPTF−1 αからなる群から選択される。一実施形態では、膵内分泌細胞は、以下のホルモンの少なくとも1つを発現することができる:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチド。本発明で使用するのに好適なのは、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを少なくとも1つ発現する細胞である。本発明の一態様において、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内分泌細胞である。膵臓内分泌細胞は、膵臓ホルモン発現細胞であってよい。また、膵臓内分泌細胞は膵臓ホルモン分泌細胞であってよい。
【0108】
本発明の一態様では、膵内分泌細胞は、β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞である。β細胞系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、PDX1と、以下の転写因子、すなわち、NGN3、NKX2.2、NKX6.1、NEUROD、ISL1、HNF3 β、MAFA、PAX4、及びPAX6のうちの少なくとも1つを発現する。本発明の一態様では、β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、β細胞である。
【0109】
本発明は、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団において、NGN3及びNKX6.1の発現を増加させる方法を提供する。
【0110】
一実施形態では、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団におけるNGN3及びNKX6.1の発現の増加は、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW 5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物で処理することによって達成できる。
【0111】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現するマーカーを発現する細胞が、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW 5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物で処理される場合、細胞は、これらの細胞を膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させるのに用いられる培地に、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW 5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物を追加することにより処理される。
【0112】
本発明を以下の実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0113】
(実施例1)
NGN3発現を仲介する小分子類似体のスクリーニング
転写因子NGN3の発現は、前駆細胞を内分泌細胞である運命へと進行させる間に必要とされる。このプロセスの効率向上が所望の成果である。酵素阻害物質が、分化中に伝達される細胞シグナルを制御でき、NGN3などの重要な転写因子の遺伝子発現に直接的又は間接的影響を与えることができると仮定して、小分子化合物のスクリーニングを実施した。
【0114】
アッセイ用細胞の調製:増殖因子が少ないMATRIGEL(BD Biosciences;カタログ# 356231)をコーティングしたディッシュ上のMEF馴化培地中で、平均4日毎に継代し、ヒト胚幹細胞(H1ヒト胚幹細胞株)の保存培養を未分化の多能性状態に維持した。継代は、細胞培養物を1mg/mLディスパーゼ(Invitrogen,カタログ#:17105−041)溶液に37℃で5〜7分間曝露して、続いて単層をMEF馴化培地ですすぎ、穏やかにかき取り、細胞クラスターを回収することにより実施した。クラスターを低速度で遠心して細胞ペレットを回収し、残留ディスパーゼを除去した。ルーチンの維持培養では、細胞クラスターを1:3又は1:4の比率で分けた。全てのヒト胚性幹細胞株は50未満の継代数で維持し、正常な核型について及びマイコプラズマの非存在について、ルーチン的に評価した。小型化アッセイ形式におけるスクリーニングでは、記載するようにディスパーゼ処理した培養液からH1ヒト胚幹細胞のクラスターを回収し、100μL/ウェルの容量を用い、増殖因子が少ないMATRIGEL(BD Biosciences;カタログ# 356231)をコーティングした96ウェル黒色プレート(Packard ViewPlates;PerkinElmer;カタログ#6005182)上に1:2(表面積)の比率で均一にまいてプレーティングした。細胞を付着させ、次いで8ng/mLのbFGF(R&D Systems;カタログ# 233−FB)を追加されたMEF馴化培地を毎日供給しながら1〜3日経過させ、対数増殖期を回復させた。アッセイの持続時間の間、プレートは加湿したボックス中に37℃、5% CO2で維持した。
【0115】
化合物の調製:2種類の市販の小分子キナーゼ阻害剤ライブラリ(BioMol Intl;カタログ#2832A(V2.2)及びEMD Biosciences:カタログ# 539745)を用いて、スクリーニングを実施した。表1及び表2には、それぞれBioMol及びEMDキナーゼ阻害剤ライブラリの化合物を記載する。これらのライブラリの化合物を、96ウェルプレートフォーマットで10mM原液として利用できるように作製し、100% DMSO中に溶解させて、−80℃で保存した。ライブラリ化合物を、100% DMSO(Sigma;カタログ# D2650)に中間濃度である2.5mMに更に希釈し、更に使用まで−80℃で保存した。アッセイ当日、化合物をDMEM(高グルコース)培地で1:12.5に希釈し、8% DMSO中200μMの使用原液を得て、続いて、各アッセイ試験ウェル内で、最終濃度2.5μMの化合物及び0.1% DMSOになるよう、更に1:80に希釈した。
【0116】
分化及びスクリーニングアッセイ:各ウェルから培地を吸引し、新鮮なアリコート(100μL)と交換することで毎日培地供給しながら、分化プロトコルの工程1を三日間にわたって実施した。アッセイ1日目、2%のウシアルブミンフラクションV(脂肪酸不含)(FAF−BSA)(Proliant Inc.;カタログ#:SKU 68700)、100ng/mLのアクチビンA(PeproTech;カタログ#120−14)、20ng/mLのWnt3a(R&D Systems;カタログ# 1324−WN/CF)、及び8ng/mLのbFGF(R&D Systems;カタログ# 233−FB)を含むRPMI−1640培地(Invitrogen;カタログ#:22400)をウェルに供給した。アッセイ2日目及び3日目、Wnt3aを除いた以外は同じ培地をウェルに供給した。全てのウェルを同様に培地供給し、処理した。
【0117】
分化プロトコルの工程2を二日間にわたって実施した。各ウェルから培地を吸引し、2%のFAF BSA、50ng/mLのFGF7(PeproTech;カタログ# 100−19)、及び250nMのKAAD−シクロパミン(Calbiochem;カタログ# 239804)を含有するDMEM:F12培地(Invitrogen;カタログ# 11330−032)の新鮮なアリコート(100μL)と交換することで、細胞に毎日培地供給した。全てのウェルを同様に培地供給し、処理した。
【0118】
分化プロトコルの工程3を四日間にわたって実施した。各ウェルから培地を吸引し、0.1%のAlbumax(Invitrogen;カタログ#:11020−021)、0.5xインスリン−トランスフェリン−セレン(ITS−X;Invitrogen;カタログ# 51500056)、50ng/mLのFGF7、100ng/mLのノギン(R&D Systems;カタログ# 3344−NG)、250nMのKAAD−シクロパミン、2μMの全トランス型レチノイン酸(RA)(Sigma−Aldrich;カタログ# R2625)、及び30ng/mLのアクチビンAを追加されたDMEM(高グルコース)(Invitrogen;カタログ# 10569)の新鮮なアリコート(200μL)と交換することで、細胞に1日おきに培地供給した。工程3の間、キナーゼ阻害剤の試験サンプルを2枚の別のプレート(プレートA及びB)の1つ1つのウェルに加え、3枚目のプレート(プレートC)は未処理のままとした。各プレートにおいて、任意の試験化合物を含まない同量の0.1% DMSOで合計16個の対照ウェルを処理した。
【0119】
分化プロトコルの工程4を三日間にわたって実施した。各ウェルから培地を吸引し、0.1%のAlbumax、0.5xインスリン−トランスフェリン−セレン、100ng/mLのノギン、及び1μMのAlk 5阻害剤(Axxora;カタログ# ALX−270−445)を追加されたDMEM(高グルコース)の新鮮なアリコート(200μL)と交換することで、1日目及び2日目に細胞に培地供給し、3日目は行わなかった。工程4の間、キナーゼ阻害剤の試験サンプルを2枚の別のプレート(プレートB及びC)の1つ1つのウェルに加え、3枚目のプレート(プレートA)は未処理のままとした。各プレートにおいて、任意の試験化合物を含まない同量の0.1% DMSOで合計16個の対照ウェルを処理した。
【0120】
ハイコンテント解析:工程4の終わりに、全てのアッセイプレートから培地を吸引し、続いて、二価カチオンを含まないPBS(Invitrogen;カタログ# 14190)で希釈した4%パラホルムアルデヒド(Sigma−Aldrich;カタログ# 158127)を用いて室温で20分間固定して、PBSで1回洗浄した。サンプルウェルを、0.5%のTriton X−100(VWR;カタログ# VW3929−2)を用いて室温で20分間透過処理し、PBSで2回洗浄し、PBS中5%ロバ血清(Jackson ImmunoResearch;カタログ# 017−000−121)を用いて室温で30分間ブロッキングした。一次抗体(ヒツジ抗NGN3;R&D Systems;AF3444)を5%ロバ血清で1:300に希釈し、室温で1時間各ウェルに加えた。PBSで2回洗浄後、Alexa Fluor 647ロバ抗ヒツジ二次抗体(Invitrogen;カタログ# A21448)を1:100に希釈し、室温で30分間各サンプルウェルに加え、その後PBSで2回洗浄した。核を対比染色するために、4μg/mLのHoechst 33342(Invitrogen;カタログ# H3570)を室温で10分間加えた。プレートをPBSで1回洗浄し、撮像のために100μL/ウェルのPBSを残した。
【0121】
Hoechst 33342及びAlexa Flour 647で染色した細胞用にダイクロイック51008bsを利用して、IN Cell Analyzer 1000(GE Healthcare)を用いて撮像を実施した。曝露時間は二次抗体単独で染色した陽性対照ウェルから最適化した。1ウェルあたり15視野の撮像を得て、バイオアッセイ及び続く染色手順の間の任意の細胞ロスを補正した。IN Cell Developer Toolbox 1.7(GE Healthcare)ソフトウェアを用いて総細胞数及び総NGN3強度についての測定値を各ウェルから得た。核の分裂は、グレースケールレベル(ベースライン範囲100〜300)と核の大きさに基づいて判定した。総NGN3タンパク質発現は、細胞面積によって乗じた細胞の総蛍光値として定義される総強度又は積分強度として記録した。バックグラウンドは、200〜3500の間のグレースケール範囲の許容基準に基づいて除去した。総強度データは、各ウェルについての総強度を陽性対照についての平均総強度で除することにより正規化した。
【0122】
この1回の実験で6枚のアッセイプレートの処理に用いた2種類のキナーゼ阻害剤ライブラリの組み合わせのスクリーニング結果を表3に示す。示されるデータは、DMSO溶媒のみで処理されたウェルの染色に対する、個々の化合物で処理されたウェルのNGN3染色の代表的な強度比である。強度比並びにランク順の比較は、工程3のみ若しくは工程4のみの間、又は工程3及び4の両方の間に投与された個々の化合物について示す。溶媒処理対照と比較して強度比>1.4の化合物を、確認及び更なる評価のためにヒットとタグ付けした。表4にまとめるように、これらの化合物のうち特に興味深いものは、内分泌腺分化中のNGN3の最適な発現パターンに関与し得る、いくつかの細胞シグナル伝達経路を標的にすると思われる。
【0123】
(実施例2)
NKX6.1及びNGN3発現を仲介する小分子類似体のスクリーニング
NGN3を伴うNKX6.1の発現は、前駆細胞を内分泌細胞である運命へと進行させる間に必要とされる。キナーゼ阻害剤のスクリーニングを行い、任意の化合物が分化中の一方又は両方のマーカーの発現を上方制御するどうかを判定した。この実施例では、HDAC阻害剤であるトリコスタチンAについても分化プロトコルに含め、クロマチン再構築を調節し、場合により遺伝子転写を増強した。
【0124】
アッセイ用細胞の調製:増殖因子が少ないMATRIGEL(BD Biosciences;カタログ# 356231)をコーティングしたディッシュ上のMEF馴化培地中で、平均4日毎に継代し、ヒト胚幹細胞(H1ヒト胚幹細胞株)の保存培養を未分化の多能性状態に維持した。継代は、細胞培養物を1mg/mLディスパーゼ(Invitrogen,カタログ#:17105−041)溶液に37℃で5〜7分間曝露して、続いて単層をMEF馴化培地ですすぎ、穏やかにかき取り、細胞クラスターを回収することにより実施した。クラスターを低速度で遠心して細胞ペレットを回収し、残留ディスパーゼを除去した。ルーチンの維持培養では、細胞クラスターを1:3又は1:4の比率で分けた。全てのヒト胚性幹細胞株は50未満の継代数で維持し、正常な核型について及びマイコプラズマの非存在について、ルーチン的に評価した。小型化アッセイ形式におけるスクリーニングでは、記載するようにディスパーゼ処理した培養液からH1ヒト胚幹細胞のクラスターを回収し、100μL/ウェルの容量を用い、増殖因子が少ないMATRIGEL(BD Biosciences;カタログ# 356231)をコーティングした96ウェル黒色プレート(Packard ViewPlates;PerkinElmer;カタログ#6005182)上に1:2(表面積)の比率で均一にまいてプレーティングした。細胞を付着させ、次いで8ng/mLのbFGF(R&D Systems;カタログ# 233−FB)を追加されたMEF馴化培地を毎日供給しながら1〜3日経過させ、対数増殖期を回復させた。アッセイの持続時間の間、プレートは加湿したボックス中に37℃、5%のCO2で維持した。
【0125】
化合物の調製:表1に定義される1種類の市販の小分子キナーゼ阻害剤ライブラリ(BioMol Intl;カタログ# 2832A(V2.2)を用いて、スクリーニングを実施した。このライブラリの化合物を、96ウェルプレートフォーマットで10mM原液として利用できるように作製し、100% DMSO中に溶解させて、−80℃で保存した。ライブラリ化合物を、100% DMSO(Sigma;カタログ# D2650)に中間濃度である2.5mMに更に希釈し、更に使用まで−80℃で保存した。アッセイ当日、化合物をDMEM(高グルコース)培地で1:12.5に希釈し、8% DMSO中200μMの使用原液を得て、続いて、各アッセイ試験ウェル内で、最終濃度2.5μMの化合物及び0.1% DMSOになるよう、更に1:80に希釈した。
【0126】
分化及びスクリーニングアッセイ:各ウェルから培地を吸引し、新鮮なアリコート(100μL)と交換することで毎日培地供給しながら、分化プロトコルの工程1を三日間にわたって実施した。アッセイ1日目、2%のウシアルブミンフラクションV(脂肪酸不含)(FAF−BSA)(Proliant Inc.;カタログ#:SKU 68700)、100ng/mLのアクチビンA(PeproTech;カタログ#120−14)、20ng/mLのWnt3a(R&D Systems;カタログ#1324−WN/CF)、及び8ng/mLのbFGF(R&D Systems;カタログ# 233−FB)を含むRPMI−1640培地(Invitrogen;カタログ#:22400)を使用してウェルに供給した。アッセイ2日目及び3日目、Wnt3aを除いた以外は同じ培地をウェルに供給した。全てのウェルを同様に培地供給し、処理した。
【0127】
分化プロトコルの工程2を二日間にわたって実施した。各ウェルから培地を吸引し、2%のFAF BSA、50ng/mLのFGF7(PeproTech;カタログ# 100−19)、及び250nMのKAAD−シクロパミン(Calbiochem;カタログ# 239804)を含有するDMEM:F12培地(Invitrogen;カタログ# 11330−032)の新鮮なアリコート(100μL)と交換することで、細胞に毎日培地供給した。全てのウェルを同様に培地供給し、処理した。
【0128】
分化プロトコルの工程3を五日間にわたって実施した。各ウェルから培地を吸引し、0.1%のAlbumax(Invitrogen;カタログ#:11020−021)、0.5xインスリン−トランスフェリン−セレン(ITS−X;Invitrogen;カタログ# 51500056)、50ng/mLのFGF7、100ng/mLのノギン(R&D Systems;カタログ# 3344−NG)、250nMのKAAD−シクロパミン、2μMの全トランス型レチノイン酸(RA)(Sigma−Aldrich;カタログ# R2625)、30ng/mLのアクチビンA、及び100nMのトリコスタチンA(TsA;Sigma;カタログ# T8552)を追加されたDMEM(高グルコース)(Invitrogen;カタログ# 10569)の新鮮なアリコート(200μL)と交換することで、細胞に1日おきに培地供給した。工程3の間、2日目及び4日目に、キナーゼ阻害剤の試験サンプルを1つ1つのウェルに加えた。各プレートにおいて、任意の試験化合物を含まない同量の0.1% DMSOで合計16個の対照ウェルを処理した。
【0129】
分化プロトコルの工程4を三日間にわたって実施した。各ウェルから培地を吸引し、0.1%のAlbumax、0.5xインスリン−トランスフェリン−セレン、100ng/mLのノギン、1μMのAlk 5阻害剤(Axxora;カタログ# ALX−270−445)、及び1μg/mLのDAPT(Sigma;カタログ#D5942)を追加されたDMEM(高グルコース)の新鮮なアリコート(200μL)と交換することで、細胞に毎日培地供給した。工程4の間、1日目にキナーゼ阻害剤の試験サンプルを100nMのトリコスタチンAと共に1つ1つのウェルに加え、続いて2日目及び3日目は、培地供給中にキナーゼ阻害剤の試験サンプル及びTsAの両方を除去した。各プレートにおいて、任意の試験化合物を含まない同量の0.1% DMSOで合計16個の対照ウェルを処理した。
【0130】
ハイコンテント解析:工程4の終わりに、全てのウェルから培地を吸引し、続いて、二価カチオンを含まないPBS(Invitrogen;カタログ# 14190)で希釈した4%パラホルムアルデヒド(Sigma−Aldrich;カタログ# 158127)を用いて室温で20分間固定して、PBSで1回洗浄した。サンプルウェルを、0.5%のTriton X−100(VWR;カタログ# VW3929−2)を用いて室温で20分間透過処理し、PBSで2回洗浄し、PBS中5%ロバ血清(Jackson ImmunoResearch;カタログ# 017−000−121)を用いて室温で30分間ブロッキングした。一次抗体(ヒツジ抗NGN3;R&D Systems;AF3444、すなわちマウス抗NKX6.1;University of Iowa;カタログ#F55A12)を5%ロバ血清で希釈し(抗NGN3は1:300、抗NKX6.1は1:500)、室温で1時間各ウェルに加えた。PBSで2回洗浄後、Alexa Fluor 647ロバ抗ヒツジ二次抗体(Invitrogen;カタログ# A21448)及びAlexa Fluor 488ロバ抗マウス二次抗体(Invitrogen;カタログ# A21202)を1:100(両二次抗体とも)に希釈し、室温で30分間各サンプルウェルに加え、その後PBSで2回洗浄した。核を対比染色するために、4μg/mLのHoechst 33342(Invitrogen;カタログ# H3570)を室温で10分間加えた。プレートをPBSで1回洗浄し、撮像のために100μL/ウェルのPBSを残した。
【0131】
Hoechst 33342、並びにAlexa Fluor 488及びAlexa Flour 647で染色した細胞用にダイクロイック51008bsを利用して、IN Cell Analyzer 1000(GE Healthcare)を用いて撮像を実施した。曝露時間は各二次抗体単独で染色した陽性対照ウェルから最適化した。1ウェルあたり15視野の撮像を得て、バイオアッセイ及び続く染色手順の間の任意の細胞ロスを補正した。IN Cell Developer Toolbox 1.7(GE Healthcare)ソフトウェアを用いて総細胞数及び総NGN3又はNKX6.1強度についての測定値を各ウェルから得た。核の分裂は、グレースケールレベル(ベースライン範囲100〜300)と核の大きさに基づいて判定した。総NGN3又はNKX6.1タンパク質発現は、細胞面積によって乗じた細胞の総蛍光値として定義される総強度又は積分強度として記録した。バックグラウンドは、200〜3500の間のグレースケール範囲の許容基準に基づいて除去した。総強度データは、各ウェルについての総強度を陽性対照についての平均総強度で除することにより正規化した。
【0132】
このスクリーニングの結果を表5、表6、及び表7にまとめる。表5のデータは、DMSOのみで処理されたウェルの平均染色に対する、個々の化合物で処理された各ウェルのNGN3及びNKX6.1染色の代表的な比率を示す。また、NGN3又はNKX6.1いずれかのタンパク質発現に対する、各化合物の効果についてのランク順も示す。表6は、NGN3及び/又はNKX6.1発現に対して明白な効果を有する上位16ヒットについて、ランク順にリストアップしている。表7には、これらのヒット上位に対応する標的及びシグナル伝達経路をまとめる。このスクリーニングで複数ヒットした経路は、内分泌腺の運命決定に重要なこれら2つの転写因子の発現に影響を及ぼすのに非常に有効であると思われる。
【0133】
(実施例3)
NGN3及びNKX6.1発現を仲介する小分子類似体の確認
NGN3を伴うNKX6.1の発現は、前駆細胞を内分泌細胞である運命へと進行させる間に必要とされる。キナーゼ阻害剤のスクリーニングを繰り返し、任意の小分子化合物が分化中の一方又は両方のマーカーの発現を上方制御するどうかを判定した。この実施例では、HDAC阻害剤であるトリコスタチンAについても分化プロトコルに含め、クロマチン再構築を調節し、場合により遺伝子転写を増強した。
【0134】
アッセイ用細胞の調製:増殖因子が少ないMATRIGEL(BD Biosciences;カタログ# 356231)をコーティングしたディッシュ上のMEF馴化培地中で、平均4日毎に継代し、ヒト胚幹細胞(H1ヒト胚幹細胞株)の保存培養を未分化の多能性状態に維持した。継代は、細胞培養物を1mg/mLディスパーゼ(Invitrogen,カタログ#:17105−041)溶液に37℃で5〜7分間曝露して、続いて単層をMEF馴化培地ですすぎ、穏やかにかき取り、細胞クラスターを回収することにより実施した。クラスターを低速度で遠心して細胞ペレットを回収し、残留ディスパーゼを除去した。ルーチンの維持培養では、細胞クラスターを1:3又は1:4の比率で分けた。全てのヒト胚性幹細胞株は50未満の継代数で維持し、正常な核型について及びマイコプラズマの非存在について、ルーチン的に評価した。小型化アッセイ形式におけるスクリーニングでは、記載するようにディスパーゼ処理した培養液からH1ヒト胚幹細胞のクラスターを回収し、100μL/ウェルの容量を用い、増殖因子が少ないMATRIGEL(BD Biosciences;カタログ# 356231)をコーティングした96ウェル黒色プレート(Packard ViewPlates;PerkinElmer;カタログ#6005182)上に1:2(表面積)の比率で均一にまいてプレーティングした。細胞を付着させ、次いで8ng/mLのbFGF(R&D Systems;カタログ# 233−FB)を追加されたMEF馴化培地を毎日供給しながら1〜3日経過させ、対数増殖期を回復させた。アッセイの持続時間の間、プレートは加湿したボックス中に37℃、5% CO2で維持した。
【0135】
化合物の調製:表1に示される1種類の市販の小分子キナーゼ阻害剤ライブラリ(BioMol Intl;カタログ#2832A(V2.2)を用いて、確認スクリーニングを実施した。このライブラリから対象とするヒット化合物を、96ウェルプレートフォーマットで10mM原液として利用できるように作製し、100% DMSO中に溶解させて、−80℃で保存した。対象とする個々のライブラリ化合物を、100% DMSO(Sigma;カタログ# D2650)に中間濃度である2.5mMに更に希釈し、更に使用まで−80℃で保存した。アッセイ当日、これらの対象とする個々の化合物をDMEM(高グルコース)培地で1:12.5に希釈し、8% DMSO中200μMの使用原液を得て、続いて、各アッセイ試験ウェル内で、最終濃度2.5μMの化合物及び0.1% DMSOになるよう、更に1:80に希釈した。
【0136】
分化及びスクリーニングアッセイ:各ウェルから培地を吸引し、新鮮なアリコート(100μL)と交換することで毎日培地供給しながら、分化プロトコルの工程1を三日間にわたって実施した。アッセイ1日目、2%のウシアルブミンフラクションV(脂肪酸不含)(FAF−BSA)(Proliant Inc.;カタログ#:SKU 68700)、100ng/mLのアクチビンA(PeproTech;カタログ#120−14)、20ng/mLのWnt3a(R&D Systems;カタログ#1324−WN/CF)、及び8ng/mLのbFGF(R&D Systems;カタログ#233−FB)を含むRPMI−1640培地(Invitrogen;カタログ#:22400)をウェルに供給した。アッセイ2日目及び3日目、Wnt3aを除いた以外は同じ培地をウェルに供給した。全てのウェルを同様に培地供給し、処理した。
【0137】
分化プロトコルの工程2を二日間にわたって実施した。各ウェルから培地を吸引し、2%のFAF BSA、50ng/mLのFGF7(PeproTech;カタログ# 100−19)、及び250nMのKAAD−シクロパミン(Calbiochem;カタログ# 239804)を含有するDMEM:F12培地(Invitrogen;カタログ# 11330−032)の新鮮なアリコート(100μL)と交換することで、細胞に毎日培地供給した。全てのウェルを同様に培地供給し、処理した。
【0138】
分化プロトコルの工程3を四日間にわたって実施した。各ウェルから培地を吸引し、0.1%のAlbumax(Invitrogen;カタログ#:11020−021)、0.5xインスリン−トランスフェリン−セレン(ITS−X;Invitrogen;カタログ# 51500056)、50ng/mLのFGF7、100ng/mLのノギン(R&D Systems;カタログ# 3344−NG)、250nMのKAAD−シクロパミン、2μMの全トランス型レチノイン酸(RA)(Sigma−Aldrich;カタログ# R2625)、及び20ng/mLのアクチビンAを追加されたDMEM(高グルコース)(Invitrogen;カタログ# 10569)の新鮮なアリコート(200μL)と交換することで、細胞に1日おきに培地供給した。工程3の間、1日目及び3日目の培地供給時に、キナーゼ阻害剤の3つ組の試験サンプルをウェルに加えた。各プレートにおいて、任意の試験化合物を含まない同量の0.1% DMSOで合計16個の対照ウェルを処理した。
【0139】
分化プロトコルの工程4を四日間にわたって実施した。各ウェルから培地を吸引し、0.1%のAlbumax、0.5xインスリン−トランスフェリン−セレン、100ng/mLのノギン、及び1μMのAlk 5阻害剤(Axxora;カタログ# ALX−270−445)を追加されたDMEM(高グルコース)の新鮮なアリコート(200μL)と交換することで、細胞に1日おきに培地供給した。工程4の間、1日目及び3日目の培地供給時に、キナーゼ阻害剤の3つ組の試験サンプルをウェルに加えた。各プレートにおいて、任意の試験化合物を含まない同量の0.1% DMSOで合計16個の対照ウェルを処理した。
【0140】
ハイコンテント解析:工程4の終わりに、全てのウェルから培地を吸引し、続いて、二価カチオンを含まないPBS(Invitrogen;カタログ# 14190)で希釈した4%パラホルムアルデヒド(Sigma−Aldrich;カタログ# 158127)を用いて室温で20分間固定して、PBSで1回洗浄した。サンプルウェルを、0.5%のTriton X−100(VWR;カタログ# VW3929−2)を用いて室温で20分間透過処理し、PBSで2回洗浄し、PBS中5%ロバ血清(Jackson ImmunoResearch;カタログ# 017−000−121)を用いて室温で30分間ブロッキングした。一次抗体(ヒツジ抗NGN3;R&D Systems;AF3444、すなわちマウス抗NKX6.1;University of Iowa;カタログ# F55A12)を5%ロバ血清で希釈し(抗NGN3は1:300、抗NKX6.1は1:500)、室温で1時間各ウェルに加えた。PBSで2回洗浄後、Alexa Fluor 647ロバ抗ヒツジ二次抗体(Invitrogen;カタログ# A21448)及びAlexa Fluor 488ロバ抗マウス二次抗体(Invitrogen;カタログ# A21202)を1:100(両二次抗体とも)に希釈し、室温で30分間各サンプルウェルに加え、その後PBSで2回洗浄した。核を対比染色するために、4μg/mLのHoechst 33342(Invitrogen;カタログ#H3570)を室温で10分間加えた。プレートをPBSで1回洗浄し、撮像のために100μL/ウェルのPBSを残した。
【0141】
Hoechst 33342、並びにAlexa Fluor 488及びAlexa Flour 647で染色した細胞用にダイクロイック51008bsを利用して、IN Cell Analyzer 1000(GE Healthcare)を用いて撮像を実施した。曝露時間は各二次抗体単独で染色した陽性対照ウェルから最適化した。1ウェルあたり15視野の撮像を得て、バイオアッセイ及び続く染色手順の間の任意の細胞ロスを補正した。IN Cell Developer Toolbox 1.7(GE Healthcare)ソフトウェアを用いて総細胞数及び総NGN3又はNKX6.1強度についての測定値を各ウェルから得た。核の分裂は、グレースケールレベル(ベースライン範囲100〜300)と核の大きさに基づいて判定した。総NGN3又はNKX6.1タンパク質発現は、細胞面積によって乗じた細胞の総蛍光値として定義される総強度又は積分強度として記録した。バックグラウンドは、200〜3500の間のグレースケール範囲の許容基準に基づいて除去した。総強度データは、各ウェルについての総強度を陽性対照についての平均総強度で除することにより正規化した。
【0142】
これらの試験の結果を表8に示す。2つの化合物(ケンパウロン及びBML−259)は確認されず、対照処理と比較してNGN3又はNKX6.1のいずれかの発現の増強効果は有さなかった。このアッセイにおいて残りの化合物は、一方又は両方の転写因子に対して明白な影響を示し、これにより以前の結果が確認され、これらの関連シグナル伝達経路の重要性が強調された。
【0143】
【表1−1】

【0144】
【表1−2】

【0145】
【表1−3】

【0146】
【表1−4】

【0147】
【表2−1】

【0148】
【表2−2】

【0149】
【表2−3】

【0150】
【表2−4】

【0151】
【表3−1】

【0152】
【表3−2】

【0153】
【表3−3】

【0154】
【表3−4】

【0155】
【表3−5】

【0156】
【表3−6】

【0157】
【表3−7】

【0158】
【表4−1】

【0159】
【表4−2】

【0160】
【表4−3】

【0161】
【表5−1】

【0162】
【表5−2】

【0163】
【表5−3】

【0164】
【表5−4】

【0165】
【表6】

【0166】
【表7】

【0167】
【表8】

【0168】
本明細書の全体を通じて引用した刊行物は、その全容を本明細書に援用するものである。以上、本発明の様々な態様を実施例及び好ましい実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲は、上記の説明文によってではなく、特許法の原則の下で適宜解釈される以下の「特許請求の範囲」によって定義されるものである点は認識されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団においてNGN3及びNKX6.1の発現を増加させる方法であって、
a)多能性幹細胞を培養する工程と、
b)前記多能性幹細胞を、胚体内胚葉系(definitive endoderm lineage)に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、
c)前記胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程であって、前記胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を分化させるために用いる培地に、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW 5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物を追加する工程と、
d)前記膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、前記膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を分化させるために用いる培地が、H−9、H−89、GF 109203X、HA−1004、PP2、PP1、LY 294002、ウォルトマニン、SB−203580、SB−202190、チルホスチン25、チルホスチン、AG1478、チルホスチン46、GW 5074、ケンパウロン、HNMPA、AG490、Y27632、及びML−7からなる群から選択される化合物を追加される、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2013−515481(P2013−515481A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546059(P2012−546059)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/060770
【国際公開番号】WO2011/079018
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(509087759)ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】