説明

ヒドロキシカルボン酸の製造方法

【課題】 液相において不飽和カルボン酸の水和反応によりヒドロキシカルボン酸を効率よく得る方法を提供する。
【解決手段】 不飽和カルボン酸を液相で水和する工程によりヒドロキシカルボン酸を製造する方法であって、該製造方法は、水和酸化物の存在下に液相水和工程を行うヒドロキシカルボン酸の製造方法、及び、不飽和カルボン酸を液相で水和する工程によりヒドロキシカルボン酸を製造する方法であって、該製造方法は、水和反応後の反応液を有機溶剤で抽出して未反応の不飽和カルボン酸を回収する工程を含むヒドロキシカルボン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒドロキシカルボン酸の製造方法に関する。より詳しくは不飽和カルボン酸の水和反応によりヒドロキシカルボン酸を得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシカルボン酸は、発酵法や化学合成法が知られており、化学合成法の一つとして不飽和カルボン酸の2重結合を水和する方法がある。ヒドロキシカルボン酸の用途としては、例えば、乳酸や3−ヒドロキシ酪酸のようなヒドロキシカルボン酸は、その重合体であるポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸が生分解性を持つことから、生分解性ポリマーの原料として有用である。不飽和カルボン酸としてアクリル酸を水和した3−ヒドロキシプロピオン酸は、その単独の重合体では生分解性がないとの報告もあるが、3−ヒドロキシ酪酸と共重合させることにより生分解性が得られる。メタクリル酸を水和した3−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸も同様に3−ヒドロキシ酪酸との共重合体が有用であるとの報告がある。
またヒドロキシカルボン酸を水素化することによって各種有用物の原料となるジオールが得られる。例えば、アクリル酸を水和して得られる3−ヒドロキシプロピオン酸を水素化することにより得られる1,3−プロパンジオールは汎用大型樹脂として期待されているポリトリメチレンテレフタレートの重要な原料となる。
【0003】
不飽和カルボン酸からヒドロキシカルボン酸を得る方法としては、硫酸を触媒として用いる方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、過塩素酸を触媒として用いて、アクリル酸から3−ヒドロキシプロピオン酸を得る方法が開示されている(例えば、非特許文献2参照。)。しかしながら、硫酸や過塩素酸を用いる方法では、触媒と生成物の分離や排酸の処理の問題があり、触媒と生成物の分離を容易なものとし、特定の処理を必要としない工業的製法とする工夫の余地があった。
また3−ヒドロキシプロピオン酸を得る方法としては、アクリル酸から加熱のみで3−ヒドロキシプロピオン酸を得る方法が開示されている(例えば、非特許文献3参照。)。しかしながら、このように無触媒で行う方法では、触媒の分離の必要はないが、反応速度が遅いために生産効率が悪く、工業的にヒドロキシカルボン酸を製造する方法として、より効率的なものとする工夫の余地があった。
【0004】
また、このような不飽和カルボン酸の水和によるヒドロキシカルボン酸の生成反応は平衡反応であるため原料転化率に限界があり、原料の有効利用のためには、反応生成物から簡便に原料を回収して再利用する方法の開発が望まれていた。
【0005】
かかる課題に対し、無機固体酸触媒を用いてアクリル酸から3−ヒドロキシカルボン酸を生成し、触媒と反応液を分離した後蒸留を行う方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このような無機固体酸触媒を用いる方法は、オレフィンの水和触媒を利用するものであり、触媒と反応生成物を、困難を伴わずに分離できる方法である。しかしながら、無機固体酸触媒として各種アルミノシリケートやイオン交換樹脂を触媒とすると、無触媒と同等の反応速度しか示さず触媒としての機能を有するものではない。また、反応が平衡反応であることから、触媒を用いてもアクリル酸の転化率に限界があり、更に、転化率を向上させるために未反応のアクリル酸を蒸留により回収する方法では、3−ヒドロキシプロピオン酸やアクリル酸の沸点が水より高いために、これらと共に多量の水も同時に気化させる必要があり、熱量消費(エネルギー消費)が大きく経済的な方法とは言えず、反応液を容易に効率よく分離させて、転化率を向上させる工夫の余地があった。
【0006】
一方、ジルコニウム、チタン、スズ、鉄、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の、水和水を含む酸化物の存在下、エチレンと水とを接触させることを特徴とするエタノールの製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この反応は収率が1%未満と極めて低い上、これらの触媒はエチレンからエタノールを製造する反応に用いられるものであり、不飽和カルボン酸からヒドロキシカルボン酸を製造する反応に、例えば、水酸化アルミニウム沈殿を低温熱処理した触媒を用いても、無触媒と同等の反応速度しか示さず触媒としての機能を有するものではなく、不飽和カルボン酸からヒドロキシカルボン酸を製造する反応に好適な触媒とするための工夫の余地があった。
【非特許文献1】Zh.Prikl.Khim(Leningrad)(1980),53(3),621−4
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,64,1953(1942)
【非特許文献3】Zhurnal Organicheskoi Khimii(1983),19(1),33−7
【特許文献1】特開2000−159724号公報
【特許文献2】特開平8−325181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、液相において不飽和カルボン酸の水和反応によりヒドロキシカルボン酸を効率よく得る方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、ヒドロキシカルボン酸の製造方法について種々検討したところ、不飽和カルボン酸の2重結合を水和してヒドロキシカルボン酸を得る方法に着目し、水和酸化物の形態である触媒の存在下で液相水和工程を行うことで、反応速度を有為に向上させ、生産効率を高めることができることを見いだした。また、水和反応液を有機溶剤で抽出することにより、不飽和カルボン酸とヒドロキシカルボン酸を分離して不飽和カルボン酸を選択的に回収することができ、転化率を向上させ、総合的収率も高めることができることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、生分解性ポリマーの原料等の様々な用途に好適に適用することができることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、不飽和カルボン酸を液相で水和する工程によりヒドロキシカルボン酸を製造する方法であって、上記製造方法は、水和酸化物の存在下に液相水和工程を行うヒドロキシカルボン酸の製造方法である。
本発明はまた、不飽和カルボン酸を液相で水和する工程によりヒドロキシカルボン酸を製造する方法であって、上記製造方法は、水和反応後の反応液を有機溶剤で抽出して未反応の不飽和カルボン酸を回収する工程を含むヒドロキシカルボン酸の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明のヒドロキシカルボン酸の製造方法は、水和酸化物の存在下に、不飽和カルボン酸を液相で水和する工程により製造する方法である。
上記水和酸化物とは、下記化学式(1);
MaOx・nHO (1)
(Mは金属元素を表す。a、x及びnは正の整数値である。)で表される水和水を含む酸化物である。Mとしては、Zr、Ti、Hf、Sn及びNbのうち少なくとも1種の金属元素が好ましい。このように、水和酸化物が、MはZr、Ti、Hf、Sn及びNbのうち少なくとも1種の金属元素を含有するものである形態は、本発明の好ましい形態の一つである。またMとして、より好ましくは、Zr、Ti及びHfのうち少なくとも1種の金属元素である。
【0011】
水和酸化物の一部を形成するMaOxとしては、上記化学式を満たす限り特に限定されず、例えば、Mは単一元素であってもよく、2種以上の元素から成る酸化物の混合物、又は、複合酸化物であってもよい。また、これらは明確な結晶型を持たないアモルファス状であっても、結晶型を持つものであってもよい。Mに該当する元素としては、Zr、Ti、Hf、Sn、Nbのうち少なくとも一種の金属元素を含有することが好ましく、Zr、Ti、Hfのうち少なくとも一種の金属元素を含有することが更に好ましい。また、Si等上記以外の金属元素を含む複合酸化物、酸化物の混合物の形態を取ってもよい。
【0012】
上記nHOで示される水和水の形態としては、結晶水とは異なり特定の温度で脱離することはなく、熱処理することにより徐々に減少し、単なる付着水よりは強固に酸化物と結合していると考えられるものである。nは、水和酸化物の調製法によって異なった値をとり、同じMaOxの組成であっても、原料や沈殿方法、熱処理温度や方法によって種々の値を取りうる。
【0013】
触媒として用いる上記水和酸化物の形状は特に問わず、粉砕等によって粉末状としたものであってもよい。水和反応後の反応液から水和酸化物の回収性を向上させたり、固定床式の反応器を用いたりする場合などは、粉砕度合いを調節して数mm程度の砂状の触媒としてもよく、打錠成形や押し出し成形法で特定の形状を付与してもよく、また、形状を付与された担体に担持又は固定化してもよい。
【0014】
上記担体としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、コージェライト、ステアタイト、炭化珪素、磁製等の一般に触媒担体として用いられる担体を用いてもよい。担体の形状としては球状、リング状、円柱状、鞍型、半リング状、ハニカム状等任意の形を用いることができる。
上記担体を担持させる方法としては、焼き付け法、ディップコート法、含浸法等従来公知の方法を用いることができる。また、水和酸化物を調製した後に担持させてもよく、担持させた後に水和酸化物を調製してもよい。水和酸化物を調製した後に担持させる方法としては、析出した沈殿をそのまま用いたり、いったん乾燥や熱処理を行った後粉砕して粉体とした後媒体に分散したスラリーを用いたりして担持させてもよい。また、水和酸化物を調製する前に担持させる方法としては、出発物の水溶性塩類の形で担体に含浸して担持させることができ、その後、中和や熱分解によって水和酸化物としてもよい。
また担持強度を向上させるために、有機バインダーや無機繊維、例えば、ウィスカー等を併用する方法も好適に利用できる。また、無機繊維の繊維長/繊維経を適宜設定することで、強度向上と共に反応収率の向上も行うことができる。
【0015】
上記水和酸化物の熱処理による重量減少としては、200〜800℃の間の減量率として評価することができ、200℃での重量を基準として200℃から800℃の間の減量率が0.5%から40%の範囲であることが好ましい。より好ましくは1〜30%であり、更に好ましくは2〜20%である。このような減量率は、例えば熱重量計(ブルカー・エイエックスエス株式会社 TG−DTA 2000S)により測定することができる。
【0016】
触媒の減量率の測定
減量率の測定には、熱重量計(ブルカー・エイエックスエス株式会社 TG−DTA 2000S)を用いた。測定するサンプルは約30mg用い、同重量のα−Alを参照試料として用いた。サンプルは0.1mg単位まで秤量し、室温から800℃まで10℃/minの昇温速度で測定した。計測結果は最小単位0.0001mgの減量重量として出力され、用いた試料重量から減量重量を差し引くことにより各温度での重量を算出した。減量率の算出方法として、200℃での重量を基準とした200℃〜800℃までの減量率を以下に示した。減量率は小数点以下1位を四捨五入して整数値で示した。
減量率=(800℃での重量−200℃での重量)/200℃での重量
800℃での重量=用いた試料重量−800℃までの減量
200℃での重量=用いた試料重量−200℃までの減量
【0017】
上記水和酸化物としては、非晶質でも結晶質でもよく結晶系は特に問わない。
【0018】
上記水和酸化物の調整方法としては、特に限定されないが、例えば、Mで表される金属元素の水溶性塩類をアンモニア等のアルカリで中和した沈殿物を常温で熟成、又は、加熱することによって好適に得ることができ、また、このような水溶性塩類の水溶液を熱処理により分解することによって得ることもできる。上記水溶液の熱処理に際しては、過酸化水素等の促進剤を加えることによって分解を促進することも可能である。
またMで表される金属元素のアルコキシドを加水分解することによっても得ることができる。
上記金属元素Mの水溶性塩類としては、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、有機錯塩、炭酸アンモニウム塩等が挙げられる。
【0019】
上記の中和や、加水分解等によって得られた沈殿は、生成当初は水酸化物であることがあり、酸に溶解する場合があるため、本願のごとき不飽和有機酸の水和触媒として用いるには、使用に当たって問題がない程度に溶解度を低減することが好ましい。不溶化の方法としては既知の方法を用いることができるが、適切な温度での熱処理や水熱結晶化の方法を用いることが好ましい。不溶化処理の条件については、金属の種類、沈殿の生成方法、原料等によっても異なるために特定の範囲に限定することは困難であるが、例えば、水和ジルコニアについては、熱処理温度を上げることにより溶解度を低減することが可能であり、200℃で24時間水熱処理を行うことによって不溶化することができた。熱処理や水熱結晶化により水和酸化物はより酸化物の形態に近づくため、触媒活性としては低下するが、例えば、Zr/Si、Ti/Si、Ti/Zr等複数の金属からなる場合は、比較的高温でも活性を維持し、400℃焼成品でも高い活性を示した。この理由は定かではないが、例えばZr/Siの沈殿の80℃乾燥品の200℃の重量を基準とした200〜800℃までの減量を熱天秤で測定したところ33%であった。Zrのみの場合に比べて4倍以上の減量率であり複合化によって硬化物形態への移行が抑制されるためと推察している。
【0020】
本発明のヒドロキシカルボン酸の製造方法は、不飽和カルボン酸を液相で水和する工程によりヒドロキシカルボン酸を製造するものである。
上記不飽和カルボン酸としては分子内に不飽和結合を持つカルボン酸であればよいが、特にα,β−不飽和カルボン酸に好適に適用でき、アクリル酸、メタクリル酸が更に好ましい。またこれら不飽和カルボン酸は2種以上混合して使用することも可能である。
上記不飽和カルボン酸の水溶液中における濃度(以下、単に濃度とする)としては、1〜80質量%であることが好適である。不飽和カルボン酸の濃度が1質量%未満の場合には、生産性が低下するおそれがあり、また、装置が大型化するため経済的に不利である。また、不飽和カルボン酸の濃度が80質量%を越える場合には、不飽和カルボン酸のラジカル重合やオリゴマーの生成等の副反応が起こる場合があり、また、平衡的にも不利であり、目的物の収率が低下するおそれがある。好ましくは5〜80質量%であり、より好ましくは5〜50質量%であり、更に好ましくは10〜50質量%であり、特に好ましくは10〜40質量%である。
【0021】
本発明における水和反応としては、不飽和カルボン酸と水を上記水和酸化物存在下で所定の温度に保持することによって進行させることができる。上記水和反応は、低温ほど生成物(ヒドロキシカルボン酸)に有利な平衡反応であり、低温ほど転化率を高めることができる。一方低温では、反応速度が低下するため平衡に達するのに長時間を要し、経済的に有利とするためにはある程度の温度が必要となる。このような水和反応に、上記水和酸化物を触媒として用いることで、反応速度を高めることができ、経済的に有利な範囲で取りうる反応温度を低く設定できるため、転化率の向上がもたらされることになる。
上記反応温度としては、反応対象や触媒の種類、触媒量、バッチ式や流通式等の反応方法によっても異なるものであるが、一般には室温付近(15℃)〜300℃が好ましく、50℃〜250℃がより好ましい。アクリル酸を本発明の原料として用いる場合の水和反応における温度範囲としては、好ましくは80〜250℃であり、より好ましくは、100〜200℃であり、更に好ましくは、100℃〜180℃である。反応温度が50℃未満の場合には、反応速度が遅くなり、水和反応に時間がかかるため経済的でなくなるおそれがあり、また、反応温度が300℃を越える場合には、アクリル酸の重合等の副反応が起こる場合があり、目的物の収率が低下するおそれがある。反応圧力は特に問わず、常圧、減圧及び加圧のいずれの条件でもよいが、反応温度を内容物の沸点以上に上げる場合には、加圧反応となる。また、反応雰囲気は空気下でも窒素等の不活性ガスの雰囲気下でもよいが、酸素の存在は重合反応の抑制に有効である。
【0022】
また水和反応の方法としては、反応初期の反応温度を高くし、反応の進行に従って反応温度を下げる方法が好ましい。具体的には回分型の反応を行う場合は、反応経時とともに反応温度を低下させる方法を用いることができ、流通型の反応においては、反応器の入口側の温度を高く、出口側の温度を低くすることによって実施できる。この方法を用いることにより反応時間を短縮しつつ、転化率を高めることができる。このように水和反応工程において、反応初期の反応温度より反応末期の反応温度を低くする形態であってもよい。
上記反応初期の好ましい温度としては、不飽和カルボン酸としてアクリル酸を用いる場合、150℃以上、300℃以下であることが好ましく、反応末期の好ましい温度としては、50℃以上、140℃以下であることが好ましい。なお、反応初期とは、水和反応を開始した際の温度であり、反応末期とは、水和反応を終了した際の温度である。
【0023】
上記反応方法としては、回分式、半回分式、流通式等公知の方法を好適に用いることができる。また、溶媒としては、平衡反応を有利にするため水を過剰に用いることが好ましく、水を溶媒兼反応剤として用いる方法が好適に用いることができる。水と混和可能で反応に関与しない有機溶媒を用いてもよい。
【0024】
上記反応には例えば重合禁止剤等の添加物が含まれていてもよい。重合禁止剤としては、重合禁止剤として従来公知のものを用いることができ、p−メトキシフェノール、ハイドロキノン及びフェノチアジン、酢酸マンガン、ニトロソフェノール、クペロン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル等を用いることが挙げられる。また、重合禁止剤は不飽和カルボン酸に含まれていてもよく、反応系に別途添加してもよい。
【0025】
上記水和反応工程においては、高アクリル酸濃度での反応や、高温で反応した場合に、重合禁止剤を反応液に添加して重合を防ぎ、選択率を向上させる方法も好ましい。重合禁止剤としては、上記にも示したハイドロキノン類等のアクリル酸の重合禁止剤として従来から公知のものを用いることができる。
【0026】
本発明はまた、不飽和カルボン酸を液相で水和する工程によりヒドロキシカルボン酸を製造する方法であって、上記製造方法は、水和反応後の反応液を有機溶剤で抽出して未反応の不飽和カルボン酸を回収する工程を含むヒドロキシカルボン酸の製造方法でもある。
上記抽出回収工程は、水和反応後の反応液を有機溶剤で抽出して未反応の不飽和カルボン酸を回収することができればよく、不飽和カルボン酸及び/又はヒドロキシカルボン酸を抽出するものであればよい。
上記水和反応後の反応液を有機溶剤で抽出して未反応の不飽和カルボン酸を回収する工程を含む、不飽和カルボン酸を液相で水和する工程によりヒドロキシカルボン酸を製造する方法においては、上述した水和酸化物の存在下に液相水和工程を行った後に反応液を有機溶剤で抽出して未反応の不飽和カルボン酸を回収する工程を行うことが好ましい。また、液相水和工程に用いる水和酸化物及び不飽和カルボン酸、並びに、水和反応における各種条件等としては、上述のものが好適である。
【0027】
上記抽出回収工程はまた、不飽和カルボン酸とヒドロキシカルボン酸とを分離できるものであれば好ましい。このように、水和酸化物の存在下に液相反応を行った後、不飽和カルボン酸とヒドロキシカルボン酸とを分離して回収する方法としては、低エネルギー消費で経済的な分離回収方法であることが望ましい。生成物であるヒドロキシカルボン酸と原料の不飽和カルボン酸はいずれも炭素数が同じカルボン酸であるが、適切な溶媒を選択することにより選択性よく分離できることを見出して目的を達成した。
【0028】
上記抽出回収工程において不飽和カルボン酸とヒドロキシカルボン酸とを分離して回収する場合、不飽和カルボン酸とヒドロキシカルボン酸の有機溶剤に対する溶解度差を利用して分離することができる。例えば、抽出における有機溶剤としては、不飽和カルボン酸の有機溶剤に対する溶解度とヒドロキシカルボン酸の溶解度とが異なり、水に対する溶解度が低い溶剤であってもよい。このような不飽和カルボン酸の溶解度とヒドロキシカルボン酸の溶解度としては、両者の間に相違があればよく、いずれの溶解度が小さくてもよく、大きくてもよい。例えば、ヒドロキシカルボン酸より不飽和カルボン酸の溶解度の方が大きい場合、不飽和カルボン酸が有機溶剤層に抽出され、分離されることになる。一方、有機溶剤に対する溶解度が逆である場合は、目的生成物であるヒドロキシカルボン酸が有機溶剤に抽出されることになる。より好ましくは、不飽和カルボン酸とヒドロキシカルボン酸の溶解度の差が大きい方が好ましく、更に好ましくはどちらか一方の溶解度が極めて低いことが好ましい。このように、反応混合物から生成物と原料との分離を、特定の溶解度を有する有機溶剤を用いて抽出によるものとすることで、エネルギー消費が低く、経済的に優れた方法とすることができる。また、原料を回収して、転化率を向上させることができ、このような工程は、工業上重要なものとなる。
【0029】
上記有機溶剤に対する溶解度として、不飽和カルボン酸の溶解度よりヒドロキシカルボン酸の溶解度の方が大きい場合、水和反応後の反応液を有機溶剤で抽出して、残った水層に消費された不飽和カルボン酸等を追加して反応原料液を再度調製して反応させるリサイクル反応を行うことにより、有機層に移動した不飽和カルボン酸以外のカルボン酸のほとんどを転化することが可能となる。溶解度が逆の場合は、有機層に抽出された不飽和カルボン酸から有機溶剤を除くことにより、不飽和カルボン酸を回収して再使用することにより、同様に使用した不飽和カルボン酸のほとんどを転化することが可能となる。このように、上記回収工程は、有機溶媒で不飽和カルボン酸を抽出するヒドロキシカルボン酸の製造方法も好ましく、上記回収工程は、不飽和カルボン酸を有機溶媒に抽出し再度水和反応を行うヒドロキシカルボン酸の製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0030】
上記有機溶剤としては、反応液と混和しないほとんどの有機溶剤が使用可能であるが、効率よく抽出を行うには、水に対する溶解度が低くかつある程度親水性を有する溶剤が好ましい。水に対する溶解度としては30g/100g以下が好ましい。より好ましくは20g/100g以下であり、更に好ましくは10g/100g以下である。なお、上記は、水100gに対する当該親水性を有する溶剤の溶解度をgで示したものである。水に対する溶解度が高い場合は、抽出による溶媒の損失が大きくなると同時にヒドロキシカルボン酸と不飽和カルボン酸の分離も低下する。有機溶媒の有する適度な親水性としては、エーテル類、ケトン類、アルコール類の比較的親水性の高い溶剤から1,2−ジクロロエタンやキシレン等の親水性の低い溶剤まで使用可能である。
比較的親水性の高い溶媒を用いた場合は、ヒドロキシカルボン酸や不飽和カルボン酸の有機層への移動量が大きいため使用する溶媒の量が少なくてすむが、有機溶媒が水層に移行するため使用する有機溶媒の損失が大きくなり、親水性の低い溶媒を用いた場合は、必要とする有機溶媒が増加する反面、不飽和カルボン酸と、ヒドロキシカルボン酸の分離がよく充分な量の溶剤を用いることによりほとんど完全に分離でき、使用した溶媒の水層への移行も極めて小さく有機溶剤の損失が小さい利点がある。シクロへキサンやヘプタン等ほとんど極性のない有機溶媒は溶解度自体が極めて低いため効率が悪く、実用的ではない。
溶剤の種類は極めて多く、反応に供する不飽和カルボン酸や生成ヒドロキシカルボン酸によっても異なるため、特に好適な溶剤を特定するのは困難であるが、例えばアクリル酸の水和においては少なくともメチル−ターシャリーブチルエーテル、エチル−ターシャリーブチルエーテル、メチルイソブチルケトン等のカーボン数が3〜7のエーテルおよびケトン類が、水に対する溶解度が比較的低く、不飽和カルボン酸とヒドロキシカルボン酸の溶解度差が大きい上、溶解度自体も大きいため、好適に利用できる。この場合、不飽和カルボン酸が有機溶媒層に移行することになるが、メチル−ターシャリーブチルエーテルは沸点が55℃であり、蒸発潜熱も水より遥かに低いため、低エネルギーで除去可能である。
【0031】
上記抽出を行う反応液としては、水和反応後の反応液であればよく、水和反応後の反応液としては、水和反応が平衡に達した場合に限定されず、少なくとも一部の原料が水和反応をした状態であればよい。
【0032】
本発明における好適な例として、不飽和カルボン酸としてアクリル酸を用いて、ヒドロキシカルボン酸として3−ヒドロキシプロピオン酸(3HPA)を得る場合について、以下に詳述する。このような場合、下記反応式(2);
【0033】
【化1】

【0034】
が進行することになり、上記水和酸化物を触媒として使用することで、反応速度を向上させることができ、次いで、抽出溶剤としてメチル−ターシャリーブチルエーテル(MTBE)を用いてアクリル酸を抽出して再利用することにより、生産効率を高めることができる。また、得られた3HPAを還元することにより、汎用大型樹脂として期待されているポリメリメチレンテレフタレートの原料である1,3−プロパンジオールが得られる。
上記において、水和反応の後の反応液を抽出により分離しない場合、通常、未反応のアクリル酸が10%以上残ることになる。一方、極性が高く、水への溶解度が少ない溶剤であるMTBEを有機溶剤として使用して反応液を抽出により分離する場合、反応液相からアクリル酸を選択的に抽出できるため、アクリル酸をリサイクルすることができ、転化率を高めることができる。
上記反応における転化率としては、無触媒で水和反応をさせた場合、平衡反応であるために70〜80%が限度であるが、水和反応液に等量のMTBEを加えて1回抽出してアクリル酸を回収し、再利用するリサイクル運転を行った場合、投入したアクリル酸の90%以上にすることができる。抽出溶媒の量や回数を増やすことにより100%に近い転化率を達成することも可能である。
【発明の効果】
【0035】
本発明のヒドロキシカルボン酸の製造方法は、上述の構成よりなり、液相において不飽和カルボン酸の水和反応によりヒドロキシカルボン酸を効率よく得る方法を提供するものであり、水和酸化物を触媒として反応させることにより液相中での水と不飽和カルボン酸の反応速度を高め生産性を向上させ、さらに、未反応の不飽和カルボン酸を抽出によって回収して再度水和反応を行うことによって原料転化率を高められるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0037】
触媒の調製例
硝酸ジルコニル(ZrO(NO・2HO、関東化学社製)49.43gを純水1000mlに溶解し攪拌しつつ、ここに40gのアンモニア水(28〜30%)を200gに希釈して投入し、白色沈殿物を沈殿させた。純水を追加して2Lとした後1晩放置し、デカンテーションを4回、濾過を1回行って得られた固形物を再度純水に分散して2Lとした後デカンテーションを4回、濾過を1回行って166gの固形物を得た。この固形物を以後ケーキと呼ぶ。
【0038】
触媒A:ケーキ10gを室温で1週間放置して乾燥し、乾燥固形物を得た。これを乳鉢で粉砕し触媒Aを得た。熱天秤を用いてこの触媒の30℃から800℃までの減量率を測定したところ減量率は29%であり、また200℃のときの重量を基準とした200℃〜800℃の間の減量率は7%であった。また445℃付近に結晶化に伴うと考えられる鋭い発熱ピークが見られた。
【0039】
触媒B:ケーキ100gを80℃に保持した熱風乾燥機中で1晩乾燥し、乾燥固形物を得た。これを乳鉢で粉砕し触媒Bを得た。熱天秤を用いてこの触媒の30℃から800℃までの減量率を測定したところ減量率は17%であり、また200℃のときの重量を基準とした200℃〜800℃の間の減量率は7%であった。また445℃付近に結晶化の鋭い発熱ピークが見られた。
【0040】
触媒C:ケーキ10gを50gの純水に再分散してスラリーとした後、テフロン(登録商標)内筒付きステンレス製耐圧密閉容器に入れ、110℃で4日間熱処理を行った後、濾過、室温乾燥を行って乾燥固形物を得た。これを乳鉢で粉砕して触媒Cを得た。熱天秤を用いてこの触媒の30℃から800℃までの減量率を測定したところ減量率は28%であり、また200℃のときの重量を基準とした200℃〜800℃の間の減量率は7%であった。また445℃付近の発熱ピークは見られなかった。
【0041】
触媒D:ケーキ10gを50gの純水に再分散してスラリーとした後、テフロン(登録商標)内筒付きステンレス製耐圧密閉容器に入れ、200℃で24時間熱処理を行った後、濾過、室温乾燥を行って乾燥固形物を得た。これを乳鉢で粉砕して触媒Dを得た。熱天秤を用いてこの触媒の室温から800℃までの減量率を測定したところ減量率は7%であり、また200℃〜800℃の間の減量率は2%であった。また445℃付近の発熱ピークは見られなかった。
【0042】
触媒E:脱イオン水2400gを攪拌しつつチタンテトライソプロキシド361gを加えて、白色沈殿物を得た。濾過により沈殿物を回収し、ついで脱イオン水2Lを用いて洗浄して490gの固形物を得た。この固形物を80℃の乾燥機で乾燥した後粉砕して粉末とし、触媒Eを得た。熱天秤を用いてこの触媒の30℃から800℃までの減量率を測定したところ減量率は13%であり、また200℃のときの重量を基準とした200℃〜800℃の間の減量率は4%であった。
【0043】
触媒F:試薬(キシダ化学社製)のメタチタン酸(ベータ型)を触媒Fとして用い、実施例2と同様に反応を行った。結果を表1に記載した。この触媒Fの200℃での重量を基準とした200℃〜800℃の間の減量率は4%であった。
【0044】
触媒G:シリカゾル(日産化学工業社製、スノーテックスN SiO 20.3質量%含有)3.275gを水30mlに分散させ、スターラーで攪拌した。ここに硝酸ジルコニル水溶液(ZrOとして17.86質量%含有)7.7175gを添加し、1時間攪拌した後加熱して約10mlに濃縮した。濃縮液を80℃の乾燥機で乾燥した。この乾燥物を粉砕して粉末化した後、さらに400℃で熱処理を行い触媒Gを得た。この触媒Gの200℃での重量を基準として200℃〜800℃の間の減量率は2%であった。
【0045】
触媒H:シリカゾル(日産化学工業社製、スノーテックスN SiO 20.3質量%含有)4.242gを水30mlに分散させ、スターラーで攪拌した。ここにチタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業社製、1級、純度95%)4.298gを添加し、2時間攪拌した後加熱して約10mlに濃縮した。濃縮液を80℃の乾燥機で乾燥し、さらに粉砕して粉末化した後400℃で熱処理を行い触媒Hを得た。この触媒Hの200℃での重量を基準とした200℃〜800℃の間の減量率は2%であった。
【0046】
触媒I:水30mlをスリーワンモーターで攪拌しつつチタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業社製、1級、純度95%)2.991gを加え、さらに硝酸ジルコニル水溶液(ZrOとして17.86質量%含有)6.844gを添加して1時間攪拌した後加熱して約10mlに濃縮した。濃縮液を80℃の乾燥機で乾燥し、さらに粉砕して粉末化した後400℃で熱処理を行い触媒Iを得た。この触媒Iの200℃での重量を基準とした200℃〜800℃の間の減量率は3%であった。
【0047】
触媒J:触媒の調製例で得られた触媒B5gを焼成炉を用い800℃で焼成して触媒Jを得た。この触媒Jの200℃での重量を基準とした200℃〜800℃の間の減量率は0%であった。
【0048】
触媒K:硝酸アルミニウム(キシダ化学社製、Al(NO・9HO)69.38gを純水1000mlに溶解し攪拌しつつ、ここに40gのアンモニア水(28〜30%)を200gに希釈して投入し、白色沈殿物を沈殿させた。純水を追加して2Lとした後1晩放置し、デカンテーションを4回、濾過を1回行って得られた固形物を再度純水に分散して2Lとした後デカンテーションを4回、濾過を1回行って85gの固形物を得た。
【0049】
触媒 L:シリカゾル(日産化学工業社製、スノーテックスN SiO 20.3質量%含有)9.00gを水35mlに分散させ、スターラーで攪拌した。ここにアルミナゾル(日産化学工業社製、A−520 Al 21質量%含有)0.82gを添加し、1時間攪拌した後80℃のオイルバスで加熱して約10mlに濃縮した。濃縮液を80℃の乾燥機で乾燥し、さらに粉砕して粉末化した。
【0050】
触媒M:触媒Lを400℃で熱処理して触媒Mを得た。
【0051】
実施例1
外径8mmφ、内径6mmφ、長さ100mmのステンレス製チューブの片方を閉じた容器に触媒Aを0.1g入れ、20質量%のアクリル酸水溶液2.5mlを加えた後、両端共に封じて、140℃の熱風恒温槽中で5時間反応させた。得られた反応液を濾過して触媒を除き、内部標準を加えて高速液体クロマトグラフ装置により定量分析を行った。3−ヒドロキシプロピオン酸(3HPA)が25.5%の収率で得られた。
この反応液中のZr量をプラズマ発光分光分析装置((株)堀場製作所 ULTIMA)(IPC装置)を用いて測定したところ、12mg/Lであった。
【0052】
実施例2〜9
触媒Aの代わりに触媒B〜触媒Iを用いる以外は同じ反応条件で実施した結果を表1に示した。なお、実施例3及び4について、反応液中のZr量をプラズマ発光分光分析装置((株)堀場製作所 ULTIMA)を用いて測定したところ、触媒C(実施例3)では4mg/Lであり、触媒D(実施例4)では検出限界以下であった。
【0053】
比較例1
触媒を用いない以外は実施例1と同様にして反応及び評価を行った。結果を表1に示したが、触媒A〜Iの半分程度の収率しか得られなかった。
比較例2〜5
触媒Aの代わりに触媒J〜触媒Mを用いる以外は実施例1と同様にして反応及び評価を行った。結果を表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
比較例6〜17
触媒としてSi/Al比の異なるゼオリスト社製ZSM−5(比較例6〜10)、ゼオリスト社製Y型ゼオライト(比較例11)、ゼオリスト社製β型ゼオライト(比較例12)、ズードヘミー社製モルデナイト(比較例13)、UOP社製SAPO−11、SAPO−34、MCM−22(比較例14、15、16)を、触媒Aの代わりに用いて実施例1と同様に水和反応を行った。無触媒を明らかに上回る収率が得られたものはなく、むしろ無触媒よりも低収率となるものが多かった。また、ダウケミカル社製陽イオン交換樹脂(DOWEX 50W−X8)については120℃で60時間反応を行ったが、低い収率しか得られなかった(比較例17)。これらの結果を表2に示した。
【0056】
【表2】

【0057】
* :購入時NH4型であり500℃で焼成を行ってH型としてから反応に供した。
*2:反応条件は120℃×60時間
【0058】
実施例10
触媒Bを用い、触媒量を1.0gとした以外は実施例1と同様に反応及び反応液の分析を行った。54モル%の収率で3HPAを生成し、無触媒時の約5倍の生成量となった。
【0059】
実施例11
テフロン(登録商標)内筒付き200mLオートクレーブに触媒Bを2.4g、20質量%アクリル酸水溶液70mLを仕込み、攪拌を行いつつ160℃で6時間反応を行った。実施例1と同様に反応液を分析したところ62モル%の収率で3−ヒドロキシプロピオン酸が生成した。
【0060】
実施例12
上記触媒の調製例と同様に調製して得たケーキを80℃で乾燥後、軽く破砕したのちふるい分けすることにより粒径0.7mm〜2mmの砂状の触媒を得た。この触媒50mLを流通式反応器に充填し、140℃、空間速度(LHSV)0.2/時間で20質量%アクリル酸水溶液を通じた。反応液を実施例1と同様に分析したところ、55モル%の収率で3−ヒドロキシプロピオン酸が生成した。500時間反応を継続したが、有為な収率の変化は認められなかった。500時間反応後の触媒を抜き出して結晶構造を分析したところ単斜晶系を示した。
【0061】
実施例13
アクリル酸(AA)を6質量%、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HPA)を15質量%含有する水和反応液10mlを50mlサンプル管に入れ、ここにメチル−ターシャリーブチルエーテル10mlを加えて激しく振り混ぜた後、マグネティックスターラーで1.5時間激しく攪拌した。攪拌を停止したところ液は速やかに分離したが、さらに30分放置してから水層をスポイトで吸い取り分析を行った。実施例1の分析と同様にして高速液体クロマトグラフによりこの水層を分析したところ、アクリル酸1.5質量%、3−ヒドロキシプロピオン酸14.8質量%となり、水和反応液中のアクリル酸の75%が溶剤層に移行するのに対して、3−ヒドロキシプロピオン酸は1%程度しか移行せず、選択的にアクリル酸が回収できた。これはアクリル酸の転化率が70%である反応条件の水和反応液を抽出した場合、未反応アクリル酸30%×0.75=22.5%のアクリル酸を再利用できることになる。したがって、回収したアクリル酸を再利用するリサイクル運転を行った場合、投入したアクリル酸の90%以上を転化できることを意味する。
【0062】
実施例14〜17
抽出に用いる溶媒をメチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)に代えて、1,2−ジクロロエタン、ヘプタン、シクロヘキサン、キシレンを用いた以外は実施例13と同様にして抽出テストを行った。
【0063】
【表3】

【0064】
*有機層への移行率=(抽出前の水和反応液中の濃度−抽出後の水和反応液中の濃度)/抽出前の水和反応液中の濃度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸を液相で水和する工程によりヒドロキシカルボン酸を製造する方法であって、
該製造方法は、水和酸化物の存在下に液相水和工程を行う
ことを特徴とするヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
前記水和酸化物が、Zr、Ti、Hf、Sn及びNbのうち少なくとも1種の金属を含有するものであることを特徴とする請求項1記載のヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項3】
不飽和カルボン酸を液相で水和する工程によりヒドロキシカルボン酸を製造する方法であって、
該製造方法は、水和反応後の反応液を有機溶剤で抽出して未反応の不飽和カルボン酸を回収する工程を含むことを特徴とするヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項4】
前記回収工程は、不飽和カルボン酸を有機溶媒に抽出し再度水和反応を行うことを特徴とする請求項3記載のヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項5】
前記不飽和カルボン酸は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を必須とすることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のヒドロキシカルボン酸の製造方法。


【公開番号】特開2006−131566(P2006−131566A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323525(P2004−323525)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】