説明

ヒートポンプシステム

【課題】 従来の限界を超えて伝熱効率を向上させた、固気混相流によるヒートポンプシステムを提供する。
【解決手段】 受熱部と放熱部の間を伝熱媒体として固気混相流が循環するヒートポンプシステムにおいて、
伝熱媒体は、反応式:A(g)+B(s)⇔C(s)+ΔHで表される反応の反応物質:気体A、固体Bの粒子、固体Cの粒子、および搬送気体Gから成り、ただし、
受熱部では反応熱ΔHの吸収を伴う反応式左向きの反応により固体Cから気体Aと固体Bに分解し、これにより実質的に気体Aおよび固体Bと搬送気体Gとから成る固気混相流が循環経路を受熱部から放熱部へ進行し、
放熱部では反応熱ΔHの放出を伴う反応式右向きの反応により気体Aと固体Bが結合して固体Cとなり、これにより実質的に固体Cと搬送気体Gとから成る固気混相流が循環経路を放熱部から受熱部へ進行する、
ことを特徴とするヒートポンプシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝熱媒体として固気混相流を用いたヒートポンプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1に開示されているように、伝熱媒体として固気混相流を利用したヒートポンプが提案されている。伝熱媒体として液相を用いたヒートポンプに比べて大幅に軽量化できるという利点がある。伝熱媒体として気相のみを用いると、配管内壁に気相の不動層が形成され、伝熱媒体の輸送が妨げられ伝熱効率が低下する。固気混相流は、気相中に固相(主として粒子)を混合することにより、配管内壁の不動層を撹乱・破壊することができる。そのため、より多くの伝熱媒体を輸送でき、かつ固相自体も熱容量を持つため、気相のみのヒートポンプに比べて格段に伝熱効率が高い。
【0003】
しかしながら、例えば自動車搭載用途のような設置空間が小さい場合には、確保できるシステム体格が限られるため、更に高い伝熱効率が求められる。
【0004】
固気混相流を利用したヒートポンプシステムにおける熱輸送は、伝熱媒体である気相と固相の顕熱に基づいており、媒体の単位体積当たり輸送できるエネルギー密度は小さい。前出の特許文献1等には、熱効率を高めるための種々の工夫がなされているが、いずれも、内部に装入する熱交換器の形状を改良したり、固相粒子による混合撹乱作用を改良するものが主であり、伝熱効率の向上に限界があった。
【0005】
一方、液相と固相を組み合わせて利用したヒートポンプシステムとして、特許文献2には反応熱を繰り返し得る化学発熱装置が開示されている。固相としてアルカリ土類金属酸化物を充填した反応器に液相として水を循環させ、水和反応による発熱を利用する。固相である酸化物は循環せず、液相である水のみが循環する。循環する伝熱媒体が液相のみであり、気相と固相との混相流を伝熱媒体として循環させるヒートポンプシステムとは構成も作用効果も全く異なる。
【0006】
また、特許文献3には、固相である水素吸蔵合金と気相である水素を組み合わせたヒートポンプを利用した加熱・冷却システムが開示されている。しかし、ヒートポンプ自体の構成については何ら具体的な説明がなく、固気混相流によるヒートポンプシステムについては全く示唆するところがない。
【0007】
【特許文献1】特許第2690172号
【特許文献2】特開平7−180539号公報
【特許文献3】特開昭63−280817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の限界を超えて伝熱効率を向上させた、固気混相流によるヒートポンプシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、受熱部と放熱部の間を伝熱媒体として固気混相流が循環するヒートポンプシステムにおいて、
伝熱媒体は、反応式:A(g)+B(s)⇔C(s)+ΔHで表される反応の反応物質:気体A、固体Bの粒子、固体Cの粒子、および搬送気体Gから成り、ただし、
受熱部では反応熱ΔHの吸収を伴う反応式左向きの反応により固体Cから気体Aと固体Bに分解し、これにより実質的に気体Aおよび固体Bと搬送気体Gとから成る固気混相流が循環経路を受熱部から放熱部へ進行し、
放熱部では反応熱ΔHの放出を伴う反応式右向きの反応により気体Aと固体Bが結合して固体Cとなり、これにより実質的に固体Cと搬送気体Gとから成る固気混相流が循環経路を放熱部から受熱部へ進行する、
ことを特徴とするヒートポンプシステムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、伝熱媒体の顕熱に加えて、伝熱媒体の構成成分である気体A、固体B、固体Cの上記反応による反応熱ΔH(潜熱)をも利用するので、顕熱のみによる従来技術に比べて輸送熱量を格段に増加させることができ、従来の限界を超えて伝熱効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔実施形態1〕
図1に、本発明によるヒートポンプシステムの基本構成を示す。図示したヒートポンプシステム100は、受熱部10と放熱部12とが循環経路14によって連結されており、循環経路14内を伝熱媒体16が受熱部10から放熱部12へ矢印Xのように流れ、放熱部12から受熱部10へ矢印Yのように流れて、全体として時計回りに循環している。
【0012】
伝熱媒体16は、反応式:A+B⇔C+ΔHで表される反応の反応物質:気体A、固体Bの粒子、固体Cの粒子、および搬送気体Gから成る固気混相流である。
【0013】
受熱部10では吸熱ΔHを伴う反応式左向きの吸熱反応により固体Cから気体Aと固体Bに分解する。その結果、実質的に気体Aおよび固体Bと搬送気体Gとから成る固気混相流が循環経路14を受熱部10から放熱部12へ矢印Xのように進行する。
【0014】
放熱部12では発熱ΔHを伴う反応式右向きの発熱反応により気体Aと固体Bが結合して固体Cとなる。その結果、実質的に固体Cと搬送気体Gとから成る固気混相流が循環経路14を放熱部12から受熱部10へ矢印Yのように進行する。
【0015】
ここで「実質的に」とした意味は下記のとおりである。
【0016】
すなわち、反応式の両辺にあるCとA+Bとの存在比Rは、反応の平衡定数によって決まる0≦R≦1の範囲にある。したがって、R=0やR=1すなわちCのみが存在する状態やA+Bのみが存在する状態だけでなく、0<R<1すなわちA、B、Cが全て存在する状態も含んでいる。ただし実用的には、R≒0やR≒1すなわち「実質的に」Cのみの状態や「実質的に」A+Bのみの状態になるように、受熱部10、放熱部12の使用温度とA、B、Cの反応物質との組合せを適宜選定してシステムを稼動させる。
【0017】
ヒートポンプシステム100の始動に際しては、駆動ポンプ18により伝熱媒体16の時計回りの循環を開始させる。始動前の状態では、受熱部10に入った伝熱媒体16は熱Q1を付与されて、C+ΔH⇒A+Bの吸熱反応により、実質的に気体A+固体B+搬送気体Gから成る固気混相流〔A+B+G〕となる。受熱部10から出た伝熱媒体16はX方向の固気混相流として放熱部12に向かう。放熱部12に入った伝熱媒体16はA+B⇒C+ΔHの発熱反応により熱Q2を放出し、実質的に固体C+搬送気体Gから成る固気混相流〔C+G〕となる。以下、同様のプロセスを繰り返して伝熱媒体16が受熱部10と放熱部12との間を循環して、受熱部10から放熱部12へ熱輸送する。100×{1−(Q1−Q2)/Q1}が伝熱効率(%)となる。
【0018】
このように本発明のヒートポンプシステム100においては、伝熱媒体16の顕熱に加えて反応熱ΔHをも熱輸送するので、顕熱のみが熱輸送される従来のヒートポンプシステムに比べて格段に伝熱効率が向上する。
【0019】
表1に、本発明に用いる固気反応系:A+B⇔C+ΔHの選択例を示す。反応類型は表中に分類を示した。反応類型や個々の反応系は表1に示したものに限定する必要はない。
【0020】
なお、表1の反応式の欄には、C(s)⇔B(s)+A(g)の形で示してある。
【0021】
表1に示した個々の反応系は、(1)受熱部10の温度域が反応温度と重なるか、(2)反応熱ΔHは大きいか、を考慮して選択した。
【0022】
分解反応でHOが生成する反応系の場合には、循環経路14の少なくとも内壁面について特に耐食性を考慮することが望ましい。
【0023】
【表1】

【0024】
本発明に用いる搬送気体(キャリアガス)Gは、本発明の固気混相流の反応に関与せずそれ自体も反応しない安定なガスが適している。このように不活性なガスとしては、窒素ガスが性質およびコストの両面から望ましい。
【0025】
図1に示したヒートポンプシステム100は例えば下記の構成とすることができる。
【0026】
<ヒートポンプシステム100の具体例>
受熱部10:500℃、ラジェータ形状
放熱部12:室温(0〜30℃)、ラジェータ形状
循環経路14:配管材質 SUS310ステンレス鋼
配管内圧力 0.1MPa
固気反応系:MgH(s)⇔Mg(s)+H(g)
〔 C(s) ⇔B(s)+A(g)〕
気体:反応性気体A H
搬送気体G N
:H=8:2(モル比)
固体:固相B Mg粒子500g、粒径50nm
【0027】
本発明のヒートポンプシステム100は、任意に逆止弁20を用いて有利な作動を行なうことが可能である。すなわち、伝熱媒体16の循環が定常状態に達したら、循環経路14内の圧力差を利用することにより、駆動ポンプ18による駆動なしに、または駆動を軽減して、循環を継続することができる。
【0028】
循環経路14内の伝熱媒体16の圧力は、A(g)+B(s)⇔C(s)の反応式において、気体Aが存在する左辺の組成の場合すなわち受熱部10から放熱部12に向かうX方向の固気混相流〔A+B+G〕(図中の上半分)で相対的に高く、気体が存在しない右辺の組成の場合すなわち放熱部12から受熱部に向かうY方向の固気混相流〔C+G〕(図中の下半分)で相対的に低い。このように、伝熱媒体16は、X方向の固気混相流〔A+B+G〕がY方向の固気混相流〔C+G〕より相対的に圧力が高い。
【0029】
このように圧力差が存在する状況下において、図1に示すように循環経路14の途中に逆止弁20を挿入して、時計回りの流れのみを可能とする。そして、駆動ポンプ18を例えば開放状態(自由流通状態)にすると、高圧の〔A+B+G〕(図の上半分)から低圧の〔C+G〕(図の下半分)へ時計回りに循環が継続する。
【0030】
逆止弁20は、図1の例では受熱部10から放熱部12へ向かうX方向の固気混相流〔A+B+G〕の途中に挿入したが、この位置に限定する必要はなく、循環経路14のどの位置でもよく、複数個配設しても良い。
【0031】
逆止弁20は、上記のように圧力差を利用する場合には必要であるが、そうでなければ必要ない。
【0032】
〔実施形態2〕
本発明の固気反応系:A(g)+B(s)⇔C(s)+ΔHにおいて、固相Bの粒径は10nm〜20nmであることが望ましい。
【0033】
<望ましい粒径の上限を20nmとする理由>
図2に、粒子径と比表面積との関係の一例としてPd粒子の場合を示す。
【0034】
このように、粒径が20nmを超える粒子は比表面積が100m/g未満であるため、反応速度が小さい。そのため、循環流が受熱部・放熱部を通過する時間内に反応完了しない未反応の割合が大きくなり、その分だけ反応熱ΔHが小さくなる。その結果、ヒートポンプシステムとしての伝熱性能が低下する。
【0035】
<望ましい粒径の下限を10nmとする理由>
固相Bの粒子の粒径が10nm未満になると、サイズ効果により比熱が低下し、結果としてヒートポンプシステムの伝熱性能が低下する。
【0036】
すなわち、粒径10nm未満の微粒子は、伝導電子の量子的エネルギー順位の差が、低い温度では熱エネルギーkT(Tは絶対温度)よりも大きく、また1個の微粒子から電子1個を奪い又は余分に与えるための仕事が熱エネルギーkTよりも遥かに大きいため、微粒子集団の比熱がバルク体と比べて著しく低い(いわゆる「久保効果」)。そのため、固相Bの粒径が10nm未満になると顕熱を有効に利用できなくなり、その分だけ、ヒートポンプシステムの伝熱性能が低下する。
【0037】
以上の理由により、顕熱と反応熱(潜熱)とを同時に効率良く利用するには、固相Bの粒子の粒径は10nm〜20nmの範囲内とすることが望ましい。
【0038】
〔実施形態3〕
図3(1)に、本発明によるヒートポンプシステムの望ましい一実施形態を示す。図示したヒートポンプシステム110は、図1に示した実施形態1の基本構成に加えて、固相粒子に電荷を付与するための帯電手段を備えた点が特徴である。すなわち、固気混相流〔A+B+G〕の固相Bの粒子に電荷を付与するための帯電手段22Aと、固気混相流〔C+G〕の固相Cの粒子に電荷を付与するための帯電手段22Bのうち、一方または両方を備えている。
【0039】
一般に固相Bの粒子同士、あるいは固相Cの粒子同士は、ファンデルワールス力で相互に引き合っているため、凝集し易い。特に粒径がμmオーダー、nmオーダーになると凝集する傾向が著しくなる。粒子同士の凝集が起きると、実効的な比表面積が小さくなり、顕熱および反応熱の両面で伝熱効率の低下を招く。更に、循環経路14が凝集した粒子により狭くなったり、詰まったりしてしまい、ヒートポンプシステムとして作動不良あるいは作動停止してしまう。
【0040】
本実施形態においては、循環経路14に帯電手段22Aおよび22Bの少なくとも一方を配備し、固気混相流〔A+B+G〕の固相粒子Bおよび固気混相流〔C+G〕の固相粒子Cの少なくとも一方に電荷を付与する。これにより、固相粒子B同士および固相粒子C同士の少なくとも一方にファンデルワールス力に打ち勝つ斥力としてクーロン力を付与する。その結果、粒子B同士の凝集および粒子C同士の凝集の少なくとも一方を防止できる。望ましくは、帯電手段22Aおよび22Bを両方配備することにより、粒子B同士の凝集および粒子C同士の凝集を両方とも防止する。
【0041】
帯電手段22A、22Bに用いる帯電手段としては、コロナ放電を用いることができる。図3(2)にコロナ放電による帯電処理の原理を示す。同図は、受熱部10から放熱部12へ向かうX方向の固気混相流〔A+B+G〕が流れる循環経路(配管)14に帯電手段22Aを挿入した状態を示す。帯電手段22Aは、直流高電圧Dを印加された針状の正極E1と平板状の負極E2との間に生成されたコロナ放電域L中を固相粒子Bが通過することにより+に帯電される。
【0042】
これは、放熱部12から受熱部10へ向かうY方向の固気混相流〔C+G〕が流れる循環経路(配管)14に挿入した帯電手段22Bにより固相粒子Cが帯電される場合も同様である。
【0043】
〔実施形態4〕
実施形態3において固相粒子B、Cを帯電させた場合、循環経路14を構成する配管を絶縁体で作製するか、少なくとも配管14の内壁を絶縁体で形成することが望ましい。
【0044】
図4(1)に示すように、例えば+電荷を付与された粒子Pは互いにクーロン力による斥力Rを作用し合っており、凝集しない。しかし、一般に配管14は耐熱性、加工性の観点から鉄あるいはステンレス鋼等の金属製であり導電性を有するので、粒子Pが矢印Mのように配管14の内壁面Sに接触すると放電して、図4(2)に示すように+電荷を失う。その結果、クーロン力による粒子P間の斥力Rが失われ、再びファンデルワールス力Fにより引き合って凝集が発生する。
【0045】
これに対して本実施形態においては、図5(1)に示すように、配管14は金属製の外管14Aの内壁に絶縁体層14を形成してある。帯電粒子Pが矢印Mのように配管14の内壁面Sに接触しても、内壁面Sは絶縁体層14Bの表面であるため放電が起きることがなく、図5(2)に示すように+電荷を維持した状態が確保され、クーロン力による粒子間に斥力Rが作用し合った状態が保たれ、凝集が防止される。
【0046】
本実施形態の配管構造は、鉄やステンレス鋼の配管本体14Aの内壁面にアルミナ等の絶縁体層14Bを被覆することにより形成できる。絶縁体層14Bの材質としては、絶縁性とともに、耐食性、耐熱性を備えていることが望ましい。この点でアルミナ、コージェライト等のセラミック材料が適している。
【0047】
〔実施形態5〕
図6に、本発明によるヒートポンプシステムの望ましい他の実施形態を示す。図示したヒートポンプシステム120は、図1に示した実施形態1の基本構成のうち、駆動ポンプ18に代えてコンプレッサー(加圧器)24を配備し、逆止弁20は用いていない。
【0048】
本発明の固気反応系において、常温における反応の平衡圧が大気圧付近である場合、放熱部12の入口T1から受熱部10の入口T2までの区間Wの循環経路14内を加圧下に保持することが有利である。この加圧は、放熱部12の入口より手前に挿入したコンプレッサー24により行なう。
【0049】
常温で平衡圧が大気圧付近である反応:A+B⇔Cの場合、放熱部の温度が高くなると平衡圧が上昇し、反応(→)が進行しなくなる。例えば気相AとしてH、固相BとしてLaNiを選択した場合を想定する。これは前出の表1中で「水素化型」の一つであり、反応式:3H+LaNi⇔LaNiで表される。この反応の平衡圧は、温度10℃では1〜2気圧(ほぼ大気圧)であるが、温度が50℃に上がると6〜7気圧まで上昇する。したがって、外気温50℃で放熱部12から放熱する状況では、LaNiへの結合反応は進行せず、この反応による発熱ΔHも生じないので、反応熱を有効に利用できず、顕熱+反応熱の合計から期待される伝熱性能が得られない。
【0050】
これに対処するために本実施形態では、反応系3H+LaNi⇔LaNiを加圧下に保持することにより、昇温により上昇した平衡圧に打ち勝って反応(→)を進行させてLaNi(固相C)の生成を促進し、反応熱ΔHの効率的な利用を可能とし、高い伝熱効率を達成する。
【0051】
このように、本実施形態によれば、放熱部12の使用温度域を高温側へ拡張したヒートポンプシステムを提供できる。
【0052】
図6に示したヒートポンプシステム120は例えば下記の構成とすることができる。
【0053】
<ヒートポンプシステム120の具体例>
○反応系 3H+LaNi⇔LaNi
気相A: H
固相B: LaNi
固相C: LaNi
○受熱部10入口〜放熱部12入口の区間
配管内径:φ10mm
管内圧力:2気圧
○放熱部12入口〜受熱部入口の区間(W)
配管内径:φ5mm
管内圧力:4気圧
【0054】
〔実施形態6〕
図7(1)に、本発明によるヒートポンプシステムのもう一つの望ましい実施形態を示す。図示したヒートポンプシステム130は、図1に示した実施形態1の基本構成に下記の構成を付加して、蓄熱機能を付与したものである。
【0055】
すなわち、固気混相流〔A+B+G〕がX方向に流れる循環経路14の途中に分離手段26を設けて、気相A(+搬送気体G)と固相Bを分離し、気相A+Gは循環経路14の分離手段26と放熱部12との間に挿入した気相タンク30に貯蔵し、固相Bは循環経路14から分岐した配管32を介して固相タンク34に貯蔵する。気相タンク30はバルブ40と駆動ポンプ18を介して循環経路14により放熱部12に接続し、固相タンク34はバルブ38を介して配管36により放熱部12に接続している。
【0056】
このように反応物質である気相Aと固相Bとを分離して貯蔵し、必要に応じてバルブ38、40を開放してそれぞれ放熱部12に導入することにより、A+B→C+ΔHの反応をさせて発熱のタイミングを制御することができる。例えば、自動車に搭載した場合、エンジンからの排ガスの熱を受け取れる位置に受熱部10を配設し、自動車用エアコン、搭乗者用シート、エンジンオイル、冷却水等を加熱できる位置に放熱部12を配設する。そして、始動時など上記の部位を加熱したいときに、バルブ38、40を開いてAとBを反応させれば、顕熱+反応熱ΔHを利用できるので、顕熱のみを用いる場合に比べて加熱速度を高めることができる。
【0057】
このように本実施形態によれば、伝達すべき熱の一部を反応熱ΔHの形で蓄熱できる。
【0058】
分離手段26としては、フィルター、遠心分離機等を用いることができる。図7(2)に分離手段26としての遠心分離機の概念図を示す。図示した遠心分離機50は、下向き円錐形の回転胴52の回転軸54の位置に、分離前の固気混相流〔A+B+G〕の流入管56、分離後の気相〔A+G〕の流出管58、および分離後の固相〔B〕の流出管60が、回転胴52に対して気密摺動状態に配設されている。すなわち、回転胴52は管56、58、60と気密係合を維持しながら、これらに拘束されずに回転できる。固気混相流の流入管56と気相の流出管54とは同軸状に配置されている。
【0059】
下向き円錐状回転胴52に上方から流入した固気混相流〔A+B+G〕は、回転胴52の回転により回転駆動され、重い固相〔B〕は遠心力で回転胴52の外周壁に当たって下方へ落下し、流出管60から下方へ流出する。同時に、軽い気相〔A+G〕は遠心力の影響を実質的に受けずに回転胴52の中心にある流出管54から上方へ流出する。これにより気相部分〔A+G〕と固相部分〔B〕が分離され、それぞれ気相タンク30、固相タンク34へ適当な配管により導かれる。
【0060】
なお、放熱部12は、気相タンク30、固相タンク34のいずれか一方と兼ねた構成とすることもできる。
【0061】
〔実施形態7〕
実施形態6において分離手段26としてフィルターを用いる場合に、このフィルターを固相粒子Bの帯電極性と同極性に帯電させておくことが望ましい。
【0062】
固相粒子Bをフィルターで分離する場合、固相粒子Bはフィルター表面で凝集し捕獲されてしまい、伝熱媒体が減少して伝熱効率が低下するだけでなく、フィルターの孔が目詰まりを起こし、気相A、Gが透過せず、結果としてシステムが作動できないという問題があった。これはフィルター孔において気体Aが固体Bを押し付ける力が、帯電した固相粒子B同士のクーロン力による斥力を上回っているからである。本実施形態はこの問題に対処するための手段を提供する。
【0063】
図8に、本実施形態による循環経路14の分離手段26付近のみを拡大して示す。循環経路14から分岐した配管32が固相タンク34(図7(1))に接続している。循環経路14、分岐路32はそれぞれステンレス鋼製の配管本体14A、32Aの内壁にアルミナ絶縁層14B、32Bが形成されている。分離手段としてのフィルター26は、循環経路14内壁のアルミナ絶縁層14Bに固定されており、配管本体14Aから絶縁されており、外部の直流電源Dにより接地電位に対して+電位が印加されている。
【0064】
図の左から、+帯電した固相粒子Bを含む固気混相流〔A+B+G〕が流入する。固相粒子Bは同極性に帯電しているフィルター26から斥力を受けるので凝集・捕獲が起きることなく分離されて分岐路32へ進行し、フィルター26を透過した気相A+Gのみが循環経路14を進行する。
【0065】
これにより、伝熱媒体の減少もフィルターの目詰まりも起こすことなく、反応性気体Aと固体粒子Bとを確実に分離できる。
【0066】
なお、上記の例では固相粒子Bが+に帯電させてあるため、これに対応してフィルター26を接地電位に対して+に印加した。固相粒子Bが−に帯電させてある場合には、もちろんフィルター26にもこれに対応して−電位を印加する。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、顕熱と反応熱とを利用したことにより、顕熱のみを利用した従来のヒートポンプシステムの限界を超えて伝熱効率を向上させた、固気混相流によるヒートポンプシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の基本構成を備えた実施形態によるヒートポンプシステムを示す配置図である。
【図2】固相粒子Pdの粒子径と比表面積との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の望ましい実施形態により(1)帯電手段を備えたヒートポンプシステムを示す配置図および(2)帯電手段付近の拡大断面図である。
【図4】帯電粒子と導電性の配管内壁との接触により電荷を失う過程を模式的に示す断面図である。
【図5】帯電粒子と絶縁性の配管内壁との接触により電荷を維持する過程を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の望ましい実施形態により放熱部入口から受熱部入口の区間を加圧できるヒートポンプシステムを示す配置図である。
【図7】本発明の望ましい実施形態により(1)反応性気体Aと固相粒子Bとを分離して貯蔵する蓄熱型ヒートポンプシステムを示す配置図および(2)上記分離に用いる遠心分離機の構成例を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の望ましい実施形態により反応性気体Aと固相粒子Bとを分離するためのフィルターに、固相粒子Bの帯電極性と同じ極性に帯電させるための構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0069】
100、110、120、130 ヒートポンプシステム
10 受熱部
12 放熱部
14 循環経路
14A 循環経路14の金属製外管
14B 循環経路14の内壁を構成する絶縁体層
16 伝熱媒体
18 駆動ポンプ
20 逆止弁
22A、22B 帯電手段
24 コンプレッサー(加圧器)
26 分離手段
30 気相タンク
32 分岐配管
34 固相タンク
36 配管
38 バルブ
40 バルブ
50 遠心分離機
52 回転胴
54 回転軸
56 流入管
58 流出管
60 流出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受熱部と放熱部の間を伝熱媒体として固気混相流が循環するヒートポンプシステムにおいて、
伝熱媒体は、反応式:A(g)+B(s)⇔C(s)+ΔHで表される反応の反応物質:気体A、固体Bの粒子、固体Cの粒子、および搬送気体Gから成り、ただし、
受熱部では反応熱ΔHの吸収を伴う反応式左向きの反応により固体Cから気体Aと固体Bに分解し、これにより実質的に気体Aおよび固体Bと搬送気体Gとから成る固気混相流が循環経路を受熱部から放熱部へ進行し、
放熱部では反応熱ΔHの放出を伴う反応式右向きの反応により気体Aと固体Bが結合して固体Cとなり、これにより実質的に固体Cと搬送気体Gとから成る固気混相流が循環経路を放熱部から受熱部へ進行する、
ことを特徴とするヒートポンプシステム。
【請求項2】
請求項1において、固体Bの粒子は粒径が10nm〜20nmであることを特徴とするヒートポンプシステム。
【請求項3】
請求項1または2において、固体Bおよび固体Cのうち少なくとも一方の粒子に電荷を付与する帯電手段を備えていることを特徴とするヒートポンプシステム。
【請求項4】
請求項3において、循環経路を構成する配管は少なくとも内壁が絶縁体から成ることを特徴とするヒートポンプシステム。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項において、放熱部の入口から受熱部の入口までの循環経路内の圧力を、反応式における右向きの反応による気体Aと固体Bとの結合反応の平衡圧よりも高く維持することを特徴とするヒートポンプシステム。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項において、
循環経路の途中に気体Aと固体Bとを分離する分離手段、および
分離された気体Aと固体Bとを別々に貯留するタンク
を備えたことを特徴とするヒートポンプシステム。
【請求項7】
請求項6において、分離手段がフィルターであることを特徴とするヒートポンプシステム。
【請求項8】
請求項7において、フィルターが固体Bと同極性に帯電していることを特徴とするヒートポンプシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−113868(P2007−113868A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306947(P2005−306947)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)