説明

ヒートポンプシステム

【課題】簡単でありながらも従来よりも高COP運転が可能となる各圧縮機の制御構成を有するヒートポンプシステムを提供する。
【解決手段】ヒートポンプシステム100が、前記水の温度を測定する第1温度センサT1と、外気温を測定する第2温度センサT2と、前記カスケードコンデンサ2における高段側冷媒の蒸発温度を測定する第3温度センサT3と、を更に備え、前記圧縮機制御部5が、前記第1温度センサT1で測定される水温と、目標出湯温度との偏差が小さくなるように前記高段側圧縮機31を制御するとともに、前記第3温度センサT3で測定される高段側冷媒の蒸発温度と、前記水温及び前記第2温度センサT2で測定される外気温に基づいて設定される目標蒸発温度との偏差が小さくなるように前記低段側圧縮機11を制御するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房や給湯のために用いられるヒートポンプシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、給湯や暖房のために水をヒートポンプサイクルにより加熱する事が行われている。例えば、特許文献1に示されるようなヒートポンプシステムでは、高温での出湯を効率よく行うために低段側サイクルと高段側のサイクルをカスケードコンデンサで連結したものが用いられている。ここで、前記カスケードコンデンサは低段側サイクルについては凝縮器として働き、高段側サイクルについては蒸発器としての機能を発揮するものである。
【0003】
このように構成することで、1つのヒートポンプサイクルを用いた場合に比べて、水を高温に加熱する用途であってもCOPを向上させることが可能となる。
【0004】
より具体的な各サイクルの制御方法の一例を挙げると、特許文献1に示されるようなヒートポンプシステムでは、低段側サイクルの低段側圧縮機はカスケードコンデンサに流入する高段側冷媒の圧力が常に一定となるようにその吐出容量又は駆動周波数が制御されているとともに、高段側サイクルの高段側圧縮機は目標出湯温度となるようにその吐出容量又は駆動周波数が制御されている。
【0005】
しかしながら、上述したような従来用いられている各圧縮機の制御方法及び制御構成では、前記ヒートポンプシステムに対して求められている更なるエネルギー効率の改善を実現することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−196952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は上述したような問題を鑑みてなされたものであり、簡単でありながらも従来よりも高COP運転が可能となる各圧縮機の制御構成を有するヒートポンプシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明のヒートポンプシステムは、低段側圧縮機、カスケードコンデンサ、低段側膨張弁、低段側エバポレータの順で低段側冷媒が循環するように構成された低段側サイクルと、高段側圧縮機、高段側コンデンサ、高段側膨張弁、前記カスケードコンデンサの順で高段側冷媒が循環するように構成された高段側サイクルと、前記低段側圧縮機と、前記高段側圧縮機を制御する圧縮機制御部と、を備え、前記低段側エバポレータにおいて前記低段側冷媒が外気から吸熱し、前記カスケードコンデンサにおいて前記低段側冷媒の放熱により前記高段側冷媒が加熱され、前記高段側コンデンサにおいて前記高温冷媒の放熱により水が加熱されるように構成されたヒートポンプシステムであって、前記ヒートポンプシステムが、前記水の温度を測定する第1温度センサと、外気温を測定する第2温度センサと、前記カスケードコンデンサにおける高段側冷媒の蒸発温度を測定する第3温度センサと、を更に備え、前記圧縮機制御部が、前記第1温度センサで測定される水温と、目標出湯温度との偏差が小さくなるように前記高段側圧縮機を制御するとともに、前記第3温度センサで測定される高段側冷媒の蒸発温度と、前記水温及び前記第2温度センサで測定される外気温に基づいて設定される目標蒸発温度との偏差が小さくなるように前記低段側圧縮機を制御するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、従来常に一定となるように制御されていた高段側冷媒の蒸発温度を現在の出湯温度と現在の外気温に基づいて逐次変更するように構成されているので、使用条件に合わせて運転効率を最適化することができる。
【0010】
また、第1温度センサ及び第2温度センサは従来からヒートポンプシステムの制御を行うために用いられているものであり、新たに第3温度センサを設けて高温側冷媒の蒸発温度をモニタリングするだけで、高COP運転が可能となるため、制御構成の複雑化を防ぐことができる。
【0011】
さらに、前記低段側圧縮機は高温側冷媒の蒸発温度、すなわち、中間圧力のみを制御しており、前記高段側圧縮機は出湯温度のみをそれぞれ独立に制御しているので制御則も簡単なものにできる。
【0012】
なお、上述したような水温と外気温に基づいて目標蒸発温度を逐次変更するという構成は、本願発明者が鋭意研究の結果、前述したパラメータが変化すると高COPを実現する最適な蒸発温度、中間圧力が変化していくという従来知られていなかった現象を見出したことにより初めてなされたものである。
【0013】
目標蒸発温度を簡単に逐次変更するための具体的な構成としては、水温と、外気温の組み合わせごとに目標蒸発温度を記憶した目標蒸発温度記憶部を更に備え、前記圧縮機制御部が、前記第1温度センサで測定された水温と前記第2温度センサで測定された外気温に基づいて前記前記目標蒸発温度記憶部に記憶されている目標蒸発温度を取得するように構成されたものであればよい。このようなものであれば、水温と、外気温から定まる使用条件ごとに最もCOPが高くなる蒸発温度を実験的に予め取得しておき、その実験結果に基づいて簡単に最適制御を行うことができる。
【0014】
本発明と同等の効果を得られる別のヒートポンプシステムとしては、低段側圧縮機、カスケードコンデンサ、低段側膨張弁、低段側エバポレータの順で低段側冷媒が循環するように構成された低段側サイクルと、高段側圧縮機、高段側コンデンサ、高段側膨張弁、前記カスケードコンデンサの順で高段側冷媒が循環するように構成された高段側サイクルと、前記低段側圧縮機と、前記高段側圧縮機を制御する圧縮機制御部と、を備え、前記低段側エバポレータにおいて前記低段側冷媒が外気から吸熱し、前記カスケードコンデンサにおいて前記低段側冷媒の放熱により前記高段側冷媒が加熱され、前記高段側コンデンサにおいて前記高温冷媒の放熱により水が加熱されるように構成されたヒートポンプシステムであって、前記ヒートポンプシステムが、前記水の温度を測定する第1温度センサと、外気温を測定する第2温度センサと、前記カスケードコンデンサにおける高段側冷媒の圧力を測定する圧力センサと、を更に備え、前記圧縮機制御部が、前記第1温度センサで測定される水温と、目標出湯温度との偏差が小さくなるように前記高段側圧縮機を制御するとともに、前記圧力センサで測定される高段側冷媒の圧力から換算される蒸発温度と、前記水温及び前記第2温度センサで測定される外気温に基づいて設定される目標蒸発温度との偏差が小さくなるように前記低段側圧縮機を制御するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明のヒートポンプシステムによれば、加熱される水温と外気温の組み合わせに応じて、高温側冷媒の蒸発温度を最もCOPが高くなる値に変更することができ、従来のヒートポンプシステムよりもエネルギー効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るヒートポンプシステムの構成を示す模式図。
【図2】同実施形態における制御機構の構成を示す機能ブロック図。
【図3】同実施形態における各サイクルのT−S線図上の動作を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1に示すように本実施形態のヒートポンプシステム100は、例えば給湯や暖房のために用いられるものであり、特に80℃の高温のお湯を出湯する事が可能なように構成してある。
【0019】
前記ヒートポンプシステム100は、それぞれ冷媒特性の異なる低段側サイクル1と高段側サイクル3を1つのカスケードコンデンサ2で連結した、いわゆるカスケードサイクルである。すなわち、前記ヒートポンプシステム100は、室外に設けられる低段側サイクル1と室内に設けられる高段側サイクル3と各部の制御を行う制御機構を備えている。そして、前記高段側サイクル3を構成する高段側コンデンサ33と、暖房給湯端末41との間には水の流路4が形成してあり、流路4中に設けてあるポンプにより、必要な量の水が前記高段側コンデンサ33へと流入して加熱されお湯となるようにしてある。なお、本明細書では水とは冷水及び温水を含む概念として記述しており、水温Tもいわゆる湯温の概念を含むものである。
【0020】
各部について説明する。
【0021】
前記低段側サイクル1は、低段側圧縮機11、低段側四方弁12、カスケードコンデンサ2、低段側膨張弁14、低段側エバポレータ15、前記低段側圧縮機11の順で低段側冷媒が循環するように構成してある。
【0022】
前記高段側サイクル3は、高段側圧縮機31、高段側四方弁32、高段側コンデンサ33、高段側膨張弁34、前記カスケードコンデンサ2、前記高段側圧縮機31の順で高段側冷媒が循環するように構成してある。
【0023】
すなわち、各サイクルが協業することにより、前記低段側エバポレータ15において前記低段側冷媒が外気から吸熱し、前記カスケードコンデンサ2において前記低段側冷媒の放熱により前記高段側冷媒が加熱され、前記高段側コンデンサ33において前記高温冷媒の放熱により水が加熱されるように構成してある。
【0024】
さらに、本実施形態のヒートポンプシステム100は、前記流路4上に設けられており、前記高段側コンデンサ33から暖房給湯端末41に流入する水の温度を測定する第1温度センサT1と、前記低段側エバポレータ15の近傍に設けられており、外気温Taを測定する第2温度センサT2と、前記高段側サイクル3において高段側膨張弁34とカスケードコンデンサ2への流入口との間に設けられており、前記カスケードコンデンサ2における高段側冷媒の蒸発温度Tcを測定する第3温度センサT3と、を備えている。
【0025】
前記制御機構Cは、CPU、メモリ、A/D、D/Aコンバータ、入出力インターフェース等を備えたいわゆるコンピュータであって、前記メモリに格納されたプログラムが実行されることにより少なくとも、図2の機能ブロック図に示すように蒸発温度記憶部6、圧縮機制御部5、としての機能を発揮するものである。
【0026】
前記蒸発温度記憶部6は、水温Tと、外気温Taの組み合わせごとに最もCOPを高くすることができる高段側冷媒の蒸発温度Tcを記憶したものである。例えば、この蒸発温度Tcは、水温Tと外気温Taの組み合わせをそれぞれ変えて、最もCOPが高くなる蒸発温度Tcを予め実験的に求めておき、相関式により算出される値である。
【0027】
前記圧縮機制御部5は、前記低段側圧縮機11を制御する低段側圧縮機制御部51と、前記高段側圧縮機31を制御する高段側圧縮機制御部53とから構成してあり、本実施形態では各圧縮機に設けられているインバータに目標値と測定値の偏差を入力することにより各圧縮機の回転数を制御してそれぞれの冷媒吐出容量を制御するように構成してある。
【0028】
より具体的には前記高段側圧縮機制御部53は、前記第1温度センサT1で測定される水温Tと、目標出湯温度Trwとの偏差が小さくなるように前記高段側圧縮機31を制御するように構成してある。また、前記低段側圧縮機制御部51は、前記第3温度センサT3で測定される高段側冷媒の蒸発温度Tcと、前記水温T及び前記第2温度センサT2で測定される外気温Tに基づいて設定される蒸発温度Trcとの偏差が小さくなるように前記低段側圧縮機11を制御するように構成してある。ここで、前記低段側圧縮機制御部51は、測定された水温Tと外気温Tの組み合わせに該当する目標蒸発温度Trcを前記蒸発温度記憶部6から検索し、取得された値を目標蒸発温度Trcとして逐次変更していくように構成してある。
【0029】
すなわち、図3のT−S線図に示すように、水温Tと、外気温Tに応じて低段側サイクル1と高段側サイクル3との間で熱交換が行われる中間圧力、高段側冷媒の蒸発温度Tを適宜変更していくことにより、中間圧力をどのような場合でも一定に保っている場合に比べて向上させることができる。具体的には、目標出湯温度Trwを55℃、外気温T度―15℃〜+20℃、加熱能力14kWに設定している場合、従来の中間圧一定制御を用いた場合に比べて本実施形態では平均で2.8%程度COPを向上させることができる。特に低外気温T度(−15℃)では、5.3%COPを向上させることができ、本実施形態のヒートポンプは特に寒冷地においてそのエネルギー効率を向上させる効果が顕著となる。また、図1及び図2に示されるように従来設けられていなかった第3温度センサT3を設けるとともに、簡単な制御則を導入するだけでこのようなエネルギー効率の改善を実現することができる。
【0030】
その他の実施形態について説明する。
【0031】
前記実施形態では、カスケードコンデンサと、高段側膨張弁との間に第3温度センサを設けていたが、この第3温度センサの代わりに圧力センサを設けても構わない。そして、前記圧縮機制御部が、前記第1温度センサで測定される水温と、目標出湯温度との偏差が小さくなるように前記高段側圧縮機を制御するとともに、前記圧力センサで測定される高段側冷媒の圧力から換算される蒸発温度と、前記水温及び前記第2温度センサで測定される外気温に基づいて設定される目標蒸発温度との偏差が小さくなるように前記低段側圧縮機を制御するように構成してあれば、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0032】
さらに、目標蒸発温度は予め目標温度記憶部に記憶させておくのではなく、実験的に決定された相関式に測定された水温と外気温を代入して逐次算出するようにしても構わない。
【0033】
また、各温度センサの設けられる位置は、目的とする測定対象の温度が測定できる場所であればどこであっても構わない。
【0034】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な変形や実施形態の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0035】
100・・・ヒートポンプシステム
1 ・・・低段側サイクル
11 ・・・低段側圧縮機
14 ・・・低段側膨張弁
15 ・・・低段側エバポレータ
2 ・・・カスケードコンデンサ
3 ・・・高段側サイクル
31 ・・・高段側圧縮機
33 ・・・高段側コンデンサ
34 ・・・高段側膨張弁
5 ・・・圧縮機制御部
6 ・・・目標蒸発温度記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低段側圧縮機、カスケードコンデンサ、低段側膨張弁、低段側エバポレータの順で低段側冷媒が循環するように構成された低段側サイクルと、
高段側圧縮機、高段側コンデンサ、高段側膨張弁、前記カスケードコンデンサの順で高段側冷媒が循環するように構成された高段側サイクルと、
前記低段側圧縮機と、前記高段側圧縮機を制御する圧縮機制御部と、を備え、
前記低段側エバポレータにおいて前記低段側冷媒が外気から吸熱し、前記カスケードコンデンサにおいて前記低段側冷媒の放熱により前記高段側冷媒が加熱され、前記高段側コンデンサにおいて前記高温冷媒の放熱により水が加熱されるように構成されたヒートポンプシステムであって、
前記ヒートポンプシステムが、前記水の温度を測定する第1温度センサと、外気温を測定する第2温度センサと、前記カスケードコンデンサにおける高段側冷媒の蒸発温度を測定する第3温度センサと、を更に備え、
前記圧縮機制御部が、前記第1温度センサで測定される水温と、目標出湯温度との偏差が小さくなるように前記高段側圧縮機を制御するとともに、
前記第3温度センサで測定される高段側冷媒の蒸発温度と、前記水温及び前記第2温度センサで測定される外気温に基づいて設定される目標蒸発温度との偏差が小さくなるように前記低段側圧縮機を制御するように構成されていることを特徴とするヒートポンプシステム。
【請求項2】
水温と、外気温の組み合わせごとに目標蒸発温度を記憶した目標蒸発温度記憶部を更に備え、
前記圧縮機制御部が、前記第1温度センサで測定された水温と前記第2温度センサで測定された外気温に基づいて前記前記目標蒸発温度記憶部に記憶されている目標蒸発温度を取得するように構成された請求項1記載のヒートポンプシステム。
【請求項3】
低段側圧縮機、カスケードコンデンサ、低段側膨張弁、低段側エバポレータの順で低段側冷媒が循環するように構成された低段側サイクルと、
高段側圧縮機、高段側コンデンサ、高段側膨張弁、前記カスケードコンデンサの順で高段側冷媒が循環するように構成された高段側サイクルと、
前記低段側圧縮機と、前記高段側圧縮機を制御する圧縮機制御部と、を備え、
前記低段側エバポレータにおいて前記低段側冷媒が外気から吸熱し、前記カスケードコンデンサにおいて前記低段側冷媒の放熱により前記高段側冷媒が加熱され、前記高段側コンデンサにおいて前記高温冷媒の放熱により水が加熱されるように構成されたヒートポンプシステムであって、
前記ヒートポンプシステムが、前記水の温度を測定する第1温度センサと、外気温を測定する第2温度センサと、前記カスケードコンデンサにおける高段側冷媒の圧力を測定する圧力センサと、を更に備え、
前記圧縮機制御部が、前記第1温度センサで測定される水温と、目標出湯温度との偏差が小さくなるように前記高段側圧縮機を制御するとともに、
前記圧力センサで測定される高段側冷媒の圧力から換算される蒸発温度と、前記水温及び前記第2温度センサで測定される外気温に基づいて設定される目標蒸発温度との偏差が小さくなるように前記低段側圧縮機を制御するように構成されていることを特徴とするヒートポンプシステム。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−113534(P2013−113534A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261868(P2011−261868)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)