説明

ビスマス化合物およびその製造方法

【課題】ビスマス−ビスマス結合を有する新規なビスマス化合物(ジビスムチン)及びその製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表される化合物。


(式中、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基を、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素、フッ素、塩素元素、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアルコキシ基を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル反応剤、ラジカル開始剤、各種ビスマス化合物の合成原料などとして有用なビスマス−ビスマス結合を有する新規なビスマス化合物(ジビスムチン)およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビスマス−ビスマス結合を有する化合物(ジビスムチン)は、結合エネルギーの小さいビスマス−ビスマス結合が容易に開裂することからラジカル反応剤、ラジカル開始剤、各種ビスマス化合物の合成原料などとして有用であると考えられる。これまでに、テトラアルキルジビスムチン(非特許文献1−2参照)、テトラアルケニルジビスムチン(非特許文献3参照)やテトラアリールジビスムチン(非特許文献4−7参照)が知られている。
しかし、一般にこれらの化合物は安定性が低く、ラジカル反応剤、ラジカル開始剤、各種ビスマス化合物の合成原料などとしての利用はごく限られていた。そのため、安定性の高いジビスムチン化合物が望まれていた。5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシンは安定性の高いビスマス化合物であり、これまでにこの骨格を有するビスマス化合物はいくつか知られている(特許文献1−3、非特許文献8−11参照)。
この骨格を持つジビスムチンは安定性の高い取り扱いの容易な化合物であると期待されるが、これまで5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン骨格を有するジビスムチン(12,12’−ビ(5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン))は知られていなかった。
【0003】
【特許文献1】特開平11−355511号公報
【特許文献2】特開2000−355511号公報
【特許文献3】特開2006−182739号公報
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed.Engl. 21 p439(1982)
【非特許文献2】Organometallics 1 p1408(1982)
【非特許文献3】Organometallics 2 p1859(1983)
【非特許文献4】J.Organomet.Chem. 253 pC21(1983)
【非特許文献5】J.Chem.Soc.Chem.Commun. p507(1983)
【非特許文献6】Z.Naturforsch. 42b p695(1987)
【非特許文献7】Z.Naturforsch. 50b p735(1995)
【非特許文献8】Tetrahedron Lett.30 p4841(1989)
【非特許文献9】Chem.Lett. p861(1999)
【非特許文献10】Angew.Chem.Int.Ed. 42 p1845(2003)
【非特許文献11】J.Organomet.Chem.689 p3012(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、例えばラジカル反応剤、ラジカル開始剤、各種ビスマス化合物の合成原料などとして有用な、新規なビスマス化合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ビスマス化合物の合成法およびその反応性について鋭意研究を重ねた結果、ある種の環状有機骨格を有するビスマス化合物とP−H結合を持つリン化合物、ある種のホウ素化合物等とを反応させることにより、環状有機骨格を有するジビスムチンが得られることを見出し、これらの事実に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、一般式(I)
【化1】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基を、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアルコキシ基を表す)
で表される新規なビスマス化合物、およびそれらの効率的な製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る前記一般式(I)で示されるビスマス化合物は文献未載の新規化合物であり、例えば、ラジカル反応剤、ラジカル開始剤、各種ビスマス化合物の合成原料などとして有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の請求項1に係る新規なビスマス化合物は前記一般式(I)で示される。
一般式(I)において、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基を表す。
アルキル基およびシクロアルキル基としては、未置換のものの他、フェニル基やアルコキシ基等で置換されていてもよい炭素数1−20のアルキル基およびシクロアルキル基等があげられる。また、アリール基としては、炭素数1−10のアルキル基、炭素数1−10のアルコキシ基、塩素原子、フッ素原子で任意に置換されていてもよい。
このような基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、t-ブチル、ヘキシル、オクチル、t-オクチル、デシル、ドデシル、ヘキサデシルなどのアルキル基、ベンジル基や2−フェニルエチル基などのフェニル置換アルキル基、2−エトキシエチル、3−エトキシプロピルなどのアルコキシ置換アルキル基、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキル基、フェニル、p−トリル、4−t−ブチルフェニル、2,4,6−トリメチルフェニル、4−メトキシフェニル、3,4−ジメトキシフェニル、4−ブトキシフェニル、4−クロロフェニル、4−フルオロフェニルなどのアリール基などが挙げられる。
また、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアルコキシ基であって、例えば水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチルなどのアルキル基、フェニル基などのアリール基、メトキシ、エトキシなどのアルコキシ基が挙げられる。
【0009】
次に、請求項2の製造方法における一方の原料は、一般式(II)
【化2】

で表されるビスマス化合物であり、R〜Rは、それぞれ前項と同じ意味を示す。
【0010】
また、請求項2の製造方法におけるもう一方の原料は、一般式(III)
【化3】

で表される有機リン化合物であり、R〜R13は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、好ましくは炭素数1−12のアルキル基、好ましくは炭素数1−12のアルコキシ基であり、例えば、水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル等のアルキル基、メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基が挙げられる。
【0011】
次に、請求項3の製造方法における一方の原料は一般式(IV)
【化4】

で表されるビスマス化合物であり、R〜Rは、それぞれ前項と同じ意味を示す。
また、請求項3の製造方法におけるもう一方の原料は、請求項2と同じ一般式(III)で表される化合物である。
【0012】
請求項4の製造方法における一方の原料は、請求項2と同じ一般式(II)で表される化合物である。
また、請求項4の製造方法におけるもう一方の原料は、一般式(V)
【化5】

で表され、Xは一価のカチオンであり、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムカチオンが挙げられる。
【0013】
請求項5の製造方法における一方の原料は、請求項3と同じ一般式(IV)で表される化合物であり、もう一方の原料は請求項4と同じ一般式(V)で表される化合物である。
請求項6の製造方法における一方の原料は、請求項2と同じ一般式(II)で表される化合物である。
請求項6の製造方法におけるもう一方の原料は、一般式(VI)
【化6】

で表される化合物であり、R14〜R17は、それぞれ独立に水素原子、好ましくは炭素数1−3のアルキル基、好ましくは炭素数2−5のアルコキシカルボニル基であり、例えば水素原子、メチル、エチル等のアルキル基、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0014】
請求項7の製造方法における一方の原料は、請求項3と同じ一般式(IV)で表される化合物であり、もう一方の原料は請求項6と同じ一般式(VI)で表される化合物である。
【0015】
また、本発明に係る前記一般式(I)で示される新規ビスマス化合物は、前記請求項2から7に示した製造方法以外にも、たとえば一般式(II)で示されるビスマス化合物もしくは一般式(IV)で示されるビスマス化合物と、ジアリールホスフィンオキシド、ジアルキルホスフィンオキシド、フェニルホスフィン酸などのリン化合物、ジボラン、ボラン−テトラヒドロフラン錯体、ビス(ピナコラト)ジボロンなどのホウ素化合物もしくはリチウムアルミニウムヒドリドなどのアルミニウム化合物とを反応させることによっても製造することが可能である。また、ビスマス化合物として、一般式(II)もしくは一般式(IV)で示される化合物以外に、一般式(IV)で示される化合物の水酸基をハロゲン原子で置き換えた化合物も利用可能である。
【0016】
請求項2の製造方法において、一般式(II)と一般式(III)で示される2つ原料のモル比は5:1〜1:6の間で実施できるが、経済性や生成物の精製を考慮すると2:1〜1:1の間で実施することが好ましい。
請求項3の製造方法において、一般式(IV)と一般式(III)で示される2つ原料のモル比は10:1〜1:3の間で実施できるが、経済性や生成物の精製を考慮すると4:1〜2:1の間で実施することが好ましい。
請求項4の製造方法において、一般式(II)と一般式(V)で示される2つ原料の比は10:1〜1:20の間で実施できるが、経済性や生成物の精製を考慮すると5:1〜1:3の間で実施することが好ましい。
請求項5の製造方法において、一般式(IV)と一般式(V)で示される2つ原料のモル比は20:1〜1:10の間で実施できるが、経済性や生成物の精製を考慮すると10:1〜1:2の間で実施することが好ましい。
請求項6の製造方法において、一般式(II)と一般式(VI)で示される2つ原料のモル比は10:1〜1:20の間で実施できるが、経済性や生成物の精製を考慮すると2:1〜1:5の間で実施することが好ましい。
請求項7の製造方法において、一般式(IV)と一般式(VI)で示される2つ原料のモル比は20:1〜1:10の間で実施できるが、経済性や生成物の精製を考慮すると4:1〜1:3の間で実施することが好ましい。
【0017】
反応生成混合物から所望の目的生成物を分離するには、濾過、再結晶、溶媒抽出、昇華などの通常の分離精製方法を適用することにより容易に達成される。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0019】
実施例1
[6,6’−ジ−t−ブチル−12,12’−ビ(5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)(一般式(I):R;t−ブチル基、R=R=R=R;水素原子)の合成]
ビス(6−t−ブチル−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)オキシド4.2g(4.5mmol)の1,4−ジオキサン溶液(130mL)に窒素雰囲気下9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド651mg(3.0mmol)を加え、90℃で16時間撹拌した。生成した赤橙色沈殿を濾過し、1,4−ジオキサンで洗浄後減圧下乾燥することにより表題化合物を得た。収量2.6g(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドを基にした収率:94%)。
融点155−157℃.
元素分析: 計算値(C36H42Bi2N2)C, 47.62; H, 5.00; N, 2.78. 実測値 C, 47.54; H, 4.79; N, 2.65.
1H NMR (C6D6, 399.8 MHz): δ 1.06 (18H, s), 3.74 (4H, d, J = 15.1 Hz), 3.92 (4H, d, J = 15.1 Hz), 6.85 (4H, td, J = 7.1, 1.4 Hz), 7.03 (4H, d, J = 7.3 Hz), 7.08 (4H, td, J = 7.3, 1.4 Hz), 8.85 (4H, d, J = 7.3 Hz).
単結晶X線構造解析で得られた模式構造図を図1に示す(水素原子は省略してある)。
【0020】
なお、原料である、ビス(6−t−ブチル−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)オキシドは、窒素下で、12−クロロ−6−t−ブチル−5,6,7,12−テトヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン20.0g(40.3mmol)のジクロロメタン溶液300mLに水酸化ナトリウム水溶液121mL(1.0M、121mmol)を加え、室温で15時間激しく撹拌し、有機層を分離、水洗浄、乾燥後、溶媒を真空下留去することにより白色固体として得た(15.9g、84.3%)。
【0021】
実施例2
[6,6’−ジ−t−ブチル−12,12’−ビ(5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)(一般式(I):R;t−ブチル基、R=R=R=R;水素原子)の合成]
ビス(6−t−ブチル−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)オキシド40mg(0.043mmol)の1,4−ジオキサン溶液(5mL)に10当量の水を加え、6−t−ブチル−12−ヒドロキシ−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシンの1,4−ジオキサン溶液を調製した。この溶液に9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド19mg(0.088mmol)を加え、室温で40時間撹拌した。溶媒を留去後、H−NMRにより反応生成物を確認したところ、6−t−ブチル−12−ヒドロキシ−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシンは全量、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドは約1/3量消費され、消費された9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドと同モル量の表題化合物が生成していることを確認した。
【0022】
実施例3
[6,6’−ジ−t−ブチル−12,12’−ビ(5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)(一般式(I):R;t−ブチル基、R=R=R=R;水素原子)の合成]
ビス(6−t−ブチル−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)オキシド200mg(0.214mmol)、水素化ホウ素ナトリウム8.1mg(0.21mmol)を1,4−ジオキサン中に加え、窒素下60℃で19時間撹拌した。室温まで冷却後、生成した赤橙色沈殿を濾過し、1,4−ジオキサンで洗浄後減圧下乾燥することにより表題化合物を得た。収量170mg(水素化ホウ素ナトリウムを基にした収率:87%)。
【0023】
実施例4
[6,6’−ジt−ブチル−12,12’−ビ(5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)(一般式(I):R;t−ブチル基、R=R=R=R;水素原子)の合成]
ビス(6−t−ブチル−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)オキシド200mg(0.214mmol)、4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン3.1μL(0.11mmol)のベンゼン溶液を窒素下室温で1時間撹拌した。生成した赤橙色沈殿を濾過し、ベンゼンで洗浄後減圧下乾燥することにより表題化合物を得た。収量71mg(ホウ素化合物を基にした収率:72%)。
【0024】
実施例5
[6,6’−ジメチル−12,12’−ビ(5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)(一般式(I):R;メチル基、R=R=R=R;水素原子)の合成]
ビス(6−メチル−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)オキシド400mg(0.46mmol)の1,4−ジオキサン溶液(130mL)に、窒素雰囲気下で9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド68mg(0.31mmol)を加え、90℃で1時間撹拌した。室温まで冷却後、生成した赤橙色沈殿を濾過し、1,4−ジオキサンで洗浄後減圧下乾燥することにより表題化合物を得た(59mg、23%)。
元素分析: 計算値(C30H30Bi2N2)C, 43.07; H, 3.61; N, 3.35. 実測値 C, 43.51; H, 3.42; N, 3.21.
1H NMR (C6D6, 499.1 MHz): δ 2.19 (6H, s), 3.32 (4H, d, J = 14.2 Hz), 3.73 (4H, d, J = 14.2 Hz), 6.84 (4H, td, J = 7.3, 1.8 Hz), 7.01-7.09 (8H, m), 8.63 (4H, d, J = 7.3 Hz).
単結晶X線構造解析で得られた模式構造図を図2に示す(水素原子は省略してある)。
なお、原料である、ビス(6−メチル−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)オキシドは、窒素下で、12−クロロ−6−メチル−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン585mg(1.29mmol)のジクロロメタン溶液5mLに水酸化ナトリウム水溶液5mL(0.5M、2.5mmol)を加え、室温で1時間激しく撹拌し、有機層を分離、水洗浄、乾燥後、溶媒を真空下留去することにより白色固体として得た(486mg、88%)。
1H NMR (C6D6, 499.1 MHz): δ 2.19 (3H, s), 3.32 (2H, d, J = 14.6 Hz), 3.72 (2H, d, J = 14.6 Hz), 6.85 (2H, t, J = 6.7 Hz), 6.97-7.11 (4H, m), 8.65 (2H, d, J = 7.3 Hz).
【0025】
実施例6
[6,6’−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−12,12’−ビ(5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)(一般式(I):R;1,1,3,3−テトラメチルブチル基、R=R=R=R;水素原子)の合成]
ビス{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン)オキシド3.00g(2.86mmol)の1,4−ジオキサン溶液(40mL)に窒素雰囲気下9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド412mg(1.91mmol)を加え、90℃で1時間撹拌した。生成した赤橙色沈殿を濾過し、1,4−ジオキサンで洗浄後減圧下乾燥することにより表題化合物を得た(1.33g)。濾液を濃縮後1,4−ジオキサン15mLを加え、沈殿した赤橙色固体を濾別・乾燥することによりさらに0.22gの表題化合物を得た(合計1.55g、79%)。
融点181−182℃.
元素分析: 計算値(C44H58Bi2N2) C, 51.16; H, 5.66; N, 2.71. 実測値 C, 51.52; H, 5.60; N, 2.57.
1H NMR (C6D6, 499.1 MHz): δ 0.93 (18H, s), 1.27 (12H, s), 1.66 (4H, s) 3.83 (4H, d, J = 15.8 Hz), 4.05 (4H, d, J = 15.8 Hz), 6.85 (4H, t, J = 7.3 Hz), 7.06-7.12 (8H, m), 8.89 (4H, d, J = 7.3 Hz)
単結晶X線構造解析で得られた構造図を図3に示す(水素原子は省略してある)。
【0026】
なお、原料である、ビス{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン}オキシドは、窒素下で、12−クロロ−6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシン5.0g(9.1mmol)のジクロロメタン溶液100mLに水酸化ナトリウム水溶液91mL(1.0M、91mmol)を加え、室温で3時間激しく撹拌し、有機層を分離、水洗浄、乾燥後、溶媒を真空下留去することにより表題化合物を白色固体として得た(4.6g、96%)。
融点124−126℃.
元素分析: 計算値(C44H58Bi2N2O) C, 50.38; H, 5.57; N, 2.67. 実測値 C, 50.48; H, 5.48; N, 2.56.
1H NMR (C6D6, 499.1 MHz): δ 0.87 (18H, s), 1.11 (12H, s), 1.54 (4H, s), 3.68 (4H, d, J = 15.8 Hz), 4.02 (4H, d, J = 15.8 Hz), 7.09 - 7.14 (8H, m), 7.37 (4H, t, J = 7.3 Hz), 9.05 (4H, d, J = 7.3 Hz)
【0027】
また、上記の12−クロロ−6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−5,6,7,12−テトラヒドロジベンゾ[c,f][1,5]アザビスモシンは、下記の方法で合成した。
ビス{(2−ブロモフェニル)メチル}−1,1,3,3−テトラメチルブチルアミン11.7g(25.0mmol)のジエチルエーテル溶液(70mL)にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液31.5mL(1.59M、50.1mmol)を−30℃で加えた。混合物を約3時間かけて室温まで昇温した後、−78℃に冷却した三塩化ビスマス7.89g(25.0mmol)のジエチルエーテル懸濁液(200mL)中に滴下した。混合物を撹拌しながら約13時間かけて室温まで昇温し、室温でさらに7時間撹拌した。溶媒を減圧下留去し、残留物をクロロホルム200mLと1規定塩化アンモニウム水溶液100mLの混合物中に加えた。セライト濾過、有機層の分離、水洗、乾燥、濾過、溶媒留去後、粗生成物にヘキサンとジクロロメタン1:1混合溶媒150mLを加えた。沈殿した白色固体を濾過、真空乾燥することにより表題化合物10.1gを得た。さらに濾液を減圧濃縮しヘキサン70mLを加えることにより、表題化合物1.8gを得た(合計11.9g、収率86%)。
元素分析: 計算値(C22H29BiClN)C, 47.88; H, 5.30; N, 2.54. 実測値 C, 47.64; H, 5.09; N, 2.40.
1H NMR (CDCl3, 399.8 MHz): δ 1.04 (9H, s), 1.37 (6H, s), 1.77 (2H, s), 4.11 (2H, d, J = 15.6 Hz), 4.54 (2H, d, J = 15.6 Hz), 7.32 (2H, td, J = 7.3, 1.1 Hz), 7.41 (2H, d, J = 7.3 Hz), 7.48 (2H, t, J = 7.6 Hz), 8.65 (2H, d, J = 7.3 Hz).
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る新規なビスマス化合物は、ラジカル反応剤、ラジカル開始剤、各種ビスマス化合物の合成原料などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1で得た化合物の模式構造図(単結晶X線構造解析から作成したもの)
【図2】実施例5で得た化合物の模式構造図(単結晶X線構造解析から作成したもの)
【図3】実施例6で得た化合物の模式構造図(単結晶X線構造解析から作成したもの)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるビスマス化合物。
【化1】

(式中、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基を、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアルコキシ基を表す)
【請求項2】
下記一般式(II)
【化2】

(式中、R〜Rは、前記と同じ)で表されるビスマス化合物と
下記一般式(III)
【化3】

(式中、R〜R13は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表す)で表される有機リン化合物とを反応させることを特徴とする請求項1に記載の一般式(I)で表されるビスマス化合物の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(IV)
【化4】

(式中、R〜Rは、前記と同じ)で表されるビスマス化合物と前記一般式(III)で表される化合物とを反応させることを特徴とする請求項1に記載の一般式(I)で表されるビスマス化合物の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(II)で表される化合物と
下記一般式(V)
【化5】

(式中、Xは一価のカチオンを意味する)で表される水素化ホウ素化合物とを反応させることを特徴とする請求項1に記載の一般式(I)で表されるビスマス化合物の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(IV)で表される化合物と前記一般式(V)で表される化合物とを反応させることを特徴とする請求項1に記載の一般式(I)で表されるビスマス化合物の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(II)で表される化合物と
下記一般式(VI)
【化6】

(式中、R14〜R17は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基又はアルコキシカルボニル基を表す。)で表されるホウ素化合物とを反応させることを特徴とする請求項1に記載の一般式(I)で表されるビスマス化合物の製造方法。
【請求項7】
前記一般式(IV)で表される化合物と前記一般式(VI)で表される化合物とを反応させることを特徴とする請求項1に記載の一般式(I)で表されるビスマス化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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