説明

ビニルアルコール系重合体の製造方法

【解決手段】 エポキシ基を有するビニルエステル系重合体に、チオール基もしくはチオエステル基を有する化合物を反応させ、けん化することを特徴とするビニルアルコール系重合体の製造方法。
【効果】 本発明によると、比較的マイルドな反応条件で、反応性、架橋性、イオン的相互作用、水溶性、界面物性または低温での柔軟性などに優れた各種の官能基を、効率的にPVAに導入することができる。また、本発明によると、従来の方法では得ることのできなかった各種の官能基をPVAに導入することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は変性ビニルアルコール系重合体の新規な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)は数少ない結晶性の水溶性高分子として優れた界面特性および強度特性を有することから、紙加工、繊維加工およびエマルジョン用の安定剤に利用されているほか、PVA系フィルムおよびPVA系繊維等の原料として重要な地位を占めている。また、結晶性を制御したり、官能基を導入して特定の性能を向上させる高機能化が検討されている。
【0003】変性PVAの製造方法としては、(1)官能基を有するモノマーを酢酸ビニルと共重合した後、けん化することにより、側鎖に官能基を導入する方法;(2)高分子反応により、PVAの側鎖に官能基を導入する方法;(3)連鎖移動反応を利用して官能基を末端に導入する方法等が知られている。しかしながら、(1)および(3)の方法は、ビニルエステルモノマーの重合性が低く、PVAを得るためには加水分解が必要となることから、導入可能な官能基が限定される。また、従来の変性PVAにおける官能基は、PVAの主鎖に直接結合しているか、あるいはPVAの主鎖に非常に近いために、ビニルアルコール単位の水酸基との分子内相互作用の影響やPVAの主鎖の分子運動の影響を受けやすいことから、官能基の機能を十分に発揮できない場合が多い。また、(2)の方法は、コストなどの問題で、工業的規模での実施は限定されていた。すなわち、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、シラノール基、ボロン酸基、ふっ素基、水酸基、炭化水素基およびエチレン性不飽和二重結合などの官能基をPVAに導入する方法は知られていたが、従来の方法によりPVAに導入された官能基は、PVAの水酸基との分子内相互作用の影響およびPVAの主鎖の分子運動の影響を易いことから、官能基として機能が十分に発現できないことが多い。また、フェノール性水酸基、フェニル基、ナフタレン基、共役ジエンなどの官能基の場合には、ポリビニルアセタールに導入する方法は知られているが、PVAに導入する方法は全く知られていない。一方、アミノ酸基、フェノキシ基の場合には、PVAに導入する方法は全く知られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、反応性、架橋性、イオン的相互作用、水溶性、界面物性または低温での柔軟性などに優れた各種の官能基を有する変性ビニルアルコール系重合体の製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、従来の方法では得ることのできなかった各種の官能基を有する変性ビニルアルコール系重合体の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記課題について鋭意検討した結果、エポキシ基を有するビニルエステル系重合体に、チオール基もしくはチオエステル基を有する化合物を反応させ、けん化することを特徴とするビニルアルコール系重合体の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
【発明の実施の形態】本発明に使用するエポキシ基を有するビニルエステル系重合体は、ビニルエステルモノマーとエポキシ基を有するモノマーとをラジカル共重合する方法により得られる。
【0007】ビニルエステルモノマーとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0008】エポキシ基を有するビニルモノマーとしては、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル、ブタジエンモノエポキサイド、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン、1,2−エポキシ−9−デセン、8−ヒドロキシ−6、7−エポキシ−1−オクテン、8−アセトキシ−6、7−エポキシ−1−オクテン、N−(2,3−エポキシ)プロピルアクリルアミド、N−(2,3−エポキシ)プロピルメタクリルアミド、4−アクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、3−アクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、4−メタクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、3−メタクリルアミドフェニルグリシジルエーテル、3−メチル−3,4−エポキシブトキシメチロールアクリルアミド、N−グリシドキシメチルアクリルアミド、N−グリシドキシメチルメタクリルアミド、N−グリシドキシエチルアクリルアミド、N−グリシドキシエチルメタクリルアミド、N−グリシドキシプロピルアクリルアミド、N−グリシドキシプロピルメタクリルアミド、N−グリシドキシブチルアクリルアミド、N−グリシドキシブチルメタクリルアミド、4−アクリルアミドメチル−2,5−ジメチル−フェニルグリシジルエーテル、4−メタクリルアミドメチル−2,5−ジメチル−フェニルグリシジルエーテル、アクリルアミドプロピルジメチル(2,3−エポキシ)プロピルアンモニウムクロリド、メタクリルアミドプロピルジメチル(2,3−エポキシ)プロピルアンモニウムクロリド、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
【0009】エポキシ基を有するビニルエステル系重合体のエポキシ基の含有量は、0.01〜30モル%が好ましく、0.02〜20モル%がより好ましく、0.05〜15モル%が特に好ましい。エポキシ基を有するビニルエステル系重合体の粘度平均分子量(Mv)は、103 〜2000×103 が好ましい。なお、粘度平均分子量(Mv)は、30℃のアセトン中で測定した極限粘度の値[η]から、下記の式により計算される。
極限粘度[η](dl/g)=5×10-4×Mv0.62
【0010】エポキシ基を有するビニルエステル系重合体は、上記以外の単量体を含有することも差し支えない。このような単量体単位としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンなどのオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸などの不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩などのアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩などのメタクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドなどのN−ビニルアミド類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキクシアルキルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;トリメトキシビニルシランなどのビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコールなどが挙げられる。
【0011】本発明に使用するチオール基もしくはチオエステル基を有する化合物としては、メタンチオール、エタンチオール、n−プロパンチオール、i−プロパンチオール、n−ブタンチオール、s−ブタンチオール、i−ブタンチオール、t−ブタンチオール、n−オクタンチオール、n−ドデカンチオール、t−ドデカンチオール、n−オクタデカンチオール等のアルカンチオール;アリルメルカプタン、メタリルメルカプタン、2−メルカプトエチルビニルエーテル、4−メルカプトブチルビニルエーテル、4−メルカプトスチレン、4−メルカプトメチルスチレン、3−ヒドロキシ−4−メルカプト−1−ブテン、N−(2−ヒドロキシ−3−メルカプト)プロピルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−3−メルカプト)プロポキシメチルアクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−4−メルカプト)ブトキシメチルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−3−メルカプト)プロピルメタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシ−3−メルカプト)プロポキシメチルメタクリルアミド、N−(3−ヒドロキシ−4−メルカプト)ブトキシメチルメタクリルアミド、N−(2,2−ジメチル−4−ヒドロキシ−5−メルカプト)メチルアクリルアミド等の二重結合を有するチオール;チオフェノール、1−ナフタレンチオール、2−ナフタレンチオール、1−メルカプトアントラセン、9−メルカプトアントラセン等の芳香族チオール;2−メルカプトフェノール、3−メルカプトフェノール、4−メルカプトフェノール、4−(2−メルカプトエチル)フェノール、4−(4−メルカプトエチル)フェノール等の含フェノールチオール;フルフリルメルカプタン、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトピリミジン、2−メルカプトピリジン、4−メルカプトピリジン、2−メルカプトニコチン酸等の複素環チオール;2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、チオグリセロール、1−チオソルビトール、ポリエチレングリコールモノ−3−メルカプトプロピルエーテル、ポリプロピレングリコールモノ−3−メルカプトプロピルエーテル、ポリテトラメチレングリコールモノ−3−メルカプトプロピルエーテル等のヒドロキシ基を有するチオール;チオグリコール酸(およびその塩、エステル)、2−メルカプトプロピオン酸(およびその塩、エステル)、3−メルカプトプロピオン酸(およびその塩、エステル)、チオリンゴ酸(およびその塩、エステル)、2−メルカプト安息香酸(およびその塩、エステル)、3−メルカプト安息香酸(およびその塩、エステル)、4−メルカプト安息香酸(およびその塩、エステル)、4−カルボキシフェニルエチルチオール等のカルボキシル基(およびその塩、エステル)を有するチオール;2−メルカプトエタンスルホン酸(およびその塩、エステル)、3−メルカプトプロパンスルホン酸(およびその塩、エステル)、2−メルカプトエチルベンゼンスルホン酸(およびその塩、エステル)等のスルホン酸(およびその塩、エステル)を有するチオール;2−アミノエタンチオール(およびその塩)、3−(N−メチルアミノ)プロパンチオール、3−(N、N−ジメチルアミノ)プロパンチオール、2−アミノチオフェノール(およびその塩)、3−アミノチオフェノール(およびその塩)、4−アミノチオフェノール(およびその塩)、4−(N,N−ジメチルアミノ)チオフェノール等のアミノ基(およびその塩)を有するチオール;システイン、ペニシルアミン、グルタチオン、N−(3−スルホプロピル) −N−(2−メチル−3−メルカプトプロピオンアミドプロピル)−N,N’−ジメチルアンモニウムベタイン等の両性チオール;チオ酢酸、チオ安息香酸等のチオカルボン酸;2−(パーフルオロエチル)エタンチオール、2−(パーフルオロブチル)エタンチオール、2−(パーフルオロヘキシル)エタンチオール、2−(パーフルオロオクチル)エタンチオール、3−(パーフルオロエチル)−2−ヒドロキシプロパンチオール、3−(パーフルオロブチル)−2−ヒドロキシプロパンチオール、3−(パーフルオロヘキシル)−2−ヒドロキシプロパンチオール、3−(パーフルオロオクチル)−2−ヒドロキシプロパンチオール、N−(2−メルカプトエチル)−パーフルオロプロピオン酸アミド、N−(2−メルカプトエチル)−パーフルオロペンタン酸アミド、N−(2−メルカプトエチル)−パーフルオロヘプタン酸アミド、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エタンチオール、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エタンチオール、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エタンチオール、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロパンチオール、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロパンチオール、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロパンチオール、(ω−H−フルオロエチル)メタンチオール、(ω−H−フルオロブチル)メタンチオール、(ω−H−フルオロヘキシル)メタンチオール、(ω−H−フルオロオクチル)メタンチオール、(ω−H−フルオロエチル)メトキシプロパンチオール、(ω−H−フルオロブチル)メトキシプロパンチオール、(ω−H−フルオロヘキシル)メトキシプロパンチオール、(ω−H−フルオロオクチル)メトキシプロパンチオール等の含ふっ素基を有するチオール;3−トリメトキシシリルプロパンチオール、3−メチルジメトキシシリルプロパンチオール、3−ジメチルメトキシシリルプロパンチオール等のシリル基を有するチオール;3−メルカプトプロピルボロン酸(およびそのエステル)などが挙げられる。さらに、これらのチオール基を有する化合物の酢酸エステルおよび安息香酸エステルが挙げられる。
【0012】その他のチオール基もしくはチオエステル基を有する化合物としては、チオール基もしくはチオエステル基を有するポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール類;チオール基もしくはチオエステル基を有する酢酸ビニル(共)重合体、ピバリン酸ビニル(共)重合体、メタクリル酸メチル(共)重合体、スチレン(共)重合体、アクリル酸n−ブチル(共)重合体、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、2−メトキシエチルビニルエーテル等のビニルポリマーが挙げられる。これらのチオール基もしくはチオエステル基を有する化合物は、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、反応条件によっては、これらチオール基が保護された形、たとえばイソチウロニウム塩の形態で使用することもできる。
【0013】本発明のエポキシ基を有するビニルエステル系重合体とチオール基もしくはチオエステル基を有する化合物との反応は、無溶媒、またはチオール基もしくはチオエステル基を有する化合物を溶解し、エポキシ基を有するビニルエステル系重合体を溶解もしくは膨潤させる溶剤中で実施される。このような溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類;n−ヘキサン等の炭化水素類;水等が挙げられる。これらの溶剤は、単独もしくは混合して使用される。
【0014】エポキシ基を有するビニルエステル系重合体とチオール基もしくはチオエステル基を有する化合物との反応条件は、通常、溶剤を使用する場合のポリマー濃度5〜90%、チオール基もしくはチオエステル基の濃度/エポキシ基の濃度=1.0〜5.0(モル比)、反応温度0〜250℃、反応時間0.01〜20時間である。チオール基を有する化合物との反応では、アミン(例えばトリエチルアミン、ピリジン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アンモニア)、ホスフィン(例えばトリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン)、水酸化ナトリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロオキサイド、ナトリウムメチラート等の塩基性化合物が反応触媒として有効である。チオエステル基を有する化合物との反応では、トリブチルアンモニウムクロリド、トリブチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩が反応触媒として有効である。また、チオール基の酸化を防止するために、反応系の脱気または窒素置換をしたり、酸化防止剤等を添加することもできる。
【0015】けん化反応は、塩基性触媒または酸触媒を用いた通常のポリビニルエステルのけん化反応が適用できる。すなわち、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート等の塩基性触媒、あるいはp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いて、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコールあるいはグリコールを溶媒に用いて、けん化反応が行われる。この場合、ビニルエステル系重合体や触媒の溶解性を向上するために、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、アセトン、水等の溶剤が適宜混合して使用される。けん化反応の条件は、通常、触媒濃度/ビニルエステル単位濃度=0.001〜1.2(モル比)、反応温度0〜180℃、反応時間0.1〜20時間の範囲である。本発明におけるけん化反応は、エポキシ基を有するビニルエステル系重合体とチオール基もしくはチオエステル基を有する化合物との反応中あるいは反応終了後に行う。
【0016】本発明の製造方法によれば、従来の方法では得ることのできなかった各種の官能基を有する変性PVA、PVA系重合体を一成分とするブロックポリマーおよびグラフトポリマーが得られる。
【0017】本発明の製造方法により得られるビニルアルコール系重合体の分子量は、該重合体の4%のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液の20℃の粘度(B型粘度計で測定)で表して、3〜20,000cpの範囲が好ましく、3〜10,000cpの範囲がより好ましく、3〜5,000cpの範囲がより好ましい。また、ビニルアルコール単位の含有量は10〜99.9モル%が好ましく、50〜99.9モル%がより好ましい。
【0018】本発明で得られるビニルアルコール系重合体は、繊維糊剤、繊維処理剤、繊維加工剤、クリアーコーテイング、クレーコーティング等の紙コーティング剤用バインダー、感熱紙のオーバーコート用バインダー等の紙加工剤、有機、無機顔料用の分散剤、エマルジョン用重合分散安定剤、塩ビ等の懸濁重合用分散安定剤、セラミックス用バインダー、画像形成材料、感光性樹脂、ホルマールやブチラール等のビニルアセタール用原料、フィルム、繊維等に使用される。該ビニルアルコール系重合体は、単独で使用される他に、無変性PVA、他の変性PVA、でんぷん(およびその変性物)、セルロース誘導体、ガム類、ゼラチン、カゼイン等の各種のポリマー、可塑剤、架橋剤などと併用される。
【0019】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の「部」および「%」は、特に断わりのない限り、重量部基準を意味する。
【0020】(エポキシ基を有するビニルエステル系重合体の合成例)
合成例1攪拌基、還流冷却管、窒素導入管および温度計を備えた反応器に、酢酸ビニルモノマー405部、アリルグリシジルエーテル11部およびメタノール30部を仕込み、窒素ガスを15分バブリングして脱気した。別途、メタノール15部に2,2'- アゾイソブチロニトリル4.5部を溶解した開始剤溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、別途調製した開始剤溶液を添加し重合を開始した。60℃で4時間重合し冷却して重合を停止した。この時の固形分濃度は54.8%であった。続いて30℃、減圧下にメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液(濃度44.5%)を得た。このメタノール溶液の一部をエーテル中に投入してポリマーを回収し、アセトン−エーテルで2回再沈精製した後、40℃で減圧乾燥した。この精製ポリマーについて、CDCl3 を溶媒にしてプロトンNMR(日本電子製、GSX-270 )測定およびアセトン中の極限粘度測定(JIS)を実施した。その結果、アリルグリシジルエーテル単位(エポキシ基)を2.1モル%含有する粘度平均分子量が80×103 のポリ酢酸ビニル共重合体であることが判明した。
【0021】合成例2〜9合成例1と同様にして(ただし、ビニルエステルモノマーの種類や量、メタノール量、開始剤の種類や量、および未反応ビニルエステルモノマーの除去に一部n−ブタノールを使用等、適宜変更)、表1に示すエポキシ基を有するビニルエステル系重合体を得た。
【0022】
【表1】


【0023】(片末端にチオエステル基を有するビニルエステル系重合体)
合成例10合成例1同様の反応器に、酢酸ビニルモノマー440部とメタノール110部を仕込み、窒素ガスを15分バブリングして脱気した。別途、チオ酢酸0.25部をメタノール10部に溶解したチオールの初期添加液、チオ酢酸3.8部にメタノールを加えて全量を40部にしたチオールの連続添加液およびメタノール50部に2,2'- アゾイソブチロニトリル0.16部を溶解した開始剤溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、別途調製したチオ酢酸の初期添加液と開始剤溶液をこの順序に添加し重合を開始した。直ちにチオ酢酸の連続添加液の添加を開始し、重合を続けた。チオ酢酸の連続添加は、重合の進行に伴う反応器内の固形分濃度の増加にあわせて下記の表2の値を目標に実施した。なお、固形分濃度はサンプリングにより重量法でチェックした。
【0024】
【表2】


【0025】チオ酢酸を連続添加しながら重合を4時間行い、冷却して重合を停止した。この時の固形分濃度は50.1%であった。次に、30℃の減圧下で、メタノールを時々添加しながら、未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度53.2%)を得た。合成例1と同様にして、精製したポリマーを分析した結果、粘度平均分子量31×103 の片末端にアセチルチオ基を有するポリ酢酸ビニル重合体であることが判明した。
【0026】(片末端にチオエステル基を有するメタクリル酸メチル系重合体)
合成例11合成例1と同様の反応器に、メタクリル酸メチルモノマー450部、チオ酢酸6.2部および酒石酸0.016部を仕込み、窒素ガスを15分バブリングして脱気した。別途、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)2%のメチルエチルケトン溶液を開始剤溶液として調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が70℃となったところで、開始剤溶液24部を4.5時間にわたって連続的に添加し重合を行い、冷却して重合を停止した。この時の固形分濃度は43.1%であった。メタノール5000部に、得られた重合液を投入してポリマーを回収し、トルエン−メタノールで再沈−精製を2回繰り返した。この精製ポリマーについて、CDCl3 を溶媒にしてプロトンNMR(日本電子製、GSX-270 )測定およびトルエン中の極限粘度測定を実施した。その結果、粘度平均分子量18×103 の片末端にアセチルチオ基を有するメタクリル酸メチル重合体であることが判明した。
【0027】実施例1攪拌基、還流冷却管、窒素導入管および温度計を備えた反応器に、合成例1で得たエポキシ基を有する重合体のメタノール溶液(濃度44.5%)100部を仕込み、15分窒素ガスをバブリングした後、2−メルカプトエタノール2.2部と水酸化ナトリウム0.03部をメタノール48部に溶解したものを仕込んだ。攪拌しながら50℃で1時間反応させた後、40℃に冷却し、濃度10%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液40部を添加し、けん化を行った。40℃で5時間放置後、粉砕し、酢酸8部を加えて中和した。ソックスレー抽出器を用いて、メタノールで48時間洗浄した後、60℃で20時間乾燥することにより、変性ビニルアルコール系重合体を得た。該重合体のIR測定およびプロトンNMR(d6 −DMSO)測定をしたところ、エポキシ基は完全に消失しており、2.1モル%の2−ヒドロキシエチルチオ基の導入が確認され、ビニルアルコール単位の含有量は97.0モル%であった。また、該ポリマー濃度4%のDMSO溶液を調製し、20℃で粘度を測定したところ、60.3cpであった。
【0028】実施例2〜20表3に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、変性ビニルアルコール系重合体を得た。条件と結果を表3に示す。
【0029】
【表3】


【0030】(表3の脚注)
TGL:チオグリセリンn−DDT:n−ドデカンチオールTP:チオフェノール2−MES:2−メルカプトエタンスルホン酸PFHO:3−(パーフルオロオクチル)−2−ヒドロキシプロパンチオールAM:アリルメルカプタン2−AET:2−アミノエタンチオールCYT:システイン3−MST:3−トリメトキシシリルプロパンチオール3−MPB:3−メルカプトプロピルボロン酸ジメチル2−ATN:2−アセチルチオナフタレン4−MPH:4−メルカプトフェノール2−ATP:2−アミノチオフェノール4−MBA:4−メルカプト安息香酸MSA:メルカプト琥白酸FM:フルフリルメルカプタンTEA:トリエチルアミンTBP:トリブチルホスフィンNaOH:水酸化ナトリウムTBAC:テトラエチルアンモニウムクロリドTHF:テトラヒドロフランVA:ビニルアルコール単位
【0031】
【発明の効果】本発明によると、従来の方法ではPVAに導入することができなかったか、あるいは困難であったアミノ酸基、フェノール性水酸基、フェニル基、フェノキシ基、ナフタレン基、共役ジエンなどの官能基を、PVAに導入することができる。また、本発明によると、アミノ基、アミノ酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、シラノール基、ボロン酸基、ふっ素基、水酸基、炭化水素基、フェノール性水酸基、フェニル基、フェニレン基、フェノキシ基、ナフタレン基、エチレン性不飽和二重結合および共役ジエンなどの官能基の機能が十分に発現する変性ビニルアルコール系重合体が得られる。すなわち、本発明によると、下記の化1で表される化学構造形態により、PVAに官能基を導入することができる。
【0032】
【化1】


【0033】(ここで、R1 ,R2 およびR3 は水素原子または置換基を有していてもよい炭素数8以下の炭化水素基を表し、Sは硫黄原子を表し、Xは官能基を含有する一価の基を表す。)
その結果、官能基の種類を選択することにより、反応性、架橋性、イオン的相互作用、水溶性、界面物性または低温での柔軟性などに優れた変性ビニルアルコール系重合体が得られる。また、本発明によると、比較的マイルドな反応条件(反応溶剤として一般的に使用されているメタノールの沸点以下の温度である60℃以下で、エポキシ基とチオエステル基もしくはチオール基との比がほぼ等モルの条件)で、上記の官能基を効率的にPVAに導入することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エポキシ基を有するビニルエステル系重合体に、チオール基もしくはチオエステル基を有する化合物を反応させ、けん化することを特徴とするビニルアルコール系重合体の製造方法。

【公開番号】特開平9−100320
【公開日】平成9年(1997)4月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−179189
【出願日】平成8年(1996)7月9日
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)