説明

ビニルエーテル誘導体星形ポリマー及びその製造方法

【課題】低臭気、低揮発性且つ低皮膚刺激性であって、毒性が低く、また高機能を有する硬化性、密着性、透明性及び剛直性に優れるカチオン重合性組成物として、有用な新規ポリマー並びにその製造方法の提供。
【解決手段】枝鎖が、特定のビニールエーテル誘導体ホモポリマー、もしくは特定の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーでかつ中心核が特定のジビニルエーテルから構成され、枝鎖の数が1〜100である星形ポリマー並びにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なビニルエーテル誘導体星形ポリマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る、枝鎖がペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテルホモポリマー(別名:ポリ[3−メチル−2,4,8,12−テトラオキサ−スピロ[5.7]トリデカン−9,11−ジイリ)メチレン]、以下「P−PEADVE」と略し、これが枝鎖の星形ポリマーを「SP−PEADVE」と略す)またはトリメチロールエタンアセタールモノビニルエーテルホモポリマー(別名:2−メチル−5−メチル−5−エテニロキシメチル−1,3−ジオキサンホモポリマー)、以下「P−TMEAMVE」と略し、これが枝鎖の星形ポリマーを「SP−TMEAMVE」と略す)で、1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテル(別名:1,4−ビスエテニロキシクロヘキサン、以下「14CHODVE」と略す)または1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル(別名:1,4−ビスエテニロキメチルシクロヘキサン、以下「14CHDVE」と略す)が中心核を構成する星形ポリマー及びその誘導体に関しては、これまでに報告例がないので、これらの化合物(ポリマー)は新規であると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、前記枝鎖がP−PEADVEもしくはP−TMEAMVEまたはそれらの誘導体で、中心核が14CHODVEまたは14CHDVEから構成される星形ポリマー及びその製造方法を提供することにある。これらの星形ポリマーにおいては、その枝鎖の選択幅が広く、中心核部分の大きさや種類も変えられるリビングポリマーとジビニル化合物との組み合わせであるため、種々の性質や機能を付与できることが期待される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に従えば、枝鎖が式(I)もしくは(II):
【化1】

(式中、nは1〜3,000、好ましくは200〜2,000の整数である)で表され、かつ
中心核が式(III)もしくは(IV):
【化2】

で表されるジビニルエーテルから構成され、枝鎖の数が1〜100、好ましくは10〜40である星形ポリマー(X)が提供される。
【0005】
本発明に従えば、また、枝鎖が式(V)もしくは(VI):
【化3】

(式中、nは1〜3,000、好ましくは200〜2,000の整数である)で表され、かつ
中心核が式(III)もしくは(IV):
【化4】

で表されるジビニルエーテルから構成され、枝鎖の数が1〜100、好ましくは10〜40である星形ポリマー(Y)が提供される。
【0006】
本発明に従えば、更に、枝鎖が式(VII)もしくは(VIII):
【化5】

(式中、nは1〜3,000、好ましくは200〜2,000の整数である)で表され、かつ
中心核が式(III)もしくは(IV):
【化6】

で表されるジビニルエーテルで構成され、枝鎖の数が1〜100、好ましくは10〜40である星形ポリマー(Z)が提供される。
【0007】
本発明に従えば、更に、前記式(I)もしくは(II)に対応するビニルエーテル誘導体モノマーを、ルイス酸の存在下に、重合させることによって枝鎖を構成する前記式(I)もしくは(II)のリビング状態の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーを得、得られた前記リビング状態の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーを、前記式(III)もしくは(IV)で表されるジビニルエーテルを、架橋剤として、カップリング反応させて前記星形ポリマー(X)を製造する方法が提供される。
【0008】
枝鎖を構成する前記式(I)もしくは(II)のリビング状態のビニルエーテル誘導体ホモポリマーを、ジビニルエーテルが前記式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルとの反応重合体を、架橋剤として、カップリングさせて得られた前記星形ポリマー(Y)を、ブレンステッド酸の存在下に、水と反応させることによって、前記式(V)もしくは(VI)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーを枝鎖とし、かつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルである前記星形ポリマー(Y)を製造する方法が提供される。
【0009】
本発明に従えば、更に前記方法で製造した枝鎖が式(V)もしくは(VI)のビニルエーテル誘導体ホモポリマーで、かつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルである星形ポリマー(Y)を、有機アミン(例えばピリジン、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジン等)の存在下に、無水酢酸と反応させることによって、枝鎖が式(VII)もしくは(VIII)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーで、かつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルである星形ポリマー(Z)を製造する方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る枝鎖がP−PEADVEまたはP−TMEAMVEで、中心核が14CHODVEまたは14CHDVEで構成される星形ポリマー(X),(Y)及び(Z)及びその誘導体は、低臭気、低揮発性且つ低皮膚刺激性であって、毒性が低く、また、硬化性、密着性、透明性、剛直性などに優れた高機能を有するカチオン重合性組成物として有用なポリマーである。
【0011】
本発明に係る星形ポリマー(X),(Y)及び(Z)は、また、分解温度が280℃以上で、特に、枝鎖がP−PEADVEの場合は、ガラス転移点が180℃以上と非常に高い値を示す。なおこの分解温度及びガラス転移点はそれぞれ(DSC)によって測定した値である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の星形ポリマーの1H−NMRチャートである。
【図2】実施例10の星形ポリマーの1H−NMRチャートである。
【図3】実施例11の星形ポリマーの1H−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る星形ポリマー(X),(Y)及び(Z)は、例えばインク、塗料、レジスト、カラーフィルタ、フィルム等用途並びに接着剤、製版材、封止材、画像形成剤の原料等に用いるのに適しており、低臭気、低揮発性且つ低皮膚刺激性であって、毒性が低く、また、硬化性、密着性、透明性、剛直性などに優れた高機能を有するカチオン重合性組成物として有用である。
【0014】
本発明に係る枝鎖のポリマー(I)及び(II)は、次のような反応式に従って重合することができる。
【0015】
【化7】

【0016】
【化8】

【0017】
即ち、本発明に係る式(I)及び(II)のポリマーは前記式(A)及び(B)の化合物(注:これらの化合物は公知である)、即ちペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテル(以下「PEADVE」と略す)またはトリメチロールエタンアセタールモノビニルエーテル(以下「TMEAMVE」と略す)を、例えば次のような方法で重合させることができる。
【0018】
即ち化合物(A)及び(B)の重合反応は、トルエン、塩化メチレンなどの有機溶媒中で、ポリマーの濃度として0.01〜1.0モル/Lで行うのが好ましく、0.1〜0.5モル/Lがより好ましい。重合条件としては、−50℃〜10℃で0.1時間〜100時間が好ましく、より好ましくは−40℃〜−10℃で1時間〜50時間、最も好ましくは−30℃〜−20℃で5時間〜20時間である。
【0019】
前記式(I)もしくは(II)のリビング状態の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーを得るための重合触媒としては、二成分系開始剤(HCl/ZnCl2)の他、ルイス酸(例えばBF3、BCl3、BBr3、AlCl3、SnBr4など)及びその錯体(例えばBF3OEt2、(CH3CH(Oi−Bu)OCOCH3/SnBr4)等を挙げることができる。
【0020】
触媒の使用量には特に制限はないが、二成分系開始剤(HCl/ZnCl2)の場合、化合物(A)及び(B)のモル数基準で、HClが0.001〜0.010倍モル、ZnCl2が0.0001〜0.0050倍モルであることが好ましく、HClが0.002〜0.005倍モル、ZnCl2が0.0005〜0.0020倍モルであることが更に好ましい。
【0021】
本発明によれば、星形ポリマー(X)を製造するために重合体を、架橋剤(例えば14CHODVEまたは14CHDVE)の存在下に、カップリング反応させる。カップリング条件には特に限定はなく、例えば−40℃〜−10℃で、50時間〜200時間反応させればよい。
【0022】
本発明の星形ポリマーの枝鎖ポリマーの数平均分子量Mnは、200〜600,000であるのが好ましく、40,000〜350,000であるのがさらに好ましく、80,000〜200,000であるのが特に好ましい。本発明の星形ポリマーの枝鎖ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は1〜5であるのが好ましく、1〜2であるのが更に好ましい、生成星形ポリマーの数平均分子量は120,000〜1,000,000であるのが好ましく、250,000〜600,000であるのが更に好ましい。
【0023】
本発明に従ったポリマーの分子量の測定は、光散乱検出器を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフで測定した。ポリスチレンカラムShodex KF−806M(1本)、送液ポンプ島津LC−10ADvp、示差屈折計GL SciencesのRI MODEL 504、光散乱計Viscotek Model 270を使用した。カラム温度は40℃、溶媒にはTHFを使用して、流速1.0mL/minで測定を行った。これにより数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び多分散度(Mw/Mn)を求めた。一方星形ポリマーの腕の計算方法は、星形ポリマーの数平均分子量を、線状ポリマーの数平均分子量に結合した架橋剤分子鎖の分子量を足して、それで割ることで計算している。具体例としてSP−PEADVEについて説明すると、今回測定したSP−PEADVEは、r=10の条件で、架橋剤に14CHODVE(MW=168.23)を用いているので、
(SP−PEADVEのMn)/(P−PEADVEのMn+14CHODVEのMW×10)
=254104/(5912+168.23×10)
33.5本と計算した。
【0024】
本発明に係る星形ポリマーの構造は、これに限定するわけではないが、模式的に示せば以下の通りである。ここで中央の核が中心核であり、枝部が枝鎖を示す。本発明に従って星形ポリマーが生成する機構については、この機構に限定するものではないが、以下の通りである。
【0025】
即ち、リビング重合している、例えば式(I)のポリマーの活性末端に、例えば式(III)の二官能性のモノマーを反応させると、環化重合のような特別な反応が起こらない限り、2個のビニル基のうち1個がまず反応する。次にこの付加反応が数回繰り返され、もともとのポリマー鎖に二官能性モノマーが数個結合した1種のブロックコポリマーが生成する。このブロックコポリマーには、二官能性モノマーの重合体部分に由来する未反応のビニル基が側鎖置換基として存在し、これらのビニル基とブロックコポリマーの活性末端が分子間で次々と反応することにより架橋反応が起こり、これにより、もとのリビングポリマーを枝とし、後で反応させた二官能性モノマーの架橋重合体部分を核とし、核に複数の枝が結合した星形ポリマーが生成する。
【0026】
【化9】

【0027】
上記星形ポリマーを製造するためには、リビング状態の前記式(I)または(II)のポリマーと、式(III)または(IV)のジビニルエーテルとを反応させることにより得ることができ、これらのジビニルエーテルは公知の化合物であり、市販品を使用することができる。
【0028】
本発明に係る前記星形ポリマー(Y)は、枝鎖を構成する前記式(I)もしくは(II)のビニルエーテル誘導体ホモポリマーと、中心核を構成するジビニルエーテルが前記式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルとの反応重合体を、架橋開始剤の存在下にカップリングさせて得られた前記星形ポリマー(X)を、ブレンステッド酸の存在下に、水と反応させることによって、前記式(V)もしくは(VI)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーを枝鎖とし、かつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルである前記星形ポリマー(Y)を製造することができる。使用するブレンステッド酸としては、無機酸、有機酸等があり、その無機酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸等をあげることができ、有機酸としては、例えば酢酸などをあげることができ、その使用量には特に限定してないが、星形ポリマー(X)1gに対し、1モル/L程度の濃度の水溶液を、好ましくは0.2mL〜2.0mL、更に好ましくは0.5mL〜2.0mL使用する。この反応は、無溶剤で行っても良いが、溶剤希釈下で行うことが好ましい。使用することができる溶剤としては、本発明の星形ポリマー(X)、水、触媒などの反応に使用する化合物を溶解または分散することができれば、特に制限は無く、例えば芳香族炭化水素類、双極子非プロトン系溶剤類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。
【0029】
本発明に係る前記星形ポリマー(Z)は、前記方法で製造した枝鎖が前記式(V)もしくは(VI)のビニルエーテル誘導体ホモポリマーでかつ中心核が前記式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルである星形ポリマー(Y)を、有機アミンの存在下に、無水酢酸と反応させることによって、枝鎖が式(VII)もしくは(VIII)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーでかつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルである星形ポリマー(Z)を製造することができる。使用する無水酢酸の使用量には特に限定してないが、星形ポリマー(Y)1gに対し、好ましくは1mL〜25mL、更に好ましくは5mL〜20mL使用する。この反応は、好ましくは、ピリジンをはじめ、トリエチルアミンや4−ジメチルアミノピリジンなどの有機アミンの存在下に、実施する。
【0030】
得られた星形ポリマー(X),(Y)及び(Z)の単離方法には特に限定はないが、一般的な方法に従えば、例えば添加した水、アルコール及び生成するアルデヒド類や塩類等を除去するため水洗、抽出後、溶媒を留去し、真空乾燥することによって所望の星形ポリマーを得ることができる。
【0031】
本発明に従えば、請求項1に記載の、枝鎖が式(I)もしくは(II)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーで、かつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルから構成される星形ポリマー、
請求項4に記載の、枝鎖が式(V)もしくは(VI)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーで、かつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルから構成される星形ポリマー、
請求項7に記載の、枝鎖が式(VII)もしくは(VIII)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーで、かつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルから構成される星形ポリマー、
の任意の2種またはそれ以上を含む樹脂組成物が提供される。この星形ポリマー(X),(Y)及び/または(Z)の配合割合には特に限定はないが、好ましくは、重量比で、
(X):(Y):(Z)=0〜1.0:0〜1.0:0〜0.5
(但し、(X),(Y)及び(Z)はいずれか多くとも1種が0であることができる。)
の割合で配合することができる。
【0032】
本発明に従った星形ポリマーの樹脂組成物は、常法に従って、可塑剤、滑剤、離型剤、有機・無機充填剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料 、着色剤、安定剤、酸化防止剤、イオン捕捉剤などの添加剤を配合して例えばインク、塗料、レジスト、カラーフィルタ、フィルム等用途並びに接着剤、製版材、封止材、画像形成剤の原料などに使用できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲をこれら実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0034】
以下の実施例において、重合率は、PEADVEとTMEAMVE共にテトラリンを内部標準として用い、ガスクロマトグラフィー(GC)で残存モノマー量を測定することにより求めた。GCによる測定は、本体は島津ガスクロマトグラフGC−8A、キャリアガスにはヘリウムを使用した。PEADVEの場合、カラムDC−11、注入温度170℃、カラム温度150℃、TMEAMVEの場合、カラムDC−11、注入温度150℃、カラム温度130℃とした。また、プライマリーガスは500kPa、キャリアガス1(充填カラム)は100kPa、キャリアガス2(抵抗管)は500kPaで測定した。
【0035】
分子量と分子量分布の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレンカラムにShodex K−805K(1本)とK−804L(3本)を取り付けた島津LC−10AD、示差屈折計には島津RID−6A、UV検出器に日立L−7400を使用した。カラム温度は40℃、溶媒にはクロロホルムを使用して、流速1.0mL/minで測定を行った。標準ポリスチレンにより作成した検量線で数平均分子量(Mn)や多分散度(Mw/Mn)をポリスチレン換算で求めた。
【0036】
分子量分別は、分取用ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(分取 GPC)で行い、ポリスチレンカラムにShodex Megapak GEL201を取り付けた日本分光Tri Rotar II、示差屈折計Shodex RI SE−31を使用した。流速3.0mL/min、カラム温度は室温、溶媒にクロロホルムを用いた。
【0037】
核磁気共鳴(NMR)スペクトルの測定には、日本電子LA−500 FT NMRスペクトロメーターを使用した。溶媒にトルエン−d8、内部標準にテトラメチルシラン(TMS)を用いて室温で測定した。
【0038】
ガラス転移温度は、示差走査熱量分析(DSC)で測定した。本体には理学Thermo Plus DSC 8230Lを使用し、標準サンプルにはアルミナを入れたアルミパンを用い窒素雰囲気下で測定した。温度変化の設定は、SP−PEADVEの場合、室温から昇温温度10℃/minで250℃にした後、昇温、降温温度5℃/minで−50℃から250℃の範囲で測定した。また、SP−TMEAMVEの場合、室温から200℃にした後、−50℃から200℃の範囲で測定した。
【0039】
熱分解温度は、熱重量示差熱熱分析(TG−DTA)で測定した。本体には理学TG−DTA 8071G1を使用し、標準サンプルにはアルミナを入れたプラチナパンを用い窒素雰囲気下で測定した。室温から650℃までの温度範囲で昇温温度10℃/minの条件で測定した。
【0040】
以下の実施例において、重合及び溶液調製は、すべて乾燥窒素雰囲気下で行い、三方コックを取りつけたナスフラスコ、シュレンク管はあらかじめヒートガンにより約400℃で5分間ベーキングを行った。重合は、モノマー溶液をシュレンク管に4.0mLずつ分けた後、開始剤0.5mL、活性化剤溶液0.5mLをこの順に注射器で注入し、よく攪拌して開始した。その後、重合がほぼ完了した系に、架橋剤溶液1mLを添加した。重合の停止には、重合系にアンモニア水を少量加えたメタノールを用いた。生成ポリマーの重合率は、ガスクロマトグラフィー(GC)により求めた。重合を停止した溶液を分液ロートに移し塩化メチレンで希釈し、10重量%塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、次に有機層からエバポレーターにより溶媒を除去した。その後、真空乾燥にて生成ポリマーを乾燥させた。得られたポリマーはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分子量、分子量分布を測定した。HCl/ZnCl2開始剤を用いた重合は重合温度を−30℃とした。ガラス転移温度と熱分解温度の測定を行うポリマーサンプルは、SP−PEADVEの場合はアセトニトリルでデカンテーション後、メタノールで再度デカンテーションし、SP−TMEAMVEの場合はメタノールでデカンテーションして回収し、真空乾燥した。さらに、仕込みに際しての条件に設定には、ポリマー鎖1本当たりにつく架橋剤分子の数:rを用いる([P*]0=5/6[HCl]0、r=[Crosslinker]0/[P*]0、ここでP*はドーマント種と活性種の和であり、Crosslinkerとは、架橋剤のことであり、[ ]0は、各初期濃度である)。
【0041】
実施例1
ペンタエリスリトールアセタールジビニルエーテル(PEADVE)をリビング重合開始剤であるHCl/ZnCl2開始剤を用いて、非極性溶媒であるトルエン中、架橋剤として1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテル(14CHODVE)をr=10(ここでrはポリマー鎖1本当たりにつく架橋剤分子の数を示す。)で用いて、−30℃で星形ポリマーの合成を行った。各濃度は、[PEADVE]00.15M、[HCl]0=5.0mM、[ZnCl20=2.0mM、[14CHODVE]0=41.7mMとした。開始剤添加後、12時間で重合がほぼ完了し、架橋剤を添加後72時間で、GPCの分析結果により、星形ポリマーが生成していることが分かった。この反応における直鎖状ポリマーを基にした星形ポリマーの収率は76%であり、この時の数平均分子量(Mn)は140,000であり、多分散度(Mw/Mn)は1.49であった。
【0042】
実施例2
PEADVEをリビング重合開始剤であるHCl/ZnCl2開始剤を用いて、極性溶媒であるCH2Cl2中、架橋剤に14CHODVEをr=10で用いて、−30℃で星形ポリマーの合成を行った。各濃度は、[PEADVE]0=0.15M、[HCl]0=5.0mM、[ZnCl20=2.0mM、[14CHODVE]0=41.7mMとした。開始剤添加後、8時間で重合がほぼ完了し、架橋剤を添加後72時間で、GPCの分析結果により、星形ポリマーが生成していることが分かった。この反応における直鎖状ポリマーを基にした星形ポリマーの収率は75%であり、この時の数平均分子量(Mn)は122,000であり、多分散度(Mw/Mn)は1.42であった。
【0043】
実施例3
PEADVEをリビング重合開始剤であるHCl/ZnCl2開始剤を用いて、極性溶媒であるCH2Cl2中、架橋剤に14CHODVEをr=15で用いて、−30℃で星形ポリマーの合成を行った。各濃度は、[PEADVE]0=0.15M、[HCl]0=5.0mM、[ZnCl20=2.0mM、[14CHODVE]0=62.5mMとした。開始剤添加後、8時間で重合がほぼ完了し、架橋剤を添加後72時間で、GPCの分析結果により、星形ポリマーが生成していることが分かった。この反応における直鎖状ポリマーを基にした星形ポリマーの収率は76%であり、この時の数平均分子量(Mn)は173,000であり、多分散度(Mw/Mn)は2.11であった。
【0044】
実施例4
PEADVEをリビング重合開始剤であるHCl/ZnCl2開始剤を用いて、極性溶媒であるCH2Cl2中、架橋剤に14CHDVEをr=15で用いて、−30℃で星形ポリマーの合成を行った。各濃度は、[PEADVE]0=0.15M、[HCl]0=5.0mM、[ZnCl20=2.0mM、[14CHDVE]0=41.7mMとした。開始剤添加後、8時間で重合がほぼ完了し、架橋剤を添加後72時間で、GPCの分析結果により、星形ポリマーが生成していることが分かった。この反応における直鎖状ポリマーを基にした星形ポリマーの収率は76%であり、この時の数平均分子量(Mn)は100,000であり、多分散度(Mw/Mn)は1.56であった。
【0045】
実施例5
TMEAMVEをリビング重合開始剤であるHCl/ZnCl2開始剤を用いて、非極性溶媒であるトルエン中、架橋剤に14CHODVEをr=10で用いて、−30℃で星形ポリマーの合成を行った。各濃度は、[TMEAMVE]0=0.30M、[HCl]0=5.0mM、[ZnCl20=2.0mM、[14CHODVE]0=41.7mMとした。開始剤添加後、16時間で重合がほぼ完了し、架橋剤を添加後、GPCの分析結果により、星形ポリマーが生成していることが分かった。この反応の架橋剤添加後72時間における直鎖状ポリマーを基にした星形ポリマーの収率は80%であり、この時の数平均分子量(Mn)は87,500であり、多分散度(Mw/Mn)は1.31であった。
【0046】
実施例6
TMEAMVEをリビング重合開始剤であるHCl/ZnCl2開始剤を用いて、非極性溶媒であるトルエン中、架橋剤に14CHDVEをr=10で用いて、−30℃で星形ポリマーの合成を行った。各濃度は、[TMEAMVE]0=0.30M、[HCl]0=5.0mM、[ZnCl20=2.0mM、[14CHDVE]0=41.7mMとした。開始剤添加後、36時間で重合がほぼ完了し、架橋剤を添加後、GPCの分析結果により、星形ポリマーが生成していることが分かった。この反応の架橋剤添加後72時間における直鎖状ポリマーを基にした星形ポリマーの収率は70%であり、この時の数平均分子量(Mn)は89,500であり、多分散度(Mw/Mn)は1.30であった。
【0047】
実施例7
TEMAMVEをリビング重合開始剤であるHCl/ZnCl2開始剤を用いて、極性溶媒であるCH2Cl2中、架橋剤に14CHDVEをr=10で用いて、−30℃で星形ポリマーの合成を行った。各濃度は、[TMEAMVE]0=0.30M、[HCl]0=5.0mM、[ZnCl20=2.0mM、[14CHDVE]0=41.7mMとした。架橋剤を添加後、GPCの分析結果により、星形ポリマーが生成していることが分かった。この反応における星形ポリマーの収率は60%であり、この時の数平均分子量(Mn)は348,000であり、多分散度(Mw/Mn)は1.71であった。
【0048】
実施例8
TMEAMVEをリビング重合開始剤であるHCl/ZnCl2開始剤を用いて、非極性溶媒であるトルエン中、架橋剤に14CHDVEをr=5で用いて、−30℃で星形ポリマーの合成を行った。各濃度は、[TMEAMVE]0=0.30M、[HCl]0=5.0mM、[ZnCl20=2.0mM、[14CHDVE]0=20.8mMとした。開始剤添加後、36時間で重合がほぼ完了し、架橋剤を添加後、GPCの分析結果により、星形ポリマーが生成していることが分かった。この反応の架橋剤添加後72時間における直鎖状ポリマーを基にした星形ポリマーの収率は53%であり、この時の数平均分子量(Mn)は58,000であり、多分散度(Mw/Mn)は1.22であった。
【0049】
実施例9
TMEAMVEをリビング重合開始剤であるHCl/ZnCl2開始剤を用いて、非極性溶媒であるトルエン中、架橋剤に14CHDVEをr=5で用いて、−30℃で星形ポリマーの合成を行った。各濃度は、[TMEAMVE]0=0.30M、[HCl]0=5.0mM、[ZnCl20=2.0mM、[14CHDVE]0=62.5mMとした。架橋剤を添加後、GPCの分析結果により、星形ポリマーが生成していることが分かった。この反応の架橋剤添加後168時間における直鎖状ポリマーを基にした星形ポリマーの収率は84%であり、この時の数平均分子量(Mn)は178,000であり、多分散度(Mw/Mn)は1.23であった。
【0050】
実施例10
三口フラスコに還流管と滴下漏斗を付け窒素置換し、あらかじめ合成したSP−PEADVE(0.15g)をHCl(1.7mL,混合溶液中で1.0Mに調製)をTHF:ジオキサン=3:1溶液(18.3mL)の混合溶液に溶解させ、60℃に加熱した。2mLのイオン交換水を一滴ずつ滴下し、その後、同温度で24時間ないしは48時間攪拌した。反応の停止は、等モルの1.0M NaOH水溶液で中和し停止させた。そして溶媒をエバポレーションにより留去した。中和により生成したNaClを取り除くために、生成物を1−プロパノールに溶解させ、フィルターにて濾過し、濾液をエバポレーション及び真空乾燥することで、側鎖アセタール環の加水分解されたSP−PEADVE得た。
【0051】
実施例11
三口フラスコに還流管を付け窒素置換し、側鎖アセタール環の加水分解されたSP−PEADVE(0.1g)を、ピリジン:無水酢酸=3:1溶液(8mL)に溶解させ、100℃で1時間攪拌した。その後、0.4mLのイオン交換水を加えて無水酢酸を失活させ反応を停止させた。精製は、塩化メチレンで希釈し、1.0M塩酸で一回、10wt%塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、次に有機層からエバポレーションにより溶媒を除去して行った。その後、真空乾燥にて生成ポリマーを乾燥させた。
【0052】
実施例12
三口フラスコに還流管と滴下漏斗を付け窒素置換し、あらかじめ合成したSP−TMEAMVE(0.15g)をHCl(1.7mL,混合溶液中で1.0Mに調製)をTHF:ジオキサン=3:1溶液(18.3mL)の混合溶液に溶解させ、60℃に加熱した。2mLのイオン交換水を一滴ずつ滴下し、その後、同温度で24時間ないしは48時間攪拌した。反応の停止は、等モルの1.0M NaOH水溶液で中和し停止させた。そして溶媒をエバポレーションにより留去した。中和により生成したNaClを取り除くために、生成物を1−プロパノールに溶解させ、フィルターにて濾過し、濾液をエバポレーション及び真空乾燥することで、側鎖アセタール環の加水分解されたSP−TMEAMVE得た。
【0053】
実施例13
三口フラスコに還流管を付け窒素置換し、側鎖アセタール環の加水分解されたSP−TMEAMVE(0.1g)を、ピリジン:無水酢酸=3:1溶液(8mL)に溶解させ、100℃で1時間攪拌した。その後、0.4mLのイオン交換水を加えて無水酢酸を失活させ反応を停止させた。精製は、塩化メチレンで希釈し、1.0M塩酸で一回、10wt%塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、次に有機層からエバポレーションにより溶媒を除去して行った。その後、真空乾燥にて生成ポリマーを乾燥させた。
【0054】
比較例1
TMEAMVEをリビング重合開始剤であるHCl/ZnCl2開始剤を用いて、非極性溶媒であるトルエン中、架橋剤に1,4−ブタンジオールジビニルエーテル(以下、「BDVE」)をr=10で用いて、−30℃で反応を試みた。各濃度は、[TMEAMVE]0=0.30M、[HCl]0=5.0mM、[ZnCl20=2.0mM、[BDVE]0=41.7mMとした。GPCの分析では、架橋剤を添加後、星形ポリマーの生成を確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る枝鎖がP−PEADVEまたはP−TMEAMVEで、中心核が14CHODVEまたは14CHDVEで構成される星形ポリマー(X),(Y)及び(Z)及びその誘導体、各々単独で使用するかあるいは併用することにより、枝鎖部の多用な置換基の幅広い極性由来の特性、特に、親水性・疎水性を制御できる特徴を持ち、その枝鎖部の剛直さ故、明確な物性を示す様々な材料として使用される可能性を秘めている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枝鎖が式(I)もしくは(II):
【化1】

(式中、nは1〜3,000の整数である)で表され、かつ
中心核が式(III)もしくは(IV):
【化2】

で表されるジビニルエーテルから構成され、枝鎖の数が1〜100である星形ポリマー。
【請求項2】
枝鎖ポリマーの数平均分子量Mnが200〜600,000である請求項1に記載の星形ポリマー。
【請求項3】
枝鎖ポリマーの分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1〜5である請求項1又は2に記載の星形ポリマー。
【請求項4】
枝鎖が式(V)もしくは(VI):
【化3】

(式中、nは1〜3,000の整数である)で表され、かつ
中心核が式(III)もしくは(IV):
【化4】

で表されるジビニルエーテルから構成され、枝鎖の数が1〜100である星形ポリマー。
【請求項5】
枝鎖ポリマーの数平均分子量Mnが200〜600,000である請求項4に記載の星形ポリマー。
【請求項6】
枝鎖ポリマーの分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1〜5である請求項4又は5に記載の星形ポリマー。
【請求項7】
枝鎖が式(VII)もしくは(VIII):
【化5】

(式中、nは1〜3,000の整数である)で表され、かつ
中心核が式(III)もしくは(IV):
【化6】

で表されるジビニルエーテルから構成され、枝鎖の数が1〜100である星形ポリマー。
【請求項8】
枝鎖ポリマーの数平均分子量Mnが200〜600,000である請求項7に記載の星形ポリマー。
【請求項9】
枝鎖ポリマーの分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1〜5である請求項7又は8に記載の星形ポリマー。
【請求項10】
請求項1に記載の式(I)もしくは(II)に対応するビニルエーテル誘導体モノマーを、ルイス酸の存在下に、重合させることによって枝鎖を構成する請求項1に記載の式(I)もしくは(II)のリビング状態の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーを得、得られた前記リビング状態の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーを、前記式(III)もしくは(IV)で表されるジビニルエーテルを架橋剤として、カップリング反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の星形ポリマーを製造する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法で製造した枝鎖が、前記式(I)もしくは(II)のビニルエーテル誘導体ホモポリマーで、かつ中心核が前記式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルである星形ポリマーを、ブレンステッド酸の存在下に、水と反応させることを特徴とする、枝鎖が式(V)もしくは(VI)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーで、かつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルである請求項4〜6のいずれか1項に記載の星形ポリマーを製造する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法で製造した枝鎖が、前記式(V)もしくは(VI)のビニルエーテル誘導体ホモポリマーで、かつ中心核が前記式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルである星形ポリマーを、有機アミンの存在下に、無水酢酸と反応させることを特徴とする、枝鎖が式(VII)もしくは(VIII)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーで、かつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルである請求項7〜9のいずれか1項に記載の星形ポリマーを製造する方法。
【請求項13】
(i)請求項1に記載の、枝鎖が式(I)もしくは(II)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーでかつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルから構成される星形ポリマー、(ii)請求項4に記載の、枝鎖が式(V)もしくは(VI)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーでかつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルから構成される星形ポリマー及び(iii)請求項7に記載の、枝鎖が式(VII)もしくは(VIII)の1,3−ジオキサン誘導体ホモポリマーでかつ中心核が式(III)もしくは(IV)のジビニルエーテルから構成される星形ポリマーの3種類の星形ポリマーの任意の2種又はそれ以上を含んでなる樹脂組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−236273(P2011−236273A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106605(P2010−106605)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】