説明

ピストン・スクレーパ組立体

【課題】 高圧液体クロマトグラフィー・コラム(1)用のピストン・スクレーパ組立体(26)を提供する。
【解決手段】 本ピストン・スクレーパ組立体は、ピストン(5)とスクレーパ(25)との間にスナップ固定装置を備える。スナップ固定装置は、ピストン壁(17)内の溝(23)と、スクレーパ25の内面内の相補形溝(39)と、それらの溝内に嵌合する弾性O−リング(43)のようなロック・シール・バイアス手段(45)とを含む。さらに、ピストンが、シール手段(43)を収容した別の環状溝(21)を備えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主請求項のプリアンブル部分に記載したタイプの、高圧クロマトグラフィー・コラム用のピストン・スクレーパ組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧クロマトグラフィー・コラムにおいては、多くの場合、クロマトグラフィー・コラム内にピストンを可動に配置して、ピストンによってクロマトグラフィー媒体を加圧しかつ圧密化するのを可能にする。このようにして、分離媒体の実質的に均質なベッドを得ることができる。媒体の加圧時に発生する1つの問題は、ピストン側面とコラム壁面との間に、研摩性の媒体粒子が捕捉された状態になる可能性があることである。これらの粒子は、シリンダ壁を損傷させるだけでなく、ピストンのシールを損傷させるおそれがある。特許文献1には、クロマトグラフィー・シリンダ内で可動のピストンを有する高圧クロマトグラフィー・コラムが記載されており、そこでは、ピストンの頭部は、シリンダ壁スクレーパを支持するフリットホルダを備えている。このスクレーパの目的は、充填媒体がピストン壁上のシール用O−リングに到達するのを防止するために、ピストンから前方にパッキング媒体を移動させることである。スクレーパは、フリットホルダの雄ネジ部分と協働する雌ネジを備えたリングの形態になっている。この先行技術の装置の持つ問題点は、パッキング媒体がスクレーパを通過するのを防止するためには、スクレーパとシリンダ壁との間のギャップが、媒体の粒径よりも小さくなくてはならないことである。このことは、スクレーパ及びシリンダ壁の両方に対して、非常に精密かつ高価な機械加工公差及び表面仕上げを必要とする。これに加えて、このスクレーパは、液体が侵入してピストン壁上のシール用O−リングと接触した状態になるのを防止することができない。このことは、O−リングが洗浄液又は処理液のような、コラム内で使用する液体に対する耐性がない場合に問題である。
【特許文献1】特開平03−166299号
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明によると、先行技術についての問題の少なくとも幾つかは、請求項1のキャラクタライジング部分に記載した特徴を有するピストン・スクレーパ組立体によって解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
図1及び図2は、クロマトグラフィー・コラム1の一部分を概略的に示す。コラム1は、内径φCの円筒状シリンダ壁3を含む。可動の段付き円筒状ピストン5が、コラム1の一端部を閉鎖する。ピストン5は、使用中に分離媒体に面する前面すなわち第1の面7を有し、この前面すなわち第1の面7は、コラム1内の液体のための収集空間9を備える。貫通孔11は、ピストン5を貫通して延び、収集空間9をピストン5の後面すなわち第2の面15に接続可能な流体管13に接続する。第1の面7とピストン5の長さL1の第1の部分17とは、第2の面15の直径φ2よりも小さい直径φ1を有する。第2の面15とピストン5の残りの長さL2の部分との直径φ2は、ピストンがコラム1内で自由に上下動するのを可能にするように、シリンダ壁3の内径φCよりも十分に小さい。収集空間9は、液体がコラム1の内部から収集空間9内に流入することは許すが、ベッド媒体が収集空間9内に入ることは阻止する液体透過性プレート19によって蓋われる。
【0005】
ピストン5は、その直径φ1の円筒状表面内に設けられた、間隔を置いた第1及び第2の環状溝21及び23を有する。第1の環状溝21は、第1の面7から小さな距離d1にあり、第2の環状溝23は、第1の面からさらに遠くに離れており、第1の溝21から距離d2の位置にある。第1及び第2の溝21、23は、深さがD1mmであり、方形断面を有する。ピストン5の第1の面7から距離L1の位置おいて直径φ1からφ2になる、円筒状ピストン表面の直径内の段部24は、第1の面7からd2よりもさらに遠くに離れている。
【0006】
スクレーパ25は、ピストン5の第1の部分17に装着することができ、両者併せてピストン・スクレーパ組立体26を形成する。スクレーパ25は、L字形断面を有するリングの形態になっている。L字形スクレーパ25の基部27は、該基部がプレート19に重なるのに十分なほどコラム壁3からコラムの中心に向かって延びて、それによって直径φsの中央開口部を残した状態でピストン5上にプレート19を保持することができるようになっている。L字形スクレーパ25の背部29は、ピストンの第1の部分17とシリンダ壁との間に嵌合するようになっており、液体透過プレート19から段部24に向かってコラムの長手方向に延びる。背部29の長さは、背部29が正しく嵌合された時に、段部24と接触した状態にならないように選択され、背部が長過ぎた場合には、あたかも段部24上に何か異物が存在するかのように、ピストン5上にスクレーパ25を正しく嵌合することが妨げられることになる。
【0007】
スクレーパ25は、シリンダ壁3を掻取るためのものであり、基部27にはその外面33上にリップ部31が設けられる。リップ部31の直径は、コラム1内部でピストン5に嵌合された時に、リップ部がシリンダ壁3と掻取り接触状態になるように選択され、従ってリップ部31は、弾性材料で作ることができ、またシリンダ3の内径φCよりも大きい非圧縮状態の直径を有することができる。リップ部31は、ピストン5から離れる方向に面する基部27の外面33と端面34との接合部に配置されるのが好ましい。背部29の中間位置には、シリンダ壁3と接触した状態になった外径φFのフランジ35が設けられる。フランジ35は、第2の溝23と重なる背部29上の位置に設けられる。外面33には、リップ部31からフランジ35のベース部まで内向きにテーパが付けられ、外面33とシリンダ壁3との間にギャップ36が残った状態になる。
【0008】
スクレーパ25のL字形状の「背部」の内面37は、ピストン5の第1の部分17上への滑動嵌合部となる直径φSを有し、かつスクレーパ25がピストン5に正しく取付けられた時に第2の環状溝23と対向する位置に、深さD2mmの相補形シール・ロック溝39を備えている。ピストン5上にスクレーパ25を取付けるのを容易にするために、内面37には、基部27から最も遠いその端部41にテーパを付けるのが好ましい。
【0009】
第1の環状溝21は、シール手段、例えばO−リング43のようなシールリングを収容する。O−リング43の寸法は、スクレーパ25が正しく取付けられた時に、液体及びベッド媒体が第1の部分17とスクレーパ25との間を通過するのをO−リング43が防止し、それによってベッド媒体によりピストンの壁及びスクレーパの内面が研摩されるのを防止するように選択される。O−リング43の厚さは、深さD1よりも10〜50%大きいのが好ましい。リップ部の寸法及び弾性は、リップ部が該リップ部31をシリンダ壁3に対して押付けて、それによって液体及びベッド媒体が外面33とシリンダ壁3との間のギャップ36に入るのを防止するように選択されるのが好ましい。
【0010】
第2の溝23は、シールリング、例えばO−リング45のような弾性ロック・シール・バイアス手段を収容する。O−リング45の寸法は、スクレーパ25がシール・ロック溝39を第2の環状溝23に対向させて正しく取付けられた時に、スクレーパ25がコラム1内にひとたび挿入された正常な使用中にスクレーパ25がピストン5から引き離されるのを防止するのに十分な力で、O−リング45がシール・ロック溝39内に延びるように選択される。O−リング45の厚さは、総合深さD1+D2よりも10%〜100%大きいのが好ましい。O−リング45はまた、第1の部分17とスクレーパ25との間をシールすると共にフランジ35をシール力でシリンダ壁3に対して押付け、それによって媒体がピストン5とシリンダ壁3との間に入るのを防止するような寸法にされ、かつそのようにその弾性が選択される。
【0011】
ピストン・スクレーパ組立体26は、下記の方法で組み立てることができる。
・第2の環状溝23内に、弾性ロック・シール・バイアス手段45を嵌装する。
・第1の溝21内に、シール手段43を嵌装する。
・第1の面7上にプレート19を配置する。
・テーパ付き端部41を第1の面7に当てた状態でスクレーパ25を配置し、次にピストン5の第2の面15に向かってスクレーパ25を押込む。スクレーパ25を第2の面15に向かって進ませながら、スクレーパ25上のシール・ロック溝39が第2の溝23に対向する位置に移動するまで、その内面37によって、シール手段43及びロック・シール・バイアス手段45を圧縮する。この時点において、スクレーパ内面37によって第2の溝23内に圧縮されていた弾性ロック・シール・バイアス手段45は、シール・ロック溝39内に張出す。これは、スクレーパ25をピストン5上に保持するためのスナップ固定装置として作用する。
【0012】
コラム1の外部では、ピストン・スクレーパ組立体26は、スクレーパをピストン5から引き離すことによって取外し可能である。すなわち、スクレーパ25は半径方向に拘束されていないので、スクレーパの内面37がロック・シール・バイアス手段45上を通過することを容易にするように、スクレーパ25は僅かに拡張することができる。しかしながら、ピストン・スクレーパ組立体がひとたびコラム1内に嵌合されると、スクレーパは、シリンダ壁3によって半径方向に拘束されて、スクレーパをピストン5から引き離すことは一層難しくなる。スクレーパ、ピストン及びロック・シール・バイアス手段45の製造に使用する材料並びそれらの設計のために選択した寸法は、コラム1内部にある時、正常な使用中にスクレーパ25がピストン5から外れることがないように選択される。
【0013】
このようにして、高い信頼性でシール作用を行いかつ組立て容易であるが、使用中に望ましくない分解を起こすことなく固定されるピストン・スクレーパ組立体が得られる。
【0014】
図3には、本発明によるピストン・スクレーパ組立体26’の第2の実施形態を示す。図1及び図2に示す特徴形状部に対応する特徴形状部に対しては、同一の参照符号を使用する。ピストン・スクレーパ組立体26’は、ロック・シール・バイアス手段43を受ける単一の溝23’をピストン5内に備える。この実施形態は、ロック・シール・バイアス手段43に接触した状態になる液体に対するシールが本発明の第1の実施形態ほど良好ではないが、製造するのがより安価である。この実施形態は、短期間の使用にはより適しており、ロック・シール・バイアス手段43がコラム内で使用する液体によって侵食され、また早期に摩耗した時には、短期間の使用後に廃棄することができる。
【0015】
スクレーパ25は、クロマトグラフィー・コラムの稼動中及び洗浄中に使用する流体に対して耐性があるポリマー材料で作製されるのが好ましい。スクレーパの材料は、スクレーパをピストン上にスナップ装着するのに十分な弾性があるのが好ましい。ピストンもまた、ポリマー材料で作ることができる。適当な材料は、例えばグラスファイバ又はカーボンファイバなどのファイバで任意選択的に補強したPEHD及びPTFEである。
【0016】
溝が方形断面を有する例を用いて、本発明の幾つかの実施形態を説明してきたが、矩形、半円形、テーパ状等々のようなその他の形状の断面も当然のことながら可能である。シールリングは、円形ではなく、X字形、V字形、楕円形等々の断面を有することができると考えられる。
【0017】
上記の実施形態は、単に本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲によって請求した保護の範囲を限定するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態によるピストン・スクレーパ組立体を備えたクロマトグラフィー・コラムの一部分の概略断面図。
【図2】図1におけるピストン・スクレーパ組立体の一部分の拡大図。
【図3】本発明による、ピストン・スクレーパ組立体の第2の実施形態の一部分の拡大図。
【符号の説明】
【0019】
1 クロマトグラフィー・コラム
3 シリンダ壁
5 ピストン
7 前面
9 収集空間
11 貫通孔
13 流体管
15 後面
17 ピストンの第1の部分
19 液体透過プレート
21 第1の環状溝
23 第2の環状溝
24 ピストンの段部
25 スクレーパ
26 ピストン・スクレーパ組立体
27 スクレーパの基部
29 スクレーパの背部
31 スクレーパのリップ部
35 スクレーパのフランジ
39 スクレーパ内面の相補形シール・ロック溝
43 O−リング(シール手段)
45 O−リング(弾性ロック・シール・バイアス手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン(5)とスクレーパ(25)とを含み、前記ピストン(5)が、前面すなわち第1の面(7)、円筒状部分(17)及び第2のすなわち後面(15)を有しかつ前記円筒状部分(17)内に深さD1mmの環状溝(23、23’)を備え、また前記スクレーパ(25)が、L字形断面を有しかつその内面37内に深さD2mmの相補形溝(39)を有する、前記ピストン(5)上に装着するようになったリングである、ピストン・スクレーパ組立体(26、26’)であって、
前記環状溝(23、23’)が、該環状溝(23、23’)から前記相補形溝(39)内に延びて前記スクレーパ(25)を前記ピストン(5)上に保持するようになった弾性シール・ロック・バイアス手段(45)を備えている、
ことを特徴とするピストン・スクレーパ組立体。
【請求項2】
前記ピストンが、シール手段(43)を収容した別の環状溝(21)を備えていることを特徴とする、請求項1記載のピストン・スクレーパ組立体。
【請求項3】
前記弾性シール・ロック・バイアス手段(45)が、D1+D2mmよりも大きい厚さを有するシールリングであることを特徴とする、請求項1及び請求項2のいずれか1項記載のピストン・スクレーパ組立体。
【請求項4】
前記別の環状溝(21)が、前記ピストン(5)の第1のすなわち前面に対して、前記環状溝(23、23’)よりも近接していることを特徴とする、請求項2及び請求項3のいずれか1項記載のピストン・スクレーパ組立体。
【請求項5】
前記スクレーパが、ポリマー材料で作られていることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項記載のピストン・スクレーパ組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−512569(P2006−512569A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−563221(P2004−563221)
【出願日】平成15年12月29日(2003.12.29)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014946
【国際公開番号】WO2004/059314
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(597064713)アメルシャム・バイオサイエンシーズ・アクチボラグ (109)
【氏名又は名称原語表記】Amersham Biosciences Aktiebolag