説明

ピッチ低減方法

【課題】紙及び板紙の製紙工程において、簡易な添加方法で製紙欠陥や汚れ発生等のトラブルの要因となるピッチの低減方法を提供することを課題とする。
【解決手段】抄紙前の製紙原料において、高HLB(親水性親油性バランス)界面活性剤を用いて乳化し製造したカチオン性あるいは両性水溶性重合体からなる油中水型エマルジョンを水と混合する手段を、配管途中に連結し連続溶解した希釈液を製紙原料に添加することにより、上記課題を解決することができる。また前記界面活性剤のHLBは、11〜20であることが好ましく、製紙原料が配合前の個別原料であり、脱墨古紙あるいはコートブロークであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙前の製紙工程において、高HLB(親水性親油性バランス)界面活性剤を用いて乳化し製造したカチオン性あるいは両性水溶性重合体からなる油中水型エマルジョンを水と混合する手段を配管途中に連結し連続溶解した希釈液を製紙原料に添加することを特徴とするピッチ低減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙の製造において、古紙配合率の増加や、中性抄造化、抄紙系用水のクローズド化により製紙原料中のアニオントラッシュ(アニオン性夾雑物)、マイクロピッチ、濁度成分が増加している。これらアニオントラッシュ、マイクロピッチ、濁度成分が微細な状態で製紙原料中に存在している限り製紙へ欠陥として発生することは少ないが、攪拌やエアレーション、pH変化、薬剤添加により集塊化され紙の欠陥発生原因となる。
【0003】
「ピッチ」という用語は、低分子量及び中分子量の様々な天然の疎水性有機樹脂類を指し、又、これらの樹脂類が原因となるパルプ製造と製紙処理工程の際の析出物を指す。ピッチは、脂肪酸、樹脂酸、それらの不溶性の塩類、及び脂肪酸とグリセロールやステロール類とのエステル等(トリグリセリド類など)を指す。また古紙製造時に由来するサイジング剤、ワックス類やコーティングバインダー等の疎水的微細粒子は、「スティッキー」と呼ばれているが、「ピッチ」と区別しないで使用される場合もある。これらピッチ及びスティッキーは単独で、あるいは不溶性の無機塩類、充填材、繊維、脱泡剤成分、被覆用結合剤、その他同様のものと一緒に析出することがある。
【0004】
ピッチとして成長、粗大化する前のピッチ由来成分、即ちマイクロピッチはコロイド状になって分散しているが、何らかの攪拌やエアレーション、pH変化、薬剤添加により集塊化され紙の欠陥発生原因となる。抄紙系内でマイクロピッチがどのような要因で成長、粗大化し原因物質になっていくかについて様々な報告がされているが、第一としては原料チェストや混合チェスト、マシンチェスト、種箱までのおよそ3〜4%の原料系であり、もう一つは種原料(配合原料のみで白水で希釈される前の原料)が循環白水で希釈され、インレットとなり、その白水が更に循環する白水循環系である。原料チェストや混合チェスト、マシンチェスト、種箱までの間で集塊化され、ある程度の大きさの粒子となり、これらやや粗大化した粒子が、白水循環系においてパルプ繊維に定着せず集塊化が進んだピッチ分は、微細繊維や填料を巻き込んで粗大粘着物になり、ファンポンプ、配管内、ワイヤー、フェルト、ロール等の抄造装置や用具に付着するだけでなく、これら付着物が剥離して湿紙に乗り製紙欠陥となると推定される。そのため、アニオントラッシュやマイクロピッチが成長、粗大化する(ピッチとなる)前に凝結剤やピッチコントロール剤と言われるカチオン性あるいは両性重合体を添加し、電荷の中和によりアニオントラッシュやマイクロピッチを処理する方法や粘着性を低下させる方法が汎用されている。製紙原料のカチオン要求量、濁度の値とピッチ発生頻度は比較的高い相関関係にあり、これらの数値が高いとピッチ発生の頻度が高くなる傾向にあるため、アニオントラッシュやマイクロピッチが成長、粗大化することを抑制することが望まれる。一般的に凝結剤は、分子量が低く比較的カチオン密度の高い重合体が用いられているが、特にカチオン要求量や濁度が高い製紙原料については、凝結作用だけではなく、ある程度の凝集作用も必要となる場合があり、成紙の地合いに影響を与えない程度の分子量の重合体が要望されている。重合体の分子量を調節することが容易であるため、上記ピッチコントロール剤は、油中水型エマルジョン重合によって製造される例が多くあり、その技術が開示されている(特許文献1〜2)。しかしエマルジョン型重合体を製紙現場で使用する時は、通常0.1〜0.2質量%以下に溶解して用いるが、水と希釈すると高粘性となるために溶解設備が必要となり、使用量が多いときには溶解設備が大きくなり新たな設備投資や設置スペースが必要なことや、多量の希釈用水の確保が必要なため使用が制約されることがある。そこで、特許文献3のように簡易な溶解設備である希釈注入システムも提案されているが、未溶解物が配管途中に詰まる閉塞トラブル等が多く発生しており、簡易な溶解設備に合致した更なる溶解性の優れた油中水型エマルジョンの開発が望まれている。
【特許文献1】特開2003−221798号公報
【特許文献2】特表2001−515971号公報
【特許文献3】特開平7−328319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、紙及び板紙の製紙工程において、簡易な添加方法で優れたピッチ低減効果を発揮するピッチの低減方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため鋭意検討を行なった結果、抄紙前の製紙原料において、高HLB(親水性親油性バランス)界面活性剤を用いて乳化し製造したカチオン性あるいは両性水溶性重合体からなる油中水型エマルジョンを水と混合する手段を配管途中に連結し連続溶解した希釈液を製紙原料に添加することにより、アニオントラッシュ、濁度成分およびマイクロピッチを低減することが可能であることを発見し本発明に達した。
【発明の効果】
【0007】
本発明の特徴は、製紙のピッチ低減方法において、従来のピッチコントロール剤に比べて溶解性が優れるため簡易な添加方法で使用でき、また顕著なピッチ低減効果も得られる薬剤を用いた製紙方法を発見したことにある。この薬剤を用いた製紙方法によりアニオントラッシュ、濁度成分及びマイクロピッチを封鎖し、ピッチ低減効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の油中水型エマルジョンは、カチオン性あるいは両性重合体からなる。使用することのできるカチオン性あるいは両性重合体は、ポリビニルアミンあるいはポリアミジン等も使用可能であるが、特に好ましい重合体としては、下記一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体を10〜100モル%、必要に応じてアニオン性単量体として、下記一般式(3)で表される単量体を0〜35モル%、及び共重合可能な非イオン性水溶性単量体として0〜90モル%からなる単量体混合物を重合することによって製造したものである。
【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】


一般式(2)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基、
あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。

【化3】

一般式(3)
は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOO、Rは水素又はCOO、YあるいはYは水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【0009】
油中水型エマルジョンの製造方法としては、イオン性単量体及び非イオン性単量体からなる単量体混合物を水、水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合することにより合成する方法である。油中水型エマルジョンを形成するに有効な高HLB界面活性剤の例としては、非イオン性界面活性剤のポリオキシエチレンアルキルエ−テル系、ポリオキシエチレンアルコールエ−テル系、ポリオキシエチレンアルキルエステル系等である。具体的には、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(5)ソルビタンモノオレート等である。これら高HLB界面活性剤のHLB値は、HLB11〜20であることが好ましい。添加量としては、油中水型エマルジョン全量に対して0.5〜10質量%であり、好ましくは1〜5質量%である。
【0010】
また分散媒として使用する炭化水素からなる油状物質の例としては、パラフィン類あるいは灯油、軽油、中油等の鉱油、あるいはこれらと実質的に同じ範囲の沸点や粘度等の特性を有する炭化水素系合成油、あるいはこれらの混合物が挙げられる。含有量としては、油中水型エマルジョン全量に対して20〜50質量%であり、好ましくは20〜35質量%である。
【0011】
重合条件は通常、使用する単量体や共重合モル%によって適宜決めていき、温度としては20〜80℃の範囲で行なう。好ましくは、20〜60℃の範囲で行なう。重合開始はラジカル重合開始剤を使用する。これら開始剤は油溶性あるいは水溶性のどちらでも良く、アゾ系、過酸化物系、レドックス系何れでも重合することが可能である。油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、1、1−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2、2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2、2’−アゾビス−2−メチルプロピオネート、4、4’−アゾビス−(4−メトキシ−2、4−ジメチル)バレロニトリル等が挙げられる。
【0012】
水溶性アゾ開始剤の例としては、2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’−アゾビス[2−(5−メチル−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩化水素化物、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等が挙げられる。又、レドックス系の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等との組み合わせが挙げられる。更に過酸化物の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウムあるいはカリウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート等を挙げることができる。
【0013】
単量体の重合濃度は20〜50質量%の範囲であり、好ましくは25〜40質量%の範囲であり、単量体の組成、重合法、開始剤の選択によって適宜重合の濃度と温度を設定する。これらの単量体を重合して得られる油中水型エマルジョンの光散乱法による重量平均分子量は、10万〜500万の範囲であり、好ましくは10万〜300万の範囲である。10万より低いと凝結あるいは凝集作用が弱く好ましくはない。また500万より大きいとマイクロピッチを粗大化させるなど逆効果が働く結果、紙質へ悪影響を及ぼし好ましくない。
【0014】
一般的に油中水型エマルジョンを水に溶解する場合、溶解性を促進するため高HLB界面活性剤からなる転相剤を使用するが、本発明で使用する油中水型エマルジョンは、転相剤は必須ではなく適宜、溶解速度を調節するため使用しても良い。高HLB界面活性剤の例としては、前記と同様な高HLB9〜20のノニオン性界面活性剤であり、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンアルコールエーテル系、ポリオキシエチレンアルキルエステル系等である。
【0015】
本発明で使用する油中水型エマルジョンを製造する際使用するイオン性単量体のうち、カチオン性単量体である前記一般式(1)あるいは(2)は以下の様な例がある。即ち、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアリルメチルアミン等が挙げられ、これら単量体を塩化メチルや塩化ベンジルによってアルキル化した四級アンモニウム基含有単量体の例は、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、ジアリルジメチルアンモニウム塩化物等である。
【0016】
アニオン性単量体である前記一般式(3)の例としては、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、あるいは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フタル酸あるいはp−カルボキシスチレン酸等が挙げられる。
【0017】
非イオン性単量体の例としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0018】
本発明の油中水型エマルジョンからなるカチオン性あるいは両性水溶性重合体は、架橋性単量体を共存させ製造したカチオン性あるいは両性水溶性重合体を使用することができる。具体例としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等のジビニル化合物、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミド等のビニル系メチロール化合物、アクロレイン等のビニル系アルデヒド化合物あるいはこれらの混合物が挙げられるが、これらの中でもN,N’−メチレンビスアクリルアミドの使用が好ましい。架橋性単量体の添加量としては、重合に使用する単量体に対して質量換算で1〜1000ppm、好ましくは5〜500ppmである。
【0019】
本発明の油中水型エマルジョンは、製造時に高HLB界面活性剤を使用して乳化する。その理由は以下のようである。油中水型エマルジョンは、製品の状態では粘性は低いが、水を加えて希釈すると高粘性のものとなる。連続溶解する場合は、製品原液の供給と希釈水の供給をタイミングよく行なわないと未溶解粒子が希釈液中に多量に発生し、薬剤が効率的に使用されなくなるばかりか、連続溶解システムそのものが運転停止に至ることになる。しかし、本発明の油中水型エマルジョンは、製造乳化時に高HLB界面活性剤を使用しているため溶解性が従来の製品より改善されており、速やかに希釈、溶解していき、その結果、優れた凝結・凝集効果を発現するため連続溶解に適している。
【0020】
本発明の油中水型エマルジョンを製紙原料に添加する場合の希釈方法は、以下のように行なう。即ち、油中水型エマルジョンを水と混合し配管途中に連結し連続溶解する手段としては、一般的なラインミキサーを使用することが好ましい。例えば、油中水型エマルジョンをライン途中で溶解するシステムは、特許文献3に開示されている。このシステムの工夫は、希釈水と製品原液を合流させるT字型配管部品に関して、このT字型配管部品と製品原液とを結合する接点にバルブを設け、T字型配管部品の開口部からバルブ装着部までの配管容量が500ml以下とすることによって、希釈操作中断による配管中の未溶解物量を最小限に抑えることにより配管の閉塞を抑制することができる。従来、油中水型エマルジョン製品は、低HLB界面活性剤を水非混和性有機液体と単量体水溶液混合物に添加し、油中水型エマルジョンを調製し、重合した後、高HLB界面活性剤を加え、希釈水と混合した場合、水に馴染みやすく溶解しやすいように処理されている。
【0021】
本発明の油中水型エマルジョンを水により希釈する場合、乳化時に高HLB界面活性剤を使用しているため水とのなじみが向上し、更に転相剤量は従来の油中水型エマルジョンより少量であるため急激に粘性を帯びずに希釈液を調製することができる。これは、高HLB界面活性剤は親水性であり、油とは混じらず水に拡散していき、エマルジョン粒子表面から剥離していく油の膜を水中に分散させていくのを助ける。その結果、スムーズに希釈、溶解していき、優れた凝結・凝集効果を発現するものと考えられる。これに対し、低HLB界面活性剤(すなわち疎水性界面活性剤)により乳化し、重合した場合は、重合後高HLB界面活性剤を添加し、油中水型エマルジョンの溶解を助けている。高HLB界面活性剤は水中に拡散していくが、表面が疎水性乳化剤と油の膜で覆われたエマルジョン粒子が取り残される。水中には高HLB界面活性剤が存在するので油は、水中に乳化していくが、この高HLB界面活性剤の水中への拡散と、油中水型エマルジョン表面の油の水中への乳化のずれが、いわゆるフィッシュアイや不溶解物の発生に関係していると推定される。高HLB界面活性剤を使用して乳化、重合した場合のほうが、水中への溶解がよりスムーズに行われると考えられる。
【0022】
本発明の油中水型エマルジョンの溶解濃度としては、0.1〜2.0質量%であり、好ましくは0.3〜2.0質量%である。溶解濃度を高くした場合、二つの要因が考えられる。一つは、濃度を高くして溶解すると界面活性剤の濃度は濃度を低くして溶解するよりも相対的に高い。その結果、油中水型エマルジョンを溶解するには有利となる。もう一つの要因は、濃度が高い状態では、エマルジョン粒子の存在量も多くなり、粒子同士の衝突の確立は増加する。その結果、エマルジョンからなる重合体粒子同士が衝突するたびに「すり潰され」、
分散し、膨潤崩壊し溶解しやすくなる。そのため低濃度で溶解するよりも優れた凝結・凝集効果を発揮すると考えられる。これは一定程度の濃度範囲で好適に起こる現象であり、2.0質量%より高いと希釈液の粘性増加など別の要因により、返って効果は発現しにくくなる。
【0023】
本発明の油中水型エマルジョンの添加率としては、対製紙原料乾燥固形分で10〜1,000ppmであり、好ましくは50〜500ppmである。
【0024】
本発明におけるピッチ低減方法として、本発明の油中水型エマルジョンだけでなく、他の製紙用薬品を併用して添加することができる。即ち、填料、紙力剤、サイズ剤、硫酸バンド、歩留向上剤、濾水性向上剤等と同時に添加することができる。
【0025】
本発明の油中水型エマルジョンの添加場所としては、製紙工程上流の濃度が3〜4%前後の原料系、即ち、DIP(脱墨古紙)やコートブロークといった個別の原料チェスト、ミキシングチェスト、マシンチェスト、種箱においてであり、特にDIPやコートブロークの個別の原料に添加することが好ましい。これはDIPやコートブロークはアニオントラッシュ量が多く、カチオン要求量及び濁度の数値が高い場合が多い。更にアニオントラッシュ、濁度成分やマイクロピッチは、攪拌やエアレーション、pH変化、薬剤添加により集塊化される。そのため、集塊化される前に凝結剤を添加し処理する必要があり、これらアニオントラッシュが他の原料と混合する前のDIPやコートブロークの個別の原料を本発明の油中水型エマルジョンで処理する方が効率的である。
【0026】
対象抄造製紙原料としては特に限定はなく、新聞用紙、上質紙、PPC用紙、塗工原紙、微塗工紙、板紙等に適用できる。また個別の製紙原料についても制限はなく、DIP、コートブローク、機械パルプ、雑誌古紙、段ボール古紙、ブロークパルプ等に適用できる。
【0027】
以下に示す実施例によって本発明の油中水型エマルジョンを具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制約されるものではない。
【0028】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに沸点190℃ないし230℃のイソパラフィン117.5gにソルビタントリオレート(HLB11)15.0gを仕込み溶解させた。別に脱イオン水130.1g、80質量%メタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMCと略記)231.25g、80質量%酢酸5.63g、蟻酸ナトリウム0.56gを各々採取し添加した。油と水溶液を混合し、ホモジナイザーにて8000rpmで2分間攪拌乳化した。この時の単量体組成は、DMC=100(モル%)である。
【0029】
得られたエマルジョン単量体溶液の温度を60℃に保ち、窒素置換を10分行なった後、ジメチル−2,2−アゾビスイソブチレート(和光純薬製V−601)0.37g(対単量体0.2質量%)を加え、重合反応を開始させた。60±2℃で2時間反応させた後、70℃に昇温しそのまま1時間保ち反応を完結させた。重合後、生成した油中水型エマルジョンに転相剤としてポリオキシエチレンデシルエーテル1.5g(対液0.3質量%)を添加混合した。光散乱法による重量平均分子量は140万であった。これを試料−1とする。更に合成例1と同様の操作によりDMC/AAM=70/30(モル%)重量平均分子量220万(試料−2)、DMQ=100(モル%)重量平均分子量150万(試料−3)、DMQ/AAM=70/30(モル%)重量平均分子量240万(試料−4)、DMC/DMQ/AAC/AAM=30/30/10/30(モル%)重量平均分子量110万(試料−5)DAD=100(モル%)重量平均分子量160万(試料−6)、DAD/AAM=30/70(モル%)重量平均分子量320万(試料−7)を合成した。結果を表1に示す。
【0030】
(合成例2)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素導入管を備えた4つ口500mlセパラブルフラスコに沸点190℃ないし230℃のイソパラフィン117.5gにソルビタントリオレート15.0gを仕込み溶解させた。別に脱イオン水130.1g、80質量%メタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物231.25g、0.2質量%メチレンビスアクリルアミド4.7g(対単量体50ppm)、80質量%酢酸5.63g、蟻酸ナトリウム0.56gを各々採取し添加した。油と水溶液を混合し、ホモジナイザーにて8000rpmで2分間攪拌乳化した。この時の単量体組成は、DMC=100(モル%)である。
【0031】
得られたエマルジョン単量体溶液の温度を60℃に保ち、窒素置換を10分行なった後、ジメチル−2,2−アゾビスイソブチレート(和光純薬製V−601)0.37g(対単量体0.2質量%)を加え、重合反応を開始させた。60±2℃で2時間反応させた後、70℃に昇温しそのまま1時間保ち反応を完結させた。重合後、生成した油中水型エマルジョンに転相剤としてポリオキシエチレンデシルエーテル1.5g(対液0.3質量%)を添加混合した。光散乱法による重量平均分子量は180万であった。これを試料−8とする。更に合成例2と同様の操作によりDMQ=100(モル%)重量平均分子量190万(試料−9)、DADMAC/AAM=30/70(モル%)重量平均分子量350万(試料−10)を合成した。結果を表1に示す。
【0032】
(表1)

DMC:メタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、DMQ:アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、DAD:ジアリルジメチルアンモニウム塩化物、AAC:アクリル酸、AAM:アクリルアミド
【実施例1】
【0033】
製紙工場から採取したコートブローク原料(pH6.7、乾燥固形分3.19質量%)を用い、本発明のピッチ低減方法の試験を行った。背景技術で述べたように製紙原料のカチオン要求量、濁度の値とピッチ発生頻度は比較的高い相関関係にあり、これらの数値が高いとピッチ発生の頻度が高くなる傾向にありピッチの指標となる。先ず、前記表1に示す合成例1〜2の試料−1〜試料−10を0.3質量%になるように水で希釈し、10分間攪拌溶解した。次いで、コートブローク原料100mLをポリビーカーに採取し、溶解した合成例1〜2の試料−1〜試料−10を対製紙原料固形分200ppm添加し60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、濾液のカチオン要求量をBTG社製PCD−03型により、濁度をHACH社製2100P型により測定した。結果を表2に示す。
【0034】
又、マイクロピッチの測定は、試料−1〜試料−10で処理したコートブローク原料を、Whatman濾紙No.41で濾過し、濾液を厚さ0.2mmのカウンティングチェンバー(ヘマサイトメーター)上に採取し、光学顕微鏡1200倍で観察した。ピントを垂直方向にずらしていきながら静止画を複数枚撮影した。カウンティングチェンバー上の異なる5箇所以上で同様の操作を繰り返した。画像処理ソフト(Media Cybernetics,inc. IMAGE−PRO PLUS Ver.5.0)を用い、顕微鏡画像の静止画を取込み、RGB値のレンジ設定をR値(0−190)、G値(0−130)、B値(0−156)に調整することにより、目的とする粒子を抽出した。その抽出した粒子について、個数を測定した。結果を表2に示す。
【実施例2】
【0035】
実施例1と同様なコートブローク原料を用い、本発明のピッチ低減方法の試験を行った。即ち、前記表1に示す合成例1〜2の試料−1〜試料−10を0.3質量%になるように水で希釈し、20秒間攪拌溶解した。次いで、コートブローク原料100mLをポリビーカーに採取し、溶解した合成例1〜2の試料−1〜試料−10を対製紙原料固形分200ppm添加し60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、濾液のカチオン要求量、濁度及びマイクロピッチの個数を測定した。結果を表2に示す。
【0036】
(比較例1)
実施例1と同様なコートブローク原料を用い、本発明のピッチ低減方法の試験を行った。比較試料(油中水型エマルジョンタイプピッチコントロール剤、ポリメタアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、重量平均分子量100万、製造乳化時に界面活性剤ソルビタンオレイン酸モノエステル(HLB4.3)を対油中水型エマルジョン1.5質量%加え乳化し重合後、転相剤として親水性界面活性剤としてポリオキシエチレントリデシルエーテルHLB11.5を対油中水型エマルジョン1.5質量%加えたもの)を0.3質量%になるように水で希釈し、10分間攪拌溶解した。次いで、コートブローク原料100mLをポリビーカーに採取し、比較試料を対製紙原料固形分200ppm添加し60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、カチオン要求量、濁度及びマイクロピッチの個数を測定した。結果を表2に示す。
【0037】
(比較例2)
実施例1と同様なコートブローク原料を用い、本発明のピッチ低減方法の試験を行った。比較試料を0.3質量%になるように水で希釈し、20秒間攪拌溶解した。次いで、コートブローク原料100mLをポリビーカーに採取し、比較試料を対製紙原料固形分200ppm添加し60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、カチオン要求量、濁度及びマイクロピッチの個数を測定した。結果を表2に示す。
【0038】
(比較例3)
実施例1と同様なコートブローク原料を用い、本発明のピッチ低減方法の試験を行った。コートブローク原料100mLをポリビーカーに採取し、ポリマーを無添加で60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、カチオン要求量、濁度及びマイクロピッチの個数を測定した。結果を表2に示す。
【0039】
(表2)

【0040】
実施例1の試料−1〜試料−10を添加したものは、比較例1に比べてカチオン要求量、濁度及びマイクロピッチの数値は低くアニオントラッシュ、濁度成分及びマイクロピッチ低減効果が良いことが確認できる。また実施例1の試料−1〜10をそれぞれ10分間攪拌溶解したものと実施例2の試料−1〜試料−10をそれぞれ20秒間攪拌溶解したものを比較すると、カチオン要求量、濁度及びマイクロピッチ個数は略同様な値を示した。これは、10分間攪拌溶解したポリマーの溶解状態に20秒間の攪拌時間で達成していることを意味しており、溶解性が優れていることが確認できる。
【実施例3】
【0041】
製紙工場から採取した脱墨古紙(DIP)原料(pH7.2、乾燥固形分3.43質量%)を用い、本発明のピッチ低減方法の試験を行った。即ち、前記表1に示す合成例1〜2の試料−1〜試料−10を0.1質量%になるように水で希釈し、20秒間攪拌溶解した。次いで、DIP原料100mLをポリビーカーに採取し、溶解した合成例1〜2の試料−1〜試料−10を対製紙原料固形分150ppm添加し60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、濾液のカチオン要求量をBTG社製PCD−03型により、濁度をHACH社製2100P型により測定した。結果を表3に示す。
【0042】
又、マイクロピッチの測定は、試料−1〜試料−10で処理したDIP原料を、Whatman濾紙No.41で濾過し、濾液を厚さ0.2mmのカウンティングチェンバー(ヘマサイトメーター)上に採取し、光学顕微鏡1200倍で観察した。ピントを垂直方向にずらしていきながら静止画を複数枚撮影した。カウンティングチェンバー上の異なる5箇所以上で同様の操作を繰り返した。画像処理ソフト(Media Cybernetics,inc. IMAGE−PRO PLUS Ver.5.0)を用い、顕微鏡画像の静止画を取込み、RGB値のレンジ設定をR値(0−190)、G値(0−130)、B値(0−156)に調整することにより、目的とする粒子を抽出した。その抽出した粒子について、個数を測定した。結果を表3に示す。
【実施例4】
【0043】
実施例3と同様なDIP原料を用い、本発明のピッチ低減方法の試験を行った。即ち、前記表1に示す合成例1〜2の試料−1〜試料−10を0.5質量%になるように水で希釈し、20秒間攪拌溶解した。次いで、DIP原料100mLをポリビーカーに採取し、溶解した合成例1〜2の試料−1〜試料−10を対製紙原料固形分150ppm添加し60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、濾液のカチオン要求量、濁度及びマイクロピッチの個数を測定した。結果を表3に示す。
【0044】
(比較例4)
実施例3と同様なDIP原料を用い、本発明のピッチ低減方法の試験を行った。比較試料を0.1質量%になるように水で希釈し、20秒間攪拌溶解した。次いで、DIP原料100mLをポリビーカーに採取し、比較試料を対製紙原料固形分150ppm添加し60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、濾液のカチオン要求量、濁度及びマイクロピッチの個数を測定した。結果を表3に示す。
【0045】
(比較例5)
実施例3と同様なDIP原料を用い、本発明のピッチ低減方法の試験を行った。比較試料を0.5質量%になるように水で希釈し、20秒間攪拌溶解した。次いで、DIP原料100mLをポリビーカーに採取し、比較試料を対製紙原料固形分150ppm添加し60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、濾液のカチオン要求量、濁度及びマイクロピッチの個数を測定した。結果を表3に示す。
【0046】
(比較例6)
実施例3と同様なDIP原料を用い、本発明のピッチ低減方法の試験を行った。DIP原料100mLをポリビーカーに採取し、ポリマーを無添加で60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、濾液のカチオン要求量、濁度及びマイクロピッチの個数を測定した。結果を表3に示す。
【0047】
(表3)

【0048】
実施例3の試料−1〜試料−7を添加したものは、比較例4の比較試料添加時に比べてカチオン要求量、濁度及びマイクロピッチ個数の数値は低く、アニオントラッシュ、濁度成分及びマイクロピッチ低減効果が良いことが分かる。また実施例3の試料−1〜試料−7をそれぞれ溶解濃度0.1質量%にしたものと、実施例4の試料−1〜試料−7をそれぞれ溶解濃度0.5質量%にしたものを比較すると、溶解濃度0.5質量%にした方がカチオン要求量、濁度及びマイクロピッチ個数は低い値を示した。このことは段落0022で述べたように濃度が高い状態では、高HLB界面活性剤、界面活性剤濃度、油中水型エマルジョン粒子同士の衝突確立の高さの各効果によって溶解性が向上し、その結果、優れた凝結・凝集効果が発揮されたと考えられる。一方、比較試料(低HLB界面活性剤で乳化し、重合後、親水性界面活性剤を加えたもの)の溶解濃度0.1質量%に対して、0.5質量%では、カチオン要求量、濁度及びマイクロピッチ個数は高い値になり、溶解性が不良であり水溶性高分子本来の凝結・凝集効果が得られていないことが要因と考えられる。
【0049】
以上、本発明の油中水型エマルジョンの優れた溶解性とアニオントラッシュ、濁度及びマイクロピッチ低減効果が確認でき、これは、抄紙工程において、製紙欠陥や汚れ発生等のトラブルの要因となるピッチの低減方法を提供する課題を解決する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙前の製紙工程において、高HLB(親水性親油性バランス)界面活性剤を用いて乳化し製造したカチオン性あるいは両性水溶性重合体からなる油中水型エマルジョンを、水と混合する手段を配管途中に連結し連続溶解した希釈液を製紙原料に添加することを特徴とするピッチ低減方法。
【請求項2】
前記カチオン性あるいは両性水溶性重合体が、下記一般式(1)及び/又は(2)で表される単量体10〜100モル%、下記一般式(3)で表される単量体0〜35モル%、共重合可能な非イオン性水溶性単量体0〜90モル%からなる水溶性単量体混合物を重合したものであることを特徴とする請求項1に記載のピッチ低減方法。
【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】


一般式(2)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基、
あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【化3】


一般式(3)
は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOO、Rは水素又はCOO、YあるいはYは水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【請求項3】
前記界面活性剤のHLB(親水性親油性バランス)が、11〜20であることを特徴とする請求項1に記載のピッチ低減方法。
【請求項4】
前記水溶性単量体混合物に架橋性単量体を共存させ製造することを特徴とする請求項1あるいは2に記載のピッチ低減方法。
【請求項5】
前記油中水型エマルジョンを水と混合する手段が、ラインミキサーであることを特徴とする請求項1に記載のピッチ低減方法。
【請求項6】
前記油中水型エマルジョンを0.3〜2.0質量%の溶解濃度で製紙原料に添加することを特徴とする請求項1に記載のピッチ低減方法。
【請求項7】
前記油中水型エマルジョンを添加する製紙原料が配合前の個別原料であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のピッチ低減方法
【請求項8】
前記油中水型エマルジョンを添加する配合前の個別原料が脱墨古紙あるいはコートブロークであることを特徴とする請求項7に記載のピッチ低減方法。