説明

フィルタ装置

【課題】フィルタケースとフィルタエレメントとの間のシールを有効に確保できるとともに部品点数が少ないフィルタ装置を提供する。
【解決手段】環状のシール部材16をフィルタエレメントの外周面に設け、フィルタケースの内周側に、シール部材16をその全周に亘って当接させる環状のシール面23を設けた。これとともに、フィルタエレメント14の導入口側端面の外周縁に当接される当接部24をフィルタケース11の内側に設け、エンジンのエア流が形成されていない状態でシール部材16とシール面23との当接状態を当接部24により保持するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハニカム形のフィルタエレメントをフィルタケース内に収容して構成したフィルタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のフィルタ装置としては、例えば特許文献1に開示されるような構成のものが提案されている。この特許文献1に記載の構成では、図9に示すように、開閉可能な蓋体50が備えられたケース本体51の内側に、円柱状のフィルタエレメント52が着脱可能に装着されている。フィルタエレメント52の下流側の端部には、フィルタエレメント52をケース本体51内に固定するためのリング部材53が固着され、このリング部材53の外周には、ケース本体51内に形成されたフランジ部54のエア上流側のシール面54aに変形状態で圧接されるシールリング55が装着されている。また、リング部材53には係合部56が形成され、この係合部56は、フランジ部54に形成された切欠き凹部57を通過してフランジ部54の反対面(エア下流側の面)に係合されて、フィルタエレメント52がケース本体51に対して着脱可能に装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−205261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1のような構成においては、ケース本体51には、切欠き凹部57を有するフランジ部54を形成する必要があって、ケース本体51の構造が複雑になる。また、フィルタエレメント52には、係合部56を有するリング部材53を設ける必要があるため、部品点数が多くなるものであった。さらに、ケース本体51と蓋体50との間の気密を保持するために、蓋体50をケース本体51に対して強固に閉鎖する金具として頑丈な構造のものが必要となり、重量増の原因となった。加えて、ケース本体51に対するフィルタエレメント52の装着に際しては、シールリング55をフランジ部54に押し付けた状態で、フィルタエレメント52を回して係合部56をフランジ部54に係合させる必要がある。このため、シールリング55はフランジ部54に圧接された状態でそのフランジ部54上を引きずられるため、損傷してシール不良に陥るおそれがあった。
【0005】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、フィルタケースとフィルタエレメントとの間のシールを有効に確保できるとともに部品点数が少ないフィルタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ハニカム形のフィルタエレメントをフィルタケース内に収容し、フィルタケースとフィルタエレメントとの間をシール部材により封止したフィルタ装置において、環状をなす前記シール部材を、前記フィルタエレメントの外周面に取付け、前記フィルタケースの内側に、前記シール部材と当接される環状のシール面を設け、さらに、フィルタエレメントとフィルタケースとの間には、フィルタエレメントの上流側と下流側との差圧によってシール状態を保持するとともに、フィルタエレメントが移動することを阻止するための保持手段を設けたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記保持手段はフィルタケースに設けられ、シール部材を受けるための環状面と、前記フィルタエレメントの外周縁に対応して、シール部材が環状面から離れる方向へのフィルタエレメントの移動を阻止する当接部とよりなることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記当接部を弾性部材により構成したことを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、前記フィルタエレメントは、エア流の下流側が細くなる円錐形をなすことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、前記フィルタエレメントは、全体として円柱形をなすことを特徴とする。
(作用)
この発明によれば、フィルタ装置の未使用時において、フィルタエレメントは、保持手段によりフィルタケース内の所定位置に保持される。一方、フィルタ装置の使用時においては、フィルタエレメントに対して上流側から下流側に向かって作用する差圧により、フィルタエレメントのシール部材がフィルタケースのシール面に押し付けられる。この結果、フィルタ装置の使用状態において、フィルタケースとフィルタエレメントとの間がシール部材により有効にシールされる。従って、フィルタケースとフィルタエレメントとの間のシールを確保するための機構を不要とすることができ、その機構を構成する部品を廃止することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、フィルタケースとフィルタエレメントとの間のシールを有効に確保できるとともに部品点数が少ないという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態のフィルタ装置を示す一部破断斜視図。
【図2】同じくフィルタ装置を示す縦断面図。
【図3】図2におけるa−a線断面図。
【図4】第2実施形態のフィルタ装置を示す一部分解斜視図。
【図5】同じくフィルタ装置を示す縦断面図。
【図6】第3実施形態のフィルタ装置を示す縦断面図。
【図7】第4実施形態のフィルタ装置を示す一部破断斜視図。
【図8】同じくフィルタ装置を示す縦断面図。
【図9】従来のフィルタ装置を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
次に、この発明を具体化したフィルタ装置の第1実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
【0013】
図1及び図2に示すように、フィルタ装置としてのエアクリーナ10のフィルタケース11は、導入口12aが形成された第1ケース部材12と、給出口13aが形成された第2ケース部材13とにより全体として円筒状に構成されている。両ケース部材12,13は、フィルタケース11の中央部において接合・分離可能に構成されている。フィルタケース11内には、ハニカム形のフィルタエレメント14が着脱可能に収容されている。フィルタエレメント14には、その外周面14a上に環状のシール部材16が設けられている。
【0014】
図2及び図3に示すように、フィルタエレメント14は、平板状濾材17aと波形状濾材17bとからなる積層体17を渦巻き状に巻回し、全体として円錐台状となるように形成されている。そして、渦巻き状に巻回された積層体17の平板状濾材17a間には、複数のエア通路18a,18bが区画形成されている。交互に隣接するエア通路18a,18bのうち一方のエア通路18aの前記給出口13a側は封止材19により封止され、他方のエア通路18bの前記導入口12a側は封止材19により封止されている。この構成により、フィルタエレメント14の導入口12a側には複数の第1通気口20aが形成されるとともに、給出口13a側には複数の第2通気口20bが形成されている。
【0015】
そして、図2に矢印で示すように、前記導入口12aからフィルタケース11内に導入されたエアは、フィルタエレメント14の第1通気口20aからエア通路18aに導入されて、平板状濾材17a及び波形状濾材17bを通過することによりろ過される。その後、エアは、エア通路18bを介して第2通気口20bからフィルタケース11の下流側へ給出され、さらに給出口13aを介してフィルタケース11の外部へ給出される。
【0016】
前記シール部材16は、独立発泡のウレタン樹脂等から形成され、フィルタエレメント14の外周面14a上に接着等により密着状態で一体化されている。
図1及び図2に示すように、第1ケース部材12及び第2ケース部材13には、互いに当接可能な第1フランジ部21と第2フランジ部22とが形成され、それらの第1フランジ部21と第2フランジ部22とが当接した状態で、両ケース部材12,13はその外側に設けられた止め具25により閉鎖状態に接合される。第1フランジ部21の内径は、第2フランジ部22の内径よりも小さく設定されており、この構成により、第2フランジ部22の内周側に、前記シール部材16を当接させるための環状面としてのシール面23が形成されている。また、第1ケース部材12の導入口12a側には、フィルタエレメント14の導入口側端部の外周部に当接するための環状の当接部24が形成されている。そして、フィルタエレメント14は、シール部材16を前記シール面23に当接させるとともに導入口側端部が当接部24に当接されることにより、フィルタケース11内の所定位置に保持された状態でフィルタケース11内に収容されている。この実施形態では、シール面23及び当接部24により保持手段が構成されている。
【0017】
さて、上記のように構成されたエアクリーナにおいては、第1ケース部材12と第2ケース部材13とを分離させた状態で、第1ケース部材12の内側にフィルタエレメント14が挿入され、フィルタエレメント14の導入口側端部を第1ケース部材の当接部24に当接させる。次に、第1ケース部材12の第1フランジ部21と、第2ケース部材13の第2フランジ部22とを当接させ、この状態で両ケース部材12,13同士を止め具25により接合させる。
【0018】
上記エアクリーナ10を装備した車両においてエンジンが運転されると、給出口13aに接続された吸気管(図示しない)内の負圧により、エアクリーナ10の導入口12aを通じて大気からフィルタケース11内にエアが導入される。フィルタケース11内に導入されたエアは、フィルタエレメント14を通過してろ過された後、給出口13aを通じてエンジンに吸入される。このとき、フィルタエレメント14の通気抵抗によりフィルタエレメント14を介した上流側と下流側との間に上流側が高い圧力となるように差圧が作用し、この差圧によりフィルタエレメント14が給出口13a側へ付勢される。この結果、フィルタエレメント14のシール部材16は、フィルタケース11のシール面23に押し付けられた状態で保持される。従って、エンジンの運転中は、フィルタエレメント14とフィルタケース11との間のシールが有効に確保される。
【0019】
従って、この実施形態は、以下のような効果を発揮する。
(1)環状のシール部材16をフィルタエレメント14の外周面14aに設け、フィルタケース11の内周側には、シール部材16をその全周に亘って当接させるための環状のシール面23を設けた。これとともに、フィルタエレメント14の導入口側端面の外周縁に当接される当接部24をフィルタケース11の内側に設け、エンジンのエア流が形成されていない状態でシール部材16とシール面23との当接状態を当接部24により保持するようにした。従って、特許文献1に記載の構成とは異なり、リング部材56のような部品を設ける必要がないため、エアクリーナ10の構成を簡素化することができる。
【0020】
(2)エンジンの運転に伴いエアクリーナ10を通じてエアが吸入されるときに、フィルタエレメント14に作用する差圧によりフィルタエレメント14が下流側へ付勢され、シール部材16が当接部24に押し付けられて保持される。従って、フィルタケース11とフィルタエレメント14との間のシールを有効に確保することができる。その結果、第1,第2ケース部材12,13のフランジ部21,22間のシールも確保できる。従って、第1,第2ケース部材12,13間の止め具25としてそれほど頑丈なものを用いる必要がなく、軽量化を達成できる。

(3)フィルタケース11に対し、シール面23と当接部24とにより位置決めされるようにフィルタエレメント14を収容するだけで装着が完了するので、フィルタエレメント14の着脱を容易に行うことができる。
【0021】
(4)フィルタケース11に対するフィルタエレメント14の装着において、シール部材16をシール面23に押し当てて回すようなことは不要であるため、シール部材16が損傷することはなく、シール不良のおそれを防止できる。
【0022】
(第2実施形態)
次に、この発明を具体化した第2実施形態について、図4及び図5を参照して説明する。なお、第2実施形態以降の実施形態については、第1実施形態と異なる構成を中心に説明する。
【0023】
図4及び図5に示すように、フィルタケース11は、全体がほぼ円錐台状に形成されるとともに周壁に開口部30aが設けられたケース本体30と、開口部30aを閉鎖するためにケース本体30に着脱され、止め具25により閉鎖状態に保持される蓋体31とにより構成されている。
【0024】
ケース本体30の導入口12a側には、フィルタエレメント14の導入口側端面の外周縁に対応する環状の当接部32が形成されている。また、ケース本体30の周壁33の内周面の一部は半環状のシール面33aとされている。また、蓋体31の内周面の一部は、ケース本体30のシール面33aと連続する半環状のシール面31aとされている。この実施形態では、シール面33a,31aにより環状面が構成されている。
【0025】
ケース本体30及び蓋体31の内周面には、シール部材16の下流側の面に当接して、シール部材16の下流側への移動を阻止する複数の突起(図5に図示)26が形成されている。
【0026】
フィルタエレメント14の導入口側端面の外周縁には、環状の弾性部材34が取着されている。この弾性部材34は、例えば独立発泡のウレタン樹脂よりなる。そして、フィルタエレメント14は、ケース本体30の周壁内面と当接部32とに弾性部材34を当接させるとともに、ケース本体30の周壁33のシール面33aと蓋体31のシール面31aとにシール部材16の外周面を当接させている。この実施形態では、シール面31a,33aと、当接部32及び弾性部材34とにより保持手段が構成されている。
【0027】
上記のように構成されたエアクリーナ10においては、ケース本体30の当接部32と周壁33のシール面33aとによりフィルタエレメント14を位置決めするだけで、フィルタケース11にフィルタエレメント14を容易に装着することができる。
【0028】
上記エアクリーナ10を装備した車両においてエンジンが運転されると、フィルタエレメント14に作用する差圧によりフィルタエレメント14が給出口13a側へ付勢される。この結果、フィルタエレメント14のシール部材16に対しては、ケース本体30のシール面33aと蓋体31のシール面31aとに押し付けられる方向への力が作用される。従って、エンジンの運転中は、フィルタエレメント14とフィルタケース11との間のシールが有効に確保される。
【0029】
以上詳述したこの実施形態は、前記第1実施形態と同じ効果に加え、以下の効果を発揮する。
(5)フィルタエレメント14の導入口側端面の外周縁に対応する当接部32と、この当接部32とフィルタエレメント14の外周縁との間に介在される弾性部材34とにより、フィルタエレメント14を保持するようにした。従って、フィルタケース11やフィルタエレメント14の寸法誤差が弾性部材34の変形により吸収される。
【0030】
(第3実施形態)
次に、この発明を具体化した第3実施形態について、図6を参照して説明する。
図6に示すように、フィルタケース11の第1,第2ケース部材12,13は、フィルタエレメント14の導入口側端部の位置において、接合・分離可能に構成されている。
【0031】
第1ケース部材12の外周縁部は、フィルタエレメント14の導入口側端面の外周縁に対応する環状の当接部24とされている。また、第2ケース部材13には、環状の段差部35が形成され、この段差部35上には、フィルタエレメント14のシール部材16を当接させるための環状のシール面23が形成されている。
【0032】
以上詳述したこの実施形態は、第1実施形態と同じ効果を発揮する。
(第4実施形態)
次に、この発明を具体化した第4実施形態について、図7及び図8を参照して説明する。
【0033】
図7及び図8に示すように、フィルタケース11及びフィルタエレメント14は、円柱状に形成されている。従って、このフィルタエレメント14は、形状が異なるものの第1実施形態のフィルタエレメント14と同様な構成である。
【0034】
第1ケース部材12の開口部の外周縁には、フィルタエレメント14のシール部材16を収容するための環状の凹部36が形成されている。一方、第2ケース部材13の開口部の外周縁には、フランジ部37が形成され、このフランジ部37上には、シール部材16を当接させるための環状のシール面23が形成されている。そして、フィルタエレメント14は、第2ケース部材13のシール面23にシール部材16を当接させるとともに第1ケース部材12の当接部24に導入口側端面の周縁を当接させた状態でフィルタケース11内に収容されている。この状態において、シール部材16は、第1ケース部材12の凹部36と第2ケース部材13のフランジ部37とにより形成される空間内に収容されている。
【0035】
以上詳述したこの実施形態は、第1実施形態と同じ効果を発揮する。
(他の実施形態)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0036】
・ シール部材16及び弾性部材34として、ゴム材等、前記実施形態とは異なるものを用いること。
・ フィルタエレメント14として、平板状濾材17aと波形状濾材17bとからなる複数枚の積層体17を重ねて全体としてほぼ角柱状に形成し、そのフィルタエレメント14を各筒状のフィルタケースに収容すること。従って、この場合は、シール部材も角リング状となる。
【符号の説明】
【0037】
10…フィルタ装置としてのエアクリーナ、11…フィルタケース、12…第1ケース部材、13…第2ケース部材、14…フィルタエレメント、14a…外周面、16…シール部材、23…保持手段を構成する環状面としてのシール面、24…保持手段を構成する当接部、30…ケース本体、31…蓋体、31a…環状面を構成するシール面、32…保持手段を構成する当接部、33a…環状面を構成するシール面、34…保持手段を構成する弾性部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム形のフィルタエレメントをフィルタケース内に収容し、フィルタケースとフィルタエレメントとの間をシール部材により封止したフィルタ装置において、
環状をなす前記シール部材を、前記フィルタエレメントの外周面に取付け、
前記フィルタケースの内側に、前記シール部材と当接される環状のシール面を設け、
さらに、フィルタエレメントとフィルタケースとの間には、フィルタエレメントの上流側と下流側との差圧によってシール状態を保持するとともに、フィルタエレメントが移動することを阻止するための保持手段を設けたことを特徴とするフィルタ装置。
【請求項2】
前記保持手段はフィルタケースに設けられ、シール部材を受けるための環状面と、前記フィルタエレメントの外周縁に対応して、シール部材が環状面から離れる方向へのフィルタエレメントの移動を阻止する当接部とよりなることを特徴とする請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記当接部を弾性部材により構成したことを特徴とする請求項2に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記フィルタエレメントは、エア流の下流側が細くなる円錐形をなすことを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記フィルタエレメントは、全体として円柱形をなすことを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のフィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−264403(P2010−264403A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118928(P2009−118928)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】