説明

フェニルシクロヘキセン誘導体またはスチレン誘導体の製造方法

【課題】液晶材料の製造工程において用いられるベンジルアルコール誘導体の脱水工程における収率の悪さを改善し、簡便で安価な製造方法の提供。
【解決手段】ベンジルアルコール誘導体に、炭酸ビス(トリクロロメチル)を作用させることにより、一般式(2)または一般式(4)で表される誘導体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニルシクロヘキセン誘導体またはスチレン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の液晶化合物を製造する上で、ベンジルアルコール誘導体を脱水し、生成した2重結合を触媒の存在下に接触還元する手法が一般的に用いられている。その一例を以下に示す。(特許文献1参照)
【0003】
【化1】

【0004】
上記方法における脱水工程の収率は64%と高いものではない。また、高収率を与える脱水剤として、塩化チオニル-ピリジンの一般的な例がある。(非特許文献1参照)しかしながら、脱水工程の後、触媒を用いる接触還元工程において、塩化チオニル由来の硫黄により触媒が被毒されるため、脱硫工程が必要である。以上の理由から、高収率でしかも精製を必要としないフェニルシクロヘキセン誘導体またはスチレン誘導体の簡便かつ安価な製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0331091号明細書(23頁および24頁)
【非特許文献1】ローマス(J.S.Lomas)著, テトラへドロン・レタース(Tetrahedron Lett.), 1971年, p.599-602.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、フェニルシクロヘキセン誘導体またはスチレン誘導体の簡便かつ安価な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ベンジルアルコール誘導体に炭酸ビス(トリクロロメチル)を作用させることにより高収率でフェニルシクロヘキセン誘導体またはスチレン誘導体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は一般式(1)
【0008】
【化2】

(式中、R2およびR3はそれぞれ独立的に主鎖炭素原子数1〜6のアルキル基またはR2およびR3は互いに連結して主鎖炭素原子数1〜7のアルキレン基を表し、これらの基中に存在する1個または2個以上の水素原子は炭素原子数1〜4のアルキル基で置換されてもよく、
L1 、L2、L3およびL4はそれぞれ独立的にフッ素原子、塩素原子または水素原子を表し、L5はフッ素原子、塩素原子、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアルコキシ基を表す。)で表されるベンジルアルコール誘導体に炭酸ビス(トリクロロメチル)を作用させることにより一般式(2)
【0009】
【化3】

(式中、R2、R3、L1、L2、L3、L4およびL5は一般式(1)と同じ意味を表す。)で表されるフェニルシクロヘキセン誘導体の製造方法および、
一般式(3)
【0010】
【化4】

(式中、R2およびR3はそれぞれ独立的に主鎖炭素原子数1〜6のアルキル基またはR2およびR3は互いに連結して主鎖炭素原子数1〜7のアルキレン基を表し、これらの基中に存在する1個または2個以上の水素原子は炭素原子数1〜4のアルキル基で置換されてもよく、nは0、1または2を表し、L1 、L2、L3およびL4はそれぞれ独立的にフッ素原子、塩素原子または水素原子を表し、L5はフッ素原子、塩素原子、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアルコキシ基を表す。)で表されるベンジルアルコール誘導体に炭酸ビス(トリクロロメチル)を作用させることにより一般式(4)
【0011】
【化5】

(式中、R2、R3、L1、L2、L3、L4、L5およびnは一般式(3)と同じ意味を表す。)で表されるスチレン誘導体の製造方法を提供することである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、フェニルシクロヘキセン誘導体またはスチレン誘導体が高収率得られ、しかも精製を必要としないことから、簡便で安価に製造できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本製造法において、炭酸ビス(トリクロロメチル)単独で用いることができるが、ピリジン、トリエチルアミン、ジエチルアミン等の塩基の存在下に用いることが好ましく、ピリジン存在下に用いることが特に好ましい。
【0014】
本製造法は溶媒を用いることが好ましく、その溶媒としては上述の塩基を溶媒として用いることができるが、さらにベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族化合物、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカヒドロナフタレン等の飽和炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン等の塩素化炭化水素、ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒などを単独でまたは混合して用いることができるが、なかでも芳香族炭化水素または塩素化炭化水素が好ましく、トルエン、ジクロロメタンまたは1,2-ジクロロエタンが特に好ましい。
【0015】
一般式(1)および一般式(2)で表される化合物は多くの化合物を包含するものであるが、次に記載の化合物が好ましい。
一般式(1)においてR2およびR3は主鎖炭素原子数1〜6のアルキル基またはR2およびR3は互いに連結して主鎖炭素原子数1〜7のアルキレン基を表すが、これらの基中に存在する1個または2個以上の水素原子は炭素原子数1〜4のアルキル基で置換されてもよく、主鎖炭素原子数1〜7のアルキレン基が好ましく、エチレン基または1,3-プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0016】
L1 、L2、L3およびL4はそれぞれ独立的にフッ素原子、塩素原子または水素原子を表すが、フッ素原子または水素原子が好ましい。L5はフッ素原子、塩素原子、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアルコキシ基を表すが、フッ素原子、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。
【0017】
一般式(2)においてR2およびR3は主鎖炭素原子数1〜6のアルキル基またはR2およびR3は互いに連結して主鎖炭素原子数1〜7のアルキレン基を表すが、これらの基中に存在する1個または2個以上の水素原子は炭素原子数1〜4のアルキル基で置換されてもよく、主鎖炭素原子数1〜7のアルキレン基が好ましく、エチレン基または1,3-プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0018】
L1 、L2、L3およびL4はそれぞれ独立的にフッ素原子、塩素原子または水素原子を表すが、フッ素原子または水素原子が好ましい。L5はフッ素原子、塩素原子、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアルコキシ基を表すが、フッ素原子、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。nは0、1または2を表すが、0または2が好ましく、0がより好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。化合物の純度は、ガスクロマトグラフィー等により確認した。
(実施例1)1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]-7-デセンの合成
【0020】
【化6】

【0021】
1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]デカン-8-オール50.0gをトルエン150mlおよびピリジン44.0gに溶解し、内温を5~10℃に冷却した。この溶液に、撹拌下炭酸ビス(トリクロロメチル)27.5gをトルエン110mlに溶解した溶液を30分かけて滴下した。さらに25℃で1時間撹拌し、水250mlに注ぎ、有機層を分離した。有機層は、水250mlで2回、飽和食塩水250mlで1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加え乾燥させた。無水硫酸ナトリウムを濾別し、溶媒を留去し、1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]-7-デセン46.2gとほぼ定量的に得た。得られた化合物をガスクロマトグラフィーによる純度測定をおこなったところ、98.0%と高純度であった。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)δ/ppm 1.92 (t, 2 H), 2.46 - 2.48 (m, 2 H), 2.61 - 2.66 (m, 2 H), 4.02 (s, 4 H), 6.01 - 6.04 (m, 1 H), 6.89 - 6.93 (m, 1 H), 7.06 - 7.09 (m, 1 H), 7.15 - 7.17 (m, 1 H), 7.22 - 7.28 (m, 1 H)
【0022】
得られた化合物が、次工程の接触還元工程において問題を生じないかを確認するため、得られた1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]-7-デセン46.2gをトルエン230mlに溶解し、5%パラジウム炭素4.6gを加え、水素圧0.4MPaにて撹拌したところ、3時間にて反応は終了し、1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]-7-デカンを得た。
(比較例1)1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]-7-デセンの合成(酸触媒を用いる方法)
【0023】
【化7】

【0024】
1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]デカン-8-オール50.0gをトルエン200mlに溶解し、硫酸水素カリウム2.0gを加え、共沸する水を除きながら6時間加熱還流させた。室温まで放冷し、飽和重曹水200ml、水200ml、飽和食塩水200mlで順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加え乾燥させた。無水硫酸ナトリウムを濾別し、溶媒を留去し、1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]-7-デセン46.4gを得た。得られた化合物をガスクロマトグラフィーによる純度測定をおこなったところ、85.1%と低純度であった。
(比較例2)1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]-7-デセンの合成(脱水剤を用いる方法)
【0025】
【化8】

【0026】
1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]デカン-8-オール50.0gをピリジン150mlに溶解し、内温を5~10℃に冷却した。この溶液に、撹拌下塩化チオニル26.6gを30分かけて滴下した。さらに25℃で1時間撹拌し、水150mlに注ぎ、トルエン250mlで抽出し、有機層を分離した。有機層は、水250mlで2回、飽和食塩水250mlで1回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加え乾燥させた。無水硫酸ナトリウムを濾別し、溶媒を留去し、1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]-7-デセン41.3gを得たが、収率は実施例1に及ばなかった。得られた化合物をガスクロマトグラフィーによる純度測定をおこなったところ、92.2%と比較的高純度であった。
【0027】
得られた化合物が、次工程の接触還元工程において問題を生じないかを確認するため、得られた1,4-ジオキサ-8-(3-フルオロフェニル)-スピロ[4,5]-7-デセン41.3gをトルエン220mlに溶解し、5%パラジウム炭素4.1gを加え、水素圧0.4MPaにて撹拌したところ、6時間後においても接触還元反応は進行しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、液晶化合物の中間体製造法として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R2およびR3はそれぞれ独立的に主鎖炭素原子数1〜6のアルキル基またはR2およびR3は互いに連結して主鎖炭素原子数1〜7のアルキレン基を表し、これらの基中に存在する1個または2個以上の水素原子は炭素原子数1〜4のアルキル基で置換されてもよく、
L1 、L2、L3およびL4はそれぞれ独立的にフッ素原子、塩素原子または水素原子を表し、L5はフッ素原子、塩素原子、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアルコキシ基を表す。)で表されるベンジルアルコール誘導体に炭酸ビス(トリクロロメチル)を作用させることにより一般式(2)
【化2】

(式中、R2、R3、L1、L2、L3、L4およびL5は一般式(1)と同じ意味を表す。)で表されるフェニルシクロヘキセン誘導体の製造方法。
【請求項2】
一般式(3)
【化3】

(式中、R2およびR3はそれぞれ独立的に主鎖炭素原子数1〜6のアルキル基またはR2およびR3は互いに連結して主鎖炭素原子数1〜7のアルキレン基を表し、これらの基中に存在する1個または2個以上の水素原子は炭素原子数1〜4のアルキル基で置換されてもよく、nは0、1または2を表し、L1 、L2、L3およびL4はそれぞれ独立的にフッ素原子、塩素原子または水素原子を表し、L5はフッ素原子、塩素原子、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアルコキシ基を表す。)で表されるベンジルアルコール誘導体に炭酸ビス(トリクロロメチル)を作用させることにより一般式(4)
【化4】

(式中、R2、R3、L1、L2、L3、L4、L5およびnは一般式(3)と同じ意味を表す。)で表されるスチレン誘導体の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)および一般式(2)において、R2およびR3が互いに連結した主鎖炭素原子数1〜7のアルキレン基である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(3)および一般式(4)において、R2およびR3が互いに連結した主鎖炭素原子数1〜7のアルキレン基である請求項2記載の製造方法。
【請求項5】
ピリジン、トリエチルアミン、ジエチルアミン等の塩基の存在下に炭酸ビス(トリクロロメチル)を作用させる請求項1〜4記載の製造方法。
【請求項6】
反応溶媒として、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタンまたは1,2-ジクロロエタンを用いる請求項1〜5記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−42677(P2011−42677A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237374(P2010−237374)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【分割の表示】特願2004−249968(P2004−249968)の分割
【原出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】