説明

フェライト微粒子の製造方法

【課題】粒子径100nm以下のフェライト微粒子を、効率よく連続的に製造する。
【解決手段】無機金属塩の水溶液と脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸とを混合し、それにアルカリ溶液を加えてpHを5〜7に調整し、得られた原料ゾルを、加熱炉内に供給する酸素含有キャリアガス中に超音波噴霧し、熱分解することにより、粒子径100nm以下のフェライト微粒子を連続的に生成する。無機金属塩の水溶液としては、金属イオン濃度を0.05〜0.5mol/lに調整した金属硝酸塩の水溶液が好適である。脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸としては、典型的にはクエン酸が好ましい。無機金属塩の水溶液とクエン酸の混合割合は、モル比で1:1程度とする。アルカリ溶液としては、例えばアンモニア溶液を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料ゾルの超音波噴霧・熱分解法により粒子径100nm以下のフェライト微粒子を製造する方法に関し、更に詳しく述べると、無機金属塩の水溶液と脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸を混合し、アルカリ溶液を加えてpH調整した原料ゾルを用いるフェライト微粒子の製造方法に関するものである。この技術は、例えばチップインダクタなどの小型フェライト部品の材料製造などに有用である。
【背景技術】
【0002】
周知のように、電子部品に対する小型化・高性能化の要求に伴い、それに使用する各種電子材料に関しても益々の高度化が求められている。例えば、一般的なフェライト部品では、使用するフェライト原料粉末の粒子径は5〜10μm程度であるが、最近のチップインダクタなどでは粒子径0.5μm程度のフェライト原料粉末が用いられている。しかし更に、材料性能を高めるための一つの手法として、粒子径100nm以下まで超微粒子化することが検討されている。
【0003】
無機系微粒子を工業的に生産する方法としては、機械的粉砕法が主流である。様々な粉砕装置が開発されているが、いずれにしても製造できる粒子径には限界があり、且つ粒子径に大きな分布が生じ、しかも粒子形状が球形にならないなどの問題がある。その他、共沈法とよばれる製造方法があるが、高コストであり大量生産には不向きである。
【0004】
近年、無機金属塩の水溶液あるいは金属アルコキシド溶液などを原料溶液として、超音波噴霧装置によって微細ミストを生成し、それを乾燥及び熱分解することによりセラミック微粉末を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この特許文献1にはフェライトなど磁性微粒子の製造に関する記載はなく、また得られる微粒子の粒子径も0.1〜3μm程度にとどまっている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−265689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、粒子径100nm以下のフェライト微粒子を、効率よく連続的に製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、無機金属塩の水溶液と脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸とを混合し、それにアルカリ溶液を加えてpHを5〜7に調整し、得られた原料ゾルを、加熱炉内に供給する酸素含有キャリアガス中に超音波噴霧し、熱分解することにより、粒子径100nm以下のフェライト微粒子を連続的に生成することを特徴とするフェライト微粒子の製造方法である。
【0008】
無機金属塩の水溶液としては、金属イオン濃度を0.05〜0.5mol/lに調整した金属硝酸塩の水溶液が好適である。脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸としては、クエン酸の他、リンゴ酸、酒石酸などであってもよい。無機金属塩の水溶液と脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸の混合割合は、モル比で1:1程度とする。アルカリ溶液としては、例えばアンモニア溶液を用いる。
【0009】
加熱炉の炉内温度は400〜800℃に設定する。供給する酸素含有キャリアガスは不活性ガス(典型的には窒素を用いる)と酸素との混合ガスとし、該混合ガス中の酸素分圧を100〜500hPaとする。なお、加熱炉は、抵抗加熱方式、赤外線加熱方式、マイクロ波誘導加熱方式など、任意の加熱方式であってよく、炉形式もキャリアガスが炉内を横方向に供給される横型でもよいしキャリアガスが炉内を縦方向に供給される縦型でもよい。いずれにしても、超音波噴霧された原料ゾルがキャリアガスに同伴して加熱炉内を通過するように構成する。
【0010】
本発明方法では、無機金属塩の水溶液として、NiイオンとFeイオンをモル比でほぼ1:2の割合で含むように溶液調整した硝酸塩の水溶液を用いることでスピネル型のフェライト微粒子を作製することができる。また、無機金属塩の水溶液として、BaイオンとCoイオン及びFeイオンをモル比でほぼ1:1:6の割合で含むように溶液調整した硝酸塩の水溶液を用いることで六方晶型のフェライト微粒子を作製することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明方法では、無機金属塩の水溶液と脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸(典型的にはクエン酸)とを混合することにより、金属ヒドロキシ酸錯体が形成され、金属イオンが均一に分散したゾルが得られる。但し、そのゾルはpHが2〜3程度になるためサイズが大きくなるが、アルカリ溶液を加えてpHを5〜7に調整するこにより、ゾルの状態を変化させ、金属イオンが均一に分散し且つ微細なサイズで分散した原料ゾルにすることができる。本発明は、そのような原料ゾルを用い、加熱炉内に供給する酸素含有キャリアガス中に超音波噴霧し、熱分解するように構成しているので、それによって粒子径100nm以下のフェライト微粒子を連続的に生成することができる。
【0012】
また本発明方法によれば、加熱炉内において脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸が自己燃焼し、それによる発熱がフェライト形成の熱量の一部となるため、短時間で効率よくフェライト化反応を促進させることができる。
【0013】
更に、本発明方法は、基本的に超音波噴霧法であるから、従来技術と同様、装置の大型化が容易で大量生産に適する効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明に係るフェライト微粒子の製造方法のプロセスフローを示している。まず、金属イオン濃度を0.05〜0.5mol/lに調整した無機金属塩の水溶液に、クエン酸をモル比で1:1の割合で加え70℃程度の温度で混合し、更にアンモニア溶液を添加してpHを5〜7に調整して原料ゾルとする。次に、原料ゾルを室温にて攪拌し、加熱炉内に供給する酸素含有キャリアガス中に超音波噴霧し、熱分解する。加熱炉の炉内温度を400〜800℃に設定する。酸素含有キャリアガスは、不活性ガス(通常、窒素)と酸素との混合ガス、該混合ガス中の酸素分圧を100〜500hPaとし、キャリアガス流量は0.8ml/分とする。これによって粒子径100nm以下のフェライト微粒子が連続的に生成され、生成されたフェライト微粒子は回収装置により回収される。
【0015】
例えば、無機金属塩の水溶液は、金属イオンとしてNiイオンとFeイオンをモル比でほぼ1:2の割合で含むように溶液調整した硝酸塩の水溶液を用いることでスピネル型のフェライト微粒子を作製することができる。また、金属イオンとしてBaイオンとCoイオン及びFeイオンをモル比でほぼ1:1:6の割合で含むように溶液調整した硝酸塩の水溶液を用いれば六方晶型のフェライト微粒子を作製することができる。
【0016】
フェライト微粒子の製造装置の一例を図2に示す。この加熱炉は、横型の抵抗加熱方式の電気炉である。電気炉10の中心に石英管12を挿通し、該石英管12の一端に超音波噴霧装置14を設置する。この超音波噴霧装置14は、超音波振動子を具備している噴霧装置である。該超音波噴霧装置14には、流量制御部16を備えた原料ゾル容器18からの配管20と、コンプレッサ22によって圧縮空気が貯められる圧空ボンベ24からの配管26とが接続される。石英管12の他端は、排出管30によって貯水型の回収装置32に導かれる。
【0017】
電気炉10の石英管12には空気ボンベ24からキャリアガス(ここでは空気)が所定の流量で供給される。他方、原料ゾル容器18から流量制御部16により一定量ずつ供給される原料ゾルは、超音波噴霧装置14により前記キャリアガス中に噴霧される。噴霧された原料ゾル(ミスト)はキャリアガスに同伴され、石英管12の一端から他端に向かって電気炉10内を通過する。その間、ミストは加熱されて熱分解し、また原料ゾル中のクエン酸の自己発熱も相俟ってフェライト化反応が進み、フェライト微粒子となる。生成したフェライト微粒子は、排出管30を通って回収装置32に導かれ、貯水の中に溜まる。なお、キャリアガスは、排気管34から排出される。
【0018】
加熱炉として抵抗加熱方式の電気炉を用いることで所望の温度分布が形成され、また横型とすることで熱対流の影響を排除しキャリアガスの流速のみで加熱時間などを制御できるため、フェライト微粒子を安定して製造することができる。更に、フェライト微粒子は石英管の他端に設置したフィルタで回収することもできるが、上記のように水中で回収することにより、回収する際の微粒子の毀損を最小限に抑えることができる。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
実施例1は、スピネル型のニッケルフェライトを製造した例である。硝酸ニッケル(Ni(NO3 2 ・6H2 O)と硝酸鉄(Fe(NO3 3 ・9H2 O)をモル比1:2の割合で純水に溶解し、金属イオン濃度0.5mol/lの水溶液となるように溶液調整した。その水溶液に対してクエン酸(C6 8 7 )をモル比1:1の割合で加え70℃で混合し、更にアンモニア溶液を添加してpHを7に調整し原料ゾルを作製した。この原料ゾルを室温にて攪拌し、次いで加熱炉内に供給するキャリアガス中に超音波噴霧して熱分解させた。加熱炉の炉内温度を400〜800℃とし、キャリアガスとしては空気(酸素分圧200hPa)を用い、流量は0.8ml/分とした。
【0020】
炉内温度を変えて得られた試料のX線回折の結果を図3に、また格子定数の炉内温度依存性を図4に示す。なお、格子定数はScherrerの式から算出した。これら図3及び図4から、炉内温度が200〜300℃ではニッケルフェライトが得られていないが、400〜800℃では目的とするニッケルフェライトが製造できることが確認できた。これがスピネル型であることは、X線回折の結果及び格子定数から判断した。なお、200〜300℃で生成されるのは、γ−Fe2 3 に近い酸化物である。800℃を超える加熱温度でもニッケルフェライトを製造できたが、後述するように、粒子径が大きくなる問題が生じた。
【0021】
図5は、炉内温度に対する粒子径の関係を示している。400〜800℃の加熱により粒子径が100nm以下(65〜95nm)の微粒子が得られた。なお、加熱温度が高くなるほど、粒子径が大きくなる傾向が認められ、加熱温度が900℃では粒子径が100nmを超えてしまう。
【0022】
図6は、格子定数の酸素分圧依存性を示す。炉内温度500℃としたとき、酸素分圧100〜500hPaで、より好ましくは200〜450hPaで、ニッケルフェライトが製造できた。
【0023】
図7は、金属イオン濃度依存性を示している。金属イオン濃度が0.5mol/lの水溶液の他に、金属イオン濃度が0.05mol/lの水溶液を用いたが、X線回折の結果では両者共に、ニッケルフェライトが製造できた。その際の、炉内温度との関係を表1に示す。同じ金属イオン濃度のときには炉内温度が高くなるほど粒子径は大きくなり、同じ炉内温度のときには金属イオン濃度が高くなるほど粒子径は大きくなることが分かる。
【0024】
【表1】

【0025】
原料ゾルのpHと金属イオン濃度をパラメータとしたときの粒子径の炉内温度依存性を図8に示す。pHの調整は、アンモニア溶液の添加量を制御することで行った。図8に示す結果から、金属イオン濃度が低く中性に近い原料ゾルを用いる方が、粒子径の小さいフェライトが得られることが分かる。
【0026】
(実施例2)
実施例2は、六方晶Y型のバリウム・コバルトフェライトを製造した例である。硝酸バリウム(Ba(NO3 2 )と硝酸コバルト(Co(NO3 2 )及び硝酸鉄(Fe(NO3 3 ・9H2 O)を純水に溶解して金属イオン濃度0.5mol/lの水溶液となるように溶液調整した。その水溶液に対してクエン酸(C6 8 7 )をモル比1:1の割合で加え70℃で混合し、更にアンモニア溶液を添加してpHを7に調整し原料ゾルを作製した。この原料ゾルを室温にて攪拌し、次いで加熱炉内に供給するキャリアガス中に超音波噴霧し、熱分解させた。加熱炉の炉内温度を400〜800℃とし、キャリアガスとしては空気(酸素分圧200hPa)を用い、流量は0.8ml/分とした。
【0027】
炉内温度を変えて得られた試料のX線回折の結果を図9に、また格子定数の炉内温度依存性を図10に示す。これら図9及び図10から、炉内温度が400〜1000℃のときに目的とする六方晶フェライト(Ba2 Co2 Fe1222)が製造できた。しかし、800℃を超える加熱温度では生成される六方晶フェライトの粒子径が大きくなり、粒子径を100nm以下とするには、炉内温度を800℃以下とする必要があることが分かった。
【0028】
上記の実施例では脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸としてクエン酸を用いているが、酒石酸やリンゴ酸も同様に用いることが可能である。なお、無機金属塩の選択によって、上記の実施例以外のスピネル型あるいは六方晶型のフェライト微粒子を製造できることは言うまでもない。本発明方法は、特に六方晶型のフェライト微粒子を製造できるため、高周波用磁性電子部品の開発に有効な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るフェライト微粒子の製造方法のプロセスフロー。
【図2】フェライト微粒子の製造装置の一例を示す説明図。
【図3】実施例1における炉内温度を変えたときの試料のX線回折結果の説明図。
【図4】格子定数の炉内温度依存性を示すグラフ。
【図5】炉内温度に対する粒子径の関係を示すグラフ。
【図6】格子定数の酸素分圧依存性を示すグラフ。
【図7】金属イオン濃度依存性を示すグラフ。
【図8】粒子径の炉内温度依存性を示すグラフ。
【図9】実施例2における炉内温度を変えたときの試料のX線回折結果の説明図。
【図10】格子定数の炉内温度依存性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0030】
10 電気炉
12 石英管
14 超音波噴霧装置
16 流量制御部
18 原料ゾル容器
22 コンプレッサ
24 圧空ボンベ
32 回収装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機金属塩の水溶液と脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸とを混合し、それにアルカリ溶液を加えてpHを5〜7に調整し、得られた原料ゾルを、加熱炉内に供給する酸素含有キャリアガス中に超音波噴霧し、熱分解することにより、粒子径100nm以下のフェライト微粒子を連続的に生成することを特徴とするフェライト微粒子の製造方法。
【請求項2】
無機金属塩の水溶液は、金属イオン濃度を0.05〜0.5mol/lに調整した金属硝酸塩の水溶液であり、脂肪族ヒドロキシ多価カルボン酸はクエン酸、酒石酸、リンゴ酸から選ばれる1種以上である請求項1記載のフェライト微粒子の製造方法。
【請求項3】
加熱炉の炉内温度を400〜800℃、供給する酸素含有キャリアガスは不活性ガスと酸素との混合ガスであり、該混合ガス中の酸素分圧を100〜500hPaとする請求項2記載のフェライト微粒子の製造方法。
【請求項4】
無機金属塩の水溶液は、金属イオンとしてNiイオンとFeイオンをモル比でほぼ1:2の割合で含むように溶液調整した硝酸塩の水溶液を用い、スピネル型のフェライト微粒子を作製する請求項3記載のフェライト微粒子の製造方法。
【請求項5】
無機金属塩の水溶液は、金属イオンとしてBaイオンとCoイオン及びFeイオンをモル比でほぼ1:1:6の割合で含むように溶液調整した硝酸塩の水溶液を用い、六方晶型のフェライト微粒子を作製する請求項3記載のフェライト微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−111519(P2010−111519A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283175(P2008−283175)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】