説明

フェリチンの配置方法

【課題】酸化シリコン上のジルコニウムやハフニウムに選択的にフェリチン及び無機粒子を配置する。
【解決手段】サブユニットN末端分に特定のペプチドを修飾したフェリチンと、非イオン性界面活性剤を0.01v/v%以上、10v/v%以下含む、pH7.4以上、8.2以下の溶液を表面の一部にジルコニウムもしくはハフニウムが形成された酸化シリコン上に滴下し、ペプチド修飾フェリチンをジルコニウムもしくはハフニウムに結合した後に溶液を除去することにより、特定のペプチド修飾フェリチンと内包無機粒子をジルコニウムもしくはハフニウムに選択的に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェリチンを酸化シリコン上のジルコニウムあるいはハフニウムに選択的に配置させる方法に関する。また、本発明はフェリチンに内包させた無機粒子を酸化シリコン上のジルコニウムあるいはハフニウムに選択的に配置させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフェリチンあるいはフェリチンに内包させた無機粒子を固体上に配置する方法としては、リソグラフィ法により作製した静電的に極性を反転したパターン上に静電相互作用を用いて配置する方法(例えば、非特許文献5参照)が知られている。
【0003】
非特許文献5では、酸化シリコン基板上にレジストを塗布し、電子ビームリソグラフィで露光した領域のレジストを現像することで除去し、酸化シリコン基板を露出させた領域に、アミノ基が末端に付いたシランカップリング剤、具体的にはアミノプロピルトリメトキシシランの蒸気に暴露することで、露出した領域のみにアミノ末端シランカップリング剤を吸着させ、レジストを溶剤で除去することで、酸化シリコンの一部にアミノ末端シランカップリングによりパターンを形成し、pHとイオン強度の調整により静電相互作用を制御することで、フェリチンをアミノ末端シランカップリング修飾パターンのみに配置できることが開示されている。
【0004】
あるいは、チタニウムに親和性を持つよう選ばれた6つのアミノ酸(アルギニン−リジン−ロイシン−プロリン−アスパラギン酸−アラニン:以下一文字表記でRKLPDA)からなるペプチド(非特許文献1参照)をフェリチン表面に修飾することでフェリチンにチタニウムへの親和性を付与し、更に非イオン性界面活性剤を用いて固体表面との相互作用を弱めることにより、チタニウムパターン上に選択配置する方法(特許文献1、非特許文献3参照)などが知られている。また、前記ペプチドRKLPDAによるチタニウム上への選択配置において、非イオン界面活性剤の吸着量の差が、選択比を増強していることが非特許文献4において開示されている。非特許文献4では疎水性基板及びシリコン基板上にはチタニウム基板上より多くの非イオン性界面活性剤が吸着することが示され、また、疎水性基板ならば多くの非イオン性界面活性剤が吸着するだろうことが示唆されているが、親水性基板であるチタニウムとシリコン上への吸着差の機構に関しては明らかにされていない。一方、非イオン性界面活性剤の吸着量差のみを利用することで白金または酸化シリコン上の、チタンまたは窒化シリコン上へ、フェリチンの選択配置を行う方法が特許文献2に開示されている。前記ペプチドRKLPDAが親和性を持つ材料に関しては、非特許文献2において開示されており、チタニウム、シリコン、銀に親和性を持つ一方、金、クロム、白金、錫、亜鉛、銅、鉄に対しては親和性を持たないことが示されている。
【0005】
すなわち、非イオン界面活性剤はタンパク質と基板との相互作用を弱める効果があり、固体表面の吸着量差により、選択的にAuや白金などの疎水性表面や酸化シリコン表面へのタンパク質の配置を抑制することができること、また、ペプチドRKLPDAをタンパク質表面に修飾することにより、チタニウム、シリコン、銀に対する親和性を付与することが出来ることがこれまでに知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/064639号
【特許文献2】国際公開第2006/064640号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ken-Ichi Sano, Kiyotake Shiba, J.A.C.S., 125, 14234(2003)
【非特許文献2】Ken-Ichi Sano, Hiroyuki Sasaki, Kiyotake Shiba, Langmuir, 21, 3090(2005)
【非特許文献3】Ichiro Yamashita, Hiroya Kirimura, Mitsuhiro Okuda, Kazuaki Nishio, Ken-Ichi Sano, Kiyotake Shiba, Tomohiro Hayashi, Masahiko Hara, Yumiko Mishima, Small, 2, 1148(2006)
【非特許文献4】Tomohiro Hayashi, Ken-Ichi Sano, Kiyotake Shiba, Yoshikazu Kumashiro, Kenji Iwahori, Ichiro Yamashita, Masahiko Hara, Nano Letters, 6, 515(2006)
【非特許文献5】Shinya Kumagai, Shigeo Yoshii, Kiyohito Yamada, Nozomu Matsukawa, Isamu Fujiwara, Kenji Iwahori, Ichiro Yamashita, Applied Physics Letters, 88, 153103(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
無機ナノ粒子を半導体デバイスや触媒に用いるためには、無機ナノ粒子をシリコン基板上や、シリカマトリックス中のZrやHfといった元素に高密度に選択配置できる必要がある。しかしながら、静電相互作用を用いた前記従来の方法では、リソグラフィによるパターンニングが必要、かつシリコン以外の表面に高密度に吸着できるカップリング剤が必要になる。一方、ペプチドRKLPDAはチタニウム、シリコン、Agに対する親和性しか明らかでないが、金、クロム、白金、錫、亜鉛、銅、鉄といった多くの元素に対して親和性を持たないことが示されている。更に、ペプチドRKLPDAが親和性を有するシリコン上の所望の元素に選択配置させるためには、シリコン表面への親和性の抑制と、所望の元素への吸着を同時に実現する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明のフェリチン配置工程は、サブユニットN末端部に配列番号1に記載のペプチドを修飾したペプチド修飾フェリチンと非イオン界面活性剤を0.01v/v%以上10v/v%以下含む溶液を、表面の一部にジルコニウムもしくはハフニウムが形成された酸化シリコン上に滴下し、前記ペプチド修飾フェリチンを前記ジルコニウムもしくはハフニウム上に配置させる結合工程を有することを特徴とする。また、余分なペプチド修飾フェリチンを除くために、前記溶液の除去工程、もしくは、前記ペプチド修飾フェリチンを含まない溶液で洗浄する工程を有することを特徴としている。
【0010】
ここで、フェリチンのサブユニットN末端部をペプチドで修飾するとは、フェリチンN末端のアミノ酸残基(メチオニン残基)を配列番号1のペプチドで置換すること、フェリチンのN末端に配列番号1のペプチドを付加すること、及びフェリチンのN末端部のアミノ酸配列に配列番号1のペプチドを挿入することのいずれをも含む。
【0011】
また、ペプチド修飾フェリチンに無機粒子を内包させれば、酸化シリコン上のジルコニウムあるいはハフニウム上に選択的にフェリチンが内包する無機粒子を配置することも可能となる。
【0012】
フェリチンは窒素雰囲気中500℃、酸素雰囲気中400℃、オゾン雰囲気中110℃以上で熱処理することにより、酸化・分解するが、無機粒子は残るため、熱処理によりフェリチンを分解除去することで、無機粒子のみをジルコニウムあるいはハフニウム上に選択配置することが出来る。
【0013】
また、溶液中の吸着プロセスを用いているため、基板上に構造が形成されていても、溶液が接触できる領域においては平坦な基板と本質的に違いはない。
【0014】
以上のように本構成によって、酸化シリコン上に形成されたジルコニウムあるいはハフニウム上にフェリチンあるいは無機粒子を選択配置することが出来る。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフェリチン配置工程によれば、酸化シリコン上の一部に形成されたジルコニウムもしくはハフニウム上に、フェリチンひいてはフェリチンに内包された無機粒子を選択的に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】カゴ状フェリチンとサブユニット、N末端の関係を説明する模式図
【図2】L型フェリチンサブユニットのプラスミドの主要構成と、大腸菌へのプラスミドの取り込みの模式図
【図3】酸化シリコン上のジルコニウムに配置された鉄コア内包minT1−LFのSEM画像の顕微鏡写真
【図4】酸化シリコン上のハフニウムに配置された鉄コア内包minT1−LFのSEM画像の顕微鏡写真
【図5】異なるpHで酸化シリコン上のジルコニウムに配置された鉄コア内包minT1−LFのSEM画像の顕微鏡写真
【図6】異なるpHで酸化シリコン上のハフニウムに配置された鉄コア内包minT1−LFのSEM画像の顕微鏡写真
【図7】minT1−LF吸着個数のpH依存を示すグラフ
【図8】酸化シリコンに吸着したminT1−LFのpH依存を示すグラフ
【図9】minT1−LF吸着個数の非イオン性界面活性剤濃度依存を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施の形態)
以下本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0018】
本発明で用いられるフェリチンは、サブユニットN末端に配列番号1で示されるアミノ酸配列を有している。一例として本発明において用いられるフェリチンは、配列番号3に示されるタンパク質のN末端の開始コドンに対応するメチオニンが配列番号1で示されるアミノ酸配列に置換されたフェリチンである。本実施の形態で用いた発現系では開始コドンに対応するメチオニンが欠失するため、このタンパク質は180残基を有し、配列番号3からメチオニンを除いた174残基のウマ由来フェリチンのアミノ酸配列のアミノ末端に配列番号1の6残基のアミノ酸配列が修飾されたものになった。
【0019】
後述する実験例では、配列番号1が修飾されたフェリチンは「minT1−LF」と記述される。比較例で用いる一般のフェリチンとして、配列番号3からメチオニンが欠失した174残基からなるフェリチンを用い、「△1−LF」と記述する。
【0020】
基板としては、熱酸化シリコン基板上に選択配置させたい元素のパターンが部分的に形成された基板を使用直前に洗浄して用いた。洗浄には水洗、有機溶剤洗浄、UVオゾンによる処理を逐次行った。
【0021】
本発明のフェリチンの選択配置方法には大きく二つ、結合工程と除去工程を有する。まず、結合工程を説明する。
【0022】
(1)結合工程について
結合工程では、前記フェリチンと非イオン界面活性剤を含む溶液を前記基板上に滴下する。
【0023】
(2)除去工程について
除去工程では、基板上に滴下した溶液中に残存しているフェリチンを除去することが目的となる。方法としては主に二つ、乾燥を抑制した状態で遠心により溶液を除去するか、フェリチンを含まない溶液で洗い流すことにより除去する。遠心による除去では、基板表面の凹凸により、除去しきれないフェリチンが残ることがあるため、フェリチンを含まない溶液で洗い流す方法が好ましい。
【0024】
このようにして、フェリチンを基板上に配置することが出来る。なおフェリチンとして、無機粒子を内包したフェリチンを用いれば、無機粒子を基板上に配置することと同等となる。
【0025】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1をさらに詳細に説明する。
【0026】
まず本実験例に用いたフェリチンの製造方法を示す。本実験例では配列番号1でN末端部を修飾したリコンビナントフェリチン「minT1−LF」と配列番号1を有しないリコンビナントフェリチン「△1−LF」を使用した。
【0027】
<△1−LFの製造方法>
まず△1−LFの製造方法について説明する。天然のウマ脾臓由来フェリチンのサブユニットにはわずかに構造の異なるL型とH型があるため、天然フェリチンは、一定の構造を有さない。本実験例ではL型サブユニットのみから構成されるリコンビナントフェリチンを使用した。
【0028】
まず、L型のフェリチンをコードするDNA(配列番号:2、528塩基対)を、PCR法を用いて増幅し、多量のL型フェリチンDNAを用意した。次に、このL型フェリチンDNAを、制限酵素EcoRI及びHind IIIが特異的に切断する部位(制限酵素サイト)で切断した。この切断処理により、EcoRI及びHind IIIの制限酵素サイトを有するL型フェリチンDNA断片の溶液を調製した。この溶液にDNA電気泳動を行い、L型フェリチンをコードするDNA断片だけを回収、精製した。
【0029】
その後、このL型フェリチン DNA断片と、EcoRI - Hind IIIの制限酵素で処理したベクタープラスミド(pMK-2) をインキュベートしてライゲーションを行った。これによりpMK-2プラスミドのマルチクローニングサイト (MSC) にL型フェリチンDNAが入ったベクタープラスミド pMK-2-fer-0 を作製した。使用したベクタープラスミドのpMK-2は、プロモーターに Tac プロモーターを有し、多コピープラスミドとしてコピー数が多いという特徴を持つため、大量のフェリチンを得るのに有利であることから選択した。
【0030】
作製したプラスミド (pMK-2-fer-0) を宿主(ホスト)である大腸菌株E. coli Nova Blue (Novagen ) に導入(形質転換)し、リコンビナントL型フェリチン株(△1−LF)を作製した。なお、L型フェリチンサブユニットのプラスミドの主要構成と、大腸菌へのプラスミドの取り込みを模式化した図を、図2に示した。
【0031】
これらのリコンビナントフェリチンの内部に無機粒子を内包させた。
【0032】
<minT1−LFの製造方法>
次に、配列番号1でN末端部を修飾したフェリチン(minT1−LF)の製造方法について説明する。
【0033】
フェリチンを構成するサブユニットのアミノ末端(N末端)をペプチドで修飾すると、図1に示したように、フェリチン粒子の外側に該ペプチドが突き出した構造となる。そのため、このN末端部分を任意のペプチドで修飾することにより、フェリチン粒子の表面を該ペプチドで修飾することが可能である。
【0034】
ここで、配列番号1に示すアミノ酸配列のペプチドを、N末端に付加及び修飾したフェリチン(minT1−LF)の具体的な製造方法を示す。天然フェリチン(ウマ肝臓由来)のLタイプのサブユニットの全長遺伝子を、配列番号2に示した。本実験例で用いた発現系では開始コドンに対応するメチオニンが欠失するため、配列番号2のDNAからは、配列番号3に示すアミノ酸配列のフェリチンからメチオニンを除いた174残基のアミノ酸からなるフェリチンが合成される。
【0035】
まず、配列番号1をコードするDNA(配列番号4(30塩基対)及び配列番号5(22塩基対))を、PCR法を用いて増幅し、多量のDNAを用意した。
【0036】
次に、上記DNAと、制限酵素Bam I及びSac Iの制限酵素で処理した、リコンビナントL型フェリチンをコードするベクタープラスミド(pMK-2) をインキュベートしてライゲーションを行った。これによりpMK-2プラスミドのマルチクローニングサイト (MSC) に、上記塩基配列のDNA及びL型フェリチンDNAが入ったベクタープラスミド (pKIS1) を作製した。pKIS1作製に使用したベクタープラスミドのpMK-2は、プロモーターに Tac プロモーターを有し、多コピープラスミドとしてコピー数が多いという特徴を持つため、大量のフェリチンを得るのに有利であることから選択した。
【0037】
作製したプラスミドを宿主(ホスト)である大腸菌株 E. coli XLI Blue (Novagen) に導入(形質転換)し、配列番号1が修飾されたL型フェリチン株(minT1−LF)を作製した。
【0038】
<minT1−LFへの無機粒子の導入>
本発明において、フェリチンに内包させる無機粒子の種類は、特に限定されるものではないが、上述の説明及び後述する実施の形態においては、無機粒子として酸化第二鉄(Fe2O3)を用いた。minT1−LFへのFe2O3コアの導入は、以下のようにして行った。
【0039】
反応溶液として、0.5mg/ml minT1−LF/100mM HEPES−NaOH(pH7.0)を調製し、ここに5mM酢酸アンモニウム鉄を添加した。25℃で一晩反応させ、反応後の溶液からFe2O3のコアが形成されたminT1−LFを、遠心分離とゲルろ過により分子精製して回収した。遠心分離は、1,600G、10分及び10,000G、30分の条件で行って、段階的にminT1−LF以外の不要部分を沈殿として除去し、最後に残った上清よりFe2O3コアを形成したminT1−LFを、230,000G、1時間の超遠心分離によってペレットとして回収した。得られたminT1−LFを、HPLCを用いたゲルろ過[カラム:TSK−GEL G4000WXL PEEK/流速:1ml/min/バッファ:50mM Tris−HCl(pH8.0)+150mM NaCl]を行い、24量体(約480kDa)のピークを分取する。分取したminT1−LF溶液は、限外ろ過膜を用いて濃縮し、Fe2O3を内包したminT1−LFを得た。
【0040】
なお、△1−LFに上記と同様の操作を行うことにより、Fe2O3を内包した△1−LFを得た。
【0041】
<基板作製方法>
次に、本実験に用いた基板の作製方法について説明する。主に用いた基板は10mm角の熱酸化シリコン基板の半分にレジスト(日本ゼオン:ZEP520)を塗布し、140℃3分間ベークした後に、金属元素をターゲットとしたRFマグネトロンスパッタにより金属薄膜を製膜した。ターゲットとしては純度99.5%以上(高純度化学)を用いた。段差による影響を排除するため、厚さは1nmとした。40℃に加熱したリムーバー(日本ゼオン:ジメチルアセトアミド)中で超音波洗浄することにより、レジスト上の金属薄膜を除去し、半面がシリコン酸化基板、半面がジルコニウム、もしくはハフニウムの基板を作製した。また、ナノサイズへの選択配置が可能なことを確認するために、電子ビームリソグラフィにより細線をパターニングした基板も作製した。10mm角の熱酸化シリコン基板上に300Åのレジスト(日本ゼオン:ZEP520)をスピンコート法により塗布した後、140℃3分間ベークした。電子ビームリソグラフィ(エリオニクス:ELS−7500)により細線を露光し、現像液(日本ゼオン:n−アミルアセテート)で現像し、幅20nm長さ200nmの細線領域の表面が露出した基板を作製した。以降は半面基板と同様の方法により、ジルコニウムあるいはハフニウムの細線を作製した。
【0042】
作製した基板は使用する直前に超純水中、電子工業用グレードのエタノール中で、電子工業用グレードのアセトン中で順に超音波洗浄した後、110℃に加熱しながらUVオゾナイザーで表面をクリーニングして使用した。
【0043】
また、上記洗浄後の基板を原子間力顕微鏡により表面計測し、作製したジルコニウムあるいはハフニウムが平坦な薄膜であること及び、厚さが2nm以下であることを確認した。
【0044】
<溶液調製>
次に本実験例に用いた溶液の調製方法について説明する。
【0045】
まず緩衝液として超純水(Millipore)、MES(Sigma-Aldrich)、Tris(Sigma-Aldrich:Trizma base)を用い、50mM、pH7.8の緩衝液を調製した。次にフェリチンと非イオン界面活性剤とをそれぞれ0.5mg/mL、1.0v/v%となるように加えた。非イオン界面活性剤としては化1で示すTween20(ICI)を用いた。
【0046】
【化1】

【0047】
<配置工程>
前述した洗浄を行った基板を1インチウェハートレイ中に置き、調製した溶液100uLを滴下した後、乾燥を防ぐために蓋をし、10分間静置した。その後、緩衝溶液のみを500uL滴下し、希釈された溶液を500uL吸引し除去するという工程を3回繰り返した後、同様に超純水のみを1mL滴下し、希釈された溶液を1mL吸引除去する工程を3回繰り返した後に、ビーカー中で超純水を流しながら5分間洗浄した。最後に、窒素ブローにより超純水を吹き飛ばし乾燥させた。
【0048】
<電子顕微鏡(SEM)観察>
配置工程を行った基板に対し、高解像度電子顕微鏡(JEOL:JSM-7400F)を用いてフェリチンが内包する無機粒子コアを観察することにより、基板上のフェリチンの個数を計測した。SEM画像から200nm×200nm角の領域を切り出し、個数をカウントした。個数が100に満たない場合は3カ所の計測値を平均した。
【0049】
酸化シリコン上のジルコニウムに配置されたminT1−LFのSEM画像と、ジルコニウム上の拡大図を図3に示す。また、酸化シリコン上のハフニウムに配置されたminT1−LFのSEM画像と、ハフニウム上の拡大図を図4に示す。minT1−LFはジルコニウム、もしくはハフニウム上に選択的に配置されている。△1−LFの場合、ジルコニウム上の配置個数はminT1−LFの50%、ハフニウム上の配置個数は40%以下であった。
【0050】
(実施例2)
緩衝液として50mMのMES−Trisを用い、pHを6.7、7.4、7.8、8.0、8.2に調製した緩衝液を用い、フェリチン濃度2.0mg/mL、非イオン性界面活性剤濃度Tween20 1v/v%として同様の配置工程を行った。結果のSEM画像を図5、図6に、個数計測結果を図7に示す。pHが7.4もしくは6.7の場合、minT1−LFは溶液中で凝集する傾向にあり、pH6.7では混合してすぐに、pH7.4では数分後には溶液は混濁した。そのため、固体表面に配置されたminT1−LFにも凝集体が散見された。凝集体を避けて計測した結果を図7に示したが、7.4より低いpHでは安定した結果を得ることは困難だった。pH7.4においても、操作を短時間で終わらせる必要性があり、簡易に安定した結果を得るには7.4より高いpHが好ましい。
【0051】
図7に見られるようにジルコニウムもしくはハフニウムに配置されたminT1−LFの個数はpH8.2〜7.8で特に良い結果が得られた。pH7.4を境界に個数は減少したが、前述した溶液中での凝集の影響と合わせて、pHは7.4以上、好ましくは7.8以上で良い結果が得られている。一方、酸化シリコン基板上の配置個数の結果を図8に示す。酸化シリコン上の個数は少ないため、酸化シリコン基板上に直接配置する実験をpH8.4も含めて実施した。pH6.7〜8.2は半面ジルコニウムあるいはハフニウムの結果とほぼ重なる。pH8.2を境界に吸着個数が増加した。このことからpHは8.2以下、好ましくは8.0以下でフェリチンがジルコニウムもしくはハフニウム上に選択的に配置されるという結果が得られた。
【0052】
△1−LFの配置個数結果はpH6.7〜8.2の範囲内で100を越えることは無かった。
【0053】
また、実施例1の結果と合わせて、タンパク質濃度の影響を表1にまとめたが、タンパク質濃度の影響は見られなかった。
【0054】
【表1】

【0055】
(実施例3)
緩衝液として50mMのMES-Tris(pH7.8)、フェリチン濃度として0.5mg/mLの溶液に、非イオン性界面活性剤Tween20の濃度を0.005、0.01、0.1、1、5、10、15、20v/v%と変えた溶液を調製し、酸化シリコン/ハフニウム基板上に配置実験を行った。非イオン性界面活性剤は粘度が高く、また、気泡ができやすいため、15v/v%、20v/v%では再現性のある結果が得られなかった。minT1−LFの配置個数はハフニウム上ではほぼ一定だった。酸化シリコン基板上では、0.01v/v%を境界に、0.01v/v%より低い濃度では配置個数は急激に増加し、0.005v/v%ではハフニウム上とほぼ同数だった。以上の結果から、非イオン性界面活性剤の濃度としては0.01v/v%以上、好ましくは0.1v/v%以上で、minT1−LFのはハフニウム上への配置選択性が得られた。
【0056】
なお、界面活性剤として、化2で示すTween80を用いても同様の結果が得られた。
【0057】
【化2】

【0058】
(実施例4)
緩衝液として50mMのMES-Tris(pH7.8)、フェリチン濃度として0.5mg/mL、非イオン性界面活性剤としてTween20 1v/v%の溶液を調製し、幅20nm、長さ200nmのハフニウム細線を形成した5mm×10mmの酸化シリコン基板上に配置工程を行った。溶液の除去工程として、容量1.5mLのエッペンドルフチューブの中に封入し、2000gで遠心することで溶液を除去した。minT1−LFは細線上に幅2〜3個の列で配置された。また、シリコン酸化基板上には基板端とシリコンかけらゴミ近傍以外にはminT1−LFは見られなかった。
【0059】
溶液の除去工程として、緩衝液と純水により順次洗浄した試料を作製し、観察したところ、minT1−LFは細線上に幅1個の列で配置された。また、シリコン酸化基板上にはminT1−LFは見られなかった。
【0060】
以上のように、本発明によってminT1−LFはナノサイズのハフニウムへの選択的な配置が可能であった。
【0061】
なお、フェリチン内に形成する無機粒子として、コバルト酸化物でも同様の結果が得られた。また、インジウム酸化物を形成したminT1−LFでは、インジウム酸化物粒子が、SEMの電子ビーム照射により二次電子輝度が失われる、おそらく蒸発したため、正確な個数の比較は困難であったが、低倍率の簡易な個数計測でほぼ同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明にかかるフェリチン及び無機粒子の配置方法は、酸化シリコン上のジルコニウムもしくはハフニウム上にフェリチン及び無機粒子の選択配置が可能である。ジルコニウムやハフニウムは高誘電率材料として、シリコン半導体のゲート酸化膜に用いられることから、フェリチンが内包する無機粒子を電荷蓄積ノードとすることにより低電圧で動作するフローティングゲートメモリ等に有用である。
【0063】
また、酸化シリコンを基材とし、ジルコニウムやハフニウムを分散した触媒において、助触媒として用いる無機粒子を内包したフェリチンを選択的に配置することにより、効率的に触媒−助触媒接合界面を酸化シリコン基材上に形成する用途にも応用できる。
【0064】
上記の開示から導出される技術的思想は以下の通りである。
1.
フェリチンの配置方法であって、
サブユニットN末端部に配列番号1に記載のペプチドを修飾したフェリチンと、0.01v/v%以上10v/v%以下の非イオン界面活性剤とを含み、pHが7.4以上8.2以下の範囲にある溶液を、表面の一部にジルコニウムもしくはハフニウムが形成された基板上に滴下することによって、前記フェリチンを選択的に前記ジルコニウムもしくはハフニウム上に結合させる結合工程を包含する。
2.
前記結合工程の後に、前記溶液を除去し、前記ジルコニウムもしくはハフニウム上に選択的に結合した前記フェリチンを前記基板上に残す除去工程をさらに包含する、前記項1に記載の方法。
3.
前記結合工程の後に、前記フェリチンを含まない溶液により前記基板の表面を洗浄し、前記ジルコニウムもしくはハフニウム上に選択的に結合した前記フェリチンを前記基板上に残す洗浄工程をさらに包含する、前記項1に記載の方法。
4.
前記フェリチンが無機粒子を内包している、前記項1に記載の方法。
5.
前記結合工程の後に、前記基板を加熱して前記フェリチンを分解し、前記無機粒子を前記基板上に配置する分解工程をさらに包含する、前記項4に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブユニットN末端部に配列番号1に記載のペプチドを修飾したペプチド修飾フェリチンと、非イオン界面活性剤を0.01v/v%以上10v/v%以下含む溶液であり、かつpHが7.4以上8.2以下の範囲にある溶液を、表面の一部にジルコニウムもしくはハフニウムが形成された酸化シリコン上に滴下することによって、前記ペプチド修飾フェリチンを選択的に前記ジルコニウムもしくはハフニウム上に配置させる結合工程と、前記溶液の除去工程を有するフェリチンの配置方法。
【請求項2】
サブユニットN末端部に配列番号1に記載のペプチドを修飾したペプチド修飾フェリチンと、非イオン界面活性剤を0.01v/v%以上10v/v%以下含む溶液であり、かつpHが7.4以上8.2以下の範囲にある溶液を、表面の一部にジルコニウムもしくはハフニウムが形成された酸化シリコン上に滴下することによって、前記配列番号1修飾フェリチンを選択的に前記ジルコニウムもしくはハフニウム上に配置させる結合工程と、前記ペプチド修飾フェリチンを含まない溶液で洗浄する工程を有するフェリチンの配置方法。
【請求項3】
前記ペプチド修飾フェリチンが無機粒子を内包する請求項1または2記載のフェリチンの配置方法
【請求項4】
前記フェリチン配置工程の後に、前記基板を加熱して前記ペプチド修飾フェリチンを分解する工程を有する請求項3記載の無機粒子の配置方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−270059(P2010−270059A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122866(P2009−122866)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】