説明

フォトニック結晶、フォトニック結晶ウエハ及びフォトニック結晶の製造方法

【課題】優れた強度と耐熱性を有し、かつ、大きな面積又は大きな体積となるフォトニック結晶、フォトニック結晶ウエハ及びフォトニック結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】実施の形態に係るフォトニック結晶の製造方法は、二酸化ケイ素球3と、ガリウム1及びヒ素2と、を密封容器5に封入する工程と、密封容器5を加熱してガリウム1及びヒ素2を融解させてヒ化ガリウム融液13を生成した後、密封容器5の下方から鉛直上方に向けてヒ化ガリウム融液13を固化させてヒ化ガリウム固体14を生成し、二酸化ケイ素球3とヒ化ガリウム固体14からなる混合体15を得る工程と、混合体15が得られた密封容器5を部分的に加熱することによって混合体15の上部に溶融帯19を形成し、溶融帯19を鉛直下方に向けて移動させてヒ化ガリウム固体14中に二酸化ケイ素球3を並べた混合体150を生成する工程と、を含むフォトニック結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶、フォトニック結晶ウエハ及びフォトニック結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶は、屈折率が周期的に変化する構造体であり、その内部の光の伝わり方を構造で制御できることから、導波路又は共振器等の光学素子、発光ダイオード又は面発光レーザ等の発光素子への応用が試みられている。
【0003】
このフォトニック結晶を広く応用するためには、その製造技術が不可欠である。これまで、ドライエッチング技術とウエハ接合技術を用いた方法(例えば、非特許文献1参照)、微小粒子を分散させた液体に基板を浸漬した後に基板を引き上げる方法(例えば、非特許文献2参照)、及び微小粒子を液体に分散させた後に液体を固化させる方法(例えば、特許文献1参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Masahiro Imada, Susumu Noda, Alongkarn Chutinan, Takashi Tokuda, Michio Murata, and Goro Sasaki, "Coherent two-dimensional lasing action in surface-emitting laser with triangular-lattice photonic crystal structure", Appl.Phys.Lett.75,316(1999)
【非特許文献2】Z.-Z.Gu, Q.-B.Meng, S.Hayami, A.Fujishima, and O.Sato, "Self-assembly of submicron particles between electrodes", J.Appl.Phys.90,2042(2001)
【特許文献1】特開2008−93654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に係る方法は、構成材料として化合物半導体を用いるため、機械的強度に優れたフォトニック結晶を得ることが可能である。しかし、非特許文献1に係る方法は、ドライエッチング技術及びウエハ接合技術を用いるので、大きな体積のフォトニック結晶の製造が困難である。
【0006】
非特許文献2に係る方法は、比較的容易に大きな面積又は大きな体積のフォトニック結晶を得ることができるが、このフォトニック結晶は、ガラス基板上にポリスチレン球が配列しただけの構造であり、機械的強度が小さく、応用範囲が著しく制限される。
【0007】
特許文献1に係る方法は、配列したシリカ球の空隙に光硬化性樹脂が入り込んでシリカ球が固定されるため、非特許文献2に係る方法よりも機械的強度に優れたフォトニック結晶が得られる。しかし、光硬化性樹脂の強度は、金属、合金及び化合物半導体よりも小さい。さらに、光硬化性樹脂は、耐熱性においても金属等に劣る場合がほとんどであり、大出力のレーザ等への応用が困難である。
【0008】
従って本発明の目的は、優れた強度と耐熱性を有し、かつ、大きな面積又は大きな体積となるフォトニック結晶、フォトニック結晶ウエハ及びフォトニック結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、分散質粒子と、分散質粒子よりも融点が低く、かつ、融液の状態において分散質粒子よりも密度が大きい分散媒体と、を容器に封入する工程と、容器を加熱して分散媒体を融解させて分散媒体融液を生成した後、容器の下方から鉛直上方に向けて分散媒体融液を固化させて分散媒体固体を生成し、分散質粒子と分散媒体固体からなる第1の混合体を得る工程と、第1の混合体が得られた容器を部分的に加熱することによって第1の混合体の上部に溶融帯を形成し、溶融帯を鉛直下方に向けて移動させて分散媒体固体中に分散質粒子を並べた第2の混合体を生成する工程と、を含むフォトニック結晶の製造方法を提供する。
【0010】
また、上記分散質粒子が略球形状を有する。
【0011】
また、上記分散質粒子が二酸化ケイ素であることが好ましい。
【0012】
また、上記分散媒体がヒ化ガリウムであることが好ましい。
【0013】
また、上記容器に封入する工程が、分散質粒子と、分散媒体を構成する複数の物質と、を容器に封入することを含む。
【0014】
また、上記分散媒体を構成する物質が、ヒ素及びガリウムであることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、上記目的を達成するため、ヒ化ガリウム固体と、ヒ化ガリウム固体中に面心立方格子状に配列した二酸化ケイ素球を有し、二酸化ケイ素球の直径が200nm以上2.5μm以下であるフォトニック結晶ウエハを提供する。
【0016】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記のフォトニック結晶の製造方法、または上記のフォトニック結晶ウエハを用いて作成されるフォトニック結晶を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るフォトニック結晶、フォトニック結晶ウエハ及びフォトニック結晶の製造方法によれば、優れた強度と耐熱性を有し、かつ、大きな面積又は大きな体積となるフォトニック結晶、フォトニック結晶ウエハ及びフォトニック結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。
【図2】図2は、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。
【図3】図3は、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。
【図4】図4は、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。
【図5】図5は、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。
【図6】図6は、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。
【図7】図7は、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。
【図8】図8は、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。
【図9】図9は、第1の実施の形態に係る反射光の強度を測定する測定系の概略図である。
【図10】図10は、第1の実施の形態に係る反射光の強度測定の測定結果を示すグラフである。
【図11】図11は、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。
【図12】図12は、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態の要約]
実施の形態に係るフォトニック結晶の製造方法は、分散質粒子と、分散質粒子よりも融点が低く、かつ、融液の状態において分散質粒子よりも密度が大きい分散媒体と、を容器に封入する工程と、容器を加熱して分散媒体を融解させて分散媒体融液を生成した後、容器の下方から鉛直上方に向けて分散媒体融液を固化させて分散媒体固体を生成し、分散質粒子と分散媒体固体からなる第1の混合体を得る工程と、第1の混合体が得られた容器を部分的に加熱することによって第1の混合体の上部に溶融帯を形成し、溶融帯を鉛直下方に向けて移動させて分散媒体固体中に分散質粒子を並べた第2の混合体を生成する工程と、を含む。
【0020】
[第1の実施の形態]
(フォトニック結晶の製造方法)
図1〜図8は、第1の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。以下に、本実施の形態のフォトニック結晶の製造方法について説明する。このフォトニック結晶は、例えば、導波路、共振器等の光学素子、発光ダイオード及び面発光レーザ等の発光素子等に用いることができる。特に、フォトニック結晶は、例えば、ウエハ状に加工することにより、特定の波長の光を反射する反射鏡として用いることができる。また、フォトニック結晶は、例えば、特定の波長の赤外線のみを強く反射するため、同時に多数のフォトニック結晶を空中に散布する等の方法により、赤外線レーダのかく乱に用いることができる。
【0021】
まず、図1に示すように、分散媒体を構成する物質としてのガリウム1及びヒ素2と、分散質粒子としての二酸化ケイ素球3と、を窒化ホウ素製のるつぼ4に入れ、さらに、密封容器5の中に封入する。
【0022】
るつぼ4に入れられたガリウム1の質量は、例えば、300gである。また、ヒ素2の質量は、例えば、320gである。
【0023】
二酸化ケイ素球3の質量は、600gである。二酸化ケイ素球3は、球形状を有し、そのモード径は500nm、標準偏差は1nmである。このモード径および標準偏差は、動的光散乱法、レーザ解析散乱法等を用いて計測される粒子分布から求められるものである。
【0024】
なお、二酸化ケイ素球3のモード径は、フォトニック結晶を利用する光学素子等に応じて、適したモード径を用いることができる。また、二酸化ケイ素球3は、例えば、そのモード径が200nm以上2.5μm以下であることが好ましい。なぜなら、フォトニック結晶は、その周期性によりフォトニックバンドを生じ、そのバンド構造により光の振る舞いが決まる。このバンド構造は、波数と規格化周波数(フォトニック結晶の周期を光の波長で除算したもの)の関係、すなわち、分散関係で記述される。一般に、フォトニック結晶においては、規格化周波数が0から1の範囲における分散関係を利用する。実際には、制御性等を考慮して0.3〜0.8程度の範囲が望ましい。さて、本実施の形態に係るフォトニック結晶は、GaAsとSiとを組み合わせて形成される。GaAsは、可視域の光を吸収してしまうため、フォトニック結晶として使えるのは、赤外線(波長範囲780nm〜4μm)となる。フォトニック結晶が面心立方格子をとる場合、つまり、本実施の形態のフォトニック結晶の場合、その周期は、分散質粒子の直径の約1.14倍となる。従って、波長が780nm、規格化周波数が0.3であるとき、分散質粒子の直径は205nmとなる。また、波長が4μm、規格化周波数が0.8であるとき、分散質粒子の直径は2.46μmとなる。よって、分散質粒子の直径は、200nm以上2.5μm以下であることが好ましい。
【0025】
るつぼ4は、例えば、窒化ホウ素を材料として用いて形成され、内径が50mmで、長さが250mmの円筒形状を有する。
【0026】
密封容器5は、例えば、ステンレスを材料として用いて形成される。密封容器5は、収容部と蓋とからなり、この収容部にるつぼ4が収容され、蓋を閉めることにより収容部内を密封できるように構成されている。この密封容器5は、るつぼ4を収容した後、収容部内が10−4Pa以下に減圧される。
【0027】
次に、図2に示すように、密封容器5を加熱炉12に入れる。この加熱炉12は、密封容器5を囲むリング状の下部ヒータ6、中部ヒータ7及び上部ヒータ8と、各ヒータの温度を測定する温度センサである下部熱電対9、中部熱電対10及び上部熱電対11と、を備えて概略構成されている。
【0028】
下部ヒータ6は、密封容器5の下部分を囲うように設置される。中部ヒータ7は、密封容器5の中央部分を囲うように設置される。上部ヒータ8は、密封容器5の上部分を囲うように設置される。この下部ヒータ6、中部ヒータ7及び上部ヒータ8は、るつぼ4に入れられたガリウム1、ヒ素2及び二酸化ケイ素球3をむらなく加熱することができるように構成される。
【0029】
次に、下部ヒータ6、中部ヒータ7及び上部ヒータ8の温度を1400℃としてガリウム1、ヒ素2及び二酸化ケイ素球3を加熱する。この加熱により、ガリウム1とヒ素2との化学反応を起こさせ、図3に示すように、分散質媒体としてのヒ化ガリウムの融液であるヒ化ガリウム融液13(分散媒体融液)を生成する。二酸化ケイ素球3は、融点がおよそ1650℃であるので、上記の加熱によって融解することはなく、また、二酸化ケイ素とヒ化ガリウムは高温における反応性に乏しいことから、ヒ化ガリウム融液13中に形状を維持したまま存在する。図3は、二酸化ケイ素球3が形状を保持したまま、ヒ化ガリウム融液13に混ざっている様子を示している。
【0030】
また、二酸化ケイ素球3は、密度が2.2g/cmであり、ヒ化ガリウム融液13の密度5.71g/cmよりも小さいため、図3に示すように、ヒ化ガリウム融液13の上方に分布する。
【0031】
次に、ヒ化ガリウム融液13を生成した後、下部ヒータ6、中部ヒータ7及び上部ヒータ8による加熱を停止して密封容器5を放置する。放置する時間は、一例として、およそ1時間である。密封容器5を放置することにより、加熱により上昇した温度を下げ、二酸化ケイ素球3をヒ化ガリウム融液13の上部に、さらに分布させる。
【0032】
次に、下部ヒータ6の温度が最も低く、上部ヒータ8の温度が最も高くなるように各ヒータを設定して加熱することで、密封容器5に下部ほど温度が低く、上部ほど温度が高い温度勾配を形成する。ここで、下部ヒータ6の温度は、一例として、1305℃である。上部ヒータ8の温度は、一例として、1355℃である。中部ヒータ7の温度は、一例として、下部ヒータ6と上部ヒータ8の温度の間である1330℃である。
【0033】
次に、上記の温度勾配となる状態を形成した後、図4に示すように、下部ヒータ6、中部ヒータ7及び上部ヒータ8の温度を徐々に下げることで、ヒ化ガリウム融液13の下部からヒ化ガリウム融液13を固化させた分散媒体固体としてのヒ化ガリウム固体14を形成する。以下、このヒ化ガリウム固体14と二酸化ケイ素球3とが混じった固体を第1の混合体としての混合体15と呼ぶ。
【0034】
ここで、図4に示す固体領域15aは、ヒ化ガリウム固体14が形成された領域である。また、図4に示す融液領域15bは、ヒ化ガリウム融液13が残存している領域である。
【0035】
また、ヒ化ガリウム融液13を固化させる工程は、ヒ化ガリウム融液13を固化させる速度が、一例として、るつぼ4の側面から見た融液の液面の高さで、5mm/hとなるように、下部ヒータ6、中部ヒータ7及び上部ヒータ8が制御される。このヒ化ガリウム融液13の全てが固化するのに要する時間は、一例として、およそ40時間である。
【0036】
次に、図5に示すように、融液領域15bに残存するヒ化ガリウム融液13が固化し、るつぼ4内の全てのヒ化ガリウム融液13がヒ化ガリウム固体14となった後、下部ヒータ6、中部ヒータ7及び上部ヒータ8を停止し、二酸化ケイ素球3とヒ化ガリウム固体14からなる混合体15を放置して冷却した。続いて、密封容器5の表面温度がおよそ100℃以下まで低下した後、加熱炉12から密封容器5を取り出す。なお、混合体15は、るつぼ4の内壁によって形成される円筒内で固化したものであることから、略円柱形状を有する。
【0037】
次に、図6に示すように、密封容器5を帯溶融炉18に収容する。この帯溶融炉18は、密封容器5を囲うようなリング形状を有するリング状ヒータ16と、このリング状ヒータ16の温度を測定する熱電対17と、を備えて概略構成されている。
【0038】
次に、リング状ヒータ16のリングの中心が、るつぼ4内の混合体15の上端部に位置する状態となるようにリング状ヒータ16を保持し、リング状ヒータ16の温度を1300℃とした。この加熱により、混合体15の上端部に溶融帯19が形成された。
【0039】
この溶融帯19では、混合体15が溶融し、ヒ化ガリウム融液13と二酸化ケイ素球3に分離する。二酸化ケイ素球3の密度は、ヒ化ガリウム融液13の密度よりも小さいため、二酸化ケイ素球3は、溶融帯19の上方に分布する。この溶融帯19のるつぼ4を側面から見たときの幅hは、一例として、およそ5mmである。
【0040】
次に、図7に示すように、リング状ヒータ16を図7の紙面に対して鉛直下方向に移動させる。このリング状ヒータ16の移動により、溶融帯19が下方に移動する。この移動に伴って、溶融帯19より上部分にヒ化ガリウム融液13が固化した固化領域19aが形成される。この固化領域19aは、並んだ二酸化ケイ素球3をヒ化ガリウム固体14が覆っている。
【0041】
次に、図8に示すように、るつぼ4の上方から下方に溶融帯19を移動させた後、るつぼ4には、二酸化ケイ素球3が規則的に並んでヒ化ガリウム固体14中に存在する第2の混合体としての混合体150が得られた。ここで、リング状ヒータ16の移動は、一例として、100時間かけて行われる。
【0042】
次に、密封容器5の表面温度が、一例として、およそ100℃以下まで低下してから、帯溶融炉18から密封容器5を取り出す。
【0043】
次に、密封容器5からるつぼ4を取り出し、さらに、るつぼ4から混合体150を取り出す。
【0044】
上記に記載の工程を経て得られた混合体150は、例えば、円柱形状を有する。この混合体150は、直径がおよそ50mmで、長さがおよそ195mmである。
【0045】
次に、この混合体150をウエハ状に切断し、切断面を研磨する。切断の結果、混合体150から、厚さ1mmの18枚のウエハが得られた。
【0046】
ここで、混合体150の下部から得られたウエハ(フォトニック結晶ウエハ)を、順番に第1のウエハ、第2のウエハ…第18のウエハと呼称する。さらに、切り出した各ウエハを、面内の中心を通る線に沿うようにそれぞれ分割した。
【0047】
分割したウエハの表面及び分割した断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、第2のウエハから第18のウエハは、二酸化ケイ素球3が面心立方格子の断面形状に似た形状を形成していることが確認された。しかし、第1のウエハでは、第2のウエハ等と比べて二酸化ケイ素球3が少ない領域が観察された。
【0048】
これは、ガリウム1、ヒ素2及び二酸化ケイ素球3の封入において、二酸化ケイ素球3がガリウム1及びヒ素2に比べて質量が少ないため、最後にヒ化ガリウム融液13が固化した混合体150の最下部において、他の領域と比べて二酸化ケイ素球3が少なくなったからである。
【0049】
以上の結果から、混合体150は、最下部の1mm〜2mm程度を除き、ヒ化ガリウム固体14中に二酸化ケイ素球3が面心立方格子を形成して規則正しく整列していることが分かった。従って、以上の工程により、直径およそ50mm、長さ193mmの円柱形状を有するフォトニック結晶が得られた。
【0050】
(光強度の測定について)
図9は、第1の実施の形態に係る反射光の強度を測定する測定系の概略図である。図10は、第1の実施の形態に係る反射光の強度測定の測定結果を示すグラフである。図10の縦軸は光強度(任意単位)であり、横軸は波長(μm)である。
【0051】
上記の工程により、直径がおよそ50mmで、長さがおよそ193mmの円柱形状を有する混合体20を作成した。図9に示すように、二酸化ケイ素球が形成する面心立方格子の(111)面に平行となるように混合体20の中心近傍で混合体20を切断した。
【0052】
混合体20の切断により形成された切断面21を研磨した後、例えば、硫酸、過酸化水素水及び水を1:3:100の割合で混合し、温度を25℃にした溶液に混合体20を3分間浸清し、流水で洗浄した。さらに、フッ化水素酸と水とを等量の割合で混合し、温度を25℃にした溶液に混合体20を1分間浸清し、流水で洗浄した。
【0053】
次に、図9に示すような測定系を構成し、上記の処理を行った混合体20の切断面21の反射スペクトルを測定した。この反射スペクトルの測定は、以下のようにして行われた。
【0054】
まず、図9に示すハロゲンランプ40から放射された光は、レンズ41により平行光とされた後、光チョッパ42で変調され、入射光400として切断面21に照射される。次に、切断面21で反射された反射光401は、分光器43へと入射する。ここで、この測定では、可能な限り切断面21に垂直な反射スペクトルを測定することが理想であるが、現実には、そのような測定系を構成することは困難である。そこで本実施の形態に係る測定系は、切断面21に対する入射角および反射角は5°となるように調整されている。
【0055】
次に、分光器43に設けられた光検出器44により、分光された光を検出し電気信号へと変換する。この電気信号は、ロックインアンプ45に入力され、変調成分のみを増幅される。増幅された電気信号は、デジタルマルチメータ46でデジタル化される。コンピュータ47は、このデジタル化された電気信号を取得すると共に分光器43の制御を行う。なお、ロックインアンプ45は、光検出器44から出力された電気信号と、光チョッパ42から出力された参照信号と、に基づいて変調成分の増幅を行う。この参照信号は、光チョッパ42の周波数(チョッピング周波数)の信号である。
【0056】
さらに、切断面21の測定の後、混合体20を設置したのと同じ位置に、表面に金を蒸着した鏡で同様の測定を実施した。本測定を実施した波長域(1.2〜1.8μm)における金の反射率はほぼ100%であるから、この反射スペクトルは、ハロゲンランプ40のスペクトルとみなすことができる。このスペクトルをリファレンスとする。切断面21の反射スペクトルをリファレンスで除算することにより、切断面21の反射率を得ることができる。この得られた反射率を図10に示した。
【0057】
図10に示すように、混合体20は、波長1.55μm付近で光強度が増加していることが分かる。つまり、混合体20は、波長1.55μm付近で反射率が増加していることが分かる。この測定結果から、混合体20は、フォトニック結晶であることが分かる。
【0058】
以上の結果により、混合体150は、その構造から、混合体20は、その光学的特性からフォトニック結晶であることが分かる。
【0059】
(第1の実施の形態の効果)
本実施の形態に係るフォトニック結晶は、ヒ化ガリウムと二酸化ケイ素の集合体であり、互いに化学反応を起こしていないことから、ヒ化ガリウムの融点(1238℃)近傍までは、安定である。
【0060】
一方、ポリカーボネートの分解温度は、例えば、400〜500℃程度であり、光硬化性樹脂の分解温度も同程度である。従って、本実施の形態に係るフォトニック結晶は、光硬化性樹脂から形成されたフォトニック結晶と比べて、耐熱性に優れる。
【0061】
また、ポリカーボネートのビッカース硬さは、およそ数十HV程度であるが、ヒ化ガリウム及び二酸化ケイ素のビッカース硬さは、数百HV程度であるので、本実施の形態に係るフォトニック結晶は、機械的強度に優れ、ハンドリングが容易となる。
【0062】
本実施の形態に係るフォトニック結晶の体積は、その底面積と長さからおよそ378cmであり、配列したシリカ球の空隙に光硬化性樹脂を充填して形成されたフォトニック結晶と比べて、大きな体積である。
【0063】
本実施の形態に係るフォトニック結晶は、二酸化ケイ素の屈折率がおよそ1.45であり、ヒ化ガリウムの屈折率がおよそ3.6程度であることから、屈折率差が大きくなる。本実施の形態に係るフォトニック結晶は、例えば、二酸化ケイ素と空気、又は空気と樹脂等の組み合わせと同等以上の屈折率差を実現することができるので、光学特性に優れる。
【0064】
本実施の形態に係るフォトニック結晶は、結晶を構成する二酸化ケイ素とヒ化ガリウムが、共に単体では赤外線を透過するので、特定の波長の赤外線に対する反射率が高く、それ以外の赤外線は透過するというバンドパスフィルタを容易に構成することができる。
【0065】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態は、分散媒体としての多結晶ヒ化ガリウムと二酸化ケイ素からフォトニック結晶を製造する点で第1の実施の形態と異なっている。なお、以下の実施の形態において、第1の実施の形態と同じ機能及び構成を有する部分については、第1の実施の形態と同じ符号を付し、その説明は省略するものとする。
【0066】
(フォトニック結晶の製造方法)
図11及び図12は、第2の実施の形態に係るフォトニック結晶の製造工程を示す模式図である。以下に、本実施の形態のフォトニック結晶の製造方法について説明する。
【0067】
まず、多結晶ヒ化ガリウム30、二酸化ケイ素球3をるつぼ4に入れ、さらに、密封容器5の中に封入する。封入後、この密封容器5内は、10−4Pa以下に減圧される。
【0068】
るつぼ4に入れられた多結晶ヒ化ガリウム30の質量は、例えば、620gである。また、二酸化ケイ素球3の質量は、例えば、600gである。
【0069】
次に、図11に示すように、密封容器5を加熱炉12に入れる。
【0070】
次に、下部ヒータ6、中部ヒータ7及び上部ヒータ8の温度を1350℃として多結晶ヒ化ガリウム30及び二酸化ケイ素球3を加熱する。この加熱により、多結晶ヒ化ガリウム30を溶融させ、ヒ化ガリウム融液を生成した。二酸化ケイ素球3は、融点がおよそ1650℃であるので、上記の加熱によって融解することはなく、また、二酸化ケイ素とヒ化ガリウムは高温における反応性に乏しいことから、ヒ化ガリウム融液中に形状を維持したまま存在する。
【0071】
以後は、第1の実施の形態と同様の工程を行い、図12に示す混合体31を得た。この混合体31は、例えば、円柱形状を有する。この混合体31は、直径がおよそ50mmで、長さがおよそ195mmである。
【0072】
次に、この混合体31をウエハ状に切断し、切断面を研磨する。切断の結果、第1の実施の形態と同様に、混合体31から、厚さ1mmの18枚のウエハが得られた。
【0073】
ここで、混合体31の下部から得られたウエハを、順番に第20のウエハ、第21のウエハ…第37のウエハと呼称する。さらに、切り出した各ウエハを、面内の中心を通る線に沿うようにそれぞれ分割した。
【0074】
分割したウエハの表面及び分割した断面を顕微鏡で観察した結果、第21のウエハから第37のウエハは、二酸化ケイ素球3が面心立方格子を形成していることが確認された。しかし、第20のウエハでは、二酸化ケイ素球3が少ない領域が観察された。
【0075】
以上の結果から、直径およそ50mm、長さ193mmの円柱形状を有するフォトニック結晶が得られた。
【0076】
(第2の実施の形態の効果)
本実施の形態に係るフォトニック結晶の製造方法によれば、多結晶ヒ化ガリウムを用いてヒ化ガリウム融液を生成するので、ガリウム及びヒ素からヒ化ガリウム融液を生成する場合と比べて、ガリウム及びヒ素の化学反応を必要としないので、低温でヒ化ガリウム融液を生成することができる。
【0077】
なお、上記の各実施の形態では、分散質粒子として二酸化ケイ素を用い、分散媒体としてヒ化ガリウムを用いたが、これに限定されず、分散質粒子よりも融点が低く、かつ、液体の状態において分散質粒子よりも密度が大きい材料であれば他の材料を用いることができる。そのような材料として、例えば、分散質粒子として二酸化チタン、分散媒体としてリン化インジウムをあげることができる。また、上記の各実施の形態において分散質粒子は、酸化物であり、分散媒体は、化合物半導体であったが、これに限定されない。
【0078】
以上、本発明の実施の形態及びその変形例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び変形例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び変形例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0079】
1…ガリウム
2…ヒ素
3…二酸化ケイ素球
4…るつぼ
5…密封容器
6…下部ヒータ
7…中部ヒータ
8…上部ヒータ
9…下部熱電対
10…中部熱電対
11…上部熱電対
12…加熱炉
13…ヒ化ガリウム融液
14…ヒ化ガリウム固体
15…混合体
15a…固体領域
15b…融液領域
16…リング状ヒータ
17…熱電対
18…帯溶融炉
19…溶融帯
19a…固化領域
20…混合体
21…切断面
30…多結晶ヒ化ガリウム
31…混合体
40…ハロゲンランプ
41…レンズ
42…光チョッパ
43…分光器
44…光検出器
45…ロックインアンプ
46…デジタルマルチメータ
47…コンピュータ
150…混合体
400…入射光
401…反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散質粒子と、前記分散質粒子よりも融点が低く、かつ、融液の状態において前記分散質粒子よりも密度が大きい分散媒体と、を容器に封入する工程と、
前記容器を加熱して前記分散媒体を融解させて分散媒体融液を生成した後、前記容器の下方から鉛直上方に向けて前記分散媒体融液を固化させて分散媒体固体を生成し、前記分散質粒子と前記分散媒体固体からなる第1の混合体を得る工程と、
前記第1の混合体が得られた前記容器を部分的に加熱することによって前記第1の混合体の上部に溶融帯を形成し、前記溶融帯を鉛直下方に向けて移動させて前記分散媒体固体中に前記分散質粒子を並べた第2の混合体を生成する工程と、
を含むフォトニック結晶の製造方法。
【請求項2】
前記分散質粒子が略球形状を有する請求項1に記載のフォトニック結晶の製造方法。
【請求項3】
前記分散質粒子が二酸化ケイ素である請求項2に記載のフォトニック結晶の製造方法。
【請求項4】
前記分散媒体がヒ化ガリウムである請求項3に記載のフォトニック結晶の製造方法。
【請求項5】
前記容器に封入する工程が、前記分散質粒子と、前記分散媒体を構成する複数の物質と、を前記容器に封入することを含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶の製造方法。
【請求項6】
前記分散媒体を構成する物質が、ヒ素及びガリウムである請求項5に記載のフォトニック結晶の製造方法。
【請求項7】
ヒ化ガリウム固体と、前記ヒ化ガリウム固体中に面心立方格子状に配列した二酸化ケイ素球を有し、
前記二酸化ケイ素球の直径が200nm以上2.5μm以下であるフォトニック結晶ウエハ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のフォトニック結晶の製造方法、または請求項7に記載のフォトニック結晶ウエハを用いて作成されるフォトニック結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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