説明

フォトニック結晶構造を有する成形体およびその製造方法

【課題】コアシェル粒子を利用した、簡便な操作による、精度の高いフォトニック結晶構造体の構築。
【解決手段】
コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子の乾燥粉体を調製する工程と、コアシェル粒子の乾燥粉体を加熱および加圧する工程とを含む、フォトニック結晶構造を有する成形体の製造方法であって、
コアシェル粒子は、0.02〜2.0μmの平均粒子径を有し、
コアシェル粒子のコア部は、単分散のコア部であり、
コア部の軟化温度は、シェル部の軟化温度よりも高く、
コア部の屈折率とシェル部の屈折率との差は、0.01以上であり、
コアシェル粒子の乾燥粉体を加熱および加圧することによって、コアシェル粒子のシェル部同士が融着し、コア部が規則正しく配列した成形体が形成される、
フォトニック結晶構造を有する成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトニック結晶構造を有する成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蝶の羽や玉虫のきらきらした構造色(「パール色」や「虹色」と記載している文献もある)の輝きは、光の波長以下の大きさを持つ規則正しい周期的な構造に由来することが既に知られている。このような規則正しい周期的な構造を有し、特異な光学特性を示す構造体は、総称して「フォトニック結晶」と呼ばれ、これは、「屈折率が周期的に変化するナノ構造体であり、数100nm〜数μmの光の伝わり方がナノ構造で制御できるもの」と定義されている。なお、このような構造色は、非常に小さな粒子、例えば、0.15〜0.35μmの範囲の平均粒子径を有する単分散粒子を規則正しく周期的に並べることによっても発現することが知られている。なお、「単分散粒子」とは、粒子径が同一またはほぼ同一である粒子であって、変動係数が50%以下の粒子径の分布が非常に小さい粒子を意味する。粒子径にばらつきがあると、フォトニック結晶としての光学特性が得られなかったり、光学特性が弱くなったりする傾向にある。
【0003】
例えば、特開2008−83545号公報(特許文献1)および特開2008−165030号公報(特許文献2)は、コア部およびシェル部からなるコアシェル構造を有する粒子のエマルジョンを基材に塗布し、その後、乾燥させることによって、乾燥の際に粒子のシェル部同士が結合して、粒子が規則正しく配列し、さらに、常温または加熱下で粒子のシェル部のみを流動化させることによって、コア部が規則正しく配列したフォトニック結晶構造を有する塗膜が形成されることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008− 83545号公報
【特許文献2】特開2008−165030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フォトニック結晶構造体は、従来では、蝶や玉虫などが発現する、いわゆる「構造色」を模して、粒子、特に、コアシェル構造を有する粒子から構築され、優れた意匠性を有する塗膜として利用されている。
【0006】
しかし、粒子のエマルジョンを塗布する従来の方法では、フォトニック結晶構造に欠陥が生じ易く、精度の高いフォトニック結晶構造体を構築することは非常に困難であった。また、キャスト法では、粒子を分散している水などの分散媒の蒸発による体積収縮により塗膜がひび割れる傾向にあり、スプレー法では、乾燥速度が速く、樹脂粒子が整列する前に乾燥してしまい、並び方の悪い状態で固着する傾向にあった。さらに、塗料という形態では、厚みのある成形体を作製することが非常に困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子を利用した、簡便な操作による、精度の高いフォトニック結晶構造を有する成形体(いわゆる「フォトニック結晶構造体」)の構築を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子の乾燥粉体を調製し、この乾燥粉体を加熱および加圧するだけの非常に簡便な操作によって、コアシェル粒子のシェル部同士が融着し、コア部が規則正しく配列したフォトニック結晶構造体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子の乾燥粉体を調製する工程と、コアシェル粒子の乾燥粉体を加熱および加圧する工程とを含む、フォトニック結晶構造を有する成形体の製造方法であって、
コアシェル粒子は、0.02〜2.0μmの平均粒子径を有し、
コアシェル粒子のコア部は、単分散のコア部であり、
コア部の軟化温度は、シェル部の軟化温度よりも高く、
コア部の屈折率とシェル部の屈折率との差は、0.01以上であり、
コアシェル粒子の乾燥粉体を加熱および加圧することによって、コアシェル粒子のシェル部同士が融着し、コア部が規則正しく配列した成形体が形成される、
フォトニック結晶構造を有する成形体の製造方法。
【0010】
本発明の製造方法において、シェル部の軟化温度以上かつコア部の軟化温度未満の温度に加熱することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記の製造方法で得られる成形体に関する。
【0012】
本発明の成形体は、フォトニック結晶デバイスに用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子の乾燥粉体を加熱および加圧するだけの非常に簡便な操作によって、欠陥が少なく、精度の高いフォトニック結晶構造体を構築することができる。本発明の方法は、従来のコアシェル粒子エマルジョンの塗布および乾燥と比較すると、驚くほど簡便であり、しかも、コア部の整列の精度が飛躍的に向上し、非常に欠陥の少ないフォトニック結晶構造体を高い再現性で構築することができる。
【0014】
また、本発明のフォトニック結晶構造を有する成形体の製造方法では、その製造過程において、使用するコアシェル粒子の種類、特に、コア部およびシェル部の種類およびその組み合わせ、コアシェル粒子の粒子径、コア/シェル比、コア部の軟化温度および屈折率、シェル部の軟化温度および屈折率、加圧圧力、加熱温度などの各種パラメータを容易に変更することができ、所望の用途に応じて、様々な特性を成形体に付与することができる。
【0015】
例えば、本発明のフォトニック結晶構造を有する成形体は、フォトニック結晶デバイスに適用することができる。この場合、本発明の成形体は単結晶構造を有することが望ましい。
【0016】
また、本発明のフォトニック結晶構造を有する成形体は、驚くべきことに、優れた意匠性をも提供することができ、例えば、オパールの様な模倣宝石として、優れた意匠性を提供することができる。この場合、本発明の成形体は、単結晶に近い構造であっても、多結晶の構造であってもよいが、人造オパールの場合には、特に単結晶構造に近づくほど、天然オパールに近い透明感のある外観を提供することができるので望ましい。逆に、成形体が、多結晶構造になるほど、また、欠陥構造を多く含むほど、透明度が低下して、人造大理石調の成形物として使用することができる。
【0017】
本発明の成形体は、コア部およびシェル部をともに樹脂から形成することができるので、人造オパール、人造大理石などを非常に迅速かつ簡便に、しかも、安価に製造することができる。また、合成宝石(人工宝石)は、通常、天然宝石と同じ成分となるように、複雑かつ煩雑な合成過程を経由して製造するが、本発明では、そのような煩雑性はなく、非常に簡便に模倣宝石を製造することができる。また、本発明を人造大理石とした場合、非常に軽量にすることができるので、建材として非常に有益である。
【0018】
また、本発明では、成形体に顔料、染料などの着色剤を全く添加する必要がなく、製造条件(パラメータ)、例えば、粒子径、コア部とシェル部の比、コア部とシェル部の屈折率の差、乾燥粉体に付与する圧力、加熱温度などのパラメータを変更するだけの非常に簡単な操作によって、成形体の発色を制御することができる。
【0019】
また、本発明の製造方法で形成した成形体は、様々な形状に成形することができ、しかも樹脂から作製することもできるので、切削、研磨などの二次加工が非常に容易である。さらに、本発明によると、従来の製造方法では困難であった、厚みのある成形体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で作製した成形体1の写真である。
【図2】実施例1で作製した成形体1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である(倍率:10000倍)。
【図3】実施例1で作製した成形体1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である(倍率:30000倍)。
【図4】実施例2で作製した成形体2の写真である。
【図5】実施例2で作製した成形体2の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である(倍率:10000倍)。
【図6】実施例2で作製した成形体2の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である(倍率:30000倍)。
【図7】比較例1で作製した塗膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である(倍率:50000倍)。
【図8】本発明の成形体のオパール様の意匠を示す。
【図9】本発明の成形体の大理石様の意匠を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子の乾燥粉体を調製する工程と、コアシェル粒子の乾燥粉体を加熱および加圧する工程とを含む、フォトニック結晶構造を有する成形体の製造方法に関する。特に、本発明では、コアシェル粒子の乾燥粉体を加熱および加圧するだけの非常に簡単な操作によって、コアシェル粒子のシェル部同士が融着し、コア部が規則正しく配列した成形体、すなわち、フォトニック結晶構造を有する成形体(「フォトニック結晶構造体」)を形成することができる。
【0022】
コアシェル粒子の乾燥粉体を調製する方法としては、従来の方法で調製したコアシェル粒子のエマルジョンの自然乾燥以外に、例えば、コアシェル粒子エマルジョンの凍結乾燥(いわゆる、フリーズドライ)、噴霧乾燥(いわゆる、スプレードライ)、加熱オーブンによる乾燥などの方法が挙げられる。
【0023】
また、本発明では、コアシェル粒子として、以下にて詳細に説明する通り、コア部の軟化温度(すなわち、軟化点)が、シェル部の軟化温度よりも高いものを使用する。
【0024】
従来では、コアシェル粒子のエマルジョンをそのまま基体に塗布して塗膜を形成し、乾燥によって溶媒を除去し、乾燥の際にコアシェル粒子のシェル部同士が結合することによってコアシェル粒子を整列させ、その後、必要に応じてシェル部の軟化温度以上かつコア部の軟化温度未満の温度に加熱することによって、シェル部を流す(すなわち融解する)ことによって、コア部が規則正しく整列したフォトニック結晶構造体を形成していた。しかし、このような従来の塗布方法では、粒子の配列が乱れやすく、キャスト法では、塗膜がひび割れる傾向にあり、また、スプレー法では、乾燥速度が速く、粒子が整列する前に乾燥してしまい、並び方の悪い状態で固着する傾向にあり、結晶構造に欠陥が生じやすかった。
【0025】
そこで、本発明では、コアシェル粒子を従来のようにエマルジョンの形態で使用するのではなく、上述の通り、乾燥粉体の形態で使用するので、コアシェル粒子が凝集することがなく、さらに、乾燥粉体を加熱および加圧するだけの非常に簡単な操作によって、特に、コアシェル粒子をシェル部の軟化温度以上かつコア部の軟化温度未満の温度に加熱して、シェル部同士を融着させることによって、コア部が規則正しく配列した、いわゆるフォトニック結晶構造体を構築することができる。
【0026】
驚くべきことに、本発明では、コアシェル粒子の乾燥粉体を加熱および加圧するだけの非常に簡単な操作によって、整列するコアシェル粒子のコア部の充填を従来よりも密とすることができ、従来と比較して、さらに高い精度でコア部が規則正しく整列したフォトニック結晶構造体を構築することができる。また、本発明では、非常に再現性よく、フォトニック結晶構造体を構築することができる。その理由としては、塗料のように、分散媒の蒸発によって生じる収縮によるひび割れが無いこと、コア粒子の周りにシェル部が一定量存在するので、コア粒子同士の凝集がなく、コア粒子とコア粒子との間隔が常に一定に保たれること、加圧および加熱によりシェル部が流動し、コア粒子間の空隙を埋め、規則的に配列された状態にコア粒子が並ぶことなどが挙げられる。
【0027】
本発明の成形体において、コア部が規則正しく配列するとは、コア部を形成する単分散粒子が整列して構造色を発することを意味し、粒子が周期的に完全に整列していることが望ましいが、構造色を発することができれば、欠陥を含んでいてもよい。また、本発明の成形体では、構造色を発する限り、コア部が規則正しく配列した部分と、そうでない部分とがブロック状で存在していてもよい。なお、構造色は、粒子がある程度に規則正しく配列していなければ、得ることができない。
【0028】
コアシェル粒子の乾燥粉体を加圧する際に付与する圧力の大きさには特に制限はなく、コアシェル粒子のコア部が変形して崩壊しない圧力であればよく、通常1〜1000Kgf/cm、好ましくは10〜500Kgf/cmである。
【0029】
本発明において、コアシェル粒子のコア部の軟化温度は、シェル部の軟化温度よりも高く、通常、30℃以上、好ましくは50℃以上であり、コアシェル粒子の乾燥粉体の加熱温度は、シェル部の軟化温度以上かつコア部の軟化温度未満の温度であり、通常50〜250℃、より好ましくは80〜200℃である。
【0030】
また、加熱または加圧の条件を調節することによって、粒子の並び方を調整することができるので、形成された成形体を任意に透明、半透明または不透明とすることもできるので、様々な多様な構造色を発現することが可能となる。
【0031】
本発明で使用するコアシェル粒子は、平均粒子径が0.02〜2.0μm、好ましくは0.05〜1.0μmであって、常温または加熱および加圧によっても変形や流動しない単分散のコア部と、非架橋で加熱または加圧によって流動性を有するシェル部とを有する、単分散粒子である。コアシェル粒子のシェル部は、加熱または加圧で流動化して、コア粒子の間の空隙を埋めて、粒子のコア部がフォトニック結晶構造を呈する。また、本発明では、コアシェル粒子のコア部の屈折率とシェル部の屈折率との差が、0.01以上、好ましく0.03以上、より好ましくは0.05以上である必要がある。屈折率の差が0.01未満であると、フォトニック結晶構造体として機能しない場合がある。なお、現在までに知られている物質の屈折率は、最大で2.7ぐらいであり、基準となる空気(又は真空)の屈折率が1.0であることから、屈折率の差は最大でも約1.7である。
【0032】
本明細書中において、「平均粒子径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)の倍率50000倍の写真より、粒子50個の直径を測定し、その算術平均値を意味する。
【0033】
本明細書中において、「単分散粒子」とは、粒子径が同一またはほぼ同一である粒子であり、その変動係数が50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下の、粒径の分布が非常に小さい粒子を意味する。粒径にばらつきがあると、フォトニック結晶としての光学特性が得られなかったり、光学特性が弱くなったりする傾向にある。なお、変動係数は、(粒子直径の標準偏差)÷(平均粒子直径)×100(%)で表される。
【0034】
このように、コアシェル粒子の乾燥粉体の平均粒子径を調節することによって、フォトニック結晶構造体の意匠性、特に、構造色を変化させることが可能となる。これは、コア部の粒子径が変化したことによって、フォトニック結晶構造体内での光の反射または屈折が変化し、それによって構造色が変化することに起因する。
【0035】
なお、コア粒子の平均粒子径は、0.01〜1.9μm、好ましくは0.03〜0.95μmであり、その変動係数は、50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。コア粒子が上記範囲の平均粒子径および変動係数を有することによって、欠陥が少なく、精度の高いフォトニック結晶が得られる。
【0036】
本発明で用いるコアシェル粒子は、常温または加熱および加圧によっても変形や流動しない単分散のコア部と、非架橋で加熱または加圧によって流動性を有するシェル部とを有する、単分散粒子であれば、特に限定されず、コア部は無機粒子であっても、有機樹脂粒子あってもよい。無機粒子の例としては、各種金属酸化物の粒子が挙げられる。金属酸化物の無機粒子としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウムまたは酸化アンチモンなどの無機粒子が挙げられる。無機粒子も有効であるが、製造上、有機系の樹脂粒子が好ましい。有機樹脂粒子としては、特に限定的ではないが、ソープフリー乳化重合や通常の乳化重合で得られるアクリル樹脂やスチレン樹脂が好ましい。シェル部は、非架橋で加熱または加圧によって流動性を有するものであるので、有機樹脂からなるものであることから、コアシェル樹脂粒子は後述のように、両者をソープフリー乳化重合や通常の乳化重合で一体に形成するのが好ましい。
【0037】
非架橋で加熱または加圧によって流動性を有するシェル部は、コアシェル粒子全体の30〜99重量%を占めることが必要である。シェル部の量が30重量%未満であると、コア粒子間の間隙を埋めることができない。シェル部の量が99重量%を越えると、コア粒子間の間隔がひらきすぎて、フォトニック結晶構造が維持できなくなる。シェル部のコアシェル粒子全体に占める割合の下限は、上述のように30重量%が一般的であるが、好ましくは40重量%、より好ましくは50重量%である。上限は、99重量%が一般的であるが、好ましくは90重量%、より好ましくは80重量%である。
【0038】
本発明において、コアシェル粒子がコア部およびシェル部ともに樹脂から形成される樹脂粒子である場合、樹脂粒子は乳化重合またはソープフリー乳化重合で得られるアクリル樹脂またはスチレンアクリル樹脂が好ましい。このような樹脂粒子では、乳化重合やソープフリー乳化重合が容易だからである。本発明で使用することのできるコアシェル樹脂粒子のコア部は加熱または加圧での変形を防止するために、軟化温度を高めに設定する必要があり、具体的には50℃以上の軟化温度を有するのが好ましい。また、コア部の樹脂の変形を防止して真球を保持するためには、コアとなる樹脂粒子をより硬くするために架橋構造を採るのが好ましい。架橋構造を採るのが好ましいが、通常の乾燥、加熱、加圧作業環境で軟化や変形が起こらなければ、それで良く、特に限定されるものではない。一方、コア部とは逆に、シェル部は加熱または加圧で流動化し、粒子間の間隙をある程度埋める性能を有することが必要であり、具体的には20〜220℃の軟化温度を有するのが好ましい。
【0039】
本発明において、コアシェル樹脂粒子を製造するために用いられるモノマーは、通常当業者に公知のモノマーが用いられるが、具体的には、スチレン、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリルアミド;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート等のハロゲン化(メタ)アクリレートなどの重合性化合物が挙げられる。また、前述において架橋性を有するモノマーをコアの製造に用いてもよく、その例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、(1−メチルエチリデン)ビス(4,1−フェニレンオキシ−2,1−エタンジイル)ジアクリレートなどの1分子中2以上の重合性基を有する化合物等が挙げられる。
【0040】
粒子の製造
本発明において、コアシェル粒子をコア部およびシェル部ともに樹脂から形成される樹脂粒子とし、樹脂粒子をソープフリー乳化重合による二段重合で得るには、例えば、窒素を充填させた反応容器に蒸留水を仕込み、必要に応じて加熱、攪拌しながら、モノマー組成物を加え、モノマー組成物を蒸留水に十分に分散させる。次に攪拌を続けながら重合開始剤を添加して重合させる。重合の進行に従って粒子が形成される。重合温度は重合開始剤を使用した場合には、一般に60〜90℃に設定される。本発明においてはシェル部を所定の最低造膜温度にするために、モノマー組成を途中で変化させて添加させる。従って、通常は最初に添加するモノマー組成は、上記の2つ以上の重合性基を有するモノマーと通常のモノマーを添加してコア部を作成し、その後、シェル部のモノマー組成を添加することにより形成するのが一般的である。すなわち、最初に使用するモノマー組成(コア部形成)によって、作成される樹脂成分は軟化温度が50℃より高く、また場合によっては架橋しているのが一般的である。後半に使用するモノマー組成(シェル部形成)によって作成される樹脂成分はいわゆる水性樹脂塗料の特性を有することが必要である。具体的には、常温あるいは加熱によって水分(具体的には、粒子合成時に使用した溶媒)が蒸発した時点で、粒子同士が流動化(融着)して空気を含まないフィルムを形成する必要があるが、乾燥工程の都合で若干の気泡(空気)が残ったとしても、後の加熱工程を付加することにより気泡を追い出すことができれば特に問題は無い。上記のような条件を満足するモノマーを選択すると同時に、各モノマーの屈折率より、コア部とシェル部の屈折率の間に0.01以上の差をつけて設計することが必須である。反応終了後、粒子のエマルションを取り出し、回収する。ただし、コアシェル粒子の調製は、上記の方法に限定されず、適宜、従来公知の方法を適用してもよい。
【0041】
本発明のコアシェル粒子を、樹脂粒子として、乳化重合で製造する場合、上記製法において、乳化剤を用いて重合することにより行われる。使用し得る乳化剤の例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウム、ペンタデシルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウム、ドデシルアンモニウムクロライド、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。乳化剤は、目的とする粒子の大きさに応じて、最適な使用量が決定されるものである。
【0042】
重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用できる。例えば、ベンゾインペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、パラメンタンハイドロペルオキシド、ラウロイルペルオキシドなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、過硫酸カリウム等のペルオキソ硫酸塩、過酸化水素−硫酸鉄や過硫酸カリウム−亜硫酸ナトリウム等のレドックス系触媒が挙げられる。重合開始剤は、モノマー組成物全量に対して0.01〜10質量%、中でも0.05〜5質量%の範囲で使用することが好ましい。また、シェル部作成時においては、必要に応じてモノマーと同時に連鎖移動剤を添加して分子量を低下させることで、より接着性を向上させることも可能である。連鎖移動剤としては、塩化銅(II)、3−クロロベンゼンチオール、アクロレインオキシム、チオグリコール酸オクチル等が挙げられる。
【0043】
フォトニック結晶は、一般に、結晶の完全度が高くなるほど透明度が高くなり、フォトニック結晶デバイスとしての有用性が高くなることが知られている。また、フォトニック結晶の完全度が低くなるほど透明度が低下する恐れがある。本発明では、驚くべきことに、フォトニック結晶構造体の製造工程において、各種パラメータを適宜設定することによって、結晶としての完全度が高いものから低いものまで、様々な用途に適したフォトニック結晶構造体を簡便に製造することができ、非常に有益である。
【0044】
例えば、本発明のフォトニック結晶構造体において、フォトニック結晶の透明度を調節するには、コア部とシェル部の比、コア部とシェル部の屈折率の差、乾燥粉体に付与する熱や圧力などのパラメータを調節すればよい。
【0045】
特に、本発明のフォトニック結晶構造体の製造においては、乾燥粉体の加圧工程において付与する圧力が最も重要なパラメータの1つであり、この圧力を調節することによって、規則正しく整列するコア部の充填を密にも疎にもすることができ、多彩な意匠、特に、多様な構造色を発現することが可能となる。また、成形体の屈折率(コア部の屈折率、シェル部の屈折率、コア部およびシェル部の屈折率の差)を調節することによって、さらに多様な意匠および構造色を発現することも可能となる。
【0046】
また、本発明のフォトニック結晶構造体において、コアシェル粒子の平均粒子径は、フォトニック結晶構造に直接影響するので、これもまた最も重要なパラメータの1つである。さらに、フォトニック結晶構造体内で規則正しく整列するコアシェル粒子のコア部の大きさおよびコア部とシェル部の比を調節することによっても、多彩な意匠、特に、多様な構造色を発現することが可能となる。また、成形体の屈折率(コア部の屈折率、シェル部の屈折率、コア部およびシェル部の屈折率の差)を併せて調節することによって、さらに多様な意匠および構造色を発現することも可能となる。
【0047】
本発明のフォトニック結晶構造体は、フォトニック結晶デバイスに適用および応用することができ、しかも、簡便に製造することができるので、非常に有益である。また、製造時に各種パラメータを調節することによって、多様な意匠性および構造色を発現することができる。特に、本発明のフォトニック結晶構造体は、製造条件を上述の通り調節することによって、オパール様の意匠を提供することもできる。また、本発明では、成形体の透明度を低下させて、大理石様の意匠を提供することもできる。さらに、本発明では、樹脂粒子から人造大理石を製造することができ、しかも、非常に簡便かつ安価に人造大理石を提供することができるので、非常に有益である。また、人造大理石を建材などに使用した場合、樹脂から形成されるため、非常に軽量であり、しかも、加工が非常に容易となる。
【0048】
本発明の成形体は、上述の通り、フォトニック結晶デバイスだけでなく、人造オパールなどの模倣宝石、人造大理石などの建材、装飾品などの用途にも適している。
【0049】
さらに、本発明では、従来の製造方法では困難であった、厚みのある成形体を作製することができる。
【0050】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【実施例】
【0051】
製造例1:コアシェル粒子エマルジョンの調製
1リットルの丸底コルベンに、純水400重量部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.02重量部仕込み、撹拌しながら80℃に加温した。次いで、開始剤として過硫酸カリウム0.3重量部を用い、モノマーとしてスチレン45重量部、メチルメタクリレート10重量部、ジビニルベンゼン5重量部の混合液を、コア部を形成する重合性モノマー混合物として100分間かけて滴下し、滴下終了後、さらに30分間撹拌して、コア粒子を得た。形成されたコア粒子をサンプリングして少量採取した。
上記撹拌後、さらに、メチルメタクリレート20重量部、n−ブチルメタクリレート15重量部、メタクリル酸5重量部からなる混合液を、シェル部を形成する重合性モノマー混合物として100分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間撹拌して、コアシェル粒子のエマルジョンを得た。
サンプリングしたコア粒子の平均粒子径は0.19μmであった。また、粒子径の変動係数は5%であった。またコア部の屈折率は1.55であった。なお、コア部の軟化温度をフローテスター(CFT−500D、島津製作所製)で測定したが、コア部を形成する樹脂は架橋体なので、300℃であっても、コア部は軟化および流動化せず、コア部の軟化温度は測定できなかった。
最終的に得られたコアシェル粒子の平均粒子径は0.22μm(変動係数=5%)であった。
また、シェル部を構成するモノマー混合物のみを別途重合して作製した測定用サンプルを用いてシェル部の屈折率および軟化温度を測定した。シェル部の屈折率は1.46であり、軟化温度は135℃であった。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1:フォトニック結晶構造を有する成形体1の形成
コアシェル粒子の乾燥粉体の調製
製造例1で調製したコアシェル粒子エマルジョンをスプレードライヤー(ADL311、ヤマト科学社製)で乾燥して白色の乾燥粉体を得た。
【0054】
加熱および加圧
孔の開いていないダイ(試料室の底分をフタする器具)を備えたフローテスター(CFT−500D、島津製作所製)の試料室に上記で調製したコアシェル粒子の乾燥粉体(0.5g)を入れ、ピストンの加圧条件を315Kgf/cmに設定し、加圧しながら、温度を室温から10℃/分で昇温し、160℃で40分間にわたって、加圧および加熱を行った。その後、冷却し、直径10mm、高さ4.5mmの円柱状の成形体1を取り出した。
成形体1は、半透明の青色を有し、成形体1の裏側から、白色光源を用いて、光を照射した場合、表から見える透過光は、青色の補色であるオレンジ色であった。従って、成形体1は、構造色を有していることがわかった(図1)。
また、成形体1を走査型電子顕微鏡(SEM)(ERA−4000、エリオニクス社製)で観察すると、成形体1は、コア部を形成する樹脂粒子が規則正しく配列した単結晶型のフォトニック結晶構造を有していた(図2および図3)。
【0055】
実施例2:フォトニック結晶構造を有する成形体2の形成
製造例1で調製したコアシェル粒子エマルジョンをスプレードライヤー(ADL311、ヤマト科学社製)で乾燥して白色の乾燥粉体を得た。
【0056】
加熱および加圧
加熱条件を160℃で10分に変更した以外は、実施例1に従って、円柱状の成形体2を得た。
成形体2は、僅かに青味がかった白色を有し、成形体2の裏側から、白色光源を照射した場合、表から見える透過光は、弱いオレンジ色であった(図4)。
また、成形体2を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、成形体2は、成形体1と比較してコア粒子の配列規則性が若干劣るが、結晶構造の欠陥が少なく、精度の高いフォトニック結晶構造を有するものであった(図5および図6)。
【0057】
比較例1
製造例1で得られたエマルジョンを、直径9cmのシャーレに20g入れて、室温で静置した状態で乾燥させ、塗膜としてフォトニック結晶構造体を形成した(図7)。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明では、コアシェル粒子の乾燥粉体を加熱および加圧するだけの非常に簡単な操作によって、結晶構造の欠陥が少なく、精度の高いフォトニック結晶構造体を構築することができる。本発明の方法は、従来のコアシェル粒子エマルジョンの塗布および造膜(図7)と比較すると、コア部の整列の精度が飛躍的に向上し、非常に欠陥の少ないフォトニック結晶構造を高い再現性で構築することができる(図2)。
【0059】
また、本発明のフォトニック結晶構造を有する成形体の製造方法では、その製造過程において、使用するコアシェル粒子の平均粒子径、コア/シェル比、コア部の軟化温度および屈折率、シェル部の軟化温度および屈折率、加圧圧力、加熱温度などのパラメータを容易に変更することができ、所望の用途に応じて、様々な特性を成形体に付与することができる。
【0060】
例えば、本発明のフォトニック結晶構造を有する成形体は、フォトニック結晶デバイスに適用することができる。
【0061】
また、本発明のフォトニック結晶構造を有する成形体は、驚くべきことに、優れた意匠性をも提供することができ、例えば、人造オパールの様な模倣宝石としての優れた意匠性を提供することができる(図8)。
【0062】
さらに、本発明の成形体は、結晶の完全度を低下させて、大理石調の成形物などとして使用することもでき、建材として、非常に有益である(図9)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子の乾燥粉体を調製する工程と、コアシェル粒子の乾燥粉体を加熱および加圧する工程とを含む、フォトニック結晶構造を有する成形体の製造方法であって、
コアシェル粒子は、0.02〜2.0μmの平均粒子径を有し、
コアシェル粒子のコア部は、単分散のコア部であり、
コア部の軟化温度は、シェル部の軟化温度よりも高く、
コア部の屈折率とシェル部の屈折率との差は、0.01以上であり、
コアシェル粒子の乾燥粉体を加熱および加圧することによって、コアシェル粒子のシェル部同士が融着し、コア部が規則正しく配列した成形体が形成される、
フォトニック結晶構造を有する成形体の製造方法。
【請求項2】
シェル部の軟化温度以上かつコア部の軟化温度未満の温度に加熱する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法で得られる成形体。
【請求項4】
フォトニック結晶デバイスに用いる請求項3に記載の成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−164469(P2011−164469A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28997(P2010−28997)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)