説明

フック

【課題】 保持される対象物の向き若しくは位置を変更することができる一方、意図しない方向に回転してしまうことがない簡易構造型のフックを提供すること。
【解決手段】 第1のフック形成部材31及び第2のフック形成部材32によりフック30が構成されている。第2のフック形成部材32は、第1のフック形成部材31の下部に設けられた挿入穴41に挿入されて組み合わされるようになっており、第2のフック形成部材31の上部に設けられた突出部48Aが挿入穴41回りの凹状部43に嵌る位置で相対回転が規制され、この嵌り合いを解除するように第2のフック形成部材を挿入穴内で移動させることで相対回転が可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフックに係り、特に、点滴薬を収納した袋容器の表示面を特定方向に向けた状態に保持することに適したフックに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、医療現場においては、袋容器に収納された各種の点滴薬が保管されており、これら点滴薬は、医師の指示に従って看護スタッフが投薬に備えて事前に準備するという作業形態が一般に採用されている。このような作業は、ナースステーション内に設置されたテーブル等の作業台を利用して行うことが通常とされている。この場合、作業台の上方位置に、横架材を配置しておき、当該横架材にフックを引っ掛けることで、前記袋容器を保持させることができる。
【0003】
特許文献1には、上部フック形成部材と、当該上部フック形成部材の下端部に連結された下部フック形成部材とを備えたフックが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−245189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたフックは、上部フック形成部材と下部フック形成部材との水平面内における相対回転を許容するものの、上部フック形成部材と下部フック形成部材を相対回転させるための連結用部材を別途に必要とするものであり、上下のフック形成部材の二つの部材のみによってこれらの相対回転を許容する構成とはなっていない。従って、部品点数が増大するとともに、その組み立ても煩雑になる、という不都合がある。
【0006】
また、特許文献1は、下部フック形成部材の位置を特定方向に向けた位置を静止位置として保持する機構は採用されていない。例えば、点滴薬を収納した袋容器等を保持させた状態で当該袋容器に人の体が接触したような場合、或いは、点滴薬に接続されたチューブ等が引っ張られた場合に、下部フック形成部材が上部フック形成部材に対して不用意に回転してしまい、表示面が意図しない方向に向けられてしまう、という不都合を招来する。
【0007】
周知のように、点滴薬の袋容器は、患者情報等の表示が付されるものであるため、投薬ミス等を未然に防止するためには、表示面が常に一定の方向を向くようにして見易い状態に保つことが必要となるが、公知のフックには、そのような必要性に対応した構造上の工夫はなされていないのが実状である。
【0008】
[発明の目的]
本発明は、フックに保持される対象物の向き若しくは位置を変更することができるとともに、特定方向に向けられた状態を安定して保って意図しない方向に回転してしまうことがないフックを提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、最小部品点数で形成することができ、組み立て作業等の簡略化を達成することのできるフックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、第1のフック形成部材と第2のフック形成部材とを含み、これら第1及び第2のフック形成部材が略水平面に沿って相対回転可能に連結されたフックであって、
前記第1のフック形成部材は、前記第2のフック形成部材を挿入することによって当該第2のフック形成部材を一体化させる挿入部を備え、
前記第1のフック形成部材と第2のフック形成部材は、前記相対回転方向に沿う所定位置で相対回転が規制される一方、前記挿入部に対して第2のフック形成部材を移動させることで、前記相対回転規制が解除可能に設けられる、という構成を採っている。
【0011】
また、本発明は、対人情報の表示面を備えた保持対象物の前記表示面を特定方向に向けた姿勢で吊り下げ状態を保持するフックであって、
略水平面に沿って相対回転可能に連結された第1のフック形成部材と第2のフック形成部材とからなり、
前記第1のフック形成部材は、前記第2のフック形成部材を挿入することによって当該第2のフック形成部材を一体化させる挿入部を備え、
前記第1のフック形成部材と第2のフック形成部材は、前記相対回転方向に沿う所定位置で相対回転を規制して前記表示面が特定方向に向く状態を維持する一方、前記挿入部に対して第2のフック形成部材を移動させることで、前記相対回転規制が解除可能に設けられる、という構成を採っている。
【0012】
更に、本発明は、点滴薬を準備する領域をなす天板の上方に、横架材を介して前記点滴薬を収納した袋容器の表示面が前方正面又は後方正面に向くように吊り下げて保持するためのフックであって、
略水平面に沿って相対回転可能に連結された第1のフック形成部材と第2のフック形成部材とからなり、
前記第1のフック形成部材は、前記第2のフック形成部材を挿入することによって当該第2のフック形成部材を一体化させる挿入部を備え、
前記第1のフック形成部材と第2のフック形成部材は、前記相対回転方向に沿う所定位置で相対回転を規制して前記表示面が前記天板の前方正面又は後方正面に向く状態に維持する一方、前記挿入部に対して第2のフック形成部材を移動させることで、前記相対回転規制が解除可能に設けられる、という構成を採ることができる。
【0013】
本発明では、前記挿入部の回りに凹状部が形成される一方、前記第2のフック形成部材に前記凹状部に収容される突出部が形成され、
前記凹状部に突出部が収容されることで、第1及び第2のフック形成部材の相対回転が規制される、という構成を採ることが好ましい。
この際、前記凹状部は曲面を介して形成される一方、前記突出部は前記曲面に対応する曲面形状に形成され、
前記各曲面相互の接触により、前記突出部を凹状部に収容させる際の相対回転が円滑に行われるように設けることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第1のフック形成部材と第2のフック形成部材との二つの部品の組み合わせによってフックが形成される構成となるため、必要最小限の部品点数でフックを構成することができる。
また、第1のフック形成部材に設けられた挿入部に第2のフック形成部材を挿入して組み合わせが可能となる構成としたことで、これらを相対回転可能に連結するための筒状部材等の中間部品を一掃でき、極めて簡単な構成によって上下のフック形成部材を水平面内で相対回転可能とすることができる。
また、各フック形成部材は、所定の位置で前記相対回転が規制される構成とされているため、例えば、点滴薬等の袋容器を保持したときに、当該袋容器に示される患者情報等の表示面が意図しない方向に向いてしまうような不都合はなく、従って、表示面を常に見やすい状態に保つことを実現して投薬ミス等を未然に防止することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1には、本発明に係るフックが、医療機関内の作業台を利用して適用された実施形態に係る概略斜視図が示されている。この図において、作業台10は、下端部にキャスター11が取り付けられた支持体としての脚フレーム12と、これら脚フレーム12の上端部に設けられた平面視略長方形状の天板13と、当該天板13上に配置されたオプション取付用のフレーム15と、前記天板13の下面側に出し入れ可能に設けられた引き出し16とを備えて構成されている。
【0017】
前記脚フレーム12、天板13及び引き出し16は、実質的に公知の構造と同様であり、ここではそれらの詳細な説明を省略する。
【0018】
前記フレーム15は、図2及び図3にも示されるように、天板13の長手方向両側において、前後方向(短寸幅方向)の略中間部に配置された左右一対の支柱20,20と、これら支柱20,20の上部間に配置された上部横架材21と、下部間に配置された下部横架材22と、これら上下の横架材21,22間に配置された縦桟23とにより構成されている。従って、フレーム15は、支柱13、上部横架材21、下部横架材22及び縦桟23が、天板13の前後方向中間位置の仮想鉛直面内に位置することとなり、当該仮想鉛直面に恰も仕切り面が存在するかのように視覚的に認識されることとなる。
【0019】
前記上部横架材21には、保持対象物である点滴薬の袋容器Mを吊り下げるためのフック30が着脱自在に設けられている。このフック30は、図4ないし図8に示されるように、第1のフック形成部材31と、当該第1のフック形成部材の下方に位置する第2のフック形成部材32とにより構成されている。これら第1及び第2のフック形成部材31,32は、略水平面に沿って相対回転可能に連結されているとともに、当該相対回転方向に沿う所定位置で、相対回転が規制される一方、所定操作を介して相対回転規制を解除することができるように構成されている。
【0020】
これを更に詳述すると、第1のフック形成部材31は、上部横架材21に引っ掛ける領域をなす略C字状部35と、当該略C字状部35の下端に一体に連設された枠部材36とからなる。略C字状部35の内径若しくは内側空間の大きさは、上部横架材21の直径よりも若干小さく設けられており、これにより、フック30が上部横架材21の軸方向に沿って自由に滑ってしまうことがないようになっている。また、枠部材36は、略C字状部35の下端部から略水平方向に向かって相反する方向に分岐した上部分岐部38,38と、これら上部分岐部38,38の外方端から下方に向けられた左右一対の側面部39,39と、当該側面部39,39の下端間に位置する連結部40とにより構成され、これらによって囲まれる内側が開放した略方形の閉ループ形状を呈する外形に設けられている。この枠部材36は、略C字状部35を上部横架材21に引っ掛けたときに、当該上部横架材21に沿う鉛直面内に位置するように設けられている。また、連結部40には、第2のフック形成部材32を、その先端側から挿入して第1のフック形成部材31に組み合わせるための挿入部としての挿入穴41が形成されている。この挿入穴41回りにおいて、前記左右一対の側面部39,39間の中間部となる連結部の前後上面側は、曲面を介して若干低くなる凹状部43,43とされ、これら凹状部43,43に第2のフック形成部材32の上部部分が収まるように位置したときに、第1及び第2のフック形成部材31,32の相対回転が規制されるようになっている。
【0021】
前記第2のフック形成部材32は、前記挿入穴41を通過する太さに設けられた略U字状部45と、この略U字状部45の一方の端部に連なるとともに、略U字状部45と同一外径に設けられた延長軸部46とからなる。略U字状部45において、延長軸部46とは反対側の端部は、湾曲部を介して外方向すなわち延長軸部46から離れる方向に屈曲した形状に設けられ、これにより、袋容器Mの穴に挿入し易い状態が確保されている。また、延長軸部46の上端側には前記挿入穴41の内径よりも大径に設けられた大径部48が一体に設けられており、当該大径部48は、周方向略180度間隔を隔てた外周部分、すなわち、図4に示されるように、フック30を上部横架材21に引っ掛けたときに、当該上部横架材21に直交する鉛直面内における前後両側部分に、下面が緩やかな曲線をもって次第に下方に突出する湾曲した突出部48A,48Aを備えた形状に設けられている。これらの突出部48A,48Aは、第1のフック形成部材31における前記凹状部43,43に略ぴったり収容されるものであり、これにより、第2のフック形成部材32は、それ自体の重さによって凹状部43に突出部48が嵌り合う状態を維持して第1のフック形成部材31に対する相対回転が規制されることとなる。なお、第2のフック形成部材32は、それを上方に押し上げて凹状部43から突出部48Aを脱出させることで、第1のフック形成部材31に対して相対回転可能となるが、この場合においても、周方向に180度回転した位置で凹状部43内に突出部48Aが嵌り込むことになるため、フック30は、第1のフック形成部材31の略C字状部35と第2のフック形成部材32の略U字状部45が常に同一の鉛直面内に位置することとなる。そのため、フック30に吊り下げられる点滴薬の袋容器Mは、患者等対人情報の表示面M1が作業台10の前部正面又は後部正面に向かって真っ直ぐに表れる位置を保ち、作業台10の側端側に向いてしまうようなことは生じない。
【0022】
なお、前記下部横架材22には、仕切部材50及びトレイ60が着脱自在に装着されているとともに、縦桟23には、上部容器70,71が回転可能な状態で支持されている。
【0023】
以上の実施形態によれば、フック30を用いて点滴薬の袋容器Mを支持したときに、当該袋容器Mの表示面M1は、図1に示されるように、前方正面又は後方正面に向けられるようになる。従って、看護スタッフは、天板13の手前側又は奥行側から天板13に向かって作業をしている状態で、表示面M1を確認しながら作業を行うことができる。この際、表示面M1が作業位置の反対側に位置する状態でフック30に支持されていても、第2のフック形成部材32を上方に押し上げながら水平面内で略180度回転させることで、表示面M1を反対側に表出させることができ、横方向を向いてしまうような不都合は生じない。
【0024】
また、上部横架材21と下部横架材22の間に縦桟23を設けたから、上部横架材21に加えられる荷重を縦桟23が補強する構成となり、強度的な耐久性を付与することができる。
【0025】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、主に特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施の形態に対し、形状、位置、数量その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、位置、数量などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0026】
例えば、図9に示されるように、第1のフック形成部材31の略C字状部35と、枠部材36との相対位置を略水平面内で略90度ずらした相対位置に設ける一方、第2のフック形成部材32の略U字状部45と、突出部48Aも略水平面内で略90度ずらした相対位置に設けることでもよい。
【0027】
また、前記実施形態では、第1のフック形成部材31が上部に位置する一方、第2のフック形成部材32が下部に位置する場合を図示、説明したが、フック30の利用に際して第1のフック形成部材31と第2のフック形成部材32の上下位置を逆転して用いることを妨げない。要するに、本発明は、保持対象物の表示面を特定方向に向けた姿勢で吊り下げ状態を保持する構成であれば足りる。
【0028】
更に、前記実施形態では、フックが医療機関内の作業台10に適用される場合を図示、説明したが、例えば、入院患者のベッド近傍に備え付けられる点滴薬保持装置等に適用することもできる。また、挿入部として挿入穴41を採用した場合を示したが、切欠部に代えて第2のフック形成部材32を挿入できるようにしてもよい。
【0029】
また、本発明に係るフックは、前述した袋容器Mを保持対象とするものに限らず、吊り下げて保持することに適した種々の物品保持用としての利用を妨げない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態に係るフックが点滴液を収納した袋容器を作業台の上方で支持する状態を示す概略斜視図。
【図2】前記作業台の正面図。
【図3】図2の右側面図。
【図4】フックが点滴薬の袋容器を支持している状態を示す概略斜視図。
【図5】前記フックの分解斜視図。
【図6】前記フックの分解側面図。
【図7】前記フックの正面図。
【図8】図6のA−A線に沿う一部断面図。
【図9】フックの変形例を示す正面図。
【符号の説明】
【0031】
10 作業台
13 天板
15 フレーム
20 支柱
21 上部横架材
30 フック
31 第1のフック形成部材
32 第2のフック形成部材
41 挿入穴(挿入部)
43 凹状部
48A 突出部
M 袋容器
M1 表示面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のフック形成部材と第2のフック形成部材とを含み、これら第1及び第2のフック形成部材が略水平面に沿って相対回転可能に連結されたフックであって、
前記第1のフック形成部材は、前記第2のフック形成部材を挿入することによって当該第2のフック形成部材を一体化させる挿入部を備え、
前記第1のフック形成部材と第2のフック形成部材は、前記相対回転方向に沿う所定位置で相対回転が規制される一方、前記挿入部に対して第2のフック形成部材を移動させることで、前記相対回転規制が解除可能に設けられていることを保持することを特徴とするフック。
【請求項2】
対人情報の表示面を備えた保持対象物の前記表示面を特定方向に向けた姿勢で吊り下げ状態を保持するフックであって、
略水平面に沿って相対回転可能に連結された第1のフック形成部材と第2のフック形成部材とからなり、
前記第1のフック形成部材は、前記第2のフック形成部材を挿入することによって当該第2のフック形成部材を一体化させる挿入部を備え、
前記第1のフック形成部材と第2のフック形成部材は、前記相対回転方向に沿う所定位置で相対回転を規制して前記表示面が特定方向に向く状態を維持する一方、前記挿入部に対して第2のフック形成部材を移動させることで、前記相対回転規制が解除可能に設けられていることを保持することを特徴とするフック。
【請求項3】
点滴薬を準備する領域をなす天板の上方に、横架材を介して前記点滴薬を収納した袋容器の表示面が前方正面又は後方正面に向くように吊り下げて保持するためのフックであって、
略水平面に沿って相対回転可能に連結された第1のフック形成部材と第2のフック形成部材とからなり、
前記第1のフック形成部材は、前記第2のフック形成部材を挿入することによって当該第2のフック形成部材を一体化させる挿入部を備え、
前記第1のフック形成部材と第2のフック形成部材は、前記相対回転方向に沿う所定位置で相対回転を規制して前記表示面が前記天板の前方正面又は後方正面に向く状態に維持する一方、前記挿入部に対して第2のフック形成部材を移動させることで、前記相対回転規制が解除可能に設けられていることを保持することを特徴とするフック。
【請求項4】
前記挿入部の回りに凹状部が形成される一方、前記第2のフック形成部材に前記凹状部に収容される突出部が形成され、
前記凹状部に突出部が収容されることで、第1及び第2のフック形成部材の相対回転が規制されることを特徴とする請求項1,2又は3記載のフック。
【請求項5】
前記凹状部は曲面を介して形成される一方、前記突出部は前記曲面に対応する曲面形状に形成され、
前記各曲面相互の接触により、前記突出部を凹状部に収容させる際の相対回転が円滑に行われることを特徴とする請求項4記載のフック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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