説明

フッ化処理方法およびフッ化処理装置ならびにフッ化処理装置の使用方法

【課題】安定的な処理品質を維持することができるフッ化処理方法を提供する。
【解決手段】被処理物を所定のフッ化雰囲気のフッ化処理空間内に加熱保持してフッ化処理を行なうフッ化処理方法であって、上記フッ化処理空間内にフッ素と反応性のある空間内構造物を露出させ、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行うことにより、被処理物のフッ化処理のために供給されたフッ化源ガスが、フッ化処理中に空間内構造物の表面をフッ化するために多量に消費されることがない。また、供給したフッ化源ガスのフッ化ポテンシャルが不足しても、上記空間内構造物表面のフッ化層がフッ化源ガスを放出する。これにより、フッ化処理中のフッ化処理空間内のフッ化雰囲気を適正に維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素と反応性のある金属材である被処理物に対してフッ化処理を行うフッ化処理方法およびフッ化処理装置ならびにフッ化処理装置の使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種金属材料の表面には、少なくとも自然酸化皮膜が存在する。例えば、鋼材の耐摩耗性や耐久性を向上させるために実施される窒化処理の際には、その酸化皮膜の存在によって、表面部へのNやCの侵入が阻害される。したがって、特にガス窒化処理およびガス軟窒化処理の前には、その酸化皮膜を除去するための工程が必要となり、その方法として様々な方法が提案されている。それらの中でも、生産性の高い方法として、ハロゲンおよびもしくはハロゲン化物を用いて酸化皮膜を加熱除去する方法が開示され、実施されている(例えば、下記の特許文献1、2、3、4)。
【0003】
これらの処理を実施することによって、例えば被処理物がステンレス鋼等の強固な酸化皮膜を有する難窒化材であっても、その後実施されるガス窒化またはガス軟窒化において均一な窒化層を形成させることが可能となる。
【0004】
その中でも、フッ素および/またはフッ素化合物を用いて実施するフッ化処理は、酸化物よりも安定なフッ化物を形成させることによって、上記酸化皮膜をフッ化被膜に置換させるものである。上記フッ化被膜は、還元性雰囲気において容易に還元除去することが可能であるため、特にガス窒化処理およびガス軟窒化処理の前処理として極めて適した処理である。
【0005】
また、上記フッ化処理は、窒化処理と同一炉内で実施することも可能であるが、別炉を用いて実施し、炉壁等で消費されるF量を少なくすることによって使用するフッ化源ガス量を削減する方法や、フッ化処理室と窒化処理室を分離することによって、フッ化源ガス量を削減するだけでなく、さらに生産性を向上させることが可能な連続炉についても開示されている(例えば、下記の特許文献5、6、7)。
【0006】
【特許文献1】特許第2881111号
【特許文献2】特開平6−299317
【特許文献3】特開平9−13122
【特許文献4】特許第3643882号
【特許文献5】特公平7−91628
【特許文献6】特開平9−157830
【特許文献7】特開2004−315868
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したフッ化処理においては、その後実施される窒化処理において均一な窒化層を形成させるため、目的とする厚さのフッ化層を被処理物表面に形成させることが不可欠である。ところが、上記各特許文献に開示された方法や処理炉では、フッ化処理条件が同じであっても、被処理物の材質や数量が変化すると、意図したフッ化層を形成することができず、それによって安定した窒化品質を継続的に得ることができない。また、フッ化処理条件を処理品の材質や数量に応じて決定したとしても、その炉で直前に実施したフッ化処理の条件によっては、目的とするフッ化品質が得られない場合もある。さらに、連続炉においては量産性がより重視されることから、各処理室における処理時間が短くなる傾向にあり、上記のような不都合が発生しやすいことも明らかになった。
【0008】
このように、被処理物に対し目的としたフッ化層を安定的に形成させるためには、少なくともフッ化処理を行う熱処理やフッ化処理室を伴う連続熱処理において、短時間でより効率的かつ安定的な生産処理を維持できる熱処理炉および熱処理方法を明らかにする必要があった。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、安定的な処理品質を維持することができるフッ化処理方法およびフッ化処理装置ならびにフッ化処理装置の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記のような状況を詳細に調査検討した結果、上記問題は、被処理物の材質や数量の変化等だけが原因ではなく、被処理物のフッ化処理を行う時点での炉壁等の状態に影響を受けていることを突き止め、本発明に至った。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のフッ化処理方法は、被処理物を所定のフッ化雰囲気のフッ化処理空間内に加熱保持してフッ化処理を行なうフッ化処理方法であって、上記フッ化処理空間内にフッ素と反応性のある空間内構造物を露出させ、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行うことを要旨とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のフッ化処理装置は、被処理物を所定のフッ化雰囲気のフッ化処理空間内に加熱保持してフッ化処理を行なうフッ化処理装置であって、上記フッ化処理空間内にフッ素と反応性のある空間内構造物が露出され、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行いうるように構成されていることを要旨とする。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明のフッ化処理装置の使用方法は、被処理物を所定のフッ化雰囲気のフッ化処理空間内に加熱保持してフッ化処理を行なうフッ化処理装置の使用方法であって、
上記フッ化処理装置は、フッ化処理空間内にフッ素と反応性のある空間内構造物が露出され、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行うものであり、
上記空間内構造物の表面にあらかじめ形成されたフッ化層のフッ素量が所定量を下回ったときに、フッ化処理空間内に被処理物を存在させない状態で所定のフッ化雰囲気で加熱保持する予備フッ化処理を行って上記フッ化層を回復することを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフッ化処理方法は、上記フッ化処理空間内にフッ素と反応性のある空間内構造物を露出させ、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行う。このように、空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させているため、被処理物のフッ化処理のために供給されたフッ化源ガスが、フッ化処理中に空間内構造物の表面をフッ化するために多量に消費されることがない。また、ロットによって被処理物の材質や数量が大きく変動し、供給したフッ化源ガスのフッ化ポテンシャルが不足するような状況になったとしても、上記空間内構造物表面のフッ化層がフッ化源ガスを放出することにより、フッ化処理中のフッ化処理空間内のフッ化雰囲気を適正に維持する。したがって、各種のロットをフッ化処理しても、安定的なフッ化品質を得ることが可能となる。特に、処理時間が短くなる傾向の連続炉においても、安定的なフッ化品質での処理が可能となる。また、例えば、ステンレス鋼等の強固な酸化皮膜を有する被処理物で、その処理数量等が大きく変動したとしても、酸化皮膜を確実に除去して目的とするフッ化品質でフッ化層を形成できる。このため、例えば後処理として窒化処理や低温浸炭処理を行う場合に均一な処理層を形成させることが可能となる。
【0015】
本発明のフッ化処理方法において、上記空間内構造物の表面にあらかじめ形成されるフッ化層は、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm以上である場合には、上記フッ化層が、反応律速を終えて拡散律速に入ることにより成長速度が低下した状態であることから、その後にフッ化処理を行った際に、空間内構造物の表面で消費されるフッ化源ガスが少なくてすむ。また、上記フッ化層が充分なフッ素量を保持していることから、フッ化雰囲気のポテンシャルが低下したときに充分なフッ化源ガスを放出できる。したがって、各種のロットをフッ化処理しても、安定的なフッ化品質を得ることが可能となる。
【0016】
本発明のフッ化処理方法において、少なくともフッ化処理中に被処理物よりも高温となる部分に形成されているフッ化層が、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm以上である場合には、フッ化雰囲気の安定化によるフッ化品質の安定化にとってさらに有利である。すなわち、被処理物よりも高温な部分では、雰囲気中のフッ化源ガスが消費されるフッ化反応が進みやすい一方、雰囲気のポテンシャルが下がったときのフッ化層の分解によるフッ化源ガスの放出も起こりやすい。このため、被処理物よりも高温となる部分にフッ化層を形成することにより、空間内構造物の表面で消費されるフッ化源ガスを減少させるとともに、フッ化雰囲気のポテンシャルが低下したときにフッ化源ガスを放出することによるフッ化雰囲気を安定化させる効果がより顕著に得られるのである。
【0017】
本発明のフッ化処理装置は、上記フッ化処理空間内にフッ素と反応性のある空間内構造物が露出され、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行いうるように構成されている。このように、空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させているため、被処理物のフッ化処理のために供給されたフッ化源ガスが、フッ化処理中に空間内構造物の表面をフッ化するために多量に消費されることがない。また、ロットによって被処理物の材質や数量が大きく変動し、供給したフッ化源ガスのフッ化ポテンシャルが不足するような状況になったとしても、上記空間内構造物表面のフッ化層がフッ化源ガスを放出することにより、フッ化処理中のフッ化処理空間内のフッ化雰囲気を適正に維持する。したがって、各種のロットをフッ化処理しても、安定的なフッ化品質を得ることが可能となる。特に、処理時間が短くなる傾向の連続炉においても、安定的なフッ化品質での処理が可能となる。また、例えば、ステンレス鋼等の強固な酸化皮膜を有する被処理物で、その処理数量等が大きく変動したとしても、酸化皮膜を確実に除去して目的とするフッ化品質でフッ化層を形成できる。このため、例えば後処理として窒化処理や低温浸炭処理を行う場合に均一な硬化層を形成させることが可能となる。
【0018】
本発明のフッ化処理装置において、上記フッ化処理の後に後処理を行う後処理空間をさらに備え、上記フッ化処理空間は後処理空間とは独立して存在しているとともに、上記フッ化処理室から後処理室に被処理物を搬送するための搬送手段が設けられている場合には、空間内構造物の表面でのフッ化源ガスの消費を抑制するとともに、雰囲気のポテンシャルが下がったときにフッ化源ガスを放出したりすることによるフッ化雰囲気の安定化が、後処理空間の存在に影響されて乱れることがない。また、予め加熱されたフッ化処理室および後処理室間を被処理物が移動していくことによって、各処理室での被処理物の昇温に要する時間を短縮することが可能となることに加え、その処理時間が短くても後処理品質の安定した生産性の高い量産処理を行なうことができる。
【0019】
本発明のフッ化処理装置において、上記フッ化処理室は、被処理物の搬送方向を軸にした円筒状に形成されている場合には、フッ化処理空間内におけるフッ化源ガスのまわりが良好になり、空間内構造物の表面で微量のフッ化源ガスが消費されても、フッ化処理空間内を雰囲気ガスが循環することで空間内のフッ化源ガスの偏在を有効に防止する。また、フッ化雰囲気のポテンシャルが低下してフッ化源ガスが放出されたときに、フッ化処理空間内を雰囲気ガスが循環することで空間内のフッ化源ガスの偏在を有効に防止する。これにより、フッ化処理空間内のフッ化雰囲気を均一化し、フッ化処理条件を安定化させる効果がより顕著に得られるのである。また、フッ化処理空間内の温度バラツキにとって大きな影響を与えるガス対流が極めてスムーズに行われ、フッ化処理空間内のガス濃度のバラツキが非常に小さくなることから、フッ化処理空間内での場所によるフッ化品質のバラツキを大幅に低減することができる。
【0020】
本発明のフッ化処理装置の使用方法は、上記フッ化処理装置は、フッ化処理空間内にフッ素と反応性のある空間内構造物が露出され、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行うものである。このように、空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させているため、被処理物のフッ化処理のために供給されたフッ化源ガスが、フッ化処理中に空間内構造物の表面をフッ化するために多量に消費されることがない。また、ロットによって被処理物の材質や数量が大きく変動し、供給したフッ化源ガスのフッ化ポテンシャルが不足するような状況になったとしても、上記空間内構造物表面のフッ化層がフッ化源ガスを放出することにより、フッ化処理中のフッ化処理空間内のフッ化雰囲気を適正に維持する。したがって、各種のロットをフッ化処理しても、安定的なフッ化品質を得ることが可能となる。特に、処理時間が短くなる傾向の連続炉においても、安定的なフッ化品質での処理が可能となる。また、例えば、ステンレス鋼等の強固な酸化皮膜を有する被処理物で、その処理数量等が大きく変動したとしても、酸化皮膜を確実に除去して目的とするフッ化品質でフッ化層を形成できるため、例えば後処理として窒化処理や低温浸炭処理を行う場合に均一な硬化層を形成させることが可能となる。
【0021】
また、上記空間内構造物の表面にあらかじめ形成されたフッ化層のフッ素量が所定量を下回ったときに、フッ化処理空間内を所定のフッ化雰囲気で加熱保持する予備フッ化処理を行って上記フッ化層を回復する。このため、フッ化層のフッ素量が所定量を下回り、空間内構造物の表面でのフッ化源ガスの消費抑制や、雰囲気のポテンシャルが下がったときのフッ化源ガスの放出による雰囲気維持効果が低下すると、上記予備フッ化処理によるフッ化層の回復で雰囲気維持効果を回復することができる。例えば、適正な量を大きく下回るフッ化源ガス量を供給した状態でフッ化処理を実施すると、フッ化処理空間に露出する空間内構造物の表面からフッ化源ガスが多量に排出されることによって、フッ化層のフッ素量が少なくなるが、このようなときに予備的なフッ化処理を行なって上記フッ化層を回復して、再び被処理物に対し目的とするフッ化層を安定的に形成させることができる状態に戻すことができる。
【0022】
本発明のフッ化処理装置の使用方法において、上記空間内構造物の表面を構成する材料と同じ材料の試験片をフッ化処理空間内に配置し、フッ化処理を繰り返し行なった際に空間内構造物の表面に形成されているフッ化層のフッ素量を上記試験片の状態によって検知する場合には、フッ化層のフッ素量が所定量を下回り、空間内構造物の表面でのフッ化源ガスの消費抑制や、雰囲気のポテンシャルが下がったときのフッ化源ガスの放出による雰囲気維持効果が低下するフッ化層の状態を試験片の状態で検知し、処理空間内構造物に形成されるフッ化層の状態をより正確に把握できる。このため、フッ化層を回復するための予備フッ化処理を適切なタイミングで実施し、雰囲気維持効果を維持することができる。そして、フッ化不良等の被処理物の品質上の問題が発生する以前に対処し、さらに安定的な生産処理が実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
つぎに本発明のフッ化処理方法、フッ化処理装置およびフッ化処理装置の使用方法を実施するための最良の形態を説明する。
【0024】
本実施形態のフッ化処理方法は、被処理物を所定のフッ化雰囲気のフッ化処理空間内に加熱保持してフッ化処理を行なうフッ化処理方法であって、上記フッ化処理空間内にフッ素と反応性のある空間内構造物を露出させ、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行う。
【0025】
上記被処理物は、フッ化処理可能なフッ素と反応性のある金属材料から構成され、上記金属材料としては、鉄系金属である各種の鋼材はもちろんのこと、例えばTi、Alやそれらの合金であるTi−Al系合金等、フッ素と反応性のある各種非鉄金属も適用可能である。本発明では、これらに対して均一なフッ化層を安定的に形成することができる。
【0026】
また、フッ化処理に引き続き、後処理を行うことができる。上記後処理としては、窒化処理、浸炭処理、浸炭窒化処理、浸硫処理、浸硫窒化処理等、各種の表面処理をあげることができる。上記フッ化処理によって均一なフッ化層を形成することにより、均一な後処理層を安定的に形成させることができる。
【0027】
上記後処理として窒化処理を行う場合に対象となる材料としては、炭素鋼、低合金鋼、高合金鋼、構造用圧延鋼、高張力鋼、機械構造用鋼、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼、軸受鋼、ばね鋼、肌焼鋼、窒化鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼等の各種の鋼材をあげることができ、上記フッ化処理によって均一なフッ化層を形成することにより、均一な窒化層を安定的に形成させることができる。
【0028】
本実施形態では、フッ化処理装置のフッ化処理空間内に、フッ素と反応性のある空間内構造物を露出させる。
【0029】
上記空間内構造物の表面を構成する材料については、フッ素と反応性のある材料であり、少なくともフッ化源ガスを分解してフッ化を促進しうる触媒作用を奏する金属材料が用いられる。空間内構造物の表面を構成する金属材料としては、繰り返しフッ化処理が実施されることを考慮すれば、高温に耐え得る材料であり、かつある程度の耐酸化性と耐食性を有することが好ましい。したがって、例えばオーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト系耐熱鋼、ニッケルを20質量%より好ましくは30質量%以上含有する耐食耐熱合金等を好適に用いることができる。
【0030】
上記のフッ化処理は、フッ化処理空間内に、例えばNFガス等のフッ素およびもしくはフッ素化合物を含むフッ化源ガスを導入してフッ化雰囲気を形成し、このフッ化雰囲気中で被処理物を200〜600℃に所定時間加熱保持し、被処理物の表面の酸化皮膜を除去し、フッ化層を形成させることにより行う。
【0031】
本実施形態では、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行う。
【0032】
上記フッ化層は、空間内構造物のフッ化処理空間内に露出している全表面にわたって形成する。
【0033】
上記フッ化層の形成は、被処理物のフッ化処理に先立って、フッ化処理空間内に例えばNFガス等のフッ素およびもしくはフッ素化合物を含むフッ化源ガスを導入してフッ化雰囲気とし、200〜600℃に所定時間加熱保持することにより、フッ化処理空間内に露出した空間内構造物表面の酸化皮膜を除去し、フッ化層を形成させることにより行う。
【0034】
本実施形態では、上記空間内構造物の表面にあらかじめ形成されるフッ化層は、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm以上であることが好ましい。フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm未満では、上記フッ化層が反応律速段階を終えていないことがあるため、その後にフッ化処理を行った際に空間内構造物の表面でフッ化源ガスが消費されてしまう。また、上記フッ化層が充分なフッ素量を保持していないことから、フッ化雰囲気のポテンシャルが低下したときに充分なフッ化源ガスを放出できないからである。
【0035】
また、本実施形態では、少なくともフッ化処理中に被処理物よりも高温となる部分に形成されているフッ化層が、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm以上であることが好ましい。すなわち、フッ化処理中に被処理物よりも高温となる部分に形成されたフッ化層が、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm以上となるように上記フッ化層を形成することが好ましい。フッ化処理中に被処理物よりも高温となる部分に形成されたフッ化層が、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm未満では、空間内構造物の表面で消費されるフッ化源ガスを減少させるとともに、フッ化雰囲気のポテンシャルが低下したときにフッ化源ガスを放出することによるフッ化雰囲気を安定化させる効果が充分に得られないからである。
【0036】
上記フッ化処理に引き続き、後処理として窒化処理を実施する場合は、フッ化処理によりフッ化層を形成させた被処理物を350〜650℃に加熱してNHガスを含む雰囲気で所定時間保持し、被処理物である鋼材表面のフッ化層を分解して活性な表面から窒素原子を拡散浸透させて窒化層を形成させる。
【0037】
上記フッ化処理と後処理は、フッ化処理に続けて後処理を同じフッ化処理室を兼用使用して行うこともできるし、フッ化処理室でフッ化処理を行った後、フッ化処理室とは別に設けられた後処理室で後処理を行うこともできる。
【0038】
このとき、上記後処理として窒化処理を行う場合、フッ化処理と窒化処理を共通の処理室で行うと、窒化処理を行うことにより処理室の空間内構造物の表面にあらかじめ形成したフッ化層まで分解されてしまうため、窒化処理はフッ化処理室とは独立に存在する窒化処理室で行うのが好ましい。
【0039】
このようにすることにより、フッ化処理を行う処理室内構造物表面にフッ化層が既に形成されていることによって、被処理物をフッ化処理するために投入するフッ化源ガスが、炉壁等の処理室内構造物表面で消費される量が減少する。このため、フッ化源ガスの投入量を削減でき、被処理物に対して目的とする厚さのフッ化層をより安定的に形成させることができるというメリットがある。このときのフッ化処理装置である熱処理炉の装置構造としては、例えば連続炉のように共通の炉体にフッ化処理室と窒化処理室を設けた装置とすることもできるし、フッ化処理室を設けた炉体と窒化処理室を設けた炉体を別々に有する装置とすることもできる。
【0040】
上記フッ化処理を行うことにより、被処理物の表面だけではなく、フッ化処理を実施する炉壁等の空間内構造物の表面においてもフッ化反応が進行する。これは、炉壁等の空間内構造物には、フッ化源ガスを分解してフッ化反応を促進するための触媒作用を奏する金属材を用いる必要があり、この金属材がフッ素と反応してしまうためである。
【0041】
このとき、炉壁等の空間内構造物は、被処理物よりも炉内温度を上昇させるための加熱源に近いため、被処理物と空間内構造物の表面がともにバージンに近い(充分なフッ化層が形成されていない)状態であれば、温度の高い炉壁等の空間内構造物表面のフッ化反応が優先して起こってしまうこととなる。このように、上記空間内構造物表面に十分な厚さのフッ化層が形成されていない状態であれば、その空間内構造物表面のフッ化反応で消費されるフッ化源ガスの量が多くなり、被処理物に対して目的とする厚さのフッ化層を形成するだけのフッ化源ガスのポテンシャルが得られなくなり、被処理物のフッ化品質不良が発生する原因となる。
【0042】
したがって、本実施形態では、被処理物のフッ化処理に先立って、あらかじめフッ化処理空間内に露出した空間内構造物の表面に十分な厚さのフッ化層を形成させておくことにより、空間内構造物表面のフッ化反応を抑制し、ここでの反応で消費されるフッ化源ガスの量を少なくすることにより、被処理物に対する安定的なフッ化処理を行うことができるのである。
【0043】
一方、フッ化処理空間内に露出した空間内構造物の表面に、十分な厚さのフッ化層を形成させておくことにより、例えば、被処理物の装入量に対してNFガス等のフッ化源ガスの導入量が多少不足していたとしても、上記空間内構造物表面に形成したフッ化層中のフッ化物の分解反応が生じ、フッ化処理空間内へのフッ化源ガスの放出が生じる。このとき放出されたフッ化源ガスが被処理物のフッ化反応に寄与することから、上記空間内構造物の表面に十分な厚さのフッ化層を形成させておくことで、より安定的なフッ化処理を行うことができるのである。
【0044】
フッ化処理空間内に露出した空間内構造物表面にあらかじめ形成させるフッ化層は、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm以上であることが好ましい。このようにすることにより、被処理物の材質や数量が大きく異なるロットを続けて処理するときでも、安定的なフッ化処理が可能となる。
【0045】
すなわち、フッ化反応は、初期段階では反応律速でフッ化層を形成し、その後拡散律速に移行する。一定のフッ化層厚さに達しない反応律速の段階では、フッ化層の成長速度が速く、フッ化源ガスの消耗も多い。一方、一定のフッ化層厚さまで成長した後の拡散律速の段階では、フッ化層の成長速度すなわち反応速度が大きく低下し、フッ化源ガスの消耗も少ない。
【0046】
そこで、本実施形態では、フッ化処理空間内に露出した空間内構造物表面にあらかじめ形成させるフッ化層を、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm以上とすることにより、空間内構造物の表面に十分なフッ化層を形成し、被処理物との反応が優先するようにしたのである。
【0047】
上記フッ化層の表面フッ素濃度が5質量%未満であったり、フッ化層全体の厚みが1.3μm未満である場合を含め、フッ化処理空間内に露出した空間内構造物表面にあらかじめ形成させるフッ化層が、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm未満となれば、上述したように温度の高い空間内構造物の表面のフッ化反応が優先的に進行してしまい、フッ化源ガスが空間内構造物の表面で多量に消費される。このため、被処理物と反応するフッ化源ガス量が不足するため、被処理物のフッ化処理が不十分となり、結果的にその後の窒化処理等の後処理における処理品質にも影響をもたらすのである。
【0048】
このような現象は、一室型のフッ化専用炉でも発生し得るが、上記フッ化処理の後に後処理を行う後処理空間をさらに備え、上記フッ化処理空間が後処理空間とは独立して存在しているとともに、上記フッ化処理室から後処理室に被処理物を搬送するための搬送手段が設けられ、フッ化処理と後処理とを連続的に行う連続処理装置において、より発生しやすい。これは、連続処理装置では、生産性を考慮してそれぞれの処理室での処理時間が短い場合が多く、フッ化反応時間がさらに短くなることによって、被処理物のフッ化処理がより不十分な状態となり、結果的にその後の窒化処理等の後処理における処理品質に影響をもたらすことが主な原因である。
【0049】
このように、路壁等の空間内構造物の表面に、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm以上となるフッ化層を形成させたフッ化処理室を有する連続処理装置を用いることにより、被処理物の材質や数量が大きく異なるロットを連続的に処理したとしても、安定的なフッ化処理が可能となる。そして、その後窒化処理室のような後処理室で実施される後処理においても安定した品質の後処理層を形成することができる、後処理品質の安定した生産性の高い量産処理を行なうことができる。
【0050】
上述した連続処理装置において、少なくともそのフッ化処理室の空間形状を、被処理物の搬送方向を軸にした円筒状に形成することが好ましい。このようにすることにより、フッ化源ガスの炉内の対流がスムーズに行われ、フッ化処理空間内の温度バラツキが小さくなるだけでなく、分解、反応速度が比較的速いフッ化源ガスの炉内濃度のバラツキも小さくなることによって、より均一なフッ化処理層を形成することができる。さらに、窒化処理室のような後処理室の空間形状も同様に被処理物の搬送方向を軸にした円筒状とすることが好ましい。このようにすることにより、NH等の窒素源ガスのような後処理ガスの後処理空間内での対流がスムーズに行われ、後処理空間内の温度およびガス濃度バラツキが小さくなるため、さらに均一な後処理層の形成が可能となる。
【0051】
本実施形態のフッ化処理装置の使用方法は、上記空間内構造物の表面にあらかじめ形成されたフッ化層のフッ素量が所定量を下回ったときに、フッ化処理空間を所定のフッ化雰囲気で加熱保持する予備フッ化処理を行って上記フッ化層を回復することが行われる。
【0052】
すなわち、上述したように、空間内構造物表面のフッ化反応で消費されるフッ化源ガスの量を減らす一方、雰囲気のフッ化ポテンシャルが不足したときに上記空間内構造物表面のフッ化層からフッ化源ガスを放出させてフッ化品質を安定させるためには、フッ化処理空間内に露出した空間内構造物の表面のフッ化層が、充分なフッ素量を有した状態である必要がある。したがって、上記あらかじめ形成されたフッ化層のフッ素量が所定量を下回ったときに予備フッ化処理を行って上記フッ化層を回復するのである。
【0053】
ここで、安定したフッ化処理を行うためには、フッ化処理空間内に露出した空間内構造物の表面のフッ化層厚さをある程度正確に把握する必要がある。このため、上記空間内構造物の表面を構成する材料と同じ材料の試験片をフッ化処理空間内に配置し、フッ化処理を繰り返し行なった際に空間内構造物の表面に形成されているフッ化層のフッ素量を上記試験片の状態によって検知することが好ましい。
【0054】
例えば、上記空間内構造物表面と同材質の試験片を準備し、フッ化層厚さ確認用として予め炉壁等に脱着可能に配置する。そして所定のタイミングで試験片を取り外し、フッ化層の厚みを測定することにより、空間内構造物の表面に形成されているフッ化層のフッ素量を検知する。
【0055】
フッ化層の厚みは、例えば、グロー放電発光表面分析装置(GD−OES)等を用いることによって容易に測定することができ、これによって空間内構造物表面のフッ化層厚さを推定することが可能となる。なお、上記試験片は上記空間内構造物表面の材質と同材質であるだけでなく、その面粗さ等も同等とすることにより、より正確に上記フッ化層厚さを把握できるためさらに好ましい。
【0056】
また、上記方法によって推定された空間内構造物表面のフッ化層が、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm未満であると、温度、時間、ガス投入量等、通常適正であるフッ化処理条件で被処理物のフッ化処理を実施しても正常なフッ化処理が実施できないことがある。このため、例えば被処理物を入れずに予備フッ化処理を実施したり、治具のみ、もしくは治具にテスト用既処理品、不良未処理品等を積載した状態で予備フッ化処理を実施することにより、フッ素濃度5質量%以上のフッ化層の厚みを以上とすることができる。
【0057】
このとき、NFガス等のフッ化源ガスは、金属表面での触媒作用によって、より短時間で分解、反応しやすくなることから、何らかの処理品等を積載した状態で上記予備フッ化処理を行う方が、活性なフッ素を多く発生させ、上記空間内構造物表面での反応を促進させることが可能となるため、より望ましい。
【実施例1】
【0058】
つぎに本発明の実施例について説明する。
【0059】
図1は、本実施形態のフッ化処理装置の断面図の一例を示す。
【0060】
この例は、フッ化処理と窒化処理等の後処理を異なる処理空間内で処理するものであり、フッ化処理専用のフッ化処理炉である。
【0061】
このフッ化処理炉は、炉体1の内面部にヒーター2が取付けられ、その内側に配置された空間内構造物である炉内構造物としての炉壁3の内部がフッ化処理空間である。上記ヒーター2およびフッ化処理空間内に、矢印で示したガス対流を攪拌ファン9を用いて起こすことによって、炉内の温度調整が適正に行なえるようになっている。上記フッ化処理空間に露出する炉壁3の内面には、炉壁3と同じ材質で、炉壁3の内側表面と同様の表面仕上げにより同等の表面粗さとした炉壁状態確認用の試験片4が着脱可能に取付けられている。
【0062】
また、上記炉体1には、図示しないが、フッ化処理の際の雰囲気ガスをフッ化処理空間内に導入するガス供給配管と、フッ化処理空間内の雰囲気ガスを排出するガス排気配管が具備されている。また、図において、符合10は、炉内ガス攪拌ファン9を駆動する攪拌ファン用のモーター10、6は搬送用のローラー6である。
【0063】
この例では、処理空間に被処理物5を配置し、所定のフッ化温度に上昇させたのち処理空間内にNFを含むフッ化処理用の雰囲気ガスを導入して加熱保持することによりフッ化処理を行なう。これにより、試験片4の表面は炉壁3の内側表面と同等のガス雰囲気に晒されるとともに同等の温度状態となることから、試験片4の表面状態を確認することによって、炉壁3の内側表面の状態をほぼ正確に把握することができる。
【0064】
本実施例では、上記炉壁3の材料および上記試験片4の材料としてSUS304材を使用し、図1に示したように試験片4が炉壁3の内側表面に接触する状態で取付けられたフッ化処理炉を準備した。
【0065】
このフッ化処理炉を用いて、特に処理品を入れない状態で炉内をNガスで置換した後350℃まで昇温し、1容量%のNFガスを含む雰囲気で120分保持する予備フッ化処理を実施した。
【0066】
このとき、炉壁3に密着させたSUS304材試験片4の表面の分析を行ったところ、その表面には5質量%以上のフッ素濃度を有するフッ化層が約0.7μm形成されている状態であった。
【0067】
比較例として、このフッ化処理炉を使用し、耐熱鋼であるSUH35材が使用された被処理物であるエンジンバルブ5を図1に示すように熱処理用治具8にセットして搬送用のトレイ7上に積載した状態で、炉内をNで置換した後350℃まで昇温し、3容量%のNFガスを含む雰囲気で60分保持するフッ化処理を実施した。このフッ化処理後の被処理物を窒化炉に移し、炉内をNガスで置換した後570℃で30分、NHガス50容量%、RXガス50容量%となる雰囲気で保持する窒化処理を実施した。なおRXガスとはメタンガス、プロパンガスやブタンガスの変成ガスで、Nガス、Hガス、COガスを主成分とする混合ガスである。
【0068】
上記フッ化処理終了後の試験片4の5質量%以上のフッ素濃度を有する表面フッ化層厚さを分析したところ、その厚さは約1.8μmとなっていた。比較例のフッ化処理前では約0.7μmであったのに対し、実施例Aのフッ化処理実施前(すなわち比較例のフッ化処理実施後)には約1.8μmへと大きく増加していた。
【0069】
実施例Aとして、このフッ化処理炉を用いて、被処理物であるエンジンバルブ5の材質、数量とも上記比較例と同じ状態で、350℃で、1容量%のNFガスを含む雰囲気で60分保持するフッ化処理を実施した後、上記比較例と同じ窒化炉に移し、同条件で窒化処理を実施した。
【0070】
図2は、他のフッ化処理炉の断面図の一例を示す図である。
【0071】
図1に示したフッ化処理炉の断面が概円形状であるのに対し、この例のフッ化処理炉の断面は概四角形状となっている。それ以外は、基本的な装置構造は同様にしたものである。また、この例のフッ化処理炉においてもフッ化炉壁3´の材料および試験片4´の材料として、SUS304材を使用し、その表面粗さもほぼ同等となるよう同様の表面仕上げを実施した。
【0072】
このフッ化処理炉を用いて、350℃で、10容量%のNFガスを含む雰囲気で180分保持する予備フッ化処理を実施し、試験片4´の5質量%以上のF濃度を有する表面フッ化層厚さが約2.0μmとなっていることを確認した。
【0073】
実施例Bとして、上記予備フッ化処理を実施した後、上記比較例および実施例Aと同様に、被処理物であるエンジンバルブ5の材質、数量とも同じ状態として、上記実施例Aと同条件でフッ化処理を実施した後、上記比較例および実施例Aで使用した窒化炉と同一の窒化炉に移し、同条件で窒化処理を実施した。
【0074】
図3は、比較例および実施例A、Bのフッ化処理を行う前の試験片4および4´のフッ化層厚さを測定するために実施した分析結果を示す図である。
【0075】
比較例および実施例AおよびBについて、炉内に装入された被処理物の存在領域における8隅部分と中央近傍部分との9箇所に配置されたSUH35製エンジンバルブ各2本につき、窒化処理後の軸部の窒化処理層の厚さを調査した結果について、炉内バラツキも含めた値として下記の表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
図4は、表面部の代表的な部分の断面組織を示す図である。上記表1中で窒化層厚さが0となっているものについては、切断観察した断面に、図4の比較例の断面写真に示すように窒化層が形成されていない部分があったことを示している。
【0078】
上記表1に示すように、試験片4または4´の表面におけるフッ素濃度5質量%以上のフッ化層厚さは、比較例では0.7μm、実施例Aでは1.8μm、実施例Bでは2.0μmである。この結果より、フッ化処理実施前の炉壁3または3´表面におけるフッ化層厚さは、比較例では0.7μm、実施例Aでは1.8μm、実施例Bでは2.0μmであると推定された。
【0079】
比較例では、炉壁3にあらかじめ形成したフッ化層が薄いままの状態でフッ化処理を実施している。比較例では、フッ化処理時のNFガス濃度が実施例A、Bに比べて高いにも関わらず、窒化処理後の窒化層厚さが0〜12μmと実施例A、Bに比べて薄い。すなわち、フッ化処理炉内でNFガスの分解、反応が十分に行われているにも関わらず、窒化不良が発生していることがわかる。被処理物よりも炉壁3等の炉内構造物表面とのフッ化反応が優先し、被処理物表面へ十分な厚さのフッ化層が形成されなかったことにより、均一な窒化層が形成されなかったものと考えられる。
【0080】
このように、比較例のように炉壁3表面に十分なフッ化層が形成されていないと、フッ化処理時のNFガス濃度を上げる等の手段を用いても、被処理物に均一なフッ化層および窒化層を形成させることが難しく、安定した窒化品質が得られないことが分かる。
【0081】
一方、図4の実施例の断面写真に示すように、炉壁3または3´表面にフッ素濃度5質量%以上のフッ化層厚さを1.3μm以上の十分なフッ化層を形成した状態でフッ化処理が実施された実施例AおよびBでは、比較例よりも被処理物のフッ化処理時のNFガス濃度を低くしたにも関わらず、切断観察した軸部の断面は、全面にわたって均一な窒化層が得られていた。
【0082】
また、炉壁3´の断面形状を四角形状とした実施例Bでは、比較例のように窒化不良等の問題の発生は起こらないうえ、省スペースとなり、装置の小型化につながるという点では有利である。一方、実施例Aでは、炉壁3の断面形状を円筒形としているため、図1内矢印で示したように炉内のガス対流が円滑に行われ、炉内の温度バラツキやガス濃度バラツキが小さくなることによって被処理物のフッ化品質の向上による窒化品質の向上につながる。したがって、炉壁3の断面形状は、ガス対流を生じさせるファン9の送風方向が直交するよう軸を横方向とする円筒形状もしくは楕円筒形状とすることが好ましい。このようにすることにより、炉内のバラツキも含め非常に安定した窒化層を形成させられることが表1の結果からもわかる。
【0083】
また、以上の結果から、フッ化処理空間に露出した炉壁3,3´の内側表面に、炉壁3,3´の内側表面と同材質である炉壁3,3´状態確認用の試験片4,4´を取付けることにより、その表面に形成したフッ化層厚さを確認することによって、炉壁3,3´の内側表面に形成したフッ化層厚さをほぼ正確に把握することができることがわかる。さらに、上記試験片4,4´について材質だけではなく、その表面粗さ等の表面状態も炉壁3,3´の内側表面と同様の状態にすることにより、より正確に炉壁3,3´の内側表面の状態を把握することが可能となる。
【実施例2】
【0084】
図5にフッ化処理および窒化処理が実施可能な連続熱処理炉の断面図の一例を示す。
【0085】
この連続熱処理炉は、熱処理用治具27に被処理物を搭載した状態で雰囲気置換および/または昇温を行うための第1処理室21と、上述したフッ化処理を行うためのフッ化処理室としての第2処理室22と、第2処理室22と第4処理室24の間に配置されてフッ化処理と窒化処理のガスが混入するのを防止するための中間室としての第3処理室23と、フッ化処理の後に窒化処理を行う窒化処理室としての第4処理室24と、窒化処理後の被処理物を冷却する冷却室としての第5処理室25とを備えている。第1処理室21の入口側、第1〜第5の処理室21,22,23,24,25の間および第5処理室25の出口側には、それぞれ自動開閉可能な開閉扉26が設けられている。
【0086】
上記各処理室21,22,23,24,25の上部には、温度および雰囲気の均一化を図るための炉内攪拌用のファン29が取り付けられている。さらに、図示しないがそれぞれの処理室21,22,23,24,25には雰囲気を調整するためのガスを導入、排気するための配管と、各処理室21,22,23,24,25内の温度を独立して制御することが可能な加熱手段、および処理品を載せたトレイ28を移動させることが可能な搬送手段が取り付けられている。また、上記熱処理用治具27に被処理物を搭載したまま第1処理室21、第2処理室22、第3処理室23、第4処理室24、第5処理室25と搬送を行なう搬送手段とを備えている。図において、符号30はファン29の駆動モーターである。
【0087】
この装置では、まず、被処理物を搭載した熱処理用治具27を炉内搬送するためのトレイ28上に載置する。ついで、上記熱処理用治具27を載せたトレイ28を雰囲気置換およびもしくは昇温を行なう第1処理室21前の自動開閉可能な開閉扉26を上げ、炉内に挿入して開閉扉26を下げて閉める。なお開閉扉26は自動開閉可能なだけでなく十分な気密性を確保できる構造となっている。つぎに、この第1処理室21内を真空引きおよびもしくはNガス等で置換することによって、昇温された際に被処理物の表面が酸化することを防ぐ。
【0088】
この第1の処理室21では雰囲気置換を行うことが重要であり必ずしも昇温を行う必要はなく、次室である第2処理室22で昇温してもよい。雰囲気置換の迅速化のため真空ポンプを用いて一旦真空引きする方法を利用してもよいし、単にファン29を回しながらNガス等を投入することのみで炉内ガスを置換する方法を利用しても構わない。それらの方法によって雰囲気置換、すなわち酸化源となる第1処理室21内の酸素濃度およびもしくは水分濃度を十分に低下させることを行なえば、必ずしも昇温を行なう必要はない。昇温しない場合は、この第1処理室21に加熱手段を設けなくてもよい。
【0089】
つぎに、上記被処理物が搭載された熱処理用治具27を積載したトレイ28を第1処理室21と第2処理室22の間の開閉扉26を開け、搬送手段によりフッ化処理を行うための第2処理室22に移動させた後、開閉扉26を閉める。この第2処理室22では、フッ化処理が行なわれる。上記フッ化処理に使用するガスとしてはフッ素ガスやフッ素化合物ガスを含むガスであれば特に限定されるものではないが、NFガスをNガス等で希釈したガスが取り扱い性等の面で最も利用しやすい。上記フッ化処理の後、できるだけ速やかに窒化処理に移行するのが好ましい。このため、上記第2処理室22に被処理物を搬入し、第2処理室22での残り時間がフッ化処理時間と略同じになったときにフッ化ガスを導入してフッ化処理を開始する。
【0090】
中間室として機能する第3処理室23については、上述した連続操業時にはほぼ一定間隔で本発明の熱処理炉内に被処理物が挿入され、各処理室21,22,23,24,25間を搬送されてくる。この場合において、第3処理室23は、第2処理室22と第4処理室24間のガスの混入を防ぐことを設置目的の一つとしているため、第2処理室22でフッ化処理を行い、第3処理室23では保温もしくは特別な処理を行わず、第4処理室24で窒化処理を行う方法が好ましい。このとき、第3処理室23の炉内雰囲気は予めNガス等の非酸化性ガスを充満させておくことが望ましい。第3処理室23が上記目的で使用される場合は、図示したファン29およびモーター30は必ずしも必要とはしない。
【0091】
このとき、上記被処理物を搭載した熱処理用治具27を積載したトレイ28を第2処理室22と第3処理室23の間の開閉扉26を上げ、搬送手段により第3処理室23に移動させた後、開閉扉26を閉める。また、上記被処理物を熱処理用治具27を搭載した状態のまま、トレイ28を第3処理室23と第4処理室24の間の開閉扉26を上げ、搬送手段により第4処理室24に移動させた後、開閉扉26を閉める。
【0092】
つぎに、フッ化処理がなされた被処理物は、窒化室として機能する第4処理室24に移動され、窒化処理する工程が行われる。この第4処理室24についても、予め窒化処理温度に保持させておくと処理時間の短縮化に寄与する。なお、窒化処理を行なう温度、時間等については処理を行なう被処理物の材質や要求される性能等によって異なるため特に限定しない。
【0093】
つぎに、第4処理室24内で窒化処理された被処理物は、第4処理室24と第5処理室25の間の開閉扉26を上げ、搬送手段により第5処理室25に移動され、開閉扉26を閉めて冷却される。このとき、冷却室として機能する第5処理室25内の雰囲気は、上記窒化処理された被処理物表面が過度に酸化されて強度低下等を起こすことを防ぐため、予めNガス等の非酸化性ガスを充満させておくことが望ましい。冷却が終わると、第5処理室25出口側の開閉扉26を上げ、トレイ28を炉外に搬出する。
【0094】
本実施例では、上記フッ化処理室である第2処理室22および窒化処理室である第4処理室24の炉壁等の炉内構造物表面の材料としてNCF600を使用した。また、図示しないがフッ化処理室である第2処理室22の処理空間に露出する炉壁の内面には、その炉壁と同材質かつ同等の表面粗さとした炉壁状態確認用の試験片が着脱可能に取付けられている。なおその炉壁形状については、フッ化処理室、窒化処理室ともその断面形状は被処理物の進行方向に対して図1に示すような円筒形状、すなわちフッ化処理室、窒化処理室の炉壁形状は円筒形状とした。
【0095】
上記の連続熱処理炉のフッ化処理室である第2処理室22内を450℃に昇温させた後、被処理物を装入しない状態で、10容量%のNFガスを含む雰囲気で180分保持する予備フッ化処理を実施し、炉壁表面にフッ素濃度5質量%以上のフッ化層を約0.6μm形成させた。
【0096】
つぎに、熱処理用治具27に被処理物であるNCF718製のエンジンバルブを合計5000本セットした後、搬送用のトレイ28上に載せ、第1処理室21の入り口側の開閉扉26を開け、主に被処理物の酸化を防止するためのガス置換室として機能する第1処理室21内に挿入した。なお、第1処理室21においてはガス置換室としての機能だけではなく、例えば各処理室でのタクトタイムを調整するためにガス置換後予備昇温も実施可能な構造となっている。
【0097】
第1処理室21内を窒素置換した後、予め窒素置換した状態で450℃に保持された第2の処理室22に移動させ、被処理物を450℃に昇温させた後、5容量%のNFガスを含む雰囲気で30分保持するフッ化処理を実施した。
【0098】
上記フッ化処理終了後、第3処理室23に移動させ、その後窒化室として機能する第4処理室24まで移動させた。連続して被処理物が連続炉内に導入、処理が行われるいわゆる連続操業時において、第2処理室22で実施されるフッ化処理と第4処理室24で実施される窒化処理が同時に行われることになる。その際にフッ化ガスと窒化ガスが混入して不要な反応を起こす危険性があることから、第3処理室23は、その防止を主な目的とした中間室として配置することが望ましく、通常Nガス等の不活性ガスを充満させておくことが望ましい。
【0099】
この中間室として機能する第3処理室23を設けることによって、連続処理のタクトタイムの調整を含め、生産性の向上にもつながるため、フッ化処理を含む連続処理炉としてより好ましい構造となる。第3処理室23では特別な処理を行う必要はないが、各室におけるタクトタイムの都合上、第3処理室23内に被処理物が長く滞留したときに、次室である第4処理室24での昇温時間が長くなることを防止するため、被処理物の保温または昇温室としての機能も持たせることができる。
【0100】
つぎに、予め590℃に保持されていた第4処理室24内に移動させた被処理物を、NHガスとNガスが5:5の容量割合となるようにガスを導入しながら590℃まで昇温させ、その後NHガスとRXガスが5:5の容量割合になるように調整されたガスを第4処理室24内に導入し、2時間保持することで窒化処理を実施した。
【0101】
その後被処理物を載せたトレイ28を冷却室として機能する第5処理室25内に移動させ、Nガス雰囲気中で処理品の温度が100℃以下となったところで第5処理室25の出口側の開閉扉26を上げ、上記連続熱処理炉から搬出し室温まで冷却した。
【0102】
上述した予備フッ化処理を実施した後、上記フッ化処理と窒化処理を含む連続熱処理を繰り返し実施した。ただし、処理回数6回目は上記エンジンバルブ5の積載量を1.5倍とし、7回目は0.5倍、8回目は1.2倍とした。
【0103】
このときの処理回数1回目から8回目まで、それぞれの処理結果を下記の表2および図6に示す。表2および図6は、炉内8隅部分と中央近傍部分の9箇所に配置されている各2本のNCF718製エンジンバルブをサンプリングし、軸部の窒化処理層の厚さ、各連続熱処理を実施前の第2処理室22内に取り付けられた試験片表面のフッ素濃度5質量%以上のフッ化層厚さを測定した結果である。
【0104】
【表2】

【0105】
図6および表2からわかるように、処理を繰り返し行うことによって、試験片表面、すなわち炉壁表面のフッ化層厚さが厚くなり、それにしたがって、窒化層厚さが増加するとともに窒化層厚さのバラツキも小さくなっていることが分かる。そしてそのフッ化層厚さが約1.3μm以上となったときに、窒化層厚さのバラツキも窒化層厚さ自体も安定化することが分かる。したがって、実施例1の結果も含め、炉壁材料が変わってもフッ素濃度5質量%以上のフッ化層を厚み1.3μm以上とすることにより、安定したフッ化処理を行うことができ、それに伴って安定した窒化処理を行うことができることが分かる。
【0106】
また、被処理物の積載量を変動させた繰り返し処理回数6回目以降も、窒化層厚さのバラツキおよび窒化層厚さの平均値ともに大きな変動は見られない。すなわち、炉壁のフッ化層厚さが十分であれば、被処理物の積載量がある程度変動しても、安定したフッ化処理が実施可能となり、その後行われる窒化処理においても窒化層厚さ等に大きな影響を与えることなく安定した窒化品質を保つことが可能であることが分かる。
【実施例3】
【0107】
引き続き上記連続熱処理炉を用い、熱処理用治具27にSUH11製のエンジンバルブを合計5000本セットし、それらを積載したトレイ28を、第1処理室21内にてNガスに置換した後、予め450℃に加熱した第2処理室22に移動させ被処理物を昇温し、NFガスを投入せずに300分保持した後、窒化処理を実施せずに冷却し炉外に搬出させた。
【0108】
この処理によって炉壁内面に取付けられた試験片表面のフッ素濃度5質量%以上フッ化層の厚みは、約2.0μmから約1.2μmへと減少していた。このとき、上記SUH11製エンジンバルブの表面には、約0.4〜0.6μmのフッ化層が形成されていることが確認された。すなわち、上記のようにNFガスが投入されなくても、被処理物の表面にはフッ化層を形成することができることがわかる。
【0109】
このことから、フッ化処理室内にそのフッ化処理条件にとって適正量よりも少ないNFガスが投入された状態で被処理物が加熱保持されときには、炉壁のフッ化層からフッ素源が放出され、それによって被処理物の表面がフッ化され、それに伴い炉壁表面のフッ化層厚さは減少することが分かる。
【0110】
つぎに、上記第2処理室22に被処理物を入れない状態で5容量%のNFガスを含む雰囲気で30分保持するフッ化処理を行った。このとき、上記試験片表面のフッ素濃度5質量%以上フッ化層の厚みは約1.3μmまでしか増加しなかった。
【0111】
続いて、上記SUH11製エンジンバルブを、上記第2処理室22にて5容量%のNFガスを含む雰囲気で30分保持するフッ化処理を行った。このとき上記試験片表面のフッ素濃度5質量%以上フッ化層の厚みは約1.6μmまで回復していた。その結果を下記の表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
以上の結果から、上記炉壁表面のフッ化層厚さが薄くなった場合、そのフッ化層厚さを回復させるためには、何らかの処理物を積載した状態で予備フッ化処理を行なう方法が効果的かつ短時間での回復が行われ、回復効率が良いことが分かる。回復処理のための予備フッ化処理の際に積載する処理物としては、上記のようにフッ化層を有するものや、窒化処理されたもの、また窒化や酸化されたものをショットブラスト処理やバレル処理されたものなど、様々な状態のものが使用可能である。
【0114】
つぎに、上記第2処理室22の炉壁表面におけるフッ素濃度5質量%以上のフッ化層厚みが1.6μmである連続熱処理炉を用い、NCF718製のエンジンバルブを合計5000本セットした状態で、第2処理室22において、5容量%のNFガスを含む雰囲気で450℃、30分保持するフッ化処理を実施し、さらに第4処理室24において、NHガスとNガスが5:5の容量割合となるようにガスを導入しながら590℃まで昇温し、その後NHガスとRXガスが5:5の容量割合になるようにガスを導入しながら、2時間保持する窒化処理を実施した。その結果、上記エンジンバルブの軸部の窒化層厚さおよびバラツキは、図6に示した繰り返し処理回数5回目以降のものと同水準であった。
【0115】
これらのことから、仮に炉壁表面におけるフッ素濃度5質量%以上のフッ化層の厚みが1.3μmを下回った場合でも、予備フッ化処理を適正に実施することで、容易にその厚さを1.3μm以上に回復させ、引き続き安定した窒化処理を実施することが可能となることが分かる。
【0116】
以上の結果から、フッ化処理炉の炉壁表面にフッ素濃度5質量%以上フッ化層の厚さを1.3μm以上形成させることによって、被処理物の数量変動等が起こっても安定的に目的としたフッ化層を形成させることが可能なフッ化処理炉となる。また、フッ化処理室を伴う連続熱処理炉において、そのフッ化処理室の炉壁表面がフッ素濃度5質量%以上のフッ化層の厚みを1.3μm以上とすることにより、生産性の高さに加え、窒化層厚さ等の窒化品質を安定的に維持することが可能な連続熱処理炉となる。さらにその炉壁形状が概円筒形状とすることにより、ガスの対流がスムーズに行われ、炉内の均熱性およびガス濃度の均一性が向上し、更なる窒化品質の向上につながることから、より好適な熱処理炉となる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の金属材料のフッ化処理を行うフッ化処理炉またはフッ化処理室を有する連続熱処理炉を用いることによって、例えば処理数量の大幅な変動等があったときでも、安定したフッ化処理を実施することが可能となり、また品質の安定した窒化処理を継続して実施することも可能となることから、精密部品を含めた各種機械部品等のフッ化処理および窒化処理に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明を適用した一実施例のフッ化処理装置の断面構造を示した模式図である。
【図2】本発明を適用した他の実施例のフッ化処理装置の断面構造を示した模式図である。
【図3】SUS304製試験片のフッ素濃度の深さ方向の分析結果を示した図である。
【図4】SUH35製エンジンバルブの軸部の断面組織である。
【図5】本発明を適用した連続熱処理炉の断面構造を示した模式図である。
【図6】NCF718製エンジンバルブの軸部の窒化層厚さと窒化処理前のフッ化層厚さを示した図である。
【符号の説明】
【0119】
1,1´:炉体
2,2´:ヒーター
3,3´:炉壁
4,4´:試験片
5,5´:エンジンバルブ(被処理物)
6,6´:ローラー
7,7´:トレイ
8,8´:熱処理用治具
9,9´:ファン
10,10´:モーター
21:第1処理室(雰囲気置換およびもしくは昇温室)
22:第2処理室(フッ化処理室)
23:第3処理室(中間室)
24:第4処理室(窒化処理室)
25:第5処理室(冷却室)
26:開閉扉
27:熱処理用治具
28:トレイ
29:ファン
30:モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を所定のフッ化雰囲気のフッ化処理空間内に加熱保持してフッ化処理を行なうフッ化処理方法であって、上記フッ化処理空間内にフッ素と反応性のある空間内構造物を露出させ、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行うことを特徴とするフッ化処理方法。
【請求項2】
上記空間内構造物の表面にあらかじめ形成されるフッ化層は、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm以上である請求項1記載のフッ化処理方法。
【請求項3】
少なくともフッ化処理中に被処理物よりも高温となる部分に形成されているフッ化層が、フッ素濃度5質量%以上の部分の厚みが1.3μm以上である請求項1記載のフッ化処理方法。
【請求項4】
被処理物を所定のフッ化雰囲気のフッ化処理空間内に加熱保持してフッ化処理を行なうフッ化処理装置であって、上記フッ化処理空間内にフッ素と反応性のある空間内構造物が露出され、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行いうるように構成されていることを特徴とするフッ化処理装置。
【請求項5】
上記フッ化処理の後に後処理を行う後処理空間をさらに備え、上記フッ化処理空間は後処理空間とは独立して存在しているとともに、上記フッ化処理室から後処理室に被処理物を搬送するための搬送手段が設けられている請求項4記載のフッ化処理装置。
【請求項6】
上記フッ化処理室は、被処理物の搬送方向を軸にした円筒状に形成されている請求項5記載のフッ化処理装置。
【請求項7】
被処理物を所定のフッ化雰囲気のフッ化処理空間内に加熱保持してフッ化処理を行なうフッ化処理装置の使用方法であって、
上記フッ化処理装置は、フッ化処理空間内にフッ素と反応性のある空間内構造物が露出され、上記フッ化処理空間内に露出している空間内構造物の表面にあらかじめフッ化層を形成させた状態で上記フッ化処理を行うものであり、
上記空間内構造物の表面にあらかじめ形成されたフッ化層のフッ素量が所定量を下回ったときに、フッ化処理空間内を所定のフッ化雰囲気で加熱保持する予備フッ化処理を行って上記フッ化層を回復することを特徴とするフッ化処理装置の使用方法。
【請求項8】
上記空間内構造物の表面を構成する材料と同じ材料の試験片をフッ化処理空間内に配置し、フッ化処理を繰り返し行なった際に空間内構造物の表面に形成されているフッ化層のフッ素量を上記試験片の状態によって検知する請求項7記載のフッ化処理装置の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−95760(P2010−95760A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267634(P2008−267634)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【特許番号】特許第4358892号(P4358892)
【特許公報発行日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)