説明

フッ素イオンの固定化およびフッ素リサイクル方法

【解決手段】第1段目の処理として、第2段目の処理により生成せしめられるフッ化カルシウムを含有する2水石膏を用いて、フッ素含有排水中の大部分のフッ素イオンと2水石膏中の硫酸イオンの塩交換を行う。そして、フッ化水素製造用原料として再資源化できる純度と粒径を有するフッ化カルシウムを回収する。さらに、第2段目の処理として、前記塩交換反応により液中に溶け出した硫酸イオン、および、前記第1段目の反応で固定化できなかったフッ素イオンを可溶性のカルシウム塩と反応させることにより、フッ化カルシウムを含有する2水石膏の結晶を析出せしめる。析出せしめられたフッ化カルシウムを含有する2水石膏を第1段目の反応に供する。
【効果】フッ素含有排水中のフッ素を粒径の大きなフッ化カルシウムとして固定化できる。さらに、排出される排液中のフッ素濃度を5〜15ppmまで低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性領域から弱アルカリ性の領域の可溶性フッ素イオンを対象とするフッ素の固定化処理技術に関するものであり、さらに、固定化処理により回収したフッ化カルシウムをフッ化水素製造用原料、または、鉄鋼の精錬用フラックスに使用するフッ素資源リサイクル方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、フッ素を含有する排水からのフッ素の固定化処理は、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、塩化カルウムなどのカルシウム化合物と反応させて、難溶性のフッ化カルシウムとして大部分のフッ素を固定化した後、必要に応じてアルミニウム塩や鉄塩を用いた凝集沈澱法、フッ素アパタイト析出法、活性アルミナ吸着法、塩基性イオン交換樹脂やキレート樹脂への吸着法などの2次処理により排水中のフッ素濃度を規制値以下にする。
【0003】
前段のカルシウム塩を用いて固定化処理して得られたフッ化カルシウムは、粒径が細かくそのままでは濾過できないため高分子凝集剤などを使用して沈降性の良いフロックにし、シックナーで沈降させたものをフィルタープレスにて濾過している。そのようにして得られたフッ化カルシウムは純度がドライベースで60〜80%と低い上に、粒子径が細かく、水分を50〜70%も含むため、産業用フッ化カルシウムとして利用し難い。
【0004】
生成したフッ化カルシウムスラッジの一部を元に戻し、種結晶の役割を持たせることで多少なりとも粒径を大きくし、含水率を5〜20%減少させることにより廃棄するスラッジのボリウムを減らしている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
数百ppmの希薄な含フッ素廃液については、フッ化カルシウムの結晶を成長させて大きな粒径にする技術(例えば、非特許文献2参照)もあるが、晶析速度が非常に遅いため設備スケールの割には処理量が少ないことに加えてその回収物の再利用技術が未だ確立されておらず、今のところ産業廃棄物として処理している。
【0006】
その中でも、粒径を大きくするために粒度を揃えた天然炭酸カルシウムにフッ素排水を通すことにより、天然炭酸カルシウムの骨格をほぼ保ったままフッ化カルシウムを生成させる試み(例えば、特許文献1参照)がなされている。この際、発生する炭酸ガスの抜け、生成するフッ化カルシウムフロック、炭酸カルシウムの中心部が未反応で残るなどの問題があるが、この方法で回収フッ化カルシウムを蛍石と混ぜて処理した報告(例えば、非特許文献3参照)もされている。
【0007】
フッ素の固定化処理で得られたフッ化カルシウム(回収フッ化カルシウム)をフッ化水素製造原料である蛍石と混ぜて使用する試みもなされているが、回収フッ化カルシウムは、平均粒径が小さい(大きくても小さな物が2次凝集している)、嵩密度が小さい(蛍石の半分程度)、不純物が多い(特に、塩素)等の問題により、原料乾燥時の粉塵の問題や蛍石との馴染みが悪く、製品フッ化水素中の不純物が増加するために蛍石に5〜10%混合して使用するのが限度である。
【0008】
石膏に回収フッ化カルシウムを混合・乾燥して粒径を大きくし、蛍石に混ぜて使用する方法(例えば、特許文献2参照)がある。
【0009】
無水石膏、および、2水石膏を用いて排水中のフッ素の固定化処理方法は、既に知られているが、処理水中のフッ素濃度を規制値付近まで除去するためには過剰量を使用する必要があり(例えば、特許文献3参照)、回収する固形分中のフッ化カルシウム含量は50%程度と低く、工業用には使用できない。
【0010】
また、フッ素の再利用を目的に、本発明者の1人は、フッ素濃度1〜2%の中性水溶液を処理して、フッ化カルシウムを80〜90%含有する固形分を回収し、フッ化水素製造原料に使用し、フッ化水素製造で副成する石膏をフッ素の固定化に再利用するシステムを見出している(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平06−063561号公報(出願人:栗田工業株式会社・橋本化成株式会社 、発明の名称:フッ素含有水用処理装置)
【0012】
【特許文献2】特表2002−534346号公報(出願人:アトフイナ、発明の名称:フッ化カルシウム細粉をリサイクルするためのプロセス)
【0013】
【特許文献3】特開昭59−120286号公報(出願人:日本鋼管株式会社出願、発明の名称:弗素系成分含有廃水の処理方法)
【0014】
【特許文献4】特開2005−200233号公報(出願人:キャボットスーパーメタル株式会社・森田化学工業株式会社、発明の名称:フッ化水素の製造方法)
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】栗田工業株式会社 加藤 勇著、「用水と排水」 第42巻 第10号、株式会社産業用水調査会、2000年10月1日、第27〜32頁
【0016】
【非特許文献2】オルガノ株式会社 橋本貴行著、「晶析法を用いたフッ酸リサイクル技術」 クリーンテクノロジー、5月号、日本工業出版株式会社、2001年5月、第40〜42頁
【0017】
【非特許文献3】新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成13年度成果報告書 51101125 (平成13年度地球温暖化防止関連技術開発「HFC−23破壊技術の開発」) 平成14年3月報告 委託先:社団法人産業環境管理協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、排水中に存在するフッ素イオン、および、フッ化水素をフッ化カルシウムとして固定化するに当って、フッ化カルシウム含量が高く、濾過性に優れたフッ化カルシウムとして回収し、さらに、本処理のみで処理水中のフッ素残量を5〜15ppmまで低下させることである。そして、回収したフッ化カルシウムをフッ化水素製造用原料、または、鉄鋼の精錬用フラックスに利用することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は、かかる目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、硫酸イオンとフッ素イオンを含む排液を可溶性カルシウム水溶液、特に塩化カルシウム水溶液と反応させると、フッ化カルシウムを含有する結晶性の良い、粒径30〜100μmの2水石膏を生成し、その結果、排水中の硫酸イオン2000ppm以下に、フッ素イオン濃度5〜15ppmにすることができることを見出した。
【0020】
さらに、ここで得られたフッ化カルシウムを含有した2水石膏を使用してフッ素排水を処理すると排水中のフッ素分の80〜95%を固定化すると共に固形分中のフッ化カルシウム含量を90%以上にすることができることを見出した。
【0021】
すなわち、フッ素含有排水の処理において、第1反応槽、第1固液分離槽、第2反応槽、第2固液分離槽からなる装置を用い、第1反応槽において、第2反応槽で生成せしめられるフッ化カルシウムを含有する2水石膏を用いて、フッ素含有排水中のフッ素イオンと硫酸イオンの塩交換を行い、第1固液分離槽において、少なくともフッ化水素製造用原料として再資源化できる純度と粒径を有するフッ化カルシウムを回収し、さらに、第2反応槽において、前記塩交換反応により液中に溶け出した硫酸イオン、および、前記第1反応槽の処理で取り切れなかったフッ素イオンを可溶性のカルシウム塩と反応させることにより、フッ化カルシウムを含有する2水石膏を析出せしめ、析出せしめられたこのフッ化カルシウムを含有する2水石膏を前記第1反応槽の反応に供する。
このようにすることにより、フッ素含有排液中のフッ素を粒径の大きい有益なフッ化カルシウムとして固定化できるとともに、処理液中のフッ素濃度を5〜15ppmに低下させることができる。
【0022】
このように、第1段目の処理として、第2段目の処理により生成せしめられるフッ化カルシウムを含有する2水石膏を用いて、フッ素含有排水中のフッ素イオンと硫酸イオンの塩交換を行い、第1固液分離槽において、少なくともフッ化水素製造用原料として再資源化できる純度と粒径を有するフッ化カルシウムを回収する。さらに、第2段目の処理として、前記塩交換反応により液中に溶け出した硫酸イオン、および、前記第1段目の処理で取り切れなかったフッ素イオンを可溶性のカルシウム塩と反応させることにより、フッ化カルシウムを含有する2水石膏の結晶を析出せしめる。そして、析出せしめられたこのフッ化カルシウムを含有する2水石膏を前記第1段目の反応に供する。この二段階の反応により、フッ素リサイクルシステムを完成させることができた。
この二段階の反応により、フッ素含有排液からフッ素分の99%以上を有益なフッ化カルシウムとして回収できるとともに、処理液中のフッ素濃度を5〜15ppmに低下させることができる。
【0023】
上記フッ素の固定化において、第2固液分離槽から排出される廃液中に溶けて損失する硫酸イオン分に相当する量(硫酸カルシウムの溶解度分)以上、より好ましくは1倍から2倍量の硫酸塩溶液、特に硫酸ナトリウム水溶液、または、硫酸ナトリウムを含有する排液を、処理の対象となる排水中、または、第2反応槽までのいずれかにおいて添加することが望ましい。このようにすると、上記のフッ素の固定化処理を効果的に実施することができる。
【0024】
上記フッ素の固定化において、第2固液分離槽から排出される排液中に溶けて損失する分に相当する分以上、より好ましくは1倍から2倍量の2水石膏を固体、または、2水石膏のスラリーとして補充することが望ましい。このようにすると、上記のフッ素の固定化処理を効果的に実施することができる。
【0025】
上記の場合において、第1固液分離槽で得られたフッ化カルシウムを濾過・乾燥すれば、少なくともフッ化水素製造用の原料として使用できるほか、鉄鋼の精錬用フラックスとして使用することができる。このように、回収したフッ化カルシウムを工業的に有益に利用することができる。
【0026】
上記可溶性カルシウムとして塩化カルシウム水溶液、または、塩化カルシウムを含有する排水を、第2反応槽で処理する硫酸イオンの当量以上、より好ましくは1倍から2倍量を使用することが望ましい。このようにすると、上記のフッ素の固定化処理を効果的に実施することができる。
【0027】
本発明をさらに具体的に説明する。
通常、高濃度のフッ素を含有する排水を処理するには、当該排水を生石灰、消石灰、塩化カルシウムなどの水溶性のカルシウム化合物と反応させて難溶性のフッ化カルシウムとして大部分のフッ素を固定化している。
このような固定化処理により得られたフッ化カルシウムは、粒径が非常に細かく、そのままでは濾過できないために、凝集剤を用いてフロックにした後、沈降分離・フィルタープレス濾過を行っている。そのため、水分が50〜70%もあり、産業用として再利用できないだけでなく、そのボリウムも大きいためにその処分が問題となっている。
【0028】
この問題を解決するために、適度の粒径に揃えた天然炭酸カルシウムとフッ化水素とを反応(式(1))させ、炭酸カルシウムの骨格をほぼ保ったままフッ化カルシウムを生成させる試みがなされている。その際、大部分の炭酸カルシウムが粒径を保持したままフッ化カルシウムとして回収されるが、発生する炭酸ガスが抜け難くさらなる反応の進行を阻害したり、炭酸ガスの発生に伴い微粒子のフッ化カルシウムフロックが生成したり、炭酸カルシウムの中心部が未反応の炭酸カルシウムが残るなどの問題がある。
【0029】
【化1】

【0030】
本発明における2水石膏を使用する方法は、単にフッ素アニオンと硫酸アニオンの塩交換(式(2))であるため、炭酸カルシウムを用いた時のような結晶が崩れて微細化する問題を発生することがなく、使用した2水石膏の粒径を保持したまま90%以上の純度のフッ化カルシウムを得ることができるため、沈降性、濾過性が良い。
【0031】
【化2】

【0032】
未反応で残る2水石膏は、フッ化水素製造用原料として使用する場合、予備乾燥で無水石膏となり、また、フッ化水素製造時に副生する固形分は無水石膏であるため、20%程度含まれていても全く問題とならない。
【0033】
本発明の最も重要なポイントは、第2反応槽の反応で粒径が30μm以上のフッ化カルシウムを含有する2水石膏の結晶を析出させることであり、そのためには第1反応槽の処理でより多くの、より好ましくは90%以上のフッ素を固定化するのが良い。
【0034】
第1反応槽におけるフッ素の固定化率が低過ぎると、第2反応槽の反応に供する排水中のフッ素濃度が高くなり、その場合、析出してくるフッ化カルシウムを含有する2水石膏の結晶が細かくなる。
【0035】
その実例として、50ppm、250ppm、500ppm、1000ppm、2500ppm、および、5000ppmのフッ素を含有する4.16%の硫酸ナトリウム水溶液をそれぞれ1000g準備し、攪拌しながら6.78%の塩化カルシウムを含有する水溶液500gを滴下・反応させて、フッ化カルシウムを含有する2水石膏の結晶を析出させた。ここで起こる反応は、式(3)、式(4)で示す反応である。
【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
反応後、生成した固形分の沈降性を確認後、濾過した。ろ液については、溶存しているフッ素濃度、および、硫酸イオン濃度を測定し、固形分は軽く水洗後、乾燥してその重量を秤量し、SEM(走査型電子顕微鏡)写真を撮って形状を比較した。その結果を表1、および、図3、図4に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
原液中のフッ素濃度に関係なく、Run1〜4のろ液中には、ほぼ10ppmのフッ素イオンと1500ppmの硫酸イオンが残留していた。これらの濃度は、フッ化カルシウム、および、2水石膏の水への溶解度に近い値であった。Run5、6で硫酸イオン濃度が増加しているのは、塩化カルシウム量が不足したため未反応の硫酸ナトリウムが増加したからであり、充分な量のカルシウムイオンが存在すれば、硫酸イオンは1500ppm程度になる。
【0041】
図3と図4を比較すれば分かるように、Run1〜4、すなわち処理前のフッ素濃度が1000ppm以下であれば、きれいな結晶成長が見られ、その粒径も30〜100μmと大きい(図3(a)、(b))。これに対して、フッ素濃度が2500ppm以上では、微細なフッ化カルシウムがより多く生成するために、生成する粒子は細かくなり、沈降性も低下した(図4(a)、(b))。表1に示すデータによれば、第1反応槽の処理でフッ素含量を1000ppm以下に落としてやれば、第2反応槽で生成するフッ化カルシウムを含有する2水石膏は、大きな粒径を保持できる。
【0042】
第2反応槽での反応を想定して、撹拌機を備えた50Lのポリエチレン製容器に1000ppmのフッ素を含有する4.16%の硫酸ナトリウム水溶液を20.0kg入れ、攪拌しながら定量ポンプにてほぼ1時間かけて6.78%の塩化カルシウムを含有する水溶液10.0kgを滴下して反応させた。滴下終了後10分間攪拌を続けたのち、遠心脱水機を用いて固液分離を行った。水分6.2%、フッ化カルシウム1.8%、2水石膏92.0%を含有する固形分1008gを回収した。ろ液中のフッ素濃度は10.8ppm、硫酸イオン濃度は1650ppmであった。
【0043】
第1反応槽での反応を想定して、フッ化ナトリウムを水に2.21%溶解させて10000ppmのフッ素含有排水を調製し、この調製排水1000gに対して、第2反応槽での反応を想定して調製した水分6.2%、フッ化カルシウム1.8%、2水石膏92.0%を含有する固形分を、式(2)に基づいて2水石膏ベースで調製排水中のフッ素に対して1.0当量、1.1倍当量、1.2倍当量、1.3倍当量、1.5倍当量加えて攪拌し、液中のフッ素イオン濃度の変化を測定した。その経時変化、および、最初のpHと240分後のpH値を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
液のpHは、式(2)の反応が進行するに従って硫酸イオンが溶け出すので、徐々に酸性サイドにシフトする。そのため、排水として放流する場合pHを調整する必要がある。そのpH調整は、第2反応槽で行うことが望ましい。
【0046】
同様に、排液のpHによるフッ素の固定化に及ぼす影響を調べるために、塩酸を用いてpH3.06に調製した10000ppmのフッ素含有排水(酸性排液)、水酸化ナトリウムを用いてpH9.95に調製した10000ppmのフッ素含有排水(アルカリ排液)について、1.0倍当量の2水石膏を加えて攪拌した場合の測定結果を表3に示す。両排水と比較するため、表2における1.0倍当量の値を中性排水として表3中に記載した。
【0047】
【表3】

【0048】
表3から分かるように、いずれの領域についても、初期の反応性の差は少なく、最初の15分間で72〜75%のフッ素が固定化されている。その後の反応性の差は大きく、酸性排水では30分以降はほとんど反応していない。中性、および、アルカリ排水では、時間と共に反応が進んでいる。
【0049】
表2の1.0倍当量を使用し一段目の反応時間を2時間とすると、90.5%のフッ素が固定化され、反応に使用した2水石膏中のフッ化カルシウムを考慮すると、約90wt%のフッ化カルシウムを含有する固形物が回収できる。排液中のフッ素含量が増加すれば、第1反応槽でのフッ素の固定化率が上昇し、30000ppmのフッ素含量の排液では1.0倍当量を使用した場合で、回収した固形物中のフッ化カルシウム含量は92〜94wt%と高くなる。逆に、3000ppmと薄い場合は、82〜86wt%と低くなる。
【0050】
本発明の概念的なフロー図として、不足する硫酸イオンを硫酸ナトリウム水溶液として補充する場合を図1に、2水石膏として補充する場合を図2に示す。
【0051】
第2固液分離槽からの排水中には、2水石膏の溶解度に相当する分の硫酸イオンが溶解しており、また、第1反応槽で第1固液分離槽から回収した固形分には2水石膏が5〜13wt%含有しており、この分の硫酸イオンが系外に持ち出されるために、硫酸イオンを補充する必要がある。
【0052】
その補充方法としては、水溶性の硫酸塩、例えば硫酸ナトリウム水溶液や硫酸ナトリウムを含有する排水を、排水の原水、第1反応槽、第1固液分離槽、第2反応槽、第2固液分離槽、および、主配管の途中のいずれのところで補充しても良いが、より好ましくは、図1に示すように第1固液分離槽後、第2反応槽へ流入するラインで行うのが良い。
【0053】
石膏で投入する場合、使用する硫酸カルシウムの形態は無水石膏、半水石膏、2水石膏の何れでも良いが、式(2)の反応がより速く、固化の問題がない2水石膏を使用することが望ましい。式(2)に示すフッ素の固定化反応が固−液反応であることと、硫酸カルシウムの形状を保持したまま反応するために、硫酸カルシウムの粒度が大きい場合には、内部までの反応が起こり難くなる。
【発明の効果】
【0054】
請求項1記載の発明によれば、フッ素含有排液からフッ素分の99%以上を有益なフッ化カルシウムとして回収できるとともに、処理液中のフッ素濃度を5〜15ppmに低下させることができる。
【0055】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載のフッ素の固定化処理を効果的に実施することができる。
【0056】
請求項3記載の発明によれば、請求項1記載のフッ素の固定化処理を効果的に実施することができる。
【0057】
請求項4記載の発明によれば、回収したフッ化カルシウムを工業的に有益に利用することができる。
【0058】
請求項5記載の発明によれば、請求項1記載のフッ素の固定化処理を効果的に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明によるフッ素回収処理システムの一例を示すもので、特に、請求項1、2、5記載の発明を実施するための概念的なフロー図である。
【図2】本発明によるフッ素回収処理システムの別の例を示すもので、特に、請求項1、3、5記載の発明を実施するための概念的なフロー図である。
【図3】処理前のフッ素濃度が1000ppm以下のフッ素含有排液から生成された固形分のSEM写真で、特に、(a)は250ppmフッ素含有排液から、(b)は1000ppmフッ素含有排液から生成された場合を示す。
【図4】処理前のフッ素濃度が2500ppm以上のフッ素含有排液から生成された固形分のSEM写真で、特に、(a)は2500ppmフッ素含有排液から、(b)は5000ppmフッ素含有排液から生成された場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
【0061】
各槽実容積100Lを有するパイロット設備を用いて図1のフローチャートに従い、排水としてフッ素21000ppmを含有するpH8.5のフッ素排ガス洗浄排水を20kg/hで第1反応槽に供給し、反応させた。5%の硫酸ナトリウムを3.52kg/hで第1固液分離槽と第2反応槽との配管中に供給し、10%の塩化カルシウムを14.7kg/hで第2反応槽に供給し反応させた。第2反応槽のpHが中性域(6.4−6.6)であったため中和剤は供給しなかった。第2固液分離槽で分離されたスラリーをチューブポンプにて15L/hで第1反応槽に送った。反応が安定した状態で、このスラリーは、固形分12.9wt%、固形分組成:2水石膏98.1wt%、フッ化カルシウム1.9wt%であった。第1固液分離槽で抜き出したスラリーは遠心脱水を行い、脱水母液は第1固液分離槽に戻した。脱水で回収した固形分はドライベースで平均938g/h回収でき、その組成はフッ化カルシウム92.6wt%、2水石膏7.4wt%であった。回収物は乾燥後、フッ化水素製造用原料に供した。
第2固液分離槽から排出される処理排水は、平均でpH6.5、フッ素9.2ppm、硫酸イオン1506ppm、カルシウム1755ppmであった。
本実施例において、フッ素の固定化率は99.9%で、使用した硫酸ナトリウム水溶液は排液中に溶けて損失する硫酸イオン分の1.5倍当量、塩化カルシウム水溶液は第2反応槽で処理する硫酸イオンの1.2倍当量であった。各槽における液の平均滞留時間は、第1反応槽で2.86h、第1固液分離槽で2.86h、第2反応槽で1.9h、第2固液分離槽で1.9hであった。
(実施例2)
【0062】
実施例1と同じ装置を用い、排水としてフッ素16000ppmを含有するpH6.5のフッ素含有排水を20kg/hで第1反応槽に供給し、反応させた。5%の硫酸ナトリウムを3.0kg/hで第1固液分離槽と第2反応槽との配管中に供給し、10%の塩化カルシウムを12.8kg/hで第2反応槽に供給し反応させた。第1固液分離槽のpHが5.2であったため、第2反応槽に中和剤として1%−水酸化ナトリウム水溶液を滴下して中和した。第2固液分離槽で分離されたスラリーをチューブポンプにて15L/hで第1反応槽に送った。反応が安定した状態で、このスラリーは、固形分9.9wt%、固形分組成:2水石膏97.9wt%、フッ化カルシウム2.1wt%であった。第1固液分離槽で抜き出したスラリーは遠心脱水を行い、脱水母液は第1固液分離槽に戻した。脱水で回収した固形分はドライベースで平均721g/h回収でき、その組成はフッ化カルシウム91.2wt%、2水石膏8.8wt%であった。回収物は乾燥後、フッ化水素製造用原料に供した。
第2固液分離槽から排出される処理排水は、平均でpH7.2、フッ素8.3ppm、硫酸イオン1317ppm、カルシウム2070ppmであった。
本実施例において、フッ素の固定化率は99.9%で、使用した硫酸ナトリウム水溶液は排液中に溶けて損失する硫酸イオン分の1.54倍当量、塩化カルシウム水溶液は第2反応槽で処理する硫酸イオンの1.37倍当量であった。各槽における液の平均滞留時間は、第1反応槽で2.86h、第1固液分離槽で2.86h、第2反応槽で2.0h、第2固液分離槽で2.0hであった。
(実施例3)
【0063】
実施例1と同じ装置を用い、排水としてフッ素7500ppmを含有するpH5.6のフッ素含有排水を20kg/hで第1反応槽に供給し、反応させた。5%の硫酸ナトリウムを2.5kg/hで第1固液分離槽と第2反応槽との配管中に供給し、10%の塩化カルシウムを7.0kg/hで第2反応槽に供給し反応させた。第1固液分離槽のpHが5.1であったため、第2反応槽に中和剤として1%−水酸化ナトリウム水溶液を滴下して中和した。第2固液分離槽で分離されたスラリーをチューブポンプにて10L/hで第1反応槽に送った。反応が安定した状態で、このスラリーは、固形分6.6wt%、固形分組成:2水石膏98.1wt%、フッ化カルシウム1.9wt%であった。第1固液分離槽で抜き出したスラリーは遠心脱水を行い、脱水母液は第1固液分離槽に戻した。脱水で回収した固形分はドライベースで平均334g/h回収でき、その組成はフッ化カルシウム86.2wt%、2水石膏13.8wt%であった。回収物は乾燥後、フッ化水素製造用原料に供した。
第2固液分離槽から排出される処理排水は、平均でpH6.9、フッ素11.2ppm、硫酸イオン1480ppm、カルシウム1890ppmであった。
本実施例において、フッ素の固定化率は99.9%で、使用した硫酸ナトリウム水溶液は排液中に溶けて損失する硫酸イオン分の1.35倍当量、塩化カルシウム水溶液は第2反応槽で処理する硫酸イオンの1.71倍当量であった。各槽における液の平均滞留時間は、第1反応槽で3.33h、第1固液分離槽で3.33h、第2反応槽で2.1h、第2固液分離槽で2.1hであった。
(実施例4)
【0064】
各槽実容積100Lを有するパイロット設備を用いて図2のフローチャートに従い、排水としてフッ素21000ppmを含有するpH8.5のフッ素排ガス洗浄排水を20kg/hで第1反応槽に供給し、反応させた。10%の2水石膏スラリー液を2.2kg/hで第1固液分離槽と第2反応槽との配管中に供給し、10%の塩化カルシウムを14.7kg/hで第2反応槽に供給し反応させた。第2反応槽のpHが中性域(6.4−6.6)であったため中和剤は供給しなかった。第2固液分離槽で分離されたスラリーをチューブポンプにて15L/hで第1反応槽に送った。その結果、実施例1とほぼ同じ結果を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有排水の処理において、第1反応槽、第1固液分離槽、第2反応槽、第2固液分離槽からなる装置を用い、第1反応槽において、第2反応槽で生成せしめられるフッ化カルシウムを含有する2水石膏を用いて、フッ素含有排水中のフッ素イオンと硫酸イオンの塩交換を行い、第1固液分離槽において、少なくともフッ化水素製造用原料として再資源化できる純度と粒径を有するフッ化カルシウムを回収し、さらに、第2反応槽において、前記塩交換反応により液中に溶け出した硫酸イオン、および、前記第1反応槽の処理で取り切れなかったフッ素イオンを可溶性のカルシウム塩と反応させることにより、フッ化カルシウムを含有する2水石膏を析出せしめ、析出せしめられたこのフッ化カルシウムを含有する2水石膏を前記第1反応槽の反応に供することを特徴とするフッ素の固定化方法。
【請求項2】
第2固液分離槽から排出される排液中に溶けて損失する硫酸イオン分に相当する量(硫酸カルシウムの溶解度分)以上、より好ましくは1倍から2倍量の硫酸塩溶液、特に硫酸ナトリウム水溶液、または、硫酸ナトリウムを含有する排液を、処理の対象となる排水中、または、第2反応槽までのいずれかにおいて添加することを特徴とする請求項1記載のフッ素の固定化方法。
【請求項3】
第2固液分離槽から排出される排液中に溶けて損失する分に相当する分以上、より好ましくは1倍から2倍量の2水石膏を固体、または、2水石膏のスラリーとして補充することを特徴とする請求項1記載のフッ素の固定化方法。
【請求項4】
請求項1において、第1固液分離槽で得られたフッ化カルシウムを濾過・乾燥してフッ化水素製造用の原料、および、鉄鋼の精錬用フラックスとして使用することを特徴とするフッ素リサイクル方法。
【請求項5】
請求項1の可溶性カルシウムとして塩化カルシウム水溶液、または、塩化カルシウムを含有する排水を、第2反応槽で処理する硫酸イオンの当量以上、より好ましくは1倍から2倍量を使用することを特徴とするフッ素の固定化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−194468(P2010−194468A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43114(P2009−43114)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 化学工学会第74年会(2009) 主催者名 社団法人 化学工学会 発行日 2009年(平成21年)2月18日 開催日 2009年(平成21年)3月18日〜20日
【出願人】(390024419)森田化学工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】