説明

フッ素化合物含有排ガスの処理方法

【課題】常温常圧の温和な処理条件で分解処理操作が行え、特殊な反応剤を用いる必要がなく、効率よくフッ素化合物を分解処理できるフッ素化合物含有排ガスの処理方法を得る。
【解決手段】半導体製造設備1などからのフッ素化合物を含む排ガスを、リアクター7に送り込む。リアクター7内には、リン酸アルミニウム、リン酸ホウ素、酸化チタン、酸化ケイ素などの触媒8が充填されている。リアクター7の内部に沿面放電、無声放電などによって低温プラズマを発生させ、排ガス中のCFなどのフッ素化合物を低温プラズマと触媒8の作用により分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体製造装置などから排出され、CF、CHF、SF、SiF、NFなどのフッ素化合物を含む排ガスを対象とし、この排ガス中のフッ素化合物を低温プラズマにより分解処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、このようなフッ素化合物を含む排ガス中のフッ素化合物を分解処理する方法として、プラズマを利用するものが提案されている。
例えば、特開2003−245520号公報には、半導体製造装置から排出されるフッ素化合物を含む排ガスを、過マンガン酸カリウム、四酸化オスミニウム、過酸化水素などの強酸化剤を含む酸化反応ガスとともに、分解チャンバーに送り込み、分解チャンバー内でプラズマによりフッ素化合物を活性化し、これを上記酸化反応ガスを反応させて分解する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、この先行発明での分解処理方法では、減圧下での熱プラズマによってフッ素化合物を活性化するものであるため、減圧とするための排気装置が必要となる。熱プラズマ発生のために多くの電力が必要である。さらに、分解チャンバーが高温となるのでこれを冷却する冷却手段が必要になる。強酸化剤を使用しなければならないなどの不都合があり、実用化に問題があった。
【特許文献1】特開2003−245520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
よって、本発明における課題は、常温常圧の温和な処理条件で分解処理操作が行え、特殊な反応剤を用いる必要がなく、効率よくフッ素化合物を分解処理できるフッ素化合物含有排ガスの処理方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、フッ素化合物を含む排ガスを、触媒の存在下、低温プラズマに接触させ、上記排ガス中のフッ素化合物を分解することを特徴とするフッ素化合物含有排ガスの処理方法である。
請求項2にかかる発明は、上記触媒が、リン酸アルミニウム、リン酸ホウ素、酸化チタン、酸化ケイ素のいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1記載のフッ素化合物含有排ガスの処理方法である。
請求項3にかかる発明は、上記低温プラズマが、沿面放電または無声放電によるものであることを特徴とする請求項1記載のフッ素化合物含有排ガスの処理方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、CFなどのフッ素化合物を常温常圧の温和な処理条件で分解処理操作が行え、特殊な反応剤を用いる必要がなく、効率よく分解処理することができ、処理設備費、運転費などを安価に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面に基づいて本発明を詳しく説明する。
図1は、本発明の処理方法に用いられる分解処理装置の一例を示すもので、図中符号1は、フッ素化合物を含む排ガスを排出する装置としての半導体製造装置を示す。
この半導体製造装置1からは、 CF、CHF、SF、SiF、NFなどのフッ素化合物を含む排ガスが排出される。
【0008】
この排ガスは、管2を経て流量調整器3に送られる。流量調整器3には、酸素または水蒸気(水)の供給源5からの酸素または水蒸気が管4から送り込まれるようになっている。排ガスと酸素または水蒸気との混合ガスは、ここで適切な流量に調整されて、管6からリアクター7に送り込まれる。
【0009】
この例のリアクター7は、沿面放電型低温プラズマリアクターであって、石英ガラスなどからなる円筒状の反応筒71と、この反応筒71の内壁面に設けられたステンレス鋼線など金属線からなるコイルからなる内部電極72と、上記反応筒71の外壁面に巻き付けられたアルミニウム箔などの金属箔からなる外部電極73を備えている。
内部電極72をなすコイルには、巻密度に最適な値があり、これを適切に選ぶことにより、空間電荷効果によるプラズマ密度の減少を抑えるようにすることが好ましい。
また、反応筒71の内部空間内には、触媒8が充填されている。
【0010】
この触媒8には、リン酸アルミニウム、リン酸ホウ素、酸化チタン、酸化ケイ素などのいずれか1種以上からなるもので、これら化合物を成形した粒径0.5〜20mm程度の粒状体が用いられる。これらのなかでも、酸化チタンと酸化ケイ素とを複合化した触媒、例えば新東Vセラックス社製、「HQA12」(商標)などが高い分解性能が得られることから好ましい。
この触媒8は、反応筒71内に排ガスの流れをさほど妨げない程度に粗に充填されている。
【0011】
また、上記内部電極72と外部電極73には、交流電源74が接続されており、両電極72、73に電圧5〜30kV、好ましくは15〜25kVで、周波数10Hz〜100kHzの交流電流が印加されるようになっている。
反応筒71の一端は、ガス流入口75となって管6に接続されており、他端はガス流出口76となっている。
【0012】
このリアクター7にあっては、交流電源74から電圧5〜30kVで、周波数10Hz〜100kHzの交流電流が、その内部電極72と外部電極73と間に印加され、これにより反応筒71内に低温プラズマが発生する。
ここでの低温プラズマは、電子とイオン、中性分子が熱平衡状態にないプラズマであって、電子温度が8000〜40000℃に達するもののガス温度はほぼ常温に抑えることができる利点を有するものである。
【0013】
この状態として、管6を経てガス流入口75から排ガスをリアクター7に導入し、排ガス中のフッ素化合物の分解を行う。
分解反応時の温度は、20〜200℃、好ましくは20〜50℃とされ、反応による温度上昇は、室温付近の反応で2〜5℃である。
反応筒71内の圧力は、1気圧程度でよい。
【0014】
リアクター7に流入する排ガス中のフッ素化合物の濃度は、200ppm〜1%の範囲とされ、低濃度の方がフッ素化合物の分解率が高くなる。また、排ガスの流速が早くなるとフッ素化合物の分解率が低下する傾向があるので、分解率を高めたい場合には排ガスの流速を遅くすることが好ましい。
大容量の排ガスを処理しようとする場合には、リアクター7を複数基並列に接続してモジュールとしてやればよい。
【0015】
リアクター7の反応筒71内では、ここで発生している低温プラズマと触媒8との作用により、排ガス中のフッ素化合物が排ガスに添加された酸素または水の酸素分子によって酸化され、分解され、F、HF、CO、CO、COFなどの分解生成物が生成する。
この分解処理を受けた排ガスは、ついでガス流出口76から分解生成物固定装置9に送られて、分解生成物が安定で無害な化合物として固定化される。
分解生成物固定装置9からのフッ素化合物を含まないガスは、ブロアー10を通り、系外に排出される。
【0016】
このような分解処理方法によれば、排ガス中のフッ素化合物が、触媒と低温プラズマの作用により、酸素または水の酸素分子によって酸化されて、効率良く分解される。特に、分解が困難とされているCFも良好に分解できる。
また、低温プラズマによるものであるので、プラズマ発生のための必要な電力が熱プラズマに比べて少なくて済む。さらに、低温プラズマでの反応であるので、反応条件が常温常圧でよく、温和な操作条件で運転でき、特別の設備を必要とすることもない。
また、特殊な反応剤等を消費することがないので、運転費用が嵩むこともない。
【0017】
また、上述の実施形態では、リアクター7として、沿面放電型のものを用いているが、これに限らず、パルスコロナ型、無声放電型、パックトベット型などリアクターを用いることができ、ながでも沿面放電型および無声放電型のリアクターが良好な分解効果が得られるので好ましい。
さらに、上述の実施形態では、排ガスを連続的にリアクター7に送り込んで分解処理を行う連続式となっているが、バッチ式でもよい。
【0018】
また、触媒8の1種として、強誘電体のペレットを用い、これを反応筒71に充填して分解処理を行ってもよく、同様の効果を得ることができる。強誘電体としては、室温での誘電率が1000〜15000、好ましくは3000〜10000のもの、例えばチタン酸バリウム、チタン酸鉛などが用いられる。
この強誘電体を用いる場合には、両電極72、73への印加電圧を3〜10kV、好ましくは5〜8kVとし、先の例のものよりも低くする必要がある。これは、反応筒71内での伝導度が高くなってしまい、ブレークダウン現象が生じ、反応筒71内に部分放電が生じにくくなるためである。
【0019】
以下、具体例を示す。
図1に示したリアクタ7を用いて、CFの分解を行った。反応筒71には、外径15mm、内径13mm、長さ25mmの石英ガラス管を用いた。内部電極72には、径0.45mmのステンレス鋼線を巻径13mmで、長さ1cm当たりの巻回数1.2回で巻回したコイルを用い、反応筒71内に配置した。
外部電極73には、アルミニウム箔を用い、反応筒72の外周壁に巻き付けた。
【0020】
交流電源74には、周波数50Hz、可変電圧型ネオントランスを用い、電力消費量はオシロスコープで測定した。
触媒8には、リン酸アルミニウムのペレットと、酸化チタン−酸化ケイ素複合体(HQA12)の2種を用いた。
フッ素化合物を含む排ガスとして、CFが200ppm含まれる窒素ガスを用い、これを流量0.1リットル/分で反応筒に流入した。
【0021】
反応筒71から流出した分解ガスをフーリエ変換赤外分光装置により定量分析し、CFの転化率(モル%)を求めた。
高周波電源74からの電圧、触媒8の有無、その種類を変化させて、CF4の転化率の変化を求めた。
結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1の結果から、印加電圧を高めると、CFの転化率が向上することがわかる。また、触媒8として、酸化チタン−酸化ケイ素複合体(HQA12)を用いると、転化率が大幅に向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明で用いられる分解装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0025】
7・・・リアクター、8・・・触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化合物を含む排ガスを、触媒の存在下、低温プラズマに接触させ、上記排ガス中のフッ素化合物を分解することを特徴とするフッ素化合物含有排ガスの処理方法。
【請求項2】
上記触媒が、リン酸アルミニウム、リン酸ホウ素、酸化チタン、酸化ケイ素のいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1記載のフッ素化合物含有排ガスの処理方法。
【請求項3】
上記低温プラズマが、沿面放電または無声放電によるものであることを特徴とする請求項1記載のフッ素化合物含有排ガスの処理方法。

【図1】
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