説明

フッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体が面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体、及びその製造方法

【課題】大きなアスペクト比を有し、ベルフルオル基のフッ素原子に由来するユニークな性質、例えば、生理活性や撥水/撥油性を有するチューブ状のナノサイズの自己集積体が、溶液の表面に自己会合して面方向に配向したナノチューブ状集積体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】2,5−ビス[4’−(ペルフルオロヘキセ−1−ニロキシ)フェニル]−11,14−ジドデシル−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネンなどの特定構造を有するフッ素基含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン誘導体の少なくとも1種を含有してなる溶液中に、当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒の蒸気と接触させることにより、面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体を形成させる方法、及び当該方法により製造される自己集積体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明の一般式(I)で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体が面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノスケールの分子集合体は、基礎科学ばかりでなく、分子デバイスなどへの応用的側面からも非常に注目されている。これらの分子集合体は、構成分子の特性や構造を反映したユニークな機能を発現することが期待されている。超分子化学はこれらのナノスケール構造体へのアプローチとして有力な手法であり、高度な高次構造を持つ分子集合体を構築する試みが盛んになされている。
一方、これらのナノスケールの構造体のうち、チューブ状物質に対する関心は、カーボンナノチューブの発見以来益々高まっている。例えば、カーボンナノチューブを用いた導電性偏光フィルム(特許文献1参照)、電極間の接続用の電子デバイス(特許文献2参照)、分散膜として発光体として用いるもの(特許文献3参照)などの電子デバイスとしてだけでなく、水素の貯蔵に使用するもの(特許文献4参照)のように吸着材料としての利用や、ピストンやコンロッドの材料として使用するもの(特許文献5及び6参照)などのように機械部品の材料として利用するなど広い分野での応用が期待されている。カーボンナノチューブは炭素原子で構成されるグラフェンシート構造が筒状に閉じたものであり、グラファイト材料をレーザー蒸発法やアーク放電法等により蒸発させ、金属触媒の存在下に凝縮させ製造されるが、触媒残査やアモルファスカーボンを含有するなどの不純物の存在や、バンドルの形成や密な絡み合いにより個々のチューブを取り出すことが困難であるなど、加工成形性に関して問題が多い。また、無機材料から構成されるナノスケールのチューブ状物質も多数知られているが、合成が容易で形状や機能を自由に設計でき、かつ加工性に富んだ、有機分子に基づく機能性ナノチューブの開発が待たれていた。
実際、低分子化合物の自己集積によるチューブ状の超分子集積体の形成は既に知られており、例えば、ある種の両親媒性物質(脂質、オリゴペプチド、ポリマー等)を用いることにより、繊維状またはその他の形状の集積体が生成することが報告されている。
【0003】
一方、フッ素化されたカーボンナノチューブは水素吸蔵能の高さから燃料電池用の水素吸蔵体として、また、潤滑性が良好なことから摺動材の原料として、あるいはリチウム一次電池の正極材に用いて優れた性質を発揮することが期待されることから、高い関心を集めている。フッ素化されたカーボンナノチューブの製造法としては、グラファイト材料をレーザー蒸発法やアーク放電法等により蒸発させ、金属触媒の存在下に凝縮させ製造された、上記のカーボンナノチューブをF、ClF、BrF、IF、HF、XeF、XeF、XeF等の雰囲気中で100℃〜600℃の高温で処理する方法が知られている(特許文献7〜12参照)が、高温で有毒ガスを取り扱う必要があり、装置も複雑で特殊なものとなり実用的ではない。また、特許文献13には、フッ素のガス圧を0.5〜1atmに調整することにより室温〜250℃の温度でカーボンナノチューブのフッ素化を行う方法が開示されているが、この方法で製造したフッ素化カーボンナノチューブは600℃に加熱すると取り込まれたフッ素をガスとして放出してしまうため、機能材料としては適さない。特許文献14には、ペルフルオロアゾアルカンのペルフオロアルカン溶液を用いてカーボンナノチューブを200nm以下の波長を有する紫外光照射下でフッ素化する方法が提案されているが、不安定な原料や特殊な溶媒を使う必要があり、さらに、低圧水銀灯、高圧水銀灯、ArFまたはXeClエキシマレーザー、またはエキシマランプ等の特殊な光源を使用するため経済的ではない。
以上のように、従来のカーボンナノチューブをフッ素化する技術はカーボンナノチューブを直接フッ素化するものであり、本発明のようにフッ素を含有する化合物の自己集積化によりフッ素化されたナノチューブを得る方法は知られていない。
【0004】
また、従来のカーボンナノチューブについては、その配向制御方法に関する検討が数多く行われており、例えば、カーボンナノチューブを基板上に設けたグルーブに並べる方法(特許文献15及び16参照)、カーボンナノチューブをゼラチン等の透明バインダーに分散させた後、基板上でワイヤーバー方式の塗布作業を行い整列させる方法(特許文献3参照)、基板上でカーボンナノチューブを基板に平行に配列させて製造する方法(特許文献17、及び非特許文献1参照)、Si面を主表面としたSiC基板にステップバンチングよりなる面内に延びるエッジを形成した後、真空下で主表面を熱処理して、この面に沿う方向に配向するカーボンナノチューブを形成する方法(特許文献18参照)、プラズマCVD法等を用いて基板に垂直方向に成長させたカーボンナノチューブを一方向から機械的応力を加えて傾倒させる方法(特許文献2及び特許文献19参照)、カーボンナノチューブを高分子中に分散して延伸、電場、磁場等の配向手段を用いる方法(特許文献1、及び特許文献20〜25参照)などが挙げられる。しかしながらこれらの方法は、いずれも高度な基板の加工技術を必要としたり、複雑な工程を必要としたりする上、配向したカーボンナノチューブの単独膜を得ようとすると、更に複雑な操作が要求されるかまたは樹脂等との複合材の製造方法であり、その用途が限られてしまうといった問題があった。フッ素化されたナノチューブの配向方法または配向したフッ素化ナノチューブの製造方法は知られていない。
【0005】
しかしながらこれらの自己集積体は、疎水性効果や分子内または分子間の水素結合等を介して構築されたものであり、本発明のようにπ−πスタッキングによる分子間相互作用を利用したものは本発明者らが先に提案したもの以外知られていない。(特許文献26及び27、並びに非特許文献2及び3参照)。
ヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)分子は、グラファイトの部分構造であり、長鎖アルキル基などを導入することにより安定なディスコティック液晶相を形成する。しかしながら、HBCに関連する研究は、単独の分子又は液晶状態に関するものに限られていた。例えば、ヘキサベンゾコロネン誘導体に関するものとしては、ヘキサベンゾコロネンを有機半導体として用いるもの(特許文献28〜30参照)、コロネンやベンゾコロネンなどの液晶性化合物にパーフルオロカーボン基を導入して分子配向性を制御する方法(特許文献31参照)などが報告されている。しかしながら、HBC誘導体をモチーフとしたナノ構造体の例は殆どない。
【0006】
【特許文献1】特開2006−285068号公報
【特許文献2】特開2006−228818号公報
【特許文献3】特開2006−27961号公報
【特許文献4】特開2005−137970号公報
【特許文献5】特開2006−250280号公報
【特許文献6】特開2006−266448号公報
【特許文献7】特開2003−238133号公報
【特許文献8】特開2004−284852号公報
【特許文献9】特開2004−313906号公報
【特許文献10】特開2005−189322号公報
【特許文献11】特開2005−219950号公報
【特許文献12】特開2006−240938号公報
【特許文献13】特開2005−273070号公報
【特許文献14】特開2005−200272号公報
【特許文献15】特開2005−75711号公報
【特許文献16】特開2005−169614号公報
【特許文献17】特開2006−026533号公報
【特許文献18】特開2004−231464号公報
【特許文献19】特開2006−11296号公報
【特許文献20】特開2002−362457号公報
【特許文献21】特開2003−3194号公報
【特許文献22】特開2004−016858号公報
【特許文献23】特開2004−087714号公報
【特許文献24】特開2005−154950号公報
【特許文献25】特開2005−161599号公報
【特許文献26】特開2005−220046号公報
【特許文献27】特開2005−220047号公報
【特許文献28】特開2004−158709号公報
【特許文献29】特開2005−79163号公報
【特許文献30】特開2006−41495号公報
【特許文献31】特開2004−35617号公報
【非特許文献1】Y. Huang et al., Science 291, 630. (2001)
【非特許文献2】Science, 304, 1481-1483 (2004),
【非特許文献3】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 10801-10806 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、大きなアスペクト比を有し、ベルフルオル基のフッ素原子に由来するユニークな性質、例えば、生理活性や撥水/撥油性を有するチューブ状のナノサイズの自己集積体が、溶液の表面に自己会合して面方向に配向したナノチューブ状集積体、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これまで報告されているナノ構造体の殆どは、脂質のような両親媒性化合物により構成されているため、構造体が得られても特筆すべき性質を示さない。これに対して本発明者等は、ナノ構造体構築の基本要素として、グラファイトの部分構造であるヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)に着目し、HBC誘導体をモチーフとしたナノ構造体の開発を検討してきた。本発明者等は、HBC骨格に導入する親水性置換基と疎水性置換基のバランスを精密に設計し、新規な両親媒性HBC誘導体を合成し、その会合挙動を検討した結果、当該誘導体が特定の溶媒中で自己会合してゲルを形成すること、および、当該ゲル中、太さが極めて均一なアスペクト比の高いナノチューブ状集積体やリボン状ナノ構造体を形成することを、既に見出している(特許文献26及び27、並びに非特許文献2及び3参照)。本発明者らは、このようにして得られるナノ構造体の特性を更に改善するために検討してきた。一方、ベルフルオル基を含有する有機化合物はフッ素原子に由来するユニークな性質の発現が期待されることから、関心を集めており、とりわけ、生理活性と撥水/撥油性が注目されている。ナノ構造体にフッ素原子を導入することができればナノ構造体表面の潤滑性、平滑性および安定性等の大きな改善が期待できることから、本発明者らは上記の研究をさらに進めた結果、HBCの骨格置換基としてベルフルオル基を導入した誘導体を合成することに成功し、該誘導体が特定の条件下で自己会合して面方向に配向したナノチューブ状集積体を形成することを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明は、次の一般式(I)
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、Rはそれぞれ独立して、炭素数4〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、Rはそれぞれ独立して次の一般式(II)
−C−O−R (II)
(式中、Rは炭素数4〜30のパーフルオロアルケニル基を示し、−C−で示されるベンゼン環上の置換位置はオルト位、メタ位、又はパラ位のいずれかであることを示す。)
で表される基を示し、Xはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキニル基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいターピリジル基、又は置換基を有していてもよいポルフィリニル基を示し、アルキニル基、ピリジル基、ターピリジル基、及びポルフィリニル基の置換基は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、及び炭素数6〜20のアリール基からなる群から選ばれる置換基を示す。)
で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体の少なくとも1種を含有してなる溶液に、当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒の蒸気を接触させることにより、当該溶液の表面に前記した一般式(I)で表される化合物が面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体を形成させる方法に関する。
また、本発明は、前記した本発明の方法で製造し得る一般式(I)で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体が面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体に関する。より詳細には、本発明は、前記した一般式(I)で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体の少なくとも1種を含有してなる溶液中に、当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒の蒸気と接触させることにより、当該溶液の表面に前記した一般式(I)で表される化合物が面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体に関する。
【0012】
本発明の態様をより詳細に説明すれば、次のとおりとなる。
(1)前記した一般式(I)で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体の少なくとも1種を含有してなる溶液に、当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒の蒸気を接触させることにより、当該溶液の表面に前記した一般式(I)で表される化合物が面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体を形成させる方法。
(2)一般式(I)で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体を溶解する溶媒が、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、シクロヘキサン、及びメチルシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種又は2種以上である前記(1)に記載の方法。
(3)溶媒が、テトラヒドロフランである前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒が、一般式(I)で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体の貧溶媒である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)貧溶媒が、炭素数5〜12の炭化水素系溶媒である前記(4)に記載の方法。
(6)前記した一般式(I)におけるRの炭素数4〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基が、tert−ブチル基である前記(1)〜(5)に記載の方法。
(7)前記した一般式(I)におけるRの炭素数4〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基が、炭素数10〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基である前記(1)〜(6)に記載の方法。
(8)前記した一般式(I)のRにおけるRが、炭素数4〜10の1−パーフルオロアルケニル基である前記(1)〜(7)に記載の方法。
(9)一般式(I)におけるXが、水素原子又はハロゲン原子である前記(1)〜(8)に記載の方法。
(10)前記(1)〜(9)のいずれかの方法により製造し得る、前記した一般式(I)で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体が面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体。
(11)前記した一般式(I)で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体の少なくとも1種を含有してなる溶液中に、当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒の蒸気と接触させることにより、当該溶液の表面に前記した一般式(I)で表される化合物が面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体。
【0013】
本発明の一般式(I)で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体は、ヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)のπ電子によるπ−πスタッキング作用による分子間相互作用を利用した自己集積性の分子であり、分子中に嵩高いアルキル基や長鎖アルキル基のような疎水性の基を有し、かつ分子中にフッ素原子を多数有するパーフルオロアルケニルオキシ基を有することを特徴とするものである。このような分子デザインにより、疎水性を保ちながら、π−πスタッキング作用による自己集積性を有し、かつパーフルオル基によるフッ素化合物の特性を有する極めて特異的な性質を有するナノスケールの自己集積体を形成させることができる。
したがって、本発明のフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体は、前記した一般式(I)で表される化学構造式に限定されるものではなく、分子中にヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)骨格を有し、嵩高いアルキル基や長鎖アルキル基のような疎水性の基を有し、かつフッ素原子を多数有するパーフルオロ基を有しており、これによりπ−πスタッキング作用による自己集積性を有するものであることを特徴とするものであり、これらの特徴を備えているものは本発明のフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体に包含されることになる。
【0014】
本発明の一般式(I)におけるRの炭素数4〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、疎水性の大きな基が好ましく、特に炭素数の小さなアルキル基では分岐状の嵩高い基が好ましい。好ましいアルキル基としては、tert−ブチル基などの嵩高い基や、デシル基やドデシル基などの炭素数5〜20、好ましくは10〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。また、一般式(I)における2個のR基は、同じであっても異なっていてもよいが、製造上の簡便さからは同じ基であるのが好ましい。
本発明の一般式(I)におけるRの一般式(II)で表される基としては、炭素数4〜30のパーフルオロアルケニル基を有するパーフルオロアルケニルオキシフェニル基が挙げられる。パーフルオロアルケニルオキシ基のフェニル基上の置換位置としては、オルト位、メタ位、又はパラ位のいずれであってもよいが、好ましい位置としてはパラ位が挙げられる。また、パーフルオロアルケニル基としては、炭素数4〜30、好ましくは4〜10の直鎖状又は分岐状の、好ましくは直鎖状のパーフルオロアルケニル基が挙げらる。これらのパーフルオロアルケニル基の炭素−炭素二重結合の数や位置も特に制限はないが、好ましくは1位に1個の炭素−炭素二重結合を有する1−パーフルオロアルケニル基が挙げられる。好ましいパーフルオロアルケニル基としては、次の一般式(III)、
−CF=CF−(CF−CF (III)
(式中、nは1〜22、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜7の整数を示す。)
で表される1−パーフルオロアルケニル基が挙げられる。また、一般式(I)における2個のR基は、同じであっても異なっていてもよいが、製造上の簡便さからは同じ基であるのが好ましい。
【0015】
本発明の一般式(I)におけるXのハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子などのハロゲン原子が挙げられる。炭素数2〜4のアルキニル基としてはエチニル基などの炭素数2〜4の直鎖状又は分岐状のアルキニル基が挙げられる。ピリジル基としては、2−ピリジル基、3−ピリジル基、又は4−ピリジル基のいずれであってもよい。ターピリジル基としては、3個のピリジンが結合したターピリジンから誘導される1価の基であればよいが、好ましくは中央部のピリジル基からなるジピリジルピリジル基が好ましい。また、ポルフィリニル基としては、ポルフィリンから誘導される1価の基であればよいが、好ましくはポルフィリンのピロール環に結合する基が挙げられる。
これらのアルキニル基、ピリジル基、又はポルフィリニル基は、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基などの炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基;及び、フェニル基、ナフチル基などの炭素数6〜20の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基からなる群から選ばれる1個以上の置換基で置換されていてもよい。
また、一般式(I)における2個のX基は、同じであっても異なっていてもよいが、製造上の簡便さからは同じ基であるのが好ましい。
【0016】
本発明のフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体は、特許文献26及び27に記載されている方法に準じて製造することができる。より具体的な本発明の化合物の製造方法を、一般式(I)におけるRがドデシル基(−C1225基)であって、Rが−4−C−O−CF=CF−C基であって、Xが水素原子である場合の化合物を例にして説明する。この製造例を次の化学反応式で示す。
【0017】
【化4】

【0018】
まず、化合物1を銅触媒の存在下でアセチレン誘導体と反応させてビフェニルアセチレン誘導体2を製造する。
4−ドデシルブロモベンゼン3をリチウム化した後、これを1,4−ジメチルピペラジン−2,3−ジオンと反応させてジケトン体4として、これをジベンシルケトンと反応させてテトラフェニルシクロペンタジエノン誘導体5を製造し、次いで、これを先に製造したビフェニルアセチレン誘導体2と反応させてヘキサフェニルベンゼン誘導体6とする。
次いで、ビフェニル基の末端のメトキシ保護基を加水分解して遊離の水酸基誘導体7とし、これに塩基の存在下にパーフルオロアルキレンと反応させてパーフルオロアルケニルオキシ誘導体8とし、これを鉄触媒の存在下に環化して目的の化合物9を製造することができる。
ここで説明した方法は例であり、本発明のフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体の製造方法はこの方法に限定されるものではなく、これに準じた各種の方法により製造することができる。
【0019】
次に、このようにして製造された本発明のフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体(以下、単にHBC誘導体という。)は、本発明のHBC誘導体を溶媒中に入れ、これを加温して溶解させる。得られた溶液を超音波ミキサーで懸濁となるまで混合撹拌し、これを室温で熟成させることにより本発明の自己集積体を製造することができる。しかしながら、本発明のフッ素化されたナノチューブは大きなアスペクト比を有する特異的な構造であり、効果的にその特性を引き出すためには一方向に配向していることが好ましいが、混合撹拌による方法では一方向への配列させることは困難であった。これを一方向に配列させるために、本発明は、このような強制的な混合撹拌ではなく、2種以上の溶媒を使用して溶液の表面により面方向に整列した自己集積体を製造する方法を提供するものである。
本発明の自己集積体の製造方法は、まず、本発明のHBC誘導体を溶媒中に入れ、必要によりこれを加温して溶解させる。次いで、この溶液を静置させて、当該溶液の表面に、当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒の蒸気を接触させて、当該溶液の表面に本発明のHBC誘導体が面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体を形成させることからなる。本発明の好ましい方法を例示すれば、本発明のHBC誘導体の溶液を室温まで冷却し、この溶液をガラス容器ごと、当該ガラス容器より大きい第二のガラス容器に蓋をせずに入れ、外側の第二のガラス容器に当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒、好ましくは貧溶媒を入れる。そして、外側の第二のガラス容器を密栓し、当該本発明のHBC誘導体の溶液に貧溶媒の蒸気を拡散させて接触させ、そのままの状態で一週間程度、室温で熟成させると、内側の液面に黄色透明なフィルムが生成する。この方法の概要を模式的にして図1に示す。まず、本発明のHBC誘導体の溶液の入った小さなガラス容器を大きなガラス容器に入れ、大きなガラス容器に本発明のHBC誘導体の貧溶媒を入れて、当該貧溶媒の蒸気を溶液の表面に接触させる。これにより溶液表面に自己集積体が整列して形成される。
【0020】
本発明のHBC誘導体を溶解させる溶液の溶媒としては、加温して本発明のHBC誘導体を溶解することができるものであればよく、好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどが挙げられる。より好ましい溶媒としてはテトラヒドロフランが挙げられる。使用する溶媒の量としては、加温して溶解できる程度の量であって、室温においても自己集積体が形成されない程度であればよく、例えば、溶媒1mLに対して重量で本発明のHBC誘導体が、0.1〜5mg、好ましくは0.5〜5mg、0.5〜2mg程度が挙げられる。
加温する温度としては、溶解して透明な溶液となる温度であって、溶媒の沸点以下であればよい。好ましい温度としては、35〜80℃、40〜70℃程度が挙げられる。例えば、溶媒としてジクロロメタンやテトラヒドロフラン(THF)を使用した場合には、40℃〜66℃程度が好ましい。
当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒としては、本発明のHBC誘導体を充分に溶解することができない貧溶媒が好ましい。このような貧溶媒としては、例えば、n−ヘキサンなどの炭素数5〜12の炭化水素系溶媒、好ましくは炭素数5〜12、より好ましくは炭素数5〜8の脂肪族飽和炭化水素系の溶媒が挙げられる。
静置させておく温度(熟成温度)としては室温が好ましいが、これに限定されるものではなく、使用する溶媒の溶解度や蒸気圧に応じて冷却や加温してもよい。
静置させておく時間(熟成時間)としては、溶液の表面に十分な自己集積体が形成されるまでであり、特に制限はないが、通常は約1週間程度でフィルムが生成する。
【0021】
このようにして得られた本発明の自己集積体の電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)写真を図2に図面に代わる写真として示す。図2の左側も右側も50000倍の写真でありバーは100nmを示す。また、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図3に図面に代わる写真として示す。図3の左側のバーは100nmを示し、右側のバーは50nmを示す。
これらの観察の結果、本発明の自己集積体は、アスペクト比が大きく線径分布の狭いナノサイズのチューブとして生成していたことがわかった。このチューブには、らせん構造の痕跡があり、湾曲しているものも観察されたが、やや剛直なチューブであって、この構造体が、π−π相互作用とアルキル基間の相互作用による二分子膜様の構造の形成、それが2次元的に広がり、溶液の表面により面方向に整列した自己集積体を形成し、更に、それがコイル状に密にパッキングしてチューブ構造を形成するといった、階層的な自己組織化により二層構造のチューブが作り出されており、パーフルオルアルキル鎖はチューブの内外層の表面に存在していることを示していた。これらの結果は赤外吸収スペクトルによっても示される。
【0022】
本発明の自己集積体はパーフルオルアルキル鎖を有するものであり、面方向に整列しているだけでなく、超撥水性を示す。
したがって、本発明の自己集積体は、π−πスタッキング作用と疎水性のアルキル基間の相互作用によるナノスケールの構造体であり、水素ガスの吸蔵剤や触媒担体などの吸着材料として適しているし、また、ナノ材料としてのセンサー、無機有機複合材料の鋳型、分子導線などナノデバイスへの応用、非線形光学材料、リチウム電池の電極、太陽電池材料、燃料電池用材料等への適用も可能であるばかりでなく、パーフルオロアルキル基が導入されていることから超撥水性を示し、フィルム状に成形することにより、屋根、アンテナ、ケーブル、鉄塔、土木機械用工具および冷凍用倉庫内棚等への異物の付着防止剤や着雪防止剤として、車輌用、船舶用、航空機用および建築用等の内外のウィンドウガラス、ミラーガラス、装飾用ガラス、各種建築材および建裝材等の撥水撥油防汚性膜として、さらにはプラスチックフィルム、プラスチック成形体、ガラス、セラミック、金属、紙、繊維などの表面処理剤、海洋生物付着防止剤などへの適用にも適した材料となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の化合物の基本骨格であるHBCは、グラファイトの断片と見なされる本来極めて疎水的な分子であるが、ベルフルオル基を導入することにより、疎水効果と分子面の重なりによるπ−πスタッキングの共同効果を介して自己集積し、ナノスケールのチューブ状またはファイバー状の集積体を形成することができる。特に、このようにして形成されたナノチューブは、構造的にグラファイトから生成するナノチューブとの関連性からこれらから誘導されるナノチューブと同等な性質を有するだけでなく、HBC特有のπ電子の重なりを通じたスムーズなキャリアの移動など、従来の脂質等からのナノチューブには無い電子的特性が期待され、また、金属等の不純物を含まず、アスペクト比が大きく太さが均一であるなどの特徴を兼ね備えているほか、さらに本発明のHBC誘導体はフッ素原子に由来する生理活性や撥水撥油性を兼ね備えたものである。
また、本発明によれば、フッ素化されたナノチューブをフッ素ガス等の有害ガスを用いることなく、穏和な条件で容易に製造することができ、フッ素の含有量も自由に設計できる利点がある。また、製造されたフッ素化ナノチューブの懸濁液を所望の表面にキャストすることにより、超撥水表面を容易に製造することができる。
さらに、本発明の自己集積体は、面方向に一方向に配向しており、前記してきた自己集積体の有する特性をより効果的に引き出すことができる。
【0024】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
以下の実施例や比較例においては、特に断らない限り試薬および溶剤類は市販品をそのまま用いた。
H−NMR及び13C−NMRスペクトルは、JEOL NM-Excalibur500型を用い、重水素化された溶媒に残存する非重水素化溶媒を内部標準として、それぞれ500MHz及び125MHzで測定した。
赤外吸収スペクトルは紫外可視近赤外分光光度計JASCO-V570DSを用いて測定した。
質量分析はApplied Biosystems BioSpectrometry Workstation model Voyager-DE STR spectrometerを用い、dithranolをマトリックスとして測定した。
走査型電子顕微鏡写真は、JEOL JSM-6700F型FE-SEMを用い、5kVで撮影した。
透過型電子顕微鏡写真は、Philips model Tecnai F20 electron microscopeを用い120kVで撮影した。
【実施例1】
【0025】
2,5−ビス[4’−(ペルフルオロヘキセ−1−ニロキシ)フェニル]−11,14−ジドデシル−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン(9)(前記した一般式(I)におけるRがドデシル基(−C1225基)であって、Rが−4−C−O−CF=CF−C基であって、Xが水素原子である場合の化合物)の製造
【0026】
(1)1,2−ビス(4’−メトキシ−4−ビフェニリル)エチン(2)の製造
4−ブロモ−4−メトキシビフェニル(1)(2.7g, 10.12mmol)、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)(9.2g, 60.43mmol)、PdCl(PPh (425mg, 0.61mmol)、及びヨウ化第1銅(CuI)(191mg, 1.00mmol)をベンゼン(20 ml)に溶解し、トリメチルシリルアセチレン(0.71ml, 496mg, 5.05mmol)と水(70μl)を連続的に添加した。この混合溶液を60℃に加熱して24時間保ち、生成した沈殿物をろ過して分離し氷冷したジクロルメタンで洗浄した後、トルエンから再結晶して目的の1,2−ビス(4’−メトキシ−4−ビフェニリル)エチン(2)をうす茶色の結晶として得た。
収量 : 1.4g(3.51mmol)、収率:69%。
H−NMR (500MHz,THF−d) : δ
7.56 (t, J = 8.5 Hz, 8H), 7.50 (d, J = 8.5 Hz, 4H),
6.93 (d, J = 8.5 Hz, 4H), 3.76 (s, 6H).
MALDI−TOF−MS: C2822 として
計算値[M+H]: m/z = 390.47;
測定値 : 390.13.
【0027】
(2)3,4−ジ(4−ドデシルフェニル)−2,5−ジフェニルシクロペンタジエン−1−オン(5)の製造
1,2−ビス−(4−ドデシルフェニル)−1,2−ジケトン(4)は文献(S. Ito et al., Chem. Eur. J. 6, 4327 (2000)) に記載の方法により製造した。
1,2−ビス− (4−ドデシルフェニル) −1,2−ジケトン(4)(1.5g, 2.75mmol)とジベンジルケトン(0.58g, 2.76mmol)をジオキサンに溶解し、100℃に加熱して、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(1.0Mメタノール溶液)(1eq, 2.76ml)を一度に加え、更に15分間加熱した。反応混合物を水に注ぎジクロロメタンで抽出し、抽出液を蒸発乾固した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー[溶離液:ジクロロメタン/ヘキサン(濃度勾配10−50%ジクロロメタン)]により精製した。ジクロロメタン/ヘキサン(1:3)を溶離液として分取HPLCで更に精製し、蒸発乾固して溶媒を除き、2,5−ジフェニル−3,4−ビス(4−ドデシルフェニル)シクロペンタジエノン(5)を紫色の粉末として得た。
収量:0.88g、収率:44%。
H−NMR (500MHz, CDCl):δ
7.24(m), 6.96(d, J=7.94Hz, 4H), 6.80(d, J=7.94Hz, 4H),
2.55(t, J=7.63Hz, 4H), 1.56(br., 4H), 1.26(br., 36H),
0.88(t, J=6.71Hz, 6H)。
MALDI−TOF(dithranol) : m/z=720(M)。
【0028】
(3)2,3−ビス(4’−メトキシ−4−ビフェニリル)−5,6−ジ(4−ドデシルフェニル)−1,4−ジフェニルベンゼン(6)の製造
前記した(2)で製造した3,4−ジ(4−ドデシルフェニル)−2,5−ジフェニルシクロペンタジエン−1−オン(5)(6.7 g, 9.22 mmol)と、前記した(1)で製造した1,2−ビス(4’−メトキシ−4−ビフェニリル)エチン(2)(3.6 g, 9.22 mmol)をシュレンク中でジフェニルエーテル(10 ml)に懸濁させ、24時間還流(〜300℃)させた後、室温まで冷却した。反応混合液にエタノール(300 ml)を加え、生成した茶色の沈殿物をろ過して分離し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン(7/1))にかけて精製し、2,3−ビス(4’−メトキシ−4−ビフェニリル)−5,6−ジ(4−ドデシルフェニル)−1,4−ジフェニルベンゼン(6)を無色の固体として得た。
収量 : 8.0g(7.38mmol)、収率:80%。
H−NMR (500MHz,CDCl) : δ
7.34 (d, J = 8.5 Hz, 4H), 7.06 (d, J = 7.5 Hz, 4H), 6.89-6.80 (m, 18H),
6.68 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 6.62 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 3.77 (s, 6H),
2.33 (t, J = 7.5 Hz, 4H), 1.41-1.35 (m, 4H), 1.31-1.20 (m, 32H),
1.09 (br., 4H), 0.87 (t, J = 7.5 Hz, 6H).
13C−NMR (125MHz, CDCl): δ
158.69, 140.77, 140.59, 140.34, 139.68, 139.19, 137.82, 136.83, 133.31,
131.83, 131.46, 131.18, 127.60, 126.50, 126.48, 124.91, 124.59, 113.90,
55.34, 35.38, 32.01, 32.00, 31.23, 29.81, 29.76, 29.60, 29.46, 28.88,
22.79, 14.21.
MALDI−TOF−MS: C8090 としての
計算値 [M+H]: m/z = 1083.57;
測定値 : 1083.81.
【0029】
(4)2,3−ビス(4’−ヒドロキシ−4−ビフェニリル)−5,6−ジ(4−ドデシルフェニル)−1,4−ジフェニルベンゼン(7)の製造.
前記した(3で製造した2,3−ビス(4’−メトキシ−4−ビフェニリル)−5,6−ジ(4−ドデシルフェニル)−1,4−ジフェニルベンゼン(6)(8.0g, 7.38mmol)のジクロロメタン溶液に0℃で三臭化ホウ素(BBr) (2.6ml, 27.5mmol)を加え、0℃で45分間撹拌した後、室温で一夜、撹拌した。反応混合物を氷水/テトラヒドロフランの混合液(10/9)に注ぎ、ジクロロメタンで抽出した。抽出物をブラインで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ロータリーエバポレータで蒸発乾涸した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン(7/1))にかけて精製し、2,3−ビス(4’−ヒドロキシ−4−ビフェニリル)−5,6−ジ(4−ドデシルフェニル)−1,4−ジフェニルベンゼン(7)を無色の固体として得た。
収量 : 7.0g(6.63mmol)、収率:90%。
H−NMR (500MHz, CDCl): δ
7.28 (d, J = 8.5 Hz, 4H), 7.04 (d, J = 8.5 Hz, 4H), 6.89-6.79 (m, 14H),
6.75 (d, J = 8.5 Hz, 4H), 6.67 (d, J = 8.5 Hz, 4H),
6.61 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 2.33 (t, J = 7.5Hz, 4H), 1.40-1.35 (m, 4H),
1.30-1.19 (m, 34H), 1.08 (br., 4H), 0.87 (t, J = 7.5 Hz, 6H).
13C−NMR(125MHz, CDCl): δ
154.58, 140.75, 140.60, 140.33, 139.64, 139.24, 139.20, 137.80, 136.77,
133.53, 131.82, 131.44, 131.16, 127.84, 126.49, 126.47, 124.91, 124.57,
115.30, 35.37, 32.00, 31.22, 29.80, 29.75, 29.59, 29.45, 28.87, 22.77,
14.20.
MALDI−TOF−MS: C908422としての
計算値 [M+H]: m/z = 1614.61;
測定値 : 1614.75.
【0030】
(5) 2,3−ビス[4’−(ペルフルオロヘキセ−1−ニロキシ)−4−ビフェニリル]−5,6−ジ(4−ドデシルフェニル)−1,4−ジフェニルベンゼン(8)の製造.
前記(4)で製造した2,3−ビス(4’−ヒドロキシ−4−ビフェニリル)−5,6−ジ(4−ドデシルフェニル)−1,4−ジフェニルベンゼン(7)(200mg, 0.19mmol)と炭酸カリウム(200mg)の乾燥テトラヒドロフラン(5ml)溶液に、過剰のペルフルオル−1−ヘキセン(0.3ml)を注射器で連続的に加え、得られた懸濁液をアルゴン雰囲気下、室温で25時間撹拌した。反応混合物を蒸発乾涸し、残渣をジクロロメタン/水で抽出した。有機層を水およびブラインで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ロータリーエバポレータで蒸発乾涸した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/ヘキサン(8/1))にかけて精製し、2,3−ビス[4’− (ペルフルオロヘキセ−1−ニロキシ)−4−ビフェニリル]−5,6−ジ(4−ドデシルフェニル)−1,4−ジフェニルベンゼン(8)を無色の固体として得た。
収量 : 180mg、収率:59%。
H−NMR (500MHz, CDCl) : δ
7.42-7.39 (m, 4H), 7.15-7.02 (m, 8H), 6.91-6.81 (m, 14H),
6.68-6.62 (m, 8H), 4.10-4.08 (m, 4H), 3.84-3.81 (m, 4H),
3.74-3.59(m, 14H), 3.53-3.51(m, 2H), 3.34 (s, 3H), 2.32 (t, J=7.5Hz, 4H),
1.40-1.34 (m, 4H), 1.29-1.19 (m, 32H), 1.07 (br, 4H),
0.86 (t, J = 7.0Hz, 6H).
MALDI−TOF−MS: C908422としての
計算値[M+H] : m/z = 1614.61;
測定値 : 1614.75.
【0031】
(6) 2,5−ビス[4’−(ペルフルオロヘキセ−1−ニロキシ)フェニル]−11,14−ジドデシル−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン(9)の製造
前記(5)で製造した2,3−ビス[4’−(ペルフルオロヘキセ−1−ニロキシ)−4−ビフェニリル]−5,6−ジ(4−ドデシルフェニル)−1,4−ジフェニルベンゼン(8)(180mg, 0.11mmol)の乾燥ジクロロメタン(50ml)溶液に、塩化第二鉄(FeCl)(542mg, 3.34mmol)のニトロメタン(MeNO) (3.5ml)溶液をアルゴン雰囲気下でゆっくり加えた。撹拌しながら25℃で1時間反応させて、反応液を200mlのメタノールに注いだ。生成した沈殿をろ過して分離し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:熱テトラヒドロフラン)にかけて、黄色の留分を捕集した。この留分を蒸発乾涸して得られた残渣をテトラヒドロフランから再結晶して、目的の2,5−ビス[4’− (ペルフルオロヘキセ−1−ニロキシ)フェニル]−11,14−ジドデシル−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン(9)を黄色の結晶として得た。
収量 : 140mg、収率:78%。
H−NMR (500MHz,THF−d,55℃): δ
7.66-6.92(m, 22H), 2.65(br, 4H), 1.73(br, 4H), 1.47-1.09(m, 36H),
0.83(br, 6H).
MALDI−TOF−MS: C907222としての
計算値 [M+H] : m/z = 1602.52;
測定値 : 1602.64.
【実施例2】
【0032】
HBC誘導体の自己集積方法(図1参照)
前記した実施例1で製造した2,5−ビス[4’−(ペルフルオロヘキセ−1−ニロキシ)フェニル]−11,14−ジドデシル−ヘキサ−ペリ−ヘキサベンゾコロネン(9)1mgをガラス容器中の1mLのテトラヒドロフランに投入し、40℃に加温して透明な溶液を得た。次いでこの溶液を該ガラス容器ごと、該ガラス容器より十分大きい第二のガラス容器に蓋をせずに入れ、外側の第二のガラス容器にn−ヘキサン2mlを入れた。外側の第二のガラス容器を密栓し、室温で一週間熟成させたところ、内側の液面に黄色のフィルムが生成していた。このフィルムをシリコン基板などに写し取った後、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、アスペクト比が大きく線径分布の狭いナノサイズのチューブが膜面に平行に一方向に整列して生成していた。
図2にチューブのFE−SEM画像を、図3にチューブのTEM写真をそれぞれ示す。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は自己組織化して一方向に整列したナノスケールの自己集積体を提供するものであり、本発明のナノスケールの自己集積体は、構造的にグラファイトから生成するナノチューブとの関連性からこれらから誘導されるナノチューブと同等な性質を有するだけでなく、HBC特有のπ電子の重なりを通じたスムーズなキャリアの移動など、従来の脂質等からのナノチューブには無い電子的特性が期待され、また、金属等の不純物を含まず、アスペクト比が大きく太さが均一であるなどの特徴を兼ね備えているほか、さらに本発明のHBC誘導体はフッ素原子に由来する生理活性や撥水撥油性を兼ね備えたものであり、撥水性を有するナノ材料として各種の吸着材料や電子デバイスに有用であるばかりでなく、超撥水性を有することから、異物の付着防止材料、雪や水の付着防止材料などとして各種の車輌用、船舶用、航空機用及び建築用材料等の表面処理材料としても有用であり、産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の自己集積体の製造方法を模式的に示したものである。
【図2】図2は、実施例2で製造した本発明の自己集積体のFE−SEM画像を示した図面に代わる写真である。
【図3】図3は、実施例2で製造した本発明の自己集積体のTEM写真を示した図面に代わる写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I)
【化1】

(式中、Rはそれぞれ独立して、炭素数4〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、Rはそれぞれ独立して次の一般式(II)
−C−O−R (II)
(式中、Rは炭素数4〜30のパーフルオロアルケニル基を示し、−C−で示されるベンゼン環上の置換位置はオルト位、メタ位、又はパラ位のいずれかであることを示す。)
で表される基を示し、Xはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキニル基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいターピリジル基、又は置換基を有していてもよいポルフィリニル基を示し、アルキニル基、ピリジル基、ターピリジル基、及びポルフィリニル基の置換基は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、及び炭素数6〜20のアリール基からなる群から選ばれる置換基を示す。)
で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体の少なくとも1種を含有してなる溶液に、当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒の蒸気を接触させることにより、当該溶液の表面に前記した一般式(I)で表される化合物が面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体を形成させる方法。
【請求項2】
一般式(I)で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体を溶解する溶媒が、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、シクロヘキサン、及びメチルシクロヘキサンからなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒が、テトラヒドロフランである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
当該溶液の溶媒とは異なる他の溶媒が、一般式(I)で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体の貧溶媒である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
貧溶媒が、炭素数5〜12の炭化水素系溶媒である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの方法により製造し得る次の一般式(I)
【化2】

(式中、Rはそれぞれ独立して、炭素数4〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、Rはそれぞれ独立して次の一般式(II)
−C−O−R (II)
(式中、Rは炭素数4〜30のパーフルオロアルケニル基を示し、−C−で示されるベンゼン環上の置換位置はオルト位、メタ位、又はパラ位のいずれかであることを示す。)
で表される基を示し、Xはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜4のアルキニル基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいターピリジル基、又は置換基を有していてもよいポルフィリニル基を示し、アルキニル基、ピリジル基、ターピリジル基、及びポルフィリニル基の置換基は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、及び炭素数6〜20のアリール基からなる群から選ばれる置換基を示す。)
で表されるフッ素含有基で置換されたヘキサペリヘキサベンゾコロネン(HBC)誘導体が面方向に配向したチューブ状のナノサイズの自己集積体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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