説明

フッ素含有水の処理方法

【課題】
本発明の目的は、フッ素含有水の処理方法に関し、低濃度のフッ素処理水を安定して得るフッ素含有水の処理方法を提供する。
【解決手段】
本発明によれば、ジルコニウム化合物の存在下、フッ素含有水のpHを5〜8に保持した後、pHを3〜4.5に調整することで、該加水分解処理後のフッ素凝集処理において、フッ素とジルコニウムを効率よく反応させてフッ素を不溶化し、安定して低濃度のフッ素処理水を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有水の処理方法に関し、特に低濃度のフッ素処理水を安定して得る処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素は、金属表面処理工場、アルミニウム電解精錬工場、半導体製造工場、産業廃棄物処理場、廃棄物埋立処分地等からフッ素含有排水として排出されており、水質汚濁防止法でのフッ素の排水基準は8mg/L以下である。
一方、人の健康の保護に関する飲料水のフッ素の環境基準値が0.8mg/L以下であることから、地方自治体においては、前記の水質汚濁防止法の排水基準に上乗せした厳しい排水基準を設けているところもある。
【0003】
これら排水中のフッ素処理方法(凝集沈殿方法)としては、カルシウム化合物、アルミニウム化合物、希土類化合物及びジルコニウム化合物等をフッ素含有水中に添加して、錯体としてフッ素イオンを不溶化させ、固液分離して除去する方法が、数多く提案されている。
例えば、ジルコニウム化合物を添加する方法としては、排水のpHを3.5〜7と調整した後に、ジルコニウム塩水溶液とフッ素含有水を反応させる方法が提案されており、この方法によれば、フッ素濃度を2mg/L程度まで除去可能であることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
排水中のフッ素を凝集沈殿により除去する際に、カルシウム化合物やアルミニウム化合物を用いた場合、生成するフッ化カルシウムやフッ化アルミニウムの水への溶解度が比較的高いため、フッ素濃度を10mg/L以下の低濃度にするためには、量論比に比べて大過剰のカルシウム化合物、アルミニウム化合物等を添加する必要があり、凝集沈殿により得られる汚泥量が非常に多くなるため問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−000827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低濃度のフッ素処理水を安定して得る処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、ジルコニウム化合物の存在下、フッ素含有水のpHを特定範囲に保持、調整することにより、フッ素とジルコニウム化合物を効率よく反応させてフッ素を不溶化し、排水中のフッ素濃度を安定して低減できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
ジルコニウム化合物の存在下、フッ素含有水のpHを5〜8に保持した後、pHを3〜4.5に調整し、フッ素を不溶化して除去することを特徴とするフッ素含有水の処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ジルコニウム化合物の存在下、フッ素含有水のpHを5〜8に保持した後、pHを3〜4.5に調整することにより、フッ素とジルコニウムを効率よく反応させてフッ素を不溶化し、安定して低濃度のフッ素処理水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】酸またはアルカリ水溶液下でのオキシ塩化ジルコニウムの反応を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるジルコニウム化合物とは、ジルコニウム化合物であれば特に限定されないが、ジルコニウムの塩化物、硫酸塩、硝酸塩が挙げられ、その具体例としては、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウムが挙げられる。その中でも、取り扱いやすさの観点から、特にオキシ塩化ジルコニウムが好ましい。
【0011】
本発明においては、ジルコニウム化合物の存在下、フッ素含有水のpHを5〜8に保持することが必要である。pHを5〜8に保持することでジルコニウム化合物が加水分解し、その後のフッ素不溶化工程にて、生じた加水分解物がフッ素と反応することによりフッ素を効率的に不溶化することが可能となる。pHが5より低いとジルコニウム化合物の加水分解が不十分となるため、フッ素を効率よく除去できず、pHが8より高いとジルコニウム加水分解物が効率的に生じず、フッ素の除去効率が低下するため好ましくない。
【0012】
ジルコニウム化合物の存在下、フッ素含有水のpHを5〜8に保持するための方法としては、フッ素含有水にジルコニウム化合物を添加した後にpHを5〜8に調整する方法、フッ素含有水のpHを5〜8に調整した後にジルコニウム化合物を添加し必要に応じてpHを5〜8に微調整する方法、ジルコニウム化合物の水溶液及びフッ素含有水のpHをそれぞれ5〜8に調整した後に両液を混合する方法等が挙げられるが、いずれかの段階で、ジルコニウム化合物の存在下のフッ素含有水のpHが5〜8に保持されていれば、その手段は限定されない。一般に作業効率の観点から、フッ素含有水にジルコニウム化合物を添加した後に、pHを5〜8に調整する方法が最も好ましい。
【0013】
一般にジルコニウム化合物は多様な酸化数を取り得るため、本発明において、前記フッ素含有水のpHを5〜8に保持することにより生じるジルコニウム加水分解物は明かではない。
ここで、例えば、オキシ塩化ジルコニウムで一般的に知られている酸又はアルカリ存在下の主要な反応として、下記式(1)(例えば、pH<4)、式(2)(例えば、pH>8)が挙げられる。
(1)ZrOCl+HO → ZrOCl(aq)
(2)2ZrOCl+4OH → Zr(OH)
本発明においては、これらとは異なるpH条件、即ちpH5〜8の範囲を選択していることから、これら前記式(1)、式(2)に示されるオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl(aq))や水酸化ジルコニウム(Zr(OH))とは異なる活性種がフッ素凝集反応に効いていると推定している。
【0014】
なお、後述するように、本発明においては、オキシ塩化ジルコニウムとフッ素の量論比(モル比)が1:1付近でフッ素凝集反応が最適化されることから、例えばオキシ塩化ジルコニウムとフッ素が量論比(モル比)1:2の反応として知られている特許文献1記載の下記式(3)とは異なる反応が、本発明のフッ素凝集反応として進行していると推定している。
(3)ZrOCl+2F→ ZrOF+2Cl
【0015】
本発明に用いられるジルコニウム化合物の添加量は、フッ素とジルコニウムの反応を妨害する物質が含まれていなければ、フッ素含有水中に含まれるフッ素イオン1モルに対して、0.5〜2倍モルのジルコニウム化合物を添加することが好ましく、0.5〜1.5倍モルがいっそう好ましい。0.5倍モルより少ないとフッ素の除去効果が低く、2倍モルを超えると汚泥発生量が増加し好ましくない。
【0016】
フッ素含有水に含まれるフッ素濃度が例えば10mg/L以上の高濃度の場合は、ジルコニウム化合物の添加量が多くなるため、あらかじめ安価なカルシウム化合物やアルミニウム化合物を添加してフッ素濃度を10mg/L以下程度まで低下させておくことが好ましい。
【0017】
前記フッ素含有水のpHを5〜8に保持する加水分解時間は特に限定されないが、ジルコニウム化合物の十分な加水分解時間と経済性との観点から、0.1〜60分が好ましく、0.5〜45分がより好ましく、5〜30分がいっそう好ましい。
【0018】
前記フッ素含有水のpHを5〜8に保持する際の加水分解温度は、特に限定されないが、0〜80℃が好ましく、5〜60℃がより好ましく、5〜40℃がいっそう好ましい。
【0019】
前記フッ素含有水のpHを5〜8に保持するために用いられる酸やアルカリは、通常の酸性薬品やアルカリ性薬品が用いられ、特に限定されないが、酸であれば塩酸、硝酸、硫酸などの鉱酸が挙げられ、アルカリであれば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0020】
本発明の処理方法においては、前記フッ素含有水のpHを5〜8に保持した後、前記フッ素含有水のpHを3〜4.5に調整することが必要である。pHを3〜4.5に調整することで前記加水分解処理時に生じるジルコニウム活性種がフッ素と最も効率的に反応することが可能となる。pHが3より低い場合も、pH4.5より高い場合も、フッ素とジルコニウム活性種の反応が適切に起らなくなり、処理後の排水中のフッ素濃度が結果的に高くなるため好ましくない。
【0021】
フッ素凝集処理の反応時間は、特に限定されないが、十分な反応時間との観点から、0.1〜60分が好ましく、0.5〜45分がより好ましく、5〜30分がいっそう好ましい。
【0022】
フッ素凝集処理時のpH3〜4.5の調整は、通常の酸性薬品を用いればよく、特に限定されないが、塩酸、硝酸、硫酸などの鉱酸が挙げられる。
【0023】
フッ素処理水を得るためには、例えば、上記工程で生成した不溶化物を固液分離することにより行なう。固液分離方法としては、特に限定されず、例えば沈殿、ろ過、浮上、遠心など各種固液分離方法を用いることができる。また不溶化物を固液分離し易くするために、アルミニウム塩や鉄塩などの無機凝集剤や、高分子凝集剤を用いてもよく、例えばアルミニウム塩として硫酸バンドやポリ塩化アルミニウム、鉄塩として塩化第二鉄やポリ鉄、高分子凝集剤としてポリアクリルアミド系のアニオンポリマーを用いることができる。無機凝集剤と高分子凝集剤は単独、あるいは併用して用いてもよい。
【実施例】
【0024】
本発明をさらに具体的に説明するために以下に実施例を示すが、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0025】
<酸又はアルカリ水溶液下のオキシ塩化ジルコニウムの反応>
純水200mlに、ジルコニウム濃度が182.44mg/Lとなるようにオキシ塩化ジルコニウムを加え、1N水酸化ナトリウム又は1N塩酸を加えて、図1に示すようにそれぞれpHを調整した後、10分間攪拌した。ろ紙5種Cにてろ過した後、ろ液のジルコニウム濃度をキレート滴定法で測定した。図1に結果を示す。
【0026】
図1から明らかなように、pH<5、pH=5〜8、pH>8の場合それぞれで異なる反応が観測された。すなわち、pH<5においては、オキシ塩化ジルコニウムの単なる水和溶解、pH>8においては、Zr(OH)と見られる沈殿、pH=5〜8においては、その中間的な現象が観測された。
【0027】
これらのことから、本発明においては、ジルコニウム化合物の存在下、フッ素含有水のpHを5〜8に保持することにより、前記式(1)〜式(3)とは異なる活性種が生じ、その活性種によりフッ素凝集反応が進行しているものと推定される。
【0028】
<フッ素処理>
実施例1〜4、比較例1〜2
フッ素濃度が37.4mg/L(2mmol/L)のフッ化ナトリウム水溶液200mlをフッ素含有水として用いた。前記フッ素含有水にオキシ塩化ジルコニウム2mmol/L溶液をジルコニウムとフッ素が等モルになるように添加し、その後1N水酸化ナトリウムを添加してpHを表1に示すようにそれぞれ保持した後15分間攪拌した(加水分解処理工程)。次いで1N塩酸を添加してpHを4に調整した後15分間攪拌した後(フッ素凝集処理工程)、高分子凝集剤ユニフロッカーUF-105(ユニチカ(株)製)を6mg/Lになるように添加して5分間攪拌した。攪拌後、ろ紙5種Aにてろ過し、ろ液のフッ素濃度をイオン電極法で測定した。
【0029】
実施例1〜4、比較例1〜2について得られたろ液のフッ素濃度を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、加水分解処理時のpHを5〜8に保持し、その後のフッ素凝集反応のpHを3〜4.5へ調整した実施例1〜4においては、処理後のろ液中のフッ素濃度は0.58〜1.00mg/Lと低濃度までフッ素の除去可能であった。一方、加水分解処理時のpHを4.5とした比較例1では、その後のフッ素凝集反応においてフッ素が効率的に除去できず、処理後のろ液のフッ素濃度は19.5mg/Lと高くなった。加水分解処理時のpHを10とした比較例2では、その後のフッ素凝集反応において、フッ素の除去レベルが上がらずに、処理後のろ液のフッ素濃度は1.34mg/Lまでしか除去できなかった。
【0032】
実施例5〜7、比較例3〜6
フッ素凝集処理時のpHを表2に示すように変更した以外は、実施例2と同様の方法で行った。
【0033】
実施例5〜7、比較例3〜6について得られたろ液のフッ素濃度を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2から明らかなように、加水分解処理時のpHを5〜8に保持し、さらにその後のフッ素凝集処理時のpHを3〜4.5に調整した実施例5〜7においては、フッ素の効率的な除去が可能となり、処理後のろ液中のフッ素濃度は0.35〜1.23mg/Lと低濃度まで除去可能であった。一方、フッ素凝集処理時のpHを3〜4.5を外れる範囲に保持した比較例3〜6では、フッ素の凝集が効率的におこらず、ろ液のフッ素濃度は2〜24mg/L程度とそれぞれ高くなった。
【0036】
比較例7〜14
フッ素濃度が37.4mg/L(2mmol/L)のフッ化ナトリウム水溶液に、オキシ塩化ジルコニウム溶液をジルコニウムとフッ素が等モルになるように添加した後、pHを3に保持した後、10分間攪拌した(加水分解処理工程)。その後、水酸化ナトリウムを添加してpH3.5〜9に調整して15分間攪拌し(フッ素凝集処理工程)、高分子凝集剤ユニフロッカーUF-105(ユニチカ(株)製)を6mg/Lになるように添加して5分間攪拌した。攪拌後、ろ紙5種Aにてろ過し、ろ液のフッ素濃度をイオン電極法で測定した。
【0037】
比較例7〜14について得られたろ液のフッ素濃度を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
加水分解処理時のpHが5〜8の範囲を外れた比較例7〜14においては、フッ素凝集処理時のpHを3.5〜9の範囲で最適化しても、処理後のろ液中のフッ素濃度は、いずれも実施例1〜8よりも高かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム化合物の存在下、フッ素含有水のpHを5〜8に保持した後、pHを3〜4.5に調整し、フッ素を不溶化して除去することを特徴とするフッ素含有水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−255313(P2011−255313A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132045(P2010−132045)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000101374)アタカ大機株式会社 (55)
【Fターム(参考)】